(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151060
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ポリ-γ-グルタミン酸イオンコンプレックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20231005BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060467
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000223045
【氏名又は名称】東洋濾紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 正孝
(72)【発明者】
【氏名】芦内 誠
(72)【発明者】
【氏名】白米 優一
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CL011
4J002CL021
4J002EN136
4J002EU046
4J002GB01
4J002GE00
(57)【要約】
【課題】凝集粒径が10mm以下に制御されたPGAイオンコンプレックスを、60%以上の収率で量産することが可能な、PGAイオンコンプレックスの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のPGAイオンコンプレックスの製造方法は、0.01~20%のポリ-γ-グルタミン酸を含有するPGA溶液を準備する工程、10~20%の第四級アンモニウムイオン化合物を含有するカチオン溶液を準備する工程、前記カチオン溶液を50~1000rpmで攪拌しつつ前記PGA溶液を加えて、PGAイオンコンプレックスを含む水不溶性材料を液体の下部に沈殿させる工程、前記水不溶性材料を分離する工程、分離された水不溶性材料を洗浄する工程、および洗浄後の水不溶性材料からPGAイオンコンプレックスを抽出する工程を備えることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01~20%のポリ-γ-グルタミン酸を含有するPGA溶液を準備する工程、
0.01~20%の第四級アンモニウムイオン化合物を含有するカチオン溶液を準備する工程、
前記カチオン溶液を50~1000rpmで攪拌しつつ前記PGA溶液を加えて、PGAイオンコンプレックスを含む水不溶性材料を液体の下部に沈殿させる工程、
前記水不溶性材料を分離する工程、
分離された水不溶性材料を洗浄する工程、および
洗浄後の水不溶性材料からPGAイオンコンプレックスを抽出する工程
を備えることを特徴とするPGAイオンコンプレックスの製造方法。
【請求項2】
前記カチオン溶液を撹拌しつつ前記PGA溶液を加える際の添加時間が1分以上であることを特徴とする、請求項1記載のPGAイオンコンプレックスの製造方法。
【請求項3】
前記ポリ-γ-グルタミン酸を構成するグルタミン酸のモル数に対し、第四級アンモニウムイオン化合物のモル数が0.8~1.2倍となる割合で、前記PGA溶液を前記カチオン溶液に加える請求項1または2記載のPGAイオンコンプレックスの製造方法。
【請求項4】
前記ポリ-γ-グルタミン酸を構成するグルタミン酸のモル数と、第四級アンモニウムイオン化合物のモル数との比が1:1となる割合で、前記PGA溶液を前記カチオン溶液に加える請求項3記載のPGAイオンコンプレックスの製造方法。
【請求項5】
前記PGA溶液の体積は、前記カチオン溶液の体積の0.8~1000倍である請求項3または4記載のPGAイオンコンプレックスの製造方法。
【請求項6】
前記撹拌は、30~80℃で行う請求項1~5のいずれか1項記載のPGAイオンコンプレックスの製造方法。
【請求項7】
前記水不溶性材料の分離は、加圧濾過、遠心分離、または吸引濾過により行う請求項1~6のいずれか1項記載のPGAイオンコンプレックスの製造方法。
【請求項8】
前記水不溶性材料の洗浄は、純水を用いた加圧濾過により行う請求項1~7のいずれか1項記載のPGAイオンコンプレックスの製造方法。
【請求項9】
前記抽出は、有機溶剤を用いて行う請求項1~8のいずれか1項記載のPGAイオンコンプレックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ-γ-グルタミン酸イオンコンプレックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ-γ-グルタミン酸(以下、「PGA」とも称する)は、納豆の糸引きの主成分として知られており、生分解性と高吸水性とを兼ね備えている。それらの機能を利用することにより、食品、化粧品、医療品等の多くの分野で、種々の用途が期待されている。新たな用途が期待されるPGAイオンコンプレックスとして、ポリ-γ-グルタミン酸と第四級アンモニウムイオン化合物から形成されるイオンコンプレックスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、得られるPGAイオンコンプレックスが10mmを超える大きな塊となってしまい、凝集粒径を10mm以下に制御することができない。目詰まりに起因して濾別が不可となるのに加え、未反応物や塩等の不純物の洗浄が困難であった。さらに、粘稠性と相まって回収が困難であり、PGAイオンコンプレックスの量産化には至っていない。
【0005】
そこで本発明は、凝集粒径が10mm以下に制御されたPGAイオンコンプレックスを、60%以上の収率で量産することが可能な、PGAイオンコンプレックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、製造時における撹拌速度や注入速度を制御することで、凝集粒径が10mm以下に制御されたPGAイオンコンプレックスを、60%以上の収率で量産可能となることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明のPGAイオンコンプレックスの製造方法は、0.01~20%のポリ-γ-グルタミン酸を含有するPGA溶液を準備する工程、10~20%の第四級アンモニウムイオン化合物を含有するカチオン溶液を準備する工程、前記カチオン溶液を50~1000rpmで攪拌しつつ前記PGA溶液を加えて、PGAイオンコンプレックスを含む水不溶性材料を液体の下部に沈殿させる工程、前記水不溶性材料を分離する工程、分離された水不溶性材料を洗浄する工程、および洗浄後の水不溶性材料からPGAイオンコンプレックスを抽出する工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、凝集粒径が10mm以下に制御されたPGAイオンコンプレックスを、60%以上の収率で量産することが可能な、PGAイオンコンプレックスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で得られたPGAイオンコンプレックスの走査型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のPGAイオンコンプレックスの製造方法について詳細に説明する。
本発明のPGAイオンコンプレックスの製造方法においては、ポリ-γ-グルタミン酸を含有するPGA溶液と、第四級アンモニウム化合物を含有するカチオン溶液とを原料液として用いる。
【0011】
PGA溶液は、PGAを溶媒としての水に溶解して調製することができる。PGA溶液の濃度は、0.01~20%に規定される。PGA溶液の濃度が0.01%未満の場合には、目的の水不溶性材料を合成することができない。一方、20%を超えると、粘度が高くなり合成が困難である。PGA溶液の濃度は、1~10%が好ましく、2.5~7.5%がより好ましい。
【0012】
カチオン溶液は、第四級アンモニウムイオン化合物を溶媒としての水に溶解して調製することができる。第四級アンモニウムイオン化合物は、例えば、下記式(I)または式(II)で表される化合物である。
【0013】
【0014】
式中、R1~R3は独立してC1-2アルキル基を示し、R4~R5は独立してC12-20アルキル基を示す。
【0015】
C1-2アルキル基は、炭素数1~2の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素、すなわちメチルまたはエチルを意味する。
C12-20アルキル基は、炭素数12~20の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素を意味する。例えば、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル等の直鎖状C12-20アルキル基;イソテトラデシル、イソペンタデシル、イソヘキサデシル、イソヘプタデシル、イソオクタデシル、sec-テトラデシル、sec-ペンタデシル、sec-ヘキサデシル、sec-ヘプタデシル、sec-オクタデシル、t-テトラデシル、t-ペンタデシル、t-ヘキサデシル、t-ヘプタデシル、t-オクタデシル、ネオテトラデシル、ネオペンタデシル、ネオヘキサデシル、ネオヘプタデシル、ネオオクタデシル等の分枝鎖状C12-20アルキル基を挙げることができる。
R4としては、好ましくはC15-20アルキル基であり、より好ましくはC16-20アルキル基であり、最も好ましくはC17-20アルキル基である。R5としては、好ましくはC13-20アルキル基であり、より好ましくはC14-19アルキル基であり、最も好ましくはC15-18アルキル基である。
【0016】
式(I)または式(II)で表される化合物としては、例えば、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルピリジニウム等が挙げられる。
【0017】
カチオン溶液における第四級アンモニウムイオン化合物の濃度は、0.01~20%に規定される。カチオン溶液の濃度が0.01%未満の場合には、目的の水不溶性材料を合成することができない。一方、20%を超えると、粘度が高くなり調液が困難である。カチオン溶液における第四級アンモニウムイオン化合物の濃度は、1~18%が好ましく、10~15%がより好ましい。
【0018】
所定量のカチオン溶液を50~1000rpmで攪拌しつつ、所定量のPGA溶液を加える。溶液の撹拌には、マグネットスターラーやメカニカルスターラー等を用いることができ、メカニカルスターラーが好ましい。カチオン溶液の撹拌速度が50rpm未満の場合には、PGAが凝集しやすくなる。一方、1000rpmを超えると、反応が進行せず変化が無い。撹拌速度は、50~500rpmが好ましく、100~300rpmがより好ましい。
撹拌速度は、原料液の濃度や容量に応じて制御することが望まれる。一般的には、原料液の濃度が低いほど撹拌速度を遅く、濃度が高いほど撹拌速度を速めることが望ましい。また、容量が多いほど攪拌速度を遅くすることが望ましい。
【0019】
所望のPGAイオンコンプレックスを製造するためには、ポリ-γ-グルタミン酸を構成するグルタミン酸のモル数に対し、第四級アンモニウムイオン化合物のモル数が0.8~1.2倍となる割合で存在することが好ましい。したがって、この割合が達成されるように、各溶液の濃度に応じて各溶液の体積を決定することが望まれる。第四級アンモニウムイオン化合物のモル数は、グルタミン酸のモル数に対して0.9~1.1倍であることがより好ましく、これらが等モルであることが最も好ましい。
【0020】
例えば、PGA溶液の濃度が0.01~20%で、カチオン溶液の濃度が10~20%の場合には、カチオン溶液の体積の0.8~1000倍の体積のPGA溶液を加えることによって、上述の割合とすることがきる。PGA溶液の体積は、カチオン溶液の体積の0.6~1.4倍が好ましく、0.8~1.2倍がより好ましい。具体的には、カチオン溶液の濃度が15%、PGA溶液の濃度が5%の場合、500mLのカチオン溶液に対して500mLのPGA溶液を用いることができる。
【0021】
PGA溶液は、均一に混ざり合うように、例えば1分以上かけてカチオン溶液に加える。このようにPGA溶液をカチオン溶液に加えることによって、過度に凝集するのを抑制することができる。用いるPGA溶液の体積にもよるが、カチオン溶液への添加に要する時間は、2分以上が好ましく、3分以上がより好ましい。製造時の効率を考慮すると、最長でも60分程度で十分である。
【0022】
カチオン溶液にPGA溶液を添加する際の注入速度が遅いほど、凝集抑制効果は大きくなる。具体的な注入速度は、合成時のスケールによって異なるので、原料液の濃度や容量に応じて適宜設定すればよい。例えば、5%のPGA溶液500mLを15%のカチオン溶液500mLに加える場合、カチオン溶液へのPGA溶液の注入速度は、1000mL/min以下であり、350~650mL/min程度が好ましく、400~600mL/min程度がより好ましい。
【0023】
均一に混ざり合うようにカチオン溶液にPGA溶液を加えた後、30~80℃でさらに撹拌することによって、PGAイオンコンプレックスを含む水不溶性材料が液体の下部に沈殿する。この場合、反応系は、液体部分と沈殿物とに分離した外観となって、これ以上変化しない。すなわち、反応が完全に進行したことを意味している。温度は、撹拌用タンクのジャケットなどのヒーターの温度設定により調整することができる。原料濃度にもよるが、この際の温度が低すぎる場合には、合成に時間がかかる。一方、温度が高すぎる場合には、PGAがすぐに凝集してしまう。撹拌の際の温度は、50~70℃が好ましい。攪拌時間は、特に限定されず、合成容器の容量等に応じて適宜決定することができる。通常、1~60分程度の撹拌により所望の水不溶性材料が生成する。
【0024】
PGAイオンコンプレックスを含む水不溶性材料は、溶媒から分離した後、洗浄する。例えば、0.05~0.15MPa程度で加圧濾過を行って、水不溶性材料を分離することができる。遠心分離、吸引濾過等により、溶媒から水不溶性材料を分離することもできる。製造時の洗浄性等を考慮すると、加圧濾過を採用することが好ましい。
本発明の方法においては、原料濃度および撹拌速度を所定の範囲に規定し、注入速度を適切に制御したことから、水不溶性材料は完全には凝集せず、容易に分離可能となった。
【0025】
得られた水不溶性材料は、純水を加えて加圧濾過を行うことにより洗浄することができる。例えば50~70℃の純水を0.5~1.5L加え、0.05~0.15MPaで加圧濾過を行う。この操作を3~7回、好ましくは4~6回行うことで水不溶性材料が洗浄される。あるいは、アセトン等により水不溶性材料を洗浄してもよい。
【0026】
洗浄後の水不溶性材料は、有機溶剤に溶解してPGAイオンコンプレックスを抽出することもできる。有機溶剤としては、アルコールが挙げられ、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンタノールなどから選択することができる。アルコールは、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで用いる有機溶剤には、10%程度の水が含有されていてもよい。
例えば、0.5~1.5Lの変性エタノールを水不溶性材料に加えて6~10時間撹拌し、得られた溶液を回収して、目的のPGAイオンコンプレックスが得られる。仮に残留した未反応のPGAは、エタノール沈殿により濾別される。
【0027】
必要に応じて、洗浄後の水不溶性材料を真空乾燥や凍結乾燥などで乾燥させてもよい。本発明の方法により、溶媒や不純物との分離性が向上したことから、原料としてのPGAに対して60%以上の収率でPGAイオンコンプレックスを製造することができる。収率は、70%以上であることがより好ましい。
【0028】
本発明の方法により製造されたPGAイオンコンプレックスの形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。本発明の方法により製造されたPGAイオンコンプレックスは、角のない板状の最小ユニットを有する凝集粒子である。最小ユニットのサイズは、0.1mm×0.2mm程度、凝集粒径は10mm以下であることが、SEM観察により確認される。
【0029】
このように、本発明においては、原料液としてのPGA溶液の濃度を0.01~20%とし、PGA溶液が加えられるカチオン溶液の撹拌速度を50~1000rpmとし、カチオン溶液へPGA溶液を適切な注入速度で加えることによって、凝集粒径が10mm以下に制御されたPGAイオンコンプレックスを、60%以上の収率で量産することが可能となった。
【0030】
本発明の方法においてPGAイオンコンプレックスの製造に用いる原料は、易分解性の安全な化合物であり、環境負荷を軽減することができる。こうした原料を用いて、本発明の方法により製造されたPGAイオンコンプレックスは、抗菌性能および抗ウイルス性能が優れているので、菌、カビ、およびウイルス等に有効に作用する。具体的には、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、枯草菌、大腸菌・黄色ブドウ球菌、クロカビ・アオカビ・白癬菌・クロコウジカビなどの増殖を遅延し、抑制することができる。
【0031】
本発明の方法により製造されたPGAイオンコンプレックスは、スプレーコーティング等の一般的な方法によって基材の表面に固定して、コーティング層とすることができる。得られたコーティング層そのものが抗菌材として作用し、バインダーを用いる必要がない。しかも、コーティング層は、耐水性、耐薬品性、および耐熱性も十分であり、長期間にわたって抗菌作用を持続できる。
【実施例0032】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0033】
<PGAイオンコンプレックスの製造>
本発明の方法によりPGAイオンコンプレックスを製造する。用いる合成装置は、以下のとおりである。
・加圧用エアモーター撹拌機 AG-05-AW-YW
・合成用攪拌機 スリーワンモータBL600
・濾過テスト機TSU-90A(ジャケットで60℃に加温)
・ステンレスメッシュフィルター(1000メッシュ、15μm、直径90mm)
【0034】
(実施例1)
原料液として、5%PGA溶液および15%カチオン溶液を準備した。PGA溶液は、溶媒としての水にポリグルタミンを溶解して調製し、カチオン溶液は、溶媒としての水にヘキサデシルピリジニウムクロリド(HDP)を溶解して調製した。
500mLのカチオン溶液を200rpmで撹拌しつつ、450mLのPGA溶液を1分間かけて加えた。グルタミン酸のモル数と第四級アンモニウムイオン化合物のモル数との比は、1:1.1と算出される。得られた混合液を60℃で5分間撹拌することで、PGAイオンコンプレックスを含む水不溶性材料が形成された。水不溶性材料は、0.1MPaで加圧濾過を行って濾別回収した。
【0035】
得られた水不溶性材料に60℃の純水1Lを加えて、0.1MPaで加圧濾過した。この操作を5回繰り返すことにより水不溶性材料を洗浄した。洗浄後の水不溶性材に変性エタノール(大伸化学(株)、P-7)1Lを加え、8時間撹拌した後、水不溶性材料の変性エタノール溶液を回収した。
【0036】
回収された溶液における水不溶性材料の濃度は、9.0%(蒸発乾固重量換算)であった。実施例1のPGAイオンコンプレックス(PGA/HDP)の質量は72gであり、原料(97.5g)に対する収率は74%であった。また、実施例1のPGAイオンコンプレックスの凝集粒径は、JIS P8202に準拠のドットゲージと照らし合わせた目視により、10mm以下であることが確認された。
実施例1のPGAイオンコンプレックスのSEM写真を、
図1に示す。洗浄を行ったことにより、角のない粒子が得られたことが確認された。凝集粒子における最小ユニットのサイズは、0.1mm×0.2mmである。
【0037】
(実施例2)
PGA溶液の濃度を0.5%に変更し、カチオン溶液の濃度を1.5%に変更した以外は実施例1と同様の手法により、実施例2のPGAイオンコンプレックスを製造した。実施例2においては、グルタミン酸のモル数と第四級アンモニウムイオン化合物のモル数との比は、1:1.1と算出される。原料に対する収率は72%であった。また、実施例2のPGAイオンコンプレックスの凝集粒径は、5mm以下であった。
【0038】
(実施例3)
60分かけてPGA溶液をカチオン溶液に加えた以外は、実施例1と同様の手法により、実施例3のPGAイオンコンプレックスを製造した。原料に対する収率は75%であった。また、実施例3のPGAイオンコンプレックスの凝集粒径は、5mm以下であった。
【0039】
なお、特許文献1に記載された方法の場合には、凝集粒径が10mm以上のPGAイオンコンプレックスが、50%程度の収率で得られた。特許文献1では原料濃度の詳細な規定は無く、撹拌の工程を備えていない。このため、PGAイオンコンプレックスの粒径を制御できず、洗浄や濾別が困難であることが原因と推測される。
【0040】
<凝集粒径に及ぼす撹拌速度の影響>
次に、PGAイオンコンプレックスの凝集粒径に及ぼす撹拌速度の影響を調べた。
上述と同様の15%カチオン溶液と5%PGA溶液とを、原料液として用意した。100mLビーカー中でカチオン溶液を所定の速度で撹拌しつつ、20mLのPGA溶液を1分間かけて加え、1分間撹拌した。グルタミン酸のモル数と第四級アンモニウムイオン化合物のモル数との比は、1:1と算出される。それ以降は、上述と同様の手法によりPGAイオンコンプレックスを製造した。
【0041】
さらに、反応温度を35℃に変更する以外は同様にして、PGAイオンコンプレックスを製造した。得られたPGAイオンコンプレックスの凝集粒径(mm)を、JIS P8202に準拠のドットゲージと照らし合わせた目視により求めた。その結果を、下記表1にまとめる。
【0042】
【0043】
上記表1に示すように、撹拌速度が速いほど凝集粒径は小さくなる傾向がある。ここでは、100mLのビーカー中で撹拌して撹拌速度の影響を調べたが、攪拌速度は濃度や容量によって設定すればよい。スケールアップの際には、より大きな攪拌翼などを用いることができるため、より低速で撹拌しても所望の効果が得られるものと推測される。
【0044】
<凝集粒径に及ぼす原料液(PGA溶液)の濃度、液量の影響>
PGAイオンコンプレックスの凝集粒径に及ぼすPGA溶液の濃度および液量の影響を調べた。
PGA溶液は、濃度の異なる4種類を準備した。PGA溶液の濃度は、10%、5%、2.5%、1%である。各PGA溶液を、100mL中で15%カチオン溶液10mLに対し等反応量となるように加え、1分間ガラス棒で撹拌した。それ以降は、上述と同様の手法によりPGAイオンコンプレックスを製造した。
得られたPGAイオンコンプレックスの凝集粒径(mm)を、JIS P8202に準拠のドットゲージと照らし合わせた目視により求めた。その結果を、PGA濃度および液量とともに下記表2にまとめる。表2には、グルタミン酸のモル数と第四級アンモニウムイオン化合物のモル数との比(グルタミン酸:第四級アンモニウムイオン化合物)も示した。
【0045】
【0046】
PGA溶液の濃度を下げることによって、得られるPGAイオンコンプレックスの粒径が細かくなることが示された。具体的には、PGA溶液の濃度が2.5%以下であれば、凝集粒径は1mm以下となる。
【0047】
<PGAイオンコンプレックスの抗菌性能>
実施例1のPGAイオンコンプレックスの抗菌性能を調べた。基材としては、濾紙(No.5C)、不織布(TCP-30)、およびポリエーテルサルホン樹脂(EO45)を用意した。PGAイオンコンプレックスは、0.2wt%のエタノール液として抗菌剤を調製した。
抗菌剤に基材を5秒間浸漬した後、35℃で乾燥してコーティングを行った。これを、超純水で通液洗浄(25mL/cm2)し、中心付近の3か所を直径13mmに打ち抜いてサンプルを作製した。
【0048】
抗菌試験にあたっては、菌種としてS.Marcescens(NBRC12648)を用意した(前培養はBacto Brain Heart Infusion,30℃、24時間)。200倍希釈した菌液を、Tryptic Soy Broth平板培地(直径90mm)に、0.1mL(約1~3×108CFU/mL)塗り広げて、試験培地を作製した。
【0049】
各サンプルを試験培地に貼り付け、30℃で24時間培養して抗菌性能を調べた。その結果、本発明の方法により製造されたPGAイオンコンプレックスは、優れた抗菌性能を有することが確認された。比較のために、抗菌液として0.1~0.2wt%の4級アンモニウム系の市販品を用いる以外は同様にして、抗菌性能を調べた。その結果、若干の生育阻害は見られたものの、抗菌性能はPGAイオンコンプレックスより劣っていた。
【0050】
<PGAイオンコンプレックスの抗ウイルス性能>
本発明の方法により製造されたPGAイオンコンプレックスは、PETフィルム等のプラスチック、および繊維製品における抗ウイルス性を高めることができる。以下に具体例を示して、これについて説明する。
【0051】
実施例1のPGAイオンコンプレックスをエタノールに溶解して、10%の濃度のコーティング液を調製した。試験ウイルスとしては、Severe acute respiratory syndrome coronaviurs 2(SARS-CoV-2)(NIID分離株;JPN/TY/WK-521(国立感染症研究所より分与)を用意した。
【0052】
PETフィルム表面における抗ウイルス性を確認するために、以下の手法により試験試料を作製した。まず、100mm×100mmのPETフィルムを2枚用意し、その一枚の表面にコーティングを施した。具体的には、2mLのコーティング液をスピンコーターにより塗布し、風乾した後、50mm×50mmに裁断して試験試料とした。コーティングを施さないPETフィルムは対照試料とした。
【0053】
抗ウイルス性は、ISO 21702に準拠して評価し、プラーク測定法により感染値を評価した。接種直後のウイルス感染値(常用対数値)から24時間作用後のウイルス感染値(常用対数値)を差し引いた値(減少値)で、抗ウイルス性を評価する。減少値が2以上であれば、ウイルスが1/100以下に減少しているおり、効果ありとする。
対照試料は減少率が0.7であったのに対し、PGAイオンコンプレックスでコーティングを施した試験紙量は、減少値が3.1以上であり、PETフィルムの表面における抗ウイルス性の効果が確認された。
【0054】
繊維製品における抗ウイルス性を調べるために、以下の手法により試験試料を作製した。まず、直径150mmの濾紙(GA-100)を2枚用意し、その一枚にコーティングを施した。コーティング液は、エタノールで希釈して1%の濃度に調整した。このコーティング液中に濾紙を含浸させ、風乾した後、0.4gになるように裁断して試験試料とした。コーティング液を含浸させない濾紙は対照試料とした。
【0055】
抗ウイルス性は、JIS L1922に準拠して評価し、プラーク測定法により感染値を評価した。前述と同様にしてウイルス感染値(常用対数値)の減少率を求めたところ、対照試料は0.8であったのに対し、PGAイオンコンプレックスを含浸させた試験試料は、減少値が2.3以上であった。濾紙等の繊維素材においても抗ウイルス性の効果が確認された。
【0056】
<エアフィルターでの利用>
本発明の方法により製造されたPGAイオンコンプレックスを用いて、ガラス濾紙に抗菌コーティングを施し、透気度の変化を調べた。
具体的には、PGAイオンコンプレックスを種々の濃度でエタノール溶液として、コーティング液を調製した。ここに、基材としてのガラス濾紙(GC-50、5×5cm)を5秒間浸漬し、35℃で乾燥させて試料を作製した。得られた試料の透気度(秒/300mL)を、ガーレデンソメーター(直径1cm)により測定した。
その結果を、下記表3に示す。
【0057】
【0058】
抗菌コーティングを施したガラス濾紙においては、コーティング重量が0.1wt%では透気度に変化がない。コーティング重量が0.7wt%であっても、透気度の増加は11%程度である。このため、本発明の方法により製造されたPGAイオンコンプレックスは、エアフィルター等に抗菌コーティング施すためのコーティング剤として有効に使用できる可能性がある。
本発明の方法により製造されたPGAイオンコンプレックスは、それ自体が樹脂である。このため、PGAイオンコンプレックスが、繊維のバインダーとしての機能も有するもの推測される。
【0059】
本発明の方法により、公衆衛生、医療用途、食品の防腐等、様々な分野に有効に使用できるPGAイオンコンプレックスを、適切な粒径で量産することが可能となった。