(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151378
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】クロム鉄鉱石の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/32 20060101AFI20231005BHJP
B03B 5/28 20060101ALI20231005BHJP
B03B 5/52 20060101ALI20231005BHJP
B03C 1/00 20060101ALI20231005BHJP
B03C 1/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C22B34/32
B03B5/28 B
B03B5/28 Z
B03B5/52
B03C1/00 A
B03C1/00 B
B03C1/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060962
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小原 剛
(72)【発明者】
【氏名】樋口 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】榎本 学
【テーマコード(参考)】
4D071
4K001
【Fターム(参考)】
4D071AA53
4D071AA54
4D071AA62
4D071CA01
4D071DA08
4K001AA08
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA02
4K001CA03
4K001CA04
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】複数段階の物理的な分離処理によって、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、クロムの分離回収率を安定的に向上させることを目的とする。
【解決手段】スパイラルコンセントレーターを用いて、ニッケル酸化鉱石スラリーから、クロム成分の濃縮が促進された高クロム品位スラリーを回収する、比重分離工程S23を含んでなり、比重分離工程S23に投入するスラリーの比重を1.3以上1.5以下に調整することによって、高クロム品位スラリーのCr/Fe比を1.2以上に維持する、クロム鉄鉱石の回収方法とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分離工程を段階的に行うことによって、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収するクロム鉄鉱石の回収方法であって、
スパイラルコンセントレーターを用いて、前記ニッケル酸化鉱石スラリーから、クロム成分の濃縮が促進された高クロム品位スラリーを回収する、比重分離工程を含んでなり、
前記比重分離工程に投入するスラリーの比重を1.3以上1.5以下に調整することによって、前記高クロム品位スラリーのCr/Fe比を1.2以上に維持する、
クロム鉄鉱石の回収方法。
【請求項2】
前記比重分離工程に先行する前記分離工程として沈降分離工程が行われるクロム鉄鉱石の回収方法であって、
前記沈降分離工程において、前記比重分離工程に投入するスラリーの比重が1.3以上1.5以下となるようにスラリーの比重を調整する処理を行う、
請求項1に記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
【請求項3】
前記スパイラルコンセントレーターから回収される前記高クロム品位スラリーは、粒度45μm未満の粒子の割合が10%未満である、
請求項1又は2に記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
【請求項4】
前記複数の分離工程として、ハイドロサイクロンを用いた分級工程、デンシティセパレーターを用いた沈降分離工程、前記スパイラルコンセントレーターを用いた前記比重分離工程、及び、磁力選鉱工程を行う、
請求項1から3の何れかに記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム鉄鉱石の回収方法に関する。本発明は、より詳しくは、高圧酸浸出法によりニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収する湿式製錬方法において浸出処理に供する鉱石スラリーから、クロムを含有する鉄鉱石を分離回収する、クロム鉄鉱石の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石炭、鉄、銅、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン等の鉱物資源において、採掘権の寡占化が進行し、原料コストが大幅に上昇している。そのため、金属製錬分野におけるコスト低減のための施策として、従来、コスト的に不利であるため対象にならなかった低品位原料を使用するための技術開発が行われている。
【0003】
ニッケル製錬の現場においても、ニッケル酸化鉱石を硫酸で加圧下に酸浸出する高圧酸浸出(High Pressure Acid Leach)法に基づく湿式製錬方法のプラント内で、湿式プロセスで処理される鉱石スラリーからクロムを分離回収するための各種の方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーに対して、分級処理と、比重分離処理を段階的に施すことにより、鉱石スラリーからより効率的にクロムを分離除去する方法が開示されている。しかしながら、原料コストの高騰の問題は益々逼迫しており、鉱石スラリーからのクロムの分離回収率を更に安定的に向上させることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みて提案されたものであり、複数段階の物理的な分離処理によって、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、クロムの分離回収率を安定的に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鉱石スラリーからクロムを分離する上記の工程を行う際に、複数の工程のうち、下流側の工程として行われる、比重分離工程における品質管理の指標として、この工程に投入されるスラリーの比重を、回収スラリー中のCr/Fe比を一定以上に維持できるように最適化することにより、この工程を含む複数段階の物理的な分離処理を経て最終的に回収されるクロム鉄鉱石におけるクロム品位を安定的に向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には、以下のものを提供する。
【0008】
(1) 複数の分離工程を段階的に行うことによって、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収するクロム鉄鉱石の回収方法であって、スパイラルコンセントレーターを用いて、前記ニッケル酸化鉱石スラリーから、クロム成分の濃縮が促進された高クロム品位スラリーを回収する、比重分離工程を含んでなり、前記比重分離工程に投入するスラリーの比重を1.3以上1.5以下に調整することによって、前記高クロム品位スラリーのCr/Fe比を1.2以上に維持する、クロム鉄鉱石の回収方法。
【0009】
(1)のクロム鉄鉱石の回収方法によれば、複数段階の物理的な分離処理によって、ニッケル酸化鉱石と水との混合物であるニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、クロムの分離回収率を安定的に向上させることができる。又、併せて、クロム成分を含有する鉱石スラリーによる配管、ポンプ等の設備の磨耗を抑制して耐久性を向上させ、最終的に系外に排出される残渣の量を低減し、環境リスクを抑えることもできる。
【0010】
(2) 前記比重分離工程に先行する前記分離工程として沈降分離工程が行われるクロム鉄鉱石の回収方法であって、前記沈降分離工程において、前記比重分離工程に投入するスラリーの比重が1.3以上1.5以下となるようにスラリーの比重を調整する処理を行う、(1)に記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
【0011】
(2)のクロム鉄鉱石の回収方法によれば、比重分離工程に投入するスラリーの比重を更に上流側の工程でのスラリー比重の最適化と併せて行うことにより、クロムの分離回収率をより安定的に向上させることができる。
【0012】
(3) 前記スパイラルコンセントレーターから回収される前記高クロム品位スラリーは、粒度45μm未満の粒子の割合が10%未満である、(1)又は(2)に記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
【0013】
(3)のクロム鉄鉱石の回収方法によれば、段階的な分離を引き続き行う更に下流側の工程における分離効率を確実に良好な水準に維持できるようになり、クロムの分離回収率をより安定的に向上させることができる。
【0014】
(4) 前記複数の分離工程として、ハイドロサイクロンを用いた分級工程、デンシティセパレーターを用いた沈降分離工程、前記スパイラルコンセントレーターを用いた前記比重分離工程、及び、磁力選鉱工程を行う、(1)又は(2)に記載のクロム鉄鉱石の回収方法。
【0015】
(4)のクロム鉄鉱石の回収方法によれば、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、スパイラルコンセントレーターを用いた比重分離工程で用いるスパイラルコンセントレーターの運転条件を最適化することによって、全体工程の処理効率も好ましい水準に維持することができ、これにより、クロムの分離回収率を安定的に向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数段階の物理的な分離処理によって、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、クロムの分離回収率を安定的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを回収する湿式製錬プロセスの流れを示す工程図である。
【
図2】本発明のクロム鉄鉱石の回収方法の流れを示す工程図である。
【
図3】本発明のクロム鉄鉱石の回収方法に用いることができるスパイラルコンセントレーターの基本構成を示す模式図である。
【
図4】
図3のスパイラルコンセントレーターのスラリー流路末端部に設けられるスラリー分離柵の基本構成を示す模式図である。
【
図5】本発明のクロム鉄鉱石の回収方法において沈降分離工程に用いることができるデンシティセパレーター基本構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」について、具体的な実施形態を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0019】
<ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」は、ニッケル酸化鉱石を原料とした湿式製錬プロセスの部分プロセスとして実行することができる。この「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」は、
図1に示す通り、鉱石処理工程S1、鉱石スラリー処理工程S2、浸出工程S3、固液分離工程S4、中和工程S5、亜鉛除去工程S6、硫化工程S7、及び、最終中和工程S8を、含んでなる全体プロセスである。本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」は、このような全体プロセスの流れの中では、鉱石スラリー処理工程S2として実施される部分プロセスでもある。以下、先ずは、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の概要について説明する。
【0020】
[鉱石処理工程]
鉱石処理工程S1は、ニッケル酸化鉱石を水と混合し、ニッケル酸化鉱石スラリーとする工程である。尚、本明細書においては、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーのことを、「ニッケル酸化鉱石スラリー」と言う。又、「ニッケル酸化鉱石スラリー」には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、ニッケル酸化鉱石及び水以外の成分が含有されていてもよい。
【0021】
[鉱石スラリー処理工程]
鉱石スラリー処理工程S2は、ニッケル酸化鉱石スラリーからの異物除去及び鉱石粒度調整を行う工程である。そして、本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」は、
図1に示す通り、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の全体プロセス内において、浸出工程S3に供する鉱石スラリーに対する前処理として行われる鉱石スラリー処理工程S2において、処理対象物である鉱石スラリーから、クロムを分離回収する処理(クロム鉄鉱石回収工程)として実行することができるプロセスである。クロム鉄鉱石回収工程S2としての本工程、即ち、本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」の詳細については別途後述する。
【0022】
[浸出工程]
浸出工程S3は、オートクレーブ等を用いて、鉱石スラリーからニッケル、コバルト等の有価成分を硫酸で浸出して浸出スラリーを得る工程である。
【0023】
[固液分離工程]
固液分離工程S4は、多段のシックナー等を用いて、上記の浸出スラリーを、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣スラリーとに分離する工程である。
【0024】
[中和工程]
中和工程S5は、上記の浸出液を、3価の鉄水酸化物を主成分とするニッケルを含む母液と中和澱物スラリーとに分離する工程である。
【0025】
[亜鉛除去工程]
亜鉛除去工程S6は、上記の母液に硫化剤を添加して、ニッケル回収用の母液と硫化亜鉛を含む硫化亜鉛澱物とに分離する工程である。
【0026】
[硫化工程]
硫化工程S7は、ニッケル回収用の上記母液に硫化剤を添加して、ニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(Ni、Co混合硫化物)と貧液とに分離する工程である。尚、貧液は、固液分離工程S4における浸出残渣の洗浄水として使用される。
【0027】
[最終中和工程]
最終中和工程S8は、固液分離工程S4で分離された上記の浸出残渣スラリーをpH8以上pH9以下程度に中和して最終中和残渣とする工程である。この最終中和残渣は、テーリングダムに貯留される。
【0028】
<クロム鉄鉱石の回収方法>
本発明のクロム鉄鉱石の回収方法(以下、単に「クロム鉄鉱石の回収方法」とも言う)は、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する方法である。この方法は、上述した通り、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の流れの中で、その部分工程である鉱石スラリー処理工程S2の実施時に、並行してクロム鉄鉱石を回収するクロム鉄鉱石回収工程S2として実施することができる工程である。
【0029】
ここで、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の原料であるニッケル酸化鉱石は、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。このラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8質量%以上2.5質量%以下であり、ニッケルは、水酸化物又は含水ケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有されている。又、鉄の含有量は、10質量%以上50質量%以下であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄が含水ケイ苦土鉱物等に含有される。珪酸分は、石英、クリストバライト(無定形シリカ)等のシリカ鉱物及び含水ケイ苦土鉱物に含有されている。更に、クロム分の多くは、鉄を含むクロマイト鉱物として1質量%以上5質量%以下含有されている。
【0030】
表1には、約2mm以下の粒度に破砕して得たニッケル酸化鉱石中の鉱石粒度分布(重量%)と各粒度区分での各成分の固形分割合(%)の一例が示されている。同表に示されている通り、粒度45μm以上の粗粒中には、クロム、珪素、マグネシウム等が満遍なく存在している。一方、粒度45μm以下の細粒部には、鉄が濃縮されている。このように、粒度45μm未満の細粒(以下「細粒」と言う)中には、ゲーサイトが主体でニッケルが多く含まれているので、主としてニッケル酸化鉱石中の細粒の部分がニッケル及びコバルト回収の工程の原料となる。そして、主として粒度45μm以上の粗粒(以下「粗粒」と言う)の部分が、クロム鉄鉱石回収の原料となる。尚、クロム鉄鉱石の回収においては、分離回収した後に資源化が容易となるように、通常、酸化クロム(Cr2O3)品位を41質量%以上にまで高めることが好ましいとされている。
【0031】
【0032】
上述した通り、ニッケル酸化鉱石からのクロム鉄鉱石の回収は、ニッケル酸化鉱石スラリーから、可能な限りの分離効率で粒度45μm以上の粗粒を分離して、当該粗粒中のクロム成分を段階的に濃縮する処理によって行われている。より具体的には、
図2に示す通り、このクロム鉄鉱石の回収は、ニッケル酸化鉱石スラリーを分級する分級工程S21、分級工程S21において分離回収されたオーバーサイズの鉱石スラリーを沈降濃縮する沈降分離工程S22、比重分離工程S23、磁力選鉱工程S24の4つの物理分離工程が段階的に行われる回収方法として広く行われている。
【0033】
ここで、上述の通り、ニッケル酸化鉱石スラリー中において、クロムは鉄を含むクロマイト鉱物として存在するので、回収されるクロム鉄鉱石に一定以上の鉄分が含まれることは回避し得ない。しかしながら、クロム原料として出荷される最終製品の段階においてCr/Fe比が少なくとも1.2を超えていることが要求され、これを満たさない場合には、一般にクロム原料としての最低限の製品価値を維持することが難しくなる。又、クロム原料として出荷される最終製品の段階におけるCr/Fe比は、一般的には1.4以上の比率であることがより好ましいとされている。
【0034】
そして、本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」は、上記の各部分工程のうち、比重分離工程S23における品質管理の指標として、この工程で回収されるスラリー中の細粒の割合及びCr/Fe比に着目し、この比重分離工程S23を行うスパイラルコンセントレーターに投入するスラリーの比重を特定範囲に限定することにより、この比重分離工程S23で粗粒側に回収される高クロム品位スラリーについて、混入する細粒の割合を10%未満に抑えて、Cr/Fe比を、少なくとも1.2以上の任意の比率において、安定的に維持することが可能であることを見出した。本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」は、このようなスラリー比重の最適化により、複数段階の物理的な分離処理を経て最終的に回収されるクロム鉄鉱石におけるCr/Fe比を、確実に1.2を超える任意の比率とすることができるようにした点を、主たる特徴とするプロセスである。尚、スパイラルコンセントレーターから回収されるスラリーのCr/Fe比は、蛍光X線分析法、又は、ICP発光分析法を用いて分析を行うことが可能であり、この分析結果を上記のスラリー比重の調整にフィードバックすることによって本発明の効果を安定的に享受することができる。
【0035】
「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の流れの中で、上記特徴を備える本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」、即ち、「クロム鉄鉱石回収工程S2(鉱石スラリー処理工程S2)」を実施することによって、ニッケル酸化鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離除去する工程において、クロムの分離回収率を安定的に良好な水準に維持することができる。又、併せて、鉱石処理工程S1から産出するクロマイトを含む鉱石スラリーによる配管、ポンプ等の設備の磨耗を抑制し、耐久性を向上させ、最終中和工程S8から産出する最終中和残渣量を低減し、廃棄される浸出残渣、中和澱物等を貯留するテーリングダムの容量の圧縮によりコスト及び環境リスクを抑えることもできる。
【0036】
[分級工程]
分級工程S21は、ニッケル酸化鉱石スラリーに含有される粒子の粒度差によって当該鉱石スラリーを分級する工程である。この工程では、オーバーフロー(O/F)としてゲーサイトを含む混合物を分離し、アンダーフロー(U/F)としてクロム鉄鉱石(クロマイト)を含む混合物を分離する工程である。本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」においては、この工程は、ハイドロサイクロンを用いて行うことが好ましい。
【0037】
ここで、「ハイドロサイクロン」とは、遠心力を利用してスラリー中に分散している固体粒子を、主に粒度の違いによって分級することができる公知の装置である(例えば、特開昭55-1047666号公報参照)。一般に、クロマイトの比重はゲーサイト等の水酸化鉄のそれよりも大きいことが知られており、粗大で比重が大きいクロマイトと微細で比重が小さいゲーサイトとは、「ハイドロサイクロン」により効率良く分離することができる。
【0038】
分級工程S21を行うハイドロサイクロンへの鉱石スラリーの投入圧力は、0.17MPa以上0.22MPa以下とすることが好ましい。又、併せて、ハイドロサイクロンのスピゴット(アンダーフロー排出口)のスラリー排出口の開口部の直径である「スピゴット径」を30mm以上45mm以下とすることが好ましい。尚、ハイドロサイクロンに供する鉱石スラリーのスラリー濃度については特に限定されないが、分離処理に必要な水量を抑えながら、尚且つ、下流側の工程での沈降濃縮を容易にするために、10重量%以上30重量%以下とすることが好ましい。
【0039】
[沈降分離工程]
沈降分離工程S22は、分級工程S21にてアンダーフロー(U/F)として分離したオーバーサイズのクロム鉄鉱石を含む混合物を比重分離処理で更に分離して、クロム成分を更に濃縮させた混合物を得る工程である。この工程は、デンシティセパレーターを用いて行うことが好ましい。
【0040】
ここで、「デンシティセパレーター」とは、装置上部よりスラリーが供給され、装置下部から注入される注入水(ティーターウォーター(TW))の上昇流によってスラリーの比重分離が行われる公知の装置である(例えば、特開2017-600930号公報参照)。
【0041】
デンシティセパレーターを用いて沈降分離工程S22を行う際には、クロム成分を濃縮させた混合物である粗粒が、アンダーフロー(U/F)としてタンクの下部側から排出されて、次工程に送液される。この沈降分離工程S22に用いるデンシティセパレーターのタンク内の分離対象混合物であるスラリーの比重は1.3以上1.5以下とすることが好ましい。又、この沈降分離工程S22においては、スラリーの比重を上記範囲に限定した上で、併せて、デンシティセパレーター内に上昇流を作り出す上述のティーターウォーター(TW)の流量を3.0[m3・h-1/m2]以上10.0[m3・h-1/m2]以下とすることが好ましい。
【0042】
又、本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」においては、比重分離工程S23に先行する前記分離工程として行われる沈降分離工程S22において、比重分離工程S23に投入するスラリーの比重を調整する処理を行うことができる。比重の異なるスラリーの混合や、ティーターウォーター(TW)の流量の調整等によって、デンシティセパレーターのタンク内の分離対象混合物であるスラリーの比重を上述のように1.3以上1.5以下としておくことにより、比重分離工程S23に投入するスラリーの比重も、本発明における最適範囲である、1.3以上1.5以下の範囲に維持することができる。
【0043】
[比重分離工程]
比重分離工程S23は、スラリー中の鉱石を重力(粒子の比重)差によって分離し、比重の大きな粒子を含む部分を濃縮して、クロム成分の濃縮が更に促進された高クロム品位スラリーを分離して回収する工程である。この工程は、「スパイラルコンセントレーター」と称される比重選鉱装置を用いて行う。
【0044】
ここで、「スパイラルコンセントレーター」とは、
図3に示すスパイラルコンセントレーター1のように、螺旋状の傾斜滑り台であるスラリー流路11を備える分離装置である。スラリー流路11の末端近傍域であるスラリー流路末端部12には、
図3及び4に示すようにスラリー分離柵121、122が設置されていて、これらの2つの柵により、
図4に示すように、螺旋状のスラリー流路11の内側から順に、濃縮物(Conc)流域帯123、中間物(Mids)流域帯124、テーリング(Tail)流域帯125の3つのスラリーの回収路が形成されている。尚、スラリー分離柵121、122はスラリーの流れ方向に直交する方向に沿ってその設置位置を可変的に調整することが可能な構造で設置されている。尚、比重分離工程S23を行うスパイラルコンセントレーター1の濃縮物流域帯123の流域幅(
図4におけるw)は、スラリー流路の全幅(
図4におけるW)は、1%以上24%以下の範囲で適宜最適化することができる。上記比率(%)を1%以上とすることで、濃縮物流域帯123での最小限の回収量を確保することがしやすくなり、又、同比率(%)を24%以下とすることで、濃縮物流域帯123への細粒の混入割合は許容範囲内に維持しやすくなる。
【0045】
スパイラルコンセントレーター1に投入されたスラリー中に混在する比重の異なる鉱物粒子は、螺旋状の傾斜滑り台であるスラリー流路11を流れるうちに、重力差によって分離され、粗くて重いクロム鉄鉱石(Conc)は、最も内側の濃縮物(Conc)流域帯123から、クロム鉄鉱石の他にシリカ鉱物やケイ苦土鉱石からなる軽くて粗い脈石(Mids)は、中間物(Mids)流域帯124から、そして、ゲーサイトや脈石、多くの水(Tail)は、最も外側のテーリング(Tail)流域帯125から回収される。濃縮物流域帯123から回収されたクロム鉄鉱石(Conc)は、高品位Crスラリーとし次工程へ送液される。尚、テーリング(Tail)は浸出工程へ送液される。中間物(Mids)は浸出工程に送液されるか、或いは、スパイラルコンセントレーターによる分離処理を繰返し行ってもよい。
【0046】
本発明の「クロム鉄鉱石の回収方法」においては、比重分離工程S23において、上述のスパイラルコンセントレーター1に投入するスラリーの比重を、1.3以上1.5以下に調整することで、スパイラルコンセントレーター1から回収される高クロム品位スラリー中の細粒割合を10%未満に抑えて、当該スラリーのCr/Fe比を1.2以上に維持することができる。これにより、複数段階の物理的な分離処理を経て最終的に回収されるクロム鉄鉱石におけるCr/Fe比を、確実に1.2を超える任意の比率とすることができる。後段の実施例において示す通り、スパイラルコンセントレーター1に投入するスラリーの比重を1.3以上に維持することによって、濃縮物流域帯123から回収されるスラリーの細粒割合を10%未満に抑えることができる。一方、この比重が1.5を超えるとポンプや配管の損傷が多くなるだけでなく、スパイラルコンセントレーター1の濃縮物流域帯123で詰まりが発生する可能性がある。
【0047】
上述した通り、スパイラルコンセントレーターから回収されるスラリーのCr/Fe比について、適宜、蛍光X線分析法、又は、ICP発光分析法を用いた分析を行い、この分析結果を、スパイラルコンセントレーター1に投入するスラリーの比重の調整に適切にフィードバックすることによって本発明の様々な効果を安定的に享受することもできる。
【0048】
[磁力選鉱工程]
磁力選鉱工程S24は、スパイラルコンセントレーターでクロム成分が濃縮されたクロム鉄鉱石中の磁鉄鉱石を、磁気分離処理により除去して鉄分を下げる工程である。磁鉄鉱石(Mag)が取り除かれるので、非着磁物(Non-Mag)が製品となる。この工程によりスパイラルコンセントレーターで回収された「Conc」のCr2O3品位が更に向上する。
【0049】
上記の磁気分離処理には、低磁界磁力選鉱機を好ましく用いることができる。又、磁気分離処理を行う際の磁界強度は特に限定されないが、一例として、200[Oe]以上2000[Oe]以下の範囲であることが好ましい。
【実施例0050】
以下に、実施例により本発明を更に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例及び比較例では、分級工程、沈降分離工程、比重分離処理工程、及び、磁力選鉱工程の4つの分離工程を段階的に行うことによってニッケル酸化鉱石スラリーからクロムを分離回収する操業を試験的に行った。具体的には、分級工程及び沈降分離工程を一定の条件下で行い、これに引続き行う比重分離工程において、この工程を行うスパイラルコンセントレーターのスラリー流路末端部に設けられるスラリー分離柵の位置を変動させることによって、この工程で回収されるスラリーのCr/Fe比の変動を測定した。尚、金属の分析には蛍光X線分析法、又は、ICP発光分析法を用いて分析を行った。
【0051】
(分級工程)
鉱石スラリー濃度は15質量%、スラリーの温度を常温とし、ハイドロサイクロン(ソルターサイクロン社製、SC1030-P)を用いて分級処理を行った。ハイドロサイクロンの運転圧力を0.21MPa、スピゴットサイズを30mmにして細粒割合が45%のスラリーを得た。
【0052】
(沈降分離工程)
上記の分級工程で得たスラリーをデンシティセパレーター(CLASSIFICATION&FLOTATION SYSTEM,INC社製)に投入して沈降分離処理を行った。
【0053】
(比重分離処理工程)
上記の沈降分離工程で得たスラリーを、スパイラルコンセントレーター(OUTOTEC社製、MC7000)に投入し、比重分離処理を行った。各回の処理の実施毎に、投入するスラリーの比重を、下記表2に記す通り、比重1.2~1.5の範囲で変動させて複数回実施した。各回の実施時におけるスパイラルコンセントレーターの内側のスラリー分離柵(
図4におけるスラリー分離柵121)の位置は、濃縮物流域帯(
図4における濃縮物流域帯123)のスラリー流路の全幅に対する比率が24%となるように固定して各回の処理を行った。
【0054】
(磁力選鉱工程)
上記の比重分離処理工程において濃縮物流域帯から得たスラリーを1500Oeの磁力選鉱機で鉄分を取り除き最終製品となるクロム鉄鉱石を得た。
【0055】
表2には、比重分離処理工程を行ったスパイラルコンセントレーターに投入するスラリーの比重を変動させて行なった各回の比重分離工程の実施後の濃縮物流域帯から回収されたスラリー中の細粒(粒度45μm未満の粒子)の存在割合(%)及びCr/Fe比を記した。
【0056】
又、同じく表2には、比重分離処理工程を行った上記のスパイラルコンセントレーターから回収された各スラリーを用いて、磁力選鉱工程を行った後の最終製品となるクロム鉄鉱石の成分中のCr/Fe比も併せて記した。
【0057】
【0058】
スパイラルコンセントレーターにおいては、表2に示す結果から分かる通り、投入するスラリー比重を小さくするとCr濃度が低下してFe濃度は増加し、Cr/Fe比も低下してしまう。しかし、比重分離工程において回収されるスラリーのCr/Fe比は、投入スラリーの比重の調整によって、調整することができる。表2に示す通り、スラリー比重が1.3未満であるときは、Cr/Fe比が1.1(最終製品となるクロム鉄鉱石で1.1相当)と低いのに対し、この比重を1.3以上にすることによってCr/Fe比を1.2以上(最終製品となるクロム鉄鉱石で1.3以上)にすることができている。従って、本発明によれば、スラリー比重の調整作業のみによって、スパイラルコンセントレーターにおいて分離回収される濃縮物のCr/Fe比を、1.2以上に維持することにより、複数段階の物理的な分離処理によって、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーからクロム鉄鉱石を分離回収する工程において、クロムの分離回収率を安定的に向上させることができる。