(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151332
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】腎マーカー及びその利用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/493 20060101AFI20231005BHJP
G01N 33/70 20060101ALI20231005BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/185 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20231005BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231005BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20231005BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20231005BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20231005BHJP
C12Q 1/06 20060101ALN20231005BHJP
C12Q 1/68 20180101ALN20231005BHJP
【FI】
G01N33/493 A
G01N33/70
A61P13/12
A61K31/185
A61K31/198
A61K31/202
A61K45/00
A61P43/00 121
A23L33/175
A23L33/18
A23L33/10
C12Q1/06
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060899
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(71)【出願人】
【識別番号】597039087
【氏名又は名称】アイシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】河原▲崎▼ 正貴
(72)【発明者】
【氏名】矢口 文
(72)【発明者】
【氏名】橋本 知明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 れえ子
(72)【発明者】
【氏名】小林 沙織
(72)【発明者】
【氏名】青野 綾美
【テーマコード(参考)】
2G045
4B018
4B063
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045DA42
2G045DA77
4B018MD11
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4C206MA02
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA81
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】ネコまたはイヌの腎機能を診断するためのバイオマーカー、それを利用した診断方法を提供する。
【解決手段】ネコまたはイヌの腎機能を診断する方法であって:尿中の代謝物の分析に基づき診断する方法であり、代謝物の分析が、2-ヒドロキシイソブチレート(2-hydroxyisobutyrate)、2-フェニルプロピオネート(2-phenylpropionate)、3-アミノイソブチレート(3-aminoisobutyrate)、アデノシン(adenosine)、グリシン(glycine)、およびトリゴネリン(trigonelline)からなる群より選択される少なくとも一つの低下、またはジメチルスルホン(dimethyl sulfone)、ジメチルアミン(dimethylamine)、メタノール(methanol)、タウリン(taurine)、2-オキソグルタレート(2-oxoglutarate)、インドール-3-アセテート(indole-3-acetate)、N-フェニルアセチルグリシン(N-phenylacetylglycine)、およびウロカネート(urocanate)からなる群より選択される少なくとも一つの上昇である、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネコまたはイヌの腎機能を診断する方法であって:
尿中の代謝物の分析に基づき診断する方法であり、
代謝物の分析が、
2-ヒドロキシイソブチレート(2-hydroxyisobutyrate)、2-フェニルプロピオネート(2-phenylpropionate)、3-アミノイソブチレート(3-aminoisobutyrate)、アデノシン(adenosine)、グリシン(glycine)、およびトリゴネリン(trigonelline)からなる群より選択される少なくとも一つの低下、または
ジメチルスルホン(dimethyl sulfone)、ジメチルアミン(dimethylamine)、メタノール(methanol)、タウリン(taurine)、2-オキソグルタレート(2-oxoglutarate)、インドール-3-アセテート(indole-3-acetate)、N-フェニルアセチルグリシン(N-phenylacetyl glycine)、およびウロカネート(urocanate)からなる群より選択される少なくとも一つの上昇である、方法。
【請求項2】
代謝物の分析が、2-ヒドロキシイソブチレート、トリゴネリン、メタノール、およびウロカネートからなる群より選択される少なくとも一つの分析を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
国際獣医腎臓病研究グループ(the International Renal Interest Society, IRIS)の慢性腎臓病の診断基準のステージ1から4のネコまたはイヌの診断のための、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
対象の血漿クレアチニン値を予測する方法であって:
尿中の代謝物の分析に基づき予測するする方法であり、
代謝物の分析が、2-ヒドロキシイソブチレート、トリゴネリン、メタノール、ウロカネート、およびラクテート(lactate)からなる群より選択される二以上の分析を含む、方法。
【請求項5】
代謝物の分析が、2-ヒドロキシイソブチレート、トリゴネリン、メタノール、ウロカネート、およびラクテートの分析である、請求項4に記載の予測方法。
【請求項6】
ネコまたはイヌの腎機能を診断する方法であって:
血漿中の代謝物の分析に基づき診断する方法であり、
代謝物の分析が、
N,N-ジメチルグリシン(N,N-Dimethylglycine)、プロリン(Proline)、尿素(Urea)、5-ヒドロキシリジン(5-Hydroxylysine)、アスパラギン(Asn)、5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸(5-Oxo-2-tetrahydrofurancarboxylic acid)、アゼライン酸(Azelaic acid)、カルボキシメチルリジン(Carboxymethyl lysine)、システイン(Cys)、シスチン(Cystine)、グルカル酸(Glucaric acid)、ヒドロキシプロリン(Hydroxyproline)、メチオニンスルホキシド(Methionine sulfoxide)、N6-アセチルリシン(N6-Acetyllysine)、ペラルゴン酸(Pelargonic acid)、ピメリン酸(Pimelic acid)、ピペコリン酸(Pipecolic acid)、スタキドリン(Stachydrine)、スルホチロシン(Sulfotyrosine)、タウロコール酸(Taurocholic acid)、テレフタル酸(Terephthalic acid)、γ-グルタミルオルニチン(γ-Glu-Ornithine)からなる群より選択される少なくとも一つの低下、または
1-メチルアデノシン(1-Methyladenosine)、2-アミノ酪酸(2-Aminobutyric acid)、2-ヒドロキシ酪酸(2-Hydroxybutyric acid)、2-ヒドロキシオクタン酸(2-Hydroxyoctanoic acid)、3-メトキシチロシン(3-Methoxytyrosine)、3-ウレイドイソ酪酸(3-Ureidoisobutyric acid)、3-ウレイドプロピオン酸(3-Ureidopropionic acid)、7-メチルグアニン(7-Methylguanine)、アラントイン酸(Allantoic acid)、アルギニノコハク酸(Argininosuccinic acid)、アスコルビン酸2-硫酸(Ascorbate 2-sulfate)、カルノシン(Carnosine)、cis-アコニット酸(cis-Aconitic acid)、シスタチオニン(Cystathionine)、リン酸エタノールアミン(Ethanolamine phosphate)、グルコン酸(Gluconic acid)、グルコノラクトン(Gluconolactone)、グリシルアスパラギン酸(Gly-Asp)、インドール-3-酢酸(Indole-3-acetic acid)、イセチオン酸(Isethionic acid)、イソクエン酸(Isocitric acid)、イソバレリルカルニチン(Isovalerylcarnitine)、N-アセチルアスパラギン酸(N-Acetylaspartic acid)、N-アセチルグリシン(N-Acetylglycine)、N-アセチルプトレシン(N-Acetylputrescine)、N1-メチルグアノシン(N1-Methylguanosine)、N6,N6,N6-トリメチルリジン(N6,N6,N6-Trimethyllysine)、ナリジクス酸(Nalidixic acid)、フェナセツル酸(Phenaceturic acid)、プトレシン(Putrescine)、ピリドキサール(Pyridoxal)、ウリジン(Uridine)からなる群より選択される少なくとも一つの上昇である、方法。
【請求項7】
ネコまたはイヌの腎機能を診断する方法であって:
血漿中の代謝物の分析に基づき診断する方法であり、
プロリン(Proline)、およびγ-グルタミルオルニチン(γ-Glu-Ornithine)からなる群より選択される少なくとも一つの低下、または
非対称ジメチル-L-アルギニン(ADMA)、イセチオン酸(Isethionic acid)、2-アミノ酪酸(2-Aminobutyric acid)、2-ヒドロキシ酪酸(2-Hydroxybutyric acid)、および3-ウレイドプロピオン酸(3-Ureidopropionic acid)からなる群より選択される少なくとも一つの上昇である、方法。
【請求項8】
代謝物の分析が、イセチオン酸、2-アミノ酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ウレイドプロピオン酸、およびプロリンからなる群より選択される少なくとも一つの分析を含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
IRISの慢性腎臓病の診断基準のステージ1または2のネコまたはイヌの診断のための、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
腎機能が低下した対象またはそのリスクのある対象に摂取させるための、タウリン、プロリン、およびγ-グルタミルオルニチンからなる群より選択されるいずれかを含む、医薬または食品組成物。
【請求項11】
対象が、ネコまたはイヌである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
対象が、IRISの慢性腎臓病の診断基準のステージ1または2のネコまたはイヌである、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
組成物が、さらにドコサヘキサエン酸(DHA)結合脂質およびエイコサペンタエン酸(EPA)結合脂質からなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法により、腎機能について診断された対象に摂取させるための、請求項10~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法により、腎機能について診断された対象に摂取させるための、ドコサヘキサエン酸(DHA)結合脂質およびエイコサペンタエン酸(EPA)結合脂質からなる群より選択される少なくとも一つを含む、医薬または食品組成物。
【請求項16】
DHA結合脂質およびEPA結合脂質からなる群より選択される少なくとも一つを魚油として含む、請求項13~15のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎疾患マーカー及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ネコの腎疾患は、死因の上位を占める疾患である。それゆえ、腎機能異常を早期の段階で評価できる検査方法により的確に診断し、病態を把握することが重要である。しかし、獣医臨床においてこの分野の研究に関する報告は少なく、実際の臨床現場では国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)による慢性腎臓病の病期分類の基準(非特許文献1)に従って血漿クレアチニン、SDMA(対称ジメチルアルギニン)を基に分類しているのが現状であり、ある程度腎臓病のステージが進んだ段階で、飼育者が多飲多尿であることをきっかけに来院することが多い。
【0003】
腎疾患の診断に関し、特許文献1、2には、動物が、腎疾患に罹患しているかどうかを決定するための方法であって、動物からの尿サンプルまたは血液サンプル中のβ-アミノイソ酪酸(BAIB)を測定すること、および、サンプル中のBAIBの濃度に基づいて腎疾患を決定することを含む方法が記載されている。また特許文献3には、腎不全が疑われる被検体の尿の分析方法であって、該被検体の尿におけるD-セリン及びL-セリンと、D-ヒスチジン及びL-ヒスチジンと、D-アスパラギン及びL-アスパラギンと、D-アルギニン及びL-アルギニンと、D-アロ-スレオニン及びL-スレオニンと、D-グルタミン酸及びL-グルタミン酸と、D-アラニン及びL-アラニンと、D-プロリン及びL-プロリンと、D-バリン及びL-バリンと、D-アロ-イソロイシン及びL-イソロイシンと、D-フェニルアラニン及びL-フェニルアラニンと、D-リジン及びL-リジンとからなるアミノ酸群の少なくとも1種類のアミノ酸のD-体及びL-体の対の濃度を測定するステップと、前記少なくとも1種類のアミノ酸のD-体及びL-体の対の濃度から、D体の構成割合を示す病態指標値を算出するステップと、当該病態指標値の有意差をもった減少と、被検体の腎不全とを関連づけるステップとを含む、分析方法が記載されている。
【0004】
一方、腎機能が低下した対象またはそのリスクのある対象に投与・摂取させるための医薬または食品組成物が検討されてきている。この点に関し、特許文献4には、タウリンを有効成分として含有することを特徴とするURAT1(urate transporter 1)活性を調節するための組成物が記載されている。この文献では、腎臓に発現しているURAT1は尿酸、ニコチン酸、コハク酸等、生体内で重要な役割を果たしている因子、さらにはサリチル酸やインドメタシンといった薬物の輸送に関与していることが知られており、その活性を調節することにより生体機能を良好に調節できる可能性が示唆されていると説明されている。また特許文献5には、スレオニン、プロリン、グリシン、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、セリン、グルタミン酸、アラニン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン及びアルギニンを含んで成ることを特徴とする腎機能障害改善用アミノ酸組成物又はアミノ酸溶液が記載されている。さらに特許文献6には、腎臓機能を改善する量の1種以上の酸化防止剤、および同じ種または血統の健康な動物に典型的に推奨されるタンパク質およびリンの最大量に比較して少ない量のタンパク質および/ またはリンを含有する、動物の腎臓機能の改善に適した組成物が記載されており、好ましい酸化防止剤として、β‐カロテン、セレン、コエンザイムQ10(ユビキノン)、ルエチン(luetin)、トコトリエノール、ダイズイソフラボン、S-アデノシルメチオニン、グルタチオン、タウリン、N-アセチルシステイン、ビタミンE、ビタミンC、α‐リポ酸およびL‐カルニチンが記載されている。
【0005】
一方、本発明者らは、自然発症高血圧易脳卒中ラットを対象とした実験結果に基づき、腎機能維持及び腎機能保護のための有効成分として、ドコサヘキサエン酸(DHA) もしくはエイコサペンタエン酸(EPA)のトリグリセリド体、あるいは、ドコサヘキサエン酸(DHA)のトリグリセリド体とエイコサペンタエン酸(EPA)のトリグリセリド体の混合物を含むことを特徴とする腎機能維持及び保護剤を開発している(特許文献7)。また、ドコサヘキサエン酸(DHA)のエステルを含有する、ネコ腎機能保護剤を開発してきた(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2016/176691(特表2018-515761、特許第6923449号)
【特許文献2】特開2021-181994公報(特許文献1の分割出願)
【特許文献3】特許第5740523号公報
【特許文献4】国際公開WO2013/018706
【特許文献5】特開2002-275059公報
【特許文献6】特開2015-7093公報
【特許文献7】特開2020-2125公報
【特許文献8】特開2022-26979公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IRIS Kidney - Guidelines - IRIS Staging of CKD (http://www.iris-kidney.com/guidelines/staging.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
血漿クレアチニンは性差、年齢、筋肉量など腎臓以外の因子が検査データに影響を与えて軽度腎機能低下では異常値を示さない、いわゆる blind area の存在が知られている。逆に筋肉量や運動などにより血漿クレアチニンが高くなる場合は腎機能が過小評価される。一方、尿素窒素は蛋白摂取量など変動因子が多く、腎機能に特異的ではない。
【0009】
尿中タンパク質検査および尿中 albumin 検査も実施されているが、腎疾患の有無にかかわらず尿中タンパク質の陽性を呈することがある。また、尿中アルブミン検査はヒトの尿中アルブミン測定法を用いているため相同性は認められるものの、測定感度が低く、早期の段階で腎機能異常を評価できる感度及び特異性の高いバイオマーカーが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
バイオマーカー探索方法の一つに代謝物の総体であるメタボロームを包括的に測定する方法メタボロミクスがある。その対象は、ヒト医薬品開発の前臨床や臨床現場では盛んに行われているが、獣医の場に至っては、メタボロームによる解析例はいまだに数が少ない。今回は、健常もしくは腎疾患のネコの尿を対象に、核磁気共鳴(NMR)を用いた尿中代謝物を計測し、腎疾患に特有の代謝物および、血漿中のクレアチニン値を尿中代謝物から予測することを試みた。
【0011】
本発明は以下を提供する。
[1] ネコまたはイヌの腎機能を診断する方法であって:
尿中の代謝物の分析に基づき診断する方法であり、
代謝物の分析が、
2-ヒドロキシイソブチレート(2-hydroxyisobutyrate)、2-フェニルプロピオネート(2-phenylpropionate)、3-アミノイソブチレート(3-aminoisobutyrate)、アデノシン(adenosine)、グリシン(glycine)、およびトリゴネリン(trigonelline)からなる群より選択される少なくとも一つの低下、または
ジメチルスルホン(dimethyl sulfone)、ジメチルアミン(dimethylamine)、メタノール(methanol)、タウリン(taurine)、2-オキソグルタレート(2-oxoglutarate)、インドール-3-アセテート(indole-3-acetate)、N-フェニルアセチルグリシン(N-phenylacetylglycine)、およびウロカネート(urocanate)からなる群より選択される少なくとも一つの上昇である、方法。
[2] 代謝物の分析が、2-ヒドロキシイソブチレート、トリゴネリン、メタノール、およびウロカネートからなる群より選択される少なくとも一つの分析を含む、1に記載の方法。
[3] 国際獣医腎臓病研究グループ(the International Renal Interest Society, IRIS)の慢性腎臓病の診断基準のステージ1から4のネコまたはイヌの診断のための、1または2に記載の方法。
[4] 対象の血漿クレアチニン値を予測する方法であって:
尿中の代謝物の分析に基づき予測するする方法であり、
代謝物の分析が、2-ヒドロキシイソブチレート、トリゴネリン、メタノール、ウロカネート、およびラクテート(lactate)からなる群より選択される二以上の分析を含む、方法。
[5] 代謝物の分析が、2-ヒドロキシイソブチレート、トリゴネリン、メタノール、ウロカネート、およびラクテートの分析である、4に記載の予測方法。
[6] ネコまたはイヌの腎機能を診断する方法であって:
血漿中の代謝物の分析に基づき診断する方法であり、
代謝物の分析が、
N,N-ジメチルグリシン(N,N-Dimethylglycine)、プロリン(Proline)、尿素(Urea)、5-ヒドロキシリジン(5-Hydroxylysine)、アスパラギン(Asn)、5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸(5-Oxo-2-tetrahydrofurancarboxylic acid)、アゼライン酸(Azelaic acid)、カルボキシメチルリジン(Carboxymethyl lysine)、システイン(Cys)、シスチン(Cystine)、グルカル酸(Glucaric acid)、ヒドロキシプロリン(Hydroxyproline)、メチオニンスルホキシド(Methionine sulfoxide)、N6-アセチルリシン(N6-Acetyllysine)、ペラルゴン酸(Pelargonic acid)、ピメリン酸(Pimelic acid)、ピペコリン酸(Pipecolic acid)、スタキドリン(Stachydrine)、スルホチロシン(Sulfotyrosine)、タウロコール酸(Taurocholic acid)、テレフタル酸(Terephthalic acid)、γ-グルタミルオルニチン(γ-Glu-Ornithine)からなる群より選択される少なくとも一つの低下、または
1-メチルアデノシン(1-Methyladenosine)、2-アミノ酪酸(2-Aminobutyric acid)、2-ヒドロキシ酪酸(2-Hydroxybutyric acid)、2-ヒドロキシオクタン酸(2-Hydroxyoctanoic acid)、3-メトキシチロシン(3-Methoxytyrosine)、3-ウレイドイソ酪酸(3-Ureidoisobutyric acid)、3-ウレイドプロピオン酸(3-Ureidopropionic acid)、7-メチルグアニン(7-Methylguanine)、アラントイン酸(Allantoic acid)、アルギニノコハク酸(Argininosuccinic acid)、アスコルビン酸2-硫酸(Ascorbate 2-sulfate)、カルノシン(Carnosine)、cis-アコニット酸(cis-Aconitic acid)、シスタチオニン(Cystathionine)、リン酸エタノールアミン(Ethanolamine phosphate)、グルコン酸(Gluconic acid)、グルコノラクトン(Gluconolactone)、グリシルアスパラギン酸(Gly-Asp)、インドール-3-酢酸(Indole-3-acetic acid)、イセチオン酸(Isethionic acid)、イソクエン酸(Isocitric acid)、イソバレリルカルニチン(Isovalerylcarnitine)、N-アセチルアスパラギン酸(N-Acetylaspartic acid)、N-アセチルグリシン(N-Acetylglycine)、N-アセチルプトレシン(N-Acetylputrescine)、N1-メチルグアノシン(N1-Methylguanosine)、N6,N6,N6-トリメチルリジン(N6,N6,N6-Trimethyllysine)、ナリジクス酸(Nalidixic acid)、フェナセツル酸(Phenaceturic acid)、プトレシン(Putrescine)、ピリドキサール(Pyridoxal)、ウリジン(Uridine)からなる群より選択される少なくとも一つの上昇である、方法。
[7] ネコまたはイヌの腎機能を診断する方法であって:
血漿中の代謝物の分析に基づき診断する方法であり、
プロリン(Proline)、およびγ-グルタミルオルニチン(γ-Glu-Ornithine)からなる群より選択される少なくとも一つの低下、または
非対称ジメチル-L-アルギニン(ADMA)、イセチオン酸(Isethionic acid)、2-アミノ酪酸(2-Aminobutyric acid)、2-ヒドロキシ酪酸(2-Hydroxybutyric acid)、および3-ウレイドプロピオン酸(3-Ureidopropionic acid)からなる群より選択される少なくとも一つの上昇である、方法。
[8] 代謝物の分析が、イセチオン酸、2-アミノ酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ウレイドプロピオン酸、およびプロリンからなる群より選択される少なくとも一つの分析を含む、6または7に記載の方法。
[9] IRISの慢性腎臓病の診断基準のステージ1または2のネコまたはイヌの診断のための、6~8のいずれか1項に記載の方法。
[10] 腎機能が低下した対象またはそのリスクのある対象に摂取させるための、タウリン、プロリン、およびγ-グルタミルオルニチンからなる群より選択されるいずれかを含む、医薬または食品組成物。
[11] 対象が、ネコまたはイヌである、10に記載の組成物。
[12] 対象が、IRISの慢性腎臓病の診断基準のステージ1または2のネコまたはイヌである、10または11に記載の組成物。
[13] 組成物が、さらにドコサヘキサエン酸(DHA)結合脂質およびエイコサペンタエン酸(EPA)結合脂質からなる群より選択される少なくとも一つを含む、10~12のいずれか1項に記載の組成物。
[14] 1~9のいずれか1項に記載の方法により、腎機能について診断された対象に摂取させるための、10~13のいずれか1項に記載の組成物。
[15] 1~9のいずれか1項に記載の方法により、腎機能について診断された対象に摂取させるための、ドコサヘキサエン酸(DHA)結合脂質およびエイコサペンタエン酸(EPA)結合脂質からなる群より選択される少なくとも一つを含む、医薬または食品組成物。
[16] DHA結合脂質およびEPA結合脂質からなる群より選択される少なくとも一つを魚油として含む、13~15のいずれか1項に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】直交部分最小2乗回帰による尿中代謝物からの血漿中クレアチニンの予測(全データセットと予測のための変数重要度(VIP)) (n=45、40代謝物)R2X =0.383, R2Y=0.935, Q2Y=0.51
【
図2】5代謝物を用いた重回帰分析の実測値と予測値の関係Multiple R-squared: 0.7806, Adjusted R-squared: 0.7525, F-statistic: 27.75, p-value:7.14E-12
【発明を実施するための形態】
【0013】
[尿中の代謝物の分析]
本発明は、ネコまたはイヌの腎機能を診断する方法、およびそのために使用するマーカーに関する。本発明の方法は、尿中の代謝物をマーカーとし、マーカーの分析に基づき対象の腎機能を診断するものである。分析とは、目的物質の検出、定量、基準値との比較による判断(低下、または上昇など)を含む。低下は健常群が示す数値より低いことを含み、上昇は健常群が示す数値より高いことを含む。
【0014】
好ましい態様の一つでは、代謝物の分析は、2-ヒドロキシイソブチレート(2-hydroxyisobutyrate)、2-フェニルプロピオネート(2-phenylpropionate)、3-アミノイソブチレート(3-aminoisobutyrate)、アデノシン(adenosine)、グリシン(glycine)、およびトリゴネリン(trigonelline)からなる群より選択される少なくとも一つの低下である。
【0015】
本発明に関し、分析の対象となる物質がアニオン(塩、エステル)として表される(酸の-ic acid を-ate(アート、またはエート)に換えて表される)場合、その物質は、測定条件によっては酸として測定されることがある。すなわち、本発明に関し、分析の対象として挙げられているアニオン性の物質は、分析の条件によっては、酸として測定される場合がある。例えば2-ヒドロキシイソブチレート(2-hydroxyisobutyrate)、2-フェニルプロピオネート(2-phenylpropionate)、及び3-アミノイソブチレート(3-aminoisobutyrate)は、それぞれ順に、2-ヒドロキシイソ酪酸(2-hydroxyisobutyric acid)、2-フェニルプロピオン酸(2-phenylpropionic acid)、及び3-アミノイソ酪酸(3-aminoisobutyric acid)として測定される場合がある。そして、本発明に関し、2-ヒドロキシイソブチレート(2-hydroxyisobutyrate)を分析するというときは、2-ヒドロキシイソ酪酸(2-hydroxyisobutyric acid)を分析する場合も含む。他の物質の場合についても同様である。
【0016】
別の好ましい態様では、代謝物の分析は、ジメチルスルホン(dimethyl sulfone)、ジメチルアミン(dimethylamine)、メタノール(methanol)、タウリン(taurine)、2-オキソグルタレート(2-oxoglutarate)または2-オキソグルタル酸(2-oxoglutaric acid)、インドール-3-アセテート(indole-3-acetate)またはインドール-3-酢酸(indole-3-acetic acid)、N-フェニルアセチルグリシン(N-phenylacetylglycine)、およびウロカネート(urocanate)からなる群より選択される少なくとも一つの上昇である。
【0017】
詳細には、慢性腎臓病 (多発性嚢胞腎(polycystic kidney disease: PKD)+その他慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD))を対象とする場合、代謝物の分析は、2-hydroxyisobutyrate、2-phenylpropionate、3-aminoisobutyrate、adenosine、glycine、およびtrigonellineからなる群より選択されるいずれかの低下であること、またはdimethyl sulfone、dimethylamine、methanol、およびtaurineからなる群より選択されるいずれかの上昇であることが好ましい。
【0018】
また、PKDを対象とする場合、代謝物の分析は、2-hydroxyisobutyrate、2-phenylpropionate、3-aminoisobutyrate、adenosine、glycine、およびtrigonellineからなる群より選択されるいずれかがの低下、または2-oxoglutarate、dimethyl sulfone、dimethylamine、indole-3-acetate、methanol、N-phenylacetylglycine、taurine、urocanateからなる群より選択されるいずれかの上昇であることが好ましい。
【0019】
特に好ましい態様では、代謝物の分析は、2-ヒドロキシイソブチレート、トリゴネリン、メタノール、およびウロカネートからなる群より選択される少なくとも一つの分析である。
【0020】
目的物質の分析方法は特に限定されない。当業者であれば、適切な方法で採尿を行い、必要に応じて遠心分離を行って不溶物を除き、緩衝液を加えて測定のためのサンプルとすることができる。サンプルは、例えば、核磁気共鳴装置(NMR)、ガスクロマトグラフィー(GC)、高速クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析装置(MS)、TOF-MS(time-of-flight mass spectrometry)より分析することができる。また、特定の物質について適切であれば、免疫学的な手法により分析できる。採尿したサンプルは、参考のために、各種生化学検査、例えば尿比重、pH、UPC(urine protein: creatinine))を測定してもよい。
【0021】
[血漿クレアチニン値を予測する方法]
本発明はまた、尿中の代謝物の分析に基づき、対象の血漿クレアチニン値を予測する方法に関する。
【0022】
対象の血漿クレアチニン値を予測する目的のためには、尿中の代謝物の分析は、Methanol、2-Hydroxyisobutyrate、N-Acetylglycine、Tyrosine、indole-3-acetate、Formate、Urocanate、Trigonelline、Lactateからなる群より選択されるいずれかについて行うことが好ましく、2-Hydroxyisobutyrate、Trigonelline、Methanol、Urocanate、およびLactateからなる群より選択されるいずれかについて行うことがより好ましい。
【0023】
本発明者は、血漿クレアチニン値の予測のため、全実験データ(45検体、40代謝物)を用いた直交部分最小2乗回帰から、変数重要度(VIP)が上位であるMethanol、2-Hydroxyisobutyrate、N-Acetylglycine、Tyrosine、indole-3-acetate、Formate、Urocanate、Trigonelline、Lactateの9代謝物を選択し、さらにp値を用いたステップワイズの変数選択(減少法)による重回帰分析を行った。その結果、Lactate、Methanol、Urocanate、2-Hydroxyisobutyrate、Trigonellineの5代謝物を用いた以下の回帰式を得ている。
【0024】
【0025】
式中、[Lactate]、[Methanol]、[Urocanate]、[2-Hydroxyisobutyrate]、[Trigonelline]は、それぞれの物質の尿中の濃度(/Cre)を表す。算出される[Plasma Creatinine]は、血漿クレアチニンの濃度(mg/dL)を表す。
【0026】
血漿クレアチニン値の予測のために行う尿中の目的物質の分析方法は、特に限定されない。当業者であれば、適宜行うことができる。分析方法の例として、前述の核磁気共鳴装置(NMR)を挙げることができる。
【0027】
従来、CKDグレードは、対象から採血し、血漿クレアチニン値を基に分類されているが、採血を頻回行うことは難しい。しかし、本発明によれば、尿中代謝物から血漿クレアチニン値を予測することができる。飼育者による診断が容易であり、また診断結果に基づく療法食や総合栄養食の選択に役立つ。
【0028】
[血漿中の代謝物の分析]
本発明はまた、対象の腎機能を診断する方法であって、血漿中の代謝物の分析に基づき診断する方法に関する。血漿中の代謝物の分析は、血液中の、または血清中の代謝物の分析として行うことができる。以下では、血漿中の代謝物を分析する場合を例に説明する。
【0029】
好ましい態様においては、対象の腎機能を診断する目的のためには、血漿中の代謝物の分析は、N,N-ジメチルグリシン(N,N-Dimethylglycine)、プロリン(Proline)、尿素(Urea)、5-ヒドロキシリジン(5-Hydroxylysine)、アスパラギン(Asn)、5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸(5-Oxo-2-tetrahydrofurancarboxylic acid)、アゼライン酸(Azelaic acid)、カルボキシメチルリジン(Carboxymethyllysine)、システイン(Cys)、シスチン(Cystine)、グルカル酸(Glucaric acid)、ヒドロキシプロリン(Hydroxyproline)、メチオニンスルホキシド(Methionine sulfoxide)、N6-アセチルリシン(N6-Acetyllysine)、ペラルゴン酸(Pelargonic acid)、ピメリン酸(Pimelic acid)、ピペコリン酸(Pipecolic acid)、スタキドリン(Stachydrine)、スルホチロシン(Sulfotyrosine)、タウロコール酸(Taurocholic acid)、テレフタル酸(Terephthalic acid)、γ-グルタミルオルニチン(γ-Glu-Ornithine)からなる群より選択される少なくとも一つの低下である。
【0030】
別の好ましい態様では、血漿中の代謝物の分析は、1-メチルアデノシン(1-Methyladenosine)、2-アミノ酪酸(2-Aminobutyric acid)、2-ヒドロキシ酪酸(2-Hydroxybutyric acid)、2-ヒドロキシオクタン酸(2-Hydroxyoctanoic acid)、3-メトキシチロシン(3-Methoxytyrosine)、3-ウレイドイソ酪酸(3-Ureidoisobutyric acid)、3-ウレイドプロピオン酸(3-Ureidopropionic acid)、7-メチルグアニン(7-Methylguanine)、アラントイン酸(Allantoic acid)、アルギニノコハク酸(Argininosuccinic acid)、アスコルビン酸2-硫酸(Ascorbate 2-sulfate)、カルノシン(Carnosine)、cis-アコニット酸(cis-Aconitic acid)、シスタチオニン(Cystathionine)、リン酸エタノールアミン(Ethanolamine phosphate)、グルコン酸(Gluconic acid)、グルコノラクトン(Gluconolactone)、グリシルアスパラギン酸(Gly-Asp)、インドール-3-酢酸(Indole-3-acetic acid)、イセチオン酸(Isethionic acid)、イソクエン酸(Isocitric acid)、イソバレリルカルニチン(Isovalerylcarnitine)、N-アセチルアスパラギン酸(N-Acetylaspartic acid)、N-アセチルグリシン(N-Acetylglycine)、N-アセチルプトレシン(N-Acetylputrescine)、N1-メチルグアノシン(N1-Methylguanosine)、N6,N6,N6-トリメチルリジン(N6,N6,N6-Trimethyllysine)、ナリジクス酸(Nalidixic acid)、フェナセツル酸(Phenaceturic acid)、プトレシン(Putrescine)、ピリドキサール(Pyridoxal)、ウリジン(Uridine)からなる群より選択される少なくとも一つの上昇である。
【0031】
別の好ましい態様では、血漿中の代謝物の分析は、プロリン(Proline)、およびγ-グルタミルオルニチン(γ-Glu-Ornithine)からなる群より選択される少なくとも一つの低下である。
【0032】
別の好ましい態様では、血漿中の代謝物の分析は、非対称ジメチル-L-アルギニン(ADMA)、イセチオン酸(Isethionic acid)、2-アミノ酪酸(2-Aminobutyric acid)、2-ヒドロキシ酪酸(2-Hydroxybutyric acid)、および3-ウレイドプロピオン酸(3-Ureidopropionic acid)からなる群より選択される少なくとも一つの上昇、
【0033】
特に好ましい態様の一つでは、血漿中の代謝物の分析は、イセチオン酸、2-アミノ酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ウレイドプロピオン酸、およびプロリンからなる群より選択される少なくとも一つの分析である。
【0034】
目的物質の分析方法は特に限定されない。当業者であれば、適切な方法で採血を行い、必要に応じて抗凝固剤や緩衝剤を加えて遠心分離を行って血球成分等を除き、血漿を得て、測定に供することができる。測定は前述のように、核磁気共鳴装置(NMR)、ガスクロマトグラフィー(GC)、高速クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析装置(MS)、TOFMS(time-of-flight mass spectrometry)より実施できる。また、特定の物質について適切であれば、免疫学的な手法により分析できる。
【0035】
[医薬または食品組成物]
本発明はまた、腎機能が低下した対象またはそのリスクのある対象に摂取させるための、医薬または食品組成物に関する。医薬は、動物医薬を含み、食品組成物は、ペットフードを含み、ペットフードは、総合栄養食、間食、療法食、その他の目的食(栄養補完食、カロリー補給食、動物用サプリメント)を含む。
【0036】
<有効成分>
組成物の有効成分は、タウリン、プロリン、γ-グルタミルオルニチン、ドコサヘキサエン酸(DHA)またはその結合脂質、およびエイコサペンタエン酸(EPA)またはその結合脂質からなる群より選択されるいずれかである。有効成分は1種でもよく、2種以上であってもよい。
【0037】
好ましい態様の一つにおいては、有効成分は、タウリン、プロリン、およびγ-グルタミルオルニチンからなる群より選択されるいずれかである。
【0038】
別の好ましい態様においては、有効成分は、DHA結合脂質、およびEPA結合脂質からなる群より選択されるいずれかであり、DHA結合脂質であることがより好ましい。DHA結合脂質がグリセリドエステルである場合、グリセリドのα位、β位、γ位のいずれかにDHAが結合していればよい。すなわち、DHAのモノ-、ジ-、トリ-グリセリドであってもよいし、DHAと他の脂肪酸との混合グリセリドエステルであってもよい。この場合の、グリセリドエステル中のDHAの含有量としては特に制限はないが、例えば、グリセリドエステルを構成する全脂肪酸に対するDHAの割合として、例えば、20~99質量%、50~99質量%、60~95質量%、65~90質量%などを挙げることができる。EPA結合脂質についても同様である。
【0039】
DHA結合脂質およびEPA結合脂質の原料は特に限定されず、魚油、海獣油、藻類産生脂質、および甲殻類産生脂質から得ることができる。好ましい態様においては、組成物は、DHA結合脂質およびEPA結合脂質を魚油として含む。魚の種類は特に限定されないが、サケ科、ニシン科、またはタラ科の魚であることが好ましい。サケ科には、タイヘイヨウサケ属、タイセイヨウサケ属、イワナ属、イトウ属が含まれるが、タイヘイヨウサケ属またはタイセイヨウサケ属の魚であることがより好ましい。タイヘイヨウサケ属の魚の例として、シロザケ、ギンザケ(コーホーサーモン、シルバーサーモン)、カラフトマス(ピンクサーモン)、サクラマス、ヤマメ、タイワンマス、サツキマス、アマゴ、ビワマス(アメノウオ)、ニジマス(スチールヘッド)、マスノスケ(キングサーモン)、ベニザケ、ヒメマス、クニマスが挙げられる。タイセイヨウサケ属の魚の例として、タイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)、ブラウントラウトが挙げられる。ニシン科には、ニシン亜科、ニシンダマシ亜科、コノシロ亜科、Ehiravinae亜科が含まれるが、ニシン亜科、ニシン属の魚であることが好ましい。ニシン属の魚の例として、ニシン、タイセイヨウニシンが挙げられる。タラ科には、Gadus(マダラ)属、Micromesistius(ミナミダラ)属、Gadiculus属、Trisopterus属、Microgadus属、Eleginusコマイ属、Merlangius属、Melanogrammus属、Pollachius属、Boreogadus属、Arctogadus属が含まれるが、マダラ属の魚であることが好ましい。マダラ属の魚の例として、スケソウダラ、マダラ、タイヘイヨウダラ、グリーンランドダラが挙げられる。魚卵は、天然のものであってもよく、養殖のものであってもよい。
【0040】
魚油は、魚卵由来のものであることが好ましい。魚卵の例として、筋子、イクラ、数の子、助子が挙げられる。
【0041】
<用途>
組成物は、腎疾患の処置のために用いることができる。また、対象の腎機能の改善のために用いることができる。処置は、発症リスクの低減、予防、治療、及び進行の抑制または停止を含む。治療は、対症的治療と、根源的治療とを含む。腎疾患は、慢性腎臓病、および多発性嚢胞腎を含む。
【0042】
組成物は、前述の診断方法により腎機能が低下していると診断された対象に摂取させるために用いることができる。
【0043】
また組成物は、血漿中のイセチオン酸(Isethionic acid)、2-アミノ酪酸(2-Aminobutyric acid)、2-ヒドロキシ酪酸(2-Hydroxybutyric acid)、および3-ウレイドプロピオン酸(3-Ureidopropionic acid)からなる群より選択される少なくとも一つが低値である状態の対象に対して、そのような状態を改善するために用いることができる。
【0044】
<用量、含有量>
本発明の組成物の摂取量は、目的の効果が発揮される量であればよい。摂取量は、対象の年齢、体重、症状等の種々の要因を考慮して、適宜設定することができる。
【0045】
組成物中の有効成分の含有量は、組成物の形態に応じて適宜とすることができる。例えば、有効成分がタウリン、プロリン、およびγ-グルタミルオルニチンからなる群のいずれかである場合、組成物あたりの有効成分の含有量(有効成分が複数である場合は、複数の成分の合計量を指す。)は、乾物換算あたり0.1 %以上とすることができ、0.3 %以上とすることが好ましく、例えば、0.6 %以上、1.1 %以上としてもよい。有効成分の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、乾物換算あたり10 %以下とすることができ、9 %以下とすることができ、8 %以下としてもよく、7 %以下としてもよく、6 %以下としてもよい。なお本発明に関し、%は、特に記載した場合を除き、質量%の意である。
【0046】
有効成分がタウリン、プロリン、およびγ-グルタミルオルニチンからなる群のいずれかである場合、組成物の1日あたりの摂取量は、有効成分量(有効成分が複数である場合は、複数の成分の合計量を指す。)として、10 mg以上となるようにすることができ、30 mg以上とすることが好ましく、60 mg以上とすることがより好ましく、100 mg以上とすることがさらに好ましい。一日あたりの有効成分の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、10g以下とすることができ、5 g以下とすることができ、1 g以下とすることができ、500 mg以下とすることができ、400 mg以下としてもよく、300 mg以下としてもよく、200 mg以下としてもよい。
【0047】
摂取は、一日1回でもよく、1日複数回、例えば2~10回であってもよい。1回あたりの有効成分の摂取量は、例えば1 mg以上とすることができ、3 mg以上とすることが好ましく、6 mg以上とすることがより好ましく、11 mg以上とすることがさらに好ましい。一回あたりの有効成分の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、10g以下とすることができ、10g以下とすることができ、5 g以下とすることができ、1 g以下とすることができ、500 mg以下とすることができ、400 mg以下としてもよく、300 mg以下としてもよく、200 mg以下としてもよい。
【0048】
有効成分がDHA結合脂質である場合、DHAの量としては、25 mg/kg以上となるようにすることができ、50 mg/kg以上とすることが好ましく、100 mg/kg以上とすることがより好ましく、200 mg/kg以上とすることがさらに好ましい。一日あたりの有効成分の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、5000mg/kg以下とすることができ、2500 mg/kg以下とすることができ、2000 mg以下とすることができ、1000 mg/kg以下とすることができ、750 mg/kg以下としてもよく、500 mg/kg以下としてもよく、300 mg/kg以下としてもよい。
【0049】
<他の成分、添加剤>
組成物は、医薬品又は食品として許容可能な他の栄養成分、機能性成分を含んでいてもよい。そのような成分の例は、脂質(例えば、乳脂肪、植物油脂、中鎖脂肪酸含有油脂)、たんぱく質、アミノ酸類(例えば、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン)、糖質、ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸及びニコチン酸類)、電解質(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)、ミネラル(例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン)、食物繊維、抗生物質等である。
【0050】
また組成物は、医薬品又は食品として許容される添加物をさらに含んでいてもよい。そのような添加物の例は、不活性担体(固体や液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤、乳化剤、安定剤、甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料である。
【0051】
<剤型・形態>
組成物は、固体、液体、混合物、懸濁液、粉末、顆粒、ペースト、ゼリー、ゲル、カプセル等の任意の形態に調製されたものであってよい。また飲料や食品に混合して投与するための、顆粒、粉末、ペースト、濃厚液等の形態とすることができる。また経口投与に適した、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液体製剤、ジェル剤、エアロゾル剤等の任意の剤型にすることができる。また、ドライ、ソフトドライ、セミモイスト、ウェット、缶詰、アルミトレー、レトルトパウチ等の任意の形態にすることができる。
【0052】
<製造方法、表示等>
組成物の製造において、有効成分の配合の段階は、適宜選択することができる。有効成分の特性を著しく損なわない限り配合の段階は特に制限されない。例えば、有効成分を原材料に混合して配合することができる。あるいは、有効成分を製造の最終段階で添加し、有効成分を含む組成物を製造することができる。
【0053】
本発明の組成物には、使用目的(用途)を表示することができ、また特定の対象に対して投与を薦める旨を表示することができる。表示は、直接的に又は間接的にすることができ、直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、パンフレット、展示会、メディアセミナー等のセミナー、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール、音声等の、場所又は手段による、広告・宣伝活動を含む。
【0054】
[その他]
本発明に関し、対象というときは、特に記載した場合を除き、ネコおよびイヌを含み、好ましくはネコである。ネコ、イヌの品種は限定されない。対象には、腎臓病のリスクがある健常なものが含まれる。本発明は、IRISの慢性腎臓病の診断基準のステージ1、2、3、または4の、ネコまたはイヌを対象とするのに適しており、場合によりステージ1または2の、ネコまたはイヌを対象とするのに適している。
【0055】
本発明に関し、アミノ酸に言及する場合は、L体である場合とD体である場合とがあるが、特に記載した場合を除き、L体であることが好ましい。
【0056】
本発明に関し、摂取(させる)は、食品組成物を対象に摂取させる意味のほか、医薬組成物を対象に投与する意味でも用いており、また投与(する)は、医薬組成物を対象に投与する場合のほか、食品組成物を対象に摂取させる意味でも用いている。
【実施例0057】
[ネコ尿の解析]
I. 材料と方法
I-1. 対象
腎泌尿器専門の獣医師により診断された健常ネコ: n=10、多発性嚢胞腎(polycystic kidney disease: PKD)ネコ: n=19、その他慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)ネコ: n=13、その他疾患ネコ: n=3を供試した。なお、PKD群とCKD群を合わせて慢性腎臓病(CKD+PKD)ネコ: n=32とした。なお、健常ネコNo.7および9は、いずれも糸球体ろ過量は参照範囲内を示し、筋肉量が多い個体であった。
【0058】
I-2. 試料調製
採血は、EDTA-2Na入り真空採血管にて採取し、遠心分離(2,000 × g、4 ℃、10分間)を行い、血漿を得た。得られた血漿は生化学検査(クレアチニン)を測定した。
採尿は膀胱穿刺により行い、生化学検査(尿比重、pH、UPC (urine protein : creatinine))を測定した。また、一部はNMR測定まで-80 ℃で凍結保管した。凍結保存尿サンプルを0 ~ 4 ℃で融解し、遠心分離(2,000 × g、4 ℃、10分間)をした。得られた上清 (200 μL)に0.2 Mリン酸緩衝液(リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムでpH 7.4に調整し、10 % (v/v) 重水、内部標準として3 mM 3-トリメチルシリル[2,2,3,3,-2 d4]プロピオン酸ナトリウム(TSP)(最終濃度: 1 mM)を含む)(400 μL)を加えて混和し、遠心分離(2,000 × g、4 ℃、10分間)をした。得られた上清(550 μL)をNMRチューブに移し、測定に用いた。
【0059】
I-3. NMR測定
核磁気共鳴装置(NMR)は、JNM-ECZ (500 MHz、日本電子株式会社、東京、昭島)を用いた。測定条件は、次のとおりである。測定温度:298 K、観測中心:4.665 ppm、測定範囲: 15 ppm、データポイント: 32,768、積算回数: 128、遅延時間: 5秒/スキャン, パルスフリップ角: 90°. また、軽水信号は、事前飽和法(pre-saturation)により消去した。
【0060】
I-4. 解析
測定した各1H-NMRスペクトルは、NMR Suite (ver. 7.4)(Chenomx, Canada Toronto)を用いて、尿中代謝物を推定し、内部標準試料(TSP)の濃度を基に定量し、代謝物濃度を求めた。なお、サンプルは膀胱穿刺によるスポット尿であるため、尿中クレアチニンで補正した値を用いた。
【0061】
I-5. 統計解析
群間の比較においては、対応のないStudentのt検定を行った。直交二乗回帰(Orthogonal partial least Square Regression: OPLSR)は、R (ver.3.6.1)およびRStudio(Ver.1.1.463)で解析を行った。なお、解析の前処理として、平均値=0、分散1に変換した正規化処理を行った。また、OPLSRのモデル式の検証は、Leave-one-outによって実施した。重回帰分析は、R (ver.3.4.1)およびEZR (ver.1.37)で解析を行った。
【0062】
II. 結果および考察
II-1. 被験対象ネコの背景情報
表1に被験対象ネコの腎機能に関する背景情報を記す。
【0063】
【0064】
1H-NMRにより、ネコの尿中代謝物として、70代謝物を推定した。そのうち、同定信頼度の高い40代謝物(表2および表4)を解析に採用した。表2では健常ネコ (n= 10)と慢性腎臓病(CKD+PKD)ネコ(n=32)の代謝物比較、また健常ネコに対して有意に変動している代謝物を表3に記載した。同様に健常ネコとPKDネコの比較については、表4および有意な変動代謝物を表5に記した。
【0065】
II-2. 健常ネコと腎臓病ネコを識別する尿中代謝物
慢性腎臓病ネコ(CKD+PKD)では、健常ネコと比較して、有意に尿中排泄量の低い代謝物として2-hydroxyisobutyrate, 2-phenylpropionate, 3-aminoisobutyrate, adenosine, glycine, trigonellineの6代謝物を認め、有意に尿中排泄量の高い代謝物としてdimethyl sulfone, dimethylamine, methanol, taurineの4代謝物を認めた。
【0066】
また、PKDにおいては、2-hydroxyisobutyrate, 2-phenylpropionate, 3-aminoisobutyrate, adenosine, glycine, trigonellineの6代謝物が有意に低く、一方、2-oxoglutarate, dimethyl sulfone, dimethylamine, indole-3-acetate, methanol, N-phenylacetylglycine, taurine, urocanateの8代謝物が有意に高い排泄であることを認めた。
【0067】
ヒトや齧歯類を対象にした先行研究(非特許文献2)においては、CKDではtryptophan, valine, 3-methyl histidine, glutamine, glycine, homocysteine, phenylalanine, trigonellineが、PKDでは、allantoin, 2-oxoglutaric acid, citrate, hippuric acid, malic acid, uric acid, fumaric acid, glutamic acid, glutamine, hypoxanthineが有意な変動をすることが報告されている。
【0068】
これらと比較をすると、ネコにおいてもtrigonellineは、種を超えて一致していた一方で、glycineや2-oxoglutarateでは、挙動の違いを認めた。また、本研究の中で見出された代謝物のうち、taurineは、慢性腎臓病(PKDおよびCKD+PKD)ネコでは健常ネコの10倍も排泄していた。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
II-3. 尿中代謝物から腎機能を予測するモデル式
つぎに、血漿クレアチニン値を尿中代謝物から予測することを試みた。現時点では、CKDグレードは血漿クレアチニン値を基に分類されているが、ネコの採血は暴れたりすることから、頻回で行うことは難しい。そこで、尿中代謝物から予測することができれば、飼育者によるセルフメディケーションにつながることが期待でき、またそれに合わせた療法食や総合栄養食を選択することができる。
【0075】
表1に記載のネコ全45頭データを使用して、健常から腎疾患ネコ全体を対象として、尿中代謝物から血漿クレアチニン値を予測すること、すなわち回帰モデルの構築を試みた。
【0076】
回帰分析とは説明変数X によって、応答変数Y を予測・説明するための方法である。その一種であるPLS 回帰分析は説明変数をそのまま用いずに、データが縮約された潜在変数を決定することにより、変数を減少させることが可能である。例えば、重回帰分析の場合、説明変数間に強い相関がある場合には、ある変数で予測した部分を別の変数で打ち消すなど、変数同士が互いに影響を及ぼし合う可能性が高いため、信頼性の高い予測モデルを作成することができない。この現象を多重共線性というが、PLS 回帰分析では潜在変数を用いることによって回帰に用いる変数を減少させることが可能なため、多重共線性のリスクを減少することができる。そのため、より多くの説明変数を用いた良好な予測モデルを作成することが可能であり、多変量の相関の解析に有用である(非特許文献3)。
【0077】
今回は、視覚的にも理解しやすい、統計空間を直交座標系に変換した、OPLSを用いて予測モデル式を構築した。客観的に予測モデルの質を評価するため、モデルの直線性の指標となるR2Y 値と予測力の指標となるQ2Y 値を用いて評価を行った.R2Y 値及びQ2Y 値は1 に近いほど良い予測モデルであり、具体的にはR2Y値が0.65 以上あればおおよその定量的予測が可能で、Q2Y値は0.5以上あれば良好な予測モデルとされている(非特許文献4)。
【0078】
また、VIP 値を用いることにより各説明変数の予測モデルの予測性能への貢献度を知ることが可能である。VIP 値は各説明変数について計算され、値が大きいほど予測モデルの予測性能に対する寄与が大きい。したがって、VIP 値を指標とすることで、血漿クレアチニン値に重要と考えられる尿中代謝物成分の推測が期待できる。
【0079】
全データ(45検体、40代謝物)を使用したモデル(
図1)では、R2Y=0.935, Q2Y=0.51で比較的良好なモデル構築できた。グラフでは縦軸(actual)は、実際の血漿クレアチニン値、横軸(predicted)は、尿中代謝物から推測された血漿クレアチニン値を示し、各サンプルについてプロットしている。予測値と実測値が一致すれば、y=x線上に乗ることになる。
【0080】
実用化を鑑みると、より変数が少なく算出しやすい予測モデルが求められる。先のモデルの40代謝物から、OPLSの予測能が維持されるVIP値上位であるMethanol, 2-Hydroxyisobutyrate, N-Acetylglycine, Tyrosine, indole-3-acetate, Formate, Urocanate, Trigonelline, Lactateの9代謝物を選択した。さらにp値を用いたステップワイズの変数選択(減少法)による重回帰分析を行った結果(
図2および表7)、最終的に5代謝物が残り、以下の回帰式を得た。
【0081】
【0082】
予測値と実測値の相関である重相関係数の2乗はR2=0.7806であり、血漿クレアチニン変動の約78%を説明できることがわかる。モデル全体の評価として、F検定の結果、P<0.001であり妥当性が有意に示された。また、分散拡大要因(VIF)の値は、各変数で5未満であり、多重共線性の可能性は低いと判断した。以上より、5つの尿中代謝物から血漿クレアチニンを予測する良好なモデル式を構築できたことが示された。
【0083】
したがって、これらの代謝物を対象にすることで、家庭で採尿したものをNMRや質量分析装置あるいは特異的な呈色反応を示す試験紙または、ペットシート等で腎機能を予測することができ、採血をしなくても、腎機能を予測することが可能となる。
【0084】
【0085】
III. DHA投与試験
III-1. 健常ネコおよびPKDネコに対するDHA高含有魚油投与
健常ネコ5頭およびPKDネコ5頭に、DHA高含有魚油(DHA-RS:マルハニチロ製) を夕方の給餌前に直接あるいは市販のペットフード(ペースト状)に混ぜて0.45 mL/kg (DHAとして250 mg/kg)を28日間投与した。PKDネコのうち3頭は、バソプレッシン受容体拮抗薬 3-4 mg/kg併用して投与した。摂取期間中は、自由飲水とし、朝と夕に健常猫には、一般総合栄養食を25g/頭、PKDネコには腎臓病用療法食20 g/頭を給餌した。摂取開始前と摂取28日後に、一般身体検査所見(体重、BCS、TPR、CRT、テントテスト)、血液検査(CBC、血液塗抹、生化学検査、a1AG、SDMA)、尿検査(尿比重、尿スティック、尿沈渣、UPC、FE、尿中NAG指数)を実施した。
【0086】
一般血液学検査、血液生化学検査は正常値を示した。腎機能に関する指標である血中SDMA(対称ジメチルアルギニン)、UPC(urine protein : creatinine)、近位尿細管損傷マーカー(尿中NAG指数)が全例において例外なく低下をして、全体として投与前後で有意な低下を認めた(表8)。
【0087】
III-2. 尿中タウリン
サンプル調製法、1H-NMR測定、および尿中代謝物の推定と定量については0[ネコ尿の解析]
I. 材料と方法を参照のこと。定量データはクレアチニンで補正した。統計解析は、R (ver.3.4.1)およびEZR (ver.1.37)を用い、反復測定分散分析(Repeated-measures ANOVA)およびTukey-Kramerの多重比較検定を行った。
【0088】
被験動物(健常およびPKD)とDHA投与(摂取開始時および摂取28日後)の2水準における反復測定分散分析の結果、交互作用が有意であったため、全群の多重比較を行ったところ、尿中taurineは、摂取開始前において健常ネコと比べてPKDネコで有意に高値を示したが、DHA投与により健常ネコと同等レベルまで減少した(表9)。taurineはネコにとっても、必須アミノ酸でもあることから、先のDHAの腎保護効果に加えて、taurine強化の飼料を作成することは有効であることを推察した。
【0089】
【0090】
【0091】
[CE-TOFMS によるネコ血漿のメタボローム解析]
I. 材料と方法
I-1. 対象
健常ネコ: n=5、多発性嚢胞腎(polycystic kidney disease: PKD)ネコ: n=5を供試した。
【0092】
I-2. 試料調製
採血は、EDTA-2Na入り真空採血管にて採取し、遠心分離(2,000 × g、4 ℃、10分間)を行い、血漿を得た。内部標準物質の濃度が20 μMとなるように調製した120 μLのメタノール溶液に、30 μLのネコ血漿を添加して撹拌した。これに90 μLのMilli-Q水を加えて撹拌し、限外ろ過チューブ(ウルトラフリーMC PLHCC, HMT, 遠心式フィルターユニット 5 kDa)に移し取った。これを遠心(9,100 × g、4 ℃、120分間)し、限外ろ過処理を行った。ろ液を乾固させ、再びMilli-Q水に溶解して測定に供した。
【0093】
I-3. CE-TOFMS測定
本試験ではカチオンモード、アニオンモードの測定を以下に示す条件で行った。
【0094】
陽イオン性代謝物質(カチオンモード)装置
Agilent CE-TOFMS system(Agilent Technologies社)6号機
Capillary: Fused silica capillary i.d. 50 μm × 80 cm
測定条件
Run buffer: Cation Buffer Solution (p/n : H3301-1001)
Rinse buffer: Cation Buffer Solution (p/n : H3301-1001)
Sample injection: Pressure injection 50 mbar, 10 sec
CE voltage: Positive, 30 kV
MS ionization: ESI Positive
MS capillary voltage: 4,000 V
MS scan range: m/z 50-1,000
Sheath liquid: HMT Sheath Liquid (p/n : H3301-1020)
【0095】
陰イオン性代謝物質(アニオンモード)装置
Agilent CE-TOFMS system(Agilent Technologies社)14号機 Capillary: Fused silica capillary i.d. 50 μm × 80 cm
測定条件
Run buffer: Anion Buffer Solution (p/n : I3302-1023)
Rinse buffer: Anion Buffer Solution (p/n : I3302-1023)
Sample injection: Pressure injection 50 mbar, 10 sec
CE voltage: Positive, 30 kV
MS ionization: ESI Negative
MS capillary voltage: 3,500 V
MS scan range: m/z 50-1,000
Sheath liquid: HMT Sheath Liquid (p/n : H3301-1020)
【0096】
I-4. 解析
CE-TOFMSで検出されたピークは、自動積分ソフトウェアのMasterHands ver.2.19.0.2(慶應義塾大学開発)を用いて、シグナル/ノイズ(S/N)比が 3 以上のピークを自動抽出し、質量電荷比(m/z)、ピーク面積値、泳動時間(Migration time: MT)を得た。検出されたピークに対してm/zとMTの値をもとに代謝物を推定し、内部標準試料を基に相対面積値を算出した。群間の比較において、対応のないStudentのt検定を行った。
【0097】
II. 結果
II-1. 被験対象ネコの背景情報
表10に被験対象ネコの腎機能に関する背景情報を記す。
【0098】
【0099】
II-2. 健常ネコと腎臓病ネコを識別する血漿中代謝物(相対面積値)
ネコ血漿についてCE-TOFMSによるメタボローム解析を行った。HMT代謝物質ライブラリ及びKnown-Unknownライブラリ(ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ、山形)に登録された物質のm/z及びMTの値から248(カチオン148, アニオン100)ピークに候補化合物が推定された。推定された248代謝物の内、健常ネコと比較してPKDネコにおいて有意に高い代謝物として1-Methyladenosine, 2-Aminobutyric acid, 2-Hydroxybutyric acid, 2-Hydroxyoctanoic acid, 3-Methoxytyrosine, 3-Ureidoisobutyric acid, 3-Ureidopropionic acid, 7-Methylguanine, ADMA, Allantoic acid, Argininosuccinic acid, Ascorbate 2-sulfate, Carnosine, cis-Aconitic acid, Citrulline, Cystathionine, Ethanolamine phosphate, Gluconic acid, Gluconolactone, Gly-Asp, Indole-3-acetic acid, Isethionic acid, Isocitric acid, Isovalerylcarnitine, Lys, N-Acetylaspartic acid, N-Acetylglycine, N-Acetylputrescine, N1-Methylguanosine, N6,N6,N6-Trimethyllysine, Nalidixic acid, Phenaceturic acid, Putrescine, Pyridoxal, SDMA, Threonic acid, Uridineの37代謝物を認め (表11)、有意に低値を示した代謝物として、5-Hydroxylysine, 5-Oxo-2-tetrahydrofurancarboxylic acid, Asn, Azelaic acid, Carboxymethyllysine, Cys, Cystine, Glucaric acid, Hydroxyproline, Methionine sulfoxide, N,N-Dimethylglycine, N6-Acetyllysine, Ornithine, Pelargonic acid, Pimelic acid, Pipecolic acid, Pro, Stachydrine, Sulfotyrosine, Taurocholic acid, Terephthalic acid, Thr, Trigonelline, Urea, γ-Glu-Ornithineの25代謝物を認めた(表12)。
【0100】
ヒトや齧歯類を対象とした先行研究においては、CKDではADMA, Citrulline, Lysine, N,N-Dimethylglycine, Proline, SDMA, Threonic acid, Ureaが増加し、Ornithine, Threonine, Trigonellineが減少することが報告されている (表13)。これらと比較をすると、ネコにおいても、ADMA, Citrulline, Lysine, Ornithine, SDMA, Threonine, Threonic acid, Trigonellineの挙動は、種を超えて一致していた一方で、N,N-Dimethylglycine, Proline, Ureaは、挙動の違いを認めた。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
III. DHA投与試験
III-1. 健常ネコおよびPKDネコに対するDHA高含有魚油投与
健常ネコ5頭およびPKDネコ5頭に、DHA高含有魚油(DHA-RS:マルハニチロ製) を夕方の給餌前に直接あるいは市販のペットフード(ペースト状)に混ぜて0.45 mL/kg (DHAとして250 mg/kg)を28日間投与した。PKDネコのうち3頭は、バソプレッシン受容体拮抗薬 3-4 mg/kg併用して投与した。摂取期間中は、自由飲水とし、朝と夕に健常ネコには、一般総合栄養食を25g/頭、PKDネコには腎臓病用療法食20 g/頭を給餌した。摂取開始前と摂取28日後に、一般身体検査所見(体重、BCS、TPR、CRT、テントテスト)、血液検査(CBC、血液塗抹、生化学検査、a1AG、SDMA)、尿検査(尿比重、尿スティック、尿沈渣、UPC、FE、尿中NAG指数)を実施した。
【0105】
一般血液学検査、血液生化学検査は正常値を示した。
腎機能に関する指標である血中SDMA(対称ジメチルアルギニン)、UPC (urine protein : creatinine)、近位尿細管損傷マーカー(尿中NAG指数)が全例において例外なく低下をして、全体として投与前後で有意な低下を認めた(表14)。
【0106】
III-2. 血漿中代謝物(相対面積値)
サンプル調製法、CE-TOFMS測定、および血漿中代謝物の推定と半定量については0[ネコ尿の解析]
I. 材料と方法を参照のこと。統計解析は、R (ver.3.4.1)およびEZR (ver.1.37)を用い、反復測定分散分析(Repeated-measures ANOVA)およびTukey-Kramerの多重比較検定を行った。
【0107】
被験動物(健常およびPKD)とDHA投与(摂取開始時および摂取28日後)の2水準における反復測定分散分析の結果、交互作用が有意であった代謝物を抽出し、全群の多重比較を行ったところ、血漿中ADMA, Isethionic acid, SDMA, 2-Aminobutyric acid, 2-Hydroxybutyric acid, 3-Ureidopropionic acidは、摂取開始前において健常ネコと比べてPKDネコで有意に高値を示したが、DHA投与により健常ネコと同等レベルまで減少した(表15)。逆に、血漿中Prolineおよびγ-Glu-Ornithineは、摂取開始前において健常ネコと比べてPKDネコで有意に低値を示したが、DHA投与により健常ネコと同等レベルまで増加した(表16)。従来の腎機能の指標であるSDMAに加えて、上記7代謝物は、新規の腎機能指標として期待できる。また、Prolineおよびγ-Glu-Ornithineを強化した飼料を作成することは有効であることを推察した。
【0108】
【0109】
【0110】
IV. 結果(定量値)
IV-1. 健常ネコと腎臓病ネコを識別する血漿中代謝物(相対面積値)
対象代謝化合物について定量解析を行った。検量線は内部標準物質により補正したピーク面積を用い、各物質について 100 μM の一点検量(内部標準物質 200 μM)として濃度を算出した。
【0111】
対象代謝化合物のうち、検出された 153(カチオン 94, アニオン 59)物質のピークについて定量値を算出した。推定された153代謝物の内、健常ネコと比較してPKDネコにおいて有意に高い代謝物として、1-Methyladenosine, 2-Aminobutyric acid, 2-Hydroxybutyric acid, 3-Ureidopropionic acid, 7-Methylguanine, Allantoic acid, Ascorbate 2-sulfate, Carnosine, cis-Aconitic acid, Citrulline, Cystathionine, Ethanolamine phosphate, Gluconic acid, Gly-Asp, Indole-3-acetic acid, Isethionic acid, Isocitric acid, Lys, N-Acetylaspartic acid, N-Acetylglycine, N-Acetylputrescine, Phenaceturic acid, Putrescine, Pyridoxal, Threonic acid, Uridineの26代謝物を認め (表16)、有意に低値を示した代謝物として、5-Hydroxylysine, Asn, Azelaic acid, Cys, Cystine, Hydroxyproline, Methionine sulfoxide, N,N-Dimethylglycine, N6-Acetyllysine, Ornithine, Pelargonic acid, Pimelic acid, Pipecolic acid, Pro, Thr, Trigonelline, Ureaの17代謝物を認めた(表17)。
【0112】
【0113】
【0114】
IV-2. DHA投与試験(定量値)
被験動物(健常およびPKD)とDHA投与(摂取開始時および摂取28日後)2水準における反復測定分散分析の結果、交互作用が有意であった代謝物を抽出し、全群の多重比較を行ったところ、血漿中Isethionic acid, 2-Aminobutyric acid, 2-Hydroxybutyric acid, 3-Ureidopropionic acidは、摂取開始前において健常ネコと比べてPKDネコで有意に高値を示したが、DHA投与により健常ネコと同等レベルまで減少した(表18)。逆に、血漿中Prolineは、摂取開始前において健常ネコと比べてPKDネコで有意に低値を示したが、DHA投与により健常ネコと同等レベルまで増加した(表18)。従来の腎機能の指標であるSDMAに加えて、上記4代謝物は、新規の腎機能指標として期待できる。また、Prolineを強化した飼料を作成することは有効であることを推察した。
【0115】
【0116】
[製造例:ネコ用総合栄養食]
まぐろ 10.00g
大豆タンパク 1.00g
フィッシュエキス 1.00g
酵母エキス 0.30g
植物性油脂 1.30g
魚油 1.00g
でん粉類 0.50g
増粘剤 0.10g
ビタミン類・ミネラル類 0.70g
アミノ酸類(タウリン)0.03g
水 24.07g
合 計 40.0g
【0117】
上記の組成で配合したものを容器に充填し、レトルト殺菌し、乾物換算でタウリン0.3%を含むネコ用総合栄養食を製造する。
【0118】
[実施例の項で引用した文献]
非特許文献2:Abbiss H, Maker GL, Trengove RD. Metabolomics Approaches for the Diagnosis and Understanding of Kidney Diseases. Metabolites. 2019 Feb 14;9(2):34. doi: 10.3390/metabo9020034. PMID: 30769897; PMCID: PMC6410198.
非特許文献3:Jonsson, P., Gullberg, J., Nordstrom, A., Kusano, M., Kowalczyk, M., Sjostrom, M.,Moritz, T.: A strategy for identifying differences in large series of metabolomic samples analyzed by GC/MS, Anal. Chem., 2004, 76, 1738-1745.
非特許文献4:Eriksson, L. and Johansson, E.: Multi- and megavariate data analysis principles and applications, p. 43-70, 94-97, 105-107, 489-491, Umetrics AB, Umea (2001).