(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150690
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】半導体製造工程用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 71/10 20060101AFI20231005BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20231005BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20231005BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L71/10
C08L101/12
H01L21/304 622J
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059914
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和也
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
5F057
【Fターム(参考)】
4F071AA51
4F071AA64
4F071AA89X
4F071AC16
4F071AE17
4F071AE22
4F071AF62Y
4F071AH12
4J002AA00X
4J002CF16X
4J002CH09W
4J002CL00X
4J002CL063
4J002CN03X
4J002DA016
4J002DE146
4J002DE186
4J002DF016
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002FA016
4J002FA043
4J002FA046
4J002FD016
4J002GQ00
4J002GT00
5F057EC13
(57)【要約】
【課題】
UV透過性に優れた半導体製造工程用フィルムを形成することができる、新たな樹脂フィルムを提供すること。
【解決手段】
(A)ポリアリールエーテルケトン、及び(B)該(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂を含み、波長400nmのUV透過率が25%以上である、半導体製造工程用樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアリールエーテルケトン、及び(B)該(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂を含み、波長400nmのUV透過率が25%以上である、半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項2】
さらに(C)充填材を含む、請求項1に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)ポリアリールエーテルケトンと(B)該(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂の含有質量比が90:10~10:90である、請求項1又は2に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)と(B)の合計質量100質量部に対して、(C)充填材の含有量が1~50質量部である、請求項2又は3に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂は180℃以上のガラス転移温度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体工程用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂は、非晶性樹脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体工程用樹脂組成物。
【請求項7】
前記非晶性樹脂は、ポリエーテルスルホンである、請求項6に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項8】
前記非晶性樹脂は、ポリフェニルスルホンである、請求項6に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項9】
前記非晶性樹脂は、ポリスルホンである、請求項6に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリアリールエーテルケトンは、ポリエーテルエーテルケトンである、請求項1~9のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項11】
前記充填材は、鱗片状充填材、板状充填材、薄片状充填材又はこれらの2種類以上の混合物を主成分充填材とするものである、請求項2~10のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項12】
前記充填材は、平均アスペクト比が10以上である、請求項2~11のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項13】
前記充填材は、平均最大径が30μm以下である、請求項2~12のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項14】
前記充填材は、平均厚さが1μm以下である、請求項2~13のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組組成物。
【請求項15】
前記充填材は、マイカを主成分充填材とするものである、請求項2~14のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項16】
線膨張係数が90ppm/℃以下である、請求項1~15のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる、半導体製造工程用フィルム。
【請求項18】
相対結晶化度が60%以上である、請求項17に記載の半導体製造工程用フィルム。
【請求項19】
ウエハ研磨用である、請求項17又は18に記載の半導体製造工程用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体を製造する工程で用いることができる組成物、及び、フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造方法は、ウエハの厚さを調整する為の研削ステップと、個々のダイを得る為に分割ラインに沿ってウエハを切断する切断ステップとを有するのが一般的である。
研削ステップは、デバイス領域が形成されるウエハ表面、すなわち素子形成面の反対側、すなわちウエハの裏面から行われる。
この際、例えば、割れ、変形および/または破片、ウエハの研削水またはウエハの切断水による汚染から、ウエハに形成されるデバイスを保護するため、処理前にウエハ表面に保護フィルムを貼り付けることが行われている。
【0003】
また、半導体パッケージを製造するために封止層を形成する封止成形の間、リードフレームの半導体素子とは反対側の裏面への封止材の回り込みを防ぐために、リードフレームの裏面に保護フィルムを貼り付けることによって仮保護することもある。
【0004】
仮保護した状態の保護フィルムを半導体に特定の波長のUVを照射することで、粘着剤からガスを発生させ、保護フィルムの剥離性を向上させる方法がある。
【0005】
このように、半導体製造工程では、ウエハ乃至デバイスなどを保護するために、テープやフィルムが使用されている。本発明では、このようなテープやフィルムをまとめて「半導体製造工程用フィルム」と称する。
【0006】
この種の半導体製造工程用フィルムに関しては、例えば特許文献1において、被着体上にフリップチップ接続される半導体素子の裏面に配設されるフリップチップ型半導体裏面用フィルムであって、接着剤層と、この接着剤層上に積層された保護層とを備え、前記保護層は、ポリイミド、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン及びポリエーテルエーテルケトンからなる群より選択される少なくとも1種である耐熱性樹脂から形成されるものが開示されている。
【0007】
この種の半導体製造工程用フィルムに関して、例えば特許文献1には、半導体ウエハに貼り付けて積層体を作製する粘着テープに関し、特殊ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド又はポリイミドからなる基材と粘着剤層を有する粘着テープが開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、ポリエーテルエーテルケトンと膨潤性マイカからなる、高温高湿下で優れた寸法安定性を示すフィルム及び基板用材料が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-207011号公報
【特許文献2】特開2004-323797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
当該半導体製造工程用フィルムが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなる場合、線膨張係数が大きいため、昇温及び降温が繰り返されると、例えば、半導体ウエハとガラス基材とを当該フィルムを介して貼り合わせてウエハを研磨する場合において、ガラスから当該フィルムが剥離したり、寸法安定性が悪かったりするなどの問題を生じることがあった。また、寸法安定性改良のためにマイカ等の充填材を配合すると、靭性が低下するため、保護テープ剥離時に破断しやすくなるといった課題があった。
【0011】
そこで本発明は、半導体製造工程用樹脂フィルムに関し、UV透過性に優れた半導体製造工程用フィルムを形成することができる、新たな樹脂フィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ポリアリールエーテルケトンと、ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂を含み、波長400nmのUV透過率が25%以上である、半導体製造工程用樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いた半導体製造工程用樹脂フィルムである。すなわち、本発明は、以下の[1]~[19]を提供する。
【0013】
[1](A)ポリアリールエーテルケトン、及び(B)該(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂を含み、波長400nmのUV透過率が25%以上である、半導体製造工程用樹脂組成物。
[2]さらに(C)充填材を含む、上記[1]に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[3]前記(A)ポリアリールエーテルケトンと(B)該(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂の含有質量比が90:10~10:90である、上記[1]又は[2]に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[4]前記(A)と(B)の合計質量100質量部に対して、(C)充填材の含有量が1~50質量部である、上記[2]又は[3]に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[5]前記(B)(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂は180℃以上のガラス転移温度を有する、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[6]前記(B)(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂は、非晶性樹脂である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[7]前記非晶性樹脂は、ポリエーテルスルホンである、上記[6]に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[8]前記非晶性樹脂は、ポリフェニルスルホンである、上記[6]に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[9]前記非晶性樹脂は、ポリスルホンである、上記[6]に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[10]前記ポリアリールエーテルケトンは、ポリエーテルエーテルケトンである、上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[11]前記充填材は、鱗片状充填材、板状充填材、薄片状充填材又はこれらの2種類以上の混合物を主成分充填材とするものである、上記[2]~[10]のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[12]前記充填材は、平均アスペクト比が10以上である、上記[2]~[11]のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[13]前記充填材は、平均最大径が30μm以下である、上記[2]~[12]のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[14]前記充填材は、平均厚さが1μm以下である、上記[2]~[13]のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[15]前記充填材は、マイカを主成分充填材とするものである、上記[2]~[14]のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[16]線膨張係数が90ppm/℃以下である、上記[1]~[15]のいずれか1項に記載の半導体製造工程用樹脂組成物。
[17]上記[1]~[16]のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる、半導体製造工程用フィルム。
[18]相対結晶化度が60%以上である、上記[17]に記載の半導体製造工程用フィルム。
[19]ウエハ研磨用である、上記[17]又は[18]に記載の半導体製造工程用フィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明が提案する半導体製造工程用樹脂組成物によれば、耐熱性を維持しつつUV透過率の高いフィルムを形成できるため、例えば製造工程後に該フィルムに接する接着剤にUV照射することで、粘着剤からガスを発生させ、剥離性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態の一例について説明する。但し、本発明は、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
[半導体製造工程用樹脂組成物]
本発明の半導体製造工程用樹脂組成物(以下、「本樹脂組成物」と記載することがある。)は、(A)ポリアリールエーテルケトン、及び(B)該(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂を含み、波長400nmのUV透過率が25%以上の半導体製造工程用樹脂組成物である。このような半導体製造工程用樹脂組成物は、UV透過性、線膨張係数、耐熱性、靭性などがバランスよく良好となり、例えば、半導体製造工程時の保護フィルムとして好適に使用できる。
【0017】
(UV透過率)
本樹脂組成物は400nmにおけるUV透過率が25%以上であり、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上である。UV透過率が25%以上であるので、半導体製造工程後に本樹脂組成物からなるフィルムに接する接着剤に対して、このフィルムを貫通させてUVを照射することができ、粘着剤からガスを発生させて剥離性を向上させることができる。
また、本樹脂組成物は450nmにおけるUV透過率が35%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上、特に好ましくは50%以上である。450nmにおけるUV透過率が35%以上であるので、半導体製造工程後に本樹脂組成物からなるフィルムに接する接着剤に対して、このフィルムを貫通させてUVを照射することができ、粘着剤からガスを発生させて剥離性を向上させることができる。
ここで、本樹脂組成物のUV透過率とは、本樹脂組成物からなる厚さ50μmのフィルムについて得られるUV透過率をいう。
【0018】
<(A)ポリアリールエーテルケトン>
本発明に用いる(A)ポリアリールエーテルケトンは、1つ以上のアリール基、1つ以上のエーテル基及び1つ以上のケトン基を含むモノマー単位を含有する単独重合体又は共重合体である。
例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)等や、これらの共重合体(例えば、PEEK-PEDEK共重合体)を挙げることができる。中でも、耐熱性、機械特性、耐薬品性等に優れる点で、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が特に好ましい。
【0019】
(結晶融解温度)
ポリアリールエーテルケトンの結晶融解温度(Tm)は、耐熱性の観点から、320℃以上であるのが好ましく、中でも325℃以上、その中でも330℃以上であるのがさらに好ましく、335℃以上であることが特に好ましい。他方、製膜性及び加工性の観点から、360℃以下であるのが好ましく、中でも355℃以下、その中でも350℃以下であるのがさらに好ましく、345℃以下であるのが特に好ましい。
【0020】
<(B)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂>
本発明に用いる(B)成分は、ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂であり、ポリアリールエーテルケトンと混合することによって、波長400nmのUV透過率を25%以上にする樹脂である。本樹脂組成物のUV透過性を向上させる観点から、(B)成分は非晶性樹脂であることが好ましい。
また本樹脂組成物の耐熱性を向上させる観点から、この非晶性樹脂はガラス転移温度が180℃以上であることが好ましい。
非晶性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性の観点から、185℃以上であるのが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、その中でも200℃以上であるのがさらに好ましく、210℃以上であるのが特に好ましい。他方、製膜性及び加工性の観点から、270℃以下であるのが好ましく、中でも260℃以下、その中でも250℃以下であるのがさらに好ましく、240℃以下であるのが特に好ましい。
本発明に用いる、(B)成分、すなわち(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂としては、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSU)、ポリアリレート(PAR)、非晶性ポリアミド等が挙げられる。中でも、機械特性、UV透過性、PEEKへの分散性等に優れる点で、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリスルホン(PSU)が好ましい。
【0021】
((A)成分と(B)成分の割合)
本発明の半導体製造工程用樹脂組成物において、(A)ポリアリールエーテルケトンと(B)該(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂の割合が、質量比90:10~10:90であることが好ましい。(A)成分と(B)成分の樹脂の質量比割合における(A)成分の上限について、(A)成分:(B)成分=80:20が好ましく、(A)成分:(B)成分=70:30がより好ましく、(A)成分:(B)成分=60:40が特に好ましい。一方、(A)成分と(B)成分の樹脂の質量比割合における(A)成分の下限については、(A)成分:(B)成分=20:80が好ましく、(A)成分:(B)成分=30:70がより好ましく、(A)成分:(B)成分=40:60がより好ましく、(A)成分:(B)成分=50:50が特に好ましい。
上記範囲内であると、UV透過性、線膨張係数、耐熱性などの各種性能をバランスよく良好にしやすくなる。
【0022】
<ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)>
本発明における(A)成分である、ポリアリールエーテルケトンとしては、上述のようにポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が最も好ましい。以下、PEEKについて詳細に説明する。
前記ポリエーテルエーテルケトンは、少なくとも2つのエーテル基とケトン基とを構造単位として有する樹脂であればよい。中でも、熱安定性、溶融成形性、剛性、耐薬品性、耐衝撃性、耐久性に優れることから、好ましくは下記構造式(1)で表される繰り返し単位を有するものである。
【0023】
【0024】
前記構造式(1)において、Ar1~Ar3のアリーレン基は互いに異なるものであってもよいが、同一であることが好ましい。前記Ar1~Ar3のアリーレン基としては、例えばフェニレン基、ビフェニレン基等を挙げることができる。中でもフェニレン基が好ましく、p-フェニレン基であることがより好ましい。
【0025】
前記Ar1~Ar3のアリーレン基が有していてもよい置換基としては、例えばメチル基、エチル基等の炭素原子数1~20のアルキル基や、メトキシ基、エトキシ基等の炭素原子数1~20のアルコキシ基等を挙げることができる。なお、Ar1~Ar3が置換基を有する場合、その置換基の数には特に制限はない。
【0026】
なかでも、下記構造式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンが、熱安定性、溶融成形性、剛性、耐薬品性、耐衝撃性、耐久性の観点から好ましい。
【0027】
【0028】
(分子量分布)
前記ポリエーテルエーテルケトンの分子量分布は3.3以上であることが好ましく、3.5以上であることがより好ましく、3.6以上であることがさらに好ましく、3.8以上であることが特に好ましく、4以上であることが最も好ましい。分子量分布が前記下限値以上であれば、低分子量成分を充分な量含むため、結晶化度や結晶化速度を高めることができ、ひいては、耐熱性や剛性、生産性の向上に繋がりやすい傾向となる。
一方、ポリエーテルエーテルケトンの分子量分布は8以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、6.5以下であることがさらに好ましく、6以下であることが特に好ましく、5.5以下であることが最も好ましい。ポリエーテルエーテルケトンの分子量分布の上限が前記数値以下であれば、高分子量成分と低分子量成分の割合が多すぎないため、結晶化度と流動性、機械特性のバランスに優れる傾向がある。なお、前記分子量分布とは、質量平均分子量を数平均分子量で除したものである。
【0029】
(質量平均分子量)
ポリエーテルエーテルケトンの質量平均分子量は、150000以下であることが好ましく、130000以下であることがより好ましく、120000以下であることがさらに好ましく、110000以下であることが特に好ましい。ポリエーテルエーテルケトンの質量平均分子量が前記数値以下であれば、結晶化度や結晶化速度、溶融成形時の流動性に優れる傾向となる。
一方、該質量平均分子量は、10000以上であることが好ましく、30000以上であることがより好ましく、40000以上であることがさらに好ましく、50000以上であることが特に好ましく、60000以上であることが最も好ましい。質量平均分子量が前記数値以上であれば、耐久性、耐衝撃性等の機械特性に優れる傾向となる。
【0030】
本発明における質量平均分子量と数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定することにより得られる。
【0031】
(結晶融解熱量)
ポリエーテルエーテルケトンの結晶融解熱量は、32J/g以上であることが好ましく、34J/g以上であることがより好ましく、36J/g以上であることがさらに好ましく、38J/g以上であることが特に好ましく、40J/g以上であることが最も好ましい。ポリエーテルエーテルケトンの結晶融解熱量が前記下限値以上であれば、本樹脂組成物から得られるフィルム等は充分な結晶化度を有し、ひいては耐熱性と剛性に優れる傾向となる。
一方、ポリエーテルエーテルケトンの結晶融解熱量は60J/g以下であることが好ましく、58J/g以下であることがより好ましく、56J/g以下であることがさらに好ましく、54J/g以下であることが特に好ましい。ポリエーテルエーテルケトンの結晶融解熱量が前記上限値以下であれば、結晶化度が高すぎないため、本樹脂を成形する際の溶融成形性に優れる傾向となり、得られるフィルムは耐久性、耐衝撃性に優れる傾向となる。
【0032】
なお、本発明における結晶融解熱量は、JIS K7122:2012に準じて、示差走査熱量計(例えば、パーキンエルマー社製 Pyris1 DSC)を用いて、温度範囲23~400℃まで速度10℃/分で昇温した後、速度10℃/分で23℃まで降温し、再度400℃まで速度10℃/分で昇温した際に検出されるDSC曲線の融解ピークの面積から求めることができる。
【0033】
(結晶化温度)
ポリエーテルエーテルケトンの降温過程における結晶化温度(Tc)は280℃以上であることが好ましく、285℃以上であることがより好ましく、287℃以上であることがさらに好ましく、290℃以上であることが特に好ましく、292℃以上であることが最も好ましい。ポリエーテルエーテルケトンの降温過程における結晶化温度が前記温度以上であれば、結晶化速度が大きく、本樹脂組成物から得られるフィルムを成形する際の生産性に優れる傾向となる。具体的には、例えばフィルムを作製する場合であれば、キャストロールの温度(冷却温度)をガラス転移温度以上、結晶融解温度以下の温度に設定することで、キャストロールに樹脂が接触している間に結晶化が促進され結晶化フィルムが得られる。そして、降温過程における結晶化温度が前記温度以上であれば、結晶化速度が大きく、キャストロールで結晶化を終えることができるため弾性率が高くなり、結果としてロールへの貼り付きが抑えられ、フィルムの外観が良くなる傾向となる。
【0034】
一方、降温過程における結晶化温度は320℃以下であることが好ましく、315℃以下であることがより好ましく、312℃以下であることがさらに好ましく、310℃以下であることが特に好ましい。ポリエーテルエーテルケトンの降温過程における結晶化温度が前記温度以下であれば、結晶化が速すぎないため、フィルム等の整形品を作製する際の冷却ムラが少なくなり、均一に結晶化した、加熱寸法安定にも優れる高品質な成形品が得られやすくなる。
【0035】
なお、本発明では、降温過程における結晶化温度は、JIS K7121:2012に準じて、示差走査熱量計(例えば、パーキンエルマー社製 Pyris1 DSC)を用いて、温度範囲23~400℃まで速度10℃/分で昇温した後、速度10℃/分で23℃まで降温し、再度400℃まで速度10℃/分で昇温した際に検出されるDSC曲線の結晶化ピークのピークトップ温度から求めることができる。
【0036】
なお、本発明におけるガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準じて、示差走査熱量計(例えば、パーキンエルマー社製 Pyris1 DSC)を用いて、温度範囲23~380℃まで速度10℃/分で昇温した後、速度10℃/分で23℃まで降温し、再度380℃まで速度10℃/分で昇温した際に検出されるDSC曲線から求めることができる。
【0037】
次に、本発明における(B)成分である、(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂としては、上述のようにポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリスルホン(PSU)が特に好ましい。以下、PPSU、PES及びPSUについて詳細に説明する。
【0038】
<PPSU>
PPSU(ポリフェニルスルホン)は、下記式(a-1)で示される繰り返し単位を有する。
【0039】
【0040】
ポリフェニルスルホンの繰り返し単位(a-1)の合計数(重合度)は、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。一方、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、100以下であることが更に好ましく、80以下であることが特に好ましい。ポリフェニルスルホンの繰り返し単位(a-1)の合計数(重合度)がかかる範囲であれば、本発明の樹脂フィルムは耐熱性や耐衝撃性に優れる上、溶融時の粘度が高すぎないため溶融成形性に優れたものとなりやすい。
【0041】
なお、ポリフェニルスルホンは、繰り返し単位(a-1)以外の繰り返し単位を含むものであってもよいが、ポリフェニルスルホンを用いることによる本発明の効果をより確実に得る観点から、ポリフェニルスルホン中の繰り返し単位(a-1)以外の繰り返し単位は、全繰り返し単位中に40モル%以下、更には30モル%以下、特に0~20モル%であることが好ましい。
【0042】
(ガラス転移温度(Tg))
ポリフェニルスルホンのガラス転移温度は、180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、210℃以上であることが特に好ましい。
一方、ガラス転移温度は、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることが更に好ましく、250℃以下であることが特に好ましく、240℃以下であることがとりわけ好ましい。
ポリフェニルスルホンのガラス転移温度がかかる範囲であれば、本発明の樹脂フィルムは耐熱性に優れる上、溶融時の粘度が高すぎないため溶融成形性に優れたものとなりやすい。
【0043】
(結晶融解熱量)
ポリフェニルスルホンの結晶融解熱量は、10J/g以下であることが好ましく、5J/g以下であることがより好ましく、更に好ましくは0J/g、すなわち、実質的に非晶性であることが更に好ましい。結晶融解熱量が10J/g以下であれば、本発明の樹脂フィルムの結晶化が抑えられるため、結晶化による成形収縮や透明性の悪化を抑制しやすい傾向となる。
【0044】
なお、本発明におけるガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準じて、示差走査熱量計(例えば、パーキンエルマー社製 Pyris1 DSC)を用いて、温度範囲23~380℃まで速度10℃/分で昇温した後、速度10℃/分で23℃まで降温し、再度380℃まで速度10℃/分で昇温した際に検出されるDSC曲線から求めることができる。
また、結晶融解熱量は、JIS K7122:2012に準じて、示差走査熱量計を用いて、温度範囲0~380℃、加熱速度10℃/分で昇温させた際に検出されたDSC(Differential scanning calorimetry)曲線から求められる。以下においても同様である。
【0045】
例えば、ポリフェニルスルホンとして好ましく用いられるポリビフェニルエーテルスルホンは、公知の製法により製造することができる(例えば、米国特許第4008203号明細書、米国特許第4108837号明細書、米国特許第4175175号明細書等参照)。さらに、ポリビフェニルエーテルスルホンとしては、市販品を用いることもできる。ポリビフェニルエーテルスルホンの市販品の例としては、例えば、ソルベイ社製「レーデル」シリーズ、BASF社製「Ultrason P」シリーズ、山東浩然特塑股▲分▼有限公司社製「P」シリーズ、UJU社製「PARYLS」シリーズ等が挙げられる。
【0046】
ポリフェニルスルホンは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0047】
<PES>
PES(ポリエーテルスルホン)は、下記式(a-2)で示される繰り返し単位を有する。
【0048】
【0049】
ポリエーテルスルホンの繰り返し単位(a-2)の合計数(重合度)は、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。一方、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、100以下であることが更に好ましく、80以下であることが特に好ましい。ポリエーテルスルホンの繰り返し単位(a-2)の合計数(重合度)がかかる範囲であれば、本発明の樹脂フィルムは耐熱性や耐衝撃性に優れる上、溶融時の粘度が高すぎないため溶融成形性に優れたものとなりやすい。
【0050】
なお、ポリエーテルスルホンは、繰り返し単位(a-2)以外の繰り返し単位を含むものであってもよいが、ポリエーテルスルホンを用いることによる本発明の効果をより確実に得る観点から、ポリエーテルスルホン中の繰り返し単位(a-2)以外の繰り返し単位は、全繰り返し単位中に40モル%以下、更には30モル%以下、特に0~20モル%であることが好ましい。
【0051】
(ガラス転移温度(Tg))
ポリエーテルスルホンのガラス転移温度は、180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、210℃以上であることが特に好ましい。
一方、ガラス転移温度は、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることが更に好ましく、250℃以下であることが特に好ましく、240℃以下であることがとりわけ好ましい。
ポリエーテルスルホンのガラス転移温度がかかる範囲であれば、本発明の樹脂フィルムは耐熱性に優れる上、溶融時の粘度が高すぎないため溶融成形性に優れたものとなりやすい。
【0052】
(結晶融解熱量)
ポリエーテルスルホンの結晶融解熱量は、10J/g以下であることが好ましく、5J/g以下であることがより好ましく、更に好ましくは0J/g、すなわち、実質的に非晶性であることが更に好ましい。結晶融解熱量が10J/g以下であれば、本発明の樹脂フィルムの結晶化が抑えられるため、結晶化による成形収縮や透明性の悪化を抑制しやすい傾向となる。
【0053】
なお、本発明におけるガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準じて、示差走査熱量計(例えば、パーキンエルマー社製 Pyris1 DSC)を用いて、温度範囲23~380℃まで速度10℃/分で昇温した後、速度10℃/分で23℃まで降温し、再度380℃まで速度10℃/分で昇温した際に検出されるDSC曲線から求めることができる。また、結晶融解熱量は、JIS K7122:2012に準じて、示差走査熱量計を用いて、温度範囲0~380℃、加熱速度10℃/分で昇温させた際に検出されるDSC(Differential scanning calorimetry)曲線から求められる。以下においても同様である。
【0054】
<PSU>
PSU(ポリスルホン)は、下記式(a-3)で示される繰り返し単位を有する。
【0055】
【0056】
ポリスルホンの繰り返し単位(a-3)の合計数(重合度)は、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。一方、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、100以下であることが更に好ましく、80以下であることが特に好ましい。ポリスルホンの繰り返し単位(a-3)の合計数(重合度)がかかる範囲であれば、本発明の樹脂フィルムは耐熱性や耐衝撃性に優れる上、溶融時の粘度が高すぎないため溶融成形性に優れたものとなりやすい。
【0057】
なお、ポリスルホンは、繰り返し単位(a-3)以外の繰り返し単位を含むものであってもよいが、ポリスルホンを用いることによる本発明の効果をより確実に得る観点から、ポリフェニルスルホン中の繰り返し単位(a-3)以外の繰り返し単位は、全繰り返し単位中に40モル%以下、更には30モル%以下、特に0~20モル%であることが好ましい。
【0058】
(ガラス転移温度(Tg))
ポリスルホンのガラス転移温度は、180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、210℃以上であることが特に好ましい。
一方、ガラス転移温度は、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることが更に好ましく、250℃以下であることが特に好ましく、240℃以下であることがとりわけ好ましい。
ポリスルホンのガラス転移温度がかかる範囲であれば、本発明の樹脂フィルムは耐熱性に優れる上、溶融時の粘度が高すぎないため溶融成形性に優れたものとなりやすい。
【0059】
(結晶融解熱量)
ポリフェニルスルホンの結晶融解熱量は、10J/g以下であることが好ましく、5J/g以下であることがより好ましく、更に好ましくは0J/g、すなわち、実質的に非晶性であることが更に好ましい。結晶融解熱量が10J/g以下であれば、本発明の樹脂フィルムの結晶化が抑えられるため、結晶化による成形収縮や透明性の悪化を抑制しやすい傾向となる。
【0060】
なお、本発明におけるガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準じて、示差走査熱量計(例えば、パーキンエルマー社製 Pyris1 DSC)を用いて、温度範囲23~380℃まで速度10℃/分で昇温した後、速度10℃/分で23℃まで降温し、再度380℃まで速度10℃/分で昇温した際に検出されるDSC曲線から求めることができる。
また、結晶融解熱量は、JIS K7122:2012に準じて、示差走査熱量計を用いて、温度範囲0~380℃、加熱速度10℃/分で昇温させた際に検出されたDSC(Differential scanning calorimetry)曲線から求められる。以下においても同様である。
【0061】
<充填材>
本発明の半導体製造工程用樹脂組成物は、上記(A)成分、(B)成分に加えて、(C)充填材を添加することが好ましい。(C)充填材の添加によって、線膨張係数を小さくすることができる。
充填材としては、特に限定はなく、有機充填材であっても無機充填材であってもよい。
前記充填材の例としては、クレー、ガラス、アルミナ、シリカ、窒化アルミニウム、窒化珪素などの無機充填材、ガラス繊維やアラミド繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維などの繊維、鱗片状、板状又は薄片状のもの、好ましくは無機の鱗片状、板状又は薄片状の粉体、例えば、(合成)マイカ、天然マイカ、ベーマイト、タルク、セリサイト、イライト、カオリナイト、モンモリロナイト、バーミキュライト、スメクタイト、板状アルミナ、鱗片状チタン酸塩(例えば、鱗片状チタン酸マグネシウムカリウム、鱗片状チタン酸リチウムカリウム等)などを挙げることができる。
【0062】
中でも、機械的強度、耐熱性、製膜性に優れ、線膨張係数が低い点から、マイカが主成分充填材であるのが好ましい。
この際、主成分充填材とは、充填材を構成する種類の中で含有量が最も多い種類の充填材の意味であり、好ましくは、充填材の50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上(100質量%を含む)を占める種類のものである。他の主成分充填材についても同様である。
【0063】
前記充填材は、異方性が少なくて、フィルム等の成形品の寸法変化をより抑えることができ、フィルムの製膜性、特に薄膜フィルムの製膜性に優れる観点から、鱗片状充填材、板状充填材、薄片状充填材又はこれらの2種類以上の混合物を主成分充填材とするものが好ましい。
【0064】
よって、主成分充填材としては、例えば、鱗片状または薄片状のマイカ、板状または薄片状の二酸化チタン、チタン酸カリウム、チタン酸リチウム、ベーマイト、γ-アルミナ及びα-アルミナ等が好ましく用いられ、中でも鱗片状または薄片状のマイカが特に好ましい。
【0065】
(平均アスペクト比)
本発明のフィルムの寸法変化をより抑えることができる観点から、充填材の平均アスペクト比(最大径/厚さの平均値)は10以上であるのが好ましく、中でも20上、その中でも25以上であるのがさらに好ましく、30以上であるのが特に好ましい。他方、異方性の観点から、100以下であるのが好ましく、中でも80以下、その中でも60以下であるのがさらに好ましく、50以下であるのが特に好ましい。
なお、充填材の平均アスペクト比とは、複数の充填材粒子のアスペクト比の平均を意味し、具体的には、後述する各充填材粒子の最大径と厚さの測定結果から算出することができる。
【0066】
(平均最大径)
充填材の平均最大径は、製膜性、機械物性の観点から、30μm以下であるのが好ましく、中でも20μm以下、その中でも15μm以下であるのがさらに好ましく、10μm以下であるのが特に好ましい。他方、線膨張係数等の寸法安定性の観点から、1μm以上であるのが好ましく、その中でも1.5μm以上、その中でも2μm以上であるのがさらに好ましく、3μm以上であるのがとりわけ好ましく、3.5μm以上であるのが特に好ましい。
なお、充填材の平均最大径とは、走査型電子顕微鏡等の電子顕微鏡を用いて各充填材粒子を観察した際に、最も長さが長く観察される部分の平均長さをいう。具体的には、本樹脂フィルムの流れ方向に垂直な断面に対して観察を行い、充填材粒子を長さの長いものから30個選択し、最も長さが長く観察される部分の長さを測定して平均化することで求めることができる。
【0067】
(平均厚さ)
充填材の平均厚さは、製膜性の観点から、1μm以下であるのが好ましく、中でも0.8μm以下、その中でも0.6μm以下であるのがさらに好ましく、0.4μm以下であるのが特に好ましい。他方、充填材の強度の観点から、0.01μm以上であるのが好ましく、その中でも0.03μm以上、その中でも0.06μm以上であるのがさらに好ましく、0.08μm以上であるのがとりわけ好ましく、0.1μm以上であるのが特に好ましい。
なお、充填材の平均厚さとは、走査型電子顕微鏡等の電子顕微鏡を用いて各充填材粒子を観察した際に、最も長さが短く観察される部分の平均長さをいう。具体的には、本樹脂組成物から得られるフィルムの流れ方向に垂直な断面に対して観察を行い、充填材粒子を任意に30個選択し、最も長さが短く観察される部分の長さを測定して平均化することで求めることができる。
【0068】
(表面処理)
充填材は、カップリング剤等の表面処理剤で表面処理してもよい。
カップリング剤等の表面処理剤で表面処理することにより、さらに機械的強度、耐熱性を高めることができ、樹脂の劣化を低減して成形性を向上させることができる。
カップリング剤等の表面処理剤としては特に限定されず、シラン系、チタネート系、アルミナート系等一般的なカップリング剤を用いることができる。
表面処理方法としては、乾式、湿式表面処理方法が使用でき、特に湿式表面処理方法が望ましい。
【0069】
(充填材の含有量)
本樹脂組成物において、前記(C)充填材の含有量は、線膨張係数の低減の観点から、前記(A)ポリアリールエーテルケトンと、(B)該(A)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂の合計質量100質量部に対して、1質量部以上であるのが好ましく、中でも5質量部以上、その中でも10質量部以上であるのがより好ましく、12質量部以上であることがさらに好ましく、15質量部以上であることが特に好ましい。
他方、靭性、製膜性の観点から、前記充填材の含有量は、50質量部以下であるのが好ましく、40質量部以下であるのがより好ましく、35質量部以下であるのがさらに好ましく、30質量部以下であるのがよりさらに好ましく、25質量部以下であるのがさらに好ましく、23質量部以下であるのが特に好ましい。
【0070】
<他の材料>
本樹脂組成物は、前記樹脂と前記充填材以外の他の材料を含有することも可能である。
当該他の材料としては、例えば熱安定剤、滑剤、離型剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、難燃剤、潤滑剤、前記充填材以外の充填剤、補強剤等の一般的な樹脂添加剤などを挙げることができる。このうちの1種または2種以上を含有することができる。
【0071】
<半導体工程用フィルムの製造方法>
本発明の半導体製造工程用フィルムは、上記の本樹脂組成物からなるフィルムである。この半導体製造工程用フィルムは、UV透過性、線膨張係数、耐熱性、靭性などがバランスよく良好となり、例えば、半導体製造工程時の保護フィルムとして好適に使用できる。
本発明の半導体製造工程用フィルム(以下「本フィルム」と記載することがある。)は、公知の製造方法により製造することができる。
本フィルムの製造方法の具体例としては、樹脂、充填材と、必要に応じて添加されるその他の成分とを一括でドライブレンドした後、二軸混練機等で溶融混練する方法を例示することができる。
溶融混練において、充填材はドライブレンドせず、押出機の途中にサイドフィーダーから供給することも可能である。
また、樹脂と充填材とを含むマスターバッチを予め製造し、当該マスターバッチと残りの樹脂及び必要に応じて添加されるその他の成分とをドライブレンドし、二軸押出機等で溶融混練する方法も好ましい。但し、かかる製造方法に限定するものではない。
混練には、単軸スクリュー押出機、コニーダー、多軸スクリュー押出機等を使用することもできる。これにより、例えばペレット形状の樹脂組成物を得ることができる。
【0072】
本フィルムは、一般の成形法、例えば、押出成形、カレンダー成形、溶液流延法等の流延成形、インフレーション成形等によって成形することができる。中でも、押出成形法、特にTダイ法が好ましい。
【0073】
本フィルムは、無延伸または延伸フィルムのいずれでもよい。
無延伸フィルムとは、フィルムの配向を制御する目的で積極的に延伸しないフィルムを意味し、Tダイ法等の押出成形等において、溶融樹脂の引き落とし時やキャストロールにより引き取る際に配向したフィルムや、延伸ロールでの延伸倍率が2倍未満であるフィルムも含むものとする。
【0074】
本フィルムは、前述の(A)成分および(B)成分を含む本樹脂組成物を溶融、好ましくは溶融混練した後、押出成形し、冷却することにより製造することができる。
押出成形機としては、例えば、単軸押出成形機や二軸押出成形機等が挙げられ、投入された本樹脂組成物を溶融混練するように機能する。
【0075】
溶融温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整するのが好ましい。生産性等の観点から、320℃以上であることが好ましく、340℃以上であることがより好ましく、350℃以上であることがさらに好ましく、360℃以上であることが特に好ましい。
溶融温度を前記温度以上とすることで、ペレット等の原料の結晶が充分に融解しフィルムに残りにくくなるため、耐折回数、パンクチャー衝撃強度等の耐久性が向上しやすくなる。
一方、溶融温度は450℃以下であることが好ましく、430℃以下であることがより好ましく、410℃以下であることがさらに好ましく、390℃以下であることが特に好ましい。溶融温度を前記温度以下とすることで、溶融成形時に樹脂が分解しにくく分子量が維持されやすいため、フィルムの耐熱性、引張弾性率が向上する傾向となる。
【0076】
その後、溶融混練された本樹脂組成物は、Tダイによって押出され製膜される。
Tダイは、帯形のフィルムを連続的に下方に押出すよう機能する。
このTダイの押出時の温度は、通常は樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲であり、具体的には、280℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、320℃以上であることがさらに好ましく、340℃以上であることが特に好ましく、350℃以上であることが最も好ましい。
一方、Tダイの押出時の温度は450℃以下であることが好ましく、430℃以下であることがより好ましく、410℃以下であることがさらに好ましく、390℃以下であることが特に好ましい。
【0077】
前記Tダイによりフィルムとして押出された本樹脂組成物は、圧着ロール、キャストロール等のロール等の冷却機に接触させることにより冷却される。
圧着ロールは、Tダイの下方に回転可能に軸支され、キャストロールを摺接可能に狭持する。また、キャストロールは、例えば、圧着ロールよりも拡径の金属ロールからなり、Tダイの下方に回転可能に軸支されて押し出されたフィルムを圧着ロールとの間に狭持し、圧着ロールと共にフィルムを冷却しながらその厚さを所定の範囲内に制御するように機能する。
【0078】
冷却温度(例えば、キャストロールの温度)は、所望の相対結晶化度になるように冷却温度を適宜選択すればよいが、樹脂のガラス転移温度から30~150℃高い温度であることが好ましく、35~140℃高い温度であることがより好ましく、40~135℃高い温度であることが特に好ましい。冷却温度を前記範囲とすることで、フィルムの冷却速度を遅くすることができ、相対結晶化度を高くできる傾向がある。例えば、樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトンを含む場合、冷却温度は180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましく、210℃以上であることが特に好ましい。一方、冷却温度は300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることがさらに好ましく、250℃以下であることが特に好ましく、240℃以下であることが最も好ましい。
【0079】
一般的に高分子材料の結晶化速度は、結晶の核形成速度と成長速度のバランスから、ガラス転移温度と結晶融解温度との間の温度域で最大化すると考えられる。相対結晶化度が高いフィルムを作製する場合に、冷却温度(キャストロール等の温度)の下限と上限がかかる範囲であれば、結晶化速度が最大となり、生産性に優れた結晶化フィルムが得られやすい。
【0080】
なお、用いる樹脂が複数種の結晶性樹脂の混合物であり、ガラス転移温度が複数存在する場合は、最も高い温度を樹脂のガラス転移温度とみなし、冷却温度を調整すればよい。
【0081】
前記キャストロールの下流には、相対結晶化度を調整するために、フィルムを再加熱するための加熱ロール、フローティングドライヤー等のオーブン、赤外線ヒーター等を備えていてもよい。
【0082】
また、フィルムが延伸フィルムである場合は、キャストロールの下流に、通常、一軸延伸装置、逐次二軸延伸装置、同時二軸延伸装置等の延伸装置を備える。
【0083】
<本フィルムの特性>
本樹脂フィルムは、次のような特性を有する。
【0084】
(UV透過率)
本フィルムは例えば厚さ10~500μmの範囲で、400nmにおけるUV透過率を25%以上とすることができ、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上とすることができる。UV透過率を25%以上とすることで、半導体製造工程後に該フィルムに接する接着剤に、本樹脂フィルムを通してUVを照射することができ、粘着剤からガスを発生させ、剥離性を向上させることができる。
また、400~420nm程度の短波長の可視光領域であると、さらに透過率が上がることから、短波長の可視光で硬化する接着剤を用いる場合にも、効果的である。
本フィルムは例えば厚さ10~500μmの範囲で、450nmにおけるUV透過率を35%以上とすることができ、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、さらに好ましくは50%以上とすることができる。UV透過率を35%以上とすることで、半導体製造工程後に該フィルムに接する接着剤に、本樹脂フィルムを通してUVを照射することができ、粘着剤からガスを発生させ、剥離性を向上させやすくなる。
【0085】
(線膨張係数)
本樹脂フィルムは、例えば厚さ10~500μmの範囲で、線膨張係数を90ppm/℃以下とすることができ、好ましくは80ppm/℃以下、好ましくは70ppm/℃以下、好ましくは60ppm/℃以下、より好ましくは55ppm/℃以下、さらに好ましくは50ppm/℃以下、とりわけ好ましくは45ppm/℃以下、特に好ましくは40ppm/℃以下とすることができる。
なお、当該線膨張係数は、フィルムの樹脂流れ方向(MD)に直交する方向(TD)について測定した線膨張係数であり、後述する実施例における方法で測定することができる。
線膨張係数は、例えば、原料として用いる樹脂、充填材の種類を鑑み、組成物中の充填材の含有割合を適宜選択することにより、所望の範囲に調整することができる。
【0086】
(引張破断伸度)
本樹脂フィルムは、例えば厚さ10~500μmの未延伸フィルムとしたときに、その引張破断伸度を1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは7%以上、特に好ましくは10%以上、とりわけ好ましくは13%以上とすることができる。他方、フィルム加工性の観点から、好ましくは300%以下、より好ましくは280%以下、さらに好ましくは250%以下とすることができる。本樹脂フィルムは靭性にも優れているため、半導体製造工程での使用時に柔らかくて剥がし易く、またハンドリング性にも優れる傾向となる。
フィルムの引張破断伸度は、フィルムの樹脂流れ方向(MD)に直交する方向(TD)ついて測定した値であり、後述する実施例における方法で測定することができる。
【0087】
(本フィルムの厚さ)
本フィルムの厚さは、ハンドリング性の観点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、中でも30μm以上、その中でも50μm以上、その中でも70μm以上であるのがさらに好ましい。他方、生産性の観点から、500μm以下であることが好ましく、その中でも400μm以下、その中でも300μm以下、その中でも200μm以下、その中でも150μm以下であるのがさらに好ましい。
【0088】
(相対結晶化度)
本フィルムは、その相対結晶化度を60%以上とすることができ、中でも70%以上、その中でも80%以上、さらにその中でも85%以上、その中でも90%以上とすることができる。また、上限は、通常100%である。本フィルムの相対結晶化度が、前記数値範囲であれば、熱による収縮等の寸法変化を抑制することができ、また、耐熱性や剛性により優れたものとすることができる。
フィルムの相対結晶化度は、後述する実施例における方法で測定することができる。
【0089】
本フィルムの相対結晶化度を前記範囲とするには、例えば、原料として用いる樹脂の選定、フィルムを押し出す際の条件等を適宜調整すればよい。中でも、以下の(1)~(4)の方法を採用することが好ましい。これらの方法は、組み合わせて用いてもよい。中でも、生産性及びエネルギー消費の少ない(1)の方法が好ましい。
【0090】
(1)溶融樹脂を冷却しフィルム形状とする際の冷却条件を調整する方法
後に詳述する本フィルムの製造方法で具体的に説明するように、冷却は例えば、冷却機としてキャストロールを用い、押し出された溶融樹脂をキャストロールに接触させることにより行うことができるが、具体的には、以下の方法を採用することが好ましい。
【0091】
冷却温度を原料樹脂のガラス転移温度より30~150℃高い温度とする方法が挙げられる。冷却温度は樹脂のガラス転移温度より35~140℃高い温度であることがより好ましく、40~135℃高い温度であることが特に好ましい。冷却温度を前記範囲とすることで、フィルムの冷却速度を遅くすることができ、相対結晶化度を高くすることができる傾向がある。
特に、樹脂としてポリエーテルエーテルケトンを主成分として含む場合、冷却温度は180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましく、210℃以上であることが特に好ましい。
一方、冷却温度は300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることがさらに好ましく、250℃以下であることが特に好ましく、240℃以下であることが最も好ましい。
【0092】
(2)加熱ロールを用いフィルムを再加熱する方法
具体的には、縦延伸機等のキャストロールとは別のロールで加熱する方法が挙げられる。加熱する際の温度は、前記(1)の冷却温度と同様の範囲が好ましい。
【0093】
(3)オーブンでフィルムを再加熱する方法
具体的には、フローティングドライヤー、テンター、バンドドライヤー等の乾燥装置にフィルムを通し、熱風で加熱する方法が挙げられる。
加熱する際の温度は、前記(1)の冷却温度と同様の範囲が好ましい。
【0094】
(4)赤外線でフィルムを再加熱する方法
具体的には、セラミックヒーター等の遠赤外線ヒーターをロール間に設置しロールtoロールでフィルムを加熱してもよいし、遠赤外線乾燥機にフィルムを通し加熱してもよい。加熱する際の温度は、前記(1)の冷却温度と同様の範囲が好ましい。
【0095】
なお、前記(2)~(4)の処理は、フィルム製造ライン中にそのための設備を設けフィルム製造の際に同時に行ってもよいし、一度ロール状にフィルムを巻き取った後、このフィルムロールについて製造ライン外のこれら設備によって行ってもよい。
【0096】
(本フィルムの用途)
本フィルムは、例えば研磨工程、ダイシング工程、耐熱工程など、様々な半導体の製造工程で用いることができる。このような半導体製造の各工程で用いる半導体製造工程用フィルムの保護フィルムとして用いることができる。
中でも、本フィルムは、ウエハ研磨用、例えばバックグラインディング工程において、ウエハ表面(回路形成面)の保護フィルムとして好適に用いることができる。
【0097】
本フィルムを、半導体製造工程に用いる場合には、本フィルムの片面又は両面に接着層を積層して用いることが好ましいい。
【0098】
この際、前記接着層を構成する粘着剤又は接着剤(以下、「粘着剤等」と称する。)としては、例えば、アクリル系、エポキシ系、アリル系、シリコーン系又はフッ素系の粘着剤を挙げることができる。中でも、耐熱性、粘着力の調整容易性などの点から、アクリル系粘着剤等が好ましい。
【0099】
前記粘着剤等は、硬化型粘着剤等であっても、非硬化型粘着剤等であってもよい。但し、熱処理前に硬化させることによって熱処理時の高温による接着昂進を抑えて糊残りなく半導体チップをピックアップしやすい点から、硬化型粘着剤等であることが好ましい。
【0100】
前記硬化型粘着剤等としては、光照射により架橋、硬化する光硬化型粘着剤等や、加熱により架橋、硬化する熱硬化型粘着剤等を挙げることができる。本発明の樹脂フィルムは、UVの透過性能に優れるため、特に光硬化型粘着剤を適用することが好ましい。
前記光硬化型粘着剤等としては、例えば、重合性ポリマーを主成分として、光重合開始剤を含有する光硬化型粘着剤等を挙げることができる。
【0101】
前記接着層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は5μm、好ましい上限は100μmである。上記接着層の厚さがこの範囲内にあると、充分な粘着力で半導体ウエハに貼着でき、処理中の半導体ウエハを保護することができる。また、変形応力を適切な範囲に調節しやすくなる。前記接着層の厚さのより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は70μmであり、さらに好ましい下限は20μmであり、さらに好ましい上限は50μmである。
【0102】
接着層の形成手段は任意である。粘着剤等の組成物を本フィルム上に塗布する方法や、セパレータ上に形成した接着層を転写(移着)する方法等により、例えばフィルム状及びスポット状の接着層を形成することができる。
【0103】
<語句の説明など>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0104】
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0105】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0106】
<評価方法>
以下において、種々の物性等の測定及び評価は次のようにして行った。
【0107】
(充填材の平均最大径、平均厚さ、平均アスペクト比)
任意に30個の充填材粒子を選び、各充填材粒子を電界放出形走査電子顕微鏡(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 NOVANanoSEM、倍率5000~500000倍)により観察し、各充填材粒子の最大径、厚さを測定し、下記式からアスペクト比を求めた。また、これらの30個の平均値としての平均最大径、平均厚さ及び平均アスペクト比を求めた。
アスペクト比=最大径/厚さ
【0108】
(UV透過率)
実施例・比較例で得られたフィルム(サンプル)について、分光光度計装置(日立ハイテクサイエンス社製 分光光度計U-3900H)を用いて、JIS K 7375に準拠して、200~800nmの全光線透過率を測定し、それぞれの波長における透過率を得た。
【0109】
(線膨張係数)
実施例・比較例で得られたフィルム(サンプル)について、熱機械的分析装置(メトラー・トレド社製 TMA/SDTA841)を用いて、JIS K7197:2012に準拠して、試験片幅6mm、測定チャック間距離が10mm、引張モードの条件で、40~300℃まで速度5℃/分で昇温し、240℃で1時間保持後、速度5℃/分で40℃まで降温し、再度300℃まで速度5℃/分で昇温した際に得られた40~300℃における測定結果の数値を線膨張係数(ppm/℃)とした。実施例・比較例における測定は、フィルムの樹脂流れ方向と直交する方向(TD)について行った。
【0110】
(引張破断伸度)
実施例及び比較例で得られたフィルム(サンプル)について、JIS K7127:1999に準拠して、引張速度200mm/minで、雰囲気温度23℃におけるフィルムの引張破断伸度(%)を測定した。5回の測定値の平均値を表1に示した。
なお、測定はフィルムの樹脂流れ方向に直交する方向(TD)について行った。
【0111】
(相対結晶化度)
実施例・比較例で得られたフィルム(サンプル)について、示差走査熱量計Pyris1 DSC(パーキンエルマー社製)を用いて、温度範囲23~400℃まで速度10℃/分で昇温した際に検出されるDSC曲線から、結晶融解ピークの熱量(J/g)、再結晶化ピークの熱量(J/g)を求め、下記式を用いて、相対結晶化度を算出した。
相対結晶化度(%)={1-(ΔHc/ΔHm)}×100
ΔHc:フィルムの10℃/分の昇温条件下での再結晶化ピークの熱量(J/g)
ΔHm:フィルムの10℃/分の昇温条件下での結晶融解ピークの熱量(J/g)
【0112】
(ガラス転移温度・結晶融解温度)
各原料、及び得られたフィルムについて、JIS K7121:2012に準拠して、示差走査熱量計Pyris1 DSC(パーキンエルマー社製)を用いて、温度範囲23~400℃まで速度10℃/分で昇温した後、速度10℃/分で23℃まで降温し、再度400℃まで速度10℃/分で昇温した際に検出されるDSC曲線からガラス転移温度(Tg)と結晶融解温度(Tm)を求めた。
なお、結晶融解温度(Tm)は検出される吸熱ピークのピークトップの温度とした。
【0113】
[原料]
実施例及び比較例では次の原料を使用した。
【0114】
a-1-1:ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、分子量分布5.1、質量平均分子量87000、結晶融解温度340℃、結晶融解熱量41J/g、結晶化温度295℃)を70質量%、下記のマイカを30質量%の割合で含むマスターバッチ
a-1-2:ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、分子量分布4.0、質量平均分子量100000、結晶融解温度339℃、結晶融解熱量40J/g、結晶化温度295℃)
b-1:ポリフェニルスルホン(PPSU、ガラス転移温度220℃、結晶融解熱量0J/gの非晶性樹脂、ポリフェニルスルホンの繰り返し単位が78)
b-2:ポリエーテルスルホン(PES、ガラス転移温度225℃、結晶融解熱量0J/gの非晶性樹脂、ポリエーテルスルホンの繰り返し単位が45)
b-3:ポリスルホン(PSU、SOLVAY社製「Udel P1700」、ガラス転移温度190℃の非晶性樹脂)
【0115】
マイカ:平均最大径4.0μm、平均厚さ0.13μm、平均アスペクト比33
【0116】
[実施例1~3]
表1の割合となるように、前記原料をドライブレンドした後、Φ40mm単軸押出機を用いて380℃で混練し、Tダイより押出し、次いで210℃のキャスティングロールにて冷却し、厚さ50μmの結晶化フィルム(サンプル)を製造した。
得られたフィルム(サンプル)を用いて、UV透過率、線膨張係数、引張破断伸度、相対結晶化度、結晶融解温度、ガラス転移温度の測定を行った。
【0117】
[比較例1および2]
上記原料を、Φ40mm単軸押出機を用いて380℃で混練し、Tダイより押出し、次いで210℃のキャスティングロールにて冷却し、厚さ50μmのフィルム(サンプル)を製造した。
得られたフィルム(サンプル)を用いて、UV透過率、線膨張係数、引張破断伸度、相対結晶化度、結晶融解温度、ガラス転移温度の測定を行った。
【0118】
【0119】
<考察>
上記実施例及び比較例の結果から、(A)ポリアリールエーテルケトンと(B)ポリアリールエーテルケトン以外の樹脂に関し、それぞれ選択し、適当な割合で混合することにより、該樹脂フィルムの400nmにおけるUV透過率を25%以上とすることができることがわかった。さらに、これらの樹脂に加えて、適切な充填材を適切な含有割合で混合することにより、該フィルムの線膨張係数を90×10-6/℃以下とすることができることが分かった。
このようなフィルムであれば、フィルム特性を維持しつつUV透過率が高く、且つ、線膨張係数も十分に小さいことから、半導体製造工程用フィルム、特にウエハ研磨用の保護フィルムとして有用に利用することができる。