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特開2023-151575ケルラクトンエステル類化合物の定量方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151575
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ケルラクトンエステル類化合物の定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20231005BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20231005BHJP
   G01N 30/04 20060101ALI20231005BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N30/88 C
G01N30/86 J
G01N30/04 P
G01N24/08 510P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061258
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 大剛
(72)【発明者】
【氏名】新穂 大介
(72)【発明者】
【氏名】川本 扶佐子
(72)【発明者】
【氏名】金澤 まい
(57)【要約】
【課題】植物抽出物に含まれるケルラクトンエステル類化合物を高精度に定量する方法を提供する。
【解決手段】植物抽出物に含まれるケルラクトンエステル類化合物を定量する方法は、ケルラクトンエステル類化合物又は定量用標準物質と、純度算出用標準物質とを含むNMR試料溶液のNMRスペクトルから、ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質の純度を算出する工程と、定量用標準物質に対するケルラクトンエステル類化合物の相対モル感度を取得する工程と、植物抽出物を含む定量用試料溶液の定量用クロマトグラム及び定量用標準物質を含む定量用標準溶液の標準クロマトグラムから、抽出物中のケルラクトンエステル類化合物の含有量を算出する工程とを有し、定量用標準物質は、UVスペクトルにおいて波長305~335nmに吸収極大を示す物質である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物からの抽出物に含まれる少なくとも1種のケルラクトンエステル類化合物を定量する方法であって、
前記ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質のそれぞれの純度を、定量核磁気共鳴分光法(qNMR)を用いて算出する純度算出工程と、
前記純度が算出された前記定量用標準物質に対する前記純度が算出された前記ケルラクトンエステル類化合物の相対モル感度を取得する相対モル感度取得工程と、
前記抽出物を含む定量用試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる定量用クロマトグラム及び前記純度が算出された前記定量用標準物質を含む定量用標準溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる標準クロマトグラム、又は前記抽出物及び前記純度が算出された前記定量用標準物質を含む標準混合定量用試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる標準混合定量用クロマトグラムから、前記抽出物中の前記ケルラクトンエステル類化合物の含有量を算出する定量工程と
を有し、
前記相対モル感度取得工程は、
前記ケルラクトンエステル類化合物及び前記定量用標準物質のそれぞれを含むLC試料溶液を少なくとも1種のモル濃度で調製する工程と、
前記各種LC試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することでLCクロマトグラムを得る工程と、
前記各種LC試料溶液における前記ケルラクトンエステル類化合物及び前記定量用標準物質のそれぞれの前記純度に基づくモル濃度と、前記LCクロマトグラムにおける前記ケルラクトンエステル類化合物及び前記定量用標準物質のそれぞれのピーク面積との関係を示す各検量線の傾きを算出する工程と、
前記定量用標準物質の前記検量線の傾きに対する前記ケルラクトンエステル類の前記検量線の傾きの比を、前記ケルラクトンエステル類化合物の前記相対モル感度として算出する工程と
を含み、
前記定量工程は、
前記純度が算出された前記定量用標準物質を少なくとも1種のモル濃度で含む少なくとも1つの前記定量用標準溶液を前記液体クロマトグラフィーで処理することで得られる少なくとも1つの前記標準クロマトグラムから取得される前記純度が算出された少なくとも1つの前記定量用標準物質のピーク面積、又は前記抽出物及び前記純度が算出された前記定量用標準物質を所定のモル濃度で含む前記標準混合定量用試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる前記標準混合定量用クロマトグラムから取得される前記純度が算出された少なくとも1つの前記定量用標準物質のピーク面積と、前記少なくとも1つの定量用標準溶液のそれぞれにおける前記定量用標準物質の前記純度に基づくモル濃度との関係を示す標準検量線を作成する工程と、
前記抽出物を含む前記定量用試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる前記定量用クロマトグラムから取得される前記ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積、又は前記抽出物及び前記定量用標準物質を含む標準混合定量用試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる標準混合定量用クロマトグラムから取得される前記ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積と、前記標準検量線の傾きと、前記相対モル感度とから、前記抽出物中の前記ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの含有量を算出する工程と
を含み、
前記定量用標準物質は、UVスペクトルにおいて波長305~335nmに吸収極大を示す物質であることを特徴とするケルラクトンエステル類化合物の定量方法。
【請求項2】
前記定量用標準物質が、下記化学構造式(I)で示す化合物であることを特徴とする請求項1に記載のケルラクトンエステル類化合物の定量方法。
【化1】

上記化学構造式(I)中、R1は、水素、炭素数1~5のアルキル基、又はアセチル基を表し、R2は、水素又は水酸基を表し、R3は、水素又は炭素数1~5のアルキル基を表し、R4は、水素又は3-メチル-2-ブテニル基を表す。
【請求項3】
前記定量用標準物質が、下記化学構造式(II)で示す7-エトキシ-4-メチルクマリンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のケルラクトンエステル類化合物の定量方法。
【化2】
【請求項4】
前記定量工程において、前記ケルラクトンエステル類化合物の含有量は、下記数式(1)及び(2)に基づいて算出されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のケルラクトンエステル類化合物の定量方法。
【数1】

【数2】

上記数式(1)及び(2)において、Ctは「前記抽出物中の前記ケルラクトンエステル類化合物の含有量」を表し、Cは「前記定量用試料溶液又は標準混合定量用試料溶液中における前記ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度」を表し、Mは「前記ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を表し、Cは「前記定量用試料溶液又は標準混合定量用試料溶液中における前記抽出物の濃度」を表し、Sは「前記定量用標準物質において前記標準検量線を作成した場合における当該標準検量線の傾き」を表し、aは「前記定量用クロマトグラム又は標準混合定量用クロマトグラムにおける前記ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を表し、RMSは「前記ケルラクトンエステル類化合物の前記相対モル感度」を表す。
【請求項5】
前記純度算出工程において、前記ケルラクトンエステル類化合物及び前記定量用標準物質の純度を測定する定量核磁気共鳴分光法(qNMR)が、内標準法によるH-qNMR測定法であること特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のケルラクトンエステル類化合物の定量方法。
【請求項6】
前記植物が、セリ科、アカネ科又はサルトリイバラ科に属する植物であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のケルラクトンエステル類化合物の定量方法。
【請求項7】
前記植物が、セリ科カワラボウフウ属に属する植物であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のケルラクトンエステル類化合物の定量方法。
【請求項8】
前記植物が、長命草であることを特徴とする請求項7に記載のケルラクトンエステル類化合物の定量方法。
【請求項9】
前記ケルラクトンエステル類化合物が、ヒュウガニンD(hyuganin D)、シス-3’-アセチル-4’-チグロイルケルラクトン(cis-3'-acetyl-4'-tigloylkhellactone)、ポイセダノクマリンIII(peucedanocoumarin III)、イソサミジン(isosamidin)、トランス-3’-アセチル-4’-セネシオイルケルラクトン(trans-3'-acetyl-4'-senecioylkhellactone)及びプテリキシン(pteryxin)から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のケルラクトンエステル類化合物の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物からの抽出物に含まれるケルラクトンエステル類化合物を定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セリ科カワラボウフウ属に属する植物である長命草(別名:ボタンボウフウ,Peucedanum japonicum Thunb.)は、沖縄県などで古くから料理や民間薬として利用されてきた食材であり、糖尿病の予防・治療や肥満の解消などに有効であること(特許文献1)、細胞賦活作用、抗酸化作用、メラニン産生抑制作用があること(特許文献2)、ヘパラナーゼ活性抑制作用があり、しわの防止、改善に有効であること(特許文献3)、セラミド合成促進作用があること(特許文献4)、Sirtuin-1遺伝子活性効果があることなどが知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-26694号公報
【特許文献2】特開2004-26697号公報
【特許文献3】国際公開第2009/123215号
【特許文献4】特開2005-194239号公報
【特許文献5】特許第3521155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機能性表示食品は、当該機能性表示食品に配合される成分が有する効果(例えば、上記長命草抽出物が有する「抗肥満、血糖降下、排尿機能改善」等)に基づく機能を表示して需要者に提供され得る。上記長命草抽出物を配合してなる飲食品を機能性表示食品として需要者に提供しようとする場合、上記機能を有する機能性関与成分であるケルラクトンエステル類化合物の含量を担保し、適切に品質管理することが必要となる。しかしながら、長命草抽出物等のセリ科植物抽出物等に代表される植物抽出物に含まれるケルラクトンエステル類化合物を高精度に定量する方法は、現在のところ確立されておらず、当該定量方法の提案が望まれている。
【0005】
一般に、定量対象成分を含む検体を液体クロマトグラフィー処理に付して、それにより得られるクロマトグラムからピーク面積を求めて当該定量対象成分の検量線を作成することで、当該定量対象成分を定量する方法が知られている。この検量線を作成するためには、定量対象成分の高純度かつ純度が確かな標準品が必要となるが、長命草抽出物等のセリ科植物抽出物等に代表される植物抽出物に含まれるケルラクトンエステル類化合物の当該標準品は安定的に入手することができず、検量線を用いて高精度に定量することも困難である。
【0006】
上記課題に鑑みて、本発明は、植物からの抽出物に含まれるケルラクトンエステル類化合物を高精度に定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、植物からの抽出物に含まれる少なくとも1種のケルラクトンエステル類化合物を定量する方法であって、前記ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質のそれぞれの純度を、定量核磁気共鳴分光法(qNMR)を用いて算出する純度算出工程と、前記純度が算出された前記定量用標準物質に対する前記純度が算出された前記ケルラクトンエステル類化合物の相対モル感度を取得する相対モル感度取得工程と、前記抽出物を含む定量用試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる定量用クロマトグラム及び前記純度が算出された前記定量用標準物質を含む定量用標準溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる標準クロマトグラム、又は前記抽出物及び前記純度が算出された前記定量用標準物質を含む標準混合定量用試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる標準混合定量用クロマトグラムから、前記抽出物中の前記ケルラクトンエステル類化合物の含有量を算出する定量工程とを有し、前記相対モル感度取得工程は、前記ケルラクトンエステル類化合物及び前記定量用標準物質のそれぞれを含むLC試料溶液を少なくとも1種のモル濃度で調製する工程と、前記各種LC試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することでLCクロマトグラムを得る工程と、前記各種LC試料溶液における前記ケルラクトンエステル類化合物及び前記定量用標準物質のそれぞれの前記純度に基づくモル濃度と、前記LCクロマトグラムにおける前記ケルラクトンエステル類化合物及び前記定量用標準物質のそれぞれのピーク面積との関係を示す各検量線の傾きを算出する工程と、前記定量用標準物質の前記検量線の傾きに対する前記ケルラクトンエステル類の前記検量線の傾きの比を、前記ケルラクトンエステル類化合物の前記相対モル感度として算出する工程とを含み、前記定量工程は、前記純度が算出された前記定量用標準物質を少なくとも1種のモル濃度で含む少なくとも1つの前記定量用標準溶液を前記液体クロマトグラフィーで処理することで得られる少なくとも1つの前記標準クロマトグラムから取得される前記純度が算出された少なくとも1つの前記定量用標準物質のピーク面積、又は前記抽出物及び前記純度が算出された前記定量用標準物質を所定のモル濃度で含む前記標準混合定量用試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる前記標準混合定量用クロマトグラムから取得される前記純度が算出された少なくとも1つの前記定量用標準物質のピーク面積と、前記少なくとも1つの定量用標準溶液のそれぞれにおける前記定量用標準物質の前記純度に基づくモル濃度との関係を示す標準検量線を作成する工程と、前記抽出物を含む前記定量用試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる前記定量用クロマトグラムから取得される前記ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積、又は前記抽出物及び前記定量用標準物質を含む標準混合定量用試料溶液を液体クロマトグラフィーで処理することで得られる標準混合定量用クロマトグラムから取得される前記ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積と、前記標準検量線の傾きと、前記相対モル感度とから、前記抽出物中の前記ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの含有量を算出する工程と含み、前記定量用標準物質は、UVスペクトルにおいて波長305~335nmに吸収極大を示す物質であることを特徴とするケルラクトンエステル類化合物の定量方法を提供する。
【0008】
前記定量用標準物質として、下記化学構造式(I)で示す化合物を用いることができる。
【0009】
【化1】

上記化学構造式(I)中、R1は、水素、炭素数1~5のアルキル基、又はアセチル基を表し、R2は、水素又は水酸基を表し、R3は、水素、又は炭素数1~5のアルキル基を表し、R4は、水素、又は3-メチル-2-ブテニル基を表す。
【0010】
前記定量用標準物質として、下記化学式(II)で示す7-エトキシ-4-メチルクマリンを用いることができる。
【0011】
【化2】
【0012】
前記定量工程において、前記ケルラクトンエステル類化合物の含有量は、下記数式(1)及び(2)に基づいて算出されればよい。
【0013】
【数1】
【0014】
【数2】
【0015】
上記数式(1)及び(2)において、Ctは「前記抽出物中の前記ケルラクトンエステル類化合物の含有量」を表し、Cは「前記定量用試料溶液又は標準混合定量用試料溶液中における前記ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度」を表し、Mは「前記ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を表し、Cは「前記定量用試料溶液又は標準混合定量用試料溶液中における前記抽出物の濃度」を表し、Sは「前記定量用標準物質において前記標準検量線を作成した場合における当該標準検量線の傾き」を表し、aは「前記定量用クロマトグラム又は標準混合定量用クロマトグラムにおける前記ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を表し、RMSは「前記ケルラクトンエステル類化合物の前記相対モル感度」を表す。
【0016】
前記純度算出工程において、前記ケルラクトンエステル類化合物及び前記定量用標準物質の純度を、定量核磁気共鳴分光法(qNMR)により測定することができ、内標準法によるH-qNMR測定を用いることができる。
【0017】
前記植物として、セリ科、アカネ科又はサルトリイバラ科に属する植物を用いることができ、セリ科カワラボウフウ属に属する植物を用いることができ、長命草を用いることができる。
【0018】
前記ケルラクトンエステル類化合物が、ヒュウガニンD(hyuganin D)、シス-3’-アセチル-4’-チグロイルケルラクトン(cis-3'-acetyl-4'-tigloylkhellactone)、ポイセダノクマリンIII(peucedanocoumarin III)、イソサミジン(isosamidin)、トランス-3’-アセチル-4’-セネシオイルケルラクトン(trans-3'-acetyl-4'-senecioylkhellactone)及びプテリキシン(pteryxin)から選択される少なくとも1種である場合に本発明を用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、植物からの抽出物に含まれるケルラクトンエステル類化合物を高精度に定量する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施形態に係るケルラクトンエステル類化合物の定量方法は、植物からの抽出物に含まれる少なくとも1種のケルラクトンエステル類化合物を定量する方法である。本実施形態に係る定量方法は、純度取得工程と、相対モル感度取得工程と、定量工程とを含む。
【0021】
本実施形態に係る定量方法において定量可能なケルラクトンエステル類化合物は、例えば、下記に示す化学構造を有するヒュウガニンD(hyuganin D,第1ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(A),C2022,分子量:374.38)、シス-3’-アセチル-4’-チグロイルケルラクトン(cis-3'-acetyl-4'-tigloylkhellactone,第2ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(B),C2122,分子量:386.40)、ポイセダノクマリンIII(peucedanocoumarin III,第3ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(C),C2122,分子量:386.40)、イソサミジン( isosamidin,第4ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(D),C2122,分子量:386.40)、トランス-3’-アセチル-4’-セネシオイルケルラクトン(trans-3'-acetyl-4'-senecioylkhellactone,第5ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(E),C2122,分子量:386.40)及びプテリキシン( pteryxin,第6ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(F),C2122,分子量:386.40)の6種のケルラクトンエステル類化合物である。
【0022】
【化3】
【0023】
【化4】
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
【化7】
【0027】
【化8】
【0028】
上記植物抽出物には、上記第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のうちの少なくとも1種が含まれていればよい。植物抽出物には、上記第1~第6ケルラクトンエステル類化合物とともに、それとは異なる種類のケルラクトンエステル類化合物が含まれていてもよいが、後述する定量工程にて取得する定量用クロマトグラムにおいて、当該異なる種類のケルラクトンエステル類化合物のピークや、その他の化合物に由来するピークが、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のピークと重ならなければよい。
【0029】
定量用標準物質としては、定量対象である第1~第6ケルラクトンエステル類化合物と実質的に同一波長に吸収極大を有する物質であればよく、例えば、UVスペクトルにおいて波長305~335nmに吸収極大を示す物質であればよい。好ましくは、後述する定量工程にて取得する定量用クロマトグラムにおいて、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のピークよりも先にピークが現れる(第1~第6ケルラクトンエステル類よりも保持時間の短い)物質である。具体的には、下記化学構造式(I)で示す物質を用いることができる。
【0030】
【化9】
【0031】
上記化学構造式(I)中、R1は、水素、炭素数1~5のアルキル基、又はアセチル基を表し、R2は、水素又は水酸基を表し、R3は、水素、又は炭素数1~5のアルキル基を表し、R4は、水素又は3-メチル-2-ブテニル基を表す。
【0032】
上記化学構造式(I)で示す物質としては、例えば、下記化学構造式(II)で示す7-エトキシ-4-メチルクマリン(7-ethoxy-4-methylcoumarin,C1212,分子量:204.22)、下記化学構造式(III)で示す7-メトキシ-4-メチルクマリン(7-methoxy-4-methylcoumarin,C1110,分子量:190.20)、下記化学構造式(IV)で示す7-メトキシ-8-(3-メチル-2-ブテニル)クマリン(7-methoxy-8-(3-methyl-2-butenyl)coumarin,別名:オストール(osthol),C1516,分子量:244.29)、下記化学構造式(V)で示す7-ヒドロキシクマリン(7-hydroxycoumarin,別名:ウンベリフェロン(umbelliferone),C,分子量:162.14)、下記化学構造式(VI)で示す7-エトキシクマリン(7-ethoxycoumarin,C1110,分子量:190.20)、下記化学構造式(VII)で示す7-アセトキシ-4-メチルクマリン(7-acetoxy-4-methylcoumarin,C1210,分子量:218.21)、下記化学構造式(VIII)で示す5,7-ジヒドロキシ-4-メチルクマリン(5,7-dihydroxy-4-methylcoumarin,C10,分子量:192.17)等が挙げられる。これらのうち、下記化学構造式(II)で示す7-エトキシ-4-メチルクマリン(7-ethoxy-4-methylcoumarin,C1212,分子量:204.22)を定量用標準物質として用いるのが好ましい。
【0033】
【化10】
【0034】
【化11】
【0035】
【化12】
【0036】
【化13】
【0037】
【化14】
【0038】
【化15】
【0039】
【化16】
【0040】
抽出原料としてセリ科カワラボウフウ属に属する植物を用いることができる。当該植物としては、例えば、長命草(別名:ボタンボウフウ,学名:Peucedanum japonicum Thunb.)等が用いられ得る。長命草は、沖縄県などに自生しており、それらの地域から容易に入手可能である。なお、抽出原料としての植物は、上記長命草に限定されるものではなく、上記第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のうちの少なくとも1種のケルラクトンエステル類化合物を含む植物であればよい。当該植物は、例えば、Angelica cartilaginomarginata、Angelica cartilaginomarginata var. foliata、Angelica decursiva、Angelica furcijuga、Angelica keiskei、Angelica morii、Angelica shikokiana、Angelica ursina、Angelica urumiensis、Arracacia nelsonii、Libanotis condensata、Libanotis lehmanniana、Ligusticum brachylobum、Ligusticum calophlebicum、Ligusticum elatum、Ligusticum involucratum、Musineon divaricatum、Musineon hookeri、Mutellina purpurea、Peucedanum decursivum、Peucedanum formosanum、Peucedanum harry-smithii、Peucedanum harrysmithii var. subglabrum、Peucedanum praeruptorum、Peucedanum terebinthaceum、Peucedanum verticillare、Peucedanum zhongdianensis、Phlojodicarpus sibiricus、Pleurospermum govanianum、Prionosciadium thapsoides、Pteryxia terebinthina、Pteryxia terebinthina var. terebinthina、Pteryxia terebinthina var. californica、Seseli condensatum、Seseli cuneifolium、Seseli eriocephalum、Seseli libanotis、Seseli mairei、Seseli mucronatum、Seseli seravschanicum、Xyloselinum leonidii、Zizia aptera等のセリ科植物;Morinda citrifolia等のアカネ科植物;Smilax riparia等のサルトリイバラ科植物等であってもよい。
【0041】
植物の抽出部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、セリ科植物としての長命草を抽出原料として用いる場合、果実部、葉部、茎部、花部、根部等を用いることができるが、これらの中でも、根部が好ましい。
【0042】
植物の抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより調製され得る。抽出原料の乾燥は、天日で行われてもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行われてもよい。
【0043】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられる。抽出処理においては、これらの抽出溶媒を単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用するのが好ましい。
【0044】
抽出溶媒として使用され得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれ得る。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用され得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0045】
抽出溶媒として使用され得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。
【0046】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整され得る。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1~90容量部を混合するのが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1~40容量部を混合するのが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10~90容量部を混合するのが好ましい。
【0047】
抽出処理は、抽出原料に含まれる第1~第6ケルラクトンエステル類化合物を抽出溶媒に溶出させ得る限りにおいて特に制限はなく、常法に従って行われ得る。例えば、抽出原料の5~15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬させ、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去することでペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥させることで乾燥物が得られる。
【0048】
以上のようにして得られる抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物から第1~第6ケルラクトンエステル類化合物を単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、抽出物を移動相に溶解し、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれを含む画分を回収する方法等が挙げられる。この場合、移動相は使用する固定相に応じて適宜選択すればよいが、例えば、多孔質性合成吸着樹脂であるダイヤイオンHP-20(三菱化学社製)等の多孔性合成吸着剤を用いたカラムクロマトグラフィーにより抽出物を分離する場合、移動相としては、水、メタノール又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。さらに、カラムクロマトグラフィーにより得られる第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれを含む画分を、オクタデシルシリル化シリカゲル、有機シリカハイブリッド担体、フェニルシリル化シリカゲル、アダマンチルシリル化シリカゲル、トリアコンチルシリル化シリカゲル、ポリビニルアルコール(PVA)系ポリマー担体等を充填剤として用いた分取カラムクロマトグラフィー、再結晶、昇華精製、液-液向流抽出等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0049】
[純度取得工程]
以上のようにして得られる第1~第6ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質の定量核磁気共鳴分光法(qNMR)による純度取得工程において、定量核磁気共鳴分光法(qNMR)の測定方法は特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。定量核磁気共鳴分光法(qNMR)の測定方法としては、H-qNMR測定による方法として内標準法のほか、ERETIC、PULCON、QUANTAS、二重試料管を使用した方法等の外標準法があり、その他にも13C-qNMR測定等が挙げられる。精確な純度が取得可能な任意の定量核磁気共鳴分光法(qNMR)測定手段を用いて純度を取得すればよい。
【0050】
本実施形態においては、DSS-dを純度算出用標準物質として用い、内標準法を用いたH-qNMR測定により第1~第6ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質のそれぞれに由来する単独のシグナルを用いて純度を測定する方法を例に挙げて説明するが、この態様に限定されるものではない。例えば、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質をH-qNMR測定し、各物質から得られる任意の複数のシグナルを個別に定量計算し、平均値を得ることによって純度を測定してもよい。この場合において、定量計算に用いられるシグナルは、不純物のシグナルが第1~第6ケルラクトンエステル類及び定量用標準物質のシグナルに重ならないものであればよい。好ましくは、個々のシグナルを用いて算出された純度の値をそれぞれ比較したときに逸脱があるシグナルは、不純物、測定、データ処理等の影響によって出現すると考えられるため、当該逸脱するシグナルを除外して平均値を算出すればよい。特に、測定対象である第1~第6ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質の純度が98%未満になることが見込まれる場合には、異常値を含まないか留意し、異常値を適切に除外すればよい。
【0051】
上記第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれと、純度が既知の純度算出用標準物質(例えばDSS-d等)とを溶媒(例えばDMSO-d等)に溶解させて第1~第6NMR試料溶液を調製する。また、定量用標準物質と、純度が既知の純度算出用標準物質(例えばDSS-d等)とを溶媒(例えばDMSO-d等)に溶解させて第7NMR試料溶液を調製する。第1~第6NMR試料溶液を調製するために用いられる各ケルラクトンエステル類化合物は、市販の純品であってもよいし、植物抽出物から単離精製して得られる精製物であってもよい。なお、本実施形態において、純度算出対象である第1~第6ケルラクトンエステル類及び定量用標準物質のそれぞれとともに、純度算出用標準物質が含まれる第1~第7NMR試料溶液を調製し、いわゆる内標準法により純度を算出する方法を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。例えば、純度算出対象である第1~第6ケルラクトンエステル類及び定量用標準物質のそれぞれを含む第1~第7NMR試料溶液とは別に、純度算出用標準物質を含む第8NMR試料溶液を調製し、いわゆる外標準法により純度を算出してもよい。
【0052】
次に、第1~第7NMR試料溶液のそれぞれをH-qNMR測定による定量NMR処理に付することで第1~第7NMRスペクトルを取得し、各NMRスペクトルから、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの純度P~Pを下記数式(3-1)~(3-6)により算出し、定量用標準物質の純度Pを下記数式(4)により算出する。
【0053】
【数3】
【0054】
【数4】
【0055】
上記数式(3-1)~(3-6)及び数式(4)において、P~Pは「第1~第6ケルラクトンエステル類化合物の純度」を表し、Pは「定量用標準物質の純度」を表し、PISは「純度算出用標準物質(例えばDSS-d)の純度」を表し、A~Aは「第1~第6NMRスペクトルにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のシグナル面積」を表し、Aは「第7NMRスペクトルにおける定量用標準物質のシグナル面積」を表し、AISは「各NMRスペクトルにおける純度算出用標準物質(例えばDSS-d)のシグナル面積」を表し、H~Hは「第1~第6NMRスペクトルにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のシグナル面積A~Aに由来するプロトン数」を表し、Hは「第7NMRスペクトルにおける定量用標準物質のシグナル面積Aに由来するプロトン数」を表し、HISは「各NMRスペクトルにおける純度算出用標準物質(例えばDSS-d)のシグナル面積AISに由来するプロトン数」を表し、M~Mは「第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの分子量」を表し、Mは「定量用標準物質の分子量」を表し、MISは「純度算出用標準物質(例えばDSS-d)の分子量」を表し、W~Wは「第1~第6NMR試料溶液の調製時における第1~第6ケルラクトンエステル類化合物の秤量値(mg)」を表し、Wは「第7NMR試料溶液の調製時における定量用標準物質の秤量値(mg)」を表し、WISは「第1~第7NMR試料溶液の調製時における純度算出用標準物質(例えばDSS-d)の秤量値(mg)」を表す。
【0056】
上記数式(3-1)~(3-6)を一般化すると、下記数式(3)により表すことができる。
【0057】
【数5】
【0058】
上記数式(3)において、Pは「ケルラクトンエステル類化合物の純度」を表し、PISは「純度算出用標準物質の純度」を表し、Aは「ケルラクトンエステル類化合物のNMRスペクトルにおけるシグナル面積」を表し、AISは「純度算出用標準物質のNMRスペクトルにおけるシグナル面積」を表し、Hは「ケルラクトンエステル類化合物のNMRスペクトルにおけるシグナル面積Aに由来するプロトン数」を表し、HISは「純度算出用標準物質のNMRスペクトルにおけるシグナル面積AISに由来するプロトン数」を表し、Mは「ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を表し、MISは「純度算出用標準物質の分子量」を表し、Wは「NMR試料溶液におけるケルラクトンエステル類化合物の秤量値」を表し、WISは「NMR試料溶液における純度算出用標準物質の秤量値」を表す。
【0059】
各NMRスペクトルにおける各ケルラクトンエステル類化合物、定量用標準物質及び純度算出用標準物質(例えばDSS-d)のシグナル面積A~A,A,AISと当該シグナル面積A~A,A,AISに由来するプロトン数H~H,H,HISとは、例えば、NMR解析ソフト(VnmrJバージョン3.2,Varian社製)等を用いて算出され得る。
【0060】
[相対モル感度取得工程]
上記のようにして純度を取得した第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれと、上記のようにして純度を取得した定量用標準物質とを混合して所定の溶媒(例えば、水とメタノールとの混合溶媒等)に溶解させ、各ケルラクトンエステル類化合物を含む第1~第6LC試料溶液を調製する。第1~第6LC試料溶液は、それぞれ、少なくとも1種(例えば6種)のモル濃度で調製されればよい。なお、本実施形態においては、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれと定量用標準物質とを含む第1~第6LC試料溶液を調製する方法を例に挙げて説明するが、この態様に限定されるものではない。例えば、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物から選択される2種を含む、3種類のLC試料溶液(第1-2~第3-2LC試料溶液)を調製してもよい。この場合において、各LC試料溶液に含まれる2種のケルラクトンエステル類化合物は、当該LC試料溶液を液体クロマトグラフィー処理に付すことで取得されるLCクロマトグラムにおいて、互いにピークの重ならないものであればよい。好ましくは、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のすべてを含む試料溶液を液体クロマトグラフィー処理に付すことで取得されるLCクロマトグラムにおいて、ピークが互いに隣り合わない2種のケルラクトンエステル類化合物を組み合わせて、上記LC試料溶液を調製すればよい。例えば、第1ケルラクトンエステル類化合物と第4ケルラクトンエステル類化合物とを含む第1-2LC試料溶液、第2ケルラクトンエステル類化合物と第5ケルラクトンエステル類化合物とを含む第2-2LC試料溶液、第3ケルラクトンエステル類化合物と第6ケルラクトンエステル類化合物とを含む第3-2LC試料溶液を調製してもよい。また、純度を取得した第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれを所定の溶媒に溶解させた第1-3~第6-3LC試料溶液とともに、純度を取得した定量用標準物質を所定の溶媒に溶解させた第7-3LC試料溶液を調製してもよい。
【0061】
次に、各種モル濃度の第1~第6LC試料溶液のそれぞれを液体クロマトグラフィー処理に付すことで第1~第6LCクロマトグラムを取得し、各LCクロマトグラムにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質のそれぞれのピーク面積を求める。各LC試料溶液の液体クロマトグラフィー処理条件(例えば、液体クロマトグラフ装置、固定相、移動相等)は同一である。
【0062】
そして、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質のそれぞれのピーク面積を従属変数とし、第1~第6LC試料溶液のそれぞれにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物の上記純度に基づくモル濃度及び定量用標準物質の上記純度に基づくモル濃度を独立変数とし、定数項を0とした回帰分析を行い、各ケルラクトンエステル類化合物の回帰直線(第1~第6検量線)及び定量用標準物質の回帰直線(標準検量線)を作成し、各回帰直線(第1~第6検量線)の傾きS~S及び回帰直線(標準検量線)の傾きSを算出する。第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの相対モル感度RMS~RMSは、定量用標準物質の回帰直線である標準検量線の傾きSに対する第1~第6検量線の傾きS~Sのそれぞれの比として、下記数式(a)~(f)により算出される。
RMS=S/S …(a)
RMS=S/S …(b)
RMS=S/S …(c)
RMS=S/S …(d)
RMS=S/S …(e)
RMS=S/S …(f)
【0063】
[定量工程]
植物抽出物を所定の溶媒(例えば水とメタノールとの混合溶媒等)に溶解させ、定量用試料溶液を調製する。それとともに、純度が求められた定量用標準物質を所定の溶媒(例えば水とメタノールとの混合溶媒等)に溶解させて、所定のモル濃度で定量用標準物質を含む定量用標準溶液を調製する。
【0064】
定量用試料溶液の調製に用いられる植物抽出物は、上記純度取得工程において用いられ得る植物抽出物と同様にして抽出原料から抽出して得られるものであってもよいし、それを従来公知の手法により精製して得られるものであってもよい。また、定量用試料溶液の調製には、植物抽出物が配合された飲食品等であってもよい。このような飲食品を用いて定量用試料溶液を調製する場合、例えば、飲食品を上記溶媒(例えば水とメタノールとの混合溶媒等)に溶解又は分散させ、フィルタ等で濾過した濾液を上記定量用試料溶液として調製すればよい。
【0065】
また、植物抽出物又は植物抽出物が配合された飲食品を、上記溶媒に溶解又は分散して上記定量用試料溶液を調製することが困難な場合、検体の前処理方法は特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、溶媒(例えば、水、アルコール類、アセトニトリル、酢酸エチル、n-ヘキサン、クロロホルム等の単独又は混合溶媒等)による抽出法、超臨界抽出法(例えば、超臨界二酸化炭素等)、亜臨界抽出法(例えば、亜臨界水等)、ソックスレー抽出法、水蒸気蒸留法、極性の異なる溶媒を用いた沈殿法(例えば、アルコール沈殿法、アセトニトリル沈殿法等)、液-液分配法、酵素処理法、酸又はアルカリによる処理、固相抽出法(SPE)、保持液抽出法(SLE)、樹脂処理、限外ろ過、塩析、透析等が挙げられる。これら任意の分析前処理を用いて、ケルラクトンエステル類化合物含有画分を調製し、上記溶媒(例えば、水とメタノールとの混合溶媒等)に溶解又は分散させ、フィルタ等で濾過した濾液を上記定量用試料溶液として調製すればよい。
【0066】
植物抽出物又は植物抽出物が配合された飲食品を、上記溶媒に溶解又は分散して上記定量用試料溶液を調製する際、又は上記任意の分析前処理を用いて上記定量用試料溶液を調製する際に、純度が求められた定量用標準物質を所定のモル濃度で加え、標準混合定量用試料溶液を調製してもよい。
【0067】
定量用試料溶液を液体クロマトグラフィー処理に付すことで定量用クロマトグラムを取得して、当該定量用クロマトグラムにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれのピーク面積a~aを求め、それとともに、定量用標準溶液を液体クロマトグラフィー処理に付すことで標準クロマトグラムを取得し、標準クロマトグラムにおける定量用標準物質のピーク面積aを求めてもよい。定量用試料溶液及び定量用標準溶液の液体クロマトグラフィー処理条件(例えば、液体クロマトグラフ装置、固定相、移動相等)は同一とする。
【0068】
標準混合定量用試料溶液を液体クロマトグラフィー処理に付すことで標準混合定量用クロマトグラムを取得して、当該標準混合定量用クロマトグラムにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれのピーク面積a~aならびに定量用標準物質のピーク面積aを求めてもよい。
【0069】
標準クロマトグラム又は標準混合定量用クロマトグラムにおけるピーク面積aを従属変数とし、定量用標準溶液における定量用標準物質の純度に基づくモル濃度を独立変数とし、定数項を0とした回帰分析を行い、定量用標準物質の回帰直線(定量用標準検量線)を作成し、当該回帰直線(定量用標準検量線)の傾きS’を算出する。第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれについても定量用標準物質と同様の回帰直線(第1~第6定量用検量線)を作成したと仮定し、その場合における当該回帰直線(第1~第6定量用検量線)の傾きS’~S’は、下記式(5-1)~(5-6)により表される。
【0070】
【数6】
【0071】
相対モル感度RMS~RMSを求める際に行われる液体クロマトグラフィー処理の処理条件(例えば、液体クロマトグラフ装置、固定相の種類、移動相の種類等)は、第1~第6LC試料溶液のいずれにおいても同一である。定量用標準物質に関連する標準検量線の傾きSに対する、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物に関連する第1~第6検量線の傾きS~Sの比で表される相対モル感度RMS~RMSは、液体クロマトグラフィー処理の処理条件が変化したとしても一定であると考えられる。そのため、定量用検量線の傾きS’に各相対モル感度RMS~RMSを乗じることで、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれについても定量用標準物質と同様の回帰直線(定量用検量線)を作成したと仮定した場合における当該回帰直線(第1~第6定量用検量線)の傾きS’~S’を高精度に算出することができる。
【0072】
また、傾きS’と、定量用クロマトグラム又は標準混合定量用クロマトグラムにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれのピーク面積a~a、及び標準クロマトグラム又は標準混合定量用クロマトグラムにおける定量用標準物質のピーク面積aとから、植物抽出物中における第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの含有量Ct~Ctを下記式(1-1)~(1-6)及び式(2-1)~(2-6)により算出する。
【0073】
【数7】
【0074】
【数8】
【0075】
上記式(1-1)~(1-6)及び式(2-1)~(2-6)において、Ct~Ctは「植物抽出物1gあたりの第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの含有量(g/g)」を表し、C~Cは「定量用試料溶液中における第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれのモル濃度(mol/L)」を表し、M~Mは「第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの分子量」を表し、Cは「定量用試料溶液中における植物抽出物の濃度(mg/mL)」を表し、a~aは「定量用クロマトグラムにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれのピーク面積」を表す。
【0076】
上記のようにして、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの含有量を算出することができる。算出された第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの含有量の総和を算出することで、植物抽出物中のケルラクトンエステル類化合物を高い精度で定量することができる。
【0077】
上記数式(1-1)~(1-6)及び(2-1)~(2-6)を一般化すると、下記数式(1)及び(2)のように表すことができる。
【0078】
【数9】
【0079】
【数10】
【0080】
上記数式(1)及び(2)において、Ctは「植物抽出物中のケルラクトンエステル類化合物の含有量」を表し、Cは「定量用試料溶液中におけるケルラクトンエステル類化合物のモル濃度」を表し、Mは「ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を表し、Cは「定量用試料溶液中におけるセリ科植物抽出物の濃度」を表し、Sは「定量用標準物質において標準検量線を作成した場合における当該標準検量線の傾き」を表し、aは「定量用スペクトルにおけるケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を表し、RMSは「ケルラクトンエステル類化合物の相対モル感度」を表す。
【0081】
上述したように、本実施形態においては、植物抽出物中に含まれるケルラクトンエステル類化合物と共通する化学構造を含む定量用標準物質を用い、当該定量用標準物質を、検量線を用いて定量するとともに、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物は、定量用標準物質との間の関係性として表される相対モル感度RMSを用いた算出により定量される。したがって、本実施形態によれば、植物抽出物に含まれる少なくとも1種のケルラクトンエステル類化合物の含有量を容易に、かつ高精度に求めることができる。
【0082】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0083】
上記実施形態において、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物が市販の純品であって、それらの純度が既知である場合、各ケルラクトンエステル類化合物の純度を算出する純度取得工程を行わなくてもよく、相対モル感度を取得すればよい。なお、当該純度が既知の市販の純品を用いて、各ケルラクトンエステル類化合物の純度を算出してもよいことは言うまでもない。
【実施例0084】
以下、試験例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の試験例等に何ら限定されるものではない。
【0085】
〔試験例1〕定量用標準物質の液体クロマトグラフィー分析
上記化学構造式(II)~(VIII)で示す各種定量用標準物質をメタノールに溶解してメンブランフィルターで濾過し、各種試験溶液を調製した。
【0086】
各種試験溶液を、下記条件の液体クロマトグラフィー処理に付してLCクロマトグラムを得た。
<液体クロマトグラフィー条件>
液体クロマトグラフ装置:1250 Infinity II Prime LC(アジレントテクノロジー社製)
検出器:G7117C(ダイオードアレイ,検出波長:320nm,アジレントテクノロジー社製)
注入量:15μL
カラム:SunShell C30(2.6μm,3.0mm×100mm,クロマニックテクノロジーズ社製)
カラム温度:40℃
移動相:
(A)水:トリフルオロ酢酸:メタノール:テトラヒドロフラン=400:0.2:50:55(容量比)
(B)アセトニトリル
0~50min:(B)0%
50~55min:(B)95%
55~70min:(B)0%
流速:1.0mL/min
分析時間(Run time):70min
【0087】
ダイオードアレイ検出器により取得されたUVスペクトルから、上記化学構造式(II)~(VIII)で示す各種定量用標準物質はいずれも波長305~335nmに吸収極大を有することが確認され、得られたLCクロマトグラムから、上記化学構造式(II)~(VIII)で示す各種定量用標準物質はいずれも定量用標準物質として使用可能であることが確認された。上記定量用標準物質の中でも、化学構造式(II)で示す7-エトキシ-4-メチルクマリンは、定量工程における液体クロマトグラフィー処理において適度に固定相に保持され、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物の保持時間よりも短く、かつ第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のピークと重ならず、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物と同様に波長305~335nmに吸収極大を有することから、定量用標準物質としてより適していると推察された。
【0088】
〔試験例2〕ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質の純度測定
(1)ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質の準備
上記化学構造式(A)~(F)に示す6種のケルラクトンエステル類化合物(ヒュウガニンD(hyuganin D,第1ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(A),C2022,分子量:374.38)、シス-3’-アセチル-4’-チグロイルケルラクトン(cis-3'-acetyl-4'-tigloylkhellactone,第2ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(B),C2122,分子量:386.40)、ポイセダノクマリンIII(peucedanocoumarin III,第3ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(C),C2122,分子量:386.40)、イソサミジン( isosamidin,第4ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(D),C2122,分子量:386.40)、トランス-3’-アセチル-4’-セネシオイルケルラクトン(trans-3'-acetyl-4'-senecioylkhellactone,第5ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(E),C2122,分子量:386.40)及びプテリキシン( pteryxin,第6ケルラクトンエステル類化合物,化学構造式(F),C2122,分子量:386.40))及び上記化学構造式(II)に示す定量用標準物質(7-エトキシ-4-メチルクマリン(C1212,分子量:204.22))のそれぞれを準備した。
【0089】
定量用標準物質としての7-エトキシ-4-メチルクマリンは、市販の試薬(東京化成工業社製)を準備した。第1~第6ケルラクトンエステル類化合物は、長命草の根部から、以下のようにして単離精製して得た。
【0090】
長命草の根部(5kg)を10倍量の50質量%エタノールにて80℃で加熱抽出し、抽出物(820g)を得た。この抽出物(750g)を代やイオンHP-20(三菱化学社製)カラムに付して、水、30質量%メタノール、60質量%メタノール及びメタノールの順に溶出し、メタノール溶出部(117g)を得た。メタノール溶出部(97.5g)をシリカゲルカラム、ODSからむ、分取HPLC(カラム:YMC-Triart C18(ワイエムシィ社製)、メタノール:水=65:35)による分画を行い、第1~第3ケルラクトンエステル類化合物を含む画分と、第4~第6ケルラクトンエステル類化合物を含む画分とを得た。
【0091】
第1~第3ケルラクトンエステル類化合物を含む画分を、分取HPLC(カラム:YMC-Triart C18(ワイエムシィ社製)、アセトニトリル:水=40:60)に付し、第1~第3ケルラクトンエステル類化合物の粗精製物を得た。当該粗精製物を、分取HPLC(カラム:Kinetex C18(Phenomenex製)、メタノール:水=60:40)、リサイクル分取HPLC(カラム:JAIGEL-GS310(日本分析工業社製)×2本,MeOH)に付し、第1ケルラクトンエステル類化合物59mgを単離した。また、当該粗精製物を、リサイクル分取HPLC(カラム:JAIGEL-GS310(日本分析工業社製)×2本,MeOH)、分取HPLC(カラム:Capcell Pak ADME-HR(大阪ソーダ社製),アセトニトリル:水=50:50)に付し、第2ケルラクトンエステル類化合物93mgを単離した。さらに、当該粗精製物を、リサイクル分取HPLC(カラム:JAIGEL-GS310(日本分析工業社製)×2本、MeOH)、分取HPLC(カラム:Capcell Pak ADME-HR(大阪ソーダ社製)、アセトニトリル:水=50:50)に付し、第3ケルラクトンエステル類化合物60mgを単離した。
【0092】
第4~第6ケルラクトンエステル類化合物を含む画分を、分取HPLC(カラム:Develosil RPAQUEOUS-AR-5(野村化学社製)、アセトニトリル:メタノール:水=40:10:50)に付し、第4ケルラクトンエステル類化合物及び第5ケルラクトンエステル類化合物を含む粗精製物と、第6ケルラクトンエステル類化合物130mgを得た。当該粗精製物を、リサイクル分取HPLC(カラム:JAIGEL-GS310(日本分析工業社製)×2本、MeOH)に付し、第4ケルラクトンエステル類化合物109mgを得た。また当該粗精製物を、再結晶(メタノール-水混合液)処理に付し、第5ケルラクトンエステル類化合物150mgを得た。
【0093】
(2)第1~第7NMR試料溶液の調製
上記のようにして得られたヒュウガニンD(第1ケルラクトンエステル類化合物)、シス-3’-アセチル-4’-チグロイルケルラクトン(第2ケルラクトンエステル類化合物)、ポイセダノクマリンIII(第3ケルラクトンエステル類化合物)、イソサミジン(第4ケルラクトンエステル類化合物)、トランス-3’-アセチル-4’-セネシオイルケルラクトン(第5ケルラクトンエステル類化合物)、プテリキシン(第6ケルラクトンエステル類化合物)及び7-エトキシ-4-メチルクマリン(定量用標準物質)をそれぞれ1~5mg、純度算出用標準物質としてのDSS-d(富士フイルム和光純薬社製)約2mgをミクロ天秤にて0.1μgの桁まで精確に量り取り、DMSO-d(メルク社製)約0.75mLに溶解させて第1~第7NMR試料溶液を調製した。
【0094】
(3)定量NMR測定
上記第1~第7NMR試料溶液を、下記条件のH-qNMR測定に付しいて、NMRスペクトルを得た。得られたNMRスペクトルから、NMR解析ソフト(VnmrJバージョン3.2,Varian社製)を用いて第1~第6ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質、並びにDSS-dの各シグナル面積A~A,A,AISと、各シグナル面積A~A,A,AISに由来するプロトン数とH~H,H,HISを求めた。そして、下記数式(3-1)~(3-6)及び(4)により、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物の純度P~P及び定量用標準物質の純度Pを算出した。結果を表1に示す。
【0095】
H-qNMR測定条件>
NMR装置:Varian NMR System 500,Varian製)
観測中心及び観測幅:δ5ppm±20ppm
取り込み時間:4.0秒
パルス角:90°
遅延時間:60秒
積算回数:8回
測定温度:40℃
ダミースキャン:2回
スピニング:オフ
13Cデカップリング:オン
【0096】
【数11】
【0097】
【数12】
【0098】
上記数式(3-1)~(3-6)及び数式(4)において、P~Pは「第1~第6ケルラクトンエステル類化合物の純度」を表し、Pは「定量用標準物質の純度」を表し、PISは「DSS-dの純度」を表し、A~Aは「第1~第6NMRスペクトルにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のシグナル面積」を表し、Aは「第7NMRスペクトルにおける定量用標準物質のシグナル面積」を表し、AISは「各NMRスペクトルにおけるDSS-dのシグナル面積」を表し、H~Hは「第1~第6NMRスペクトルにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のシグナル面積A~Aに由来するプロトン数」を表し、Hは「第7NMRスペクトルにおける定量用標準物質のシグナル面積Aに由来するプロトン数」を表し、HISは「各NMRスペクトルにおけるDSS-dのシグナル面積AISに由来するプロトン数」を表し、M~Mは「第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの分子量」を表し、Mは「定量用標準物質の分子量」を表し、MISは「DSS-dの分子量」を表し、W~Wは「第1~第6NMR試料溶液の調製時における第1~第6ケルラクトンエステル類化合物の秤量値(mg)」を表し、Wは「第7NMR試料溶液の調製時における定量用標準物質の秤量値(mg)」を表し、WISは「第1~第7NMR試料溶液の調製時におけるDSS-dの秤量値(mg)」を表す。
【0099】
〔試験例3〕相対モル感度の算出
試験例2で純度を算出した定量用標準物質としての7-エトキシ-4-メチルクマリンをメタノールに溶解した溶液Aに、純度を算出した第1ケルラクトンエステル類化合物及び第4ケルラクトンエステル類化合物を溶解させることで、6種のモル濃度(518×10-6mol/L,414×10-6mol/L,311×10-6mol/L,207×10-6mol/L,104×10-6mol/L,2.59×10-6mol/L)の第1-2LC試料溶液を調製した。同様にして、上記溶液Aに、純度を算出した第2ケルラクトンエステル類化合物及び第5ケルラクトンエステル類化合物を溶解させることで、6種のモル濃度(518×10-6mol/L,414×10-6mol/L,311×10-6mol/L,207×10-6mol/L,104×10-6mol/L,2.59×10-6mol/L)の第2-2LC試料溶液を調製し、上記溶液Aに、純度を算出した第3ケルラクトンエステル類化合物及び第6ケルラクトンエステル類化合物を溶解させることで、6種のモル濃度(518×10-6mol/L,414×10-6mol/L,311×10-6mol/L,207×10-6mol/L,104×10-6mol/L,2.59×10-6mol/L)の第3-2LC試料溶液を調製した。
【0100】
各種濃度の第1-2~第3-2LC試料溶液を3併行で調製し、それぞれ下記条件1及び条件2の液体クロマトグラフィー処理に付してLCクロマトグラムを得た。
【0101】
<液体クロマトグラフィー条件1>
液体クロマトグラフ装置:1260 Infinity II Prime LC(アジレントテクノロジー製)
検出器:ダイオードアレイ検出器G7117C(検出波長:320nm,アジレントテクノロジー製)
注入量:15μL
カラム:SunShell C30(2.6μm,3.0mm×100mm,クロマニックテクノロジーズ製)
カラム温度:40℃
移動相:水:トリフルオロ酢酸:メタノール:テトラヒドロフラン=400:0.2:50:55(容量比)
流速:1.0mL/min
分析時間(Run time):50min
【0102】
<液体クロマトグラフィー条件2>
液体クロマトグラフ装置:Prominence(島津製作所製)
検出器:UV検出器SPD-20A(検出波長:320nm,島津製作所製)
注入量:15μL
カラム:SunShell C30(2.6μm,3.0mm×100mm,クロマニックテクノロジーズ製)
カラム温度:40℃
移動相:水:トリフルオロ酢酸:メタノール:テトラヒドロフラン=400:0.2:50:55(容量比)
流速:0.5mL/min
分析時間(Run time):100min
【0103】
そして、各LCクロマトグラムから算出した第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積を従属変数とし、第1-2~第3-2LC試料溶液のそれぞれにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物及び定量用標準物質の上記純度に基づくモル濃度(mol/L)を独立変数とし、定数項を0とした回帰分析を行い、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物の回帰直線(第1~第6検量線)及び定量用標準物質の回帰直線(標準検量線)を作成し、各回帰直線(各検量線)の傾きS~S及び傾きSを算出した。続いて、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの相対モル感度RMS~RMSを、標準検量線の傾きSに対する第1~第6検量線の傾きS~Sのそれぞれの比として、下記式(a)~(f)により算出した。3併行で調製した第1-2~第3-2LC試料溶液を、それぞれ液体クロマトグラフィー条件1及び2で処理した計6回の結果を平均することにより、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物の相対モル感度を算出した。結果を表1に示す。
RMS=S/S …(a)
RMS=S/S …(b)
RMS=S/S …(c)
RMS=S/S …(d)
RMS=S/S …(e)
RMS=S/S …(f)
【0104】
〔試験例4〕定量用試料溶液調製による長命草抽出物製剤中のケルラクトンエステル類化合物の定量
長命草抽出物製剤を水に懸濁させ、さらに珪藻土(セライト545)を加えて懸濁させ、メタノールを加えて懸濁液を得た。当該懸濁液を濾過し、定量用試料溶液を調製した。また、試験例2にて純度を求めた定量用標準物質をメタノールに溶解してこれに水を加えて希釈し、メンブランフィルターで濾過し、定量用標準溶液を調製した。
【0105】
定量用試料溶液及び定量用標準溶液のそれぞれにつき、上記条件の液体クロマトグラフィー処理に付して定量用クロマトグラム及び標準クロマトグラムを得た。標準クロマトグラムから得られた定量用標準物質のピーク面積を従属変数とし、定量用標準溶液における定量用標準物質の上記純度に基づくモル濃度(mol/L)を独立変数とし、定数項を0とした回帰分析を行い、定量用標準物質の回帰直線(定量用検量線)を作成し、各回帰直線(定量用検量線)の傾きS’を算出した。
【0106】
上記のようにして得られた定量用クロマトグラムから、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれのピーク面積a~aを求め、傾きS’とピーク面積a~aとから、長命草抽出物1gあたりの第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの含有量Ct~Ct(g/g)を下記式(1-1)~(1-6)及び式(2-1)~(2-6)により算出した。結果を表1に示す。
【0107】
【数13】
【0108】
【数14】
【0109】
上記式(1-1)~(1-6)及び式(2-1)~(2-6)において、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第1ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第2ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第3ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第4ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第5ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第6ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Cは「定量用試料溶液中における第1ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Cは「定量用試料溶液中における第2ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Cは「定量用試料溶液中における第3ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Cは「定量用試料溶液中における第4ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Cは「定量用試料溶液中における第5ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Cは「定量用試料溶液中における第6ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Mは「第1ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Mは「第2ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Mは「第3ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Mは「第4ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Mは「第5ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Mは「第6ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Cは「定量用試料溶液中における長命草抽出物製剤の濃度(mg/mL)」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第1ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第2ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第3ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第4ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第5ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第6ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を表す。
【0110】
〔試験例5〕標準混合定量用試料溶液調製による長命草抽出物製剤中のケルラクトンエステル類化合物の定量
長命草抽出物製剤を水に懸濁させた後、メタノール:水=3:7になるようにメタノールを加えて懸濁液を得た。メタノール、水の順にコンディショニングした固相抽出カートリッジ(Sep-pak Plus tC18(ウォーターズ社製))に懸濁液を通液し、水、含水メタノール(メタノール:水=1:1)の順に通液して、通過液は廃棄した。次に、メタノールを通液して、通過液を集めた。この通過液に、試験例2にて純度を求めた定量用標準物質のメタノール溶液を加えた後、水を加えて希釈し、メンブランフィルターで濾過して標準混合定量用試料溶液を調製した。
【0111】
標準混合定量用試料溶液を上記条件の液体クロマトグラフィー処理に付して標準混合定量用クロマトグラムを得た。標準混合定量用クロマトグラムから得られた定量用標準物質のピーク面積を従属変数とし、標準混合定量用標準溶液における定量用標準物質の上記純度に基づくモル濃度(mol/L)を独立変数とし、定数項を0とした回帰分析を行い、定量用標準物質の回帰直線(定量用検量線)を作成し、各回帰直線(定量用検量線)の傾きS’を算出した。
【0112】
上記のようにして得られた標準混合定量用クロマトグラムから、第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれのピーク面積a~aを求め、傾きS’とピーク面積a~aとから、長命草抽出物1gあたりの第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの含有量Ct~Ct(g/g)を下記式(1-1)~(1-6)及び式(2-1)~(2-6)により算出した。結果を表1に示す。
【0113】
【数15】
【0114】
【数16】
【0115】
上記式(1-1)~(1-6)及び式(2-1)~(2-6)において、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第1ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第2ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第3ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第4ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第5ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Ctは「長命草抽出物1gあたりの第6ケルラクトンエステル類化合物の含有量(g/g)」を、Cは「定量用試料溶液中における第1ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Cは「定量用試料溶液中における第2ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Cは「定量用試料溶液中における第3ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Cは「定量用試料溶液中における第4ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Cは「定量用試料溶液中における第5ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Cは「定量用試料溶液中における第6ケルラクトンエステル類化合物のモル濃度(mol/L)」を、Mは「第1ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Mは「第2ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Mは「第3ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Mは「第4ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Mは「第5ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Mは「第6ケルラクトンエステル類化合物の分子量」を、Cは「定量用試料溶液中における長命草抽出物製剤の濃度(mg/mL)」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第1ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第2ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第3ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第4ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第5ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を、aは「定量用クロマトグラムにおける第6ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積」を表す。
【0116】
〔参考試験例1〕検量線に基づくケルラクトンエステル類化合物の定量
試験例4で得た定量用クロマトグラムにおける第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のピーク面積a~aと、第1~第6検量線とから、長命草抽出物製剤中の第1~第6ケルラクトンエステル類化合物のそれぞれの含有量(質量%)を算出した。結果を表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
表1に示す結果から明確であるが、試験例2~5のようにして算出された、長命草抽出物製剤に含まれるケルラクトンエステル類化合物の含有量(質量%)は、参考試験例1にて算出されたケルラクトンエステル類化合物の含有量(質量%)と同等であることが確認された。この結果から、植物抽出物に含まれる各ケルラクトンエステル類化合物の相対モル感度RMSを予め求めておけば、7-エトキシ-4-メチルクマリンを標準物質として利用した液体クロマトグラフィー処理により、各ケルラクトンエステル類化合物を高精度に定量可能であることが判明した。