(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150979
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】処理システムおよび荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/28 20060101AFI20231005BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01J37/28 B
H01L21/66 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060349
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 聖也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 計
(72)【発明者】
【氏名】山口 聡
(72)【発明者】
【氏名】角田 純一
【テーマコード(参考)】
4M106
5C101
【Fターム(参考)】
4M106AA01
4M106AA10
4M106BA02
4M106CA39
4M106DB05
4M106DB20
4M106DJ27
5C101AA03
5C101EE48
5C101FF02
5C101HH11
5C101HH15
5C101HH19
5C101HH36
5C101HH38
(57)【要約】
【課題】インナースペーサーとインナースペーサーとの間のような溝あるいは孔の画像から、溝や孔内に成長したエピタキシャル層の成長度合いまたは欠陥の有無を判定することを目的とした、処理システムおよび荷電粒子ビーム装置を提案する。
【解決手段】コンピュータシステムを備えた処理システムにおいて、前記コンピュータシステムは、複数の構造体の間の層に電子ビームを照射することによって得られた、前記層に係る2次元平面上の一方向に応じた信号プロファイルから、前記層に係る距離および輝度値を算出し、前記距離および前記輝度値に基づいて、前記層の状態を判定または出力する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータシステムを備えた処理システムであって、
前記コンピュータシステムは、
複数の構造体の間の層に電子ビームを照射することによって得られた、前記層に係る2次元平面上の一方向に応じた信号プロファイルから、前記層に係る距離および輝度値を算出し、
前記距離および前記輝度値に基づいて、前記層の状態を判定または出力する、
処理システム。
【請求項2】
前記構造体は、インナースペーサーである、請求項1に記載の処理システム。
【請求項3】
前記コンピュータシステムは、
前記信号プロファイルに基づき、前記複数の構造体の領域に係る複数の第1位置を特定し、
前記複数の第1位置に基づき、前記層に係る第2位置を特定し、
所定の閾値および前記第2位置に基づき、前記層に係る複数の第3位置を特定し、
前記複数の第3位置に基づいて前記層に係る距離を算出する、
請求項1に記載の処理システム。
【請求項4】
前記コンピュータシステムは、前記複数の第1位置間における前記輝度値が前記閾値以上であるか、または、前記複数の第1位置間における前記輝度値が前記閾値を超えている場合には、前記距離を、前記複数の第3位置に代えて前記複数の第1位置に基づいて算出する、
請求項3に記載の処理システム。
【請求項5】
前記第2位置は、2つの第1位置間の中央位置であり、
前記コンピュータシステムは、前記中央位置から前記信号プロファイルの両側に向かって探索することによって、前記複数の第3位置を特定する、
請求項3に記載の処理システム。
【請求項6】
前記層はエピタキシャル成長層であり、
前記層の状態は、前記層の成長度合いまたは欠陥の有無を含む、請求項1に記載の処理システム。
【請求項7】
前記処理システムは複数の前記閾値を記憶し、前記層の種類に応じて前記閾値を選択する、請求項3に記載の処理システム。
【請求項8】
前記処理システムは、前記層における所定の輝度範囲を有する面積に基づいて、前記層の状態を判定または出力する、請求項1に記載の処理システム。
【請求項9】
前記コンピュータシステムは、前記層に係る前記距離を、前記信号プロファイルにおいて信号が最小値となる位置に基づいて算出する、請求項1に記載の処理システム。
【請求項10】
請求項1に記載の処理システムを備える荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は処理システムおよび荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の半導体デバイスは微細化が進み、それに伴いエピタキシャル成長のプロセスウィンドウも狭くなっている。それに伴い、エピタキシャル層を詰めて配置する際にエピタキシャル層同士が結合しないようにするためにインナースペーサーが使用されている。一方、半導体デバイスの製造プロセスを管理するために、走査電子顕微鏡等の荷電粒子ビーム装置が用いられている。走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)は、集束した電子ビームを微細パターン上で走査することによって、パターンの画像や信号波形を取得する装置であり、微細なパターンの走査や検査が可能な装置である。しかしながら、エピタキシャル層から放出される電子は、試料表面に放出される前にインナースペーサーやダミーゲートなどの側壁に衝突してしまうものがあるため、検出効率が低く、結果としてエピタキシャル層の高精度な測定は困難である。
【0003】
特許文献1には、下層の欠陥を検査するためのパターン画像を改善する走査電子顕微鏡が開示されている。より具体的には、加速電圧によるサンプルへの電子の侵入長の違いを利用し、2種類の加速電圧を使用してそれぞれ画像を取得し、それらの差分を取ることで下層パターンを強調する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0136717号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加速電圧が変更されると、検出効率が異なるためにインナースペーサーとインナースペーサーとの間のような溝部のエピタキシャル層だけではなく、生成されるSEM画像自体が大きく異なる。また、エピタキシャル層部に電子が届いたとしても、二次電子が側壁に衝突し検出効率が低くなることに違いはない。特許文献1に開示されているように、加速電圧を変更して再撮像しても、インナースペーサーとインナースペーサーとの間の溝部のエピタキシャル層のみを強調できず、高精度測定は困難となる。
【0006】
一方、最近の半導体デバイスでは、トランジスタのオン電流を上昇させるために、Siに対しSiGeなど、格子定数の異なる材料をエピタキシャル成長することによって、格子歪による移動度向上が行われている。エピタキシャル層が薄すぎるとソースドレイン間の抵抗が大きく十分なトランジスタのオン電流を得ることができず、厚すぎるとスペーサ部やハイK(High-K)膜への接触が増加するため、静電容量が増加しトランジスタの応答性能が低下する。そのため、適切にエピタキシャル層の成長管理が必要である。また、エピタキシャル成長の結果は、N型やP型の違い、ウェーハ面内、インナースペーサーとインナースペーサーの間の距離によっても異なるため、観察、計測する必要がある。
【0007】
計測には、微細パターンの測定や検査が可能な電子顕微鏡を用いることが望ましいが、エピタキシャル層の二次電子検出量はインナースペーサーなどのその他領域より低く、エピタキシャル層の観察は非常に困難である。更に、昨今の半導体プロセス管理において、測定や検査の効率化の要求は高く、自動化が求められている。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、以下に、インナースペーサーとインナースペーサーとの間のような溝あるいは孔の画像から、溝や孔内に成長したエピタキシャル層の成長度合いまたは欠陥の有無を判定することを目的とした、処理システムおよび荷電粒子ビーム装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る処理システムの一例は、
コンピュータシステムを備えた処理システムであって、
前記コンピュータシステムは、
複数の構造体の間の層に電子ビームを照射することによって得られた、前記層に係る2次元平面上の一方向に応じた信号プロファイルから、前記層に係る距離および輝度値を算出し、
前記距離および前記輝度値に基づいて、前記層の状態を判定または出力する。
【0010】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置の一例は、上述の処理システムを備える。
【発明の効果】
【0011】
上記構成によれば、インナースペーサーとインナースペーサーとの間の溝あるいは孔の画像から、溝や孔内に成長したエピタキシャル層の成長度合いの計測または欠陥の有無の判定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施例1に係る走査電子顕微鏡を示す全体概略図。
【
図3】実施例1のエピタキシャル成長後の断面図と上面図とプロファイルの関係。
【
図4】実施例1において閾値を決定するためのGUIの例。
【
図6】実施例1において閾値以下の輝度があった場合にエピタキシャル部の幅を計測する例。
【
図7】実施例1において閾値以下の輝度がなかった場合にインナースペーサー間の距離を計測する例。
【
図8】本開示の実施例2において閾値を決定するためのGUIの例。
【
図9】本開示の実施例3において閾値を決定するためのGUIの例。
【
図11】実施例4のインナースペーサーがないまたは信号が弱い場合の例。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施例を添付図面に基づいて説明する。
[実施例1]
図1は、本開示の実施例1に係る走査電子顕微鏡(荷電粒子ビーム装置)を示す全体概略図である。
図1の装置構成について説明する。電子源101から電子ビーム102が引出される下流方向には、変形照明絞り103、検出器104、走査偏向用偏向器105、対物レンズ106が配置されている。更に、電子光学系には、一次ビームの中心軸(光軸)調整用アライナ、収差補正器等も付加されている(図示せず)。
【0014】
なお、本実施例における対物レンズ106は励磁電流によってフォーカスを制御する電磁レンズである例を示すが、静電レンズまたは電磁レンズと静電レンズの複合であってもよい。ステージ107は上にウェハ、すなわち試料108を載置して移動する構成となっている。
【0015】
電子源101、検出器104、走査偏向用偏向器105、対物レンズ106、ステージ107の各部には制御装置109が接続し、さらに制御装置109にはシステム制御部110が接続している。
【0016】
システム制御部110は、コンピュータシステムを備え、本実施例に係る処理システムとして機能する。システム制御部110の動作は、このコンピュータシステムによって実現される。システム制御部110のコンピュータシステムは、機能的には記憶装置111、演算部112が配置され、画像表示装置を備えた入出力部113が接続されている。
【0017】
図示していないが、システム制御部110の制御系、回路系以外の構成要素は真空容器内に配置されており、真空排気して動作させている。また、真空外からウェハをステージ上に配置するウェハ搬送系が具備されている。
【0018】
なお、システム制御部110は、より具体的には、演算部112である中央処理部と、記憶装置111である記憶部とを備えた構成である。この中央処理部を上述の演算部112として記憶装置111に記憶されたプログラム等を実行させることにより、欠陥検査や寸法計測にかかわる画像処理、あるいは制御装置109等の制御を行うことができる。
【0019】
本明細書において、このシステム制御部110、入出力部113、制御装置109等をも含め、制御部と総称する場合がある。更に、入出力部113は、キーボードやマウス等の入力手段と、液晶表示デバイスなどの表示手段が、入力部、出力部として別構成とされていても良いし、タッチパネルなどを利用した一体型の入出力手段で構成されていても良い。
【0020】
装置を用いて実施される画像観察に関して説明する。電子源101から放出された電子ビーム102は対物レンズ106によってそのフォーカスを制御され、試料108上にビーム径が極小になるように集束される。走査偏向用偏向器105は電子ビーム102が試料108の定められた領域を走査するように制御装置109により制御される。
【0021】
試料108の表面に到達した電子ビーム102は、表面付近の物質と相互に作用する。これにより、後方散乱電子、二次電子、オージェ電子等の二次的な電子が試料から発生し、取得すべき信号となる。本実施例においては信号が二次電子である場合について示す。
【0022】
電子ビーム102が試料108に到達した位置から発生した二次電子114は検出器104により検出される。検出器104から検出される二次電子114の信号処理が、制御装置109から走査偏向用偏向器105に送られる走査信号と同期して行われることによりSEM画像が形成され、試料108の観察が実施される。なお、本実施例においては、検出器104は対物レンズ106や走査偏向用偏向器105より上流に配置したが、配置の順序は入れ替わっていてもよい。
【0023】
本実施例では、輝度プロファイルを用いたレシピ登録および実行について説明する。
図2にレシピ登録のフローを、
図3にエピタキシャル成長後の断面図と上面図とプロファイルの関係を、
図4に閾値を決定するためのGUI(Graphical User Interface)の例を示す。
【0024】
図2の処理は、システム制御部110によってその実行が制御される。
図2において、まず輝度値の比較を行うために、検出器の機差および経時変化を補正する(201)。例えば、検出器にかける電圧による輝度増幅率の特性曲線を取得し補正を行ってもよいし、同一パターンの輝度のオフセットより補正してもよい。
【0025】
次に、計測対象である試料108のパターンを撮像し、撮像時の検出器パラメータを記憶する(202)。撮像した画像には輝度補正分のオフセットを入れてもよい。
【0026】
エピタキシャル成長が不十分な領域では、エピタキシャル部以外の領域(たとえばインナースペーサー)や十分に成長したエピタキシャル部に比べて輝度が暗くなる。これについて、
図3を用いて説明する。
【0027】
図3(a)はエピタキシャル成長が十分な場合の断面図であり、
図3(b)はエピタキシャル成長が不十分な場合の断面図である。基板303上において、2つのインナースペーサー301の間にエピタキシャル部302(エピタキシャル成長層)が成長しているが、
図3(b)ではエピタキシャル部302の成長度合いが
図3(a)に比べて小さい。
【0028】
図3(c)は、エピタキシャル成長が十分な場合の上面図であり、
図3(a)に対応する。
図3(d)は、エピタキシャル成長が不十分な場合の上面図であり、
図3(b)に対応する。矢印は荷電粒子ビームの走査方向すなわち信号プロファイルの時間軸方向を表す。この方向は、エピタキシャル成長層に係る2次元平面上の一方向であり、信号プロファイルはこの方向に応じて生成される。エピタキシャル部302の両端の領域の輝度は、
図3(d)では
図3(c)に比べて小さい。
【0029】
図3(e)は、エピタキシャル成長が十分な場合の画像のプロファイル(信号プロファイル)であり、
図3(f)は、エピタキシャル成長が不十分な場合の画像のプロファイル(信号プロファイル)である。
【0030】
なおインナースペーサー(構造体)は、たとえば半導体フィン型ゲート層とすることができる。このようにすると、具体的な構造を有する半導体デバイスにおいて適切な処理を行うことができる。
【0031】
図2において、ステップ202の後に、エピタキシャル部の成長度合いを判定するための閾値(たとえば%単位)が入力され、レシピパラメータとして記憶される(203)。
【0032】
例えば、エピタキシャル部において、または、2つのインナースペーサーの間において、ある領域の輝度がエピタキシャル部の最大輝度の30%以下である場合には、その領域ではエピタキシャル成長が不十分であると定義する。その値「30%」をレシピの情報として記録する。また、輝度値そのものである「3000」を閾値としてもよい。
【0033】
たとえば
図4に示すGUIにおいて、ユーザが判断して閾値を決定し、たとえば閾値入力欄401に入力する。この例では30%である。システム制御部110はこの閾値を受け付けて記憶する。
【0034】
図5にレシピ実行のフローを示す。
図5の処理は、システム制御部110によってその実行が制御される。まずレシピ登録時同様、輝度値の比較を行うために、検出器の機差および経時変化を補正する(501)。
【0035】
その後、画像を撮像する(502)。撮像した画像には輝度補正分のオフセットを入れてもよい。
【0036】
次に、インナースペーサー・インナースペーサー間の領域を特定する(503)。本明細書において、「インナースペーサー・インナースペーサー間」とは、2つのインナースペーサーの間を意味する。具体例として、信号プロファイルに基づき、複数の構造体(本実施例では2つのインナースペーサー)の領域に係る複数の第1位置を特定し、それらの第1位置の間の領域を特定する。
【0037】
図6および
図7を用いてこの処理の例を説明する。
図6は、エピタキシャル成長が不十分な場合の画像のプロファイルの例であり、
図7は、エピタキシャル成長が不十分な場合の画像のプロファイルの例である。
【0038】
図6(a)および
図7(b)はそれぞれの信号プロファイルを示し、閾値601および閾値701は、レシピに登録された閾値(たとえば
図4のGUIに入力されたもの)を表す。
図6(b)および
図7(b)は、インナースペーサー位置602(第1位置)およびインナースペーサー位置702(第1位置)の例を示す。
【0039】
インナースペーサー位置は、たとえば信号プロファイルのピーク位置として特定されるが、他の特定方法を用いてもよい。より具体的には、2値化やプロファイルの1次微分のゼロクロス、2次微分のピーク値や他の方法で検出してもよい。
【0040】
図5において、次に、インナースペーサー・インナースペーサー間中央から左右(または両側)のインナースペーサーに向けてレシピ登録時に記憶した閾値以下の輝度を探す(504)。たとえば、上記複数の第1位置に基づいて、エピタキシャル成長層に係る第2位置を特定する。具体例として、第2位置は、2つの第1位置間の中央位置、すなわちインナースペーサー・インナースペーサー間の中央位置603および中央位置703として特定される。別の具体例として、第2位置は、インナースペーサー・インナースペーサー間のピーク位置として特定される。
【0041】
そして、この中央位置と、レシピに登録された閾値とに基づいて、左右のインナースペーサーに向けて閾値以下の輝度を探すことにより、エピタキシャル成長層に係る複数のエッジ位置(第3位置)を特定する。たとえば、システム制御部110は、
図6(b)および
図7(b)に示すように、中央位置603および中央位置703から信号プロファイルの両側に向かって探索することによって、複数のエッジ位置を特定する。このようにすると、中央位置の両側でそれぞれエッジ位置を特定することができる。
【0042】
次に、システム制御部110は、エッジ位置を特定する(505)。
図6(c)のように閾値以下の輝度があった場合には、その輝度の位置(より具体的な例として、それぞれの探索方向で最初に発見された閾値以下の輝度の位置)を、エピタキシャル部のエッジ位置604(第3位置)とする。一方、
図7(c)のように閾値以下の輝度がなかった場合には、インナースペーサーの端部をエッジ位置704(第3位置)とする。インナースペーサーの端部は、たとえばインナースペーサー・インナースペーサー間で輝度が極小になる点として特定される。
【0043】
ここで、本実施例では「閾値以下」の輝度を探索するが、「閾値未満」の輝度を探索してもよい。すなわち、システム制御部110は、2つのインナースペーサー間における輝度値のすべてが閾値以上であるか、または、2つのインナースペーサー間における輝度値のすべてが閾値を超えている場合には、エピタキシャル成長層に係る距離を、エッジ位置に代えて両側のインナースペーサー位置に基づいて算出する。このようにすると、輝度に応じ、適切に場合分けを行って距離を算出することができる。
【0044】
さらなる変形例として、2つのインナースペーサー間における輝度値の「すべて」について閾値以上(または閾値を超える)か否かを判定するのではなく、2つのインナースペーサー間における輝度値の「一部」について閾値以上(または閾値を超える)か否かを判定してもよい。
【0045】
このようにして両側(左右)のエッジを検出した後、エッジ位置に基づいてエピタキシャル成長層に係る距離を算出する(506)。たとえば、2つのエッジ位置の間の距離が算出される。具体例として、
図6(c)の例では距離605が算出され、
図7(c)の例では距離705が算出される。
【0046】
このようにして、システム制御部110は、2つのインナースペーサーの間のエピタキシャル成長層に電子ビームを照射することによって得られた、所定方向に応じた信号プロファイルから、エピタキシャル成長層に係る距離および輝度値を算出する。
【0047】
そして、計測された距離を出力する(507)。
図6(c)のように閾値以下の輝度があった場合には、エッジ間の距離はエピタキシャル部の幅として出力される。一方、
図7(c)のように閾値以下の輝度がなかった場合には、エッジ間の距離はインナースペーサー間の距離として出力される。
【0048】
ここで、エピタキシャル成長層に係る距離および輝度値に基づいて、エピタキシャル成長層の状態が判定または出力される。たとえば、エッジ間の距離は、エピタキシャル成長層の成長度合いを表す数値として出力することができる。また、閾値以下の輝度がなかった場合(
図7)にはエピタキシャル成長層に欠陥がないということを示す情報を出力することができ、閾値以下の輝度があった場合(
図6)にはエピタキシャル成長層に欠陥があるということを示す情報を出力することができる。
【0049】
このように、実施例1に係る走査電子顕微鏡およびシステム制御部110によれば、インナースペーサーとインナースペーサーとの間の溝あるいは孔の画像から、溝や孔内に成長したエピタキシャル層の成長度合いの計測または欠陥の有無の判定が可能となる。
【0050】
とくに、
図6および
図7に示すように、インナースペーサー位置602(第1位置)およびインナースペーサー位置702(第1位置)、中央位置603(第2位置)および中央位置703(第2位置)、エッジ位置604(第3位置)およびエッジ位置704(第3位置)に基づいて判定を行うので、明確な位置特定に基づく処理が可能である。
【0051】
[実施例2]
本実施例では、デバイスごとに閾値を設定して、レシピ登録する例について説明する。以下、実施例1と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0052】
図8にP型とN型で異なる閾値を登録するためのGUIの例を示す。GUI801ではP型デバイスに対する閾値として20%が設定され、GUI802ではN型デバイスに対する閾値として30%が設定されている。
【0053】
システム制御部110は、これら2種類の閾値を記憶しておき、計測対象となるデバイスがP型かN型かを表す情報を取得して、この情報に応じて閾値を選択して使用する。このように、システム制御部110は複数の閾値を記憶し、層の種類に応じて閾値を選択する。層の種類を表す情報(たとえばデバイスがP型かN型かを表す情報)は、たとえば図示しないGUIから入力することができるが、システム制御部110が自動的に取得してもよい。
【0054】
なお、本実施例ではP型とN型とで異なる閾値を用いるが、他の基準でデバイスの種類を分類してもよい。
【0055】
このように、デバイスの種類ごとに閾値を設定することによって、デバイスの種類に応じて適切な閾値を用いて成長度合いの計測または欠陥の有無を評価することができる。
【0056】
[実施例3]
本実施例では閾値以下の輝度の面積で判定する際のレシピ登録および実行について説明する。以下、実施例1または2と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0057】
図2(上述)にレシピ登録のフローを、
図9にヒストグラムから閾値を決定するためのGUIを示す。ステップ201および202の処理は実施例1と同様とすることができる。ステップ203では、ユーザがヒストグラムからエピタキシャル部の最大輝度(または実質的な最大輝度)を確認し、それより低い値を閾値として入力する。たとえば、最大輝度が10000の場合に3000が入力される。また、最大輝度値に対する割合を閾値としてもよい。
図9の例では、閾値として3000LSB(Least Significant Bit)が入力されている。
【0058】
図10に、本実施例に係るレシピ実行のフローを示す。ステップ1001~1003は、
図5のステップ501~503と同様とすることができる。
【0059】
ステップ1003の後、インナースペーサー・インナースペーサー間の領域内において閾値以下の輝度を検出し、その面積を出力する(1004)。この面積は、エピタキシャル成長層の成長度合いを表す(ただし値が大きいほど成長度が低い)。また、領域全体の面積に対する、閾値以下である輝度の面積の割合を、成長度合いとして出力してもよい。さらに、領域内において閾値以上の輝度の面積を成長度合いとして出力してもよく(この場合には値が大きいほど成長度が高い)、領域全体の面積に対する、閾値以上である輝度の面積の割合を成長度合いとして出力してもよい。
【0060】
さらに、レシピ登録の時点で(たとえば
図2の処理において)、エピタキシャル成長が不十分(すなわち欠陥がある)と判定される面積の閾値、または割合の閾値を登録し、それらの閾値に基づいてエピタキシャル成長の成長度合い又は欠陥の有無を判定し、出力してもよい。
【0061】
このように、本実施例では、システム制御部110は、エピタキシャル層(本実施例では、インナースペーサー・インナースペーサー間の距離によって特定される層)における所定の輝度範囲を有する面積に基づいて、エピタキシャル層の状態を判定または出力する。このようにすると、たとえばノイズに強い判定を行うことができる。
【0062】
[実施例4]
図7はインナースペーサー信号がはっきりしている場合の例であるが、
図11のようにインナースペーサーがない場合やインナースペーサー信号がはっきりしていない場合1101、プロファイル波形は1102のようになる。この場合、計測するエピタキシャル成長部の左右のエピタキシャル成長部と信号が最小値となる位置1104の距離1105としてもよいし、あらかじめ決めた値を返すようにしてもよい。すなわち、システム制御部110は、エピタキシャル成長層に係る距離を、信号プロファイルにおいて信号が最小値となる位置に基づいて算出してもよいし、予め記憶した所定値として算出してもよい。このようにすると、インナースペーサーがない場合やインナースペーサー信号がはっきりしていない場合でも距離を出力することができる。
【0063】
[その他の実施例]
上記各実施例では、状態判定の対象となる層はエピタキシャル成長層であり、とくに、層の状態は、層の成長度合い(たとえば数値によって表される)および/または欠陥の有無(たとえば2値の情報によって表される)を含む。このようにすると、エピタキシャル成長層に特化して適切な判定を行うことができる。しかしながら、他の任意の種類の層を対象としてもよく、その場合には、層の状態の判定方法および表現方法は当業者が適宜設計可能である。
【符号の説明】
【0064】
101…電子源
102…電子ビーム
103…変形照明絞り
104…検出器
105…走査偏向用偏向器
106…対物レンズ
107…ステージ
108…試料
109…制御装置
110…システム制御部(処理システム)
111…記憶装置
112…演算部
113…入出力部
114…二次電子
301…インナースペーサー(構造体)
302…エピタキシャル部(層)
601…閾値
602…インナースペーサー位置(第1位置)
603…中央位置(第2位置)
604…エッジ位置(第3位置)
605…距離
701…閾値
702…インナースペーサー位置(第1位置)
703…中央位置(第2位置)
704…エッジ位置(第3位置)
705…距離
1101…インナースペーサーがない場合やインナースペーサー信号がはっきりしていない場合
1102…プロファイル波形
1104…最小となる位置
1105…距離