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特開2023-152995エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ぺレット、及び多層構造体、エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法及び、多層構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152995
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物、ぺレット、及び多層構造体、エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法及び、多層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20231005BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20231005BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20231005BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20231005BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08K3/00
C08K5/00
C08K5/098
C08J3/20 Z CEX
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054963
(22)【出願日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2022057033
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】井久保 恵理
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA26
4F070AC15
4F070AC32
4F070AC40
4F070AE03
4F070FC06
4J002BE031
4J002DD046
4J002DE136
4J002DG046
4J002DH046
4J002EA047
4J002EC037
4J002EF097
4J002EG046
4J002EG077
4J002EH127
4J002FD066
4J002GG01
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】溶融成形時の熱劣化による着色変化が抑制されたエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の提供を目的とする。
【解決手段】エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、スチレン誘導体(B)、及びチタン化合物(C)を含有するエチレン-ビニルアルコール系共重合体であって、前記チタン化合物(C)の金属換算含有量が、エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の質量あたり0.001ppm以上5ppm未満であるエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、スチレン誘導体(B)、及びチタン化合物(C)を含有するエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物であって、
前記チタン化合物(C)の金属換算含有量がエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の質量あたり0.001ppm以上5ppm未満であるエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項2】
前記スチレン誘導体(B)の含有量が、エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の質量あたり1~1000ppmである請求項1記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項3】
前記チタン化合物(C)の金属換算含有量に対する、前記スチレン誘導体(B)の含有量の質量比が0.3~100000である請求項1又は2記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項4】
前記スチレン誘導体(B)が桂皮酸誘導体である請求項1又は2記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項5】
請求項1又は2記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなるペレット。
【請求項6】
請求項1又は2記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなる層を少なくとも1層備える多層構造体。
【請求項7】
請求項1又は2記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物を製造する方法であって、
前記エチレン-ビニルアルコール系共重合体とチタン化合物とを含有する組成物原料を溶融混合する工程を備える、エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項6記載の多層構造体を製造する方法であって、
前記エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物からなる層を溶融成形する工程を備える、多層構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と称することがある)組成物、ペレット、多層構造体、エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法及び、多層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EVOH樹脂は、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度等に優れており、フィルム、シート、ボトル等に成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
【0003】
しかし、EVOH樹脂は、分子内に比較的活性な水酸基を有するため、熱により劣化しやすい傾向があり、溶融成形時に着色の問題が起こりやすい。
【0004】
前記の課題に対し、例えば特許文献1には、EVOH樹脂に不飽和アルデヒドを含有させることにより、EVOH樹脂の溶融成形時における酸化劣化を抑制し、着色を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/146961号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記不飽和アルデヒドのようなアルデヒド化合物は、微量であっても悪臭の原因となることがあり、特に高温に晒される成形工程において揮発して作業環境を悪化させることが懸念される。また、溶融混練や溶融成形等の加熱時における着色抑制等、ロングラン成形性に関する改善効果がまだ十分とはいえない。そのため、作業環境を悪化させることなく加熱時の着色変化が抑制され、高品質な成形物が得られるEVOH樹脂組成物が、強く求められている。
【0007】
本発明は、溶融成形等の加熱時のEVOH樹脂の着色変化が抑制されたEVOH樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み、EVOH樹脂に、スチレン誘導体と特定微量のチタン化合物を加えることにより、溶融成形等の加熱時のEVOH樹脂の着色変化が抑制されたEVOH樹脂組成物が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1] EVOH樹脂(A)、スチレン誘導体(B)、及びチタン化合物(C)を含有するEVOH樹脂組成物であって、
前記チタン化合物(C)の金属換算含有量がEVOH樹脂組成物の質量あたり0.001ppm以上5ppm未満であるEVOH樹脂組成物。[2] 前記スチレン誘導体(B)の含有量が、EVOH樹脂組成物の質量あたり1~1000ppmである[1]記載のEVOH樹脂組成物。
[3] 前記チタン化合物(C)の金属換算含有量に対する、前記スチレン誘導体(B)の含有量の質量比が0.3~100000である[1]又は[2]記載のEVOH樹脂組成物。
[4] 前記スチレン誘導体(B)が桂皮酸誘導体である[1]~[3]のいずれかに記載のEVOH樹脂組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のEVOH樹脂組成物からなるペレット。
[6] [1]~[4]のいずれかに記載のEVOH樹脂組成物からなる層を少なくとも1層備える多層構造体。
[7] [1]~[4]のいずれかに記載のEVOH樹脂組成物を製造する方法であって、
前記EVOH樹脂とチタン化合物とを含有する組成物原料を溶融混合する工程を備える、EVOH樹脂組成物の製造方法。
[8] [6]記載の多層構造体を製造する方法であって、
前記EVOH樹脂組成物からなる層を溶融成形する工程を備える、多層構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のEVOH樹脂組成物は、熱安定性に優れるため、溶融成形等の加熱時におけるEVOH樹脂の着色変化を抑制することができ、ロングラン性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
なお、本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」又は「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)又は「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」又は「Y未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
なお、本発明において、「x及び/又はy(x,yは任意の構成又は成分)」とは、xのみ、yのみ、x及びy、という3通りの組合せを意味するものである。
【0012】
<EVOH樹脂組成物>
本発明の一実施態様に係るEVOH樹脂組成物(以下、「本EVOH樹脂組成物」と称する)は、EVOH樹脂(A)を主成分とし、スチレン誘導体(B)と特定微量のチタン化合物(C)を含有するものである。
すなわち、本EVOH樹脂組成物は、ベース樹脂がEVOH樹脂(A)であり、本EVOH樹脂組成物におけるEVOH樹脂(A)の含有量は、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
以下、各成分について説明する。
【0013】
[EVOH樹脂(A)]
本発明で用いるEVOH樹脂(A)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。
【0014】
前記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。酢酸ビニル以外の他のビニルエステル系モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられるが、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルが用いられる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0015】
前記エチレンとビニルエステル系モノマーとを共重合させる重合法としては、公知の任意の重合法、例えば溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いて行うことができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。また、得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
このようにして製造されるEVOH樹脂(A)は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0016】
前記EVOH樹脂(A)におけるエチレン構造単位の含有量は、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。前記エチレン構造単位の含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、かかるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0017】
前記EVOH樹脂(A)におけるケン化度は、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。前記ケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間等によって制御でき、かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
かかるEVOH樹脂(A)のケン化度は、JIS K6726(但し、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる)に基づいて測定することができる。
【0018】
前記EVOH樹脂(A)におけるメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜時の安定性が損なわれる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
前記MFRは、EVOH樹脂(A)の重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0019】
また、前記EVOH樹脂(A)には、本発明の効果を阻害しない範囲で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい(例えばEVOH樹脂(A)の10モル%以下)。
前記コモノマーとしては、例えばプロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはアルキル基の炭素数が1~18のモノ又はジアルキルエステル類;アクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;アルキル基の炭素数が1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0020】
なかでも、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類が好ましく、特には3-ブテン-1,2-ジオール、5-ヘキセン-1,2-ジオールが好ましい。前記ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合した場合、得られるEVOH樹脂は、側鎖に1級水酸基を有することとなる。このような側鎖に1級水酸基を有するEVOH樹脂、特には側鎖に1,2-ジオール構造を有するEVOH樹脂は、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好ましい。
【0021】
本発明で用いるEVOH樹脂(A)が、側鎖に1級水酸基を有する場合、当該1級水酸基を有するモノマー由来の構造単位の含有量は、EVOH樹脂(A)の通常0.1~20モル%、好ましくは0.5~15モル%、特に好ましくは1~10モル%である。
【0022】
また、前記EVOH樹脂(A)としては、エステル化、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH樹脂を用いることもできる。
【0023】
前記後変性されたEVOH樹脂を用いる場合、その変性率は、通常10モル%以下であり、好ましくは4モル%以下である。用いるEVOH樹脂の変性率が高すぎる場合、熱劣化しやすくなり、ロングラン性が低下する傾向がある。
【0024】
さらに、前記EVOH樹脂(A)は、エチレン構造単位の含有量、ケン化度、重合度、共重合成分等が異なるEVOH樹脂の混合物であってもよい。
【0025】
[スチレン誘導体(B)]
本発明に用いられる、前記スチレン誘導体(B)は、ラジカルを共鳴安定化し捕捉する能力を有する芳香族化合物のうち、分子骨格としてスチレン分子構造を有し、α位に置換基を有するスチレン誘導体、β位に置換基を有するスチレン誘導体等、各種のスチレン誘導体があげられる。
【0026】
前記スチレン誘導体(B)のうち、α位に置換基を有するスチレン誘導体としては、ベンジル位にてラジカルを共鳴安定化する点で、α位に置換基を有するスチレン化合物が好ましく、例えば、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン等があげられる。
【0027】
また、β位に置換基を有するスチレン誘導体としては、エノン構造を有しラジカルを共鳴安定化する点で、β位にカルボニル基を有するスチレン化合物が好ましく、例えば桂皮酸、桂皮酸アルコール、桂皮酸エステル、桂皮酸塩等の、桂皮酸誘導体があげられる。
【0028】
なお、本EVOH樹脂組成物にあっては、前記スチレン誘導体(B)として、α位に置換基を有するスチレン誘導体よりも、α位に置換基を有しないスチレン誘導体を用いることが、着色抑制効果に優れ、好適である。とりわけ、前記β位に置換基を有するスチレン誘導体が好ましく、なかでも桂皮酸誘導体が好ましい。そして、桂皮酸誘導体のなかでも、特に、桂皮酸を用いることが、効果の点で好適である。
【0029】
前記スチレン誘導体(B)の分子量は、通常100~100000、好ましくは100~10000、特に好ましくは100~1000であり、殊に好ましくは130~300である。分子量が上記範囲である場合、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。
【0030】
前記スチレン誘導体(B)の含有量は、本EVOH樹脂組成物の質量あたり、好ましくは1~1000ppm、より好ましくは10~800ppm、特に好ましくは50~700ppm、殊に好ましくは200~650ppmである。多すぎる場合は生産性が低下する傾向があり、少なすぎる場合は熱安定性が低下し着色抑制効果が低下する傾向がある。
【0031】
なお、前記スチレン誘導体(B)の含有割合の基準となるEVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂(A)、スチレン誘導体(B)、チタン化合物(C)、必要に応じて配合される各種の添加剤等を含有する、最終製品としてのEVOH樹脂組成物である。
【0032】
本発明のEVOH樹脂組成物におけるスチレン誘導体(B)の含有量は、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS/MS)を用い、下記の手順に基づいて測定することができる。なお、下記の手順は、桂皮酸を用いた場合を例にして記載するが、他のスチレン誘導体(B)についても、同様の手順にて測定することができる。
【0033】
<スチレン誘導体(B)の含有量の測定方法>
[標準溶液の調整]
桂皮酸(10.89mg)を10mLメスフラスコに秤量し、メタノールに溶解して10mL溶液とする(標準原液;1089μg/mL)。ついで、調製した標準原液をメタノールで希釈して、複数濃度(0.109μg/mL、0.218μg/mL、0.545μg/mL、1.09μg/mL、2.18μg/mL)の各混合標準溶液を調製する。これら混合標準溶液を用いてLC/MS/MS分析を実施し、検量線を作成する。
【0034】
[試料溶液の調整]
(1)粉砕した本発明のEVOH樹脂組成物のペレット(1g)を10mLメスフラスコに秤量後、メタノール9mLを加える。
(2)超音波処理を120分間実施後、室温(25℃)で放冷する。
(3)メタノールを加えて10mLに定容する(試料溶液(I))。
(4)試料溶液(I)1mLを10mLメスフラスコに採取後、メタノールを加えて10mLに定容する(試料溶液(II))。
(5)試料溶液(I)あるいは試料溶液(II)をPTFEフィルタ(0.45μm)で濾過した液体を測定溶液としてLC/MS/MS分析に供する。
LC/MS/MS分析で検出されたピーク面積値と、標準溶液の検量線から桂皮酸の検出濃度を算出する。
【0035】
[LC/MS/MS測定条件]
LCシステム: LC-20A[島津製作所社製]
質量分析計: API4000[AB/MDS Sciex]
分析カラム: Scherzo SM-C18(3.0×75mm、3μm)
カラム温度: 45℃
移動相: A 10mmol/L 酢酸アンモニウム水溶液
B メタノール
タイムプログラム:
0.0→5.0min B%=30%→95%
5.0→10.0min B%=95%
10.1→15.0min B%=30%
流量: 0.4mL/min
切り替えバルブ:2.0 to 6.0min: to MS
注入量: 5μL
イオン化: ESI法
検出: 負イオン検出(SRM法)
モニターイオン:Q1=147.0→Q3=102.9(CE:-15eV)
【0036】
[チタン化合物(C)]
本発明に用いられる、前記チタン化合物(C)としては、例えば無機チタン化合物、有機チタン化合物があげられる。なお、チタン化合物は単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも無機チタン化合物が好ましい。
【0037】
前記無機チタン化合物としては、例えばチタン酸化物、チタン水酸化物、チタン塩化物、チタンの無機塩等があげられる。
前記チタン酸化物としては、例えば酸化チタン(II)、酸化チタン(III)、酸化チタン(IV)、亜酸化チタン等があげられる。
前記チタン水酸化物としては、例えば水酸化第一チタン、水酸化第二チタン等があげられる。
前記チタン塩化物としては、例えば塩化第一チタン、塩化第二チタン等があげられる。 前記チタンの無機塩としては、例えばリン酸チタン、硫酸チタン等があげられる。
なかでも、チタン酸化物が好ましく、酸化チタン(IV)がより好ましく、ルチル型の酸化チタン(IV)が特に好ましい。
【0038】
前記チタンの有機塩としては、例えば酢酸チタン、酪酸チタン、ステアリン酸チタン等のカルボン酸チタン等があげられる。
【0039】
なお、前記チタン化合物(C)は、EVOH樹脂組成物中で、チタン化合物として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいはEVOH樹脂や他の配位子と相互作用した錯体の状態で存在していてもよい。
【0040】
前記チタン化合物(C)の平均粒径は、通常0.001~100μmであり、好ましくは0.01~50μmであり、より好ましくは0.015~20μmである。チタン化合物の平均粒径が前記範囲内であると、熱安定性がより向上する傾向がある。
【0041】
前記チタン化合物(C)の金属換算含有量は、EVOH樹脂組成物の質量あたり0.001以上5ppm未満である。好ましくは0.01~3ppmであり、より好ましくは0.03~1ppmであり、特に好ましくは0.05~0.5ppmである。チタン化合物(C)の含有量を前記範囲とすることで、溶融成形時の熱劣化を抑制することができ、ロングラン性に優れたものとなる。また、チタン化合物(C)の含有量が少なすぎると、熱劣化を抑制する効果が低下し、含有量が多すぎるとEVOH樹脂の熱分解が起こって着色しやすくなる傾向がある。
【0042】
前記チタン化合物(C)の金属換算含有量は、本EVOH樹脂組成物を白金るつぼに計り入れ、バーナー及び電気炉で順次灰化し、かかる灰化物を硝酸及びふっ化水素酸で加熱分解し、希硝酸と希ふっ化水素酸の混酸で処理して定容して得られた定容液中のチタンをICP質量分析装置(Agilent Technologies社製、Agilent 8800)を用い、ICP質量分析法で測定することにより定量することができる。
【0043】
前記チタン化合物(C)の金属換算含有量に対する、前記スチレン誘導体(B)の含有量の質量比は、好ましくは0.3~100000であり、より好ましくは10~30000であり、特に好ましくは100~12000、殊に好ましくは300~10000、最も好ましくは600~8000である。
かかる値が大きすぎる場合は、本EVOH樹脂組成物の紫外線吸収能が低下する傾向があり、小さすぎる場合は、成形物が着色する傾向がある。
【0044】
ここで、一般的にEVOH樹脂は熱劣化によって着色が発生することが知られている。これは、以下のように考えられる。すなわち、熱によりEVOH樹脂が劣化してラジカルが発生し、このラジカルによりEVOH樹脂が有する水酸基に脱水反応が生じ、EVOH樹脂の主鎖に二重結合構造が生成する。そして、この部位が反応起点となり、さらに脱水反応等を引き起こし、EVOH樹脂の主鎖にポリエン構造が形成されるためと考えられる。
【0045】
そして、通常、EVOH樹脂組成物にチタン化合物を含有させた場合、チタンイオンにより、EVOH樹脂組成物が着色すると考えられるため、当業者であればチタン化合物の使用を避けることが技術常識である。
【0046】
しかしながら、本発明では、このような技術常識に反して、スチレン誘導体(B)と、特定微量のチタン化合物(C)とを組み合わせて用いた場合に、熱劣化が顕著に抑制され、かかる着色が抑制されたEVOH樹脂組成物が得られることを見出したのである。
【0047】
すなわち、チタンは4価のイオンとして安定であり、微量であっても上記のようなEVOH樹脂の主鎖の二重結合に配位しキレートを形成する等して安定化するため、さらなるポリエン構造の形成を抑制しているものと推測される。そして、前記スチレン誘導体(B)がチタン化合物(C)と共存することによって、前記チタン化合物(C)による安定化作用が、より効果的に発揮されると推測される。
一方で、チタン化合物(C)の含有量が多すぎると、チタン化合物(C)によりEVOH樹脂の熱分解が起こり着色が生じると考えられるため、本発明では、チタン化合物(C)の含有量を特定微量に限定している。
【0048】
[その他の熱可塑性樹脂]
本EVOH樹脂組成物には、EVOH樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば本EVOH樹脂組成物の通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下)にて含有することができる。
他の熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0049】
[その他の配合剤]
また、本EVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤が含有されていてもよい。前記配合剤としては、例えば、無機複塩(例えばハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えばエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、酸素吸収剤[例えばアルミニウム粉、亜硫酸カリウム等の無機系酸素吸収剤;アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、テルペン化合物、三級水素含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えば、ポリプロピレンとコバルトの組合せ)、炭素-炭素不飽和結合含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えばポリブタジエンとコバルトの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例えばポリケトン)、アントラキノン重合体(例えばポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や、前記以外の酸化防止剤や消臭剤(活性炭等)を添加したもの等の高分子系酸素吸収剤]、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤(但し、滑剤として用いるものを除く)、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば無機フィラー等)等を配合してもよい。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0050】
[EVOH樹脂組成物の製造方法]
本EVOH樹脂組成物は、例えば、前記EVOH樹脂(A)、スチレン誘導体(B)、及びチタン化合物(C)を、公知の方法、例えばドライブレンド法、溶融混合法、溶液混合法、含浸法等によって混合することにより製造でき、これらのなかでも、前記EVOH樹脂とチタン化合物とを含有する組成物原料を溶融混合する工程を備えることにより製造することが好ましい。また、これらの製造方法は、任意に組み合わせることも可能である。
【0051】
前記ドライブレンド法としては、例えば(i)ペレット状のEVOH樹脂(A)と、スチレン誘導体(B)及びチタン化合物(C)を、タンブラー等を用いてドライブレンドする方法等があげられる。
【0052】
前記溶融混合法としては、例えば(ii)ペレット状のEVOH樹脂(A)と、スチレン誘導体(B)及びチタン化合物(C)をドライブレンドしたドライブレンド物を溶融混練し、ペレットや成形物を得る方法や、(iii)溶融状態のEVOH樹脂(A)にスチレン誘導体(B)及び/又はチタン化合物(C)を添加して溶融混練し、ペレットや成形物を得る方法等があげられる。
【0053】
前記溶液混合法としては、例えば(iv)ペレット状のEVOH樹脂(A)を用いて溶液を調製し、ここにスチレン誘導体(B)及び/又はチタン化合物(C)を配合し、凝固成形してペレット化し、その後、公知の手段により固液分離して乾燥する方法や、(v)EVOH樹脂(A)の製造過程で、ケン化前のEVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)にスチレン誘導体(B)及び/又はチタン化合物(C)を含有させた後、凝固成形してペレット化し、その後、公知の手段により固液分離して乾燥する方法等があげられる。
【0054】
前記含浸法としては、例えば(vi)ペレット状のEVOH樹脂(A)を、スチレン誘導体(B)及び/又はチタン化合物(C)を含有する水溶液と接触させ、EVOH樹脂(A)中に前記スチレン誘導体(B)及び/又はチタン化合物(C)を含有させた後、乾燥する方法等があげられる。
前記チタン化合物(C)を含有する水溶液としては、チタン化合物(C)の水溶液や、チタン化合物(C)を、各種薬剤を含む水に浸漬することでチタンイオンを溶出させたものを用いることができる。前記スチレン誘導体(B)を含有する水溶液についても同様である。
【0055】
なお、前記含浸法において、スチレン誘導体(B)とチタン化合物(C)の含有量(金属換算)は、EVOH樹脂(A)を浸漬する水溶液中の、スチレン誘導体(B)とチタン化合物(C)の濃度や浸漬温度、浸漬時間等によって制御することが可能である。
前記浸漬温度、浸漬時間としては、通常、0.5~48時間、好ましくは1~36時間であり、浸漬温度は通常10~40℃、好ましくは20~35℃である。
【0056】
また、前記各製造方法における乾燥方法としては、種々の乾燥方法を採用することが可能であり、静置乾燥、流動乾燥のいずれでもよい。また、これらを組み合わせて行うこともできる。
【0057】
本EVOH樹脂組成物を得るには、前述のとおり、これら各種の方法を組み合わせることが可能である。なかでも、生産性や本発明の効果がより顕著な樹脂組成物が得られる点で、溶融混合法が好ましく、特には(ii)の方法が好ましい。また、前記その他の熱可塑性樹脂、その他の配合剤を用いる場合も、前記の製造方法に従い、常法により配合すればよい。
【0058】
このようにして得られる本EVOH樹脂組成物の形状は任意であるが、ペレットであることが好ましい。
前記ペレットとしては、例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、オーバル形、又は円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、オーバル形の場合は短径が通常1~10mm、好ましくは2~6mmであり、さらに好ましくは2.5~5.5mmであり、長径は通常1.5~30mm、好ましくは3~20mm、さらに好ましくは3.5~10mmである。また、円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
また、前記各製造方法で用いるペレット状のEVOH樹脂(A)の形状、大きさも同様であることが好ましい。
【0059】
なお、本EVOH樹脂組成物の形状がペレットである場合、溶融成形時のフィード性を安定させる点で、ペレットの表面に公知の滑剤を付着させることが好ましい。滑剤の種類としては、例えば、炭素数12以上の高級脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和高級脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス高級脂肪酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等、又はその酸変性品)、炭素数6以上の高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等があげられる。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、かかる滑剤の含有量は、本EVOH樹脂組成物の通常5質量%以下、好ましくは1質量%以下である。なお、下限は通常0質量%である。
【0060】
このようにして得られる本EVOH樹脂組成物は、溶融成形等の加熱時において、着色変化が抑制され、ロングラン性に優れるものであり、加熱前のYI値(イエローインデックス)に対する加熱後のYI値の比(加熱後YI値/加熱前YI値)は、通常6.5未満であり、好ましくは6.0以下、特に好ましくは5.5以下である。加熱前のYI値に対する加熱後のYI値の比が上記範囲であると、着色抑制効果に優れる。また、前記加熱前のYI値に対する加熱後のYI値の比の下限は、通常1である。
なお、前記YI値の比における0.1の違いは、実際の製造において、大きな収率の差として現れることから、その差は非常に大きいものである。
【0061】
前記加熱前のYI値は、本EVOH樹脂組成物を1~5mm角に粉砕した粉砕物を、内径32mm、高さ30mmの円筒に充填し、擦きった状態で、分光色差計SE6000(日本電色工業社製)を用いて測定することにより得られる。
また、前記加熱後のYI値は、前記1~5mm角に粉砕した本EVOH樹脂組成物を、空気雰囲気下のオーブン内で150℃、5時間加熱処理したものを、同様の方法で測定することにより得られる。
【0062】
また、本EVOH樹脂組成物の含水率は、通常、0.01~0.5質量%であり、好ましくは0.05~0.35質量%、特に好ましくは0.1~0.3質量%である。
【0063】
本EVOH樹脂組成物の含水率は、以下の方法により測定・算出されるものである。
本EVOH樹脂組成物の乾燥前質量(W1)を電子天秤にて秤量し、150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させ、デシケーター中で30分間放冷後の質量(W2)を秤量し、下記の式より算出する。
<式>
含水率(質量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0064】
本EVOH樹脂組成物は、ペレットの他、粉末状や液体状といった、さまざまな形態に調製され、各種の成形物の成形材料として提供される。特に本発明においては、溶融成形用の材料として提供される場合、本発明の効果がより効率的に得られる傾向があり好ましい。
なお、本EVOH樹脂組成物には、本EVOH樹脂組成物に用いられるEVOH樹脂(A)以外の樹脂を混合して得られる樹脂組成物も含まれる。
【0065】
前記成形物としては、例えば本EVOH樹脂組成物から成形された単層フィルムをはじめとして、本EVOH樹脂組成物からなる層を有する多層構造体等があげられる。
【0066】
[多層構造体]
本発明の一実施形態に係る多層構造体(以下、「本多層構造体」と称する)は、本EVOH樹脂組成物からなる層を備えるものである。本EVOH樹脂組成物からなる層(以下、単に「本EVOH樹脂組成物層」という)は、本EVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、基材に用いられる樹脂を「基材樹脂」と略記することがある)と積層することで、さらに強度を付与したり、本EVOH樹脂組成物層を水分等の影響から保護したり、他の機能を付与することができる。
【0067】
前記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖及び側鎖の少なくとも一方を有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族又は脂肪族ポリケトン類等があげられる。
【0068】
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂及びこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂であり、特にポリ環状オレフィン系樹脂は、疎水性樹脂として好ましく用いられる。
【0069】
本多層構造体の層構成は、本EVOH樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、本多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本EVOH樹脂組成物と本EVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。本多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。前記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介在させてもよい。
【0070】
前記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸又はその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。前記カルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0071】
本多層構造体において、本EVOH樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層が本EVOH樹脂組成物層の両側に位置することから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0072】
前記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば樹脂全体に対して、30質量%以下、好ましくは10質量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0073】
前記本EVOH樹脂組成物層と前記基材樹脂層との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本EVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本EVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、本EVOH樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、本EVOH樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上に本EVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して、本EVOH樹脂組成物層を溶融成形する工程を備えることにより製造することが好ましく、具体的には共押出する方法が好ましい。
【0074】
本多層構造体は、必要に応じて(加熱)延伸処理を施してもよい。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0075】
また、延伸処理後の本多層構造体は、寸法安定性を付与することを目的として、熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば前記延伸処理された本多層構造体を、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。
【0076】
前記延伸処理された本多層構造体をシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、前記の熱固定を行わず、例えば延伸処理後の本多層構造体に冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0077】
本多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成する本EVOH樹脂組成物層、基材樹脂層及び接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、本多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。本EVOH樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0078】
さらに、本多層構造体における本EVOH樹脂組成物層の基材樹脂層に対する厚みの比(本EVOH樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、本多層構造体における本EVOH樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(本EVOH樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0079】
また、本多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。さらに多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0080】
本EVOH樹脂組成物から成形された単層フィルムや、本多層構造体からなる袋及びカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料として有用である。
【実施例0081】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0082】
<実施例1>
EVOH樹脂(A)として、エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.6モル%、MFR4g/10分(210℃、荷重2160g)のEVOH樹脂のペレットを用いた。
また、スチレン誘導体(B)として、trans-桂皮酸(東京化成工業社製)、チタン化合物(C)として酸化チタン(富士フイルム和光純薬社製)を用いた。
前記EVOH樹脂(A)のペレットに対し、前記スチレン誘導体(B)をEVOH樹脂組成物の質量あたり500ppm、及び前記酸化チタンを金属換算含有量としてEVOH樹脂組成物の質量あたり0.1ppmとなるようにドライブレンドし、混合物を得た。そして、前記混合物を、二穴ダイを備えた二軸押出機(20mmφ)に供給し、下記の押出条件で押出、吐出されるストランドを水槽にて冷却、固化させた。つぎに、固化させたストランドに空気を吹き付けることでストランド表面の水滴を除去した後、切断することでEVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0083】
[押出条件]
押出機設定温度(℃):C1/C2/C3/C4/C5/C6
=150/200/210/210/210/210
【0084】
<実施例2>
実施例1において、酸化チタンの配合量を金属換算量としてEVOH樹脂組成物の質量あたり1ppmに変更した以外は、実施例1と同様にしてEVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0085】
<比較例1>
実施例1において、酸化チタンを用いなかった以外は、実施例1と同様にしてEVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0086】
<比較例2>
実施例1において、酸化チタンの配合量を金属換算量としてEVOH樹脂組成物の質量あたり10ppmに変更した以外は、実施例1と同様にしてEVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0087】
<実施例3>
EVOH樹脂(A)として、エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.6モル%、MFR4g/10分(210℃、荷重2160g)のEVOH樹脂のペレットを用いた。
また、スチレン誘導体(B)として、trans-桂皮酸(東京化成工業社製)、チタン化合物(C)として酸化チタン(富士フイルム和光純薬社製)を用いた。
前記EVOH樹脂(A)のペレットに対し、前記スチレン誘導体(B)をEVOH樹脂組成物の質量あたり500ppm、及び前記酸化チタンを金属換算含有量としてEVOH樹脂組成物の質量あたり0.1ppmとなるようにドライブレンドし、混合物を得た。
そして、前記混合物を、二穴ダイを備えた二軸押出機(20mmφ)に供給し、下記の押出条件で押出、吐出されるストランドを水槽にて冷却、固化させた。つぎに、固化させたストランドに空気を吹き付けることでストランド表面の水滴を除去した後、切断することでEVOH樹脂組成物のペレットを得た。
[押出条件]
押出機設定温度(℃):C1/C2/C3/C4/C5/C6
=150/200/210/210/210/210
【0088】
<比較例3>
実施例3において、trans-桂皮酸を用いなかった以外は、実施例3と同様にしてEVOH樹脂組成物のペレットを得た。
【0089】
得られた実施例1、2、及び比較例1、2のEVOH樹脂組成物のペレットを用いて、下記の着色評価を行った。結果を後記の表1に示す。また、得られた実施例3、及び比較例3のEVOH樹脂組成物のペレットを用いて、下記の着色抑制評価を行った。結果を後記の表2に示す。
【0090】
〔ロングラン性評価〕
得られたEVOH樹脂組成物のペレットを、粉砕機(ソメタニ産業社製、SKR16-240)にて650rpmで粉砕し、1~5mm角の粉砕物とした。
得られた粉砕物を、内径32mm高さ30mmの円筒に粉砕物を充填し、擦きった状態で、分光色差計SE6000(日本電色工業社製)にてYI値を測定した。
また、前記粉砕物をオーブン内で150℃、5時間加熱処理したものについても同様にYI値を測定した。
その後、加熱前のYI値に対する加熱後のYI値の比を算出した。
加熱前のYI値に対する加熱後のYI値の比が大きいほど、EVOH樹脂組成物が加熱後に黄色く着色変化していることを意味する。
【0091】
〔着色抑制評価〕
得られた実施例3及び比較例3のEVOH樹脂組成物のペレットを、粉砕機(ソメタニ産業社製、SKR16-240)にて650rpmで粉砕し、1~5mm角の粉砕物とした。
上記の各粉砕物をサンプルとし、ビジュアルアナライザー IRIS VA400(Alpha mos社製)にて、色番号「3273」(R:50、G:115、B:0)を有する着色領域に対する色番号「2984」(R:41、G:132、B:0)を有する着色領域の面積比が占める割合(「2984」/「3273」)に基づいて着色を評価した。色番号「2984」は、濃い黄色味を有する色であり、色番号「3273」は、薄い黄色味を有する色であり、この割合が大きいほど、サンプルが黄色く着色していることを意味する。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
上記表1から、スチレン誘導体(B)と特定微量のチタン化合物(C)とを含有する実施例1、2のEVOH樹脂組成物は、チタン化合物(C)を含有しない比較例1のEVOH樹脂組成物、チタン化合物(C)を特定の範囲よりも多量に含有する比較例2のEVOH樹脂組成物に比べて、YI値の比が小さく、加熱による着色が抑制されていることから、ロングラン性に優れるものであることがわかる。
また、上記表2から、実施例3のEVOH樹脂組成物は、比較例3のEVOH樹脂組成物に比べて、「2984」/「3273」の数値が小さく、着色が抑制されていた。
さらに、実施例1~3のEVOH樹脂組成物からなる層を備える多層構造体も、熱劣化による着色が抑制され熱安定性に優れるものである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本変性EVOH樹脂組成物は、溶融成形等の加熱時の着色変化が抑制されることから、各種食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種包装材料として有用である。