(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150855
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】終末糖化産物受容体の阻害剤とその利用
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20231005BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/351 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/731 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/737 20060101ALI20231005BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20231005BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231005BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231005BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231005BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20231005BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20231005BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20231005BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20231005BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/192 ZNA
A61K31/05
A61K31/351
A61K31/731
A61K31/737
A61P17/18
A61P29/00
A61P25/28
A61P9/10
A61P3/10
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L29/256
A23K10/30
A23K20/163
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060176
(22)【出願日】2022-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小堀 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】倉持(熊野) みゆき
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 香子
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B041
4B117
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AA06
2B150AB10
2B150DC14
2B150DD47
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD08
4B018MD33
4B018MD67
4B018ME06
4B018ME14
4B041LC10
4B041LD01
4B041LH10
4B117LC04
4B117LK13
4B117LK22
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA07
4C086EA26
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA36
4C086ZB11
4C086ZC35
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA19
4C206DA18
4C206DA21
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA15
4C206ZA36
4C206ZB11
4C206ZC35
(57)【要約】
【課題】本開示は、終末糖化産物(AGE)の受容体(RAGE)を調節する組成物を提供する。
【解決手段】RAGEを調節する組成物は、式1の化合物またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはそれらの溶媒和物を含み得る。いくつかの実施形態において、前記化合物は、複数のフェノール性水酸基および平面構造の環を有する化合物であり得る。いくつかの実施形態において、前記化合物が、没食子酸、コーヒー酸、ピロガロール、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸、カテコール、ヒドロキシキノン、コウジ酸、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはそれらの溶媒和物であり得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
終末糖化産物(AGE)の受容体(RAGE)を調節するための組成物であって、該組成物が、以下の化合物:
式1:
【化7】
であって、式中、
R
1が、mが2以上の場合にそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、置換もしくは非置換のカルボキシル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換の炭素環式基、および/または置換もしくは非置換の複素環式基であり、R
2が、それぞれ独立に水素原子、または置換もしくは非置換のアルキル基、または他のフェノール性水酸基を有する置換基であり、
「flat structure」は、「平面上の構造」をしている少なくとも一つの環を有する骨格であり、
nが2以上の整数であり、mが0または1以上の整数であり、n+mがflat structureの置換基がない場合の水素数である、
化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはそれらの溶媒和物を含む、組成物。
【請求項2】
前記式1は、
式2:
【化8】
であり、R
1、R
2、nおよびmは請求項1と同じであり、n+mは6以下の整数である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
R2がすべて水素原子である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
R1が、水素原子、-COOH、または-CH=CH-COOHである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
nが2または3である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記化合物が、没食子酸、コーヒー酸、ピロガロール、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸、カテコール、ヒドロキシキノン、コウジ酸、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはそれらの溶媒和物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
藻類由来硫酸化多糖を含む、終末糖化産物(AGE)の受容体(RAGE)を調節するための組成物。
【請求項8】
前記藻類由来硫酸化多糖は、ガラクトース、アンヒドロガラクトース(カラギーナン)またはフコース(フコイダン)を1個もしくは2個含む構造を基本単位として含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
基本単位が二糖の場合1,3結合により重合するか、またはフコイダンの場合1,2結合で重合する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記藻類由来硫酸化多糖が、カラギーナン、フコイダン、フノラン、ポルフィラン、ウルバンあるいはそれらの改変体である、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を含む、食品中の終末糖化産物(AGE)を制限することなく該食品の摂取後のRAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症を低減するための食品添加物。
【請求項12】
請求項11に記載の食品添加物を含む食品。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を含む、食品中の終末糖化産物(AGE)を制限することなく該食品の摂取後のRAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症を低減するための食品。
【請求項14】
前記食品は、冷凍食品、乳製品、チルド食品、栄養食品、流動食、介護食、飲料、ペットフード、および動物用飼料からなる群から選択される、請求項9に記載の食品添加物、あるいは請求項12または13に記載の食品。
【請求項15】
RAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症を低減するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
RAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症に関連する疾患または障害を処置または予防するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RAGE阻害剤、RAGE阻害剤を含む組成物、食品添加物、食品、RAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症を低減する方法、RAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症に関連する疾患または障害を処置または予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康な高齢者が要介護状態に陥る三大要因である認知症、脳血管疾患、加齢による衰弱を解決することは健康寿命の延伸に欠かせない。これらは生活習慣や栄養状態と密接に関連することから、日常的に摂取する食事を通じて発生を遅延できる可能性がある。これらに共通した原因の1つとして終末糖化産物(AGEs)が知られており、タンパク質と糖が結合するメイラード反応によって生じる多様な分子群として、食品加工のみならず生体内でも生じる。AGEsは生体内で終末糖化産物受容体(RAGE)との結合を介して炎症応答を誘発することが知られており(非特許文献1)、食事として摂取したAGEsが筋萎縮を誘発するほか(非特許文献2)、AGEs量を低減させた食事によって炎症マーカーが改善するとの報告がある(非特許文献3)。そのため、低温での加熱調理によるAGEsの生成抑制や、酸性条件下での加熱によりAGEsの生成量低下を達成できることが報告されているが(非特許文献4)、加熱調理で生じるAGEsは味、香り、色などから構成される食のおいしさに直接関係するため、食品からAGEsを積極的に排除することは現実的ではない。そのため、健康寿命の延伸には、加熱調理によるおいしさを損なうことなくAGEsの影響を低減させることが必要である。
【0003】
RAGEとAGEsの相互作用の阻害できる薬剤開発は精力的に行われている(非特許文献5、特許文献1、2)ものの、食品として活用できるものはない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Homodimerization Is Essential for the Receptor for Advanced Glycation End Products (RAGE)-mediated Signal Transduction, Zong H et al, J Biol Chem 285 23137-23146 (2010).
【非特許文献2】Potential involvement of dietary advanced glycation end products in impairment of skeletal muscle growth and muscle contractile function in mice, Egawa T et al, Br J Nutr 117, 21-229 (2017)
【非特許文献3】Advanced Glycation End Products in Foods and a Practical Guide to Their Reduction in the Diet, Uribarri J et al, J Am Diet Assoc, 110(6): 911-16.e12.
【非特許文献4】Dietary AGEs and Their Role in Health and Disease CRC Press (2018)
【非特許文献5】Molecular Characteristics of RAGE and Advances in Small-Molecule Inhibitors, Kim HJ et al, Int. J. Mol. Sci. 2021, 22, 6904
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-246520号公報
【特許文献2】国際公開第2016/158810号
【特許文献3】特開2020-134368号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々の化合物について探索を行った結果、特定の構造を有する化合物が、RAGE阻害剤として機能することを見出した。これらを食事に含めて摂取することで、摂食したAGEsとRAGEとの結合を阻害することができるため、調理法を改変しておいしさを損なうことなく、体内での炎症を軽減できる効果が期待できる。
【0007】
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
終末糖化産物(AGE)の受容体(RAGE)を調節するための組成物であって、該組成物が、以下の化合物:
式1:
【0008】
【0009】
であって、式中、
R1が、mが2以上の場合にそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、置換もしくは非置換のカルボキシル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換の炭素環式基、および/または置換もしくは非置換の複素環式基であり、R2が、それぞれ独立に水素原子、または置換もしくは非置換のアルキル基、または他のフェノール性水酸基を有する置換基であり、
「flat structure」は、「平面上の構造」をしている少なくとも一つの環を有する骨格であり、
nが2以上の整数であり、mが0または1以上の整数であり、n+mがflat structureの置換基がない場合の水素数である、
化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはそれらの溶媒和物を含む、組成物。
(項目2)
前記式1は、
式2:
【0010】
【0011】
であり、R1、R2、nおよびmは上記項目と同じであり、n+mは6以下の整数である、上記項目に記載の組成物。
(項目3)
R2がすべて水素原子である、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目4)
R1が、水素原子、-COOH、または-CH=CH-COOHである、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目5)
nが2または3である、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目6)
前記化合物が、没食子酸、コーヒー酸、ピロガロール、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸、カテコール、ヒドロキシキノン、コウジ酸、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはそれらの溶媒和物である、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)
藻類由来硫酸化多糖を含む、終末糖化産物(AGE)の受容体(RAGE)を調節するための組成物。
(項目8)
前記藻類由来硫酸化多糖は、ガラクトース、アンヒドロガラクトース(カラギーナン)またはフコース(フコイダン)を1個もしくは2個含む構造を基本単位として含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)
基本単位が二糖の場合1,3結合により重合するか、またはフコイダンの場合1,2結合で重合する、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目10)
前記藻類由来硫酸化多糖が、カラギーナン、フコイダン、フノラン、ポルフィラン、ウルバンあるいはそれらの改変体である、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目11)
上記項目のいずれか一項に記載の組成物を含む、食品中の終末糖化産物(AGE)を制限することなく該食品の摂取後のRAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症を低減するための食品添加物。
(項目12)
上記項目のいずれか一項に記載の食品添加物を含む食品。
(項目13)
上記項目のいずれか一項に記載の組成物を含む、食品中の終末糖化産物(AGE)を制限することなく該食品の摂取後のRAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症を低減するための食品。
(項目14)
前記食品は、冷凍食品、乳製品、チルド食品、栄養食品、流動食、介護食、飲料、ペットフード、および動物用飼料からなる群から選択される、上記項目のいずれか一項に記載の食品添加物、あるいは上記項目のいずれか一項に記載の食品。
(項目15)
RAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症を低減するための、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目16)
RAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症に関連する疾患または障害を処置または予防するための、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
【0012】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0013】
本開示のRAGE阻害剤により、摂食したAGEsとRAGEとの結合を阻害することができるため、おいしさを損なうことなく、体内での炎症を軽減できる効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、測定例1(直接法)および測定例2(間接法)の概要を示す。直接法では、吸光度が高いほど多糖類とRAGEの結合量が多く、間接法では、吸光度が低いほど阻害効果が高いことを示す。
【
図2】
図2は、実施例1におけるカルボキシル基含有化合物のRAGE阻害活性の測定結果を示す。390nMの試験物質存在下でのsRAGEとglucose-BSAの結合を示す。吸光度が低いほど両者の結合量が少ない。縦軸は、コントロールの450nmの吸光度を1とした吸光度比を示す。
【
図3】
図3は、RAGE結合性分子とRAGE非結合性分子との構造の比較を示す。
【
図4】
図4は、酸性多糖類のRAGE阻害活性の測定結果を示す。左のグラフは、直接法の測定結果を示し、縦軸はカラギーナン-2の吸光度を1とした吸光度比を示す。0.0625μg/mL Glyceraldehyde-BSA存在下での、固相化した酸性多糖類とsRAGEとの結合を示す。吸光度比が高いほど両者の結合量が多い。右のグラフは間接法の測定結果を示し、縦軸は、酸性多糖類が含まれていない陰性対照試料の吸光度を1とした吸光度比を示す。0.5μg/mLの酸性多糖類によるRAGE-AGEs相互作用の阻害を示す。吸光度が低いほど阻害効果が高い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0016】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0017】
本明細書において、「約」とは、示される値の±10%を意味する。
【0018】
本明細書において使用される場合、用語「終末糖化産物」または「後期糖化反応生成物」(いずれも英文では、Advanced Glycation End Products)とは、AGEsともいわれ、タンパク質の糖化産物であり多様な構造体の総称である。食品の加工過程で生じ、食味向上に重要である一方、生体内でも生成し、一部は生体に機能不全を誘導し加齢性疾患の引き金となる。糖尿病患者の生活の質を損ねる元凶である血管合併症として知られる糖尿病性血管障害の発症・進展への関与も知られている。血管合併症による眼、神経、腎臓の障害は、それぞれ糖尿病網膜症、神経症、腎症(あわせて三大合併症)とよばれており、糖尿病患者に特徴的な病態である。グルコースに代表される還元糖は、タンパク質、アミノ酸のアミノ基と非酵素的に反応して、シッフ塩基またはアマドリ転位化合物などの糖化生成物を形成する。ここまでの反応は可逆的であり、前期反応とよばれている。その後、さらに縮合、開裂、架橋形成などの複雑かつ不可逆的な反応を経て、終末糖化産物を形成する。このような一連の反応は、糖化反応と称される。AGEsはまた、このような過程を経て生成された構造物の総称である。生体中に存在するAGEs構造としては、カルボキシメチルリジン(CML)、カルボキエチルリジン(CEL)、ペントシジン、ピラリン、イミダゾリン、メチルグリオキサール、クロスリンなどが挙げられるが、これに限定されない。血漿中に存在するアルブミン、イムノグロブリン、オボアルブミンなどが上記の糖化を受けた産物もAGEであり、AGEとして実験系に汎用されている。さらに、インビトロ実験系では、BSA(ウシ血清アルブミン)に糖化処理を施したもの、例えば、R-AGE(リボースにより糖化処理をしたBSA)、F-AGE(フルクトースにより処理をしたBSA);G-AGE(グルコースにより糖化処理をしたBSA)なども汎用されている。血糖コントロールの指標として用いられているヘモグロビンA1cはアマドリ転移化合物であるが、AGEsに包含される。また、任意のタンパク質も、AGEsに変換可能である。例えば、AGEsに包含されるCMLアルブミンおよびCELアルブミンは、いずれもアルブミンが糖化を受けたAGEsである。このようなAGEs生成反応は、生体内において循環血液中、細胞外マトリクス、細胞内のいずれでも起こり得る。例えば、糖尿病患者の血管に存在するAGEsとしては、:蛍光性で架橋構造を有するもの(ペントシジン、クロスリンなど)および蛍光も架橋もないもの(カルボキシメチルリジン、ピラリン、メチルグリオキサール(MG)-イミダゾロンなど)の2つに大別できる。AGEsが異常値を示す場合、細小血管症(腎症、網膜症、神経症など)、大血管障害(虚血性心疾患、脳血管疾患、閉塞性動脈硬化症のような疾患が予想される。一般に使用される検査方法では、基準物質としては、ピラリン(正常範囲:血漿中23pmol/mL未満)、ペントシジン(正常範囲:血漿中0.00915~0.0431μg/mL(ELISAで測定した場合))などが使用される(「今日の臨床検査 2007-2008」発行所 株式会社 南江堂、参照)。
【0019】
本明細書において、「刺激性の終末糖化産物」または「刺激性のAGEs(刺激性AGEs)」とは、疾患との関連性が高いAGEsを指し、sRAGEと強く結合する性質を有している。以前は、血中のグルコースによる糖化が主であると考えられていたが、グルコースによる糖化は長時間を要する上、グルコース糖化AGEsは生体への刺激性も弱いことが示唆され始めた。過剰なグルコースは、ポリオール代謝系で代謝されグリセルアルデヒド(Glycer)を生じるほか、酸化反応によりグリオキサール(GO)、グリコールアルデヒド(Glycol)などを生じるが、これらは、反応性が高く、短時間でAGEsを生成する上、その糖化産物は生体刺激性が高いことが報告されている。肝疾患(例えば、NASH)は、特にグリセルアルデヒドによる修飾を受けたタンパク質(Glycer-AGEs)と関連性が高いことが示唆されている。
【0020】
本明細書において「AGEs分子」とは、上記AGEに含まれる任意の分子をいう。例えば、AGEsとしては、Lys-AGE(グルタルアルデヒド修飾リジン修飾AGE)、グルコース修飾AGE(G-AGE)、リボース修飾AGE(R-AGE)、フルクトース修飾AGE(F-AGE)またはそれらの改変体あるいはそれらの複合体を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0021】
本明細書において「AGEs様活性を示す分子」とは、少なくとも上述のAGEsの活性(本明細書において「AGEs様活性」という。)の一つを有する分子をいう。そのようなAGEs様活性としては、RAGEに対する結合活性(リガンド活性)を挙げることができるが、それに限定されない。
【0022】
本明細書において使用される場合、用語「AGE受容体(Receptor for AGE)」とは、RAGEともいわれ、(1)配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;(2)上記配列番号7に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸の置換、付加および/または欠失を含むアミノ酸配列を含み、かつ天然型RAGEの活性を示すポリペプチド;(3)上記配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ天然型RAGEの活性を示すポリペプチド;(4)上記配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ天然型RAGEの活性を示すポリペプチド;(5)配列番号7に示される核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド;(6)上記配列番号7に示される核酸配列に対して相補的な核酸配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を含み、かつ天然型RAGEの活性を示すポリペプチド;(7)上記配列番号7に示される核酸配列において1または数個のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有する核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を含み、かつ天然型RAGEの活性を示すポリペプチド;(8)上記配列番号7に示される核酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を含み、かつ天然型RAGEの活性を示すポリペプチド;および(9)上記配列番号7に示される核酸配列と少なくとも80%の配列相同性を有する核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を含み、かつ天然型RAGEの活性を示すポリペプチド、のうちの1つである。上記の同一性または相同性は、配列分析用ツールであるBLAST(NCBIのBLAST 2.9(2019.3.11 発行))を用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。ストリンジェントな条件は配列に依存して変化し、このような条件の決定は、当業者の技術範囲内である。RAGEはまた、1992年に、ウシ肺から同定され、AGEと結合するイムノグロブリンスーパーファミリーに属する、分子量約35kDaのI型膜タンパク質(糖鎖修飾を受けた完全なRAGEは、分子量55kDa)である。RAGEsの細胞外ドメインは、1つのV型イムノグロブリンドメイン、続いて、2つのC型イムノグロブリンドメイン(C1領域およびC2領域)の、3つのイムノグロブリンフォールド構造を取るドメインが結合した構造を取っている。RAGEはまた、細胞膜1回貫通型のドメインおよび43アミノ酸の細胞質ドメインを含む。RAGEは、多様なクラスのリガンド(AGEs、S100/カルグラニュリン、アンフォテリンおよびアミロイド-βペプチド)と相互作用する。Vドメインは、リガンド結合に必須の部位であり、細胞質ドメインは、RAGE媒介性細胞内シグナル伝達に必須である。RAGEはまた、各ドメイン内でジスルフィド結合を有するので、本開示の変異RAGE-界面活性剤複合体は、配列番号3のアミノ酸配列における38位、99位、144位、208位、259位および301位に対応するシステイン残基を保持していることが好ましい。RAGEは、正常組織および血管系においては低レベルでしか発現されない。しかし、この受容体は、そのリガンドが蓄積した場所においてアップレギュレートされる。RAGEの発現は、糖尿病血管系において内皮細胞、平滑筋細胞、周皮細胞、腎メサンギウム細胞および浸潤性単核食細胞で増加している。また、AGEsが蓄積している動脈硬化巣のような病的部位においても、RAGEの発現が増加している。AGEs-RAGE相互作用は、血管系ホメオスタシスにおいて重要な細胞の特性を変化させる。例えば、RAGEがAGEsと結合した後、血管内皮細胞は、VCAM-1、組織因子、およびIL-6の発現、ならびに高分子へのそれらの透過性を増加させる。単核食細胞において、RAGEは、サイトカインおよび増殖因子の発現を活性化し、可溶性AGEsに応じて細胞移動を誘導するのに対して、走触性は、固定リガンドで起こる。
【0023】
本明細書では、「RAGEリガンド認識領域」または「sRAGE(soluble Receptor for Advanced Glycation End products)」とは、交換可能に使用され、RAGEリガンドが認識する領域をいう。詳細には、sRAGEすなわちRAGEリガンド認識領域は、RAGEの細胞外領域の全部または一部をいう。sRAGEは、代表的には、配列番号3または配列番号8の22~332位で構成されるがこれに限定されない。
【0024】
本明細書において使用される場合、用語「RAGE様ポリペプチド」とは、「RAGE8」、「mRAGE8」、「RAGE1」、「mRAGE1」、「RAGE2」、「mRAGE2」、「RAGE3」、「mRAGE3」、「RAGE4」、「mRAGE4」、「RAGE7」、「mRAGE7」、「RAGE143」、「mRAGE143」、「RAGE223」、「mRAGE223」、「RAGE226」および「mRAGE226」と称されるポリペプチドまたはこれらの変異体を包含する。これらの説明は、特開2013-209330等に開示されており、適宜本明細書において参考としてその内容を援用する。
【0025】
本明細書において使用される場合、用語「RAGE分子」とは、RAGE様ポリペプチドの他、それらの任意の複合体を含むことが理解される。したがって、RAGE分子には、RAGE様ポリペプチド等、例えば、RAGE(全長)、RAGE細胞外領域(配列番号8の22-332位)、RAGE143、RAGE223、RAGE226等が包含されることが理解される。また、RAGE分子は、RAGEを構成する3つのドメインのうちあるドメイン全体、またはあるドメインの一部を欠いたRAGE(ミニRAGE)も包含される。また、ミニRAGEは、RAGE様ポリペプチドのミニRAGEも包含する。
【0026】
本明細書では、「RAGEリガンド認識領域」を含む分子は、「RAGE分子」のうち全長RAGE以外のもの(「RAGE様ポリペプチド」を含む)、例えば、「RAGE8」、「mRAGE8」、「RAGE1」、「mRAGE1」、「RAGE2」、「mRAGE2」、「RAGE3」、「mRAGE3」、「RAGE4」、「mRAGE4」、「RAGE7」、「mRAGE7」、「RAGE143」、「mRAGE143」、「RAGE223」、「mRAGE223」、「RAGE226」および「mRAGE226」、RAGE細胞外領域(配列番号8の22-332位)、などを挙げることができる。
【0027】
なお、上記RAGE様ポリペプチドは、天然型RAGEの活性が保持されている限り、非天然アミノ酸を含んでいてもよいし、アミノ酸アナログ、アミノ酸誘導体などを含んでいてもよい。
【0028】
上記のRAGE様ポリペプチドにおいても、分子内ジスルフィド結合を形成することは重要であるので、配列番号8のアミノ酸配列の38位、99位、144位、208位、259位および301位に対応するシステインは保持されていることが好ましい。
【0029】
本明細書において、「アルキル基」とは、脂肪族飽和炭化水素から水素原子1個を取り除いた直鎖または分岐鎖の炭化水素基を指す。
【0030】
本明細書において、「アルケニル基」とは、1つ以上の炭素-炭素二重結合を有する不飽和の直鎖または分岐鎖の炭化水素基を指す。
【0031】
本明細書において、「アルキニル基」とは、1つ以上の炭素-炭素三重結合を有する不飽和の直鎖または分枝鎖の炭化水素基を指す。
【0032】
本明細書において、「カルボキシル基」とは、カルボン酸の官能基であり、-COOHの構造を有する官能基を指す。
【0033】
本明細書において、「炭素環式基」とは、環原子として炭素原子のみを有する環構造を有する官能基を指す。
【0034】
本明細書において、「アリール基」とは、芳香族炭化水素基を指す。
【0035】
本明細書において、「複素環式基」とは、環原子として少なくとも2種類の異なる元素を含む環構造を有する官能基を指す。
【0036】
本明細書において、「フェノール性水酸基」とは、芳香族化合物の環に結合した水酸基を指す。
【0037】
本明細書において、「flat structure」または「平面上の構造」とは、環式化合物の環原子がすべて同一平面上に存在する構造を指す。代表的には、flat structureは、sp2混成軌道の原子が環状に並んでいる分子であるといえ、概ね芳香族性分子が該当する。二重結合のπ結合では,結合する二原子のsp2混成軌道平面が一致したときに、p軌道の重なりが最大になり,最も結合が安定化するので、重結合をもつ分子には平面性がある。単結合と二重結合が交互に現れる共役系では二重結合が描かれないC-C単結合ができるが、この原子間でもp軌道が平行に並んだ構造のπ結合ができている。核酸塩基は、sp2混成軌道の原子であり,環状π共役系は保存されているため、flat structureといえる。
【0038】
本明細書において、「ヘテロ元素」とは、分子構造中に含まれる炭素および水素以外の原子を指す。
【0039】
本明細書において、「薬学的に許容され得る塩」とは、投与される化合物の薬学的に許容され得る有機塩もしくは無機塩を指す。「薬学的に許容され得る」とは、動物、より具体的にはヒトに医薬として投与可能であることを指す。例示的な塩には、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸リン酸塩、イソニコチン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、酸クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、糖酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、pトルエンスルホン酸塩、及びパモ酸塩(即ち、1,1’メチレンビス-(2ヒドロキシ3ナフトエート))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
本明細書において、「溶媒和物」とは、溶質および溶媒によって形成される化合物である。例えば、溶媒が水である場合は、形成される溶媒和物は水和物である。
【0041】
本明細書において、「RAGEを介した酸化ストレス」とは、AGEsがRAGEによって認識された後、NADPHオキシダーゼが活性化し、惹起される細胞内の酸化ストレスを指す。本明細書において、「RAGEを介した炎症」とは、AGEsがRAGEによって認識された後、サイトカインが発現し、惹起される細胞内の炎症を指す。RAGEを介した酸化ストレスおよび炎症は、臓器や組織に障害を引き起こし、種々の疾患と関連する。
【0042】
本明細書において、「藻類由来硫酸化多糖」とは、海藻から抽出される硫酸化多糖、または海藻から抽出される硫酸化多糖と同一の構造を有する硫酸化多糖を化学的に合成したものを指す。藻類由来硫酸化多糖は代表的に、ガラクトース、アンヒドロガラクトース(カラギーナン)またはフコース(フコイダン)を1個もしくは2個含む構造を基本単位として含む多糖であり得、代表的に、基本単位が二糖の場合1,3結合により重合するか、またはフコイダンの場合1,2結合で重合し、例えば、カラギーナン、フコイダン、フノラン、ポルフィラン、ウルバンあるいはそれらの改変体であり得る。
【0043】
本明細書において、「硫酸化多糖」とは、硫酸基(-OSO3)を有する多糖を指す。
【0044】
本明細書において、「食品添加物」とは、保存料、甘味料、着色料、香料など、食品の製造過程または食品の加工・保存の目的で使用されるものを指す。
【0045】
本明細書において、「食品」とは、栄養素を1種以上含む天然物及びその加工品をいい、あらゆる飲食物を含み、例えば弁当の形態やレストランや給食として提供される一式の食事形態を含む。「食品」は、ヒト以外の哺乳動物を対象として使用される場合には、飼料を含む意味で用いることができる。食品としては、例えば、冷凍食品、乳製品、チルド食品、栄養食品、流動食、介護食、飲料、ペットフード、および動物用飼料などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
本明細書において、「医薬組成物」とは、医薬組成物は、有効成分と薬学的に許容される1以上の担体とを含む、任意の疾患または障害を処置または予防するための組成物を指し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造されるものである。
【0047】
本明細書において「被験体(者)」とは、本開示の組成物の治療等の対象となる対象(例えば、ヒト等の生物または生物から取り出した細胞、血液、血清等)をいう。
【0048】
本明細書において「担体」とは、薬剤(本開示の化合物または藻類由来硫酸化多糖等)と一緒に投与する、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。このような担体は、無菌液体、例えば水および油であることも可能であり、石油、動物、植物または合成起源のものが含まれ、限定されるわけではないが、ピーナツ油、ダイズ油、ミネラルオイル、ゴマ油等が含まれる。
【0049】
本明細書において、「処置」とは、ある疾患または障害について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、進行を遅延、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消退させることをいい、患者の疾患、もしくは疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果を発揮しうることを含む。
【0050】
本明細書において、「予防」とは、ある疾患または障害について、そのような状態になる前に、そのような状態にならないようにすることをいう。
【0051】
(好ましい実施形態)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本開示の例示であり、本開示の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本開示の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせ得る。
【0052】
(RAGE調節組成物)
一態様において、本開示は、終末糖化産物(AGE)の受容体(RAGE)を調節するための組成物であって、該組成物が、以下の化合物:
式1:
【0053】
【0054】
であって、式中、
R1が、mが2以上の場合にそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、置換もしくは非置換のカルボキシル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換の炭素環式基、および/または置換もしくは非置換の複素環式基であり、
R2が、それぞれ独立に水素原子、または置換もしくは非置換のアルキル基、または他のフェノール性水酸基を有する置換基であり、
「flat structure」は、「平面上の構造」をしている少なくとも一つの環を有する骨格であり、
nが2以上の整数であり、mが0または1以上の整数であり、n+mがflat structureの置換基がない場合の水素数以下の整数である、
化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはそれらの溶媒和物を含む、組成物を提供する。
【0055】
いくつかの実施形態において、RAGEの調節は、化合物がRAGEに結合して、RAGEを介したシグナル伝達を阻害することを包含する。
【0056】
いくつかの実施形態において、ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素から選択され得る。
【0057】
いくつかの実施形態において、アルキル基は、炭素数1~20個のアルキル基(C1-20アルキル基)、C1-10アルキル基、C1-6アルキル基、C1-5アルキル基、C1-4アルキル基、またはC1-3アルキル基であり得る。別の実施形態において、アルキル基は、低級アルキル基(C1-5アルキル基)であり得る。アルキル基として、例えば、メチル(Me、-CH3)、エチル(Et、-CH2CH3)、1-プロピル(n-Pr、n-プロピル、-CH2CH2CH3)、2-プロピル(i-Pr、i-プロピル、-CH(CH3)2)、1-ブチル(n-Bu、n-ブチル、-CH2CH2CH2CH3)、2-メチル-1-プロピル(i-Bu、i-ブチル、-CH2CH(CH3)2)、2-ブチル(s-Bu、s-ブチル、-CH(CH3)CH2CH3)、2-メチル-2-プロピル(t-Bu、t-ブチル、-C(CH3)3)、1-ペンチル(n-ペンチル、-CH2CH2CH2CH2CH3)、2-ペンチル(-CH(CH3)CH2CH2CH3)、3-ペンチル(-CH(CH2CH3)2)、2-メチル-2-ブチル(-C(CH3)2CH2CH3)、3-メチル-2-ブチル(-CH(CH3)CH(CH3)2)、3-メチル-1-ブチル(-CH2CH2CH(CH3)2)、2-メチル-1-ブチル(-CH2CH(CH3)CH2CH3)、1-ヘキシル(-CH2CH2CH2CH2CH2CH3)、2-ヘキシル(-CH(CH3)CH2CH2CH2CH3)、3-ヘキシル(-CH(CH2CH3)(CH2CH2CH3))、2-メチル-2-ペンチル(-C(CH3)2CH2CH2CH3)、3-メチル-2-ペンチル(-CH(CH3)CH(CH3)CH2CH3)、4-メチル-2-ペンチル(-CH(CH3)CH2CH(CH3)2)、3-メチル-3-ペンチル(-C(CH3)(CH2CH3)2)、2-メチル-3-ペンチル(-CH(CH2CH3)CH(CH3)2)、2,3-ジメチル-2-ブチル(-C(CH3)2CH(CH3)2)、3,3-ジメチル-2-ブチル(-CH(CH3)C(CH3)3)が挙げられるが、これらに限定されない。アルキル基は、典型的には、メチル、エチル、1-プロピル、および2-プロピルから選択され得る。
【0058】
いくつかの実施形態において、アルケニル基は、炭素数1~20個のアルケニル基(C1-20アルケニル基)、C1-10アルケニル基、C1-6アルケニル基、C1-5アルケニル基、C1-4アルケニル基、またはC1-3アルケニル基であり得る。アルケニル基としては、例えば、エテニル(-CH=CH2)、1-プロプ-1-エニル(-CH=CHCH3)、1-プロプ-2-エニル(-CH2CH=CH2)、2-プロプ-1-エニル(-C(=CH2)(CH3))、1-ブト-1-エニル(-CH=CHCH2CH3)、1-ブト-2-エニル(-CH2CH=CHCH3)、1-ブト-3-エニル(-CH2CH2CH=CH2)、2-メチル-1-プロプ-1-エニル(-CH=C(CH3)2)、2-メチル-1-プロプ-2-エニル(-CH2C(=CH2)(CH3))、2-ブト-1-エニル(-C(=CH2)CH2CH3)、2-ブト-2-エニル(-C(CH3)=CHCH3)、2-ブト-3-エニル(-CH(CH3)CH=CH2)、1-ペント-1-エニル(-C=CHCH2CH2CH3)、1-ペント-2-エニル(-CHCH=CHCH2CH3)、1-ペント-3-エニル(-CHCH2CH=CHCH3)、1-ペント-4-エニル(-CHCH2CH2CH=CH2)、2-ペント-1-エニル(-C(=CH2)CH2CH2CH3)、2-ペント-2-エニル(-C(CH3)=CH2CH2CH3)、2-ペント-3-エニル(-CH(CH3)CH=CHCH3)、2-ペント-4-エニル(-CH(CH3)CH2CH=CH2)または3-メチル-1-ブト-2-エニル(-CH2CH=C(CH3)2)が挙げられるが、これらに限定されない。典型的には、アルケニル基は2個、3個または4個の炭素原子のアルケニル基である。
【0059】
いくつかの実施形態において、アルキニル基は、炭素数1~20個のアルキニル基(C1-20アルキニル基)、C1-10アルキニル基、C1-6アルキニル基、C1-5アルキニル基、C1-4アルキニル基、またはC1-3アルキニル基であり得る。アルキニル基としては、例えば、エチニル(-C≡CH)、1-プロプ-1-イニル(-C≡CCH3)、1-プロプ-2-イニル(-CH2C≡CH)、1-ブト-1-イニル(-C≡CCH2CH3)、1-ブト-2-イニル(-CH2C≡CCH3)、1-ブト-3-イニル(-CH2CH2C≡CH)、2-ブト-3-イニル(CH(CH3)C≡CH)、1-ペント-1-イニル(-C≡CCH2CH2CH3)、1-ペント-2-イニル(-CH2C≡CCH2CH3)、1-ペント-3-イニル(-CH2CH2C≡CCH3)および1-ペント-4-イニル(-CH2CH2CH2C≡CH)が挙げられるが、これらに限定されない。典型的には、アルキニル基は、2個、3個または4個の炭素原子のアルキニル基である。
【0060】
いくつかの実施形態において、アリール基は、炭素数5~20個のアリール基(C5-20アルキニル基)、C5-10アリール基、またはC5-6アリール基であり得る。アリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、トリル、エチルフェニル、ビフェニルが挙げられるが、これらに限定されない。アリール基は、典型的にはフェニルである。
【0061】
いくつかの実施形態において、炭素環式基は、炭素数3~20個の炭素環式基(C3-20炭素環式基)、C3-10炭素環式基、C3-6炭素環式基、C3-5炭素環式基、またはC3-4炭素環式基であり得る。アリール基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アダマンチル、シクロオクチル、[3.3.0]ビシクロオクタン、[4.3.0]ビシクロノナン、[4.4.0]ビシクロデカン(デカリン)、[2.2.2]ビシクロオクタン、フルオレニル、フェニル、ナフチル、インダニル、アダマンチル、およびテトラヒドロナフチル(テトラリン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
いくつかの実施形態において、複素環式基は、5~7員環を有し、かつN、OおよびSからなる群から選択される1~4個のヘテロ原子を有する単環式;2個の環中に全部で7~12個の原子を有する二環式(ここで、二環式構造を含む、少なくとも2個の環のうち少なくとも1個が、N、OおよびSから選択される1~4個のヘテロ原子を有する);ならびに3個の環中に全部で10~16個の原子を有する3環複素環式(ここで、3個の環のうち少なくとも1個が、N、OおよびSからなる群から選択される1~4個のヘテロ原子を有する)からなる群から選択される。複素環式基としては、アクリジニル、アゾシニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフラニル、ベンゾチオフェニル、ベンズオキサゾリル、ベンズトリアゾリル、ベンズテトラゾリル、ベンズイソキサゾリル、ベンズイソチオチアゾリル、ベンズイミダゾリニル、カルバゾリル、4aH-カルバゾリル、カルボリニル、クロマニル、シノリニル、デカヒドロキノリニル、2H,6H-1,5,2-ジチアジニル、ジヒドロフロ[2,3-b]テトラヒドロフラン、フラニル、フラザニル、イミダゾリジニル、イミダゾリル、1H-インダゾリル、インドリニル、インドリジニル、インドリニル、3H-インドリル、イソベンゾフラニル、イソクロマニル、イソインダゾリル、イソインドリニル、イソインドリル、イソキノリニル(ベンズイミダゾリル)、イソチアゾリル、イソキサゾリル、モルホリニル、ナフチリジン、オクタヒドロイソキノリニル、オキサジアゾリニル、オキサジアゾリニル、1,2,3-オキサジアゾリニル、1,2,3-オキサジアゾニル、1,2,4-オキサジアゾニル、1,2,5-オキサジアゾニル、1,3,4-オキサジアゾリル、オキサゾリジニル、オキサゾリル、オキサゾリジニル、ピリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、フェナンジニル、フェノチアジニル、フェノオキサチニル、フェノキサジニル、フタラジニル、ピペラジニル、ピペリジニル、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピロアゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリドオキサゾール(pryidooxazole)、ピリドイミダゾール、ピリドチアゾール、ピリジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル、ピロリニル、2H-ピロリル、ピロリル、キナゾリニル、キノリニル、4H-キノリジニル、キノキサリニル、キヌクリジニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロイソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、6H-1,2,5-チアダジニル、1,2,3-チアジアゾリル、1,2,4-チアジアゾリル、1,2,5-チアジアゾリル、1,3,4-チアジアゾリル、チアントレニル、チアゾリル、チエニル、チエノチアゾリル、チエノオキサゾリル、チエノイミダゾリル、チオフェニル、トリアジニル、1,2,3-トリアゾリル、1,2,4-トリアゾリル、1,2,5-トリアゾリル、1,3,4-トリアゾリルおよびキサンテニルが挙げられるが、これらに限定されない。典型的には、複素環式基は、ピリジニル、フラニル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、ピロリジニル、イミダゾリル、インドリル、ベンズイミダゾリル、1H-インダゾリル、オキサゾリニル、またはイサチノイルであり得る。
【0063】
いくつかの実施形態において、前記式1は、
式2:
【0064】
【0065】
であり、式中、
R1が、それぞれ独立に、存在しないか、あるいは水素原子、ハロゲン、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、置換もしくは非置換のカルボキシル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換の炭素環式基、および/または置換もしくは非置換の複素環式基であり、
R2が、それぞれ独立に水素原子、または置換もしくは非置換のアルキル基、または他のフェノール性水酸基を有する置換基であり、
n+mは6以下の整数であり得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、R2がすべて水素原子であり得る。いくつかの実施形態において、本開示の化合物は、フェノール性水酸基が2~4個、好ましくは、2~3個有し得る。
【0067】
いくつかの実施形態において、R1が、水素原子、-COOH、または-CH=CH-COOHであり得る。
【0068】
いくつかの実施形態において、nが2~4、好ましくはnが2または3であり得る。
【0069】
いくつかの実施形態において、本開示の化合物は、没食子酸、コーヒー酸、ピロガロール、ジヒドロキシ安息香酸、2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸、カテコール、ヒドロキシキノン、コウジ酸、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはそれらの溶媒和物であり得る。
【0070】
特定の実施形態において、本開示の化合物の溶媒和物は水和物であり得る。例えば、本開示の水和物としては、没食子酸水和物(例えば、没食子酸一水和物)または2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸一水和物が挙げられる。
【0071】
特定の実施形態において、本開示の化合物は、没食子酸、コーヒー酸、ピロガロール、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはそれらの溶媒和物であり得る。
【0072】
別の態様において、本開示は、藻類由来硫酸化多糖、例えば、カラギーナン、フコイダン、フノラン、ポルフィラン、ウルバンなどの多糖類あるいはそれらの改変体を含む、終末糖化産物(AGE)の受容体(RAGE)を調節するための組成物を提供する。
【0073】
藻類由来硫酸化多糖は、ガラクトースを1個ないし2個含む構造を基本単位とし、カルボキシル基やアミノ基による置換はない。一方、ガラクトース内の3位と6位の水酸基が脱水して生成したアンヒドロガラクトース(カラギーナン)や6位のヒドロキシ基の1つが還元されて水素に置換したフコース(フコイダン)も基本単位を構成する。また、フコイダン以外の藻類由来硫酸化多糖は、基本単位の二糖が1,3結合により重合して多糖となるほか、フコイダンは基本単位が単糖であり、これが1,2結合により重合して多糖を形成する。藻類由来硫酸化多糖は、動物由来硫酸化多糖の基本単位に含まれるグルクロン酸、イズロン酸、グルコサミン、N-アセチルガラクトサミンを含まない。
【0074】
いくつかの実子形態において、カラギーナンは、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、またはλ-カラギーナンであり得る。
【0075】
いくつかの実子形態において、カラギーナンは、カラギーナン-1(紅藻由来κ-カラギーナン(Sigma-Aldrich カタログ番号:C1013))、カラギーナン-2(ι-カラギーナン(Sigma-Aldrich カタログ番号:C1138))、またはカラギーナン-3(Eucheuma cottonii由来κ-カラギーナン(Sigma-Aldrich カタログ番号:C1263))であり得る。
【0076】
いくつかの実施形態において、改変体は、多糖類を断片化、エタノール沈殿、化学修飾、官能基を脱離したものであり得る。特定の実施形態において、多糖類を断片化したものであり得る。断片化は、超音波または多糖類分解酵素による酵素処理により行われ得る。
【0077】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、RAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症を低減するためのものであり得る。
【0078】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、RAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症に関連する疾患または障害を処置または予防するためのものであり得る。RAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症に関連する疾患または障害としては、肝疾患(慢性脂肪肝疾患や急性脂肪肝疾患等)、非アルコール性脂肪肝(NAFL)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、アルツハイマー型認知症および/またはその関連疾患、脂質異常、動脈硬化、または糖尿病またはその合併症(糖尿病腎症、糖尿病網膜症、または糖尿病神経症)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
(医薬組成物)
別の態様において、本開示は、上記化合物またはその薬学的に許容され得る塩、あるいは上記藻類由来硫酸化多糖を含む、被験体における疾患または障害を処置または予防するための医薬組成物を提供する。
【0080】
いくつかの実施形態において、本開示の医薬組成物は、RAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症に関連する疾患または障害、例えば、肝疾患(慢性脂肪肝疾患や急性脂肪肝疾患等)、非アルコール性脂肪肝(NAFL)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、アルツハイマー型認知症および/またはその関連疾患、脂質異常、動脈硬化、糖尿病またはその合併症(糖尿病腎症、糖尿病網膜症、または糖尿病神経症)、を処置または予防し得る。
【0081】
医薬組成物は、例えば有効成分と薬学的に許容される1つもしくは複数の担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。薬学的に許容される1つもしくは複数の担体の形状は特に限定されず、例えば、固体または液体(例えば、緩衝液)であってもよい。
【0082】
医薬組成物の投与経路は、治療に際して効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、または経口投与等であってもよい。投与形態としては、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤等であってもよい。また医薬組成物は、例えば、緩衝剤(例えばリン酸塩緩衝液)、安定剤等を配合してもよい。
【0083】
いくつかの実施形態において、担体は賦形剤であり得る。適切な賦形剤には、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等が含まれる。医薬組成物は、望ましい場合、少量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝剤もまた含有することも可能である。経口配合物は、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的担体を含むことも可能である。これらのほか、医薬組成物は、例えば、界面活性剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含んでいてもよい。
【0084】
(食品添加物および食品)
別の態様において、本開示は、上記組成物を含む、食品中の終末糖化産物(AGE)を制限することなく該食品の摂取後のRAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症を低減するための食品添加物を提供する。
【0085】
さらなる態様において、本開示は、上記食品添加物を含む食品を提供する。
【0086】
さらなる態様において、本開示は、上記組成物を含む、食品中の終末糖化産物(AGE)を制限することなく該食品の摂取後のRAGEを介した酸化ストレスおよび/または炎症を低減するための食品を提供する。
【0087】
いくつかの実施形態において、食品は、冷凍食品、乳製品、チルド食品、栄養食品、流動食、介護食、飲料、ペットフード、および動物用飼料からなる群から選択され得る。
【0088】
いくつかの実施形態において、RAGEまたはsRAGEは、シグナル配列(例えば、フィブロインHシグナルペプチド)、エンテロキナーセ認識部位(例えば、DDDDK(配列番号1))、ビオチン化部位(例えばBioEaseタグ)、またはタグ配列(例えば、BioEaseタグ、Hisタグ等)を有していても、有していなくてもよい。RAGEまたはsRAGEは、には、シグナル配列を有している糖タンパク質、シグナル配列を有していない糖タンパク質の両方が含まれる。
【0089】
いくつかの実施形態では、sRAGEの核酸分子は、配列番号2に示す核酸配列もしくは配列番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%同一の核酸配列を含む。
【0090】
本開示において使用され得るsRAGEは、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有し得るが、AGEsを認識する能力を有するものである限り、配列番号3と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%同一であるアミノ酸配列を有していてもよい。いくつかの実施形態では、sRAGEは、当該分野で周知の発現系、例えば、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等により発現され得る。好ましい実施形態では、本発明のキットは、カイコ発現系を使用したカイコ型sRAGEを含み得る。カイコ発現系を用いることで、カイコ型の糖鎖修飾がされ、安定性の高いsRAGEを生成することができる。カイコ型の糖鎖修飾による安定化の他にsRAGEを安定化する方法としては、糖、グリセロール等の安定化剤を添加するなど当該分野で周知の手法を使用することができる。
【0091】
標的タンパク質、例えばsRAGEをコードする核酸配列には、ビオチン化タグ配列が含まれているため、ビオチンリガーゼを共発現させることによって、標的タンパク質がビオチン化を受ける。1つの実施形態において、ビオチンリガーゼは、BirA(配列番号10)である。ビオチン化を受けるタグ配列としては、BioEase.tag、Avi.tag、ビオチン化を受け得る任意の配列が挙げられるが、これらに限定されない。これらのカイコはビオチンの経口投与によりビオチン化sRAGEを効率的に製造することができる。また、得られたsRAGEの糖鎖構造解析により、(Man)5(GlcNAc)2を主とするオリゴマンノース型糖鎖が90%以上を占め、数%のコンプレックス型、および、ハイブリッド型の糖鎖を含むことを明らかにした。さらに糖鎖付加により安定性が向上し(1年以上安定)、ビオチンを介した方向性を維持した固定化により、多様な構造のAGEsなどの検出が可能である。
【0092】
1つの実施形態では、前記カイコ型糖鎖は、配列番号3の3位のアスパラギンおよび/または59位のアスパラギンに結合する。
【0093】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したものではない。したがって、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0094】
(製造例1:遺伝子組換えカイコによる中部絹糸腺におけるsRAGEの生産)
手短に述べると、sRAGEベクターをカイコ卵にマイクロインジェクションを行い、RAGE発現カイコを得た。さらに、中部絹糸腺で発現可能な系統と交配し、中部絹糸腺(抽出が容易で純度も高い)にsRAGEを発現する遺伝子組換えカイコを作出した。さらにビオチンリガーゼを共発現させた遺伝子組換えカイコにビオチンを含む餌を与えることによりビオチン化sRAGEを生産する。遺伝子組換えカイコによるsRAGEの生産方法は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2016/051808号にも詳細に記載されている。
【0095】
(材料および方法)
(系統作製、発現等)
pBac[Ser-UAS/3xP3EGFP](Ken-ichiro Tatematsu, Isao Kobayashi, Keiro Uchino, Hideki Sezutsu, Tetsuya Iizuka, Naoyuki Yonemura, Toshiki Tamura, Transgenic Research, 19, 473 (2010))のUAS(Upstream Activation Sequence)配列の下流に、PCRで増幅したフィブロインH鎖のシグナルペプチドをコードする断片およびsRAGEをコードする断片を挿入することによりUASベクターを構築した。この発現ベクターを用いて遺伝子組換えカイコを作出した。農業生物資源研究所で維持されている白眼・白卵・非休眠系統のw1-pnd系統を宿主系統として用いた。得られた遺伝子組換えカイコを中部絹糸腺でGAL4を発現する系統(Ken-ichiro Tatematsu, Isao Kobayashi, Keiro Uchino, Hideki Sezutsu, Tetsuya Iizuka, Naoyuki Yonemura, Toshiki Tamura, Transgenic Research, 19, 473 (2010))のUAS(Upstream Activation Sequence)と交配した。得られた次世代カイコのうち、GAL4コンストラクトとUASコンストラクトを共に持つ個体を選抜マーカーにより選抜した。5齢6日目の幼虫を解剖し、中部絹糸腺を摘出した。1本当たり1mLのPBS+1% Triton X-100の抽出液で、4℃、2時間振とうすることにより、タンパク質を抽出した。
【0096】
(精製)
凍結融解処理により中部絹糸腺抽出物からセリシンを除去した溶解液をPBSで平衡化したTALONレジン(Coを使用した金属キレートアフィニティクロマトグラフィレジン)に結合させ、PBS中のイミダゾール濃度を段階的に上げることによりsRAGEを溶出した。50mM~500mMイミダゾール溶出画分を収集しPBS(-)で透析した。さらにPBSで平衡化したMutein Matrixに結合させ、1.5mM~3mMのビオチンを含むPBSで溶出させた画分をPBS透析し、ビオチン化sRAGEを精製した。
【0097】
(配列)
本実施例で製造したsRAGEの配列は、配列番号3に示される。カイコの中部絹糸腺発現タンパク質のN結合型糖鎖の構造は、以下の通りであり、sRAGEはカイコ中部絹糸腺に特異的に発現させている。中部絹糸腺に発現させた糖タンパク質の糖鎖は、中部絹糸腺以外では認められるバウチマンノース型(フコースあり)糖鎖や高マンノース型糖鎖は殆ど無く、複合型糖鎖、ハイブリッド型糖鎖もしくは、オリゴマンノース型糖鎖である。
【0098】
(製造例2:遺伝子組換えカイコによる後部絹糸腺におけるsRAGEの生産)
本製造例では、後部絹糸腺においてsRAGEを発現させた。後部絹糸腺、または、後部/中部絹糸腺両者からのsRAGEの製造は、製造例1に準じて行ったが、絹糸腺1本当たりの抽出使用するバッファー量を5-10倍にすることにより、抽出量の増大が確認された。
【0099】
(測定例1:直接法)
本測定例は、sRAGEに対する阻害活性を測定する方法を示す。本測定例1で使用するアッセイ系では、RAGE阻害剤の候補化合物がウェル上に固定化されている。固定化された候補化合物が、(阻害活性がある場合)競合的に反応液中のsRAGEと結合する。sRAGEに特異的な検出試薬を用いて発色させ、吸光度が高いほど(sRAGEと候補化合物との結合量が多いほど)、阻害活性が高いことを示す。
【0100】
(材料および方法)
・コーティング(100μl/ウェル)
炭酸バッファー(pH9.6)で希釈された1μg/mlの候補化合物を4℃で一晩固定化した。200μl/ウェルのTBS-0.05%Tween20(TBST)で3回洗浄した。
【0101】
・ブロッキング(250μl/ウェル)
Protein free blocking buffer(Thermo fisher scientific)を使用して、37℃で2時間ブロッキングを行った。その後、TBST(200μl/ウェル)で3回洗浄した。
【0102】
・競合的結合
反応液(100μl/ウェル)をウェルに添加し、4℃で一晩インキュベートした。反応液は、ビオチン化B.mori sRAGE(0.1μg/ml/PBS)を含む。次いで、TBST(200μl/ウェル)で5回洗浄した。
【0103】
Pierceブロッキングバッファーで希釈されたHRPコンジュゲートストレプトアビジン(50μl/ウェル)を添加し、室温で30分間インキュベートし、TBST(200μl/ウェル)で5回洗浄した。HRPの基質であるTMB(50μl/ウェル)を添加し室温で10分間インキュベートして発色させ、1N HCl(50μl/ウェル)により反応を停止した。450nmのO.D.値を測定した。
【0104】
(測定例2:間接法)
本測定例2で使用するアッセイ系では、グルコース-BSAがウェル上に固定化されている。反応液中の候補化合物が、(阻害活性がある場合)競合的に反応液中のsRAGEと結合する。sRAGEに特異的な検出試薬を用いて発色させ、吸光度が低いほど(sRAGEとグルコース-BSAとの結合量が少ないほど)、阻害活性が高いことを示す。
【0105】
(材料および方法)
・コーティング(100μl/ウェル)
炭酸バッファー(pH9.6)で希釈された0.9μg/mlの捕捉用AGEs(グルコース-BSA)を4℃で一晩固定化した。200μl/ウェルのTBS-0.05%Tween20(TBST)で3回洗浄した。
【0106】
・ブロッキング(250μl/ウェル)
Protein free blocking buffer(Thermo fisher scientific)を使用して、37℃で2時間ブロッキングを行った。その後、TBST(200μl/ウェル)で3回洗浄した。
【0107】
・競合的結合
反応液(100μl/ウェル)をウェルに添加し、4℃で一晩インキュベートした。試料は、ビオチン化B.mori sRAGE(0.1μg/ml/PBS)と候補化合物(0.3125μg/ml、または、0.39μM以上)を含む。次いで、TBST(200μl/ウェル)で5回洗浄した。
【0108】
Pierceブロッキングバッファーで希釈されたHRPコンジュゲートストレプトアビジン(50μl/ウェル)を添加し、室温で30分間インキュベートし、TBST(200μl/ウェル)で5回洗浄した。HRPの基質であるTMB(50μl/ウェル)を添加し室温で10分間インキュベートして発色させ、1N HCl(50μl/ウェル)により反応を停止した。450nmのO.D.値を測定した。
【0109】
【0110】
(実施例1:カルボキシル基含有化合物の阻害活性の測定)
本実施例では、測定例2(間接法)を使用して、カルボキシル基含有化合物のsRAGEに対する阻害活性を測定した。候補化合物として、以下の化合物を使用した。controlとして、候補物質が含まれていない陰性対照試料を使用した。
【0111】
【0112】
【0113】
(結果)
図2に結果を示す。没食子酸、コーヒー酸、ピロガロールが阻害活性を示した。没食子酸と類似の構造を有する安息香酸およびサリチル酸は、RAGE阻害活性を示さなかった。没食子酸、コーヒー酸、ピロガロールは、これらの構造と類似しているが、阻害活性を示さなかった安息香酸、サリチル酸、シキミ酸およびtrans-けい皮酸((2E)-3-フェニル-プロパ-2-エン酸)と比較すると、複数のフェノール性水酸基を有しており、平面構造を有している(
図3)。複数のフェノール性水酸基および平面構造が、RAGE阻害活性に重要であることが示唆される。
【0114】
(実施例2:酸性多糖類の阻害活性の測定)
本実施例では、測定例1および測定例2(直接法および間接法)を使用して、酸性多糖類のsRAGEに対する阻害活性を測定した。候補化合物として、ペクチン、キサンタン、カラギーナン-1、カラギーナン-2、カラギーナン-3、アラビアガム、グアー、アルギン酸、およびフコイダンを使用した。
【0115】
(結果)
結果を
図4に示す。示されるように、カラギーナンおよびフコイダンが阻害活性を示した。また、間接法での測定では、超音波破砕による断片化の影響も解析した。超音波破砕による影響はほとんど確認できなかった。したがって、多糖類の分子量は、RAGE阻害活性に関係がないことが示唆される。
【0116】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本開示の具体的な好ましい実施形態の記載から、本開示の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。