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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151304
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】スケーリング防止方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/08 20060101AFI20231005BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C22B3/08
C22B23/00 102
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060860
(22)【出願日】2022-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】若松 貴文
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA10
4K001AA19
4K001AA30
4K001AA36
4K001AA38
4K001BA02
4K001DB03
4K001DB14
(57)【要約】
【課題】 オートクレーブ内へのスケーリングを制御することで、トラブルを防止し、生産性の向上を図ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】 高圧硫酸浸出法に用いるオートクレーブ内部のスケーリング防止方法であって、上部に空間域を備える隔壁により分割された、直列に配置される少なくとも2基の処理室を備える処理槽を有し、前記処理槽の少なくとも一つの処理室に原料を供給する原料配管と、硫酸を添加する投入配管を設け、前記処理槽の最川下側の処理室に該処理室内に貯留された内容物を排出する吐出配管を設け、前記隔壁が、前記隔壁央部に該隔壁を貫通する開口部を備えるオートクレーブに、ニッケル鉱石を酸浸出して得られたCa品位が0.05から0.06質量%である鉱石スラリーを原料に用いて、吐出配管からの吐出液のCa濃度を0.35[g/L]以下に制御することで、前記処理室内に生成するスケールの量を低減することを特徴とする。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧硫酸浸出法に用いるオートクレーブ内部のスケーリング防止方法であって、
前記オートクレーブが、上部に空間域を備える隔壁により分割された、直列に配置される少なくとも2基の処理室を備える処理槽を有し、
前記処理槽の少なくとも一つの処理室に原料を供給する原料配管と、硫酸を添加する投入配管を設け、
前記処理槽の最川下側の処理室に該処理室内に貯留された内容物を排出する吐出配管を設け、
前記隔壁が、前記隔壁の央部に該隔壁を貫通する開口部を備え、
前記原料に、ニッケル鉱石を酸浸出して得られたCa品位が0.05~0.06質量%である鉱石スラリーを用い、
前記吐出配管から排出される吐出液のCa濃度を0.35[g/L]以下に制御することで、
前記処理室内に生成するスケールの量を低減することを特徴とするスケーリング防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出技術に関する。より詳しくは、高圧酸浸出に用いるオートクレーブへのスケーリング防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石を原料とするニッケル湿式製錬の分野においては、高温高圧下で酸浸出する高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leach)法による、低ニッケル品位鉱石からの有価金属の回収が実用化されている。そして、HPAL法によってニッケル酸化鉱石より浸出されたニッケル、コバルト等の有価金属の回収については、加圧下で有価金属を含む硫酸浴に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することにより、硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)として回収する方法が一般的に行われている。
【0003】
高圧酸浸出法(HPAL法)の代表的なプロセスフローを、高圧での硫酸による浸出工程(高圧硫酸浸出工程とも称す)後、硫化ニッケルを得るまでを含めて図1(特許文献1参照)に示す。
【0004】
この図1に示す湿式製錬法では、所定の粒度を有するニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーの調製を行う鉱石前処理工程S0と、その鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施すことで浸出スラリーを生成する浸出工程S1(高圧硫酸浸出工程と称す)と、その浸出スラリーにpH調整剤を添加してpHを所定範囲内に調整する予備中和工程S2と、そのpH調整された浸出スラリーを多段洗浄することでニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を浸出残渣から分離する固液分離工程S3と、その浸出液に中和剤を添加することで不純物元素を含む中和澱物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S4と、得られた中和終液に硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る脱亜鉛工程S5と、そのニッケル回収用母液に硫化剤として硫化水素と水流化ナトリウムを添加することでニッケル及びコバルトを含むNiCo混合硫化物を生成した後、固液分離により、そのNiCo混合硫化物を回収するニッケル回収工程S6と、ニッケル回収工程S6の固液分離により液相側に排出されるニッケル回収終液に酸化性スラリーを所定量添加して硫化剤の分解処理を行う硫化剤除去工程S7と、その分解処理により排出される貧液を上記固液分離工程S3から排出される浸出残渣と共に無害化処理する最終中和工程S8とを有している。
【0005】
この高圧酸浸出法では、オートクレーブを所定の高温・高圧条件にしたうえで、適切に硫酸を添加することにより、ニッケル酸化鉱石に含まれる種々の金属元素(主にニッケル、マグネシウム、鉄、アルミニウム、カルシウム)成分を酸浸出することが行われている。
このうち、特定の金属元素については、酸浸出されたのち、再度固体成分を形成するので、これがオートクレーブ内部にスケールとして形成される(缶壁への析出物の付着)。例えば、各金属元素は下記の反応式の様にスケール(斜字部分の化合物)を生成する。
【0006】
【化1】
【0007】
ここで、化学式のうち斜字(下線付き)で示した鉄、アルミニウムおよびカルシウムのそれぞれの化合物は、オートクレーブ内部のスケールを構成する主成分であり、これらのスケール成長を制御することは、オートクレーブを安定的に操業するうえで重要である。
特にカルシウムのスケール成分である石膏は、溶解度が小さく、析出しやすいために、オートクレーブ内部でスケール生成、成長がし易い性質を有している。
【0008】
そこで、スケール成長によるオートクレーブ操業への影響を述べる前に、オートクレーブの代表的な構造を簡単に説明する。
図2に示されるように、オートクレーブ内部は上部に空間域を有し、央部に貫通した開口部を有する5つの隔壁により6室の処理室に隔たれた構造になっている。オートクレーブに添加された原料である鉱石スラリーおよび硫酸は、撹拌されながら酸浸出反応が進行し、反応が進んだ頃合いで次の処理室へ移動し、逆戻りしにくいようになっている。
その流れは、鉱石スラリーが隔壁の上端をオーバーフローする一方通行の流れと、隔壁の開口部を通って固形物を排出しやすい流れかの二通りの経路を取る。端部の第6室に到達したプロセス液は、最後に吐出配管に入り、オートクレーブ内の圧力によって外部へ吐出される構造になっている。なお、かならずしも6室に隔たれている必要はなく、また硫酸も1室だけの添加に限定されているわけではない。
【0009】
このような構成のオートクレーブにおいて、その内壁へのスケール生成、成長により、例えばオートクレーブ内の滞留時間が減少することでニッケルの浸出率低下が引き起こされ、浸出不良となる場合がある。また、隔壁の開口部をスケールが閉塞することでプロセス液の流れが滞り、この復旧のために長期間の操業停止が発生する。また、吐出配管内へのスケールによる吐出不良が発生すると、これも復旧に時間を要するトラブルとなる。
さらに、本発明者らは、各種鉱石を硫酸と混合してその挙動を調べたところ、スケールが顕著に析出する鉱石が存在することを発見した。このような鉱石は高圧酸浸出法(HPAL法)での処理を諦めることにもなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-180317号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Chem. Eng. Data 2020, 65,2310-2324.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
オートクレーブ内へのスケーリングを制御することで、以下のようなトラブルを防止し、生産性の向上を図ることができる製造方法を提供する。
・オートクレーブ内壁へのスケール成長により、例えばオートクレーブ内の滞留時間が減少することでニッケルの浸出率低下が引き起こされ、浸出不良が発生する。
・隔壁開口部へのスケール発生、成長による開口部の閉塞や、吐出配管内壁へのスケール発生、成長よる吐出不良の復旧のために長期間の操業停止が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような状況に鑑み、本発明の第一の実施態様は、高圧硫酸浸出法に用いるオートクレーブ内部のスケーリング防止方法であって、前記オートクレーブが、上部に空間域を備える隔壁により分割された、直列に配置される少なくとも2基の処理室を備える処理槽を有し、前記処理槽の少なくとも一つの処理室に原料を供給する原料配管と、硫酸を添加する投入配管を設け、前記処理槽の最川下側の処理室に該処理室内に貯留された内容物を排出する吐出配管を設け、前記隔壁が、前記隔壁央部に該隔壁を貫通する開口部を備え、前記原料に、ニッケル鉱石を酸浸出して得られたCa品位が0.05~0.06[質量%]である鉱石スラリーを用い、前記吐出配管から排出される吐出液のCa濃度を0.35[g/L]以下に制御することで、前記処理室内に生成するスケールの量を低減することを特徴とするスケーリング防止方法である。
【発明の効果】
【0014】
従来、処理が不可能であった鉱石で、カルシウム品位が高いことが原因とわかった鉱石を、カルシウム品位が低い鉱石と混合することで、トラブルリスクを低減しつつ処理することが可能となった。
オートクレーブ内へのスケール制御により、長期間のオートクレーブ連続運転を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】高圧酸浸出法(HPAL法)の代表的なプロセスフロー図である。
図2】オートクレーブの構造を示す断面模式図である。
図3】鉱石のカルシウム品位とオートクレーブ吐出液のCa濃度の関係をスラリー濃度(solid%、スラリー中の液体分と固体分の重量比)ごとに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
スケールを生成する代表的な元素の鉄、アルミニウムおよびカルシウムのうち、鉄、アルミニウム成分については、先に示した化学式よりスケール生成の際に硫酸を再放出する性質があり、スケール量を低減しようとすると液中の遊離酸濃度(どの金属とも反応していないフリー硫酸の濃度)が低下するため、ニッケルの浸出率低下を招く。これに対し、遊離酸濃度低下を防ぎニッケルの浸出率を維持するためにはさらなる硫酸を使用する必要があるため、資材使用量の観点から好ましくない。
【0017】
一方、カルシウムは硫酸を放出することなくスケールが生成する点が鉄およびアルミニウムとは異なる。オートクレーブ内では後室ほど浸出反応が進行しており、遊離酸濃度は後室ほど低くなる。このような環境下では、硫酸カルシウムは酸濃度が高い前室側では水溶していてスケールを形成せず、一方酸濃度が低い後室側では、後述する溶解度自体の変化により液中の硫酸カルシウムの溶解度を超過するため、析出してスケールを形成する。
下記反応式は、カルシウム(Ca)におけるスケールの発生、成長を示すものである。
【0018】
【化2】
【0019】
化学式(A)については、主に前室側(1、2室)で進行すると見られ、鉱石中に混入した炭酸カルシウム(CaCO)が硫酸との反応により石膏(CaSO)を形成したのち、一部が液中に溶けた状態(CaSO Liquid)となる過程を示している。一般に石膏の溶解度は非常に低いが、高硫酸濃度には一定の溶解度を持つことが知られている。これは硫酸濃度が高い領域(1、2室)に特有の現象である。
【0020】
一方、化学式(B)は液中に溶解した石膏が析出する反応を示しており、主に後室側(3、4、5、6室)で進行すると考えられる。オートクレーブ中の反応過程であり、実際に反応の進行を観察することは困難であるが、表1に示すスケール分析結果がこれらの仮説を裏付けている。
【0021】
【表1】
【0022】
表1は各室において缶壁から採取したスケールを蛍光X線により定量分析した結果であり、1室の重量%を100%とした際の各室の重量%を比率で表示した。後室側ではCa、Alの重量%が上昇していく。特に、6室吐出配管ではCaの重量%は1室の907%に達する。
したがって、鉱石から供給されるカルシウムは微量あってもスケール生成に大きく寄与するので、カルシウム供給量は精密に制御されなければならない。
【0023】
カルシウムの析出制御は、以下の論理によって制御が可能である。
1)後室側での析出反応の進行を止める。
石膏が液中に溶けていられる濃度には限界(溶解度)があり、これを上回った分が析出してスケール生成する。すなわち、溶け切った後の石膏濃度が溶解度以下であれば、スケールは生成しない。
【0024】
2)プロセス液への石膏溶解を溶解度以下にする。
「前室側において仮に鉱石由来のカルシウムが全量プロセス液に溶解したとしても、”後室側における石膏の溶解度未満”になるようにカルシウムインプット量を調節する」ことで、後室側での石膏析出を制御することができる。
【0025】
そこで、オートクレーブ吐出液のCa濃度とオートクレーブ吐出液中の固体分のCa品位の関係は以下に示すようになっている。
即ち、前室側でも全ての鉱石由来のカルシウムがプロセス液中に溶解するわけではないため、浸出残渣は0.00~0.05%程度のCa品位を有している。
一方、吐出液Ca濃度が、0.35[g/L]の領域を超える範囲では、浸出残渣のCa品位のばらつきが大きくなり、上記範囲から突出することもあることが判った。
つまり、Ca濃度0.35[g/L]を超えた場合、溶解度を超え石膏の析出が開始しているものと考えられ、「後室側における石膏の溶解度」は0.35[g/L]であると考えられる。
【0026】
以上より、オートクレーブ吐出液でカルシウム濃度が0.35[g/L]以下になるように、鉱石スラリーのCa品位を逆算し、この品位以下に制御することで、オートクレーブでの石膏の析出を制御する。この場合、鉱石スラリーのスラリー濃度(solid%)によって許容されるカルシウム品位が異なる。例えば、スラリー濃度が高い場合はカルシウムがより濃縮されるので(たとえば、ラリー供給量を一定とみなすと、カルシウム供給量が大きくなるので)、許容される鉱石カルシウム品位は低い。
【0027】
図3は、鉱石のカルシウム品位とオートクレーブ吐出液のCa濃度の関係をスラリー濃度(solid%、スラリー中の液体分と固体分の重量比)ごとに示したものである。
オートクレーブ吐出液のCa濃度は上述より0.35[g/L]まで許容できるので、実用上のスラリー濃度においては、カルシウム品位は0.05~0.06%を境に制御すればよい。
【0028】
従って、以下の操業条件とすることで、石膏としてのカルシウム析出を適切に抑制することができる。
・オートクレーブに供給する固形物原料のカルシウム品位を0.05~0.06質量%以下とする。
なお、この固形物原料としては、ニッケル湿式製錬ではニッケル鉱石がそれに相当する。単一の種類の鉱石のみをオートクレーブに供給する場合は、当該鉱石の組成として0.05~0.06質量%以下のものを調達すればよい。カルシウム品位の互いに異なる鉱石をブレンドしてオートクレーブに供給する場合は、鉱石供給量で加重平均した組成が0.05~0.06質量%以下となるように調合すればよい。
・オートクレーブ吐出液のカルシウム濃度を0.35[g/L]以下とする。
【実施例0029】
実操業中に、上記カルシウム品位の条件に調整したニッケル酸化鉱石を原料に用い、オートクレーブによる硫酸による高圧酸浸出を実施した。
具体的には、オートクレーブにニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを供給して温度240~260℃、圧力4000~5000kPaGの高温高圧条件下で硫酸を添加し酸浸出処理を行った。
【0030】
ニッケル酸化鉱石の組成は、Ca品位が0.05~0.06質量%であるように調合したものを用いて、オートクレーブ出口の吐出配管から排出される吐出液のCa濃度が0.30~0.35g/Lとなるように鉱石スラリーの供給量を調整した。
硫酸の添加量についても、オートクレーブ出口の吐出配管から排出される吐出液の遊離硫酸の濃度が35g/L~45g/Lとなるように調整した。
その結果、オートクレーブで詰まりを起こすことなく116日間の連続操業を実施することができた。
【0031】
(比較例)
ニッケル酸化鉱石の組成をCa品位に基づいて調合しなかった点と、吐出液のCa濃度に基づいて鉱石スラリーの供給量を調整しなかった点のみを変えて操業したところ、オートクレーブで詰まりを起こすことなく連続操業できた期間は70日間であった。なお、ニッケル酸化鉱石の組成と鉱石スラリーの供給量は、平均的には上記実施例と同水準であった。
【符号の説明】
【0032】
1 処理室
2 処理槽
3 隔壁
3a 隔壁の開口部
4 原料(鉱石スラリー)供給配管
5 硫酸添加配管
6 吐出配管
10 処理槽
S01 選別工程
S02 濃縮工程
S0 鉱石前処理工程
S1 浸出工程
S2 予備中和工程
S3 固液分離工程
S4 中和工程
S5 脱亜鉛工程
S6 ニッケル回収工程
S7 硫化剤除去工程
S8 最終中和工程
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-04-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出技術に関する。より詳しくは、高圧酸浸出に用いるオートクレーブへのスケーリング防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石を原料とするニッケル湿式製錬の分野においては、高温高圧下で酸浸出する高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leach)法による、低ニッケル品位鉱石からの有価金属の回収が実用化されている。そして、HPAL法によってニッケル酸化鉱石より浸出されたニッケル、コバルト等の有価金属の回収については、加圧下で有価金属を含む硫酸浴に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することにより、硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)として回収する方法が一般的に行われている。
【0003】
高圧酸浸出法(HPAL法)の代表的なプロセスフローを、高圧での硫酸による浸出工程(高圧硫酸浸出工程とも称す)後、硫化ニッケルを得るまでを含めて図1(特許文献1参照)に示す。
【0004】
この図1に示す湿式製錬法では、所定の粒度を有するニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーの調製を行う鉱石前処理工程S0と、その鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施すことで浸出スラリーを生成する浸出工程S1(高圧硫酸浸出工程と称す)と、その浸出スラリーにpH調整剤を添加してpHを所定範囲内に調整する予備中和工程S2と、そのpH調整された浸出スラリーを多段洗浄することでニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を浸出残渣から分離する固液分離工程S3と、その浸出液に中和剤を添加することで不純物元素を含む中和澱物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S4と、得られた中和終液に硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る脱亜鉛工程S5と、そのニッケル回収用母液に硫化剤として硫化水素と水流化ナトリウムを添加することでニッケル及びコバルトを含むNiCo混合硫化物を生成した後、固液分離により、そのNiCo混合硫化物を回収するニッケル回収工程S6と、ニッケル回収工程S6の固液分離により液相側に排出されるニッケル回収終液に酸化性スラリーを所定量添加して硫化剤の分解処理を行う硫化剤除去工程S7と、その分解処理により排出される貧液を上記固液分離工程S3から排出される浸出残渣と共に無害化処理する最終中和工程S8とを有している。
【0005】
この高圧酸浸出法では、オートクレーブを所定の高温・高圧条件にしたうえで、適切に硫酸を添加することにより、ニッケル酸化鉱石に含まれる種々の金属元素(主にニッケル、マグネシウム、鉄、アルミニウム、カルシウム)成分を酸浸出することが行われている。
このうち、特定の金属元素については、酸浸出されたのち、再度固体成分を形成するので、これがオートクレーブ内部にスケールとして形成される(缶壁への析出物の付着)。例えば、各金属元素は下記の反応式の様にスケール(斜字部分の化合物)を生成する。
【0006】
【化1】
【0007】
ここで、化学式のうち斜字(下線付き)で示した鉄、アルミニウムおよびカルシウムのそれぞれの化合物は、オートクレーブ内部のスケールを構成する主成分であり、これらのスケール成長を制御することは、オートクレーブを安定的に操業するうえで重要である。
特にカルシウムのスケール成分である石膏は、溶解度が小さく、析出しやすいために、オートクレーブ内部でスケール生成、成長がし易い性質を有している。
【0008】
そこで、スケール成長によるオートクレーブ操業への影響を述べる前に、オートクレーブの代表的な構造を簡単に説明する。
図2に示されるように、オートクレーブ内部は上部に空間域を有し、央部に貫通した開口部3aを有する5つの隔壁により6室の処理室に隔たれた構造になっている。オートクレーブに添加された原料である鉱石スラリーおよび硫酸は、撹拌されながら酸浸出反応が進行し、反応が進んだ頃合いで次の処理室へ移動し、逆戻りしにくいようになっている。
その流れは、鉱石スラリーが隔壁の上端をオーバーフローする一方通行の流れと、隔壁の開口部3aを通って固形物を排出しやすい流れかの二通りの経路を取る。端部の第6室に到達したプロセス液は、最後に吐出配管に入り、オートクレーブ内の圧力によって外部へ吐出される構造になっている。なお、かならずしも6室に隔たれている必要はなく、また硫酸も1室だけの添加に限定されているわけではない。
【0009】
このような構成のオートクレーブにおいて、その内壁へのスケール生成、成長により、例えばオートクレーブ内の滞留時間が減少することでニッケルの浸出率低下が引き起こされ、浸出不良となる場合がある。また、隔壁の開口部をスケールが閉塞することでプロセス液の流れが滞り、この復旧のために長期間の操業停止が発生する。また、吐出配管内へのスケールによる吐出不良が発生すると、これも復旧に時間を要するトラブルとなる。
さらに、本発明者らは、各種鉱石を硫酸と混合してその挙動を調べたところ、スケールが顕著に析出する鉱石が存在することを発見した。このような鉱石は高圧酸浸出法(HPAL法)での処理を諦めることにもなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-180317号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Chem. Eng. Data 2020, 65,2310-2324.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
オートクレーブ内へのスケーリングを制御することで、以下のようなトラブルを防止し、生産性の向上を図ることができる製造方法を提供する。
・オートクレーブ内壁へのスケール成長により、例えばオートクレーブ内の滞留時間が減少することでニッケルの浸出率低下が引き起こされ、浸出不良が発生する。
・隔壁開口部へのスケール発生、成長による開口部の閉塞や、吐出配管内壁へのスケール発生、成長よる吐出不良の復旧のために長期間の操業停止が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような状況に鑑み、本発明の第一の実施態様は、高圧硫酸浸出法に用いるオートクレーブ内部のスケーリング防止方法であって、前記オートクレーブが、上部に空間域を備える隔壁により分割された、直列に配置される少なくとも2基の処理室を備える処理槽を有し、前記処理槽の少なくとも一つの処理室に原料を供給する原料配管と、硫酸を添加する投入配管を設け、前記処理槽の最川下側の処理室に該処理室内に貯留された内容物を排出する吐出配管を設け、前記隔壁が、前記隔壁央部に該隔壁を貫通する開口部を備え、前記原料に、ニッケル鉱石を酸浸出して得られたCa品位が0.05~0.06[質量%]である鉱石スラリーを用い、前記吐出配管から排出される吐出液のCa濃度を0.35[g/L]以下に制御することで、前記処理室内に生成するスケールの量を低減することを特徴とするスケーリング防止方法である。
【発明の効果】
【0014】
従来、処理が不可能であった鉱石で、カルシウム品位が高いことが原因とわかった鉱石を、カルシウム品位が低い鉱石と混合することで、トラブルリスクを低減しつつ処理することが可能となった。
オートクレーブ内へのスケール制御により、長期間のオートクレーブ連続運転を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】高圧酸浸出法(HPAL法)の代表的なプロセスフロー図である。
図2】オートクレーブの構造を示す断面模式図である。
図3】鉱石のカルシウム品位とオートクレーブ吐出液のCa濃度の関係をスラリー濃度(solid%、スラリー中の液体分と固体分の重量比)ごとに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
スケールを生成する代表的な元素の鉄、アルミニウムおよびカルシウムのうち、鉄、アルミニウム成分については、先に示した化学式よりスケール生成の際に硫酸を再放出する性質があり、スケール量を低減しようとすると液中の遊離酸濃度(どの金属とも反応していないフリー硫酸の濃度)が低下するため、ニッケルの浸出率低下を招く。これに対し、遊離酸濃度低下を防ぎニッケルの浸出率を維持するためにはさらなる硫酸を使用する必要があるため、資材使用量の観点から好ましくない。
【0017】
一方、カルシウムは硫酸を放出することなくスケールが生成する点が鉄およびアルミニウムとは異なる。オートクレーブ内では後室ほど浸出反応が進行しており、遊離酸濃度は後室ほど低くなる。このような環境下では、硫酸カルシウムは酸濃度が高い前室側では水溶していてスケールを形成せず、一方酸濃度が低い後室側では、後述する溶解度自体の変化により液中の硫酸カルシウムの溶解度を超過するため、析出してスケールを形成する。
下記反応式は、カルシウム(Ca)におけるスケールの発生、成長を示すものである。
【0018】
【化2】
【0019】
化学式(A)については、主に前室側(1、2室)で進行すると見られ、鉱石中に混入した炭酸カルシウム(CaCO)が硫酸との反応により石膏(CaSO)を形成したのち、一部が液中に溶けた状態(CaSO Liquid)となる過程を示している。一般に石膏の溶解度は非常に低いが、高硫酸濃度には一定の溶解度を持つことが知られている。これは硫酸濃度が高い領域(1、2室)に特有の現象である。
【0020】
一方、化学式(B)は液中に溶解した石膏が析出する反応を示しており、主に後室側(3、4、5、6室)で進行すると考えられる。オートクレーブ中の反応過程であり、実際に反応の進行を観察することは困難であるが、表1に示すスケール分析結果がこれらの仮説を裏付けている。
【0021】
【表1】
【0022】
表1は各室において缶壁から採取したスケールを蛍光X線により定量分析した結果であり、1室の重量%を100%とした際の各室の重量%を比率で表示した。後室側ではCa、Alの重量%が上昇していく。特に、6室吐出配管ではCaの重量%は1室の907%に達する。
したがって、鉱石から供給されるカルシウムは微量あってもスケール生成に大きく寄与するので、カルシウム供給量は精密に制御されなければならない。
【0023】
カルシウムの析出制御は、以下の論理によって制御が可能である。
1)後室側での析出反応の進行を止める。
石膏が液中に溶けていられる濃度には限界(溶解度)があり、これを上回った分が析出してスケール生成する。すなわち、溶け切った後の石膏濃度が溶解度以下であれば、スケールは生成しない。
【0024】
2)プロセス液への石膏溶解を溶解度以下にする。
「前室側において仮に鉱石由来のカルシウムが全量プロセス液に溶解したとしても、”後室側における石膏の溶解度未満”になるようにカルシウムインプット量を調節する」ことで、後室側での石膏析出を制御することができる。
【0025】
そこで、オートクレーブ吐出液のCa濃度とオートクレーブ吐出液中の固体分のCa品位の関係は以下に示すようになっている。
即ち、前室側でも全ての鉱石由来のカルシウムがプロセス液中に溶解するわけではないため、浸出残渣は0.00~0.05%程度のCa品位を有している。
一方、吐出液Ca濃度が、0.35[g/L]の領域を超える範囲では、浸出残渣のCa品位のばらつきが大きくなり、上記範囲から突出することもあることが判った。
つまり、Ca濃度0.35[g/L]を超えた場合、溶解度を超え石膏の析出が開始しているものと考えられ、「後室側における石膏の溶解度」は0.35[g/L]であると考えられる。
【0026】
以上より、オートクレーブ吐出液でカルシウム濃度が0.35[g/L]以下になるように、鉱石スラリーのCa品位を逆算し、この品位以下に制御することで、オートクレーブでの石膏の析出を制御する。この場合、鉱石スラリーのスラリー濃度(solid%)によって許容されるカルシウム品位が異なる。例えば、スラリー濃度が高い場合はカルシウムがより濃縮されるので(たとえば、ラリー供給量を一定とみなすと、カルシウム供給量が大きくなるので)、許容される鉱石カルシウム品位は低い。
【0027】
図3は、鉱石のカルシウム品位とオートクレーブ吐出液のCa濃度の関係をスラリー濃度(solid%、スラリー中の液体分と固体分の重量比)ごとに示したものである。
オートクレーブ吐出液のCa濃度は上述より0.35[g/L]まで許容できるので、実用上のスラリー濃度においては、カルシウム品位は0.05~0.06質量%を境に制御すればよい。
【0028】
従って、以下の操業条件とすることで、石膏としてのカルシウム析出を適切に抑制することができる。
・オートクレーブに供給する固形物原料のカルシウム品位を0.05~0.06質量%以下とする。
なお、この固形物原料としては、ニッケル湿式製錬ではニッケル鉱石がそれに相当する。単一の種類の鉱石のみをオートクレーブに供給する場合は、当該鉱石の組成として0.05~0.06質量%以下のものを調達すればよい。カルシウム品位の互いに異なる鉱石をブレンドしてオートクレーブに供給する場合は、鉱石供給量で加重平均した組成が0.05~0.06質量%以下となるように調合すればよい。
・オートクレーブ吐出液のカルシウム濃度を0.35[g/L]以下とする。
【実施例0029】
実操業中に、上記カルシウム品位の条件に調整したニッケル酸化鉱石を原料に用い、オートクレーブによる硫酸による高圧酸浸出を実施した。
具体的には、オートクレーブにニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを供給して温度240~260℃、圧力4000~5000kPaGの高温高圧条件下で硫酸を添加し酸浸出処理を行った。
【0030】
ニッケル酸化鉱石の組成は、Ca品位が0.05~0.06質量%であるように調合したものを用いて、オートクレーブ出口の吐出配管から排出される吐出液のCa濃度が0.30~0.35g/Lとなるように鉱石スラリーの供給量を調整した。
硫酸の添加量についても、オートクレーブ出口の吐出配管から排出される吐出液の遊離硫酸の濃度が35g/L~45g/Lとなるように調整した。
その結果、オートクレーブで詰まりを起こすことなく116日間の連続操業を実施することができた。
【0031】
(比較例)
ニッケル酸化鉱石の組成をCa品位に基づいて調合しなかった点と、吐出液のCa濃度に基づいて鉱石スラリーの供給量を調整しなかった点のみを変えて操業したところ、オートクレーブで詰まりを起こすことなく連続操業できた期間は70日間であった。なお、ニッケル酸化鉱石の組成と鉱石スラリーの供給量は、平均的には上記実施例と同水準であった。
【符号の説明】
【0032】
1 処理室
空間域
3 隔壁
3a 隔壁の開口部
原料配管
投入配管
6 吐出配管
10 処理槽
S01 選別工程
S02 濃縮工程
S0 鉱石前処理工程
S1 浸出工程
S2 予備中和工程
S3 固液分離工程
S4 中和工程
S5 脱亜鉛工程
S6 ニッケル回収工程
S7 硫化剤除去工程
S8 最終中和工程
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧硫酸浸出法に用いるオートクレーブ内部のスケーリング防止方法であって、
前記オートクレーブが、上部に空間域を備える隔壁により分割された、直列に配置される少なくとも2基の処理室を備える処理槽を有し、
前記処理槽の少なくとも一つの処理室に原料を供給する原料配管と、硫酸を添加する投入配管を設け、
前記処理槽の最川下側の処理室に該処理室内に貯留された内容物を排出する吐出配管を設け、
前記隔壁が、前記隔壁の央部に該隔壁を貫通する開口部を備え、
前記原料に、Ca品位が0.05~0.06質量%であるニッケル鉱石を用い、
前記吐出配管から排出される吐出液のCa濃度を0.35[g/L]以下に制御することで、
前記処理室内に生成するスケールの量を低減することを特徴とするスケーリング防止方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
このような状況に鑑み、本発明の第一の実施態様は、高圧硫酸浸出法に用いるオートクレーブ内部のスケーリング防止方法であって、前記オートクレーブが、上部に空間域を備える隔壁により分割された、直列に配置される少なくとも2基の処理室を備える処理槽を有し、前記処理槽の少なくとも一つの処理室に原料を供給する原料配管と、硫酸を添加する投入配管を設け、前記処理槽の最川下側の処理室に該処理室内に貯留された内容物を排出する吐出配管を設け、前記隔壁が、前記隔壁央部に該隔壁を貫通する開口部を備え、前記原料に、Ca品位が0.05~0.06[質量%]であるニッケル鉱石を用い、前記吐出配管から排出される吐出液のCa濃度を0.35[g/L]以下に制御することで、前記処理室内に生成するスケールの量を低減することを特徴とするスケーリング防止方法である。