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特開2023-151618セメント組成物の製造方法及びセメント組成物の流動性改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151618
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】セメント組成物の製造方法及びセメント組成物の流動性改善方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/04 20060101AFI20231005BHJP
   C04B 7/52 20060101ALI20231005BHJP
   C04B 28/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C04B7/04
C04B7/52
C04B28/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061333
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 裕伸
(72)【発明者】
【氏名】井戸 利博
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB11
4G112PE00
(57)【要約】
【課題】半水化率が90質量%以上でも流動性を維持することができ、偽凝結の発生が抑えられるセメント組成物の製造方法及びセメント組成物の流動性改善方法を提供する。
【解決手段】早強ポルトランドセメントクリンカー及び普通ポルトランドセメントクリンカーからなる群より選択される少なくとも1種のセメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物を、仕上げミルによって粉砕して、前記仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率を70%未満にする仕上げ工程と、前記粉砕組成物を閉鎖型容器内で前記二水石膏を脱水させて、前記粉砕組成物の半水化率を20ポイント以上上昇させる上昇工程と、を有することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
早強ポルトランドセメントクリンカー及び普通ポルトランドセメントクリンカーからなる群より選択される少なくとも1種のセメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物を、仕上げミルによって粉砕して、前記仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率を70%未満にする仕上げ工程と、
前記粉砕組成物を閉鎖型容器内で前記二水石膏を脱水させて、前記粉砕組成物の半水化率を20ポイント以上上昇させる上昇工程と、
を有することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
ただし、前記半水化率は、下式(1)により求める。
半水化率(%)=半水SO量/(二水SO量+半水SO量)×100 (1)
前記式(1)中、前記二水SO量は、粉砕組成物中の二水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の二水石膏量(質量%)×80/172により算出され、前記半水SO量は、粉砕組成物中の半水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の半水石膏量(質量%)×80/145により算出される。
【請求項2】
前記仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率を60%未満にする請求項1に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項3】
前記閉鎖型容器内での前記粉砕組成物の半水化率を40ポイント以上上昇させる請求項1又は2に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項4】
複数の前記仕上げミルとセメントクーラーとを使用し、
前記仕上げミル出の前記粉砕組成物を、前記セメントクーラーを使用せずに前記閉鎖型容器へ投入する投入工程1と、
前記仕上げミル出の前記粉砕組成物を、前記セメントクーラーを使用して前記閉鎖型容器へ投入する投入工程2とを並行して行うことにより、前記閉鎖型容器内で二水石膏を脱水させて前記粉砕組成物の半水化率を上昇させる請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項5】
前記複数の仕上げミルの少なくとも1基が竪ミルである請求項4に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項6】
前記閉鎖型容器がセメントサイロである請求項1~5のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項7】
早強ポルトランドセメントクリンカー及び普通ポルトランドセメントクリンカーからなる群より選択される少なくとも1種のセメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物を、仕上げミルによって粉砕して、前記仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率を70%未満にする仕上げ工程と、
前記粉砕組成物を閉鎖型容器内で前記二水石膏を脱水させて、前記粉砕組成物の半水化率を20ポイント以上上昇させる上昇工程と、
を有することを特徴とするセメント組成物の流動性改善方法。
ただし、前記半水化率は、下式(1)により求める。
半水化率(%)=半水SO量/(二水SO量+半水SO量)×100 (1)
前記式(1)中、前記二水SO量は、粉砕組成物中の二水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の二水石膏量(質量%)×80/172により算出され、前記半水SO量は、粉砕組成物中の半水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の半水石膏量(質量%)×80/145により算出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物の製造方法及びセメント組成物の流動性改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷を低減し、また製造に係るコストを削減することを目的として、セメント原料には廃棄物由来のものが一定量利用されている。これらの廃棄物の種類は多岐に渡るが、廃棄物の選択と使用量はセメント品質に影響を及ぼさない範囲で使用され、セメントクリンカーが焼成されている。
セメント原料として積極的に利用される廃棄物の中には火力発電所由来の石炭灰(ボトムアッシュ、フライアッシュ)が含まれており、その化学組成からセメントクリンカー中に相応のAlが持ち込まれる。その結果、セメントクリンカー中の間隙質(CA+CAF)の割合が上昇した設計となり易い。非特許文献1では基準となる普通ポルトランドセメントクリンカー中のボーグ組成でCA,CAF量ともに9%で間隙質が18%となるのに対して、CA量が増加して間隙質が19~24%となるクリンカー、CAとCAFが等量増加して20~26%となるクリンカー、CAF量が増加して間隙質が19~26%となるようなクリンカーが例示されている(非特許文献1の表5参照)。
【0003】
このような間隙質割合が上昇した設計となった結果、主に混練直後の初期流動性が確保できない懸念が生じる。
その対策として非特許文献2ではCA,CAF量が11.0,12.7%の高間隙質型のセメントクリンカーを使用した組成ではセメントのSO量を2.0%から3.5,5.0%に上げること(石膏由来のSO量としては1.34%から2.84,4.34%に相当)、半水化率を0→50%とすること、櫛形高分子系分散剤(以降はポリカルボン酸系と表記)を使用することが有効であることが示されている。
また非特許文献3ではCA,CAF量が11.6,8.8%の高間隙質型クリンカーを使用して、非特許文献2と比較して石膏由来のSOを添加量が少ない(2.36%程度に抑えた)、半水化率50%のセメントに石灰石微粉末を10%置換添加したものが、流動性改善効果が得られることが示されている(非特許文献3のFig.2参照)。
【0004】
これらの文献では、いずれも間隙質の増加に対して石膏由来のSOを一定量増加させる必要性がある点で共通している。また、半水石膏の形態に関しては明記されていないが、空気中の脱水で試製したものや、試薬である場合は通常β型であると考えられる。
一方、工業的にセメントを製造する際の半水石膏の形態については議論が分かれる。空気中の加熱脱水であればβ型が支配的になると考えられるが、特許文献1に記載があるようにセメントの仕上げ粉砕で最も用いられるチューブミルでの粉砕においてはミル内への通風+散水により水蒸気の存在下が前提となるため、仕上げ粉砕時に添加された二水石膏は一定以上の割合でα型に転移し得る。そして特許文献1では流動性、粘度が改良され、作業性も良好なセメント組成物の製造方法として水蒸気ガス中の水分量と粉砕直後(仕上げミル出)の温度を120~135℃となるように粉砕することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-055008号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】丸屋ら,廃棄物使用量の増大とCO2排出量削減に向けたセメントの材料設計,廃棄物資源循環学会論文誌,Vol.20,No.1,pp.1-11,2009
【非特許文献2】野崎ら,アルミネート相を増大させたセメントの流動性における三酸化硫黄(SO3)量の最適化,セメント・コンクリート論文集,No.60,pp2-8,2006
【非特許文献3】丸屋ら,混合材を添加したアルミネート高含有セメントの流動性と水和特性,セメント・コンクリート論文集,No.64,pp54-59,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半水化率が90質量%以上でも流動性を維持することができ、偽凝結の発生が抑えられるセメント組成物の製造方法及びセメント組成物の流動性改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の<1>~<7>を提供する。
<1> 早強ポルトランドセメントクリンカー及び普通ポルトランドセメントクリンカーからなる群より選択される少なくとも1種のセメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物を、仕上げミルによって粉砕して、前記仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率を70%未満にする仕上げ工程と、
前記粉砕組成物を閉鎖型容器内で前記二水石膏を脱水させて、前記粉砕組成物の半水化率を20ポイント以上上昇させる上昇工程と、
を有することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
ただし、前記半水化率は、下式(1)により求める。
半水化率(%)=半水SO量/(二水SO量+半水SO量)×100 (1)
前記式(1)中、前記二水SO量は、粉砕組成物中の二水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の二水石膏量(質量%)×80/172により算出され、前記半水SO量は、粉砕組成物中の半水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の半水石膏量(質量%)×80/145により算出される。
【0009】
<2> 前記仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率を60%未満にする<1>に記載のセメント組成物の製造方法。
<3> 前記閉鎖型容器内での前記粉砕組成物の半水化率を40ポイント以上上昇させる<1>又は<2>に記載のセメント組成物の製造方法。
<4> 複数の前記仕上げミルとセメントクーラーとを使用し、
前記仕上げミル出の前記粉砕組成物を、前記セメントクーラーを使用せずに前記閉鎖型容器へ投入する投入工程1と、
前記仕上げミル出の前記粉砕組成物を、前記セメントクーラーを使用して前記閉鎖型容器へ投入する投入工程2とを並行して行うことにより、前記閉鎖型容器内で二水石膏を脱水させて前記粉砕組成物の半水化率を上昇させる<1>~<3>のいずれか1つに記載のセメント組成物の製造方法。
<5> 前記複数の仕上げミルの少なくとも1基が竪ミルである<4>に記載のセメント組成物の製造方法。
<6> 前記閉鎖型容器がセメントサイロである<1>~<5>のいずれか1つに記載のセメント組成物の製造方法。
【0010】
<7> 早強ポルトランドセメントクリンカー及び普通ポルトランドセメントクリンカーからなる群より選択される少なくとも1種のセメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物を、仕上げミルによって粉砕して、前記仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率を70%未満にする仕上げ工程と、
前記粉砕組成物を閉鎖型容器内で前記二水石膏を脱水させて、前記粉砕組成物の半水化率を20ポイント以上上昇させる上昇工程と、
を有することを特徴とするセメント組成物の流動性改善方法。
ただし、前記半水化率は、下式(1)により求める。
半水化率(%)=半水SO量/(二水SO量+半水SO量)×100 (1)
前記式(1)中、前記二水SO量は、粉砕組成物中の二水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の二水石膏量(質量%)×80/172により算出され、前記半水SO量は、粉砕組成物中の半水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の半水石膏量(質量%)×80/145により算出される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、半水化率が90質量%以上でも流動性を維持することができ、偽凝結の発生が抑えられるセメント組成物の製造方法及びセメント組成物の流動性改善方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中の「AA~BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0013】
従来より、コンクリートをポンプで圧送する際に、ポンプがコンクリートで詰まってしまうことがあった。これは、コンクリート中の骨材が凝集してしまうアーチングと呼ばれる現象と、セメントペーストの粘性が増大するペースト閉塞と呼ばれる現象が主な原因であることがわかった。既述のように、セメントと混和剤との組み合わせによっては混練後に流動性の低下(フローロス)が生じる相性問題が従前から懸念されており、この相性問題もポンプ圧送不良の原因の1つとなっている。
セメントと混和剤との混練直後に、又は、混練から経時後に生じるフローロスは、混和剤及び水を追加しても流動性を改善できないことあった。
【0014】
こういった混和剤の相性問題のメカニズムは完全に解明されるまでには至っていないが、主にブレーン比表面積、粒度分布などのセメントの粉末度に関わるパラメータや、セメントクリンカー中の間隙質量(CA、CAF)や間隙質中のCA/CAF比、各種石膏の含有量又は含有割合、硫酸アルカリ含有量等初期の混和剤吸着量に関わるパラメータと混和剤銘柄毎の吸着傾向が原因とされ、これらの組合せによって一定の理解が得られている。
セメント及び混和剤の混練後の初期の流動性に関する、相性問題が存在しない場合の混練直後の必要混和剤量が増加する現象、及び初期フローが頭打ちになる現象は、未水和セメントへの吸着量及びセメント水和物への吸着量の観点から次のように考えることができる。
【0015】
(1)未水和セメントの比表面積
混和剤を使用したセメントペーストの流動性は、セメントに水及び混和剤を混合することにより、セメントが水和し始めるとともに混和剤がセメント粒子に吸着することにより分散し、粘性が下がっていくことにより生じる。セメントの初期強度確保のためセメント製造の仕上げ粉砕の時間を延ばす等して、未水和セメントの比表面積を大きくすることで、未水和セメントに対する混和剤の吸着量が増える。それに伴い混和剤の必要量も増大する。
【0016】
(2)初期セメント水和物の比表面積
セメントの比表面積が大きくなくても、セメントに水及び混和剤を混合し混練が終了した段階において水和物がかなりできてしまい、初期の吸着量が増えることがある。これは、セメントクリンカー中の間隙質と呼ばれるCA及びCAFが多いことに起因し、未水和のセメントが初期に多く反応してしまい、反応した分、セメント水和物が比表面積を増大し、合計として混和剤の吸着量が増えるものである。セメント水和物は、主として、高アスペクト比となり、比表面積の増大を招きがちなエトリンガイト相である。混和剤の吸着量が増えることにより、混和剤の必要量も増大する。
【0017】
(3)混練水中の液相組成SO 2-イオン
次に、混和剤の効き方に関する現象として、硫酸イオン(SO 2-イオン)が関わることがある。
混和剤として、ポリカルボン酸系混和剤を用いた場合において、セメントクリンカー中の硫酸アルカリが溶出し、液相中のSO 2-イオン濃度が増加し、かつ高く維持されることがある。この場合、混和剤の吸着基であるカルボキシル基と硫酸イオンとの競争反応(吸着平衡)においてSO 2-イオン優位となり、未水和セメント及びセメント水和物への混和剤の吸着を阻害したり、混和剤の効き(分散作用)を抑制することがある。これによって、混和剤の必要量が増大し、また、混和剤自身の効きが抑制されて、初期フローの低下を解消することができないことがある。
【0018】
フローロスが生じても、生じなくても、経時で混和剤の吸着量が増えていき、ある程度、吸着量が増えていくと、更に大きなフローロスが増えることがある。これは、一般的には、混和剤の濃度が平衡吸着濃度に達してしまう場合であり、その後は更にフローロスが顕著に起こると考えられる。より具体的には、高強度・フロー配合と呼ばれる高性能AE減水剤の添加量が多くなる低W/C比、スランプフローの目標値が55cmを超えるような配合のコンクリート組成物において、スランプフローの経時による低下及びポンプ圧送性を評価する加圧ブリーディング試験後のスランプフローの経時による低下が大きくなるとなる現象である。
【0019】
高間隙質型の普通ポルトランドセメントクリンカーを使用したセメントとポリカルボン酸系混和剤を使用した場合に特有に見られる混和剤の相性問題は、主に水和活性の高いCA量が上昇することに起因する上記(2)で示した初期セメントの水和物が関連していると考えられる。
また早強ポルトランドセメントに関しては、普通ポルトランドセメントと同程度に間隙質の割合が高く、更にCS含有割合も高い設計であり、一般に混和剤吸着量が多いと考えられているセメント鉱物相の割合が高い上に、短期材齢での圧縮強さを確保する目的からブレーン比表面積が他の品種と比較して高い。このため、高間隙質型の普通ポルトランドセメントよりも若干間隙質の割合が低い早強ポルトランドセメントであっても、微粉砕されることによって間隙質成分も比表面積が上昇するため、上記(1)の未水和セメントの比表面積と(2)初期セメントの水和物の両方が関係していると考えられる。
【0020】
非特許文献1が開示するように、セメントクリンカー中の間隙質成分の増加によって生じる影響は特に混練直後の流動性確保が課題となる。
非特許文献2ではセメント中のSOを石膏によって増加させて3.5%、5.0%とし、ポリカルボン酸系の混和剤を併用することが有効であるとることを開示している。しかし、現在のJIS R5210:2019ポルトランドセメントの規定では普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントのセメント中の三酸化硫黄(SO)の上限値が3.5%であるから、本文献の効果のあると示される範囲の下限値はJIS規格上の上限値付近となってしまう。
【0021】
同様に、非特許文献3ではセメント中のSOを石膏によって増加させかつ石灰石微粉末を10%添加することが有効であることが開示されているが、同様に現在のJISでは少量混合成分の合量が5%であることから、JIS規格の範囲外となってしまう。
特許文献1に開示されているポルトランドセメントの製造方法においては、セメント中のα型半水石膏の割合を高めたセメントが、水+セメントのみのセメントペーストのこわばり試験と水+セメント+ナフタレンスルホン酸系混和剤を使用したセメントペーストの分離抵抗性が良好であり、混練時間を短縮可能となり得ることが示されているが近年の高強度配合の需要環境下においてポリカルボン酸系混和剤を使用した高強度配合に最適である製造方法であるかは判然としていない。
【0022】
またセメント業界において求められているCO排出量削減、省エネルギー化は業種を問わず発電業界にも同様に求められている。このため石炭火力発電は他の再生可能エネルギーなどに置き換えられていくことが見込まれる。
火力発電所の稼働が縮小すると、副産生成物である排脱二水石膏の入手も困難になることが考えられる。このような社会情勢のもとでは、仮にセメント中のSO量や少量混合成分の添加量の上限が緩和されたとしても、非特許文献2及び3のように石膏由来SOを高くすることが原材料入手の観点から困難となる恐れがある。
そうすると上述したセメント組成物の設計上の石膏必要量が上がることに加えて、石膏自身のコストが増加することによりその影響は更に大きくなることが懸念される。
従って、石膏の使用量の低減が可能で、かつポリカルボン酸系混和剤の利用に最適化されたセメントの製造方法は省エネルギー化が求められる環境では重要度が増している。
【0023】
これに対し、本発明のセメント組成物の製造方法を用いれば、半水化率が90質量%以上でも流動性を維持することができ、偽凝結の発生が抑えられるセメント組成物の製造方法及びセメント組成物の流動性改善方法を提供することができる。
本発明では、閉鎖型容器としてのセメントサイロ内で生じる水が滞留する条件下で、二水石膏の脱水を生じさせることにより、溶出速度が最も大きいβ型半水石膏と(小量の)α型半水石膏及び無水石膏を確保すると共に、脱水によって生じる水分によりセメント鉱物相であるCAを微風化させる。これにより、脱水されたセメント組成物の半水化率が100%程度となっても、偽凝結の発生が抑制され、流動性を維持することができると考えられる。開放型容器での脱水のように、外部からの水分によってセメントを風化させるのではなく、二水石膏中の水分を利用するため、水分に上限があり、過剰な風化の抑制が可能となると考えられる。
以下、本発明のセメント組成物の製造方法について詳述する。
【0024】
<セメント組成物の製造方法>
本発明のセメント組成物の製造方法は、早強ポルトランドセメントクリンカー及び普通ポルトランドセメントクリンカーからなる群より選択される少なくとも1種のセメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物を、仕上げミルによって粉砕して、前記仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率を70%未満にする仕上げ工程と、
前記粉砕組成物を閉鎖型容器内で前記二水石膏を脱水させて、前記粉砕組成物の半水化率を20ポイント以上上昇させる上昇工程と、
を有することを特徴とする。
ただし、半水化率は、下式(1)により求める。
半水化率(%)=半水SO量/(二水SO量+半水SO量)×100 (1)
式(1)中、二水SO量は、粉砕組成物中の二水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の二水石膏量(質量%)×80/172により算出され、半水SO量は、粉砕組成物中の半水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の半水石膏量(質量%)×80/145により算出される。
【0025】
セメント組成物は、通常、石灰石、粘土等を混合し、粉砕して調合する原料工程、調合された原料をロータリーキルンにて焼成し、クリンカーとする焼成工程、得られたクリンカーに二水石膏を添加し、仕上げミルにて所望のブレーン比表面積となるまで粉砕する仕上げ工程を経て製造される。
本発明では、早強ポルトランドセメントクリンカー及び普通ポルトランドセメントクリンカーからなる群より選択される少なくとも1種のセメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物を用い、当該混合物に対する仕上げ工程を上記の構成として、仕上げミルから排出された粉砕組成物の半水化率を70%未満にしつつ、閉鎖型容器(例えば、セメントサイロ)内で、半水化率を20ポイント以上上昇させて得た組成物を「セメント組成物」という。
【0026】
〔仕上げ工程〕
仕上げ工程は、早強ポルトランドセメントクリンカー及び普通ポルトランドセメントクリンカーからなる群より選択される少なくとも1種のセメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物を、仕上げミルによって粉砕して、仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率を70%未満にする。仕上げミル出の粉砕組成物は、セメントクーラーを用いて冷却してもよい。
なお、仕上工程において、仕上げミルは複数用いてもよく、その場合、「仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率」は、平均値を用いる。
また、「仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率」は、粉砕組成物が仕上げミルから排出され、上昇工程の閉鎖型容器に投入される前の半水化率を指すが、粉砕組成物が仕上げミルから排出され、上昇工程の閉鎖型容器に投入されるまでに、他の操作が施され、閉鎖型容器ではない環境下で脱水し得る場合は、その他の操作が施された後における粉砕組成物の半水化率を指す。例えば、仕上げミルから排出された粉砕組成物が、セメントクーラーを用いて冷却される場合は、粉砕組成物が仕上げミルからの排出後であって、セメントクーラーでの冷却後の粉砕組成物の半水化率が「仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率」となる。
【0027】
(混合物)
混合物は、早強ポルトランドセメントクリンカー及び普通ポルトランドセメントクリンカーからなる群より選択される少なくとも1種のセメントクリンカーと、二水石膏とを含む。
本発明において、仕上げ工程に供される混合物の鉱物組成は特に制限されないが、セメント組成物の水和熱を低減する観点から、混合物は、リートベルト解析値によるCA量が5.0質量%以上であることが好ましい。
本発明では、閉鎖型容器としてのセメントサイロ内で生じる水が滞留する条件下で、二水石膏の脱水を生じさせることにより、溶出速度が最も大きいβ型半水石膏と(小量の)α型半水石膏及び無水石膏を確保すると共に、脱水によって生じる水分によりセメント鉱物相であるCAを微風化させる。これにより、二水石膏の原単位を低減するとともに7日材齢等の短期材齢の水和熱を抑制することができると考えられる。
【0028】
混合物のリートベルト解析値によるCA量は、5.5質量%以上であることがより好ましく、6.0質量%以上であることが更に好ましい。
混合物のリートベルト解析値によるCA量は、混合物が仕上げミルにより粉砕された仕上げ工程の前であっても、後であっても、更に閉鎖型容器による上昇工程後であっても、大きな差はない。従って、例えば、仕上げミルにより粉砕された仕上げ工程後の混合物のリートベルト解析値によるCA量が5.0質量%以上であれば、仕上げミルに提供される混合物のリートベルト解析値によるCA量も5.0質量%以上であるといえる。
【0029】
混合物は、セメントクリンカー及び二水石膏の他に、更に、石灰石、高炉スラグ、フライアッシュ(I種またはII種)及びシリカ質混合材等の少量混合成分を含んでいてもよい。
仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率が70%以上であると閉鎖型容器内で脱水されるべき二水石膏の含有割合が少なくなるため好ましくない。
このため、閉鎖型容器内での脱水を受けるべき二水石膏を確保する観点から、仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率は60%未満であることが好ましく、また、仕上げミル内での半水化率の過剰な抑制により粉砕効率が顕著に低下することを防止する観点から20%以上であることが好ましい。
【0030】
仕上げミルは閉鎖系の粉砕機であり、ボールミル、チューブミル等が挙げられる。
仕上げミルは、竪ミル(竪型ミル)を有していてもよい。竪ミルはミル内の温度上昇を抑制することができるため、仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率の上昇を抑えることができる。竪ミルは、通常、プレグラインダーとしてチューブミルに投入される前段階の予備粉砕機として用いられることが多いが、本発明では、並列で運用してチューブミルによる仕上げ粉砕物と竪ミルによる仕上げ粉砕物が混合されてサイロへ投入されることになる。
既述のように、仕上工程において、仕上げミルは複数用いてもよい。この場合、複数の仕上げミルの少なくとも1基が竪ミルであることが好ましい。
【0031】
仕上げミル内の温度上昇を制御するために行われる散水処理は通常ミル内温度が100℃を超えている状況で行われ、110℃を超える領域では更に二水石膏が閉鎖された空間で脱水されるため、散水処理と二水石膏の脱水により生じる水蒸気は仕上げミルから完全に系外排出されることはなく、ミル内温度の飽和水蒸気圧に対応する水蒸気含有量付近で維持される。ただし、仕上げミル出の微粉化した粉砕組成物はミル内に引き込まれる気流により系外に排出され、セパレータに送られる。この際、外気が導入されることによってミル内温度の温度が下がる効果、およびミル内の水蒸気もある程度は系外に持ち出される効果があると考えられる。
仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率は、仕上げミルでセメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物を粉砕する際の温度、粉砕時間等により調整することができる。また、仕上げミルを複数用いたり、竪ミルを用いることにより、半水化率の異なる粉砕組成物を作製し、半水化率の異なる粉砕組成物の混合比を変えることで、半水化率を調整してもよい。
【0032】
通常のセメント製造では、仕上げミル内の温度は仕上げミル内への散水処理により粉砕組成物が水和(風化)することを防止するため、少なくとも100℃以上に維持される。このため仕上げミル内へセメントクリンカーと共に投入された二水石膏は温度上昇により脱水し、特に仕上げミル内が130℃以上の高温で維持された場合は投入した二水石膏のかなりの割合が短時間で脱水し半水化する。
仕上げミルから排出される粉砕組成物は、セパレータを通じて所定の粒径以上の粒子はサイクロンによって回収されて仕上げミル内に戻り、所定の粒径以下となったものは(それ以上の半水化を防止するために)セメントクーラーに送られる。セメントクーラーでの熱交換によって通常50~80℃程度にまで冷却され、直接タンカーへ船積みして出荷されるような場合を除き、通常は、セメントサイロに送られる。
【0033】
なお、セメントサイロは、サイロ外内の通気による空気の排出の有無により、閉鎖型容器とも開放型容器ともなり得る。また、セメントサイロの規模とサイロ内に収容されているセメントの容積率、および仕上げミルの総粉砕能力(ミルの時間当たりの製造能力とミル本数の合計)との関係によっても、セメントサイロは、閉鎖型容器又は開放型容器になり得る。
例えば、セメントサイロの規模が、セメントを1万トンないし2万トン収容可能なサイズである場合に、サイロ内のセメント量が10体積%程度である場合、セメントサイロは、特別な装置を備えて水分を供給しない限り、二水石膏からの脱水のみでは飽和水蒸気量には達しないため、実質的には空気の排出ある状況に近くなると考えられ、サイロは開放型容器と考えることができる。また、セメントサイロの規模が、セメントを2千トンないし3千トン程度しか収容することができない場合において、サイロ内のセメント量が80体積%程度である場合は、特別な装置を備えて水分を除去しない限り、空気の排出がないと考えられ、サイロは閉鎖型容器と考えることができる。
このため、前者の1万トンなし2万トンサイロで充填率が低い状態からセメントが投入される場合、本発明を実施するには充填率が高くなる(70~80体積%)までセメントが断続・連続的に投入される必要がある。その際、仕上げミルの総粉砕能力は高い程望ましく、合計で時間当たり数100t程度の能力を有していれば、持ち込まれる潜熱が維持されやすい。
本発明において、閉鎖型容器としてのセメントサイロとは、セメントサイロ内の空気の排出がないセメントサイロを意味する。
【0034】
〔上昇工程〕
上昇工程では、仕上げ工程を経て得られた粉砕組成物を閉鎖型容器に投入して、閉鎖型容器内で二水石膏を脱水させて、粉砕組成物の半水化率を20ポイント以上上昇させる。
例えば、仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率が60%であった場合に、上昇工程後の粉砕組成物の半水化率が80%又はそれ以上となるように、閉鎖型容器内で二水石膏を脱水させる。
【0035】
上昇工程における粉砕組成物の半水化率の上昇は、
(i)半水化率が70%未満の粉砕組成物〔組成物(a)という〕に、閉鎖型容器内で二水石膏を脱水させた半水化率が70%以上の粉砕組成物〔組成物(b)という〕を混合して行ってもよいし、
(ii)組成物(a)を加熱装置等により加熱して行ってもよい。
(iii)組成物(a)が室温を超える熱を帯びている場合は、組成物(a)を閉鎖型容器内に保管するのみでも粉砕組成物の脱水が進み、粉砕組成物の半水化率を上昇することができる。また、
(iv)(i)~(iii)の組み合わせによって行ってもよい。例えば、組成物(a)に、組成物(a)よりも高温に加熱された組成物(b)を混合して、組成物(b)の潜熱で組成物(a)を加熱すると共に、半水化率を調整してもよい。
【0036】
上昇工程での半水化率の上昇が20ポイント未満であると、製造されるセメント組成物を用いたセメントペースト、モルタル、コンクリート等の流動性に優れない。
上昇工程後の粉砕組成物の半水化率の上昇は、仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率から25ポイント以上であることが好ましく、40ポイント以上であることがより好ましい。
【0037】
閉鎖型容器は、容器内容器内に投入された粉砕組成物から発せられる水蒸気が容器から排出されず、通風が不可能な容器を意味し、蓋を有する。例えば、蓋つきのボトル、既述の閉鎖型容器としてのセメントサイロ等が挙げられる。
なお、開放型容器は、容器内に投入された粉砕組成物から発せられる水蒸気が容器から排出されたり、通風が可能な容器を意味し、蓋は有っても無くてもよい。例えば、ステンレスバット、通風可能なセメントサイロ等が挙げられる。
セメントサイロ内へ持ち込まれたセメントは投入時の温度に依存して潜熱が持ち込まれるため、セメントサイロ内の温度は外気温よりも上昇する。セメントサイロ内の温度、水蒸気が存在する雰囲気下であるか否か等の環境は、セメントサイロ内へ通風状態も関連すると考えられ、その態様は大まかには、以下の2つのように分類され、影響を受けると考えらえる。
(1)通風がなく密閉されかつセメントの潜熱によって上昇した温度が保たれる閉鎖系
(2)通風によって水蒸気が速やかにサイロ外部に運ばれ、潜熱による温度上昇も抑えられる開放系
本発明で用いられる閉鎖型容器としてのセメントサイロは、前者の(1)のセメントサイロである。以下、本明細書に記載するセメントサイロは、特記しない限り、閉鎖型容器としてのセメントサイロを意味する。
本発明では、閉鎖型容器がセメントサイロであることが好ましい。
【0038】
以上のように、上昇工程において、セメントサイロ内で、粉砕組成物の半水化率を20ポイント以上上昇させるには、セメントサイロ内に投入される粉砕組成物の温度を制御すればよい。
例えば、複数の仕上げミルとセメントクーラーとを使用し、仕上げミル出の粉砕組成物を、セメントクーラーを使用せずにセメントサイロへ投入する投入工程1と、仕上げミル出の粉砕組成物を、セメントクーラーを使用してセメントサイロへ投入する投入工程2とを並行して行うことにより、セメントサイロ内で二水石膏を脱水させて粉砕組成物の半水化率を上昇させることができる。
【0039】
以下に、仕上げ工程における仕上げミル及びセメントクーラーの運転形態と、上昇工程においてセメントサイロに投入される粉砕組成物の温度及び半水化率の制御例を、具体的な一実施形態に基づいて説明する。
【0040】
〔実施形態1〕(ミル1基)
仕上げミル1基で粉砕を行う場合、セメントサイロ内での半水化を進行させるには以下のようなステップで断続的に高温での粉砕による潜熱の持ち込むステップと、低温で粉砕して半水化率の上昇を抑えるステップを適宜繰り返すことで、仕上げミル出のセメントの平均的な半水化率を70%未満に低く抑えると共に、セメントサイロ内での二水石膏の脱水を進行させることができる。
潜熱持ち込みステップでは、仕上げミルで高温粉砕運転(仕上げミル出温度120℃以上)を行い、セメントクーラーを使用せずに粉砕組成物をセメントサイロ内に投入する。
仕上げミル出半水化率上昇抑制ステップでは、仕上げミルで低温粉砕運転を行い、セメントクーラーを使用して、粉砕組成物をセメントサイロ内に投入する。
上記形態の一実施形態を表1に示す。なお、ミル能力は、10t/hourである。
【0041】
【表1】
【0042】
以上のような高温粉砕運転と低温粉砕運転の操業を定期的に変動させながら安定的に繰り返すことは、特に高温粉砕と低温粉砕の温度差を大きくとる必要があり、通常運転時よりもセメントクーラーの冷却能力を必要とすることなどの理由により製造能力の大きく、機敏に操業条件を変動させることが出来ないプラントでは実現が困難となる。
このため、仕上げ粉砕時にミルを複数基使用可能である場合は、実施形態2のような形態で運転することが望ましい。
【0043】
〔実施形態2〕(ミル複数基)
仕上げミルを複数基使用することができる場合、セメントサイロ内での半水化の進行はより容易となる。複数の仕上げミルでの粉砕を「(1)潜熱持ち込み用の高温粉砕+セメントクーラー不使用」の運用を行う仕上げミル、「(2)半水化率上昇抑制用の低温粉砕+セメントクーラー使用」の運用を行う仕上げミルとし、複数基の仕上げミル出のセメント組成物の平均的な半水化率を70%未満に低く抑えると共に、セメントサイロ内での二水石膏の脱水を進行させる。
【0044】
(1)潜熱持ち込み用仕上げミルでは、仕上げミルで高温粉砕(仕上げミル出温度140℃以上)を行い、セメントクーラーを使用せず、粉砕組成物をセメントサイロ内に投入する。
(2)仕上げミル出半水化率上昇抑制用ミルでは、仕上げミルで低温粉砕を行い、セメントクーラーを使用して、粉砕組成物をセメントサイロ内に投入する。
一例として、表2に示す例のほか、(1)のミル出温度を140℃として2基運転し、(2)のセメントクーラー出温度を80℃として3基運転を行うことにより、これらの混合物が100℃程度でセメントサイロ内へ持ち込まれると見込まれる。
【0045】
【表2】
【0046】
仕上げミル出のセメント温度とサイロ内でのセメント温度をモニタリングして以上のような運用をすることより、仕上げミル出のセメントの平均的な半水化率を低く抑えることと、セメントサイロ内での半水化を進行させることが可能となる。
保持温度と水蒸気の有無によって脱水、半水化の進行度合いは異なるが、閉鎖型容器としてのサイロ内での脱水の場合、90℃を超えると速やかに進行する一方、80℃以下となると極めて進行が遅くなる。
【0047】
<セメント組成物の流動性改善方法>
本発明のセメント組成物の流動性改善方法は、早強ポルトランドセメントクリンカー及び普通ポルトランドセメントクリンカーからなる群より選択される少なくとも1種のセメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物を、仕上げミルによって粉砕して、前記仕上げミル出の粉砕組成物の半水化率を70%未満にする仕上げ工程と、
前記粉砕組成物を閉鎖型容器内で前記二水石膏を脱水させて、前記粉砕組成物の半水化率を20ポイント以上上昇させる上昇工程と、
を有することを特徴とする。
ただし、前記半水化率は、式(1)により求める。
半水化率(%)=半水SO量/(二水SO量+半水SO量)×100 (1)
前記式(1)中、前記二水SO量は、粉砕組成物中の二水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の二水石膏量(質量%)×80/172により算出され、前記半水SO量は、粉砕組成物中の半水石膏由来の換算SO量を表し、粉砕組成物中の半水石膏量(質量%)×80/145により算出される。
【0048】
セメント組成物の流動性改善方法における混合物、仕上げ工程及び上昇工程の詳細は、セメント組成物の製造方法における混合物、仕上げ工程及び上昇工程と同じであり、好ましい態様も同様である。
本発明のセメント組成物の流動性改善方法により、セメント組成物の半水化率が90質量%以上でも流動性を維持することができ、偽凝結の発生が抑えられる。
【実施例0049】
<セメント組成物の原料>
(ベースセメント)
ベースセメントとして、下記4種を用意した。いずれも、実機プラントで製造され、仕上げミルからセメントサイロに投入される前にサンプリングされ、冷却されている。
・ベースHC:早強ポルトランドセメント
・ベースNC1:普通ポルトランドセメント
・ベースNC2:普通ポルトランドセメント
・ベースNC3:普通ポルトランドセメント
【0050】
(閉鎖系脱水セメント)
ベースセメント4種について、それぞれ、水蒸気が系内に留まる環境下で脱水して、閉鎖系脱水セメントを調製した。具体的には、次のようにして、各閉鎖系脱水セメントを調製した。
・HC閉鎖系脱水品:ベースHCを、500mLのポリ瓶にベースセメント500gを封入し、乾燥機内を使用して100℃で5日間保持することで脱水させて得た。
・NC1閉鎖系脱水品:ベースNC1を、500mLのポリ瓶にベースセメント500gを封入し、乾燥機内を使用して100℃で5日間保持することで脱水させて得た。
・NC2閉鎖系脱水品:ベースNC2を、500mLのポリ瓶にベースセメント500gを封入し、乾燥機内を使用して100℃で5日間保持することで脱水させて得た。
・NC3閉鎖系脱水品:ベースNC3を、500mLのポリ瓶にベースセメント500gを封入し、乾燥機内を使用して100℃で5日間保持することで脱水させて得た。
【0051】
(開放系脱水セメント)
ベースHC、ベースNC1、ベースNC2及びベースNC3について、それぞれ、水蒸気が速やかに排出される環境下で脱水して、HC開放系脱水品、NC1開放系脱水品、NC2開放系脱水品及びNC3開放系脱水品を調製した。
具体的には、580×420×110mmのステンレスバットに3cm程度の高さで、各ベースセメントを配し、140℃で1日保持することで脱水させ、各開放系脱水セメントを調製した。
【0052】
ベースセメントの化学組成を表3及び4に示す。また、ベースセメント、閉鎖系脱水セメント及び開放系脱水セメントの鉱物組成を表5に示す。
なお、表3中、Ig.loss(Ignition Loss)は、強熱減量;ROは、アルカリ量を表す。
表4中、f-CaOは、遊離酸化カルシウム;HM(Hydraulic modulus)は、水硬率;SM(Silica modulus)は、けい酸率;IM(Iron modulus)は、鉄率;LSD(Lime saturation degree)は、石灰飽和度;ブレーンは、ブレーン比表面積を、それぞれ表す。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
表3に示すベースセメントの化学組成は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に準じて蛍光X線測定装置(PRIMUS IV、株式会社リガク製)を用いて、ガラスビード法にて成分分析を行った。表4に示すベースセメントの鉱物組成ボーグは、得られたCaO、SiO、Al及びFeの質量割合から、下記のボーグ式を用いて算出した。
S=(4.07×CaO)-(7.60×SiO)-(6.72×Al)-(1.43×Fe
S=(2.87×SiO)-(0.754×CS)
A=(2.65×Al)-(1.69×Fe
AF=3.04×Fe
表4に示すf-CaOはJCAS I-01:1997 遊離酸化カルシウムの定量方法により定量した。
【0057】
表4に示すベースセメントのブレーン比表面積の測定は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準じて行った。
【0058】
表5に示すベースセメントの鉱物組成は、粉末X線回折測定を行い、リートベルト解析法により定量した。粉末X線回折装置としては、D8 Advance(ブルカージャパン社製)を用いた。測定条件、リートベルト解析条件を以下に記載した。
(測定条件)
X線管球:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
回折角2θの測定範囲: 開始角5°,終了角70°
ステップ幅:0.025°/step
計数時間:60sec./step
【0059】
リートベルト解析条件
リートベルト解析ソフト:TOPAS Ver.4.2(ブルカージャパン社製)
ゼロ点補正:無し
試料面の高さの補正:有り
【0060】
なお、半水化率の測定及び解析手段について、(セメント鉱物の定量を必要としない場合は、)セメント中の二水石膏、半水石膏の定量および半水化率の算出は公知の手段により行うことが出来る。穴あきの封入式アルミパンを使用したTG/DTAや穴あきの封入式アルミパンと水蒸気供給手段を使用したDSC測定などによっても精度よく定量を行うことが出来る。
表5中、「total石膏SO」は、リートベルト解析によって得られた二水石膏、半水石膏及び無水石膏を含む全石膏中のSO換算量を示している。
【0061】
<セメント組成物の流動性及び偽凝結評価>
1.各種半水化率のセメントの調製
表6、7、及び9~14の「混合比率」欄の「ベース」(ベースセメント量)、「開放系」(開放系脱水品)及び「閉鎖系」(閉鎖系脱水品)に示す混合比率に従い、ベースセメントと開放系脱水セメント又は閉鎖系脱水セメントとを秤量し、ホバートミキサーにより低速1分程度空練りすることにより混合して、半水化率が表6、7、及び9~14に示す量のセメントを調製した。
また、表8に示すように、開放系脱水品NC1~NC3は、そのまま開放系約100%脱水品として;閉鎖系脱水品NC1~NC3は、そのまま閉鎖系約100%脱水品として用いた。
【0062】
表6においては、ベースHCとHC開放系脱水品とを混合して、各種半水化率の開放系混合セメントを調製した。
表7においては、ベースHCとHC閉鎖系脱水品とを混合して、各種半水化率の閉鎖系混合セメントを調製した。
【0063】
表9においては、ベースNC1とNC1開放系脱水品とを混合して、各種半水化率の開放系混合セメントを調製した。
表10においては、ベースNC1とNC1閉鎖系脱水品とを混合して、各種半水化率の閉鎖系混合セメントを調製した。
【0064】
表11においては、ベースNC2とNC2開放系脱水品とを混合して、各種半水化率の開放系混合セメントを調製した。
表12においては、ベースNC2とNC2閉鎖系脱水品とを混合して、各種半水化率の閉鎖系混合セメントを調製した。
【0065】
表13においては、ベースNC3とNC3開放系脱水品とを混合して、各種半水化率の開放系混合セメントを調製した。
表14においては、ベースNC3とNC3閉鎖系脱水品とを混合して、各種半水化率の閉鎖系混合セメントを調製した。
以上のようにして、開放型セメントサイロ内での脱水を模した開放系混合セメントと、閉鎖型セメントサイロ内での脱水を模した閉鎖系混合セメントを調製した。
【0066】
2.セメントペーストの調製
表6~14に示すベースセメント、開放系約100%脱水品、閉鎖系約100%脱水品、開放系混合セメント及び閉鎖系混合セメントを用いて、セメントペーストを調製した。
具体的には、セメント300gに対して、水を水/セメント比(W/C)が質量基準で30%、混和剤/セメント比(SP/C)は早強ポルトランドセメントが質量基準で2.4%となるよう、普通ポルトランドセメントが質量基準で1.8%となるよう混練水に添加した後、速やかに混練を開始した。低速練り60秒、掻き落とし30秒、高速練り90秒の混練後、ペーストフロー試験に供した。
なお、混和剤(SP)は、ポリカルボン酸系高性能AE減水剤;ポゾリス ソリューションズ株式会社製、商品名「レオビルドSP8SV(標準型)」を用いた。
【0067】
3.評価
〔流動性〕
調製したセメントペーストについて、内径50mmφ×高さ51mm(内容積≒100mL)の円柱状のアクリルパイプフローコーンを使用してセメントペースト試験を行ない、混練直後フローと経時材齢フローを評価した。混練直後フローと経時材齢フローは、具体的には、次のように行った。結果を表6~14に示す。
【0068】
(混練直後フロー)
混練後直ちにフローコーン中にセメントペーストを流し込み、1分後(混練開始から経時4分)にフローコーンを上げてフロー値を測定した。
【0069】
(経時材齢フロー)
経時材齢到達の90秒前から30秒間さじを用いて練鉢内のセメントペーストをかき混ぜて均質化し、均質化後直ちにフローコーン中にセメントペーストを流し込み、1分後にフローコーンを上げてフロー値を測定した。
【0070】
セメントペーストの流動性は、下記(1)~(3)の観点から、各セメント種における開放系と閉鎖系の対比により評価される。すなわち、HCセメントにおいては表6と表7との対比;NC1セメントにおいては表9と表10との対比;NC2セメントにおいては表11と表12との対比;NC3セメントにおいては表13と表14との対比により流動性を評価することができる。また、表8においては、NC1セメント~NC3セメントの約100%脱水品についての開放系と閉鎖系の対比により流動性を評価することができる。
【0071】
(1)半水化率90質量%以上の流動性
半水化率が90質量%以上のセメントペーストの流動性は、未処理セメント(各表の「ベース」欄のセメント)を用いたセメントペーストのフロー値と、半水化率が90質量%以上のセメントを用いたセメントペーストのフロー値との対比から確認することができる。
例えば、表6において、「HC半水化率90」の開放系セメントを用いたセメントペーストの経時60分、90分の各フロー値は、「ベース」のセメントを用いたセメントペーストのフロー値と同じか、小さい。それに対し、表7において、「HC半水化率90」の閉鎖系セメントを用いたセメントペーストの経時60分、90分の各フロー値は、「ベース」のセメントを用いたセメントペーストのフロー値よりも大きく、流動性に優れることがわかる。表8~14においても同様に評価することができる。
【0072】
(2)偽凝結
偽凝結の発生については、セメントペーストの混練直後のフロー値(表中の「練直フロー」)が、未処理セメント(各表の「ベース」欄のセメント)を用いたセメントペーストのフロー値に対し、何%の変化率であるか、及びフロー値の大きさから、下記判定基準に基づき評価することができる。
練直フロー値が、
未処理セメントの練直フロー値対比、+6%以上のとき、指数=2、
未処理セメントの練直フロー値対比、+3%以上+6%未満のとき、指数=1、
未処理セメントの練直フロー値対比、-3%以上+3%未満のとき、指数=0、
未処理セメントの練直フロー値対比、-6%以上-3%未満のとき、指数=-1、
100mm以上かつ未処理セメントの練直フロー値対比、-6%未満のとき、指数=-2、
「(未処理セメントの練直フロー値)-40mm」よりも小さいとき、指数=-3。
指数が大きい程、偽凝結が発生しにくく、良好といえる。
【0073】
(3)経時流動性
セメントペーストフローの経時流動性は、セメントペーストの経時フロー値(表中の「経時30分フロー」、「経時60分フロー」及び「経時90分フロー」)が、未処理セメント(各表の「ベース」欄のセメント)を用いたセメントペーストのフロー値に対し、何%の変化率であるか、及びフロー値の大きさから、下記判定基準に基づき評価することができる。
経時フロー値が、
未処理セメントの練直フロー値対比、+6%以上のとき、指数=2、
未処理セメントの練直フロー値対比、+3%以上+6%未満のとき、指数=1、
未処理セメントの練直フロー値対比、-3%以上+3%未満のとき、指数=0、
未処理セメントの練直フロー値対比、-6%以上-3%未満のとき、指数=-1、
120mm以上かつ未処理セメントの練直フロー値対比、-6%未満のとき、指数=-2、
「(未処理セメントの練直フロー値)-40mm」よりも小さいとき、指数=-3。
指数が大きい程、経時流動性が良好といえる。
【0074】
(4)総合判定
総合判定は、偽凝結の指数と、経時安定性の各指数の合計により行った。指数の合計が大きい程、良好であるといえる。
【0075】
【表6】
【0076】
【表7】
【0077】
【表8】
【0078】
【表9】
【0079】
【表10】
【0080】
【表11】
【0081】
【表12】
【0082】
【表13】
【0083】
【表14】
【0084】
表6~14に示される結果から、実施例となる閉鎖系セメントペーストのフロー値と、比較例となる開放系混合系のセメントペーストのフロー値について、次のように考察される。
【0085】
(表6、7の比較)
早強ポルトランドセメントのセメントペーストフローはリートベルト解析によるCA含有量が高く、更にブレーン比表面積が高いためか、脱水処理が行われていないベースセメントは混練直後に偽凝結は生じないが、そのフロー値は混和剤添加量が普通ポルトランドセメントの1.5倍となるSP/C=2.4%であっても140mm程度である。
【0086】
開放系脱水処理されたセメントが混合されることにより半水化率が上昇すると、フロー値は良化するが、半水化率が60%付近で頭打ちとなり、以降は低下傾向を示す。そして半水化率が90%程度でフロー値は100mm以下となり明確な偽凝結傾向を示す。すなわち、混練直後のフロー値を確保するための半水化率は最適値が存在している。経時フローは混練直後の偽凝結のような大幅な悪化は認められず、概ね未処理のベースセメントと同等以上の性能を発揮するが、やはり半水化率には最適値が存在し、半水化率が高くなるとやや悪化する。
【0087】
一方で閉鎖系脱水処理されたセメントが混合されることにより半水化率が上昇すると、混練直後フロー値は半水化率が90%まで上昇しても偽凝結が生じず、混練直後のフロー値は半水化率が+20%程度上昇する領域から良化する。
経時材齢のフロー値は半水化率が40~60%となる区間で経時30~60分のフロー値が未処理のベースセメントと比較して僅かに悪化するが、経時90分では同等となる。半水化率が60%を超えると経時30~60分のフロー値は良化していく。このため、混練直後の流動性の改善効果が顕著であり、2.5%程度の石膏SO3添加量を1割程度下げても、未処理と同等の流動性が確保されることが期待できる。
【0088】
(表8)
3種の普通ポルトランドセメントNC1~3の偽凝結の発生に関して比較した場合、発生傾向はCA含有量により顕著な差が認められる。CA含有量が多い場合、開放系脱水によって半水化率がほぼ100%に到達すると、偽凝結が発生するが混練直後フロー値の低下は小さくなる傾向が認められる。一方でCA含有量によらず、閉鎖系脱水によって半水化率がほぼ100%に到達すると、偽凝結は殆ど生じない。
【0089】
(表9、10の比較)
A含有量が最も小さいNC1は開放系脱水処理されたセメントが混合されることにより半水化率が上昇すると混練直後のフロー値は顕著に低下し、その低下が起こり始める領域も半水化率が22→40%(+18%)から発生する。混練直後のフロー値が最も確保される半水化率は未処理品の22%となるが、これは極端に仕上げミルによって粉砕された粉砕組成物を冷却する必要があり、仕上げミルへの投入する混合物の量を大きく抑える、或いは充分な冷却能力を有するセメントクーラーを設置するなど、セメント製造プラントの設計、運用において投資や負荷が大きくなる。
【0090】
一方で閉鎖系脱水処理されたセメントが混合されることにより半水化率が上昇しても開放系脱水処理されたものと比較して混練直後の流動性悪化は抑制され、半水化率が22→60%(+38%)より高い領域では良化し、半水化率がほぼ100%に到達するまで良化傾向を示す。
【0091】
このため、混練直後の流動性の改善効果が顕著であり、2.0%程度の石膏SO3添加量を1~2割程度下げても、未処理と同等の流動性が確保されることが期待できる。
【0092】
(表11、12の比較)
A含有量がNC1と比較して2%程度高いNC2は混練直後のフロー値は早強ポルトランドセメントの場合と類似し、開放系脱水処理されたセメントが混合されることによって半水化率が上昇すると、フロー値は良化するが、半水化率が80%付近で頭打ちとなり、以降は低下傾向を示す。半水化率がほぼ100%程度でフロー値は110mm以下となり明確な偽凝結傾向を示す。
【0093】
すなわち、混練直後のフロー値を確保するための半水化率は最適値が存在している。経時フローは混練直後の偽凝結のような大幅な悪化は認められず、概ね未処理のベースセメントと同等以上の性能を発揮するが、やはり半水化率には最適値が存在し、半水化率が80%を超えて100%付近となるとやや悪化する。
【0094】
一方で閉鎖系脱水処理されたセメントが混合されることにより半水化率が上昇すると、混練直後フロー値は半水化率がほぼ100%まで上昇しても偽凝結が生じず、混練直後のフロー値は半水化率が52→80%(+38%)程度上昇する領域で良化し、ほぼ100%に到達すると僅かに低下しているが、開放系脱水されたものと比較して大幅に軽減されている。
【0095】
経時材齢のフロー値は半水化率が80~100%となる区間でも特に悪化傾向を示さず、良化する。このため、混練直後の流動性は同等以上であり、半水化率が80%付近に調整できれば2.0%程度の石膏SO3添加量を0.5~1割程度下げても、未処理と同等の混練直後の流動性が確保されることが期待できる。仮に製造プラントでの制御が不充分で半水化率が100%に到達してしまった場合でも大幅な性能低下は生じず、混練直後の流動性が10%程度の低下で抑制され、経時フロー値は同等を維持されることが期待できる。
【0096】
(表13、14の比較)
A含有量がNC1と比較して3.5%程度高いNC3はベースセメントの半水化率が66%と最も高いことも相まって、開放系脱水処理、および閉鎖系脱水処理されたセメントを混合されることによる変化が相対的に小さくなる。
【0097】
混練直後のフロー値は開放系脱水処理されたセメントが混合されることによって半水化率が上昇すると、フロー値は低下傾向を示す。半水化率がほぼ100%程度でフロー値は114mmとなり偽凝結傾向を示す。
【0098】
混練直後のフロー値を確保するための半水化率は最適値が存在しているがその領域は半水化率が80%未満の領域であり、未処理のベースセメントは半水化率が80%のものよりも最適値に近いと考えられる。経時フローは混練直後の偽凝結のような大幅な悪化は認められず、概ね未処理のベースセメントと同等以上の性能を発揮するが、やはり半水化率には最適値が存在し、半水化率が80、100%付近となるとやや悪化する。
【0099】
一方で閉鎖系脱水処理されたセメントが混合されることにより半水化率が上昇すると、混練直後フロー値は半水化率がほぼ100%まで上昇しても偽凝結が生じず、未処理のベースセメントと比較して僅かに低下しているが、混練直後のフロー値は半水化率が66→80%(+14%)の上昇と、66→100%(+34%)に到達するする領域が概ね同等となる。開放系脱水されたものと比較して大幅に軽減されている。
経時材齢のフロー値は半水化率が80~100%となる区間でも特に悪化傾向を示さず、100%付近では僅かではあるが良化する。このため、混練直後の流動性は5%以内の悪化で抑えられ、経時フロー値は同等以上を維持されることが期待できる。
【0100】
(石膏原単位について)
NC2~3はNC1と比較して、同一混和剤添加量で得られる混練直後のフロー値、経時フロー値が優れているという観点からは、開放系脱水が生じず、常に閉鎖系脱水処理されたセメントが得られる操業を行うことができれば、石膏原単位を5%程度削減しても同等の混練直後フロー、同等以上の経時フローが得られることが見込まれる。
【0101】
<水和熱及び圧縮強度評価>
(水和熱)
表5に示すベースセメント、閉鎖系脱水セメント及び開放系脱水セメントのうち、HC開放系脱水品を除く各セメントを用いて、JIS R 5203:2015「セメントの水和熱測定方法(溶解熱方法)」に従って、水和熱を測定した。結果を表15に示す。
【0102】
(圧縮強度)
表5に示すベースセメント、閉鎖系脱水セメント及び開放系脱水セメントのうち、NC1~3の各セメントを用いて、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に従って、モルタルの圧縮強さを測定した。結果を表15に示す。
【0103】
【表15】
【0104】
上記により測定された圧縮強度及び水和熱について、各種ベースセメントに対する測定値の差(Δ)を表16に示した。
また、各種ベースセメントの圧縮強度を100%としたときの変化率(対ベース圧縮強度率)及び各種ベースセメントの水和熱を100%としたときの変化率(対ベース水和熱率)を表17に示した。
HC閉鎖系脱水品の数値は、ベースHCに対しての値である。
NC1閉鎖系脱水品及びNC1開放系脱水品の数値は、ベースNC1に対しての値である。
NC2閉鎖系脱水品及びNC2開放系脱水品の数値は、ベースNC2に対しての値である。
NC3閉鎖系脱水品及びNC3開放系脱水品の数値は、ベースNC3に対しての値である。
【0105】
【表16】
【0106】
【表17】
【0107】
表16及び17に示される結果から、次のように考察される。
閉鎖系脱水、開放系脱水による7日材齢のモルタル圧縮強度への影響は殆ど見られない。閉鎖系脱水品ではHC閉鎖系脱水品、NC2閉鎖系脱水品及びNC3閉鎖系脱水品に水和熱低減効果が見られ、特に7日材齢の短期材齢においての効果が高い。
NC1閉鎖系脱水品による水和熱低減効果が認められない理由は、ベースNC1が、セメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物のリートベルト解析値によるCA量が4.7質量%であり、5.0質量%を下回る為であると推察される。
【0108】
既述のように、混合物のリートベルト解析値によるCA量は、混合物が仕上げミルにより粉砕された仕上げ工程の前であっても、後であっても、大きな差はない。従って、仕上げミルにより粉砕された仕上げ工程後の混合物のリートベルト解析値によるCA量が5.0質量%以上であれば、仕上げミルに提供される混合物のリートベルト解析値によるCA量も5.0質量%以上であるといえ、同様に、仕上げミルにより粉砕された仕上げ工程後の混合物のリートベルト解析値によるCA量が4.7質量%であれば、仕上げミルに提供される混合物のリートベルト解析値によるCA量も4.7質量%程度であるといえる。
【0109】
HCセメントは、閉鎖系脱水による水和熱低減効果が著しい一方、開放系脱水では水和熱低減効果が認められない。
NC3セメントは、閉鎖系脱水品、開放系脱水品共に7日材齢の水和熱低減効果が認められるが、閉鎖系脱水品の方が、効果が高い。
【0110】
また、石膏の添加量と半水化率は、開放系脱水が生じる環境下においては半水化率が100%に到達すると偽凝結が生じて混練直後の流動性が大幅に低下することから、ある程度の操業時の変動(石膏添加量、仕上げミル内での二水石膏の脱水、ミル出からサイロ内への潜熱の持ち込みなど)を考慮して、半水化率および半水石膏量が過小/過剰とならないようマージンを確保する必要がある。
例えば、セメントの半水化率が30~70%の範囲で、低く推移する領域と高めに推移する領域で振れる製造プラントであれば、低めの領域でも半水石膏量を一定量確保するために添加する二水石膏の原単位を上げる必要が生じる。
一方で閉鎖系脱水が生じる環境下においては半水化率が上限に達した際の偽凝結が生じない為、石膏原単位は閉鎖系脱水によって確保される最小量を把握すればよい。このため、半水化率が30~70%の範囲で振れたとしても、閉鎖系脱水を生じさせれば、石膏の原単位は抑えても調整が可能となり、マージンが確保されやすくなる。
【0111】
以上の結果から、本発明のセメント組成物の製造方法及びセメント組成物の流動性改善方法によれば、半水化率が90質量%以上でも流動性を維持することができ、偽凝結の発生が抑えられることがわかる。また、更に、セメントクリンカーと、二水石膏とを含む混合物のCA量(リートベルト解析値)が5.0質量%以上であることで、更に、水和熱を低減し、石膏原単位が低減されたセメント組成物を製造することができることがわかる。