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特開2023-152007組成物、それを含む飲食品および組成物の製造方法
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  • 特開-組成物、それを含む飲食品および組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152007
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】組成物、それを含む飲食品および組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/04 20060101AFI20231005BHJP
   C12P 21/06 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
A23J3/04
C12P21/06
A23J3/04 501
A23L5/00 M
A23L5/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061921
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】595033975
【氏名又は名称】旭陽化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】595046919
【氏名又は名称】丸善薬品産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田寺 宜文
(72)【発明者】
【氏名】野村 義宏
(72)【発明者】
【氏名】鶴谷 勇介
【テーマコード(参考)】
4B035
4B064
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE01
4B035LE03
4B035LE04
4B035LG41
4B035LG42
4B035LG51
4B035LP01
4B035LP41
4B064AE03
4B064AG01
4B064CA21
4B064CB01
4B064CE02
4B064CE03
4B064DA10
(57)【要約】
【課題】可溶化処理された代替タンパク質を含む組成物を提供する。
【解決手段】甲殻類の外骨格または昆虫類を原料とした可溶化物を含む組成物であって、前記甲殻類は、十脚目に属する生物であり、前記昆虫類は、バッタ目またはカイコガ科に属する生物であり、前記可溶化物は、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲殻類の外骨格または昆虫類を原料とした可溶化物を含む組成物であって、
前記甲殻類は、十脚目に属する生物であり、
前記昆虫類は、バッタ目またはカイコガ科に属する生物であり、
前記可溶化物は、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種である、組成物。
【請求項2】
前記組成物の粉末の1気圧20℃における水100gに対する溶解度は、10g以上80g以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記可溶化物の重量平均分子量は、75Da以上10000Da以下である、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
JIS K 6503:2001に準拠することにより測定される波長570nmの光に対する前記組成物の透過率は、前記組成物が1質量%濃度である場合に80%以上であること、または前記組成物が5質量%濃度である場合に30%以上であることの少なくともいずれかを満たす、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記可溶化物は、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニンおよびアルギニンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むアミノ酸組成を有する、請求項1から請求項4いずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記可溶化物は、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニンおよびアルギニンのすべてを含むアミノ酸組成を有する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は、液体、ゲル、錠剤または粉末である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の組成物を含む、飲食品。
【請求項9】
甲殻類の外骨格または昆虫類を原料とした可溶化物を含む組成物の製造方法であって、
水に浸漬した前記甲殻類の外骨格または前記昆虫類に対し、加温下で中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの両者を用いて処理することにより前記可溶化物を得る工程と、
前記可溶化物を回収する工程とを含む、組成物の製造方法。
【請求項10】
甲殻類の外骨格または昆虫類を原料とした可溶化物を含む組成物の製造方法であって、
水に浸漬した前記甲殻類の外骨格または前記昆虫類に対し、加温下で酵素を用いることなくpH2~4で処理することにより前記可溶化物を得る工程と、
前記可溶化物を回収する工程とを含む、組成物の製造方法。
【請求項11】
前記可溶化物を得る工程は、前記水を40℃以上80℃以下に加温する工程を含む、請求項9または請求項10に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、それを含む飲食品および組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトおよび家畜の食糧に関する分野において、食糧問題の解決策の一つとして、小麦、大豆等の植物性タンパク質、あるいは魚等に代わって大量供給が可能であり、地球環境への負担が少なく、かつ資源効率が高いとされる昆虫等の天然の代替タンパク質源を新たに開発することが望まれている。たとえば特開2019-054749号公報(特許文献1)は、食料および飼料として有効な動物性タンパク質を非常に豊富に含む組成物を、イエバエ科、ミズアブ科、ミバエ科、コオロギ科、ゴミムシダマシ科、カイコガ科およびヤママユガ科からなる群から選ばれる昆虫類から得ることを提案している。特開2017-105772号公報(特許文献2)は、なかでも食用コオロギ粉末またはその抽出物が、脱毛防止、毛嚢改善または発毛促進に効果があることを提案している。さらに代替タンパク質源の選択肢を広げるという観点から、上述の昆虫類に加え、エビ、カニなどの甲殻類の加工過程で発生する残渣を対象とした未利用のタンパク質源の活用に関する研究開発も進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-054749号公報
【特許文献2】特開2017-105772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摂取することの抵抗感を抑えるとともに、使い勝手等を改善することによって用途の多様化に寄与することを鑑みれば、上述した代替タンパク質を含む組成物を、たとえば原料特有の外観および形状が残らず、かつ原料特有の色および風味等が低減された粉末等の剤型で得ることが望ましい。とりわけ上記粉末は、水等に可溶であることがより望ましい。しかしながら上記特許文献1は、上述した原料から動物性タンパク質を得る際に、有害な脂溶性成分を除去することに着目した技術が開示される限りであって、上記原料から得られる組成物の物性(たとえば溶解度等)については十分に分析されていない。さらに上記特許文献2も、食用コオロギ粉末の用途およびその効果について言及するものの、食用コオロギ粉末そのものの物性については十分に分析されていない。したがって、昆虫類等を原料とする代替タンパク質を含む組成物を、望まれる物性を備えて得ることには未だ至っておらず、その開発が切望されている。
【0005】
上記実情に鑑み、本発明は、所定の処理によってアミノ酸、ペプチドまたはタンパク質の少なくともいずれかを可溶化物として含ませた組成物、それを含む飲食品および上記組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、原料である甲殻類の外骨格または昆虫類に対して所定の処理を行った場合、可溶化物として代替タンパク質となるアミノ酸、ペプチドまたはタンパク質の少なくともいずれかを含む組成物が得られることを知見し、本発明を完成させた。さらに本発明は、所定の処理によって原料特有の外観および形状が残らず、かつ原料特有の色および風味等も低減されることによって摂取することの抵抗感を抑えており、用途の多様化に寄与することを達成した。
【0007】
すなわち本発明は、以下のとおりの特徴を有する。
〔1〕 甲殻類の外骨格または昆虫類を原料とした可溶化物を含む組成物であって、
上記甲殻類は、十脚目に属する生物であり、
上記昆虫類は、バッタ目またはカイコガ科に属する生物であり、
上記可溶化物は、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
〔2〕 上記組成物の粉末の1気圧20℃における水100gに対する溶解度は、10g以上80g以下であることが好ましい。
〔3〕 上記可溶化物の重量平均分子量は、75Da以上10000Da以下であることが好ましい。
〔4〕 JIS K 6503:2001に準拠することにより測定される波長570nmの光に対する上記組成物の透過率は、上記組成物が1質量%濃度である場合に80%以上であること、または上記組成物が5質量%濃度である場合に30%以上であることの少なくともいずれかを満たすことが好ましい。
〔5〕 上記可溶化物は、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニンおよびアルギニンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むアミノ酸組成を有することが好ましい。
〔6〕 上記可溶化物は、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニンおよびアルギニンのすべてを含むアミノ酸組成を有することが好ましい。
〔7〕 上記組成物は、液体、ゲル、錠剤または粉末であることが好ましい。
〔8〕 本発明に係る飲食品は、上記組成物を含む。
〔9〕 本発明に係る組成物の製造方法は、甲殻類の外骨格または昆虫類を原料とした可溶化物を含む組成物の製造方法であって、
水に浸漬した上記甲殻類の外骨格または上記昆虫類に対し、加温下で中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの両者を用いて処理することにより上記可溶化物を得る工程と、
上記可溶化物を回収する工程とを含む。
〔10〕 本発明に係る他の組成物の製造方法は、甲殻類の外骨格または昆虫類を原料とした可溶化物を含む組成物の製造方法であって、
水に浸漬した上記甲殻類の外骨格または上記昆虫類に対し、加温下で酵素を用いることなくpH2~4で処理することにより上記可溶化物を得る工程と、
上記可溶化物を回収する工程とを含む。
〔11〕 上記可溶化物を得る工程は、上記水を40℃以上80℃以下に加温する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
上記によれば、所定の処理によってアミノ酸、ペプチドまたはタンパク質の少なくともいずれかを可溶化物として含ませた組成物、それを含む飲食品および上記組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は、実施例2および比較例1の各組成物を70質量%エタノールで溶解した後に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行うことにより得たHPLCパターンを示すグラフであり、図1(b)は、実施例2および比較例1の各組成物を超純水で溶解した後に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行うことにより得たHPLCパターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態(以下、「本実施形態」とも記す)について、さらに詳細に説明する。ここで本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0011】
本明細書において「代替タンパク質」とは、供給量に制限がある小麦、大豆、魚等に代わって、ヒトおよび家畜のタンパク質源となり得るアミノ酸、ペプチドおよびタンパク質の総称を意味する。したがって「代替タンパク質源」とは、上記アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質を有効成分等として含む組成物またはその原料を意味する。さらに本明細書において「組成物」は、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種である可溶化物とともに、他の水溶性の化合物または疎水性の化合物等を含むことができる。
【0012】
〔組成物〕
本実施形態に係る組成物は、甲殻類の外骨格または昆虫類を原料とした可溶化物を含む組成物である。上記甲殻類は、十脚目に属する生物であり、上記昆虫類は、バッタ目またはカイコガ科に属する生物である。上記可溶化物は、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種である。このような特徴を有する組成物は、可溶化物(アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種)を含むことにより、後述する物性等に基づいて代替タンパク質源として多様な用途に適用することができる。
【0013】
<甲殻類および/または昆虫類>
上記組成物は、甲殻類の外骨格を原料とした可溶化物を含む組成物である場合がある。上記甲殻類は、十脚目に属する生物である。ここで甲殻類の「外骨格」とは、甲殻類をはじめとする節足動物が備える生体の最表面を包む器官をいい、具体的には厚くなったクチクラ層およびそれに石灰質が沈着した硬化物を含む器官いう。上記「甲殻類」としては、具体的には、十脚目に属するエビおよびカニであることが好ましい。「エビ」は、上記十脚目に属する生物のうち、カニ下目およびヤドカリ下目に属する生物以外のすべてを意味する。具体的には「エビ」としては、テナガエビ、スジエビ、ヌマエビ類、ザリガニ、アメリカザリガニ、イソスジエビ、ホッカイエビ、コシマガリモエビ、アシナガモエビ、テッポウエビ、クルマエビ、ウシエビ、シバエビ、ウチワエビ、サラサエビ、カクレエビ類、オトヒメエビ、イセエビ、セミエビ、ロブスター、サクラエビ、シラエビ、ホッコクアカエビ、アカザエビ等を例示することができる。
【0014】
「カニ」は、上記十脚目に属する生物のうち、カニ下目に属する生物と、ヤドカリ下目に属する生物の一部を意味する。具体的には、タラバガニ、ヤシガニ、サワガニ、モクズガニ、チュウゴクモクズガニ、ヤマガニ、アカテガニ、ベンケイガニ、スナガニ、オサガニ、コメツキガニ、シオマネキ、アシハラガニ、ミナミコメツキガニ、イソガニ、イワガニ、オウギガニ、ショウジンガニ、マメコブシガニ、キンセンガニ、ガザミ、アサヒガニ、ヘイケガニ、ケガニ、イシガニ、ベニツケガニ、ニシノシマホウキガニ、スベスベマンジュウガニ、ズワイガニ、タカアシガニ、ユノハナガニ等を例示することができる。
【0015】
さらに上記組成物は、昆虫類を原料とした可溶化物を含む組成物である場合がある。上記昆虫類は、バッタ目またはカイコガ科に属する生物である。「バッタ目」は、直翅目とも称され、バッタ、キリギリス、コオロギ、ケラおよびカマドウマ等の昆虫類が属する。「バッタ目」は、バッタ亜目およびキリギリス亜目を含む。バッタ亜目は、バッタ科、イナゴ科などを含み、「キリギリス亜目」は、コオロギ科、ケラ科、カマドウマ科、キリギリス科などを含む。カイコガ科に属する生物としては、カイコ、クワコ、オオクワゴモドキ、テンオビシロカサン、イチジクカサン、カギバモドキ、スカシサンなどを挙げることができる。上記昆虫類については、その幼虫、前蛹、蛹、成虫および卵をいずれも原料として利用することができる。
【0016】
上記組成物の原料となる甲殻類および昆虫類としては、上記組成物をヒト等が食することに鑑みれば、上述した甲殻類および昆虫類のうち、有毒種ではない種を利用することが好ましい。さらにヒトが食することが公知であること等により、安全が確認されている種を利用することがより好ましい。たとえばヒトが身を食することによって外骨格が廃棄されるようなエビおよびカニの上記外骨格を、上記組成物の原料として好適に用いることができる。また日本の郷土料理としてまたは世界の特定の民族等が食する「バッタ目」のイナゴ科に属する昆虫類(たとえばコバネイナゴ等)、その他のバッタ科に属する昆虫類、ならびに「キリギリス亜目」のコオロギ科に属する昆虫類(ヨーロッパイエコオロギ、フタホシコオロギ等)等を、上記組成物の原料として好適に用いることができる。
【0017】
上記組成物は、上述した甲殻類の1種の外骨格を単独で原料として用いることができ、2種以上の外骨格を混合し、これを原料として用いることもできる。上記組成物は、上述した昆虫類の1種を単独で原料として用いることができ、2種以上を混合して原料として用いることもできる。さらに上記組成物は、上述した甲殻類から選ばれる1種以上の外骨格と、上述した昆虫類から選ばれる1種以上とを混合した混合物を、原料として用いることもできる。
【0018】
<可溶化物>
上記可溶化物は、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種である。これによりアミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む組成物を、小麦、大豆等の植物性タンパク質、あるいは魚に代わる代替タンパク質源として提供することができる。
【0019】
(アミノ酸組成)
上記可溶化物は、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニンおよびアルギニンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むアミノ酸組成を有することが好ましい。とりわけ上記可溶化物は、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニンおよびアルギニンからなる群より選ばれる少なくとも2種または3種含むアミノ酸組成を有することがより好ましい。上記可溶化物は、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニンおよびアルギニンのすべてを含むアミノ酸組成を有することが最も好ましい。これらのアミノ酸は、所謂必須アミノ酸であるので、上記組成物は、ヒトの健康維持または栄養学的なタンパク源として特に有用となり得る。上記可溶化物のアミノ酸組成分析については、たとえば『日本食品標準成分表2015年版(七訂)』に記載の方法(すなわちカラムクロマトグラフ法)を用いることにより行うことができる。さらに上記可溶化物のアミノ酸組成分析において、とりわけトリプトファンの分析については、他のアミノ酸とは別個に定性または定量分析を行うことができる。
【0020】
(重量平均分子量)
上記可溶化物の重量平均分子量は、75Da以上10000Da以下であることが好ましい。上記可溶化物の重量平均分子量が10000Da以下である場合、上記組成物は、後述する飲食品等の用途に対し、追加的な処理を行うことなく簡便に適用することが可能となる。上記可溶化物の重量平均分子量は、8000Da以下であることがより好ましく、5000Da以下であることがさらに好ましい。上記可溶化物の重量平均分子量の下限値は、特に制限されるべきではなく、たとえばグリシンのみが可溶化物として含まれる場合を表す75Daとすることができる。上記可溶化物の重量平均分子量は、10000Daを超える場合、十分に低分子であるとはいえないために、たとえば飲食品等の用途に不適となる恐れがある。
【0021】
ここで上記組成物に含まれる可溶化物の重量平均分子量は、以下の測定条件の下でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(所謂GMJ法)を実行することにより求めることができる。
機器 :高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(東ソー株式会社製)
カラム:TSKGel(登録商標)G2000SWXL
カラム温度:30~40℃
溶離液:45質量%アセトニトリル(0.1質量%TFAを含む)
流速 :1.0mL/min
注入量:10μL
検出 :UV214nm
分子量マーカー:以下の5種を使用
Cytochrom C Mw:12384
Aprotinin Mw:6512
Bacitracin Mw:1423
Gly-Gly-Tyr-Arg Mw:451
Gly-Gly-Gly Mw:189。
【0022】
具体的には、たとえば後述する製造方法に基づいて得られた本実施形態に係る組成物の粉末約0.2gを秤量し、これを約100mlの蒸留水に添加し、撹拌した後、0.2μmフィルターを用いてろ過する。これにより、重量平均分子量を測定する試料(被測定物)を調製する。この被測定物を上述したサイズ排除クロマトグラフィーに供することにより、上記可溶化物の重量平均分子量を求めることができる。
【0023】
<物性>
(1気圧20℃における水に対する溶解度)
上記組成物の粉末の1気圧20℃における水100gに対する溶解度は、10g以上80g以下であることが好ましい。これにより上記組成物は、可溶化物であるアミノ酸、ペプチドまたはタンパク質の少なくともいずれかを十分含むことが観念されるため、用途の多様化に資することができる。上記組成物の粉末の1気圧20℃における水100gに対する溶解度は、20g以上80g以下であることがより好ましく、40g以上80g以下であることがさらにより好ましい。上記組成物の粉末の1気圧20℃における水100gに対する溶解度が10g未満である場合、可溶化物であるアミノ酸、ペプチドまたはタンパク質の少なくともいずれかを十分含む組成物を得るのに、濃縮等の追加的な操作が必要となる恐れがある。上記組成物の粉末の1気圧20℃における水100gに対する溶解度の上限値は、特に制限されることはないが、製法上80gであることが現実的である。
【0024】
上記組成物の粉末の1気圧20℃における水100gに対する溶解度は、たとえば次の方法により求めることができる。すなわち、まず後述する製造方法に基づいて本実施形態に係る組成物の粉末を得るとともに、20℃に維持した100mlの蒸留水を準備する。次に、この蒸留水をスターラーで撹拌しながら上記組成物の粉末を少量ずつ(たとえば、5gずつ)添加していく。さらに上記蒸留水中に上記組成物の析出物が目視にて確認された時点で上記組成物の添加を止め、当該添加の一回前までに上記蒸留水に添加した上記組成物の添加量(すなわち上記組成物の飽和溶液に含まれる組成物の質量)を特定する。以上により特定した上記組成物の添加量を、上記組成物の粉末の1気圧20℃における水100gに対する溶解度として求めることができる。
【0025】
(透過率)
さらに上記組成物は、次の物性を備えることが好ましい。すなわちJIS K 6503:2001に準拠することにより測定される波長570nmの光に対する上記組成物の透過率(以下、単に「組成物の透過率」とも記す)は、上記組成物が1質量%濃度である場合に80%以上であること、または上記組成物が5質量%濃度である場合に30%以上であることの少なくともいずれかを満たすことが好ましい。これにより上記組成物は、たとえば液体とした場合に一定の透明性を有するものとなるため、原料特有の色が低減し、かつこれに関連した風味等も低減することを観念でき、もって用途の多様化に資することができる。
【0026】
上記組成物の透過率は、上記組成物が1質量%濃度である場合に80%以上であること、および上記組成物が5質量%濃度である場合に30%以上であることの両者を満たすことがよりさらに好ましい。上記透過率が上述した2項目をいずれも満たさない場合、上記組成物は、透明性が十分ではない恐れがあるので、用途の多様化を十分に実現することができない恐れがある。
【0027】
上記組成物の透過率は、たとえばJIS K 6503:2001に準拠した次の方法により求めることができる。まず後述する製造方法に基づいて本実施形態に係る組成物の粉末を得るとともに、分光測色計(たとえば製品名(型番):「CM-5」、コニカミノルタ株式会社製)および当該分光測色計での測定に用いるセル(試料を注入する容器)を準備する。当該分光測色計については、測定波長を570nmに設定する。続いて、上記組成物および蒸留水を用い、上記組成物が1質量%濃度である第1の被測定試料、上記組成物が5質量%濃度である第2の被測定試料、および上記組成物が10質量%濃度である第3の被測定試料を調製するとともに各被測定試料をそれぞれのセルに注入する。上記蒸留水のみからなる対照試料を注入したセルも準備する。
【0028】
次に、対照試料を注入したセルを上記分光光度計の測定位置に配置して透過率を測定するとともに、その測定結果が100%となるように上記分光光度計を調整する。続いて、第1の被測定試料、第2の被測定試料および第3の被測定試料を注入した各セルを上記分光光度計の測定位置に配置することにより、各被測定試料の透過率を測定する。以上により、上記組成物の透過率を求めることができる。なお本明細書において「透過率(単位は%)」は、測定値の小数点第1位を四捨五入することにより整数位にて示すものとする。
【0029】
(剤型)
上記組成物は、様々な剤型として調製することができる。すなわち上記組成物は、液体、ゲル、錠剤または粉末であることが好ましい。これにより上記組成物は、用途の多様化に資することができる。たとえば後述する製造方法により上記組成物を回収した後、粉砕、噴霧乾燥、凍結乾燥等の従来公知の粉末化手段を用いることにより、上記組成物を粉末として調製することができる。上記組成物の粉末を蒸留水等の水、その他の溶媒に添加することにより、上記組成物を液体として調製することもできる。後述する製造方法によって組成物は液体にて回収されるため、この回収物をそのまま用いることもできる。
【0030】
さらに上記組成物の粉末をたとえばゼラチン、ペクチン、寒天その他のゲル化剤とともに、蒸留水等の水、その他の溶媒に添加することにより、上記組成物をゲルとして調製することができる。上記組成物をたとえば従来公知の方法により粉末化した後、これを従来公知の結合剤(たとえばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン等)と混合し、さらに所定の形状に成形することにより、上記組成物を錠剤として調製することができる。
【0031】
上述した剤型において上記組成物の濃度は、0.01~100質量%である場合がある。なお本明細書において上述した剤型における「組成物の濃度」とは、有用成分である可溶化物の濃度を意味するものとする。したがって上記剤型中における組成物の濃度は、従来公知のタンパク質の濃度測定方法(たとえば吸光光度法、蛍光法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法等)から適宜、適切な方法を選択することによって求めることができる。
【0032】
上記組成物は、上述した剤型において本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、他の有効成分、錠剤化用の担体などを適宜含有させることができる。他の有効成分として、コラーゲンペプチド、ビタミン、ミネラル類などを挙げることができる。とりわけ錠剤化する際に用いる薬学上許容される担体としては、希釈剤、結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガカント、ポリビニルピロリドン)、賦形剤(乳糖、ショ糖、コーンスターチ、リン酸カリウム、ソルビット、グリシン)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ)、崩壊剤(バレイショデンプン)および湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム)などを挙げることができる。
【0033】
<飲食品>
本実施形態に係る飲食品は、上記組成物を含む。上記組成物に含まれる可溶化物は、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種であるので、腸管で迅速に吸収されるため摂取が可能である。したがって本実施形態に係る飲食品は、上記組成物を含む飲食品として食事または飲料に混ぜて利用することができる。さらに本実施形態に係る飲食品は、特定保健用食品、または機能性表示食品として用いることもできる。飲食品に含まれる上記組成物の濃度としては、0.001~100質量%であることが好ましい。なお本明細書において上記飲食品における「組成物の濃度」は、有用成分である可溶化物の濃度を意味するものとする。したがって上記飲食品における組成物の濃度は、従来公知のタンパク質の濃度測定方法(たとえば吸光光度法、蛍光法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法等)から適宜、適切な方法を選択することによって求めることができる。
【0034】
上記組成物を含む飲食品としては、たとえば以下の食品または飲料を例示することができる。食品としては、たとえばガム、グミ、キャンディなどの菓子類、ゼリー、氷菓等を挙げることができる。飲料としては、たとえば清涼飲料水、乳飲料、アルコール飲料、粉末飲料等を挙げることができる。このように上記組成物を含む飲食品は、上述した組成物の溶解度および透過率などの物性に基づいて、水溶性の特徴ならびに原料特有の外観および形状が残らず、かつ原料特有の色および風味等が低減する特徴を有することにより、多様な用途に適用することができる。つまり上記組成物は、水溶性であること、または透明あるいは無味であること等が要求される飲食品の用途において特に有用となる。
【0035】
〔組成物の製造方法〕
<第1の方法>
本実施形態に係る組成物の製造方法は、甲殻類の外骨格または昆虫類を原料とした可溶化物を含む組成物の製造方法である。上記組成物の製造方法は、具体的には、水に浸漬した上記甲殻類の外骨格または上記昆虫類に対し、加温下で中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの両者を用いて処理することにより上記可溶化物を得る工程(第1工程)と、上記可溶化物を回収する工程(第2工程)とを含む。このような特徴を備える組成物の製造方法により、代替タンパク質として可溶化物(アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種)を含む組成物が得られ、もって代替タンパク質源として多様な用途に適用することができる組成物を提供することが可能となる。
【0036】
<第2の方法>
さらに本実施形態に係る他の組成物の製造方法は、甲殻類の外骨格または昆虫類を原料とした可溶化物を含む組成物の製造方法である。上記他の組成物の製造方法は、具体的には、水に浸漬した上記甲殻類の外骨格または上記昆虫類に対し、加温下で酵素を用いることなくpH2~4で処理することにより上記可溶化物を得る工程(A工程)と、上記可溶化物を回収する工程(B工程)とを含む。このような特徴を備える組成物の製造方法により、代替タンパク質として可溶化物(アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種)を含む組成物が得られ、もって代替タンパク質源として多様な用途に適用することができる組成物を提供することが可能となる。
【0037】
本発明者らは、原料である甲殻類の外骨格または昆虫類に対する処理として、新たに酵素処理または酸による処理を行うことにより、上記原料から代替タンパク質として可溶化物(アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種)を得ることに着目した。その結果、驚くべきことに上述した第1工程またはA工程を実行することにより、原料から所定の溶解度を有する可溶化物を取り出せる(たとえば液体中に抽出できる)ことを知見した。さらに第2工程またはB工程を実行することにより、上記可溶化物を回収することを達成した。もって上記第1の方法および第2の方法により、原料である甲殻類の外骨格または昆虫類から、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種である可溶化物を含む組成物の製造することを想到した。以下、第1の方法および第2の方法における各工程について説明する。
【0038】
(第1の方法における第1工程)
第1工程は、水に浸漬した上記甲殻類の外骨格または昆虫類に対し、加温下で中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの両者を用いて処理することにより上記可溶化物を得る工程である。第1工程は、上記組成物を製造するために、必要となる原料(甲殻類の外骨格または昆虫類)を準備した上で、必要な処理を行うことを目的として実行される。なお原料である甲殻類の外骨格または昆虫類については、上記<甲殻類および/または昆虫類>の項目で説明したとおりの特徴を有するので、重複する説明は繰り返さない。
【0039】
第1工程においては、まず原料である甲殻類の外骨格または昆虫類を水に浸漬する。上記原料を浸漬するの水の種類については特に制限されることはないが、後述する酵素処理を効果的に行う観点から蒸留水、超純水等を用いることが好ましい。さらに水に浸漬した甲殻類の外骨格または昆虫類に対し、加温下で中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの両者を用いて処理する。
【0040】
具体的には、甲殻類の外骨格または昆虫類が浸漬されている水を40~80℃に加温した上で、上記甲殻類の外骨格または昆虫類を中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの両者を用いて処理することにより、甲殻類の外骨格または昆虫類が浸漬されている水中に可溶化物を抽出することができる。すなわち上記可溶化物を得る工程(第1工程)は、上記水を40℃以上80℃以下に加温する工程を含むことが好ましい。上記加温する工程は、上記水を40℃以上70℃以下とすることがより好ましい。
【0041】
上記中性プロテアーゼとしては、中性域(pH6~8)に至適pHを有するエキソペプチダーゼであることが好ましく、中性域(pH6~8)に至適pHを有するエンドペプチダーゼであることも好ましい。上記アルカリプロテアーゼとしては、アルカリ性域(pH8~10)に至適pHを有するエキソペプチダーゼであることが好ましく、アルカリ性域(pH8~10)に至適pHを有するエンドペプチダーゼであることも好ましい。
【0042】
より具体的には、中性プロテアーゼとしては、中性域(pH6~8)に至適pHを有するアミノペプチダーゼ、ジペプチジル-ペプチダーゼ、トリペプチジル-ペプチダーゼ、ペプチジル-ジペプチダーゼ、セリン型カルボキシペプチダーゼ、金属カルボキシペプチダーゼ、システイン型カルボキシペプチダーゼ、セリンエンドペプチダーゼ、システインエンドシペプチダーゼ、金属エンドペプチダーゼおよびスレオニンエンドペプチダーゼからなる群より1種または2種以上を選択して用いることができる。
【0043】
上記アルカリプロテアーゼとしては、アルカリ性域(pH8~10)に至適pHを有するアミノペプチダーゼ、ジペプチジル-ペプチダーゼ、トリペプチジル-ペプチダーゼ、ペプチジル-ジペプチダーゼ、セリン型カルボキシペプチダーゼ、金属カルボキシペプチダーゼ、システイン型カルボキシペプチダーゼ、セリンエンドペプチダーゼ、システインエンドシペプチダーゼ、金属エンドペプチダーゼおよびスレオニンエンドペプチダーゼからなる群より1種または2種以上を選択して用いることができる。
【0044】
中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの使用比率は、質量比で1:9~9:1であることが好ましく、質量比で3:7~7:3であることがより好ましい。
【0045】
さらに中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの使用量は、原料100質量部に対し、合計で0.1~2質量部であることが好ましく、0.5~1.5質量部であることがより好ましい。具体的には、中性プロテアーゼの使用量は、原料100質量部に対し、0.01~2質量部であることが好ましく、アルカリプロテアーゼの使用量は、原料100質量部に対し、0.01~2質量部であることが好ましい。
【0046】
中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの両者を用いた処理は、至適pHおよび至適温度の条件下にて行うことが好ましく、処理時間は使用する原料の量および浸漬させた水と、中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼとの比率等から適切な条件を設定することができる。例えば、中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの両者を用いた処理は、40~80℃、好ましくは40~70℃、pH6~8、かつ3~10時間の条件にて実行することが好ましい。上記水をpH6~8に調整する際に用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酒石酸、酪酸、フマル酸、ギ酸等の有機酸を例示することができる。上記水をpH6~8に調整する際に用いる塩基としては、ならびに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩基を例示することができる。さらにピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基を用いることもできる。
【0047】
なお、中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの両者を用いた処理の後、上記中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの両者を加熱等によって失活することが好ましい。加熱温度としては70~90℃とすることができる。以上により、甲殻類の外骨格または昆虫類が浸漬されている水中に可溶化物を抽出することができる。以下、第1工程により得られる可溶化物を含む水を「処理液」と記して説明する。
【0048】
(第1の方法における第2工程)
第2工程は、上記可溶化物を回収する工程である。第2工程は、上記処理液から可溶化物を高純度で回収することを目的として、各種の分離処理および精製処理を行う工程である。さらに第2工程は、分離および精製して回収した可溶化物を含む組成物を乾燥させて粉末化する工程を含むこともできる。
【0049】
分離処理としては、従来公知の分離処理を適用することができる。たとえばナイロン製メッシュを用いた粗濾過、遠心分離、市販の濾紙を用いた濾紙濾過等の分離処理により、上記処理液から可溶化物を分離することができる。さらに上述した分離処理を適用することにより得た可溶化物に対して行う精製処理としては、従来公知の精製処理を適用することができ、たとえば珪藻土を用いる精製処理、あるいは精密濾過による精製処理等を行うことができる。さらに塩濃度を低下させる必要がある場合、カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の両方またはいずれか一方を用いた脱イオン処理を行うことができる。さらに必要に応じて活性炭等を用いることにより、脱臭処理を行うこともできる。
【0050】
以上のようにして可溶化物を高純度で含む組成物を得ることができる。上記組成物は、そのまま溶液の状態で保存することができる。さらに溶液の状態の組成物に対し、従来公知の噴霧乾燥またはドラム乾燥または凍結乾燥等の方法を用いることにより組成物の乾燥粉末を得、その状態で保存することもできる。
【0051】
(第2の方法におけるA工程)
A工程は、水に浸漬した上記甲殻類の外骨格または上記昆虫類に対し、加温下で酵素を用いることなくpH2~4で処理することにより上記可溶化物を得る工程である。A工程は、上記組成物を製造するために、必要となる原料(甲殻類の外骨格または昆虫類)を準備した上で、必要な処理を行うことを目的として実行される。ここで原料である甲殻類の外骨格または昆虫類については、上記<甲殻類および/または昆虫類>の項目で説明したとおりの特徴を有するので、重複する説明は繰り返さない。
【0052】
第1工程においては、原料である甲殻類の外骨格または昆虫類を水に浸漬する。上記原料を浸漬するの水の種類については特に制限されることはないが、後述する酸処理を効果的に行う観点から蒸留水、超純水等を用いることが好ましい。さらに水に浸漬した甲殻類の外骨格または昆虫類に対し、加温下で酵素を用いることなくpH2~4で処理する。
【0053】
具体的には、甲殻類の外骨格または昆虫類が浸漬されている水を40~80℃に加温した上で、上記甲殻類の外骨格または昆虫類を酵素を用いることなくpH2~4で処理することにより、水中に可溶化物を抽出することができる。すなわち上記可溶化物を得る工程(A工程)は、上記水を40℃以上80℃以下に加温する工程を含むことが好ましい。上記加温する工程は、上記水を60℃以上80℃以下とすることがより好ましい。
【0054】
pH2~4での処理(以下、「酸処理」とも記す)は、必要な酸を甲殻類の外骨格または昆虫類が浸漬されている水に添加することにより行うことができる。そのような酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、pH2~4に調整可能な有機酸等を例示することができる。以上により、甲殻類の外骨格または昆虫類が浸漬されている水中に可溶化物を抽出することができる。以下、A工程により得られる可溶化物を含む水を「第2処理液」と記して説明する。
【0055】
(第2の方法におけるB工程)
B工程は、上記可溶化物を回収する工程である。B工程は、上記第2処理液から可溶化物を高純度で回収することを目的として、各種の分離処理および精製処理を行う工程であり、上述した第1の方法における第2工程と同じ要領によって行うことができる。したがってB工程は、分離および精製して回収した可溶化物を含む組成物を乾燥させて粉末化する工程を含むこともできる。
【0056】
とりわけB工程では、酸処理により得た第2処理液から可溶化物を回収するのに、第2処理液のpHを中性付近に調整することが好ましく、この場合、上記第2処理液の塩濃度が高まる可能性がある。このためB工程においては、塩濃度を低下させるために、カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の両方またはいずれか一方を用いることにより、脱イオン処理を行うことがより好ましい。
【0057】
以上のようにして可溶化物を高純度で含む組成物を得ることができる。上記組成物は、そのまま溶液の状態で保存することができる。さらに溶液の状態の組成物に対し、従来公知の噴霧乾燥またはドラム乾燥または凍結乾燥等の方法を用いることにより組成物の乾燥粉末を得、その状態で保存することもできる。
【0058】
<作用効果>
以上により、本実施形態に係る組成物の製造方法(上記第1の方法および第2の方法)は、原料である甲殻類の外骨格または昆虫類から、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質からなる群より選ばれる少なくとも1種である可溶化物を含む組成物を得ることができる。
【実施例0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
〔試料の作製〕
<実施例1>
(第1工程)
生エビ(日本産)を市場より入手し、その外骨格(500g)を準備した。上記生エビの外骨格を水洗した上で、蒸留水1Lに浸漬し、かつ水酸化ナトリウムを用いてpHを8.0に調整した。さらに上記生エビを浸漬した水(以下、「生エビ浸漬水」とも記す)を60℃に加温し、その状態で維持した。
【0061】
60℃に加温した生エビ浸漬水に中性プロテアーゼとしてパパイン(ナガセケムテック社製)と、アルカリプロテアーゼとしてアルカラーゼ(ノボザイム社製)とを質量比で1:1として添加した。その際、中性プロテアーゼおよびアルカリプロテアーゼの使用量は、生エビの外骨格100質量部に対し、それぞれ0.5質量部および0.5質量部とした。その後、酵素反応を5時間進行させた。これにより上記生エビ浸漬水中に可溶化物を抽出し、もって処理液を得た。
【0062】
(第2工程)
上記処理液に対し、遠心分離、および市販の濾紙を用いた濾過等の公知の分離処理を行い、かつ公知の精密濾過を用いた精製処理を行うことにより実施例1の可溶化物を含む組成物を回収した。さらに上記組成物に対して噴霧乾燥を行うことにより粉末化した。実施例1の可溶化物を含む組成物に対し、上述した方法によって可溶化物の重量平均分子量を測定したところ、468Daであった。
【0063】
<実施例2>
原料を乾燥粉末コオロギ(タイ産)とすること以外、実施例1と同じ要領により実施例2の可溶化物を含む組成物を得た。さらに上記組成物に対して噴霧乾燥を行うことにより粉末化した。実施例2の可溶化物を含む組成物に対し、上述した方法によって可溶化物の重量平均分子量を測定したところ、757Daであった。
【0064】
<実施例3>
(A工程)
乾燥粉末コオロギ(タイ産)を市場から入手することにより準備した。上記乾燥粉末コオロギ500gを蒸留水5Lに浸漬し、かつ塩酸を用いてpHを2~4に調整した。さらに上記乾燥粉末コオロギを浸漬した水(以下、「乾燥粉末コオロギ浸漬水」とも記す)を80℃に加温し、その状態で5時間維持した。これにより上記乾燥粉末コオロギ浸漬水に可溶化物を抽出し、もって第2処理液を得た。
【0065】
(B工程)
上記第2処理液に対し、遠心分離、および市販の濾紙を用いた濾過等の公知の分離処理を行い、かつ公知の精密濾過を用いた精製処理を行うことにより実施例3の可溶化物を含む組成物を回収した。さらに上記組成物に対して噴霧乾燥を行うことにより粉末化した。実施例3の可溶化物を含む組成物に対し、上述した方法によって可溶化物の重量平均分子量を測定したところ、4616Daであった。
【0066】
<比較例1>
乾燥粉末コオロギ(タイ産)を比較例1破砕物とした。つまり上記乾燥粉末コオロギは、コオロギの成虫を所定の破砕機により破砕した破砕物である。
【0067】
〔第1試験〕
<アミノ酸組成分析>
実施例1~実施例2の可溶化物を含む組成物に関し、その可溶化物のアミノ酸組成を分析するため、上述した方法によりアミノ酸組成分析を実行した。結果を表1に示す。表1では、参考例1としてカゼイン(可食部)のアミノ酸組成を、参考例2として和牛モモ肉(可食部)のアミノ酸組成を、参考例3として蒸し大豆(可食部)のアミノ酸組成を、それぞれ文部科学省が示す『食品成分データベース』(https://fooddb.mext.go.jp/index.pl)を参照することにより示した。
【0068】
【表1】
【0069】
<考察>
表1によれば、実施例1~実施例2の可溶化物を含む組成物は、いずれもアミノ酸組成を豊富に含む組成物であると評価された。とりわけ実施例2の可溶化物を含む組成物は、いずれも必須アミノ酸であるとされる10種のアミノ酸(フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニンおよびアルギニン)をすべて有していた。
【0070】
〔第2試験〕
<溶解度>
実施例1~実施例3の可溶化物を含む組成物に対し、上述した方法により、それぞれの溶解度を求めた。結果を表2に示す。
【0071】
〔第3試験〕
<透過率>
実施例1~実施例3の可溶化物を含む組成物に対し、上述した方法により、上記組成物が1質量%濃度である場合、上記組成物が5質量%濃度である場合および上記組成物が10量%濃度である場合における透過率をそれぞれ求めた。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
<考察>
表2によれば、実施例1~実施例3の可溶化物を含む組成物は、いずれも1気圧20℃における水100gに対する溶解度が10g以上80g以下である。さらに上記組成物の透過率は、組成物が1質量%濃度である場合に80%以上であること、組成物が5質量%濃度である場合に30%以上であることの両者を満たす。したがって、実施例1~実施例3の可溶化物を含む組成物は、水溶性の特徴ならびに原料特有の外観および形状が残らず、かつ原料特有の色および風味等が低減する特徴を有することにより、多様な用途に適用することができると示唆される。
【0074】
〔第4試験〕
実施例2および比較例1の組成物を対象とし、以下の条件にて逆相高速液体クロマトグラフィー解析(逆相HPLC解析)を行った。当該解析から得られたHPLCパターンを図1に示す。このHPLC条件では、溶出時間が経過するほど、分子量の小さいタンパク質が検出される。
サンプル調整方法:溶媒としての超純水と70質量%エタノールとに、実施例2および比較例1の組成物をそれぞれ50mg/mLの濃度となるように溶解した。その後、14000rpmで5分間遠心分離することにより上清を回収した。当該上清を0.45μmのフィルタにて濾過した後、5倍希釈することにより実施例2および比較例1に対応する各被測定溶液を調整した。
逆相HPLC解析に用いる溶媒:A buffer:0.1質量% TFA;B buffer:0.1質量%アセトニトリル
0~20分 A 100% B 0%
20~30分 A 80% B 20%→A 20% B 80%;
30~60分 A 0% B 100%
カラム:ODS-80Ts
検出波長:UV254nm
温度:室温。
【0075】
図1によれば、実施例2のHPLCパターンは、比較例1のそれ比べ、溶出時間が経過するほど検出される量が多い傾向を示すことから、実施例2の組成物は、比較例1に比べ分子量の小さいタンパク質がより多く含まれていることが理解される。
【0076】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1