(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152712
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】炭化ケイ素粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/956 20170101AFI20231005BHJP
【FI】
C01B32/956
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018590
(22)【出願日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2022057193
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】大津 平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 未那
(72)【発明者】
【氏名】牛田 尚幹
(72)【発明者】
【氏名】諌山 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 春那
(72)【発明者】
【氏名】伴 なお美
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146MA14
4G146MB07
4G146MB17A
4G146MB17B
4G146MB18A
4G146MB18B
4G146PA06
4G146PA07
4G146PA15
(57)【要約】
【課題】液状樹脂、溶融金属等の液状の異種材料に添加しても増粘を引き起こしにくい炭化ケイ素粉末を提供する。
【解決手段】炭化ケイ素粉末は、結晶系がα型である炭化ケイ素の粉末であって、炭化ケイ素の粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する角部のうち小角部の数は、一次粒子1個当たり2.5個以下である。この小角部は、一次粒子の投影画像における一次粒子の輪郭に存在する角部のうち、その曲率半径の2倍が一次粒子の投影画像のヘイウッド径の1/5以下である角部である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶系がα型である炭化ケイ素の粉末であって、
前記炭化ケイ素の粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する角部のうち小角部の数は、前記一次粒子1個当たり2.5個以下であり、
前記小角部は、前記一次粒子の投影画像における前記一次粒子の輪郭に存在する角部のうち、その曲率半径の2倍が前記一次粒子の投影画像のヘイウッド径の1/5以下である角部である炭化ケイ素粉末。
【請求項2】
前記一次粒子のアスペクト比が1.44以下である請求項1に記載の炭化ケイ素粉末。
【請求項3】
体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径D50%が1μm以上300μm以下である請求項1に記載の炭化ケイ素粉末。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の炭化ケイ素粉末を製造する方法であって、原料である炭化ケイ素の粉末に熱処理を施して、前記原料である炭化ケイ素の粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する小角部の数を減少させ、小角部の数を一次粒子1個当たり2.5個以下とする熱処理工程を有する炭化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項5】
前記原料である炭化ケイ素の粉末に液相形成助剤を混合して前記熱処理工程に供する請求項4に記載の炭化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項6】
前記液相形成助剤がアルミニウム含有物質である請求項5に記載の炭化ケイ素粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化ケイ素粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、高い熱伝導率、マイクロ波発熱特性、低比重、低い熱膨張係数、高い機械的特性(硬度、剛性)等の多くの優れた特性を有するため、その特性を付与するための材料として異種材料と混合して使用される場合がある。例えば、放熱性フィラー、樹脂強化材として炭化ケイ素を樹脂等の異種材料に配合する場合や、炭化ケイ素と金属等の異種材料を混合して発熱材、金属基複合材料(MMC:Metal Matrix Composites)を製造する場合がある。
【0003】
炭化ケイ素の粉末を液状の異種材料(例えば液状樹脂、溶融金属)に混合して混合物とし、この混合物から複合材料を製造する場合等に、粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子の形状が、球形度の高い形状(粒子の表面に存在する角部の数が少ない形状)ではなく球形度の低い形状(粒子の表面に存在する角部の数が多い形状)であると、炭化ケイ素の粉末の添加により増粘が起こり、液状の異種材料の粘度よりも混合物の粘度が顕著に高くなるおそれがあった。そのため、液状の異種材料に炭化ケイ素の粉末を高充填しにくい、混合物を成形する際の加工性が悪くなる等の問題が生じるおそれがあった。
【0004】
アチソン炉を用いて製造された炭化ケイ素は、結晶系がα型の炭化ケイ素(α-SiC)であるが、粉砕法によって粉末状とされるため、得られた炭化ケイ素の一次粒子の形状は球形度の低い形状であった。球形度の低い形状の炭化ケイ素の一次粒子の表面から角部を取り除いて球形度の高い形状とする方法としては、石臼等を用いる摩砕法やジェットミル等を用いる粒子衝突法(例えば特許文献1を参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、炭化ケイ素は硬度が高いため、摩砕法や粒子衝突法のような機械的処理方法では、炭化ケイ素の一次粒子の表面から角部を十分に取り除いて球形度の高い形状にすることは容易ではなかった。また、上記のような機械的処理方法では、機械的処理を行う装置から炭化ケイ素の粉末に異物が混入するおそれがあるとともに、炭化ケイ素の一次粒子に機械的エネルギーを加えた際に生じるチッピング等の微細粒子が、炭化ケイ素の粉末の添加による液状の異種材料の増粘に寄与するおそれがあった。
【0007】
さらに、球形度の低い形状の炭化ケイ素の一次粒子を球形度の高い形状とする方法として造粒焼結が考えられるが、炭化ケイ素は難焼結性であるため、造粒焼結では炭化ケイ素の一次粒子を十分に緻密に且つ球形度の高い形状にすることは困難であると考えられる。
本発明は、液状樹脂、溶融金属等の液状の異種材料に添加しても増粘を引き起こしにくい炭化ケイ素粉末及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る炭化ケイ素粉末は、結晶系がα型である炭化ケイ素の粉末であって、炭化ケイ素の粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する角部のうち小角部の数は、一次粒子1個当たり2.5個以下であり、小角部は、一次粒子の投影画像における一次粒子の輪郭に存在する角部のうち、その曲率半径の2倍が一次粒子の投影画像のヘイウッド径の1/5以下である角部であることを要旨とする。
【0009】
本発明の別の態様に係る炭化ケイ素粉末の製造方法は、上記一態様に係る炭化ケイ素粉末を製造する方法であって、原料である炭化ケイ素の粉末に熱処理を施して、原料である炭化ケイ素の粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する小角部の数を減少させ、小角部の数を一次粒子1個当たり2.5個以下とする熱処理工程を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液状樹脂、溶融金属等の液状の異種材料に添加しても増粘を引き起こしにくい炭化ケイ素粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る炭化ケイ素粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子の形状を説明する図である。
【
図2】
図1の炭化ケイ素粉末を製造するための原料である炭化ケイ素粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子の形状を説明する図である。
【
図3】実施例2の炭化ケイ素粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子の図である。
【
図4】比較例1の炭化ケイ素粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、以下の実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0013】
本実施形態に係る炭化ケイ素粉末は、結晶系がα型である炭化ケイ素の粉末であって、炭化ケイ素の粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する角部のうち小角部の数は、一次粒子1個当たり2.5個以下である。ここで、角部とは、一次粒子の投影画像における一次粒子の輪郭線が角度をもって変化する点を意味する。本実施形態においては、前記角度は、一次粒子の輪郭内側に向く内角として0°超過180°未満である。なお、角部は、角部を形成する輪郭線が、直線を有するものであってもよいし、丸みを有するものであってもよい。また、小角部とは、一次粒子の投影画像における一次粒子の輪郭に存在する角部のうち、その曲率半径の2倍が一次粒子の投影画像のヘイウッド径(Heywood径)の1/5以下である角部である。
【0014】
なお、ヘイウッド径とは、投影面積円相当径とも呼ばれ、画像解析で求めた粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。また、本実施形態に係る炭化ケイ素の粉末は、炭化ケイ素の一次粒子が主な構成物となる。さらに、一次粒子とは、例えば
図1で示される粒子のように、顕微鏡を用いて観察した際に明確な輪郭を有する最小粒子を意味する。
【0015】
本実施形態に係る炭化ケイ素粉末は、上記のように、炭化ケイ素の一次粒子の形状が球形度の高い形状であるので、液状の異種材料(例えば液状樹脂、溶融金属)に添加しても増粘を引き起こしにくい。よって、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末と液状の異種材料の混合物の粘度は、液状の異種材料の元の粘度と同程度であるか、増粘したとしても大きな増粘とはなりにくい。
そのため、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末は、液状の異種材料に対して高充填することが可能である。また、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末と液状の異種材料の混合物は、成形する際の加工性が良い。
【0016】
よって、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末を液状の異種材料に添加することにより、液状の異種材料に対して、高い熱伝導率、マイクロ波発熱特性、低比重、低い熱膨張係数、高い機械的特性(硬度、剛性)等の優れた特性を付与することができる。そして、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末と液状の異種材料の混合物から、上記の優れた特性を有する複合材料を製造することができる。
【0017】
なお、炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する小角部の数は、一次粒子1個当たり2.5個以下である必要があるが、2.2個以下であることが好ましく、1.2個以下であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末と混合される液状の異種材料は特に限定されるものではないが、例えば、液状樹脂、溶融金属が挙げられる。液状樹脂の例としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタンが挙げられ、溶融金属の例としては、アルミニウム、シリコン、銅、マグネシウムや、これらの金属を含有する合金が挙げられる。
【0018】
炭化ケイ素の粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する小角部の数は、例えば、下記のようにして測定することができる。電子顕微鏡を用いて炭化ケイ素の粉末を観察し、炭化ケイ素の一次粒子の二次電子像を得て、画像解析ソフトウエアを用いて二次電子像の画像解析を行う。画像解析においては、二次電子像から任意の1個の一次粒子の投影画像を取得し、その投影画像における一次粒子の輪郭に存在する角部の曲率半径(角部の内側に接することが可能な最大の円の半径)を測定する。
【0019】
炭化ケイ素の一次粒子の投影画像の形状は、
図1、2のように略多角形状であり、1個の一次粒子に複数の角部が存在するが、略多角形の辺と辺との間の角部のみを解析(曲率半径の測定)の対象とし、辺の途中に形成されている微小な凹凸は解析の対象としない。この微小な凹凸とは、以下の測定条件によって得た一次粒子の投影画像において、目視で角部と識別できないほど小さい角部を意味する。
【0020】
[測定条件]
<1> 測定(解析)対象の炭化ケイ素粉末のD50%を、株式会社堀場製作所製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-300を用いて測定する。なお、D50%は、株式会社堀場製作所製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-300を用いて測定した体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径を意味する。
【0021】
<2> 電子顕微鏡(Thermo Fisher Scientific社製、Phenom Pro-X卓上走査型電子顕微鏡、電子の加速電圧10kV)で炭化ケイ素の一次粒子の二次電子像を得る。なお、拡大倍率は以下の(i)~(iii)のいずれかとする。
(i)D50%が100μm以上の粉末においては、拡大倍率300倍とする。
(ii)D50%が40μm以上100μm未満の粉末においては、拡大倍率1000倍とする。
(iii)D50%が40μm未満の粉末においては、拡大倍率2000倍とする。
【0022】
<3> 株式会社マウンテック製の画像解析ソフトウエアMac-Viewを用いて二次電子像の画像解析を行って、二次電子像中の任意の100個以上の炭化ケイ素の一次粒子の投影画像を得る。
例えば、
図1、2の一次粒子の投影画像において、点線で描かれた円又は白抜きの円が付された角部が、曲率半径が測定された角部である。また、点線で描かれた円及び白抜きの円は、その角部の曲率半径を半径とする円である。
【0023】
次に、さらに画像解析を行い、角部の曲率半径の測定を行った一次粒子の投影画像について、ヘイウッド径Rを算出する。すなわち、一次粒子の投影画像の面積と同じ面積を有する円の直径を算出する。そして、その一次粒子の投影画像について、曲率半径の2倍がヘイウッド径Rの5分の1以下である角部(以下、「小角部」と記す)の個数を計測する。
図1の一次粒子の投影画像では小角部は0個、
図2の一次粒子の投影画像では小角部は5個である。
【0024】
なお、
図1、2において、一次粒子の投影画像の外に描かれている白抜きの円は、直径がヘイウッド径Rの5分の1(R/5)である円である。また、白抜きの円が付された角部は小角部であり、点線で描かれた円が付された角部は、曲率半径の2倍がヘイウッド径Rの5分の1超過である角部(すなわち、小角部ではない角部)である。
【0025】
二次電子像中の複数個(例えば50個)の一次粒子の投影画像それぞれについて、上記と同様の解析を行い、角部の曲率半径を測定するとともにヘイウッド径Rを算出し、小角部の個数を計測する。そして、複数個の一次粒子について小角部の個数の平均値を算出して、一次粒子1個当たりの小角部の数を算出する。
なお、
図1は、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子の投影画像である。また、
図2は、
図1の炭化ケイ素粉末を製造するための原料である炭化ケイ素粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子の投影画像である。
【0026】
炭化ケイ素の一次粒子のアスペクト比は、1.44以下であることが好ましい。アスペクト比が1.44以下であれば、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末を液状樹脂、溶融金属等の液状の異種材料に添加した際に、増粘をより引き起こしにくい。炭化ケイ素の一次粒子のアスペクト比は、1.42以下であることがより好ましく、1.36以下であることがさらに好ましい。なお、炭化ケイ素の一次粒子のアスペクト比とは、一次粒子の短径に対する長径の比である。ここでは、一次粒子の外接四角形(矩形)のうち面積が最小となる外接四角形の長辺を長径、短辺を短径とし、その長径と短径をもとにアスペクト比を算出した。
【0027】
また、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末は、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径D50%が、1μm以上300μm以下であることが好ましい。そうすれば、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末を液状樹脂、溶融金属等の液状の異種材料に添加した際に、増粘をより引き起こしにくい。本実施形態に係る炭化ケイ素粉末の粒子径D50%は、10μm以上190μm以下であることがより好ましく、40μm以上185μm以下であることがさらに好ましい。本実施形態に係る炭化ケイ素粉末の粒子径D50%の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、レーザー回折・散乱式によって測定することができる。
【0028】
本実施形態に係る炭化ケイ素粉末の評価は、液状樹脂に混合して得た樹脂組成物の粘度によって行うことができる。例えば、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末73質量部とシリコーン樹脂27質量部を混合して樹脂組成物とし、測定温度25℃、せん断速度1s-1にて、この樹脂組成物の粘度をレオメーターで測定することによって、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末を評価することができる。炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する小角部の数が一次粒子1個当たり2.5個以下であれば、液状樹脂、溶融金属等の液状の異種材料に添加しても、炭化ケイ素の一次粒子の形状が球形度の低い形状である場合と比べて増粘を引き起こしにくい。
【0029】
さらに、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末は、炭化ケイ素が主成分であるが、ケイ素、炭素以外の元素を含有していてもよい。ケイ素、炭素以外の元素の種類としては、例えば、アルミニウム、イットリウム、ベリリウム、マグネシウム、ホウ素が挙げられる。
【0030】
次に、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末を製造する方法について説明する。すなわち、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末の製造方法は、上記の本実施形態に係る炭化ケイ素粉末を製造する方法であって、原料である炭化ケイ素の粉末に熱処理を施して、原料である炭化ケイ素の粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する小角部の数を減少させ、小角部の数を一次粒子1個当たり2.5個以下とする熱処理工程を有する。
【0031】
原料である炭化ケイ素の粉末は、炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する小角部の数が多く、一次粒子1個当たりの小角部の数は2.5個超過である。原料である炭化ケイ素の粉末に熱処理を施すと、表面エネルギーや粒界エネルギーが小さくなるように原子拡散や物質移動が起こるため、炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する角部が丸くなる。その結果、曲率半径の2倍がヘイウッド径Rの5分の1超過である角部は小角部となるので、炭化ケイ素の一次粒子の形状は球形度の高い形状となる。例えば、熱処理によって、
図2に示す一次粒子が
図1に示す一次粒子となる。これにより、一次粒子1個当たりの小角部の数は2.5個以下となる。
【0032】
本実施形態に係る炭化ケイ素粉末の製造方法によれば、硬度が高い炭化ケイ素であっても、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末を容易に製造することができる。
また、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末の製造方法によれば、熱処理するのみで、炭化ケイ素の一次粒子の表面から角部を十分に取り除いて球形度の高い形状にすることができるので、前述した機械的処理方法に比べて容易な方法で本実施形態に係る炭化ケイ素粉末を製造することができる。
【0033】
さらに、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末の製造方法によれば、前述した機械的処理方法に比べて、処理中に炭化ケイ素の粉末に異物が混入しにくい。さらに、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末の製造方法によれば、処理中に炭化ケイ素の一次粒子にチッピング等の微細粒子が生じにくい。さらに、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末の製造方法は、造粒焼結に比べて容易な方法で本実施形態に係る炭化ケイ素粉末を製造することができる。
【0034】
熱処理の条件は特に限定されるものではないが、温度条件は1700℃以上2300℃以下であることが好ましく、1750℃以上2250℃以下であることがより好ましく、1800℃以上2200℃以下であることがさらに好ましい。
また、熱処理時の雰囲気は、不活性ガス雰囲気であることが好ましい。不活性ガスの種類は特に限定されるものではないが、窒素ガス、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトン等が挙げられる。
【0035】
本実施形態に係る炭化ケイ素粉末を製造する際には、原料である炭化ケイ素の粉末に液相形成助剤を混合して熱処理工程に供してもよい。そうすれば、炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する角部が丸くなりやすく、曲率半径の2倍がヘイウッド径Rの5分の1超過である角部は小角部となりやすいので、一次粒子1個当たりの小角部の数は2.5個以下となりやすい。
【0036】
詳述すると、炭化ケイ素は、共有結合性が強く自己拡散性が低いので、物質移動が進みにくい。よって、炭化ケイ素は、一次粒子が表面に有する角部が丸くなりにくい物質であると言える。そこで、物質移動を促すため、液相形成助剤に着目した。炭化ケイ素粉末に液相形成助剤を混合すると、炭化ケイ素の一次粒子の表面に液相形成助剤が付着する。液相形成助剤が付着した状態で熱処理を行うと、液相形成助剤と炭化ケイ素の一次粒子の表面に存在する二酸化ケイ素とが高温で反応して混合物の溶融液(液相)を形成し、この溶融液が炭化ケイ素の一次粒子の表面を覆うこととなる。
【0037】
すると、炭化ケイ素の一次粒子の表面を覆った溶融液により原子拡散や物質移動が促され、溶融液に炭化ケイ素が溶け込む。そして、溶融液の表面張力により炭化ケイ素の一次粒子の外形形状が球形度の高い形状となり、溶融液の固化により球形度の高い形状の一次粒子が得られることとなる。
【0038】
液相形成助剤の種類は特に限定されるものではないが、例えばアルミニウム含有物質、イットリウム含有物質が挙げられ、アルミニウム含有物質、イットリウム含有物質の例としては、アルミニウム塩、イットリウム塩、酸化アルミニウム、酸化イットリウムが挙げられる。アルミニウム塩の具体例としては、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3)、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウムや、これらアルミニウム塩の水和物が挙げられる。
熱処理工程を経た炭化ケイ素粉末は、一次粒子が凝集している場合があるので、熱処理工程の後に、炭化ケイ素粉末に対して、遠心粉砕機等を用いた解砕や篩等を用いた分級を行ってもよい。
【0039】
〔実施例〕
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
(比較例1)
結晶系がα型である炭化ケイ素の粉末(株式会社フジミインコーポレーテッド製の炭化ケイ素GC#320)を用意し、これを比較例1の炭化ケイ素粉末とした。
【0040】
比較例1の炭化ケイ素粉末のD10%、D50%、D90%を、株式会社堀場製作所製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-300を用いて測定した。結果を表1に示す。なお、D10%は、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の10%となる粒子径であり、D90%は、同じく90%となる粒子径である。
【0041】
また、比較例1の炭化ケイ素粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子のアスペクト比を、画像解析により算出した。すなわち、株式会社日立ハイテク製の走査電子顕微鏡SU8000(電子の加速電圧15kV、拡大倍率150~250倍)を用いて炭化ケイ素の粉末を観察し、炭化ケイ素の一次粒子の二次電子像(
図4を参照)を得た。そして、株式会社マウンテック製の画像解析ソフトウエアMac-Viewを用いて二次電子像の画像解析を行って、二次電子像中の任意の100個以上の炭化ケイ素の一次粒子の投影画像それぞれについて長径及び短径を測定し、平均長径及び平均短径を算出した。続いて、得られた平均長径及び平均短径の値を用いて、短径に対する長径の比(平均長径/平均短径)を算出することにより、アスペクト比を算出した。結果を表1に示す。
【0042】
また、比較例1の炭化ケイ素粉末を構成する炭化ケイ素の一次粒子が表面に有する角部のうち小角部の数を、炭化ケイ素の一次粒子の二次電子像の画像解析により算出した。すなわち、アスペクト比の算出に用いた炭化ケイ素の一次粒子の二次電子像を、画像解析ソフトウエアMac-Viewを用いて画像解析することにより、小角部の数を算出した。以下に詳細に説明する。
【0043】
画像解析においては、二次電子像から任意の1個の一次粒子の投影画像を取得し、その投影画像における一次粒子の輪郭に存在する角部の曲率半径(角部の内側に接することが可能な最大の円の半径)を測定した。炭化ケイ素の一次粒子の投影画像の形状は、
図1、2のように略多角形状であり、1個の一次粒子に複数の角部が存在するが、略多角形の辺と辺との間の角部のみを解析(曲率半径の測定)の対象とし、辺の途中に形成されている微小な凹凸は解析の対象としない。
【0044】
次に、さらに画像解析を行い、角部の曲率半径の測定を行った一次粒子の投影画像について、ヘイウッド径Rを算出した。そして、その一次粒子の投影画像について、曲率半径の2倍がヘイウッド径Rの5分の1以下である小角部の個数を計測した。
二次電子像中の任意の50個の一次粒子の投影画像それぞれについて、上記と同様の解析を行い、角部の曲率半径を測定するとともにヘイウッド径Rを算出し、小角部の個数を計測した。そして、50個の一次粒子について小角部の個数の平均値を算出して、一次粒子1個当たりの小角部の数を算出した。結果を表1に示す。
【0045】
次に、比較例1の炭化ケイ素粉末73質量部と液状樹脂であるシリコーン樹脂27質量部とを、自転公転ミキサーを用いて回転速度2000rpmで2分間撹拌することにより混合して、スラリー状の樹脂組成物を作製した。シリコーン樹脂としては、モメンティブ社製のシリコーンオイル(ジメチルシリコーンオイル)、商品名エレメント14 PDMSシリーズを用いた。
【0046】
そして、この樹脂組成物の粘度を、アントンパール社製のレオメーターMCR302を用いて測定した。レオメーターの測定治具として、直径49.974mmのパラレルプレートを用いた。測定条件については、測定温度は25℃、せん断速度は1s-1、パラレルプレートのギャップは1mmとした。結果を表1に示す。なお、樹脂組成物に使用したシリコーンオイルの25℃における粘度も、樹脂組成物と同様にして測定したところ、1.1Pa・sであった。
【0047】
【0048】
(実施例1)
実施例1の炭化ケイ素粉末を製造するための原料として、比較例1の炭化ケイ素粉末を用いた。すなわち、比較例1の炭化ケイ素粉末に焼成炉を用いて熱処理を施して、実施例1の炭化ケイ素粉末を製造した。熱処理温度は2000℃、熱処理時間は4時間、熱処理時の雰囲気はアルゴンである。熱処理後の炭化ケイ素粉末は、一部に一次粒子の凝集が生じていたので、遠心粉砕機を用いて解砕した。遠心粉砕機の回転速度は6000rpmである。
【0049】
上記のようにして製造した実施例1の炭化ケイ素粉末について、比較例1の場合と同様の方法により、D10%、D50%、D90%、アスペクト比、一次粒子1個当たりの小角部の数、及び樹脂組成物の粘度をそれぞれ測定した。これらの結果を表1にまとめて示す。
【0050】
(実施例2)
熱処理時に液相形成助剤を使用する点以外は実施例1と同様にして、実施例2の炭化ケイ素粉末を製造した。
熱処理工程について説明する。まず、原料である炭化ケイ素粉末100質量部と硝酸アルミニウム9水和物30質量部を水に投入して混合しスラリー状にした後に、110℃に加熱して水を蒸発させた。次に、得られた炭化ケイ素粉末と硝酸アルミニウムの混合物を焼成炉に入れ、実施例1と同様に熱処理を施した後に、解砕を行った。
【0051】
上記のようにして製造した実施例2の炭化ケイ素粉末について、比較例1の場合と同様の方法により、D10%、D50%、D90%、アスペクト比、一次粒子1個当たりの小角部の数、及び樹脂組成物の粘度をそれぞれ測定した。これらの結果を表1にまとめて示す。なお、実施例2の炭化ケイ素粉末の一次粒子の二次電子像を
図3に示す。
【0052】
(比較例2)
結晶系がα型である炭化ケイ素の粉末(株式会社フジミインコーポレーテッド製の炭化ケイ素GC#240)を用意し、これを比較例2の炭化ケイ素粉末とした。そして、比較例1の場合と同様の方法により、D10%、D50%、D90%、アスペクト比、一次粒子1個当たりの小角部の数、及び樹脂組成物の粘度をそれぞれ測定した。これらの結果を表1にまとめて示す。
【0053】
(実施例3)
比較例2の炭化ケイ素粉末を原料として用いた点と、熱処理温度を2030℃とした点と、解砕を行った後に目開き90μmの篩を用いて分級(凝集物の除去)を行った点以外は、実施例2と同様にして、実施例3の炭化ケイ素粉末を製造した。そして、比較例1の場合と同様の方法により、D10%、D50%、D90%、アスペクト比、一次粒子1個当たりの小角部の数、及び樹脂組成物の粘度をそれぞれ測定した。これらの結果を表1にまとめて示す。
【0054】
(実施例4)
結晶系がα型であり且つ平均粒子径が17μmである炭化ケイ素の粉末に、焼成炉を用いて熱処理を施した。熱処理温度は1830℃、熱処理時間は4時間、熱処理時の雰囲気はアルゴンである。
【0055】
熱処理後の炭化ケイ素粉末は、一部に一次粒子の凝集が生じていたので、遠心粉砕機を用いて解砕した。遠心粉砕機の回転速度は18000rpmである。そして、解砕した炭化ケイ素粉末に対して、目開き38μmの篩を用いて分級を行って、実施例4の炭化ケイ素粉末を得た。
【0056】
上記のようにして製造した実施例4の炭化ケイ素粉末について、比較例1の場合と同様の方法により、D10%、D50%、D90%、アスペクト比、一次粒子1個当たりの小角部の数、及び樹脂組成物の粘度をそれぞれ測定した。ただし、画像解析に用いる炭化ケイ素の一次粒子の二次電子像は、Thermo Fisher Scientific社製のPhenom Pro-X卓上走査型電子顕微鏡(電子の加速電圧10kV、拡大倍率2000倍)を用いて取得した。これらの結果を表1にまとめて示す。
【0057】
(実施例5)
結晶系がα型であり且つ平均粒子径が117μmである炭化ケイ素の粉末100質量部と、酸化アルミニウム粉末4.8質量部とを乾式混合して、混合粉末を得た。そして、この混合粉末に対して、焼成炉を用いて熱処理を施した。熱処理温度は2110℃、熱処理時間は4時間、熱処理時の雰囲気はアルゴンである。
【0058】
熱処理後の混合粉末は、一部に一次粒子の凝集が生じていたので、遠心粉砕機を用いて解砕した。遠心粉砕機の回転速度は6000rpmである。そして、解砕した炭化ケイ素粉末に対して、目開き180μmの篩を用いて分級を行って、実施例5の炭化ケイ素粉末を得た。
【0059】
上記のようにして製造した実施例5の炭化ケイ素粉末について、比較例1の場合と同様の方法により、D10%、D50%、D90%、アスペクト比、一次粒子1個当たりの小角部の数、及び樹脂組成物の粘度をそれぞれ測定した。ただし、画像解析に用いる炭化ケイ素の一次粒子の二次電子像は、Thermo Fisher Scientific社製のPhenom Pro-X卓上走査型電子顕微鏡(電子の加速電圧10kV、拡大倍率300倍)を用いて取得した。これらの結果を表1にまとめて示す。
【0060】
(比較例3)
結晶系がα型であり且つ平均粒子径が17μmである炭化ケイ素の粉末を用意し、これを比較例3の炭化ケイ素粉末とした。そして、実施例4の場合と同様の方法により、D10%、D50%、D90%、アスペクト比、一次粒子1個当たりの小角部の数、及び樹脂組成物の粘度をそれぞれ測定した。これらの結果を表1にまとめて示す。
【0061】
(比較例4)
結晶系がα型であり且つ平均粒子径が117μmである炭化ケイ素の粉末を用意し、これを比較例4の炭化ケイ素粉末とした。そして、実施例5の場合と同様の方法により、D10%、D50%、D90%、アスペクト比、一次粒子1個当たりの小角部の数、及び樹脂組成物の粘度をそれぞれ測定した。これらの結果を表1にまとめて示す。
【0062】
表1に示す結果から分かるように、比較例1~4の炭化ケイ素粉末は、一次粒子1個当たりの小角部の数が2.5個を超えているため、炭化ケイ素粉末の添加により増粘が生じ、樹脂組成物の粘度が高かった。よって、比較例1~4の炭化ケイ素粉末は、液状の異種材料に高充填しにくいと考えられる。また、比較例1~4の炭化ケイ素粉末と液状の異種材料の混合物は、成形する際の加工性が悪いと考えられる。
【0063】
これに対して、実施例1~5の炭化ケイ素粉末は、一次粒子1個当たりの小角部の数が2.5個以下であるため、炭化ケイ素粉末の添加による増粘は小さく、樹脂組成物の粘度は低かった。特に、実施例2の炭化ケイ素粉末は、一次粒子1個当たりの小角部の数が非常に少ないため、炭化ケイ素粉末の添加による増粘は非常に小さく、樹脂組成物の粘度は極めて低かった。よって、実施例1~5の炭化ケイ素粉末は、液状の異種材料に高充填しやすいと考えられる。また、実施例1~5の炭化ケイ素粉末と液状の異種材料の混合物は、成形する際の加工性が良いと考えられる。