(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152487
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】生体分子の検出用デバイスおよび検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20231010BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20231010BHJP
G01N 27/414 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
G01N27/00 J
G01N33/483 E
G01N27/414 301V
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062527
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 夕起
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 済
(72)【発明者】
【氏名】水上 潤二
【テーマコード(参考)】
2G045
2G060
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB04
2G045CB07
2G045DA36
2G045FB03
2G060AA07
2G060AA15
2G060AA19
2G060AD06
2G060AF20
2G060DA17
2G060DA33
2G060FA07
2G060GA04
2G060JA07
2G060KA09
(57)【要約】
【課題】検体中の生体分子を高感度でありながら迅速で簡便に検出できる装置および方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、検体液に含まれる生体分子を電気的に検出する生体分子の検出用デバイスであって、基板と、前記基板の一方の主面に設けられた半導体素子と、前記検体液を含浸させるためのパッドとを備え、前記半導体素子は、第一の電極、第二の電極、第三の電極、および前記第一の電極と第二の電極との間に設けられた半導体層とを有する、生体分子の検出用デバイスに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体液に含まれる生体分子を電気的に検出する生体分子の検出用デバイスであって、基板と、前記基板の一方の主面に設けられた半導体素子と、前記検体液を含浸させるためのパッドとを備え、
前記半導体素子は、第一の電極、第二の電極、第三の電極、および前記第一の電極と第二の電極との間に設けられた半導体層とを有する、生体分子の検出用デバイス。
【請求項2】
前記半導体素子を2以上備える、請求項1に記載の生体分子の検出用デバイス。
【請求項3】
前記半導体層がグラフェンを含む、請求項1に記載の生体分子の検出用デバイス。
【請求項4】
前記パッドが、2μL/mm3以上の検体溶液を含浸できる、請求項1に記載の生体分子の検出用デバイス。
【請求項5】
前記パッドの、前記半導体素子と対向する主面が、前記半導体素子を覆う面積を有する、請求項1に記載の生体分子の検出用デバイス。
【請求項6】
前記第一の電極がソース電極であり、前記第二の電極がドレイン電極であり、前記第三の電極がゲート電極である、請求項1に記載の生体分子の検出用デバイス。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載された生体分子の検出用デバイスを用い、
検体液を含浸させたパッドを半導体層に接触させることにより、検体液に含まれる生体分子を電気的に検出する、生体分子の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子の検出用デバイスおよび検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染症や癌などの疾患に対して、その早期診断の重要性が増している。一般的に、疾患の診断は、被検者の細胞、血液、唾液、尿、涙などの検体を検査することにより行う。
【0003】
具体的には、例えば、特許文献1に記載されるように、唾液に含まれるポリアミンを用いることにより、特定がんのリスクを調べる方法などが開発されている。
また、特許文献2には、グラフェンセンサによりウイルスを検出する方法が記載されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-035768号公報
【特許文献2】国際公開第2020/116012号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に関して、上述の唾液中の微量のポリアミン等を調べる方法は、高価な高感度の質量分析装置(LC/MS)を用いて分析するため、検査費用が高額になり、また、測定や結果解析を行うために高い専門性や経験が求められる。そこで、ポリアミン等の微量のターゲットを迅速で簡便に調べることができる検出方法の開発が望まれている。また、ポリアミンの総量ではなく、特定のポリアミンの存在や量について選択的に分析できる方法の開発が望まれている。
【0006】
また、特許文献2に記載の技術では、検体を感知する半導体素子が、検体液プール内に埋没されている。1つの半導体素子で検出できるターゲットは1つまでであるため、1つのデバイスで検出できるターゲットはプールに覆われた領域全体で1つに限られていた。さらに、ターゲットをプール内に滴下しFET特性を測定するため、ターゲットが溶液内に拡散し電流信号が安定するまでに時間を要する。
【0007】
本発明は、検体中の生体分子を高感度でありながら迅速で簡便に検出できる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、検体液を含浸したパッドを半導体層に接触させて検出することで、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は下記検出用デバイスおよび検出方法に関する。
〔1〕検体液に含まれる生体分子を電気的に検出する生体分子の検出用デバイスであって、基板と、前記基板の一方の主面に設けられた半導体素子と、前記検体液を含浸させるためのパッドとを備え、
前記半導体素子は、第一の電極、第二の電極、第三の電極、および前記第一の電極と第二の電極との間に設けられた半導体層とを有する、生体分子の検出用デバイス。
〔2〕前記半導体素子を2以上備える、〔1〕に記載の生体分子の検出用デバイス。
〔3〕前記半導体層がグラフェンを含む、〔1〕に記載の生体分子の検出用デバイス。
〔4〕前記パッドが、2μL/mm3以上の検体溶液を含浸できる、〔1〕に記載の生体分子の検出用デバイス。
〔5〕前記パッドの、前記半導体素子と対向する主面が、前記半導体素子を覆う面積を有する、〔1〕に記載の生体分子の検出用デバイス。
〔6〕前記第一の電極がソース電極であり、前記第二の電極がドレイン電極であり、前記第三の電極がゲート電極である、〔1〕に記載の生体分子の検出用デバイス。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載された生体分子の検出用デバイスを用い、
検体液を含浸させたパッドを半導体層に接触させることにより、検体液に含まれる生体分子を電気的に検出する、生体分子の検出方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検出部である半導体層の表層に検体液を近接させることができるため、検体液の液層を、パッドと半導体層との界面近傍の閉鎖空間内にコンパクトに収めることができる。これにより、ターゲット成分である生体分子を、検体液層と半導体層とによる電気二重層内にコンパクトに捕獲することが可能となるため、微量のターゲット成分を高感度かつ迅速に、また簡便に検出できる。
さらに、検体液はパッド内に含浸・保持されるため、1つのデバイスでマルチターゲット検出が可能となる。これにより例えば特定のポリアミンの存在や量について選択的に分析することが可能となる。また検体液プールを用いた従来の装置に比べ検体液の漏出リスクが低下し、取り扱い性に優れ、また検出用デバイスの構造を簡便化できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の検出用デバイスの一態様を説明する図である。
【
図2】
図2は、グラフェンFETのI-VカーブにおけるDirac Pontのシフトを説明する図である。
【
図3】
図3は、従来の検出用デバイスの一態様を説明する図である。
【
図4】
図4は、参考例1のI-Vカーブを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。但し、以下の説明は、本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
なお、本明細書において「~」で表される記載は、その前後に記載された数字を含む範囲を表すものとする。
【0012】
<検出用デバイス>
本発明の検出用デバイスを、
図1を用いて説明する。
図1に示すように、本発明の検出用デバイス10は、基板1と、基板の一方の主面に設けられた半導体素子2と、パッド3とを備える。ここで、半導体素子2は、第一の電極21、第二の電極22、第三の電極23、および第一の電極21と第二の電極22との間に設けられた半導体層24、を有する。
【0013】
多くの生体分子は電荷を有するため、検体液を含浸させたパッドを半導体層に接触させることにより、検体液と半導体層の界面における電気的特性の変化を検出し、検体液中の生体分子量を測定することができる。
【0014】
検体液プールを用いてターゲット生体分子を検出する従来の検出用デバイスでは、銀/塩化銀参照電極をゲート電極とするトップゲート構造が主として使用されてきた。しかしこの方法では、検体液プールでおおわれた領域全体で1つのターゲットしか測定できないこと、生体分子をプール内に滴下し電気的特性を測定するため、生体分子が溶液内に十分に拡散して電流信号が安定するまでに時間を要した。
【0015】
本発明では、検体液を含浸させたパッドが半導体層に接触すると、パッドと半導体層の界面付近に検体液の薄い液層が存在することとなる。検体液の液層がパッドと半導体層の界面周辺にコンパクトに収めることができ、検出部である半導体層の表面にターゲット生体分子が捕獲されやすくなる。即ち、閉鎖空間に検出液をより効率よく収めることにより、半導体層に生体分子を近接させることが可能となる。
【0016】
かかる近接化効果により、安定な高感度検出が実現可能となる。本発明の検出メカニズムは、検出表面である半導体層表面における生体分子イオンの検出であり、それはすなわち、検出表面と検体液により形成される電気二重層内の電荷との相互作用による変化の検出である。溶液内の電気二重層においては、検出表面の電場に応じたイオンが安定に存在するため、電荷の変化を検出できるが、電気二重層より検出表面から離れた溶液内では、溶液内の正イオンと負イオンが対となるので、検出しようとしている検出ターゲット分子の電荷(多くの生体分子は電荷を有する)を検出することが困難となる。
【0017】
また、本発明の検出用デバイスでは検体液の液層はパッドと半導体層の界面周辺の閉鎖空間内に収められるため、生体分子が拡散して電流信号が安定するまでに長時間を要しない。よって計測時間が低減できる。
そして、本発明の検出用デバイスでは、検出液をパッド内に限定できることから、半導体素子を複数対設け、半導体素子それぞれを覆うパッドごとに検出領域を分けることができる。よって1つの検出用デバイスに複数の検出部位を設けることと同じになり、1つの検出用デバイスでのマルチターゲット検出が可能となる。
【0018】
さらに、本発明の検出用デバイスでは、一対の第一の電極と第二の電極がソースドレイン電極として、第三の電極がゲート電極として機能できるため、銀/塩化銀参照電極を使用しない、簡単かつコンパクトなトップゲート構造が可能となる。
【0019】
<基板>
基板は、絶縁性を有する基板であれば任意の素材で形成された基板を用いることができる。通常は、絶縁性基板又は絶縁された半導体基板を用いる。なお、本実施形態において絶縁性という場合には、特に断らない限り電気絶縁性のことを指し、絶縁体という場合には、特に断らない限り電気絶縁体のことを言う。また、センサとして用いる場合、感度を高めるためには、絶縁性基板、又は絶縁性基板を構成する素材(即ち、絶縁体)で表面を被覆することにより絶縁化した半導体基板であることが好ましい。
【0020】
絶縁性基板を形成する絶縁体材料としては、無機材料、有機材料のいずれでも構わない。無機材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、弗化カルシウム等が挙げられる。有機材料としては、脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリシロキサン、ポリビニルフェノール、ポリアラミド等が挙げられる。これらの絶縁体材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0021】
半導体基板は、通常、半導体で形成された基板である。半導体基板を形成する半導体の材料の具体例としては、シリコン、ガリウム砒素、窒化ガリウム、酸化亜鉛、インジウム燐、炭化シリコン等が挙げられる。これらの半導体の材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0022】
半導体基板を絶縁する方法は任意であるが、通常は、上述のような絶縁体で表面を被覆して絶縁することが好ましい。半導体基板の上に絶縁膜を形成して絶縁する場合、被覆に用いる絶縁体の具体例としては、上記の絶縁性基板を形成する絶縁体材料と同様のものが挙げられる。
【0023】
<電極>
電極の態様は、特段制限されないが、第一の電極はソース電極であり、第二の電極はドレイン電極であり、第三の電極はゲート電極であることが好ましい。
【0024】
第一の電極、第二の電極、第三の電極に用いられる材料としては、例えば、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物;白金、金、銀、アルミニウム、インジウム、クロム、チタン、パラジウム、などの金属やこれらの合金;カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェンなどのナノカーボン材料;導電性カーボンブラックなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの材料は単独で用いてもよいし、これらのうち複数の材料を積層または混合して用いてもよい。本発明の検出用デバイスにおいては、接触する検体液などへの安定性の観点から、各電極は、金、銀、白金、パラジウム、チタン、クロム、ナノカーボン材料から選ばれることが好ましい。
【0025】
各電極の幅や厚み、配置間隔等は任意に設計可能である。電極の幅は、好ましくは1μm以上、1mm以下である。電極の厚みは、好ましくは1nm以上、より好ましくは0.01μm以上、更に好ましくは0.02μm以上であり、また、一方で、好ましくは10mm以下、より好ましくは2μm以下、更に好ましくは1μm以下がよい。
第一の電極と第二の電極との間隔は、半導体層の構造や移動度に応じて適宜、設計されうるが、好ましくは1nm以上、10mm以下である。
【0026】
<半導体層>
半導体層は、単体半導体、化合物半導体、有機半導体、ナノカーボン材料等の半導体成分から形成される。本発明の検出用デバイスにおいては、塗布可能性という観点から、有機半導体やナノカーボン材料が好ましい。また、ナノカーボンの中でも、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)は、移動度が極めて高く、高安定性、インク等の塗布物質への移行等の観点から好ましい。さらに、膜内の特性の均一性が確保しやすいという観点から、グラフェンが好ましい。
【0027】
また、半導体層の面積は特に制限はないが、半導体材料の安定な特性の確保ならびに製造性の観点から、好ましくは1μm2以上、好ましくは5mm2以下である。
【0028】
半導体層の膜厚は、特に制限はないが、通常0.2nm以上、100nm以下が好ましい。この範囲内にあることで、ターゲット認識分子とターゲット物質との相互作用による電気特性の変化を、十分に電気信号として取り出すことが可能となる。半導体層の膜厚は、公知の手法、例えば、二次イオン質量分析法(SIMS)や、AFM、エリプソメーターなどによって、測定することができる。
【0029】
半導体層の形成方法としては、例えば、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、スパッタリング、CVD、他の基板からの転写などの乾式法を用いることも可能であるが、製造コストや大面積への適合の観点から、塗布法などの湿式法を用いることが好ましい。塗布法は、半導体成分を塗布することにより半導体層を形成する工程を含む。塗布法としては、具体的には、スピンコート法、ブレードコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、鋳型法、印刷転写法、浸漬引き上げ法、またはインクジェット法などが挙げられる。これらの方法から、塗膜厚みの制御や配向制御など、得ようとする塗膜の特性に応じて好ましい方法を選択できる。なお、形成した塗膜に対して、大気下、減圧下、または窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下や水素や水素の混合ガスなどの還元性ガス雰囲気下において、アニーリング処理を行ってもよい。
【0030】
半導体層は、表面に認識分子が保持されていることが好ましい。ここで、認識分子とは、検出対象物質、すなわち生体分子を、特異的に捕捉可能な物質のことを指す。半導体層に認識分子が保持されることで、生体分子の検出感度を高めることができるとともに、生体分子ごとに検出することが可能となる。認識分子としては、抗体や酵素の他、受容体たんぱく質等の生体由来のものを使用することが可能ではあるが、以下に説明する分子のコンパクト性や保存安定性等の観点から、アプタマ、ペプチド、超分子、包接化合物などが好ましい。特にアプタマについては、生体分子に対してはその生合成や代謝の過程でDNAやRNAが認識しているため、ほぼすべての生体分子について、それを認識するアプタマが化学合成できるとされており、アプタマの種類は検出対象である生体分子に応じて適宜選択できる。
【0031】
認識分子は、疎水結合により半導体層に保持することができる。さらに、半導体層への保持性を高める観点から、リンカーとして、例えば、イソチオシアネート基、NHSエステル基、およびカルボキシル基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する、ピレン、トリフェニレン、ベンゾアントラセン、またはターフェニル等のアセン系多環芳香族化合物を、認識分子に導入することもできる。特にピレンを有するものが安定に使用しやすい。かかる多環芳香族化合物により、上述の疎水結合に加えて、π-π電子相互作用により認識分子を半導体層上に保持することも可能となる。
【0032】
なお、リンカーが上記多環芳香族化合物と上記官能基とを有する場合、多環芳香族化合物と官能基との位置関係は、認識分子の機能を発揮させるために適切な空間をもたらせることが好ましい。かかる観点から、多環芳香族化合物と官能基とは、置換あるいは無置換の直鎖アルキル基で連結されることが好ましい。かかる連結により、ターゲットである生体分子を認識・捕獲しやすい空間配置、または認識分子を反応場とする触媒反応が起こりやすい空間配置とすることが可能になると考えられる。なお、半導体層が無機半導体の場合には、認識分子は、ATS等のシランカップリング剤を用いて半導体表面に固定することができる。
【0033】
<生体分子>
本発明の検出用デバイスおよび検出方法では、検体液に含まれる生体分子を検出対象とする。検出対象の生体分子としては、例えばタンパク質、ペプチド、脂質、ホルモン、核酸、糖、オリゴ糖、多糖等の糖鎖、色素、低分子化合物、有機物質、無機物質、pH、イオン若しくはこれらの融合体、又は、ウイルス若しくは細胞を構成する分子、血球などが挙げられる。
また、これらの検出対象物質は、血液(全血、血漿、血清)、リンパ液、唾液、尿、大便、汗、粘液、涙、随液、鼻汁、頸部又は膣の分泌液、精液、胸膜液、羊水、腹水、中耳液、関節液、胃吸引液、組織・細胞等の抽出液や破砕液等の生体液を含むほとんど全ての液体試料中に含まれる成分として検出される。
タンパク質としては、酵素、抗原/抗体、レクチン等が挙げられる。
脂質としては、総コレステロール、LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、リポタンパク、アポリポタンパク、トリグリセライド等が挙げられる。
ホルモンとしては、アミン・アミノ酸誘導体・ペプチド・タンパク質等からなる含窒素ホルモン、及び、ステロイドホルモン等が挙げられる。
核酸としては、DNA、RNAが挙げられる。
糖鎖としては、その糖配列又は機能が、既知の糖鎖でも未知の糖鎖でもよい。
低分子化合物としては、相互作用する能力を有する限り、特に制限はない。例えば、ポリアミンは生体中に存在する化合物であり、被検者の体調や病気への罹患などにより、生体中に存在する種類や量が変化することが知られている。特に、がん細胞のような増殖が活発な細胞においては、その濃度が高くなる場合があることが知られており、がん診断におけるマーカーとしても利用されている。ポリアミンとしては、スペルミン、スペルミジン、プトレスシン等が挙げられる。
【0034】
本発明の検出用デバイスおよび検出方法によれば、生体分子を高感度に検出できるため、検体液中の生体分子含有量が微量であっても検出可能である。よって、生体分子が唾液や血液等の体液や排泄物中に含まれる場合であっても本発明の検出用デバイスおよび検出方法が適用可能である。
【0035】
生体分子の検出にあたっては、検出したい生体分子に応じて、適切な認識部位を有する「認識分子」との組合せを選択することにより、生体分子ごとに検出することが可能となるため好ましい。認識分子としては、ターゲット物質と特異的に結合する能力を有する核酸分子やペプチド、すなわちアプタマ等が好ましく用いられる。ターゲットとなる生体分子のサイズに適応したサイズの認識分子を用いることが好ましい。
【0036】
<パッド>
本発明の検出用デバイスおよび検出方法におけるパッドは生体分子を含む検体液を含浸できれば特に限定されない。単位体積当たり好ましくは2μL/mm3以上の検体液(生理緩衝水溶液)を含浸保持でき、膨潤しても酸性成分、塩基性成分を徐放しないことが好ましい。パッドは測定時に検体液に含浸させる。含浸させる検体液量は、デバイスの使用環境と測定時間の好ましい範囲に応じて調整すればよく、測定時間内、測定素子によって差がなく、半導体層上に乾燥部分を生じさせない液量であれば特段に制限されるものではない。パッド設置から、測定が完了するまでの間、まったく変化なく半導体層を覆うことができるように調整することが好ましい。
【0037】
パッドに適用可能な材料としては、ガラス繊維等の無機繊維材料、不織布、ろ紙、クロマトグラフィーペーパー、セルロースやレイヨン等の有機繊維材料が挙げられる。
【0038】
パッドの大きさとしては、半導体素子と対向する主面が、半導体層、第一の電極、第二の電極、第三の電極を含む半導体素子を覆うことができる面積を有すれば制限されない。また、検出用デバイスが複数対の半導体素子を有する場合は、検出数、検出ターゲット数に合わせた数のパッドで、各半導体素子を覆うことができるような寸法が必要とされる。
【0039】
パッドの厚みとしては、検出時間に要する時間に乾燥を生じさせない観点から、好ましくは600μm以上、より好ましくは800μm以上、また好ましくは1100μm以下、より好ましくは1000μm以下である。
【0040】
また、電気二重層の液層が安定に設置される観点から、空気層を含むために柔らかく、半導体層に荷重をなるべく加えないものが好ましい。かかる観点から、たとえば6mmφの円形のパッドであれば4mg~6mgが好ましいパッド重量の目安である。
ただし吸水による増量により厚みが減退するほどの柔軟性を有するパッドは、電気二重層を安定に形成することが困難になる傾向があるため、好ましくない。
【0041】
また、後述する実験例において記載する「自然荷重」によっても、吸水した水分を徐放しにくいパッドは、十分な電気二重層を形成しにくい傾向である。
また、パッドは、浸漬後移動時に水分を徐放しないことが必要である。
【0042】
<情報処理部および情報出力部>
本発明の検出用デバイスは、更に、測定データ等の情報を処理する情報処理部や測定データ等の情報を出力する情報出力部を有していてもよい。
【0043】
<検出方法>
本発明の検出用デバイスを用いた検出方法について説明する。
【0044】
まず、検体液を準備する。検出対象となる生体分子が、唾液や血液等の体液や、尿等の排泄物中に含まれる場合は、体液や排泄物を含む液体を準備する。ここで、唾液や尿に含まれる夾雑物などによる影響を除くために、通常、唾液や尿を生理緩衝液で10~100倍程度に希釈することが好ましい。また、場合によっては、チビタンなどによる遠心ろ過処理を行ってから使用することが好ましい。
【0045】
つぎに、検体液にパッドを含浸させる。パッドに検体液を所望の液量になるまで滴下してもよいし、検体液で満たした容器にパッドを浸してもよい。
【0046】
半導体層に認識分子を保持させる場合は、リンカーと認識分子とがすでに連結されている場合には、半導体層上に、認識分子を含む溶液を滴下し、30分~1時間半静置することが好ましい。その後、余分な溶液を静かにチップで吸い上げて除去する。(リンカーと認識分子の修飾処理)
また、リンカーを介して半導体層に認識分子を保持させる場合には、認識分子の滴下前に、リンカー物質を含む溶液を半導体層上に滴下し、30分~1時間半静置することが好ましい。その後、余分な溶液を除去し、リンカー溶液の溶媒を滴下し、静かにチップでピペッティングしながら吸い上げて余分なリンカー物質を除去し、その後、認識分子を滴下し、半日~1日乾燥を防ぎながら静置する(リンカーと認識分子の修飾処理)。
認識分子の修飾処理が終了したら、検出に使用するバッファー溶液を静かに滴下し、静かにピペッティングしながらチップで吸い上げる。
尚、測定の誤差に影響するのは、半導体層の面積であり、リンカーを用いる場合は半導体層へのリンカーの修飾量である。半導体層へのリンカーの修飾は、非特異吸着を防ぐという観点からも、不足がないようにする必要がある。一定量以上多く修飾処理にリンカーが用いられれば、余分な分は、前述のような除去方法により除去されるので、問題ない。
【0047】
続いて、パッドを基板上の半導体素子上に設置し、パッドを半導体層に接触させる。このとき、パッドで半導体層表面をこすらないように留意する観点から、あらかじめ検体液を含浸させた状態でパッドを半導体層上に設置する方が好ましい。また、半導体層や隣接する第三の電極とパッドの間の検体液面を十分に安定な状態にゆきわたらせるため、および、認識分子による生体分子の捕獲反応が十分なされるために、接触した状態で2分~3分静置することが好ましい。本発明によれば、この静置時間が短時間で済むため、測定時間が短縮できる。
尚、パッドの接触の際、パッドと半導体素子とが水平に接触するように、パッドをピンセットで設置する場合などに、やや押し付けることが好ましい。
また、パッドは、第一の電極(ソース電極)-第二の電極(ドメイン電極)対と隣接する第三の電極(ゲート電極)、すなわち半導体素子を覆う大きさであることが好ましい。
さらに、パッドは、上述したように一定以上の吸水量と、軽く圧した場合に徐放性を有するものを選択することが好ましい。
【0048】
次に、第三の電極に、電圧を好ましくは-5V~5V、さらに好ましくは-1V~2Vの範囲で掃引すると、電荷を有する生体分子の存在によって第一の電極と第二の電極間に電気的変化が生じる。この電気的変化を測定することで検体液中の生体分子量を検出できる。
【0049】
本発明の検出方法では、検体液の液層と半導体層の界面付近に形成される電気二重層内にターゲットの生体分子が捕獲されることで、より高感度な検出が可能となる。
電気二重層は、電極と電解可能な溶液との界面において存在するイオン雰囲気の厚みであり、デバイ長の厚さに相当する。その厚み内においては、効率よく逆電荷が形成される。かかる逆電荷の形成により、その電荷を中和する方向に電解効果トランジスタ(FET)の電位シフトが生じる。かかる電位シフトとは、
図2に示すように、半導体層がグラフェンを含む場合にはその半導体特性I-V-カーブにおける、Dirac Pointと呼ばれる半導体特性のホールと電子の電気的中和点のシフトである。従って、検出ターゲットの生体分子は、かかる電気二重層内に捕獲されることが高感度検出の観点から特に好ましい。
【0050】
前記デバイ長rは下記式に示すように、イオン強度Iと相関関係にある。
r(nm)=[ε0εrRT/(2F2I)]1/2
ε0=8.854x10-12 Fm-1
εr=78.30
T:温度
F:96485Cmol-1
I:イオン強度
【0051】
電気二重層の厚みを踏まえつつ、生体分子のサイズに適応したサイズの認識分子を用いることにより、より高感度な検出が可能となる。
半導体層がグラフェンを含む場合、例えば後述する実施例1の条件で半導体層および検体液を調製した場合は、デバイ長rすなわち電気二重層の厚みは約9nmである。ターゲット生体分子が例えば分子量10万のたんぱく質である場合、その粒径は9nmである。かかるたんぱく質を捕獲する際に、半導体層に認識分子を保持させる場合は、認識分子がコンパクトであること、具体的には低分子化合物であることが好ましい。すなわち、認識分子と生体分子の合計サイズが、電気二重層の厚みの範囲内であることが検出感度の点から好ましいと言える。
【0052】
本発明の検出方法では、検出感度の下限が、好ましくは1×10-6mol/dm3であり、より好ましくは1×10-7mol/dm3、さらに好ましくは1×10-9mol/dm3、特に好ましくは1×10-10mol/dm3であってよい。また、一方で、その上限は、特段制限されないが、好ましくは5×10-3mol/dm3であり、より好ましくは2×10-3mol/dm3、さらに好ましくは1×10-3mol/dm3であってもよい。
【0053】
なお、唾液に含まれるスペルミンやスペルミジン等のポリアミンの量を例とすると、通常1~10×10-6mol/dm3であり、尿に含まれるスペルミンやスペルミジン等のポリアミンの量は、通常1~10×10-8mol/dm3である。ここで、通常、唾液や尿中のポリアミンを分析する場合、唾液や尿に含まれるポリアミン以外の夾雑物などによる影響を除くために、通常、唾液や尿を10~100倍程度に希釈してから分析する。そのため、検出感度は、検体におけるマーカーの濃度よりも10倍~100倍高感度であることが好ましい。
【実施例0054】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0055】
<実験例1-1~1-3>
以下の各ペーパーから6mmφの穴あけパンチで6mmφの円形のパッドに切り出した。プレートリーダー用の丸底96wellプレートに140μLの純水を入れ、ピンセットで端部をつかみながらそれぞれのパッドをwellに5秒浸漬し、ピンセットでつかんだまま含浸前後の重量を測定した。含浸前後の重量差(吸水重量)から、吸水容量を換算し、パッドの含浸前の体積とから、吸水能を比較するための含浸保持容量(μL/mm3)を求めた。
さらに、膜厚計(MITSUTOYO製 モデルID-C112BS)の自然荷重後の重量を測定した。含浸後重量と自然荷重後重量との差を徐放量とし、吸水重量との比を求めて、吸水した水分の自然荷重徐放率とした。
結果を下記表に示す。
(使用ペーパー)
実験例1-1 ガラス繊維:桐山製作所製、GFP
実験例1-2 セルロース:ワットマン社製、1CHR(3000-845)
実験例1-3 レイヨン:安積濾紙社製、濾紙
【0056】
【0057】
[実施例1]
下記に示す方法により
図1に示すトランジスタ型センサを製造し、評価した。
まず、厚さ285nmの酸化シリコン膜が付され、さらに、あらかじめ蒸着法で成膜したNi/Au電極(40nm)をフォトリソグラフィ法でパターニングした、シリコン基板を準備した。そのシリコン基板上に、銅箔上にCVD法で合成したグラフェン単層結晶膜を転写した。さらにグラフェン単層結晶膜を、フォトリソグラフィ法でパターニングした。第一の電極と第二の電極のギャップは約10μm、ギャップ部の電極の幅は約20μm、電極の長さは約5mm、第三の電極との間隔は約1.5mmであった。尚、第一の電極と第二の電極のギャップを覆うように設けたグラフェン単層結晶膜のサイズは、およそ30μm角である。その後、Ar/H
2雰囲気下に300℃で1時間アニールした。
第一の電極、第二の電極のグラフェン膜のあるギャップ部を中心に、10mmol/dm
3のピレンスクシンイミドエステル(1-Pyrenebutyric acid N-hydroxysuccinimide ester)の2-メトキシエタノール溶液(リンカー液)を1μL滴下し、1時間シャーレ内に静置し、乾燥を防ぐように3,4回前記リンカー液を滴下した。1時間後、2-メトキシエタノール溶液を20μL滴下し数秒後に静かにわきから吸い上げ、余分なリンカー液を溶解除去した。
さらに、「PS2.M」として知られているアプタマの末端をC
6アミノ基で修飾したもの(「N-PS2.M」と称する)を合成した。塩基配列は、5’-NH
2-(CH
2)
6-GTGGGTAGGGCGGGTTGG、塩基数は18。このN-PS2.Mの100nMリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液を調製し、92~95℃で10分間熱処理したあと、15分冷蔵したものを修飾用アプタマ溶液とした。上記リンカー液除去部に、修飾用アプタマ溶液を1μL滴下し、乾燥しないようにシャーレ内にて一晩保管し、翌日、修飾用アプタマの上からPBSを20μL滴下し、静かにピペッティングしたのち静かに端からその溶液の一部を吸い上げ、余分なアプタマを溶解除去し、検出用のデバイスとした。
ポリアミンの一つであるスペルミジンの250μM Tris-HCl溶液を調製し、さらにPBSで希釈し、スペルミジンの1nM溶液、10nM溶液、100nM溶液を作製した。クリップ式のFET測定用プローブを用意し、第一の電極および第二の電極対と第三の電極を適切に覆うことができる6mmφに切り出し、70μLの各濃度のポリアミン溶液に浸漬して担持させた、実験例1-1と同様のガラス繊維パッド(桐山製作所 GFP)を設置し、3分待ってからゲート電極に相当する第三の電極に電圧(ゲート電圧以下、Vtgとも称す)を-1V~1Vの範囲で掃引し、ソース電極とドレイン電極に相当する第一の電極、第二の電極間の電流の変化(Isdと称す)をソースメジャーユニット(アジレント社製 4155C接続)を用いて測定した(伝達特性評価におけるI-Vカーブ)。ソース電極とドレイン電極間に印加した電圧は、0.1Vとした。
ポリアミンは、プラスに帯電している。そこで、Dirac Pointのマイナス側へのシフトにより、ポリアミンの存在について確認することができる。そこで、I-Vカーブから、
図2に示すように、最も電流値が小さいところが電気的中和点となる電圧、即ち、Dirac Pointであるから、スペルミジン無しのDirac Pointの値から、各スペルミジン濃度におけるDirac Pointのシフト量を求めた。
結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
各スペルジミン濃度のDirac Pointシフト量(絶対値)が数十mV台以上であることから、ナノモル領域の細かい濃度変化が、高価な高機能計測装置を使用せずに簡易検査器で検出可能となるため、変化をとらえたい生体分子の簡易計測用デバイスとして極めて好ましいと言える。
【0060】
[比較例1]
図3に示す構造のトランジスタ型センサを製造し、評価した。なお、
図3において、G1:基板、G2:ソース電極、G3:ドレイン電極、G4:半導体層、G5:ターゲット補足体、G6:壁(プール)、G7:カバーシート層、G8:ゲート電極(参照電極)である。
酸化シリコン膜(幅1cm×長さ2cm×厚さ285nm)上に、蒸着法でTi/Au膜(70nm)を成膜した後、フォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより、ソース電極とドレイン電極を形成した。ここで、各電極は、長さ5mm×幅10μmとし、ソース電極とドレイン電極とのギャップは5μmとして、酸化シリコン膜上に、酸化シリコン膜の長さ方向に各電極の長さ方向が直交して等間隔に数十本設けることにより、シリコンウェハを作製した。
このシリコンウェハ上に、銅箔上にCVD法で合成したグラフェン単層結晶膜を転写した。このグラフェン膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより、半導体層を形成させた。その後、Ar/H
2雰囲気下で、300℃で1時間アニールすることにより、グラフェン素子を製造した。
【0061】
厚さ5mmのシリコンゴムシートの中央部に四角い孔をあけ、バッファーを入れるプール用の壁を作製した。孔は、プールの容量が、1つのシリコンウェハ上に2つのプールを設置したい場合には、各々40~80マイクロリットルとなるようにあけた。グラフェン素子に、プール用の壁を、グラフェン部が中心にくるように設置することによりプールを作製した。
プール内に、10mmol/dm3のピレンスクシンイミドエステル(1-Pyrenebutyric acid N-hydroxysuccinimide ester)の2-メトキシエタノール溶液(リンカー液)を満たし、10分間静置した後、PBSによりプール内を4~5回リンスすることにより、リンカーの余剰分を洗い流した。なお、ポリアミン定量時のリンカー濃度は0.1μmol/dm3となった。
実施例1と同じアプタマ含有液でプールを満たし、一晩、室温(25℃)で静置することにより、グラフェン上にリンカーを介してアプタマを修飾した。3~4回PBSで静かにリンスした後、PBSで希釈した1mol/dm3のエタノールアミンを滴下し、10分間静置することにより、未反応のリンカーに対し、ブロッキング処理を行った。
プール内に、ゲート電極として、銀/塩化銀電極を装着できるようにすることにより、トランジスタ型センサを製造した。
【0062】
[試料液の調製]
スペルミジンをPBSに溶解することにより、表3に記載された各濃度のスペルミジン溶液を調製した。
【0063】
[ポリアミンの定量]
トランジスタ型センサのプールに、以下のように、スペルミジン溶液を濃度が低い液から一定量ずつ滴下しながら、電圧および電流を継続的に測定した。
まず、10nmol/dm3のスペルミジン溶液をプールに20μL滴下し(滴下後のスペルミジン濃度は2nmol/dm3)、15分待ってから、I-Vカーブを測定した。このプールに50nmol/dm3のスペルミジン溶液を20μL滴下し(滴下後のスペルミジン濃度は10nmol/dm3)、15分以上後にI-Vカーブを測定した。更に、このプールに400nmol/dm3のスペルミジン溶液を20μL滴下し(滴下後のスペルミジン濃度は80nmol/dm3)、15分後にI-Vカーブを測定した。そして、このプールに、975nmol/dm3のスペルミジン溶液を20μL滴下して(滴下後のスペルミジン濃度は195nmol/dm3)、15分待ち、I-Vカーブを測定した。ここで、滴下は、ゲート電極に相当する参照電極の直下に差し込むように静かに注入した。
プール内にPBSを80μL満たした後、ゲート電極に相当する参照電極に電圧(ゲート電圧以下、Vtgとも称す)を0V~0.15Vの範囲で掃引し、ソース電極とドレイン電極間の電流の変化(Isdと称す)をソースメジャーユニット(Keysight社製B2912、N1294接続)を用いて測定した(伝達特性評価におけるI-Vカーブ)。ソース電極とドレイン電極間に印加した電圧は、0.05Vとした。
【0064】
ポリアミンは、プラスに帯電している。そこで、Dirac Pointのマイナス側へのシフトにより、ポリアミンの存在について確認することができる。そこで、I-Vカーブから、ライトストーン社製のグラフ作成ソフト「Origin」を用いて、Dirac Pointにおける電圧のシフト量を算出した。具体的には、このパターンでは、各スペルミジン濃度におけるDirac Pointが印加電圧範囲内になく、全電圧掃引範囲において、各I-Vカーブが平行状態になった。I-VカーブのIsdが36μAとなる印加ゲート電圧をDirac Pointとし、スペルミジン滴下前のI-VカーブのIsdが36μAにおけるDirac Pointからのシフト量をDirac Pointにおけるシフト量とした。結果を表3に示す。
【0065】
【0066】
上記結果と実施例1の結果を比較すると、比較例1のデバイスでは、各濃度でのシフト量が小さいことから、高機能な計測機器を使用せずに細かな濃度の変化を測定することは困難である。また、測定事態も溶液の振動やその他の外乱の影響がある場合、安定な計測に工夫が必要となる可能性がある。
【0067】
[参考例1]
実施例1において、実験例1-1のパッドに替えて、実験例1-3のパッド(濾紙)を使用した以外は全く同様にして測定を行ったところ、
図4のように計測最初に実施する、検出ターゲット調製用のバッファーのみのI-VカーブのIsd値が小さくなりノイズが発生して、安定な計測ができなかった。これは、濾紙の形成するべき電気二重層などを安定形成するには十分な量の液層が半導体層上に形成されなかったことを示唆する。
【0068】
[参考例2]
実施例1において、実験例1-1のパッドに替えて、実験例1-2のパッドを使用した以外は全く同様にして測定を試みたが、ゲート電圧を印可するまでの3分間で蒸散量が多く、パッドの含浸吸水量が不十分のため、半導体層とパッドの接触が目視でも不十分であることが確認され、ノイズが高く、I-Vカーブが測定できなかった。
【0069】
[実施例2]
実施例1の「PS2.M」として知られているアプタマを、配列:5’-NH2-(CH2)6-GCGCGGGGCACGTTTATCCGTCCCTCCTAGTGGCGTGCCCCGCGC、塩基数45のIgE抗体用アプタマに代え、スペルミジンをヤマサ抗ヒトIgEモノクローナル抗体(富士フイルム和光純薬)に代え、パッドを140μLの各濃度のIgE溶液に浸漬した以外は同様にし、IgEの測定を行った結果を表4に示す。
表5には、夾雑物として、非特異吸着の代表格として知られている、アルブミンウシ血清由来(BSA:富士フイルム和光純薬)を共存させた各濃度のIgE溶液について同様にして検出実験を行った結果を示す。尚BSAを共存させた各濃度のIgE溶液は、実施例1のバッファーの代わりに1.75g/dL溶解した「BSA共存バッファー」を調製して用いて作製した。
【0070】
【0071】
【0072】
上記結果より「生体分子の検出において、その測定精度を大きく損なう夾雑物として従来懸念されてきたBSA」が共存していてもしていなくても、nM領域で10mV以上という大きなDirac Pointのシフト量が得られた。したがって、本発明によれば、高価な分析手段や、専門的な知識や技術を必要とする検体の前処理を必要とせずに、抗体の検出が可能となる。
本発明の検出用デバイスおよび検出方法は、唾液や尿等を用いたガンの診断等に適用できると考えられる。即ち、本発明は、最近のパンデミックの広域の流行などを鑑み、大病院外、例えば、クリニックや保健所、学校などにおいて、迅速にその場でスクリーニングすることが可能にする簡易な検出方法、検出用デバイスに適用可能である。