(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152118
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】水系ナトリウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20231005BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M4/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062066
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】千葉 和幸
(72)【発明者】
【氏名】松永 修
(72)【発明者】
【氏名】小林 渉
(72)【発明者】
【氏名】高原 俊也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健一
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK04
5H029AL01
5H029AL11
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ05
5H050AA08
5H050BA08
5H050CA10
5H050CB01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】
高い電気化学容量を発現する水系ナトリウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】
正極、負極、電解液及びセパレータを備え、前記正極は少なくとも一般式Na1-xMF3(MはFe、Mn、Ni及びCoの群から選ばれる少なくともいずれか、xは0≦x<1)で表されるナトリウム遷移金属フッ化物を含む正極活物質を備え、前記電解液として水系電解液を備えることを特徴とする水系ナトリウムイオン二次電池。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、電解液及びセパレータを備え、前記正極は少なくとも一般式Na1-xMF3(MはFe(鉄)、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)及びCo(コバルト)の群から選ばれる少なくともいずれか、xは0≦x<1)で表されるナトリウム遷移金属フッ化物を含む正極活物質を備え、前記電解液として水系電解液を備えることを特徴とする水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記ナトリウム遷移金属フッ化物の表面の一部又は全部にカーボンを有することを特徴とする請求項1に記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記ナトリウム遷移金属フッ化物のWilliamson-Hall法により求められる結晶子径が200Å以上850Å以下である請求項1又は2に記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記水系電解液がNa2SO4、NaNO3及びNaClO4の群から選ばれる1つ以上を含む請求項1又は2に記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記負極が少なくともNaTi2(PO4)3を含む請求項1又は2に記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記正極が少なくとも一般式Na1-xMF3(MはFe、Mnから選ばれる少なくともいずれか、xは0≦x<1)で表されるナトリウム遷移金属フッ化物を含む正極活物質を備え、前記負極が少なくともNaTi2(PO4)3を含み、なおかつ、前記水系電解液が少なくともNaClO4を含む請求項1又は2に記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
【請求項7】
少なくとも一般式Na1-xMF3(MはFe、Mn、Ni及びCoの群から選ばれる少なくともいずれか、xは0≦x<1)で表されるナトリウム遷移金属フッ化物を含む水系ナトリウムイオン二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池の技術分野に属し、特に、水系ナトリウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウムイオン二次電池は、レアメタルであるリチウムを使用しないため、ポストリチウムイオン二次電池として注目を集めている。ナトリウムイオン二次電池としては、現行のリチウムイオン二次電池と同様な電解液、主として非水系電解液、を備えたものが検討されている(非特許文献1)。非水系電解液を備えた電池は、可燃性であること及びコストの問題が生じる。そのため、不燃性でかつ安価な水を使用する水系電解液を使用したナトリウムイオン二次電池が検討されているが、その電気化学容量は50mAh/g程度であった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Electrochemical Society,162(14),A2538‐A2550(2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、従来知られている非水系電解液を備えるナトリウムイオン二次電池と同等以上の電気化学容量を発現し得る水系電解液を備えるナトリウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、水系電解液を備えるナトリウムイオン二次電池(以下、「水系ナトリウムイオン二次電池」とする。)について鋭意検討を重ねた。その結果、ナトリウム含有遷移金属フッ化物を正極活物質に使用することで、従来知られている非水系ナトリウムイオン二次電池と比較した場合に、同等以上の電気化学容量を発現しうる水系ナトリウムイオン二次電池が構成できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は特許請求の範囲に係る発明であり、本開示の要旨は以下の通りある。
【0008】
[1] 正極、負極、電解液及びセパレータを備え、前記正極は少なくとも一般式Na1-xMF3(MはFe(鉄)、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)及びCo(コバルト)の群から選ばれる少なくともいずれか、xは0≦x<1)で表されるナトリウム遷移金属フッ化物を含む正極活物質を備え、前記電解液として水系電解液を備えることを特徴とする水系ナトリウムイオン二次電池。
[2] 前記ナトリウム遷移金属フッ化物の表面の一部又は全部にカーボンを有することを特徴とする上記[1]に記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
[3] 前記ナトリウム遷移金属フッ化物のWilliamson-Hall法により求められる結晶子径が200Å以上850Å以下である上記[1]又は[2]に記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
[4] 前記水系電解液がNa2SO4、NaNO3及びNaClO4の群から選ばれる1つ以上を含む上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
[5] 前記負極が少なくともNaTi2(PO4)3を含む上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
[6] 前記正極が少なくとも一般式Na1-xMF3(MはFe、Mnから選ばれる少なくともいずれか、xは0≦x<1)で表されるナトリウム遷移金属フッ化物を含む正極活物質を備え、前記負極が少なくともNaTi2(PO4)3を含み、なおかつ、前記水系電解液が少なくともNaClO4を含む上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の水系ナトリウムイオン二次電池。
[7] 少なくとも一般式Na1-xMF3(MはFe、Mn、Ni及びCoの群から選ばれる少なくともいずれか、xは0≦x<1)で表されるナトリウム遷移金属フッ化物を含む水系ナトリウムイオン二次電池用正極活物質。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、従来知られている非水系電解液を備えるナトリウムイオン二次電池と比較した場合に、同等以上の電気化学容量を発現しうる水系ナトリウムイオン二次電池を提供することができる。水系電解液を用いることにより、水系ナトリウムイオン二次電池の低コスト化、高レート化、不燃化を図ることができ、その実用化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】水系ナトリウムイオン二次電池(ハーフセル)の概略図
【
図2】実施例1の2サイクル目の充放電プロファイル
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の水系ナトリウムイオン二次電池の好ましい実施形態について説明する。なお、以下において、ナトリウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、及びナトリウムイオン電池の用語はそれぞれ同じ意味で使用される。
【0012】
本実施形態の水系ナトリウムイオン二次電池の正極は、少なくとも一般式Na1-xMF3(MはFe(鉄)、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)及びCo(コバルト)の群から選ばれる少なくともいずれか、xは0≦x<1)で表されるナトリウム遷移金属フッ化物を含む正極活物質を備える。ナトリウム遷移金属フッ化物は人工的に合成された、ナトリウム遷移金属フッ化物であることが好ましい。これが水系ナトリウムイオン二次電池の正極活物質として機能する。また、本実施形態のナトリウム遷移金属フッ化物は、少なくとも一般式Na1-xMF3(MはFe、Mn、Ni及びCoの群から選ばれる少なくともいずれか、xは0≦x<1)で表されるナトリウム遷移金属フッ化物を含む水系ナトリウムイオン二次電池用正極活物質、である。
【0013】
ここで、Mは、少なくともFeを含むことが好ましく、Fe及びMnの少なくともいずれかであることがより好ましく、特に、Feであることが好ましい。また、xは0以上1未満であってもよい。
【0014】
本実施形態の水系ナトリウムイオン二次電池の正極は、ナトリウム遷移金属フッ化物を正極活物質として含んでいればよく、正極活物質中のナトリウム遷移金属フッ化物の含有量が80%以上100%以下であることが好ましく、さらに、90%以上100%以下であることが好ましく、特に100%であること(正極活物質がナトリウム遷移金属フッ化物のみであること)が特に好ましい。
【0015】
ナトリウム遷移金属フッ化物の物性は特に制限はなく、目的とする電池構成に合わせて適宜調整すればよい。物性として、例えば、結晶系、純度、結晶配向性、細孔径、細孔分布、細孔容積、BET比表面積、一次粒子径、二次粒子径、粉体粒子径、粒子径分布、粒子形態、及び粒度構成が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0016】
ナトリウム遷移金属フッ化物を正極活物質として用いる場合、その表面の一部又は全部にカーボンを有することが好ましい。これにより、導電性が高くなり、電池の内部抵抗を減少させることができるためである。その方法としては、ボールミルあるいは遊星型ボールミルを使用した炭素材料を粉砕しながら混合する方法や、炭素材料と混合後、不活性ガス雰囲気下でのカルボサーマル処理を例示することができる。
【0017】
正極は、正極活物質と、バインダー及び導電材の少なくともいずれかと、を含む正極合剤としてもよい。バインダー及び導電材は公知のものを使用することができ、例えば、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、SBR系材料、イミド系材料等から選ばれる1つ以上、並びに、導電材として、例えば、炭素材料、金属繊維等の導電性繊維、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末、ポルフェニレン誘導体等の有機導電性材料から選ばれる1つ以上が挙げられる。なお、炭素材料としては、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、芳香環を含む合成樹脂、石油系ピッチ等を焼成して得られたメソポーラスカーボン等が例示されるが、これらに制限されない。
【0018】
正極合剤は公知の方法で製造することができ、ナトリウム遷移金属フッ化物、バインダー及び導電材を目的とする正極合剤に適した比率で混合すればよい。
【0019】
本実施形態の水系ナトリウムイオン二次電池は、電解液として水系電解液を備える。水系電解液は、溶媒である水と、電解質とを含む。電解質は、水溶性のナトリウム塩であればよく、Na2SO4、NaNO3、NaClO4及びNaOHの群から選ばれる1つ以上が例示できる。取り扱いの容易性から、電解質はNa2SO4、NaNO3及びNaClO4の群から選ばれる1つ以上が好ましい。電解液中の電解質濃度は特に制限はないが、ナトリウムイオン二次電池としてのエネルギー密度を高くする観点から、電解液における電解質濃度(ナトリウム塩濃度)は高いことが好ましく、ナトリウム塩濃度として1mol/kg以上が例示でき、飽和溶解度(例えばNaClO4の場合、17mol/kg)以下の濃度であることが挙げられる。
【0020】
電解液の保存安定性や電池特性等を最適化するため、電解液は添加剤を含んでいてもよい。添加剤として、例えば、コハク酸、グルタミン酸、マレイン酸、シトラコン酸、グルコン酸、イタコン酸、ジグリコール、エチレングルコール、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、1,3‐プロパンスルトン、1,4‐ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、スルホラン、ジメチルスルホン、N,N‐ジメチルメタンスルホンアミド、尿素等が例示できるが、これらに制限されない。電解液中の添加剤の含有量は、0.01~10質量%であることが好ましい。
【0021】
本実施形態の水系ナトリウムイオン二次電池の負極は、負極活物質として、ナトリウムイオンの吸蔵及び放出を妨げない材料を含んでいればよい。負極活物質として、例えば、白金、亜鉛、炭素材料、ナトリウムと合金を形成する材料、ナトリウム含有遷移金属酸化物、及びナトリウム含有ポリアニオン材料の群から選ばれる1つ以上が挙げられ、炭素材料、ポリイミド類、遷移金属含有シアノ化合物及び遷移金属含有ポリアニオン化合物の群から選ばれる1つ以上が好ましい。具体的な負極活物質として、炭素材料として活性炭、遷移金属含有シアノ化合物としてNa2Mn[Mn(CN)6]、及び遷移金属含有ポリアニオン化合物としてNaTi2(PO4)3が挙げられる。特に、好ましい負極活物質としてNaTi2(PO4)3が挙げられる。
【0022】
本実施形態の水系ナトリウムイオン二次電池の負極は、負極活物質と、バインダー及び導電材の少なくともいずれかと、を含む負極合剤としてもよい。バインダー及び導電材は公知のものを使用することができ、例えば、上記の正極合剤で使用できるものと同様なバインダー及び導電材が挙げられる。負極合剤は任意の方法で製造することができ、負極活物質、バインダー及び導電材を目的とする負極合剤に適した比率で混合すればよい。
【0023】
集電体等、水系ナトリウムイオン二次電池のこの他の構成要素は、公知のナトリウムイオン二次電池に使用されるものを使用することができる。
【0024】
本実施形態の水系ナトリウムイオン二次電池は、特に、正極が少なくとも一般式Na1-xMF3(MはFe、Mnから選ばれる少なくともいずれか、xは0≦x<1)で表されるナトリウム遷移金属フッ化物を含む正極活物質を備え、前記負極が少なくともNaTi2(PO4)3を含み、なおかつ、前記水系電解液が少なくともNaClO4を含む水系ナトリウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0025】
本実施形態の水系ナトリウムイオン二次電池の正極活物質であるナトリウム遷移金属フッ化物は、任意の方法で製造することができる。ナトリウム遷移金属フッ化物の製造方法として、例えば、ナトリウム源、フッ素源、遷移金属源及び水を含有し、なおかつ、水の含有量が75質量%以下である組成物を結晶化する工程、を有する製造方法により得ることができる。
【0026】
ナトリウム源は、ナトリウム(Na)を含む塩及び化合物の少なくともいずれかであり、水溶性のナトリウム塩が挙げられる。具体的なナトリウム源として、フッ化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリム及びヘキサメタリン酸ナトリウムの群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0027】
フッ素源は、フッ素(F)を含む塩及び化合物の少なくともいずれかであり、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム及びフッ化アンモニウムの群から選ばれる1以上、フッ化ナトリウム及びフッ化カリウムの少なくともいずれか、若しくは、フッ化ナトリウム、が挙げられる。なお、フッ化ナトリウムはフッ素及びナトリウムを含むため、ナトリウム源及びフッ素源とみなすことができる。
【0028】
遷移金属源は、遷移金属を含む塩及び化合物の少なくともいずれかであり、遷移金属の硫酸塩、硝酸塩及び塩化物の群から選ばれる1以上であることが好ましい。遷移金属源は、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)の群から選ばれる1以上の元素を含むことが好ましく、Fe及びMnの群から選ばれる1以上であることがより好ましい。
【0029】
水(H2O)は、純水及びイオン交換水等が挙げられる。
【0030】
ナトリウム源、フッ素源、遷移金属源及び水を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)は水の含有量が75質量%以下であることが好ましく、また40質量%以上であることが好ましい。原料組成物の水の含有量が上述の範囲を超えると、ナトリウム源、フッ素源及び遷移金属源が完全溶解した状態の原料組成物から複数の異なる相の核生成及び結晶化が促進され、単一相のナトリウム遷移金属フッ化物が得られにくくなる。
【0031】
原料組成物の液性は酸性~中性、更には弱酸性から中性であることが好ましく、そのpHは2.5以上であり、かつ、7.0以下であることが挙げられる。
【0032】
原料組成物は、pH調整等原料組成物の状態を安定化するため添加剤を含んでいることが好ましい。添加剤としては、酸が挙げられ、無機酸及び有機酸の少なくともいずれかであればよい。好ましい酸として、塩酸、アスコルビン酸、亜硫酸及びチオ硫酸の群から選ばれる1以上が例示できる。
【0033】
原料組成物の組成として、以下の質量組成が挙げられる。なお、以下の組成における合計は100質量%である。
ナトリウム源 : 4質量%以上、18質量%以上
フッ素源 : 4質量%以上、18質量%以上
遷移金属源 : 5質量%以上、12質量%以上
添加物 : 0質量%以上、22質量%以下
水 : 残部
ナトリウム遷移金属フッ化物の製造方法において、結晶化は水熱処理により行えばよい。水熱処理において、原料組成物を、フッ素樹脂製容器や、内面をフッ素樹脂で被覆した容器に密閉して結晶化することで、反応容器と原料組成物との副反応が生じにくくなる。さらに、水熱処理は静置状態又は撹拌状態であればよく、撹拌状態であることが好ましい。
【0034】
好ましい結晶化条件として以下の条件が挙げられる。
結晶化温度 : 60℃以上又は80℃以上、かつ、
230℃以下、200℃以下、180℃以下又は160℃以下
結晶化時間 : 1時間以上、5時間以上又は10時間以上かつ、
120時間以下、100時間以下又は48時間以下
結晶化圧力 : 自生圧
【0035】
結晶化温度は、反応速度の観点から高い方が望ましいが、250℃以下で原料組成物を結晶化することが好ましい。結晶化温度が250℃以下であることで副生相の生成が抑制されやすく、本実施形態のナトリウム遷移金属フッ化物が単一相で得られやすくなる。
【0036】
ナトリウム遷移金属フッ化物の製造方法は、洗浄工程、乾燥工程等の後処理工程を有していてもよい。
【0037】
洗浄工程は、ナトリウム遷移金属フッ化物を回収し、洗浄し、未反応物や不純物を除去する。回収はろ過等の公知の固液分離により行えばよく、洗浄は回収したナトリウム遷移金属フッ化物に十分量の純水を流通させればよい。
【0038】
乾燥工程は、ナトリウム遷移金属フッ化物に付着した水分を除去する。乾燥は公知の方法で行うことができ、例えば、大気中、100~180℃で処理することや、真空雰囲気、60~150℃で処理することが例示できる。
【0039】
本実施形態の水系ナトリウムイオン二次電池の正極活物質であるナトリウム遷移金属フッ化物が、一般式Na1-xMF3(Mは、Fe、Mn、Ni及びCoの群から選ばれる1以上、0≦x<1)で表されるナトリウム遷移金属フッ化物であることは、その粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンによって確認することができる。
【0040】
すなわち、本実施形態のナトリウム遷移金属フッ化物のXRDパターンのRietvelt解析し、これとシミュレーションにより得られるXRDパターン(以下、「参照データ」ともいう。)とを対比すること(フィッティング)によって確認することができる。
【0041】
Rietvelt解析及びフィッティングは、それぞれ、参照データを使用して行えばよい。参照データとして、例えば、解析ソフトとしてPDXL-2を使用した場合、そのデータベースカード番号が、NaFeF3が01-080-1156、NaMnF3が01-018-224、NaNiF3が01-081-0953、及び、NaCoF3が01-081-0955であることが挙げられる。
【0042】
XRDパターンは、一般的な粉末X線回折装置を使用して測定すればよい。XRDパターンの好ましい測定条件として、以下の条件が例示できる。
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン速度 : 20°/分
計測時間 : 3秒
測定範囲 : 2θ=5°から90°
【0043】
本実施形態の水系ナトリウムイオン二次電池の正極活物質であるナトリウム遷移金属フッ化物は、結晶性が高く、そのXRDパターンにおいて回折強度が最大のピーク(以下、「メインピーク」ともいう。)の半値幅(以下、「FWHM」ともいう。)が0.20°以下であり、0.15°以下であることが好ましい。メインピークの半値幅は、0.20°以下、0.15°以下又は0.12°以下であること、また、0を超え、0.01以上、0.04以上又は0.06以上であること、が挙げられる。
【0044】
メインピークは、一般的な解析ソフト(例えば、PDXL-2)を使用したXRDパターンの解析においてピークトップの2θが特定されて検出されるピークであり、回折強度は、解析で特定された2θにおける強度(以下、「ピーク強度」ともいう。)である。メインピークは、XRDパターンにおいて最も高いピーク強度を有するピークである。
【0045】
メインピークの2θは、22.0°~32.0°であり、それぞれ、NaFeF3が22.5±0.5°、NaMnF3が31.6±0.5°、NaNiF3が23.0±0.5°、及び、NaCoF3が23.0±0.5°であることが挙げられる。
【0046】
本実施形態の水系ナトリウムイオン二次電池の正極活物質であるナトリウム遷移金属フッ化物は、Williamson-Hall法により求められる結晶子径(以下、「WH径」ともいう。)が200Å以上850Å以下であり250Å以上700Å以下であることが好ましい。
【0047】
WH径は、一般式Na1-xMF3に帰属される3つのXRDピークについて、それぞれ、以下のプロット(X,Y)を求め、得られるプロットの最小二乗法により求められる以下の一次近似式におけるy切片の逆数(ε)として求めることができる。
【0048】
<プロット>
Y=(β・sinθ)/λ
X=sinθ/λ
<一次近似式>
Y=2η・X+(1/ε) ・・・(1)
上式において、βは半値幅(°)、θは回折角(°)、λは線源の波長(nm)、ηは不均一歪及びεはWH径(Å)である。なお、η(傾き)及び1/ε(y切片)は、プロットの最小二乗法により求められる。
【0049】
WH径の測定に際して使用するXRDピークは、それぞれ、(020)面、(121)面及び(202)面に相当するピークであればよく、これらのXRDピークは上述の参照データとのフィッティングにより確認することができる。
【0050】
好ましいWH径として、それぞれ、NaFeF3が200Å以上又は250Å以上であること、また、700Å以下又は600Å以下であることが挙げられ、NaMnF3が500Å以上又は550Å以上であること、また、700Å以下又は650Å以下であることが挙げられ、NaNiF3が500Å以上であること、また700Å以下であることが挙げられ、NaCoF3が600Å以上であること、また850Å以下であることが挙げられる。
【実施例0051】
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明する。しかしながら、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
<ナトリウムイオン二次電池(ハーフセル)の作製>
ナトリウム遷移金属フッ化物とアセチレンブラック(製品名:DENKA BLACK Li Li-435,デンカ社製)を質量比が70:30となるように秤量した後、遊星ボールミルを使用して、400rpm、1時間、Ar雰囲気下でカーボンコート処理を行い、粉末状の、表面をカーボンで被覆されたナトリウム遷移金属フッ化物からなる正極活物質を得た。得られた正極活物質と、PTFE(製品名:ポリフロン PTFE F-104,ダイキン工業社製)を、質量比90:10で混合して正極合剤を得た。この正極合材を直径10mmのペレット状に成形後、圧力1t/cm
2の一軸プレスでチタンメッシュに圧着して正極とした。対極(負極)に板状の亜鉛(Zn)、参照極に銀-塩化銀電極(Ag/AgCl)、電解液に15.5mol/kg NaClO
4水溶液を使用し、
図1に示すハーフセル型のナトリウムイオン二次電池を作製した。
<水系ナトリウム二次電池の評価>
作製したナトリウムイオン二次電池(ハーフセル)を用いて、定電流充放電試験の評価を行った。評価条件は以下のとおりである。
温度 :室温(24.5±2.5℃)
電極電位 :-0.95V~1.30V(銀-塩化銀電極基準)
電流密度 :2mA/cm
2の一定電流密度
充放電回数 :3サイクル
【0052】
<組成分析>
一般的なX線回折装置(装置名:SmartLab、リガク社製)を使用して、合成したナトリウム遷移金属フッ化物を評価した。測定条件は以下の通りである。
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン速度 : 20°/分
計測時間 : 3秒
測定範囲 : 2θ=5°から90°
さらに遷移金属とナトリウムの組成比を確定するために、X線回折装置(装置名:SmartLab、リガク社製)に付属のデータ処理ソフト(商品名:PDXL-2、リガク社製)により、Rietvelt精密解析を行い、生成物の組成を求めた。
【0053】
<ナトリウム遷移金属フッ化物の合成>
合成例1(ナトリウム鉄フッ化物の合成)
市販の塩化鉄四水和物(FeCl2・4H2O)、市販のフッ化ナトリウム(NaF)、市販の塩酸(HCl)及び水を混合し、以下の組成を有し、pHが6.0である原料組成物を得た。
FeCl2 : 7.4質量%
NaF : 15.0質量%
HCl : 13.4質量%
H2O : 残部
原料組成物をフッ素樹脂製容器に充填し、容器を密閉した。当該容器を70℃の恒温槽に配置し、静置した状態で16時間処理した。得られた結晶化物を純水で洗浄した後に回収し、80℃で4時間真空乾燥し、本合成例のナトリウム遷移金属フッ化物とした。評価の結果、得られたナトリウム鉄フッ化物は、NaFeF3組成の単一相であり、副生相を含んでいなかった。
【0054】
合成例2(ナトリウムマンガンフッ化物の合成)
市販の硫酸マンガン五水和物(MnSO4・5H2O)、市販のフッ化ナトリウム、市販のアスコルビン酸及び純水を混合し、以下の組成を有し、pHが3.5である原料組成物を得た。
MnSO4 : 9.1質量%
NaF : 7.8質量%
アスコルビン酸 : 10.6質量%
H2O : 残部
【0055】
原料組成物をフッ素樹脂製容器に充填し、容器を密閉した。当該容器を180℃の恒温槽に配置し、静置した状態で16時間処理した。得られた結晶化物を純水で洗浄した後に回収し、80℃で4時間真空乾燥し、本合成例のナトリウム遷移金属フッ化物とした。評価の結果、得られたナトリウムマンガンフッ化物は、NaMnF3組成の単一相であり、副生相を含んでいなかった。
【0056】
合成例1及び合成2の結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
実施例1
正極活物質として合成例1のナトリウム鉄フッ化物 NaFeF3を使用して、ナトリウムイオン二次電池(ハーフセル)を作製し、充放電試験を行った。2サイクル目の放電容量は101mAh/gであった。
【0059】
実施例2
正極活物質として合成例2のナトリウムマンガンフッ化物 NaMnF3を使用して、ナトリウムイオン二次電池(ハーフセル)を作製し、充放電試験を行った。2サイクル目の放電容量は95mAh/gであった。