(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151503
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ゼオライト膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/36 20060101AFI20231005BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20231005BHJP
C01B 39/46 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B01D61/36
B01D71/02
C01B39/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061131
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】石垣 憲一
【テーマコード(参考)】
4D006
4G073
【Fターム(参考)】
4D006GA25
4D006HA21
4D006JA25A
4D006JA25C
4D006JA27C
4D006JA53A
4D006JA66A
4D006MA02
4D006MA09
4D006MB04
4D006MC03X
4D006NA45
4D006NA49
4D006NA50
4D006NA62
4D006NA64
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB12
4D006PB14
4D006PB32
4D006PB65
4G073BA02
4G073BA05
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA84
4G073BD06
4G073BD15
4G073BD18
4G073CZ03
4G073CZ05
4G073CZ17
4G073DZ02
4G073DZ08
4G073FA30
4G073FB11
4G073FB24
4G073FB30
4G073FC12
4G073FC30
4G073FD12
4G073GA40
4G073UA06
(57)【要約】
【課題】未処理ゼオライト膜を用いる混合物の分子篩効果による分離において、混合物中における相対的に透過性が低い成分の透過量を低減可能なゼオライト膜を実現する。
【解決手段】本発明のゼオライト膜の製造方法は、未処理ゼオライト膜に脱水縮合反応促進剤を接触させる工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未処理ゼオライト膜に脱水縮合反応促進剤を接触させる工程を含む、ゼオライト膜の製造方法。
【請求項2】
前記脱水縮合反応促進剤がエタノールを含む、請求項1に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項3】
前記脱水縮合反応促進剤に、エタノールの含有量が95容量%以上のエタノール水溶液を用いる、請求項2に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項4】
前記脱水縮合反応促進剤の温度が25℃以上である、請求項2または3に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項5】
前記脱水縮合反応促進剤の温度が120℃以下である、請求項2~4のいずれか1項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項6】
前記脱水縮合反応促進剤が二酸化炭素を含む、請求項1に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項7】
前記二酸化炭素が気体であり、前記二酸化炭素の温度が室温である、請求項6に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項8】
前記二酸化炭素の状態が超臨界状態である、請求項6または7に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項9】
前記接触させる工程に先立って、ゼオライトの結晶を水熱合成によって成長させて前記未処理ゼオライト膜を生成する工程をさらに含み、
前記未処理ゼオライト膜が、Na+またはK+をカウンターカチオンとして含み、
前記接触させる工程において、前記脱水縮合反応促進剤に、前記カウンターカチオンと水不溶性塩を形成する化合物を用いる、
請求項1~8のいずれか一項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項10】
前記カウンターカチオンはNa+であり、前記脱水縮合反応促進剤にフッ化物溶液を用いる、請求項9に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項11】
前記カウンターカチオンはNa+であり、前記脱水縮合反応促進剤に尿酸水を用いる、請求項9に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項12】
前記生成する工程は、有機化合物であって、ゼオライトの結晶構造を規制する鋳型剤である有機テンプレート化合物を用いずにゼオライトの結晶を成長させて前記未処理ゼオライト膜を生成する工程である、請求項9~11のいずれか一項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項13】
前記生成する工程は、有機化合物であって、ゼオライトの結晶構造を規制する鋳型剤である有機テンプレート化合物の存在下でゼオライトの結晶を成長させ、得られたゼオライト膜を酸化剤で処理して前記有機テンプレート化合物を前記ゼオライト膜から除去して前記未処理ゼオライト膜を生成する工程である、請求項9~11のいずれか一項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト膜は、有機化合物の水溶液から水を分離、除去するための分離膜として利用されている。ゼオライト膜を製造する方法には、種結晶の存在下で、有機テンプレートを用いずに、水熱合成によりゼオライト膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、成膜後に有機テンプレートを除去するための焼成工程が不要であるため、未焼成のゼオライト膜が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術では、水溶性有機化合物を含む水溶液をゼオライト膜に接触させて、水を透過させて分離、除去して分離を行う場合に、水溶性有機化合物が分離対象の水と随伴して透過する量が多くなることがあることを本発明者らは見出した。すなわち、ゼオライト分離膜の分子篩効果を用いて、相対的に透過性が高い成分と相対的に透過性が低い成分の混合物から、相対的に透過性が高い成分を透過させて分離する膜分離において、透過性が相対的に低い成分の透過量が多くなる場合があることを本発明者らは見出した。このように、相対的に透過性が低い成分の随伴量が多くなると、分離効率が低下する。
【0005】
本発明の一態様は、未処理ゼオライト膜を用いる混合物の分子篩効果による分離において、混合物中における相対的に透過性が低い成分の透過量を低減可能なゼオライト膜を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るゼオライト膜の製造方法は、未焼成ゼオライト膜に脱水縮合反応促進剤を接触させる工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、未処理ゼオライト膜を用いる混合物の分子篩効果による分離において、混合物中における相対的に透過性が低い成分の透過量を低減可能なゼオライト膜を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例における未焼成ゼオライト膜をパーベーパレーション法に用いた装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施態様を説明する。
【0010】
〔接触工程〕
本発明の一態様に係るゼオライト膜の製造方法は、未処理ゼオライト膜に脱水縮合反応促進剤を接触させる工程(以下、「接触工程」とも言う)を含む。接触工程において、未処理ゼオライト膜に脱水縮合反応促進剤を接触させる、とは、未処理ゼオライト膜の少なくとも表面に脱水縮合反応促進剤を作用させることを意味する。当該接触は、未処理ゼオライトに脱水縮合反応促進剤を通過(例えば、通液、通気等)させることによって実施可能であり、または未処理ゼオライトを脱水縮合反応促進剤に浸漬もしくは未処理ゼオライト表面に脱水縮合反応促進剤を流下させることにより実施可能である。
【0011】
[未処理ゼオライト膜]
本発明の一態様における未処理ゼオライト膜は、処理工程を経ていないゼオライト膜である。処理工程は、当該工程の後で、ゼオライト膜の、透過性が相対的に低い成分の透過量が、当該工程の前よりも減る工程である。具体的には、加熱、焼成、表面処理、脱水縮合反応促進剤との接触の1以上の操作を行う工程である。詳細なメカニズムは推測ではあるが、未処理ゼオライト膜に含まれるアモルファス部分が反応することで、アモルファス部分を経由する透過性が相対的に低い成分の透過量が減るものと考えている。
【0012】
加熱は、ゼオライト膜に対して前述の工程の条件を満たす温度で加熱する工程である。加熱の温度は、120℃以上であり、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは200℃以上である。分離膜の基材(支持体)との熱膨張率差からの破壊の防止の観点で、900℃以下であることが好ましく、850℃以下であることがより好ましく、800℃以下であることがさらに好ましく、750℃以下であることが特に好ましく、500℃以下であることが最も好ましい。
【0013】
焼成は、有機鋳型剤を用いてゼオライト膜を合成した場合に、有機鋳型剤がゼオライトの細孔を通過する大きさまで熱分解するような温度で加熱して除去することである。焼成温度は、有機鋳型剤を充分に除去する観点で、350℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましくは、430℃以上であることがさらに好ましく、450℃以上であることが特に好ましい。分離膜の基材(支持体)との熱膨張率差からの破壊の防止の観点で、900℃以下であることが好ましく、850℃以下であることがより好ましく、800℃以下であることがさらに好ましく、750℃以下であることが特に好ましく、500℃以下であることが最も好ましい。焼成時間は、有機鋳型剤を充分に除去する観点で24時間以上であることが好ましく、生産性の観点で72時間以下であることが好ましい。表面処理は、シランカップリング剤などの化合物による処理である。
【0014】
未処理ゼオライト膜は、製造品であってもよく、市販品であってもよい。製造品としての未処理ゼオライト膜は、例えば、ゼオライトの結晶構造を規制する有機鋳型剤を用いずに合成され、かつ焼成されていないゼオライト膜である。また、製造品としての未処理ゼオライト膜は、有機鋳型剤を用いて合成され、かつ酸化剤によって有機鋳型剤が除去された、焼成されていないゼオライト膜である。未処理ゼオライト膜は、水熱合成によって製造することが可能であり、より詳しくは、例えば特許文献1に記載の方法によって製造することが可能である。
【0015】
脱水縮合反応促進剤との接触については、後述の通りである。
【0016】
未処理ゼオライト膜における結晶構造は、限定されず、公知の種々の構造から適宜に選ばれ得る。当該結晶構造の例には、チャバサイト(CHA)、フォージャサイト(FAU)およびA型(LTA)、MFI、MER、MOR、EMT,SOD,CAN、JBW、HEU、BRE、ABW,ANA、BEA,MTW,NES、LEV,MAZ,MEL、MSE、MTT、MTW,PAU、RTH,SZR、TON、VETが含まれる。未処理ゼオライト膜は、一般に水熱合成によって製造することが可能であり、例えば前述の特許文献1に記載されているような方法によって製造することが可能である。
【0017】
水熱合成の際に使用するカチオンは限定されない。カチオンの例には、K+、Na+、Li+、Rb+、Cs+、Sr2+およびCa2+が含まれる。
【0018】
未処理ゼオライト膜は、非晶質部分にK+、Na+、Li+、Rb+、Cs+、Sr2+およびCa2+をカウンターカチオンとして含んでいてもよい。非晶質部分内AlO2
-近傍に存在するカウンターカチオンである。K+、Na+、Li+、Rb+、Cs+、Sr2+およびCa2+をカウンターカチオンとして含む場合、水熱合成の際にK+、Na+、Li+、Rb+、Cs+、Sr2+およびCa2+をカチオンとして用いることで未処理ゼオライト膜に含有させてもよく、水熱合成後にカチオン交換を行うことで含有させてもよい。
【0019】
[脱水縮合反応促進剤]
本発明の一態様における脱水縮合反応促進剤とは、未処理ゼオライト膜における脱水縮合反応を促進させる成分である。未処理ゼオライト膜における脱水縮合反応については後述する。脱水縮合反応促進剤は、未処理ゼオライト膜に十分に接触させることが可能な形態であればよい。脱水縮合反応促進剤の形態の例には、液体、気体、溶液および超臨界流体が含まれる。脱水縮合反応促進剤を未処理ゼオライト膜に接触させることにより、未処理ゼオライト膜を水溶性有機化合物の濃縮に用いたときの、水溶性有機化合物の透過量を低減することができる。
【0020】
脱水縮合反応促進剤の具体例として、エタノールが挙げられる。エタノールは、水溶液で用いてもよい。エタノール水溶液を脱水縮合反応促進剤として用いる場合では、当該エタノール水溶液におけるエタノールの含有量は、未処理ゼオライト膜を透過する水溶性有機化合物の量を十分に低減させる観点から、90容量%以上であることが好ましく、95容量%以上であることがより好ましく、97容量%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
エタノールを脱水縮合反応促進剤として用いる場合の温度は、接触による未処理ゼオライト膜の処理を十分に可能な範囲から適宜に決めることができる。脱水縮合反応促進剤として用いるエタノールの温度は、未処理ゼオライト膜の接触工程による処理時間を短縮する観点から、25℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、75℃以上であることがさらに好ましく、90℃以上であることが特に好ましく、100℃以上であることが最も好ましい。また、当該エタノールの温度は、未処理ゼオライト膜の熱分解を抑制する観点から、135℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがさらに好ましい。上記温度範囲は、常圧以上の条件での温度とする。
【0022】
脱水縮合反応促進剤の別の具体例として、二酸化炭素が挙げられる。二酸化炭素は、流体の状態で使用することができ、気体または超臨界流体として好適に使用することができる。二酸化炭素を脱水縮合反応促進剤として用いる場合の条件は、接触による未処理ゼオライト膜の処理を十分に可能な範囲、および二酸化炭素の状態、から適宜に決めることができる。たとえば、二酸化炭素が気体である場合には、乾燥した二酸化炭素を用いることが好ましく、市販の乾燥ガスを用いることが好ましい。二酸化炭素の温度は上記の観点から乾燥した室温以上であればよく、100℃以上が好ましい。加熱した二酸化炭素を用いると、想定ではあるが、アモルファス部分のシラノール基または乖離したシラノール基の脱水縮合反応の速度が高まること、追加の乾燥工程を省略できることから好ましい。特に、アモルファス部分のシラノール基が、ゼオライトを合成する際の塩基にカリウム塩を用いる場合は、二酸化炭素による反応で生じた炭酸カリウムの水溶性が低いことから、反応速度を上げて、炭酸カリウムの濃度を急上昇させ、飽和濃度を早期に超えさせられることから好ましい。また、二酸化炭素が超臨界流体である場合には、臨界点以上の温度および圧力であればよい。設備の簡易化の観点から、二酸化炭素は気体で用いることが好ましく、その圧力は1MPa未満であることが好ましい。また、二酸化炭素は、窒素などの未処理ゼオライト膜に対して不活性なガスとの混合ガスとして用いてもよい。
【0023】
脱水縮合反応促進剤は、未処理ゼオライト膜中に存在するアモルファス部分のカウンターカチオンの種類に応じて決めることも可能である。この場合、脱水縮合反応促進剤には、カウンターカチオンと反応して水に難溶性である塩、またはケイ酸に比較して強い酸の塩を生成する成分を選択することができる。
【0024】
たとえば、水に難溶性の塩としては、NaFおよび尿酸ナトリウムが挙げられる。従って、カウンターカチオンがNa+の場合には、NaFまたは尿酸ナトリウムを形成させるような脱水縮合反応促進剤を用いることで、不可逆な脱水縮合反応を進行させ、水溶性有機化合物の透過量を低減させた状態を維持することが容易になる。脱水縮合反応促進剤の別の具体例として、フッ化物溶液またはフルオロ錯体溶液が挙げられる。フッ化物溶液またはフルオロ錯体溶液の例には、フッ化物の水溶液またはフルオロ錯体の水溶液が含まれる。フルオロ錯体を含有する化合物としては、例えばNa2SiF6である。当該フッ化物の使用量および適用温度も上記の観点から適宜に決めてよい。Na2SiF6を用いる場合は、Na2SiF6の飽和水溶液にゼオライト膜を室温で一定時間浸漬した後、乾燥する。
【0025】
また、カウンターカチオンがNa+の場合には、脱水縮合反応促進剤の別の具体例として、尿酸水が挙げられる。尿酸水の濃度および適用温度は、接触による未処理ゼオライト膜の処理を十分に可能な観点から適宜に決めてよい。尿酸水を用いる場合は、尿酸の飽和水溶液にゼオライト膜を温水で一定時間浸漬した後、加熱乾燥する。
【0026】
〔その他の工程〕
本発明の一態様に係るゼオライト膜の製造方法は、本発明の効果が得られる範囲において、前述の接触工程以外の他の工程をさらに含んでもよい。他の工程の例には、ゼオライトの結晶を水熱合成によって成長させて未処理ゼオライト膜を生成する工程(以下、「生成工程」とも言う)が含まれる。
【0027】
〔生成工程〕
生成工程は、前述の未処理ゼオライト膜を生成する公知の方法によって実施可能である。生成工程は、前述の接触工程に先立って実施されればよい。生成工程の例には、有機テンプレート化合物を用いずにゼオライトの結晶を成長させて未処理ゼオライト膜を生成する工程、および、有機テンプレート化合物の存在下でゼオライトの結晶を成長させ、得られたゼオライトの膜を酸化剤で処理して有機テンプレート化合物を前記ゼオライト膜から除去して未処理ゼオライト膜を生成する工程、が含まれる。前者は、例えば前述の特許文献1に記載されているような方法によって実施可能である。後者は、例えば「Microporous and Mesoporous Materials 2005, 87, 45-51.」に記載されているような方法によって実施可能である。
【0028】
上記の有機テンプレート化合物は、有機化合物であって、ゼオライトの結晶構造を規制する鋳型剤である。生成工程において有機テンプレート化合物を用いる場合には、有機テンプレート化合物は、ゼオライト膜の製造における鋳型剤として公知の化合物から、ゼオライト膜の所望の結晶構造に応じて適宜に選ぶことができる。有機テンプレート化合物の例には有機アミンが含まれ、より具体的には、N,N,N-トリメチルアンモニウム化合物、N,N,N-トリプロピルアンモニウム化合物およびN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム化合物が含まれる。
【0029】
また、有機テンプレート化合物を処理する酸化剤は、ゼオライト膜の結晶構造中の有機テンプレート化合物に作用して当該化合物を分解し、当該ゼオライト膜から除去可能な成分である。酸化剤も、ゼオライト膜の製造においてゼオライト膜の結晶構造中の有機テンプレート化合物を分解することが公知の成分から適宜に選ぶことが可能である。酸化剤の例には、オゾン、および、オゾンに紫外線を照射して得られる原子状酸素が含まれる。酸化剤の使用条件は、シラノール基の脱水縮合反応が完全に進行しきらない条件とする。
【0030】
〔考察〕
本発明の一態様に係る製造方法によれば、未処理ゼオライト膜を用いる水溶性有機化合物の水溶液からの水の分離、除去において、水溶性有機化合物の透過量を低減する未処理ゼオライト膜を得ることができる。その理由は、定かではないが、以下のように考えられる。
【0031】
水熱合成において、ゼオライト膜中においてアモルファス部位が成長してゼオライトのケージを形成するまで反応が進まず、ゼオライト膜中には未反応部(T原子がSiでカウンターカチオンがK+の場合であればSi-OK、T原子はゼオライト骨格中の四面体部分構造の中心原子)が残存し、この未反応部が、その後の使用時における有機化合物の流路になると考えられる。
【0032】
本発明の一態様では、前述の接触工程において、未処理ゼオライト膜に脱水縮合反応促進剤を接触させる。脱水縮合反応促進剤との接触により水溶性有機化合物の透過が抑制されることから、接触工程では、下記の式で示される右方向への反応が進行すると考えられる。
【0033】
【0034】
このように、未反応部では脱水縮合によってシラノール基がシロキサン結合となる、と考えられる。シロキサン結合の部位は、上記の水溶性有機化合物の流路にはなり得ないため、水溶性有機化合物の透過量が低減される、と考えられる。
【0035】
エタノールは、誘電率が低いため、シラノール基の安定度がSi-OK基のそれよりも高くなり、またエタノールが水を吸収することにより、シロキサン結合を形成する、と考えられる。
【0036】
二酸化炭素は、鉄用の鋳型の作り方で、水ガラスと砂を混ぜて炭酸ガスを吹き込んで固める手法と同様に未処理ゼオライト膜において反応すると考えられる。すなわち、二酸化炭素は、未処理ゼオライト膜に接触させることにより、炭酸として弱塩基であるSi-OK基を中和して炭酸カリウムとより弱塩基性のシラノール基を形成し、その結果、上記の反応式の右方向への反応が進行する、と考えられる。
【0037】
フッ化物溶液は、NaSiF6で水ガラスを硬化させて接着剤とする場合と同様に未処理ゼオライト膜において反応し、二酸化炭素と同様に、カウンターカチオンの塩を生成し、上記反応式の右方向の反応を進行させる、と考えられる。また、カウンターカチオンがNa+の場合では、カウンターカチオンと不溶性の塩を形成するため、上記反応式が不可逆反応になる、と考えられる。
【0038】
尿酸水も、二酸化炭素およびフッ化物溶液と同様にカウンターカチオンの塩を生成し、上記反応式の右方向の反応を進行させる、と考えられる。また、尿散水もフッ化物溶液と同様に、カウンターカチオンがNa+の場合では、カウンターカチオンと不溶性の塩を形成するため、上記反応式の左方向の反応を防止する、と考えられる。
【0039】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の一態様に係るゼオライト膜の製造方法は、未処理ゼオライト膜に脱水縮合反応促進剤を接触させる工程を含む。したがって、本発明の一態様によれば、未処理ゼオライト膜を用いる水溶性有機化合物の水溶液からの水の分離、除去において、水溶性有機化合物の透過を低減可能なゼオライト膜を実現することができる。
【0040】
本発明の一態様において、脱水縮合反応促進剤にエタノールを用いてもよい。この構成は、有機化合物の透過を簡易に防止可能にする観点からより一層効果的である。
【0041】
本発明の一態様において、脱水縮合反応促進剤に、エタノールの含有量が95容量%以上のエタノール水溶液を用いてもよい。当該容量%は、20℃における値とする。95質量%以上であれば、95容量%以上となっている。この構成は、ゼオライト膜における水溶性有機化合物の透過を十分に防止可能とする観点と、脱水縮合反応を経た分離膜を食品用途など安全性の必要な分野に使用可能にする観点からより一層効果的である。
【0042】
脱水縮合反応促進剤にエタノールを用いる場合において、脱水縮合反応促進剤の温度は25℃以上であってもよい。この構成は、前述の接触工程の時間を短縮し、生産性を高める観点からより一層効果的である。
【0043】
脱水縮合反応促進剤にエタノールを用いる場合において、脱水縮合反応促進剤の温度は120℃以下であってもよい。この構成は、反応を迅速に進める観点から経済的である観点からより一層効果的である。
【0044】
本発明の一態様において、脱水縮合反応促進剤に二酸化炭素を用いてもよい。この構成は、ゼオライト膜における水溶性有機化合物の透過を十分に防止可能にする観点からより一層効果的である。
【0045】
脱水縮合反応促進剤に二酸化炭素を用いる場合において、二酸化炭素は気体であってもよい。この構成は、水溶性有機化合物の透過を簡易に防止可能にすること、作業工程で可燃物を使用せず装置が簡便になること、および、製造したその分離膜を食品用途など安全性の必要な分野に使用可能にできることからより一層効果的である。
【0046】
脱水縮合反応促進剤に二酸化炭素を用いる場合において、二酸化炭素の状態は超臨界状態であってもよい。この構成は、二酸化炭素の拡散と作用との両方の向上が期待されることから、前述の接触工程による効果の向上、および接触工程の時間短縮による生産性の向上の観点からより一層効果的である。
【0047】
本発明の一態様において、接触工程に先立って、ゼオライトの結晶を水熱合成によって成長させて未処理ゼオライト膜を生成する工程をさらに含み、当該未処理ゼオライト膜はNa+またはK+をカウンターカチオンとして含み、当該接触工程において、脱水縮合反応促進剤に、カウンターカチオンと水不溶性塩を形成する化合物を用いてもよい。この構成は、有機化合物の流路の再構成の防止が期待されることから、未処理ゼオライト膜の使用時における水溶性有機化合物の意図せぬ透過を抑制する観点からより一層効果的である。
【0048】
生成工程をさらに含み、カウンターカチオンがNa+である場合において、脱水縮合反応促進剤にフッ化物溶液を用いてもよいし、または脱水縮合反応促進剤に尿酸水を用いてもよい。この構成は、上記の場合の未処理ゼオライト膜の使用時における水溶性有機化合物の意図せぬ透過を抑制する観点からより一層効果的である。
【0049】
生成工程をさらに含む場合において、生成工程は、ゼオライトの結晶構造を規制する鋳型剤である有機テンプレート化合物を用いずにゼオライトの結晶を成長させて未処理ゼオライト膜を生成する工程であってもよい。または、生成工程をさらに含む場合において、生成工程は、ゼオライトの結晶構造を規制する鋳型剤である有機テンプレート化合物の存在下でゼオライトの結晶を成長させ、得られたゼオライトの膜を酸化剤で処理して有機テンプレート化合物を膜から除去して未処理ゼオライト膜を生成する工程であってもよい。この構成は、焼成を要さないことから、焼成を要するゼオライト膜の製法に比べて、ゼオライト膜の生産性を高める観点および省力化の観点からより一層効果的である。
【0050】
本発明の一態様では、水溶性有機化合物の透過量の変化が低減された未処理ゼオライト膜が得られる。よって、本発明の一態様は、ゼオライト膜を用いる技術の普及および発展に寄与し、産業と技術革新に係る持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献することが期待される。
【0051】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0052】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されない。
【0053】
以下の実施例において、種結晶の粒度分布、空気透過量、浸透気化性能測定は以下の通りの方法により行った。
【0054】
種結晶の粒度分布を測定するための分散液は、計測装置の超音波分散バスに水を入れて撹拌機で撹拌しながら、分散液をフローセルに循環させ、分散液を透過した光の強度が装置に表示される適正な光強度の範囲に入るように、超音波分散バス中の水に種結晶を加えることで調製した。このときの分散溶媒である水の量は通常250mL、分散させる種結晶は通常0.01gである。粉末の種結晶を入れる場合には、超音波を5分間かけて分散液中の種結晶の凝集を取り除いたのちに測定を行った。測定はフロー方式で行った。
得られたデータから、一次粒子のD10、D50、D90を取得した。
【0055】
[二次粒子径の測定]
種結晶の二次粒子径の測定を、以下の条件で行った。
・装置名:ELSZ-2000ZS(大塚電子社製)
・測定方式:動的光散乱法
・測定範囲:0.02~44.3μm
・光源:高出力半導体レーザー
・検出器:高感度APD
・分散溶媒:水
得られたデータから、二次粒子径のメジアン径を取得した。
【0056】
〔空気透過量〕
多孔質支持体の表面に未処理ゼオライト膜が担持されている筒状の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、密閉状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインと多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターで空気の流量を測定し、空気透過量[L/(m2・h)]とした。マスフローメーターとしてはKOFLOC社製8300、N2ガス用、最大流量500mL/min(20℃、1気圧換算)を用いた。KOFLOC社製8300においてマスフローメーターの表示が10mL/min(20℃、1気圧換算)以下であるときはLintec社製MM-2100M、Airガス用、最大流量20mL/min(0℃、1気圧換算)を用いて測定した。
【0057】
〔浸透気化(パーベーパレーション)性能測定〕
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いた、パーベーパレーション法による性能測定は、下記の条件で、被処理液である100℃の水/エタノール水溶液(5/95質量%)から水を選択的に透過させる分離により行った。
【0058】
パーベーパレーション法に用いた装置の概略図を
図1に示す。
図1に示されるように、当該装置は、原料としての有機化合物水溶液を収容している原料タンク1と、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を収容する膜モジュール2と、膜モジュール2に接続される真空ポンプ3とを有する。膜モジュール2と真空ポンプ3との間には測定用トラップ4が接続されている。
【0059】
膜モジュール2は、金属製の円筒体と、円筒体の一端(測定用トラップ4側)に接続される連結部材と、円筒体の他端を開閉可能に密閉する閉塞部材と、を有している。膜モジュール2には、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が収容されている。多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の一端は連結部材に接続されており、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の内周側の空間は、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の外周側の空間とは遮断され、かつ連結部材を介して測定用トラップ4に連通している。多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の他端は密閉されている。
【0060】
原料タンク1は、供給タンク5、加熱器6を介して膜モジュール2に原料を供給可能に構成されている。また、膜モジュール2内の原料が、供給タンク5に戻せるように、または冷却器7を介して原料タンク1に戻せるように構成されている。また、供給タンク5と加熱器6との間で原料を循環可能に構成されている。さらに、冷却器7から原料タンク1に戻す原料をサンプリング可能に構成されている。当該装置の流路には、ポンプP1、P2およびバルブV1~V12が適宜に配置されている。
【0061】
〔多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造例〕
水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)37.6g、25wt%-KOH水溶液243.0g、水1910.2gを加えて混合撹拌し溶解させ溶液とした。これにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック-40)232.5gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。この水性反応混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/KOH/H2O=1/0.125/0.7/80/、SiO2/Al2O3=8であった。
【0062】
無機多孔質支持体としては、多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm、長さ1200mm)を用いた。この多孔質アルミナチューブの平均細孔径は1.3μmであり、空孔率は42%であった。
【0063】
プロトン型のY型ゼオライト(HY(SAR=5)、触媒化成工業社製)10.0gにNaOH5.00gと水100gを混合したものを100℃で7日間加熱した後、ろ過、水洗、乾燥することによりFAU型ゼオライトを得た。このFAU型ゼオライトの体積基準の粒度分布を測定したところD50は1.73μm、極大値は1.32μm、2.98μmであった(粒径:2μm程度)。
【0064】
このFAU型ゼオライトを種結晶とし、この種結晶を水に2質量%分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は3g/m2であった。
【0065】
種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、5時間かけて室温から180℃まで昇温した。昇温完了後、180℃で24時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を水性反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で4時間乾燥させた。こうして、未処理のCHA型ゼオライトの膜が多孔質支持体の外周面に担持されてなる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。
【0066】
〔対照例〕
上記製造例で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の浸透気化性能試験を行った。「上記製造例で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体」は、「脱水縮合反応促進剤を接触」させていない未処理ゼオライト膜、に該当する。これに前述した浸透気化性能試験を実施した。結果は水の透過流束(Qw)が3236[g/m2・h]、エタノールの透過流束(Qa)が256[g/m2・h]であった。結果を表1に示す。
【0067】
〔実施例〕
対照例で使用した後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に浸透気化性能試験を実施した。「対照例で使用した後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体」は、浸透気化性能試験によって被処理液である100℃の水/エタノール水溶液(5/95質量%)に一度接触している多孔質支持体-ゼオライト膜複合体である。この多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に対し、前述した浸透気化性能試験を行った。結果は水の透過流束(Qw)が3372[g/m2・h]、エタノールの透過流束(Qa)が102[g/m2・h]であった。結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1に示す通り、対照例より、100℃の水/エタノール水溶液(5/95質量%)に一度も接触していない多孔質支持体-ゼオライト膜複合体では、エタノールの透過量が多いことがわかった。一方、実施例より、100℃の水/エタノール水溶液(5/95質量%)に一度接触している多孔質支持体-ゼオライト膜複合体では、エタノールの透過量が大きく低減することがわかった。このように、上記の水/エタノール水溶液に接触させることにより、水の透過流束Qwが実質的に同じであるのに対して、エタノール処理後のエタノールの透過流束Qaが大きく低下しており、エタノールの回収率を高められることがわかった。