(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150946
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/65 20220101AFI20231005BHJP
C12P 5/02 20060101ALI20231005BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B09B3/65
C12P5/02
C02F11/04 A ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060304
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】栗本 崇志
(72)【発明者】
【氏名】村野 賢博
(72)【発明者】
【氏名】目時 潤也
(72)【発明者】
【氏名】早川 徹彦
【テーマコード(参考)】
4B064
4D004
4D059
【Fターム(参考)】
4B064AB03
4B064CA02
4B064DA20
4D004AA02
4D004AA03
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4D059AA07
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4D059BA12
4D059BA29
4D059CC01
4D059DB40
4D059EB02
4D059EB08
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する方法を提供することである。また、前記微生物群を用いて、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造する方法を提供することである。
【解決手段】 油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する方法であって、バイオマス資源に油滓を添加する工程、前記油滓存在下でバイオマス資源に土着する微生物群によるバイオガスの発生量が300Nml/g-VS~1200Nml/g-VSの範囲となるように培養する工程、前記培養後のバイオマス資源から、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する工程を含む、該方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する方法であって、バイオマス資源に油滓を添加する工程、前記油滓存在下でバイオマス資源に土着する微生物群によるバイオガスの発生量が300Nml/g-VS~1200Nml/g-VS(有機物当たりのバイオガス発生量原単位)の範囲となるように培養する工程、前記培養後のバイオマス資源から、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する工程を含む、該方法。
【請求項2】
前記油滓の添加量が、バイオマス資源100質量部に対して、週平均で、毎週1質量部~15質量部であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記油滓が、生油滓であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記培養工程において、油滓を添加してから、少なくとも第11週~第14週培養することを特徴する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法で得られた微生物群を、油分を含むバイオマス資源に添加して、発酵槽内でメタン発酵処理することを特徴とする、メタンを含むバイオガスの製造方法。
【請求項6】
メタン発酵処理中の発酵槽内の有機物量が8g-VS/L/d以下に維持されるように、前記油分を含むバイオマス資源を添加することを特徴とする、請求項5に記載のバイオガスの製造方法。
【請求項7】
前記油分を含むバイオマス資源100質量部中、油分が0.01~100質量部含まれていることを特徴とする、請求項5又は6に記載のバイオガスの製造方法。
【請求項8】
前記油分を含むバイオマス資源が、油滓であることを特徴とする、請求項5ないし7のいずれか1項に記載のバイオガスの製造方法。
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれか1項に記載のバイオガスの製造方法を用いる、発酵堆肥の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する方法、また、前記微生物群を用いて、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造する方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人口増加や生活の高度化に伴い、生ごみ等の廃棄物の発生量は益々増加している。廃棄物は、様々な微生物群を用いて処理されているが、中でも、メタン発酵処理は、廃棄物の量を減らすだけでなく、発生するメタンをエネルギー源として利用できるため、近年、注目を集めている技術である。しかし、生ごみ等の廃棄物には、油分が多く含まれていることがあり、油分はメタン発酵処理を行う際に阻害要因になり取得することがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、油分、アンモニア濃度などの含有率が高いものは、発酵負荷が高いため、発酵しにくく、過剰に投入すると発酵阻害が起きやすいので、発酵負荷の低い牛糞から投入し、発酵負荷の高いグリストラップ汚泥を最後に投入することが記載されている。
また、特許文献2は、コーヒー粕のような油分の多いバイオマス資源をメタン発酵処理に供すると、低分子化の進行により、高級遊離脂肪酸などの発酵阻害物質が生じ、メタン発酵が阻害されるため、高級遊離脂肪酸を中和処理して、遠心分離により取り除くことが記載されている。
さらに、特許文献3には、懸濁物質、固形物、油分がメタン発酵処理を著しく阻害するため、懸濁物質、固形物、油分を単純沈殿処理設備、凝集沈殿処理設備、加圧浮上処理設備等により、予め除去する必要があることが記載されている。
【0004】
このように、従来技術では、油分の多い(発酵負荷の高い)バイオマス資源は、メタン発酵処理の最後の段階で投入されていた。また、油分の多いバイオマス資源をメタン発酵処理する場合、高級遊離脂肪酸(発酵阻害物質)が生じてしまうので、それを中和処理していた。さらに、予めバイオマス資源から油分を取り除いてからメタン発酵処理が行われていた。
しかし、これらの処理はいずれも手間がかかるものであり、油分を含むバイオマス資源をより効率よくメタン発酵処理する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-177372号公報
【特許文献2】特開2013-188676号公報
【特許文献3】特開平9-290249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する方法を提供することである。また、前記微生物群を用いて、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、油滓を用いて所定のメタン発酵処理を行うと、油分を含むバイオマス資源であっても、効率よくメタン発酵処理できる微生物群が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に関するものである。
〔1〕油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する方法であって、バイオマス資源に油滓を添加する工程、前記油滓存在下でバイオマス資源に土着する微生物群によるバイオガスの発生量が300Nml/g-VS~1200Nml/g-VS(有機物当たりのバイオガス発生量原単位)の範囲となるように培養する工程、前記培養後のバイオマス資源から、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する工程を含む、該方法。
〔2〕前記油滓の添加量が、バイオマス資源100質量部に対して、週平均で、毎週1質量部~15質量部であることを特徴とする、〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記油滓が、生油滓であることを特徴とする、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記培養工程において、油滓を添加してから、少なくとも第11週~第14週培養することを特徴する、〔1〕ないし〔3〕のいずれか1つに記載の方法。
〔5〕〔1〕ないし〔4〕のいずれか1つに記載の方法で得られた微生物群を、油分を含むバイオマス資源に添加して、発酵槽内でメタン発酵処理することを特徴とする、メタンを含むバイオガスの製造方法。
〔6〕メタン発酵処理中の発酵槽内の有機物量が8g-VS/L/d以下に維持されるように、前記油分を含むバイオマス資源を添加することを特徴とする、〔5〕に記載のバイオガスの製造方法。
〔7〕前記油分を含むバイオマス資源100質量部中、油分が0.01~100質量部含まれていることを特徴とする、〔5〕又は〔6〕に記載のバイオガスの製造方法。
〔8〕前記油分を含むバイオマス資源が、油滓であることを特徴とする、〔5〕ないし〔7〕のいずれか1つに記載のバイオガスの製造方法。
〔9〕〔5〕ないし〔8〕のいずれか1つに記載のバイオガスの製造方法を用いる、発酵堆肥の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得することができる。そして、このような微生物群を用いることにより、油分を含むバイオマス資源であっても、メタン発酵処理を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】サンプル分析法にて実施した、生油滓、乾燥油滓によるバイオガス発生量の推移を示す図である。
【
図3】A系列(生油滓)、B系列(乾燥油滓)、C系列(模擬ごみ)を第1週から第14週まで連続試験したときの各種データを示す図である。
【
図4】A系列(生油滓)、B系列(乾燥油滓)、C系列(模擬ごみ)を第1週から第14週まで連続試験したときの各種データを示す図である。
【
図5】A系列(生油滓)の投入量、希釈水、バイオガス発生量原単位の推移(第1週から第14週)を示す図である。
【
図6】B系列(乾燥油滓)の投入量、希釈水、バイオガス発生量原単位の推移(第1週から第14週)を示す図である。
【
図7】C系列(模擬ごみ)の投入量、希釈水、バイオガス発生量原単位の推移(第1週から第14週)を示す図である。
【
図8】次世代シークエンス解析のデータ処理により得られたOTU(Operational Taxonomic Unit:操作的分類単位)の分類群のうち、脂肪分解に関する細菌種に係る結果を示す図である。
【
図9】生油滓を用いた連続試験(第1週、第9週、第11週、第14週)で得られた微生物群を用いて、メタン発酵処理を行うことにより、得られた有機物あたりの総バイオガス量(NmL/g-VS)を示す図である。
【
図10】乾燥油滓を用いた連続試験(第1週、第9週、第11週、第14週)で得られた微生物群を用いて、メタン発酵処理を行うことにより、得られた有機物あたりの総バイオガス量(NmL/g-VS)を示す図である。
【
図11】
図9及び
図10に示された第1週、第9週、第11週、第14週の有機物あたりの総バイオガス量(NmL/g-VS)を生油滓と乾燥油滓とに分けて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(油滓)
本発明において「油滓」とは、生油滓、乾燥油滓、及びこれらの混合物(生油滓から乾燥油滓を製造する過程で生じる中間体を含む)を意味する。後述するが、油滓は、バイオマス資源の1つであり、また、油を含むものであるから、油分を含むバイオマス資源にも該当する。
植物油脂の精製工程において、植物油の原油にリン酸と苛性ソーダを添加し、遠心分離などによって精製する際(脱酸工程)、精製された植物油を除いた後「生油滓」が得られる。「生油滓」は、通常の植物油脂の精製工程で副生される産物であり、水分や遊離脂肪酸を多く含むため、高粘性かつペースト状のものである。そのため、取り扱いが困難であり、近年、このような生油滓に硫酸などの酸を添加して中和した後、さらに乾燥した「乾燥油滓」も開発されている。「乾燥油滓」は、流動性が改善されており、取扱いが容易である。以下、「乾燥油滓」の製造について詳述する。
【0012】
まず、精製工程の脱酸工程で副生された生油滓は、硫酸、塩酸、リン酸、クエン酸等の酸で中和(pH6~8程度)され、90℃前後で油滓タンクに貯留される。中和される前の生油滓の水分含量はおおよそ50質量%程度であり、中和工程を経た直後の生油滓の水分含量はおおよそ40~50質量%程度である。油滓タンクに貯留された中和後の生油滓は、ポンプにより移送され、乾燥工程に付される。乾燥は、例えば、真空発生装置(真空ポンプ、100torr)と連結した強制撹拌式薄膜蒸発機(回転翼式薄膜蒸発機ともいう)を用いて行うことが好ましい。強制撹拌式薄膜蒸発機としては、例えばルーワ(Luwa)式蒸発機や高粘度用薄膜蒸発機が挙げられる。ルーワ式蒸発機とは、処理物質を回転(ローター)翼により強制撹拌して加熱面上に薄膜・拡散降下させることにより、効率よく蒸発を行わせる装置であり、国内では木村化工機(株)他が取り扱っている。高粘度用薄膜蒸発機としては、例えば(株)神戸環境ソリューションの商品名「エクセバ」が挙げられる。乾燥条件としては、例えば、蒸発機の入口では65℃前後、出口では125℃前後とし、約200~300kg/時間の処理流量にて行う。これにより、乾燥後の水分含量を0.5質量%以下、好ましくは0.2~0.3質量%以下(0質量%も含む)にまで調節することができる。
【0013】
油滓タンクから乾燥工程を経ずに移送されてきた未乾燥の中和後の生油滓と、乾燥工程で乾燥された乾燥油滓とをスタテックミキサーで直ちに混合して、水分含量が調整された乾燥油滓を取得することもできる。未乾燥の中和後の生油滓と乾燥工程で乾燥された乾燥油滓との混合比率は、例えば、1:3~3:1の質量比で混合することが好ましい。より好ましくは、2:3~3:2の質量比であり、1:1の質量比で混合することが特に好ましい。
混合の方法としては、好ましくは70~90℃、より好ましくは70~80℃、最も好ましくは70~75℃の温度で、約100~150kg/時間の流量で連続的に混合処理する方法などが挙げられる。
【0014】
これまで、乾燥工程を経た乾燥油滓と乾燥工程を経ていない中和後の生油滓が、同じ種類の植物油脂の精製工程で副生された油滓を用いる例で説明してきたが、前記油滓は、異なる種類の植物油脂の精製工程で副生された生油滓を中和したものであってもよい。
また、取り扱いについていえば、乾燥油滓の方が生油滓よりも好ましいが、後述するように、微生物群を馴致する場合、もしくはバイオガスを製造する場合においては、生油滓を用いる方が乾燥油滓を用いるよりも好ましい。また、乾燥油滓は中和しているため、中和塩や中和に用いた薬品に由来する硫黄分の影響が出る可能性があるが、生油滓にはその可能性がない。また、生油滓の場合は、硫酸等の危険な薬品を使用しなくても良いというメリットがある。さらに、生油滓のpHは強アルカリ性であり、メタン発酵が進み、有機酸が蓄積しても、ある程度の緩衝作用があると考えられ、酸敗を防ぐ可能性もある。
【0015】
(バイオマス資源)
本発明における「バイオマス資源」は、メタン発酵処理に用いる発酵原料であり、例えば、生ごみ、食品廃棄物、家畜排泄物、汚泥、草木系廃棄物、油滓等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
また、本発明における「油分を含むバイオマス資源」は、上述したバイオマス資源であって油を含むものである。なお、油滓は、油を含むものであるから、油分を含むバイオマス資源に該当する。
また、本発明においては、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群が得られるため、発酵基質として用いるバイオマス資源としては、油分が多いバイオマス資源を用いることが好ましい。
ここで、「油分が多い」とは、ノルマルヘキサン抽出やその他油脂分析法にて抽出される油分含量が多いことを意味する。メタン発酵等を含む有機性廃棄物処理技術分野では油分の指標としてノルマルヘキサン抽出物含有量(n-Hex)がよく用いられる。例えば、バイオマス資源の有機物中のn-Hex濃度(n-Hex濃度/有機物量)の値は、バイオマス資源に含まれる油分濃度の指標であり、油分濃度が高いほど、この値は高くなる。バイオマス資源の油分濃度が高いほどメタン発酵は難しくなるので、バイオマス資源の有機物中のn-Hex濃度(n-Hex濃度/有機物量)の値が高いほど、メタン発酵が難しくなる傾向がある。したがって、メタン発酵槽及び有機性廃棄物処理装置の安定的な連続運転の観点から、メタン発酵槽内のバイオマス資源の有機物中のn-Hex濃度(n-Hex濃度/有機物量)の値は0.4以下であることが好ましい。なお、本発明の油滓も、油分が多いバイオマス資源の一例となり得る。
また、一般的に、生油滓および乾燥油滓については、加水分解しないと十分に脂肪が抽出されない試料の1つであり、これらは酸分解ジエチルエーテル抽出法による油分抽出が適用されている。しかしながら、本特許では、ノルマルヘキサン抽出物分析法で分析された数値も酸分解ジエチルエーテル抽出法で分析された数値も油分含量として考えてよい。
なお、断りのない限り、以下の文章で用いる「油分」「油分含量」は、酸分解ジエチルエーテル抽出法で分析された数値を採用している。
【0016】
(メタン発酵処理、それに用いる微生物群)
本発明のメタン発酵処理は、酸素が存在しない管理された条件下で行うのが好ましい。
また、メタン発酵処理に使用する微生物群は、使用するバイオマス資源に土着する微生物群をそのまま用いることができる。また、本発明では、油滓を添加したバイオマス資源を用いて、所定のメタン発酵処理することにより、前記バイオマス資源に土着していた微生物群を、油分を多く含む環境に馴致させることで、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得することができる。
【0017】
(バイオガス)
本発明により得られるバイオガスは、上述した油滓をバイオマス資源に添加し、油滓存在下で該バイオマス資源に含まれる微生物群を用いて、メタン発酵処理することにより得られるガスである。また、前記メタン発酵処理(馴致)により、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群が得られた後、当該微生物群を新しいバイオマス資源に添加し、メタン発酵処理することにより得られるガスでもある。
得られるバイオガスは、主としてメタンガスを含み、その他、二酸化炭素、アンモニア、硫化水素などを含むガスである。本発明では、これを「メタンを含むバイオガス」と表現する。
【0018】
(油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する方法)
本発明の「油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する方法」は、バイオマス資源に油滓を添加する工程、前記油滓存在下でバイオマス資源に土着する微生物群によるバイオガスの発生量が300Nml/g-VS~1200Nml/g-VS(有機物当たりのバイオガス発生量原単位)の範囲となるように培養する工程、前記培養後のバイオマス資源から油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する工程を含む。
【0019】
(添加工程)
添加工程では、バイオマス資源の油分を多くするため、バイオマス資源に油滓を添加する。この添加工程は、後述する培養工程において、バイオガスの発生量が一定の範囲内となるように培養すれば、任意である。好ましくは毎週継続的に油滓の添加が実施される。すなわち、バイオマス資源100質量部に対して、週平均で、毎週1質量部~15質量部の油滓を継続的に添加することが好ましい。より好ましくは、週平均で、毎週5質量部~10質量部、さらに好ましくは、週平均で、毎週6質量部~9質量部の油滓を継続的に添加する。このように、バイオマス資源に添加する油滓の量を週平均で毎週一定の値に調整することによって、バイオマス資源に含まれる油滓の量は段々増加していき、その結果、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵して、メタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群が得られるようになる。
次に、このバイオマス資源に含まれる油滓の量が徐々に増加していくことについては、例えば、
図3のデータに基づくと、バイオマス資源中における油滓の割合は、3.88%(スタート時)~17.25%(第14週目)と増加していくことになる。これは、週平均でいうと、0.96%/週で増加していくことになる。言い換えれば、バイオマス資源中における油滓の割合は、この添加工程によって、0.5質量%~1.5質量%/週ずつ増えていくことが好ましく、0.7質量%~1.2質量%/週ずつ増えていくことがより好ましく、0.8質量%~1.0質量%/週ずつ増えていくことがさらに好ましい。これによって、バイオマス資源に土着していた微生物群に、油分の増加による発酵負荷がかかり、当該微生物群は、油分があっても適当にメタン発酵できる微生物群へと馴致させることができる。
添加方法は、任意であってよく、バイオマス資源に油滓を添加した後、できるだけ均一となるように、バイオマス資源を撹拌することが好ましい。したがって、この添加工程には、任意で撹拌工程を含む場合がある。なぜなら、油滓が局所的に存在すると、その付近だけ遊離脂肪酸が多くなり、発酵阻害を起こす可能性があるからである。
【0020】
(培養工程)
培養工程では、上述のように油滓が添加されたバイオマス資源を、バイオマス資源に土着する微生物群によるバイオガスの発生量が300Nml/g-VS~1200Nml/g-VS(有機物当たりのバイオガス発生量原単位)の範囲となるように培養する。より好ましくは、400Nml/g-VS~1100Nml/g-VS(有機物当たりのバイオガス発生量原単位)の範囲となるように培養し、さらに好ましくは、500Nml/g-VS~1000Nml/g-VS(有機物当たりのバイオガス発生量原単位)の範囲となるように培養し、殊更好ましくは、600Nml/g-VS~900Nml/g-VS(有機物当たりのバイオガス発生量原単位)の範囲となるように培養する。このように、バイオガスの発生量が一定の範囲内となるように培養することが本発明の重要なポイントである。
バイオガスの発生量が一定の範囲内となるようにするためには、培養工程における、温度、pH、含水率、有機物量(VS)等を調節する。当業者であればこれらのパラメータを容易に調節することができる。また、前述した添加工程における、油滓の添加量を上述のように調節することによっても、バイオガスの発生量が一定の範囲内にすることができる。例えば、前述した油滓の添加量又は油滓の増加速度が、その具体例として挙げられる。
【0021】
また、培養工程においては、第1週~第14週培養することが好ましい。より好ましくは、第9週~第14週、さらに好ましくは、第11~第14週である。ただし、培養期間はこれに制限されない。
後述するように、第11週~第14週培養することで、バイオガスの発生量が上限に達しており、微生物群を馴致するのに十分な効果が得られていると考えられるからである。
さらに、培養する条件は、例えば、温度を37℃(30~45℃)に保つ中温付近で発酵することが好ましい。ただし、温度は45~55℃を維持して発酵する高温発酵も妨げない。また、本発明では、希釈水を適宜添加し、水分含量を80~99%(より好ましくは、90~98%、さらに好ましくは95~97%)に維持する湿式方法を採用している。ただし、水分含量が65~80%程度に維持する乾式発酵も妨げない。どちらの方法を採用するかは、バイオマス資源中の水分含量や有機物量や窒素量などを考慮して選択される。なお、中温かつ湿式方法は広く普及している技術であり、比較的安定的に運転できる条件であると考える。
【0022】
(微生物群を取得する工程)
微生物群を取得する工程では、培養を終えたバイオマス資源から、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得する。前記培養工程によって、当初バイオマス資源に土着していた微生物群は、油分を含むバイオマス資源を発酵するのに適した微生物群へと菌叢が変化しているので、培養工程の後のバイオマス資源の一部を採取することで、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得することができる。
ここで、「微生物群を取得する」とは、バイオマス資源から上記微生物群を単離することではなく(単離することは事実上不可能である)、上述のような培養工程を経て得られた、馴致した微生物群を含むバイオマス資源を取得することを意味する。すなわち、ここでいう「微生物群」とは、「馴致した微生物群を含むバイオマス資源」と等価である。言い換えれば、「微生物群を取得する」とは、培養工程の後の馴致した微生物群を含むバイオマス資源を必要な量だけ採取することを意味する。採取する方法は任意であり、例えば、スパチュラで掻きとる方法などが挙げられる。
【0023】
(バイオガスの製造方法)
本発明のバイオガスの製造方法は、上述した微生物群(すなわち、馴致された微生物群を含むバイオマス資源)を、バイオマス資源に添加し、該バイオマス資源をメタン発酵処理することを特徴とするものである。前記バイオマス資源は、油分を多く含んでいるものが好ましい。「油分が多い」は、上述した定義と同じである。
また、発生したバイオガスを利用するために、本発明のバイオガスの製造方法には、バイオガスを回収する工程が必要に応じて備えられる。なお、回収方法は任意の方法を用いることができる。バイオガスの回収方法として、例えば、発酵槽の発酵反応部上部に気固液分離装置を備えて、処理水や発生バイオガス等を分離回収する方法が挙げられる。また、分離回収したバイオガスは、必要に応じて脱硫装置により硫黄分を除去し、ガスホルダーに貯蔵しても良い。
製造されたバイオガスは、ガスそのまま、又はメタンガス濃度を高めたガスにして、発電の燃料やボイラーの燃料として使用することができる。なお、メタンガス濃度を高める方法は公知の方法を用いることができる。メタンガス濃度を高める方法として、例えば、バイオガスを水で洗浄し、水への溶解度の差を利用しメタンを選択分離する方法が挙げられ、この方法によればメタンガスを97%以上まで濃縮することができる。
【0024】
油分を含むバイオマス資源の添加量については、有機物を8g-VS/L/d以下を維持するように添加される。より好ましくは、5g-VS/L/d以下、さらに好ましくは3g-VS/L/d以下を維持するように添加される。このように添加することで、効率よくバイオガスを製造することができる。なお、前記発酵基質となる油分を含むバイオマス資源の有機物量は希釈水を添加して調整することもできる。ここで、(g-VS/L/d)という単位は、一日当たりの有機物処理量という意味である。
【0025】
本発明で得られた微生物群は油分を含むバイオマス資源の発酵に適しているため、油分を含むバイオマス資源100質量部中、油分が0.01~100質量部含まれていることが好ましく、0.05~90質量部含まれていることがより好ましく、0.1~80質量部含まれていることがさらにより好ましい。なお、油分を含むバイオマス資源100質量部中、油分が100質量部含まれているとは、前記バイオマス資源が油そのものであること意味している。
また、上述した油分を含むバイオマス資源としては、油滓が好ましく用いられる。さらに、油滓としては、生油滓がより好ましく用いられる。本発明においては、油分を含むバイオマス資源として油滓を添加して、油分を含むバイオマス資源の発酵に適している、本発明の微生物群を用いて、メタン発酵処理を行うことが好ましい。
【0026】
(発酵堆肥の製造方法)
本発明のメタンを含むバイオガスの製造方法を実施すると、バイオガス以外に、発酵残渣物が得られる。この発酵残渣物は、消化液と呼ばれる有機物に富む湿潤な生成物である。
得られた発酵残渣物を、脱水処理、乾燥処理をすることで発酵堆肥を製造することができる。得られた発酵堆肥は、肥料として有効に活用することができる。
【0027】
次に、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例0028】
(サンプル)
生油滓は、日清オイリオグループ(株)で植物油脂の製造における精製工程(脱酸処理)で発生した生油滓を使用した。また、乾燥油滓は、この生油滓を上述のように中和し乾燥したものを使用した。
また、バイオマス資源として、株式会社バイオガスラボが都市ごみを想定して、数種類の品目(キャベツ、リンゴ、コメ、肉、ドッグフード等)を粉砕・混合してなる模擬ごみを使用した。
【0029】
(サンプルの分析方法)
生油滓、乾燥油滓のpH、含水率、強熱減量(有機物量又はVS)は下水試験方法、CODcr(化学的酸素要求量)は肥料等試験方法、炭素、窒素は酵素循環法に従って測定した。また、アンモニア性窒素はJIS K0102に従って算出した。
使用した生油滓、乾燥油滓の分析値を表1に示す。
【0030】
【0031】
pHについては、生油滓は11.3と高く、乾燥油滓は7.8であった。含水率については、生油滓は43%、乾燥油滓は17.9%と生油滓に比べて低かった。有機物量を示す強熱減量については、生油滓と乾燥油滓はそれぞれ80.7%、82.9%と同様の値であった。CODcrについては、生油滓が1,300,000mg/kg、乾燥油滓が1,600,000mg/kgであり、生油滓は含水率が高かった割には高い値であった。固形物中の窒素含有率については、生油滓及び乾燥油滓はそれぞれ0.2%、0.4%と非常に低かった。アンモニア性窒素については、生油滓が50mg/kg未満、乾燥油滓が29mg/kgと共に非常に低い値であった。固形物当りの炭素含有量については生油滓が62.4%、乾燥油滓が59.7%と共に高かった。以上の結果から、油滓はメタン発酵基質として、有益であることがわかった。
【0032】
(バイオガスの製造)
図1に示す装置で、油滓を添加したバイオマス資源を用いたメタン発酵処理を行い、バイオガスを製造した。
具体的には、原料投入口から、3.5Lの発酵タンクにバイオガスラボ社の模擬ごみによって馴致された種汚泥3500g、及び生油滓、乾燥油滓をそれぞれ25g投入し、常時撹拌子で撹拌をしながら、37℃±0.5℃でメタン発酵処理をした。発酵処理は、バイオガス発生速度が小さくなり、バイオガス発生がほぼ認められなくなることが確認できるまで実施した。
表2に試験終了時の最終的なバイオガス発生量を示す。また、
図2にバイオガスの発生累積量を示す。なお、バイオガス発生累積量は、「バイオガス製造でのガス発生量」から「無負荷の状態(つまり、油滓を添加しない状態)でバイオガスラボ社の種汚泥から発生するガス量」を引いた値の累積値である。
【0033】
【0034】
また、試験において発生したバイオガス中のメタン濃度の測定結果を表3に示す。メタン濃度の測定は、試験開始時から終了時まで発生したバイオガス全量をアルミバッグに捕集し、発酵処理終了後、TCDガスクロマトグラフィーで分析した。
【0035】
【0036】
これらの結果から、油滓を添加したバイオマス資源をメタン発酵することで、バイオガスが発生することが確認された。生油滓及び乾燥油滓はバイオガス発生原として非常に分解性の優良な原料であった。また、油滓は窒素含有量が少ないので、アンモニア阻害は起こりにくいと考えられる。生油滓及び乾燥油滓は投入当初より1週間ではガスの発生が見られず、無負荷のブランクよりもガス発生量が低い状態が続いた。その原因としては、油に対して種汚泥が十分に馴致されていなかった可能性が考えられる。
【0037】
(有用微生物群を取得するための連続試験)
油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得するために、14週間の連続試験を実施した。連続試験は、上述した(バイオガスの製造)と同様に実施したが、油滓を継続的に投入した点が異なっている。試験条件を
図3に示した。なお
図3中に記載される数値は週平均値とした。試験の具体的な内容は次の通りとした。A系列(生油滓)、B系列(乾燥油滓)、C系列(模擬ごみ)では、それぞれ、(模擬ごみ+生油滓)、(模擬ごみ+乾燥油滓)、(模擬ごみのみ)を、
図3に示される投入量で投入した。また、発酵槽内の固形物濃度(TS)を一定に保つために希釈水を
図3に示された量投入した。バイオマス資源および希釈水を投入する際に、発酵槽容量を一定に保つ目的で発酵槽から発酵残渣を
図3に示す量引抜いた。また、A系列、B系列ともに、一度に投入するバイオマス資源、すなわち、(模擬ごみ+生油滓)、(模擬ごみ+乾燥油滓)は、固形物濃度(TS)が約20%、有機物量(VS)が約95%で一定となるように調整した。同様に、投入するバイオマス資源中の有機物量当たりの油分の割合が23~26%となるように設定した。投入するバイオマス資源は徐々に増加するため、発酵容積あたりの投入有機物量(容積負荷)は
図3に示すように増加した。このように油滓を添加することで、発酵槽タンク中の油分は徐々に増加し、油分による負荷がかかっている。なお、A系列、B系列、C系列とも温度は37℃±0.5℃、発酵槽内pHは7.7±0.3を維持していた。発酵により発生したメタンを含むバイオガスは流量計を用いて経時的に計量した。
A系列(生油滓)、B系列(乾燥油滓)、C系列(模擬ごみ)の連続試験の14週までのデータを
図3~4に示す。
また、
図3~4における以下の用語の定義は次のとおりに定義される。なお、
図3~4中の「原料」は、投入するバイオマス資源を意味する。また、
図3~4中に記載される数値は週平均値としている。
槽容量(kg)・・・培養する発酵汚泥量。
原料投入量(g/d)・・・発酵槽に投入する原料(模擬ごみ+生油滓または模擬ごみ+乾燥油滓または模擬ごみのみ)の量。
油滓量(g/d)・・・投入する生油滓または乾燥油滓の量。
模擬ごみ量(g/d)・・・投入する模擬ごみの量。
希釈水(g/d)・・・発酵槽に投入する蒸留水の量。
総投入量(g/d)・・・発酵槽に投入する原料と希釈水量を足した総量。
引抜量(g/d)・・・発酵槽から引き抜く発酵汚泥の量。
原料TS(%)・・・原料中の固形物量。含水率をW(%)とするとき、原料TS(%) = 100 - W(%)である。
原料VS(%-TS)・・・原料固形物中(原料TS)の有機物量(VS)の割合を示す槽内。
槽内TS(%)・・・発酵槽内の固形物量。含水率をW(%)とするとき、原料TS(%) = 100 - W(%)である。
槽内VS(%-TS)・・・発酵槽内固形物量中(槽内TS)の有機物量(VS)の割合を示す
滞留日数(日)・・・投入した原料および希釈水が発酵槽内に滞留する時間(滞留日数=発酵槽量/総投入量)。
容積負荷(g-VS/L/d)・・・容積あたりの投入した有機物量。
ガス発生量(Nml/d)・・・発酵槽から発生するバイオガス総発生量。
原単位(Nml/d)・・・投入した原料(湿物重量)あたりのバイオガス発生量。
原単位(Nml/g-VS/d)・・・投入した原料固形物中(原料TS)の有機物量(VS)あたりのバイオガス発生量。
アンモニア性窒素(mg/kg)・・・発酵槽内のアンモニア性窒素量(発酵槽から引き抜いた発酵汚泥を分析した)。
なお、
図5~7には、A系列(生油滓)、B系列(乾燥油滓)、C系列(模擬ごみ)における、バイオマス資源の投入量と、投入する希釈水の量と、これらによって発生するバイオマス資源中の有機物当たりのバイオガス発生量原単位(Nml/g-VS)を示す。
【0038】
試験開始後12週が経過した後は、油分による負荷を増加させても、該バイオガス発生量原単位が大きく変動していないので、A、B系列ともに順調に培養されていることがわかった。
【0039】
図5~7に示されているように、A系列(生油滓)、B系列(乾燥油滓)ともに、第1週から第14週にわたって、該バイオガス発生量原単位が300Nml/g-VS~1200Nml/g-VSの範囲に収まっている。このように安定的に一定量のバイオガスを発生させるように培養することが、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群を取得するために有用である。油分を急激に増加させることなく、油分を徐々に増加させながら培養することで、バイオガス発生量が落ちず、一定の範囲内に収まるようにして、有機物の分解(特に油分の分解)に寄与する真正細菌が活性化するようにしている。
【0040】
上述した連続試験において、次世代シークエンス解析のデータ処理を実施した。OTU(Operational Taxonomic Unit:操作的分類単位)の分類群は、活性汚泥・消化汚泥において検出される細菌情報に特化したデータベースMiDAS 4.8.1との比較により決定した。また、Silvaデータベースによる分類群の決定も行った。主要な細菌種については、いずれかの試料において検出割合が2%以上のOTUと定義した。抽出されたOTUは30種であった。このうち、脂肪分解に関する細菌種の経時変化(第1週から第15週)を
図8にまとめた。なお、一連のデータ解析はソフトウェアQIIME2、R(version 4.0.3)およびR studio(Version 1.4.1103)を用いている。
図8にみられるように、C系列(模擬ごみ)よりも、A系列(生油滓)、B系列(乾燥油滓)で、脂肪分解に関する細菌種の検出割合が増加していた。このことは、油滓による油分の負荷を高めながら連続培養することで、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群が得られていることを裏付けている。
【0041】
(バイオガスの製造)
上述の連続試験を実施した後の(馴致された微生物群を含む)バイオマス資源を用いて、バイオガス発生のポテンシャルを測定した。具体的には、容積100mlのプラスチック製シリンジを用いた回分式メタン発酵実験により、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群によるバイオガス発生ポテンシャルを測定した。上記連続試験を実施した際のバイオマス資源(第1週、第9週、第11週、第14週)を各30ml採取し、これに対して、生油滓、乾燥油滓をそれぞれ0.1g添加して、測定した(実験区)。(なお、油滓の有機物量をおおよそ70~80%とすると、30mlに対して0.1g添加は0.1×70~80%/30.1ml=2.33~2.66g-VS/Lに相当し、途中、有機物の添加は行っていないので、例えば、52日間では、2.33~2.66/52≒0.05g-VS/L/dと算出される。)
他方、バイオガスラボ社の模擬ごみで長期間馴致した種汚泥30mlに対して、生油滓、乾燥油滓をそれぞれ0.1g添加して、測定した(対象区)。
実験区、対象区ともに、シリンジ内の空気を押し出した後、37±0.5℃の恒温振とう機において52日間培養した。この実験ではシリンジ内でのバイオガス発生によりプランジャーが押し上げられ、バイオガス発生量はシリンジの目盛を用いて測定した。生油滓、乾燥油滓で連続培養された微生物群を用いた場合の結果をそれぞれ
図9、
図10に示した。また、有機物当たりの総バイオガス発生量原単位に関する結果を
図11に示した。
【0042】
図9~11から明らかであるように、上記第1週、第9週、第11週、第14週の連続試験を実施した際の微生物群(馴致された微生物群を含むバイオマス資源)を用いて、油分を含むバイオマス資源(生油滓、乾燥油滓)をメタン発酵して、メタンを含むバイオガスを製造することができた。生油滓も、乾燥油滓も、第11週まで連続培養した微生物群を用いると、最も高い、有機物当たりのバイオガス発生量原単位を取得することができた。他方、第14週まで連続培養した微生物群を用いると、第11週まで連続培養した微生物群よりも、有機物当たりのバイオガス発生量原単位が低くなった。これは、第11週程度の連続培養で、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群が得られている可能性を示している。ただし、本発明は、第11週以上の連続培養を排除するものではない。第11週以上の長期間で培養することで、より馴致された微生物群が得られる可能性があるからである。
【0043】
さらに、
図11により、上記第1週、第9週、第11週、第14週の連続試験を実施した際のバイオマス資源を用いて、メタンを含むバイオガスを製造した場合、生油滓を用いた場合の方が、乾燥油滓を用いた場合よりも、バイオガスが多く発生していることがわかった。このことから、生油滓を用いた場合の方が、乾燥油滓を用いた場合よりも、油分を含むバイオマス資源をメタン発酵してメタンを含むバイオガスを製造するために適した微生物群が得られる可能性を示している。
本発明で得られるバイオガスは、エネルギー分野において、バイオガスを用いて発電して電気として利用したり、燃料として利用することができる。油滓は植物油脂を製造する際の副産物になるので、油滓をバイオマス資源として用いる場合は、カーボンニュートラルにも寄与することになる。また、本発明で得られる発酵残渣物(バイオマス資源)は、発酵堆肥として利用することができる。