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特開2023-151405全固体二次電池、積層全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151405
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】全固体二次電池、積層全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20231005BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20231005BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231005BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231005BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20231005BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20231005BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20231005BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231005BHJP
   H01M 50/586 20210101ALI20231005BHJP
   H01M 50/593 20210101ALI20231005BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20231005BHJP
   H01M 50/533 20210101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0585
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M4/46
H01M4/42
H01M10/0562
H01M50/586
H01M50/593
H01M4/64 A
H01M50/533
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060995
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】面田 亮
(72)【発明者】
【氏名】石原 宏恵
(72)【発明者】
【氏名】濱口 陽平
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H043
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA04
5H017AS02
5H017CC01
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL06
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ14
5H029DJ04
5H029EJ05
5H029EJ12
5H029HJ00
5H029HJ20
5H043AA04
5H043AA19
5H043BA20
5H043CA13
5H043EA07
5H043EA08
5H043GA22
5H043GA24
5H043GA26
5H043KA13E
5H043KA16E
5H043KA22E
5H043KA39E
5H043LA32E
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB13
5H050DA19
5H050FA02
5H050HA00
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】正極集電体が所望の位置にできるだけ確実に配置することができる、又は正極集電体の配置に問題がある場合に製造段階の早期に発見して短絡の発生を未然に防ぐことができる全固体二次電池を提供する。
【解決手段】正極層と、負極層と、これらの間に配置された固体電解質層と、前記正極層と前記負極層とが接触して短絡することを抑える絶縁層とを備えるものであり、前記固体電解質層が前記正極層の両面にそれぞれ積層されており、前記負極層が、前記各固体電解質層の前記正極層とは反対側の面にそれぞれ積層されており、前記絶縁層が、前記正極層の側端面に前記正極層を覆うように配置されており、前記絶縁層が、該絶縁層によって覆われている前記正極層の外縁の位置を該絶縁層を介して光学的に識別可能なものであることを特徴とする全固体二次電池。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、
負極層と、
これらの間に配置された固体電解質層と、
前記正極層と前記負極層とが接触して短絡することを抑える絶縁層とを備えるものであり、
前記固体電解質層が前記正極層の両面にそれぞれ積層されており、
前記負極層が、前記各固体電解質層の前記正極層とは反対側の面にそれぞれ積層されており、
前記絶縁層が、前記正極層の側端面に前記正極層を覆うように配置されており、
前記正極層が、箔状の正極集電体と該正極集電体の両面にそれぞれ積層された正極活物質層とを備えるものであり、
前記絶縁層が、該絶縁層によって覆われている前記正極集電体の外縁の位置を該絶縁層を介して光学的に識別可能なものであることを特徴とする全固体二次電池。
【請求項2】
前記絶縁層の全光線透過率が25%以上100%未満である、請求項1に記載の全固体二次電池。
【請求項3】
前記絶縁層の400nm以上800nm以下の波長範囲内の少なくとも1つのある波長における直線光透過率が絶縁層厚みを100μmで換算した値で20%以上100%未満である、請求項1又は2に記載の全固体二次電池。
【請求項4】
前記正極集電体の側端少なくとも一部が前記正極活物質層の側端面よりも外側に突出している、請求項1乃至3に記載の全固体二次電池。
【請求項5】
前記絶縁層が、樹脂を含有するものであり、かつ体積抵抗率が1012Ω/cm以上であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の全固体二次電池。
【請求項6】
前記絶縁層が、絶縁性フィラーをさらに含有するものであることを特徴とする請求項5記載の全固体二次電池。
【請求項7】
前記絶縁性フィラーが、繊維状樹脂、樹脂製不織布、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、ベーマイト、チタン酸バリウム、炭酸バリウム、イットリア及び酸化マンガンからなる群より選ばれる1種以上の物質からなるものであることを特徴とする請求項6記載の全固体二次電池。
【請求項8】
前記正極集電体が、外部の配線と電気的に接続するための正極集電部を備え、
前記正極集電部が、正極集電体の表面に沿って側方に突出するように設けられているものであり、
前記正極集電部が突出している方向における前記絶縁層の外縁の一部又は全部が、前記負極層の外縁よりも外側に位置することを特徴とする請求項4に記載の全固体二次電池。
【請求項9】
前記負極層の外縁の一部又は全部が、前記絶縁層の上に配置されていることを特徴とする請求項8に記載の全固体二次電池。
【請求項10】
前記固体電解質層が、リチウム、リン及び硫黄を少なくとも含有する硫化物系固体電解質を含有するものであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の全固体二次電池。
【請求項11】
前記負極層が、リチウムと合金を形成する負極活物質及び/又はリチウムと化合物を形成する負極活物質を含み、充電時に前記負極層の内部に金属リチウムが析出可能であり、前記負極層の充電容量の80%以上が金属リチウムにより発揮されるものであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の全固体二次電池。
【請求項12】
前記負極層が、無定形炭素、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫及び亜鉛からなる群より選択されるいずれか一種以上を含むものであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の全固体二次電池。
【請求項13】
請求項1乃至12記載の全固体二次電池が2つ以上積層されていることを特徴とする積層全固体二次電池。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池、積層全固体二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
良好なサイクル特性及び短絡の発生抑制を目的として、正極層の両面に2枚の固体電解質層をそれぞれ積層し、この2枚の固体電解質層の外側から2枚の負極層で挟み込んだ形状の全固体二次電池において、等方圧プレスによって全固体二次電池の厚み方向における凹凸をできるだけ減らした全固体二次電池が考えられている(特許文献1)。
この特許文献1記載の全固体二次電池について、短絡をさらに抑制するために正極層側端面に正極層を覆うように絶縁層を配置することが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-121558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が全固体二次電池を多数作成したところ、前述したように短絡を抑制止する十分な工夫を重ねて施しているにも関わらず、製造した全固体二次電池の性能試験を行うと稀に短絡を生じる場合があることに気が付いた。
【0005】
本発明者が、前述した全固体二次電池における短絡の原因について鋭意検討したところ、正極層が備える箔状の正極集電体の位置が所望の位置からずれてしまっていることや、電池作製工程途上の予期せぬ不良箇所の発生に最終工程まで気付かないといった問題であると考えた。
【0006】
前者では負極層にリチウムを析出させて、析出したリチウムを負極活物質として利用する全固体二次電池においては、負極層の正極集電体に対向する位置に正極集電体と同形状にリチウムが析出する。
そのため、このような全固体二次電池において、正極集電体が想定外の場所に配置されてしまうと、負極層において想定外の場所にリチウムが析出してしまい、負極におけるリチウムの析出が不均一になって、短絡が起こる恐れがある。
【0007】
後者では電池部材内部の集電箔などが作製過程の途上で予期せず破断や亀裂が生じた場合に、視覚的または電気化学的にも見落とされたことで、セル作製後になって問題が発見されるといったことがある。
【0008】
そこで、前述した絶縁層を備える全固体二次電池の製造工程においては、正極層と絶縁層とが所望の位置関係になるように材料の配置を調節してから加圧して絶縁層を形成している。そして、この配置の調整により正極集電体は製造者の想定した位置に配置されているものと考えられている。
【0009】
しかしながら、本発明者はこのような常識にとらわれることなく、加圧時に正極層内部で正極集電体の位置がずれてしまったり、正極集電体の一部が折れ曲がってしまったりすることが稀にあるのではないかと考えた。
【0010】
正極集電体が想定外の位置に配置されたとしても、従来は絶縁層材料として不透明な樹脂素材を使用しているために、絶縁層によって側端面を覆われた正極層においては、もはや正極集電体の位置を確かめることはできない。
【0011】
そのため、正極集電体の位置が所望の位置からずれてしまったことに気が付かないままに全固体二次電池が組み立てられてしまい、完成した全固体二次電池について性能試験をする段階になって初めて不具合に気が付くことになってしまう。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、正極層の側端面に正極層を覆うように絶縁層が配置されている電池において、正極集電体が所望の位置にできるだけ確実に配置することができる、又は正極集電体の配置に問題がある場合に製造段階の早期に発見して短絡の発生を未然に防ぐことができる全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明に係る全固体二次電池は、正極層と、負極層と、これらの間に配置された固体電解質層と、前記正極層と前記負極層とが接触して短絡することを抑える絶縁層とを備えるものであり、
前記固体電解質層が前記正極層の両面にそれぞれ積層されており、前記負極層が、前記各固体電解質層の前記正極層とは反対側の面にそれぞれ積層されており、前記絶縁層が、前記正極層の側端面に前記正極層を覆うように配置されており、
前記正極層が、箔状の正極集電体と該正極集電体の両面にそれぞれ積層された正極活物質層とを備えるものであり、
前記絶縁層が、該絶縁層によって覆われている前記正極集電体の外縁の位置を該絶縁層を介して、その外側から光学的に識別可能なものであることを特徴とする。
【0014】
このように構成した全固体二次電池によれば、前記正極層をその側端面から前記絶縁層で覆ってしまった後であっても、正極集電体の側端面を外部から視認することができる。その結果、正極層に対して固体電解質及び負極活物質層を積層して全固体二次電池を製造する際に、前記正極集電体を前記全固体二次電池における所望の位置に確実に配置することができる。
【0015】
また、前記絶縁層の外部からの視認によって前記正極集電体の位置がずれている又は折れ曲がっている等の不具合を発見することもできるので、前記絶縁層を取り付けた後の前記正極層に不具合が発見された場合には、その正極層を全固体二次電池の組み立てに使用しない判断をすることができる。
その結果、できるだけ不具合の少ない全固体二次電池を製造することができる。
【0016】
本発明の具体的な実施態様としては、前記絶縁層の全光線透過率が25%以上であるものを挙げることができる。
【0017】
本発明の具体的な実施態様としては、前記絶縁層の400nm以上800nm以下の波長範囲の少なくとも1つの波長における直線光透過率が絶縁層の厚みを100μmとして換算した場合の値で20%以上であるものを挙げることができる。
【0018】
前記正極層が、正極集電体と、該正極集電体の両面に形成された正極活物質層とを備え、前記正極集電体の外周縁が前記正極活物質層の側端面よりも外側に突出しているものとすれば、正極集電体に皺が発生したり、正極集電体が折れ曲がったりしていることをより発見しやすいので好ましい。
【0019】
本発明の具体的な実施態様としては、前記絶縁層が樹脂を含有するものであり、かつ体積抵抗率が1012Ω/cm以上であるものを挙げることができる。
【0020】
具体的な実施態様としては、前記絶縁層が樹脂からなるものである又は樹脂を含有するものであることが好ましい。
【0021】
前記絶縁層が、さらに絶縁性フィラーを含有するものであれば、該絶縁性フィラーによって前記絶縁層を形成する材料同士の密着性を向上させ、前記絶縁層の強度を向上させることができる。
【0022】
前記絶縁性フィラーとして、繊維状樹脂、樹脂製不織布、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、ベーマイト、チタン酸バリウム、炭酸バリウム、イットリア及び酸化マンガンなどからなる群より選ばれる1種以上の物質が挙げられる。
【0023】
前記正極集電体が、外部の配線と電気的に接続するための正極集電部を備え、前記正極集電部が、正極集電体の表面に沿って側方に突出するように設けられているものであり、前記集電部が突出している側の前記絶縁層の外縁の一部又は全部が前記負極層の外縁よりも外側に位置するようにすれば、正極層と負極層との間の物理的な接触による短絡を抑えることができるので好ましい。
【0024】
正極層と負極層との間の短絡をより抑えるには、前記第負極層の外縁の一部又は全部が、前記絶縁層の上に配置されていることが好ましい。
【0025】
前記固体電解質層が、リチウム、リン及び硫黄を少なくとも含む硫化物系固体電解質を含有する全固体二次電池とすれば、より電池性能を向上させることができるので好ましい。
【0026】
前記負極層は、リチウムと合金を形成する負極活物質及び/又はリチウムと化合物を形成する負極活物質を含み、充電時に前記負極層の内部に金属リチウムが析出可能であり、前記負極層の充電容量の80%以上が金属リチウムにより発揮されるものとすることが好ましい。
【0027】
本発明の具体的な実施態様としては、前記負極層は、無定形炭素、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫及び亜鉛からなる群より選択されるいずれか一種以上を含むものを挙げることができる。
【0028】
本発明に係る全固体二次電池が2つ以上積層されている積層全固体二次電池とすれば、例えば負極層にリチウムを析出させる全固体二次電池において局所的なリチウムの析出をできるだけ抑えてより短絡が発生しにくい積層全固体二次電池とすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、正極層の側端面に正極層を覆うように絶縁層が配置されている電池において、正極集電体をより確実に所望の位置に配置することができる。
また、正極集電体が所望の位置に配置されていない場合や正極集電体の不良が生じた際には電池作製の最終工程前までに発見して、不良な電池発生の低減や電池不良に由来する短絡の発生を未然に防ぐことができる。
【0030】
本発明に係る全固体二次電池が2つ以上積層されている積層全固体二次電池とすれば、
積層全固体二次電池全体にわたって、正極集電体の配置をできるだけ揃えることができる。その結果、負極層にリチウムを析出させる積層全固体二次電池において、各全固体二次電池におけるリチウムの析出する位置を揃えることができる。その結果、充放電時における積層全固体二次電池全体の厚み変化をできるだけ均一にして、より短絡が発生しにくい積層全固体二次電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係る全固体二次電池の概略構成を示す断面図である。
図2】本実施形態に係る全固体二次電池の概略構成を示す拡大断面図である。
図3】本実施形態に係る全固体二次電池の概略構成を示す拡大平面図である。
図4】本実施形態に係る全固体二次電池の製造方法を示す模式図である。
図5図4(b)の積層体をその積層方向から視た平面図である。
図6】本実施形態に係る全固体二次電池に使用されている余剰絶縁層材料の構造を示す模式図である。図6(a)は積層方向から視た平面図であり、図6(b)はB-B線で切った断面図である。
図7】本実施形態に係る全固体二次電池の製造方法を示す模式図である。
図8】本実施形態に係る全固体二次電池の製造方法を示す模式図である。
図9】本実施形態に係る全固体二次電池の製造方法を示す模式図である。
図10】本発明の実施例に係る全固体二次電池の評価結果を示すグラフである。
図11】本発明の実施例に係る全固体二次電池の評価結果を示すグラフである。
図12】本発明の実施例に係る全固体二次電池の評価結果を示すグラフである。
図13】本発明の実施例に係る全固体二次電池の評価結果を示すグラフである。
図14】本発明の実施例に係る全固体二次電池の評価結果を示すグラフである。
図15】本発明の実施例に係る全固体二次電池の評価結果を示すグラフである。
図16】本発明の実施例に係る全固体二次電池の評価結果を示すグラフである。
図17】本発明の比較例に係る全固体二次電池の評価結果を示すグラフである。
図18】本発明の比較例に係る全固体二次電池の評価結果を示すグラフである。
図19】本発明の比較例に係る全固体二次電池の評価結果を示すグラフである。
図20】本発明の比較例に係る全固体二次電池の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、図中の各構成要素は、説明の容易化のために適宜拡大または縮小されており、図中の各構成要素の大きさ、比率は、実際のものとは異なる場合がある。
【0033】
<1.本実施形態に係る全固体二次電池の基本構成>
まず、本発明の実施形態に係る全固体二次電池1の構成について説明する。
本実施形態に係る全固体二次電池1は、例えば、図1及び図2に示すように、正極層10と、負極層20と、固体電解質層30とを備えているものである。より具体的には、正極層10と、前記正極層10の両面にそれぞれ積層された固体電解質層30と、前記各固体電解質層30の前記正極層10とは反対側の面にそれぞれ積層された負極層20と、前記正極層10の側端面Sに配置された絶縁層13とを備える全固体リチウム二次電池である。なお、側端面とは、前記各層の積層方向ではない周囲の端部であり、前記各層の積層方向に対して垂直な方向における各層の端部を意味する。
【0034】
(1-1.正極層)
正極層10は、図2に示すように、正極集電体11と正極活物質層12とを含む。
正極集電体11としては、例えば、ステンレス鋼、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)又はこれらの合金からなる板状体または箔状体等を挙げることができる。正極集電体11の厚みは、例えば、1μm以上50μm以下、より好ましくは5μm以上30μm以下である。
正極活物質層12は、図2に示すように、正極集電体11の両面に配置されている。正極活物質層12は、少なくとも正極活物質及び固体電解質を含有する。
正極活物質層12に含有される固体電解質は、固体電解質層30に含有される固体電解質と同種のものであっても、同種でなくてもよい。固体電解質の詳細は、後述する固体電解質層30の項にて説明する。
【0035】
前記正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能な正極活物質であればよい。
【0036】
例えば、前記正極活物質は、例えば、粉末状又は粒状のものであり、コバルト酸リチウム(以下、LCOと称する)、ニッケル酸リチウム(Lithium nickel oxide)、ニッケルコバルト酸リチウム(lithium nickel cobalt oxide)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、NCAと称する)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、NCMと称する)、マンガン酸リチウム(Lithium manganate)、リン酸鉄リチウム(lithium iron phosphate)等のリチウム塩、硫化ニッケル、硫化銅、硫黄、酸化鉄、又は酸化バナジウム等を用いて形成することができる。これらの正極活物質は、それぞれ単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0037】
また、前記正極活物質は、上述したリチウム塩のうち、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含んで形成されることが好ましい。ここで「層状」とは、薄いシート状の形状を表す。また、「岩塩構造」とは、結晶構造の一種である塩化ナトリウム型構造のことを表し、具体的には、陽イオンおよび陰イオンの各々が形成する面心立方格子が互いに単位格子の稜の1/2だけずれて配置された構造を表す。
【0038】
このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、例えば、LiNiCoAl(NCA)、またはLiNiCoMn(NCM)(ただし、0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1)などの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩を挙げることができる。
【0039】
前記正極活物質が、上記の層状岩塩型構造を有する三元系遷移金属酸化物のリチウム塩を含む場合、全固体二次電池1のエネルギー(energy)密度および熱安定性を向上させることができる。
【0040】
前記正極活物質は、その表面が被覆層によって覆われていても良い。ここで、本実施形態の被覆層は、全固体二次電池1の正極活物質の被覆層として公知のものであればどのようなものであってもよい。被覆層の例としては、例えば、LiO-ZrO等を挙げることができる。
【0041】
また、正極活物質が、NCAまたはNCMなどの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩にて形成されており、正極活物質としてニッケル(Ni)を含む場合、全固体二次電池1の容量密度を上昇させ、充電状態での正極活物質からの金属溶出を少なくすることができる。これにより、本実施形態に係る全固体二次電池1は、充電状態での長期信頼性およびサイクル(cycle)特性を向上させることができる。
【0042】
ここで、正極活物質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状を挙げることができる。また、正極活物質の粒径は特に制限されず、従来の全固体二次電池の正極活物質に適用可能な範囲であれば良い。なお、正極層10における正極活物質の含有量も特に制限されず、従来の全固体二次電池1の正極層10に適用可能な範囲であれば良い。
【0043】
また、正極活物質層12には、上述した正極活物質および固体電解質に加えて、例えば、導電助剤、結着材、フィラー(filler)、分散剤、イオン伝導助剤等の添加物が適宜配合されていてもよい。
【0044】
正極活物質層12に配合可能な導電助剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、金属粉等を挙げることができる。また、正極活物質層12に配合可能なバインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。さらに、正極活物質層12に配合可能なフィラー、分散剤、イオン伝導助剤等としては、一般に全固体二次電池1の電極に用いられる公知の材料を用いることができる。
【0045】
正極活物質層12の電池として完成した状態での厚みは、特に限定されないが、例えば、20μm以上1000μm以下であることが好ましく、50μm以上500μm以下であることがより好ましく、100μm以上300μm以下であることが特に好ましい。
【0046】
(1-2.負極層)
負極層20は、例えば、図2に示すように、板状または箔状の負極集電体21と、該負極集電体21上に形成された負極活物質層22とを含む。
負極集電体21は、本実施形態では、全固体二次電池1の最外層を形成するものである。
この負極集電体21は、リチウムと反応しない、すなわち合金および化合物のいずれも形成しない材料で構成されることが好ましい。
負極集電体21を構成する材料としては、ステンレスのほかに、例えば、銅(Cu)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)などを挙げることができる。
負極集電体21は、これらの金属のいずれか1種で構成されていても良いし、2種以上の金属の合金またはクラッド材で構成されていても良い。
負極集電体21の厚みは、例えば、1μm以上50μm以下、より好ましくは5μm以上30μm以下である。
【0047】
負極活物質層22は、例えば、リチウムと合金を形成する負極活物質とリチウムと化合物を形成する負極活物質とのうちの少なくとも一方を含む。そして、負極活物質層22は、このような負極活物質を含有することにより、以下に説明するように、負極活物質層22の一方又は両方の表面上に金属リチウムを析出させることができるように構成されていても良い。
【0048】
前記負極活物質は、例えば、無定形炭素、金、白金、パラジウム(Pd)、ケイ素(Si)銀、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、錫、アンチモン、および亜鉛等を挙げることができる。
ここで、前記無定形炭素としては、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックやグラフェン等を挙げることができる。
【0049】
前記負極活物質の形状は、特に限定されず、粒状であっても良いし、例えば、めっき層のような均一な層状のものであってもよい。
前者の場合、リチウムイオンまたはリチウムは、粒状の負極活物質の内部、または負極活物質同士の隙間を通過して、負極活物質層22と負極集電体21との間に主にリチウムからなる金属層が形成され、一部のリチウムは負極活物質内の金属元素と合金を形成するなどして負極活物質層22内に存在する。
一方で、後者の場合、負極活物質層22と固体電解質層30との間に前記金属層が析出する。
【0050】
上述した中でも、負極活物質層22は、無定形炭素として、窒素ガス吸着法により測定される比表面積が100m/g以下である低比表面積無定形炭素と、窒素ガス吸着法により測定される比表面積が300m/g以上である高比表面積無定形炭素との混合物を含むことが好ましい。
【0051】
負極活物質層22は、これらの負極活物質のいずれか一種だけを含有していても良いし、2種以上の負極活物質を含有していても良い。例えば、負極活物質層22は、前記負極活物質として無定形炭素のみを含有していても良いし、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン及び亜鉛からなる群から選択されるいずれか一種以上を含有していてもよい。また、負極活物質層22は、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン及び亜鉛からなる群から選択されるいずれか一種以上と無定形炭素との混合物を含有していても良い。
【0052】
無定形炭素と前述した金などの金属との混合物の混合比(質量比)は、1:1~1:3程度であることが好ましい、負極活物質をこれらの物質で構成することで、全固体二次電池1の特性がさらに向上する。
【0053】
前記負極活物質として、無定形炭素とともに金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン及び亜鉛からなる群から選択されるいずれか一種以上を使用する場合、これら負極活物質の粒径は4μm以下であることが好ましい。この場合、全固体二次電池1の特性がさらに向上する。
【0054】
また、前記負極活物質として、リチウムと合金を形成可能な物質、例えば、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン及び亜鉛からなる群から選択されるいずれか一種以上を使用する場合、負極活物質層22は、これら金属からなる層であってもよい。例えば、この金属の層は、めっき層であってもよい。
【0055】
負極活物質層22は、必要に応じて、さらにバインダを含んでも良い。このバインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド等を挙げることができる。バインダは、これらの1種で構成されていても、2種以上で構成されていてもよい。このようにバインダを負極活物質層22に含めることにより、特に前記負極活物質が粒状の場合に、該負極活物質の離脱を抑えることができる。負極活物質層22に含有されるバインダの含有率は、負極活物質層22の総質量に対して、例えば、0.3質量%以上20.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以上15.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以上15.0質量%以下である。
【0056】
また、負極活物質層22には、従来の全固体二次電池1で使用される添加剤、例えばフィラー、分散材、イオン伝導材などが適宜配合されていても良い。
【0057】
負極活物質層22の厚みは、特に制限されないが、前記負極活物質が粒状の場合には、例えば、電池として完成した状態での厚みが、1μm以上30μm以下、好ましくは5μm以上20μm以下である。このような厚みにすることにより、負極活物質層22の上述した効果を十分に得つつ負極活物質層22の抵抗値を十分に低減でき、全固体二次電池1の特性を十分に改善できる。
一方で、負極活物質層22の厚みは、前記負極活物質が均一な層を形成する場合には、例えば、1nm以上100nm以下である。この場合の負極活物質層22の厚みの上限値は、好ましくは95nm、より好ましくは90nm、さらに好ましくは50nmである。
【0058】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、負極活物質層22は、全固体二次電池1の負極活物質層22として、利用可能な任意の構成を採用することが可能である。
例えば、負極活物質層22は、前述した負極活物質と、固体電解質と、負極層導電助剤とを含む層であっても良い。
【0059】
この場合、例えば、前記負極活物質として金属活物質またはカーボン(carbon)活物質等を用いることができる。前記金属活物質としては、例えば、リチウム(Li)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、及びケイ素(Si)等の金属、ならびにこれらの合金等を用いることができる。また、カーボン活物質としては、例えば、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス(coke)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール(furfuryl alchol)樹脂焼成炭素、ポリアセン(polyacene)、ピッチ(pitch)系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、及び難黒鉛化性炭素等を用いることができる。なお、これらの負極活物質は、単独で用いられても良く、また2種以上を組み合わせて用いられても良い。
【0060】
前記負極層導電助剤および前記固体電解質は、正極活物質層12に含まれる導電剤及び固体電解質と同様の化合物を用いることができる。そのため、これらの構成についてのここでの説明は省略する。
【0061】
(1-3.固体電解質層)
前記固体電解質層30は、例えば、図1及び図2に示すように、正極層10と負極層20との間に形成される層であり、固体電解質を含むものである。
本実施形態では、固体電解質層30は、正極層10と負極層20との間に積層されている。
固体電解質層30の厚みは、電池として完成した状態での厚みが5μm以上100μm以下であればよい。この厚みは8μm以上80μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0062】
前記固体電解質は例えば、粉末状のものであり、例えば硫化物系固体電解質材料で構成される。
該硫化物系固体電解質材料としては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(Xはハロゲン元素、例えばI、Br、Cl)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、Li2-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは正の数、ZはGe、ZnまたはGaのいずれか)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、GaまたはInのいずれか)等を挙げることができる。ここで、前記硫化物系固体電解質材料は、出発原料(例えば、LiS、P等)を溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法等によって処理することで作製される。また、これらの処理の後にさらに熱処理を行っても良い。固体電解質は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良く、両者が混ざった状態でも良い。
【0063】
また、固体電解質として、上記の硫化物系固体電解質材料のうち、硫黄と、ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される1種以上の元素とを含有する材料を用いることが好ましい。これにより、固体電解質層30のリチウム伝導性が向上し、全固体二次電池1の電池特性が向上する。特に、固体電解質として少なくとも構成元素として硫黄(S)、リン(P)及びリチウム(Li)を含むものを使用するのが好ましく、特にLiS-Pを含むものを用いることがより好ましい。
【0064】
ここで、固体電解質を形成する硫化物系固体電解質材料としてLiS-Pを含むものを用いる場合、LiSとPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50~90:10の範囲で選択されてもよい。また、固体電解質層30には、バインダを更に含んでいても良い。固体電解質層30に含まれるバインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、ポリアクリル酸(PAA)等を挙げることができる。固体電解質層30に含まれるバインダは、正極活物質層12および負極活物質層22内のバインダと同じ種類のものであってもよいし、異なる種類のものであっても良い。
【0065】
(1-4.集電部)
図2及び図3に示すように、正極集電体11は側方に突出した正極集電部111を備え、この正極集電部111を介して外部の配線に接続されている。同様に、負極集電体21は側方に突出した負極集電部211を備え、この負極集電部211を介して外部の配線に接続されている。なお、図3は本実施形態に係る全固体二次電池を積層方向から視たものであり、図2は、この全固体二次電池を図3におけるA-A線で切った断面図である。
なお本明細書において側方とは、例えば、正極集電体の外周縁からその表面に沿って外側に向かう方向のことであり、より具体的には、全固体二次電池を構成する各層の積層方向に対して垂直な方向等を指す。
【0066】
本実施形態では、正極集電部111が絶縁層13の内部に向かって突出するように構成されている。なお、説明の便宜上、各図においては、この正極集電部111が突出する方向を突出方向、全固体二次電池1を構成する各層を前記積層方向から視た平面図における前記突出方向に対して垂直な方向を幅方向としている。
なお、本実施形態においては、正極集電部111と負極集電部211とは前記突出方向においてほぼ平行に、かつほぼ同じ長さで突出しているものとしているが、これらの突出方向及び突出長さは、互いに同じであっても良いし異なっていても良い。
【0067】
(1-5.絶縁層)
絶縁層13は、例えば、正極層10の正極活物質層12の側端面Sの全体を覆うように正極活物質層12の側端面Sに密着して配置されたものである。この絶縁層13は、電気を通さない素材である絶縁層材料13Aを用いて形成されているものであり、体積抵抗率が1012Ω/cm以上であることが好ましい。絶縁層材料13Aを構成する素材としては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン、またはこれらのコポリマーなどの樹脂を含有する樹脂フィルム等を挙げることができる。樹脂としては、前記のようなポリオレフィン系の樹脂材料の他、ポリ塩化ビニル(PVC)といったビニル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)といったアクリル系樹脂、ポリカーボネイト(PC)、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)といったフッ素系樹脂、また列挙したこれらの複合樹脂なども挙げることができる。
このような樹脂フィルムであれば、例えば、等方圧プレス等の加圧成形によって、正極層10に密着させて剥がれ落ちにくくすることができる。また、該絶縁層材料13Aが、これらの樹脂に絶縁性のフィラーなどを混ぜ込んだものであればなお良い。絶縁層材料13Aが、絶縁性フィラーを含有することによって、絶縁層材料13A同士の密着性が良くなり、絶縁層材料13Aによって絶縁層13を形成する際や使用時における、絶縁層13の強度を向上させることができる。また、絶縁層材料13Aが、樹脂とともに絶縁性のフィラーを含有することによって、絶縁層13の表面に絶縁性フィラーを混ぜ込むことによる微細な凹凸を形成することができる。この絶縁層13の表面の凹凸形状によって、固体電解質層30を積層する際に固体電解質層30が絶縁層13からより剥がれ落ちにくくすることもできる。前記絶縁性フィラーは、粒子状、繊維状、針状又は板状のものなど様々な形状のものを使用することができる。これらの中でも、前記効果を特に顕著に奏するものとして繊維状又は不織布状の絶縁性フィラーを使用することが好ましい。
【0068】
前記絶縁性フィラーとしては、コスト上昇を抑える観点から、例えば、繊維状樹脂、樹脂製不織布、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、ベーマイト、チタン酸バリウム、炭酸バリウム、イットリア及び酸化マンガンからなる群より選ばれる1種以上の物質からなるものを使用することが好ましい。
【0069】
絶縁層13の電池として完成した状態での厚みは、特に限定されないが、例えば、20μm以上1000μm以下であることが好ましく、50μm以上500μm以下であることがより好ましく、100μm以上300μm以下であることが特に好ましい。この好ましい厚みは正極層10の厚みに応じて変わり、絶縁層13の厚みは正極層10の厚みと近い厚みのものが適している。
本実施形態のように、正極集電体11の両面に正極活物質層12が形成されている場合には、絶縁層13も正極活物質層12と同様に正極集電体11及び正極集電部111をこれらの両側から挟み込むように2層設けられている。このように正極集電体11及び正極集電部111を挟み込む2層の絶縁層13の合計厚みは、正極集電体11の両面に形成された2つの正極活物質層12の合計厚みとほぼ同じ厚みになっていることが好ましい。
【0070】
<2.本実施形態に係る全固体二次電池の特徴構成>
本実施形態に係る絶縁層13は、該絶縁層13によって覆われている正極集電体11の側端(外縁)の少なくとも一部について、その位置を該絶縁層13の外側から、該絶縁層13を介して光学的に識別可能なものである。
【0071】
本明細書において、光学的に識別可能であるとは、例えば、人の目で観察した場合に絶縁層13が半透明又は透明であり、絶縁層13の外側から、絶縁層13の内部に配置されている正極集電体11の外縁の位置を人が目視で確認できる、又は絶縁層13の外側からカメラなどの撮像装置によって画像データを取得し、取得した画像データに基づいて正極集電体11の外縁の位置を算出できること等を意味する。
【0072】
絶縁層13を外側から光学的に識別可能なものとするためには、例えば、白色LEDを使用した場合における絶縁層13の全光線透過率が25%以上100%未満である樹脂等によって絶縁層13を形成することが好ましい。前記全光線透過率は40%以上であることが好ましく、60%以上であることが特に好ましい。
【0073】
前記絶縁層13が、外側から光学的に識別可能なものであることを示す他の指標としては、例えば、前記絶縁層13又は前記絶縁層13を形成する樹脂の直線光透過率、反射率、拡散光透過率、ヘイズ値(拡散光透過率×100/全光線透過率)等を挙げることができる。なお、前記絶縁層13が、該絶縁層13を介して前記正極集電体11の外縁を光学的に識別可能なものであるというためには、これら指標のうち少なくとも1つの指標の値が好適範囲内のものとなっていればよい。
【0074】
例えば、直線光透過率については、400nm以上800nm以下の波長範囲内の少なくとも1つの波長において、絶縁層の厚みを100μmとした場合の直線光透過率が20%以上100%未満であることが好ましく、21%以上であることがより好ましく、22%以上であることが特に好ましい。また400nm以上800nm以下の波長範囲内のうち2つまたは3つの波長において直線光透過率が20%以上であることが好ましい。
反射率については0%を超えて80%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、20%未満であることが特に好ましい。
拡散光透過率については、0%を超えて80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、20%未満であることが特に好ましい。
ヘイズ値は、0%を超えて90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、20%未満であることが特に好ましい。
【0075】
絶縁層13の全体を半透明又は透明なものとすれば、絶縁層13を介して正極集電体11の外縁全体が視認できるため、正極集電体11の外縁の位置をより確認しやすく好ましい。
【0076】
正極集電体が、正極活物質層よりも一回り大きく形成されており、正極集電体の外縁の少なくとも一部、より好ましくは全部が正極活物質層の外縁よりも外側に位置するように配置されるものであることが好ましい。
【0077】
<3.本実施形態に係る全固体二次電池の製造方法>
続いて、本実施形態に係る全固体二次電池1を製造する方法及び手順の一例について図4~9を参照しながら説明する。なお、図4、7、8及び9は、製造途中の全固体二次電池を図3中のA-A線で切った断面図を表している。
【0078】
本実施形態に係る全固体二次電池1の製造方法は、以下のような工程を含むものである。
(3-1.正極層の作製)
正極活物質層12を構成する材料(正極活物質、バインダ等)を非極性溶媒に添加することで、正極活物質層塗工液(この正極活物質層塗工液は、スラリー(sullury)状のものであってもいし、ペースト(paste)状のものであってもよい。他の層を形成するために使用される塗工液も同様である。)を作製する。ついで、図4(a)に示すように、得られた正極活物質層塗工液を正極集電体11の両表面に塗布、乾燥した後、正極集電体11と塗布した正極活物質層12をトムソン刃などで矩形板状に打抜く。このようにして得られた積層体を正極層構造体と呼ぶ。この正極構造体をPETフィルムが敷かれたアルミ板上に置き、この正極構造体の周囲に絶縁層13を形成する2枚の絶縁層材料13Aをそれぞれの正極活物質層12を挟み込むように1枚ずつ配置して、これら全体の上にさらにPETフィルムを配置した後、ラミネートパックして等方圧による加圧処理をする(等方圧プレス)ことによって、積層方向から圧力をかけて図4(b)に示す、正極層絶縁層複合体10Aを作製する。
【0079】
なお、前述した加圧処理の際には、正極集電部111の突出部分を包み込んで保護する集電部保護部材14によって正極集電部111の全体が両面から覆われるようにしてあることが好ましい。
集電部保護部材14は、少なくとも等方圧をかけている間、正極集電部111全体を隙間なく覆うことができるように、正極集電部111の面積よりも大きい面を有するものであればよく、その形状は特に限定されない。集電部保護部材14は、例えば、図5に示すように絶縁層13と一体に形成され、絶縁層13の幅と同じ幅及び厚みで、絶縁層13から正極集電部111と同じ方向に正極集電部111よりも大きく突出する矩形板状の余剰絶縁層14とするのが製造のしやすさという観点から好ましい。なお、各図面では分かりやすいように、絶縁層13と余剰絶縁層14との間に想像線を記載してある。
本実施形態では、この余剰絶縁層14は、図6(a)に示すように、リング状の絶縁層材料13Aの端部に一体に形成された集電部保護部材材料14Aによって形成されるものである。
本実施形態では、図8に示すような、絶縁層材料13Aと集電部保護部材材料14Aとを備える余剰絶縁層材料13Bを2枚用意し、これら2枚の余剰絶縁層材料13Bを、正極集電部111全体の両面を集電部保護部材材料14Aで挟むように配置してから等方圧による圧力処理をすることによって、正極集電部111を余剰絶縁層14で覆うようにしてある。
【0080】
(3-2.負極層の作製)
負極活物質層22を構成する材料(負極活物質、バインダ等)を極性溶媒または非極性溶媒に添加することで、負極活物質層塗工液を作製する。ついで、図7(a)に示すように、得られた負極活物質層塗工液を負極集電体21上に塗布し乾燥する。これを矩形板状となるようにトムソン刃などで打抜くことにより負極層20を作製する。
【0081】
(3-3.固体電解質層の作製)
固体電解質層30は、硫化物系固体電解質材料にて形成された固体電解質により作製することができる。固体電解質の作製方法は以下の通りである。
【0082】
まず、溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法により出発原料を処理する。
例えば、溶融急冷法を用いる場合、出発原料(例えば、LiS、P等)を所定量混合し、ペレット状にしたものを真空中で所定の反応温度で反応させた後、急冷することによって硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、LiSおよびPの混合物の反応温度は、好ましくは400℃~1000℃であり、より好ましくは800℃~900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間~12時間であり、より好ましくは1時間~12時間である。さらに、反応物の急冷温度は、通常10℃以下であり、好ましくは0℃以下であり、急冷速度は、通常1℃/sec~10000℃/sec程度であり、好ましくは1℃/sec~1000℃/sec程度である。
【0083】
また、メカニカルミリング法を用いる場合、ボールミルなどを用いて出発原料(例えば、LiS、P等)を撹拌させて反応させることで、硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、メカニカルミリング法における撹拌速度および撹拌時間は特に限定されないが、撹拌速度が速いほど硫化物系固体電解質材料の生成速度を速くすることができ、撹拌時間が長いほど硫化物系固体電解質材料への原料の転化率を高くすることができる。
【0084】
その後、溶融急冷法またはメカニカルミリング法により得られた混合原料を所定温度で熱処理した後、粉砕することにより粒子状の固体電解質を作製することができる。固体電解質がガラス転移点を持つ場合は、熱処理によって非晶質から結晶質に変わる場合がある。
【0085】
続いて、上記の方法で得られた固体電解質と、他の添加剤、例えば、バインダ等と分散媒とを含む固体電解質層塗工液を作製する。分散媒としては、キシレン、ジエチルベンゼンなどの汎用の非極性溶媒を用いることができる。もしくは固体電解質と比較的反応性の乏しい極性溶媒を用いることもできる。固体電解質及び他の添加物の濃度は、形成する固体電解質層30の組成及び液状組成物の粘度などに応じて、適宜調節することができる。
【0086】
前述した固体電解質の液状組成物を表面が離型処理されたPETフィルム上にブレードで塗工し、乾燥させた後、PETフィルム上に固体電解質層30が形成された固体電解質シートを作製する。
【0087】
(3-4.積層工程)
前述したようにして作製した負極層20の片面に、図7(a)にしめすように、負極層20と同じ形状またはより大きな形状になるように打ち抜いた固体電解質シートを積層し、これらを等方圧プレスすることによって、図7(b)に示すように、負極層20と固体電解質層30とを密着させ一体化する。固体電解質層30が負極層20より大きな形状の場合、固体電解質層30のうち、負極層20上に積層したときに外側に突出している部分については除去することもできる。この積層体を、電解質負極構造体20Aと呼ぶことにする。
次に、図8(a)に示すように、前述した正極層絶縁層複合体10Aを両面から2つの電解質負極構造体20Aで挟むように積層する。このとき、正極層10の両面に電解質負極構造体20Aの固体電解質層30がそれぞれ接触するように電解質負極構造体20Aを積層し、これら全体をラミネートパックして等方圧プレスすることによって、図8(b)に示すような切り取り前全固体二次電池1Aを製造する。
なお、図1、2、8及び9においては、負極集電部211と絶縁層13との間には隙間があるように見えるが、積層された時点において、これらの間には実際にはほとんど隙間が無く、加圧時にはこの負極集電部211全体が絶縁層13に押し付けられることによってその片面から絶縁層13によって支持されている。
【0088】
本実施形態では前述した積層工程において、図3に示すように、絶縁層13の外縁1Eの一辺が正極集電部111及び負極集電部211の突出方向において、これら正極集電部111及び負極集電部211よりも外側まで延出するようにしてある。本実施形態では、絶縁層13の外縁1Eの前記突出方向における一辺全体が同じ位置に揃っているものを説明したが、絶縁層13の外縁1Eは正極集電部111及び負極集電部211が突出している部分においてのみ前記突出方向に延出するような形状のものとしても良い。
【0089】
絶縁層13の外縁1Eは、前述したように正極集電部111及び負極集電部211が突出している部分においてのみ前記突出している場合であっても、突出方向における外縁1Eのすべてが負極層20の外縁2Eの外縁よりも外側に配置されていることが好ましい。さらに、負極層2の外縁2Eが絶縁層13上に位置するように積層すれば、外部からの圧力によって負極層20が正極層10側に押し付けられて変形してしまった場合であっても、正極層10と負極層20との間の物理的接触による短絡を抑制することができるので好ましい。
【0090】
絶縁層13の外縁1Eとは、図3に示すように、絶縁層13の側端面のうち、積層方向に対して垂直な方向における最も外側の縁(外縁)を指す。また、負極層20の外縁2Eとは、負極層20の側端面のうち、積層方向に対して垂直な方向における最も外側の縁(外縁)を指し、本実施形態においては、例えば、負極集電体21又は負極活物質層22の側端面のうち積層方向に対して垂直な方向における最も外側の縁のことである。
【0091】
このように正極集電部111及び負極集電部211を支持するように延出している延出部分13Fにおける絶縁層13の厚みは前述したリング状部分13Eにおける絶縁層13の厚みと同じになるようにしてあることが好ましい。
このように構成することによって、後述する等方圧プレスの際に、この絶縁層13によって正極集電部111及び負極集電部211を少なくともその片面から、正極集電部111及び負極集電部211の全面をできるだけ段差なく支持して保護することができる。
【0092】
(3-5.等方圧プレス)
以下に、前述した等方圧プレスによる加圧処理(加圧工程)について説明する。
等方圧プレスは、積層体の少なくとも一方の面側に例えば、SUS板などの支持板を配置して行う。この等方圧プレスによって、正極層絶縁層複合体10A、電解質負極構造体20A又は全固体二次電池1を形成する各積層体に対して、その積層方向からの加圧処理を行うことができる。
等方圧プレスの圧力媒体としては、水やオイル等の液体や、粉体等を挙げることができる。圧力媒体としては液体を用いることがより好ましい。
等方圧プレスにおける圧力は、特に限定されないが、例えば10~1000MPa、好ましくは100~500MPaとすることができる。また、加圧時間は、特に限定されず、例えば1~120分、好ましくは5~30分とすることができる。さらに、加圧時における圧力媒体の温度も特に限定されず、例えば20~200℃、好ましくは50~100℃とすることができる。
なお、等方圧プレス時には、全固体二次電池1を構成する積層体は、支持板と共に、樹脂フィルム等によりラミネートされ、外部雰囲気から遮断された状態とすることが好ましい。
等方圧プレスは、ロールプレス等の他のプレス法と比較し、全固体二次電池1を構成する各層の割れの抑制や、全固体二次電池1の反り防止、電極面積の増加に関わらない高圧プレスが可能といった観点から有利である。
【0093】
その後、図9に示すように、切り取り前全固体二次電池1Aから余剰絶縁層14を除去する除去工程を経ることによって、全固体二次電池1が完成する。なお、図9中、図9(a)は切り取り前全固体二次電池1Aを、図9(b)は余剰絶縁層14を除去した後の全固体二次電池1を示す。この図9では、絶縁層13が2枚の絶縁層材料13Aで形成されているが、これら絶縁層材料13Aは、例えば、初回充電時に加熱されて一体化するものとしても良い。
余剰絶縁層14は、正極集電部111が露出するように、例えば、全固体二次電池1を構成する各層の積層方向に対して垂直な方向へ手で引っ張って切り取る。この時、例えば、図6(b)に示すように絶縁層13と余剰絶縁層14との間の厚み方向に切り込み13Cを入れておけば、余剰絶縁層14を除去しやすい。
なお、余剰絶縁層14を取り除く方法は前述したものに限らず、例えば、人の手ではな
く工具や機械によって取り除くようにしても良い。
【0094】
<4.本実施形態に係る全固体二次電池による効果>
本実施形態に係る全固体二次電池1によれば、前記正極層の側端面を前記絶縁層で覆ってしまった後に前記正極集電体の位置がずれたり、正極集電体が折れ曲がったりして、正極集電体が所望の位置に配置されていないことを早期に発見することができる。
その結果、正極集電体が所望の位置に配置されていないことによる短絡の発生を抑えて、従来よりもさらに短絡が起こりにくい全固体二次電池を提供することができる。
【0095】
<5.本実施形態に係る積層全固体二次電池の製造方法>
前述したようにして製造した全固体二次電池1を複数個積層することによって、積層全固体二次電池を製造することができる。
このように全固体二次電池1同士を積層する場合には、複数の全固体二次電池1の正極集電部111同士、負極集電部211同士をそれぞれ積層方向において揃えて重ねた後に加圧又は溶接して、各全固体二次電池1が備える正極集電部111同士、負極集電部211同士をそれぞれ導通させる。
【0096】
<6.本実施形態に係る全固体二次電池の充放電>
本実施形態に係る全固体二次電池1の充放電について以下に説明する。
本実施形態に係る全固体二次電池1は、その充電時の初期においては、負極活物質層22内のリチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質がリチウムイオンと合金又は化合物を形成することにより、負極活物質層22内にリチウムが吸蔵される。その後、負極活物質層22により発揮される充電容量を超えた後は、負極活物質層22の一方又は両方の表面上に金属リチウムが析出し、金属リチウム層が形成される。金属リチウムは、合金又は化合物を形成可能な負極活物質を介して拡散しつつ形成されたものであるため、樹枝状(デンドライト状)ではなく、主に負極活物質層22と負極集電体21との間に均一に形成されたものとなる。放電時には、負極活物質層22及び前記金属リチウム層中から金属リチウムがイオン化し、正極活物質層12側に移動する。したがって、結果的に金属リチウム自体を負極活物質として使用することができるので、エネルギー密度が向上する。
【0097】
さらに、前記金属リチウム層が、負極活物質層22と負極集電体21との間、すなわち負極層20の内部に形成される場合、負極活物質層22は、前記金属リチウム層を被覆することになる。これにより、負極活物質層22は金属リチウム層の保護層として機能する。これにより、全固体二次電池1の短絡及び容量低下が抑制され、ひいては、全固体二次電池1の特性が向上する。
【0098】
負極活物質層22において、金属リチウムの析出を可能とする方法としては、例えば、正極活物質層12の充電容量を負極活物質層22の充電容量より大きくする方法を挙げることができる。具体的には、正極活物質層12の充電容量と負極活物質層22の充電容量との比(容量比)は、以下の数式(1)の要件を満たす。
0.002<b/a<0.5 (1)
a:正極活物質層12の充電容量(mAh)
b:負極活物質層22の充電容量(mAh)
【0099】
前記数式(1)で表される容量比が0.002より大きい場合には、負極活物質層22の構成に関わらず、負極活物質層22がリチウムイオンからの金属リチウムの析出を十分に媒介することができるので、金属リチウム層の形成が適切に行われやすくなる。また、前記金属リチウム層が負極活物質層22と負極集電体21との間に生じる場合、負極活物質層22が保護層として十分に機能することが可能であるため好ましい。そのため、上記容量比は、より好ましくは、0.01以上、さらに好ましくは0.03以上である。
【0100】
また、上記容量比が0.5未満である場合と、充電時において負極活物質層22がリチウムの大部分を貯蔵してしまうということがないので、負極活物質層22の構成に関わらず、金属リチウム層を均一に形成しやすくなる。上記容量比は、より好ましくは0.2以下であり、さらに好ましくは0.1以下である。
【0101】
前記容量比は0.01より大きいことがより好ましい。容量比が0.01以下となる場合、全固体二次電池1の特性が低下する恐れがあるからである。この理由としては、負極活物質層22が保護層として十分機能しなくなることが挙げられる。例えば、負極活物質層22の厚さが非常に薄い場合、容量比が0.01以下となりうる。この場合、充放電の繰り返しによって負極活物質層22が崩壊し、デンドライトが析出、成長する可能性がある。この結果、全固体二次電池1の特性が低下してしまう恐れがある。また、前記容量比は、0.5よりも小さいことが好ましい。前記容量比が0.5以上になると、負極層20におけるリチウムの析出量が減って、電池容量が減ってしまうこともあり得るからである。同様の理由から、前記容量比が0.25未満であることがより好ましいと考えられる。また、前記容量比が0.25未満であることによって電池の出力特性も、より向上させることができる。
【0102】
ここで、正極活物質層12の充電容量は、正極活物質の充電比容量(mAh/g)に正極活物質層12中の正極活物質の質量を乗じることで得られる。正極活物質が複数種類使用される場合、正極活物質毎に比充電容量×質量の値を算出し、これらの値の総和を正極活物質層12の充電容量とすれば良い。負極活物質層22の充電容量も同様の方法で算出される。すなわち、負極活物質層22の充電容量は、負極活物質の充電比容量(mAh/g)に負極活物質層22中の負極活物質の質量を乗じることで得られる。負極活物質が複数種類使用される場合、負極活物質毎に充電比容量×質量の値を算出し、これらの値の総和を負極活物質層22の容量とすれば良い。ここで、正極活物質および負極活物質の充電比容量は、リチウム金属を対極に用いた全固体ハーフセルを用いて見積もられた容量である。実際には、全固体ハーフセルを用いた測定により正極活物質層12および負極活物質層22の充電容量が直接測定される。
【0103】
充電容量を直接測定する具体的な方法としては、以下のような方法を挙げることができる。まず正極活物質層12の充電容量は、正極活物質層12を作用極、Liを対極として使用した全固体ハーフセルを作製し、OCV(開放電圧)から上限充電電圧までCC-CV充電を行うことで測定する。該上限充電電圧とは、JIS C 8712:2015の規格で定められたものであり、リチウムコバルト酸系の正極活物質を使用する正極活物質層12に対しては4.25V、それ以外の正極活物質を使用する正極活物質層12についてはJIS C 8712:2015のA.3.2.3(異なる上限充電電圧を適用する場合の安全要求事項)の規定を適用して求められる電圧を指す。負極活物質層22の充電容量については、負極活物質層22を作用極、Liを対極として使用した全固体ハーフセルを作製し、OCV(開放電圧)から0.01VまでCC-CV充電を行うことで測定する。
【0104】
このようにして測定された充電容量をそれぞれの活物質の質量で除算することで、充電比容量が算出される。正極活物質層12の充電容量は、1サイクル目の充電時に測定される初期充電容量であってもよい。
【0105】
本発明の実施形態では、負極活物質層22の充電容量に対して正極活物質層12の充電容量が過大になるようにしてある。後述するように、本実施形態では、全固体二次電池1を、負極活物質層22の充電容量を超えて充電する。すなわち、負極活物質層22を過充電する。充電の初期には、負極活物質層22内にリチウムが吸蔵される。すなわち、負極活物質は、正極層10から移動してきたリチウムイオンと合金または化合物を形成する。負極活物質層22の容量を超えて充電が行われると、負極活物質層22の裏側、すなわち負極集電体21と負極活物質層22との間にリチウムが析出し、このリチウムによって金属リチウム層が形成される。
【0106】
このような現象は、負極活物質を特定の物質、すなわちリチウムと合金又は化合物を形成する物質で構成することで生じる。放電時には、負極活物質層22および金属リチウム層中のリチウムがイオン化し、正極層10側に移動する。したがって、全固体二次電池1では、金属リチウムを負極活物質として使用することができる。より具体的には、負極層20の充電容量(負極活物質層22及び前述した金属リチウム層により発揮される充電容量の合計充電容量)を100%とした場合、その80%以上の充電容量が前記金属リチウム層により発揮されるようにすることが好ましい。
【0107】
さらに、負極活物質層22は、前述した金属リチウム層を前記固体電解質層30側から被覆するので、前記金属リチウム層の保護層として機能するとともに、デンドライトの析出、成長を抑制することができる。これにより、全固体二次電池1の短絡および容量低下がより効率よく抑制され、ひいては、全固体二次電池1の特性が向上する。
【0108】
<7.本発明に係る他の実施形態>
本発明に係る全固体二次電池は、前述したものに限られない。
【0109】
前記集電部保護部材が正極集電部又は負極集電部を外部の配線に電気的に接続する導電部を備えるものとし、前記集電部保護部材を切り取らずに、絶縁層の一部としてそのまま残すようにしても良い。
【0110】
絶縁層13全体を半透明又は透明なものとする場合に限らず、絶縁層の一部のみについて半透明又は透明であるものとしても良い。
このように、前記絶縁層の一部のみを透明な樹脂で形成する等によって、正極集電体の一部のみが視認できるようにする場合には、その位置がずれることによる影響が特に大きい正極集電部の側端が視認できるようにしておくことが好ましい。
【0111】
正極集電体は、正極活物質層よりも一回り大きく形成されているものに限らず、正極集電部のみが正極活物質層から外側に突出しているものとしても良い。
前記実施形態では、前記正極層の側端面に絶縁層が配置されるものを説明したが、前記負極層の側端面にも絶縁層を備えるものとしてもよい。
【0112】
正極層と負極層との間に設けられている固体電解質層30は、少なくとも1層積層されていればよく、2層、3層、4層又はそれ以上積層されていても良い。
【0113】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池に限らず、箔状の集電部を備え、等方圧プレス等の加圧処理によって成形して製造する全固体二次電池に広く応用できるものである。
【実施例0114】
以下に、本発明についてさらに具体的な例を挙げて詳説するが、本発明はこれらにかぎられないことは言うまでもない。
【0115】
<絶縁層を形成する絶縁性樹脂材料についての検討>
以下に記載する実施例及び比較例において絶縁層を形成するために使用した絶縁性樹脂フィルムについてこれら樹脂フィルムを用いて絶縁層を形成した場合に、絶縁層の外側から内部に配置された正極集電体の外縁の位置を光学的に識別可能であるか否か(以下、視認性とする。)を以下のようにして確認した。
【0116】
[直線光透過率]
2.5cm四方に切断した正極用集電箔に3.1cm四方に切断した樹脂フィルムを上下から挟み、490MPaで30分、WIP装置で加圧処理を行った。絶縁層シート越しに正極用集電箔が目視で良好に確認できたものを◎、部分的に視認が若干困難だが確認可能なものを〇、視認できないものを×で評価した結果を表1に示す。なお、樹脂フィルムの厚みが異なる為、測定値を元にしてフィルム厚みで補正し、100μmとして算出した直線光透過率を図10及び図11に示し、代表波長として、450nm、600nm、750nmについて、紫外・可視・近赤外分光光度計UV3600(島津製作所製)にて測定した直線光透過率の値を表1に纏める。この結果から、正極集電体の外縁を外部から視認可能な絶縁層は、400nm以上800nm以下の少なくとも1つの波長において、絶縁層の厚みを100μmとした場合の直線光透過率が20%以上100%以下であることが分かる。
【0117】
【表1】
【0118】
[全光線透過率]
前記視認性は、前述したように、フィルムの直線光透過率において評価可能であるが、フィルムの拡散等で実際のフィルム厚みによっては、より良い指標が必要であることが考えられる。そこで、全光線透過率をヘイズメーターNDH7000(日本電色工業製)にて測定した。ここで全光線透過率=直線透過率+拡散透過率を示す。測定法はJISK7136に準拠し、光源には白色LEDを使用した。樹脂フィルムは490MPaで30分、WIP装置で加圧処理を行ったものを用いた。Entry1、2、3、4、5、6、9の樹脂フィルムについて測定した結果を図12および表2に示す。これら結果から、視認性が確認可能な樹脂フィルムに関しては全光線透過率が25%を以上であることが示されている。
【表2】
【0119】
[レーザー光反射実験]
前述した直線光透過率を測定する際に用いた正極集電体を樹脂フィルムで挟んだサンプルを使用し、樹脂フィルム越しに集電箔に波長655nmのレーザー光をあて、反射された光を検出した。測定装置としてレーザー変位計LK-G10A(キーエンス製)を用いた。樹脂フィルムとしてEntry1、2、3、9を用いた。図13に示す通り、絶縁層の外側から正極集電体の外縁を視認可能なサンプルの場合は、反射光のピークが2つ存在し、視認不可能なサンプルの場合は反射光のピークが1つしか観測されなかった。視認不可能なものは樹脂フィルム表面からの反射光のみが検出されるのに対し、視認可能なものは樹脂フィルム表面および集電箔表面からの反射光も検出されることによる。この測定から、光学的な機能を備えた機械によって検出が可能であることが示された。
【0120】
(実施例1)
実施例1においては、表1のEntry1の絶縁性樹脂フィルムを用いて絶縁層を形成した全固体二次電池を作製した。
[正極層構造体の作製]
正極活物質としてのLiNi0.8Co0.15Mg0.05(NCM)を用いた。この活物質に対し、非特許文献2に書かれている方法でLiO-ZrO被覆を行った。固体電解質として、Argyrodite型結晶であるLiPSClを準備した。また、バインダとして、ポリテトラフルオロエチレン(デュポン社製テフロン(登録商標)バインダ)を準備した。また、導電助剤としてカーボンナノファイバー(CNF)を準備した。ついで、これらの材料を、正極活物質:固体電解質:導電助剤:バインダ=85:15:3: 1.5の質量比で混合し、混合物をシート状に引き伸ばし、正極シートを作製した。さらにこの正極シートをトムソン刃で規定の形状に打ち抜き使用した。正極集電体は1μm厚のアンダーコート層を塗工した10μm厚のアルミ箔をピナクルダイで規定の形状に打ち抜いたものを使用した。この時、正極集電体の外縁の全周が正極活物質層の外側に位置するように、正極集電体は外周部が一回り大きいものを使用した。
この正極集電体及び正極活物質層を、表面が離型処理されたPETフィルム(以下、離型フィルム)を貼った厚さ3mmのアルミ板(支持材)上に載せて、2枚の余剰絶縁層材料13Bを、そのリング状部分が正極活物質層12の周囲を取り囲み、かつ集電部保護部材材料14Aが正極集電体11から突出している正極集電部111をその両面から挟むように配置した後、さらに離型フィルムで覆い、厚さ0.3mmで、正極活物質層及び余剰絶縁層材料13Bのリング状部分を合わせた形状と同形状、すなわち余剰絶縁層材料13Bのうちの集電部保護部材材料14Aは覆わない形状のSUS製の金属プレート(支持材)でさらに覆った後、支持材を含めて真空ラミネートパックを行った。加圧媒体中に沈め、490MPaにて静水圧処理(等方圧プレスによる圧密化工程)を行うことで、余剰絶縁層材料13Bの絶縁層材料13Aの部分を正極集電体11及び正極活物質層12と一体化させた。この際、正極用導電部13E1は正極集電体11から突出するように形成されている正極集電部111と接触した構造となる。
この正極集電体11の両面に正極活物質層12が積層された正極層10と、これら正極活物質層12の積層方向とは異なる側周面を覆う絶縁層13及び集電部保護部材14とを備えたものを正極層絶縁層複合体10Aと呼ぶこととする。
【0121】
前述した余剰絶縁層材料13Bは、以下のようにして作製した。絶縁性の樹脂フィルムを例えば、ピナクルダイ(登録商標)で打ち抜いて、正極活物質層12を内部に収容するための収容穴が形成された余剰絶縁層材料13Bを製造した。本実施例で使用した絶縁性の樹脂フィルムは、絶縁性フィラーとして樹脂製不織布を含有する大日本印刷株式会社製のものである。前記余剰絶縁層材料13Bの形状は、図6に示したように、正極活物質層12をその周囲から丁度囲める大きさの収容穴を有するリング状の絶縁層材料13Aから集電部(111、211)を保護する四角形状の集電部保護部材材料14Aが一方向に延出している構造とした。
【0122】
[負極層の作製]
負極集電体21として厚さ10μmのニッケル箔集電体を用意した。また、負極活物質として、旭カーボン社製CB1(窒素吸着比表面積は約339m2/g、DBP給油量は約193ml/100g)、旭カーボン社製CB2(窒素吸着比表面積は約52m2/g、DBP給油量は約193ml/100g)、および粒径60nmの銀粒子を準備した。なお、この銀粒子の粒径は、例えばレーザー式粒度分布系を用いて測定したメジアン径(いわゆるD50)を用いることができる。
ついで、1.5gのCB1及び1.5gのCB2、1gの銀粒子を容器に入れ、そこへバインダ(クレハ社製#9300)5質量%を含むN-メチルピロリドン(NMP)溶液を4g加えた。ついで、この混合溶液に総量30gのNMPを少しずつ加えながら混合溶液を撹拌することで、負極活物質層塗工液を作製した。この負極活物質層塗工液をNi箔上にブレードコーターを用いて塗布し、空気中で80℃で約20分間乾燥させ負極活物質層22を形成した。これにより得られた積層体を100℃で約12時間真空乾燥しピナクルダイ(登録商標)で打抜いた。以上の工程により、負極層20を作製した。
【0123】
[固体電解質シートの作製]
まず、固体電解質層塗工液を作製した。
硫化物系固体電解質としてのLi2S-P2S5(80:20モル%)非晶質粉末に、固体電解質に対して1質量%となるように、脱水キシレンに溶解したSBRバインダを添加して1次混合スラリーを生成した。さらに、この1次混合スラリーに、粘度調整のための脱水キシレンおよび脱水ジエチルベンゼンを適量添加することで、2次混合スラリーを生成した。さらに、混合粉の分散性を向上させるために、直径5mmのジルコニアボールを、空間、混合粉、ジルコニアボールがそれぞれ混練容器の全容積に対して1/3ずつを占めるように3次混合スラリーに投入した。これにより作製した3次混合液を自転公転ミキサに投入し、3000rpmで3分撹拌することで、固体電解質層塗工液を作製した。
作製した固体電解質層塗工液を、表面が離型処理されたPETフィルム上にブレードで塗工し、40℃のホットプレートで10分乾燥させた後、40℃で12時間真空乾燥させ固体電解質シートを得た。乾燥後の固体電解質層の厚みは65μm前後であった。乾燥した固体電解質シートはトムソン刃で打ち抜き、所定の大きさに加工した。
【0124】
[電解質負極構造体の作製]
固体電解質層30と負極活物質層22とが接触するように負極層20の表面に固体電解質シートを配置し、これらを離型フィルムの貼られた厚さ3mmのアルミ板(支持材)上に載せて、前記支持材を含めて真空ラミネートパックを行った。加圧媒体中に沈め、50MPaにて静水圧処理(等方圧プレスによる圧密化工程)を行うことで、固体電解質シート上の固体電解質層は負極層20と一体化した。これを電解質負極構造体20Aと呼ぶこととする。
【0125】
[全固体二次電池の作製]
正極層絶縁層複合体10Aを2つの電解質負極構造体20Aで挟むように配置して加圧前全固体二次電池である積層体を得た。この積層体を、離型フィルムを貼った厚さ3mmのアルミ板(支持材)上に載せて、さらに離型フィルムで覆い、前記[正極層の作製]で用いたのと同形状の厚さ0.3mmのSUS製の金属プレート(支持材)でさらに覆った後、支持材を含めて真空ラミネートパックを行った。加圧媒体中に沈め、490MPaにて静水圧処理(等方圧プレスによる圧密化工程)を行い、切り取り前全固体二次電池1Aを得た。最後に、切り取り前全固体二次電池1Aから、余剰絶縁層14を切り取って、全固体二次電池1の単セル(単電池)を得た。
なお、本実施例では、支持材としてアルミ板とSUS製の金属プレートを使用しているが、これら支持材の材質は、等方圧による加圧処理に耐えうる強度を有する素材であれば同様に使用可能である。
【0126】
[全固体二次電池の充放電評価]
作製した全固体二次電池1の単セルをその積層方向の外側から2枚の金属板で挟み、あらかじめ前記金属板に開けておいた穴に皿バネを入れたネジを通し、電池への印加圧力が1.0MPaとなるようネジを締め付けた。電池の特性評価は、正極集電部111及び負極集電部211に対して外部端子へ接続する為の金属タブを溶接した上で、45℃で、0.1Cの定電流で、上限電圧4.25Vまで充電した後、0.05Cの電流になるまで定電圧で充電し、放電は終止電圧2.5Vまで0.1Cで放電する充放電条件で充放電評価装置TOSCAT-3100により評価した。なお、同一充放電条件で行った充放電評価結果を図14に示す。図14に示すように、実施例1で作製した全固体二次電池は良好な充放電特性を示した。
【0127】
[全固体二次電池のサイクル評価]
また、充放電のサイクル評価のために、充放電評価の項で述べたように加圧した状態の全固体二次電池に対して、45℃で、0.33Cの定電流で、上限電圧4.25Vまで充電した後、0.1Cの電流になるまで定電圧で充電し、終止電圧2.5Vまで0.33Cで放電する充放電サイクル評価を行った。その結果を図15に示す。
この結果から、実施例1で作製した全固体二次電池は短絡することなく安定した充放電でサイクルしていることを確認した。
【0128】
(実施例2)
使用する絶縁性樹脂フィルムを表1のEntry3のものとした以外は実施例1と同様に全固体二次電池を作製し、実施例1と同じ条件で充放電試験及びサイクル試験を行った。結果を図16及び図17に示す。
これら図16及び図17の結果から、実施例2で作製した全固体二次電池は良好な充放電特性を示し、また短絡することなく安定した充放電でサイクルしていることを確認した。
【0129】
(実施例3)
実施例1で作製した全固体二次電池を2つ積層した積層全固体二次電池を作製し、実施例1と同じ条件で充放電試験及びサイクル試験を行った。結果を図18及び図19に示す。
これら図18及び図19の結果から、実施例3で作製した積層全固体二次電池は良好な充放電特性を示し、また短絡することなく安定した充放電でサイクルしていることを確認した。
【0130】
(比較例1)
使用する絶縁性樹脂フィルムを表1のEntry6のものとし、正極集電体の正極集電部を除く部分の外縁が大きさを正極活物質層の外縁と揃うように、打抜いた正極シートと同サイズの正極集電体を使用した以外は実施例1と同様に全固体二次電池を作製し、実施例1と同じ条件でサイクル試験を行った。結果を図20に示す。良好なセル特性を示す場合もあるが、図20に示すように不良なセル特性を示す場合も相当数みられた。
【0131】
(比較例2)
使用する絶縁性樹脂フィルムを表1のEntry7のものとした以外は実施例2と同様に全固体二次電池を作製したところ、作製直後の電圧が不良であった為、充放電試験を行えなかった。このように絶縁層を介して、その外側から正極集電体の外縁が確認できない場合、作製工程の途上においてセル内部で集電箔の亀裂や破断もしくは電極部材とのずれといった不良部が生じた場合でも確認しづらいといった問題が生じる。
【0132】
これら実施例及び比較例の結果から、絶縁層の全光線透過率が25%以上とした実施例1~3の場合には、ほとんど全ての全固体二次電池及び積層全固体二次電池において、充放電試験及びサイクル試験において異常が観察されなかった。一方で、絶縁層の全光線透過率が25%未満である比較例の場合には、全固体二次電池及び積層全固体二次電池の不具合が一定数生じることが確認された。
この結果から、絶縁層の全光線透過率を25%以上等とすることによって、正極集電体の外縁の位置を絶縁層を介して光学的に識別可能なものとすれば、全固体二次電池及び積層全固体二次電池における不具合の発生を従来よりもさらに低減できることが確認できた。
【符号の説明】
【0133】
1 全固体二次電池
10 正極層
11 正極集電体
111 正極集電部
12 正極活物質層
13 絶縁層
20 負極層
21 負極集電体
211 負極集電部
22 負極活物質層
30 固体電解質層
図1
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