IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽ホールディングス株式会社の特許一覧

特開2023-152653硬化性樹脂組成物、積層構造体、硬化物および電子部品
<>
  • 特開-硬化性樹脂組成物、積層構造体、硬化物および電子部品 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152653
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、積層構造体、硬化物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20231005BHJP
   H01F 1/37 20060101ALI20231005BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F1/37
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202535
(22)【出願日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2022060186
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】金沢 康代
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041BB05
5E041BD12
5E041CA01
5E041NN06
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】絶縁性を維持しながらも、小径のホールや狭ギャップに対しても充填性に優れる硬化性樹脂組成物を提供する。
【手段】(A)樹脂成分と(B)磁性成分と(C)溶剤成分とを少なくとも含んでなる硬化性樹脂組成物であって、前記(A)樹脂成分が、熱硬化性樹脂とフェノキシ樹脂とを含み、前記(B)磁性成分が、(B1)粒子径D90が5.0μm超、10μm以下である表面処理された磁性粉体、または(B2)粒子径D90が5.0μm以下である磁性粉体、であり、前記(C)溶剤成分が、沸点が1気圧下で70~170℃のケトン系溶剤を含む、
硬化性樹脂組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂成分と(B)磁性成分と(C)溶剤成分とを少なくとも含んでなる硬化性樹脂組成物であって、
前記(A)樹脂成分が、熱硬化性樹脂とフェノキシ樹脂とを含み、
前記(B)磁性成分が、
(B1)粒子径D90が5.0μm超、10μm以下である表面処理された磁性粉体、または
(B2)粒子径D90が5.0μm以下である磁性粉体、
であり、
前記(C)溶剤成分が、沸点が1気圧下で70~170℃のケトン系溶剤を含む、
硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)磁性成分が、硬化性樹脂組成物の固形分全量に対して、40~90質量%含まれる、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ケトン系溶剤が、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、およびジアセトンアルコールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
第1のフィルムと、
前記第1のフィルムの少なくとも一方の面に設けられた請求項1に記載の硬化性樹脂組成物からなる樹脂層と、
を備える積層構造体。
【請求項5】
請求項1に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項6】
請求項4に記載の積層構造体の樹脂層の硬化物。
【請求項7】
請求項5または6に記載の硬化物を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関し、より詳細には、磁性特性が要求される電子部品に好適に使用することができる硬化性樹脂組成物、積層構造体、および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に対する小型化・高機能化の要求に伴い、配線板の分野においても更なる多層化や高密度化が求められている。例えば、一つの基板上に電源回路、高周波回路、デジタル回路等の複数の回路要素を実装した配線板等も提案されている。
【0003】
このような複数の回路要素を実装する基板では、各回路要素から発生するノイズが隣接する回路要素に影響を与えるため、各回路要素を一定の間隔を設けて実装するか、あるいは各回路要素間にシールドを設ける必要がある。そのため、複数の回路要素を実装する基板を小型化、高密度化するのが困難である。このような問題に対して、例えば特許文献1には、回路部品が実装された基板において、回路部品と反対側に磁性体層を設けたり、貫通ビアを磁性材料で充填したりすることで、複数の回路要素を多層基板上に実装した場合であっても、小型かつ低コストでノイズを低減できることが提案されている。また、特許文献2には、多層配線板において、電気的な層間接続のために貫通孔やバイアホールに、磁性フィラーを含む導電性ペーストを用いて穴埋めすることが提案されている。
【0004】
磁性体層の磁気特性を向上のためには磁性成分の含有量を高める方法が考えられる。しかしながら、磁性成分の含有割合の高い硬化性樹脂組成物を使用すると、硬化性樹脂組成物が増粘して流動性が低下するため、塗工性が低下したり、小径の貫通孔や狭ギャップへの充填性が不十分となったりする。そのため、近年では、硬化性樹脂組成物に代えて、磁性成分を含む樹脂層をフィルム上に備えたドライフィルム(積層構造体)が提案されている(特許文献3)。ドライフィルムによれば、回路基板にラミネートして減圧下で密着させるといった手法を採用することで、小径のホールや狭ギャップへの充填性を改善することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-017175号公報
【特許文献2】特開2001-203463号公報
【特許文献3】特開2015-5711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2にて提案されているような硬化性樹脂組成物を用いてフィルム上に樹脂層を形成した場合、硬化性樹脂組成物中に磁性成分の含有量が多い場合は、上記したように流動性が低く、フィルム上に平滑で均一な膜厚の均一な樹脂層を形成することが困難である。このため、回路基板の小径のホールや狭ギャップに樹脂層を埋め込む際に樹脂層の充填性が不十分となる。
【0007】
また、特許文献3にて提案されている磁性フィルムは、磁性成分として扁平な磁性粒子を使用するものであるが、使用する磁性粒子によっては、絶縁性が低下する場合があった。
【0008】
したがって、本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、絶縁性を維持しながらも、小径のホールや狭ギャップに対しても充填性に優れる硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題に対して本発明者が種々の検討を行ったところ、特定の樹脂成分と粒子径が所定値以下の磁性成分と特定の溶剤成分とを併用することにより、絶縁性を維持しながらも、小径のホールや狭ギャップに対しても充填性に優れる硬化性樹脂組成物が得られる、との知見を得た。本発明は係る知見によるものである。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
[1] (A)樹脂成分と(B)磁性成分と(C)溶剤成分とを少なくとも含んでなる硬化性樹脂組成物であって、
前記(A)樹脂成分が、熱硬化性樹脂とフェノキシ樹脂とを含み、
前記(B)磁性成分が、
(B1)粒子径D90が5.0μm超、10μm以下である表面処理された磁性粉体、または
(B2)粒子径D90が5.0μm以下である磁性粉体、
であり、
前記(C)溶剤成分が、沸点が1気圧下で70~170℃のケトン系溶剤を含む、
硬化性樹脂組成物。
[2] 前記(B)磁性成分が、硬化性樹脂組成物の固形分全量に対して、40~90質量%含まれる、[1]に記載の硬化性樹脂組成物。
[3] 前記ケトン系溶剤が、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、およびジアセトンアルコールからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の硬化性樹脂組成物。
[4] 第1のフィルムと、
前記第1のフィルムの少なくとも一方の面に設けられた[1]~[3]のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物からなる樹脂層と、
を備える積層構造体。
[5] [1]~[3]のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物。
[6] [4]に記載の積層構造体の樹脂層の硬化物。
[7] [5]または[6]に記載の硬化物を有する電子部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁性を維持しながらも、小径のホールや狭ギャップに対しても充填性に優れた硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例で得られた積層構造体の樹脂層の厚さを測定した箇所を説明する概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<硬化性樹脂組成物>
本発明による硬化性樹脂組成物は、必須成分として(A)樹脂成分と(B)磁性成分と(C)溶剤成分とを含む。以下、本発明による硬化性樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0014】
[(A)樹脂成分]
本発明による硬化性樹脂組成物は、(A)樹脂成分として、熱硬化性樹脂とフェノキシ樹脂とを含む。熱硬化性樹脂に加え、フェノキシ樹脂を含むことにより、後述する特定の溶剤との併用により組成物の塗工性が向上し、その結果、積層構造体において、厚みが均一で平滑な樹脂層を形成することができる。
【0015】
熱硬化性樹脂としては、環状エーテル基および/または環状チオエーテル基を有する樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミン樹脂とその誘導体、ビスマレイミド、オキサジン、シクロカーボネート化合物、カルボジイミド樹脂等の公知の熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの中でも熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0016】
エポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を有する熱硬化性樹脂であれば制限なく使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、アミノクレゾール型エポキシ樹脂、アルキルフェノール型エポキシ樹脂等を挙げることができる。上記したエポキシ樹脂は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
上記したエポキシ樹脂には硬化前の形態として固形、半固形、液状のエポキシ樹脂がある。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、液状とは、20℃で流動性を有する液体の状態にあることをいうものであり、半固形状は、20℃で流動性を有しない固形状であるが、40℃で流動性を有する液体の状態にあることをいうものであり、固形とは、20℃および40℃で流動性を有しない状態にあることをいうものとする。
【0018】
固形エポキシ樹脂としては、日本化薬株式会社製EPPN-502H(トリスフェノールエポキシ樹脂)等のフェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物(トリスフェノール型エポキシ樹脂);DIC株式会社製EPICLON HP-7200H(ジシクロペンタジエン骨格含有多官能固形エポキシ樹脂)等のジシクロペンタジエンアラルキル型エポキシ樹脂;DIC株式会社製EPICLON N660、EPICLON N690、日本化薬株式会社製EOCN-104S等のノボラック型エポキシ樹脂;ダウ・ケミカル製D.E.N.431等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂;三菱ケミカル株式会社製YX-4000等のビフェニル型エポキシ樹脂;日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製TX0712等のリン含有エポキシ樹脂;日産化学株式会社製TEPIC等のトリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート;三菱ケミカル株式会社製jER1001等のビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0019】
半固形エポキシ樹脂としては、DIC株式会社製EPICLON 860、EPICLON 900-IM、EPICLON EXA―4816、EPICLON EXA-4822、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製エポトートYD-134、三菱ケミカル株式会社製jER834、jER872、住友化学株式会社製ELA-134等のビスフェノールA型エポキシ樹脂;DIC株式会社製EPICLON N-740、三菱ケミカル株式会社製jER604等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0020】
液状エポキシ樹脂としては、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製ZX-1059(ビスフェノールA型・ビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合品)や三菱ケミカル株式会社製jER828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、同jER807、同jER4004P(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、エア・ウォーター株式会社製R710(ビスフェノールE型エポキシ樹脂)、株式会社ADEKA製EP-3300E(ヒドロキシベンゾフェノン型エポキシ樹脂)、三菱ケミカル株式会社製jER630(アミノフェノール型エポキシ樹脂(パラアミノフェノール型エポキシ樹脂))、住友化学株式会社製ELM-100(パラアミノフェノール型エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0021】
上記したエポキシ樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、10,000未満であることが好ましく、1,000未満であることがより好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量は下記の測定条件にて測定された値をいうものとする。
測定装置:Waters製「Waters 2695」
検出器:Waters製「Waters 2414」、RI(示差屈折率計)
カラム:Waters製「HSPgel Column,HR MB-L,3μm,6mm×150mm」×2+Waters製「HSPgel Column,HR1,3μm,6mm×150mm」×2
測定条件:
カラム温度:40℃
RI検出器設定温度:35℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.5ml/分
サンプル量:10μl
サンプル濃度:0.5wt%
【0022】
本発明による硬化性樹脂組成物は、(A)樹脂成分として、上記した熱硬化性樹脂に加えてフェノキシ樹脂を含む。熱硬化性樹脂に加え、フェノキシ樹脂を樹脂成分として含有し、後述するように特定の溶剤成分と併用することにより、絶縁性を維持しながらも、小径のホールや狭ギャップに対しても充填性を向上させることができる。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。
すなわち、フェノキシ樹脂は、比較的分子量が大きく、湿潤分散剤のような役割を果たし、一方で沸点が70~170℃のケトン系溶剤は、フェノキシ樹脂等の樹脂成分との相溶性が良好であるため、これらを併用することにより、硬化性樹脂組成物のTI値(チクソトロピックインデクス、Thixotropic index)を低減することができる。また、沸点が70~170℃のケトン系溶剤は、第1のフィルムや基板上に直接塗工する際に適度に揮発する。従って、第1のフィルムや基板上に硬化性樹脂組成物を塗工したときにレベリングしやすく樹脂層の厚みが安定すると考えられる。その結果、安定した厚みを有する樹脂層中で粒子径D90が所定値以下の磁性成分が含まれるため、小径のホールや挟ギャップ間にも硬化性樹脂組成物が入り込みやすく充填性に優れ、絶縁性を維持した磁性硬化物を得ることができるものと推察される。
【0023】
フェノキシ樹脂は、ビスフェノール化合物とエピハロヒドリンとを強アルカリ存在下で反応させて得られる樹脂であり、例えば、ビスフェノールAとエピハロヒドリンとから製造されるビスフェノールA骨格含有フェノキシ樹脂、ビスフェノールAとビスフェノールFとエピハロヒドリンとから製造されるビスフェノールA/ビスフェノールF共重合型フェノキシ樹脂、ビスフェノールSとエピハロヒドリンとから製造されるビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂などが挙げられる。具体的には、三菱ケミカル株式会社製のjER1256、jER4250(いずれもビスフェノールA骨格含有フェノキシ樹脂)、YX8100(ビスフェノールS骨格含有フェノキシ樹脂)、YX6954(ビスフェノールアセトフェノン骨格含有フェノキシ樹脂)や、その他、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製のFX280、FX293、三菱ケミカル株式会社製のYX-7553、YL-7769BH30、YL-6794、YL-7213、YL-7290、YL7482、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製のYP-70(ビスフェノールA/ビスフェノールF共重合型フェノキシ樹脂)等が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノール骨格含有フェノキシ樹脂が好ましい。
【0024】
フェノキシ樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば1万以上、50万未満である。なお、フェノキシ樹脂の重量平均分子量は、上記したエポキシ樹脂の重量平均分子量と同様の方法により測定することができる。
【0025】
本発明において、フェノキシ樹脂の割合は、絶縁性と塗工性の観点から、熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.01~100質量部であることが好ましく、0.1~50質量部であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明による硬化性樹脂組成物は、(A)樹脂成分として、上記した熱硬化性樹脂およびフェノキシ樹脂以外の樹脂を含んでいてもよく、従来公知の絶縁層形成用の硬化性樹脂組成物やビアホール等の回路基板の凹部の充填剤用の硬化性樹脂組成物に含まれている樹脂成分を含んでいてもよい。
【0027】
[硬化剤]
本発明による硬化性樹脂組成物は、上記した熱硬化性樹脂を硬化させるための硬化剤を含んでいてもよい。硬化剤としては、熱硬化性成分を硬化させるために一般的に使用されている公知の硬化剤を使用することができ、例えばアミン類、イミダゾール類、フェノール類、酸無水物、イソシアネート類、およびこれらの官能基を含むポリマー類があり、必要に応じてこれらを複数用いても良い。アミン類としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン等がある。イミダゾール類としては、アルキル置換イミダゾール、ベンゾイミダゾール等があり、エポキシ樹脂とイミダゾールとの反応物のようなイミダゾールアダクト体等のイミダゾール潜在性硬化剤であってもよい。フェノール類としては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールAおよびそのハロゲン化合物、さらに、これにアルデヒドとの縮合物であるノボラック、レゾール樹脂等がある。フェノール類の市販品としては、例えば、HF-1M、HF-3M、HF-4M(明和化成株式会社製)等を挙げることができる。酸無水物としては、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等がある。イソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等があり、このイソシアネートをフェノール類等でマスクしたものを使用しても良い。これら硬化剤は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記した硬化剤のなかでも、アミン類、イミダゾール類やフェノール類を導電部および絶縁部との密着性、保存安定性、耐熱性の観点から好適に使用することができ、特にイミダゾール類およびフェノール類を好適に使用することができる。
【0029】
イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、4-メチル-2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、4-メチル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等を挙げることができる。イミダゾール化合物の市販品としては、例えば、2E4MZ、C11Z、C17Z、2PZ等のイミダゾール類や、2MZ-A、2E4MZ-A等のイミダゾールのAZINE(アジン)化合物、2MZ-OK、2PZ-OK等のイミダゾールのイソシアヌル酸塩、2PHZ、2P4MHZ等のイミダゾールヒドロキシメチル体(これらはいずれも四国化成工業株式会社製)等を挙げることができる。イミダゾール型潜在性硬化剤の市販品としては、例えば、キュアゾールP-0505(四国化成工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0030】
上記した硬化剤の配合量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して0.5~200質量部であることが好ましく、1~100質量部であることがより好ましい。
【0031】
[(B)磁性成分]
本発明による硬化性樹脂組成物は、(B)磁性成分として、粒子径が所定値以下であるような磁性粉体を含む。磁性粉体が含まれることにより、近傍電磁界におけるノイズ電磁波を抑制ないし吸収することができるため、複数の回路要素を実装した場合であってもノイズ抑制等の特性に優れた電子部品とすることができる。また、1MHz~200MHzにおいて高い比透磁率が必要とされる高周波用インダクタ素子の絶縁材料として好適に使用することができる。
【0032】
磁性粉体としては、特に制限なく使用することができ、Mg-Zn系フェライト、Mn-Zn系フェライト、Mn-Mg系フェライト、Mn系フェライト、Cu-Zn系フェライト、Mg-Mn-Sr系フェライト、Ni-Zn-Cu系フェライト、Ni-Zn系フェライト等のスピネル型フェライト類、Ba-Zn系フェライト、Ba-Mg系フェライト、Ba-Ni系フェライト、Ba-Co系フェライト、Ba-Ni-Co系フェライト等の六方晶型フェライト類、マグネタイト、Y系フェライト等のガーネット型フェライト類等の非導電性の磁性材料や、純鉄粉末、Fe-Si系合金粉末、Fe-Si-Al系合金粉末、Ni粉末、Fe-Ni系合金粉末、Fe-Ni-Mo系合金粉末、Fe-Ni-Mo-Cu系合金粉末、Fe-Co系合金粉末、Fe-Ni-Co系合金粉末、Fe-Cr系合金粉末、Fe-Cr-Si系合金粉末、Fe-Ni-Cr系合金粉末、あるいはFe-Cr-Al系合金粉末などのFe合金類、Ni合金類、High-Si系合金類、Fe基アモルファス、Co基アモルファスなどのアモルファス合金類等の導電性磁性材料が挙げられる。
【0033】
また、磁性粉体としては、市販の磁性粉体を用いることができる。市販の磁性粉体の具体例としては、エプソンアトミックス株式会社製「AW2-08PF3FG」、JFEケミカル株式会社製「KNI-106」、「KNI-109」、戸田工業株式会社製「BSN-125」、「BSN-714」、「BSN-828」、パウダーテック株式会社製「M03S」、「NZ03S」、「E03S」、「M001」、「E001」等が挙げられる。磁性粉体は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
磁性粉体の形状は、特に制限されるものではなく、球状、針状、板状、鱗片状、中空状、不定形状、六角状、キュービック状、薄片状など挙げられる。
【0035】
本発明による硬化性樹脂組成物は、(B)磁性成分として、(B1)粒子径D90が5.0μm超、10μm以下である表面処理された磁性粉体、または、(B2)粒子径D90が5.0μm以下である磁性粉体を使用する。また、(B2)粒子径D90が5.0μm以下である磁性粉体は、表面処理されていない磁性粉体であることが好ましい。(B1)粒子径D90が5.0μm超、10μm以下である表面処理された磁性粉体と(B2)粒子径D90が5.0μm以下である磁性粉体を併用して使用すると、硬化性樹脂組成物の塗工性が低下する場合がある。なお、粒子径D90とは、下記のレーザー回折法により測定された粒子径分布を累積分布で表したときの累積体積90%粒子径を表す。
【0036】
<粒子径D90の測定方法>
先ず、磁性粉体10gおよび水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを2滴添加する。次いで、超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー、UH-150型)を用いて分散を行う。このとき、超音波ホモジナイザーの出力レベルを4に設定し、20秒間の分散を行う。その後、ピーカー表面にできた泡を取り除き、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所株式会社、SALD-7500nano)に導入して測定を行う。この測定により、体積粒度分布における90%径(D90)を求める。
【0037】
<硬化性樹脂組成物に含まれる磁性粉体の粒子径D90の測定方法>
硬化性樹脂組成物中に含まれている磁性粉体の粒子径D90(μm)は、以下のように測定して得られた値である。
まず、以下の使用機器および備品類を用意する。
粒度分布計:日機装株式会社製 マイクロトラック MT3300EX
循環装置:日機装株式会社製 ASVR
次に以下の手順でサンプルの調整を行う。スクリュー瓶にサンプル(硬化性樹脂組成物)を0.3g秤取し、スポイトを用いて30gのシクロヘキサノンを少しずつ添加し、スクリュー瓶の振とうによりサンプルを分散させて調整サンプルを作製する。調整サンプルを超音波洗浄器内に5分放置する。
その後、調整サンプルの測定を行う。サンプルの調整から調整サンプルの測定までは5分以内に行う。測定結果として表示された、累積径90%の値を読み取る。得られた累積径90%の値は、本発明の硬化性樹脂組成物に含まれる磁性粉体の粒子径D90の値であり、上記した(B)磁性成分のみを用いて測定された粒子径D90の値と一致することが確認されている。
【0038】
本発明においては、上記したような特定の樹脂成分および後記する特定の溶剤成分と併用して、D90が所定値以下であるような粒子径を有する磁性粉体、すなわち、粒子径の大きい粒子を含まないようにした磁性粉体を使用することにより、絶縁性を維持しながら、硬化性樹脂組成物の塗工性を改善したものである。D90が10μm超である表面処理された磁性粉体、または、粒子径D90が5.0μm超である表面処理されていない磁性粉体を含有すると、硬化性樹脂組成物の塗工性は向上するものの、小径のホールや狭ギャップに対して充填性が悪化する。なお、粒子径が大きくなるほど、硬化性樹脂組成物を硬化物とした場合の絶縁性も低下する。磁性粉体のD90が少し大きい(即ち、D90が5.0μm超10μm以下程度)場合は、絶縁性を維持するために、磁性粉体は表面処理がされている必要がある。D90が5.0μm以下の磁性粉体を用いる場合においても、表面処理を施すことにより、より一層絶縁性が向上する。
【0039】
本発明においては、(B1)の磁性粉体(D90が5.0μm超、10μm以下である表面処理された磁性粉体)の粒子径D90は、5.1~8.0μmであることが好ましい。また、(B2)の磁性粉体(粒子径D90が5.0μm以下である磁性粉体)の粒子径D90は、0.03~3.0μmであることが好ましい。磁性粉体のD90が上記範囲であるとチキソトロピーインデックス(TI値)が適度であり、塗工性と絶縁性がより良好である。
【0040】
表面処理としては、カップリング剤による表面処理や、シリカやアルミナ等の無機物による表面処理が挙げられる。磁性粉体の表面処理方法は特に限定されず、公知慣用の方法を用いることができる。
【0041】
無機物による表面処理としては、磁性粉体とシリカやアルミナ等の無機物を、混合機(例えばFMミキサー(日本コークス工業株式会社製))を用いて混合して、磁性粉体の表面に無機物を付着させることができる。または、ハイブリダイゼーションシステム(株式会社奈良機械製作所製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン株式会社製)、ファカルティ(登録商標)(ホソカワミクロン株式会社製)、メテオレインボー MR-Type(日本ニューマチック工業株式会社製)等を用いて、表面処理を行うこともできる。
【0042】
カップリング剤による表面処理としては、例えば、硬化性反応基を有機基として有するカップリング剤等で磁性粉体の表面を処理することができる。カップリング剤としては、シラン系、チタネート系、アルミネート系およびジルコアルミネート系等のカップリング剤を使用することができる。このようなシラン系カップリング剤の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N-(2-アミノメチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アニリノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができ、これらは単独で、あるいは併用して使用することができる。これらのシラン系カップリング剤は、予め無機フィラーの表面に吸着あるいは反応により固定化されていることが好ましい。
【0043】
硬化性反応基としては熱硬化性反応基が好ましい。熱硬化性反応基としては、水酸基、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基、イミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、メルカプト基、メトキシメチル基、オキサゾリン基等が挙げられる。これらのなかでも、アミノ基およびエポキシ基のいずれか少なくとも1種が好ましい。
【0044】
なお、表面処理がされた磁性粉体は、表面処理された状態で硬化性樹脂組成物に含有されていればよく、硬化性樹脂組成物に磁性粉体と表面処理剤とを別々に配合して組成物中で磁性粉体が表面処理されてもよいが、予め表面処理した磁性粉体を配合することが好ましい。予め表面処理した磁性粉体を配合することによって、別々に配合した場合に残存しうる表面処理で消費されなかった表面処理剤によるクラック耐性等の低下を防ぐことができる。予め表面処理する場合は、溶剤成分や樹脂成分に磁性粉体を予備分散した予備分散液を配合することが好ましく、表面処理した磁性粉体を溶剤成分や樹脂成分に予備分散し、該予備分散液を組成物に配合するか、表面未処理の磁性粉体を溶剤成分や樹脂成分に予備分散する際に十分に表面処理した後、該予備分散液を硬化性樹脂組成物に配合することがより好ましい。
【0045】
磁性成分は多いほど磁性特性の良好な硬化物が得られるものの、絶縁性と小径のホールや狭ギャップに対する充填性の両立の観点からは、磁性成分は、硬化性樹脂組成物の固形分全量に対して、40~90質量%の割合で含まれることが好ましく、50~85質量%の割合で含まれることがより好ましい。
【0046】
また、特に、絶縁性の維持と、小径のホールや狭ギャップに対する充填性の両立の観点からは、フェノキシ樹脂と(B)磁性成分との配合比は、フェノキシ樹脂100質量部に対して(B)磁性成分が2500~6000質量部であることが好ましい。
【0047】
[(C)溶剤成分]
本発明による硬化性樹脂組成物は、溶剤成分として、沸点が1気圧下で70~170℃のケトン系溶剤を含む。上記した熱硬化性樹脂およびフェノキシ樹脂と、特定のケトン系溶剤との併用により、磁性粉体を含みながらも硬化性樹脂組成物の塗工性を改善することができるため、絶縁性を維持しながらも、小径のホールや狭ギャップに対しても充填性に優れた磁性硬化物を得ることができる。沸点が1気圧下で70℃未満のケトン系溶剤のみでは、揮発により硬化性樹脂組成物の粘度が安定せず、一方、沸点が1気圧下で170℃を超えるようなケトン系溶剤のみでは、硬化性樹脂組成物を使用して第1のフィルムの表面に樹脂層を形成する際に溶剤成分が揮発しにくく、良好な樹脂層を形成するのが困難となる。なお、ケトン系溶剤とは、ケトン構造を有する有機化合物からなる溶剤を意味する。
【0048】
沸点(T)が1気圧下で70~170℃のケトン系溶剤としては、例えば、3-オクタノン(T=167℃)、4-オクタノン(T=166℃)、4-ヘプタノン(T=144℃)、2-ヘキサノン(T=128℃)、3-ヘキサノン(T=124℃)、シクロヘキサノン(T=156℃)、メチルエチルケトン(T=79℃)、メチルイソブチルケトン(T=116℃)、ジイソブチルケトン(T=168℃)、イソプロピルメチルケトン(T=94℃)、アセチルアセトン(T=140℃)、ジアセトンアルコール(T=166℃)、アセチルカルビノール(T=148℃)等が挙げられ、1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0049】
上記したケトン系溶剤のなかでも、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、およびジアセトンアルコールの少なくとも1種が好ましく、メチルエチルケトンおよびシクロヘキサノンの少なくとも1種がより好ましい。
【0050】
沸点が1気圧下で70~170℃のケトン系溶剤の配合量は、硬化性樹脂組成物の使用用途に応じた粘度とするために適宜調整することができるが、例えば、硬化性樹脂組成物の固形分100質量部に対して1~100質量部であることが好ましく、より好ましくは1~65質量部である。
【0051】
[その他の成分]
本発明による硬化性樹脂組成物は、上記した磁性成分の均一分散性の観点から、分散剤を併用してもよい。分散剤として、酸性基または塩基性基またはその両方を有するリン酸エステルやアクリルコポリマー、ポリアミン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレートおよびそれらのリン酸塩、アルキルアンモニウム塩等を好適に使用することができる。上記した分散剤は、単独で使用してもよくまた複数を組み合わせて使用してもよい。なお、この分散剤は、(B1)の磁性粉体の表面処理剤とは異なるものである。
【0052】
また、本発明による硬化性樹脂組成物には、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、ジスアゾイエロー、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラックなどの公知の着色剤を添加してもよい。
【0053】
また、保管時の保存安定性を付与するために、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、tert-ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどの公知の熱重合禁止剤や、粘度などの調整のために、クレー、カオリン、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知の増粘剤、脂肪酸で処理したフィラー、不定形フィラー、タルクなどの公知のチキソトロピー剤を添加することができる。その他、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤、レベリング剤やイミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系などの密着性付与剤のような公知の添加剤類を配合することができる。
【0054】
本発明による硬化性樹脂組成物は、フィルム塗工性(印刷適性)を考慮すると粘度は5~300Pa・sであることが好ましく、7~200Pa・sであることがさらに好ましい。
【0055】
<積層構造体>
本発明の積層構造体は、第1のフィルムと、当該第1のフィルムの少なくとも一方に設けられた樹脂層とを備え、前記樹脂層が上記した硬化性樹脂組成物からなる。積層構造体を製造するには、本発明の硬化性樹脂組成物を、コンマコーター、ブレードコーター、リップコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、リバースコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、スプレーコーター等で第1のフィルム上に均一な厚さに塗布し、通常、60~180℃の温度で1~30分間乾燥して樹脂層を得ることができる。塗布膜厚については特に制限はないが、一般に、乾燥後の樹脂層の膜厚で、1~200μm、好ましくは10~150μmの範囲で適宜選択される。
【0056】
樹脂層中の残留溶剤量は、0.5~7.0質量%であることが好ましい。残留溶剤が7.0質量%以下であると、熱硬化時の突沸を抑え、表面の平坦性がより良好となる。また、溶融粘度が下がり過ぎて樹脂成分が流れてしまうことを抑制でき、平坦性が良好となる。残留溶剤が0.5質量%以上であると、ラミネート時の流動性が良好で、平坦性および充填性がより良好となる。また、樹脂層中の残留溶剤量のうち、沸点が1気圧下で70~170℃のケトン系溶剤の含有量は50質量%以上であることが好ましい。
【0057】
第1のフィルムとしては、公知のものであれば特に制限なく使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム等の熱可塑性樹脂からなるフィルムを好適に使用することができる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度、取扱性等の観点から、ポリエステルフィルムが好ましい。また、これらフィルムの積層体を第1のフィルムとして使用することもできる。
【0058】
また、上記したような熱可塑性樹脂フィルムは、機械的強度向上の観点から、一軸方向または二軸方向に延伸されたフィルムであることが好ましい。
【0059】
第1のフィルムの厚さは、特に制限されるものではないが、例えば、10μm~150μmとすることができる。
【0060】
第1のフィルムの少なくとも一方の面に本発明の硬化性樹脂組成物の樹脂層を形成した後、さらに、樹脂層の表面に塵が付着するのを防ぐなどの目的で、樹脂層の表面に剥離可能な第2のフィルムが設けられていてもよい。
【0061】
第2のフィルムとしては、第1のフィルムと同様のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、一軸方向または二軸方向に延伸されたフィルム、表面処理した紙等を用いることができる。第2のフィルムとしては、第2のフィルムを剥離するときに樹脂層と第1のフィルムとの接着力よりも樹脂層と第2のフィルムとの接着力がより小さいものであればよい。
【0062】
第2のフィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、10μm~150μmとすることができる。
【0063】
<硬化物および電子部品>
本発明の硬化物は、上記した硬化性樹脂組成物、または積層構造体の樹脂層を硬化させることにより得ることができる。例えば、硬化性樹脂組成物を、回路基板等の基材上に、ディップコート法、フローコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、カーテンコート法等の方法により塗布した後、60~180℃の温度で組成物中に含まれる有機溶剤を揮発乾燥(仮乾燥)させることで、タックフリーの樹脂層を形成する。その後、80~250℃の温度で30~90分間熱硬化させて硬化物を得ることができる。
【0064】
積層構造体の樹脂層をラミネートする基材としては、あらかじめ銅等により回路形成されたプリント配線板やフレキシブルプリント配線板の他、紙フェノール、紙エポキシ、ガラス布エポキシ、ガラスポリイミド、ガラス布/不繊布エポキシ、ガラス布/紙エポキシ、合成繊維エポキシ、フッ素樹脂・ポリエチレン・ポリフェニレンエーテル,ポリフェニレンオキサイド・シアネート等を用いた高周波回路用銅張積層板等の材質を用いたもので、全てのグレード(FR-4等)の銅張積層板、その他、金属基板、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ガラス基板、セラミック基板、ウエハ板等を挙げることができる。
【0065】
積層構造体の樹脂層面を基材上へラミネートするには、真空ラミネーター等を用いて、加圧および加熱下で行うことが好ましい。このような真空ラミネーターを使用することにより、回路基板表面に凹凸があっても、本発明の積層構造体を使用することで、樹脂層が回路基板により密着するため、気泡の混入がなく、また、基板表面の凹部の充填性も向上する。加圧条件は、0.1~2.0MPa程度であることが好ましく、また、加熱条件は、40~120℃であることが好ましい。積層構造体の樹脂層面を基材にラミネートした後、80~250℃の温度で30~90分間熱硬化させて硬化物を得ることができる。
【0066】
本発明の硬化性樹脂組成物または積層構造体を用いて得られる硬化物は、プリント配線板等の電子部品製造用として使用することができ、好適には、インダクタ等の絶縁層を形成するために使用することができる。
【実施例0067】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0068】
<硬化性樹脂組成物の調製>
下記表1に記載の各成分を配合し、3本ロールミルを用いて室温にて混合することにより、同表に記載の各硬化性樹脂組成物を得た。なお、表中の各数値は質量部を示す。
【0069】
なお、下記表1中の各成分*1~*13は、以下のとおりである。
*1:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製)
*2:ジシクロペンタジエン骨格含有多官能固形エポキシ樹脂(DIC株式会社製)
*3:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製)
*4:ビスフェノールアセトフェノン骨格含有フェノキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製)
*5:ビスフェノールA/ビスフェノールF共重合型フェノキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)
*6:フェノール類(明和化成株式会社製)
*7:イミダゾール類(四国化成工業株式会社製)
*8:Mn系フェライト磁性粉体(パウダーテック株式会社製、D90=1.6μm、表面処理無し)
*9:Ni-Zn系フェライト磁性粉体(パウダーテック株式会社製、D90=1.2μm、表面処理無し)
*10:アモルファス合金磁性粉体(エプソンアトミックス株式会社製、D90=5.4μm、シリカにて表面処理)
*11:アモルファス合金磁性粉体(エプソンアトミックス株式会社製、D90=5.3μm、表面処理無し)
*12:Mn-Zn系フェライト磁性粉体(パウダーテック株式会社製、D90=82.3μm、表面処理無し)
*13:アモルファス合金磁性粉体(エプソンアトミックス株式会社製、D90=11.2μm、シリカにて表面処理)
【0070】
なお、D90の測定は以下のように行った。先ず、磁性粉体10gおよび水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを2滴添加した。次いで、超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー、UH-150型)を用いて分散を行った。このとき、超音波ホモジナイザーの出力レベルを4に設定し、20秒間の分散を行った。その後、ピーカー表面にできた泡を取り除き、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所株式会社、SALD-7500nano)に導入して測定を行った。この測定により、体積粒度分布における90%径(D90)を求めた。
【0071】
<フィルム塗工性評価>
上記のようにして得られた各硬化性樹脂組成物を、18cm×32cmにカットした第1のフィルム(ポリエステルフィルム)上に、320ミクロンギャップのアプリケータにより幅8cm×塗布方向25cmの範囲で塗布し、塗布膜を形成した。次いで、塗布膜をIR乾燥炉にて110℃で5分間乾燥して、第1のフィルムの一方の面に、幅8cm×長さ25cmの矩形状の樹脂層(乾燥塗布膜)を備えた積層構造体を作製した。
得られた積層構造体について、図1に示すように、樹脂層を長さ方向に5分割する線と幅方向の中央線とが交差する4点(図1中の黒丸の箇所)の厚みを株式会社ニコン製DIGIMICRO MFC-101Aを用いて測定した。測定した厚み4点のうちの最大値と最小値の差を厚さのばらつきとしてフィルム塗工性の評価を行った。評価基準は以下のとおりとした。
○:厚さのばらつきが5μm以内であり、フィルム塗工性が良好である
×:厚さのばらつきが5μm超であり、フィルム塗工性が不良である
評価結果は下記表1に示されるとおりであった。
【0072】
<充填性評価>
銅厚15μm、L(ライン:配線幅)/S(スペース:間隔幅)=12μm/13μmの櫛歯パターンの回路が形成されているプリント配線基板(コア基材:昭和電工マテリアルズ株式会社製、MCL-E-679FG(R)、層間絶縁材料:味の素ファインテクノ株式会社製、GX92、電極の本数:片方12本ずつ両方で24本、櫛形電極部の長さ10mm、板厚0.5mm、前処理:酸洗)(狭ギャップ基板)と、銅厚18μm、L/S=50μm/50μmの櫛歯パターンの回路が形成されているプリント配線基板(基材:住友ベークライト株式会社製、ELC-4762、UV吸収剤含有、電極の本数:片方15本ずつ両方で30本、櫛形電極部の長さ10mm、板厚1.6mm、前処理:酸洗)(広ギャップ基板)の2種類の基板を準備した。
上記の<フィルム塗工性評価>にて作製した積層構造体を、樹脂層側が密着するように各プリント配線基板のそれぞれに、2チャンバー式真空ラミネーターCVP-600(ニッコー・マテリアルズ株式社製)を用いて、温度70℃、圧力0.5MPa、真空保持時間30秒、加圧時間30秒の加工条件にてラミネートし、第1のフィルムを剥離した後に100℃で30分間、樹脂層を硬化させ、次いで、熱風循環式乾燥炉にて180℃で30分間の熱処理により、さらに樹脂層を硬化させて硬化被膜を形成した。
【0073】
上記のようにして得られた硬化被膜を備えた各プリント配線基板を、回路形成部分で切断し、切断断面を研磨した後、研磨面を顕微鏡観察した。なお、切断方向は、回路形成面に対して垂直方向であり、顕微鏡での観察倍率は1,000倍にした。充填性の評価基準は以下のとおりとした。
◎:L/S=12μm/13μmの極狭ギャップ基板において気泡は認められず、かつ樹脂成分と磁性成分とが十分に混ざり合っている
○:L/S=50μm/50μmの狭ギャップ基板において気泡は認められず、かつ樹脂成分と磁性成分とが十分に混ざり合っている
×:樹脂成分と磁性粉体とが分離している(すなわち、回路間において磁性粉体の濃度が低く、磁気特性を十分に発揮できないほど分離している)
評価結果は下記表1に示されるとおりであった。なお、表1において「-」は、塗膜の厚さ変動が激しく、充填性の評価の測定ができなかったことを示す。
【0074】
<透磁率の測定>
上記の<フィルム塗工性評価>にて作製した積層構造体を樹脂層側が密着するように銅箔上に、2チャンバー式真空ラミネーターCVP-600(ニッコー・マテリアルズ株式社製)を用いて、温度70℃、圧力0.5MPa、真空保持時間30秒、加圧時間30秒の加工条件にてラミネートし、第1のフィルムを剥離した後に100℃で30分間の熱処理により樹脂層を硬化させた後、さらに熱風循環式乾燥炉にて180℃で30分間の熱処理により樹脂層を硬化させて硬化被膜を形成した。
次いで、硬化被膜を銅箔から剥離し、剥離した硬化被膜を1cm×3cmの矩形状に切り出し、評価試験片とした。評価試験片を、Keysight社製、E5071C ENAネットワークアナライザを用いて、25℃、100MHzでの比透磁率(μ’)を測定した。透磁率は、いずれも2以上であった。
【0075】
<絶縁性の評価>
上記のL/S=50μm/50μmの櫛歯パターンの回路が形成されているプリント配線基板(広ギャップ基板)上に、2チャンバー式真空ラミネーターCVP-600(ニッコー・マテリアルズ株式社製)を用いて、温度70℃、圧力0.5MPa、真空保持時間30秒、加圧時間30秒の加工条件にてラミネートし、第1のフィルムを剥離した後に100℃で30分間の熱処理により樹脂層を硬化させ、さらに熱風循環式乾燥炉にて180℃で30分間の熱処理により樹脂層を硬化させて硬化被膜を形成した。
次いで、硬化被膜を形成した基板を、高加速寿命試験装置(株式会社平山製作所製、PC-422R8D)内にセットし、130℃、85%RHの環境下において、絶縁劣化評価試験器(IMV株式会社製、MIG-8600B)用いて10Vの電圧を印加し、100時間後の抵抗値を測定した。絶縁性の評価基準は以下のとおりとした。
○:1.0×10Ω以上
×:1.0×10Ω未満
評価結果は下記表1に示されるとおりであった。なお、表1において「-」は、塗膜の厚さ変動が激しく、充填性の評価の測定ができなかったことを示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1からも明らかなように、樹脂成分として熱硬化性樹脂にフェノキシ樹脂を併用し、特定の粒子径の磁性粉体と特定のケトン系溶剤を組み合わせた硬化性樹脂組成物(実施例1~4)では、塗工性に優れ、ドライフィルム等の積層構造体として使用した場合に、小径のホールや狭ギャップに対して充填性が優れ、透磁率が高く、絶縁性を維持した硬化物を得ることができることがわかる。
これに対して、フェノキシ樹脂を併用しない硬化性樹脂組成物(比較例1、2)では、塗工性が不十分であり、積層構造体とした場合に厚さが均一な樹脂層を形成することができないことがわかる。
また、ケトン系溶剤以外の溶剤を使用した硬化性樹脂組成物(比較例3)においても、塗工性が不十分であり、積層構造体とした場合に厚さが均一な樹脂層を形成することができないことがわかる。
さらに、磁性成分として大きい粒子径を含む磁性粉体を使用した硬化性樹脂組成物(比較例5)では、狭ギャップに対する充填性が不十分であり、また硬化物の絶縁性も維持できないことがわかる。また、磁性粉体の粒子径がある程度小さくても、D90が5.0μmを超えた磁性粉体を使用する場合は、表面処理がされていないと硬化物の絶縁性が維持できないことがわかる(比較例4)。
一方、磁性成分として表面処理された磁性粉体を使用しても、そのD90が10μmを超えていると、狭ギャップに対する充填性が不十分であることがわかる(比較例6)。
図1