(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152526
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】無機イオン含有水の処理方法および装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20231010BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20231010BHJP
C02F 1/56 20230101ALI20231010BHJP
C02F 11/14 20190101ALI20231010BHJP
【FI】
C02F1/58 H ZAB
C02F1/52 Z
C02F1/56 Z
C02F11/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062607
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067839
【弁理士】
【氏名又は名称】柳原 成
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 清彦
【テーマコード(参考)】
4D015
4D038
4D059
【Fターム(参考)】
4D015BA03
4D015BA05
4D015BA25
4D015BB09
4D015CA20
4D015DA02
4D015DC06
4D015DC07
4D015DC08
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4D038AA10
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4D038AB59
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4D038BA06
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4D059AA03
4D059BG00
4D059CB09
4D059DA05
4D059EA01
4D059EB01
4D059EB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】配管摩耗やポンプの閉塞などの発生を防止し、汚泥返送路および付属品の分解、清掃作業や交換の頻度を低下させることができ、これにより長期にわたり安定して無機イオン含有水の処理を行って、濃縮性および脱水性に優れた高密度汚泥を生成させることができる無機イオン含有水の処理方法および装置を提供する。
【解決手段】第1反応槽1で原水中の被処理無機系イオンと改質汚泥中の不溶化物生成剤を反応させて不溶化物を生成させ、第2反応槽2で無機凝集剤と反応させ、凝集槽3で高分子凝集剤を添加して凝集させ、固液分離槽4で固液分離し、分離汚泥の一部を汚泥改質槽5に返送し、不溶化物生成剤と混合した改質汚泥を第1反応槽1に供給する処理において、汚泥返送路L7における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/sec、返送汚泥の固形物濃度を14~28重量%内から選ばれる領域を含む設定領域に制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させる反応工程、
反応工程の反応液から不溶化物を含む汚泥と処理水に分離する固液分離工程、
固液分離工程で分離する分離汚泥の一部を返送汚泥として、汚泥返送路を通して返送する汚泥返送工程、および
返送汚泥に不溶化物生成剤を添加して改質汚泥を生成させ、改質汚泥を反応工程に供給する汚泥改質工程を含み、
汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/sec、
返送汚泥の固形物濃度を14~28重量%内から選ばれる領域を含む設定領域に制御する
ことを特徴とする無機イオン含有水の処理方法。
【請求項2】
汚泥返送路におけるポンプの吸込配管の流速を1.2~1.5m/secとし、
ポンプの吐出管の口径を最大流速が1.5m/secとなるようにすることにより、
汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御する
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
返送汚泥の固形物濃度が設定領域の下限値Lと、設定領域の上限値Hの中間に、下中間値LMおよび上中間値HMを設定し、
固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始し、
固形物濃度が上限値Hに達した段階で高速排泥に切り換え、
固形物濃度が上中間値HMに達した段階で高速排泥を停止して低速排泥に切り換え、
固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止することにより
返送汚泥の固形物濃度を設定領域に制御する
ことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
高速排泥が連続排泥であり、低速排泥が間欠排泥であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
反応工程と固液分離工程の間に、反応工程の反応液に無機凝集剤を添加して反応させる第2反応工程および(または)高分子凝集剤を添加して凝集させる凝集工程を含むことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項6】
無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させる反応槽、
反応工程の反応液から不溶化物を含む汚泥と処理水に分離する固液分離槽、
固液分離工程で分離する分離汚泥の一部を、返送汚泥として返送する汚泥返送路、および
返送汚泥に不溶化物生成剤を添加して改質汚泥を生成させ、改質汚泥を反応工程に供給する汚泥改質槽を含み、さらに
汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/sec、
返送汚泥の固形物濃度を14~28重量%内から選ばれる領域を含む設定領域に制御する制御装置を含む
ことを特徴とする無機イオン含有水の処理装置。
【請求項7】
汚泥返送路におけるポンプは、吸込配管の流速が1.2~1.5m/secであり、
ポンプの吐出管の口径は、最大流速が1.5m/secであり、
制御装置は、汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御するように構成されている
ことを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項8】
制御装置は、
返送汚泥の固形物濃度が設定領域の下限値Lと、設定領域の上限値Hの中間に、下中間値LMおよび上中間値HMを設定し、
固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始し、
固形物濃度が上限値Hに達した段階で高速排泥に切り換え、
固形物濃度が上中間値HMに達した段階で高速排泥を停止して低速排泥に切り換え、
固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止することにより
返送汚泥の固形物濃度を設定領域に制御するように構成されている
ことを特徴とする請求項6または7記載の装置。
【請求項9】
高速排泥が連続排泥であり、低速排泥が間欠排泥であることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項10】
反応槽と固液分離槽の間に、反応槽の反応液に無機凝集剤を添加して反応させる第2反応槽および(または)高分子凝集剤を添加して凝集させる凝集槽を含むことを特徴とする請求項8記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させ、生成する不溶性化物を含む汚泥を分離する処理において、分離汚泥の一部を返送し不溶化物生成剤を添加して無機イオン含有水と反応させるようにした無機イオン含有水の処理方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属イオン、リン酸イオン、フッ化物イオン等の無機イオンを含む排水の処理方法として、アルカリ汚泥法等の高密度汚泥法(HDS法:High Density Sludge)が知られている。このHDS法は、無機イオン含有水をアルカリ等の不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させ、生成する不溶化物を含む汚泥を分離する際、分離汚泥の一部を返送して不溶化物生成剤を添加し、高密度改質汚泥として無機イオン含有水と反応させることにより、濃縮性に富み、脱水性に優れた高密度汚泥を排出できるようにしている。
【0003】
図2は特許文献1(WO2011/115230)ほかに記載された従来のHDS法による無機イオン含有水処理方法および装置を示すフロー図である。
図2において、従来の無機イオン含有水処理装置は、第1反応槽1、第2反応槽2、凝集槽3、固液分離槽4および汚泥改質槽5を備えている。第1反応槽1には被処理無機イオン含有水を導入する原水路L1が連絡し、第1反応槽1は経路L2により第2反応槽2に連絡し、第2反応槽2は経路L3により凝集槽3に連絡し、凝集槽3は経路L4により固液分離槽4に連絡している。固液分離槽4の上部から処理水路L5が系外に連絡し、底部からポンプP1を有する排泥路L6が系外に連絡している。固液分離槽4の底部からポンプP2、流量計Fおよび汚泥濃度計SSを有する汚泥返送路L7が汚泥改質槽5に連絡し、汚泥改質槽5から改質汚泥路L8が第1反応槽1に連絡している。汚泥改質槽5には不溶化物生成剤路L9が連絡している。第1反応槽1はpH計pH1を備え、pH調整剤路L11が連絡している。第2反応槽2はpH計pH2を備え、pH調整剤路L12および凝集剤路L13が連絡している。凝集槽3はpH計pH3を備え、pH調整剤路L14および凝集剤路L15が連絡している。汚泥返送路L7には流量計Fおよび汚泥濃度計SSが設けられており、汚泥濃度計SSは測定した汚泥濃度に基づいて、ポンプP2による汚泥改質槽5への返送汚泥量を制御できるように接続されている。第1反応槽1、第2反応槽2および凝集槽3には攪拌装置が設けられているが、図示は省略されている。
【0004】
上記の装置では、原水路L1から第1反応槽1に原水(被処理無機系イオン含有水)を導入し、汚泥改質槽5から改質汚泥路L8を通して第1反応槽1に改質汚泥を供給し、pH計pH1により測定されるpH値が所定値を維持するように、必要によりpH調整剤路L11からpH調整剤を供給して、原水中の被処理無機系イオンと改質汚泥中の不溶化物生成剤を反応させ、不溶化物を生成させる。金属イオンなどのように、この第1反応により分離性、脱水性の良い汚泥が生成する場合は第2反応槽2、凝集槽3を省略し、反応液を直接固液分離槽4に送って固液分離することができる。しかしリン酸イオン、フッ化物イオンなどのように分離性、脱水性の良くない汚泥が生成する場合には、第2反応槽2においてpH調整剤路L12からpH調整剤を供給し、凝集剤路L13からアルミニウム塩等の無機凝集剤を供給して第2反応を行う。そして必要により、さらに凝集槽3においてpH調整剤路L14からpH調整剤を供給し、凝集剤路L15から高分子凝集剤を供給して凝集反応を行う。第2反応槽2、凝集槽3の反応はどちらか一方を行うこともできる。こうして分離性、脱水性の良い汚泥が生成した反応液を直接固液分離槽4に送って固液分離し、分離液は処理水路L5から処理水として、分離汚泥の一部は排泥路L6から排泥として、それぞれ系外に排出する。分離汚泥の一部は汚泥返送路L7から返送汚泥として汚泥改質槽5に返送し、不溶化物生成剤路L9から不溶化物生成剤を供給して返送汚泥と混合して汚泥改質を行う。改質汚泥は改質汚泥路L8から第1反応槽1に供給されて原水と反応するが、このとき濃縮状態の汚泥に吸着された不溶化物生成剤が原水中の被処理無機系イオンと反応して、汚泥の固形物付近で不溶化物が生成するため、濃縮性に富み、脱水性に優れた高密度汚泥に成長する。
【0005】
特許文献2(特開平5-57292)には、重金属含有廃水にアルカリを添加して不溶化物を生成させ、これを処理水と汚泥に分離する際、アルカリを返送汚泥と混合して廃水に添加し、返送汚泥中の固形分量を廃水から生成する不溶化物の量(発生SS量)の15~40倍とする処理方法が示されている。ここではR=(返送汚泥中の固形分量)/(発生SS量)=(汚泥濃度(g/L)×返送汚泥量(1/hr))/(発生固形分量(g/L)×原水量(1/hr))においてRが15~40倍とされている。これは処理される原水から発生する固形分量に対し、返送汚泥中の固形分量が15~40倍となるように汚泥が返送されることを示している。
【0006】
特許文献3(特開2010-234300)には、無機イオン含有排水に不溶性塩生成剤を添加して不溶性塩を析出させ、次いで固液分離処理して不溶性塩を含む汚泥を処理水から分離し、分離した汚泥の一部を返送汚泥とし、この返送汚泥に前記不溶性塩生成剤を添加して前記無機イオン含有排水に添加し、汚泥の残部を引き抜き汚泥として排出する無機イオン含有排水の処理方法において、返送汚泥濃度が2~10重量%となるように、返送汚泥の流量と引抜汚泥の流量との比を予め設定した一定の汚泥返送比とする処理方法が示されており、これにより原水の性状に変化があっても、おのずから汚泥返送比が適正な値に収束するとされている。特許文献3では、HDS法において汚泥返送比が適切に制御されない場合、たとえば汚泥返送比が過度に小さい場合には、通常凝集汚泥のように脱水性が悪化し、逆に、汚泥返送比が過度に高い場合には、微細フロックが生成し、処理水質が悪化するとされている。
【0007】
しかしながらこれらの従来の処理方法では、固液分離槽からの返送汚泥は、原水および不溶化反応から発生汚泥量を予測し、その予測値より返送汚泥量を決めていることから、汚泥濃度は成り行きとなり、高濃度の汚泥が生成する結果になっていた。そのため返送汚泥の濃度が高くなり、汚泥返送路L7において配管摩耗やポンプの閉塞などが発生する。汚泥返送路L7は低位置から高位置への汚泥返送を行うため、エルボ、ベンド等の屈曲部7a、7bを含む場合が多いが、このような屈曲部7a、7bにおける摩耗や閉塞などの発生も多い。このため頻繁に汚泥返送路および付属品(バルブ等)の分解、清掃作業ならびに交換が必要になり、安定運転に支障をきたすという問題点があった。
【0008】
特許文献4(特開2006-167633)には、フッ化物イオンを含む排水の処理方法として、フッ化物イオン含有水にカルシウム化合物を反応させてフッ化カルシウムを形成させる処理において、返送汚泥にカルシウム化合物を添加して反応させる際、生成する汚泥の汚泥濃度を指標として、返送汚泥の流量を一定にし、系外に排出する汚泥の流量を調整する方法が提案されている。ここで返送汚泥の流量が一定とは、返送汚泥の流量を原水流量の0.5~30%、好ましくは、1~10%に設定することとされているから、原水流量の変動により返送汚泥の流量も変動することになるから、汚泥循環ラインにおいて配管摩耗やポンプの閉塞などが発生することは、前記の場合と同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2011/115230
【特許文献2】特開平5-57292
【特許文献3】特開2010-234300
【特許文献4】特開2006-167633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決するため、配管摩耗やポンプの閉塞などの発生を防止し、汚泥返送路および付属品の分解、清掃作業や交換の頻度を低下させることができ、これにより長期にわたり安定して無機イオン含有水の処理を行って、濃縮性および脱水性に優れた高密度汚泥を生成させることができる無機イオン含有水の処理方法および装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の無機イオン含有水の処理方法および装置である。
(1) 無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させる反応工程、
反応工程の反応液から不溶化物を含む汚泥と処理水に分離する固液分離工程、
固液分離工程で分離する分離汚泥の一部を返送汚泥として、汚泥返送路を通して返送する汚泥返送工程、および
返送汚泥に不溶化物生成剤を添加して改質汚泥を生成させ、改質汚泥を反応工程に供給する汚泥改質工程を含み、
汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/sec、
返送汚泥の固形物濃度を14~28重量%内から選ばれる領域を含む設定領域に制御する
ことを特徴とする無機イオン含有水の処理方法。
(2) 汚泥返送路におけるポンプの吸込配管の流速を1.2~1.5m/secとし、
ポンプの吐出管の口径を最大流速が1.5m/secとなるようにすることにより、
汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御する
ことを特徴とする上記(1)記載の方法。
(3) 返送汚泥の固形物濃度が設定領域の下限値Lと、設定領域の上限値Hの中間に、下中間値LMおよび上中間値HMを設定し、
固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始し、
固形物濃度が上限値Hに達した段階で高速排泥に切り換え、
固形物濃度が上中間値HMに達した段階で高速排泥を停止して低速排泥に切り換え、
固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止することにより
返送汚泥の固形物濃度を設定領域に制御する
ことを特徴とする上記(1)または(2)記載の方法。
(4) 高速排泥が連続排泥であり、低速排泥が間欠排泥であることを特徴とする上記(3)記載の方法。
(5)反応工程と固液分離工程の間に、反応工程の反応液に無機凝集剤を添加して反応させる第2反応工程および(または)高分子凝集剤を添加して凝集させる凝集工程を含むことを特徴とする上記(3)記載の方法。
(6) 無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させる反応槽、
反応工程の反応液から不溶化物を含む汚泥と処理水に分離する固液分離槽、
固液分離工程で分離する分離汚泥の一部を、返送汚泥として返送する汚泥返送路、および
返送汚泥に不溶化物生成剤を添加して改質汚泥を生成させ、改質汚泥を反応工程に供給する汚泥改質槽を含み、さらに
汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/sec、
返送汚泥の固形物濃度を14~28重量%内から選ばれる領域を含む設定領域に制御する制御装置を含む
ことを特徴とする無機イオン含有水の処理装置。
(7) 汚泥返送路におけるポンプは、吸込配管の流速が1.2~1.5m/secであり、
ポンプの吐出管の口径は、最大流速が1.5m/secであり、
制御装置は、汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御するように構成されている
ことを特徴とする上記(6)記載の装置。
(8) 制御装置は、
返送汚泥の固形物濃度が設定領域の下限値Lと、設定領域の上限値Hの中間に、下中間値LMおよび上中間値HMを設定し、
固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始し、
固形物濃度が上限値Hに達した段階で高速排泥に切り換え、
固形物濃度が上中間値HMに達した段階で高速排泥を停止して低速排泥に切り換え、
固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止することにより
返送汚泥の固形物濃度を設定領域に制御するように構成されている
ことを特徴とする上記(6)または(7)記載の装置。
(9) 高速排泥が連続排泥であり、低速排泥が間欠排泥であることを特徴とする上記(8)記載の装置。
(10) 反応槽と固液分離槽の間に、反応槽の反応液に無機凝集剤を添加して反応させる第2反応槽および(または)高分子凝集剤を添加して凝集させる凝集槽を含むことを特徴とする上記(8)記載の装置。
【0012】
本発明において処理の対象となる無機イオン含有水は、不溶化物生成剤と反応させることにより不溶性化物が生成する無機イオンを含有する水であり、従来よりHDS法による処理の対象とされている無機イオン含有水が含まれる。このような無機イオン含有水に含まれる無機イオンとしては金属イオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、炭酸イオンなどがあげられる。金属イオンとしては、例えばFe2+、Fe3+、Cu2+、Mn2+、Cr2+、Co2+、Ni2+、Zn2+、Cd2+などの重金属イオンや、Mg2+、Al3+などの軽金属イオンなどがあげられる。
【0013】
金属イオンと反応して不溶化物を生成させるための不溶化物生成剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ剤があげられ、その反応は中和による不溶化物生成反応である。リン酸イオン、フッ化物イオンなどの不溶化物生成剤としては塩化カルシウム、水酸化カルシウムなどのカルシウム塩や水酸化物などの水溶性カルシウム化合物があげられ、その反応は不溶性カルシウム化合物の析出による不溶化物生成反応である。
【0014】
アルカリ剤は、反応槽内のpHが所定範囲となるように添加される。好適なpH範囲は金属種によって異なり、Alの場合はpH4~6、Crの場合はpH5~7、Fe2+の場合はpH8~10、Znの場合はpH8~10、Fe3+の場合はpH4~5、Cuの場合はpH6~8である。このほかのものについては、中和反応による不溶化物生成試験により決めることができる。
【0015】
カルシウム塩等の水溶性カルシウム化合物は、原水中のリン酸イオン濃度、フッ化物イオンなどの濃度に応じて添加されるが、小過剰に添加されるのが好ましい。リン酸イオンを処理する場合、水溶性カルシウム化合物の添加量は、当モル比の1倍+残留Caとして20~200mg/L程度が好適である。フッ化物イオンを処理する場合、カルシウム塩等の添加量は、当モル比の1倍+残留Caとして200~500mg/L程度が好ましい。
【0016】
高分子凝集剤は、ノニオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤のいずれも適用可能であるが、例えば無機系イオン含有排水がアルミニウムイオン含有排水である場合は、ノニオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤が上記高分子凝集剤として効果的である。
【0017】
本発明では、無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させ、生成する不溶性化物を含む汚泥を分離する処理において、分離汚泥の一部を返送し不溶化物生成剤を添加して無機イオン含有水と反応させるHDS法により、無機イオン含有水の処理を行う。このようなHDS法では、濃縮状態の返送汚泥に吸着された不溶化物生成剤が原水中の被処理無機系イオンと反応して、汚泥の固形物付近で不溶化物が生成するため、濃縮性に富み、脱水性に優れた高密度汚泥に成長する。
【0018】
本発明の無機イオン含有水の処理方法は、無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させる反応工程、反応工程の反応液から不溶化物を含む汚泥と処理水に分離する固液分離工程、固液分離工程で分離する分離汚泥の一部を返送汚泥として、汚泥返送路を通して返送する汚泥返送工程、および返送汚泥に不溶化物生成剤を添加して改質汚泥を生成させ、改質汚泥を反応工程に供給する汚泥改質工程を含む点は従来の方法と同様であるが、本発明ではさらに、汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/sec、返送汚泥の固形物濃度を14~28重量%内から選ばれる領域を含む設定領域に制御するように構成されている。
【0019】
本発明において「14~28重量%内ら選ばれる領域を含む設定領域」とは、14~28重量%に含まれる領域から選ばれる領域、例えば14~20重量%、18~25重量%あるいは20~28重量%などの領域を含む領域を設定領域とすることを意味し、この設定領域に返送汚泥の固形物濃度を制御するようにされている。どの領域を含む領域を設定領域とするかは、生成する汚泥の性状等により決まる。例えば重質で分離性のよい汚泥が生成する系では、低い濃度領域を含む領域を設定領域とすることができ、一方軽質で分離性の悪い汚泥が生成する系では、高い濃度領域を含む領域を設定領域とすることができるなど、生成する汚泥の性状等に応じて決めることができる。設定領域は「14~28重量%内から選ばれる領域」を主要部として含む領域であればよく、「14~28重量%内から選ばれる領域」に加えて、この領域から外れる領域、例えば14重量%未満の領域および(または)28重量%を超える領域をさらに含む領域であってもよい。
【0020】
本発明の無機イオン含有水の処理装置は、無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させる反応槽、反応工程の反応液から不溶化物を含む汚泥と処理水に分離する固液分離槽、固液分離工程で分離する分離汚泥の一部を、返送汚泥として返送する汚泥返送路、および返送汚泥に不溶化物生成剤を添加して改質汚泥を生成させ、改質汚泥を反応工程に供給する汚泥改質槽を含む点は従来の装置と同様であるが、本発明ではさらに、汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/sec、返送汚泥の固形物濃度を14~28重量%内から選ばれる領域を含む設定領域に制御する制御装置を含むように構成されている。
【0021】
上記本発明の無機イオン含有水の処理装置において、汚泥返送路におけるポンプは、吸込配管の流速は1.2~1.5m/secであり、ポンプの吐出管の口径は最大流速が1.5m/secであり、制御装置は汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御するように構成されているのが好ましい。また制御装置は、返送汚泥の固形物濃度が20重量%の下限値Lと、28重量%の上限値Hの中間に、下中間値LMおよび上中間値HMを設定し、固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始し、固形物濃度が上限値Hに達した段階で高速排泥に切り換え、固形物濃度が上中間値HMに達した段階で高速排泥を停止して低速排泥に切り換え、固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止することにより返送汚泥の固形物濃度を20~28重量%に制御するように構成されているものが好適である。この場合高速排泥が連続排泥であり、低速排泥が間欠排泥であるのが好ましいが、他の態様でもよい。連続排泥、間欠排泥の流量はそれぞれ任意であり、間欠排泥の時間間隔も任意であるが、間欠排泥の一例としては、10分引き抜いて20分間停止を繰り返す例がある。
【0022】
上記の無機イオン含有水の処理装置において、リン酸イオン、フッ化物イオンなどのように分離性、脱水性の良くない汚泥が生成する原水を処理する場合には、反応槽と固液分離槽の間に、反応槽の反応液に無機凝集剤を添加して反応させる第2反応槽および(または)高分子凝集剤を添加して凝集させる凝集槽を設けることができる。また上記の処理装置においては、汚泥返送路は低位置から高位置への汚泥返送を行うため、エルボ、ベンド等の屈曲部を含む構成とされるが、このような屈曲部としては、曲率半径が1.5D以上(Dはパイプの外径)とするのが好ましく、これにより屈曲部における摩耗防止効果をさらに高めることができる。
【0023】
上記本発明の無機イオン含有水の処理装置では、上記本発明の処理方法により無機イオン含有水の処理が行われる。すなわち反応槽において無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させ、固液分離槽において反応工程の反応液から不溶化物を含む汚泥と処理水に分離し、固液分離工程で分離する分離汚泥の一部を返送汚泥として、汚泥返送路を通して返送し、汚泥改質槽において返送汚泥に不溶化物生成剤を添加して改質汚泥を生成させ、改質汚泥を反応工程に供給することにより、HDS法による無機イオン含有水の処理が行われる。
【0024】
従来のHDS法では前述のとおり、固液分離槽からの返送汚泥は、原水および不溶化反応から発生汚泥量を予測し、その予測値より返送汚泥量を決めていることから、汚泥濃度は成り行きとなり、このため返送汚泥の濃度が高くなり、汚泥返送路において配管摩耗やポンプの閉塞などが発生するという問題点があった。これを避けるため本発明では、汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御する。これにより汚泥返送路における配管摩耗やポンプの閉塞などの発生を防止することができる。返送汚泥の流速が1.2m/sec未満では閉塞が発生しやすく、また返送汚泥の流速が1.5m/secを超えると配管摩耗が発生しやすい。配管摩耗や閉塞の発生は、原水水質、汚泥の性状、配管の形状、大きさ等により若干の変動があるが、実用的には返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御することにより防止することができる。汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御するためには、汚泥返送路におけるポンプの吸込配管の流速を1.2~1.5m/secとし、ポンプの吐出管の口径を最大流速が1.5m/secとなるようにすることにより、汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御することができるが、他の手段によってもよい。
【0025】
返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御する場合、流速の上限が配管摩耗防止の点から低い流速に制限されるので、従来法のように汚泥濃度が低い状態(例えば特許文献3では2~10重量%)で返送されると、処理に必要な量の汚泥が返送されなくなり、処理に悪影響を及ぼすおそれが生じることも考えられる。これを防止するために本発明では、返送汚泥の固形物濃度を従来よりも高い濃度に維持するように、従来よりも高い濃度である14~28重量%内から選ばれる領域を含む設定領域に制御するように構成されている。本発明では汚泥の引抜量を制御することによって、返送汚泥の固形物濃度を従来よりも高い濃度に制御するようにされているから、従来よりも高い汚泥濃度で汚泥を返送することにより、系内に汚泥が蓄積していくようにされている。この濃度は特許文献3において返送汚泥濃度を2~10重量%に制御するよりも高い濃度であり、これにより処理を定常状態で行うことができる。返送汚泥の固形物濃度が上限値28重量%をこえる場合は効率が低下するおそれがある。
【0026】
返送汚泥の固形物濃度を設定領域に制御するためには、返送汚泥の固形物濃度が設定領域の下限値Lと、設定領域の上限値Hの中間に、下中間値LMおよび上中間値HMを設定し、固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始し、固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止する。固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始した後、固形物濃度が上限値Hに達した場合はその段階で高速排泥に切り換え、固形物濃度が上中間値HMに達した段階で高速排泥を停止して低速排泥に切り換え、その状態で固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止する。これにより返送汚泥の固形物濃度を設定領域に制御することができる。この場合、上限値Hと上中間値HMで高速排泥を行うことにより急速に固形物濃度を下げ、下中間値LMと下限値L間で低速排泥を行うことにより緩速ではあるが、正確に固形物濃度を下げることができる。高速排泥として連続排泥を採用し、低速排泥として間欠排泥を採用すると、ポンプの駆動条件等を変えることなく、排泥時間の制御だけで高速排泥と低速排泥を切り替えて効率的で正確な排泥を行うことができる。下中間値LMおよび上中間値HMは制御の容易性、正確性、効率等を考慮して任意に設定できる。
【0027】
高い汚泥濃度で返送する無機イオン含有水処理においては、処理を定常状態で維持するためには、処理において発生する汚泥を全量排出する必要がある。これは発生汚泥を全量排出しなければ、系内に汚泥が蓄積してしまうからである。従って処理を定常状態で行うためには、定期的に所定の時間、例えば1時間に2分程度の排泥を行うのが有効である。しかし定期的排泥により正確に発生汚泥の全量を排出するのは困難であるので、定期的排泥を発生汚泥量よりも少なめに設定した排汚泥量で定期的排泥を行い、このような定期的排泥を行ってもさらに発生し蓄積する余剰の汚泥を、定期的排泥とは別の上記返送汚泥の固形物濃度の変動による制御により排泥するのが好ましい。この場合変動する返送汚泥の固形物濃度を、汚泥濃度計で測定した汚泥濃度に基づいて、ポンプによる返送汚泥量を制御できるようにするのが好ましい。ポンプによる返送汚泥量制御のためには、返送汚泥用のポンプと排泥用のポンプを別に設けて、別々に操作すると正確な制御が期待できるが、排泥のためのポンプの駆動時間は少ないので、1台のポンプを返送汚泥用と排泥用に共用し、バルブの切替により返送汚泥と排泥を切替えることもできる。
【0028】
このように汚泥返送路における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/sec、返送汚泥の固形物濃度を20~28重量%に制御して、上記のように無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させる処理を行うことにより、配管摩耗やポンプの閉塞などの発生を防止し、汚泥返送路および付属品の分解、清掃作業や交換の頻度を低下させ、長期にわたり安定して無機イオン含有水の処理を行うことができる。
【0029】
リン酸イオン、フッ化物イオンなどのように分離性、脱水性の良くない汚泥が生成する場合には、反応槽と固液分離槽の間に第2反応槽および(または)凝集槽を設け、第2反応槽において第2反応工程として反応槽の反応液に無機凝集剤を添加して反応させ、凝集槽において凝集工程として高分子凝集剤を添加し凝集反応により凝集汚泥を生成させ、固液分離槽において固液分離することができる。第2反応槽、凝集槽の反応はどちらか一方を行うこともできる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、HDS法による無機イオン含有水の処理方法および装置において、配管摩耗やポンプの閉塞などの発生を防止し、汚泥返送路および付属品の分解、清掃作業や交換の頻度を低下させることができ、これにより長期にわたり安定して無機イオン含有水の処理を行って、濃縮性および脱水性に優れた高密度汚泥を生成させることができるなどの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態の無機イオン含有水処理方法および装置を示すフロー図である。
【
図2】従来の無機イオン含有水処理方法および装置を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1において、実施形態の無機イオン含有水処理装置は、第1反応槽1、第2反応槽2、凝集槽3、固液分離槽4および汚泥改質槽5を備えており、これらは
図2の従来のものとほぼ同様の構成になっているが、
図1ではさらに制御装置6を備えている。第1反応槽1には被処理無機イオン含有水を導入する原水路L1が連絡し、第1反応槽1は経路L2により第2反応槽2に連絡し、第2反応槽2は経路L3により凝集槽3に連絡し、凝集槽3は経路L4により固液分離槽4に連絡している。固液分離槽4の上部から処理水路L5が系外に連絡し、底部からポンプP1を有する排泥路L6が系外に連絡している。固液分離槽4の底部からポンプP2、流量計Fおよび汚泥濃度計SSを有する汚泥返送路L7が汚泥改質槽5に連絡し、汚泥改質槽5から改質汚泥路L8が第1反応槽1に連絡している。汚泥改質槽5には不溶化物生成剤路L9が連絡している。第1反応槽1はpH計pH1を備え、pH調整剤路L11が連絡している。第2反応槽2はpH計pH2を備え、pH調整剤路L12および凝集剤路L13が連絡している。凝集槽3はpH計pH3を備え、pH調整剤路L14および凝集剤路L15が連絡している。汚泥返送路L7には流量計Fおよび汚泥濃度計SSが設けられている。流量計F、汚泥濃度計SS、pH計pH1、pH計pH2およびpH計pH3の測定信号はそれぞれ制御装置6に入力され、制御装置6から制御信号がポンプP1、ポンプP2に入力されるように構成されている。これにより汚泥濃度計SSが測定した汚泥濃度に基づいて、ポンプP1による排泥、およびポンプP2による汚泥改質槽5への汚泥返送を制御できるように接続されている。第1反応槽1、第2反応槽2および凝集槽3には攪拌装置が設けられているが、図示は省略されている。汚泥返送路L7は低位置から高位置への汚泥返送を行うため、エルボ、ベンド等の屈曲部7a、7bを含む構成とされているが、これらの屈曲部7a、7bは、曲率半径が1.5D以上(Dはパイプの外径)とされている。
【0033】
上記の装置では、原水路L1から第1反応槽1に原水(被処理無機系イオン含有水)を導入し、汚泥改質槽5から改質汚泥路L8を通して第1反応槽1に改質汚泥を供給し、pH計pH1により測定されるpH値が所定値を維持するように、制御装置6によりpH調整剤路L11からpH調整剤の供給を制御して、原水中の被処理無機系イオンと改質汚泥中の不溶化物生成剤を反応させ、不溶化物を生成させる。金属イオンなどのように、この第1反応により分離性、脱水性の良い汚泥が生成する場合は第2反応槽2、凝集槽3を省略し、反応液を直接固液分離槽4に送って固液分離することができる。しかしリン酸イオン、フッ化物イオンなどのように分離性、脱水性の良くない汚泥が生成する場合には、第2反応槽2においてpH調整剤路L12からpH調整剤を供給し、制御装置6によりpH調整剤路L12からのpH調整剤の供給を制御し、凝集剤路L13からアルミニウム塩等の無機凝集剤を供給して第2反応を行う。そして必要により、さらに凝集槽3においてpH調整剤路L14からpH調整剤を供給し、制御装置6によりpH調整剤路L14からのpH調整剤の供給を制御し、凝集剤路L15から高分子凝集剤を供給して凝集反応を行う。第2反応槽2、凝集槽3の反応はどちらか一方を行うこともできる。
【0034】
こうして分離性、脱水性の良い汚泥が生成した反応液を直接固液分離槽4に送って固液分離し、分離液は処理水路L5から処理水として、分離汚泥の一部は排泥路L6から排泥として、それぞれ系外に排出する。分離汚泥の一部は汚泥返送路L7から返送汚泥として汚泥改質槽5に返送し、不溶化物生成剤路L9から不溶化物生成剤を供給して返送汚泥と混合して汚泥改質を行う。改質汚泥は改質汚泥路L8から第1反応槽1に供給されて原水と反応するが、このとき濃縮状態の汚泥に吸着された不溶化物生成剤が原水中の被処理無機系イオンと反応するので、汚泥の固形物付近で不溶化物が生成し、濃縮性に富み、脱水性に優れた高密度汚泥に成長する。
【0035】
上記の処理では、配管摩耗やポンプの閉塞などの発生を防止するために、汚泥返送路L7における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/sec、返送汚泥の固形物濃度を14~28重量%内から選ばれる領域を含む設定領域に制御する。汚泥返送路L7における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御するために、汚泥返送路L7におけるポンプP2は、吸込配管の流速が1.2~1.5m/secであり、ポンプの吐出管の口径は最大流速が1.5m/secとなるものを用い、制御装置6は汚泥返送路L7における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/secに制御するようにされている。
【0036】
上記の装置において処理を定常状態で維持するためには、処理で発生する汚泥を全量排出する必要があり、このために定期的排泥として発生汚泥量よりも少なめに設定した排汚泥量で定期的排泥を行うようにされている。このため定期的に所定の時間、例えば1時間に2分程度の排泥を行うために、制御装置6からの制御信号によりポンプP1による排泥が行われる。ここで処理により発生する発生汚泥量は、前記特許文献2に示された式等により算出される。このような定期的排泥を行っても、さらに余剰の汚泥が発生し蓄積するので、定期的排泥とは別に上記返送汚泥の固形物濃度の変動による排泥を行うように制御する。
【0037】
このような処理において、返送汚泥の固形物濃度を14~28重量%内から選ばれる領域を含む設定領域に制御するために、制御装置6は、汚泥濃度計SSで測定される返送汚泥の固形物濃度が設定領域の下限値Lと、設定領域の上限値Hの中間に、下中間値LMおよび上中間値HMを設定し、固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始し、固形物濃度が上限値Hに達した段階で高速排泥に切り換え、固形物濃度が上中間値HMに達した段階で高速排泥を停止して低速排泥に切り換え、固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止するように制御する構成とされている。
【0038】
このような制御装置6による制御では、返送汚泥の固形物濃度を設定領域に制御するためには、汚泥濃度計SSで測定される返送汚泥の固形物濃度が下中間値LMに達した段階でポンプP1による低速排泥を開始し、固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止する。固形物濃度が下中間値LMに達した段階でポンプP1による低速排泥を開始した後、固形物濃度が上限値Hに達した場合はその段階で高速排泥に切り換え、固形物濃度が上中間値HMに達した段階で高速排泥を停止して低速排泥に切り換え、その状態で固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止する。これにより返送汚泥の固形物濃度を設定領域に制御することができる。この場合、上限値Hと上中間値HMで高速排泥を行うことにより急速に固形物濃度を下げ、下中間値LMと下限値L間で低速排泥を行うことにより緩速ではあるが、正確に固形物濃度を下げることができる。高速排泥としてポンプP1による連続排泥を採用し、低速排泥としてポンプP1による間欠排泥を採用すると、ポンプP1の駆動条件等を変えることなく、排泥時間の制御だけで高速排泥と低速排泥を切り替えて効率的で正確な排泥を行うことができる。下中間値LMおよび上中間値HMは制御の容易性、正確性、効率等を考慮して任意に設定できるが、一例として下中間値LMを22重量%、上中間値HMを24重量%とすることができる。間欠排泥の時間間隔も任意に設定できるが、間欠排泥としては、10分引き抜いて20分間停止を繰り返すことが行われる。
【0039】
このように汚泥返送路L7における返送汚泥の流速を1.2~1.5m/sec、汚泥濃度計SSで測定される返送汚泥の固形物濃度を20~28重量%内から選ばれる領域を含む設定領域に制御して、上記のように無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させる処理を行うことにより、配管摩耗やポンプの閉塞などの発生を防止し、汚泥返送路および付属品の分解、清掃作業や交換の頻度を低下させることができ、これにより長期にわたり安定して無機イオン含有水の処理を行って、濃縮性および脱水性に優れた高密度汚泥を生成させることができる。
【0040】
図1ではポンプによる返送汚泥量制御のために、排泥用のポンプP1と返送汚泥用のポンプP2を別に設けて、別々に操作するようにされているが、排泥用のポンプP1の駆動時間が少ない場合は、1台のポンプを返送汚泥用と排泥用に共用し、バルブの切替により返送汚泥と排泥を切替えることもできる。この場合、排泥路L6および汚泥返送路L7にバルブを設けて、その切替により返送汚泥と排泥を切替えることもできるが、分岐点に三方弁を設けて、返送汚泥と排泥を切替えることもできる。
【実施例0041】
[比較例1]
図1の装置により、フッ化物イオン1,000~10,000mg/Lを含む無機イオン含有水の処理を行った。第1反応槽1に原水および改質汚泥としてHDS汚泥を供給し、必要によりさらにpH調整剤として消石灰を供給して、原水中のフッ化物イオンと改質汚泥中の不溶化物生成剤を反応させて不溶化物を生成させ、第2反応槽2においてpH調整剤として消石灰を添加して第2反応を行い、さらに凝集槽3において高分子凝集剤を添加して凝集反応を行い、固液分離槽4において固液分離した。固液分離槽4の分離汚泥の一部を汚泥返送路L7から返送汚泥として汚泥改質槽5に返送し、不溶化物生成剤路L9から不溶化物生成剤として消石灰を供給して返送汚泥と混合して汚泥改質を行い、第1反応槽1に供給して原水と反応させた。
この処理において、返送汚泥濃度を約20重量%、返送汚泥流速(ポンプP2出口流速)を1.6~1.8m/secに制御したところ、閉塞や摩耗によりバルブは3~4か月程度で、配管は6か月から1年程度での交換が必要であった。
【0042】
[実施例1]
比較例1において、返送汚泥の固形物濃度20~28重量%を設定領域とし、20重量%の下限値Lと、28重量%の上限値Hの中間に、22重量%の下中間値LMおよび24重量%の上中間値HMを設定し、固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始し、固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止した。固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始した後、固形物濃度が上限値Hに達した場合はその段階で高速排泥に切り換え、固形物濃度が上中間値HMに達した段階で高速排泥を停止して低速排泥に切り換え、その状態で固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止することにより、返送汚泥濃度を設定領域付近の約20~28重量%に制御し、返送汚泥流速(ポンプ出口流速)を1.25m/secに制御したところ、5年間閉塞や摩耗による弁や配管の交換は不要であった。
【0043】
[実施例2]
実施例1において、第2反応槽2および凝集槽3を省略した
図1の装置により、金属イオン1,000~10,000mg/Lを含む無機イオン含有水の処理を行った。第1反応槽1に原水および改質汚泥としてHDS汚泥を供給し、必要によりさらにpH調整剤として消石灰を供給して、原水中のフッ化物イオンと改質汚泥中の不溶化物生成剤を反応させて不溶化物を生成させた。返送汚泥の固形物濃度14~20重量%を設定領域とし、14重量%の下限値Lと、20重量%の上限値Hの中間に、16重量%の下中間値LMおよび18重量%の上中間値HMを設定し、固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始し、固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止した。固形物濃度が下中間値LMに達した段階で低速排泥を開始した後、固形物濃度が上限値Hに達した場合はその段階で高速排泥に切り換え、固形物濃度が上中間値HMに達した段階で高速排泥を停止して低速排泥に切り換え、その状態で固形物濃度が下限値Lに達した段階で低速排泥を停止することにより返送汚泥濃度を設定領域付近の約14~20重量%に制御し、返送汚泥流速(ポンプ出口流速)を1.25m/secに制御したところ、5年間閉塞や摩耗による弁や配管の交換は不要であった。
本発明は、無機イオン含有水を不溶化物生成剤と反応させて不溶化物を生成させ、生成する不溶性化物を含む汚泥を分離する処理において、分離汚泥の一部を返送し不溶化物生成剤を添加して無機イオン含有水と反応させるようにした無機イオン含有水の処理方法および装置に利用可能である。
1 第1反応槽、 2 第2反応槽、 3 凝集槽、 4 固液分離槽、 5 汚泥改質槽、 6 制御装置、 7a、7b 屈曲部、 P1、P2 ポンプ、pH1、pH2、pH3 pH計、 F 流量計、 SS 汚泥濃度計。