(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151050
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】光変調器
(51)【国際特許分類】
G02F 1/017 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
G02F1/017 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060450
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 清太
(72)【発明者】
【氏名】山下 達弥
(72)【発明者】
【氏名】大山 浩市
(72)【発明者】
【氏名】竹中 充
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA18
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102DA05
2K102DA11
2K102DD03
2K102EA02
(57)【要約】
【課題】光の位相をシフトさせるときの光損失の低減が可能な光変調器を提供する。
【解決手段】光変調器10は、p型のSi層13と、ゲート絶縁膜14と、n型のIII-V族半導体によって少なくとも構成されるゲート層15と、Si層13がグランドであるとともにゲート層15が所定の電位であるゲート電圧を、Si層13とゲート層15との間に印加する電圧印加部19と、を備える。電圧印加部19は、印加するゲート電圧を、負の電圧値と正の電圧値との一方から他方へ変えることで、光伝搬路を伝搬する光の位相をシフトさせる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の位相を変化させる光変調器であって、
光伝搬路の一部を構成するp型のSi層(13)と、
前記Si層の上に接して設けられたゲート絶縁膜(14)と、
前記光伝搬路の他の一部を構成し、前記ゲート絶縁膜の上に接して設けられ、n型のIII-V族半導体によって少なくとも構成されるゲート層(15)と、
前記Si層と前記ゲート層の一方がグランドであるとともに前記Si層と前記ゲート層の他方が任意の電位であるゲート電圧を、前記Si層と前記ゲート層との間に印加する電圧印加部(19)と、を備え、
前記電圧印加部は、印加する前記ゲート電圧を、負の電圧値である前記ゲート電圧の最小値と正の電圧値である前記ゲート電圧の最大値との一方から他方へ変えることで、前記光伝搬路を伝搬する光の位相を2πシフトさせることが可能であり、印加する前記ゲート電圧を、前記最小値よりも大きく前記最大値よりも小さい範囲内の正の第1電圧値と負の第2電圧値との一方から他方へ変えることで、前記光伝搬路を伝搬する光の位相を0よりも大きく2πよりも小さい範囲内でシフトさせることが可能である、光変調器。
【請求項2】
光の位相をπシフトさせるために必要な前記ゲート電圧の値がV
πであり、前記光伝搬路の長さがLであるときの変調効率がV
πLであり、
前記ゲート電圧の値が正のときの変調効率が(V
πL)
EAであり、前記ゲート電圧の値を正の値として、光の位相をπシフトさせたときの損失変化量がα
π(EA)であり、
前記ゲート電圧の値が負のときの変調効率が(V
πL)
CPであり、前記ゲート電圧の値を負の値として、光の位相をπシフトさせたときの損失変化量がα
π(CP)であり、
前記最小値が
g_minであり、前記最大値がV
g_maxである場合、
α
π(EA)>α
π(CP)のとき、V
g_minは式(1a)を満足する値であり、V
g_maxは式(1b)を満足する値であり、
【数1】
【数2】
α
π(EA)<α
π(CP)のとき、V
g_minは式(2a)を満足する値であり、V
g_maxは式(2b)を満足する値である、請求項1に記載の光変調器。
【数3】
【数4】
【請求項3】
前記ゲート層は、前記ゲート絶縁膜に接する量子井戸層(153a)を含む多重量子井戸構造である、請求項1または2に記載の光変調器。
【請求項4】
光変調器であって、
光伝搬路の一部を構成するp型のSi層(13)と、
前記Si層の上に接して設けられたゲート絶縁膜(14)と、
前記光伝搬路の他の一部を構成し、前記ゲート絶縁膜の上に接して設けられ、n型のIII-V族半導体によって少なくとも構成されるゲート層(15)と、
前記Si層と前記ゲート層との間にゲート電圧を印加する電圧印加部(19)と、を備え、
前記ゲート層は、前記ゲート絶縁膜に接する量子井戸層(153a)を含む多重量子井戸構造である、光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の位相を変化させる光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、電圧印加で屈折率を変化させることにより、伝搬光の位相をシフト(すなわち、変化)させる光変調器が開示されている。この光変調器は、p型のSi層と、Si層の上に接して設けられたゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜の上に接して設けられ、n型のIII-V族半導体によって構成されるゲート層と、を備える。Si層とゲート層との間に、Si層を0Vとしてゲート層が所定の電位であるゲート電圧が印加される。これにより、光変調器は、伝搬光の位相を変化させる。特許文献1では、ゲート電圧として、0Vと負の電圧値とを用いることが開示されている。
【0003】
また、上記した構造の光変調器において、ゲート電圧として、0Vと正の電圧値とを用いることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した構造の光変調器において、0Vと負の電圧値との間のゲート電圧、すなわち、負方向のゲート電圧を用いて、光の位相を2πシフトさせたときの光損失が大きい。同様に、上記した構造の光変調器において、0Vと正の電圧値との間のゲート電圧、すなわち、正方向のゲート電圧を用いて、光の位相を2πシフトさせたときの光損失が大きい。光損失が大きいとは、光変調器の入力光の光強度に対する光変調器の出力光の光強度の減衰量が大きいことを意味する。なお、光損失が大きいのは、光の位相を2πシフトさせるときに限らず、光の位相を0より大きく2πよりも小さい範囲内でシフトさせるときにおいても同様である。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、光の位相をシフトさせるときの光損失の低減が可能な光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、
光変調器は、
光伝搬路の一部を構成するp型のSi層(13)と、
Si層の上に接して設けられたゲート絶縁膜(14)と、
光伝搬路の他の一部を構成し、ゲート絶縁膜の上に接して設けられ、n型のIII-V族半導体によって少なくとも構成されるゲート層(15)と、
Si層とゲート層の一方がグランドであるとともにSi層とゲート層の他方が任意の電位であるゲート電圧を、Si層とゲート層との間に印加する電圧印加部(19)と、を備え、
電圧印加部は、印加するゲート電圧を、負の電圧値であるゲート電圧の最小値と正の電圧値であるゲート電圧の最大値との一方から他方へ変えることで、光伝搬路を伝搬する光の位相を2πシフトさせることが可能であり、印加するゲート電圧を、前記最小値よりも大きく前記最大値よりも小さい範囲内の正の第1電圧値と負の第2電圧値との一方から他方へ変えることで、光伝搬路を伝搬する光の位相を0よりも大きく2πよりも小さい範囲内でシフトさせることが可能である。
【0008】
これによれば、負方向と正方向の片側のみのゲート電圧を用いる場合と比較して、光の位相をシフトさせるときの光損失を低減することができる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の光変調器の断面構成を示す模式図である。
【
図2】負の電圧値のゲート電圧を印加したときの状態を示す第1実施形態の光変調器の断面構成を示す模式図である。
【
図3】正の電圧値のゲート電圧を印加したときの状態を示す第1実施形態の光変調器の断面構成を示す模式図である。
【
図4】比較例1の光変調器において、光の位相を2πシフトさせる際のゲート電圧として、負の電圧値V
-2πと0とが用いられるときのゲート電圧と屈折率変化量との関係を示す図である。
【
図5】比較例1の光変調器において、光の位相を2πシフトさせる際のゲート電圧として、負の電圧値V
-2πと0とが用いられるときのゲート電圧と光損失変化量との関係を示す図である。
【
図6】比較例2の光変調器において、光の位相を2πシフトさせる際のゲート電圧として、0と正の電圧値V
2πとが用いられるときのゲート電圧と屈折率変化量との関係を示す図である。
【
図7】比較例2の光変調器において、光の位相を2πシフトさせる際のゲート電圧として、0と正の電圧値V
2πとが用いられるときのゲート電圧と光損失変化量との関係を示す図である。
【
図8】第1実施形態の光変調器において、光の位相を2πシフトさせる際のゲート電圧として、負の電圧値V
φ0-2πと正の電圧値V
φ0とが用いられるときのゲート電圧と光損失変化量との関係を示す図である。
【
図9】正方向のみの電圧を使った駆動のときの平均変調損〈α
EA〉と、正負両方向の電圧を使った駆動のときの平均変調損〈α
CP+EA〉との比較を示す図である。
【
図10】負の電圧値のゲート電圧を印加したときのVgとφとの関係を示す図である。
【
図11】負の電圧値のゲート電圧を印加したときのVgとα
φとの関係を示す図である。
【
図12】負の電圧値のゲート電圧を印加したときのα
φとφとの関係を示す図である。
【
図13】正の電圧値のゲート電圧を印加したときのVgとφとの関係を示す図である。
【
図14】正の電圧値のゲート電圧を印加したときのVgとα
φとの関係を示す図である。
【
図15】正の電圧値のゲート電圧を印加したときのα
φとφとの関係を示す図である。
【
図16】光変調器の入力光強度I
0、出力光強度I
φ、光損失変化量α
φを示す図である。
【
図17】比較例1のときのα
φとφとの関係を示す図である。
【
図18】比較例2のときのα
φとφとの関係を示す図である。
【
図19】第1実施形態のときのα
φとφとの関係を示す図である。
【
図20】〈α
CP〉とα
π(CP)との関係を示す図である。
【
図23】損失の低減が可能なゲート電圧の最小値の具体例を示す図である。
【
図24】損失の低減が可能なゲート電圧の最大値の具体例を示す図である。
【
図25】第2実施形態の光変調器の断面構成を示す模式図である。
【
図26】第3実施形態の光変調器の断面構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の光変調器10は、MOS型である。具体的には、光変調器10は、基板11と、第1のクラッド層12と、Si(すなわち、シリコン)層13と、ゲート絶縁膜14と、ゲート層15と、第1電極部16と、第2電極部17と、第2のクラッド層18とを備える。
【0013】
基板11は、半導体材料であるSiで構成される。第1のクラッド層12は、基板11の上に接して設けられている。第1のクラッド層12は、絶縁材料であるSiO2(すなわち、酸化シリコン)で構成される。なお、基板11および第1のクラッド層12は、他の材料で構成されてもよい。
【0014】
Si層13は、第1のクラッド層12の上に接して設けられている。Si層13は、主にSiで構成されるとともに、p型の導電型不純物がドープされたp型の半導体層である。
【0015】
Si層13は、凸形状のリブ131と、一対のテラス132、133とを有する。リブ131は、図面の垂直方向を延伸方向として、延び広がっている。図面の上下方向がリブ131の高さ方向である。一対のテラス132、133は、リブ131の幅方向におけるリブ131の両側に、リブ131から離れて配置されている。すなわち、一対のテラス132、133のそれぞれとリブ131との間には、溝134、135が形成されている。リブ131の幅方向は、図面の左右方向であり、リブ131の延伸方向とリブ131の高さ方向とのそれぞれに垂直な方向である。
【0016】
リブ131の高さは、例えば、100nm~150nmである。リブ131の幅方向の長さは、例えば、400nm~1000nmである。Si層13のうちリブ131の下方の部分の厚さ(すなわち、第1のクラッド層12の上面の位置から溝134、135の底面の位置までのSi層13の厚さ)は、例えば、70nm~120nmである。
【0017】
溝134、135の内部は、空気が存在する空間部136、137とされている。空間部136、137は、Si層13よりも屈折率が低い低屈折率部である。なお、溝134,135の内部は、Si層13よりも屈折率が低い部材、例えば、SiO2で埋められてもよい。この場合、Si層13よりも屈折率が低い部材が低屈折率部である。
【0018】
ゲート絶縁膜14は、Si層13の上に接して設けられている。ゲート絶縁膜14は、リブ131、空間部136、137、一対のテラス132、133にわたって配置されている。ゲート絶縁膜14は、リブ131の上面および一対のテラス132、133の上面に接している。ゲート絶縁膜14は、絶縁材料であるAl2O2(すなわち、酸化アルミニウム)で構成されている。なお、ゲート絶縁膜14は、他の材料、例えば、SiO2、HfO2(すなわち、酸化ハウニウム)で構成されてもよい。ゲート絶縁膜14の厚さは、例えば、3nm~10nmである。
【0019】
ゲート層15は、n型の導電型不純物がドープされたn型のIII-V族半導体の単層で構成される。III-V族半導体は、InGaAsPである。III-V族半導体は、InGaAsPに限られず、InP、InGaAs、InAlAs、GaAs、AlGaAs、GaSb、AlGaSb、InSb、InGaSb等であってもよい。ゲート層15の厚さは、例えば、100nm~200nmである。
【0020】
第1電極部16は、ゲート層15に対して電気的に接続されている。具体的には、第1電極部16は、ゲート層15の上に接して設けられている。第1電極部16は、一対のテラス132、133のうち一方のテラス132の上に配置されている。すなわち、第1電極部16は、リブ131の真上の位置からリブ131の幅方向で離れた位置に配置されている。第1電極部16は、金属材料で構成されている。なお、図示しないが、第1電極部16は、ゲート層15とオーミックコンタクトを形成するコンタクト部と、コンタクト部と電気的に接続され、金属材料で構成された金属部とを含んで構成されてもよい。
【0021】
第2電極部17は、Si層13に対して電気的に接続されている。具体的には、第2電極部17は、Si層13の上に接して設けられている。第2電極部17は、一対のテラス132、133のうち他方のテラス133の上に配置されている。すなわち、第2電極部17は、リブ131の幅方向での第1電極部16側とは反対側に、リブ131の真上の位置から離れた位置に配置されている。第2電極部17は、金属材料で構成されている。なお、図示しないが、第2電極部17は、Si層とオーミックコンタクトを形成するコンタクト部と、コンタクト部と電気的に接続され、金属材料で構成された金属部とを含んで構成されてもよい。
【0022】
第2のクラッド層18は、ゲート層15の上に接して設けられている。第2のクラッド層18は、第1電極部16および第2電極部17を露出させた状態で、ゲート層15を覆っている。第2のクラッド層18は、絶縁材料であるSiO2で構成される。第2のクラッド層18は、他の材料で構成されてもよい。
【0023】
図1中の破線の円が示す領域が光伝搬路である。
図1に示すように、Si層13のリブ131が、光伝搬路の一部を構成する。ゲート層15のうちゲート絶縁膜14を介してリブ131の上に位置する部分が、光伝搬路の他の一部を構成する。図面に垂直な方向でのSi層13およびゲート層15の長さが、光伝搬路の長さ、すなわち、光変調器10の長さである。
【0024】
光変調器10は、ゲート電圧(すなわち、駆動電圧)を印加する電圧印加部19を備える。電圧印加部19は、第1電極部16と第2電極部17とのそれぞれに電気的に接続されている。電圧印加部19は、第1電極部16と第2電極部17との間にゲート電圧を印加する。すなわち、電圧印加部19は、Si層13がGND(すなわち、グランド)であるとともにゲート層15が任意の電位であるゲート電圧を、ゲート層15とSi層13との間に印加する。Si層13は基準電位、すなわち、0Vとされる。
【0025】
電圧印加部19として、正負電源が用いられる。電圧印加部19は、印加するゲート電圧を、最小値Vg_minと最大値Vg_maxの間の任意の値へ変えることが可能である。ゲート電圧の最小値は、負の電圧値である。ゲート電圧の最大値は、正の電圧値である。
【0026】
電圧印加部19は、ゲート電圧を印加して、光伝搬路を伝搬する光の屈折率を変化させることで、光伝搬路を伝搬する光の位相を変化させる。電圧印加部19は、印加するゲート電圧を、最小値と最大値との一方から他方へ変えることで、光伝搬路を伝搬する光の位相を2πシフトさせる。このとき、ゲート電圧の最小値と最大値とのそれぞれは、光伝搬路を伝搬する光の位相を2πシフトさせることができる大きさに設定される。また、電圧印加部19は、印加するゲート電圧を、上記の最小値よりも大きく上記の最大値よりも小さい範囲内の正の第1電圧値と負の第2電圧値との一方から他方へ変えることで、光伝搬路を伝搬する光の位相を0よりも大きく2πよりも小さい範囲内でシフトさせる。
【0027】
図2は、負の電圧値のゲート電圧が印加される場合、すなわち、n型のゲート層15よりもp型のSi層13の方が電位が高い順バイアス駆動の場合を示している。この場合、ゲート層15のうちゲート絶縁膜14側の領域に、キャリアとしての電子C1が蓄積される。また、Si層13のうちゲート絶縁膜14側の領域に、キャリアとしての正孔C2が蓄積される。これらのキャリアと光の相互作用、すなわち、キャリアプラズマ効果によって、光伝搬路の屈折率が変化する。屈折率が変化することで、光の位相が変化する。以下では、キャリアプラズマ効果は、CPとも記載される。
【0028】
図3は、正の電圧値のゲート電圧が印加される場合、すなわち、n型のゲート層15よりもp型のSi層13の方が電位が低い逆バイアス駆動の場合を示している。この場合、ゲート絶縁膜14を挟んだゲート層15とSi層13との間に電界が生じる。電界吸収効果によって、光伝搬路の屈折率が変化する。以下では、電界吸収効果は、EAとも記載される。
【0029】
ここで、本実施形態と比較例1、2とを対比する。比較例1は、本実施形態と異なり、光の位相を2πシフトさせる際のゲート電圧として、
図4中の負の電圧最小値V
-2πと電圧最大値の0Vとの間の負方向の電圧を用いることで、-2πから0の位相変化を生じさせる。V
-2πは位相変化-2πを生じさせるための電圧値である。比較例1の光変調器の他の構成は、本実施形態と同じである。
【0030】
図4に示すように、負の電圧値のゲート電圧V
gが印加される場合、ゲート電圧V
gの絶対値が大きくなるにつれて、すなわち、ゲート電圧V
gが高電圧になるにつれて、屈折率変化量n
φが大きくなる。
図4の横軸は、ゲート電圧V
gを示す。
図4の縦軸は、位相が0からφに変化する際に必要な屈折率変化量n
φを示す。
【0031】
図5に示すように、負の電圧値のゲート電圧V
gが印加される場合、ゲート電圧V
gが高電圧になるほど、光損失変化量α
φは大きくなる。
図5の横軸は、ゲート電圧V
gを示す。
図5の縦軸は、位相変化させたときの光損失変化量α
φを示す。このため、比較例1では、光の位相を2πシフトさせたときの平均変調損〈α
CP〉が大きい。
【0032】
比較例2は、本実施形態と異なり、光の位相を2πシフトさせる際のゲート電圧として、
図6中の0Vと正の最大電圧値V
2πとの間の正方向の電圧を用いることで、0から2πの位相変化を生じさせる。V
2πは位相変化2πを生じさせるための電圧値である。比較例2の光変調器の他の構成は、本実施形態と同じである。
【0033】
図6に示すように、正の電圧値のゲート電圧V
gが印加される場合、ゲート電圧V
gの絶対値が大きくなるにつれて、すなわち、高電圧になるにつれて、屈折率変化量n
φが大きくなる。
図6の横軸は、ゲート電圧V
gを示す。
図6の縦軸は、屈折率変化量n
φを示す。
【0034】
図7に示すように、正の電圧値のゲート電圧V
gが印加される場合、ゲート電圧V
gが高電圧になるほど、位相変化させたときの光損失変化量α
φは大きくなる。
図7の横軸は、ゲート電圧V
gを示す。
図7の縦軸は、光損失変化量α
φを示す。このため、比較例2では、光の位相を2πシフトさせたときの平均変調損〈α
EA〉が大きい。
【0035】
これに対して、本実施形態は、光の位相を2πシフトさせる際のゲート電圧V
gとして、
図8中の負の電圧値V
φ0-2πと正の電圧値V
φ0とを用いることで、(φ
0-2π)からφ
0の位相変化を生じさせる。ここで、φ
0は比較例1の2πの位相変化からのオフセット量である。これによれば、比較例1、2における高電圧領域での位相変化を、逆方向の低電圧領域で補うことで、光の位相を2πシフトさせたときの平均変調損〈α
CP+EA〉を、比較例1の平均変調損〈α
CP〉および比較例2の平均変調損〈α
EA〉よりも小さくすることができる。
【0036】
このように、正負両方向の電圧を使った駆動により、正方向と負方向の片側のみの電圧を使った駆動よりも、光損失を低減できるという効果が得られる。ゲート電圧として、ゲート電圧の最小値よりも大きく最大値よりも小さい範囲内の正の第1電圧値と負の第2電圧値とを用いることで、光の位相を0よりも大きく2πよりも小さい範囲内でシフトさせるときにおいても、同様の効果が得られる。
【0037】
光の位相を2πシフトさせたときの本実施形態の平均変調損〈α〉は、次式で示される。
【数1】
【0038】
ところで、
図9に示すように、正負両方向の電圧を使った駆動であっても、平均変調損〈α
CP+EA〉が、正方向のみの電圧を使った駆動のときの平均変調損〈α
EA〉よりも大きい場合がある。また、図示しないが、正負両方向の電圧を使った駆動であっても、平均変調損〈α
CP+EA〉が、負方向のみの電圧を使った駆動のときの平均変調損〈α
CP〉よりも大きい場合がある。
【0039】
正負両方向の電圧を使った駆動であっても、損失の関数αφによって、正方向と負方向の片側のみの電圧を使った駆動よりも損失低減することができるオフセットの位相φ0が変わる。このため、光の位相を2πシフトさせるときのゲート電圧の最小値をVg_minとし、最大値をVg_maxとすると、それぞれは、次の条件を満たすことが好ましい。
【0040】
光の位相をπシフトさせるために必要なゲート電圧の値がVπであり、光伝搬路の長さがLであるときの変調効率がVπLである。ゲート電圧の値が正のときの変調効率が(VπL)EAである。ゲート電圧の値を正の値として、光の位相をπシフトさせたときの損失変化量がαπ(EA)である。ゲート電圧の値が負のときの変調効率が(VπL)CPである。ゲート電圧の値を負の値として、光の位相をπシフトさせたときの損失変化量がαπ(CP)である。
【0041】
α
π(EA)>α
π(CP)のとき、V
g_minは、式(1a)を満足する値である。V
g_maxは、式(1b)を満足する値である。
【数2】
【数3】
【0042】
α
π(EA)<α
π(CP)のとき、V
g_minは、式(2a)を満足する値である。V
g_maxは、式(2b)を満足する値である。
【数4】
【数5】
【0043】
なお、(V
πL)
EA、α
π(EA)、(V
πL)
CP、α
π(CP)のそれぞれの値として、
図1に示す構造の光変調器において、予め測定されたもの或いは数値計算で算出されたものが用いられる。
【0044】
式(1a)、式(1b)、式(2a)、式(2b)のそれぞれは、次のSTEP1~5を経て導出される。
【0045】
STEP1では、φとα
φの関数が導出される。順バイアス駆動、すなわち、V
g<0のとき、キャリアプラズマ効果(すなわち、CP)によって光が変調される。このときのVgとφとの関係は、非特許文献1に開示されるように、
図10に示される。このときのVgとφとの関係は、下記の式(3-1)~式(3-5)より、下記の式(3-6)、式(3-7)で示される。
・非特許文献1:[1] J-H. Han, F. Boeuf, J. Fujikata, S. Takahashi, S. Takagi, and M. Takenaka, Nat. Photon. 11, 486-490 (2017)
【0046】
【数6】
これらの式において、φは位相である。Lは光変調器の長さである。λは伝搬する光の波長である。Δnは屈折率変化量である。eは電気素量である。cは光速度である。ε
0は材料の誘電率である。nは屈折率である。m
*
ceは電子の有効質量である。m
*
chは正孔の有効質量である。ΔN
eは、電子のキャリア密度の変化量である。ΔN
hは正孔のキャリア密度の変化量である。
【0047】
q=CV
この式において、qは電荷量である。Cはゲート絶縁膜のキャパシタンスである。Vはゲート電圧である。この式より、
【0048】
【0049】
V
g<0のときのVgとα
φとの関係は、非特許文献2に開示されるように、
図11に示され、下記の式(4-1)~(4-3)より、下記の式(4-4)で示される。
・非特許文献2:Q. Li , C. Ho , S. Takagi, and M. Takenaka, “Optical Phase Modulators Based on Reverse-Biased III-V/Si Hybrid Metal-Oxide-Semiconductor Capacitors,” IEEE photon. Tech. let., 32(6) (2020)
【0050】
【数9】
これらの式において、αは光損失である。μ
eは電子の移動度である。μ
hは正孔の移動度である。
【0051】
【0052】
V
g<0のときのα
φとφの関係は、
図12に示され、式(3-6)、(3-7)(4-4)より、下記の式(5)で示される。
【数12】
α
π(CP)は、α
-πのことである。α
π(CP)は、負の電圧値のゲート電圧でπシフトさせるときに生じる損失である。α
-πは0より大きい値である。φは0より小さい値である。
【0053】
逆バイアス駆動、すなわち、V
g>0のとき、電界吸収効果(すなわち、EA)によって光が変調される。このときのVgとφとの関係は、非特許文献3に開示されるように、
図13に示される。このときのVgとφとの関係は、下記の式(6-1)~式(6-5)より、下記の式(6-6)、式(6-7)で示される。
・非特許文献3:A. Alping and L. A. Coldren, “Electrorefraction in GaAs and InGaAsP and its application to phase modulators,” J. Appl. Phys., vol. 61, no. 7, pp. 2430-2433, Apr. 1987.
【0054】
【数13】
これらの式において、Fは電界である。k
1は係数である。よって、
【数14】
【0055】
V
g>0のときのVgとα
φとの関係は、非特許文献4に開示されるように、
図14に示され、下記の式(7-1)~(7-3)より、下記の式(7-4)で示される。
・非特許文献4:[4] W.Xie, T. Komljenovic, J. Huang, M. Tran, M. Davenport, Al Torres, P. Pintus, and J. Bowers, “Heterogeneous silicon photonics sensing for autonomous cars,” Opt. Exp. 27(3) 3642-3663 (2019)
【数15】
これらの式において、k
2は係数である。
【0056】
V
g>0のときのα
φとφの関係は、
図15に示され、式(6-6)、(6-7)(7-4)より、下記の式(8)で示される。
【数16】
【0057】
STEP2では、光損失平均値〈αφ〉が導出される。まず、光損失変化量αφ[dB]が入出力強度比(Iφ/I0)に変換される。
【0058】
図16に示すように、光変調器10の入力光強度がI
0であり、光変調器10の出力光強度がI
φであり、光変調器10の光損失変化量がα
φ[dB]である。この場合、α
φ[dB]と(I
φ/I
0)との関係は、次の式で示される。
【数17】
【0059】
図17に示すように、CPのみによって光の位相を2π変化させる比較例1のときでは、位相範囲は-2πから0である。このときの入出力強度比は、式(5)より、式(9-1)で示される。
【数18】
【0060】
図18に示すように、EAのみによって光の位相を2π変化させる比較例2のときでは、位相範囲は0から2πである。このときの入出力強度比は、式(8)より、式(10-1)で示される。
【数19】
【0061】
図19に示すように、CPとEAの両方によって光の位相を2π変化させる本実施形態のときでは、位相範囲は(φ
0-2π)からφ
0である。このときの入出力強度比は、式(5)、式(8)より、式(11-1)で示される。
【数20】
【0062】
続いて、入出力強度比の平均値が算出される。
【0063】
ここで、y=f(x)の平均値〈y〉の一般式は次の式で示される。
【数21】
【0064】
図17に示す比較例1のときの入出力強度比の平均値は、式(9-2)で示される。〈I
CP/I
0〉は、CPで光の位相を-2πから0まで変化させた際の平均の入出力強度比である。
【数22】
【0065】
図18に示す比較例2のときの入出力強度比の平均値は、式(10-2)で示される。〈I
EA/I
0〉は、EAで光の位相を0から2πからまで変化させた際の平均の入出力強度比である。
【数23】
【0066】
図19に示す本実施形態のときの入出力強度比の平均値は、式(11-2)で示される。〈I
CP+EA(φ
0)/I
0〉は、EAで光の位相を0からφ
0まで変化させ、CPで光の位相を(φ
0-2π)から0まで変化させた際の平均の入出力強度比である。
【数24】
【0067】
続いて、入出力強度比の平均値が光損失平均値に変換される。
【0068】
図17に示す比較例1のときの光損失平均値は、式(9-3)で示される。〈α
CP〉は、CPの変調損の平均値である。
【数25】
【0069】
図18に示す比較例のときの光損失平均値は、式(10-3)で示される。〈α
EA〉は、EAの変調損の平均値である。
【数26】
【0070】
図19に示す本実施形態のときの光損失平均値は、式(11-3)で示される。〈α
CP+EA(φ
0)〉は、EAで光の位相を0からφ
0まで変化させ、CPで光の位相を(φ
0-2π)から0まで変化させた際の変調損の平均値である。
【数27】
【0071】
本実施形態の光変調器における損失レベルは、1dB以下である。α
π(CP)=0.23dBとした場合、〈α
CP〉=0.228dBである。このため、
図20に示すように、〈α
CP〉?α
π(CP)と考えてもよい。同様に、α
π(EA)=0.6dBとした場合、〈α
EA〉=0.586dBである。このため、〈α
EA〉?α
π(EA)と考えてもよい。
【0072】
STEP3では、損失を低減できるφ0の条件式が導出される。
【0073】
(条件式1)
条件式1は、〈α
EA〉>〈α
CP〉の場合であり、すなわち〈α
CP〉>〈α
CP+EA(φ
0)〉となればよいので、キャリアプラズマ効果単体に対する比較となる。よって、〈I
CP〉<〈I
CP+EA(φ
0)〉であるので、下記の式(12-1)が導出される。
【数28】
【0074】
式(12-1)は、
図21に示される。
図21に示すように、D=0の解の1つは、φ
0=0となる。損失を低減できるφ
0は、
図21に示すグラフにおいて、Dが0よりも小さい範囲である。よって、〈α
EA〉>〈α
CP〉の場合に、損失を低減できるφ
0は、下記の式(12-2)に示される。
【数29】
【0075】
(条件式2)
条件式2は、〈α
CP〉>〈α
EA〉の場合であり、〈α
EA〉>〈α
CP+EA(φ
0)〉となればよいので、電界吸収効果単体に対する比較となる。よって、
〈I
EA〉<〈I
CP+EA(φ
0)〉であるので、下記の式(13-1)が導出される。
【数30】
【0076】
式(13-1)は、
図22に示される。
図22に示すように、D=0の解の1つは、φ
0=2πとなる。損失を低減できるφ
0は、
図22に示すグラフにおいて、Dが0よりも小さい範囲である。よって、〈α
CP〉>〈α
EA〉の場合に、損失を低減できるφ
0は、下記の式(13-2)に示される。
【数31】
【0077】
STEP4では、損失を低減できる位相範囲と、電圧範囲とが導出される。
【0078】
位相を2π変化させる位相範囲の、最小値をφmin最大値をφmaxとすると、φmin=(φ0-2π)、φmax=φ0である。ただし、φmin<0、φmax>0である。このため、式(12-2)、(13-2)を用いて、次のように表される。
【0079】
(条件式1)
〈α
EA〉>〈α
CP〉の場合のφ
minの条件
【数32】
〈α
EA〉>〈α
CP〉の場合のφ
maxの条件
【数33】
【0080】
(条件式2)
〈α
CP〉>〈α
EA〉の場合のφ
minの条件
【数34】
〈α
CP〉>〈α
EA〉の場合のφ
maxの条件
【数35】
【0081】
次に、位相変化φmin、φmaxに対応するVgを、Vg_min、Vg_maxとする。そして、φ<0のときでは式(3-7)を、φ>0のときでは式(6-7)を、式(14-1)、式(14-2)、式(15-1)、式(15-2)に代入することで、式(1a)、式(1b)、式(2a)、式(2b)が導出される。
【0082】
なお、段落0072で示した通り、〈αEA〉は、位相をπシフトさせたときの損失変化量απ(EA)にほぼ等しい。〈αCP〉は、位相をπシフトさせたときの損失変化量απ(CP)にほぼ等しい。よって、条件式1の〈αEA〉>〈αCP〉の場合は、απ(EA)>απ(CP)の場合と同じであると考えてよい。条件式2の〈αCP〉>〈αEA〉の場合は、απ(CP)>απ(EA)の場合と同じであると考えてよい。
【0083】
ここで、Vg_minとVg_maxの具体的数値の一例を示す。上記の非特許文献1より、ゲート電圧が負のときの損失変化量および変調効率は、απ(CP)=0.23dB、VπL(CP)=0.047Vcmである。上記の非特許文献2より、ゲート電圧が正のときの損失変化量および変調効率は、απ(EA)=0.6dB、VπL(EA)=0.4Vcmである。また、光変調器の長さはL=500μmであると仮定する。この場合、απ(EA)>απ(CP)であるので、式(1a)、式(1b)を解くことで、Vg_minとVg_maxとが算出される。
【0084】
式(1a)の左辺がD
1aである。D
1aは下記の式で示される。
【数36】
【0085】
D
1aのグラフは
図23のようになる。
図23において、D
1a>0を満たすVgの範囲は、-1.9V<Vg<-0.8Vである。
【0086】
式(1b)の左辺がD
1bである。D
1bは下記の式で示される。
【数37】
【0087】
D
1bのグラフは
図24のようになる。
図24において、D
1b>0を満たすVgの範囲は、0V<Vg<8.5Vである。
【0088】
よって、損失の低減が可能である、位相を2πシフトさせる際のゲート電圧の最小値Vg_minと最大値Vg_maxは、-1.9V<Vg_min<-0.8V、0V<Vg_max<8.5Vである。
【0089】
(第2実施形態)
図25に示すように、本実施形態では、第1実施形態と異なり、ゲート層15がn型のIII-V族半導体の複数層で構成される。具体的には、ゲート層15は、1層の量子井戸(すなわち、QW)層151と、1層の障壁層152との積層構造である。QWは、quantum wellの略称である。量子井戸層151は、ゲート絶縁膜14の上に接して設けられている。障壁層152は、量子井戸層151にキャリアを閉じ込める機能を持つ。量子井戸層151は、障壁層152よりもバンドギャップエネルギーが小さい層である。
【0090】
量子井戸層151は、n型のInGaAsPで構成される。障壁層152は、n型のInPで構成される。量子井戸層151の厚さは20nm以下である。障壁層152の厚さは20nmよりも大きい。
【0091】
このように、ゲート層15は、ゲート絶縁膜14に接する量子井戸層151を有する。このため、InGaAsPのバンドギャップ波長が光の波長に近づき、有効質量が低下することで、負の電圧値のゲート電圧が印加されたときのキャリアプラズマ効果が増強される。これにより、負の電圧値のゲート電圧が印加されたときの光損失を低減することができる。
【0092】
光変調器10の他の構成は、第1実施形態と同じである。本実施形態によっても、正負両方向の電圧を使った駆動により、第1実施形態と同じ効果が得られる。
【0093】
(第3実施形態)
図26に示すように、本実施形態では、第1実施形態と異なり、ゲート層15がn型のIII-V族半導体の複数層で構成される。
【0094】
具体的には、ゲート層15は、ゲート絶縁膜14に接する量子井戸層153aを含む多重量子井戸(すなわち、MQW)構造である。MQWは、multi quantum wellの略称である。MQW構造は、複数の量子井戸層153のそれぞれと複数の障壁層154のそれぞれとが交互に積層された構造である。換言すると、ゲート層15は、ゲート絶縁膜14に接する最下層の量子井戸層153aと、ゲート絶縁膜14から最も離れた最上層の障壁層154aと、最下層の量子井戸層153aと最上層の障壁層154aとの間に位置する複数の中間層の量子井戸層153bおよび複数の中間層の障壁層154bとを有する。
【0095】
複数の量子井戸層153のそれぞれの厚さは、20nm以下である。複数の中間の障壁層154bのそれぞれの厚さは、20nm以下である。最上層の障壁層154aの厚さは、20nmよりも大きい。複数の量子井戸層153のそれぞれは、n型のInGaAsPで構成される。複数の障壁層154のそれぞれは、n型のInPで構成される。本実施形態の光変調器10の他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0096】
ここで、本実施形態の光変調器10を構成する各層の組成、厚さ、ドープ濃度の具体例を、表1示す。複数の中間層の量子井戸層153bは10層である。複数の中間層の障壁層154bは10層である。
【0097】
【表1】
表1に示されるように、各量子井戸層153a、153bの組成は、n-In
0.66Ga
0.34As
0.73P
0.27である。これは、下記の組成式のx、yが、InPと格子整合するように、下記の条件を満たすように設定されたものである。
In
1-xGa
xAs
yP
1-y
InPとの格子整合条件は、次の通りである。
x=0.1896y/(0.4176-0.0125y)
狙いのバンドギャップ波長との関係は、次の通りである。
Eg=1.35-0.72y+0.12y
2[eV]
=1.24/λ
g=1.24/1.40μm
【0098】
なお、ゲート層15の各量子井戸層153は、n型のIII-V族半導体であれば、n型のInGaAsP以外の材料で構成されていてもよい。ゲート層15の各障壁層154は、n型のIII-V族半導体であれば、n型のInP以外の材料で構成されていてもよい。
【0099】
本実施形態によっても、正負両方向の電圧を使った駆動により、第1実施形態と同じ効果が得られる。
【0100】
また、本実施形態の光変調器10は、正負両方向の電圧を使った駆動に限らず、第1実施形態で説明した比較例1、2と同様に、正方向と負方向の片側のみの電圧を使って駆動されてもよい。この場合、本実施形態によれば、ゲート層15は、ゲート絶縁膜14に接する量子井戸層153aを有する。このため、InGaAsPのバンドギャップ波長が光の波長に近づき、有効質量が低下することで、負の電圧値のゲート電圧が印加されたときのキャリアプラズマ効果が増強される。これにより、0以下の負の電圧値のゲート電圧を使った駆動においても、ゲート層15が単層で構成される場合と比較して、損失をより低減することができる。また、本実施形態によれば、ゲート層15は、多重量子井戸構造を有する。このため、正の電圧値のゲート電圧が印加されるとき、ゲート電圧の大きさが同じ条件で比較して、ゲート層15が単層で構成される場合よりも変調効率が大きくなる。これにより、0以上の正の電圧値のゲート電圧を使った駆動においても、ゲート層15が単層で構成される場合と比較して、光損失をより低減することができる。
【0101】
(他の実施形態)
(1)第1実施形態では、ゲート層15は、n型のIII-V族半導体の単層で構成される。しかしながら、ゲート層15は、各層の厚さが20nmよりも大きな複数の層で構成されてもよい。例えば、ゲート層15は、n型のInGaAsPで構成された第1層と、n型のInPで構成された第2層との2層で構成される。第1層の厚さは50~120nmとされる。第2層の厚さは50~80nmとされる。また、ゲート層15は、n型のIII-V族半導体によって少なくとも構成されていればよく、他の材料で構成された部分を含んでいてもよい。
【0102】
(2)上記した各実施形態では、電圧印加部19は、ゲート電圧として、Si層13がGNDであるとともにゲート層15が任意の電位であるゲート電圧を印加する。しかしながら、電圧印加部19は、ゲート電圧として、ゲート層15がGNDであるとともにSi層13が任意の電位であるゲート電圧を印加してもよい。要するに、電圧印加部19は、Si層13とゲート層15の一方がGNDであるとともに、Si層13とゲート層15の他方が任意の電位であるゲート電圧を印加する。
【0103】
(3)本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0104】
13 Si層
14 ゲート絶縁膜
15 ゲート層
19 電圧印加部