(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151509
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】レーダ装置、報知判定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/60 20060101AFI20231005BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20231005BHJP
【FI】
G01S13/60 202
G01S13/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061142
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】佐相 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隼
(72)【発明者】
【氏名】藤井 謙雄
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC13
5J070AD05
5J070AE01
5J070AF03
5J070AK30
(57)【要約】
【課題】物標との位置関係にかかわらず、物標が報知の対象であるか否かを正確に判定することを可能とするレーダ装置、報知判定方法及びプログラムを提供すること。
【解決手段】レーダ装置1は、自車両100の周囲に存在する他車両200に対して送信波を送信し、送信波が他車両200により反射されて形成された反射波を受信するレーダ装置1であって、送信波及び反射波から特定される物標の位置の時間変化に基づいて、自車両100に対する物標の相対速度を特定する第1相対速度特定部32と、送信波の周波数と反射波の周波数との差に基づいて、自車両100に対する物標の相対速度を特定する第2相対速度特定部33と、第1相対速度特定部32及び第2相対速度特定部33によって特定された相対速度に基づいて、物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する報知判定処理部34と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の移動体に搭載され、前記第1の移動体の周囲に存在する第2の移動体に対して送信波を送信し、該送信波が前記第2の移動体により反射されて形成された反射波を受信するレーダ装置であって、
前記送信波及び前記反射波から特定される物標の位置の時間変化に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第1相対速度特定部と、
前記送信波の周波数と前記反射波の周波数との差に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第2相対速度特定部と、
前記第1相対速度特定部及び前記第2相対速度特定部によって特定された相対速度に基づいて、前記物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する報知判定処理部と、を備えるレーダ装置。
【請求項2】
前記報知判定処理部は、前記第1の移動体と前記物標との位置関係が所定の関係になったときに、前記第1相対速度特定部及び前記第2相対速度特定部によって特定された相対速度に基づいて、前記物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記報知判定処理部は、前記第1相対速度特定部によって特定された相対速度と前記第2相対速度特定部によって特定された相対速度の両方が所定の閾値以下である場合に、前記物標を報知の対象とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記第2相対速度特定部によって特定される相対速度は前記第1の移動体を中心とした動径方向の相対速度であり、
前記動径方向の相対速度に対する前記閾値は、前記物標との位置関係に応じて変化する請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
第1の移動体に搭載され、前記第1の移動体の周囲に存在する第2の移動体に対して送信波を送信し、該送信波が前記第2の移動体により反射されて形成された反射波を受信するレーダ装置が実行する報知判定方法であって、
前記送信波及び前記反射波から特定される物標の位置の時間変化に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第1相対速度特定ステップと、
前記送信波の周波数と前記反射波の周波数との差に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第2相対速度特定ステップと、
前記第1相対速度特定ステップ及び前記第2相対速度特定ステップで特定された相対速度に基づいて、前記物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する報知判定処理ステップと、を含む報知判定方法。
【請求項6】
第1の移動体に搭載され、前記第1の移動体の周囲に存在する第2の移動体に対して送信波を送信し、該送信波が前記第2の移動体により反射されて形成された反射波を受信するレーダ装置のコンピュータに、
前記送信波及び前記反射波から特定される物標の位置の時間変化に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第1相対速度特定機能と、
前記送信波の周波数と前記反射波の周波数との差に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第2相対速度特定機能と、
前記第1相対速度特定機能及び前記第2相対速度特定機能によって特定された相対速度に基づいて、前記物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する報知判定処理機能と、を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置、報知判定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等の第1の移動体の運転手の死角等に他車両等の第2の移動体が存在する場合に、該他車両等の第2の移動体の存在を運転手にその旨を報知する死角検知機能が搭載された装置(周辺監視レーダ等)が知られている。この機能は、死角に存在する他車両等の第2の移動体を検知するものであるが、死角に存在する他車両等の第2の移動体が相対的に高速で動いている場合、つまり、速度差のある追い越しや追い越される場合には、報知を行わない仕様になっている。これは、運転手は、死角に存在する他車両等の第2の移動体がその前時間で十分に他車両等の第2の移動体の存在を認識できるものと考えられるからである。
【0003】
また、この種の装置では、装置が搭載された自車両に対する物標(装置が検出した他車両等の第2の移動体の位置及び速度を含む情報群)の相対速度に基づいて、この物標を警報または報知の対象とするか否かを判定している。
【0004】
このような技術が記載されているものとして、特許文献1がある。特許文献1には、追抜き相対速度が閾値以上である場合に、注意喚起を制限し、自車両の速度が速い場合には遅い場合に比べて、閾値を高く、かつ、設定演算時間を短くするように変更する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば自車両が他車両等の第2の移動体を追い抜く過程において、自車両の真横に他車両が並走する場合、特許文献1の装置のようにドップラ効果を利用して他車両の相対速度を算出する方法では、地上に存在する固定物と他車両との見分けがつかない状態となり、正確な相対速度を特定することが難しい。
【0007】
本発明は、物標との位置関係にかかわらず、物標が報知の対象であるか否かを正確に判定することを可能とするレーダ装置、報知判定方法及びプログラムを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1の移動体に搭載され、前記第1の移動体の周囲に存在する第2の移動体に対して送信波を送信し、該送信波が前記第2の移動体により反射されて形成された反射波を受信するレーダ装置であって、前記送信波及び前記反射波から特定される物標の位置の時間変化に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第1相対速度特定部と、前記送信波の周波数と前記反射波の周波数との差に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第2相対速度特定部と、前記第1相対速度特定部及び前記第2相対速度特定部によって特定された相対速度に基づいて、前記物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する報知判定処理部と、を備えるレーダ装置に関する。
【0009】
前記報知判定処理部は、前記第1の移動体と前記物標との位置関係が所定の関係になったときに、前記第1相対速度特定部及び前記第2相対速度特定部によって特定された相対速度に基づいて、前記物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力してもよい。
【0010】
前記報知判定処理部は、前記第1相対速度特定部によって特定された相対速度と前記第2相対速度特定部によって特定された相対速度の両方が所定の閾値以下である場合に、前記物標を報知の対象としてもよい。
【0011】
前記第2相対速度特定部によって特定される相対速度は前記第1の移動体を中心とした動径方向の相対速度であり、前記動径方向の相対速度に対する前記閾値は、前記物標との位置関係に応じて変化してもよい。
【0012】
また本発明は、第1の移動体に搭載され、前記第1の移動体の周囲に存在する第2の移動体に対して送信波を送信し、該送信波が前記第2の移動体により反射されて形成された反射波を受信するレーダ装置が実行する報知判定方法であって、前記送信波及び前記反射波から特定される物標の位置の時間変化に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第1相対速度特定ステップと、前記送信波の周波数と前記反射波の周波数との差に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第2相対速度特定ステップと、前記第1相対速度特定ステップ及び前記第2相対速度特定ステップで特定された相対速度に基づいて、前記物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する報知判定処理ステップと、を含む報知判定方法に関する。
【0013】
また本発明は、第1の移動体に搭載され、前記第1の移動体の周囲に存在する第2の移動体に対して送信波を送信し、該送信波が前記第2の移動体により反射されて形成された反射波を受信するレーダ装置のコンピュータに、前記送信波及び前記反射波から特定される物標の位置の時間変化に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第1相対速度特定機能と、前記送信波の周波数と前記反射波の周波数との差に基づいて、前記第1の移動体に対する前記物標の相対速度を特定する第2相対速度特定機能と、前記第1相対速度特定機能及び前記第2相対速度特定機能によって特定された相対速度に基づいて、前記物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する報知判定処理機能と、を実行させるプログラムに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、物標との位置関係にかかわらず、物標が報知の対象であるか否かを正確に判定することを可能とするレーダ装置、報知判定方法及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置を含む報知システムを示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るレーダ装置のハードウェアの構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るレーダ装置のレーダ制御部の報知判定処理に関する機能的構成を示すブロック図である。
【
図4A】本発明の一実施形態に係るレーダ装置を搭載した自車両が他車両を追い抜く前の状態を示す平面図である。
【
図4B】本発明の一実施形態に係るレーダ装置を搭載した自車両が他車両の真横を走行している状態を示す平面図である。
【
図4C】本発明の一実施形態に係るレーダ装置を搭載した自車両が他車両を追い抜いた状態を示す平面図である。
【
図5】自車両の車体中心と他車両の車体中心を通る直線である基準線の自車両の前後方向に対する角度とドップラ周波数から算出される相対速度の関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態に係るレーダ装置による報知判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るレーダ装置1を含む警報システムSの模式図である。
図1に示す警報システムSは、第1の移動体としての車両(以下、自車両)100に搭載され、自車両100の運転者であるユーザの死角等に物標が存在する場合に、ユーザに注意を促すための報知を行うことができるシステムである。
【0018】
警報システムSは、前後左右のレーダ装置1-1,1-2からの物標に関する情報を受信するECU(Electronic Control Unit)2と、ECU2からの制御信号に基づいて物標の存在をユーザに報知する報知装置3と、を備える。
【0019】
レーダ装置1-1,1-2は、電磁波を送受信により物標を検出し、物標を報知の対象とするか否かを判定(以下、報知判定)し、その判定結果を出力する装置である。例えば、レーダ装置1-1は自車両100の後部左側のバンパ内に配置され、レーダ装置1-2は車両の後部右側のバンパ内に配置される。レーダ装置1-1,1-2は、自車両100の周囲に存在する他車両等の第2の移動体に対して電磁波である送信波を送信し、該送信波が第2の移動体により反射されて形成された反射波を受信する。この送信波及び反射波に基づいて他車両等の第2の移動体に関する距離、相対速度、及び、方位角等の情報である物標が検出される。なお、以下の説明においてレーダ装置1とした場合は、レーダ装置1-1,1-2の何れか又はその組み合わせを示すものとする。
【0020】
ECU2は、自車両100の電子部品の各種の制御を行うコンピュータである。ECU2は、レーダ装置1-1,1-2から報知判定結果を受信すると、その種類に応じて報知装置3を動作させる制御を行う。なお、ECU2には、レーダ装置1-1,1-2や報知装置3以外の電子機器が接続されていてもよい。警報システムSは、ECU2が実現するシステムの1つともいえる。
【0021】
報知装置3は、ユーザに死角に報知の対象である物標が存在していることを光、音、映像又はこれらの組み合わせによって報知する機器である。報知装置3は、例えば、光を点灯する表示灯、音を発生させるスピーカ、映像を表示するディスプレイ等によって構成される。
【0022】
次に、レーダ装置1のハードウェア構成について説明する。なお、以下に
図2を参照して説明するレーダ装置1のハードウェア構成はあくまで一例であり、この構成に限定されるわけではない。
【0023】
図2は、本実施形態のレーダ装置1の構成のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2の例では、レーダ装置1は、電磁波を送受信するアンテナ部20と、アンテナ部20の検出信号の処理等、レーダ装置1の各種の制御を行うレーダ制御部10と、を備える。
【0024】
アンテナ部20は、送信波を送信する送信アンテナ21と、物標によって反射された反射波を受信する受信アンテナ22と、を備える。送信アンテナ21及び受信アンテナ22は、それぞれ、複数のアンテナ素子によって構成される。アンテナ部20は、受信アンテナ22の受信信号を処理し、レーダ制御部10に送信する。
【0025】
レーダ制御部10は、プロセッサ11、ROM(read-only memory)12、RAM(random-access memory)13、補助記憶装置14、通信I/F(interface)15を備え、各部がバス16等によって接続されるコンピュータである。
【0026】
プロセッサ11は、レーダ装置1の動作に必要な演算及び制御等の処理を行うコンピュータの中枢部分であり、各種演算及び処理等を行う。プロセッサ11は、例えば、CPU(central processing unit)、MPU(micro processing unit)、SoC(system on a chip)、DSP(digital signal processor)、GPU(graphics processing unit)、ASIC(application specific integrated circuit)、PLD(programmable logic device)又はFPGA(field-programmable gate array)等である。あるいは、プロセッサ11は、これらのうちの複数を組み合わせたものである。また、プロセッサ11は、これらにハードウェアアクセラレーター等を組み合わせたものであっても良い。
【0027】
プロセッサ11は、ROM12又は補助記憶装置14等に記憶されたファームウェア、システムソフトウェア及びアプリケーションソフトウェア等のプログラムに基づいて、レーダ装置1の各種の機能を実現するべく各部を制御する。また、プロセッサ11は、当該プログラムに基づいて後述する処理を実行する。なお、当該プログラムの一部又は全部は、プロセッサ11の回路内に組み込まれていても良い。
【0028】
ROM12及びRAM13は、プロセッサ11を中枢としたコンピュータの主記憶装置である。ROM12は、専らデータの読み出しに用いられる不揮発性メモリである。ROM12は、上記のプログラムのうち、例えばファームウェア等を記憶する。また、ROM12は、プロセッサ11が各種の処理を行う上で使用するデータ等も記憶する。RAM13は、データの読み書きに用いられるメモリである。RAM13は、プロセッサ11が各種の処理を行う上で一時的に使用するデータを記憶するワークエリア等として利用される。RAM13は、典型的には揮発性メモリである。
【0029】
補助記憶装置14は、例えばEEPROM(electric erasable programmable read-only memory)、HDD(hard disk drive)又はフラッシュメモリ等である。補助記憶装置14は、上記のプログラムのうち、例えば、システムソフトウェア及びアプリケーションソフトウェア等を記憶する。また、補助記憶装置14は、プロセッサ11が各種の処理を行う上で使用するデータ、プロセッサ11での処理によって生成されたデータ及び各種の設定値等を記憶する。
【0030】
通信I/F15は、ECU2と通信するためのインターフェースである。レーダ制御部10の検出結果は、通信I/F15からECU2に送信される。
【0031】
次に、プロセッサ11によって実現されるレーダ装置1の機能について
図3~
図4Cを参照しながら説明する。
図3は、本実施形態のレーダ装置1の報知判定処理に関する機能的構成の一例を示すブロック図である。
図4A~
図4Cは、第2の移動体としての他車両200の斜め後方を走行する自車両100が他車両200を追い抜くまでの過程を示す平面図である。なお、自車両100の進行する方向または後退する方向を前後方向Xとし、前後方向Xに交差する方向を左右方向Yとする。本実施形態におけるレーダ装置1による報知判定処理については、自車両100が自車両100の走行車線に隣接する車線を走行する他車両200を追い抜く場合を例に説明する。
【0032】
図3に示すように、レーダ装置1のレーダ制御部10は、プロセッサ11によって実行される機能部として、検出処理部31と、第1相対速度特定部32と、第2相対速度特定部33と、報知判定処理部34と、閾値設定部35と、を備える。
【0033】
検出処理部31は、送信アンテナ21から送信された送信波と、受信アンテナ22が受信した反射波に基づいて、他車両200を検出する処理を実行する。具体的には、検出処理部31は、受信した反射波を分析し、視野角θrの検出可能範囲Z内に存在する複数の点群を検出し、これらの点群をクラスタリング等の処理によって他車両200に対応する物標を検出する。また検出処理部31は、送信波の送信から反射波の受信までの経過時間から算出した物標までの距離や反射波を受信した方位角等に関する情報を検出する。そして検出処理部31は、検出した距離及び方位角と、自車両100の長さや幅等の車両情報と、自車両100におけるレーダ装置1の取付位置や角度に関する情報に基づいて、自車両100の車体中心C1を中心とした物標の位置を特定する。
【0034】
第1相対速度特定部32は、検出処理部31によって取得された物標の位置の時間変化に基づいて物標の相対速度を特定する。例えば第1相対速度特定部32は、ある時点での物標の位置と所定時間経過後の他車両200の位置との差と、経過時間から自車両100に対する物標の相対速度を算出する。
【0035】
第2相対速度特定部33は、送信アンテナ21から送信された送信波の周波数と、該送信波が他車両200によって反射され、受信アンテナ22が受信した反射波の周波数との差に基づいて、自車両100に対する物標の相対速度を特定する。即ち、第2相対速度特定部33は、ドップラ効果による周波数の変化に関する情報から物標の相対速度を特定する。本実施形態では、第2相対速度特定部33は、自車両100を中心とした動径方向の相対速度を特定している。
【0036】
報知判定処理部34は、第1相対速度特定部32によって特定された相対速度と第2相対速度特定部33によって特定された相対速度に基づいて、物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する。例えば報知判定処理部34は、特定された相対速度と閾値設定部35によって設定された閾値とを比較して物標を報知の対象とするか否かを判定する。例えば報知判定処理部34は、第1相対速度特定部32によって特定された相対速度と第2相対速度特定部33によって特定された相対速度の両方が閾値設定部35によって設定された閾値以下である場合に、物標を報知の対象としてもよい。
【0037】
報知判定処理部34は、例えば物標を報知の対象とすると判定した場合に、通信I/F15を介して物標が報知の対象であるという情報をECU2に送信する。この結果、報知判定処理部34からの情報を受信したECU2が報知装置3に報知指令信号を送信し、該信号を受信した報知装置3がユーザへの報知動作を開始することになる。報知判定処理部34による報知判定処理の詳細については後述する。
【0038】
閾値設定部35は、物標が報知の対象であるか判定するための相対速度に関する閾値を設定する処理を実行する。例えば閾値設定部35は、第1相対速度特定部32によって特定された相対速度と第2相対速度特定部33によって特定された相対速度に対して同じ閾値を設定してもよく、それぞれ異なる閾値を設定してもよい。例えば、閾値設定部35は、予め定められた固定値を第1相対速度特定部32によって特定される相対速度に対する第1閾値として設定してもよい。また閾値設定部35は、検出処理部31によって取得された自車両100と物標の位置関係に基づいて、第2相対速度特定部33によって取得される相対速度に対する第2閾値を設定してもよい。
【0039】
次に、報知判定処理部34による報知判定処理の詳細について
図4A~
図4Cを参照しながら説明する。
図4Aは、自車両100が他車両200を追い抜く前の状態を示す平面図である。
図4Bは、自車両100が他車両200の真横を走行している状態を示す平面図である。
図4Cは、自車両100が他車両200を追い抜いた状態を示す平面図である。
【0040】
本実施形態では、報知判定処理部34は、自車両100と他車両200の物標の位置関係に応じて、物標を報知の対象とするか否かを判定する処理の内容を変化させる。以降の説明では、物標を報知の対象とするか否かを判定することを単に「報知判定」ともいう。具体的には、報知判定処理部34は、
図4Aに示すように自車両100が他車両200を追い抜く前であり、他車両200よりも後方に位置する場合、第1相対速度特定部32又は第2相対速度特定部33のいずれか一方のみによって特定された相対速度に基づいて報知判定を行う。一方で、報知判定処理部34は、自車両100と物標との位置関係が所定の関係になったときに、第1相対速度特定部32によって特定された相対速度と第2相対速度特定部33によって特定された相対速度の両方に基づいて、物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する。所定の関係とは、例えば
図4Bに示す自車両100が他車両200の真横を走行している位置関係であってもよい。即ち、自車両100の車体中心C1から他車両200の車体中心C2を通る直線である基準線Lが左右方向Yに略平行となる位置関係であってもよい。例えば報知判定処理部34は、
図4Bに示すように自車両100が他車両200の真横を走行している状態や
図4Cに示すように自車両100が他車両200を追い抜いた状態において、第1相対速度特定部32及び第2相対速度特定部33の両方によって特定された相対速度に基づいて報知判定を行うことになる。なお、報知判定処理部34は、自車両100と物標との位置関係に拘わらず、第1相対速度特定部32によって特定された相対速度と第2相対速度特定部33によって特定された相対速度の両方に基づいて報知判定を行ってもよい。
【0041】
ここで、送信波の周波数と反射波の周波数との差に基づいて物標の相対速度を特定する場合と、位置の時間変化に基づいて物標の相対速度を特定する場合の相対速度の検出精度について説明する。
【0042】
第2相対速度特定部33は、例えば自車両100に対する物標の相対速度を、自車両100の車体中心Cを中心としたドップラ周波数から算出される動径方向における相対速度は例えば以下の式(1)によって表される。
【0043】
Vrel=Freq(周波数)×B・・・式(1)
なお、「Vrel」はドップラ周波数から算出される動径方向における相対速度を示し、「B」はレーダ装置1の相対速度の周波数分解能を示す値である。
【0044】
図5は、自車両100と他車両200の位置関係に応じて変化するドップラ周波数から算出される相対速度を示すグラフである。
図5の横軸は角度θ(deg)を示し、縦軸はドップラ周波数から算出される相対速度を示している。
図5に示す実線は前後方向Xにおける相対速度Vが相対速度V1である場合の角度θに対するドップラ周波数から算出される相対速度の推移を示し、破線は前後方向Xにおける相対速度Vが相対速度V1よりも高い相対速度V2である場合の角度θに対するドップラ周波数から算出される相対速度の推移を示している。なお、
図5に示す相対速度V1及び相対速度V2は変化せず一定である。
【0045】
図4A~
図4C、
図5、式(1)に示すように、前後方向Xにおける相対速度V1,V2が一定であっても、ドップラ周波数から算出される相対速度は角度θに応じて変化する。このため、周波数の変化によって相対速度を特定する場合、角度θを考慮し、前後方向Xにおける相対速度Vを特定する必要がある。しかし、
図4Bに示すように、自車両100と他車両200が真横に位置するような角度θが90°である場合、
図5に示すように相対速度V1,V2はドップラ周波数から算出される相対速度が同じ値であるAとなる。即ち、相対速度V1,V2の差をドップラ周波数から算出される相対速度から検出できない。また、角度が90°付近においても差が極めて小さく、相対速度を正確に検出することができないことを示している。
【0046】
一方で、
図4Cに示すように自車両100が他車両200を追い抜き、角度θが90°から十分に角度の差がついた場合、
図5に示すように相対速度V1,V2との間のドップラ周波数から算出される相対速度の差は大きくなり、ドップラ効果による相対速度の検出精度が高くなる。しかし、相対位置の時間変化によって相対速度を特定する場合、自車両100が他車両200の真横に並んでから他車両200を追い抜くまで、他車両200の側面の点群の重心までの最近距離の変化が少なく、点群の重心の検出誤差も生じやすい。このため、相対速度が実際よりも遅い値に算出され、報知の対象とはならない速度でも警報が発生してしまうことがある。
【0047】
これに対して本実施形態では、送信波の周波数と受信波の周波数の差によって特定した相対速度と自車両100と他車両200の物標の相対位置の時間変化に基づいて特定した相対速度の両方を用いて報知判定を実行している。これにより、自車両100と物標の位置関係が送信波と反射波の周波数の変化がない角度θが90°付近である場合には相対位置の時間変化に基づいて特定した相対速度を考慮し、点群の重心の検出誤差が大きくなるような場合には送信波と反射波の間の周波数の差に基づいて特定した相対速度を考慮し、報知判定を行うことができる。即ち、物標の位置の時間変化による相対速度の検出精度が低い場合はドップラ効果を利用した相対速度の検出結果を考慮し、反対にドップラ効果を利用した方法による相対速度の検出精度が低い場合は相対位置の時間変化による相対速度の検出結果を考慮し、相対速度を特定できる。よって、物標の相対速度を正確に把握できるので、報知の対象である物標をより正確に判定できる。
【0048】
また、
図5に示すように、自車両100の動径方向の相対速度であるドップラ周波数から算出される相対速度は、前後方向Xにおける相対速度が一定であっても角度θが大となるにつれて減少する。本実施形態では、閾値設定部35は、検出処理部31によって取得された自車両100と物標の位置関係に基づいて、第2相対速度特定部33によって得される相対速度に対する第2閾値を調整している。例えば閾値設定部35は、
図5に示すように角度θが大となるほど第2閾値が低くなるように調整している。
【0049】
次に、本実施形態に係るレーダ装置1が実行する報知判定処理の流れの一例について
図6を参照しながら説明する。
図6は、レーダ装置1による報知判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0050】
図6に示すように、ステップS11において、検出処理部31は、アンテナ部20から送信波及び反射波に関する情報を取得し、分析することで検出可能範囲Zの他車両200を検出する。
【0051】
ステップS12において、検出処理部31は、ステップS11で取得した送信波及び反射波に基づいて物標の位置を特定する。このとき、検出処理部31は、複数の時点での他物標の位置を特定する。
【0052】
ステップS13において、第1相対速度特定部32は、ステップS12で取得した他車両200の複数の位置に関する情報から物標の位置の時間変化を算出し、他車両200の位置の時間変化に基づいて物標の相対速度を特定する。
【0053】
ステップS14において、第2相対速度特定部33は、ステップS11で取得した送信波の周波数と反射波の周波数との差に基づいて、物標の相対速度を特定する。このとき、第2相対速度特定部33は、自車両100を中心とした動径方向の相対速度を特定する。
【0054】
ステップS15において、閾値設定部15は、ステップS13で特定した相対速度に対する第1閾値と、ステップS14で特定した相対速度に対する第2閾値を設定する。具体的には、閾値設定部15は、予め定められた固定値を第1閾値として設定し、ステップS12で取得した自車両100と物標の位置関係に基づいて第2閾値を設定する。
【0055】
ステップS16において、報知判定処理部34は、物標が報知の対象であるか否かを判定する。例えば、報知判定処理部34は、ステップS13で特定した相対速度がステップS15で設定した第1閾値以下であり、かつステップS14で特定した相対速度がステップS15で設定した第2閾値以下である場合、物標が報知の対象であると判定し、それ以外の場合、報知の対象でないと判定する。報知判定処理部34は、物標が報知の対象であると判定した場合(ステップS16;Yes)、処理をステップS17に移行させる。一方で、報知判定処理部34は、物標が報知の対象でないと判定した場合(ステップS16;No)、報知判定処理においてレーダ制御部10が実行する処理を終了する。
【0056】
ステップS17において、報知判定処理部34は、ステップS16で判定した他車両200が報知の対象であるという判定結果をECU2に送信する。この結果、ECU2から報知装置3に報知指令信号が送信され、自車両100の周囲の物標の存在がユーザに報知される。ステップS17の処理の後、レーダ制御部10が実行する報知判定処理が終了する。
【0057】
以上説明した実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
【0058】
本実施形態に係るレーダ装置1は、自車両100に搭載され、自車両100の周囲に存在する他車両200に対して送信波を送信し、他車両200によって反射されて形成された反射波を受信するレーダ装置1であって、送信波及び反射波から特定される物標の位置の時間変化に基づいて、自車両100に対する物標の相対速度を特定する第1相対速度特定部32と、送信波の周波数と反射波の周波数との差に基づいて、自車両100に対する物標の相対速度を特定する第2相対速度特定部33と、第1相対速度特定部32及び第2相対速度特定部33によって特定された相対速度に基づいて、物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する報知判定処理部34と、を備える。
【0059】
これにより、物標の位置の時間変化に基づく方法と送信波及び反射波の間の周波数の差に基づく方法の2つの異なる方法によって特定された相対速度を併用できるので、物標との位置関係に拘わらず、物標の相対速度を正確に把握することが可能となる。具体的には、物標との位置関係が位置の時間変化による相対速度の検出精度が低い状況ではドップラ効果を利用した相対速度の検出結果を考慮し、ドップラ効果を利用した方法による相対速度の検出精度が低い場合は位置の時間変化による相対速度の検出結果を考慮し、相対速度を特定できる。よって、物標の相対速度を正確に把握し、物標が報知の対象であるかを正確に判定することが可能となる。
【0060】
また本実施形態に係るレーダ装置1において、報知判定処理部34は、自車両100と物標との位置関係が所定の関係になったときに、第1相対速度特定部32及び第2相対速度特定部33によって特定された相対速度に基づいて、自車両100を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する。
【0061】
これにより、例えば物標の位置の時間変化に基づく相対速度とドップラ効果を利用した相対速度の両方を用いるタイミングを自車両100と物標との位置関係に応じて調整できる。よって、処理負荷を軽減しつつ、報知の対象であるかを正確に判定することが可能となる。
【0062】
また本実施形態に係るレーダ装置1において、報知判定処理部34は、第1相対速度特定部32によって特定された相対速度と第2相対速度特定部33によって特定された相対速度の両方が所定の閾値以下である場合に、物標を報知の対象とする。
【0063】
これにより、物標が報知であるかを簡易的な処理で判定できる。
【0064】
また本実施形態に係るレーダ装置1において、第2相対速度特定部33によって特定される相対速度は自車両100を中心とした動径方向の相対速度であり、動径方向の相対速度に対する閾値は、物標との位置関係に応じて変化する。
【0065】
これにより、動径方向の相対速度を特定するので、送信波及び反射波の周波数の差から特定した相対速度を前後方向Xにおける相対速度Vに変換する必要がなくなり、処理負荷を軽減できる。また、動径方向の相対速度に対する閾値が物標との位置関係に応じて変化するので、処理負荷を軽減しつつ、送信波及び反射波の周波数の差に基づいてより正確に相対速度を特定できる。
【0066】
本実施形態に係る報知判定方法は、自車両100に搭載され、自車両100の周囲に存在する他車両200に対して送信波を送信し、該送信波が他車両200により反射されて形成された反射波を受信するレーダ装置1が実行する報知判定方法であって、送信波及び反射波から特定される物標の位置の時間変化に基づいて、自車両100に対する物標の相対速度を特定する第1相対速度特定ステップと、送信波の周波数と反射波の周波数との差に基づいて、自車両100に対する物標の相対速度を特定する第2相対速度特定ステップと、第1相対速度特定ステップ及び第2相対速度特定ステップで特定された相対速度に基づいて、物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する報知判定処理ステップと、を含む。
【0067】
これにより、物標の位置の時間変化に基づく方法と送信波及び反射波の間の周波数の差に基づく方法の2つの異なる方法によって特定された相対速度を併用できるので、物標との位置関係に拘わらず、物標の相対速度を正確に把握することが可能となる。具体的には、物標との位置関係が相対位置の時間変化による相対速度の検出精度が低い状況ではドップラ効果を利用した相対速度の検出結果を考慮し、ドップラ効果を利用した方法による相対速度の検出精度が低い場合は相対位置の時間変化による相対速度の検出結果を考慮し、相対速度を特定できる。よって、物標の相対速度を正確に把握し、物標が報知の対象であるかを正確に判定することが可能となる。
【0068】
本実施形態に係るプログラムは、自車両100に搭載され、自車両100の周囲に存在する他車両200に対して送信波を送信し、送信波が他車両200により反射されて形成された反射波を受信するレーダ装置1のコンピュータに、送信波及び反射波から特定される物標の位置の時間変化に基づいて、自車両100に対する物標の相対速度を特定する第1相対速度特定機能と、送信波の周波数と反射波の周波数との差に基づいて、自車両100に対する物標の相対速度を特定する第2相対速度特定機能と、第1相対速度特定機能及び第2相対速度特定機能によって特定された相対速度に基づいて、物標を報知の対象とするか否かを判定し、その判定結果を出力する報知判定処理機能と、を実行させる。
【0069】
これにより、物標の位置の時間変化に基づく方法と送信波及び反射波の間の周波数の差に基づく方法の2つの異なる方法によって特定された相対速度を併用できるので、物標との位置関係に拘わらず、物標の相対速度を正確に把握することが可能となる。具体的には、物標との位置関係が相対位置の時間変化による相対速度の検出精度が低い状況ではドップラ効果を利用した相対速度の検出結果を考慮し、ドップラ効果を利用した方法による相対速度の検出精度が低い場合は相対位置の時間変化による相対速度の検出結果を考慮し、相対速度を特定できる。よって、物標の相対速度を正確に把握し、物標が報知の対象であるかを正確に判定することが可能となる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0071】
上記実施形態では、第2相対速度特定部33は、自車両100の動径方向の相対速度を特定していたが、前後方向Xにおける相対速度を特定してもよい。
【0072】
また、上述した上記実施形態及び変形例における一連の処理は、ハードウェアにより実行させることもできるし、ソフトウェアにより実行させることもできる。一連の処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータ等にネットワークや記録媒体からインストールされる。そして、コンピュータは、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータであってもよい。また、コンピュータは、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能なコンピュータ、例えば汎用のパーソナルコンピュータであってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 レーダ装置
32 第1相対速度特定部
33 第2相対速度特定部
34 報知判定処理部
100 自車両(第1の移動体)
200 他車両(第2の移動体)