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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152373
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】蒸発源装置及び蒸着装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20231010BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231010BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C23C14/24 A
H05B33/14 A
H05B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062324
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 尚矢
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC33
3K107CC45
3K107GG28
3K107GG32
3K107GG34
4K029AA02
4K029AA09
4K029AA11
4K029AA24
4K029BA01
4K029BA62
4K029BC07
4K029BD01
4K029CA01
4K029DB03
4K029DB04
4K029DB06
4K029DB12
4K029DB13
4K029DB17
4K029JA01
(57)【要約】
【課題】蒸発源装置において効果的な加熱を行う手段を提供する。
【解決手段】蒸着材料を内部に収容し、開口を有する容器と、容器の内部に配置され、蒸着材料を加熱する材料加熱体と、を備える蒸発源装置であって、材料加熱体が、気化した蒸着材料の開口へ向かって移動する方向に沿って伸縮する伸縮部を含むことを特徴とする蒸発源装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を内部に収容し、開口を有する容器と、
前記容器の内部に配置され、前記蒸着材料を加熱する材料加熱体と、
を備える蒸発源装置であって、
前記材料加熱体が、気化した前記蒸着材料の前記開口へ向かって移動する方向に沿って伸縮する伸縮部を含むことを特徴とする蒸発源装置。
【請求項2】
前記材料加熱体は、前記伸縮部に接続され、前記蒸着材料に対向する対向部をさらに含み、
前記伸縮部は、前記材料加熱体を通過した気化した前記蒸着材料を前記開口に向けて案内する通路を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の蒸発源装置。
【請求項3】
前記対向部は、前記方向において、前記容器内を移動可能に設けられるとともに、前記蒸着材料に隣接して配置されていることを特徴とする請求項2に記載の蒸発源装置。
【請求項4】
前記通路は、前記通路の出口の位置が前記容器に固定され、前記通路の入口の位置が前記対向部に対して一定の距離を保つべく前記対向部の位置の変化に対応して変化するように、伸縮可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の蒸発源装置。
【請求項5】
前記伸縮部は、第1の貫通孔を有する第1の通路形成部材と、前記第1の貫通孔と同じ方向に貫通する第2の貫通孔を有し前記第1の貫通孔に挿通される第2の通路形成部材と、を含み、
前記通路は、前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔とによって形成され、前記第1の通路形成部材が前記第2の貫通孔内を移動して前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔の貫通方向における相対位置が変化することで、伸縮する、
ことを特徴とする請求項4に記載の蒸発源装置。
【請求項6】
前記第1の通路形成部材は、前記対向部に固定され、
前記第1の貫通孔の前記対向部に対向する側における開口が、前記通路の前記入口となり、
前記第2の通路形成部材は、前記容器に固定され、
前記第2の貫通孔の前記容器の前記開口側における開口が、前記通路の前記出口となることを特徴とする請求項5に記載の蒸発源装置。
【請求項7】
前記第1の通路形成部材は、前記通路の断面積が前記入口から前記出口に近づくにつれて徐々に小さくなる中空状の錐体部と、前記断面積が一定の大きさである中空状の柱体部と、を有する漏斗状の部材であり、
前記錐体部は、前記貫通方向から見たときに前記入口側の端部が前記対向部を覆うことを特徴とする請求項5に記載の蒸発源装置。
【請求項8】
前記第2の通路形成部材は、前記錐体部と前記柱体部とに分割可能であることを特徴とする請求項7に記載の蒸発源装置。
【請求項9】
前記第1の通路形成部材は、前記第2の貫通孔内に位置して前記第1の通路形成部材の外周面から外側に突出するフランジ部を有し、
前記第2の通路形成部材は、前記フランジ部に対して前記入口側に位置して前記第2の通路形成部材の内周面から内側に突出する抜け止め部であって、前記貫通方向から見たときに前記フランジ部と重なる抜け止め部を有することを特徴とする請求項6に記載の蒸発
源装置。
【請求項10】
赤外線を照射可能な赤外線照射手段をさらに備え、
前記材料加熱体は、前記赤外線を吸収して発熱可能な材料で形成されることを特徴とする請求項1に記載の蒸発源装置。
【請求項11】
前記対向部は、気化した前記蒸着材料が内部を通過可能な多孔質の材料で形成されることを特徴とする請求項2に記載の蒸発源装置。
【請求項12】
前記対向部は、多孔質のSiC焼結体で形成されることを特徴とする請求項2に記載の蒸発源装置。
【請求項13】
前記伸縮部は、気化した前記蒸着材料が通過しない材料で形成されることを特徴とする請求項1に記載の蒸発源装置。
【請求項14】
前記伸縮部は、緻密質のSiC焼結体で形成されることを特徴とする請求項13に記載の蒸発源装置。
【請求項15】
前記容器は、前記赤外線が透過する材料で形成されることを特徴とする請求項10に記載の蒸発源装置。
【請求項16】
前記容器は、石英ガラスまたは透光性アルミナで形成されることを特徴とする請求項10に記載の蒸発源装置。
【請求項17】
前記容器と接続し、前記容器の前記開口の前記伸縮部以外の部分をすべて覆う蓋部材をさらに備え、
前記蓋部材は、前記赤外線を吸収して発熱可能な材料で形成されることを特徴とする請求項10に記載の蒸発源装置。
【請求項18】
前記蓋部材は、前記伸縮部と接続されていることを特徴とする請求項17に記載の蒸発源装置。
【請求項19】
チャンバと、
前記チャンバ内に設けられ、被蒸着体を保持する被蒸着体保持手段と、
前記チャンバ内に設けられる請求項1~18のいずれか1項に記載の蒸発源装置と、
を備えることを特徴とする蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発源装置と、その蒸発源装置を備える蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着に用いられる蒸着装置においては、坩堝等の容器内に収容された蒸着材料を蒸発させて、容器の開口に対向する基板の蒸着面に気化粒子を付着させる構成が知られている。
【0003】
特許文献1は、蒸着材料を収容する蒸発容器と、蒸発容器内の蒸着材料などを加熱するための加熱手段を開示している。加熱手段について、具体的に特許文献1には、容器内の蒸着材料の上面に接触する加熱源と、容器の周囲に設けられた加熱源や加熱ヒータが開示されている。また、蒸発容器の上部には、周囲に加熱ヒータを備えた移送ダクトが連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-39767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の開示においては、容器内の加熱源の高さが上部の移送ダクトには届いていない。そのため、容器内の加熱源による移送ダクトの内壁の加熱が不足する可能性がある。また、容器内の加熱源をより長くするとしても、蒸着材料の上面から材料の放出される開口までの高さが変化する構成においては、大量の蒸着材料を収容した際に適切な配置が行えないなどの課題が生じることが考えられる。
【0006】
本発明は、上述のような課題を鑑みてなされたものであり、蒸発源装置において効果的な加熱を行う手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蒸発源装置は、
蒸着材料を内部に収容し、開口を有する容器と、
前記容器の内部に配置され、前記蒸着材料を加熱する材料加熱体と、
を備える蒸発源装置であって、
前記材料加熱体が、気化した前記蒸着材料の前記開口へ向かって移動する方向に沿って伸縮する伸縮部を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蒸発源装置において効果的な加熱を行う手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】蒸着装置の模式断面図である。
図2】加熱体の対向部の詳細を示す図である。
図3】蒸着材料の残量が少量のときの蒸着装置の模式断面図である。
図4】加熱体の伸縮部と周辺部材の斜視図である。
図5】気化粒子の流れを示す断面図である。
図6】有機EL表示装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0011】
本発明は、真空蒸着を行うための蒸発源、及びその蒸発源を備える蒸着装置に関するものである。本発明は、例えば、基板等の被蒸着体の表面に真空蒸着により所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好ましく適用できる。基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属などの任意の材料を選択できる。なお、蒸発源装置の被蒸着体は、平板状の基板に限られない。例えば、凹凸や開口のある機械部品を被蒸着体としても良い。また、蒸着材料としても、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択できる。本発明は、特に、金属材料を蒸着材料として金属膜を成膜する蒸着装置に好ましく適用できる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機EL表示装置、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。
【0012】
(実施例)
<蒸着装置>
図1は、蒸着装置(成膜装置)1の構成を模式的に示す断面図である。蒸着装置1は、チャンバ4と、蒸発源装置5と、を有する。チャンバ4の内部は、不図示の真空ポンプ等を用い、真空雰囲気か、窒素ガスなどの不活性ガスで満たされた雰囲気となるように構成されている。なお、ここでいう真空とは、通常の大気圧(典型的には1023hPa)より低い圧力の気体で満たされた状態をいう。チャンバ4の内部には、被蒸着体である基板2を保持する基板保持部3と、蒸発源装置5が設けられる。被蒸着体保持手段である基板保持部3は、基板2を載置するための受け爪などの支持具や、基板を押圧保持するためのクランプなどの押圧具によって基板2を保持する。蒸発源装置5は、蒸発源装置5内に収容される蒸着材料6を加熱して、蒸発させる。蒸着材料6が蒸発して発生する気化粒子7が、チャンバ4の内部に設置された基板2の蒸着面(蒸発源装置5側の表面)に付着されることで、基板2に薄膜が形成される。図1には、気化粒子7の蒸着材料6から発生して蒸発源装置5外へと放出されるまでの流れが点線の矢印で示される。
【0013】
基板2は、搬送ロボット(不図示)によりチャンバ4内に搬送されたのち、基板保持ユニットによって保持され、蒸着時(成膜時)には水平面と平行となるよう固定される。真空蒸着においては、基板2上に形成する所定の薄膜パターンに対応する開口をもつマスク(不図示)として、メタルマスク等を設けても良い。このとき、蒸着時にはマスクの上に基板2が載置される。
【0014】
チャンバ4内には、その他、基板2の温度上昇を抑制する冷却板(不図示)を備えていてもよい。また、チャンバ4の上には、基板2のアライメントのための機構、例えば水平方向のアクチュエータや、基板保持のためのクランプ機構用アクチュエータなどの駆動手段や、基板2を撮像するカメラ(いずれも不図示)を備えていてもよい。
【0015】
<蒸発源装置>
蒸発源装置5は、蒸発源としての蒸着材料6が収容される容器11と、容器11内で蒸着材料6の上面に当接して蒸着材料6を加熱する材料加熱体としての加熱体13と、を備える。加熱体13は、蒸着材料に対向する対向部131と、対向部131と接続して容器11の開口11aまで気化粒子7を案内する伸縮部133と、を有する。また、蒸発源装
置5は、容器11の開口11a付近で伸縮部133を固定するキャップ15と、加熱体13とキャップ15を加熱するヒータ17と、をさらに備える。
【0016】
本実施例のヒータ17は、中赤外線を照射可能な赤外線ヒータであり、容器11の外周面を囲むコイル形状である。本実施例においては、中赤外線を吸収した加熱体13が発する伝導熱または輻射熱によって、蒸着材料6を蒸発させる。一方で、容器11は中赤外線を透過する材質を採用しており、蒸着材料6は中赤外線による輻射熱で加熱されるものの蒸発する温度までは至らない。すなわち、本実施例においては加熱源として赤外線照射手段であるヒータ17を採用することで、ヒータ17によって容器11を加熱せずに加熱体13とキャップ15を蒸発する温度まで加熱する構成としている。なお、本実施例においては赤外線ヒータを加熱源としたが、加熱源の構成加熱体や蒸着材料の材質によって適宜変更可能であり、赤外線照射手段以外の加熱源を採用する構成としても良い。
【0017】
容器11は、鉛直方向(高さ方向)に延びる円筒状の形状であり、上部に開口11aを有する。本実施例の容器11の材質は石英ガラスであるが、透光性アルミナなどの中赤外線を透過する材質などでもあっても良い。
【0018】
本実施例の蒸着材料6は、容器11の底に収容される金属インゴットである。なお、蒸着材料は金属材料に限らず、有機材料等も採用可能であり、さらには液体状であっても良い。本実施例においては、蒸着材料6の上面に加熱体13が当接し、加熱体13により加熱された蒸着材料6が蒸発(気化)する。
【0019】
容器11内に設けられる加熱体13は、蒸着材料6から容器11の開口11aまで延びる部材であり、蒸着材料6及び気化粒子7の加熱と気化粒子7の案内を行う。加熱体13は、容器11内を移動可能に設けられて蒸着材料6の上面に当接する対向部131と、開口11aまで気化粒子7を案内する通路13aが内部に形成されて気化粒子7の案内方向に伸縮可能な伸縮部133と、で構成される。すなわち、ヒータ17により発熱した加熱体13は、蒸着材料6を対向部131で加熱し、さらに気化粒子7を通路13a内で加熱しながら開口11aまで案内する。
【0020】
対向部131は、蒸着材料6の上面に当接するように設けられ、鉛直方向から見たときに蒸着材料6を覆う円筒状の部材で構成される。対向部131は、多孔質のSiC焼結体で形成され、ヒータ17から放射される中赤外線を吸収して発熱する。なお、材料対向部は必ずしも蒸着材料に当接する必要はなく、加熱に差し支えないのであれば材料対向部と蒸着材料の間に隙間を有して隣接する構成としても良い。
【0021】
図2(a)、(b)を参照して、対向部131の詳細構成について説明する。図2(a)は、対向部131の模式的な上面図であり、図2(b)は、図2(a)に示すA-A断面の拡大図である。上述の通り、対向部131は多孔質の材料で形成され、内部に多数の空孔131aを有する。空孔131aは径が数十ミクロン程度の大きさであり、ナノオーダーサイズの気化粒子7が十分通過できる程度に大きい。対向部131の発熱によって蒸着材料6が蒸発して発生する気化粒子7は、対向部131内の空孔131aを通過して、対向部131の下部から上部へと通り抜ける。さらに、対向部131はフィルターとしての機能も有し、一部の溶融粒子や金属酸化物の飛散を抑制する効果も期待できる。なお、本実施例の対向部131は、球状の空孔が内部に設けられているものとしたが、例えば指向性を有する孔が加熱体の上面から下面まで貫通している構成など、気化粒子が通過可能な構成であれば良い。
【0022】
伸縮部133は、第1の通路形成部材としての中空状の可動部材133aと、可動部材133aの上方に設けられる第2の通路形成部材としての中空状の固定部材133bで構
成される。可動部材133aは貫通孔13a1を有する漏斗状の部材であり、対向部131に接続されている。一方、固定部材133bは貫通孔13a2を有する筒状の部材であり、キャップ15によって容器11に対して固定される。可動部材133aと固定部材133bは、固定部材133bの貫通孔内13a1内に可動部材133aの一部が挿通するように係合され、貫通孔13a1と貫通孔13a2の貫通方向が鉛直方向を向くように容器11内に配置される。このように可動部材133aと固定部材133bが係合することで、貫通孔(第1の貫通孔)13a1と貫通孔(第2の貫通孔)13a2が連通して対向部131から開口11aまで延びる通路13aが形成される。貫通孔13a1の対向部131に対向する側の開口が通路13aの入口13bとなり、貫通孔13a2の開口11a側の開口が通路13aの出口13cとなる。
【0023】
可動部材133aは、固定部材133bに対して鉛直方向に移動可能に設けられ、蒸着材料6が蒸発して残量が減少すると、対向部131と可動部材133aは自重により一体的に下方に移動する。このように、可動部材133aの固定部材133bに対する相対位置が変化する構成とすることで、通路13aは気化粒子7が移動する鉛直方向に伸縮可能となる。すなわち、通路13aの出口13cの位置は容器11に対して固定されているが、入口13bの位置は対向部131に追従するように変化する。このように、通路13aを有する伸縮部133が伸縮可能な構成とすることで、蒸着材料6の上面に対向部131が常に当接した状態を維持しながら、気化粒子7を開口11aまで案内することができる。
【0024】
図3は、蒸着材料6の残量が少量のときの様子を示す蒸着装置1の模式的断面図である。図1に示した状態と比較して、対向部131と伸縮部133の可動部材133aが一体的に下方に移動している。つまり、図1に示す蒸着材料6の残量が多いときと比較して、通路13aが伸長している。ヒータ17は、容器11の鉛直方向全域に亘って設けられているため、通路13aの長さによらず対向部131や伸縮部133はヒータ17により加熱される。
【0025】
伸縮部133は、緻密質のSiC焼結体で形成され、対向部131と同様にヒータ17から放射される中赤外線を吸収して発熱する。しかし、緻密質であるため対向部131のようなμオーダーサイズの空孔は有さず、内部を気化粒子7が通過しない構成となっている。このような構成とすることで、気化粒子7が伸縮部133をすり抜けて容器11の内壁の方へと流れて、容器11の内壁に付着することはない。さらに、伸縮部133もヒータ17により発熱しているため、気化粒子7が伸縮部133内で冷えて伸縮部133の内壁に付着することも防ぐことができる。
【0026】
キャップ15は、容器11の開口11aの固定部材133b以外の部分をすべて覆う蓋部材であり、容器11の内部への異物混入を防ぐ。キャップ15は、固定部材133bと接続し、容器11の内壁面から内側に突出する突起部11b上に設けられる。突起部11bにより、キャップ15と固定部材133bの容器11に対する鉛直方向位置が固定される。
【0027】
キャップ15は、伸縮部133と同様に緻密質のSiC焼結体で形成され、ヒータ17から放射される中赤外線を吸収して発熱する。すなわち、キャップ15も対向部131や伸縮部133と同様に、加熱体13の一部であるとみなすこともできる。キャップ15も伸縮部133と同様に発熱可能な構成とすることで、容器11の外側に出た気化粒子7が開口11a付近で冷えて、キャップ15に付着することが防げる。
【0028】
<伸縮部>
続いて、図4(a)、(b)を参照して伸縮部133について、さらに詳細を説明する
図4(a)は、伸縮部133と周辺部材の斜視図であり、図4(b)は伸縮部133と周辺部材の分解斜視図である。本実施例においては、各部材は円筒形状又は円錐形状で構成されているが、これらの部材を収容する容器の形状に合わせて適宜形状等の変更は可能である。
【0029】
伸縮部133は、可動部材133aの一部が固定部材133bの貫通孔13a2内に挿通されて構成される。可動部材133aは、貫通孔13a2に対して摺動しながら移動する構成としても良いし、可動部材133aの外周面が貫通孔13a2に対して隙間を有する構成としても良い。いずれの場合でも、可動部材133aが固定部材133bに対して移動可能な構成とすることで、貫通孔13a1の貫通孔13a2に対する貫通方向の相対位置が変化して通路13aを含む伸縮部133が伸縮可能となる。
【0030】
可動部材133aは、上述の通り漏斗状の部材であり、入口13b側の端部は対向部131全体を覆うように構成される。すなわち、対向部131の内部を通過した気化粒子7を漏らすことなく案内することができる。可動部材133aは、通路13aの断面積が入口13bから出口13cに近づくにつれて徐々に小さくなる錐体部133a1と、通路13aの断面性が一定の柱体部133a2と、を有する。柱体部133a2は、少なくとも一部が固定部材133bの内部に位置するように設けられ、可動部材133aは固定部材133bに対して摺動可能に固定部材133bと嵌合する。すなわち、可動部材133aの位置によらず、気化粒子7は可動部材133aの内部を通過した後に、固定部材133bの内部に進入する。
【0031】
図5(a)、(b)を参照して、伸縮部の通路を通過する気化粒子の流れについて詳細を説明する。図5(a)は、本実施例の可動部材133aから固定部材133bへと流れる気化粒子7の流れを示す断面図であり、図5(b)は、比較例の可動部材633aから固定部材633bへと流れる気化粒子7の流れを示す断面図である。それぞれの図には、気化粒子7の流れを点線の矢印で示されている。上述の通り、伸縮部133は、可動部材133aの一部が固定部材133bの内部に位置するように構成されている。このような構成とすることで、気化粒子7は上方に向かって流れるため、可動部材133aと固定部材133bとの間の隙間から気化粒子7が漏れづらい。さらに、伸縮部133はヒータ17により発熱するため、気化粒子7が通路13a内で冷えて固体化又は液体化して下方に流れ落ちることもなく、伸縮部133は気化粒子7を適切に出口13cまで案内できる。
【0032】
一方、図5(b)に示す可動部材633aの内部に固定部材633bが位置する構成においては、気化粒子7は可動部材633aと固定部材633bとの間の隙間に向かって流れるため、伸縮部633の外部に気化粒子7が流れ出やすい。従って、漏れ防止性を考慮すると可動部材133aが固定部材133bの内部に位置するような構成の方が好ましい。しかし、本発明の適用においては上述の構成に限られず、Oリング等の漏れ防止機構を設けて可動部材の通路を固定部材の通路より大きくするような構成とすることも可能である。
【0033】
可動部材133aは、出口13c側の端部に外周面から外側に突出するフランジ部13dを有する。また、固定部材133bは、入口13b側の端部に内周面から内側に突出する当接部13eを有し、貫通孔13a2の径が入口13b側では狭まっている。高さ方向から見たときに、フランジ部13dと当接部13eは重なるように形成されており、可動部材133aが下方に移動し続けるとフランジ部13dが当接部13eに当接し、可動部材133aが固定部材133bから抜け落ちることを防止する。フランジ部13dの外周面と、固定部材133bの内周面との間の隙間は可動部材133aが固定部材133bに対して摺動可能な程度に空いていればよい。隙間が小さすぎると摺動性が悪化し対向部131が蒸着材料6に当接せず、隙間が大きすぎると気化粒子7が隙間を通過して伸縮部1
33の外部に漏れやすくなる。従って、隙間の量は摺動性と漏れ防止性を考慮して決定すればよい。また、当接部13eの内周面と可動部材133aの柱体部133a2の外周面との間の隙間の量も同様に決定すればよい。
【0034】
可動部材133aは、錐体部133a1と柱体部133a2に分割可能に構成されている。錐体部133a1と柱体部133a2は、不図示のネジ機構を有しており、一方の雄ネジ部と他方の雌ネジ部が接続することで、互いに脱着可能に構成されている。従って、伸縮部133の組み立ての際には、可動部材133aを錐体部133a1と柱体部133a2に分割した状態で、まず固定部材133bの上部から柱体部133a2を固定部材133b内に挿入する。その後、柱体部133a2と錐体部133a1とを接続することで、伸縮部133が組み立てられ、入口13bから出口13cまで連通する通路13aが形成される。
【0035】
また、対向部131と伸縮部133の可動部材133aも不図示のネジ機構によって接続される。対向部131と可動部材133aを接続して、部材間の隙間を限りなく小さくすることで、対向部131内を通過する気化粒子7を漏れなく入口13bから通路13aに進入させることができる。ただし、蒸着動作中に対向部131と可動部材133aのそれぞれ自重によって、各部材間の隙間が小さくなり、気化粒子7の漏れ量を影響がない程度に抑えられるのであれば、上述の接続部は必ずしも設ける必要はない。
【0036】
さらに、キャップ15と伸縮部133の固定部材133bも不図示のネジ機構によって接続される。容器11の突起部11b上に載置されるキャップ15と固定部材133bが接続されることで、固定部材133bがキャップ15を介して容器11と接続され、容器11に対する通路13aの出口13cの位置が固定される。ただし、キャップ15と伸縮部133の接続機構はネジ機構に限られず、種々の変更が可能である。さらには、キャップ15と固定部材133bが一体的な一部品で形成されていても良い。
【0037】
以上、本実施例によれば、容器11内で気化粒子7が通過する通路13aが伸縮するため、蒸着材料6の残量によらず加熱体13によって効果的に蒸着材料6を加熱できる。また、気化粒子7は通路13a内でも加熱され続けるため、気化粒子7が冷えて通路13aに付着して残存することなく、安定して気化粒子7を基板2へ蒸着することができる。また、伸縮部133の可動部材133aと固定部材133bとの間の隙間からは気化粒子7が漏れづらい構成となっているため、気化粒子7の容器11の内壁への付着を防止できる。
【0038】
また、容器11は中赤外線を透過して発熱せず、対向部131のみによって蒸着材料6を上面から徐々に加熱する構成であるため、蒸着材料6が全体的に加熱されて熱分解等を起こして劣化することを抑制できる。さらには、対向部131、伸縮部133及びキャップ15が同一の加熱源(ヒータ17)により発熱されるため、複数の加熱源を設ける必要がない。しかしながら、本発明の適用はこれに限られず、より迅速に蒸着材料を加熱するために他の加熱源をさらに設ける構成としても良く、加熱を赤外線照射手段以外の手段で行う構成としても良い。すなわち、蒸着材料の加熱方法や加熱構成は、上述の実施例に限られるものではない。
【0039】
また、対向部131や可動部材133aは蒸着材料6の減少に伴い、自重で下方に移動し、対向部131が常に蒸着材料6に当接した状態を保つことができるため、対向部131と蒸着材料6の相対位置を調整するための昇降装置などを設ける必要もない。従って、蒸発源装置5の構成を複雑化させる必要もなく、製造コストの上昇を抑えられる。
【0040】
なお、本発明の適用は上述の構成に限られず、種々の変更が可能である。例えば、本実
施例の対向部131は気化粒子7が通過するための空孔131aが設けられている構成としたが、材料加熱体を空孔の代わりに上面から下面まで貫通する貫通孔が設けられているような構成としても良い。又は、緻密質のSiCで形成される材料加熱体を複数設ける構成であって、複数の材料加熱体の間の隙間が気化粒子の通路となる構成としても良い。すなわち、蒸着材料が適切に加熱され、気化粒子が伸縮部の通路まで移動できれば、加熱体の構成は実施例として記載したものに限られない。
【0041】
また、本実施例は基板が水平に設置され、容器の開口が上面を向いて気化粒子が鉛直方向に流れる構成としたが、基板が垂直に設置され、容器の開口を水平方向に向ける構成としても良い。また、蒸着材料も固体に限らず液体等であっても良い。そのような場合においても、可動部材を移動させる駆動装置やバネ部材等の付勢部材等による駆動機構を設けて材料加熱体を伸縮可能とすれば、蒸着材料の効果的な加熱を行うことができる。なお、蒸着材料を収容する容器が横長な形状で複数の開口が並んで設けられる場合には、開口に合わせて材料加熱体を複数設ける構成としても良い。
【0042】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施例に係る蒸着装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成を示し、有機EL表示装置の製造方法を例示する。
【0043】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。図6(a)は有機EL表示装置800の全体図、図6(b)は1画素の断面構造を表している。
【0044】
図6(a)に示すように、有機EL表示装置800の表示領域801には、発光素子を複数備える画素802がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域801において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例に係る有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子802R、第2発光素子802G、第3発光素子802Bの組み合わせにより画素802が構成されている。画素802は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組み合わせで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0045】
図6(b)は、図6(a)のS-S線における部分断面模式図である。画素802は、複数の発光素子からなり、各発光素子は、基板803上に、第1電極(陽極)804と、正孔輸送層805と、発光層806R、806G、806Bのいずれかと、電子輸送層807と、第2電極(陰極)808と、を有している。これらのうち、正孔輸送層805、発光層806R、806G、806B、電子輸送層807が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層806Rは赤色を発する有機EL層、発光層806Gは緑色を発する有機EL層、発光層806Bは青色を発する有機EL層である。発光層806R、806G、806Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0046】
また、第1電極804は、発光素子毎に分離して形成されている。正孔輸送層805と電子輸送層807と第2電極808は、複数の発光素子802R、802G、802Bで共通に形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極804と第2電極808とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極804間に絶縁層809が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層810が設けられている。
【0047】
図6(b)では正孔輸送層805や電子輸送層807は一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によっては、正孔ブロック層や電子ブロック層を備える複数の層で形成されてもよい。また、第1電極804と正孔輸送層805との間には第1電極804から正孔輸送層805への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、第2電極808と電子輸送層807の間にも電子注入層を形成することもできる。
【0048】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0049】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極804が形成された基板(マザーガラス)803を準備する。
【0050】
第1電極804が形成された基板803の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極804が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層809を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0051】
絶縁層809がパターニングされた基板803を粘着部材が配置された基板キャリアに載置する。粘着部材によって、基板803は保持される。第1の有機材料成膜装置に搬入し、反転後、正孔輸送層805を、表示領域の第1電極804の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層805は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層805は表示領域801よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0052】
次に、正孔輸送層805までが形成された基板803を第2の有機材料成膜装置に搬入する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板803の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層806Rを成膜する。
【0053】
発光層806Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層806Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層806Bを成膜する。発光層806R、806G、806Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域801の全体に電子輸送層807を成膜する。電子輸送層807は、3色の発光層806R、806G、806Bに共通の層として形成される。
【0054】
電子輸送層807まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて第2電極808を成膜する。
【0055】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層810を成膜して、基板803への成膜工程を完了する。反転後、上述の実施形態あるいは実施例で説明したように粘着部材を基板803から剥離することで、基板キャリアから基板803を分離する。その後、裁断を経て有機EL表示装置800が完成する。
【0056】
絶縁層809がパターニングされた基板803を成膜装置に搬入してから保護層810の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【符号の説明】
【0057】
5…蒸発源装置、6…蒸着材料、11…容器、11a…開口、13…加熱体(材料加熱体)、133…伸縮部
図1
図2
図3
図4
図5
図6