(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152993
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレット、多層構造体、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法及び、多層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20231005BHJP
C08K 3/11 20180101ALI20231005BHJP
C08F 8/14 20060101ALI20231005BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K3/11
C08F8/14
B32B27/28 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054961
(22)【出願日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2022057031
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓哉
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AK69A
4F100AL06A
4F100AT00B
4F100YY00A
4J002BE031
4J002DD076
4J002DE136
4J002EG046
4J002FD066
4J002GG01
4J002GG02
4J100HA11
4J100HC38
4J100HE17
4J100JA58
(57)【要約】
【課題】溶融成形時の熱劣化が抑制されたエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の提供を目的とする。
【解決手段】脂肪族ポリエステル単位を含む変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体、及びチタン化合物を含有する変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物であって、前記チタン化合物の金属換算含有量が、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の質量あたり0.001ppm以上5ppm未満である変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル構造単位を含む変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体、及びチタン化合物を含有する変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物であって、
前記チタン化合物の金属換算含有量が、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の質量あたり0.001ppm以上5ppm未満である変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項2】
前記変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体における脂肪族ポリエステル構造単位の変性率が、0.1~30モル%である請求項1記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項3】
前記変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体に含まれる脂肪族ポリエステル構造単位の平均鎖長が、1.5~3.0個である請求項1又は2記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項4】
前記脂肪族ポリエステル構造単位が、ラクトン類の開環重合体である請求項1又は2記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項5】
請求項1又は2記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなるペレット。
【請求項6】
請求項1又は2記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなる層を少なくとも1層備える多層構造体。
【請求項7】
請求項1又は2記載の変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物を製造する方法であって、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体とチタン化合物とを含有する組成物原料を溶融混合する工程を備える、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項6記載の多層構造体を製造する方法であって、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなる層を溶融成形する工程を備える、多層構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル単位を含む変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレット、多層構造体、変性エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法及び、多層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と称することがある)は、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度等に優れており、フィルム、シート、ボトル等に成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
【0003】
しかし、EVOH樹脂は、分子内に比較的活性な水酸基を有するため、熱により劣化しやすい傾向があり、溶融成形時に着色の問題が起こりやすい。また、EVOH樹脂は、硬くて脆い樹脂であり、柔軟性に欠けるものであった。
【0004】
上記の課題に対し、例えば特許文献1では、脂肪族ポリエステル単位を含む変性EVOH樹脂であって、その成形体のイエローインデックス(YI)値を特定値以下とすることによって、熱成形後の劣化及び着色を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に記載された変性EVOH樹脂は、着色を抑制することができるものの、近年、成型装置におけるフィードブロック・ダイ形状の多様化、最終製品における多層構造体の薄膜化や層数増加等の各種高機能化の要求に伴って、高機能化により複雑化した成形装置内で樹脂が熱劣化して製品の生産性が低下する傾向があり、さらなる改善が求められている。
【0007】
本発明は、溶融成形時の熱劣化が抑制された変性EVOH樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み、脂肪族ポリエステル構造単位を含む変性EVOH樹脂にチタン化合物を特定微量加えることにより、溶融成形時の熱劣化が抑制された変性EVOH樹脂組成物が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 脂肪族ポリエステル構造単位を含む変性EVOH樹脂、及びチタン化合物を含有する変性EVOH樹脂組成物であって、
前記チタン化合物の金属換算含有量が、変性EVOH樹脂組成物の質量あたり0.001ppm以上5ppm未満である変性EVOH樹脂組成物。
[2] 前記変性EVOH樹脂における脂肪族ポリエステル構造単位の変性率が、0.1~30モル%である[1]記載の変性EVOH樹脂組成物。
[3] 前記変性EVOH樹脂に含まれる脂肪族ポリエステル構造単位の平均鎖長が、1.5~3.0個である[1]又は[2]記載の変性EVOH樹脂組成物。
[4] 前記脂肪族ポリエステル構造単位が、ラクトン類の開環重合体である[1]~[3]のいずれかに記載の変性EVOH樹脂組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の変性EVOH樹脂組成物からなるペレット。[6] [1]~[4]のいずれかに記載の変性EVOH樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する多層構造体。
[7] [1]~[4]のいずれかに記載の変性EVOH樹脂組成物を製造する方法であって、
前記変性EVOH樹脂とチタン化合物とを含有する組成物原料を溶融混合する工程を備える、変性EVOH樹脂組成物の製造方法。
[8] [6]記載の多層構造体を製造する方法であって、
前記変性EVOH樹脂組成物からなる層を溶融成形する工程を備える、多層構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の変性EVOH樹脂組成物は、熱安定性に優れるため、溶融成形時における変性EVOH樹脂の熱劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
なお、本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」又は「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)又は「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」又は「Y未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
【0012】
<EVOH樹脂組成物>
本発明の一実施態様に係る変性EVOH樹脂組成物(以下、「本変性EVOH樹脂組成物」と称する)は、脂肪族ポリエステル単位を含む変性EVOH樹脂を主成分とし、特定微量のチタン化合物を含有するものである。
すなわち、本変性EVOH樹脂組成物は、ベース樹脂が変性EVOH樹脂であり、本変性EVOH樹脂組成物における変性EVOH樹脂の含有量は、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
以下、各成分について説明する。
【0013】
〔変性EVOH樹脂〕
前記変性EVOH樹脂は、脂肪族ポリエステル構造単位を含むものであり、なかでもEVOH樹脂の側鎖に脂肪族ポリエステル構造単位が結合、すなわちEVOH樹脂に脂肪族ポリエステル構造単位がグラフトされたものが、ガスバリア性と柔軟性を担保する点から好ましい。
【0014】
前記脂肪族ポリエステル構造単位は、ラクトン類の開環重合体であることが、反応が簡便である点、ブリードや接着不良、溶融成形時における蒸発が少なく、作業環境の汚染が少ない点から好ましい。このような変性EVOH樹脂は、例えばEVOH樹脂の存在下、ラクトン類の開環重合反応及びグラフト反応によって得ることができる。
以下、変性EVOH樹脂について詳しく説明する。
【0015】
[EVOH樹脂]
前記変性EVOH樹脂の原料となるEVOH樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。
【0016】
前記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。酢酸ビニル以外の他のビニルエステル系モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられるが、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルが用いられる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0017】
前記エチレンとビニルエステル系モノマーとを共重合させる重合法としては、公知の任意の重合法、例えば溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いて行うことができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。また、得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
このようにして製造されるEVOH樹脂は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0018】
前記EVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。前記エチレン構造単位の含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、かかるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0019】
前記EVOH樹脂におけるケン化度は、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。前記ケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間等によって制御でき、かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
かかるEVOH樹脂のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる)に基づいて測定することができる。
【0020】
前記EVOH樹脂におけるメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜時の安定性が損なわれる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
前記MFRは、EVOH樹脂の重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0021】
また、前記EVOH樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい(例えばEVOH樹脂の10モル%以下)。
前記コモノマーとしては、例えばプロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはアルキル基の炭素数が1~18のモノ又はジアルキルエステル類;アクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;アルキル基の炭素数が1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0022】
なかでも、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類が好ましく、特には3-ブテン-1,2-ジオール、5-ヘキセン-1,2-ジオールが好ましい。前記ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合した場合、得られるEVOH樹脂は、側鎖に1級水酸基を有することとなる。このような側鎖に1級水酸基を有するEVOH樹脂、特には側鎖に1,2-ジオール構造を有するEVOH樹脂は、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好ましい。
【0023】
前記EVOH樹脂が、側鎖に1級水酸基を有する場合、当該1級水酸基を有するモノマー由来の構造単位の含有量は、EVOH樹脂の通常0.1~20モル%、好ましくは0.5~15モル%、特に好ましくは1~10モル%である。
【0024】
[ラクトン類]
前述のとおりラクトン類は、開環重合により脂肪族ポリエステル構造単位を形成し、これがEVOH樹脂とグラフト反応して変性EVOH樹脂が得られる。このようなラクトン類としては、ラクトン環を構成する炭素原子の数が3~10であるラクトン類であれば特に制限されない。
【0025】
前記ラクトン類は、置換基を有さない場合には下記一般式(1)で表される。
【0026】
【0027】
前記一般式(1)において、nは2~9の整数であり、好ましくは4~5である。また、前記一般式中のアルキレン鎖(-(CH2)n-)に含まれるいずれかの炭素原子は、炭素数1~8程度の低級アルキル基、炭素数1~8程度の低級アルコキシ基、シクロアルキル基、フェニル基、アラルキル基等の置換基を有するものであってもよい。さらに前記置換基は、1個であっても複数個であってもよい。
【0028】
具体的な前記ラクトン類としては、例えばβ-プロピオラクトン類、γ―ブチロラクトン類、ε-カプロラクトン類、δ-バレロラクトン類等があげられる。
前記β-プロピオラクトン類としては、例えばβ-プロピオラクトン、ジメチルプロピオンラクトン等が挙げられる。
前記γ-ブチロラクトン類としては、例えばγ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-カプリロラクトン、γ-ラウロラクトン、γ-パルミトラクトン、γ-ステアロラクトン、クロトノラクトン、α-アンゲリカラクトン、β-アンゲリカラクトン等があげられる。
前記ε-カプロラクトン類としては、例えばε-カプロラクトン、モノメチル-ε-カプロラクトン、モノエチル-ε-カプロラクトン、モノデシル-ε-カプロラクトン、モノプロピル-ε-カプロラクトン等のモノアルキル-ε-カプロラクトン;2個のアルキル基がε位置以外の炭素原子にそれぞれ置換しているジアルキル-ε-カプロラクトン;3個のアルキル基がε位置以外の炭素原子にそれぞれ置換しているトリアルキル-ε-カプロラクトン;エトキシ-ε-カプロラクトン等のアルコキシ-ε-カプロラクトン;シクロヘキシル-ε-カプロラクトン等のシクロアルキルラクトン;ベンジル-ε-カプロラクトン等のアラルキル-ε-カプロラクトン;フェニル-ε-カプロラクトン等のアリール-ε-カプロラクトン等があげられる。
前記δ-バレロラクトン類としては、例えば5-バレロラクトン、3-メチル-5-バレロラクトン、3,3-ジメチル-5-バレロラクトン、2-メチル-5-バレロラクトン、3-エチル-5-バレロラクトン等があげられる。
これらのラクトン類は、単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、反応性の点から、ε-カプロラクトン類又はδ-バレロラクトン類が好ましく、さらに安価かつ容易に入手できる点から、ε-カプロラクトン類がより好ましく、ε-カプロラクトンが特に好ましい。
【0029】
[変性EVOH樹脂の製造方法]
前記変性EVOH樹脂は、前記EVOH樹脂の存在下、ラクトン類を開環重合反応させ、開環重合により得られる脂肪族ポリエステル構造単位が、EVOH樹脂の水酸基を開始末端としてグラフト反応することにより得られる。
【0030】
前記ラクトン類の開環重合反応及びグラフト反応は、通常、EVOH樹脂の溶融状態で行われ、例えば撹拌翼を有する撹拌槽型製造装置や押出機等の中で、EVOH樹脂、ラクトン類、触媒等の材料を加熱、撹拌しながら行う方法等があげられる。なかでも、押出機を用いる方法が好ましい。
【0031】
前記押出機としては、例えば一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダー等の押出機(例えば、日本製鋼社製のTEXシリーズ、神戸製鋼社製のHYPERKTXシリーズ、芝浦機械社製のTEMシリーズ、栗本鐵工所社製のKRCニーダシリーズ等)があげられ、、EVOH樹脂のグラフト反応を溶融混錬により連続的に行える(連続式と称する)ものを用いることができる。
【0032】
前記連続式とは、各種原料を押出機に逐次投入し、所定温度で攪拌を実施しながら反応させて樹脂組成物を連続的に合成する手法であり、原料の投入と樹脂組成物の排出は同時に実施される。
【0033】
前記EVOH樹脂に対するラクトン類の使用量は、脂肪族ポリエステル単位がEVOH樹脂に所望の含有量含まれるように適宜選択すればよいが、EVOH樹脂100質量部に対して、通常1~200質量部、好ましくは10~150質量部、特に好ましくは20~100質量部である。ラクトン類の使用量が少なすぎると、柔軟性が低下する傾向があり、一方で、使用量が多すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0034】
前記触媒としては、ラクトン類の開環重合触媒として従来公知のものを用いることができ、例えばチタン系化合物、錫系化合物等があげられる。
前記チタン系化合物としては、例えばテトラ-n-ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン等のチタニウムアルコキシド等があげられる。 前記錫系化合物としては、例えばジブチルジブトキシスズ等の錫アルコキシド、2-エチルヘキサン酸錫、ジブチルスズジアセテート等の錫エステル化合物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、錫系化合物が好ましく、錫エステル化合物がより好ましく、2-エチルヘキサン酸錫が特に好ましい。
【0035】
前記触媒の使用量は、ラクトン類100質量部に対して、通常0.01~10質量部、好ましくは0.05~8質量部、特に好ましくは0.1~5質量部である。触媒の使用量が少なすぎても多すぎても、変性率が低下する傾向がある。
【0036】
開環重合反応及びグラフト反応における反応温度としては、通常50~250℃であり、好ましくは100~240℃であり、さらに好ましくは溶融状態となる150~230℃である。反応温度が高すぎると、変性EVOH樹脂が熱劣化する傾向がある。一方で、反応温度が低すぎると、グラフト反応が進行しない傾向がある。
【0037】
開環重合反応及びグラフト反応における反応時間としては、通常1秒~1.5時間であり、好ましくは3秒~1.25時間、さらに好ましくは5秒~1時間、特に好ましくは7秒~45分である。反応時間が長すぎると、変性EVOH樹脂が熱劣化することにより、変性EVOH系樹脂の極端な粘度増加と変性EVOH樹脂中に熱劣化物が生じる事で、フィルム等の製膜時にゲルが生じる傾向がある。一方で、反応時間が短すぎると、EVOH樹脂のグラフト反応が進行せず、未変性のEVOH樹脂が多くなる傾向がなる。
なお、開環重合反応及びグラフト反応は、EVOH樹脂の劣化防止の為に、窒素気流下で行うことが好ましい。
【0038】
また、反応後、臭気防止の為に、未反応モノマーを除去することも好ましい。未反応モノマーを除去する方法としては、例えば未反応モノマーが溶解する溶液に浸す方法、減圧除去する方法等があげられるが、生産効率の観点から、減圧除去する方法が好ましい。 前記減圧除去する場合の条件としては、反応温度と同じ設定温度で、100~101200Paの圧力下で、1秒~10時間行えばよい。
【0039】
かくして変性EVOH樹脂が得られるが、得られた変性EVOH樹脂における幹を形成するEVOH樹脂構造単位の含有量は、通常40~99質量%であり、好ましくは45~95質量%であり、特に好ましくは50~90質量%である。変性EVOH樹脂におけるEVOH樹脂構造単位の含有量が高すぎると、柔軟性が低下する傾向があり、一方で、EVOH樹脂構造単位の含有量が低すぎるとガスバリア性が低下する傾向がある。
【0040】
また、EVOH樹脂にグラフトした脂肪族ポリエステル構造単位の含有量は、通常1~60質量%であり、好ましくは5~55質量%であり、特に好ましくは10~50質量%である。
【0041】
前記変性EVOH樹脂における脂肪族ポリエステル構造単位の変性率としては、0.1~30モル%であることが好ましく、より好ましくは1~20モル%、特に好ましくは5~15モル%である。かかる変性率は、EVOH樹脂構造単位が、脂肪族ポリエステルにグラフトされた割合を意味する。変性EVOH樹脂の変性率が低すぎると、柔軟性が低下する傾向があり、一方で、変性EVOH樹脂の変性率が高すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0042】
EVOH樹脂にグラフトした脂肪族ポリエステル構造単位の平均鎖長としては、1.5~3.0個であることが好ましく、より好ましくは1.6~2.8個であり、特に好ましくは1.7~2.5個である。脂肪族ポリエステル単位の平均鎖長が長すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。なお、前記脂肪族ポリエステル構造単位の平均鎖長とは、ラクトン類が開環重合した際の重合度を表すものである。
【0043】
前記変性EVOH樹脂におけるEVOH樹脂構造単位の含有量、グラフトした脂肪族ポリエステル単位の含有量、変性EVOH樹脂の変性率、及び脂肪族ポリエステル単位の平均鎖長は、1H-NMR測定結果から算出することができる。
【0044】
前記変性EVOH樹脂の数平均分子量としては、通常10000~300000であり、好ましくは12500~200000であり、特に好ましくは15000~100000である。変性EVOH樹脂の数平均分子量が高すぎると、ガスバリア性が低下する傾向があり、一方で、変性EVOH樹脂の数平均分子量が低すぎると柔軟性が低下する傾向がある。
なお、前記数平均分子量は、標準ポリスチレンを用いゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した値である。
【0045】
前記変性EVOH樹脂の融点は、通常40~200℃であり、好ましくは60~180℃であり、より好ましくは80~160℃、特に好ましくは100~140℃である。変性EVOH樹脂の融点が高すぎると、柔軟性が低下する傾向があり、一方で、変性EVOH樹脂の融点が低すぎるとガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、前記変性EVOH樹脂の融点は、示差走査熱量計を用いて測定することができる。
一般に、脂肪族ポリエステル構造単位がグラフトされることにより、幹部分のEVOH樹脂における水酸基同士の水素結合等の分子間力が弱くなる。そのため、変性EVOH樹脂の変性率が高くなると、変性EVOH樹脂の融点が低くなる傾向がある。
【0046】
〔チタン化合物〕
前記チタン化合物としては、例えば無機チタン化合物、有機チタン化合物があげられる。なお、チタン化合物は単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも無機チタン化合物が好ましい。
【0047】
前記無機チタン化合物としては、例えばチタン酸化物、チタン水酸化物、チタン塩化物、チタンの無機塩等があげられる。
前記チタン酸化物としては、例えば酸化チタン(II)、酸化チタン(III)、酸化チタン(IV)、亜酸化チタン等があげられる。
前記チタン水酸化物としては、例えば水酸化第一チタン、水酸化第二チタン等があげられる。
前記チタン塩化物としては、例えば塩化第一チタン、塩化第二チタン等があげられる。 前記チタンの無機塩としては、例えばリン酸チタン、硫酸チタン等があげられる。
なかでも、チタン酸化物が好ましく、酸化チタン(IV)がより好ましく、ルチル型の酸化チタン(IV)が特に好ましい。
【0048】
前記有機チタン化合物としては、例えば酢酸チタン、酪酸チタン、ステアリン酸チタン等のカルボン酸チタン等があげられる。
【0049】
なお、前記チタン化合物は、変性EVOH樹脂組成物中でチタン化合物として、存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは変性EVOH樹脂や他の配位子と相互作用した錯体の状態で存在していてもよい。
【0050】
前記チタン化合物の平均粒径は、通常0.001~100μmであり、好ましくは0.01~50μmであり、より好ましくは0.015~20μmである。チタン化合物の平均粒径が前記範囲内であると、熱による劣化を抑制できる傾向がある。
【0051】
前記チタン化合物の金属換算含有量は、変性EVOH樹脂組成物の質量あたり0.001ppm以上5ppm未満である。好ましくは0.01~3ppmであり、より好ましくは0.03~1ppmであり、特に好ましくは0.05~0.5ppmである。チタン化合物の含有量を前記範囲とすることで、溶融成形時の熱による劣化を抑制することができる。また、チタン化合物の含有量が少なすぎると、熱による劣化を抑制する効果が低下し、含有量が多すぎると変性EVOH樹脂の熱分解が起こりやすくなり着色しやすくなる。
【0052】
一般的に変性EVOH樹脂は、熱により劣化する。これは、熱により変性EVOH樹脂が劣化してラジカルが発生し、このラジカルにより変性EVOH樹脂の水酸基が脱水され、変性EVOH樹脂の主鎖に二重結合が生成し、かかる部位が反応起点となり、さらに脱水が促進され、変性EVOH樹脂の主鎖に共役ポリエン構造が形成されるためと考えられる。
これに対し、本変性EVOH樹脂組成物は、特定微量のチタン化合物を含有することにより、変性EVOH樹脂の熱劣化が抑制される。
通常、EVOH樹脂組成物にチタン化合物を含有させた場合、チタンイオンにより、EVOH樹脂組成物が熱分解すると考えられるため、当業者であればチタン化合物の使用を避けることが技術常識である。しかしながら、本発明では、このような技術常識に反して、特定微量のチタン化合物を用いる場合に、熱劣化が抑制された変性EVOH樹脂組成物が得られることを見出したのである。
すなわち、チタンは、4価のイオンとして安定であり、微量であっても前記のような変性EVOH樹脂の主鎖の二重結合に配位し、キレートを形成する等によって安定化し、ポリエン構造の形成を抑制しているものと推測される。
一方で、チタン化合物の含有量が多すぎると、チタン化合物により変性EVOH樹脂の熱分解が起こると考えられる。
【0053】
[その他の熱可塑性樹脂]
本変性EVOH樹脂組成物には、変性EVOH樹脂以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば本変性EVOH樹脂組成物の通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下)にて含有することができる。
他の熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができ、例えばEVOH樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0054】
[その他の配合剤]
また、本変性EVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤が含有されていてもよい。上記配合剤としては、例えば、無機複塩(例えばハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えばエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、酸素吸収剤[例えばアルミニウム粉、亜硫酸カリウム等の無機系酸素吸収剤;アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、テルペン化合物、三級水素含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリプロピレンとコバルトの組合せ)、炭素-炭素不飽和結合含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えばポリブタジエンとコバルトの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例えばポリケトン)、アントラキノン重合体(例えばポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や、上記以外の酸化防止剤や消臭剤(活性炭等)を添加したもの等の高分子系酸素吸収剤]、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤(ただし、滑剤として用いるものを除く)、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば無機フィラー等)等を配合してもよい。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0055】
[EVOH樹脂組成物の製造方法]
本変性EVOH樹脂組成物は、例えば、前記変性EVOH樹脂、チタン化合物を、公知の方法、例えばドライブレンド法、溶融混合法、溶液混合法、含浸法等によって混合することにより製造でき、これらのなかでも、前記変性EVOH樹脂とチタン化合物とを含有する組成物原料を溶融混合する工程を備えることにより製造することが好ましい。また、これらの製造方法は、任意に組み合わせることも可能である。
【0056】
前記ドライブレンド法としては、例えば(i)ペレット状の変性EVOH樹脂と、チタン化合物を、タンブラー等を用いてドライブレンドする方法等があげられる。
【0057】
前記溶融混合法としては、例えば(ii)ペレット状の変性EVOH樹脂と、チタン化合物とをドライブレンドしたドライブレンド物を溶融混練する方法や、(iii)溶融状態の変性EVOH樹脂にチタン化合物を添加して溶融混練する方法等があげられる。
【0058】
前記溶液混合法としては、例えば(iv)市販の変性EVOH樹脂を用いて溶液を調製し、ここにチタン化合物を配合し、凝固成形し、その後、公知の手段により固液分離して乾燥する方法や、(v)変性EVOH樹脂の製造過程で、ケン化前のエチレン-ビニルエステル系共重合体溶液やEVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)にチタン化合物を含有させた後、凝固成形し、その後、公知の手段により固液分離して乾燥する方法等があげられる。
【0059】
前記含浸法としては、例えば(vi)ペレット状の変性EVOH樹脂を、チタン化合物を含有する水溶液と接触させ、変性EVOH樹脂中にチタン化合物を含有させた後、乾燥する方法等があげられる。
前記チタン化合物を含有する水溶液としては、チタン化合物の水溶液や、チタン化合物を、各種薬剤を含む水に浸漬することでチタンイオンを溶出させたものを用いることができる。
なお、前記含浸法において、チタン化合物の含有量(金属換算)は、変性EVOH樹脂を浸漬する水溶液中のチタン化合物の濃度や浸漬温度、浸漬時間等によって制御することが可能である。
前記浸漬温度、浸漬時間としては、通常、0.5~48時間、好ましくは1~36時間であり、浸漬温度は通常10~40℃、好ましくは20~35℃である。
【0060】
前記各製造方法における乾燥方法としては、種々の乾燥方法を採用することが可能であり、静置乾燥、流動乾燥のいずれでもよい。また、これらを組み合わせて行うこともできる。
【0061】
前述のとおり、本発明においては、上記の異なる方法を組み合わせることが可能である。なかでも、生産性や本発明の効果がより顕著な樹脂組成物が得られる点で、溶融混合法が好ましく、特には(ii)の方法が好ましい。また、前記その他の熱可塑性樹脂、その他の配合剤を用いる場合も、前記の製造方法に従い、常法により配合すればよい。
【0062】
このような前記各製造方法によって得られる本変性EVOH樹脂組成物の形状は任意であるが、ペレットであることが好ましい。
前記ペレットとしては、例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、オーバル形、又は円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、オーバル形の場合は短径が通常1~10mm、好ましくは2~6mmであり、更に好ましくは2.5~5.5mmであり、長径は通常1.5~30mm、好ましくは3~20mm、更に好ましくは3.5~10mmである。また、円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
また、前記各製造方法で用いるペレット状の変性EVOH樹脂の形状、大きさも同様であることが好ましい。
【0063】
本変性EVOH樹脂組成物は、溶融成形時における熱劣化が抑制されるものであり、本変性EVOH樹脂組成物の重量減少率は、通常9.3%以下であり、好ましくは9.1%以下であり、特に好ましくは8.9%以下である。前記重量減少率の下限は、低ければ低い程よいが、通常1%である。
なお、前記重量減少率の0.1%の違いは、実際の製造において、大きな収率の差として現れることから、その差は非常に大きいものである。
【0064】
前記重量減少率は、本変性EVOH樹脂組成物のペレット5mgを、熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、Pyris 1 TGA)を用いて、窒素雰囲気下、気流速度:20mL/分、温度:230℃、時間:1時間の条件下で質量を測定し、下記式により、求められるものである。
重量減少率(%)=[(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量]×100
【0065】
本変性EVOH樹脂組成物の含水率は、通常、0.01~0.5質量%であり、好ましくは0.05~0.35質量%、特に好ましくは0.1~0.3質量%である。
【0066】
なお、本変性EVOH樹脂組成物の含水率は以下の方法により測定・算出されるものである。
本変性EVOH樹脂組成物の乾燥前質量(W1)を電子天秤にて秤量し、150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させ、デシケーター中で30分間放冷後の質量(W2)を秤量し、下記式より算出する。
含水率(質量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0067】
また、本変性EVOH樹脂組成物の形状がペレットである場合、溶融成形時のフィード性を安定させる点で、ペレットの表面に公知の滑剤を付着させることも好ましい。滑剤の種類としては、例えば、炭素数12以上の高級脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和高級脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス高級脂肪酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等、又はその酸変性品)、炭素数6以上の高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等があげられる。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、かかる滑剤の含有量は、本変性EVOH樹脂組成物の通常5質量%以下、好ましくは1質量%以下である。なお、下限は通常0質量%である。
【0068】
このようにして得られた本変性EVOH樹脂組成物は、ペレット、あるいは粉末状や液体状といった、さまざまな形態に調製され、各種の成形物の成形材料として提供される。特に本発明においては、溶融成形用の材料として提供される場合、本発明の効果がより効率的に得られる傾向があり好ましい。
なお、本変性EVOH樹脂組成物には、本変性EVOH樹脂組成物に用いられる変性EVOH樹脂以外の樹脂を混合して得られる樹脂組成物も含まれる。
【0069】
前記成形物としては、例えば本変性EVOH樹脂組成物から成形された単層フィルムをはじめとして、本変性EVOH樹脂組成物からなる層を有する多層構造体等があげられる。
【0070】
[多層構造体]
本発明の一実施形態に係る多層構造体(以下、「本多層構造体」と称する)は、本変性EVOH樹脂組成物からなる層を備えるものである。本変性EVOH樹脂組成物からなる層(以下、単に「本変性EVOH樹脂組成物層」という)は、本変性EVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、基材に用いられる樹脂を「基材樹脂」と略記することがある)と積層することで、さらに強度を付与したり、本変性EVOH樹脂組成物層を水分等の影響から保護したり、他の機能を付与することができる。
【0071】
前記基材樹脂としては、例えば直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖及び側鎖の少なくとも一方を有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族又は脂肪族ポリケトン類等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0072】
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂及びこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂である。
【0073】
本多層構造体の層構成は、本変性EVOH樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、本多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本変性EVOH樹脂組成物と本変性EVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。本多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介在させてもよい。
【0074】
前記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸又はその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。上記カルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0075】
本多層構造体において、本変性EVOH樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層が本変性EVOH樹脂組成物層の両側に位置することから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0076】
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば樹脂全体に対して、30質量%以下、好ましくは10質量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0077】
前記本変性EVOH樹脂組成物層と上記基材樹脂層との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本変性EVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本変性EVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、本変性EVOH樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、本変性EVOH樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上に本変性EVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して、本変性EVOH樹脂組成物層を溶融成形する工程を備えることにより製造することが好ましく、具体的には共押出する方法が好ましい。
【0078】
本多層構造体は、必要に応じて(加熱)延伸処理を施してもよい。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0079】
また、延伸処理後の本多層構造体は、寸法安定性を付与することを目的として、熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば前記延伸処理された本多層構造体を、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。
【0080】
前記延伸処理された本多層構造体をシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸処理後の本多層構造体に冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0081】
本多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、更には多層構造体を構成する本変性EVOH樹脂組成物層、基材樹脂層及び接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、本多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。本変性EVOH樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0082】
さらに、本多層構造体における本変性EVOH樹脂組成物層の基材樹脂層に対する厚みの比(本変性EVOH樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、本多層構造体における本変性EVOH樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(本変性EVOH樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0083】
また、本多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。更に多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0084】
本変性EVOH樹脂組成物から成形された単層フィルムや、本多層構造体からなる袋及びカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
【実施例0085】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
なお、例中「部」とあるのは、断りのない限り質量基準を意味する。
【0086】
<実施例1>
〔変性EVOH樹脂の製造〕
EVOH樹脂(エチレン構造単位の含有量32モル%、ケン化度99.8モル%、MFR3g/10分(210℃、2160g))100部、ε-カプロラクトン(ダイセル社製、プラクセルM)47部、2-エチルヘキサン酸錫(日東化成社製、ネオスタンU-28)1.4部(ε-カプロラクトン100部に対して3部)、を二軸混練押出機(日本製鋼社製、TEX30α)に投入し、滞留時間が2~3分間に設定された溶融部に搬送してから下記の押出条件で溶融混練しながら反応させることにより、変性EVOH系樹脂(変性率6.9モル%、脂肪族ポリエステル単位の平均鎖長2.3個、融点121℃)のペレットを得た。
[押出条件]
押出機設定温度(℃):C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/C9/C10/C11/C12/C13/C14/C15/C16/D
=80/80/150/150/230/230/230/230/230/230/230/230/230/230/230/230
【0087】
なお、変性EVOH樹脂中の変性率および脂肪族ポリエステル単位の平均鎖長は、下記条件で1H-NMR測定することによって算出した。
[変性率および脂肪族ポリエステル単位の平均鎖長の測定]
(a)1H-NMR測定条件
装置:Ascend 400(400MHzNMR)(Bruker社製)
内部標準物質:テトラメチルシラン
溶媒:d6-DMSO
測定ポリマー濃度:5重量%(試料0.05g、溶媒1mL)
測定温度:50℃(323K)
照射パルス:45°パルス
パルス間隔:10sec
積算回数:16回
(b)共鳴吸収ピークの帰属
(I)0.8~0.9ppm:変性EVOH樹脂末端の-CH3
(II)1.0~1.9ppm:変性EVOH樹脂主鎖の-CH2-、及び脂肪族ポリエステルの互いに隣接し合う-CH2-
(III)2.0ppm:変性EVOH樹脂の残アセチル基の-CH3
(IV)2.1~2.3ppm:脂肪族ポリエステルのカルボキシル基に隣接する-CH2-
(V)3.3~4.0ppm:変性EVOH樹脂の-OHに隣接する-CH-、及び脂肪族ポリエステルの-OHに隣接する-CH2-
(VI)4.0~4.7ppm:変性EVOH樹脂と脂肪族ポリエステルの-OH、及び脂肪族ポリエステルのエステル結合に隣接する-CH2-
(c)変性率および脂肪族ポリエステル単位の平均鎖長の算出
(I)~(VI)の各共鳴吸収ピークの積分値を用いて、式(i)~(vi)の連立方程式を立てて、連立方程式の解から脂肪族ポリエステルのグラフト変性基量C(モル)と平均鎖長n(個)を算出した。さらに、式(vii)より、脂肪族ポリエステルのグラフト変性率X(モル%)の算出した。
式(i) 3×M=[ピーク(I)の積分値]
式(ii) (2×M)+(2×A)+(4×E)+(2×O)+(6×n+2)×C=[ピーク(II)の積分値]
式(iii) 3×A=[ピーク(III)の積分値]
式(vi) 2×n×C=[ピーク(IV)の積分値]
式(v) O+(2×C)=[ピーク(V)の積分値]
式(vi) O+(2×n-1)×C=[ピーク(VI)の積分値]
式(vii) X=C/(M+A+O+C+E)×100
ここで、M、A、O、C、n、E、Xは、
M:変性EVOH樹脂の末端メチル基量(モル)
A:変性EVOH樹脂のアセチル基量(モル)
O:変性EVOH樹脂の水酸基量(モル)
C:変性EVOH樹脂の脂肪族ポリエステルグラフト変性基量(モル)
n:脂肪族ポリエステル単位の平均鎖長(個)
E:変性EVOH樹脂のエチレン基量(モル)
X:変性EVOH樹脂の脂肪族ポリエステルグラフト変性率(モル%)
で表される。
【0088】
〔変性EVOH樹脂組成物の製造〕
チタン化合物として、酸化チタン(富士フイルム和光純薬社製)を用いた。
得られた前記変性EVOH樹脂のペレットに対し、前記酸化チタンを金属換算含有量としてEVOH樹脂組成物の質量あたり0.1ppmとなるようにドライブレンドし、混合物を得た。
前記混合物を、二穴ダイを備えた二軸押出機(20mmφ)に供給し、下記の押出条件で押出、吐出されるストランドを水槽にて冷却、固化させた。次に固化させたストランドに空気を吹き付けることでストランド表面の水滴を除去した後、切断することで変性EVOH樹脂組成物のペレットを得た。
[押出条件]
押出機設定温度(℃):C1/C2/C3/C4/C5/C6
=150/200/210/210/210/210
【0089】
<実施例2>
実施例1において、酸化チタンの配合量を金属換算量としてEVOH樹脂組成物の質量あたり1ppmに変更した以外は、実施例1と同様にして変性EVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0090】
<比較例1>
実施例1において、酸化チタンを用いなかった以外は、実施例1と同様にして変性EVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0091】
<比較例2>
実施例1において、酸化チタンの配合量を金属換算量としてEVOH樹脂組成物の質量あたり10ppmに変更した以外は、実施例1と同様にして変性EVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0092】
得られた実施例1、2、及び比較例1、2の変性EVOH樹脂組成物のペレットを用いて、下記の熱安定性評価を行った。結果を後記の表1に示す。
【0093】
〔熱安定性評価〕
得られたEVOH樹脂組成物のペレットを5mg用い、熱重量測定装置(PerkinElmer社製、Pyris 1 TGA)により、窒素雰囲気下、気流速度:20mL/分、温度:230℃、時間:1時間の条件下での重量を測定し、下記の式により重量減少率を求めた。かかる値が低い場合、樹脂組成物が分解していないことを意味しており、樹脂組成物の熱安定性に優れることを意味する。
重量減少率(%)=[(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量]×100
【0094】
【0095】
上記表1から、特定微量のチタン化合物を含有する実施例1、2のEVOH樹脂組成物は、チタン化合物を含有しない比較例1のEVOH樹脂組成物、チタン化合物を特定の範囲を超えて含有する比較例2のEVOH樹脂組成物に比べて重量減少率が小さく、熱安定性に優れるものであった。また、実施例1、2のEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体も、熱劣化が抑制され熱安定性に優れるという効果が得られる。
本変性EVOH樹脂組成物は、溶融成形時の熱劣化が抑制されることから、各種食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種包装材料として有用である。