(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151495
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】無縫製製品の製造方法及び無縫製製品の製造用治具
(51)【国際特許分類】
A41H 43/04 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A41H43/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061121
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大和 亮介
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 晃一
(72)【発明者】
【氏名】小宮 聡一郎
(57)【要約】
【課題】生地の端部の接着位置の不良を低減させ、且つ生産性を向上させることができる無縫製製品の製造方法及び無縫製製品の製造用治具を提供する。
【解決手段】生地の設置面の上に前記設置面よりも摩擦係数が大きく設定された高摩擦体を配置した後、前記高摩擦体の上に前記生地の端部が重ねられ、前記生地が前記設置面の上に設置される生地の設置工程と、前記生地に接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、前記設置面の上で前記高摩擦体を裏返して、前記高摩擦体に重ねられた前記生地の端部が折り返されて前記接着剤層に重ねられる生地の折り返し工程と、を含む、無縫製製品の製造方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地の設置面の上に前記設置面よりも摩擦係数が大きく設定された高摩擦体を配置した後、前記高摩擦体の上に前記生地の端部が重ねられ、前記生地が前記設置面の上に設置される生地の設置工程と、
前記生地上に接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記設置面の上で前記高摩擦体を裏返して、前記高摩擦体に重ねられた前記生地の端部が折り返されて前記接着剤層に重ねられる生地の折り返し工程と、
を含む、無縫製製品の製造方法。
【請求項2】
前記高摩擦体は、前記高摩擦体に対する前記生地の位置合わせを行うガイド部を有し、
前記生地の設置工程は、前記ガイド部に沿って前記高摩擦体の上に前記生地の端部が重ねられ、前記生地が前記設置面の上に設置される工程とされている、請求項1に記載の無縫製製品の製造方法。
【請求項3】
前記高摩擦体は、前記設置面よりも摩擦係数が大きく設定された第1の面と当該第1の面よりも摩擦係数が小さく設定された第2の面を有し、
前記生地の設置工程では、前記高摩擦体の第1の面の上に前記生地の端部が重ねられ、
前記生地の折り返し工程では、前記高摩擦体を裏返して前記第2の面を上に向けて配置する、請求項1又は請求項2に記載の無縫製製品の製造方法。
【請求項4】
前記生地は、前身頃と後身頃を備える無縫製衣類の生地であり、
前記生地の設置工程は、生地の設置面の上に複数の前記高摩擦体を配置した後、第1高摩擦体の上に前記前身頃を重ね、第2高摩擦体の上に前記後身頃を重ねる工程とされ、
前記生地の折り返し工程は、前記第1高摩擦体及び前記第2高摩擦体を裏返して、前記前身頃と前記後身頃とを重ね合わせる工程とされ、前記前身頃及び前記後身頃の少なくとも一方に前記接着剤層が形成されている、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の無縫製製品の製造方法。
【請求項5】
前記設置面は第1治具の設置面で構成されており、
前記生地の設置工程は、前記第1治具の設置面の上に前記設置面よりも摩擦係数が大きく設定された高摩擦体を配置した後、前記高摩擦体の上に前記生地の端部が重ねられ、前記生地が前記第1治具の上に設置される工程とされている、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の無縫製製品の製造方法。
【請求項6】
前記生地の設置工程の後に、前記第1治具の上に第2治具を重ねて配置し、前記第1治具と前記第2治具との間で前記生地を挟んで押える生地押え工程を含む、請求項5に記載の無縫製製品の製造方法。
【請求項7】
生地が設置される設置面と、
前記設置面の上に配置され、前記設置面よりも摩擦係数が大きく設定された高摩擦体と、を有し、
前記高摩擦体は、前記生地の端部が重ねられた状態で裏返されることにより、前記高摩擦体の上で折り返された前記生地の端部を前記生地上に形成された接着剤層に重ねる構成となっている、無縫製製品の製造用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無縫製製品の製造方法及び無縫製製品の製造用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インナー、スポーツウェア等の衣類において、接着剤を用いた生地同士の接着により製造される無縫製製品が注目されている。これらの無縫製製品では、ディスペンサに代表される塗布装置を用いて生地に接着剤を塗布し、生地の位置合わせをした後、圧着することで製造する方法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2020/049679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この従来の方法では、生地の折返し部分の端部の接着は、折り返された端部の位置合わせを手作業で行う必要があり、接着位置がずれた不良品が発生しやすくなるという課題があった。また、接着位置の精度を高めようとすると、生地の位置合わせに要する時間が長くなり、生産性を高めることが難しい。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、生地の端部の接着位置の不良を低減させ、且つ生産性を向上させることができる無縫製製品の製造方法及び無縫製製品の製造用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1>
生地の設置面の上に前記設置面よりも摩擦係数が大きく設定された高摩擦体を配置した後、前記高摩擦体の上に前記生地の端部が重ねられ、前記生地が前記設置面の上に設置される生地の設置工程と、
前記生地上に接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記設置面の上で前記高摩擦体を裏返して、前記高摩擦体に重ねられた前記生地の端部が折り返されて前記接着剤層に重ねられる生地の折り返し工程と、
を含む、無縫製製品の製造方法。
<2>
前記高摩擦体は、前記高摩擦体に対する前記生地の位置合わせを行うガイド部を有し、
前記生地の設置工程は、前記ガイド部に沿って前記高摩擦体の上に前記生地の端部が重ねられ、前記生地が前記設置面の上に設置される工程とされている、<1>に記載の無縫製製品の製造方法。
<3>
前記高摩擦体は、前記設置面よりも摩擦係数が大きく設定された第1の面と当該第1の面よりも摩擦係数が小さく設定された第2の面を有し、
前記生地の設置工程では、前記高摩擦体の第1の面の上に前記生地の端部が重ねられ、
前記生地の折り返し工程では、前記高摩擦体を裏返して前記第2の面を上に向けて配置する、<1>又は<2>に記載の無縫製製品の製造方法。
<4>
前記生地は、前身頃と後身頃を備える無縫製衣類の生地であり、
前記生地の設置工程は、生地の設置面の上に複数の前記高摩擦体を配置した後、第1高摩擦体の上に前記前身頃を重ね、第2高摩擦体の上に前記後身頃を重ねる工程とされ、
前記生地の折り返し工程は、前記第1高摩擦体及び前記第2高摩擦体を裏返して、前記前身頃と前記後身頃とを重ね合わせる工程とされ、前記前身頃及び前記後身頃の少なくとも一方に前記接着剤層が形成されている、<1>~<3>のいずれか1つに記載の無縫製製品の製造方法。
<5>
前記設置面は第1治具の設置面で構成されており、
前記生地の設置工程は、前記第1治具の設置面の上に前記設置面よりも摩擦係数が大きく設定された高摩擦体を配置した後、前記高摩擦体の上に前記生地の端部が重ねられ、前記生地が前記第1治具の上に設置される工程とされている、<1>~<4>のいずれか1つに記載の無縫製製品の製造方法。
<6>
前記生地の設置工程の後に、前記第1治具の上に第2治具を重ねて配置し、前記第1治具と前記第2治具との間で前記生地を挟んで押える生地押え工程を含む、<5>に記載の無縫製製品の製造方法。
<7>
生地が設置される設置面と、
前記設置面の上に配置され、前記設置面よりも摩擦係数が大きく設定された高摩擦体と、を有し、
前記高摩擦体は、前記生地の端部が重ねられた状態で裏返されることにより、前記高摩擦体の上で折り返された前記生地の端部を前記生地上に形成された接着剤層に重ねる構成となっている、無縫製製品の製造用治具。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、生地の端部の接着位置の不良を低減させ、且つ生産性を向上させることができる無縫製製品の製造方法及び無縫製製品の製造用治具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る製造用治具と無縫製製品の製造装置を示す模式図である。
【
図2】生地の設置面の上に高摩擦体を配置した状態を示す平面図である。
【
図3】高摩擦体及び第1治具の上に生地を設置した状態を示す平面図である。
【
図4】第1治具の上に、第2治具を重ねて配置した状態を示す平面図である。
【
図5】(A)~(G)は、製造用治具を用いた無縫製製品の製造方法の各工程を説明するための模式図である。
【
図6】本実施形態に係る折り返し工程の変形例を示す断面図であり、(A)には、生地が折り返される前の状態が示されており、(B)には、生地が折り返された後の状態が示されている。
【
図7】(A)~(B)は、高摩擦体が配置される設置面の変形例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
本開示において「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構成に加え、一部に形成されている形状の構成も包含される。また、本明細書において「層」を「膜」と称することがある。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。なお、本実施形態では、説明の便宜上、各図中に適宜示す矢印FR、矢印UP及び矢印LHで示す方向を、それぞれ、無縫製製品の製造装置10の前方側、上方側及び左方側と定義して説明する。
【0010】
(全体概要)
図1は、本開示に係る無縫製製品の製造用治具1と、無縫製製品の製造装置10(以下、単に「製造装置10」と称する。)の一実施形態を示す模式図である。この図に示されるように、製造用治具1は、高摩擦体50と、第1治具20と、第2治具22と、を含んでいる。また、製造装置10は、第1治具20が設置されるテーブル12と接着剤を吐出するノズル14と、テーブル12に対向して設けられたプレス機構16と、を含んでいる。
【0011】
接着剤は、熱可塑性ポリマーを主成分とするホットメルト接着剤で構成することができ、好ましくは、反応型ホットメルト接着剤で構成される。反応型ホットメルト接着剤は、湿気、光等によって3次元架橋構造を形成するため、耐熱性及び接着強度を向上させる点において好適である。本実施形態では、一例として、ウレタンプレポリマーを含む湿気硬化型ホットメルト接着剤によって接着剤が構成されている。
【0012】
ノズル14は、一例として、公知のディスペンサに代表される接着剤塗布装置のノズルで構成されており、エア式シリンジの先端に取り付けられている。シリンジ内には、加熱により溶融した接着剤が充填され、シリンジに所定の空気圧を付与することで、ノズル14の先端から所望の位置に接着剤が吐出されるように構成されている。本実施形態では、ノズル14から吐出した接着剤で生地30上にドット状のパターンを形成し接着剤層40(
図5(E)参照)を形成する。なお、接着剤の塗布パターンは、ビード状であってもよい。このように、本開示において「生地上に形成される接着剤層」には、生地30上に連続して接着剤を塗布して形成される接着剤層と、生地30上に不連続に接着剤を塗布して形成される接着剤層の両方が含まれる。
【0013】
プレス機構16は、一例として、柱状のロッド16Aと、ロッド16Aの下端部に取り付けられるプレス板16Bと、を含んで構成される。ロッド16Aは、モータ等から成るアクチュエータに連結され、アクチュエータの駆動力によって上下に駆動する。プレス板16Bは、ロッド16Aの駆動により、テーブル12との間で第1治具20上に設置された生地30を挟んで加圧する。これにより、接着剤層40が形成された生地同士の接着面を圧着させることができる。
【0014】
上記構成の製造装置10では、接着剤を用いた生地同士を接着させて成る無縫製製品が製造される。なお、ここでいう「無縫製製品」とは、製品中の生地の接合部の一部が無縫製により接合された製品と、製品中の生地の接合部の全てが無縫製により接合された製品と、を含む広い概念である。
【0015】
本開示に係る製造工程では、高摩擦体50と、第1治具20と、第2治具22と、を用いることにより、生地30の端部の接着が好適に行われる。下記の説明では、高摩擦体50、第1治具20、第2治具22の構成について詳細に説明すると共に、無縫製の下着(ショーツ)を例として、その製造工程を説明する。
【0016】
(生地)
図2には、高摩擦体50及び第1治具20の上に生地30を設置した状態が平面図で示されている。この図に示されるように、生地30は、前身頃32と後身頃34とがクロッチ36を介して繋がった一枚の平面裁断生地で構成されている。生地30に用いられる布材は、一例として、合成繊維が編み込まれた伸縮性を有する布材である。
【0017】
(高摩擦体)
高摩擦体50は、板状に形成されており、生地30の設置面の上に配置される。高摩擦体50は、設置面に配置された状態で表裏の面を構成する第1の面S1(
図2参照)と第2の面S2(
図4参照)とを有している。また、高摩擦体50は、設置面に対して表裏の裏返しを自在に行えるように配置される。これにより、高摩擦体50は、設置面の上で第1の面S1が表面に配置される状態と第2の面S2が表面に配置される状態との間で表裏の向きを変更可能に構成されている。
【0018】
かかる構成の高摩擦体50は、設置面に対して分離可能に置かれて配置される構成でもよいし、設置面に取り付けられる構成でもよい。高摩擦体50が、設置面に対して分離可能に置かれて配置される構成では、高摩擦体50の表面に汚れが付着した場合にメンテナンスや交換が容易である点において好適である。
【0019】
その一方で、高摩擦体50が設置面に対して取り付けられる構成では、後述する製造工程において、生地30の折り返し位置をより一層安定させる点において好適である。なお、高摩擦体50を設置面に取り付ける構成とは、例えば、板状の高摩擦体50の一方の端部が設置面にヒンジを介して取り付けられ、高摩擦体50がヒンジを中心に回動する構成である。
【0020】
本実施形態の一例では、高摩擦体50は、設置面に対して分離可能に置かれて配置される。また、高摩擦体50は、少なくとも第1の面S1の摩擦係数が設置面よりも大きく設定されている。この第1の面S1は、後述する生地の折り返し工程の前に高摩擦体50の表面に配置される面であり、展開状態の生地30の端部が重ねられる面である(
図3参照)。
【0021】
高摩擦体50の表面の摩擦係数を向上させる方法は、公知の各種手法を用いることができる。一例では、シリコーン、ブタジエン、イソプレン、ウレタン、アクリルに代表される表面のタック性に優れる材料及びこれらの組み合わせを含む材料で高摩擦体50を構成とすることにより、表面の摩擦係数を向上させることができる。また、一例では、板状の部材の表面をシリコーン、ブタジエン、イソプレン、ウレタン、アクリルのうち少なくとも一つを含有する塗料でコーティングし、タック性に優れる高摩擦層を形成することで摩擦係数を向上させることができる。また、一例では、板状の部材に表面加工を施し、加工面の凹凸の形状、密度、高さ及びこれらの組み合わせで摩擦係数を向上させることができる。また、上記各例の組み合わせで高摩擦体50の表面の摩擦係数を向上させることができる。
【0022】
本実施形態の一例では、高摩擦体50は、シリコーンとしてのポリジメチルシロキサンを含む柔軟なシート状部材で構成されており、水洗い、拭き取りにより表面の汚れを落とすことができる。これにより、表面のタック性を長らえることができるため、耐用性及びメンテナンス性を向上させることができる点において好適である。
【0023】
また、第1の面S1の摩擦係数が生地30の設置面よりも大きく設定されることにより、第1の面S1の上に重ねられる生地30の端部が高摩擦体50によって保持された状態となる。これにより、後述する生地の折返し工程における生地30の位置ずれを抑制することができる。
【0024】
第2の面S2の摩擦係数については、特に限定されない。本実施形態では、第1の面S1と第2の面S2の加工状態に差異が無いようにして、第2の面S2の摩擦係数が第1の面S1の摩擦係数とを近似させている。
【0025】
なお、第2の面S2の摩擦係数を第1の面S1よりも小さく設定した場合、設置面に高摩擦体50を配置する工程において、設置面に接触する第2の面S2の摩擦抵抗を低減させることができる。従って、高摩擦体50の配置の調整をスムーズに行うことができる点で好適である。また、好ましくは、第2の面S2の摩擦係数は、第1の面S1の摩擦係数よりも小さく、設置面の摩擦係数よりも大きく設定される。これにより、設置面に対して高摩擦体50を位置決めした後、第2の面S2の摩擦抵抗により、設置面に対する高摩擦体50の位置ずれを抑制することができる。
【0026】
その一方で、第2の面S2の摩擦係数を第1の面S1よりも大きく設定した場合、後述する生地の折り返し工程の後、高摩擦体50を取り除く際に、第2の面S2と接触する作業者の手への吸着性が向上する。これにより、高摩擦体50の取り外しが容易になるため、この工程の作業性を向上させることができるという点において好適である。
【0027】
図2には、第1の面S1が表面に配置される「展開位置」で設置面の上に高摩擦体50を配置した状態が示されている。また、
図3には、
図2の高摩擦体50の上に生地30を重ねた状態が平面図で示されている。これらの図に示すように、本実施形態では、生地30の設置面は、製造装置10のテーブル12の上面と第1治具20の上面で構成されている。また、高摩擦体50は、第1治具20に並べて配置される第1高摩擦体52と、第1治具20の上に配置される第2高摩擦体54と、を含んでいる。
【0028】
第1高摩擦体52は、矩形状に形成された板状部材であり、第1治具20と共にテーブル12の上に設置される。また、第1高摩擦体52の前方側の端部が第1治具20の後方側の端部20B(後述する第1ガイド部T1)に接して配置されている。
図3に示すように、第1高摩擦体52の上には、生地30の前身頃32が重ねられる。この状態では、第1高摩擦体52の後方側の端部52Bが前身頃32の端部から外側に突出する。作業者は、前身頃32から突出した端部52Bを把持して第1高摩擦体52を裏返すことができる。
【0029】
第2高摩擦体54は、前後方向に長尺な矩形状に形成された板状部材である。本実施形態では、一対の第2高摩擦体54が左右方向に間隔を空けて第1治具20の上に配置される。一対の第2高摩擦体54の上には、生地30の後身頃34の左右両側の端部が重ねられる。この状態では、第2高摩擦体54の長手方向の端部54F,54Bの少なくとも一方が後身頃34の端部から外側に突出する。作業者は、後身頃34から突出した端部54F,54Bを把持して第2高摩擦体54を裏返すことができる。
【0030】
ここで、各高摩擦体50(52,54)の第1の面S1には、高摩擦体50に対する生地30の位置合わせを行う生地合わせガイド部T5が設けられている。生地合わせガイド部T5は、高摩擦体50上の規定の位置に生地30を設置した際に、生地30の端部の位置を示す基準線を提供する。また、生地合わせガイド部T5は、高摩擦体50の上に生地30を設置した状態で、目視可能に構成されている。このため、製造工程においては、生地合わせガイド部T5に沿って生地30の端部の位置合わせを行うことで、高摩擦体50に対する生地30の位置合わせを行うことができる。
【0031】
かかる構成の生地合わせガイド部T5は、第1の面S1に描かれたペイント、第1の面S1に凹状に形成される溝部、第1の面S1に凸状に設けられる突起部等で構成することができる。本実施形態の一例では、生地合わせガイド部T5は、高摩擦体50に描かれたペイントで構成され、生地30の前身頃32及び後身頃34の端部に沿った外形線の一部を示している。
【0032】
(第1治具)
第1治具20は、矩形状に形成された板状部材であり、テーブル12の上に設置される。また、上述したように、生地30の設置面を構成する。この第1治具20は、本実施形態では、テーブル12とは分離独立した構成であるが、テーブル12がアクチュエータ等の駆動力によって水平方向に移動可能である場合は、テーブル12と一体に設けてもよい。この第1治具20を構成する材料は、特に限定されない。例えば、金属材料、樹脂材料、及びこれらの組み合わせで第1治具20を形成することができる。本実施形態の第1治具20は、一例として、金属板で構成されている。
【0033】
ここで、第1治具20は、第1治具20に対する高摩擦体50の位置合わせを行う第1ガイド部T1と、第1治具20に対する第2治具22の位置合わせを行う第2ガイド部T2を有している。
【0034】
第1ガイド部T1は、第1治具20との相対的な位置関係によって規定される所定の位置に高摩擦体50を設置した際に、高摩擦体50の端部の位置を示す基準線を提供する。また、第1ガイド部T1は、高摩擦体50を設置した状態で、目視可能に構成されている。このため、製造工程においては、第1ガイド部T1に沿って高摩擦体50の端部の位置合わせを行うことで、第1治具20に対する高摩擦体50の位置合わせを行うことができる。
【0035】
かかる構成の第1ガイド部T1は、上面に描かれたペイント、上面に凹状に形成される溝部、上面に凸状に設けられる突起部等で構成することができる。また、第1治具20の端部の形状の一部を高摩擦体50の端部の形状の一部と一致させることで、第1治具20の端部を基準線にして第1ガイド部T1を構成することができる。本実施形態の一例では、第1治具20の上面に描かれたペイント24によって一対の第2高摩擦体54の位置合わせを行う第1ガイド部T1が構成されている。また、第1治具20の後方側の端部20Bによって展開位置における第1高摩擦体52の位置合わせを行う第1ガイド部T1が構成されている。
【0036】
一方、第2ガイド部T2は、第1治具20上の規定の位置に第2治具22を設置した場合に、第2治具22の端部の位置を示す基準線を提供する。また、第2ガイド部T2は、第1治具20の上に生地30及び第2治具22を設置した状態で、目視可能に構成されている。このため、製造工程においては、第2ガイド部T2に沿って第2治具22の端部の位置合わせを行うことで、第1治具20に対する第2治具22の位置合わせを行うことができる。
【0037】
この第2ガイド部T2も、上述の第1ガイド部T1と同様に、上面に描かれたペイント、上面に凹状に形成される溝部、上面に凸状に設けられる突起部等で構成することができる。また、第1治具20の端部形状の一部を第2治具22の端部の形状の一部と一致させることで、第1治具20の端部の形状を基準線にして第2ガイド部T2を構成することができる。本実施形態の一例では、第2ガイド部T2は、第1治具20の前方側の端部20Fによって構成されている。第2治具22は、第2治具22の前方側の端部22Fの位置を第2ガイド部T2に沿って配置することにより、第1治具20に対する位置合わせを行うことができる。
【0038】
(第2治具)
第2治具22は、矩形状に形成された板状部材である。第2治具22は、第1治具20との間に生地30を介在させた状態で、第1治具20の上に重ねて配置される。この第2治具22を構成する材料は、特に限定されない。例えば、金属材料、樹脂材料、及びこれらの組み合わせで第2治具22を構成することができる。実施形態の第2治具22は、一例として、金属板で構成されている。
【0039】
第2治具22は、第1治具20の上に重ねて配置されることにより、第1治具20との間で生地30の後身頃34を挟んで押える構成となっている。また、この状態では、第2治具22の外周端部の一部が、生地30の折返し位置を案内するガイド端部T3を構成する。本実施形態では、第2治具22の左右両側の端部22R,22Lと、後方側の端部22Bとが、ガイド端部T3を構成している。
【0040】
本実施形態では更に、第2治具22は、第1高摩擦体52が裏返されて「展開位置」から「折返し位置」(
図4参照)に移動した際の第1高摩擦体52の位置合わせを行う第4ガイド部T4を有している。この第4ガイド部T4は、「折返し位置」における第1高摩擦体52の端部の位置を示す基準線を提供する。また、第4ガイド部T4は、第1治具20の上に生地30及び第2治具22を設置した状態で、目視可能に構成されている。
【0041】
第4ガイド部T4は、第4ガイド部T4は、上面に描かれたペイント、上面に凹状に形成される溝部、上面に凸状に設けられる突起部等で構成することができる。また、第2治具22の端部の形状の一部を第1高摩擦体52の端部の形状の一部と一致させることで、第2治具22の端部を基準線にして第4ガイド部T4を構成することができる。本実施形態の一例では、第2治具22の上面に描かれたペイント28によって、「折返し位置」における第1高摩擦体52の位置合わせを行う第4ガイド部T4が構成されている。なお、この第4ガイド部T4は、第1治具20に設けられる構成としてもよい。
【0042】
ここで、
図4には、第2の面S2が表面に配置される「折返し位置」で設置面の上に高摩擦体50を配置した状態が示されている。また、上面に生地30が設置された第1治具20の上に、第2治具22が重ねて配置されている。なお、この図において、二点鎖線で示される生地30の外形線は、生地30の展開状態を示している。また、実線で示される生地30の外形線は、高摩擦体50が「展開位置」から裏返され、これにより、ガイド端部T3に沿って生地30が折り返された状態の生地30の外形線を示している。
【0043】
この図に示されるように、高摩擦体50の展開位置において第1治具20の上に、第2治具22を重ねた状態では、第2治具22の左右両側の端部22R,22Lから、生地30の後身頃34の左右両側の端部が突出するように構成される。この左右両側の端部は、一対の第2高摩擦体54の上に重ねられている。また、第2治具22の後方側の端部22Bからは、生地30の前身頃32が突出するように構成される。この前身頃32は、第1高摩擦体52の上に重ねられている。
【0044】
生地30は、高摩擦体50が「展開位置」から裏返されて「折返し位置」に配置されることにより、第2治具22から突出したこれらの端部がガイド端部T3に沿って折り返される。これにより、前身頃32の端部と後身頃34の端部が第2治具22の上面で重なり合う構成となっている。即ち、本実施形態では、ガイド端部T3の位置に生地30の折り返し線を形成することにより、生地30がガイド端部T3に沿って折り返される構成になっている。
【0045】
(製造用治具を用いた無縫製製品の製造方法)
次に、
図5(A)~
図5(G)を参照して、上述した高摩擦体50と、第1治具20と、第2治具22と、を用いて無縫製製品を製造する方法について説明する。本実施形態の製造方法は、高摩擦体50の上に生地30の端部を重ねた後、第1治具20の上に第2治具22を重ね、第1治具20と第2治具22との間で生地30を押える。この状態で、生地30上に接着剤層40を形成し、その後、高摩擦体50を裏返すことにより、第2治具22のガイド端部T3に沿って生地の端部が折り返され、折り返された生地30の端部を接着剤層40に重ねるものである。
【0046】
生地の設置工程では、まず、生地30の設置面(テーブル12及び第1治具20の上面)の上に高摩擦体50を配置する(
図5(A))。この際、第1治具20の第1ガイド部T1に沿って高摩擦体50の端部が配置されることにより、第1治具20に対する高摩擦体50の位置合わせが行われる。これにより、高摩擦体50は、「展開位置」に配置される。その後、高摩擦体50の第1の面S1の上に生地30の端部が重ねられる(
図5(B))。この際、第1の面S1の上に形成された生地合わせガイド部T5に沿って生地30の端部が配置されることにより、高摩擦体50に対する生地30の位置合わせが行われる。
【0047】
生地押え工程では、第1治具20の上に第2治具22が重ねて配置される(
図5(C))。この際、第1治具20の第2ガイド部T2(20F)に沿って第2治具22の位置合わせが行われる。これにより、第1治具20と第2治具22との間で生地30の後身頃34を挟むようにして押える状態となり、後の折返し工程における生地の位置ずれを抑制することができる。
【0048】
生地の折り返し工程は、接着剤塗布工程の前に行われる第1折り返し工程と、接着剤塗布工程の後に行われる第2折り返し工程とを含む。
【0049】
第1折り返し工程では、生地30の前身頃32が重なる第1高摩擦体52を裏返しつつ、第2治具22の後方側の端部22B(ガイド端部T3)から突出した生地30の前身頃32を端部22Bに沿って折り返す(
図5(D))。
【0050】
第1折り返し工程の後、接着層形成工程が行われる。接着層形成工程では、第1治具20をテーブル12の前方に移動させ、定位置に設置されたノズル14の位置に合わせてセットする。その後、ノズル14から接着剤の吐出が開始されると、そのタイミングに合わせてノズル14の先端が前身頃32の左右両側の端部に沿って移動するように第1治具20を前後にスライドして移動させる(
図5(E))。これにより、前身頃32の左右両側の端部に接着剤層40が形成される。この際の第1治具20の移動は、手作業で行われる構成としてもよいし、第1治具20を駆動用アクチュエータに連結することにより自動で行われる構成としてもよい。
【0051】
なお、この接着層形成工程は、前身頃32と後身頃34の重なり部において、少なくとも一方の生地に接着剤層40を形成する工程であればよい。従って、前身頃32ではなく、第2治具22の左右両側の端部22R,22L(ガイド端部T3)から突出した後身頃34の端部に接着剤層40を形成する工程としてもよい。若しくは、前身頃32と後身頃34の両方に接着剤層40を形成する工程としてもよい。
【0052】
接着剤塗布工程の後、第2折り返し工程では、一対の第2高摩擦体54を裏返しつつ、第2治具22の左右両側の端部22R,22L(ガイド端部T3)から突出した後身頃34の端部を第2治具22の左右両側の端部22R,22Lに沿って折り返す(
図5(F))。これにより、第2治具22の上面で、接着剤層40が形成された前身頃32の端部に後身頃34の端部が重ねられる。
【0053】
第2折り返し工程の後、生地同士の接着面を圧着させる加圧工程が行われる(
図5(G))。この加圧工程では、生地30の上に配置された高摩擦体50を取り外した後、第1治具20をプレス機構16の下方側まで移動させ、第2治具22の上面にプレス板16Bを押し当てて生地同士の接着面を仮圧着させる。これにより、ショーツの立体形状が完成する。
【0054】
その後、第2治具22から生地30を取り外し、図示しない熱プレス機を用いて接着面を熱圧着させることで、無縫製衣類の製造工程が完了する。なお、無縫製製品の製造装置10のプレス機構16を熱プレス機構で構成することにより、仮圧着工程を省略してもよい。
【0055】
(作用並びに効果)
以上説明したように、本実施形態では、生地30の設置面の上に設置面よりも摩擦係数が大きく設定された第1の面S1を表面に配置して高摩擦体50を配置した後、高摩擦体50の上に生地30の端部が重ねられる。これにより、生地30の端部が第1の面S1に保持される。従って、高摩擦体50を裏返して生地30の端部を折り返す際に、生地30の位置がずれることを抑制することができる。これにより、生地30の折り返し位置の精度を高めることができる。
【0056】
また、生地30の折り返しは、高摩擦体50の表裏を裏返すという簡単な動作で行うことができるため、作業性を良好にすることができる。このようにして、生地30の端部の接着位置の不良を低減させ、且つ生産性を向上させることができる。
【0057】
高摩擦体50の第1の面S1には、高摩擦体50に対する生地30の位置合わせを行う生地合わせガイド部T5が設けられている。これにより、高摩擦体50に対する生地30の位置合わせを容易にし、且つ位置合わせの精度を高めることができる。
【0058】
また、高摩擦体50の第2の面S2の摩擦係数は、第1の面よりも小さく設定されることにより、生地の設置工程において、設置面に接触する第2の面S2の摩擦抵抗を低減させることができる。従って、高摩擦体50の配置の調整をスムーズに行うことができる。
【0059】
一方で、高摩擦体50の第2の面S2の摩擦係数は、第1の面よりも大きく設定されることにより、生地の折り返し工程の後、高摩擦体50を取り除く際に、第2の面S2と接触する作業者の手への吸着性が向上する。これにより、高摩擦体50の取り外しが容易になるため、作業性を良好にすることができる。
【0060】
また、高摩擦体50は、第1高摩擦体52と第2高摩擦体54とを含み、第1高摩擦体52の上に生地30の前身頃32が重ねられ、第2高摩擦体54の上に生地30の後身頃34が重ねられる。そして、第1高摩擦体52と第2高摩擦体54とを裏返すことにより、生地30の前身頃32の端部と後身頃34の端部との重なり位置を精度良く位置合わせすることができる。これにより、前身頃と後身頃を備える無縫製衣類の製造において、生地30の端部の接着位置の不良を低減させ、且つ生産性を向上させることができる。
【0061】
さらに、本実施形態では、生地30及び高摩擦体50が配置される設置面が第1治具20の設置面で構成されている。これにより、接着剤層40を形成する際に、接着剤の吐出位置を定位置に設定しても第1治具20を移動させることにより、所望の位置に接着剤層を形成することができる。従って、製品の変更に容易に対応することができる。
【0062】
また、第1治具20の上に生地30を設置した後、第1治具20の上に第2治具22を重ねて配置するため、第1治具20と第2治具22との間で生地30を挟んで押えることができる。これにより生地30の折り返し工程において、第1治具20上で生地30が滑り、位置がずれることを抑制することができる。これにより、生地30の折り返し位置の精度を一層高めることができる。
【0063】
(本実施形態の変形例)
上記実施形態に係る無縫製製品の製造方法では、無縫製のショーツを例として説明したが、本開示はこれに限らない。多種多様な無縫製製品の製造方法に本開示の製造方法を適用することができる。その上で、上記実施形態では、高摩擦体50が「展開位置」から裏返されて「折返し位置」に移動した際に、高摩擦体50が第2治具22の上に配置される構成としたが、これに限らない。例えば、
図6(A)に示すように、第1治具20の上で「展開位置」に配置された高摩擦体50を裏返して、
図6(B)に示す「折返し位置」に移動させた場合に、折り返された生地30の端部と高摩擦体50が第2治具22の外側に配置される構成でもよい。また、第2治具22は必須ではない。このような製造工程は、例えば、Tシャツの首回り部、裾部等の生地の端部の処理に好適に用いることができる。
【0064】
上記実施形態に係る繊維製品の製造方法では、生地30の設置面がテーブル12の上面と第1治具20の上面で構成される例について説明したが、本開示はこれに限らない。例えば、
図7(A)に示すように、第1治具20を省略し、テーブル12の上に高摩擦体50が配置される構成としてもよい。この場合、テーブル12の上面で生地30の設置面が構成される。また、例えば、
図7(B)に示すように、第1治具20の上に高摩擦体50を配置して、第1治具20の上面で生地30の設置面を構成してもよい。
【符号の説明】
【0065】
20 第1治具
22 第2治具
30 生地(無縫製衣類)
32 前身頃
34 後身頃
40 接着剤層
50 高摩擦体
52 第1高摩擦体
54 第2高摩擦体
S1 第1の面
S2 第2の面
T5 生地合わせガイド部(ガイド部)