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特開2023-151611人工三次元組織灌流デバイス、人工皮膚組織の製造方法、人工皮膚組織を用いた薬剤評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151611
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】人工三次元組織灌流デバイス、人工皮膚組織の製造方法、人工皮膚組織を用いた薬剤評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20231005BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20231005BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/071
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061317
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】ミャスニコヴァ ディーナ
(72)【発明者】
【氏名】森 将人
(72)【発明者】
【氏名】楊 一幸
(72)【発明者】
【氏名】豊田 明美
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA02
4B029AA04
4B029BB11
4B029DA03
4B029DG06
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QR77
4B065AA90X
4B065AC20
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、灌流流路を有する人工三次元組織を製造するためのデバイスであって、培養プレート等のウェル間を容易に移動可能な人工三次元組織灌流デバイスを提供することにある。
【解決手段】本発明は、内部に培養空間Sを有する筒状に形成された側壁2を備え、
前記側壁2の壁内には、その厚み方向を貫通する第1内通路31と、該第1内通路31の中途から延び前記側壁2の外部に向かって開放する第2内通路32と、を含む、前記側壁2の壁内において一連の空間を形成する内通路ユニット3が2以上設けられており、
一の前記内通路ユニット3の前記第1内通路と、他の前記内通路ユニット3の前記第1内通路31と、に流路形成部材を通し、前記培養空間Sに該流路形成部材を懸架可能に構成されている、人工三次元組織を培養するための人工三次元組織灌流デバイス1である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に培養空間を有する筒状に形成された側壁を備え、
前記側壁の壁内には、その厚み方向を貫通する第1内通路と、該第1内通路の中途から延び前記側壁の外部に向かって開放する第2内通路と、を含む、前記側壁の壁内において一連の空間を形成する内通路ユニットが2以上設けられており、
一の前記内通路ユニットの前記第1内通路と、他の前記内通路ユニットの前記第1内通路と、に流路形成部材を通し、前記培養空間に該流路形成部材を懸架可能に構成されている、
人工三次元組織を培養するための人工三次元組織灌流デバイス。
【請求項2】
前記内通路ユニットは、前記側壁の周方向に沿って並設された複数の第1内通路と、1つの第2内通路を備え、
前記第2内通路は、分岐することで、それぞれの前記第1内通路の中途に接続している、請求項1に記載の人工三次元組織灌流デバイス。
【請求項3】
前記第2内通路は、前記側壁の内部において周方向に延びる貯留空間を備え、前記貯留空間から分岐し、それぞれの前記第1内通路の中途に接続している、請求項2に記載の人工三次元組織灌流デバイス。
【請求項4】
前記貯留空間における前記側壁の厚み方向及び高さ方向の径は、前記第1内通路及び前記第2内通路のいずれの内径よりも大きい、請求項3に記載の人工三次元組織灌流デバイス。
【請求項5】
前記側壁は、内向きフランジ状に形成された組織形成部を備え、前記第1内通路は該組織形成部を略水平方向に貫くように形成され、前記培養空間は該組織形成部により囲まれた空間である、請求項1~4の何れか一項に記載の人工三次元組織灌流デバイス。
【請求項6】
前記培養空間は略円筒状である、請求項5に記載の人工三次元組織灌流デバイス。
【請求項7】
前記組織形成部は上下端の各々に組織脱落抑制手段が設けられている、請求項5又は6に記載の人工三次元組織灌流デバイス。
【請求項8】
前記組織脱落抑制手段は突起である、請求項7に記載の人工三次元組織灌流デバイス。
【請求項9】
さらに、前記側壁の下方開放空間を塞ぐための着脱可能な蓋を備える、請求項1~8の何れか一項に記載の人工三次元組織灌流デバイス。
【請求項10】
前記側壁が略円筒状である、請求項1~9の何れか一項に記載の人工三次元組織灌流デバイス。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載の人工三次元組織灌流デバイスと、前記第1内通路に挿通可能な前記流路形成部材と、を含む、人工三次元組織製造キット。
【請求項12】
請求項1~10の何れか一項に記載の人工三次元組織灌流デバイスを用いた人工皮膚組織の製造方法であって、
前記人工三次元組織灌流デバイスの前記側壁に設けられた前記第1内通路に、前記流路形成部材を挿入し、かつ、前記側壁の下方開放空間を蓋で封鎖する準備工程と、
前記人工三次元組織灌流デバイスを用いて真皮細胞を培養し、真皮組織層を形成させる第1の培養工程と、
前記真皮組織層の形成後、表皮細胞を培養し、表皮組織層を形成させる第2の培養工程と、
前記表皮組織層の形成後、前記流路形成部材を抜去し、前記真皮組織層を貫通する灌流流路を形成させる、流路形成工程と、
前記灌流流路内で血管内皮細胞を培養し、管腔層を形成させる第3の培養工程と、を含む、人工皮膚組織の製造方法。
【請求項13】
前記管腔層の形成後、角層を形成させる第4の培養工程をさらに含み、
前記第4の培養工程は、配管を前記第2内通路の開口に装着し、前記人工三次元組織灌流デバイスを複数連結させた状態で、前記灌流流路に培地を灌流させながら角層化の誘導を促進する、請求項12に記載の人工皮膚組織の製造方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の製造方法で製造した人工皮膚組織に、薬剤を添加する添加工程と、
前記薬剤の接触による刺激に対する前記人工皮膚組織の応答、及び/又は前記人工皮膚組織に対する前記薬剤の浸透性を測定する評価工程を含む、人工皮膚組織を用いた薬剤評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工三次元組織灌流デバイス、人工皮膚組織の製造方法、人工皮膚組織を用いた薬剤評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工臓器の構築や動物実験に替わる薬剤実験等への適用を目的として、人工三次元組織の構築方法について広く研究が進められている。中でも、皮膚移植や化粧品、医薬品等の薬効試験、薬理試験及び安全性試験に用いるために、様々な培養皮膚モデルが開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、細胞外マトリックス成分を含む被膜された細胞を培養して真皮組織層を形成すること、真皮組織層上に表皮細胞を配置して表皮層を形成することを含む人工皮膚モデルの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、線維芽細胞およびコラーゲンを混合して真皮模写層を形成させ、真皮模写層上に角化細胞を適用して培養した後、所定の培地でさらに培養を行うことで、皮膚色素沈着が示された人工皮膚の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、血管様チャネルを有する人工皮膚組織を製造する方法、及び当該人工皮膚組織の製造に用いるデバイスが開示されている。血管様チャネルに培地を灌流させながら皮膚組織を培養することで、灌流する培地から供給される栄養分により、表皮層が厚く、より高品質な人工皮膚組織を製造することができることが記載されている。
【0006】
特許文献4には、上述の特許文献3に記載の方法で製造した灌流型の人工皮膚組織を用いて、経内皮電気抵抗の測定及びバリア機能の評価を行うためのシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-205516号公報
【特許文献2】特開2019-10089号公報
【特許文献3】WO2017/126532
【特許文献4】特許第6991572号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、従来の非灌流型人工皮膚組織の製造キットには、マルチウェルプレート等に装着可能なインサートウェルに皮膚組織を形成させ、該インサートウェルごと皮膚組織を移動させることができるトランスウェル型のものが開発されている。
しかしながら、灌流流路を有する灌流型人工皮膚組織を製造するデバイスであって、トランスウェルに適した形状のものは存在しなかった。例えば、特許文献3に記載の灌流デバイスは、灌流流路に連通するチューブ取り付け口が多数存在し、且つ該取り付け口が突出して設けられているためウェル内に収めることが困難であり、トランスウェル用には適さない形状であった。
【0009】
また、特許文献3に記載のデバイスは、複数の灌流流路に灌流させる場合、培地を灌流させるためのチューブを流路の本数分装着しなければならず、デバイスの準備に手間がかかるという欠点があった。
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は、灌流流路を有する人工三次元組織を製造するためのデバイスであって、培養プレート等のウェル内に容易に設置でき、形成した組織ごと移動が簡便な人工三次元組織灌流デバイスを提供することを課題とする。
【0011】
また、本発明は、上記デバイスを用いた人工皮膚の製造方法、及び薬剤評価方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は、
内部に培養空間を有する筒状に形成された側壁を備え、
前記側壁の壁内には、その厚み方向を貫通する第1内通路と、該第1内通路の中途から延び前記側壁の外部に向かって開放する第2内通路と、を含む、前記側壁の壁内において一連の空間を形成する内通路ユニットが2以上設けられており、
一の前記内通路ユニットの前記第1内通路と、他の前記内通路ユニットの前記第1内通路と、に流路形成部材を通し、前記培養空間に該流路形成部材を懸架可能に構成されている、人工三次元組織を培養するための人工三次元組織灌流デバイスである。
【0013】
上記構成を有する本発明の人工三次元組織灌流デバイスは、内通路ユニットが側壁内に設けられているため、デバイス本体を小型化することができ、さらに容易に培養プレート等の間を移動させることができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記内通路ユニットは、前記側壁の周方向に沿って並設された複数の第1内通路と、1つの第2内通路を備え、
前記第2内通路は、分岐することで、それぞれの前記第1内通路の中途に接続している。
【0015】
上記構成を有する人工三次元組織灌流デバイスを用いれば、後述する通り、人工三次元組織の製造時、内通路ユニットを構成する第1内通路及び第2内通路と、組織内を貫通する灌流流路とが連通した、一連の流路を形成させることができる。この時、側壁に設けられた第2内通路の開口が該流路の入口又は出口として機能することとなる。
すなわち、上記構成を有する本発明を用いれば、1の第2内通路の開口から複数に分岐した第1内通路へと培地が流入し、組織内の灌流流路に到達するため、灌流流路の本数分の配管を設置する手間がなく、灌流のための操作が容易となる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記第2内通路は、前記側壁の内部において周方向に延びる貯留空間を備え、前記貯留空間から分岐し、それぞれの前記第1内通路の中途に接続している。
第2内通路が貯留空間を備えることで、第2内通路に流れ込んだ液体が一度貯留空間に蓄積されることから、貯留後分岐して第1内通路に流れ込む水流を一定にすることができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記貯留空間における前記側壁の厚み方向及び高さ方向の径は、前記第1内通路及び前記第2内通路のいずれの内径よりも大きい。
上記構成を有する貯留空間を有することで、貯留空間へ蓄積される水量が多くなるため、第1内通路に流入させる水流をより安定させることができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記側壁は、内向きフランジ状に形成された組織形成部を備え、前記第1内通路は該組織形成部を略水平方向に貫くように形成され、前記培養空間は該組織形成部により囲まれた空間である。
上記の組織形成部を備えることで、側壁に囲まれた空間は、組織形成部により上下に分断され、培養空間のみによって連通することとなる。これにより、人工三次元組織が形成された際、側壁に囲まれた空間を上下に完全に分断することができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記培養空間は略円筒状である。
培養空間を略円筒状とすることで、人工三次元組織の製造時に組織が収縮した場合であっても、側壁、より具体的には側壁に設けられた組織形成部と培養空間の間に隙間が生じにくくなる。これにより、デバイスから組織が脱落することを抑制できる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記組織形成部は上下端の各々に組織脱落抑制手段が設けられている。
組織脱落抑制手段が設けられることにより、構築された人工三次元組織がデバイスから脱落することを抑制できる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記組織脱落抑制手段は突起である。
組織脱落抑制手段として組織形成部に突起を設けることで、人工三次元組織のデバイスへの密着度が向上し、灌流時における組織の脱落を抑制することができる。
【0022】
本発明の好ましい形態では、本発明は、さらに、前記側壁の下方開放空間を塞ぐための着脱可能な蓋を備える。
着脱可能な蓋を備えることで、人工三次元組織の製造工程に応じて、デバイスの下方部を開放することができ、利便性に優れる。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記側壁が略円筒状である。
側壁の形状を略円筒状とすることで、本発明は、既存の丸底のマルチウェルプレート等内での使用性に優れる。
【0024】
また、本発明は、上述の人工三次元組織灌流デバイスと、前記第1内通路に挿通可能な前記流路形成部材と、を含む、人工三次元組織製造キットである。
【0025】
また、本発明は、上述の人工三次元組織灌流デバイスを用いた人工皮膚組織の製造方法であって、
前記人工三次元組織灌流デバイスの前記側壁に設けられた前記第1内通路に、前記流路形成部材を挿入し、かつ、前記側壁の下方開放空間を蓋で封鎖する準備工程と、
前記人工三次元組織灌流デバイスを用いて真皮細胞を培養し、真皮組織層を形成させる第1の培養工程と、
前記真皮組織層の形成後、表皮細胞を培養し、表皮組織層を形成させる第2の培養工程と、
前記表皮組織層の形成後、前記流路形成部材を抜去し、前記真皮組織層を貫通する灌流流路を形成させる、流路形成工程と、
前記灌流流路内で血管内皮細胞を培養し、管腔層を形成させる第3の培養工程と、を含む、人工皮膚組織の製造方法に関する。
【0026】
上記製造方法によれば、真皮組織層に灌流流路を有する人工皮膚組織を製造することができる。
【0027】
本発明の好ましい形態では、本発明は、前記管腔層の形成後、角層を形成させる第4の培養工程をさらに含み、
前記第4の培養工程は、配管を前記第2内通路の開口に装着し、前記人工三次元組織灌流デバイスを複数連結させた状態で、前記灌流流路に培地を灌流させながら角層化の誘導を促進する。
複数の人工三次元組織灌流デバイスを連結させて灌流を行いながら角層の形成を行うことで、複数の人工皮膚組織を同時に、かつ容易に製造することができる。
【0028】
また、本発明は、上述の人工皮膚の製造方法で製造した人工皮膚組織に、薬剤を添加する添加工程と、
前記薬剤の接触による刺激に対する前記人工皮膚組織の応答、及び/又は前記人工皮膚組織に対する前記薬剤の浸透性を測定する評価工程を含む、人工皮膚組織を用いた薬剤評価方法にも関する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、培養プレート等のウェル内に容易に設置でき、形成した組織ごとの移動が簡便な人工三次元組織灌流デバイスを提供することができる。
【0030】
また、本発明によれば、上記デバイスを用いた人工皮膚の製造方法、及び薬剤評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態を示す人工三次元組織灌流デバイスの全体斜視図である。
図2】本発明の一実施形態を示す人工三次元組織灌流デバイスの平面図である。
図3図2のA-A’断面図である。
図4図2のB-B’断面図である。
図5】本発明の一実施形態を示す人工三次元組織灌流デバイスの下方斜視図である。
図6】本発明の一実施形態を示す人工三次元組織灌流デバイスの蓋の設置例を示す図である。
図7】本発明の一実施形態を示す人工三次元組織灌流デバイスの使用状態を示す図である。
図8】人工皮膚組織の製造工程を示す図であり、第1の培養工程における真皮細胞及び細胞外マトリックス成分をデバイス内に投入した状態を表す。
図9】人工皮膚組織の製造工程を示す図であり、第1の培養工程後に真皮組織層L1が形成された状態を表す。
図10】人工皮膚組織の製造工程を示す図であり、第2の培養工程後に表皮組織層L2が形成された状態を表す。
図11】人工皮膚組織の製造工程を示す図であり、第3の培養工程後に管腔層L3が形成された状態を表す。
図12】人工皮膚組織の製造工程を示す図であり、第4の培養工程後に角層L4が形成された状態を表す。
図13】人工皮膚組織の製造において、複数の人工三次元組織灌流デバイスを連結させた状態を示す図である。
図14】実施例にかかる本発明の製造方法で製造した人工皮膚組織の皮膚切片のHE染色画像であり、ワイヤーの直径が(a)200μmの場合、(b)500μmの場合をそれぞれ示す。
図15】実施例にかかる本発明の製造方法で製造した人工皮膚組織の皮膚切片の免疫組織染色画像であり、(a)CK10染色及びCK15染色結果、(b)CD31染色結果をそれぞれ示す。
図16】実施例にかかる(a)人工皮膚組織のバリア機能の評価方法を示す概略図、及び(b)人工皮膚組織の経皮吸収性の評価方法を示す概略図である。
図17】実施例にかかる人工皮膚組織のバリア機能の評価結果を示す図であり、角層形成時に灌流を行った皮膚組織及び灌流を行わなかった皮膚組織における経皮電気抵抗値(TEER)の測定結果を示す。
図18】実施例にかかる人工皮膚組織の経皮吸収性の評価結果を示す図であり、(a)皮膚直下の溶液におけるカフェイン累積透過量、及び(b)灌流液におけるカフェイン累積透過量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の人工三次元組織灌流デバイス、人工皮膚の製造方法、及び当該人工皮膚を用いた薬剤評価方法について説明を加えるが、本発明は下記実施形態に限定されず、適宜設計変更が可能である。また、添付の図面は概念図であり、各構成の相対的な寸法等は本発明を限定するものではなく、実際の縮尺等とは異なる場合がある。
【0033】
[人工三次元組織灌流デバイス]
以下、本発明の人工三次元組織灌流デバイスについて、図1~7を参照して説明を加える。
【0034】
なお、本発明において、側壁2の「内部」とは側壁2に囲まれた内側部分の空間を示し、側壁2の「壁内」とは側壁2内に内蔵されている状態を示す。
【0035】
図1は、本実施形態にかかる人工三次元組織灌流デバイス1(以下、灌流デバイス1という)の全体図を示す。灌流デバイス1は、人工三次元組織が形成される培養空間Sを内部に有し、筒状に形成された側壁2を備える。当該側壁2は、その壁内に設けられた内通路ユニット3と、人工三次元組織が形成される組織形成部4を備える(図2~4)。
【0036】
側壁2は、上下面が解放された略円筒状であり、側壁2の上方に向かって2つの装着部21が突出している。装着部21は、配管8を取り付け容易な円錐台形状となっている。当該装着部21は、側壁2内部を連通する内通路ユニット3の上方開口321を有する。
【0037】
後述する通り、人工三次元組織の製造時、装着部21にシリコンチューブ等の配管8を設置し、ポンプPと接続することで、ポンプPから送られる培地を人工三次元組織内に灌流させることができる。
【0038】
灌流デバイス1には、2つの内通路ユニット3が互いに対向するように、側壁2に設けられている。内通路ユニット3は、第1内通路31と第2内通路32の2つの内通路で構成されている。
【0039】
図3及び4は、側壁2に設けられた内通路ユニット3の形態を表す。内通路ユニット3を構成する第1内通路31は、側壁2の厚み方向を貫通するよう設けられ、第2内通路32は該第1内通路31の中途から上方に向かって形成される。
【0040】
第1内通路31は、側壁2の周方向に沿って複数個併設されている。本実施形態では、1単位の内通路ユニット3につき、第1内通路31が3本設けられている。
内通路ユニット3を構成する計6個の第1内通路31は、培養空間Sを介して対向するよう設けられている。すなわち、第1内通路31は、対向する第1内通路31に各々ワイヤー6(流路形成部材)を挿通した際、培養空間Sにワイヤー6が懸架されるように配置されている。
【0041】
また、図3に示す通り、第1内通路31は、側壁2及び組織形成部4を貫通し、培養空間Sまで連通する。第1内通路31は、側壁2の外周面で開口する外側開口311と、組織形成部4の内周面で開口する内側開口312を有する。
【0042】
後述するように、人工三次元組織の製造時、対向する第1内通路31にワイヤー6を挿通し、培養空間Sにワイヤー6が懸架した状態で組織を培養する。その後該ワイヤー6を抜去することで、組織内部に該ワイヤー6の形状に沿った1又は2以上(本実施形態では3本)の灌流流路Cを形成させることができる。
【0043】
また、図4は、第1内通路31へ連通する第2内通路32の分岐の状態を示す。第2内通路32は、側壁2の上方より開放する上方開口321から側壁2の壁内を略垂直方向に下降し、一定量の容積を有する貯留空間32aを形成する。そして、貯留空間32aの下方で第2内通路32は3つに分岐し、3本の第1内通路31に接続する。
【0044】
貯留空間32aは、側壁2の周方向に延びており、その側壁2の厚み方向及び高さ方向の径は、第1内通路31及び第2内通路32の何れの内径よりも大きくなるよう設けられている。
【0045】
内通路ユニット3を構成する第1内通路31及び第2内通路32は、人工三次元組織の製造時、培地が灌流する流路として機能する。上方開口321から流入した培地は、一度貯留空間32aに貯蔵された後に分岐するため、第2内通路32から第1内通路31を流れる水流を一定にすることができる。ここで、水流を一定にするとは、水量、及び/又は流速を一定にすることを含む。
【0046】
また、第2内通路32は、側壁2の装着部21の内部を通り、該装着部21に上方開口321を形成する(図3及び4)。ここで、人工三次元組織の製造において、培地等の灌流は、外側開口311を封止し、上方開口321のみが灌流デバイス1の外界に開放された状態で実施される。すなわち、内通路ユニット3にそれぞれ設けられた上方開口321が、外界と接続し、流路の入口又は出口として機能する。よって、2か所の装着部21に配管8を設置するだけで、該人工三次元組織に形成される複数の灌流流路C内に培地を灌流させることができる。
【0047】
また、側壁2が内通路ユニット3を内蔵し、かつ装着部21を側壁2上部に設ける構成とすることで、灌流デバイス1全体の形状を小型化することができる。これにより、内径の小さいマルチウェルプレート等の培養プレート内で人工三次元組織の製造が可能となる。さらには、該ウェルの中に容易に移動及び設置が可能となることから、トランスウェル型の装置として用いることができる。
【0048】
さらに、側壁2の内部には、組織形成部4が内向きフランジ状に形成されている(図2、3参照)。組織形成部4の内部には、上下に開放した略円筒状の培養空間Sが形成される。
培養空間Sが略円筒状であることで、人工三次元組織の製造時、形成された組織が収縮した場合に、該組織と組織形成部4の間に隙間が生じにくくなる。
【0049】
また、組織形成部4が内向きフランジ状であることで、側壁2に囲まれた内部空間が組織形成部4により上下に分断され、分断された上下空間が培養空間Sによってのみ連通した状態とすることができる。
【0050】
人工三次元組織の製造時、組織形成部4の培養空間Sには、収縮した人工三次元組織が接着する。すなわち、灌流デバイス1を用いて人工三次元組織を製造すると、製造された人工三次元組織により灌流デバイス1の上方空間と下方空間が分断される。そのため、本発明の灌流デバイス1を用いれば、上方空間に直接添加した試験用薬剤等が下方空間に漏れ出ることがないといった利点を有する。
【0051】
一方で、従来の灌流デバイスは、製造された人工三次元組織と培養空間に隙間が存在するため、製造した人工三次元組織に薬剤を添加する際、別途薬剤を溜めるための囲い等を用意する必要があった。
すなわち、本実施形態に係る灌流デバイス1は、囲い等を設けることなく薬剤を直接添加することができ、従来の灌流デバイスよりも薬剤試験等への使用性が向上したものとなっている。
【0052】
組織形成部4には、第1内通路31が略水平方向に貫通している。すなわち、第1内通路31の有する内側開口312は、組織形成部4に設けられ、培養空間Sに向かって開放されている。
人工三次元組織が組織形成部4に形成されると、内側開口312は、組織内を貫通するよう設けられた灌流流路Cの末端と接続することとなる。
【0053】
組織形成部4は、その上下端の各々に、人工三次元組織が接着するための組織脱落抑制手段41が設けられる。本実施形態の灌流デバイス1では、組織脱落抑制手段41として、組織形成部4の上下端に複数の突起が設けられている。該突起は、略円筒状であり、組織脱落抑制手段41の表面に均等に配置される。
【0054】
組織形成部4の上下端に、組織脱落抑制手段41を各々備えることで、製造した人工三次元組織が組織形成部4へ密着し、灌流時の人工三次元組織の脱落を抑制することができる。
【0055】
本実施形態では、図3に示す通り、組織形成部4の鉛直断面がT字状である。このような形態とすることで、人工三次元組織の製造時、T字状の傘の裏部分(すなわち、側壁2の内部に構成され、培養空間Sを形成する円筒構造体の、側壁2側の面)にも組織が付着することから、組織形成部4に対する製造した組織の接着が強固となり、灌流時の人工三次元組織の脱落を抑制することができる。
【0056】
組織形成部4は、鉛直断面のT字状部分の先端に、側壁2の方向に突出した突起42が設けられる。突起42を備えることで、T字の傘の裏、すなわち突起42の下部に空間が形成される。人工三次元組織は、後述するように、突起42の全体を覆い、当該空間に入り込む形態で形成される。これにより、製造した組織の組織形成部4への接着性が向上し、灌流時の人工三次元組織の脱落をより抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態の灌流デバイス1は、側壁2の下方に複数の凸部22を有する。図5は、灌流デバイス1の下方斜視図であり、側壁2が4つの凸部22を備える形態を示す。4つの凸部22は、一定間隔で環状に配置される。
【0058】
灌流デバイス1は、図6に示す通り、側壁2の下方開放空間を塞ぐための蓋5を有する。蓋5の形状は特に特定されないが、板状であることが好ましい。
【0059】
本実施形態において、蓋5は、側壁2に着脱自在に設けられ、側壁2の凸部と合致する形状の凹部51を備える。これにより、蓋5がずれることなく、側壁2の下方開放空間を封止することができる。
【0060】
また、灌流デバイス1の寸法を培養プレートDのウェル内径に合わせて調節することで、マルチウェルの培養プレートD内での人工三次元組織の製造が可能となる。図7は、6ウェルプレート内に複数の灌流デバイス1を配置した例を示す。
【0061】
本発明の灌流デバイス1の寸法としては、縦横幅(本実施形態では底面の直径)が好ましくは35mm以下、より好ましくは30mm以下である。6ウェルプレート内での使用性を考慮すると、縦横幅(本実施形態では底面の直径)が25~30mmであることが好ましい。
【0062】
このように、本発明の灌流デバイス1は、培養プレート等の間を容易に移動することができるだけでなく、省スペースで複数の人工皮膚組織を一度に製造する場合に好適に用いることができる。
【0063】
また、本発明の灌流デバイス1において、培養空間Sの筒内径d(図2参照)は、デバイス本体の寸法及び製造する人工三次元組織の大きさを考慮し適宜変更することができる。本実施形態では、培養空間Sの筒内径は、2cm以下が好ましく、1.3cm以下がより好ましい。具体的には、培養空間Sの筒内径は0.8~1.3cmの範囲であることが好ましく、1cm程度であることがより好ましい。
【0064】
なお、本実施形態では、灌流デバイス1が2つの内通路ユニット3を備える形態を示したが、本発明はこれに限定されず、2以上、好ましくは偶数個の内通路ユニット3を備える形態とすることができる。
複数の灌流デバイス1を連結して使用するという観点からは、内通路ユニット3は2個以上であることが好ましい。また、複数の灌流デバイス1を連結して使用するという観点からは、内通路ユニット3が1対以上設けられる形態も好ましく挙げられる。
【0065】
また、本実施形態では、1単位の内通路ユニット3につき3本の第1内通路31が設けられた形態を示したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、1の内通路ユニット3あたりの第1内通路31の数は、1、3、4、7個等の任意の数とすることができる。
本発明においては、第1内通路31の数は、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは4個以上である。また、第1内通路31の数は、灌流デバイス1の使用性の観点から、好ましくは20個以下、より好ましくは15個以下、さらに好ましくは10個以下である。
【0066】
ここで、流路形成部材の設置の容易性の観点から、複数の内通路ユニット3の備える第1内通路31の本数は、それぞれ同数であることが好ましい。また、偶数個の内通路ユニット3が対となるように設けられている場合、内通路ユニット3の備える第1内通路31の本数は、対となる内通路ユニット3同士で同数であることが好ましい。
【0067】
また、本実施形態では、第2内通路32が第1内通路31の中途から上方に延び、側壁2に設けられた上方開口321にて開放する形態を示したが、本発明はこれに限定されない。第2内通路32は、側壁2内で第1内通路31と連通する開口と、側壁の外部へ開放する開口を備える形態であればよい。他の実施の形態としては、例えば、第2内通路32が第1内通路31の中途から延び前記側壁2の下方より開放する形態が挙げられる。
ポンプPへの配管8の接続等、灌流デバイス1の準備を迅速に行うという観点からは、第2内通路32は、第1内通路31の中途から上方に延び、側壁2の上方より開放する形態であることが好ましい。
【0068】
本発明の灌流デバイス1は、人工皮膚組織、人工筋組織、肝臓組織や膵臓組織等の人工消化器官系組織、腎臓組織等の人工泌尿器系組織、人工神経組織の製造に用いることができ、中でも人工皮膚組織の製造に好適に用いることができる。特に、後述するように、管腔層L3を有する灌流流路C(血管様チャネル)が貫通する真皮組織層L1、表皮組織層L2及び角層L4で構成される人工皮膚組織の製造に用いることができる。
【0069】
また、本発明は、上述の灌流デバイス1と、ワイヤー6等の流路形成部材を組み合わせた、人工三次元組織製造キットの形態とすることもできる。当該キットには、複数の灌流デバイス1が含まれることが好ましい。当該キットは、さらに、2以上のウェルを備え灌流デバイス1を収容可能な培養プレートD(例えば、マルチウェルプレート)、灌流デバイス1を連結するための配管8等を含んでもよい。
【0070】
本発明の灌流デバイス1は、3Dプリンタ等を用いて既存の手法により製造することができる。
【0071】
本発明の灌流デバイス1は、耐久性があり、アルコール等の殺菌処理に耐性のある素材からなることが好ましい。具体的には、ABS樹脂、PLA樹脂、ASA樹脂、PET樹脂、PETG樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性アクリル樹脂等を用いることができる。本発明においては、取得が容易でありかつ成型加工性に優れるといった点から、光硬化樹脂、ABS樹脂、PLA樹脂、PETG樹脂を用いることが好ましい。
【0072】
[人工皮膚組織の製造方法]
本発明は、人工皮膚組織の製造方法に関する。本発明の好ましい形態では、人工皮膚組織の製造は、上述の人工三次元組織灌流デバイスを用いて実施する。
【0073】
本発明の人工皮膚組織の製造方法は、灌流デバイス1を準備する準備工程と、真皮組織層L1を形成させる第1の培養工程と、真皮組織層L1の形成後表皮組織層L2を形成させる第2の培養工程と、表皮組織層L2の形成後真皮組織層L1を貫通する灌流流路Cを形成させる流路形成工程と、灌流流路Cに管腔層L3を形成させる第3の培養工程と、灌流流路Cに培地を灌流させながら表皮組織上に角層L4を形成させる第4の培養工程を含む。
【0074】
以下、図8~12を用いて、本発明の人工皮膚組織の製造方法について説明を加える。
【0075】
(準備工程)
準備工程では、人工皮膚組織の製造に使用する灌流デバイス1の使用準備を行う。
本工程では、初めに、灌流デバイス1に新液化処理を施すことが好ましい。新液化処理により、製造する組織の接着を強化することができる。真皮細胞及び細胞外マトリックス成分の播種及び培養は、新液化処理後1時間以内に開始することが好ましく、60分以内に開始することがより好ましい。
新液化処理としては、酸素プラズマ処理が好適に挙げられる。酸素プラズマ処理は、1~10分間行うことが好ましく、具体的には2分間行うことが好ましい。
【0076】
続いて、対向する第1内通路31にワイヤー6(流路形成部材)を挿通し、培養空間Sにワイヤー6を懸架させる。用いるワイヤー6の材質は特に限定されないが、好ましくはポリアミド樹脂である。
次いで、側壁2の下方に蓋5を取り付けて、培養空間Sの下方空間を閉塞する。
【0077】
灌流デバイス1の準備の完了後、該灌流デバイス1を培養プレートDに設置する。培養プレートDは、細胞培養に用いられる複数のウェルを備えたプレートを用いることができ、具体的には6ウェルプレート等が好適に使用できる。培養プレートDの各ウェルの直径は、32~40mmの範囲であることが好ましい。
【0078】
(第1の培養工程)
第1の培養工程は、真皮細胞を培養し、真皮組織層L1を灌流デバイス1の組織形成部4に形成させる工程である(図8及び9)。
本工程では、初めに、真皮細胞と細胞外マトリックス成分の混合物を灌流デバイス1内に投入する(図8)。混合物は、好ましくは組織形成部4が浸漬する高さ以上まで注ぎ込まれる。
【0079】
本発明で用いる真皮細胞としては、線維芽細胞を用いることが好ましい。線維芽細胞としては、ヒト、マウス、ラット等、哺乳動物由来の細胞が挙げられ、ヒト由来線維芽細胞が好ましい。ヒト由来線維芽細胞としては、正常ヒト皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)、ヒト肺線維芽細胞(Human Pulmonary Fibroblasts:HPF)、ヒト心臓線維芽細胞(Human Cardiac Fibroblasts:HCF)、ヒト大動脈外膜線維芽細胞(Human Aortic Adventitial Fibroblasts:HAoAF)、ヒト子宮線維芽細胞(Human Uterine Fibroblasts:HUF)、ヒト絨毛間葉系線維芽細胞(Human Villous Mesenchymal Fibroblasts:HVMF)等が挙げられ、中でも正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を用いることが好ましい。
【0080】
本発明で用いる細胞外マトリックス成分としては、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型など)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどを含む)より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル)、ゼラチン、寒天、アガロース、フィブリン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカンなどが挙げられる。本発明では、I型コラーゲンを用いることが好ましい。
【0081】
灌流デバイスに真皮細胞及び細胞外マトリックス成分を投入後、所定の条件で培養(インキュベーション)する。培養条件は、公知の細胞培養条件を採用することができるが、37℃の温度下で30~60分間行うことが好ましい。
上記期間の培養後、蓋5を取り外し、側壁2の下方を開放する。その後、ピペットチップなどを用いて、形成された真皮組織層L1を側壁2から剥離し、所定期間培養する。側壁2から剥離後の培養期間は、7日間程度であることが好ましい。
【0082】
培養後、細胞外マトリックス成分が収縮し、真皮組織層L1が灌流デバイス1の組織形成部4に密着する(図9)。この時、真皮組織層L1は、組織形成部4に設けられた突起(組織脱落抑制手段41)を覆うように形成される。さらに、真皮組織層L1は、突起42を覆い、突起42の下部空間に入り込むように形成させる。これにより、皮膚組織の灌流デバイス1への接着性が高まる。
【0083】
(第2の培養工程)
第2の培養工程は、真皮組織層L1形成後、表皮細胞を培養し、表皮組織層L2を形成させる工程である(図10)。本工程では、真皮組織層L1の上部に表皮細胞を播種し、所定時間静置した後、培養を行う。具体的には、表皮細胞を播種して15分静置後、インキュベータで30分間培養することが好ましい。
その後、皮膚組織全体を培地に浸漬して行う浸漬培養にて所定期間培養する。培養条件は、公知の細胞培養条件を採用することができるが、37℃の温度下で4~5日間行うことが好ましい。
【0084】
本発明で用いる表皮細胞としては、ヒト、マウス、ラット等、哺乳動物由来の細胞が挙げられ、ヒト由来表皮細胞が好ましい。ヒト由来表皮細胞としては、表皮角化細胞、表皮メラノサイトが挙げられる。表皮角化細胞としては、正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocytes:NHEK)等の表皮角化細胞、正常ヒト表皮メラノサイト(Normal Human Epidermal Melanocytes:NHEM)等の表皮メラノサイトが挙げられる。本発明では、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)を用いることが好ましい。
【0085】
(流路形成工程)
流路形成工程は、表皮組織層L2の形成後、真皮組織層L1を貫通する灌流流路Cを形成させる工程である。本工程では、第1内通路31に挿入されたワイヤー6を抜去する。これにより、真皮組織層L1には空洞の灌流流路Cが形成される。
【0086】
(第3の培養工程)
第3の培養工程は、灌流流路Cの内部に管腔層L3を形成させる工程である。
本工程では、まず、灌流流路Cの内部に血管系細胞を注入する。血管系細胞の注入は、チューブを連結したシリンジ等を用いて行うことができる。
【0087】
血管系細胞は、一定期間振盪培養することにより、灌流流路Cの壁面に付着し、管腔層L3を形成する(図11)。血管系細胞の培養は、37℃で2~3日間行うことが好ましい。また、培養は、培地に浸漬して行う浸漬培養とすることが好ましい。
【0088】
本発明で用いる血管系細胞としては、血管上皮細胞、血管内皮細胞等が挙げられ、中でも血管内皮細胞を用いることが好ましい。血管内皮細胞としては、ヒト、マウス、ラット等、哺乳動物由来の細胞が挙げられ、ヒト由来血管内皮細胞がより好ましい。ヒト由来血管内皮細胞としては、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells:HUVEC)、ヒト臍帯動脈内皮細胞(Human Umbilical Artery Endothelial Cells:HUAEC)、ヒト冠状動脈内皮細胞(Human Coronary Artery Endothelial Cells:HCAEC)、ヒト伏在静脈内皮細胞(Human Saphenous Vein Endothelial Cells:HSaVEC)、ヒト肺動脈内皮細胞(Human Pulmonary Artery Endothelial Cells:HPAEC)、ヒト大動脈内皮細胞(Human Aortic Endothelial Cells:HAoEC)、ヒト皮膚微小血管内皮細胞(Human Dermal Microvascular Endothelial Cells:HDMEC)、ヒト皮膚血管内皮細胞(Human Dermal Blood Endothelial Cells:HDBEC)、ヒト皮膚リンパ管内皮細胞(Human Dermal Lymphatic Endothelial Cells:HDLEC)、ヒト肺微小血管内皮細胞(Human Pulmonary Microvascular Endothelial Cells:HPMEC)、ヒト心臓微小血管内皮細胞(Human Cardiac Microvascular Endothelial Cells:HCMEC)、ヒト膀胱微小血管内皮細胞(Human Bladder Microvascular Endothelial Cells:HBdMEC)、ヒト子宮微小血管内皮細胞(Human Uterine Microvascular Endothelial Cells:HUtMEC)等が挙げられ、中でもヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)用いることが好ましい。
【0089】
また、第3の培養工程において、表皮組織層L2の角層L4への分化を促進するため、浸漬用の培地にカルシウムイオンを添加することが好ましい。カルシウムイオンの培地中濃度は、好ましくは1.0~3.0mM、より好ましくは1.5~2.0mMである。添加する化合物の種類は塩化カルシウムが好ましい。
【0090】
(第4の培養工程)
第4の培養工程は、灌流流路Cに培地を灌流させた状態で、角層L4を形成させる工程である。角層L4の形成は、真皮組織層L1を介して灌流流路Cを流れる培地の栄養分を拡散させつつ、表皮組織層L2を気液界面で培養することにより行われる。培地を灌流させた状態で皮膚組織の培養を行うことで、表皮組織の角層化の誘導を促進することができる。
【0091】
本工程では、気液界面培養の実施前に、灌流デバイス1の第1内通路31の有する外側開口311を、封止部材7で封止する。用いる封止部材7は、図12に示すように外側開口311の開口を封止できる部材であれば特に限定されない。すなわち、予め外側開口311の形状に合わせ合成樹脂等で製造した部材を用いてもよいし、市販の接着剤等を封止部材7として塗り込み、外側開口311を封止してもよい。
【0092】
外側開口311を封止部材7で封止後、灌流デバイスの装着部21に配管8を接続する。灌流デバイスに1対設けられた2つの内通路ユニット3について、一方の内通路ユニット3はポンプPからの培地を受け取る入口として機能し、他方の内通路ユニット3は培地をポンプPへ排出する出口として機能する。図12において、内通路ユニット3の通路内に示した矢印は、培地の流入及び流出の方向を示す。
【0093】
配管8を介してポンプPから送られた培地は、一方の内通路ユニット3内に流入し、灌流流路Cを通り真皮組織層L1を通過する。その後、当該培地は他方の内通路ユニット3を通過し、再びポンプPへと回収される。このようにして、培地を灌流流路Cに循環させ、管腔層L3を通して培地成分を真皮組織層L1へ拡散させることができる。
【0094】
角層L4の形成は、37℃で7~14日間行うことが好ましい。
【0095】
角層L4の誘導において、灌流させる培地には、表皮組織層L2の角層L4への分化を促進するため、カルシウムイオンを添加することが好ましい。カルシウムイオンの培地中濃度は、好ましくは1.0~3.0mM、より好ましくは1.5~2.0mMである。添加する化合物の種類は塩化カルシウムが好ましい。
【0096】
複数の灌流デバイスについて同時に角層L4の形成を行う場合、配管8を用いて複数の灌流デバイスをポンプPに接続し、気液界面培養を行ってもよい(図13)。図13の矢印は、配管8を流れる培地の方向を示す。
【0097】
このように、本発明の人工三次元組織灌流デバイスを用いれば、6ウェルプレート等のマルチウェルプレート内で同時に複数の人工皮膚組織を製造することができる。これにより、同一品質の人工皮膚組織を多量に製造することが可能となる。
【0098】
本発明では、上述の第1の培養工程、第2の培養工程、流路形成工程、第3の培養工程、及び第4の培養工程を、上記の順に実施することが好ましい。特に、第1の培養工程及び第2の工程後に流路形成工程を行うことで、潰れにくく、十分な直径を保持した灌流流路Cを形成させることができる。
【0099】
また、灌流デバイスに挿入するワイヤー6(流路形成部材)の直径を変更することで、灌流流路Cの直径を容易に調節することができる。本発明では、流路形成部材として、直径が100~500μmのナイロンワイヤーを好適に用いることができる。
【0100】
また、上記製造方法では、灌流流路Cを形成するための流路形成部材としてワイヤー等の線状部材を例示したが、流路形成部材は、ゲル材またはポリマーで作製した細胞付き又は細胞入りのファイバーを用いることもできる。この場合、第3の培養工程における血管系細胞を別途播種する工程を省くことができる。
【0101】
また、使用する流路形成部材は線状部材に限られず、面状部材を用いてもよい。面状部材としては、網目状の部材、メッシュ材等が挙げられる。
【0102】
[人工皮膚組織を用いた薬剤評価方法]
本発明は、上述の方法で製造した人工皮膚組織を用いた薬剤評価方法(以下、薬剤評価方法という)に関する。
本発明の薬剤評価方法は、薬剤を前記人工皮膚組織に添加する添加工程と、前記薬剤の接触による刺激に対する前記人工皮膚組織の応答、及び/又は前記人工皮膚組織に対する前記薬剤の浸透性を測定する評価工程を含む。
【0103】
(添加工程)
添加工程では、人工皮膚組織に任意の薬剤を添加する。本発明における薬剤とは、有機化合物、無機化合物、動植物エキス等が挙げられ、医薬品等の薬剤だけでなく、化粧品、医薬部外品等を含むものとする。
【0104】
薬剤は、灌流デバイス1の上方空間から人工皮膚組織へ添加する。本発明における添加とは、具体的には、人工皮膚組織の表面への薬剤の塗布又は接触、皮内注射等の人工皮膚組織層内への薬剤の注入、及び、灌流流路内で薬剤を含む溶液を灌流させるといった灌流流路内への薬剤投与などが挙げられる。
【0105】
本発明の灌流デバイス1は、上述の通り、培養空間Sに皮膚組織が形成されると、側壁2内に囲まれた空間が上下に分断される。そのため、別途薬剤の流出を防ぐための囲い等を用意せずとも、上方空間から添加した薬剤が下方空間の培地等と混ざり合うことがないため、灌流デバイスの上方空間へ直接薬剤を添加できる。
【0106】
(評価工程)
評価工程では、薬剤を添加した人工皮膚の状態を評価する。具体的には、薬剤の接触による刺激に対する人工皮膚組織の応答、人工皮膚組織に対する薬剤の浸透性等測定が挙げられる。
【0107】
応答の測定とは、例えば、経皮電気抵抗の測定が挙げられる。具体的には、経内皮電気抵抗(Trans-endothelial electrical resistance;TEER)、経上皮電気抵抗(Trans-epithelial electrical resistance;TEER)を測定することができる。経皮電気抵抗の測定により、上皮のバリア機能を評価することができる。
本発明の灌流デバイス1を用いれば、上述の通り、形成された皮膚組織により側壁2内に囲まれた空間が上下に分断されるため、角層L4側の空間と真皮組織層L1下の組織深層側に通じる空間を生じさせることができる。そのため、別途囲い等を用意することなく、そのまま角層の経皮電気抵抗の測定に用いることが可能である。
【0108】
薬剤の浸透性の測定としては、皮膚組織(表皮組織、具体的には角層)の表面に薬剤を添加した後、灌流流路内及び/又は皮膚組織直下の薬剤の量を測定する方法が挙げられる。
【実施例0109】
以下、本発明の人工三次元組織灌流デバイスを用いた人工皮膚組織の製造、及び当該人工皮膚組織を用いた薬剤評価について実施例を示す。本実施例は本発明の一実施形態を示すものであり、本発明は当該実施例に限られるものではない。
【0110】
(1)人工皮膚組織の製造
(1-1)手順
本発明の人工三次元組織灌流デバイスを用いて、以下の手順で人工皮膚組織を製造した。灌流デバイスは、4対の第1内通路(計8個の第1内通路)を有するものを使用した。
【0111】
初めに、灌流デバイスについて、細胞接着向上のため、新液化処理を実施した。その後、第1内通路の外側開口部にナイロンワイヤー(流路形成部材)を計4本挿入し、蓋で底面を封鎖した。また、ナイロンワイヤーは、直径200μm、及び500μmのものを用いた。
次いで、70%エタノール等により滅菌した後、灌流デバイスを細胞培養プレート内へ静置した。
【0112】
6×10cells/mLのヒト皮膚線維芽細胞(NHDF、Promocell社製)を含むHam-F12培地(新田ゼラチン株式会社製):コラーゲンI型溶液(Type I-A Collagen、新田ゼラチン株式会社製):再構成用緩衝液(新田ゼラチン株式会社製)=8:1:1を灌流デバイス内部に充填し、コラーゲンが真皮様の層を形成するまで37℃で30分間培養した。
蓋を取り外し、ピペットチップを用いて真皮組織層をデバイスの側壁から剥がし、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、0.25mM L-アスコルビン酸りん酸エステルマグネシウム塩を含むDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium、Thermo Fisher Scientific Inc.製)中で7日間培養して、真皮組織層の収縮を誘導した。
【0113】
培養後、上方の培地を取り除き、1×10個の正常ヒト表皮角化細胞(NHEK、Promocell社製)を含むKGM2培地(Keratinocyte Growth Medium、Promocell社製)100μLを真皮組織層の上部に播種し、15分静置後、37℃で30分培養した。
30分培養後、等量のHam-F12培地とKGM2培地を加え、37℃で5日間培養した。
【0114】
培養後、皮膚組織からナイロンワイヤーを抜去し、シリンジポンプ(テルモシリンジSS-01T、テルモ社製)を用いて、第1内通路の外側開口から灌流流路内に1の第1内通路につき1×10個のヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC、ロンザ社製)を含むEGM-2培地(Endothelial SingleQuots Kit、ロンザ社製)を50μL注入した。その後、10分振盪培養した。さらにデバイスの上下を反転させ、10分振盪培養した。
その後、上下を戻し表皮層の角層への分化を促進するために、DMEM培地とKGM2培地の等量混合後、カルシウム濃度1.8mMに調製した培地(以下、カルシウム入り培地という)を添加し、37℃で2日間培養して血管様チャネル(灌流流路)を形成させた。血管様チャネルの形成後、灌流デバイスについて、第1内通路の外側開口を全て接着剤で封止した。
【0115】
血管様チャネルの形成後、灌流デバイスの装着部にチューブを繋ぎ、ポンプ(ペリスタポンプ、アトー株式会社製)と接続した。形成した皮膚組織の上部が気液界面上から露出するように、灌流デバイスの上部に溜まった培地を廃棄した。
次いで、ポンプを稼働させ、0.1~0.5mL/minとなるように上述のカルシウム入り培地を灌流させながら、表皮組織層の上層の角層化の誘導を促進した。角層化の誘導は、37℃で7日間行った。カルシウム入り培地の半分は2日または3日ごとに交換した。
【0116】
次いで、200μmのナイロンワイヤーを使用して製造した皮膚切片を用いて、HE染色、CK10、CK15、CD31免疫組織染色を以下の手順で行った。
【0117】
(HE染色)
製造した皮膚組織を4%パラホルムアルデヒドで固定後、凍結皮膚切片を作製し、常法によりHE染色を行った。得られた皮膚切片を顕微鏡(Leica Thunder Imager、Leica microsystems製)で観察した(図14)。
【0118】
(CK10、CK15免疫組織染色)
製造した皮膚組織を4%パラホルムアルデヒドで固定後、凍結皮膚切片を作製した。切片をPBS洗浄後、1%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキング処理を行った。その後、以下の一次抗体を加えて室温で1時間培養した。皮膚切片をPBSで洗浄後、二次抗体を加えて室温で2時間培養した。次いで、皮膚切片をHoechst 33342(Invitrogen社製)で核を染色し、共焦点顕微鏡(Leica Thunder Imager、Leica microsystems製)で観察した(図15(a))。
・一次抗体:CK10抗体(Anti-Cytokeratin 10 抗体、Abcam製)を1%BSAで1:150に希釈、CK15抗体(Cytokeratin 5/14 Monoclonal Antibody、Invitrogen社製)を1%BSAで1:200に希釈したもの
・二次抗体:Alexa Fluor 488 goat anti-rabbit(or anti-mouse)IgG H+L(Invitrogen社製)またはAlexa Fluor 555 goat anti-mouse (or anti-rabbit)IgG H+L、Invitrogen社製)を1%BSAで1:400に希釈したもの
【0119】
(CD31免疫組織染色)
製造した皮膚組織を、固定せずに瞬間凍結し、凍結切片を作製した。切片をPBSで洗浄後、1%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキング処理を行った。その後、以下の一次抗体を加えて室温で1時間培養した。皮膚切片をPBSで洗浄後、二次抗体を加えて室温で2時間培養した。次いで、皮膚切片を4%パラホルムアルデヒドで固定し、DAPIで核を染色した。得られた皮膚切片を共焦点顕微鏡(Leica Thunder Imager、Leica microsystems製)で観察した(図15(b))。
・一次抗体:CD31抗体(Anti-CD31/PECAM-1 Antibody、R&D Systems社製)を1%BSAで1:400に希釈したもの
・二次抗体:Alexa Fluor 488 goat anti-anti-mouse IgG H+L(Invitrogen社製)を1%BSAで1:400に希釈したもの
【0120】
(1-2)結果
図14に示す通り、上述の方法により、血管様チャネル(灌流流路)を有する真皮組織層が製造されることが観察された。また、免疫組織染色の結果から、内皮細胞のマーカーであるCD31が血管様チャネルの内壁に沿って発現していることが確認された(図15(b))。また、角層マーカーのCK10及び上皮細胞のマーカーのCK15の免疫組織染色の結果から、表皮組織の上に角層が形成されていることが確認された(図15(a))。
【0121】
また、血管様チャネルの直径は、直径200μmのナイロンワイヤーを用いた場合でもさほど収縮せず、十分な大きさが得られた(図14(a))。直径500μmのナイロンワイヤーを使用した場合は、200μmのワイヤーを使用した場合よりも血管様チャネルの直径が大きくなった(図14(b))。
すなわち、本発明の製造方法によれば、ワイヤーの直径と比して血管様チャネルの直径が収縮しにくいことから、ワイヤーの直径を調節することで、血管様チャネルの直径を任意の大きさへと容易に調節することができる。
【0122】
以上より、上述の手順により、内部に血管様チャネルを有する真皮組織層、表皮組織層、及び角層を有する人工皮膚組織が製造できることが示された。
【0123】
(2)人工皮膚組織のバリア機能の評価
バリア機能は、角層インピーダンスメータ AS-TZ1(日本アッシュ株式会社)を用いて経皮電気抵抗の測定にて評価した。製造した皮膚組織の角層側及び真皮側にPBSを添加し、角層インピーダンスメータの銀電極を角層側のPBSに浸し、塩化銀電極を真皮側(すなわち、灌流デバイス1の周囲)のPBSに浸し測定した(図16(a)参照)。経皮電気抵抗値(TEER)は、電気抵抗値(kΩ)と製造した皮膚組織の角層側の面積の積にて算出した。角層形成時に灌流無しの場合と灌流有りの場合を比較した結果を、図17に示す。
【0124】
図17に示す通り、角層形成時に灌流を行った皮膚組織は、灌流を行わなかった皮膚組織と比較して高い経皮電気抵抗値(TEER)を示した。すなわち、角層形成時に灌流をすることで、高いバリア機能を持つ皮膚組織が製造されることが確認された。
【0125】
(3)人工皮膚の経皮吸収性の評価
製造した皮膚組織の皮膚直下に3mLのPBSを添加し、角層側に投与液(PBSにカフェインを15mg/mL溶解した溶液)を200μL添加した(図16(b)参照)。投与液添加後の15分、30分、45分、及び60分に、皮膚直下のPBS溶液及び灌流流路からの灌流液を回収した。PBS回収後、皮膚直下においては回収量と等量の新鮮なPBSを添加した。
回収した溶液は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC-UV (Acquity UPLC/MS,Waters,Milford社製))にて分析した。得られた分析結果について、灌流開始からの経過時間を横軸とし、カフェインの検出量を縦軸とした、カフェインの累積透過量を算出した(図18)。
【0126】
図18に示す通り、皮膚直下から回収したPBS溶液及び灌流液の何れからも、カフェインが検出された。すなわち、製造された皮膚組織は、表皮組織層、真皮組織層及び血管様チャネル(灌流流路)の全ての領域で経皮吸収性を有することが確認された。
【0127】
上記(2)及び(3)の結果より、本発明の灌流デバイス、及びこれを用いて作製した人工皮膚組織は、上皮のバリア機能評価、経皮吸収性評価といった評価に好適に用いることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、本発明は、化粧品、医薬、製薬の分野において、人工三次元組織の製造、及び、人工皮膚組織を用いた化粧品・医薬品等の薬剤評価等のために用いることができる。
【符号の説明】
【0129】
1 人工三次元組織灌流デバイス(灌流デバイス)
2 側壁
21 装着部
22 凸部
3 内通路ユニット
31 第1内通路
311 外側開口
312 内側開口
32 第2内通路
321 上方開口
32a 貯留空間
4 組織形成部
41 組織脱落抑制手段
42 突起
5 蓋
51 凹部
6 ワイヤー
7 封止部材
8 配管
L1 真皮組織層
L2 表皮組織層
L3 管腔層
L4 角層
C 灌流流路
P ポンプ
D 培養プレート
S 培養空間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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図18