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特開2023-152991変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレット、多層構造体、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法及び、多層構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152991
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレット、多層構造体、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法及び、多層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20231005BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20231005BHJP
   C08F 216/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K3/11
C08F216/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054959
(22)【出願日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2022057029
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】松井 諭史
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BE031
4J002DD076
4J002DE136
4J002FD066
4J002GG01
4J002GG02
4J100AA02Q
4J100AD02P
4J100AD11R
4J100JA58
(57)【要約】
【課題】溶融混練や溶融成形時等の加熱時における熱劣化が抑制された変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の提供を目的とする。
【解決手段】側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体と、チタン化合物とを含有する変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物であって、前記チタン化合物の金属換算含有量が、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の質量あたり0.001ppm以上5ppm未満である変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体と、チタン化合物とを含有する変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物であって、
前記チタン化合物の金属換算含有量が、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の質量あたり0.001ppm以上5ppm未満である変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項2】
前記変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体におけるエチレン構造単位の含有量が、20~60モル%である請求項1記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項3】
前記変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体における側鎖に有する一級水酸基構造単位の変性率が、0.1~30モル%である請求項1又は2記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項4】
前記変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体における側鎖に有する一級水酸基構造単位が、下記一般式(1)で表される請求項1又は2記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項5】
請求項1又は2記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなるペレット。
【請求項6】
請求項1又は2記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなる層を少なくとも1層備える多層構造体。
【請求項7】
請求項1又は2記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物を製造する方法であって、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体とチタン化合物とを含有する組成物原料を溶融混合する工程を備える、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項6記載の多層構造体を製造する方法であって、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなる層を溶融成形する工程を備える、多層構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレット、多層構造体、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法及び、多層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と称することがある)は、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度等に優れており、フィルム、シート、ボトル等に成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
【0003】
また、EVOH樹脂は、実用容器への変形や、その機械的強度等の向上を目的として、加熱延伸処理されることも多く、近年ではEVOH樹脂を含む多層シートから容器に成形する際に、容器形状の多様性や意匠性から、底の深い容器も製造されるようになり、そのような底の深い容器を成形した場合においても、成形後の容器の外観性、バリア性、及び強度が良好となるような加熱延伸性に優れたEVOH樹脂が求められている。
【0004】
上記の課題に対し、例えば特許文献1では、加熱延伸性に優れるEVOH樹脂として、特定構造単位を有する変性EVOH樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-359965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に開示された変性EVOH樹脂は、溶融混練や溶融成形等の加熱時における劣化物の抑制等のロングラン成形性に関する改善効果が不十分であり、加熱時に熱劣化しにくく、高品質な成形物が得られる変性EVOH樹脂組成物が求められている。
そこで、本発明はこのような背景下において、溶融混練や溶融成形等の加熱時における熱劣化が抑制された変性EVOH樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み、側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性EVOH樹脂に、チタン化合物を特定微量加えることにより、熱劣化が抑制された変性EVOH樹脂組成物が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性EVOH樹脂と、チタン化合物とを含有する変性EVOH樹脂組成物であって、
前記チタン化合物の金属換算含有量が、変性EVOH樹脂組成物の質量あたり0.001ppm以上5ppm未満である変性EVOH樹脂組成物。
[2] 前記変性EVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量が、20~60モル%である[1]記載の変性EVOH樹脂組成物。
[3] 前記変性EVOH樹脂における側鎖に有する一級水酸基構造単位の変性率が、0.1~30モル%である[1]又は[2]記載の変性EVOH樹脂組成物。
[4] 前記変性EVOH樹脂における側鎖に有する一級水酸基構造単位が、下記一般式(1)で表される[1]~[3]のいずれかに記載の変性EVOH樹脂組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の変性EVOH樹脂組成物からなるペレット。[6] [1]~[4]のいずれかに記載の変性EVOH樹脂組成物からなる層を少なくとも1層備える多層構造体。
[7] [1]~[4]のいずれかに記載の変性EVOH樹脂組成物を製造する方法であって、
前記変性EVOH樹脂とチタン化合物とを含有する組成物原料を溶融混合する工程を備える、変性EVOH樹脂組成物の製造方法。
[8] [6]記載の多層構造体を製造する方法であって、
前記変性EVOH樹脂組成物からなる層を溶融成形する工程を備える、多層構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の変性EVOH樹脂組成物は、溶融混練や溶融成形等の加熱時における熱劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
なお、本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」又は「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)又は「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」又は「Y未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
なお、本発明において、「x及び/又はy(x,yは任意の構成又は成分)」とは、xのみ、yのみ、x及びy、という3通りの組合せを意味するものである。
【0011】
<EVOH樹脂組成物>
本発明の一実施態様に係る変性EVOH樹脂組成物(以下、「本変性EVOH樹脂組成物」と称する)は、側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性EVOH樹脂を主成分とし、特定微量のチタン化合物を含有するものである。
すなわち、本変性EVOH樹脂組成物は、ベース樹脂が変性EVOH樹脂であり、本変性EVOH樹脂組成物における変性EVOH樹脂の含有量は、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
以下、各成分について説明する。
【0012】
〔変性EVOH樹脂〕
前記変性EVOH樹脂組成物は、側鎖に一級水酸基を有するものであり、具体的には下記一般式(1)の構造単位を有する変性EVOH系樹脂であることが好ましい。
【0013】
【化1】
【0014】
前記一般式(1)においてR1~R3は、水素原子又は有機基であれば、特に限定されない。上記有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基等の炭化水素基(これらの炭化水素基は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)等があげられる。
ポリマー主鎖と一級水酸基構造とを結合する結合鎖(X)としては、特に限定されないが、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)、オキシアルキレン、オキシアルケニレン、オキシアルキニレン、オキシフェニレン、オキシナフチレン等のエーテル結合でポリマー主鎖と結合する炭化水素(これらの炭化水素は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)のほか、-CO-、-CO(CH2mCO-、-CO(CH2mCOR4-、-NR5-、-CONR5-等があげられる(R4,R5は独立して任意の置換基であり、水素原子又はアルキル基が好ましく、mは自然数を示す)。
【0015】
前記変性EVOH樹脂を得るためには、例えば、
(I)側鎖に一級水酸基構造単位を有するモノマー又は側鎖の一級水酸基構造単位をエステル等で保護したモノマーをエチレン、およびビニルエステル系モノマーと共重合させた後に、ケン化等により脱保護する方法、
(II)先にエチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体をケン化してEVOH系樹脂を得たのち、EVOH樹脂を後変性して側鎖に一級水酸基構造単位を生じさせる方法、等があげられる。なかでも上記(I)の方法が生産性の点から好ましい。
以下、変性EVOH系樹脂の製造方法について説明する。
【0016】
まず、上記(I)の方法である場合、エチレン、ビニルエステル系モノマーおよび、側鎖に一級水酸基構造単位を有するモノマー又は上記水酸基構造単位をエステル等で保護したモノマーを共重合させればよい。
【0017】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル等があげられる。これらのなかでも、経済的な観点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0018】
上記(I)の方法における、側鎖に一級水酸基構造単位を有するモノマーとしては、例えばアリルアルコール、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、6-ヘプテン-1-オール、メタリルアルコール等のモノヒドロキシアルキル基含有モノマー; 2-メチレン-1,3-プロパンジオール、3,4-ジオール-1-ブテン、4,5-ジオール-1-ペンテン、4,5-ジオール-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジオール-1-ヘキセン、グリセリンモノアリルエーテル等のジヒドロキシアルキル基含有モノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0019】
また、上記(I)の方法における、側鎖の一級水酸基構造単位をエステル等で保護したモノマー(以下、「水酸基構造単位をエステル等で保護したモノマー」と称することがある)としては、例えば前記の側鎖に一級水酸基構造単位を有するモノマーの酢酸エステル等があげられる。具体的には、例えば酢酸アリル、酢酸3-ブテニル、酢酸4-ペンテニル、酢酸5-ヘキセニル、酢酸6-ヘプテニル、酢酸メタリル等のモノアセトキシアルキル基含有モノマー;2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテート、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、4,5-ジアセトキシ-1-ペンテン、4,5-ジアセトキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジアセトキシ-1-ヘキセン、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオールジアセテート等のジアセトキシアルキル基含有モノマー等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0020】
上記(I)の方法においては、側鎖に一級水酸基構造単位を有するモノマーと水酸基構造単位をエステル等で保護したモノマーを併用してエチレン、ビニルエステル系モノマーと共重合させることもできる。
【0021】
なかでも、生産性の点から、水酸基構造単位をエステル等で保護したモノマーが好ましく、ジアセトキシアルキル基含有モノマーがより好ましく、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテートがより好ましく、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが特に好ましい。
【0022】
また、本発明の効果を阻害しない範囲で、共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合させてもよい。
かかるエチレン性不飽和単量体としては、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはアルキル基の炭素数が1~18のモノ又はジアルキルエステル類;アクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩;アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩類あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;アルキル基の炭素数が1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類;ビニルシラン類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0023】
これらの共重合反応においては、例えば塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、又はエマルジョン重合等、公知の方法を採用することができる。なかでも、共重合制御の容易な溶液重合が好適に用いられる。
【0024】
かかる共重合を溶液重合で実施するとき、用いられる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール等の炭素数1~5の低級アルコール、アセトン、2-ブタノン等のケトン類があげられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、重合反応の制御容易さからメタノールが好適に用いられる。また、低重合度の共重合体を合成する場合には2-プロパノールが好適に用いられる。
【0025】
上記溶媒の使用量は、目的とする変性EVOH系樹脂の重合度、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択することができる。溶媒がメタノール又は2-プロパノールのときは、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01~10(重量比)が好ましく、0.05~7(重量比)がより好ましい。
【0026】
溶液重合における共重合成分の仕込み方法としては、例えば初期一括仕込み、分割仕込み、モノマーの反応性比を考慮したHanna法等の連続仕込み等の任意の方法を採用することができる。
【0027】
上記共重合には、重合開始剤が用いられる。かかる重合開始剤としては、例えば2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、等の過酸化物系開始剤があげられる。
【0028】
上記重合触媒の使用量は、重合触媒の種類により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、t-ブチルパーオキシネオデカノエートを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対し、通常、10~2000ppmであり、好ましくは50~1000ppmである。
【0029】
共重合の重合温度は、使用する溶媒やエチレン圧力に応じて、40℃から沸点の範囲から選択することが好ましい。
【0030】
また、共重合時に、本発明の効果を阻害しない範囲で、連鎖移動剤の存在下で共重合させてもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、クロトンアルデヒド等のアルデヒド類;2-ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、アルデヒド類が好適に用いられる。共重合時の連鎖移動剤の添加量は、連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とする変性EVOH系樹脂の重合度に応じて決定されるが、一般に、ビニルエステル系モノマー100質量部に対して0.1~10質量部が好ましい。
【0031】
こうして得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化することにより変性EVOH系樹脂を得ることができる。
【0032】
上記ケン化方法は公知の方法を採用でき、例えば、上記で得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体をアルコール又は含水アルコールに溶解した状態で、ケン化触媒を用いて行われる。
【0033】
上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコールがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでもメタノールが好ましい。
【0034】
アルコール中のエチレン-ビニルエステル系共重合体の濃度は、粘度により適宜選択され、通常5~60質量%である。
【0035】
上記ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラート等のアルカリ触媒;硫酸、塩酸、硝酸、メタスルホン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒があげられる。
【0036】
ケン化を行う温度は限定されないが、20~140℃の範囲が好適である。ケン化の進行に従って粒子状物が生成し、反応が進行したことが分かる。このとき、ゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕すればよい。生成した粒状物を洗浄、乾燥させて、変性EVOH系樹脂を得ることができる。
また、ケン化度を高めるために、一旦生成した粒状物を洗浄した後に、再度アルコール等に分散させ、アルカリ触媒を追加して、さらに反応させることもできる。
【0037】
上記ケン化によって、エチレン-ビニルエステル系共重合体中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。
また、水酸基構造単位をエステル等で保護したモノマーを共重合させた場合、ケン化によって保護したモノマーのエステル等も同時に脱保護されて、側鎖一級水酸基構造に変換される。
【0038】
前記(I)の方法において共重合成分として、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンを用いた場合、ケン化等により脱保護して得られる変性EVOH系樹脂は、下記一般式(2)で表される一級水酸基を側鎖に有する。
【0039】
【化2】
【0040】
また、前記(I)の方法において共重合成分として、2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテートを用いた場合、得られる変性EVOH系樹脂は、下記一般式(3)で表される一級水酸基を側鎖に有する。
【0041】
【化3】
【0042】
前記(II)の方法で変性EVOH樹脂を製造する場合は、例えばエチレンと前記(I)の方法で例示したビニルエステル系モノマー、必要に応じて前記(I)の方法で例示した共重合可能なエチレン性不飽和単量体を、前記(I)の方法に準じて共重合させ、EVOH樹脂を製造し、得られたEVOH樹脂と一価のエポキシ基含有化合物とを反応させればよい。前記反応方法は特に限定されないが、例えば溶液で反応させる方法、押出機内で反応させる方法等が好適な方法としてあげられる。また、押出機内で反応させる方法を採る時、周期表第3~12族に属する金属のイオンを含む触媒を使用することも好ましい。
【0043】
前記一価のエポキシ基含有化合物としては、例えばプロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、グリシドール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、プロピレンオキサイドが好ましい。
【0044】
前記一価のエポキシ基含有化合物として、例えばプロピレンオキサイドを用いた場合、得られる変性EVOH系樹脂は、下記一般式(4)で表される一級水酸基構造単位を側鎖に有する。
【0045】
【化4】
【0046】
このような(I)又は(II)の方法により、下記一般式(1)の構造単位を有する変性EVOH樹脂を得ることができる。なお、前記変性EVOH系樹脂は、側鎖に一級水酸基構造単位を有していればよく、側鎖に他の水酸基構造(二級水酸基や三級水酸基)を有していてもよい。また、前記EVOH樹脂は、完全に脱保護されず、少量のエステルが残存していてもよい。
【0047】
【化5】
【0048】
前記一般式(1)において、R1~R3は、水素原子又は有機基であれば、特に限定されない。上記有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基等の炭化水素基(これらの炭化水素基は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)等が挙げられる。
ポリマー主鎖と一級水酸基構造とを結合する結合鎖(X)としては、特に限定されないが、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)、オキシアルキレン、オキシアルケニレン、オキシアルキニレン、オキシフェニレン、オキシナフチレン等のエーテル結合でポリマー主鎖と結合する炭化水素(これらの炭化水素は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)のほか、-CO-、-CO(CH2mCO-、-CO(CH2mCOR4-、-NR5-、-CONR5-等が挙げられる(R4,R5は独立して任意の置換基であり、水素原子又はアルキル基が好ましく、mは自然数を示す)。
【0049】
前記変性EVOH系樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、通常20~60モル%であり、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。前記エチレン構造単位の含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、前記エチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0050】
前記変性EVOH系樹脂における側鎖に有する一級水酸基構造単位の変性率は、0.1~30モル%であることが好ましく、より好ましくは0.5~10モル%、特に好ましくは1~5モル%である。
前記一級水酸基構造単位の変性率が少なすぎると、変性EVOH系樹脂の親水性が不足して生分解性が低くなる傾向がある。また、一級水酸基構造単位の変性率が多すぎると、生産コストが大きくなり経済的に不利となる傾向がある。
【0051】
前記一級水酸基構造単位の変性率は、前記(I)の方法の場合は、共重合モノマーとして用いる側鎖に一級水酸基構造単位を有するモノマー又は上記水酸基構造単位をエステル等で保護したモノマーの仕込み量によって制御することができる。また、前記(II)の方法の場合は、変性に用いる一価のエポキシ基含有化合物の使用量で制御することができる。
【0052】
また、変性EVOH系樹脂におけるメルトフローレート(MFR)〔210℃、荷重2160g〕は、通常0.1~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、溶融成形する際の厚み制御が難しくなる傾向があり、小さすぎる場合には溶融成形時に成形機に高い負荷が掛かる傾向がある。
かかるMFRは、変性EVOH系樹脂の重合度の指標となるものであり、共重合成分を共重合させる際の重合触媒の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0053】
前記変性EVOH系樹脂におけるケン化度は、通常90モル%以上であり、好ましくは95モル%以上、特に好ましくは99モル%以上である。ケン化度が低すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0054】
〔チタン化合物〕
前記チタン化合物としては、例えば無機チタン化合物、有機チタン化合物があげられる。なお、チタン化合物は単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも無機チタン化合物が好ましい。
【0055】
前記無機チタン化合物としては、例えばチタン酸化物、チタン水酸化物、チタン塩化物、チタンの無機塩等があげられる。
前記チタン酸化物としては、例えば酸化チタン(II)、酸化チタン(III)、酸化チタン(IV)、亜酸化チタン等があげられる。
前記チタン水酸化物としては、例えば水酸化第一チタン、水酸化第二チタン等があげられる。
前記チタン塩化物としては、例えば塩化第一チタン、塩化第二チタン等があげられる。 前記チタンの無機塩としては、例えばリン酸チタン、硫酸チタン等があげられる。
なかでも、チタン酸化物が好ましく、酸化チタン(IV)がより好ましく、ルチル型の酸化チタン(IV)が特に好ましい。
【0056】
前記有機チタン化合物としては、例えば酢酸チタン、酪酸チタン、ステアリン酸チタン等のカルボン酸チタン等があげられる。
【0057】
なお、前記チタン化合物は、本変性EVOH樹脂組成物中でチタン化合物として、存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは変性EVOH樹脂や他の配位子と相互作用した錯体の状態で存在していてもよい。
【0058】
前記チタン化合物の平均粒径は、通常0.001~100μmであり、好ましくは0.01~50μmであり、より好ましくは0.015~20μmである。チタン化合物の平均粒径が前記範囲内であると、着色抑制効果に優れる傾向がある。
【0059】
前記チタン化合物の金属換算含有量は、変性EVOH樹脂組成物の質量あたり0.001ppm以上5ppm未満である。好ましくは0.01~3ppmであり、より好ましくは0.03~1ppmであり、特に好ましくは0.05~0.5ppmである。チタン化合物の含有量を前記範囲とすることで、溶融成形時の熱劣化を抑制することができる。また、チタン化合物の含有量が少なすぎると、熱劣化しやすくなり、含有量が多すぎるとEVOH樹脂の熱分解が起こりやすくなり着色しやすくなる。
【0060】
前記チタン化合物の金属換算含有量は、本EVOH樹脂組成物を白金るつぼに秤取り、バーナーおよび電気炉で順次灰化し、かかる灰化物を硝酸およびふっ化水素酸で加熱分解し、希硝酸と希ふっ化水素酸の混酸で処理して定容して得られた定容液中のチタンをICP質量分析装置(Agilent Technologies社製、Agilent 8800)を用い、ICP質量分析法で測定することにより定量することができる。
【0061】
一般的に変性EVOH樹脂は、熱によって劣化する。これは、熱により変性EVOH樹脂が劣化してラジカルが発生し、このラジカルにより変性EVOH樹脂の水酸基が脱水され、変性EVOH樹脂の主鎖に二重結合が生成し、かかる部位が反応起点となり、さらに脱水が促進され、変性EVOH樹脂の主鎖に共役ポリエン構造が形成されるためと考えられる。
これに対し、本変性EVOH樹脂組成物は、特定微量のチタン化合物を含有することにより、変性EVOH樹脂の熱による劣化が抑制されるものである。
通常、変性EVOH樹脂組成物にチタン化合物を含有させた場合、チタンイオンにより、変性EVOH樹脂組成物が着色すると考えられるため、当業者であればチタン化合物の使用を避けることが技術常識である。しかしながら、本発明では、このような技術常識に反して、特定微量のチタン化合物を用いる場合に、熱による劣化が抑制された変性EVOH樹脂組成物が得られることを見出したのである。
すなわち、チタンは、4価のイオンとして安定であり、微量であっても前記のような変性EVOH樹脂の主鎖の二重結合に配位し、キレートを形成する等によって安定化し、ポリエン構造の形成を抑制しているものと推測される。
一方、チタン化合物の含有量が多すぎると、チタン化合物による変性EVOH樹脂の熱分解が起こると考えられる。
【0062】
[その他の熱可塑性樹脂]
本変性EVOH樹脂組成物には、変性EVOH樹脂以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば本変性EVOH樹脂組成物の通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下)にて含有することができる。
他の熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができ、例えばEVOH樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0063】
[その他の配合剤]
また、本変性EVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤が含有されていてもよい。上記配合剤としては、例えば、無機複塩(例えばハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えばエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、酸素吸収剤[例えばアルミニウム粉、亜硫酸カリウム等の無機系酸素吸収剤;アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、テルペン化合物、三級水素含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリプロピレンとコバルトの組合せ)、炭素-炭素不飽和結合含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えばポリブタジエンとコバルトの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例えばポリケトン)、アントラキノン重合体(例えばポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や、上記以外の酸化防止剤や消臭剤(活性炭等)を添加したもの等の高分子系酸素吸収剤]、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤(ただし、滑剤として用いるものを除く)、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば無機フィラー等)等を配合してもよい。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0064】
[変性EVOH樹脂組成物の製造方法]
本変性EVOH樹脂組成物は、例えば、前記変性EVOH樹脂、チタン化合物を、公知の方法、例えばドライブレンド法、溶融混合法、溶液混合法、含浸法等によって混合することにより製造でき、これらのなかでも、前記変性EVOH樹脂とチタン化合物とを含有する組成物原料を溶融混合する工程を備えることにより製造することが好ましい。また、これらの製造方法は、任意に組み合わせることも可能である。
【0065】
前記ドライブレンド法としては、例えば(i)ペレット状の変性EVOH樹脂と、チタン化合物を、タンブラー等を用いてドライブレンドする方法等があげられる。
【0066】
前記溶融混合法としては、例えば(ii)ペレット状の変性EVOH樹脂と、チタン化合物とをドライブレンドしたドライブレンド物を溶融混練する方法や、(iii)溶融状態のEVOH樹脂にチタン化合物を添加して溶融混練する方法等があげられる。
【0067】
前記溶液混合法としては、例えば(iv)市販の変性EVOH樹脂を用いて溶液を調製し、ここにチタン化合物を配合し、凝固成形し、その後、公知の手段により固液分離して乾燥する方法や、(v)変性EVOH樹脂の製造過程で、ケン化前のエチレン-ビニルエステル系共重合体溶液やEVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)にチタン化合物を含有させた後、凝固成形し、その後、公知の手段により固液分離して乾燥する方法等があげられる。
【0068】
前記含浸法としては、例えば(vi)ペレット状の変性EVOH樹脂を、チタン化合物を含有する水溶液と接触させ、変性EVOH樹脂中にチタン化合物を含有させた後、乾燥する方法等があげられる。
前記チタン化合物を含有する水溶液としては、チタン化合物の水溶液や、チタン化合物を、各種薬剤を含む水に浸漬することでチタンイオンを溶出させたものを用いることができる。
なお、前記含浸法において、チタン化合物の含有量(金属換算)は、変性EVOH樹脂を浸漬する水溶液中のチタン化合物の濃度や浸漬温度、浸漬時間等によって制御することが可能である。
前記浸漬温度、浸漬時間としては、通常、0.5~48時間、好ましくは1~36時間であり、浸漬温度は通常10~40℃、好ましくは20~35℃である。
【0069】
前記各製造方法における乾燥方法としては、種々の乾燥方法を採用することが可能であり、静置乾燥、流動乾燥のいずれでもよい。また、これらを組み合わせて行うこともできる。
【0070】
前述のとおり、本発明においては、上記の異なる方法を組み合わせることが可能である。なかでも、生産性や本発明の効果がより顕著な樹脂組成物が得られる点で、溶融混合法が好ましく、特には(ii)の方法が好ましい。また、前記その他の熱可塑性樹脂、その他の配合剤を用いる場合も、前記の製造方法に従い、常法により配合すればよい。
【0071】
このような前記各製造方法によって得られる本変性EVOH樹脂組成物の形状は任意であるが、ペレットであることが好ましい。
前記ペレットとしては、例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、オーバル形、又は円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、オーバル形の場合は短径が通常1~10mm、好ましくは2~6mmであり、更に好ましくは2.5~5.5mmであり、長径は通常1.5~30mm、好ましくは3~20mm、更に好ましくは3.5~10mmである。また、円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
また、前記各製造方法で用いるペレット状の変性EVOH樹脂の形状、大きさも同様であることが好ましい。
【0072】
本変性EVOH樹脂組成物は、加熱時における熱劣化を抑制することができるものであり、本変性EVOH樹脂組成物の5%重量減少温度は、通常371℃以上であり、好ましくは372℃以上であり、特に好ましくは373℃以上である。
また、本変性EVOH樹脂組成物の10%重量減少温度は、通常383℃以上であり、好ましくは384℃以上である。
前記5%重量減少温度、10%重量減少温度の上限は、高ければ高い程よいが、通常450℃である。
なお、前記重量減少温度の1℃の違いは、実際の製造において、大きな収率の差として現れることから、その差は非常に大きいものである。
【0073】
前記5%重量減少温度、10%重量減少温度とは、本変性EVOH樹脂組成物5mgを熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、Pyris 1 TGA)を用いて、窒素雰囲気下、気流速度:20mL/分、昇温速度:10℃/分、温度範囲:30~550℃の条件にて、重量が測定前重量の95%に減少した時点の温度(5%重量減少温度)、及び重量が測定前重量の90%に減少した時点の温度(10%重量減少温度)を意味する。
【0074】
本変性EVOH樹脂組成物の含水率は、通常、0.01~0.5質量%であり、好ましくは0.05~0.35質量%、特に好ましくは0.1~0.3質量%である。
【0075】
なお、本変性EVOH樹脂組成物の含水率は以下の方法により測定・算出されるものである。
本変性EVOH樹脂組成物の乾燥前質量(W1)を電子天秤にて秤量し、150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させ、デシケーター中で30分間放冷後の質量(W2)を秤量し、下記式より算出する。
含水率(質量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0076】
また、本変性EVOH樹脂組成物の形状がペレットである場合、溶融成形時のフィード性を安定させる点で、ペレットの表面に公知の滑剤を付着させることも好ましい。滑剤の種類としては、例えば、炭素数12以上の高級脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和高級脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス高級脂肪酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等、又はその酸変性品)、炭素数6以上の高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等があげられる。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、かかる滑剤の含有量は、本変性EVOH樹脂組成物の通常5質量%以下、好ましくは1質量%以下である。なお、下限は通常0質量%である。
【0077】
このようにして得られた本変性EVOH樹脂組成物は、ペレット、あるいは粉末状や液体状といった、さまざまな形態に調製され、各種の成形物の成形材料として提供される。特に本発明においては、溶融成形用の材料として提供される場合、本発明の効果がより効率的に得られる傾向があり好ましい。
なお、本変性EVOH樹脂組成物には、本変性EVOH樹脂組成物に用いられる変性EVOH樹脂以外の樹脂を混合して得られる樹脂組成物も含まれる。
【0078】
前記成形物としては、例えば本変性EVOH樹脂組成物から成形された単層フィルムをはじめとして、本変性EVOH樹脂組成物からなる層を有する多層構造体等があげられる。
【0079】
[多層構造体]
本発明の一実施形態に係る多層構造体(以下、「本多層構造体」と称する)は、本変性EVOH樹脂組成物からなる層を備えるものである。本変性EVOH樹脂組成物からなる層(以下、単に「本変性EVOH樹脂組成物層」という)は、本変性EVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、基材に用いられる樹脂を「基材樹脂」と略記することがある)と積層することで、さらに強度を付与したり、本変性EVOH樹脂組成物層を水分等の影響から保護したり、他の機能を付与することができる。
【0080】
前記基材樹脂としては、例えば直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方を有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族又は脂肪族ポリケトン類等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0081】
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂である。
【0082】
本多層構造体の層構成は、本変性EVOH樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、本多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本変性EVOH樹脂組成物と本変性EVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。本多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介在させてもよい。
【0083】
前記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸又はその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。上記カルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0084】
本多層構造体において、本変性EVOH樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層が本変性EVOH樹脂組成物層の両側に位置することから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0085】
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば樹脂全体に対して、30質量%以下、好ましくは10質量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0086】
前記本変性EVOH樹脂組成物層と上記基材樹脂層との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本変性EVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本変性EVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、本変性EVOH樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、本変性EVOH樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上に本変性EVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して、本変性EVOH樹脂組成物層を溶融成形する工程を備えることにより製造することが好ましく、具体的には共押出する方法が好ましい。
【0087】
本多層構造体は、必要に応じて(加熱)延伸処理を施してもよい。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0088】
また、延伸処理後の本多層構造体は、寸法安定性を付与することを目的として、熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば前記延伸処理された本多層構造体を、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。
【0089】
前記延伸処理された本多層構造体をシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸処理後の本多層構造体に冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0090】
本多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、更には多層構造体を構成する本変性EVOH樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、本多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。本変性EVOH樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0091】
さらに、本多層構造体における本変性EVOH樹脂組成物層の基材樹脂層に対する厚みの比(本変性EVOH樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、本多層構造体における本変性EVOH樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(本変性EVOH樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0092】
また、本多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。更に多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0093】
本変性EVOH樹脂組成物から成形された単層フィルムや、本多層構造体からなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
【実施例0094】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
なお、例中「部」とあるのは、断りのない限り質量基準を意味する。
【0095】
<実施例1>
側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性EVOH樹脂として、側鎖1,2-ジオール含有EVOH系樹脂(エチレン構造単位の含有量38モル%、一級水酸基構造単位の変性率1.5モル%、ケン化度99.6モル%、MFR4.0g/10分(210℃、荷重2160g))の変性EVOH樹脂のペレットを用いた。
また、チタン化合物として、酸化チタン(富士フイルム和光純薬社製)を用いた。
前記変性EVOH樹脂のペレットに対し、前記酸化チタンを金属換算含有量としてEVOH樹脂組成物の質量あたり0.1ppmとなるようにドライブレンドし、混合物を得た。
前記混合物を、二穴ダイを備えた二軸押出機(20mmφ)に供給し、下記の押出条件で押出、吐出されるストランドをベルトコンベア上にて空冷、固化させた。次に固化させたストランドを切断することで変性EVOH樹脂組成物のペレットを得た。
[押出条件]
押出機設定温度(℃):C1/C2/C3/C4/C5/C6
=150/200/210/210/210/210
【0096】
<実施例2>
実施例1において、酸化チタンの配合量を金属換算量としてEVOH樹脂組成物の質量あたり1ppmに変更した以外は、実施例1と同様にして変性EVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0097】
<比較例1>
実施例1において、酸化チタンを用いなかった以外は、実施例1と同様にして変性EVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0098】
<比較例2>
実施例1において、酸化チタンの配合量を金属換算量としてEVOH樹脂組成物の質量あたり10ppmに変更した以外は、実施例1と同様にして変性EVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0099】
得られた実施例1、2、および比較例1、2の変性EVOH樹脂組成物のペレットを用いて、下記の熱安定性評価を行った。結果を後記の表1に示す。
【0100】
〔熱安定性評価〕
得られたEVOH樹脂組成物のペレット5mgを、熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、Pyris 1 TGA、)を用いて、窒素雰囲気下、気流速度:20mL/分、昇温速度:10℃/分、温度範囲:30~550℃の条件にて、重量が測定前重量の95%に減少した時点の温度(5%重量減少温度)、及び重量が測定前重量の90%に減少した時点の温度(10%重量減少温度)を測定した。かかる温度が高いほど、熱安定性に優れる。
【0101】
【表1】
【0102】
上記表1から、特定微量のチタン化合物を含有する実施例1、2のEVOH樹脂組成物は、チタン化合物を含有しない比較例1のEVOH樹脂組成物、チタン化合物を特定の範囲を超えて含有する比較例2のEVOH樹脂組成物に比べて重量減少温度が高く、熱安定性に優れることがわかる。また、実施例1、2のEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体も、熱劣化が抑制され熱安定性に優れるという効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本変性EVOH樹脂組成物は、加熱時の熱による劣化が抑制されることから、各種食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種包装材料として有用である。