(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151994
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】低誘電率樹脂形成用ジアミン、組成物、ポリイミド、低誘電部材、及びそれを用いた電子機器
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20231005BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231005BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08G73/10
C08K3/013
C08L79/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061903
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武
(72)【発明者】
【氏名】佐郷 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】高田 章博
【テーマコード(参考)】
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4J002CM041
4J002DA016
4J002DA026
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE136
4J002DE146
4J002DF016
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GG02
4J002GQ00
4J043PA19
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA05
4J043RA34
4J043SA06
4J043SA46
4J043SB01
4J043TA22
4J043TA70
4J043TA71
4J043TB03
4J043UA022
4J043UA041
4J043UA122
4J043UB121
4J043UB402
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA062
4J043WA07
4J043XA16
4J043XB27
4J043YA06
4J043ZA09
4J043ZA43
4J043ZB11
4J043ZB21
4J043ZB47
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】 高周波数化が進む次世代通信機器や、レーダー等に好適に用いることができる、ポリイミドフィルム形成用のジアミンおよび、そのジアミンを含む低誘電率樹脂形成用組成物、そのジアミンを用いたポリアミック酸、およびポリイミドフィルムを実現する。
【解決手段】 式(1)で表される、両末端にアミノを有する化合物を含有する組成物であって、かつ該組成物にフィラーを添加しないで硬化した硬化物の10GHzにおける比誘電率が3.0より低い、低誘電率樹脂形成用の組成物でとする。
例えば、A
1、A
2、およびA
3は、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、または1,4-フェニレンであり、A
1およびA
2のうちの少なくとも1つは1,4-シクロヘキシレンであり、Z
1、Z
2、Z
3、およびZ
4は、単結合または炭素数1~20のアルキレンであり、m1は、0、1、または2である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される、両末端にアミノを有する化合物を含有する組成物であって、かつ該組成物にフィラーを添加しないで硬化した硬化物の10GHzにおける比誘電率が3.0より低い、低誘電率樹脂形成用の組成物。
式(1)中、
A
1、A
2、およびA
3は独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクト-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキス-3,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの-CH
2-は-O-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH=は-N=で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1~12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH
2-は、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、または-C=C-で置き換えられてもよく、
A
1およびA
2のうちの少なくとも1つは1,4-シクロヘキシレンであり;
Z
1、Z
2、Z
3、およびZ
4は独立して、単結合または炭素数1~20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH
2-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO
2-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
m1は、0、1、または2であり;
式中に、Z
3またはA
3が複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
式(1-1)~(1-3)のいずれかで表される化合物を含有する、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物。
式(1-1)~(1-3)中、
A
1、A
2、およびA
3は独立して、1,4-シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~12のアルキルで置き換えられてもよい1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクト-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキス-3,6-ジイル、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~10のアルキルで置き換えられてもよいフルオレン-2,7-ジイルであり、
A
1およびA
2のうちの少なくとも1つは1,4-シクロヘキシレンであり;
Z
1、Z
2、Z
3、およびZ
4は独立して、単結合、-(CH
2)
a-、-O(CH
2)
a-、-(CH
2)
aO-、-O(CH
2)
aO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH
2)
a-COO-、-OCO-(CH
2)
a-、-CH=CH-、-SO
2-、-OCF
2-、または-CF
2O-であり、ここで、aは1~20の整数であり;
式中に、Z
3またはA
3が複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項3】
式(1-1-1)または(1-1-2)で表される化合物を含有する、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物。
式(1-1-1)および(1-1-2)中、
Z
1、Z
2およびZ
4は独立して、単結合、-(CH
2)
a-、-O(CH
2)
a-、-(CH
2)
aO-、-O(CH
2)
aO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH
2)
a-COO-、-OCO-(CH
2)
a-、-CH=CH-、-SO
2-、-OCF
2-、または-CF
2O-であり、ここで、aは1~20の整数であり;
Xは、フッ素またはメチルであり;
nは、0~4の整数であり;
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項4】
式(1-2-1)~(1-2-5)のいずれかで表される化合物を含有する、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物。
式(1-2-1)~(1-2-5)中、
Z
1、Z
2、Z
3、およびZ
4は独立して、単結合、-(CH
2)
a-、-O(CH
2)
a-、-(CH
2)
aO-、-O(CH
2)
aO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-CH
2CH
2-COO-、-OCO-CH
2CH
2-、-SO
2-、-CH=CH-、-OCF
2-、または-CF
2O-であり、ここで、aは1~20の整数であり;
Xは、フッ素またはメチルであり;
nは、0~4の整数であり;
nが2以上であるときを含み、式中にXが複数ある場合は、それらのうちの2つが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項5】
式(1-3-1)~(1-3-8)のいずれかで表される化合物を含有する、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物。
式(1-3-1)~(1-3-8)中、
Z
1、Z
2、Z
3およびZ
4は独立して、単結合、-(CH
2)
a-、-O(CH
2)
a-、-(CH
2)
aO-、-O(CH
2)
aO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH
2)
a-COO-、-OCO-(CH
2)
a-、-CH=CH-、-SO
2-、-OCF
2-、または-CF
2O-であり、ここで、aは1~20の整数であり;
式中のZ
3は、それらが同一であっても異なっていてもよく;
Xは、フッ素またはメチルであり;
nは、0~4の整数であり;
nが2以上であるときを含み、式中にXが複数ある場合は、それらのうちの2つが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項6】
式(1-1-1a)、(1-1-2a)、(1-2-4a)、(1-2-5a)、および(1-3-6a)~(1-3-8a)のいずれかで表される化合物。
式(1-1-1a)、(1-1-2a)、(1-2-4a)、(1-2-5a)、および(1-3-6a)~(1-3-8a)中、
Z
2およびZ
3は独立して、単結合、-(CH
2)
a-、-O(CH
2)
a-、-(CH
2)
aO-、-O(CH
2)
aO-、または-CH=CH-であり、ここで、aは1~20の整数であり;
mは、0~20の整数であり;
Mは、単結合または酸素であり;
Xは、フッ素またはメチルであり;
nは、0~4の整数であり;
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
式中に、Z
3、m、またはMが複数ある場合は、それらのうちの2つが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項7】
請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物から合成したポリアミック酸。
【請求項8】
請求項7に記載のポリアミック酸を成形後、イミド化させた低誘電率ポリイミド樹脂。
【請求項9】
請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物を硬化させた低誘電率樹脂。
【請求項10】
無機充填材を含有する、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物。
【請求項11】
硬化した硬化物の熱伝導率が0.5W/m・K以上である、請求項10に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物。
【請求項12】
無機充填材が、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、ダイアモンド、黒鉛、炭化珪素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、酸化チタン、酸化錫、酸化ホルミニウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、コーディエライト、およびムライトから選択される少なくとも1つである、請求項10に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物。
【請求項13】
無機充填材が、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、酸化チタン、または水酸化マグネシウムである、請求項10に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物を、熱でイミド化または硬化させた高分子成形体である低誘電率樹脂絶縁膜。
【請求項15】
請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物を、熱でイミド化させたまたは硬化させた高分子成形体である、低誘電率樹脂フィルムまたは低誘電率樹脂シート。
【請求項16】
請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物を熱でイミド化させた高分子成形体である低誘電率樹脂部品。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか1項に記載の高分子形成体を用いた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノを重合性基として有する液晶化合物を用いた低誘電率樹脂形成用組成物と、低誘電ポリイミドフィルム、それを用い低誘電部材に関する。特に、高周波基板用材料及びその周辺材料と、それを用いた低誘電部材、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器の5G化さらにはbeyond5Gや6G化に伴い、電子基板上での電気信号の高周波化や、アンテナが送受信する電波も高周波化しており、信号処理回路基板やアンテナ基板による信号の損失が問題になっている。そのため、基板に用いられる樹脂材料の低誘電率化、低誘電正接が求められており、従来のポリイミドやエポキシ樹脂に代わり、液晶ポリマー(LCP),ポリフェニレンエーテル(PPE)、シクロオレフィンポリマー(COP)、フッ素樹脂(PTFE)などの樹脂が使用され始めている。
低誘電基板は比誘電率が3.0以下、高熱伝導フィラーを含むものでは比誘電率3.5以下の材料がラインアップされており、これらの比誘電率よりも低い材料の開発が求められている。(非特許文献1)
【0003】
現在のフレキシブル高周波基板用材料は、LCPと低誘電ポリイミド(mPI)が主流である。LCPは熱可塑性樹脂であり、高温で成形や接着をおこなう必要があったり、樹脂同士や電極となる銅箔と接着性が良くなかったりなど、使いにくい面も多い。一方、mPIの方は、従来のポリイミドフィルム製造装置や銅箔を積層する設備などがそのまま使用できるが、現在のところLCPと同等に高周波特性が優れているとは言えない。特許文献1には、テトラカルボン酸の骨格中に大きな脂環を導入することにより、ポリイミドをより低誘電率化させための検討がなされている。
また、特許文献2には、フッ素を導入したベンゼン環からなる長い骨格のジアミンを使用し、フッ素及びポリイミド分子鎖中のイミド基の密度を減少させる効果により、低誘電化を図る検討がなされている。さらに特許文献3ではフッ素をベンゼン環や、ベンゼン環の間のアルキレン部位に導入することにより、低誘電性を目指した検討がなされている。
一方、シクロヘキサン環とアルキレンからなる主骨格を持つジアミンを用いてポリイミドを低誘電化させる検討は、大学などの研究では見受けられるが(非特許文献2)、実用的な開発としては殆ど見受けられない。
【0004】
また、液晶性を持つエポキシ化合物を硬化することにより、ビスフェノール型のような折れ曲がった構造のエポキシを使用するよりも、高い熱伝導率を持つ硬化物を得る検討がなされているが、硬化剤として働くジアミン側は2個のアニリンをエチレンで結合させ直線構造にしたり、アルキルエーテル鎖の両末端をアミノにしたジアミンを使用したりしている例は有るが、シクロへキシレンを含むメソゲン骨格を使用した液晶構造を持つジアミンを使用した高熱伝導化の検討は見受けられない(特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-222644号公報
【特許文献2】特開平11-217437号公報
【特許文献3】特開2007-099843号公報
【特許文献4】特開2006-265527号公報
【特許文献5】国際公開2015/170744号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】RFワールドNo.40、p.p.97-111(2017)
【非特許文献2】高分子論文集、vol.61、No.1、p.p.39-48(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、高周波数化が進む次世代通信機器や、レーダー等に好適に用いることができる、ポリイミドフィルム形成用のジアミンおよび、そのジアミンを含む低誘電率樹脂形成用組成物、そのジアミンを用いたポリアミック酸、およびポリイミドフィルムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、共役や極性基が少なく、分子の直線性や対称性が高い重合性基を有するジアミンをテトラカルボン酸無水物と重合し、製膜後加熱によりイミド化させることにより、従来のポリイミドフィルムおよびフレキシブルプリント基板製造プロセスで成形可能で、従来のポリイミドフィルム以上の低誘電性を示すジアミン組成物を実現できること、およびエポキシ化合物等の硬化剤として使用した場合に熱伝導率の高い低誘電率樹脂を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
直線性が高い分子は液晶を示すことが多く、製膜時の延伸処理などにより液晶部位を配向性させ、分子運動起因の誘電正接を低下させるとともに、さらに高耐熱性や高熱伝導性を向上させることが可能である。
【0009】
[1] 本発明の第1の態様は、
式(1)で表される、両末端にアミノを有する化合物を含有する組成物であって、かつ該組成物にフィラーを添加しないで硬化した硬化物の10GHzにおける比誘電率が3.0より低い、低誘電率樹脂形成用の組成物である。
式(1)中、
A
1、A
2、およびA
3は独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクト-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキス-3,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの-CH
2-は-O-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH=は-N=で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1~12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH
2-は、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、または-C=C-で置き換えられてもよく、
A
1およびA
2のうちの少なくとも1つは1,4-シクロヘキシレンであり;
Z
1、Z
2、Z
3、およびZ
4は独立して、単結合または炭素数1~20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH
2-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO
2-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
m1は、0、1、または2であり;
式中に、Z
3またはA
3が複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0010】
[2] 本発明の第2の態様は、
式(1-1)~(1-3)のいずれかで表される化合物を含有する、[1]に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物である。
式(1-1)~(1-3)中、
A
1、A
2、およびA
3は独立して、1,4-シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~12のアルキルで置き換えられてもよい1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクト-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキス-3,6-ジイル、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~10のアルキルで置き換えられてもよいフルオレン-2,7-ジイルであり、
A
1およびA
2のうちの少なくとも1つは1,4-シクロヘキシレンであり;
Z
1、Z
2、Z
3、およびZ
4は独立して、単結合、-(CH
2)
a-、-O(CH
2)
a-、-(CH
2)
aO-、-O(CH
2)
aO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH
2)
a-COO-、-OCO-(CH
2)
a-、-CH=CH-、-SO
2-、-OCF
2-、または-CF
2O-であり、ここで、aは1~20の整数であり;
式中に、Z
3またはA
3が複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0011】
[3] 本発明の第3の態様は、
式(1-1-1)または(1-1-2)で表される化合物を含有する、[1]に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物である。
式(1-1-1)および(1-1-2)中、
Z
1、Z
2およびZ
4は独立して、単結合、-(CH
2)
a-、-O(CH
2)
a-、-(CH
2)
aO-、-O(CH
2)
aO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH
2)
a-COO-、-OCO-(CH
2)
a-、-CH=CH-、-SO
2-、-OCF
2-、または-CF
2O-であり、ここで、aは1~20の整数であり;
Xは、フッ素またはメチルであり;
nは、0~4の整数であり;
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0012】
[4] 本発明の第4の態様は、
式(1-2-1)~(1-2-5)のいずれかで表される化合物を含有する、[1]に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物である。
式(1-2-1)~(1-2-5)中、
Z
1、Z
2、Z
3、およびZ
4は独立して、単結合、-(CH
2)
a-、-O(CH
2)
a-、-(CH
2)
aO-、-O(CH
2)
aO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-CH
2CH
2-COO-、-OCO-CH
2CH
2-、-SO
2-、-CH=CH-、-OCF
2-、または-CF
2O-であり、ここで、aは1~20の整数であり;
Xは、フッ素またはメチルであり;
nは、0~4の整数であり;
nが2以上であるときを含み、式中にXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0013】
[5] 本発明の第5の態様は、
式(1-3-1)~(1-3-8)のいずれかで表される化合物を含有する、[1]に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物である。
式(1-3-1)~(1-3-8)中、
Z
1、Z
2、Z
3およびZ
4は独立して、単結合、-(CH
2)
a-、-O(CH
2)
a-、-(CH
2)
aO-、-O(CH
2)
aO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH
2)
a-COO-、-OCO-(CH
2)
a-、-CH=CH-、-SO
2-、-OCF
2-、または-CF
2O-であり、ここで、aは1~20の整数であり;
式中のZ
3は、それらが同一であっても異なっていてもよく;
Xは、フッ素またはメチルであり;
nは、0~4の整数であり;
nが2以上であるときを含み、式中にXが複数ある場合は、それらのうちの2つが同一であっても異なっていてもよい。
【0014】
[6] 本発明の第6の態様は、
式(1-1-1a)、(1-1-2a)、(1-2-4a)、(1-2-5a)、(1-3-3a)、(1-3-4a)、および(1-3-6a)~(1-3-8a)のいずれかで表される化合物であって、かつ該化合物を含有する組成物を硬化した硬化物の10GHzにおける比誘電率が3.0より低くなる化合物である。
式(1-1-1a)、(1-1-2a)、(1-2-4a)、(1-2-5a)、(1-3-3a)、(1-3-4a)、および(1-3-6a)~(1-3-8a)中、
Z
2およびZ
3は独立して、単結合、-(CH
2)
a-、-O(CH
2)
a-、-(CH
2)
aO-、-O(CH
2)
aO-、または-CH=CH-であり、ここで、aは1~20の整数であり;
mは、0~20の整数であり;
Mは、単結合または酸素であり;
Xは、フッ素またはメチルであり;
nは、0~4の整数であり;
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
式中に、Z
3、m、またはMが複数ある場合は、それらのうちの2つが同一であっても異なっていてもよい。
【0015】
[7] 本発明の第7の態様に係るは
[1]~[5]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物から合成したポリアミック酸である。
【0016】
[8] 本発明の第8の態様に係るは
[7]に記載のポリアミック酸を成形後、イミド化させた低誘電率ポリイミド樹脂である。
【0017】
[9] 本発明の第9の態様に係るは
[1]~[5]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物を硬化させた低誘電率樹脂である。
【0018】
[10] 本発明の第10の態様は、
無機充填材を含有する、[1]~[5]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物である。
【0019】
[11] 本発明の第11の態様は、
硬化した硬化物の熱伝導率が0.5W/m・K以上である、[10]に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物である。
【0020】
[12] 本発明の第12の態様は、
無機充填材が、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、ダイアモンド、黒鉛、炭化珪素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、酸化チタン、酸化錫、酸化ホルミニウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、およびコーディエライト、およびムライトから選択される少なくとも1つである、[10]または[11]に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物である。
【0021】
[13] 本発明の第13の態様は、
無機充填材が、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、酸化チタン、または水酸化マグネシウムである、[10]または[11]に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物である。
【0022】
[14] 本発明の第14の態様は
[1]~[5]および[10]~[13]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物を、熱でイミド化または硬化させた高分子成形体である低誘電率樹脂絶縁膜である。
【0023】
[15] 本発明の第15の態様は、
[1]~[5]および[10]~[13]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物を、熱でイミド化させたまたは硬化させた高分子成形体である、低誘電率樹脂フィルムまたは低誘電率樹脂シートである。
【0024】
[16] 本発明の第16の態様は、
[1]~[5]および[10]~[13]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用の組成物を熱でイミド化させた高分子成形体である低誘電率樹脂部品である。
【0025】
[17] 本発明の第17の態様は
[14]~[16]のいずれか1項に記載の高分子形成体を用いた電子機器である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の低誘電部材用の直線性の高い低誘電率樹脂形成用の組成物は、低誘電性に加え、塗布性、放熱性、透明性が高く、化学的安定性、耐熱性、硬度および機械的強度などに優れた特性を有することから、たとえば、低誘電回路基板、低誘電アンテナ用基板、低誘電塗膜、低誘電接着剤などに適している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例2および比較例2の光透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の低誘電率樹脂形成用の組成物、化合物、絶縁膜、フィルム、および樹脂部品の製造方法について詳細に説明する。なお、本明細書における用語の使い方は以下のとおりである。
「液晶性化合物」は、ネマチック相やスメクチック相などの液晶相を有する化合物、および、液晶相を有しないが誘電率異方性、屈折率異方性、磁化率異方性などのような液晶に特有の物性を有し、液晶組成物の成分として有用な化合物の総称である。また、「(メタ)アクリロイルオキシ」は、アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシを意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0029】
「アルキルにおける少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-CO-などで置き換えられてもよい」等の句の意味を一例で示す。たとえば、C4H9-における少なくとも1つの-CH2-が、-O-または-CH=CH-で置き換えられた基としては、C3H7O-、CH3-O-(CH2)3-、CH3-O-CH2-O-、H2C=CH-(CH2)3-、CH3-CH=CH-(CH2)2-、CH3-CH=CH-CH2-O-などである。このように「少なくとも1つの」という語は、「区別なく選択された少なくとも1つの」を意味する。なお、化合物の安定性を考慮して、酸素と酸素とが隣接したCH3-O-O-CH2-よりも、酸素と酸素とが隣接しないCH3-O-CH2-O-の方が好ましい。
【0030】
「化合物(1)」は、上式(1)で表わされる化合物を意味し、また、式(1)で表わされる化合物の少なくとも1種を意味することもある。なお、「化合物(1-1)」についても同様であり、化合物(1-1)、化合物(1-2)、化合物(1-3)などを総称して「化合物(1)」と表す。「組成物(1)」は、前記化合物(1)から選択される少なくとも1種の化合物を含有する組成物を意味する。「重合体(1)」は前記組成物(1)を重合させることによって得られる液晶重合体を意味する。1つの化合物(1)が複数のA3を有するとき、任意の2つのA3は同一でも異なっていてもよい。複数の化合物(1)がA3を有するとき、任意の2つのA3は同一でも異なっていてもよい。この規則は、Z3、およびXなど他の記号、基などにも適用される。
【0031】
〔液晶化合物〕
本発明で用いられる化合物(1)は、棒状のメソゲン骨格と重合性基を有し、液晶性を示す液晶化合物であることが好ましい。液晶化合物は、高い重合反応性、広い液晶相温度範囲、良好な混和性などを有する。尚、化合物(1)は他の液晶性化合物や重合性化合物などと混合するとき、容易に均一になりやすい。
【0032】
化合物(1)の環構造A1、A2、またはA3、および結合基Z1、Z2、Z3、またはZ4を適宜選択することによって、液晶相発現領域などの物性を任意に調整することができる。末端基、環構造および結合基の種類が、化合物(1)の物性に与える効果、ならびにこれらの好ましい例を以下に説明する。
【0033】
<環構造A :A1、A2およびA3>
化合物(1)の環構造Aの好ましい例は、1,4-シクロへキシレン、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、ピリジン-2,5-ジイル、3-フルオロピリジン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、ピリダジン-3,6-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル、フルオレン-2,7-ジイル、9-メチルフルオレン-2,7-ジイル、9,9-ジメチルフルオレン-2,7-ジイル、9-エチルフルオレン-2,7-ジイル、9-フルオロフルオレン-2,7-ジイル、9,9-ジフルオロフルオレン-2,7-ジイルなどである。
さらに好ましい例は、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2-メチル-1,4-フェニレンなどである。特に好ましい例は、1,4-シクロへキシレンである。
【0034】
1,4-シクロヘキシレン、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、またはテトラヒドロナフタレン-2,6-ジイルの立体配置は、シスよりもトランスが好ましい。2-フルオロ-1,4-フェニレンおよび3-フルオロ-1,4-フェニレンは構造的に同一であるので、後者は例示していない。この規則は、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンと3,6-ジフルオロ-1,4-フェニレンとの関係などにも適用される。
【0035】
環構造Aにおける少なくとも1つの環が1,4-フェニレンの場合、配向秩序パラメーター(orientational order parameter)および磁化異方性が大きい。また、少なくとも2つの環が1,4-フェニレンの場合、液晶相の温度範囲が広く、透明点が高い。
1,4-フェニレン環上の少なくとも1つの水素が置き換えられていてもよい好ましい例としてはフッ素、炭素数1~5のアルキル、-CF3または-OCF3などであり、融点が低下し、溶解性が高い。また分子分極率が小さくなるため比誘電率が低い。さらに分子運動が抑制されるため誘電損失が低い。
【0036】
少なくとも1つの環が1,4-シクロヘキシレンである場合、透明点が高く、比誘電率が低く、誘電損失が低く、かつ粘度が小さい。また2つ以上の環が1,4-シクロヘキシレンである場合、透明点が高く、融点が低く、比誘電率が非常に低く、誘電損失が非常に低く、かつ粘度が小さい。
少なくとも1つの環がナフタレン環、デカヒドロナフタレン環、およびフルオレン環などの縮合環である場合は分子体積が大きく、比誘電率は低い。
【0037】
<結合基Z :Z1、Z2、Z3およびZ4>
化合物(1)の結合基Zの好ましい例は、単結合、-(CH2)a-、-O(CH2)a-、-(CH2)aO-、-O(CH2)aO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH2)a-COO-、-OCO-(CH2)a-、-CH=CH-、-SO2-、-OCF2-、または-CF2O-であり、ここでaは1~20の整数である。
さらに好ましい例は、単結合、-(CH2)a-、-(CH2)aO-、-O(CH2)a-、または-O(CH2)aO-である。
特に好ましい例は、-(CH2)a-、-(CH2)aO-、-O(CH2)a-、または-O(CH2)aO-であり、ここでaは1~20の整数である。
【0038】
結合基Zが、単結合、-(CH2)a-、-(CH2)aO-、-O(CH2)a-、-O(CH2)aO-、-CF2O-、または-OCF2-である場合、粘度が小さくなる。また、結合基Zが-(CH2)a-、-(CH2)aO-、-O(CH2)a-、または-O(CH2)aO-であり、aが2~12程度である場合は融点が低下し、かつ有機溶媒への溶解性が高く、分子長が長くなるため液晶相の温度範囲が広くなり、誘電正接が小さい。
【0039】
化合物(1)が2つの環を有するときは粘度が低く、3つ以上の環を有するときは透明点が高い。なお、本明細書においては、基本的に6員環および6員環を含む縮合環等を環とみなし、たとえば3員環や4員環、5員環単独のものは環とみなさない。また、ナフタレン環、デカヒドロナフタレン環、およびフルオレン環などの縮合環は1つの環とみなす。
【0040】
以上のように、環構造A、および結合基Zの種類、環の数などを適宜選択することにより、目的の物性を有する化合物を得ることができる。好ましい化合物(1)の例としては、式(1-1-1)~(1-1-2)、(1-2-1)~(1-2-5)、および(1-3-1)~(1-3-8)が挙げられる。
【0041】
式(1-1-1)~(1-1-2)、(1-2-1)~(1-2-5)、および(1-3-1)~(1-3-8)中、
Z1、Z2、Z3およびZ4は独立して、単結合、-(CH2)a-、-O(CH2)a-、-(CH2)aO-、-O(CH2)aO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH2)a-COO-、-OCO-(CH2)a-、-CH=CH-、-SO2-、-OCF2-、または-CF2O-であり、ここで、aは1~20の整数であり、
式中のZ3は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中にXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
【0042】
化合物(1)のより好ましい具体例を以下に示す。
式(1-1-1a)~(1-1-2a)、(1-2-4a)~(1-2-5a)、(1-3-3a)、(1-3-4a)、および(1-3-6a)~(1-3-8a)中、
Z
2およびZ
3は独立して、単結合、-(CH
2)
a-、-O(CH
2)
a-、-(CH
2)
aO-、-O(CH
2)
aO-、または-CH=CH-、であり、ここで、aは1~20の整数であり、
mは、0~20の整数であり、
Mは、単結合または酸素であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
nが2以上であるときを含み、式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
式中に、Z
3、m、またはMが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0043】
[化合物(1)の合成方法]
化合物(1)は、有機合成化学における公知の手法を組み合わせることにより合成できる。出発物質に目的の末端基、環構造および結合基を導入する方法は、たとえば、ホーベン-ワイル(Houben-Wyle, Methods of Organic Chemistry, Georg Thieme Verlag, Stuttgart)、オーガニック・シンセシーズ(Organic Syntheses, John Wily & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wily & Sons Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載されている。
【0044】
結合基Zの導入方法について、下記スキーム1~9で説明する。これらのスキームにおいて、MSG1およびMSG2は、少なくとも一つの環を有する1価の有機基を示し、Halはハロゲンを示す。下記スキームで用いた複数のMSG1(またはMSG2)は、同一でも異なっていてもよい。下記スキームにおける化合物(1A)~(1M)は上記化合物(1)に相当する。これらの方法は、光学活性な化合物(1)および光学的に不活性な化合物(1)の合成に適用できる。
【0045】
(スキーム1)Zが単結合の化合物
下記に示すように、アリールホウ酸(S1)と公知の方法で合成される化合物(S2)とを、炭酸塩水溶液およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で反応させることにより、MSG1とMSG2との間に単結合が導入された化合物(1A)を合成することができる。この化合物(1A)は、公知の方法で合成される化合物(S3)に、n-ブチルリチウム、次いで塩化亜鉛を反応させた後、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で化合物(S2)をさらに反応させることによっても合成することができる。
【0046】
【0047】
(スキーム2)Zが-CH=CH-の化合物
下記に示すように、公知の方法で合成されるホスホニウム塩(S5)にカリウムt-ブトキシドなどの塩基を作用させて発生させたリンイリドと、アルデヒド(S4)とを反応させることにより、MSG1とMSG2との間に-CH=CH-が導入された化合物(1B)を合成することができる。反応条件および基質によってはシス体が生成するので、必要に応じて公知の方法によりシス体をトランス体に異性化する。
【0048】
【0049】
(スキーム3)Zが-(CH2)2-の化合物
下記に示すように、上記のようにして得られた化合物(1B)をパラジウム炭素などの触媒の存在下で水素化することにより、MSG1とMSG2との間に-(CH2)2-を有する化合物(1C)を合成することができる。
【0050】
【0051】
(スキーム4)Zが-(CF2)2-の化合物
下記に示すように、J. Am. Chem. Soc., 2001, 123, 5414 に記載されている方法に従い、フッ化水素触媒の存在下、ジケトン(S6)を四フッ化硫黄でフッ素化することにより、MSG1とMSG2との間に-(CF2)2-を有する化合物(1D)を合成することができる。
【0052】
【0053】
(スキーム5)Zが-(CH2)4-の化合物
下記に示すように、スキーム2の方法に従って、ホスホニウム塩(S5)の代わりにホスホニウム塩(S7)を用いて-(CH2)2-CH=CH-を有する化合物を合成し、これを上記スキーム3と同様にして接触水素化することにより、MSG1とMSG2との間に-(CH2)4-が導入された化合物(1E)を合成することができる。
【0054】
【0055】
(スキーム6)Zが-CH2O-または-OCH2-の化合物
下記に示すように、化合物(S4)を水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤で還元して化合物(S8)を得る。これを臭化水素酸などでハロゲン化して化合物(S9)を得る。この化合物(S9)と化合物(S10)とを、炭酸カリウムなどの存在下で反応させることにより、MSG1とMSG2との間に-OCH2-(または-CH2O-)が導入された化合物(1F)を合成することができる。
【0056】
【0057】
(スキーム7)Zが-COO-または-OCO-の化合物
下記に示すように、化合物(S3)に、n-ブチルリチウム、続いて二酸化炭素を反応させてカルボン酸(S11)を得る。この化合物(S11)とフェノール(S10)とを、DCC(1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド)およびDMAP(4-ジメチルアミノピリジン)の存在下で脱水反応させることにより、MSG1とMSG2との間に-COO-(または-OCO-)が導入された化合物(1G)を合成することができる。
【0058】
【0059】
(スキーム8)Zが-CF=CF-の化合物
下記に示すように、化合物(S3)をn-ブチルリチウムで処理した後、テトラフルオロエチレンと反応させて化合物(S12)を得る。次いで、化合物(S2)をn-ブチルリチウムで処理した後、化合物(S12)と反応させることにより、MSG1とMSG2との間に-CF=CF-が導入された化合物(1H)を合成することができる。合成条件を選択することで、シス体の化合物を製造することも可能である。
【0060】
【0061】
(スキーム9)Zが-CF2O-または-OCF2-の化合物
下記に示すように、上記スキーム7などの方法によって得られた化合物(1G)を、ローソン試薬のような硫黄化剤で処理して化合物(S16)を得る。この化合物(S16)を、フッ化水素ピリジン錯体およびN-ブロモスクシンイミド(NBS)でフッ素化することにより、MSG1とMSG2との間に-CF2O-(または-OCF2-)を有する化合物(1M)を合成することができる。また、化合物(1M)は化合物(S16)を(ジエチルアミノ)サルファートリフルオリド(DAST)でフッ素化しても合成することができる。また、P. Kirsch et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 1480.に記載の方法
によってこれらの結合基を生成させることも可能である。
【0062】
【0063】
〔液晶組成物〕
本発明における組成物(1)は、化合物(1)を少なくとも1種含み、2種以上の化合物からなる。すなわち、組成物(1)は、2種以上の化合物(1)で構成されていてもよく、また、少なくとも1種の化合物(1)と、化合物(1)以外の少なくとも1種の化合物との組み合わせで構成されていてもよい。このような化合物(1)以外の構成要素としては、特に限定されないが、たとえば、化合物(1)以外の重合性化合物(以下「その他の重合性化合物」ともいう)、非重合性の液晶性化合物、光学活性化合物、重合開始剤、溶媒および充填材などが挙げられる。
【0064】
<その他の重合性化合物>
組成物(1)は、その他の重合性化合物を構成要素としてもよい。このような重合性化合物としては、膜形成性および機械的強度を低下させない化合物が好ましい。この重合性化合物は、液晶性を有しない化合物と液晶性を有する化合物とに分類される。液晶性を有しない重合性化合物としては、ビニル誘導体、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、ソルビン酸誘導体、フマル酸誘導体、イタコン酸誘導体などが挙げられる。これらの誘導体の好ましい例を以下に示す。
【0065】
好ましいビニル誘導体としては、たとえば、塩化ビニル、フッ化ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2,2-ジメチルブタン酸ビニル、2,2-ジメチルペンタン酸ビニル、2-メチル-2-ブタン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2-エチル-2-メチルブタン酸ビニル、N-ビニルアセトアミド、p-t-ブチル安息香酸ビニル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸ビニル、安息香酸ビニル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルモノビニルエーテル、t-アミルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールメチルビニルエーテル、α、β-ビニルナフタレン、メチルビニルケトン、イソブチルビニルケトンなどが挙げられる。
【0066】
好ましいスチレン誘導体としては、たとえば、スチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0067】
好ましい(メタ)アクリル酸誘導体としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールEO付加トリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ビスフェノールA EO付加ジアクリレート、ビスフェノールA グリジジルジアクリレート(商品名:大阪有機化学株式会社製「ビスコート700」)、ポリエチレングリコールジアクリレートジメチルイタコネートなどが挙げられる。
【0068】
好ましいソルビン酸誘導体としては、たとえば、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸リチウム、ソルビン酸1-ナフチルメチルアンモニウム、ソルビン酸ベンジルアンモニウム、ソルビン酸ドデシルアンモニウム、ソルビン酸オクタデシルアンモニウム、ソルビン酸メチル、ソルビン酸エチル、ソルビン酸プロピル、ソルビン酸イソプロピル、ソルビン酸ブチル、ソルビン酸t-ブチル、ソルビン酸ヘキシル、ソルビン酸オクチル、ソルビン酸オクタデシル、ソルビン酸シクロペンチル、ソルビン酸シクロヘキシル、ソルビン酸ビニル、ソルビン酸アリル、ソルビン酸プロパギルなどが挙げられる。
【0069】
好ましいフマル酸誘導体としては、たとえば、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどが挙げられる。
【0070】
好ましいイタコン酸誘導体としては、たとえば、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジイソプロピルイタコネートなどが挙げられる。
これらの他にも、ブタジエン、イソプレン、マレイミドなど、多くの重合性化合物を用いることができる。
【0071】
<その他の重合性液晶化合物>
組成物(1)は、化合物(1)以外の重合性液晶化合物を含んでいてもよい。重合性液晶組成物の液晶相の発現ならびに化合物(1)および有機溶媒などとの相溶性の観点から、重合性基としてエポキシ基、オキセタン基、など化合物1の末端にあるアミノ基と重合できる基を片端、両端にもつ化合物が、該重合性液晶化合物として好ましい。また、例えば、アクリル、オキセタン、マレイミド、ビニルなど、アミノと重合しない重合性液晶組成物であっても、その化合物同士でsemi-IPN構造やポリマーアロイ構造を形成することで、化合物(1)で表される重合性液晶化合物と複合化されるような化合物であってもよい。
【0072】
<非重合性の液晶性化合物>
組成物(1)は、重合性基を有しない液晶性化合物を構成要素としてもよい。このような非重合性の液晶性化合物の例は、液晶性化合物のデータベースであるリクリスト(LiqCryst, LCI Publisher GmbH, Hamburg, Germany)などに記載されている。非重合性の液晶性化合物を含有する組成物(1)を重合させることによって、化合物(1)の重合体と液晶性化合物との複合材料(composite materials)を得ることができる。このような複合材料では、たとえば、高分子分散型液晶のような高分子網目中に非重合性の液晶性化合物が存在している。
【0073】
<テトラカルボン酸二無水物>
化合物(1)を原料に用いて、ポリイミド樹脂およびポリイミド樹脂の前駆体となるポリアミック酸を合成すると、電子の共役が減少による低誘電率化や、液晶構造由来の分子の直線性によるガラス転移温度などの高耐熱化が可能である。
化合物(1)を用いて、ポリイミド樹脂の前駆体となるポリアミック酸を合成する場合には、化合物(1)と、同じモル数のテトラカルボン酸2無水物とを溶媒に溶解させ、重合させればよい。この時テトラカルボン酸側に脱水できていない成分が含まれる場合は、その分の反応性が低くポリマー化しないことが多いため、テトラカルボン酸をその分多く使用することに、より高分子量のポリアミック酸を得ることができる。また分子量が高くなり過ぎた場合は、ジカルボン酸の無水物を反応停止剤として添加したり、一度高分子化したポリアミック酸を一部加水分解させたりすることにより、必要な分子量のポリアミック酸を得ることができる。得られたポリアミック酸は、乾燥後にイミド化温度以上に加熱することにより、ポリイミドが得られる。
【0074】
<テトラカルボン酸二無水物>
テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されず、公知の物を使用することができる。たとえば、下記化学式(H-1~H-24)の芳香族テトラカルボン酸二無水物、(F-1~F-51)を使用することができる。脂肪族のテトラカルボン酸二無水物や嵩高いテトラカルボン酸二無水物を用いると、目的とする低誘電率のポリイミドが得られやすいが、物理的に脆くなりやすいので、目的とする物性に合わせて、1種または複数種の芳香族のテトラカルボン酸二無水物を同時に使用することにより、物性を調節することが可能である。熱伝導率を重視する場合は、(H-1)、(H-12)、(H-15)~(H-18)や、(F-1)、(F-15)~(F-17)、(F-29)、(F-31)、(F-50)のような、なるべく直線性の高い骨格を有する構造が好ましい。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
<エポキシ化合物>
化合物(1)をエポキシ化合物(オキシランやオキセタン)の硬化剤として用いると、芳香環をもつ通常のジアミン化合物を用いる場合に比べ、電子の共役が少なく、また液晶構造由来で分子鎖の直線性が高くなるため、低誘電率で、高Tgなどの高耐熱な硬化物が得られる。エポキシ化合物としては、特に限定されず、公知の物を使用することができる。
【0081】
オキシランとしては、ビフェノール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラクロロビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA等のビスフェノール類のジグリシジルエーテル類、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ブロム化フェノールノボラック、オルトクレゾールノボラック等のノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル類、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等のアルキレングリコール類のジグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ヘキサヒドロフタル酸のグリシジルエステルやダイマー酸のジグリシジルエステル等のグリシジルエステル類、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製の商品名 セロキサイド2021P)、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル-3’,4’-エポキシ-6’-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3,4-エポキシ-4-メチルシクロヘキシル-2-プロピレンオキサイド、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ジシクロペンタジエンジエポキシド、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)エーテル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)ブタンテトラカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)-4,5-エポキシテトラヒドロフタレート、1,2:8,9ジエポキシリモネン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)ジエチルシロキサン等の脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。これらのエポキシ化合物を単独で用いてもよいし、複数のエポキシ化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
オキセタンとしては、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(東亞合成社製の商品名 OXT-101)、3-エチル-3-(フェノキシメチル)オキセタン(東亞合成社製の商品名 OXT-211)、3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタン(東亞合成社製の商品名 OXT-212)、1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン(東亞合成社製の商品名 OXT-121)、ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル(東亞合成社製の商品名 OXT-221)、脂肪族カルボン酸系オキセタン化合物(例えばアジペートビスオキセタン等)、芳香族カルボン酸系オキセタン化合物(例えばテレフタレートビスオキセタン等)、脂環式カルボン酸系オキセタン化合物(例えばシクロヘキサンジカルボン酸ビスオキセタン等)、芳香族イソシアネート系オキセタン化合物(例えばMDIビスオキセタン等)等が挙げられる。これらのオキセタンを単独で用いてもよいし、複数のオキセタンを組み合わせて用いてもよい。また、エポキシ化合物と併用することにより、その反応性の違いを活かした精密な構造制御も可能になる。
【0083】
さらに熱伝導率を向上させるには、液晶構造も骨格にもつエポキシ化合物(オキシランまたはオキセタン)、を用いることが好ましい。液晶骨格を持つエポキシ化合物は、たとえば特許第5084148号公報や、特許第6653793号公報に記載の化合物が好ましい。液晶骨格を持つエポキシ化合物を用いることにより、重合後のポリマーの直線性が高くなり、その配向方向の熱伝導率が大きく向上する。配向処理しない場合でも大きな結晶ドメインを形成し、その結晶ドメインの熱伝導率が高くなることによって、硬化物全体の熱伝導率も高くなる。
【0084】
好ましい液晶骨格を持つエポキシまたはウレタン化合物を式(Ep-1)~(Ep-64)に示す。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
化学式(Ep-1)~(Ep-65)において、
Z1は、単結合、-(CH2)2-、-(CF2)2-、-(CH2)4-、-CH2O-、-OCH2-、-(CH2)3O-、-O(CH2)3-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=CHCOO-、-OCOCH=CH-、-(CH2)2COO-、-OCO(CH2)2-、-C≡C-、-C≡C-COO-、-OCO-C≡C-、-C≡C-CH=CH-、-CH=CH-C≡C-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-OCF2-または-CF2O-である。なお、複数のZ1は同一でも異なっていてもよい。
【0093】
Z2は、-(CH2)2-、-(CF2)2-、-(CH2)4-、-CH2O-、-OCH2-、-(CH2)3O-、-O(CH2)3-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=CHCOO-、-OCOCH=CH-、-(CH2)2COO-、-OCO(CH2)2-、-C≡C-、-C≡C-COO-、-OCO-C≡C-、-C≡C-CH=CH-、-CH=CH-C≡C-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-OCF2-または-CF2O-である。
【0094】
Z3は、単結合、または炭素数1~20のアルキレンであり、
該アルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH2-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、または-OCO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2CH2-は、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-N(O)=N-、または-C≡C-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよい。
【0095】
Y1およびY2は、単結合または炭素数1~20のアルキレン、好ましくは炭素数1~10のアルキレンを示し、該アルキレンにおいて、任意の-CH2-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-または-CH=CH-で置き換えられてもよい。特に好ましいY1またはY2としては、炭素数1~10のアルキレンの片末端または両末端の-CH2-が-O-で置き換えられたアルキレンである。
mは1~6の整数、好ましくは2~6の整数、さらに好ましくは2~4の整数である。
【0096】
Xは、少なくとも1つの水素が、ハロゲン、アルキル、フッ化アルキルで置き換えられてもよい1,4-フェニレンまたはフルオレン-2,7-ジイルの置換基である。
【0097】
PGは、式(2-1)または(2-2)で表される重合性基である。
式(2-1)~(2-2)中、R
bは、水素、ハロゲン、-CF
3、または炭素数1~5のアルキルであり、qは0または1である。
【0098】
<硬化剤>
化合物(1)を、エポキシ化合物の硬化剤として用いる場合、他の構造の硬化剤を追加の構成要素として含有してもよい。好ましい硬化剤の例を以下に示す。
【0099】
追加のアミン系硬化剤として、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、o-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン、p-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、3,9-ジプロパンアミン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-1,2-ジフェニルエタン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、ポリシクロヘキシルポリアミン、N-アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。
化合物(1)は脂肪族のジアミン硬化剤として作用するため、誘電率は低くなるが、硬化物が硬く脆くなる傾向があり、芳香族系のジアミンを併用すると低誘電率とフレキシブル性を併せ持つ硬化物が得られる。
【0100】
<充填材としての無機フィラー>
熱伝導率向上、機械強度向上、粘度調整などのために、充填材(無機フィラー)を加えることができる。たとえば、熱伝導率の高い充填材としては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素などの金属窒化物、ダイアモンド、黒鉛、炭化珪素などの炭化物、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化チタン、酸化錫、酸化ホルミニウム、酸化カルシウムなどの金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、などの金属水酸化物、およびコーディエライト、またはムライトなどのケイ酸塩化合物、金、銀、銅、白金、鉄、錫、鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、モリブデン、ステンレスなどの金属充填材であってもよい。好ましくは、誘電率が低い、窒化ホウ素、酸化ケイ素が好ましく、特に六方晶系の窒化ホウ素(h-BN)は誘電率が低く熱伝導率が高いので好ましい。
熱伝導率等は無機フィラーが多いほど高くなるが、一般に無機フィラーは樹脂成分とくらべ、比誘電率が大きく誘電正接が小さいので、充填量を増やすと誘電率が大きくなる。したがって、充填量は目的とする誘電率を超えない範囲で必要量を充填することが好ましい。
【0101】
充填材の形状としては、球状、無定形、繊維状、棒状、筒状、板状などが挙げられる。充填材の形状は、硬化物がフィルム状やシート状の場合は、球状や繊維状、または繊維を編み上げたクロス状が好ましい。硬化物が3次元構造の部品の場合は球状または不定形が好ましい。充填材の種類、形状、大きさ、添加量などは、目的に応じて適宜選択できる。得られる低誘電率成形体が絶縁性を必要とする場合、所望の絶縁性および誘電率、誘電損失が保たれれば導電性を有する充填材であっても構わない。好ましくは、板状結晶の窒化ホウ素を用いると、または液晶化合物が板状構造に垂直に配向され易い、または液晶化合物が板状構造に沿って配向され易いため好ましい。垂直に配向するか、平板に沿って配向するかは、重合性液晶化合物と、フィラーの親和性に依存する。重合性液晶化合物と微粒径の球状の酸化ケイ素を用いると溶融物や溶液の粘度を上げることができ、ケイ酸塩化合物を用いると成形体の熱膨張率を小さくできるので好ましい。
【0102】
球状または不定形状の充填材の平均粒径は、0.1~200μmであることが好ましい。より好ましくは、1~100μmである。0.1μm以上であると熱伝導率がよく、200μm以下であると充填率を上げることができる。繊維状の充填材に関しては、繊維長が長いほど引張強度は向上するが、混練や分散は出来なくなるので、用途によって選択することが好ましい。分散させる場合は、繊維状充填材の平均粒径は、0.01~200μmであることが好ましい。より好ましくは、0.1~100μmである。0.1μm以上であると熱伝導率がよく、200μm以下であると機械強度を上げることができる。
なお、本明細書において平均粒径とは、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定に基づく。すなわち、フランホーファー回折理論およびミーの散乱理論による解析を利用して、湿式法により、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量(体積基準)となる径をメジアン径とした。
充填材の量は、硬化後の低誘電率成形体中が20~95重量%の充填材を含有するようにすることが好ましい。より好ましくは、50~95重量%である。20重量%以上であると熱伝導率が高くなり好ましい。95重量%以下であると低誘電率成形体が脆くならず好ましい。
【0103】
充填材としては、分散処理、防水処理などの表面処理された市販品をそのまま用いてもよく、該市販品から表面処理剤を除去したものを用いてもよい。また、処理されていない充填材を、シランカップリング剤、親和剤、表面張力調整剤、沈降防止剤、凝集防止剤などにより処理して用いてもよい。
【0104】
<溶媒>
組成物(1)は溶媒を含有してもよい。化合物(1)を含む低誘電率樹脂形成用の組成物の重合は溶媒中で行っても、無溶媒で行ってもよい。溶媒を含有する化合物(S01)を含む組成物を基板上に、たとえばスピンコート法などにより塗布した後、溶媒を除去してからイミド化、または熱重合させてもよい。
【0105】
好ましい溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、PGMEAなどが挙げられる。上記溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、重合時の溶媒の使用割合を限定することにはあまり意味がなく、重合効率、溶媒コスト、エネルギーコストなどを考慮して、個々のケースごとに決定すればよい。
【0106】
<その他の添加剤>
化合物(1)を含む低誘電率樹脂形成用の組成物は高い重合性を有するので、取扱いを容易にするために、安定剤を添加してもよい。このような安定剤としては、公知のものを制限なく使用できる。
低誘電正接(低tanδ)、高ガラス転移温度が求められる用途では、架橋剤を添加することが好ましい。架橋剤は本発明の末端に重合性基を有する液晶化合物の重合性基と化学結合し、3次元架橋を形成するものが好ましい。
【0107】
[低誘電率樹脂]
本発明の別の実施形態である低誘電率樹脂は、上述の低誘電率樹脂形成用の組成物の硬化物であり、シート状、フィルム状、板状、繊維状、三次元形状の部品(コネクターの絶縁部分)などに用いられるほか、そのままコート剤、接着剤や充填材として使用することもできる。該低誘電率樹脂は、上述の組成物の硬化物であるために低い誘電率を有するとともに、ポリマーとして重合性液晶化合物を用いているため、熱伝導率、耐熱性、剛性、弾性、成形流動性、耐薬品性、及び寸法安定性等にも優れる。
【0108】
低誘電率樹脂が液晶性を示す場合、硬化前の配向処理により分子配向を制御できる。比誘電率と熱伝導率は分子の配向方向により異方性が発現する。例えば電子基板の誘電率設計や熱設計の際に、発熱するICの真下は厚み方向に熱伝導率が高く、ICの真下以外は横方向に配向させて熱を広範囲に広げるようにデザインするなど、より進んだ材料設計が可能になる。配向方法は下記方法により制御できる。
【0109】
低誘電率樹脂形成用の組成物中の液晶分子のメソゲン部位を配向制御する方法としては、フィラー表面に配向能を持つシランカップリング剤や配向剤等で処理する方法、該組成物自体が有する自己配向規制力により配向させる方法等が挙げられる。これらの方法は、1種単独で行っても、2種以上を組み合わせて行ってもよい。このような配向制御方法により制御する配向状態としては、例えば、ホモジニアス、ツイスト、ホメオトロピック、ハイブリッド、ベンドおよびスプレー配向などが挙げられ、用途や配向制御方法に応じて適宜決定することができる。また、製膜時や成形時において、硬化前に液晶状態で、ずり応力を加え物理的に配向させることもできる。
【0110】
配向温度は、室温~250℃、好ましくは室温~200℃、より好ましくは室温~180℃の範囲である。上記熱処理時間は、5秒~2時間、好ましくは10秒~60分、より好ましくは20秒~30分の範囲である。熱処理時間が上記範囲よりも短いと、組成物(1)からなる層の温度を所定の温度まで上昇できないことがあり、上記範囲よりも長いと、生産性が低下することがある。なお、上記熱処理条件は、組成物(1)に用いられる化合物の種類および組成比、重合開始剤の有無および含有量などによって変化するため、あくまでおおよその範囲を示したものである。特に、重合開始温度より高くなってしまうと、配向する前に硬化してしまうので、分子鎖が一定方向に配向した低誘電率樹脂は得られない。
【0111】
直線性の高い低誘電率樹脂形成用の組成物が液晶性を示さないか、液晶相を示す範囲が非常に狭い場合でも、結晶性が高い場合には一定方向に軸が揃ったドメインを形成するので、4,4’-ジアミノジフェニルメタンなどの屈曲した構造を持つ硬化剤と比べ熱伝導率が高くなる。また、配向方向が揃った高分子シートの表面や結晶性の樹脂フィラーなどを結晶成長のコアとして存在させた状態で、等方相液体の状態からゆっくり硬化させることによっても、配向や結晶性が制御できる。ただし、結晶性を高くし過ぎるとフレキシブル性が低くなる傾向があるので、適切な結晶性の重合性組成物を使用する必要がある。
【0112】
本発明の低誘電率成形体は、化合物(1)を含む低誘電率樹脂形成用の組成物からなり、シート、フィルム、薄膜、繊維、成形体などの形状で使用する。好ましい形状はフィルムおよび薄膜である。フィルムおよび薄膜は、組成物(1)を基板や離型フィルムに塗布した状態、または基板や金型などの平板で挟んだ状態で重合させることによって得られる。また、溶媒を含有する組成物(1)を、配向処理した基板に塗布し、溶媒を除去することによっても得られる。さらに、フィルムについては、重合体をプレス成形することによっても得られる。なお、本明細書におけるシートの膜厚は1mm以上であり、フィルムの膜厚は5μm以上、好ましくは10~500μm、より好ましくは20~300μmであり、薄膜の膜厚は5μm未満である。
【0113】
以下、溶媒を含有する化合物(1)を含む低誘電率樹脂形成用の組成物を用いて、低誘電率成形体としてのフィルムを製造する方法について具体的に説明する。
まず、離型処理した基板上に組成物(1)を塗布し、溶媒を乾燥除去して膜厚の均一な塗膜層を形成する。塗布方法としては、たとえば、スピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法、フローコート法、プリント法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、ワイヤーバーコート法、デップコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法などが挙げられる。
【0114】
溶媒の乾燥除去は、たとえば、室温での風乾、ホットプレートでの乾燥、乾燥炉での乾燥、温風や熱風の吹き付けなどにより行うことができる。溶媒除去の条件は特に限定されず、溶媒がおおむね除去され、塗膜層の流動性がなくなるまで乾燥すればよい。なお、組成物(1)に用いる化合物の種類と組成比によっては、塗膜層を乾燥する過程で、塗膜層中の液晶分子の分子配向が完了していることがある。このような場合、乾燥工程を経た塗膜層は、前述した熱処理工程を経由することなく、重合工程に供することができる。しかしながら、塗膜層中の液晶分子の配向をより均一化させるためには、乾燥工程を経た塗膜層を液晶相発現温度まで加熱し液晶状態で配向させ、その後に光重合または熱重合処理して配向を固定化することが好ましい。
【0115】
また、化合物(1)を含む低誘電率樹脂形成用の組成物を低誘電率絶縁被膜として使用する場合には、塗布前に基板表面を配向処理することも好ましい。配向処理方法としては、たとえば、基板上に配向膜を形成するだけでもよいし、基板上に配向膜を形成させた後、レーヨン布などでラビング処理する方法、基板を直接レーヨン布などでラビング処理する方法、さらには酸化ケイ素を斜方蒸着する方法、延伸フィルム、光配向膜またはイオンビームなどを用いるラビングフリー配向などの方法が挙げられる。また、基板表面の処理を行わなくても、所望の配向状態を形成することができる場合もある。たとえば、ホメオトロピック配向を形成する場合はラビング処理等の表面処理を行わない場合が多いが、より高い配向性を実現する点でラビング処理を行ってもよい。
【0116】
上記配向膜としては、組成物(1)の配向を制御できるものであれば特に限定されず、公知の配向膜を用いることができ、たとえば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、アルキルシラン、アルキルアミン、またはレシチン系配向膜が好適である。垂直配向させる場合にはシランカップリング剤も好適である。
【0117】
上記ラビング処理には任意の方法を採用することができ、通常は、レーヨン、綿およびポリアミドなどの素材からなるラビング布を金属ロールなどに捲き付け、基板または配向膜に接した状態でロールを回転させながら移動させる方法や、ロールを固定したまま基板側を移動させる方法などが採用される。
【0118】
また、より均一な配向を得るために配向制御添加剤を組成物(1)中に含有させてもよい。このような配向制御添加剤としては、たとえば、イミダゾリン、4級アンモニウム塩、アルキルアミンオキサイド、ポリアミン誘導体、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物、ポリエチレングリコールおよびそのエステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸アミン類、アルキル置換芳香族スルホン酸塩、アルキルリン酸塩、脂肪族または芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリルアミドプロピルベタイン、ラウリルアミノ酢酸ベタイン、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル基と親水性基とを有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基と親油性基とを有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基を有するウレタン、および、1級アミノ基を有する有機ケイ素化合物(例えば、アルコキシシラン型、直鎖状のシロキサン型、および、3次元縮合型のシルセスキオキサン型の有機ケイ素化合物)などが挙げられる。
【0119】
上記基板としては、たとえばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース、トリアセチルセルロース、またはその部分鹸化物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノルボルネン樹脂などのプラスティックフィルム基板およびガラス強化樹脂基板のほか、アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラスなどのガラス基板;アルミニウム、鉄、銅などの金属基板;シリコンなどの無機基板;などが挙げられる。
【0120】
上記フィルム基板は、一軸延伸フィルムでも、二軸延伸フィルムであってもよい。上記フィルム基板は、事前に鹸化処理、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよい。なお、これらのフィルム基板上には、上記組成物(1)に含まれる溶媒に侵されないような保護層を形成してもよい。保護層として用いられる材料としては、たとえばポリビニルアルコールが挙げられる。さらに、保護層と基板の密着性を高めるためにアンカーコート層を形成させてもよい。このようなアンカーコート層は保護層と基板の密着性を高めるものであれば、無機系および有機系のいずれの材料であってもよい。
本発明の低誘電率樹脂形成用の組成物は、低誘電基板、低誘電シート、低誘電コーティング、低誘電接着剤、低誘電成形品などに有用である。
【0121】
<製造方法>
以下、低誘電率樹脂形成用の組成物を製造する方法、および該組成物から低誘電率高耐熱基板および、低誘電率高耐熱絶縁層を製造する方法について具体的に説明する。
【0122】
本発明の、低誘電率樹脂形成用の組成物は、そのまま液晶相や等方相を発現する温度領域で液状の樹脂原料として用いるほかに、溶媒に溶解させて使用することもできる。溶液の調製は、重合性液晶組成物、必要な溶媒、フィラー、添加剤を加え、撹拌機を用いて組成ムラが無くなる程度まで撹拌・脱泡する。例えば、自転公転ミキサーを用い、回転数2000rpmで10分間撹拌後、回転数2200rpmで10分間脱泡する。自転公転ミキサーの他には、攪拌モーター、らいかい機、三本ロール、ボールミル、自転・公転ミル、遊星ミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いて分散させることができる。
【0123】
塗布方法には、組成物を均一にコーティングするために、ウェットコーティング法を用いることが好ましい。ウェットコーティング法のうち、少量を作成する場合には簡便で均質な製膜が可能であるスピンコート法が好ましい。生産性を重視する場合には、グラビアコート法、ダイコート法、バーコート法、リバースコート法、ロールコート法、スリットコート法、ディッピング法、スプレーコート法、キスコート法、リバースキスコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ロッドコート法などが好ましい。ウェットコーティング法は、これらの方法から必要とする膜厚、粘度や硬化条件等に応じて適宜選択することができる。
【0124】
シートを製造する場合には、離型処理した基材上に組成物を前記方法などでコーティングし剥離するキャスト法、構造物を製造する場合には金型を用い、プレス成形法、インジェクション法、各種3Dプリンター成形法(吐出積層法)などの樹脂成形法を用いることができる。成形後、金型を外して本硬化することも、金型に入れたまま本硬化することも可能である。
【0125】
[実施例]
実施例(化合物、組成物、重合体、樹脂などの作製例を含む)により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によって制限されない。
【0126】
[化合物(1)の合成例]
化合物(1)は、合成例1など実施例に示す手順により合成した。特に記載のないかぎり、反応は窒素雰囲気下で行った。合成した化合物は、NMR分析などの方法により同定した。化合物(1)、組成物、重合体、樹脂などの素子特性は、下記の方法により測定した。
【0127】
<NMR分析>
測定には、日本電子株式会社製のJNM-ECZRを用いた。1H-NMRの測定では、試料をCDCl3などの重水素化溶媒に溶解させ、測定は、室温で、500MHz、積算回数16回の条件で行った。テトラメチルシランを内部標準として用いた。19F-NMRの測定では、CFCl3を内部標準として用い、積算回数32回で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、brはブロードであることを意味する。
【0128】
<ガスクロマト分析>
測定には、株式会社島津製作所製のGC-2014型ガスクロマトグラフを用いた。カラムは、Agilent Technologies Inc.製のキャピラリカラムDB-1(長さ30mまたは15m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いた。キャリアーガスとしては窒素(1ml/分)を用いた。試料気化室の温度を300℃、検出器(FID)部分の温度を300℃に設定した。試料はアセトンなどの適切な溶媒に溶解して、1重量%の溶液となるように調製し、得られた溶液1μlを試料気化室に注入した。記録計には株式会社島津製作所製のGCSolutionシステムなどを用いた。
【0129】
<HPLC分析>
測定には、株式会社島津製作所製のProminence(LC-20AD;SPD-20A)を用いた。カラムは株式会社ワイエムシィ製のYMC-Pack ODS-A(長さ150mm、内径4.6mm、粒子径5μm)を用いた。溶出液はアセトニトリルと水を適宜混合して用いた。検出器としてはUV検出器、RI検出器、CORONA検出器などを適宜用いた。UV検出器を用いた場合、検出波長は254nmとした。試料はアセトニトリルに溶解して、0.1重量%の溶液となるように調製し、この溶液1μLを試料室に導入した。記録計としては株式会社島津製作所製のC-R7Aplusを用いた。
【0130】
<紫外可視分光分析>
測定には、株式会社島津製作所製のPharmaSpec UV-1700用いた。検出波長は190nmから700nmとした。試料はアセトニトリルに溶解して、0.01mmol/Lの溶液となるように調製し、石英セル(光路長1cm)に入れて測定した。
【0131】
<測定試料>
相構造および転移温度(透明点、融点、重合開始温度など)を測定するときには、化合物そのものを試料として用いた。
(1)相構造
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー社FP-52型ホットステージ)に試料を置いた。この試料を、3℃/分の速度で加熱しながら相状態とその変化を偏光顕微鏡で観察し、相の種類を特定した。
【0132】
(2)転移温度(℃)
測定には、エスエスアイ・ナノテクノロジー社製の高感度示差走査熱量計、X-DSC7000を用いた。試料は、3~5℃/分の速度で昇降温し、試料の相変化に伴う吸熱ピークまたは発熱ピークの開始点を外挿により求め、転移温度を決定した。化合物の融点、重合開始温度もこの装置を使って測定した。化合物が固体からスメクチック相、ネマチック相などの液晶相に転移する温度を「液晶相の下限温度」と略すことがある。化合物が液晶相から液体に転移する温度を「透明点」と略すことがある。
【0133】
結晶はCと表した。結晶の種類の区別がつく場合は、それぞれをC1、C2のように表した。スメクチック相はS、ネマチック相はNと表した。スメクチック相の中で、スメクチックA相、スメクチックB相、スメクチックC相、またはスメクチックF相の区別がつく場合は、それぞれSA、SB、SC、またはSFと表した。液体(アイソトロピック)はIと表した。転移温度は、例えば、「C 50.0 N 100.0 I」のように表記した。これは、結晶からネマチック相への転移温度が50.0℃であり、ネマチック相から液体への転移温度が100.0℃であることを示す。
【0134】
[合成例1]
化合物(S01 :化合物(1-1-2a)で、Z
2は単結合、Mは酸素、m=3である化合物)の合成
4,4’-ビシクロヘキシルジオール(S01-a)は、例えば富士フィルム和光純薬株式会社などで市販されている。この原料を一般的な再結晶ろ過などの手法を用いて精製し、トランス体を単離した。
【0135】
(第1段)
窒素雰囲気下で、4,4’-ジシクロヘキサンジオール(S01-a)(15.0g、75.8mmol)、40wt%水酸化カリウム(3.00g/53.6mmol)、水(10mL)のジクロロメタン(100mL)溶液に、室温にてアクリロニトリル(20.1g、378.9mmol)を滴下し、40℃で3日間加熱攪拌した。反応液にジクロロメタン(100mL)を追加して濾過し、水で3回洗浄した後に有機層を40℃で減圧濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン/酢酸エチル=5/1(容積比))で生成物を単離し、40℃で減圧濃縮して化合物(S01-b)(20.8g、68.4mmol)を得た。
【0136】
(第2段)
窒素雰囲気下で、塩化アルミニウム(7.60g、57.1mmol)のテトラヒドロフラン(THF)(100mL)溶液を5℃以下まで冷却し、少量ずつゆっくりと水素化リチウムアルミニウム(4.50g、118.4mmol)を加え、そのまま30分間攪拌した。反応液を10℃以下まで冷却し、前段で得た化合物(S01-b)(15.0g、49.3mmol)のTHF(50mL)溶液
を滴下して、そのまま1日間攪拌した。その後、反応液を10℃以下まで冷却して酢酸エチル(100mL)を滴下し、次いで(2N)水酸化ナトリウム溶液(62.5mL)を滴下して30分間攪拌した。反応液に酢酸エチル(100mL)を追加して濾過し、得られた濾液を純水で3回洗浄した後に有機層を40℃で減圧濃縮した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:クロロホルム/メタノール/アンモニア水=1/1/0.1(容積比))で生成物を単離し、40℃で減圧濃縮して化合物(S01)(12.8g、68.4mmol)を得た。
また、化合物の1H-NMRシグナルは以下の通りであった。
δ(ppm;MeOD):3.59-3.57(t,4H)、3.20-3.18(tt,2H)、3.02-2.99(t,4H)、2.06-2.04(m,4H)、1.88-1.84(m,4H)、1.78-1.76(m,4H)、1.18-1.00(m,10H)
【0137】
[ポリアミック酸溶液の合成]
本発明の重合性化合物(S01)を用いてポリイミドを合成すると、脂環式化合物であるため電子の共役が減少し、誘電率をさげたり、誘電正接を下げたりできると考えられる。
重合性化合物(S01)を0.313g、富士フイルム和光純薬株式会社製シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)を0.175g、富士フイルム和光純薬株式会社製ピロメリット酸二無水物(PMDA)を0.039g、すなわちモル比が5:4:1になるように20mlのスクリュー管瓶に測りとり、2.11gの関東化学株式会社製N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)を入れ、マグネチックスターラーにより15時間攪拌し重合させた。未反応物があるといけないので、50℃の湯煎で、1時間追加で攪拌し、ポリアミック酸溶液1とした。
【0138】
[物性評価]
[実施例1]
<比誘電率測定用サンプルの作成>
合成したポリアミック酸溶液1を、A5サイズの75μm厚みのカプトンフィルムの5cm×10cmの範囲に、乾燥後の厚みが40μmになるように塗布し、80℃のホットプレート上で30分間乾燥後、200℃の熱風循環式のオーブンにいれ1時間加熱処理することによりポリイミド薄膜1を得た。
硬化後のポリイミド薄膜を、カプトン基材ごと3.0mm×100mmに切断できるピナクル(登録商標)金型を使用し、短冊状サンプルを切り出した。
【0139】
<比誘電率と熱伝導率の評価方法>
金型により打ち抜いた短冊を、ベクトルネットワークアナライザー(アンリツ株式会社製MS46522B-043型)に接続した、株式会社AET製の空洞共振器(10GHz用:TMモード)を用いて、共振周波数のシフト量と減衰量を測定し、同社製ソフトウエアを用いて比誘電率と誘電正接(tanδ)を計算した。データの比較時に短冊中の水分量の影響を少なくするために、短冊の成形は測定前日におこない、比誘電率の評価は温度20℃、湿度48%の実験室で、サンプルを60分以上静置したあとで開始した。測定値はポリイミド基板込みで測った値であるので、ポリイミド基板の厚みおよび誘電特性と、サンプル部分のみの厚みをマイクロメーターで測定しておき、株式会社AET製の、表計算用ワークシートを用い、サンプル部分のみの比誘電率と、tanδを計算により求めた。
【0140】
[比較例1]
重合性化合物(S01)を富士フイルム和光純薬株式会社製1,4ジアミノジフェニルメタン(DDM)に変更したものをポリアミック酸溶液2とし、実施例1と同様にサンプルを作製し、比誘電率と熱伝導率を測定した結果を実施例2とする。合成したポリアミック酸溶液の組成比を表1に、それらを製膜し、イミド化させた試料の誘電特性を表2に示す。
【0141】
【0142】
【0143】
光学特性
[実施例2]
本発明の重合性化合物(S01)を使用し、電子の共役を減少させることにより、透明なポリイミドが作製できる可能性がある。
可視光透過率を測定するために、ポリアミック酸溶液1を無アルカリガラス基板に塗布したが、クラックが入りガラスから剥離してしまったので、本発明のジアミンにDDMを加えたポリアミック酸溶液3を合成した。
このポリアミック酸溶液3を用いて、無アルカリガラス基板上に厚みが約40μmになるように塗布し、実施例1と同じ条件で焼成した。株式会社島津製作所製UV2456紫外可視分光光度計を用い、350nm~900nmの範囲の光線透過率を測定した。その結果を
図1に示す。
また、実施例1と同じ溶液を用い、基板をガラスからカプトンフィルムに変更し、実施例1と同様に誘電特性を測定した。その結果、比誘電率が2.31、tanδが0.015であり、誘電正接の小ささを残したまま透明化が実現できることが分かった。
【0144】
【0145】
[比較例2]
ポリアミック酸溶液2を用いて実施例2と同様に光線透過率を測定した。その結果を
図1に示す。
【0146】
実施例1と比較例1を比較すると、本発明の重合性化合物(S01)を使用しポリイミド膜を作製すると、広く使用されているDDMを使用した場合に比べ、低誘電率かつ低誘電正接が可能になる事が分かる。さらに実施例2と比較例2を比較することにより、本発明の重合性化合物(S01)を使用しポリイミド膜を作製すると、DDMを使用した場合に比べ、短波長領域の吸収が大きく抑えられ、ポリイミド特有の黄褐色の色味が殆どなくなり、透明なポリイミド薄膜が作製できるようになることが分かる。
【0147】
エポキシ樹脂と高熱伝導フィラーの複合材に本発明の重合性化合物(S01)を使用することにより、樹脂成分の分子構造の直線性が高くなり、結果として高分子内で熱を伝達するフォノン伝導が直線的に伝わりやすくなることによって、硬化物の熱伝導率が高くなることが期待される。
【0148】
[実施例3]
重合性化合物(S01)を0.21g、液晶性を持つ2官能エポキシ化合物(S02:特許第6653793号公報の方法で合成)を0.25g、窒化ホウ素(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製、PTX-25)を0.46gメノウ乳鉢に測りとり、混合した。直径25mmの貫通孔をあけた0.2mm厚のPTFEシートを、同じく0.2mm厚のPTFEシートの上に載せ、25mmの硬化後に25mmの穴を満たすより少し多めの前記混合粉末を入れ、その上に更に0.2mm厚のPTFEシートを載せ、樹脂製の簡易金型とした。このサンドイッチ状の簡易金型をA4サイズの3mm厚のアルミ板で挟みこみ、手動加熱プレスを用いて10MPaの圧力で、180℃で1時間硬化させた。1時間の硬化後ヒーターを止め、温度が80℃になるまでプレスに挟んだ状態で保持した。80℃以下に下がったことを確認し、プレス機から硬化したサンプルが詰まったPTFE簡易金型を取り出し、円盤状のサンプルを割れないように注意しながら取り出した。
【0149】
[熱伝導率測定]
得られた円盤状のサンプルを、ネッチジャパン株式会社製ナノフラッシュLFA447型熱拡散率測定装置のインプレーン測定用サンプルホルダーに入れ、市販の黒鉛スプレーにより黒化処理し、平面方向の熱拡散率を求めた。測定後、円盤状サンプルから10mm×10mmのサンプルを切り出し、黒化処理し、通常のサンプルホルダーを使用し、厚み方向の熱拡散率を求めた。また、切り出した残りの部分を用いて、DSCで比熱を、精密天秤を用いたアルキメデス法で密度を求め、それらを掛け合わせることにより熱伝導率を求めた。
【0150】
[比較例3]
硬化剤を重合性化合物(S01)からDDMに変更した以外は実施例3と同様にサンプルを作製し、熱伝導率を求めた。表4に実施例3と比較例3の熱伝導率を纏める。
【0151】
【0152】
実施例3と比較例3を比較すると、エポキシ化合物に液晶性の化合物を選択した場合、平面方向、厚み方向ともに、重合性化合物(S01)を使用することにより、熱伝導率を向上させられることがわかる。
【0153】
[実施例4]
硬化剤に重合性化合物(S01)を使用し、エポキシ化合物に市販のビフェニル型エポキシ化合物(三菱ケミカル株式会社製、YX4000H)を使用し、円盤状のサンプルを作製し、熱伝導率を測定した。
【0154】
[比較例4]
硬化剤にDDMを使用し、エポキシ化合物に市販のビフェニル型エポキシ化合物(三菱ケミカル株式会社製:YX4000H)を使用し、円盤状のサンプルを作製し、熱伝導率を測定した。表5に実施例4と比較例4を纏める。
【0155】
【0156】
実施例4と比較例4を比較すると、エポキシ化合物に非液晶性の化合物を使用した場合、重合性化合物(S01)を硬化剤に使用することにより、平面方向、厚み方向ともに、熱伝導率を向上させられることがわかる。
また、実施例3と実施例4を比較すると、本発明の重合性化合物(S01)は、エポキシ側にも液晶性を持つ化合物と組み合わせることにより、非常に熱伝導率の高い熱硬化性の複合材が得られることが分かる。このように本発明の重合性化合物(S01)は低誘電率、低誘電正接かつ高透明なポリイミド樹脂や、高熱伝導のエポキシ樹脂複合材などの形成に有用であることがわかる。