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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150786
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20231005BHJP
   H01B 7/40 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01B7/00 301
H01B7/40 308
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060060
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】千田 力
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 航
(72)【発明者】
【氏名】藤中 宏次
【テーマコード(参考)】
5G309
【Fターム(参考)】
5G309AA01
5G309AA11
(57)【要約】
【課題】複数の被覆電線が嵩張ることなく束ねられたワイヤーハーネスを安定した品質で提供すること。
【解決手段】絶縁被覆6で導体5を被覆した被覆電線10が複数束ねられたワイヤーハーネス1において、長手方向Yの一部において、束ねられた被覆電線10の絶縁被覆6同士が接着層7を介して接着された接着固定部30が形成され、接着層7は、加熱、加圧、加水及び光の照射のうち少なくともひとつが作用することで接着し、硬化する接着剤で構成された。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆で導体を被覆した被覆電線が複数束ねられたワイヤーハーネスであって、
長手方向の一部において、束ねられた前記被覆電線の前記絶縁被覆同士が接着された接着固定部が形成された
ワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記接着固定部が、前記長手方向において、所定間隔を隔てて複数設けられた
請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
幹線と、幹線から分岐する枝線とが設けられ、
前記幹線から前記枝線が分岐する分岐部に前記接着固定部が形成された
請求項1又は請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記接着固定部は、他の部分より剛性が高い
請求項1乃至請求項3のうちいずれかに記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記被覆電線は、前記被覆電線の外周面を覆う接着層が設けられた
請求項1乃至請求項4のうちいずれかに記載のワイヤーハーネス。
【請求項6】
前記接着層は、
加熱、加圧、加水及び光の照射のうち少なくともひとつが作用することで接着し、硬化する接着剤で構成された
請求項5に記載のワイヤーハーネス。
【請求項7】
前記被覆電線は、前記接着層の外周面を覆うコーティング層が設けられ、
前記接着固定部は、
加熱、加圧、加水及び光の照射のうち少なくともひとつが前記コーティング層に対して作用することで、該コーティング層から露出された前記接着層同士が接着した
請求項5又は請求項6に記載のワイヤーハーネス。
【請求項8】
絶縁被覆で導体を被覆した被覆電線が複数束ねられたワイヤーハーネスの製造方法であって、
長手方向の一部において、束ねられた前記被覆電線の前記絶縁被覆同士を接着して接着固定部を形成する
ワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項9】
複数の前記被覆電線のうち一部の前記被覆電線を束ね、前記接着固定部が形成された細電線束を複数形成し、
複数の前記細電線束を束ね、前記接着固定部を形成する
請求項8に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、絶縁被覆で導体を被覆した被覆電線が複数束ねられたワイヤーハーネス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に装備された電装機器は、被覆電線を束ねたワイヤーハーネスを介して、別の電装機器や電源装置と接続して電気回路を構成している。このようなワイヤーハーネスは、立体化された配索経路に沿って配索されるため、配索経路に沿うように立体形状で形成される。
【0003】
具体的には、絶縁被覆で導体を被覆した被覆電線のそれぞれを立体化された配索経路に沿って配置し、全部の被覆電線を配置した後、特許文献1に開示するように、被覆電線の全部をまとめ、その外周にテープを巻き回して、前記ワイヤーハーネスを形成している。これにより、立体化された配索経路に対応した形状の前記ワイヤーハーネスを形成することができる。
【0004】
しかしながら、前記被覆電線のそれぞれが可撓性を有するため、複数の前記被覆電線をまとめてテープを巻き回して固定するテープ巻き作業は困難であり、製造効率が悪かった。また、作業者によってテープを巻き回す力が異なり、テープの巻き回し状態の品質がばらつくおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-158285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、製造効率が高く、安定した品質のワイヤーハーネス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、絶縁被覆で導体を被覆した被覆電線が複数束ねられたワイヤーハーネスであって、長手方向の一部において、束ねられた前記被覆電線の前記絶縁被覆同士が接着された接着固定部が形成されたことを特徴とする。
上述の絶縁被覆同士が接着された接着固定部は、接着剤などで前記絶縁被覆が接着される態様、あるいは前記絶縁被覆の表面が溶融して接着する態様が含まれる。
【0008】
この発明により、安定した品質のワイヤーハーネスを効率よく製造することができる。
詳述すると、絶縁被覆で導体を被覆した被覆電線が複数束ねられ、ワイヤーハーネスを構成する電線束の長手方向の一部に、束ねられた前記被覆電線の前記絶縁被覆同士が接着された接着固定部が形成されているため、それぞれが可撓性を有する前記被覆電線を複数まとめてテープを巻き回して束ねるテープ巻きによる固定方法よりも、束ねた前記被覆電線同士を安定した品質で固定することができる。
【0009】
また、束ねた前記被覆電線同士を互いに接着して固定しているため、それぞれが可撓性を有する前記被覆電線を複数まとめて外周にテープを巻き回して束ねるテープ巻き作業よりも効率よく固定することができる。
【0010】
この発明の態様として、前記接着固定部が、前記長手方向において、所定間隔を隔てて複数設けられてもよい。
この発明により、例えば、ワイヤーハーネスの全長に亘って、前記接着固定部を形成する場合に比べて、より効率よく製造することができる。なお、ワイヤーハーネスの長手方向において、複数の前記接着固定部が形成される箇所としては、例えば、両端付近、曲がり部の前後や分岐部などの形状変化箇所などが挙げられる。なお、上述のように、形状変化箇所に前記接着固定部を形成することで、全長に亘って前記接着固定部を形成しなくても、所望の形状を維持することができる。
【0011】
またこの発明の態様として、幹線と、幹線から分岐する枝線とが設けられ、前記幹線から前記枝線が分岐する分岐部に前記接着固定部が形成されてもよい。
上記分岐部に形成される前記接着固定部は、分岐部の幹線のみであってもよいし、分岐部の幹線と枝線とに亘って形成されてもよい。
【0012】
この発明により、幹線と枝線が分岐する分岐部や、幹線が枝線と枝線に分岐する分岐部など、電線束の径が変化する分岐部において、前記接着固定部によって分岐形状を維持することができる。なお、電線束の径が変化する分岐部は、幹線と枝線の延伸方向が異なり、幹線と枝線との股部分が生じるため、股部分にもテープを巻き付けるテープ巻き作業はより複雑化するが、前記接着固定部は前記絶縁被覆同士を接着するだけで構成できるため、分岐部であっても製造効率が低下することを防止できる。
【0013】
またこの発明の態様として、前記接着固定部は、他の部分より剛性が高くてもよい。
この発明により、他の部分より剛性が高くなるように、前記接着固定部の前記絶縁被覆同士を接着しているため、前記接着固定部の形状を維持しやすくなる。また、前記接着固定部が分岐部に形成されている場合、前記幹線と前記枝線との間の分岐が不用意に拡がることを防止できる。
【0014】
またこの発明の態様として、前記被覆電線は、前記被覆電線の外周面を覆う接着層が設けられてもよい。
この発明により、前記絶縁被覆の絶縁性能を低下させること無く、前記絶縁被覆同士をより確実に接着することができる。
【0015】
またこの発明の態様として、前記接着層は、加熱、加圧、加水及び光の照射のうち少なくともひとつが作用することで接着し、硬化する接着剤で構成されてもよい。
この発明により、加熱、加圧、加水及び光の照射のうち少なくともひとつを、前記接着固定部を構成する部分に作用させることで、他の部分の前記絶縁被覆同士を接着させずに、前記接着固定部を構成する前記絶縁被覆同士だけを効率よく、接着させることができる。
【0016】
上記接着層は、ポリアミド系ホットメルト、ポリエステル系ホットメルトあるいはオレフィン系ホットメルトなどのホットメルト層、反応型ポリウレタン系ホットメルトなどの反応型ホットメルト層、熱可塑性接着フィルム、水をかけると溶けて接着するポリビニルアルコール層などが含まれる。
【0017】
また、上述した加熱、加圧、加水、或いは光の照射が作用することで接着する接着剤とは、夫々熱硬化性接着剤、感圧接着剤、湿硬化性接着剤、光硬化性接着剤を示す。
【0018】
前記接着層は、上述した接着剤以外にも例えば、嫌気硬化性の接着剤、或いは二液反応硬化性の接着剤で構成されてもよい。また、前記光とは、放射線や紫外線などの活性光線を示す。
【0019】
またこの発明の態様として、前記被覆電線は、前記接着層の外周面を覆うコーティング層が設けられ、前記接着固定部は、加熱、加圧、加水及び光の照射のうち少なくともひとつが前記コーティング層に作用することで前記コーティング層から露出された前記接着層同士が接着してもよい。
【0020】
この発明により、接着層が前記コーティング層で覆われているため、他の部分の前記絶縁被覆同士を確実に接着させず、前記接着固定部を構成する前記絶縁被覆同士だけを効率よく、接着することができる。
【0021】
またこの発明は、絶縁被覆で導体を被覆した被覆電線が複数束ねられたワイヤーハーネスの製造方法であって、長手方向の一部において、束ねられた前記被覆電線の前記絶縁被覆同士を接着して接着固定部を形成することを特徴とする。
【0022】
この発明により、安定した品質のワイヤーハーネスを効率よく製造することができる。
詳述すると、絶縁被覆で導体を被覆した被覆電線が複数束ねられ、ワイヤーハーネスを構成する電線束の長手方向の一部に、束ねられた前記被覆電線の前記絶縁被覆同士が接着された接着固定部を形成するため、それぞれが可撓性を有する前記被覆電線を複数まとめて外周にテープを巻き回して束ねるテープ巻きによる固定方法よりも、安定した品質で束ねた前記被覆電線同士を固定し、効率よくワイヤーハーネスを製造することができる。
【0023】
また、本発明は、上述のように、複数の被覆電線同士を接着することで複数の被覆電線を束ねた状態で固定する作業を安定した品質で行うことができるため、該作業の自動化にも寄与できる。
【0024】
またこの発明の態様として、複数の前記被覆電線のうち一部の前記被覆電線を束ね、前記接着固定部が形成された細電線束を複数形成し、複数の前記細電線束を束ね、前記接着固定部を形成してもよい。
【0025】
この発明により、安定した品質のワイヤーハーネスをさらに効率よく製造することができる。
詳述すると、電線束より本数の少ない前記被覆電線を束ねた細電線束は電線束より取り扱いやすく、容易に前記接着固定部を形成することができる。そして、細電線束同士を束ねて前記接着固定部で固定するため、より効率よく、高品質の前記ワイヤーハーネスを構成することができる。
【0026】
また、幹線において、分岐する枝線を構成する前記被覆電線だけで細電線束を構成する場合、分岐後の枝線部分が細電線束として束ねられているため、前記被覆電線の取り扱いを間違えることなく、より品質の高い前記ワイヤーハーネスを構成することができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、製造効率が高く、安定した品質のワイヤーハーネス及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態のワイヤーハーネスの分岐部周辺の外観図
図2】(a)は図1のA-A線断面図、(b)は図2(a)の領域Z1の拡大図
図3】(a)は図1のB-B線断面図、(b)は図3(a)の領域Z2の拡大図
図4】(a)は図1のC-C線断面図、(b)は図1のD-D線断面図
図5】(a)は第1電線群の加圧直前の様子を図4(a)に対応して示す断面図、(b)は同じく加圧中の様子を示す断面図、(c)は第2電線群の加圧直前の様子を図4(b)に対応して示す断面図、(d)は同じく加圧中の様子を示す断面図
図6】(a)はハーネス接着工程の様子を図5(a)に対応して示す断面図、(b)はハーネス接着工程の様子を図5(b)に対応して示す断面図
図7】本実施形態のワイヤーハーネスの他の分岐部周辺の外観図
図8】(a)は変形例1のワイヤーハーネスを図2(a)に対応して示す断面図、(b)は同じく図2(b)に対応して示す断面図
図9】(a)は変形例1のワイヤーハーネスの製造過程において第2電線群の加圧前の状態を示す断面図、(b)は同じくコーティング層を溶融した状態を示す断面図、(c)は同じく接着層同士を接着した状態を示す断面図
図10】(a)は変形例2のワイヤーハーネスの製造過程において第1電線群に接着固定部を形成する様子を示す外観図、(b)は(a)の図1のE-E線断面図、(c)は同じく第2電線群に接着固定部を形成する様子を示す外観図、(d)は同じく電線群にハーネス接着固定部を形成する様子を示す外観図
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。なお、図中、矢印Xはワイヤーハーネス1の幅方向、矢印Yはワイヤーハーネス1の長手方向、矢印Zはワイヤーハーネス1の上下方向を夫々示すものとする。さらに、図中、矢印Xaは幅方向一方側、矢印Xbは幅方向他方側、矢印Yaは長手方向一方側、矢印Ybは長手方向他方側、矢印Zaは上方向、矢印Zbは下方向を夫々示すものとする。
【0030】
本実施形態のワイヤーハーネス1は、自動車等の車両に組み込まれ、長手方向Yの各端部が車両に搭載された各種電気機器や電源(バッテリ)などの車載機器にコネクタ(図示省略)を介して電気的に接続され、車両における所定の配索経路に沿って配索される。
【0031】
さらに、図1に示すように、ワイヤーハーネス1は、幹線としてのメインハーネス2と、メインハーネス2から分岐するとともにメインハーネス2より細径である枝線としてのサブハーネス3とを有している。メインハーネス2とサブハーネス3は、何れも複数本の電線10を有している。
【0032】
ワイヤーハーネス1は、メインハーネス2からサブハーネス3が分岐する分岐部4において、メインハーネス2からサブハーネス3が長手方向他方側Ybかつ上方向Zaへと分岐することで略Y字を成している。
但し、分岐部4はY字状に限らず、T字状或いは、例えば十字状、X字状等の交差形状で形成してもよく、また三股以上に分岐する形状に形成されてもよい。
【0033】
換言すると、ワイヤーハーネス1は、第1電線群20Aと第2電線群20Bとで構成される。第1電線群20Aは、メインハーネス2を構成するように分岐部4を含めて長手方向Yに沿って連続して延びる複数(当例では19本)の電線10で構成している。第2電線群20Bは、分岐部4に対して長手方向一方側Yaにおいてメインハーネス2の一部を構成するとともに、長手方向他方側Ybにおいてサブハーネス3を構成し、分岐部4を含めて長手方向Yに沿って連続して延びる複数(当例では7本)の電線10で構成している。
【0034】
すなわち、ワイヤーハーネス1における、分岐部4に対して長手方向一方側Yaにおいては、第1電線群20Aと第2電線群20Bとが一体に配索されることで、メインハーネス2を構成している。さらに、ワイヤーハーネス1における、分岐部4に対して長手方向他方側Ybにおいては、第1電線群20Aと第2電線群20Bとで二股になるように分岐することにより、第1電線群20Aがメインハーネス2を構成する一方で第2電線群20Bがサブハーネス3を構成している。
なお、ワイヤーハーネス1を構成する複数の電線10のうち、第1電線群20Aを構成する電線10を第1電線10Aとするとともに、第2電線群20Bを構成する電線10を第2電線10Bとする。
【0035】
図2(a)(b)に示すように、電線10は、導体5と、導体5の外周全体を覆う絶縁被覆6と、絶縁被覆6の外周全体を覆う接着層7を備えている。
導体5は、少なくとも1本の素線から成る芯線によって形成されている。素線は、アルミニウム、銅、又はこれらの合金等の導電材料によって形成されている。絶縁被覆6は、樹脂等の絶縁性を有する絶縁材料によって形成されている。
【0036】
接着層7は、絶縁被覆6の表面に公知の感圧接着剤が該絶縁被覆6よりも薄肉に塗布された感圧接着層である。感圧接着剤は、例えば、ポリウレタン、アクリル、非架橋ゴム接着剤等で形成され、圧力を付与することで流動性(粘度)が高まり、高い接着力を発揮することができる。
なお、電線10は、延伸方向の直交断面において導体5、絶縁被覆6および接着層7が互いに同心円状になるように形成されている。
【0037】
図1に示すように、ワイヤーハーネス1は、複数の電線10が互いに接着された接着固定部30が、長手方向Yにおいて所定間隔ごとに複数設けられている。
具体的には、ワイヤーハーネス1の長手方向Yにおける接着固定部30以外の部位においては、図2(a)(b)に示すように、複数の電線10の夫々が同一方向に沿って一まとめに配索されているが、隣接する電線10同士が互いに接着しない状態で配索されている。
【0038】
一方、ワイヤーハーネス1の長手方向Yにおける所定箇所に形成された接着固定部30においては、図3(a)(b)、図4(a)(b)に示すように、複数の電線10のうち、隣接する電線10の絶縁被覆6同士が夫々の電線10の接着層7を介して互いに接着されている。これにより、ワイヤーハーネス1を構成する複数の電線10は、接着固定部30において一体に束ねられている。
【0039】
接着固定部30は、ワイヤーハーネス1の長手方向Yの接着固定部30以外の部位、すなわち他の部位より剛性が高く形成されている。
具体的には、接着固定部30は、他の部位より曲げ剛性が高くなるように形成されているため、接着固定部30の形状を維持しやすくなる。
【0040】
さらに、接着固定部30は、例えば、樹脂製の固定テープを巻き回して固定した固定部分と同等以上の剥離強度を有している。これにより、接着固定部30は、複数の電線10における、互いに接着された接着層7が長手方向Yに沿って裂けるなどして意に反して分離しないように複数の電線10を一体に束ねた状態に保つことができる。
【0041】
本実施形態においては、図1に示すように、剛性の高い接着固定部30がワイヤーハーネス1の長手方向Yにおける、少なくとも分岐部4に設けられている。このため、Y字形状の分岐部4が形崩れしたり、分岐部4における、メインハーネス2とサブハーネス3とが二股状に分岐する股部分4aが不用意にせん断等により拡がったりすることを抑制する。
【0042】
さらに、図1に示すように、分岐部4における股部分4aには、該股部分4aおよび、その周縁を補強する補強肉部41を備えている。
【0043】
具体的には、分岐部4における股部分4aは、分岐部4に対して長手方向他方側Ybから一方側Yaへせん断応力が入力時に、分岐部4が長手方向一方側Yaへ剥離する際の起点(剥離開始点)となり得る。
【0044】
これに対して、分岐部4の股部分4aに上述したように、補強肉部41を備えることで、補強肉部41は、分岐部4において設けられた接着固定部30の一部として、分岐部4の股部分4aにおいて、互いに離間するメインハーネス2側とサブハーネス3側とで対向する電線10同士を連結する接着層7(感圧接着剤)によって形成されている。
【0045】
ここで、第1電線群20Aに設けられた接着固定部30を第1接着固定部30Aとし、第2電線群20Bに設けられた接着固定部30を第2接着固定部30Bとし、第1電線群20Aと第2電線群20Bとを接着固定する接着固定部30をハーネス接着固定部30Cとする。
【0046】
続いて、本実施形態のワイヤーハーネス1の製造方法の一例について説明する。
本実施形態のワイヤーハーネス1の製造方法は、第1電線群20Aを構成する複数の第1電線10Aを接着固定部30において接着する第1接着工程と、第2電線群20Bを構成する複数の第2電線10Bを接着固定部30において接着する第2接着工程と、第1電線群20Aと第2電線群20Bとを接着固定部30において接着するハーネス接着工程とをこの順で行う。
【0047】
第1接着工程においては、準備として、予め設定した電線長となるように各電線10を切断することで第1電線群20Aを構成する複数の第1電線10Aを作成し、これら第1電線10Aを電線配索盤の上で所定の配索経路に沿って布線する。
【0048】
さらに、第1接着工程においては、布線された複数の第1電線10A、すなわち第1電線群20Aを長手方向Yの所定箇所ごとに加圧することにより接着する。これにより、図1に示すように、長手方向Yの所定箇所ごとに第1接着固定部30Aが形成された第1電線群20Aを得ることができる。
【0049】
本実施形態の第1接着工程においては、図5(a)(b)に示すように、第1電線群20Aの加圧による接着を、電線加圧装置90を用いて行う。
電線加圧装置90は、第1電線群20Aを加圧する加圧ユニット91を備えている。本実施形態において、加圧ユニット91は、X方向加圧ユニット91XとZ方向加圧ユニット91Zとを備え、何れも第1電線群20Aの長手方向Yにおける、第1接着固定部30Aに相当する部位に配置される。
【0050】
X方向加圧ユニット91Xは、第1電線群20Aの周方向における、該第1電線群20Aに対してX方向の各側に、第1電線群20Aに対して近接或いは離間可能に移動する一対のX方向加圧型91Xa,91Xbを備えている。X方向加圧ユニット91Xは、第1電線群20Aに対して近接した際に、一対のX方向加圧型91Xa,91Xbが第1電線群20AをX方向の両側から挟み込むように加圧する構成としている。
【0051】
Z方向加圧ユニット91Zは、第1電線群20Aの周方向における、該第1電線群20Aに対してZ方向の各側に、第1電線群20Aに対して近接或いは離間可能に移動する一対のZ方向加圧型91Za,91Zbを備えている。Z方向加圧ユニット91Zは、第1電線群20Aに対して近接した際に、一対のZ方向加圧型91Za,91Zbが第1電線群20AをZ方向の両側から挟み込むように加圧する構成としている。
【0052】
なお、本実施形態において、加圧ユニット91は、モータによって駆動するが、駆動源はモータに限らず、エア圧や油圧等を利用する他の手段を採用してもよい。また、第1電線群20Aの加圧は、上述した電線加圧装置90のように、モータ等の駆動源を用いて自動で加圧する構成に限らず、手作業で行ってもよい。さらに、手作業の場合には、人が圧接工具を操作することで第1電線群20Aを間接的に加圧する、或いは、人が手指で第1電線群20Aを直接加圧してもよい。
【0053】
本実施形態の第1接着工程においては、上述した加圧ユニット91に備えた加圧型91Xa,91Xb,91Za,91Zbによって、第1電線群20Aの長手方向Yにおける第1接着固定部30Aに相当する部位を加圧する。
【0054】
具体的には、図5(a)中の白抜き矢印に示すように、X方向加圧ユニット91Xは、一対のX方向加圧型91Xa,91Xbが第1電線群20Aに対してX方向の各側へ離間した位置から近接するように移動するとともに、Z方向加圧ユニット91Zは、一対のZ方向加圧型91Za,91Zbが第1電線群20Aに対してZ方向の各側へ離間した位置から近接するように移動する。これにより、図5(b)に示すように、一対のX方向加圧型91Xa,91Xbによって第1電線群20AをX方向において挟み込むように加圧するとともに、一対のZ方向加圧型91Za,91Zbによって第1電線群20AをZ方向において挟み込むように加圧する。
【0055】
本実施形態の一対のX方向加圧型91Xa,91Xbと一対のZ方向加圧型91Za,91Zbは、第1電線群20Aを加圧する際、第1電線群20Aの略全周に亘って配置されるように第1電線群20Aの外周径に対応するサイズで形成されている。
【0056】
このように、一対のX方向加圧型91Xa,91Xbと一対のZ方向加圧型91Za,91Zbは、第1電線群20Aの略全周に亘って配置された状態で第1電線群20Aを同時に加圧することで、該第1電線群20Aにおける各第1電線10Aに対して略均等に圧力を作用させることができる。
【0057】
ここで、このように、X方向加圧ユニット91XとZ方向加圧ユニット91Zによって、第1電線群20Aの長手方向Yにおける第1接着固定部30Aに相当する部位が加圧されると、第1電線群20Aにおける各第1電線10Aの接着層7に圧力が付与され(作用)すると、図5(b)に示すように、長手方向Yの直交断面視で互いに隣接する第1電線10Aの絶縁被覆6同士が接着層7を介して接着される。これにより、第1電線群20Aの長手方向Yにおける第1接着固定部30Aに相当する部位は、図4(a)に示すような断面形状を有する第1接着固定部30Aが形成される。
【0058】
なお、第1電線群20Aの長手方向Yにおける第1接着固定部30Aに相当しない部位については、圧力が付与されていないため、各第1電線10Aは、接着層7同士が互いに接着されない状態に保たれる。
【0059】
さらに、一対のX方向加圧型91Xa,91Xbと一対のZ方向加圧型91Za,91Zbとは、何れも第1電線群20Aの加圧後に、第1電線群20Aに対して当接した位置から離間するように移動する。これにより、X方向加圧ユニット91XとZ方向加圧ユニット91Zによる第1電線群20Aの加圧が解除される。その際、加圧により各第1電線10Aにおける、流動性が高まっていた接着層7は迅速に固まり、瞬間的に硬化する。
【0060】
図5(c)(d)に示すように、第2接着工程については、第1接着工程と同様に、布線された複数の第2電線10Bを長手方向Yの所定箇所ごとに加圧することにより接着する。これにより、長手方向Yの所定箇所ごとに第2接着固定部30Bが形成された第2電線群20Bを得ることができる(図5(d)参照)。
【0061】
このように、第2接着工程は、第1接着工程と同じ要領で行われるため、その説明を省略する。また、第2接着工程で用いる電線加圧装置90についても、一対のX方向加圧型91Xa,91Xbと一対のZ方向加圧型91Za,91Zbが第2電線群20Bの外周径に対応するサイズで形成されている以外は、第1接着工程で用いた電線加圧装置90と同様の構成であるため、その説明を省略する。
【0062】
ハーネス接着工程については、図6(a)に示すように、電線加圧装置90に備えた加圧ユニット91によって第1電線群20Aと第2電線群20Bを加圧する。具体的には、準備として第1電線群20Aと第2電線群20Bを電線配索盤の上で互いに長手方向Yに沿って並列に配置されるように所定の配索経路に沿って布線する。
【0063】
さらに、ハーネス接着工程において、例えば、一対のZ方向加圧型91Za,91Zbによって、並列に配置された状態の第1電線群20Aと第2電線群20Bとの夫々の長手方向Yにおける、第1接着固定部30Aと第2接着固定部30Bとが一致する部位をまとめて加圧する(図6(a)(b)参照)。これにより、図3(a)(b)、図6(b)に示すように、第1電線群20Aと第2電線群20Bとの対向部分において、第1電線10Aと第2電線10Bとが接着層7を介して接着され、ハーネス接着固定部30Cが形成される。すなわち、第1電線群20Aと第2電線群20Bとが一体化されたハーネス接着固定部30Cが長手方向Yの所定箇所ごとに形成されたワイヤーハーネス1を得ることができる。
【0064】
また、本実施形態のハーネス接着固定部30Cは、図1に示すように、ワイヤーハーネス1の長手方向Yにおける、第1接着固定部30Aと第2接着固定部30Bとが形成された箇所、すなわち、分岐部4に設けられている。
【0065】
但し、ハーネス接着固定部30Cは、この構成に限らず、例えば、ワイヤーハーネス1の長手方向Yにおいて、分岐部4以外の箇所、第1接着固定部30Aと第2接着固定部30Bとのうち、いずれか一方の接着固定部(30A又は30B)が設けられた箇所、或いは、いずれの接着固定部30A,30Bが設けられていない箇所に設けてもよい。
なお、第1接着固定部30Aと第2接着固定部30Bは、ワイヤーハーネス1の長手方向Yにおいて、同じ位置であっても異なる位置に形成されていてもよい。
【0066】
上述した実施形態のワイヤーハーネス1は、図1に示すように、絶縁被覆6で導体5を被覆した被覆電線としての電線10が複数束ねられ、ワイヤーハーネス1の長手方向Yの一部に、束ねられた電線10の絶縁被覆6同士が接着層7を介して接着された接着固定部30が形成されているため、それぞれが可撓性を有する電線10を複数まとめてテープを巻き回して固定するテープ巻きによる固定方法よりも、安定した品質で束ねた電線10同士を固定することができる。
【0067】
具体的には、束ねた状態の複数の電線10に対してテープ巻き作業を行う際には、複数の電線10に対してテープを巻き回す力を一定に保ちながら行うことが困難である。このため、テープ巻きの品質に、ばらつきが生じやすく、また、このような課題が従来より、テープ巻き作業を自動化するうえでの障壁となっていた。
【0068】
これに対して本実施形態においては、上述した電線加圧装置90を用いて電線10同士を加圧するだけで、複数の電線10同士を容易に接着して固定することができる。また、このように、品質にばらつきが生じることなく複数の電線10同士を安定して接着できるため、複数の電線10を束ねた状態で固定する作業の自動化を図ることも可能となる。
【0069】
また、ワイヤーハーネス1の長手方向Yにおいて、第1接着固定部30Aと第2接着固定部30Bを設ける箇所を同じ箇所とし、該箇所においてハーネス接着固定部30Cを設けても、該箇所をテープ巻きにより固定する場合のように、該箇所が、巻き回したテープによって嵩張ることがない。したがって、図1に示すように、ワイヤーハーネス1は、長手方向Yにおいてハーネス接着固定部30Cが他の部位と比して径太になることを抑制できる。
【0070】
例えば、ワイヤーハーネス1の分岐部4は、メインハーネス2とサブハーネス3とがせん断しないように、入念にテープ巻きする必要があるため、他の部位と比して特に径太になり易い。さらに、図7に示すワイヤーハーネス1’のように、メインハーネス2から3本など2本以上の複数のサブハーネス3が分岐するような分岐部4’を有する構成においては、夫々のサブハーネス3がメインハーネス2に対してせん断しないようテープ巻きする必要があるため、分岐部4’は、ワイヤーハーネス1の長手方向Yにおける他の部位と比して著しく径太になるおそれがある。
【0071】
これに対して、本実施形態においては、第1接着固定部30Aと第2接着固定部30Bとハーネス接着固定部30Cとが、何れも接着層7を介した電線10同士を接着することで固定されるため、分岐部4からのサブハーネス3の分岐数が例えば、図7に示すワイヤーハーネス1’の分岐部4’のようにサブハーネス3の分岐数が3本となる場合など分岐数が増加したり、分岐部4’の分岐形状が3次元形状となったりしても、分岐部4’が嵩張ることを極力抑制できる。
【0072】
また、図1に示すように、メインハーネス2からサブハーネス3が分岐する分岐部4は、メインハーネス2とサブハーネス3の延伸方向が異なることから、メインハーネス2とサブハーネス3との股部分4aが生じる。このため、分岐部4に対してテープを巻き付けるテープ巻き作業においては、分岐部4の股部分4aの周辺にもテープを巻き付ける必要があり、作業が複雑化する。これに対して本実施形態のワイヤーハーネス1は、接着固定部30における、絶縁被覆6同士を、接着層7を介して接着するだけで構成できるため、分岐部4であっても製造効率が低下することを防止できる。
【0073】
また、本実施形態のようなワイヤーハーネス1のように、複数の電線10同士を接着する構成においては、テープを巻き回して固定する場合よりも所望の断面形状を得ることができる。
【0074】
具体的には、複数の電線10同士を接着する構成においては、電線群20を加圧する際に、上述したように、各電線10に有する接着層7の流動性が高まる。このため、電線群20が加圧されることに伴って、電線群20を構成する複数の電線10の配置形態を加圧前の配置形態から変動させ易い。したがって、電線群20の断面形状を例えば、四角形状や、円形状等、任意の形状に変更することができる。
【0075】
また、ワイヤーハーネス1は、長手方向Yにおける他の部分より剛性が高くなるように、接着固定部30の絶縁被覆6同士を、接着層7を介して接着しているため、接着固定部30の形状を維持しやすくなる。また、本実施形態のワイヤーハーネス1のように、接着固定部30が分岐部4に形成されている場合、分岐部4の股部分4aが不用意に拡がることを防止できる。
【0076】
また、図3(a)(b)、図4(a)(b)に示すように、電線10は、絶縁被覆6の外周面を覆う接着層7が設けられているため、例えば、隣接する電線10のうち、少なくとも一方の絶縁被覆6の一部を溶融させるなどして各絶縁被覆6同士を直接接着する場合と比して絶縁被覆6の絶縁性能を低下させることがなく、電線10同士を、接着層7を介してより確実に接着することができる。
【0077】
また、図5(b)、(d)、図6(b)に示すように、接着層7は、加圧することで流動性が高まることで接着可能な状態となり、その後、迅速に硬化する感圧式接着剤で形成されている。このため、ワイヤーハーネス1の長手方向Yにおいて、電線10同士を接着したい部位のみを加圧することで当該部位における電線群20を効率よく接着することができる。
【0078】
図1に示すように、本実施形態のワイヤーハーネス1は、接着固定部30が、長手方向Yにおいて、所定間隔を隔てて複数設けられることで、例えば、全長に亘って、接着固定部30を形成する場合に比べて、束ねた状態で効率よく固定することができる。
【0079】
また、上述したワイヤーハーネス1の製造方法は、図5(a)(b)に示すように、ワイヤーハーネス1を構成する複数の電線10(電線群20)のうち、第1電線10Aを束ね、第1接着固定部30Aが設けられた第1電線群20Aを形成するとともに、図5(c)(d)に示すように、ワイヤーハーネス1を構成する複数の電線10のうち、第2電線10Bを束ね、第2接着固定部30Bが設けられた第2電線群20Bとを形成し、さらにその後、図6(a)(b)に示すように、これら第1電線群20Aと第2電線10Bを束ね、ハーネス接着固定部30Cを形成することで、安定した品質のワイヤーハーネス1を効率よく製造することができる。
【0080】
詳述すると、ワイヤーハーネス1を構成する複数の電線10(電線群20)を一度にまとめて接着固定するよりも第1電線群20Aと第2電線群20Bとに大別し、これら電線群20A,20Bごとに個別に接着固定することで、一度に扱う電線10の本数を減らせるため、夫々の電線群20A,20Bにおいて接着固定部30を容易にかつ安定して形成することができる。
【0081】
そして、その後、複数の第1電線10Aが一体化された第1電線群20Aと、複数の第2電線10Bが一体化された第2電線群20Bとをハーネス接着工程において一体化することでハーネス接着固定部30Cを容易に形成することができる。
したがって、ワイヤーハーネス1を効率よく製造することができる。
【0082】
さらに、第1電線10Aと第2電線10Bとを束ねる前に、予めサブハーネス3を構成する第1電線10Aのみを束ねて第1電線群20Aを構成するため、サブハーネス3に第1電線10A等が混在するなど第1電線10Aと第2電線10Bとの取り扱いを間違えることを抑制できる。したがって、安定した品質のワイヤーハーネス1を構成することができる。
【0083】
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施形態を得ることができる。
例えば、本発明は、本実施形態の変形例1に係る、図8(a)(b)に示すようなワイヤーハーネス1Sを採用してもよい。
以下、変形例1に係るワイヤーハーネス1Sについて説明する。但し、上述した実施形態に係るワイヤーハーネス1と同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0084】
変形例1に係るワイヤーハーネス1Sを構成する複数の電線10Sには、上述した実施形態の電線10と同様に、絶縁被覆6の外面に接着層7Sが設けられているが、変形例1の接着層7Sは、空気中の微量水分と反応して接着する公知の接着剤により形成されている。
【0085】
さらに、変形例1の電線10Sには、接着層7Sの外周面を覆うコーティング層8が最外層に設けられている。コーティング層8は、接着層7の外面を被覆する被覆層である。なお、当例におけるコーティング層8は、上述した実施形態のワイヤーハーネス1における接着層7と同様に、公知の感圧接着剤で形成されている。
【0086】
コーティング層8は、接着層7Sの表面に感圧接着剤をコーティング(塗布)することで形成される。その際、感圧接着剤は、粘着性(流動性)を有する状態、すなわち硬化していない接着可能な状態の接着層7Sに対してコーティングされる。これにより、接着層7Sが外部に露出して、つまり空気に晒されることで不用意に硬化することをコーティング層8によって防ぐことができる。
【0087】
接着層7Sおよびコーティング層8は、ワイヤーハーネス1Sの長手方向Yにおける接着固定部30のみならず、接着固定部30以外の部位も含めて長手方向Yに沿って連続して形成されている。
【0088】
ワイヤーハーネス1Sの長手方向Yにおける接着固定部30以外の部位については、図8(a)(b)に示すように、隣接する電線10S同士が互いに接着せずに単に接触した状態で配索されている。一方、ワイヤーハーネス1Sは、長手方向Yにおける接着固定部30については、隣接する電線10S同士が互いに接着した状態で配索されている(例えば、図9(c)参照)。
【0089】
以下、変形例1に係るワイヤーハーネス1Sの製造方法について説明するが、上述した実施形態のワイヤーハーネス1の製造方法と異なる部分について、サブハーネス3を構成する第2電線群20Bに対して第2接着固定部30Bを形成する手順を例にとり図9(a)(b)(c)を用いて説明する。
【0090】
サブハーネス3を構成する第2電線群20Bの長手方向Yにおける、第2接着固定部30Bに相当する箇所を、加圧ユニット91(図5(c)(d)参照)を用いて加圧すると、図9(a)に示す状態から第2電線群20Bの各第2電線10SBに有するコーティング層8の流動性が高まり、接着層7Sが外部に露出する。これにより、図9(b)に示すように、隣接する第2電線10SBにおける接着層7S同士が直接接触する。さらに、第2電線群20Bの加圧を継続すると、図9(c)に示すように、隣接する第2電線10SBにおける接着層7S同士が接着し合うことで、隣接する第2電線10SBの絶縁被覆6同士が接着層7Sを介して接着される。
【0091】
なお、第2電線群20Bの加圧を解除することで各第2電線10SBにおける、流動性が高まっていたコーティング層8および、露出した状態の接着層7Sは、瞬間的に硬化(乾燥)するため、その後は接着固定部30の表面の粘着性を抑制することができる。
【0092】
上述した変形例1のワイヤーハーネス1Sは、該ワイヤーハーネス1Sを構成する電線10Sにおける接着層7Sがコーティング層8で覆われた構成であっても、長手方向Yにおける所望の箇所における、電線10S同士を、接着層7Sを介して接着することができ、該所望の箇所に接着固定部30を効率よく形成することができる。
【0093】
一方、ワイヤーハーネス1Sを構成する電線10Sは、通常時において粘着性を有する状態で接着層7Sがコーティング層8で覆われているため、接着層7Sを介して隣接する電線10Sを含めて周辺の部材に対して不用意に接着することがない。
【0094】
このため、変形例1のワイヤーハーネス1Sは、例えば、電線10Sを電線配索盤の上で所定の配索経路に沿って布線する布線作業の際に、作業者の手指や電線10Sを支持する支持具に不用意に電線10Sの接着層7Sが接着することがないため、電線10Sの長手方向Yに沿って接着層7Sを備えながらも電線10Sの扱い易さを損なうことなく、布線作業をスムーズに行うことができる。
【0095】
また、本発明のワイヤーハーネスは、図10(d)に示す変形例2のワイヤーハーネス1Tのように、ワイヤーハーネス1Tを構成する電線10Tとして、長手方向Yの全長に亘って接着層7が形成されておらず、導体5と絶縁被覆6から成る被覆電線を適用し、被覆電線から成る複数の電線10Tが、長手方向Yの所定箇所ごとに接着固定部30によって一体化された構成としてもよい。
【0096】
このような変形例2のワイヤーハーネス1Tは、電線配索盤の上で電線群20を所定の配索経路に沿って布線する布線作業の際に、接着固定部30に相当する箇所に接着剤80を付与することで、各電線10Tを接着している。
【0097】
詳しくは、電線配索盤の上面には、ワイヤーハーネス1Tを構成する複数の電線10Tを支持する複数の支持具95(図10(d)参照)が配索経路に沿って所定間隔ごとに立設されている。支持具95の本体部96は、少なくとも接着固定部30に相当する長さを有するとともに、配索経路に沿って配索された複数の電線10Tを下方かつ側方から支持可能に、配索経路に沿った直交断面が略Uの字形状に形成されている。
【0098】
支持具95の本体部96の上方には、支持具95の本体部96に支持された電線群20に向けて接着剤80を滴下するノズル97を配置可能に備えている。ノズル97は、先端が下方、すなわち支持具95の本体部96に支持された電線群20に向けて配置されている。なお、ノズル97は、支持具95の本体部96の上面に電線群20を配置する際に干渉しないように支持具95の本体部96の直上位置に対して退避可能に備えている。
【0099】
変形例2のワイヤーハーネス1Tを製造する際においては、上述したワイヤーハーネス1の製造方法と同様に、第1接着工程と第2接着工程とハーネス接着工程とをこの順で行う。
【0100】
具体的には、図10(a)(b)に示すように、第1接着工程では、第1電線群20Aの布線作業の際に、長手方向Yにおける、接着固定部30に相当する箇所を支持具95によって支持させた状態とし、接着剤80を滴下する。滴下された接着剤80は、第1電線群20Aの外表面や電線10T間の隙間の隅々まで行きわたり、硬化する。これにより、接着層7を有しない電線10Tのみで形成された第1電線群20Aに、第1接着固定部30Aを形成することができる。
【0101】
なお、その後に行われる第2接着工程とハーネス接着工程とについても夫々図10(c)(d)に示すように、上述した第1接着工程と同様の要領で行われるため、その説明を省略する。
【0102】
変形例2のワイヤーハーネス1Tは、上述したように、接着層7を有しない被覆電線としての電線10Tのみで構成されるが、電線群20の布線作業の際に形成された接着固定部30よって複数の電線10Tを一体化することができる。
【0103】
また、本発明は、上述した実施形態の接着層7或いは変形例1のコーティング層8が感圧接着剤で形成されたが、これに限らず、加熱、加圧、加水及び光の照射のうち少なくともひとつが作用することで接着し、硬化する接着剤で形成されてもよい。
【0104】
さらにまた、本発明は、上述した変形例1の接着層7S、或いは変形例2の接着剤80が加水により接着する接着剤で形成されたが、これに限らず、加熱、加圧、及び光の照射のうち少なくともひとつが作用することで接着し、硬化する接着剤で形成されてもよい。
【0105】
また、本発明のワイヤーハーネスは、分岐部4においてメインハーネス2からサブハーネス3が分岐するが、この分岐形態は、上述した実施形態のように、第2電線群20Bが第1電線群20Aに対して分岐する形態に限らず、サブハーネス3を構成する電線群の端部を分岐部4においてメインハーネス2に対して接続した分岐形態であってもよい。
【0106】
本発明のワイヤーハーネスは、第1接着固定部30Aが形成された第1電線群20Aに対して複数本の第2電線Bが一体に束ねた状態で接着固定されるようにハーネス接着固定部30Cを形成する、第2接着固定部30Bが形成された第2電線群20Bに対して複数本の第1電線Aが一体に束ねた状態で接着固定されるようにハーネス接着固定部30Cを形成する、或いは、複数本の第2電線Bと複数本の第1電線Aとが一体に束ねた状態で接着固定されるようにハーネス接着固定部30Cを形成してもよい。
【0107】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、ワイヤーハーネスは、ワイヤーハーネス1,1’,1S,1Tに対応し、以下、同様に
幹線は、メインハーネス2に対応し、
枝線は、サブハーネス3に対応し、
分岐部は分岐部4,4’に対応し、
導体は導体5に対応し、
絶縁被覆は、絶縁被覆6に対応し、
接着層は、接着層7,7Sに対応し、
コーティング層は、コーティング層8に対応し、
被覆電線は、電線10,10T,10Sに対応し、
細電線束は、第1電線群20A又は第2電線群20Bに対応し、
接着固定部は、接着固定部30(30A,30B,30C)に対応し、
長手方向は、長手方向Yに対応する。
【符号の説明】
【0108】
1,1’,1S,1T…ワイヤーハーネス
2…メインハーネス
3…サブハーネス
4,4’…分岐部
5…導体
6…絶縁被覆
7,7S…接着層
8…コーティング層
10,10T,10S…電線
20A…第1電線群
20B…第2電線群
30(30A,30B,30C)…接着固定部
Y…長手方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10