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特開2023-151399有機物の回収方法、及び、有機物の回収装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151399
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】有機物の回収方法、及び、有機物の回収装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 11/02 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B01D11/02 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060988
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 潔
【テーマコード(参考)】
4D056
【Fターム(参考)】
4D056AB17
4D056AC21
4D056BA11
4D056CA15
4D056CA21
4D056CA22
(57)【要約】
【課題】 エネルギー消費を抑制しながら、しかも、炭素の排出量を抑制して、有機物(例えば、油)を含有する物質(バイオマス)から有機物を回収する。
【解決手段】酸化される(燃焼される)とCOになる炭素を含まない化合物であるNHの液化物を溶媒として用い、藻21に溶媒を供給して接触させて油22を溶媒に溶解させ、油22とNHの混合液23を減圧(加熱)することでNHを気化させて油22を回収し、NHの液化物を溶媒として用いることで、炭素の排出量を抑制できる状態で藻21から油22を回収する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温・常圧で気体の化合物の液化物を溶媒とし、有機物を含有する物質に前記溶媒を接触させ、
前記溶媒に前記物質の有機物を溶解させ、
前記有機物と前記溶媒の混合液から前記有機物を回収する有機物の回収方法において、
前記化合物は、ヘテロ原子を含むものである
ことを特徴とする有機物の回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載の有機物の回収方法において、
前記化合物は、炭素を含まない
ことを特徴とする有機物の回収方法。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の有機物の回収方法において、
前記有機物の回収は、
前記混合液から前記物質を分離し、前記物質が分離された前記混合液から前記有機物を回収するものである
ことを特徴とする有機物の回収方法。
【請求項4】
請求項3に記載の有機物の回収方法において、
前記混合液から前記有機物を回収する際に、前記混合液を気化させる
ことを特徴とする有機物の回収方法。
【請求項5】
請求項4に記載の有機物の回収方法において、
前記混合液から前記有機物を回収する際に、
前記混合液を、減圧もしくは加熱、または、減圧及び加熱する
ことを特徴とする有機物の回収方法。
【請求項6】
請求項4もしくは請求項5に記載の有機物の回収方法において、
気化させた気化物を加圧もしくは冷却、または、加圧及び冷却して液化物にし、液化物を前記溶媒として用いる
ことを特徴とする有機物の回収方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の有機物の回収方法において、
前記溶媒は、NHであり、
気体のNHを加圧もしくは冷却、または、加圧及び冷却して液体のNHを得て前記溶媒とし、前記有機物を含有する前記物質に前記液体のNHを接触させる
ことを特徴とする有機物の回収方法。
【請求項8】
常温・常圧で気体でありヘテロ原子を含み炭素を含まない化合物の液化物が貯留される貯留容器と、
有機物を含有する物質が収容される収容容器と、
前記貯留容器に貯留された液化物が前記収容容器に通液される通液手段と、
前記通液手段で前記収容容器に液化物が通液され、有機物を含有する物質に液化物が溶媒として接触することで有機物が溶解した混合液とされて収容される抽出物容器と、
前記抽出物容器に収容された混合液から有機物を回収する回収手段とを備えた
ことを特徴とする有機物の回収装置。
【請求項9】
請求項8に記載の有機物の回収装置において、
前記回収手段は、
前記混合液を、減圧もしくは加熱、または、減圧及び加熱する手段である
ことを特徴とする有機物の回収装置。
【請求項10】
請求項8もしくは請求項9に記載の有機物の回収装置において、
前記回収手段で気化させた気化物を加圧もしくは冷却、または、加圧及び冷却して液化物にし、液化物を前記貯留容器に循環させる再液化手段と備えた
ことを特徴とする有機物の回収装置。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の有機物の回収装置において、
前記溶媒は、NHであり、
前記貯留容器には、気体のNHが加圧及び冷却されて液体とされたNHが前記溶媒として貯留され、
前記収容容器では、有機物を含有する物質に前記液体のNHを接触させる
ことを特徴とする有機物の回収装置。
【請求項12】
請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の有機物の回収装置において、
前記溶媒は、NHであり、
前記貯留容器には、気体のNHが加圧されて液体とされたNHが前記溶媒として貯留され、
前記収容容器では、有機物を含有する物質に前記液体のNHを接触させる
ことを特徴とする有機物の回収装置。
【請求項13】
請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の有機物の回収装置において、
前記溶媒は、NHであり、
前記貯留容器には、気体のNHが冷却されて液体とされたNHが前記溶媒として貯留され、
前記収容容器では、有機物を含有する物質に前記液体のNHを接触させる
ことを特徴とする有機物の回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物を含有する物質(バイオマス)から有機物を回収する有機物の回収方法、及び、有機物の回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有用な有機物を含有する物質(バイオマス)から有機物を回収する技術が従来から知られている。例えば、バイオマスである藻類は多様な有機物を生産する能力があることが知られている。水中で栽培される藻類は、単位面積当たりの有機物生産量が多く、多様な有機物を含有するため、バイオ燃料、化成品原料、タンパク質、食用油脂、健康補助食品、医薬品原料、抗酸化色素などとして用いられている。
【0003】
藻類など、有機物を含有する物質(バイオマス)から有機物を抽出する技術として、ヘキサンなどの有機溶媒を用いる技術が従来から提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の技術は、有機物を含有する物質(バイオマス)を乾燥・破砕し、ヘキサンなどの有機溶媒の存在の下で有機物を抽出するものである。例えば、湿潤試料である藻類などを脱水・乾燥・破砕し、ヘキサンなどの有機溶媒を接触させて有機物を抽出している。
【0004】
特許文献1の技術では、疎水性のヘキサンが藻類などの細胞内外に存在する有機物に接触できるように、予め藻類などを脱水、乾燥、破砕する必要があった。このため、有機物を含有する物質(バイオマス)からヘキサンを用いて有機物を高収率で抽出するためには、藻類などの、有機物を含有する物質(バイオマス)を脱水、乾燥、破砕するエネルギーが必要になり、有機物の回収に必要となるエネルギー消費が多くなっているのが現状であった。
【0005】
このような背景から、様々な有機溶媒を用いた有機物の回収方法が検討されている。例えば、潤湿状態の藻類などにジメチルエーテルを接触させて有機物を抽出し、ジメチルエーテルを所定の条件で気化させることで、ジメチルエーテルを分離して有機物を回収する技術が提案されている(特許文献2)。
【0006】
特許文献2の技術では、水にも油にも混ざる溶媒であるジメチルエーテルを用いることで、藻類などを乾燥、粉砕する工程を経ることなく、藻類などから有機物を抽出することができる。
【0007】
しかし、ジメチルエーテルに溶解する水は、重量比で最大約8%と大きくはない。また、ジメチルエーテルは、有機物の抽出を妨げる細胞壁内の化学結合(エステル結合やエーテル結合など)を分解する能力も低い。このため、有機物の抽出に必要となるジメチルエーテルの使用量が多くなり、溶媒の回収に必要となる圧縮機動力の増大によるエネルギー消費の増大が避けられない状況であった。
【0008】
加えて、炭素を含むジメチルエーテルの大量使用は、処理試料に付着残存したジメチルエーテル由来炭素が燃焼(酸化)廃棄されたり、有機物に付着残存したジメチルエーテルが燃料などとして使用された際に、化石資源由来の二酸化炭素の排出量増大につながったりする虞があるのが現状であり、脱炭素社会、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、改良の余地があるのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-205453号公報
【特許文献2】特許第5328547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、以下の実情に着目して本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、酸化(燃焼)時の二酸化炭素の排出量を抑制した燃料として、例えば、Hが注目されてきている。Hはキャリアの一つとしてNHが使用され、また、NHも酸化(燃焼)時の二酸化炭素の排出量を抑制した燃料として使用されてきている。
【0012】
NHは、エネルギーキャリアとして分子内にCを含まないので、脱炭素社会、カーボンニュートラル社会の実現に貢献することができると考えられている。これまで、NHは、肥料、脱硝用途などで産業利用されてきており、燃料用途などの大規模な利用においては、既存化石資源に対して経済性に劣ることや、法令に準拠した安全な取扱いに技術課題があると考えられてきた。
【0013】
しかしながら、近年のカーボンニュートラル社会の実現に向けた、流通インフラの整備により、NHの流通インフラが格段に整備されてきているのが実情であり、NHを大量に使用する環境が整ってきているのが現状である。
【0014】
上述したような状況から、藻類から有機物(バイオ燃料)を生産するに際し、溶媒として分子内にCを含まず、常温・常圧で気体の化合物を液化して使用することを検討し、炭素の排出量を抑制できる状態でバイオ燃料を生産することができる有機物の回収方法、及び、有機物の回収装置を完成させるに至った。
【0015】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、エネルギー消費、および、炭素の排出量を抑制しながら、有機物を含有する物質(バイオマス)から有機物を回収することができる有機物の回収方法を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、エネルギー消費、および、炭素の排出量を抑制しながら、有機物を含有する物質(バイオマス)から有機物を回収することができる有機物の回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の有機物の回収方法は、常温・常圧で気体の化合物の液化物を溶媒とし、有機物を含有する物質(バイオマス)に前記溶媒を接触させ、前記溶媒に前記物質(バイオマス)の有機物を溶解させ、前記有機物と前記溶媒の混合液から前記有機物を回収する有機物の回収方法において、前記化合物は、ヘテロ原子を含むものであることを特徴とする。
【0018】
請求項1に係る本発明では、有機物を含有する物質(バイオマス)に溶媒を接触させ、有機物と溶媒の混合液から有機物を回収するので、エネルギー消費を抑制して有機物を回収できる。ヘテロ原子としては、窒素、硫黄、リンなどを用いることができる。
【0019】
このため、エネルギー消費を抑制しながら、しかも、炭素の排出量を抑制して、有機物を含有する物質(バイオマス)から有機物を回収することが可能になり、脱炭素社会、カーボンニュートラル社会の構築に貢献することができる。
【0020】
有機物を含有する物質(バイオマス)としては、水を含むバイオマス(藻類、木、草、紙、廃棄物など)、乾燥されたバイオマスが適用される。そして、有機物としては、油類(脂肪酸、ワックスエステル、炭化水素など)が適用される。また、その他、バイオ燃料、化成品原料、タンパク質、食用油脂、健康補助食品、医薬品原料、抗酸化色素などとして用いられる有機物が適用される。
【0021】
そして、請求項2に係る本発明の有機物の回収方法は、請求項1に記載の有機物の回収方法において、前記化合物は、炭素を含まないことを特徴とする。
【0022】
請求項2に係る本発明では、水素、炭素以外の原子であるヘテロ原子を含む化合物の液化物を溶媒として用いるため、有機物を回収する際の炭素の排出量を抑制することができる。化合物は、炭素を含まないので、有機物を抽出する際に化合物由来の炭素の直接の排出をなくすことができる。
【0023】
また、請求項3に係る本発明の有機物の回収方法は、請求項1もしくは請求項2に記載の有機物の回収方法において、前記有機物の回収は、前記混合液から前記物質を分離し、前記物質が分離された前記混合液から前記有機物を回収するものであることを特徴とする。
【0024】
請求項3に係る本発明では、混合液から物質が分離され、物質が分離された混合液から有機物が回収される。
【0025】
また、請求項4に係る本発明の有機物の回収方法は、請求項3に記載の有機物の回収方法において、前記混合液から前記有機物を回収する際に、前記混合液を気化させることを特徴とする。
【0026】
請求項4に係る本発明では、有機物を回収した混合液を気化させ、気体の化合物を得ることができる。尚、混合液を分離膜に通すなどして、膜分離により混合液から化合物を得ることも可能である。
【0027】
また、請求項5に係る本発明の有機物の回収方法は、請求項4に記載の有機物の回収方法において、前記混合液から前記有機物を回収する際に、前記混合液を、減圧もしくは加熱、または、減圧及び加熱することを特徴とする。
【0028】
請求項5に係る本発明では、有機物を回収した混合液を減圧もしくは加熱、または、減圧及び加熱することで、液化物が気化される。
【0029】
また、請求項6に係る本発明の有機物の回収方法は、請求項4もしくは請求項5に記載の有機物の回収方法において、気化させた気化物を加圧もしくは冷却、または、加圧及び冷却して液化物にし、液化物を前記溶媒として用いることを特徴とする。
【0030】
請求項6に係る本発明では、気化させた気化物(気体の化合物)を加圧もしくは冷却、または、加圧及び冷却して液化物にし、全部、もしくは一部を溶媒として用いることで、化合物を循環利用することができる。一部を溶媒として用いる場合、他は化合物の性状により、例えば、燃料や反応剤などとして利用することができる。
【0031】
また、請求項7に係る本発明の有機物の回収方法は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の有機物の回収方法において、前記溶媒は、NHであり、気体のNHを加圧もしくは冷却、または、加圧及び冷却して液体のNHを得て前記溶媒とし、前記有機物を含有する前記物質に前記液体のNHを接触させることを特徴とする。
【0032】
請求項7に係る本発明では、有機物(例えば、油)を含有する物質(バイオマス:例えば藻類)に、溶媒としてNHを接触させ、有機物(例えば、油)とNHの混合液から有機物(例えば、油)を回収するので、状態変化(気液相変化)を用いることでエネルギー消費を抑制して物質から有機物が回収されると共に、炭素を含まないNHが溶媒とされるため、炭素の排出量が抑制される。
【0033】
溶媒として用いるNHは、抽出を阻害する構成成分間の結合分解性、細胞内部への浸透性、有機物の溶解性が高いため、有機物(例えば、油)を含有する物質を乾燥・破砕する必要がない。
【0034】
また、溶媒としてのNHは、常温・常圧で気化し、水と親和性が高く(脱水性が高く水を除去しやすい)、分離回収が容易で燃料として利用することができる。このため、有機物(例えば、油)を含有する物質の有機物の抽出と脱水とを同時に行うことができ、水分が多い物質であっても、処理後の試料は、貯蔵や移送などの扱いが極めて容易になり、燃料や飼料などとして使用しやすくなる。
【0035】
また、溶媒として用いるNHは、金属、ハロゲン元素を含まず、地球温暖化係数、オゾン層破壊係数がともにゼロであり、燃焼時のCO排出もゼロ(二酸化炭素の排出量もゼロ)であることから、使用に伴う環境負荷が小さく、水や空気との共存下で安定して存在することができ、入手も容易な化合物である。
【0036】
溶媒として、NHの他にHSを用いることができる。また、NHと化合物(NHとメタン、NHとヘキサン、NHと水など)の混合液を用いることが可能である。また、NHに化合物を添加することで、溶媒の極性を調整することができる。また、塩化ナトリウムなどの塩化物を添加することで、NHの分離を塩析により容易にすることができる(水に残るNHを減らすことができる)。
【0037】
上記目的を達成するための請求項8に係る本発明の有機物の回収装置は、常温・常圧で気体でありヘテロ原子を含み炭素を含まない化合物の液化物が貯留される貯留容器と、有機物を含有する物質が収容される収容容器と、前記貯留容器に貯留された液化物が前記収容容器に通液される通液手段と、前記通液手段で前記収容容器に液化物が通液され、有機物を含有する物質に液化物が溶媒として接触することで有機物が溶解した混合液とされて収容される抽出物容器と、前記抽出物容器に収容された混合液から有機物を回収する回収手段とを備えたことを特徴とする。
【0038】
請求項8に係る本発明では、通液手段で液化物が収容容器に通液され、有機物を含有する物質(バイオマス)に溶媒が接触する。有機物を含有する物質が溶媒として接触することで、有機物が溶解した混合液が抽出物容器に収容される。そして、回収手段により混合液から有機物が回収(抽出)される。水素、炭素以外の原子であるヘテロ原子を含む化合物の液化物を溶媒として用いるため、炭素の排出量を抑制することができる。ヘテロ原子としては、窒素、硫黄、リンなどを用いることができる。
【0039】
このため、物質(バイオマス)の乾燥、粉砕が不要であり、炭素を含まない化合物の気液相変化を利用した有機物の回収法であるため、エネルギー消費を抑制しながら、しかも、炭素の排出量を抑制して、有機物を含有する物質(バイオマス)から有機物を回収することが可能になり、脱炭素社会、カーボンニュートラル社会の構築に貢献することができる。
【0040】
また、請求項9に係る本発明の有機物の回収装置は、請求項8に記載の有機物の回収装置において、前記回収手段は、前記混合液を、減圧もしくは加熱、または、減圧及び加熱する手段であることを特徴とする。
【0041】
請求項9に係る本発明では、有機物を回収(抽出)した混合液を減圧もしくは加熱、または、減圧及び加熱することで、液化物が気化される。
【0042】
また、請求項10に係る本発明の有機物の回収装置は、請求項8もしくは請求項9に記載の有機物の回収装置において、前記回収手段で気化させた気化物を加圧もしくは冷却、または、加圧及び冷却して液化物にし、液化物を前記貯留容器に循環させる再液化手段と備えたことを特徴とする。
【0043】
請求項10に係る本発明では、再液化手段により、気化させた気化物(気体の化合物)を加圧もしくは冷却、または、加圧及び冷却して液化物にし、全部、もしくは一部を溶媒として用いることで、化合物を循環利用することができる。一部を溶媒として用いる場合、他は化合物の性状により、例えば、燃料や反応剤などとして利用することができる。
【0044】
また、請求項11に係る本発明の有機物の回収装置は、請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の有機物の回収装置において、前記溶媒は、NHであり、前記貯留容器には、気体のNHが加圧及び冷却されて液体とされたNHが前記溶媒として貯留され、前記収容容器では、有機物を含有する物質に前記液体のNHを接触させることを特徴とする。
【0045】
請求項11に係る本発明では、気体のNHが加圧及び冷却されて液体とされて貯留容器に貯留され、有機物(例えば、油)を含有する物質(バイオマス:例えば藻類)に、溶媒として液体とされたNHを接触させ、有機物(例えば、油)とNHの混合液から有機物(例えば、油)を回収(抽出)するので、エネルギー消費を抑制して有機物が回収されると共に、炭素を含まないNHが溶媒とされるために、炭素の排出量が抑制される。
【0046】
また、請求項12に係る本発明の有機物の回収装置は、請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の有機物の回収装置において、前記溶媒は、NHであり、前記貯留容器には、気体のNHが加圧されて液体とされたNHが前記溶媒として貯留され、前記収容容器では、有機物を含有する物質に前記液体のNHを接触させることを特徴とする。
【0047】
請求項12に係る本発明では、気体のNHが、加圧されて液体とされて貯留容器に貯留され、有機物(例えば、油)を含有する物質(バイオマス:例えば藻類)に、溶媒として液体とされたNHを接触させ、有機物(例えば、油)とNHの混合液から有機物(例えば、油)を回収(抽出)するので、エネルギー消費を抑制して有機物が回収されると共に、炭素を含まないNHが溶媒とされるために、炭素の排出量が抑制される。
【0048】
また、請求項13に係る本発明の有機物の回収装置は、請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の有機物の回収装置において、前記溶媒は、NHであり、前記貯留容器には、気体のNHが冷却されて液体とされたNHが前記溶媒として貯留され、有機物を含有する物質に前記液体のNHを接触させることを特徴とする。
【0049】
請求項13に係る本発明では、気体のNHが、冷却されて液体とされて貯留容器に貯留され、有機物(例えば、油)を含有する物質(バイオマス:例えば藻類)に、溶媒として液体とされたNHを接触させ、有機物(例えば、油)とNHの混合液から有機物(例えば、油)を回収(抽出)するので、エネルギー消費を抑制して有機物が回収されると共に、炭素を含まないNHが溶媒とされるために、炭素の排出量が抑制される。
【発明の効果】
【0050】
本発明の有機物の回収方法は、エネルギー消費、および、炭素の排出量を抑制しながら、有機物を含有する物質(バイオマス)から有機物を回収することが可能になる。
【0051】
また、本発明の有機物の回収装置は、エネルギー消費、および、炭素の排出量を抑制しながら、有機物を含有する物質(バイオマス)から有機物を回収することが可能になる。
【0052】
これにより、脱炭素社会、カーボンニュートラル社会の実現に貢献できる状態で、エネルギー消費、および、炭素の排出量を抑制しながら、有機物を含有する物質(バイオマス)から有機物を回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明の一実施例に係る有機物の回収方法を実施する有機物の回収装置の概略構成図である。
図2】本発明の有機物の回収方法の概念を説明するための概略工程図である。
図3】油の抽出率とNHの量との関係を表すグラフである。
図4】抽出した油分の組成を説明するクロマトグラムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明者は、藻類からバイオ燃料を生産するに際し、溶媒として分子内にCを含まない化合物の液化物の使用を検討し、炭素の排出量を抑制できる状態でバイオ燃料を生産することができるという知見に基づいて発明を完成させるに至った。
【0055】
本発明の有機物の回収方法は、有機物(例えば、油)を含有する物質(バイオマス:例えば、藻)に、ヘテロ原子に由来する原子を含む化合物の液化物である溶媒(例えば、NH)を接触させ、藻に含まれる水分及び油をNHに溶解させ、水分及び油とNHの混合液を回収して混合液から藻を分離し、藻が分離された混合液からNHを気化させ、NHが気化した混合液から油を分離して油を回収するものである。
【0056】
このため、乾燥や粉砕などのためのエネルギーを用いずに、エネルギー消費を抑制した状態で、油を含有する藻から油を回収することができる。そして、水素、炭素以外の原子であるヘテロ原子に由来する原子を含む化合物の液化物であるNHを溶媒として用いるため、炭素の排出量を抑制することができる。
【0057】
尚、ヘテロ原子に由来する原子を含む化合物としては、硫黄やリンなどの化合物を用いることができる。
【0058】
有機物を含有する物質(バイオマス)としては、水を含むバイオマス(藻類、木、草、紙、廃棄物など)、乾燥されたバイオマスを適用することができる。また、有機物としては、油類(脂肪酸、ワックスエステル、炭化水素など)を適用することができる。更に、有機物としては、バイオ燃料、化成品原料、タンパク質、食用油脂、健康補助食品、医薬品原料、抗酸化色素などとして用いられるものを適用することができる。
【0059】
図に基づいて本発明の有機物の回収装置及び回収方法の一実施例を説明する。
【0060】
図1には本発明の一実施例に係る有機物の回収方法を実施する有機物の回収装置を説明する概略構成、図2には有機物の回収方法の概念を説明するための概略工程を示してある。
【0061】
図1に基づいて本発明の一実施例にかかる有機物の回収装置を説明する。
【0062】
有機物の回収装置1は、液化されたNH(液化NH)を貯留する貯留容器2を備えている。即ち、常温・常圧で気体でありヘテロ原子を含み炭素を含まない化合物であるNHが液化状態(液化物)で貯留される貯留容器2を備えている。
【0063】
貯留容器2には流入路3を介して液化NHが供給される。貯留容器2から通液路4が設けられ、通液路4は収容容器5の入口5aに接続されている。収容容器5には、有機物(油)を含有する物質(バイオマス)である藻21が収容される。通液路4にはポンプ6が設けられ、ポンプ6の駆動により貯留容器2に貯留された液化NHが通液路4を通して収容容器5に通液される(通液手段)。
【0064】
尚、貯留容器2に貯留された液化NHを通液路4から収容容器5に通液する通液手段として、ポンプ6に代えて、Nガスを貯留容器2に圧送して液化NHを通液路4から収容容器5に通液する手段を適用することが可能である。通液手段として、Nガスを圧送する手段を適用することで、回収装置1を開放する時(回収装置1を開放してメンテナンスを行う時)などに、特別な機器を用いることなくNガスを回収装置1内のパージガスとして用いることが可能になる。
【0065】
収容容器5の入口5a、出口5bには、収容されている藻21を安定させる緩衝部材5cが配されている。収容容器5に液化NHが通液されることで、藻21に液化NHが溶媒として接触し、油22が溶解した混合液23とされる。混合液23は収容容器5の出口5bから通液路7を通して抽出物容器8に送られて収容される(通液手段)。
【0066】
抽出物容器8に送られた混合液23に含まれるNHは、抽出物容器8を減圧(及び、もしくは加熱)することで気化・除去される(回収手段)。尚、収容容器5を減圧(及び、もしくは加熱)することで、液化NHが通液された後の収容容器5内の藻21(固体部分)に含まれるNHを気化・除去することができる(回収手段)。
【0067】
抽出物容器8を減圧(及び、もしくは加熱)してNHを気化・除去することにより、混合液23から油22が回収される。気化・除去されたNH(気化NH)は捕集されて回収路9から利用手段に送られる。化合物の性状により、例えば、燃料や反応剤などとして利用される。
【0068】
収容容器5を減圧(及び、もしくは加熱)することで気化・除去されたNH、及び、抽出物容器8を減圧(及び、もしくは加熱)して気化・除去されたNHは、例えば、気液分離フィルター、異物除去フィルターなどのフィルターを通して捕集され、利用手段で利用される。
【0069】
回収路9から分岐して再液化路10が接続され、気化・除去されたNHの全量もしくは一部は、加圧(及び、もしくは冷却)されて液化され、流入路3から貯留容器2に循環される(再液化手段)。
【0070】
上記構成の有機物の回収装置1では、通液手段により液化NHが溶媒として収容容器5に通液され、藻21に液化NHが溶媒として接触する。油22を含む藻21に液化NHが溶媒として接触することで、油22が溶解した混合液23が抽出物容器8に収容される。
【0071】
そして、抽出物容器8を減圧(及び、または加熱)することで、混合液23からNHが気化・除去され、混合液23から油22が回収される(図1右下部分参照)。
【0072】
従って、水素、炭素以外の原子であるヘテロ原子を含む化合物の液化物、即ち、液体のNH(液化NH)を溶媒として用いるため、炭素の排出量を抑制することができる。
【0073】
上記構成の有機物の回収装置1における回収の動作(回収方法)を図2に基づいて説明する。図2の状況は、説明の便宜上、動作を概念的に示したものであり、実際の装置の状態とは異なる部分がある。
【0074】
図2(a)に示すように、収容容器5に藻21が収容される。図2(b)に示すように、収容容器5に液化NHが送られる(例えば、操作圧力:0.85MPa:20℃)。即ち、図1に示したポンプ6の駆動により液化NHが供給され、液化NHが藻21に含侵する。
【0075】
図2(c)に示すように、収容容器5の入口側のバルブが閉じられ、藻21に液化NHが溶媒として接触し、油22が抽出される。図2(d)に示すように、収容容器5の出口側のバルブ、及び、抽出物容器8の入口側のバルブが開かれ、油22が溶解した混合液23が抽出物容器8に送られて収容される(固液分離される)。
【0076】
図2(e)に示すように、収容容器5と抽出物容器8が切り離され、それぞれ入口側のバルブが開かれて減圧される(及び、もしくは加熱される)。収容容器5と抽出物容器8を減圧することで(及び、もしくは加熱することで)、混合液23、及び、藻21の固体部分のNHが気化・除去される。そして、NHが気化・除去された混合液23、即ち、油22が抽出物容器8に残り、混合液23から油22が回収される。
【0077】
気化・除去されたNHの全量もしくは一部は、加圧(及び、もしくは冷却)されて液化され、収容容器5(貯留容器2:図1参照)に循環される(再液化手段)。気化・除去されたNHは、化合物の性状により、例えば、燃料や反応剤などとして利用手段で利用することもできる。
【0078】
上述したように、有機物である油22を含有する藻21に、溶媒として液化NHを接触させ、油22とNHの混合液23から油22を回収することで藻21を乾燥、粉砕することなく油22を回収できるので、エネルギー消費を抑制して油22が回収される。そして、溶媒として炭素を含まないNHを用いるので、炭素の排出量を抑制することができる。
【0079】
溶媒として用いるNHは、抽出を妨げる構成成分間の結合分解性、細胞内部への浸透性、有機物の溶解性が高いため、有機物である油22を含有する藻21を脱水・乾燥・破砕することなく有機物を回収することができる。
【0080】
また、溶媒として用いるNHは、常温・常圧で気化し、水と親和性が高いため(脱水性が高く水を除去しやすい)、分離回収が容易で、かつ、残存した場合であっても燃料として利用することができる。
【0081】
これにより、有機物である油22を含有する藻21からの油22の抽出と、藻21の脱水とを常温で同時に行うことができるため、水分が多い物質である藻21を用いても、処理後の試料は、貯蔵や移送などの扱いが極めて容易になり、燃料や飼料などとして使用しやすくなる。
【0082】
尚、構成成分間の結合の分解(化学反応)を促進するため、加熱することも可能である。
【0083】
また、溶媒として用いるNHは、金属、ハロゲン元素を含まず、地球温暖化係数、オゾン層破壊係数がともにゼロであり、燃焼時のCO排出もゼロであることから、使用に伴う環境負荷が小さく、水や空気との共存下で安定して存在させることができ、入手も容易な化合物である。
【0084】
尚、溶媒としては、NHの他にHSを用いることができる。また、NHと化合物(NHとメタン、NHとヘキサン、NHと水など)の混合液を用いることが可能である。加えて、NHに化合物を添加することで、溶媒の極性を調整することができる。さらに、塩化ナトリウムなどの塩化物を添加することで、NHの分離を塩析により容易にすることができる(水に残るNHを減らすことができる)。
【0085】
図3図4に基づいて回収された油22の状況の一例を説明する。
【0086】
図3にはNHの量に対する油22の抽出率(%)の関係を表すグラフ、図4には液化NHによる抽出油に含まれる成分の状況である特定の成分の量を、標準の試薬、比較方法で抽出した油と比較して示したクロマトグラフの結果の概念を示してある。
【0087】
図3に示すように、藻21の量に対してNHの量をY(g)まで増加させると、油22の抽出率がX(%)まで増加し、NHの量がY(g)を超えると、油22の抽出率がX(%)程度を維持する。このため、NHの量をY(g)である所定の値まで用いることで、所望の割合の抽出率X(%)で油22を回収することができる。
【0088】
図4に示すように、油22(NH抽出物)のクロマトグラフの結果(実線で示してある)から、油22(NH抽出物)に含まれる成分は、標準の試薬(標準試薬)のクロマトグラフの結果(一点鎖線で示してある)に対し、例えば、(1)(2)(3)(4)(5)でのピークの保持時間(min)が一致することから、所望の状態の油である標準試薬に含まれる成分と同様の成分を有する油22(NH抽出物)が抽出されていることが解る。
【0089】
また、油22(NH抽出物)のクロマトグラフの結果(実線で示してある)から、油22(NH抽出物)に含まれる成分は、乾燥・粉砕を用いて抽出した油(比較例)のクロマトグラフの結果(二点鎖線で示してある)に対し、例えば、(1)(2)(3)(5)でのピークの保持時間(min)が一致することから、乾燥・粉砕を用いて抽出した油(比較例)に含まれる成分と同様の成分を有する油22(NH抽出物)が抽出されていることが解る。
【0090】
上述したように、油22を含有する藻21に液化NHを接触させ、油22とNHの混合液23から油22を回収することで、藻21を乾燥、粉砕することなく、油22を回収することができるので、エネルギー消費を抑制して油22を回収することができる。そして、溶媒としてのNHは、水素、炭素以外の原子であるヘテロ原子に由来する原子であるNを含む化合物の液化物であるため、炭素の排出量を抑制することができる。
【0091】
従って、エネルギー消費を抑制しながら、しかも、炭素の排出量を抑制して藻21から油22を回収することが可能になり、脱炭素社会、カーボンニュートラル社会の構築に貢献した状態で、油22の回収を行うことが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、有機物の回収方法、有機物の回収装置の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 回収装置
2 貯留容器
3 流入路
4、7 通液路
5 収容容器
6 ポンプ
8 抽出物容器
9 回収路
10 再液化路
21 藻
22 油
23 混合液
図1
図2
図3
図4