(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151000
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】負荷分布推定装置、負荷分布推定方法及び負荷分布推定プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H02J3/00 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060381
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上村 敏
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066AA05
5G066AE01
5G066AE03
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】SVRが配置された環境下での負荷分布の推定を適切に行なう負荷分布推定装置、負荷分布推定方法及び負荷分布推定プログラムを提供する。
【解決手段】前処理部101は、配電線に配置された2つの配電線センサのそれぞれから、各々の位置での有効潮流及び無効潮流の情報を取得し、配電線センサ間に有効潮流の差分及び無効潮流の差分を均等に分布させた潮流モデルを生成する。電圧推定部102は、潮流モデルを基に潮流計算を実行して一方の配電線センサの位置での電圧の推定値を求める。タップ位置判定部103は、一方の配電線センサによる電圧の測定値と推定値との差分を基に配電線センサ間に配置された配電用自動電圧調整器のタップ位置を判定する。負荷分布推定部11は、タップ位置判定部103により判定されたタップ位置、並びに、配電線センサの各々の位置での有効潮流及び無効潮流の情報を基に配電線センサ間の負荷分布を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電線に配置された2つの配電線センサのそれぞれから、各々の位置での有効潮流及び無効潮流の情報を取得し、前記配電線センサ間に前記有効潮流の差分及び前記無効潮流の差分を均等に分布させた潮流モデルを生成する前処理部と、
前記前処理部により生成された前記潮流モデルを基に潮流計算を実行して一方の配電線センサの位置での電圧の推定値を求める電圧推定部と、
前記一方の配電線センサから電圧の測定値を取得し、前記測定値と前記推定値との差分を基に前記配電線センサ間に配置された配電用自動電圧調整器のタップ位置を判定するタップ位置判定部と、
前記タップ位置判定部により判定された前記タップ位置、並びに、2つの前記配電線センサの各々の位置での前記有効潮流及び前記無効潮流の情報を基に前記配電線センサ間の負荷分布を推定する負荷分布推定部と
を備えたことを特徴とする負荷分布推定装置。
【請求項2】
前記2つの配電線センサは、電流の流れる方向にしたがって上流側配電線センサ及び下流側配電線センサを含み、
前記電圧推定部は、前記下流側配電線センサの位置での電圧の推定値を求め、
前記タップ位置判定部は、前記下流側配電線センサから電圧の測定値を取得し、前記測定値と前記推定値との差分を基に前記上流側配電線センサと前記下流側配電線センサとの間に配置された配電用自動電圧調整器のタップ位置を判定し、
前記負荷分布推定部は、前記タップ位置、並びに、前記上流側配電線センサ及び前記下流側配電線センサの各々の位置での前記有効潮流及び前記無効潮流の情報を基に前記上流側配電線センサと前記下流側配電線センサとの間の負荷分布を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の負荷分布推定装置。
【請求項3】
前記タップ位置判定部は、電圧値の範囲と前記タップ位置との対応関係の情報を予め有し、前記対応関係を基に前記測定値と前記推定値との差分に対応する前記タップ位置を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の負荷分布推定装置。
【請求項4】
前記前処理部は、前記電圧センサ間の距離を等分する分割位置までに、前記有効潮流の差分及び前記無効潮流の差分を前記分割位置の数で等分した値ずつ前記有効潮流及び前記無効潮流が減少するように前記潮流モデルを生成することを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の負荷分布推定装置。
【請求項5】
配電線に配置された2つの電線センサのそれぞれから、各々の位置での有効潮流及び無効潮流の情報を取得し、前記配電線センサ間に前記有効潮流の差分及び前記無効潮流の差分を均等に分布させた潮流モデルを生成し、
生成した前記潮流モデルを基に潮流計算を実行して一方の配電線センサの位置での電圧の推定値を求め、
前記一方の配電線センサから電圧の測定値を取得し、前記測定値と前記推定値との差分を基に前記配電線センサ間に配置された配電用自動電圧調整器のタップ位置を判定し、
判定した前記タップ位置、並びに、2つの前記配電線センサの各々の位置での前記有効潮流及び前記無効潮流の情報を基に前記配電線センサ間の負荷分布を推定する
ことを特徴とする負荷分布推定方法。
【請求項6】
配電線に配置された2つの電線センサのそれぞれから、各々の位置での有効潮流及び無効潮流の情報を取得し、前記配電線センサ間に前記有効潮流の差分及び前記無効潮流の差分を均等に分布させた潮流モデルを生成し、
生成した前記潮流モデルを基に潮流計算を実行して一方の配電線センサの位置での電圧の推定値を求め、
前記一方の配電線センサから電圧の測定値を取得し、前記測定値と前記推定値との差分を基に前記配電線センサ間に配置された配電用自動電圧調整器のタップ位置を判定し、
判定した前記タップ位置、並びに、2つの前記配電線センサの各々の位置での前記有効潮流及び前記無効潮流の情報を基に前記配電線センサ間の負荷分布を推定する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする負荷分布推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷分布推定装置、負荷分布推定方法及び負荷分布推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、配電系統では再生可能エネルギー電源(再エネ電源)の大量導入の影響により、電力品質の維持が困難になりつつある。具体的には、再エネ電源の出力変動による短周期の電圧変動、高周波による障害などが発生しており、早期の抑制対策が重要となってきている。また、再エネ電源の増加により、配電系統の短絡容量が増大し、再エネ電源の連系位置の変更や設備対策が求められる。
【0003】
一方、一般配電事業者による配電系統の管理では、これまで、ある時刻断面を切り出した静特性の評価により、設備計画、運用計画及び制御が行われてきた。ただし、ある時刻断面を切り出した静特性の評価では再エネ電源の制御や事故時の挙動を考慮することが難しいため、一般配電事業者による配電系統の管理において、短周期の電圧変動、高調波による障害及び短絡容量の対策を検討することは困難である。
【0004】
このような状況を踏まえて、短周期の電圧変動、高調波による障害及び短絡容量の対策を検討するための配電系統専用の解析を行うための配電系統解析ツールの開発及び高度化が進められている。ただし、配電系統解析ツールの高速化は進んでいるが、活用する際に最も時間と労力がかかるのがデータ入力である。解析対象が大規模な系統の場合、利用者が全てのデータを入力することは困難である。そこで、配電設備データ、需要家データ及び分散型電源データなどの設備データや契約データの入力を自動化するシステムが開発されている。
【0005】
一方、設備データや契約データといった固定的な情報とは異なり、時間変化する各需要家の消費電力データや各需要者の分散型電源の発電出力データは、入力を自動化することが困難であった。時間変化する各需要家の消費電力データや各事業者の分散形電源の発電出力データの入力の自動化を可能とするには、一般送配電事業者が電圧や潮流を観測するために設置しているセンサ内蔵開閉器の計測データを活用することが考えられる。現状、一般送配電事業者の計測データの要素は、電圧、有効潮流及び無効潮流であり、これらは、10~30分間隔の周期で計測され、サーバに保存される。ただし、一般送配電事業者の計測データを解析に直接活用するにあたりいくつか問題が存在する。
【0006】
そのうちの1つの問題として、計測される有効潮流と無効潮流は、センサ内蔵開閉器により計測したエリア全体の潮流であり、その中のどの位置に分布しているかがわからないといった問題がある。有効潮流及び無効潮流の分布を、需要家の契約電力や事業者の分散形電源の定格出力の容量比で按分して決めることはできるが、実際には、契約電力に応じて消費しているわけでもなく、分散形電源も定格出力に応じて発電しているわけでもないので、正確な分布が表されてはいない。したがって、この分布を用いて電圧解析しても、センサ内蔵開閉器にて計測した電圧と計算で求めた電圧は一致しない場合がほとんどである。一般送配電事業者の現場では、計測値と解析値が一致しない場合、解析ツールの計算誤差と判断されることが多いが、それは誤りであり実際には入力値が実態とあっていないと考えることができる。
【0007】
そこで、この問題を解決するための技術として、負荷分布を推定したい区間を挟んだ2つのセンサ内蔵開閉器の計測データが一致するように負荷分布を自動的に求める技術が提案されている。この手法で求まった負荷点の位置と負荷量は、あくまでも仮想的に設定したものであるが、実際の配電線の状態をセンサ情報から推定して、解析ツール上にモデル化できるという大きなメリットがある。
【0008】
なお、配電系統における負荷分布の推定の技術として以下のような技術が提案されている。例えば、負荷接続点毎の平均実負荷を算出し、PV発電量と計測電力とから推定時点での実負荷を算出して平均実負荷で按分して実負荷を求め、求めた実負荷からPV発電量を差し引いて負荷接続点毎の負荷を推定する技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】田中、上村著、センサー開閉器情報に基づく配電系統の電圧推定法、電力中央研究所報告書、R04011、2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の負荷分布の推定技術では、センサ内蔵開閉器の間に配電用自動電圧調整器(SVR:Step Voltage Regulator)が設置されていると負荷分布の推定が困難になるおそれがある。また、無理に負荷分布を推定した場合、センサ内蔵開閉器部の電圧及び潮流が一致しない可能性がある。これは、SVRには通信機能を有さないものが多く、遠隔からタップ位置を把握することが難しく、SVRによりどの程度の電圧調整が行われたかを把握することが困難であることを理由とする。そのため、従来の負荷分布の推定技術では、SVRが配置されている環境では、適切な負荷分布の推定を行なうことが困難であり、配電系統解析ツールの解析の精度が低下して、電力品質を維持することが困難となる。
【0012】
また、発電量と計測電力とから推定時点での実負荷を算出して平均実負荷で按分して求めた実負荷を基に負荷接続点毎の負荷を推定する技術では、SVRによる電圧調整が考慮されておらず、適切な負荷分布の推定を行なうことが困難である。
【0013】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、SVRが配置された環境下での負荷分布の推定を適切に行なう負荷分布推定装置、負荷分布推定方法及び負荷分布推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願の開示する負荷分布推定装置、負荷分布推定方法及び負荷分布推定プログラムの一つの態様において、前処理部は、配電線に配置された2つの配電線センサのそれぞれから、各々の位置での有効潮流及び無効潮流の情報を取得し、前記配電線センサ間に前記有効潮流の差分及び前記無効潮流の差分を均等に分布させた潮流モデルを生成する。電圧推定部は、前記前処理部により生成された前記潮流モデルを基に潮流計算を実行して一方の配電線センサの位置での電圧の推定値を求める。タップ位置判定部は、前記一方の配電線センサから電圧の測定値を取得し、前記測定値と前記推定値との差分を基に前記配電線センサ間に配置された配電用自動電圧調整器のタップ位置を判定する。負荷分布推定部は、前記タップ位置判定部により判定された前記タップ位置、並びに、2つの前記配電線センサの各々の位置での前記有効潮流及び前記無効潮流の情報を基に前記配電線センサ間の負荷分布を推定する。
【発明の効果】
【0015】
1つの側面では、本発明は、SVRが配置された環境下での負荷分布の推定を適切に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施例に係る負荷分布推定装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、負荷分布の推定対象である配電線の概略図である。
【
図3】
図3は、有効潮流の差分及び無効潮流の差分の均等分布を説明するための図である。
【
図4】
図4は、SVRのタップ幅と電圧の差分との関係を表す図である。
【
図5】
図5は、タップ位置の推定処理を説明するための図である。
【
図6】
図6は、負荷分布の推定結果を説明するための図である。
【
図7】
図7は、実施例に係る負荷分布推定装置による負荷分布推定処理のフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施例に係る負荷分布推定装置による推定結果をまとめた図である。
【
図9】
図9は、正確な推定が行えるセンサ内蔵開閉器の間隔の評価結果を示す図である。
【
図10】
図10は、負荷分布推定装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本願の開示する負荷分布推定装置、負荷分布推定方法及び負荷分布推定プログラムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する負荷分布推定装置、負荷分布推定方法及び負荷分布推定プログラムが限定されるものではない。
【実施例0018】
図1は、実施例に係る負荷分布推定装置のブロック図である。本実施例に係る負荷分布推定装置1は、センサ内蔵開閉器20に接続される。
【0019】
センサ内蔵開閉器20は、負荷分布推定装置1による負荷分布の推定対象である配電線に配置される。センサ内蔵開閉器20は、配置された位置における電圧、有効潮流及び無効潮流を計測する。ただし、センサ内蔵開閉器20は、配置された位置における電圧、電流及び力率を計測してもよい。その場合、センサ内蔵開閉器20により取得された計測データにより、有効潮流及び無効潮流が算出可能である。
【0020】
負荷分布推定装置1は、
図1に示すように、タップ位置推定部10及び負荷分布推定部11を有する。さらに、タップ位置推定部10は、前処理部101、電圧推定部102及びタップ位置判定部103を有する。
【0021】
前処理部101は、有効潮流及び無効潮流の計測データを2つのセンサ内蔵開閉器20から取得する。そして、前処理部101は、取得した有効潮流及び無効潮流の計測データを用いてタップ位置推定のための前処理を行う。以下に、前処理部101による処理の詳細ついて説明する。
【0022】
図2は、負荷分布の推定対象である配電線の概略図である。配電線3は、変電所4から出力された電力を各負荷に供給する。配電線3には、例えば、2つのセンサ内蔵開閉器20が配置される。ここで、変電所4に近い側のセンサ内蔵開閉器20が保持する電圧、有効潮流及び無効潮流を計測する配電線センサを、上流側配電線センサ21とする。また、変電所4から遠い側のセンサ内蔵開閉器20が保持する配電線センサを、下流側配電線センサ22とする。
図2では、センサ内蔵開閉器20が有する上流側配電線センサ21及び下流側配電線センサ22を図示した。また、配電線3における2つのセンサ内蔵開閉器20の間には、SVR30が配置される。ここで、配電線3の上流側配電線センサ21と下流側配電線センサ22との間の線路定数は、R+jXである。このR+jXは、配電線3のこの間のインピーダンスにあたる。上流側配電線センサ21と下流側配電線センサ22との間の距離が短くなるほど、インピーダンスは小さくなる。そして、インピーダンスが小さいほど、負荷分布の変化による電圧の変化が小さいため、推定誤差が大きくなる。
【0023】
本実施例では、前処理部101は、上流側配電線センサ21から、電圧の計測値としてV1、有効潮流の計測値としてP1及び無効潮流の計測値としてQ1を取得する。また、前処理部101は、下流側配電線センサ22から、電圧の計測値としてV2、有効潮流の計測値としてP2及び無効潮流の計測値としてQ2を取得する。
【0024】
次に、前処理部101は、上流側配電線センサ21により計測された有効潮流の計測値と下流側配電線センサ21により計測された有効潮流の計測値との差分を求める。ここで、有効潮流の差分をPLとすると、前処理部101は、PL=P1-P2として有効潮流の差分を求める。
【0025】
また、前処理部101は、上流側配電線センサ21により計測された無効潮流の計測値と下流側配電線センサ21により計測された無効潮流の計測値との差分を求める。ここで、有効潮流の差分をQLとすると、前処理部101は、QL=Q1-Q2として無効潮流の差分を求める。
【0026】
次に、前処理部101は、SVR30が設置されていないと仮定して、有効潮流の差分及び無効潮流の差分をセンサ間に均等分布させる。ここで、センサ間とは、上流側配電線センサ21と下流側配電線センサ22との間を指す。
図3は、有効潮流の差分及び無効潮流の差分の均等分布を説明するための図である。一例として、有効潮流の差分及び無効潮流の差分をセンサ間の3箇所に均等分布させる場合、前処理部101は、有効潮流の差分及び無効潮流の差分のそれぞれの3分の1を求める。ここで、有効潮流の差分がPLであり、無効潮流の差分がQLの場合、前処理部101は、PL/3及びQL/3を求める。そして、前処理部101は、上流側配電線センサ21と下流側配電線センサ22との間の経路を6等分した1つ目、3つ目、5つ目の3箇所の位置201~203で有効潮流がPL/3ずつ減り、無効潮流がQL/3ずつ減るとする。ここで、6等分とは、上流側配電線センサ21から位置201まで、位置201から位置201と位置202との中間まで、位置201と位置202との中間から位置202まで、位置202から位置202と位置203との中間まで、位置202と位置203との中間から位置203まで、位置203から下流側配電線センサ22の6つの区間に分けることを指す。
【0027】
その後、前処理部101は、センサ間で均等配分した有効潮流及び無効潮流の情報を電圧推定部102へ出力する。また、前処理部101は、上流側配電線センサ21による電圧の計測値であるV1及び下流側配電線センサ22による電圧の計測値であるV2の情報を電圧推定部102へ出力する。
【0028】
ここで、本実施例では3つの位置で分割する場合を例に説明したが、分割位置の数はこれに限らず特に制限はない。例えば、分割位置は10個などでもよく、分割位置の数が大きい方が上流側配電線センサ21と下流側配電線センサ22との間の距離を広げることができる可能性がある。ただし、分割位置が多くなるほど、次の電圧推定部102による潮流計算が煩雑になる可能性が高く、分割位置の数は求められるセンサ間の距離や潮流計算による負荷の許容範囲などに基づいて決定されることが好ましい。
【0029】
電圧推定部102は、センサ間に均等配分された有効潮流及び無効潮流の情報の入力を前処理部101から受ける。また、電圧推定部102は、上流側配電線センサ21による電圧の計測値であるV1及び下流側配電線センサ22による電圧の計測値であるV2の情報の入力を前処理部101から受ける。次に、電圧推定部102は、潮流計算を行って、SVR30が存在しない場合の下流側配電線センサ22の位置での推定電圧を算出する。
【0030】
例えば、
図3に示すように、有効潮流の差分と無効潮流との差分が位置201~203に均等分布された場合、電圧推定部102は、縦軸が電圧を表し横軸が位置を表すグラフにおいて、電圧が一次関数的に変化すると推定する。すなわち、電圧推定部102は、上流側配電線センサ21の位置と計測された電圧であるV1とを表す点211を通過し、位置201~203のそれぞれで有効電力及び無効電力がPL/3及びQL/3ずつ減る一次関数233により電圧の変化が表されると推定する。そして、電圧推定部102は、一次関数233における下流側配電線センサ22の位置に対応する電圧を推定電圧であるV2minとして求める。
【0031】
その後、電圧推定部102は、算出した推定電圧であるV2minの情報をタップ位置判定部103へ出力する。また、電圧推定部102は、下流側配電線センサ22による電圧の計測値であるV2の情報をタップ位置判定部103へ出力する。
【0032】
タップ位置判定部103は、推定電圧であるV2minの情報の入力を電圧推定部102から受ける。また、タップ位置判定部103は、下流側配電線センサ22による電圧の計測値であるV2の情報の入力を電圧推定部102から受ける。そして、タップ位置判定部103は、下流側配電線センサ22による電圧の計測値であるV2と推定電圧であるV2minとの差分であるΔVを求める。すなわち、タップ位置判定部103は、ΔV=V2-V2minを計算する。
【0033】
図4は、SVRのタップ幅と電圧の差分との関係を表す図である。タップ位置判定部103は、例えば、
図4に示すようなSVR30のタップ幅と電圧の差分との関係を表す情報を予め保持する。
図4は、SVR30が3段の切り替え動作を行う装置の場合のSVR30のタップ幅と電圧の差分との対応関係の一例である。
図4におけるVsvrは、SVR30のタップ幅を表す。
【0034】
そして、タップ位置判定部103は、下流側配電線センサ22による電圧の計測値であるV2と推定電圧であるV2minとの差分であるΔVがいずれの区分に属するかを確認して、SVR30のタップ位置を推定する。
【0035】
図5は、タップ位置の推定処理を説明するための図である。例えば、
図5に示すように、下流側配電線センサ22による電圧の計測値であるV2と推定電圧であるV2minとの差分であるΔVが2Vsvrの場合で説明する。この場合、タップ位置判定部103は、1.5Vsvr≦ΔV<2.5Vsvrであることから、SVR30の位置を2段と推定する。
【0036】
その後、タップ位置判定部103は、推定したSVR30のタップ位置の情報を負荷分布推定部11へ出力する。
【0037】
負荷分布推定部11は、SVR30の推定されたタップ位置の情報の入力をタップ位置判定部103から受ける。負荷分布推定部11は、SVR30の推定されたタップ位置を固定して、負荷分布推定を行う。
【0038】
具体的には、負荷分布推定部11は、上流側配電線センサ21を内蔵するセンサ内蔵開閉器20及び下流側配電線センサ22を保持するセンサ内蔵開閉器20から、それぞれの地点の電圧、有効潮流及び無効潮流の情報を受信する。次に、負荷分布推定部11は、上流側配電線センサ21により計測された有効電力と下流側配電線センサ22により計測された有効電力との差分を算出する。また、負荷分布推定部11は、上流側配電線センサ21により計測された無効電力と下流側配電線センサ22により計測された無効電力との差分を算出する。
【0039】
次に、負荷分布推定部11は、上流側配電線センサ21と下流側配電線センサ22との間の経路を等分割する3つの分割位置である仮想の負荷の点に求めた差分を均等分布させた場合を仮定する。ただし、負荷分布推定部11は、差分の情報や差分を均等分布させた場合の情報を前処理部101から取得してもよい。
【0040】
次に、負荷分布推定部11は、上流側配電線センサ21及び下流側配電線センサ22により計測された有効潮流及び無効潮流の値を固定し、且つ、SVR30の推定されたタップ位置を固定した状態で潮流計算を行う。負荷分布推定部11は、潮流計算で求めた有効潮流及び無効潮流が、上流側配電線センサ21及び下流側配電線センサ22のそれぞれの位置における有効潮流及び無効潮流に一致するように負荷の位置及び負荷量を調整する。そして、負荷分布推定部11は、潮流計算で求まる下流側配電線センサ22の位置の電圧と下流側配電線センサ22により計測された電圧とが一致する負荷の分布を推定する。
【0041】
具体的には、負荷分布推定部11は、負荷を均等分布された状態から段階的に負荷が上流側配電線センサ21の側に寄っていく複数のパターン及び段階的に負荷が下流側配電線センサ22の側に寄っていく複数のパターンを保持する。そして、負荷分布推定部11は、パターンを切り替えることで負間の分布を推定する。
【0042】
例えば、潮流計算で求まる下流側配電線センサ22の位置の電圧が下流側配電線センサ22により計測された電圧よりも小さい場合、負荷分布推定部11は、負荷を上流側配電線センサ21の側に段階的に移動させるように負荷分布のパターンを切り替えていく。逆に、潮流計算で求まる下流側配電線センサ22の位置の電圧が下流側配電線センサ22により計測された電圧よりも大きい場合、負荷分布推定部11は、負荷を下流側配電線センサ22の側に段階的に移動させるように負荷分布のパターンを切り替えていく。パターンを切り替えていき、潮流計算で求まる下流側配電線センサ22の位置の電圧と下流側配電線センサ22により計測された電圧との大小関係が反転したところで、負荷分布推定部11は、パターンの切り替えを停止する。そして、負荷分布推定部11は、反転した際のパターンの負荷分布と一つ前の切り替えのパターンの負荷分布とを、電圧の差の比率で合成した結果を負荷分布の推定結果とする。
【0043】
図6は、負荷分布の推定結果を説明するための図である。負荷分布推定部11は、例えば、位置221での有効潮流がPLA且つ無効潮流がQLAとなり、位置222での有効潮流がPLB且つ無効潮流がQLBとなり、位置223での有効潮流がPLC且つ無効潮流がQLCとなるように負荷分布を推定する。
【0044】
負荷分布推定部11は、負荷分布の推定結果を表示装置に表示させて配電系統解析ツールを用いて配電系統の解析を行う作業者に負荷分布の推定結果を通知する。他にも、負荷分布推定部11は、負荷分布の推定結果の情報を、配電系統解析ツールを実行する解析装置に入力してもよい。
【0045】
図7は、実施例に係る負荷分布推定装置による負荷分布推定処理のフローチャートである。次に、
図7を参照して、実施例に係る負荷分布推定装置1による負荷分布推定処理の流を説明する。
【0046】
前処理部101は、上流側配電線センサ21及び下流側配電線センサ22から有効電力及び無効電前を受信する。そして、前処理部101は、SVR30が設置されていない条件において上流側配電線センサ21と下流側配電線センサ22との間の有効電力及び無効電力の差分を算出する(ステップS1)。
【0047】
次に、前処理部101は、算出した差分を上流側配電線センサ21と下流側配電線センサ22との間に均等に分布させた場合の、各分割点における有効電力及び無効電力を算出する(ステップS2)。その後、前処理部101は、有効電力及び無効電力の差分を上流側配電線センサ21と下流側配電線センサ22との間に均等に分布させた場合の情報を電圧推定部102へ出力する。
【0048】
電圧推定部102は、有効電力及び無効電力の差分を上流側配電線センサ21と下流側配電線センサ22との間に均等に分布させた場合の情報の入力を前処理部101から受ける。そして、電圧推定部102は、潮流計算を行って下流側配電線センサ22の位置の推定電圧を求める(ステップS3)。その後、電圧推定部102は、下流側配電線センサ22の位置の推定電圧の情報をタップ位置判定部103へ出力する。
【0049】
タップ位置判定部103は、下流側配電線センサ22の位置の推定電圧の情報の入力を電圧推定部102から受ける。次に、タップ位置判定部103は、下流側配電線センサ22による電圧の計測値と推定電圧との差分を算出する(ステップS4)。
【0050】
次に、タップ位置判定部103は、下流側配電線センサ22による電圧の計測値と推定電圧との差分とSVR30のタップ幅との関係から、SVR30のタップ位置を推定する(ステップS5)。その後、タップ位置判定部103は、推定したSVR30のタップ位置の情報を負荷分布推定部11へ出力する。
【0051】
負荷分布推定部11は、タップ位置判定部103により推定されたSVR30のタップ位置の情報を取得する。そして、負荷分布推定部11は、推定されたSVR30のタップ位置を設定して、潮流計算を繰り替えして上流側配電線センサ21と下流側配電線センサ22との間の負荷分布を推定する(ステップS6)。
【0052】
ここで、本実施例では、下流側配電線センサ22の位置における電圧の推定値と測定値とを用いてSVR30のタップ位置を推定したが、逆に、上流側配電線センサ21の位置における電圧の推定値と測定値とを用いてSVR30のタップ位置を推定してもよい。
【0053】
次に、本実施例に係る負荷分布推定装置1による負荷分布の推定の評価結果について説明する。
図8は、実施例に係る負荷分布推定装置による推定結果をまとめた図である。
【0054】
ここでは、有効性を評価する条件として、SVR30を2つのセンサ内蔵開閉器20の間の配電線3の中央に設定し、センサ内蔵開閉器20の間の距離を2kmとし、SVR30のタップ位置を6900Vに固定した状態で、配電線3の全体の負荷量及び負荷力率を変化させた。
【0055】
本来、負荷分布の推定であるため、負荷分布の推定精度を比較すべきであるが、実際の配電線3における負荷点は、3つの仮想の負荷点よりも数が多く、一致していることの比較が困難である。そこで、負荷分布が正しく推定できていれば、センサ内蔵開閉器20により計測された電圧、有効潮流及び無効潮流の値と、推定された負荷分布とした場合に算出されるセンサ内蔵開閉器20の位置における電圧、有効潮流及び無効潮流の値とが一致するはずである。そこで、ここでの精度検証では、推定された負荷分布とした場合の、センサ内蔵開閉器20の位置における電圧、有効潮流及び無効潮流の値で評価を行った。
【0056】
図8における表401は、上流側配電線センサ21を有するセンサ内蔵開閉器20の位置における評価結果である。また、表402は、下流側配電線センサ22を有するセンサ内蔵開閉器20の位置における評価結果である。表401及び402の数字は、全体の負荷量(4000kW~-4000kW)、負荷力率(遅れ85%、100%、進み85%)を変化させて推定した全ての場合の最大誤差を表す。電圧の誤差は6600Vに対する百分率、潮流の誤差は配電線3の全体負荷の皮相電力に対する百分率である。
【0057】
グラフ401及び402に示すように、いずれの位置でもタップ位置推定部10によるタップ位置の推定結果は、6900Vとなり正しく推定されていた。また、いずれの位置でもセンサ内蔵開閉器20による測定結果との誤差は、電圧、有効潮流及び無効潮流のいずれも十分小さい。電圧は、末端側センサの方の誤差が大きいが、それでも0.13%であり、高圧電圧において約8.6V程度であり非常に小さい。
【0058】
次に、タップ位置推定部10が万一タップ位置を間違って推定した場合の誤差を求め、誤差がどれくらい増えるかを評価する。例えば、1タップずれた6800Vと誤って推定した場合、末端側センサの電圧の誤差は約2%(=高圧電圧で約132V)となる。また、2タップずれた6700Vと誤った場合は約3.5%(=高圧電圧で約231V)となる。また、3タップずれた6600Vと誤った場合は約5%(=高圧電圧で約330V)となる。以上より、タップ位置推定部10がタップ位置を正しく推定できれば、推定結果を用いて求められるセンサ内蔵開閉器20の位置における電圧、有効潮流、無効潮流が計測値と一致し、負荷分布推定結果が良好であるといえる。
【0059】
図9は、正確な推定が行えるセンサ内蔵開閉器の間隔の評価結果を示す図である。ここでは、センサ内蔵開閉器20の間の負荷の偏りを、均等分布、始端集中及び末端集中の3つのパターンとして、タップ位置推定部10がタップ位置を正しく推定で来た場合のセンサ内蔵開閉器20の間の最大の距離を計測した。表501~503のいずれも、縦の欄で配電線3の全体負荷有効電力を表し、横の欄で負荷力率を表す。表中の数字は、タップ位置を正しく推定できたセンタ間距離の最大値を表す。距離の単位はkmである。表中の数字が大きい方が、センサ内蔵開閉器20の間の距離が長くてもタップ位置が正確に推定できることを表し、数字が小さいほどセンサ内蔵開閉器20の間の距離を短くしないと正確に推定することが困難となることを表す。
【0060】
表501~503で示されるように、一部の極端なケースでは、センサ内蔵開閉器20の間の距離が2km以下となったが、多くのケースではセンサ内蔵開閉器20の間の距離を2kmとすれば推定可能であることが分かる。
【0061】
以上に説明したように、本実施例に係る負荷分布推定装置は、SVRが設置されていない条件で配電線センサ間の有効潮流及び無効潮流を均等に分布させた状態を仮定して下流側配電線センサの電圧を推定する。そして、負荷分布推定装置は、下流側配電線センサの電圧の計測値と推定値とを比較してSVRのタップの位置を推定する。その後、負荷分布推定装置は、推定したタップ位置を用いて配電線センサ間の負荷分布を推定する。
【0062】
これにより、SVRのタップ位置を精度よく推定することができ、負荷分布の推定精度を向上させることができる。そして、その推定した負荷分布を用いて配電系統の解析を行うことで、配電系統解析ツールの解析の精度が向上し、電力品質を維持することが可能となる。
【0063】
(ハードウェア構成)
図10は、負荷分布推定装置のハードウェア構成図である。
図10に示すように、本実施例に係る負荷分布推定装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)91、メモリ92、ハードディスク93及びネットワークインタフェース94を有する。CPU91は、バスを介してメモリ92、ハードディスク93及びネットワークインタフェース94に接続される。
【0064】
ネットワークインタフェース94は、負荷分布推定装置1と外部装置との間の通信のためのインタフェースである。例えば、ネットワークインタフェース94は、CPU91とセンサ内蔵開閉器20との間の通信を中継する。
【0065】
ハードディスク93は、補助記憶装置である。ハードディスク93は、
図1に例示した、前処理部101、電圧推定部102及びタップ位置判定部103を含むタップ位置推定部10及び負荷分布推定部11の機能を実現するためのプログラムを含む各種プログラムを格納する。
【0066】
メモリ92は、主記憶装置である。メモリ92は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)を用いることができる。
【0067】
CPU91は、ハードディスク93から各種プログラムを読み出してメモリ92上に展開して実行する。これにより、CPU91は、1に例示した、前処理部101、電圧推定部102及びタップ位置判定部103を含むタップ位置推定部10及び負荷分布推定部11の機能を実現することができる。