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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151024
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】集電体用鋼箔
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060412
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】矢代 篤士
(72)【発明者】
【氏名】海野 裕人
(72)【発明者】
【氏名】萩原 快朗
(72)【発明者】
【氏名】中塚 淳
【テーマコード(参考)】
5H017
【Fターム(参考)】
5H017CC01
5H017DD06
5H017EE04
5H017EE07
5H017HH00
5H017HH03
(57)【要約】
【課題】活物質層を形成した後、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、座屈や屈曲が生じにくい集電体用鋼箔を提供する。
【解決手段】本開示による集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔を備える。フェライト系ステンレス鋼箔は、CoKα線によるX線回折プロファイルにおいて、{110}面のピークの半値幅Fwが0.40~0.52°である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体用鋼箔であって、
フェライト系ステンレス鋼箔を備え、
前記フェライト系ステンレス鋼箔は、CoKα線によるX線回折プロファイルにおいて、{110}面のピークの半値幅Fwが0.40~0.52°である、
集電体用鋼箔。
【請求項2】
請求項1に記載の集電体用鋼箔であって、
前記フェライト系ステンレス鋼箔の厚さは5~60μmである、
集電体用鋼箔。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の集電体用鋼箔であって、
前記フェライト系ステンレス鋼箔の表面上に、樹脂被膜が形成されている、
集電体用鋼箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池の電極に用いられる集電体用鋼箔に関し、さらに詳しくは、フェライト系ステンレス鋼箔を基材とする集電体用鋼箔に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、様々な電子機器の電源として、一次電池及び二次電池等の電池が用いられてきた。具体的に、近年、家庭用ビデオカメラ、ノートパソコン、及び、スマートフォン等の小型電子機器の普及により、リチウムイオン電池に代表される二次電池が急速に普及してきている。
【0003】
二次電池は、正極及び負極を有する電極と、電解質とを備える。正極及び負極はいずれも、集電体の上に活物質層が形成されている。すなわち、集電体とは電極の基材である。活物質層とは、活物質を含む層である。集電体は、電流を活物質に供給する機能、及び、活物質を保持する機能を有する。
【0004】
これまでに、二次電池の集電体の基材として金属箔が用いられている。具体的に、たとえばリチウムイオン電池では現在、負極集電体として銅箔が、正極集電体としてアルミニウム箔が用いられている。一方、二次電池には、これまでよりも苛酷な環境での使用が想定される場合がある。そのため、集電体の基材は、銅箔やアルミニウム箔よりも高い強度や、優れた耐熱性が求められてきている。そのため、集電体の基材として、銅箔及びアルミニウム箔よりも強度及び耐熱性に優れる、ステンレス鋼箔が着目されてきている。
【0005】
特開2003-178753号公報(特許文献1)、及び、特開2016-186881号公報(特許文献2)は、ステンレス鋼箔を集電体へ適用する技術を提案する。
【0006】
特許文献1は、リチウム電池を開示しており、その正極の集電体は、厚さ12μm以下のフェライト系ステンレス鋼箔からなる。集電体としてフェライト系ステンレス鋼箔を用いるのは、フェライト系ステンレス鋼がSUS304、SUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼に比べて、加工性が良好で薄い箔を作製するのに適していて、生産性を向上できるためである、と特許文献1には開示されている。
【0007】
特許文献2は、リチウムイオン電池負極を開示しており、その負極の集電体は、厚さ15μm以下のステンレス鋼箔又はNiめっき鋼板である。集電体としてステンレス鋼箔及びNiめっき鋼板を用いるのは、高強度で、かつ、300℃程度の熱処理でも強度低下が起こらず、高温下でのイミド化及びイミン化処理後においても初期の強度を保持できるためである、と特許文献2には開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-178753号公報
【特許文献2】特開2016-186881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1及び2に提案されるように、集電体の基材としてステンレス鋼箔を用いることで、高強度な集電体を、高い生産性で得ることができる。ところで、近年さらに、高エネルギー密度化及び安全性の両立を目的に、全固体二次電池の開発が進められている。全固体二次電池とは、従来の二次電池で用いられる電解液の代わりに固体電解質が用いられ、集電体及び活物質層を含む電極、電解質等、全て固体によって構成される二次電池である。
【0010】
ここで、全固体二次電池では、集電体の表面上に活物質層を形成した後、良好な電池特性を得るため、活物質を結晶化させる場合がある。この場合、表面に活物質層が形成された集電体に対して、たとえば700℃程度の高温での熱処理を実施する。一方、このような高温での熱処理によって活物質を結晶化させると、活物質層が収縮する。その結果、活物質層と集電体の熱収縮による寸法変化により、集電体が座屈や屈曲をする場合がある。
【0011】
すなわち、全固体二次電池に適用されることが想定された集電体用鋼箔では、たとえば700℃程度の高温での熱処理によって活物質層が収縮した場合であっても、座屈や屈曲が生じにくい方が好ましい。しかしながら、上記特許文献1及び2では、全固体二次電池のように活物質を結晶化させる場合、座屈や屈曲が生じる可能性について、検討がされていない。
【0012】
本開示の目的は、活物質層を形成した後、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、座屈や屈曲が生じにくい集電体用鋼箔を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示による集電体用鋼箔は、
フェライト系ステンレス鋼箔を備え、
前記フェライト系ステンレス鋼箔は、CoKα線によるX線回折プロファイルにおいて、{110}面のピークの半値幅Fwが0.40~0.52°である。
【発明の効果】
【0014】
本開示による集電体用鋼箔は、活物質層を形成した後、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、座屈や屈曲が生じにくい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明者らは、集電体用鋼箔の基材として、フェライト系ステンレス鋼箔を用いることを考えた。フェライト系ステンレス鋼箔は、アルミニウム箔等、非鉄金属箔と比較して、高温での安定性が高い。フェライト系ステンレス鋼箔はさらに、オーステナイト系ステンレス鋼箔と比較して、電気抵抗が低く、導電率が高い。このような点から本発明者らは、集電体用鋼箔の基材として、フェライト系ステンレス鋼箔を用いることとした。
【0016】
上述のとおり、全固体二次電池に適用されることが想定された集電体用鋼箔では、たとえば700℃程度の高温での熱処理によって活物質層が収縮した場合であっても、座屈や屈曲が生じにくい方が好ましい。そこで本発明者らは、活物質の結晶化に伴う活物質層の熱収縮時に、集電体用鋼箔もある程度熱収縮させられれば、集電体用鋼箔の座屈や屈曲の発生を抑制できると考えた。
【0017】
具体的に本発明者らは、集電体用鋼箔の基材であるフェライト系ステンレス鋼箔の歪みに着目した。フェライト系ステンレス鋼箔の歪み量を制御できれば、活物質層を形成した後、700℃程度での熱処理時における、集電体用鋼箔の熱収縮を制御できる可能性がある。その結果、活物質層が形成された集電体用鋼箔を700℃程度で熱処理した際、座屈や屈曲の発生を抑制できる可能性がある。
【0018】
以上の知見に基づいた本発明者らの詳細な検討の結果、フェライト系ステンレス鋼箔の、CoKα線によるX線回折プロファイルにおける{110}面のピークの半値幅Fwが0.40~0.52°であれば、活物質層が形成された集電体用鋼箔を700℃程度で熱処理した際、座屈や屈曲の発生を抑制できることが明らかになった。
【0019】
フェライト系ステンレス鋼箔の、CoKα線によるX線回折プロファイルにおける{110}面のピークの半値幅Fw(以下、単に「{110}面の半値幅Fw」ともいう)が小さすぎれば、フェライト系ステンレス鋼箔の歪み量が少なすぎる。この場合、700℃程度での熱処理時に歪みの解放が生じず、熱処理時に熱収縮が起こらない。その結果、活物質層の熱収縮に引っ張られ、集電体用鋼箔に屈曲が発生する。一方、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwが大きすぎれば、フェライト系ステンレス鋼箔の歪み量が多くなりすぎる。この場合、700℃程度での熱処理時に歪みが解放されすぎ、熱処理時に熱収縮が過剰に発生する。その結果、活物質層の熱収縮を超えて熱収縮することから、集電体用鋼箔に座屈が発生する。
【0020】
したがって、本実施形態による集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面のピークの半値幅Fwを0.40~0.52°とする。その結果、本実施形態による集電体用鋼箔の表面に活物質層を形成した後、700℃程度での熱処理を実施しても、座屈や屈曲が生じにくい。
【0021】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による集電体用鋼箔の要旨は、次のとおりである。
【0022】
[1]
集電体用鋼箔であって、
フェライト系ステンレス鋼箔を備え、
前記フェライト系ステンレス鋼箔は、CoKα線によるX線回折プロファイルにおいて、{110}面のピークの半値幅Fwが0.40~0.52°である、
集電体用鋼箔。
【0023】
[2]
[1]に記載の集電体用鋼箔であって、
前記フェライト系ステンレス鋼箔の厚さは5~60μmである、
集電体用鋼箔。
【0024】
[3]
[1]又は[2]に記載の集電体用鋼箔であって、
前記フェライト系ステンレス鋼箔の表面上に、樹脂被膜が形成されている、
集電体用鋼箔。
【0025】
以下、本実施形態による集電体用鋼箔について説明する。
【0026】
[集電体用鋼箔]
本実施形態による集電体用鋼箔は、基材であるフェライト系ステンレス鋼箔を備える。なお、本実施形態による集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔以外の構成を含んでいてもよい。
【0027】
[フェライト系ステンレス鋼箔]
本実施形態による集電体用鋼箔の基材は、フェライト系ステンレス鋼箔である。具体的に、フェライト系ステンレス鋼箔とは、Cr含有量が10.5%以上であり、ミクロ組織がフェライトを主体とする鋼箔を意味する。本明細書において、ミクロ組織がフェライトを主体とするとは、ミクロ組織において、フェライトの体積率が95%以上であることを意味する。
【0028】
本実施形態において、フェライト系ステンレス鋼箔は、周知のフェライト系ステンレス鋼からなる金属箔を用いることができる。本実施形態によるフェライト系ステンレス鋼箔は、たとえば、JIS G 4305(2012)に規定されるSUS405であってもよく、SUS410Lであってもよく、SUS429であってもよく、SUS430であってもよく、SUS430LXであってもよく、SUS430J1Lであってもよく、SUS434であってもよく、SUS436Lであってもよく、SUS436J1Lであってもよく、SUS443J1であってもよく、SUS444であってもよく、SUS445J1であってもよく、SUS445J2であってもよく、SUS447J1であってもよく、SUSXM27であってもよい。
【0029】
本実施形態によるフェライト系ステンレス鋼箔は、たとえばさらに、ASTM A 280(2006)に規定される403であってもよく、405であってもよく、409Lであってもよく、410であってもよく、410Lであってもよく、410Sであってもよく、415であってもよく、420J1であってもよく、420J2であってもよく、420であってもよく、429であってもよく、429J1であってもよく、430であってもよく、430J1Lであってもよく、430LXであってもよく、430Tiであってもよく、434であってもよく、436であってもよく、436J1Lであってもよく、439であってもよく、441であってもよく、444であってもよく、445であってもよく、445J1であってもよく、445J2であってもよく、446であってもよく、447であってもよく、448であってもよい。
【0030】
好ましくは、本実施形態によるフェライト系ステンレス鋼箔の厚さは、5~60μmである。フェライト系ステンレス鋼箔の厚さが薄いほど、集電体用鋼箔が薄くなる。その結果、当該集電体用鋼箔を用いて製造される電極を用いる電池のエネルギー密度が高まる。しかしながら、フェライト系ステンレス鋼箔が薄すぎれば、集電体用鋼箔の製造が困難になる。したがって、本実施形態では、フェライト系ステンレスの厚さは5~60μmとするのが好ましい。
【0031】
本実施形態によるフェライト系ステンレス鋼箔は、CoKα線によるX線回折プロファイルにおける{110}面のピークの半値幅Fwが0.40~0.52°である。その結果、本実施形態によるフェライト系ステンレス鋼箔を基材とする集電体用鋼箔は、活物質層が形成された後、700℃程度で熱処理した際、座屈や屈曲が生じにくい。
【0032】
フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwが小さすぎれば、フェライト系ステンレス鋼箔の歪み量が少なすぎる。この場合、700℃程度での熱処理時に歪みの解放が生じず、熱処理時に熱収縮が起こらない。その結果、活物質層の熱収縮に引っ張られ、集電体用鋼箔に屈曲が発生する。一方、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwが大きすぎれば、フェライト系ステンレス鋼箔の歪み量が多くなりすぎる。この場合、700℃程度での熱処理時に歪みが解放されすぎ、熱処理時に熱収縮が過剰に発生する。その結果、活物質層の熱収縮を超えて熱収縮することから、集電体用鋼箔に座屈が発生する。
【0033】
本実施形態によるフェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwの好ましい下限は0.41であり、さらに好ましくは0.43であり、さらに好ましくは0.45である。{110}面の半値幅Fwが0.45以上であれば、活物質層が形成された後、700℃程度で熱処理した際の屈曲がさらに抑制できる。本実施形態によるフェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwの好ましい上限は0.51であり、さらに好ましくは0.50であり、さらに好ましくは0.48である。
【0034】
本実施形態において、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwは、次の方法で測定できる。本実施形態による集電体用鋼箔から、試験片を作製する。試験片の大きさは特に限定されず、試験片の厚さは鋼箔の厚さと同じとする。試験片の観察面に対して、斜入射X線回折法(GIXD:Grazing Incident X-ray Diffraction)により測定を実施する。具体的に、線源をCoKα線、管電圧を40kV、管電流を135mAとする。ミラーでX線束を平行化する。ソーラースリットは、入射側を5°、回折側を2.5°とする。試験片の観察面からの測定深さが0.19~4.60μmの範囲で12点となるように、入射角を1~25°の範囲で12条件とする。各測定点において、{110}面のピークを特定し、半値幅を求める。得られた12個の半値幅の算術平均値を、{110}面の半値幅Fwと定義する。測定深さは、線吸収係数をμとしてμt=1を満たすX線侵入深さtを求め、試験片の観察面からの深さに換算して用いる。また、質量吸収係数は19.11Cr-1.77Mo-78.38Fe(mass%)を用いる。さらに、フェライト系ステンレス鋼箔の密度は7.75g/cm3を用いる。
【0035】
[樹脂被膜]
本実施形態による集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔の表面上に形成される樹脂被膜を備えてもよい。フェライト系ステンレス鋼箔の表面上に樹脂被膜を形成することにより、集電体用鋼箔の絶縁性、耐熱性、及び、平坦性を高めることができる。なお、本実施形態において、樹脂被膜は、フェライト系ステンレス鋼箔の両面に形成されてもよく、片面に形成されてもよく、形成されなくてもよい。樹脂被膜はさらに、フェライト系ステンレス鋼箔の片面の一部に形成されてもよく、全部に形成されてもよい。
【0036】
樹脂被膜は特に限定されないが、たとえば、無機有機ハイブリッド樹脂被膜であってもよい。無機有機ハイブリッド樹脂被膜とは、無機成分と有機成分とが複合して形成される樹脂被膜を意味する。具体的に、無機有機ハイブリッド樹脂被膜とは、三次元網目構造状に発達したシロキサン結合を主骨格とした無機骨格を有し、当該骨格における架橋酸素の少なくとも1個が、有機基及び/又は水素原子で置換されたシロキサン被膜であってもよい。すなわち、本実施形態では樹脂被膜として、被膜中の酸素濃度[O](mol/L)と、ケイ素濃度[Si](mol/L)とが、1<[O]/[Si]<2を満たすシロキサン被膜を用いることができる。
【0037】
上述のとおり、集電体用鋼箔が薄いほど、当該集電体用鋼箔を用いて製造される電極を用いる電池のエネルギー密度が高まる。したがって、本実施形態において、樹脂被膜が形成される場合、樹脂被膜の厚さは薄い方が好ましい。一方、樹脂被膜の厚さが薄すぎれば、上述の絶縁性、耐熱性、及び、平坦性が十分に得られない場合がある。したがって、本実施形態では、樹脂被膜が形成される場合、樹脂被膜の厚さは0.3~5.0μmとするのが好ましい。
【0038】
[その他の構成]
本実施形態による集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔と、樹脂被膜と以外の構成を含んでいてもよい。たとえば、集電体用鋼箔の表面上に、樹脂被膜以外の層を有していてもよい。この場合、樹脂被膜以外の層は、導電性を有していることが好ましい。
【0039】
[電極]
本実施形態による集電体用鋼箔は、その表面上に活物質層を形成することにより、電池の電極として用いることができる。なお、本実施形態による集電体用鋼箔は、電池の正極に用いることもでき、電池の負極に用いることもできる。本実施形態による集電体用鋼箔を電極として用いる場合、活物質層は特に限定されず、周知の構成を有していればよい。なお、活物質層には、活物質以外の組成物を含有してもよい。活物質層はたとえば、導電助剤が含有されてもよい。また、本実施形態による電極は、集電体用鋼箔と、活物質層との間に、導電性を有する層を有していてもよい。
【0040】
上述のとおり、全固体二次電池では、集電体の表面上に活物質層を形成した後、活物質を結晶化させる場合がある。この場合、活物質層を集電体表面に形成した後、たとえば700℃程度の高温での熱処理を実施する。本実施形態による集電体用鋼箔は、活物質層を形成した後、700℃程度の熱処理を実施しても、座屈や屈曲が生じにくい。
【0041】
ここで、活物質とは特に限定されず、周知の活物質を用いることができる。電極が負極の場合、負極活物質はたとえば、黒鉛に代表される炭素系材料であってもよく、CuSn合金やNiTiSi合金に代表される合金材料であってもよく、SiOに代表されるSi系材料であってもよい。電極が正極の場合、正極活物質はたとえば、コバルト酸リチウムであってもよく、三元系材料であってもよく、マンガン酸リチウムであってもよく、リン酸鉄リチウムであってもよく、ハイニッケルであってもよい。
【0042】
より具体的に、本実施形態による集電体用鋼箔が全固体リチウムイオン二次電池に用いられる場合、活物質として、たとえば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn24)、固溶体酸化物(Li2MnO3-LiMO2(M=Co、Ni等))、リチウム-マンガン-ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/32)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO4)等の複合酸化物を用いることができる。
【0043】
なお、本実施形態において、上述に例示される活物質を用いて、活物質層を形成する方法は特に限定されない。活物質層を形成する方法として、たとえば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法等に代表される真空成膜法、及び、塗布法を用いることができる。
【0044】
[電池]
上述のとおり、本実施形態による集電体用鋼箔は、その表面上に活物質層を形成することで、電池の電極として用いることができる。なお、本実施形態による集電体用鋼箔は、用いられる電池が限定されない。本実施形態による集電体用鋼箔は、全固体二次電池の電極として用いることもでき、非水系電解質二次電池の電極として用いることもでき、水系電解質二次電池の電極として用いることもでき、一次電池の電極として用いることもできる。
【0045】
好ましくは、本実施形態による集電体用鋼箔は、全固体二次電池の電極として用いる。全固体二次電池では、電解質は、固体である。この場合、電解質は特に限定されず、周知の電解質を用いることができる。
【0046】
[座屈]
本実施形態による集電体用鋼箔は、活物質層を形成した後、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、座屈や屈曲が生じにくい。本実施形態において、座屈が生じにくいとは、次の方法で評価できる。
【0047】
本実施形態による集電体用鋼箔の表面に、活物質としてリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)を用いて、活物質層を形成する。なお、集電体用鋼箔の大きさは、たとえば、鋼箔の幅方向に300~600mmとする。活物質を塗布した集電体用鋼箔を、直径70mm以上の搬送ロールを用いて張力を負荷しながら、700℃にて20分間熱処理を実施する。なお、負荷する張力は、たとえば、鋼箔の圧延方向に5~50N/mm2とする。また、熱処理時の搬送速度は0.1~30.0m/分とする。熱処理後の集電体用鋼箔について、座屈の有無を目視で確認する。本明細書において、座屈とは、集電体用鋼箔の表面に形成される凹凸を意味する。目視による確認の結果、集電体用鋼箔に座屈が確認されない場合、座屈が生じにくいと判断する。
【0048】
[屈曲]
本実施形態による集電体用鋼箔は、活物質層を形成した後、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、座屈や屈曲が生じにくい。本実施形態において、屈曲が生じにくいとは、次の方法で評価できる。
【0049】
本実施形態による集電体用鋼箔から、試験片を作製する。試験片の大きさは、フェライト系ステンレス鋼箔の圧延方向に30mm、幅方向に150mmとする。試験片の表面に活物質としてリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)を用いて活物質層を形成し、700℃で20分間熱処理を行う。熱処理後の試験片の長手方向の一端を、直角定盤の上端に固定して、試験片を直角定盤に接するように配置する。試験片の長手方向の他端(下端)と、直角定盤との距離を定規で測定し、試験片の「反り量」と定義する。本実施形態では、反り量が5mm以下の場合、屈曲が生じにくいと判断する。本実施形態ではさらに、反り量が3mm以下の場合、非常に屈曲が生じにくいと判断する。
【0050】
[集電体用鋼箔の製造方法]
本実施形態による集電体用鋼箔の製造方法の一例を説明する。以下に説明する製造方法は、本実施形態による集電体用鋼箔を製造するための一例であって、本実施形態による集電体用鋼箔の製造方法は、以下に説明する製造方法以外の製造方法であってもよい。ただし、以下に説明する製造方法は、本実施形態による集電体用鋼箔の製造方法の好ましい一例である。本実施形態による集電体用鋼箔の製造方法は、中間鋼材準備工程と、最終冷間圧延工程と、熱処理工程とを備える。
【0051】
[中間鋼材準備工程]
中間鋼材準備工程では、集電体用鋼箔の基材である、フェライト系ステンレス鋼箔と同様の化学組成を有する中間鋼材を準備する。すなわち、中間鋼材とは、本実施形態によるフェライト系ステンレス鋼箔を製造するための中間品であり、厚さ数十~数百μmの鋼板を意味する。中間鋼材は、たとえば、熱間圧延コイルに冷間圧延を実施した冷間圧延コイルである。中間鋼材は製造して準備してもよく、第三者から購入することによって準備してもよい。すなわち、中間鋼材を準備する工程は特に限定されない。
【0052】
中間鋼材を製造する場合、たとえば、次の方法で製造する。所望の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。溶鋼を用いて造塊法により鋼塊(インゴット)を製造してもよい。必要に応じて、スラブ、ブルーム又はインゴットを分塊圧延して、ビレットを製造してもよい。
【0053】
製造された鋳片又は鋼塊(スラブ、ブルーム、ビレット、又は、インゴット)に対して熱間加工、及び、冷間圧延を実施して、厚さ数十~数百μmの鋼板を製造する。熱間加工の方法は特に限定されず、周知の方法を用いればよい。熱間加工はたとえば、熱間圧延である。熱間圧延によって中間鋼材を製造する場合、たとえば、次の方法で製造することができる。
【0054】
製造された鋳片又は鋼塊を加熱した後、粗圧延と、仕上げ圧延とを実施する。このとき、熱間圧延の条件は特に限定されず、周知の条件を適宜設定すればよい。熱間圧延された中間鋼材に対して、必要に応じて、冷間圧延と焼鈍処理とを繰り返し実施してもよい。熱間圧延された中間鋼材に対してさらに、必要に応じて、スキンパス圧延を実施してもよい。熱間圧延及び/又は冷間圧延された中間鋼材に対してさらに、焼鈍処理を実施する。以上の工程により、本実施形態による中間鋼材が準備される。
【0055】
[最終冷間圧延工程]
最終冷間圧延工程では、中間鋼材準備工程で準備された中間鋼材に対して、冷間圧延を実施する。本実施形態では、冷間圧延は、周知の装置を用いて実施することができ、特に限定されない。たとえば、複数の冷間圧延スタンドを備える連続圧延機を用いてもよい。
【0056】
本実施形態による最終冷間圧延工程では、好ましい圧下率Rが30~98%である。ここで、最終冷間圧延工程における圧下率Rとは、最終冷間圧延工程前から、最終冷間圧延工程後における、中間鋼材の厚さの減少率(%)を意味する。すなわち、最終冷間圧延工程における圧下率Rは、次の式(A)で定義される。
R(%)=[{(最終冷間圧延工程前の中間鋼材の厚さ)-(最終冷間圧延工程後の中間鋼材の厚さ)}]/(最終冷間圧延工程前の中間鋼材の厚さ)×100 (A)
【0057】
最終冷間圧延工程における圧下率Rが低すぎれば、冷間圧延によって中間鋼材中に導入される歪みのエネルギー量が低下する。この場合、後述する熱処理工程において、歪みを解放させるために必要な熱処理温度が高くなる。すなわち、最終冷間圧延工程における圧下率Rが低すぎ、かつ、後述する熱処理工程における熱処理温度が低すぎれば、製造された集電体用鋼箔のフェライト系ステンレス鋼箔において{110}面の半値幅Fwが高くなりすぎる場合がある。その結果、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、集電体用鋼箔に座屈が生じやすくなる。
【0058】
一方、最終冷間圧延工程における圧下率Rが高すぎれば、冷間圧延によって中間鋼材中に導入される歪み量が高くなりすぎる。この場合、中間鋼材の端部において、破断が発生する懸念がある。したがって、本実施形態による最終冷間圧延工程では、好ましい圧下率Rを35~98%とする。最終冷間圧延工程における圧下率Rのさらに好ましい下限は40%であり、さらに好ましくは45%である。最終冷間圧延工程における圧下率Rのさらに好ましい上限は96%であり、さらに好ましくは95%である。
【0059】
本実施形態による最終冷間圧延工程では、冷間圧延以外の工程も実施してもよい。たとえば、中間鋼材に対してスリット加工を実施して、中間鋼材を任意の大きさに加工してもよい。この場合、最終冷間圧延工程では、冷間圧延を実施した後、スリット加工を実施してもよく、スリット加工後に冷間圧延を実施してもよく、冷間圧延と冷間圧延との間にスリット加工を実施してもよい。
【0060】
[熱処理工程]
熱処理工程では、最終冷間圧延工程後の中間鋼材に対して、熱処理を実施する。本実施形態において熱処理は、周知の熱処理炉を通板させることによって実施することができる。なお、本実施形態において、熱処理工程の雰囲気は、窒素等の不活性ガス雰囲気、又は、水素等の還元性ガス雰囲気とするのが好ましい。
【0061】
熱処理工程における好ましい熱処理温度は350~700℃である。熱処理温度が低すぎれば、中間鋼材から十分に歪みを解放させることができない。その結果、製造された集電体用鋼箔のフェライト系ステンレス鋼箔において{110}面の半値幅Fwが高くなりすぎる場合がある。この場合、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、集電体用鋼箔に座屈が生じやすくなる。一方、熱処理温度が高すぎれば、中間鋼材から歪みが解放されすぎる。その結果、製造された集電体用鋼箔のフェライト系ステンレス鋼箔において{110}面の半値幅Fwが低くなりすぎる場合がある。この場合、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、集電体用鋼箔に屈曲が生じやすくなる。
【0062】
したがって、本実施形態では、熱処理工程における熱処理温度は350~700℃とするのが好ましい。熱処理温度のさらに好ましい下限は400℃である。熱処理温度のさらに好ましい上限は650℃である。さらに好ましい熱処理温度は350~550℃である。この場合、製造された集電体用鋼箔のフェライト系ステンレス鋼箔において{110}面の半値幅Fwが安定して0.45~0.52°となり、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、集電体用鋼箔の屈曲がさらに抑制されやすくなる。
【0063】
熱処理工程における好ましい熱処理時間は、1~400秒である。熱処理時間が短すぎれば、中間鋼材から十分に歪みを解放させることができない。その結果、製造された集電体用鋼箔のフェライト系ステンレス鋼箔において{110}面の半値幅Fwが高くなりすぎる場合がある。この場合、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、集電体用鋼箔に座屈が生じやすくなる。一方、熱処理時間が長すぎれば、中間鋼材から歪みが解放されすぎる場合がある。その結果、製造された集電体用鋼箔のフェライト系ステンレス鋼箔において{110}面の半値幅Fwが低くなりすぎる場合がある。この場合、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、集電体用鋼箔に屈曲が生じやすくなる。
【0064】
したがって、本実施形態では、熱処理工程における熱処理時間は1~400秒とするのが好ましい。熱処理時間のさらに好ましい下限は2秒であり、さらに好ましくは3秒である。熱処理時間のさらに好ましい上限は300秒であり、さらに好ましくは250秒である。なお、本明細書において、熱処理工程における熱処理温度とは、熱処理を実施するための熱処理炉の温度(℃)を意味する。なお、本明細書において熱処理工程における熱処理時間とは、焼鈍処理を実施するための熱処理炉の中を中間鋼材が通過するのにかかる時間(秒)を意味する。
【0065】
以上の製造工程により、上述の構成を有する本実施形態による集電体用鋼箔を製造することができる。なお、上述の製造工程は、本実施形態による集電体用鋼箔の製造方法の一例であって、本実施形態による集電体用鋼箔の製造方法は、上述の製造方法に限定されない。また、本実施形態による集電体用鋼箔の製造方法はさらに、以下に説明する任意の工程を実施してもよい。以下に説明する工程は任意であり、実施しなくてもよい。
【0066】
[テンションアニーリング工程]
本実施形態による集電体用鋼箔の製造方法はさらに、最終冷間圧延工程後、熱処理工程前に、テンションアニーリング工程を含んでもよい。テンションアニーリングとは、張力を付与しながら、焼鈍処理を実施することを意味する。テンションアニーリングを実施された中間鋼材は、張力により中間鋼材の平坦度を維持できる。
【0067】
テンションアニーリング工程が実施される場合、好ましい焼鈍温度は350~450℃である。焼鈍温度が低すぎれば、テンションアニーリングの効果が十分に得られない場合がある。一方、焼鈍温度が高すぎれば、中間鋼材のミクロ組織において、導入された転位密度が低下しすぎる。その結果、製造されたフェライト系ステンレス鋼箔において、CoKα線によるX線回折プロファイルにおける{110}面のピークの半値幅Fwが十分に高められない場合がある。したがって、本実施形態において、テンションアニーリング工程を実施する場合、焼鈍温度は350~450℃とするのが好ましい。
【0068】
テンションアニーリング工程を実施する場合、焼鈍時間は特に限定されない。焼鈍時間は、たとえば、1~10秒である。なお、本明細書においてテンションアニーリングの「焼鈍温度」とは、焼鈍処理を実施するための熱処理炉の温度(℃)を意味する。なお、本明細書においてテンションアニーリングの「焼鈍時間」とは、焼鈍処理を実施するための熱処理炉の中を中間鋼材が通過するのにかかる時間(秒)を意味する。また、テンションアニーリング工程を実施する場合、中間鋼材に付与する張力は特に限定されない。
【0069】
[樹脂被膜形成工程]
本実施形態による集電体用鋼箔の製造方法はさらに、最終冷間圧延工程後、熱処理工程前に、樹脂被膜形成工程を含んでもよい。上述のとおり、樹脂被膜を形成することにより、集電体用鋼箔の絶縁性、耐熱性、及び、平坦性を高めることができる。
【0070】
樹脂被膜形成工程を実施する場合、最終冷間圧延工程によって冷間圧延された中間鋼材の表面上に、樹脂被膜を形成する。上述のとおり、本実施形態では、樹脂被膜とは特に限定されないが、たとえば、無機有機ハイブリッド樹脂被膜である。樹脂被膜を形成する方法は特に限定されず、周知の方法でよい。たとえば、樹脂被膜の成分を含有する組成物を塗布して、乾燥させることによって樹脂被膜を形成してもよい。
【0071】
また、必要に応じて、樹脂被膜を硬化させるための熱処理を実施してもよい。この場合、上述する熱処理工程において、樹脂被膜を硬化させるのが好ましい。熱処理工程の熱処理によって、樹脂被膜を硬化させる場合、熱処理工程によって、フェライト系ステンレス鋼箔の歪みを適切に制御しつつ、同時に樹脂被膜を硬化させることができる。この場合、生産性を高めることができる。
【0072】
以下、実施例によって本実施形態による集電体用鋼箔をさらに具体的に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本実施形態による集電体用鋼箔の効果を確認するための一例であり、本発明を限定するものではない。
【実施例0073】
表1に示す厚さ(μm)の各試験番号の中間鋼材を準備した。なお、各試験番号の中間鋼材はいずれも、JIS G 4305(2012)に規定されるSUS444に相当するフェライト系ステンレス鋼からなる中間鋼材であった。また、中間鋼材はいずれも、840~950℃にて、3~30秒の焼鈍処理を実施されたものを用いた。
【0074】
【表1】
【0075】
各試験番号の中間鋼材に対して、表1に記載の圧下率(%)で、冷間圧延を実施した。このようにして、表1に記載の基材厚さ(μm)の基材(フェライト系ステンレス鋼箔)を得た。得られた基材のうち、一部の試験番号の基材に対して、「焼鈍処理」欄に記載の焼鈍を実施した。試験番号5及び6の基材に対して、テンションアニーリングを実施した(表1中「TA(Tension Annealing)」と表記)。本実施例では、テンションアニーリングとして、400℃で、4秒間の熱処理を実施した。また、試験番号14及び15の基材に対して、ブライトアニーリングを実施した(表1中「BA(Bright Annealing)」と表記)。ブライトアニーリングは、フェライト系ステンレス鋼箔表面が窒化されない条件で実施する焼鈍を意味する。本実施例では、ブライトアニーリングとして、雰囲気中の窒素濃度を0.1%以下とし、950℃にて4秒間の熱処理を実施した。
【0076】
得られた各試験番号の基材の片面に対して、シロキサン系樹脂被膜を形成するための組成物を塗布した。片面に組成物が塗布された基材に対して、表1に記載の熱処理温度で、20~300秒間、熱処理を実施した。なお、表1の「熱処理温度(℃)」欄の「-」は、熱処理を実施しなかったことを意味する。以上の工程により、本実施形態による集電体用鋼箔を製造した。
【0077】
[評価試験]
各試験番号の集電体用鋼箔に対して、半値幅Fw測定試験、座屈評価試験、及び、屈曲評価試験を実施した。
【0078】
[半値幅Fw測定試験]
各試験番号の集電体用鋼箔に対して、半値幅Fw測定試験を実施して、{110}面の半値幅Fwを求めた。具体的に、各試験番号の集電体用鋼箔から試験片を作製して、斜入射X線回折法(GIXD)によりX線回折プロファイルを得た。試験片のうち、樹脂被膜が形成されていない面を特定し、観察面とした。斜入射X線回折法(GIXD)では、線源をCoKα線、管電圧を40kV、管電流を135mAとした。また、ミラーでX線束を平行化した。ソーラースリットは、入射側を5°、回折側を2.5°とした。試験片の観察面からの測定深さが0.19~4.60μmの範囲で12点となるように、入射角を1~25°の範囲で12条件とした。
【0079】
各測定点において、X線プロファイルから{110}面のピークを特定し、半値幅を求めた。得られた12個の半値幅の算術平均値を、{110}面の半値幅Fwと定義した。なお、測定深さは、線吸収係数をμとしてμt=1を満たすX線侵入深さtを求め、試験片の観察面からの深さに換算して用いた。また、質量吸収係数は19.11Cr-1.77Mo-78.38Fe(mass%)を用いた。さらに、フェライト系ステンレス鋼箔の密度は7.75g/cm3を用いた。各試験番号の集電体用鋼箔について、得られた{110}面の半値幅Fw(°)を表1に示す。
【0080】
[座屈評価試験]
各試験番号の集電体用鋼箔に対して、座屈評価試験を実施して、座屈の発生の有無を評価した。具体的に、各試験番号の集電体用鋼箔のうち、シロキサン系樹脂被膜を形成していない表面に、蒸着により活物質層を形成した。本実施例では、活物質としてリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)を用いた。なお、各試験番号において、集電体用鋼箔の大きさは、鋼箔の幅方向に300~600mmとした。活物質を塗布した集電体用鋼箔を、直径70mmの搬送ロールを用いて張力を負荷しながら、700℃にて20分間熱処理をした。なお、負荷する張力は、鋼箔の圧延方向に5~50N/mm2とした。また、熱処理時の搬送速度は0.1~30.0m/分とした。
【0081】
熱処理後の各試験番号の集電体用鋼箔について、座屈の有無を目視で確認した。より具体的に、各試験番号の集電体用鋼箔について、鋼箔の圧延方向に延びる筋状の凹凸が確認されなかった場合、座屈が生じにくいと判断した(表1中「E(Excellent)」と表記)。一方、各試験番号の集電体用鋼箔について、鋼箔の圧延方向に延びる筋状の凹凸が、数mm~数十mm間隔で形成されている場合、座屈が生じやすいと判断した(表1中「NA(Not Acceptable)」と表記)。
【0082】
[屈曲評価試験]
各試験番号の集電体用鋼箔に対して、屈曲評価試験を実施して、屈曲の発生の有無を評価した。なお、座屈評価試験において、座屈が生じにくいと判断された試験番号の集電体用鋼箔について、屈曲評価試験を実施した。具体的に、各試験番号の集電体用鋼箔から、屈曲評価用の試験片を作製した。試験片は、鋼箔の圧延方向に30mm、幅方向に150mmとした。試験片の表面に、蒸着により活物質層を形成した。本実施例では、活物質としてリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)を用いた。活物質層が形成された試験片に対して、700℃で20分間熱処理をした。熱処理後の試験片の長手方向の一端を、直角定盤の上端に固定して、試験片を直角定盤に接するように配置した。
【0083】
試験片の長手方向の他端(下端)と、直角定盤との距離を定規で測定し、試験片の「反り量」と定義した。各試験番号の集電体用鋼箔について、反り量が5mm以下の場合、屈曲が生じにくいと判断した(表1中「G(Good)」と表記)。各試験番号の集電体用鋼箔についてさらに、反り量が3mm以下の場合、非常に屈曲が生じにくいと判断した(表1中「E(Excellent)」と表記)。一方、各試験番号の集電体用鋼箔について、反り量が5mmを超える場合、屈曲が生じやすいと判断した(表1中「NA(Not Acceptable)」と表記)。
【0084】
[評価結果]
試験番号1~8の集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwが0.40~0.52°を満たしていた。その結果、座屈評価試験において、座屈が生じにくいと判断された。その結果さらに、屈曲評価試験において、反り量が5mm以下となり、屈曲が生じにくいと判断された。すなわち、これらの集電体用鋼箔は、活物質層を形成した後、活物質を結晶化させる程度の高温での熱処理によって、座屈や屈曲が生じにくかった。
【0085】
試験番号1~6の集電体用鋼箔はさらに、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwが0.45~0.52°を満たしていた。その結果、屈曲評価試験において、反り量が3mm以下となり、非常に屈曲が生じにくいと判断された。
【0086】
一方、試験番号9及び10の集電体用鋼箔は、熱処理工程が実施されなかった。その結果、これらの集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwが0.52°を超えた。その結果、座屈評価試験において、座屈が生じやすいと判断された。
【0087】
試験番号11の集電体用鋼箔は、熱処理工程の熱処理温度が低すぎた。その結果、この集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwが0.52°を超えた。その結果、座屈評価試験において、座屈が生じやすいと判断された。
【0088】
試験番号12の集電体用鋼箔は、最終冷間圧延工程の圧下率が低すぎた。その結果、この集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwが0.52°を超えた。その結果、座屈評価試験において、座屈が生じやすいと判断された。
【0089】
試験番号13の集電体用鋼箔は、熱処理工程の熱処理温度が高すぎた。その結果、この集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwが0.40°未満であった。その結果、屈曲評価試験において、反り量が5mmを超え、屈曲が生じやすいと判断された。
【0090】
試験番号14の集電体用鋼箔は、熱処理工程の前に、ブライトアニーリングが実施されていた。さらに、熱処理工程が実施されなかった。その結果、この集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwが0.40°未満であった。その結果、屈曲評価試験において、反り量が5mmを超え、屈曲が生じやすいと判断された。
【0091】
試験番号15の集電体用鋼箔は、熱処理工程の前に、ブライトアニーリングが実施されていた。その結果、この集電体用鋼箔は、フェライト系ステンレス鋼箔の{110}面の半値幅Fwが0.40°未満であった。その結果、屈曲評価試験において、反り量が5mmを超え、屈曲が生じやすいと判断された。
【0092】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。