(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150950
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】麺類用粉末麦芽
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20231005BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23L7/109 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060312
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597104396
【氏名又は名称】アサヒビールモルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】川村 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】上田 努
(72)【発明者】
【氏名】西野 儀強
【テーマコード(参考)】
4B023
4B046
【Fターム(参考)】
4B023LC02
4B023LE26
4B023LG05
4B023LT02
4B023LT03
4B046LA05
4B046LA09
4B046LC01
4B046LC17
4B046LG27
(57)【要約】
【課題】色調に問題なく、穀物の甘み、香りを強く感じ、粘弾性も良好な麺類を提供すること。
【解決手段】下記の(a)及び(b)の特徴を有する、麺類用粉末麦芽を提供する。
(a)糖化力が50WK以下
(b)CIELAB表色系のL値が40以上
本技術に係る麺類用粉末麦芽は、さらに下記の(c)の特徴を有していてもよい。
(c)粒子径250μm以上の画分が20質量%以下
本技術に係る麺類用粉末麦芽に用いる前記麦芽としては、焙煎蒸し緑麦芽を用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)及び(b)の特徴を有する、麺類用粉末麦芽。
(a)糖化力が50WK以下
(b)CIELAB表色系のL値が40以上
【請求項2】
さらに下記の(c)の特徴を有する、請求項1記載の麺類用粉末麦芽。
(c)粒子径250μm以上の画分が20質量%以下
【請求項3】
前記麦芽は、焙煎蒸し緑麦芽である、請求項1又は2に記載の麺類用粉末麦芽。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の麺類用粉末麦芽を含有する、麺類用組成物。
【請求項5】
前記麺類用粉末麦芽が、麺類に用いられる粉体材料100質量%当たり、0質量%超、12質量%以下となるように含有される、請求項4に記載の麺類用組成物。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の麺類用粉末麦芽、又は、請求項4若しくは5に記載の麺類用組成物が用いられた、麺類。
【請求項7】
蒸し緑麦芽を焙煎する焙煎工程を含む、下記の(a)及び(b)の特徴を有する麺類用粉末麦芽の製造方法。
(a)糖化力が50WK以下
(b)CIELAB表色系のL値が40以上
【請求項8】
下記の(a)及び(b)の特徴を有する、麺類用粉末麦芽を添加する添加工程を含む、麺類の製造方法。
(a)糖化力が50WK以下
(b)CIELAB表色系のL値が40以上
【請求項9】
前記添加工程において、前記麺類用粉末麦芽を、麺類に用いられる粉体材料100質量%当たり、0質量%超、12質量%以下添加する、請求項8に記載の麺類の製造方法。
【請求項10】
下記の(a)及び(b)の特徴を有する、麺類用粉末麦芽を添加する添加工程を含む、麺類の風味向上方法。
(a)糖化力が50WK以下
(b)CIELAB表色系のL値が40以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺類用粉末麦芽、該麺類用粉末麦芽を用いた麺類用組成物及び麺類、並びに、麺類用粉末麦芽の製造方法、麺類の製造方法及び麺類の風味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麺類の食感や風味等を向上させるために、主原料である小麦粉や、副原料、添加剤などについて様々な技術が提案されている。中でも、近年、麦芽材料を麺類に用いる技術の開発も進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、焙焼麦芽エキスを乾物換算重量比で0.6~6部配合した麺類が開示されている。特許文献1には、焙焼麦芽エキスは、麺本来の食感には何ら悪影響を与えることなく、心地よい風味とつやのある茶色い色調を付与することができ、従来にない差別化した麺類を提供できる旨が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、モルトエキスを添加した餃子用皮で具材を包んで凍結することにより、皮の耳部分が硬くなく、そのため流通・販売時、調理時などに耳部分での破損が生じず、更に胴部の皮の割れがなく、しかも調理したときに皮の本体部分だけでなく、耳部分での食感および外観に優れる冷凍生餃子を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-266809号公報
【特許文献2】特開2007-274964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、麦芽材料を麺類に用いる技術について、様々な開発が進められているが、例えば、特許文献1の焙焼麦芽エキスや特許文献2のモルトエキスは、粉体原料と混合しにくい場合や、練水にあらかじめ混合する際でも溶解しにくい場合があった。また、麦芽から抽出されたものであるため、穀物の自然な風味とは異なる風味が付与された麺類になる場合があった。そのため、更なる技術の向上が求められているのが実情である。
【0007】
そこで、本技術では、色調に問題なく、穀物の甘み、香りを強く感じ、粘弾性も良好な麺類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、原料として特定の物性を有する粉末麦芽を麺類に用いることで、色調に問題なく、穀物の甘み、香りを強く感じ、粘弾性も良好な麺類が得られることを見出し、本技術を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本技術では、まず、下記の(a)及び(b)の特徴を有する、麺類用粉末麦芽を提供する。
(a)糖化力が50WK以下
(b)CIELAB表色系のL値が40以上
本技術に係る麺類用粉末麦芽は、さらに下記の(c)の特徴を有していてもよい。
(c)粒子径250μm以上の画分が20質量%以下
本技術に係る麺類用粉末麦芽に用いる前記麦芽としては、焙煎蒸し緑麦芽を用いることができる。
【0010】
本技術では、次に、本技術に係る麺類用粉末麦芽を含有する、麺類用組成物を提供する。
本技術に係る麺類用組成物には、前記粉末麦芽が、麺類に用いられる粉体材料100質量%当たり0質量%超、12質量%以下となるように含有させることができる。
【0011】
本技術では、さらに、本技術に係る麺類用粉末麦芽や、本技術に係る麺類用組成物が用いられた、麺類を提供する。
【0012】
本技術では、加えて、蒸し緑麦芽を焙煎する焙煎工程を含む、下記の(a)及び(b)の特徴を有する麺類用粉末麦芽の製造方法を提供する。
(a)糖化力が50WK以下
(b)CIELAB表色系のL値が40以上
【0013】
本技術では、また、下記の(a)及び(b)の特徴を有する、麺類用粉末麦芽を添加する添加工程を含む、麺類の製造方法を提供する。
(a)糖化力が50WK以下
(b)CIELAB表色系のL値が40以上
本技術に係る麺類の製造方法における前記添加工程では、前記麺類用粉末麦芽を、麺類に用いられる粉体材料100質量%当たり、0質量%超、12質量%以下添加することができる。
【0014】
本技術では、また、下記の(a)及び(b)の特徴を有する、麺類用粉末麦芽を添加する添加工程を含む、麺類の風味向上方法を提供する。
(a)糖化力が50WK以下
(b)CIELAB表色系のL値が40以上
【発明の効果】
【0015】
本技術によれば、色調に問題なく、穀物の甘み、香りを強く感じ、粘弾性も良好な麺類を提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0017】
<麺類用粉末麦芽>
本技術に係る麺類用粉末麦芽は、下記の(a)及び(b)の特徴を有する。
(a)糖化力が50WK以下
(b)CIELAB表色系のL値が40以上
【0018】
本技術に係る麺類用粉末麦芽を用いることで、色調に問題なく、穀物の甘み、香りを強く感じ、粘弾性も良好な麺類を提供することができる。本技術に係る麺類用粉末麦芽を麺類に用いる方法に特に制限はなく、例えば、製造原料の一つとして生地調製時に添加して麺類を製造することができる。また、本技術に係る麺類用粉末麦芽と、麺類の他の材料とを用いて麺類用組成物(麺類用ミックス)を調製し、該麺類用組成物を用いて麺類を製造することもできる。
【0019】
本技術に係る麺類用粉末麦芽の糖化力は、50WK以下であれば、本技術の効果を発揮することができるが、好ましくは30WK以下、より好ましくは20WK以下、さらに好ましくは10WK以下である。糖化力が低いほど、粘弾性を向上させることができる。即ち、糖化力の下限値は限定されず、糖化力は0であってもよい。なお、本技術において、「糖化力」とは、澱粉分解酵素の総活性であり、以下の方法により測定することができる。
【0020】
<粉末麦芽抽出液の調製>
粉末麦芽20gをビーカーに正確に計りとり、これに480mLの水を加えた後、40℃の恒温水槽に浸し1時間攪拌する。攪拌終了後に冷水で室温に戻し、水を加えて520gにする。得られた麦芽スラリーを東洋濾紙No.2を用いて濾過し、最初の濾液200mLを捨て、次の50mLを試料(以下、抽出液)として測定に供する。
【0021】
<糖化反応>
澱粉溶液は澱粉(例えば、Merck社の分析用可能性澱粉(No.1252))10gを400mLの沸騰水に加えて5分間煮沸した後に急冷し、水を加えて500mLとしたものを用いる。2個の200mL容のメスフラスコ(試験用とブランク用)に100mLの澱粉溶液を入れる。試験用メスフラスコには、酢酸バッファー溶液(酢酸30gを水に溶かし1Lとした溶液と、酢酸ナトリウム3水和物34gを水に溶かし500mLとした溶液の混合液)5mLを加えておく。まず、これらの2個のメスフラスコを20℃の恒温水槽に20分間浸す。次いで、試験用メスフラスコに、5mLの抽出液を加え、30分間20℃の恒温水槽に入れる。抽出液を加えた30分後に4mLの1N 水酸化ナトリウム溶液(20gの水酸化ナトリウムを水に溶かし500mLとした溶液)を加えて糖化反応を止める。ブランク用メスフラスコには、2.35mLの1N 水酸化ナトリウム溶液を加えてから5mLの抽出液を加える。
【0022】
<測定>
糖化反応後の2個のメスフラスコに対し、標線まで水を加える。各メスフラスコから50mLの液をとり、それぞれ200mL容の共栓付三角フラスコに入れる。各三角フラスコに、それぞれ25mLの0.1Nヨウ素液(0.1Nヨウ素液は20gのヨウ化カリウムを200mLの水に溶かした溶液に12.7gのヨウ素を加え、さらに水を加えて1Lとした溶液)及び3mLの1N水酸化ナトリウム溶液を加えた後、栓をして15分間暗所に静置する。次いで、各三角フラスコに、4.5mLの1N硫酸溶液(濃硫酸28mLを、予め700mLの水を入れたビーカー中に攪拌しながら徐々に加え、水を加えて1Lとした溶液)を加える。その後、未反応の残存ヨウ素をファクターの標定された0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液(24.82gのチオ硫酸ナトリウム及び7.6gの四ホウ酸ナトリウムを400mLの水に溶かした後に水を加えて1Lとし、ファクターを標定した溶液)を用いて標定し、青色の消える点の滴定値を求める。糖化力(DP)は上記の条件化で生成されたマルトースのグラム数で表し、下記式(1)で求められる。下記式(1)中、fは0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター、VBはブランク試験におけるチオ硫酸ナトリウム溶液の滴定値、VTは本試験におけるチオ硫酸ナトリウム溶液の滴定値である。
式(1):DP=f×(VB-VT)×34.2
【0023】
本技術に係る麺類用粉末麦芽のCIELAB表色系のL値は、40以上であれば、本技術の効果を発揮することができるが、好ましくは50以上、より好ましくは55以上である。CIELAB表色系のL値が40以上の麺類用粉末麦芽を用いることで、色調に問題がない麺類を得ることができる。また、L値の上限値は、好ましくは90以下、より好ましくは85以下である。なお、CIELAB表色系のL値は、公知の手法を用いて色差計により測定された粉末麦芽の明度を示す値をいう。L値は、0から100までの数値で表され、L値0は黒、L値100は白を意味する。色差計としては、例えば、分光測色計CM-5(コニカミノルタ株式会社)を用いることができる。
【0024】
本技術に係る麺類用粉末麦芽は、さらに下記の(c)の特徴を有していてもよい。
(c)粒子径250μm以上の画分が20質量%以下
【0025】
本技術に係る麺類用粉末麦芽の粒子径は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されないが、好ましくは粒子径250μm以上の画分が20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。粒子径250μm以上の画分を上記範囲とすることで、粉末麦芽を配合した麺類の粘弾性がより良好となる。また、粉末麦芽を他の原料と混合した際に偏析が生じにくくなるため、製麺時の作業性を向上させることができる。
【0026】
なお、本技術において、粒子径250μm以上の画分の割合は、JIS規格60メッシュ(目開き250μm)で、篩分けに供した全量の粉末麦芽に対し、篩分けした後に篩を通過せずに篩上に残留する部分が占める割合である。
【0027】
本技術に係る麺類用粉末麦芽に用いる麦芽は、粉末化した際に上記特徴を有する粉末麦芽を得ることができれば特に限定されない。好ましくは、焙煎した麦芽であり、より好ましくは焙煎蒸し緑麦芽である。「焙煎蒸し緑麦芽」とは、蒸した緑麦芽を焙煎した麦芽をいう。緑麦芽は、一度低温乾燥したものを、乾燥工程を経ていない緑麦芽と同程度の水分含量(例えば40~45質量%)に水を加え調整してもよい。本技術に係る麺類用粉末麦芽の製造方法の詳細は後述するが、焙煎した麦芽を用いることで糖化力が低い又は糖化力が無い粉末麦芽を容易に得ることができる。また、蒸し緑麦芽を焙煎した麦芽を用いることで、酵素反応が進んだ蒸し緑麦芽の特徴を有した、糖化力が低い又は糖化力が無い粉末麦芽となり、穀物の甘み、香りをより強く感じ、粘弾性もより良好な麺類を得ることができる。
【0028】
本技術の粉末麦芽の原料は特に限定されず、大麦、小麦、ライ麦等の麦類が挙げられ、これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。本技術では、大麦を原料とする粉末麦芽を用いることが好ましい。
【0029】
<麺類用粉末麦芽の製造方法>
本技術に係る麺類用粉末麦芽の製造方法は、前述した特徴を有する粉末麦芽を得ることができれば、その方法は特に限定されない。加熱した麦芽を粉砕して前述した特徴を有する粉末麦芽を得てもよいし、粉末麦芽を加熱して前述した特徴を有する粉末麦芽を製造してもよい。好ましくは、加熱した麦芽を粉砕して製造する方法である。
【0030】
例えば、まず、原料の麦粒を発芽させて麦芽とする。緑麦芽の状態にすることが好ましい(発芽工程)。好ましい発芽の程度は、葉芽が穀粒の長さの50~100%まで伸長したものが良い。この程度の発芽状態の、緑麦芽にするための1つの具体的方法としては、浸麦槽に12~20℃の水を満たし、麦芽を20~60時間浸漬して、発芽に必要な水分を吸水させたあと、床が網目状の発芽室に移して、12~20℃の加湿した空気を網下から送りながら4~6日間発芽させる方法を挙げることができる。
【0031】
次に、得られた緑麦芽を焙煎して原料麦芽とする(焙煎工程)。焙煎するための1つの具体的な方法としては、回転ドラムで120~180℃で1~3時間加熱する方法を挙げることができる。好ましくは、密閉した回転ドラムで緑麦芽を60~80℃で0.5~2時間保持し蒸し緑麦芽を得て(蒸らし工程)、その後密閉状態を解いて、120~180℃で1~3時間加熱する(焙煎工程)方法である。さらに好ましくは、焙煎工程の温度が120~140℃である。焙煎した麦芽は、必要に応じて脱根、研磨工程を経て、原料麦芽とする。
【0032】
そして、得られた原料麦芽を粉砕して前述した特徴を有する粉末麦芽を製造する。粉砕方法としては、ロール式粉砕、衝撃式粉砕、気流式粉砕等公知の方法を用いることができる。必要に応じて、篩や分級機等を用いて整粒しても良い。
【0033】
<麺類用組成物>
本技術に係る麺類用粉末麦芽は、本技術の効果を損なわない限り、麺類の他の材料と共に、麺類用組成物として流通させることができる。即ち、麺類用ミックスとして流通させることができる。
【0034】
本技術に係る麺類用組成物中の麺類用粉末麦芽の含有量は、本技術の効果を損なわない限り、目的の麺類の種類や性質等に応じて、自由に設定することができる。
【0035】
本技術において、麺類用組成物中の麺類用粉末麦芽の含有量は、麺類に用いられる粉体材料100質量%当たり、好ましくは0質量%超、12質量%以下であり、より好ましくは0.1~10質量%、さらに好ましくは0.15~9質量%、0.3~7質量%、0.5~6質量%、1~5.5質量%としてもよい。上記範囲にすることで、色調の問題が生じにくく、穀物の甘み、香りを強く感じ、粘弾性も良好な麺類を得ることができる。なお、本発明において、「粉体材料」とは、麺類用生地を調製する際に用いる粉状の材料(粉末麦芽を含む)をいうが、水などの液状材料に溶解又は分散させてから他の材料と混合する材料(例えば、実施例における塩など)は、麺類に用いられる粉体材料には含まないものとする。
【0036】
以上説明した麺類用組成物中の麺類用粉末麦芽の含有量は、麺類に用いられる粉体材料100質量%当たりの量である。即ち、麺類用生地を調製する際に、麺類用組成物にさらに粉体材料を加えて製造する場合には、麺類用組成物に含有する粉体材料と製造時に加える粉体材料を合わせた100質量%当たりの量であるため、麺類用組成物中の麺類用粉末麦芽の含有量は、前述の数値よりも大きくなる。
【0037】
<麺類>
本技術における麺類とは、中華麺やスパゲッティ、マカロニなどのパスタ類に用いられる麺線はもちろん、餃子やしゅうまい、ラザニアなどに用いられる麺皮類を包含する概念である。具体的には、例えば、中華麺、焼きそば、うどん、和そば、素麺、冷や麦、冷麺、ビーフン、きしめんなどの麺線はもちろん、餃子皮、しゅうまい皮、ワンタン皮、春巻皮、ラザニアシートなどに用いられる麺皮類が挙げられる。
【0038】
また、本技術において、麺類は、調理前の麺類と調理済の麺類の両方を包含する概念である。調理済の麺類を調製する場合は、麺線などの未調理の麺類を、湯の中で茹でるなどして調理すればよい。麺類の調理方法は特に制限されないが、茹でて調理することはもちろん、油ちょうや蒸し、電子レンジなどによって調理してもよく、喫食可能になるまで麺類をα化すればよい。また、麺類の形態も特に限定されず、生麺、乾麺(半乾燥麺を含む。)、茹で麺、蒸し麺、揚げ麺、冷蔵麺(チルド麺)、冷凍麺、即席麺、調理麺、LL(ロングライフ)麺のいずれにも適用できる。
【0039】
本技術に係る麺類は、上述した本技術に係る麺類用粉末麦芽、又は本技術に係る麺類用組成物を製造原料の一部又は全部として製造することで得られる。本技術において、麺類中の麺類用粉末麦芽の含有量は、本技術の効果を損なわない限り、目的の麺類の種類や性質等に応じて、自由に設定することができる。
【0040】
<麺類の製造方法、麺類の風味向上方法>
本技術に係る麺類の製造方法(以下、単に「本技術に係る製造方法」とも称する。)、或いは本技術に係る麺類の風味向上方法(以下、単に「本技術に係る風味向上方法」と称する。)は、上述した本技術に係る麺類用粉末麦芽を添加する添加工程を含む。
【0041】
本技術に係る製造方法、或いは本技術に係る風味向上方法において、上述した本技術に係る麺類用粉末麦芽を添加する方法や、添加するタイミングについては、特に限定されない。例えば、麺類の製造に用いる製造原料に代えて、又はその一部とともに、上述した本技術に係る麺類用粉末麦芽を製造原料の一つとして、所定量添加することができる。また、麺類用生地の調製時に本技術に係る麺類用粉末麦芽を製造原料の一部として添加したり、本技術に係る麺類用粉末麦芽を含有する麺類用組成物を予め調製した上で、当該麺類用組成物を用いて麺類用生地を調製することができる。
【0042】
添加工程における前記麺類用粉末麦芽の添加量は、本技術の効果を損なわない限り、目的の麺類の種類や性質等に応じて、自由に設定することができる。好ましくは、麺類に用いられる粉体材料100質量%当たり0質量%超、12質量%以下であり、より好ましくは0.1~10質量%、さらに好ましくは0.15~9質量%、0.3~7質量%、0.5~6質量%、1~5.5質量%としてもよい。上記範囲にすることで、色調の問題が生じにくく、穀物の甘み、香りを強く感じ、粘弾性も良好な麺類を得ることができる。
【0043】
麺類の製造方法は特に限定されず、麺類用生地の調製方法も一般的な調製方法を自由に用いることができる。例えば、本技術に係る麺類用粉末麦芽や、麺類用組成物に、必要に応じて粉体材料、水、塩などを配合して混練し、麺類用生地を調製することができる。また、中華麺用生地を調製する場合には、さらに、かんすいなどを配合してもよい。
【0044】
麺類用生地を調製する際の水の量は、麺類の種類にもよるが、通常は、麺類に用いられる粉体材料100質量部に対し、水25~50質量部とすることが好ましく、水28~48質量部とすることがより好ましい。当該質量比において、粉体材料に含まれる水分は「水」ではなく「粉体材料」を構成するものとする。
【0045】
本発明に係る麺類の製造方法において、製麺方法は、圧延製麺、ロール式製麺、押出式製麺などの公知の製麺方法を採用することができる。本発明の一つの態様において、麺類用生地は、圧延され、所望の厚さの麺帯とされる。当該圧延は、麺類用生地を圧延ロールに通すことで行われる。次いで、製麺機などを用いて麺帯を切り出して麺線とし、この麺線を所望の長さに切断することにより生麺を得ることができる。また、型抜き機などを用いて麺帯から麺皮を得ることができる。
【0046】
本発明の一つの態様において、麺類用生地を引き伸ばしたり撚ったりして麺線を得てもよく、また、麺類用生地を穴などから押し出して麺類を製造してもよい。一般に、スパゲッティやマカロニなどの麺類は、麺類用生地を押し出して製造することが多い。また本技術においては、機械を用いて製麺してもよく、機械を用いずに手延べや手打ちによって製麺してもよい。本発明に係る麺類の製造方法において、本発明の効果が得られ易い点で熟成工程を含むことが好ましい。熟成工程を含んでも、本発明に係る麺類用粉末麦芽は糖化力が制御されているため、粘弾性の良好な麺類を得ることができる。なお、熟成工程のタイミングは特に限定されず、麺類用生地又は麺帯、生麺、麺皮を必要に応じて温度、湿度、時間などを設定し、保管すればよい。
【0047】
本発明に係る麺類の製造方法において、例えば、前記生麺を茹でることによって茹で麺が得られ、蒸すことによって蒸し麺が得られ、調湿乾燥法などにより乾燥すれば乾麺が得られる。また、例えば、茹で処理又は蒸し処理を行った後、フライ用バスケットあるいは乾燥用バスケットに一食ずつ成形充填し、フライあるいは高温熱風乾燥処理すれば即席麺が得られる。
【実施例0048】
以下、実施例に基づいて本技術をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0049】
<実験例1>
実験例1では、下記の表1に示す各粉末麦芽の製造を行い、それぞれの物性を測定した。
【0050】
(1)粉末麦芽の製造
カラメル麦芽、黒麦芽、ミュンヘン麦芽(アサヒビールモルト株式会社)を粉砕し、粉末麦芽1~5を得た。また、粉末麦芽6として、市販の粉末麦芽「モルトフラワー」(アサヒビールモルト株式会社)を用いた。各粉末麦芽の物性(糖化力、CIELAB表色系のL値、粒子径250μm以上の画分)について、各麦芽の製造方法の概要とあわせて下記表1に記載する。なお、糖化力、CIELAB表色系のL値、粒子径250μm以上の画分は、上述した方法により測定した。
【0051】
【0052】
<実験例2>
実験例2では、用いる粉末麦芽の物性の違いによる麺類への影響を調べた。本実験例では麺類の一例として中華麺を製造した。
【0053】
(1)中華麺の製造
横型ピンミキサーを用いて、小麦粉(「金蘭」昭和産業株式会社)及び粉末麦芽を、下記の表2に示す配合(質量%)で混合し、麺類用組成物を調製した。この組成物100質量部に、塩1質量部、かんすい1質量部、水35質量部を添加して混合した後、15分間ミキシングし、麺類用生地を作製した。作製した生地を、ロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切り刃:角20番)、麺線の厚みが1.5mmの生麺を製造し、冷蔵庫にて2日間熟成させ、熟成麺を得た。得られた熟成麺を、沸騰水中で3分間茹でた後、温かいスープ(「醤油ラーメンスープ」株式会社創味食品)に入れ、中華麺を製造した。
【0054】
(2)評価
製造した中華麺について、10人の専門パネルによって、味、香り、粘弾性、色を評価した。評価方法は、下記の基準に基づいて5段階で実施し、平均点を算出した。
【0055】
[味]
5:対象区(参考例)に比べ、穀物の甘みが非常に強く感じられる(非常に良好)
4:対象区(参考例)に比べ、穀物の甘みが強く感じられる(良好)
3:対象区(参考例)に比べ、穀物の甘みが同程度に感じられる
2:対象区(参考例)に比べ、雑味や苦味がやや感じられる(やや劣る)
1:対象区(参考例)に比べ、雑味や苦味が感じられる(劣る)
【0056】
[香り]
5:対象区(参考例)に比べ、穀物の香りが豊かである(非常に良好)
4:対象区(参考例)に比べ、穀物の香りが良好である(良好)
3:対象区(参考例)に比べ、穀物の香りが同程度に感じられる
2:対象区(参考例)に比べ、穀物の香りがやや弱い(やや劣る)
1:対象区(参考例)に比べ、穀物の香りが弱い(劣る)
【0057】
[粘弾性]
5:粘弾性が非常に良好である
4:粘弾性が良好である
3:粘弾性がやや良好である
2:粘弾性がやや劣る
1:粘弾性が劣る
【0058】
[麺類の色]
5:麺類の色にくすみがなく、非常に良好
4:麺類の色にほとんどくすみがなく、良好
3:麺類の色がわずかにくすんでいるが、許容できる(やや良好)
2:麺類の色がややくすんでおり、やや劣る
1:麺類の色がくすんでおり、劣る
【0059】
(3)結果
結果を下記の表2に示す。
【0060】
【0061】
(4)考察
上記表2の結果から、糖化力が50WK以下、かつ、CIELAB表色系のL値が40以上である粉末麦芽1~3を用いた中華麺(実施例1~3)は、色調に問題なく、穀物の甘み、香りを強く感じ、粘弾性も良好であった。一方、CIELAB表色系のL値が40未満である粉末麦芽4を用いた中華麺(比較例1)は、穀物の甘み、香りの評価が高く、粘弾性も良好であったが、色調に問題があった。糖化力が50WKを超える粉末麦芽5、6を用いた中華麺(比較例2、3)は、色調に問題なく、穀物の甘み、香りの評価も高かったが、粘弾性の評価が低かった。
【0062】
<実験例3>
実験例3では、用いる粉末麦芽の添加量の違いによる麺類への影響を調べた。本実験例では麺類の一例として中華麺を製造した。
【0063】
(1)中華麺の製造
下記の表3に記載する材料を用いて、前記実験例2と同様の方法で中華麺を製造した。
【0064】
(2)評価
製造した中華麺の味、香り、粘弾性、色について、前記実験例2と同様の方法で評価を行った。
【0065】
(3)結果
結果を下記の表3に示す。
【0066】
【0067】
(4)考察
上記表3の結果から、本発明に係る粉末麦芽(粉末麦芽1)を麺類に用いられる粉体材料100質量%当たり0質量%超、12質量%以下添加した中華麺(実施例1及び4~7)は、色調に問題なく、穀物の甘み、香りを強く感じ、粘弾性も良好であった。
【0068】
<実験例4>
実験例4では、本技術に係る麺類用粉末麦芽を用いて、餃子の皮を製造した。
【0069】
(1)餃子の製造
横型ピンミキサーを用いて、小麦粉(「金蘭」昭和産業株式会社)及び粉末麦芽を、下記の表4に示す配合(質量%)で混合して餃子の皮用組成物を調製した。この組成物100質量部に、塩1質量部、加工油脂(「フレンジーM」理研ビタミン株式会社)1質量部、水34質量部を添加して混合・混練し、そぼろ状の生地を調製した。その後、そぼろ状の生地を製麺機の圧延ロールに掛け麺帯を調製した。得られた麺帯を型でくりぬき、冷蔵庫にて2日間熟成させ、餃子の皮(直径90mm、厚さ1mm)を製造した。
【0070】
餃子の餡は、豚挽き肉200質量部、ラード30質量部を混合し、ごま油25質量部、醤油25質量部、酒15質量部、おろしニンニク2質量部、おろしショウガ2質量部、及びコショウ少々を加えてさらに混合し、キャベツ400質量部、及び刻んだニラ400質量部を加えて軽く混合して、餡を調製した。前記で製造した餃子の皮を用いて、15gの餡を包み、生餃子を調製した。
【0071】
調製した生餃子を、油をひいた200℃に加熱したフライパンで1分間焼成し、さらに水を加え5分間蒸し焼きにして、焼き餃子を製造した。
【0072】
(2)評価
製造した餃子の皮の味、香り、粘弾性、色について、前記実験例2と同様の方法で評価を行った。
【0073】
(3)結果
結果を下記の表4に示す。
【0074】
【0075】
(4)考察
上記表4の結果から、本発明に係る粉末麦芽(粉末麦芽1)を用いた餃子の皮は、色調に問題なく、穀物の甘み、香りを強く感じ、粘弾性も良好であった。