IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明治の特許一覧

<>
  • 特開-繊維状チーズ 図1
  • 特開-繊維状チーズ 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153062
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】繊維状チーズ
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/068 20060101AFI20231005BHJP
   A23C 19/084 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 3/00 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 3/3418 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 3/3436 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 3/3409 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A23C19/068
A23C19/084
A23L3/00 101Z
A23L3/3418
A23L3/3436
A23L3/3409
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056919
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022057976
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】野村 理衣
(72)【発明者】
【氏名】井上 元幹
【テーマコード(参考)】
4B001
4B021
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC26
4B001AC31
4B001AC45
4B001AC46
4B001BC03
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC11
4B001BC12
4B001BC13
4B001BC14
4B001BC99
4B001CC01
4B001DC01
4B001EC01
4B001EC04
4B001EC99
4B021LA02
4B021LP08
4B021LP10
4B021LW05
4B021MC01
4B021MC02
4B021MK13
4B021MK30
4B021MP06
4B021MP07
4B021MP10
4B021MQ02
4B021MQ03
4B021MQ04
4B021MQ05
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、一口目から柔らかく、ほぐれやすい繊維状チーズを提供することにある。
【解決手段】本発明に係る繊維状チーズは、5℃における圧縮弾性率が100kPa以上300kPa以下の範囲内であると共に比例限度が130kPa以下である。なお、5℃における圧縮弾性率は、100kPa以上290kPa以下の範囲内であることが好ましく、100kPa以上280kPa以下の範囲内であることがより好ましく、100kPa以上270kPa以下の範囲内であることがさらに好ましく、100kPa以上260kPa以下の範囲内であることが特に好ましい。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5℃における圧縮弾性率が100kPa以上300kPa以下の範囲内であると共に、比例限度が50kPa以上130kPa以下の範囲内である、繊維状チーズ。
【請求項2】
ナチュラルチーズまたはプロセスチーズ類である、請求項1に記載の繊維状チーズ。
【請求項3】
直食用である、請求項1に記載の繊維状チーズ。
【請求項4】
真空包装方法、ガス置換包装方法、脱酸素剤を含める包装方法のいずれかの包装方法で包装されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の繊維状チーズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状チーズに関する。
【背景技術】
【0002】
従前から繊維状チーズについて種々提案されている(例えば、特開平7-177848号公報、特開2020-162486号公報、井筒雅ら,「繊維構造チーズのレオロジー的性質と繊維性におよぼす延伸操作の影響」,日本化学学会,1993(1),P.28-34等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-177848号公報
【特許文献2】特開2020-162486号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】井筒雅ら,「繊維構造チーズのレオロジー的性質と繊維性におよぼす延伸操作の影響」,日本化学学会,1993(1),P.28-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、幼児から高齢者まで幅広い世代の方々が心地よく食することができる繊維状チーズが求められている。一般的に、幼児や高齢者は、咀嚼力が弱く、硬く塊になるようなものを食するのに苦労することが多い。
【0006】
本発明の課題は、一口目から柔らかく、ほぐれやすい繊維状チーズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、5℃における圧縮弾性率が100kPa以上200kPa以下の範囲内であると共に比例限度が20kPa以上130kPa以下の範囲内である、繊維状チーズにより課題が解決されることを見出して本発明を完成させた。なお、本発明において、繊維状チーズとは、チーズカードを、加温等の工程を経て一定の延伸をかけて棒状又は板状に成形し、冷却・固化することにより得られるチーズであり、手で裂くと一定方向に糸状に細く裂けるチーズである。なお、このような繊維状チーズは、市場においてストリングチーズ等と称されている。
【0008】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
(1)
5℃における圧縮弾性率が100kPa以上300kPa以下の範囲内であると共に比例限度が50kPa以上130kPa以下の範囲内である、繊維状チーズ。
【0009】
(2)
ナチュラルチーズまたはプロセスチーズ類である、(1)に記載の繊維状チーズ。
【0010】
(3)
直食用である、(1)または(2)に記載の繊維状チーズ。
【0011】
(4)
真空包装方法、ガス置換包装方法、脱酸素剤を含める包装方法のいずれかの包装方法で包装されている、(1)から(3)のいずれか1つに記載の繊維状チーズ。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例および比較例に係る各繊維状チーズの圧縮弾性率を示す棒グラフである。
図2】実施例および比較例に係る各繊維状チーズの比例限度を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<繊維状チーズの製造方法>
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、直食用のナチュラルチーズまたはプロセスチーズ類であって、例えば、チーズカード調製工程、pH調整工程、加熱混練工程、成型工程および冷却工程を経て製造される。以下、これらの工程について詳述する。
【0014】
(1)チーズカード調製工程
このチーズカード調製工程では、生乳に乳酸菌や酵素を添加して生乳を凝乳させた後に、カッティングホエイ排出を行ってチーズカードが調製される。なお、このチーズカードは、そのまま次工程のpH調整工程に供されてもよいし、凍結されて後に凍結状態でpH調整工程に供されてもよい。また、未凍結のチーズカードと凍結状態のチーズカードとの混合物をpH調整工程に供してもよい。
【0015】
(2)pH調整工程
pH調整工程では、チーズカード調製工程で得られたチーズカードに対して、チーズカードのpHを5.0以上5.6以下の範囲内に収めるのに必要な量の有機酸(例えば、乳酸など)が添加されて、チーズカードのpHが5.0以上5.6以下の範囲内に調整される。後工程である加熱混練工程において混練されたチーズカードの乳化安定性を維持すると共に押出成形時などにおいてチーズカードを延伸しやすくするために、そのチーズカードのpHを5.0以上5.5未満の範囲内とすることが好ましく、5.1以上5.5未満の範囲内とすることがより好ましい。さらに、良好な繊維状チーズを得るためには、そのチーズカードのpHを5.2以上5.4以下の範囲内とすることが好ましい。なお、pHを調整したチーズカードを品温0℃以上10℃以下の範囲内の温度(より好ましくは0℃以上5℃以下の範囲内の温度)に保ちながら、そのチーズカードの粒の長径が7mm(より好ましくは5mm)以下になるようにそのチーズカードを細かくすることが好ましい。このようにチーズカードを小片化することで、チーズカードのpHのバラツキを小さくすることができると共に、チーズカードの表面積が増え、その結果、次工程において添加物をカゼイン間に細かく入れ込むことができるからである。添加物がホエイたんぱく質濃縮物等である場合、その成分であるβ-ラクトグロブリンが、カゼイン同士の強力な結合を適度に阻害し、最終的に得られる繊維状チーズに、ほぐれやすく咀嚼によって容易に食片を小さくする物性を付与することができると想定される。
【0016】
なお、このようにpH調整されたチーズカードにおいて、たんぱく質含量は8質量%以上35質量%以下の範囲内であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下の範囲内であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、23質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。また、同チーズカードにおいて、脂肪含量は12質量%以上45質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以上40質量%以下の範囲内であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、20質量%以上28質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。また、同チーズカードにおいて、水分含量は30質量%以上60質量%以下の範囲内であることが好ましく、35質量%以上55質量%以下の範囲内であることがより好ましく、40質量%以上55質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、42質量%以上53質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0017】
(3)加熱混練工程
この加熱混練工程では、pH調整後のチーズカードに、必要に応じて添加物が添加された後、それらの原料が加熱されながら混練される。なお、このような加熱混練処理は、例えば、熱水加熱混練装置や水蒸気加熱混練装置などによって実行されるのが好ましいが、その混練物がさらにジュール加熱またはマイクロウエーブ加熱等された後に混練装置(二軸スクリューやストレッチャー等)によって追加的に混練されたり、加熱機能付きの混練装置(二軸スクリューやストレッチャー等)によってその混練物がさらに加熱されながら混練されたりするのがより好ましい。加熱混練処理において熱水加熱混練装置や水蒸気加熱混練装置における加熱温度は、75℃以下にする必要がある。また、その後の二次加熱時における加熱温度は65℃以上75℃以下の範囲内であることが好ましい。また、本工程では、pH調整後のチーズカードを緩やかに攪拌しながら軟化させてゲル化させ、同チーズカードの品温を50℃以上の温度から直ぐに(例えば、3分間以内)60℃以上75℃以下の範囲内の温度にまで上昇させながら混練するのが好ましい。
【0018】
ところで、上述の添加物としては、例えば、水、食塩、炭水化物、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸(上述の飽和脂肪酸を除く)、有機塩基、果汁、フレーバー、機能性成分、食品添加物、チーズ酵素処理物等、通常の食品に含まれ得る成分が挙げられる。ここで、炭水化物としては、デキストリンのほか、可溶性澱粉、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物油、リン脂質などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロテン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられる。ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。フレーバーとしては、例えば、香辛料、ハーブ、調味料(食塩を除く)、くん液などが挙げられる。機能性成分としては、例えば、オリゴ糖、グルコサミン、コラーゲン、セラミド、ローヤルゼリー、ポリフェノール、脂肪酸アミド、乳酸菌、ビフィズス菌、ペプチド、ホエイ、ミルクたんぱく質濃縮物(MPC)、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC,WPI)、アミノ酸などが挙げられる。食品添加物として、例えば、乳化剤、溶融塩、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、甘味剤、酸味料、保存料、抗酸化剤、pH調整剤、着色剤、香料などが挙げられる。なお、これらの成分は、単体で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。また、上述の成分は、天然物、天然物加工品、合成品および/またはこれらを多く含む食品のいずれであってもよい。
【0019】
なお、本発明の実施の形態では、添加物として、食塩、チーズ酵素処理物およびホエイたんぱく質濃縮物(WPC,WPI)が選択されることが好ましい。かかる場合、pH調整後のチーズカード1000gに対して、1g以上10g以下の範囲内の食塩、5g以上50g未満の範囲内のチーズ酵素処理物、5g以上50g以下の範囲内のホエイたんぱく質濃縮物(WPC,WPI)が添加されるのが好ましい。
【0020】
また、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、ナチュラルチーズまたはプロセスチーズ類であってもよい。
【0021】
本発明の実施の形態に係るプロセスチーズ類とは、プロセスチーズ、チーズフード、乳等を主原料とする食品を指す。プロセスチーズおよびチーズフードを製造する際、チーズカードに溶融塩などの乳化剤を添加して混合することが必要である。溶融塩としてはリン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩など、通常のプロセスチーズ製造に用いられている溶融塩を使用することができる。溶融塩の化合物の種類としては、特に限定されないが、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カルシウム等が挙げられ、これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その添加量はチーズの合計量(100質量%)に対して、0.05~5質量%が好ましく、0.1~3質量%がより好ましい。
【0022】
また、本発明の実施の形態では、添加物として、乳化剤が添加されてもよい。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベートが挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステル、酵素処理レシチン、ポリソルベートである場合、加熱混練時にチーズカードからオイルや乳化物が分離することがないため好ましい。その添加量は繊維状チーズの質量(100質量%)に対して、0.1~3質量%であることが好ましい。溶融塩と乳化剤を併用してもよい。乳化剤は加熱混練以前また加熱混練中に添加されればよい。なお、過剰な溶融塩の添加は、繊維状チーズの糸ひき性などの性質を低下させる。
【0023】
(3)成型工程
この成型工程では、加熱混練工程で得られた加熱混練物が管から押し出される、もしくは加熱混練物に延伸力が加えられることにより繊維状チーズが得られる。なお、この成型工程では、押出成形装置が利用されることが好ましい。加熱混練物を適度な力で伸ばすことで、引裂性の良い繊維状チーズを得られる。
【0024】
(4)冷却工程
冷却工程では、成型工程後の繊維状チーズが40℃以下に冷却される。これにより、繊維状チーズの引裂性が高められる。本工程において冷却溶媒として液化ガス、水、食塩水などを用いることができる。この冷却溶媒を用いて繊維状チーズを冷却する方法としては、冷却冷媒を繊維状チーズに噴霧する方法、繊維状チーズを冷却冷媒に浸漬する方法、冷却施設で冷却冷媒を繊維状チーズに送風する方法などが挙げられる。これらの方法は単独で実施されてもよいし、組み合わせて実施されてもよい。本工程において冷却された繊維状チーズは切断されて包装される。繊維状チーズが冷却されることによってその引裂性が維持される。繊維状チーズは、冷却後に切断されて冷凍されてもよい。また、冷却後の繊維状チーズを冷凍した後に解凍してから切断して包装してもよい。
【0025】
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズを包装する方法としては、例えば、真空包装、ガス置換包装、脱酸素剤の封入、脱酸素包材による包装などが挙げられる。真空包装では、内圧が3kPa以上15kPa以下の範囲内になるように包装する。ガス置換包装では、繊維状チーズが入れられた包装材の内部を不活性ガスで置換すればよい。繊維状チーズを上述のいずれかの方法で個包装することで食する直前まで、カビなどの微生物の繁殖をより抑制することができる。
【0026】
<繊維状チーズ>
上述のようにして得られる繊維状チーズにおいて、水分含量は35質量%以上60質量%以下の範囲内であることが好ましく、40質量%以上55質量%以下の範囲内であることがより好ましく、41質量%以上53質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、42質量%以上52質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。たんぱく質含量は10質量%以上35質量%以下の範囲内であることが好ましく、12質量%以上30質量%以下の範囲内であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、20質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。脂肪含量は10質量%以上40質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以上35質量%以下の範囲内であることがより好ましく、17質量%以上33質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、20質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0027】
また、上述の通りにして得られた繊維状チーズは、5℃における圧縮弾性率が100kPa以上300kPa以下の範囲内であると共に、比例限度が130kPa以下である。なお、5℃における圧縮弾性率は、100kPa以上280kPa以下の範囲内であることが好ましく、120kPa以上280kPa以下の範囲内であることがより好ましく、100kPa以上260Pa以下の範囲内であることがさらに好ましく、120kPa以上260Pa以下の範囲内であることがさらに好ましく、100Pa以上240Pa以下の範囲内であることがさらに好ましく、120Pa以上240Pa以下の範囲内であることがさらに好ましく、100kPa以上220kPa以下の範囲内であることがさらに好ましく、120kPa以上220kPa以下の範囲内であることがさらに好ましく、100kPa以上200kPa以下の範囲内であることがさらに好ましく、120kPa以上200kPa以下の範囲内であることがさらに好ましく、100kPa以上180kPa以下の範囲内であることがさらに好ましく、120kPa以上180kPa以下の範囲内であることがさらに好ましく、100kPa以上160kPa以下の範囲内であることがさらに好ましく、120kPa以上160kPa以下の範囲内であることが特に好ましい。また、比例限度は、110kPa以下であることが好ましく、100kPa以下であることがより好ましく、90kPa以下であることがさらに好ましく、80kPa以下であることがさらに好ましく、70kPa以下であることがさらに好ましく、60kPa以下であることが特に好ましい。なお、本発明の実施の形態において、比例限度の下限は特に限定されないが、例えば、50kPaであることが好ましく、60kPaであることがより好ましく、70kPaであることがさらに好ましく、80kPaであることが特に好ましい。
【0028】
以下、上述の圧縮弾性率および比例限度の求め方について詳述する。
<圧縮弾性率および比例限度の求め方>
先ず、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズを、5mm角の立方体状に切り出して計測試料を作製する。なお、かかる際、繊維状チーズの繊維方向が上下面に垂直になるように繊維状チーズが切り出される。次に、その計測試料を5℃に調温する。次いで、その計測試料を、その繊維方向が圧縮方向に一致するようにして単軸圧縮・引張型レオメータ(例えば、株式会社山電製のクリープメータなどが挙げられる。)にセットした後、クリープメータによってその計測試料が圧縮される。なお、計測時、圧縮治具(プランジャー)としてφ30mmの平板が用いられる。また、圧縮速度は1mm/秒とされる。
【0029】
ところで、物体の圧縮試験において、歪みと応力の間にはフックの法則(式(1)参照)が成立する。
δ=E・ε (1)
なお、上式(1)においてδは応力であり、εは歪みであり、Eは圧縮弾性率(圧縮ヤング率)である。
【0030】
また、繊維状チーズは、通常、弾塑性体であり、歪みが小さい領域では上述のフックの法則が成立するが、歪みが大きくなると塑性変形または構造崩壊によってフックの法則が成立しなくなる。ここでは、フックの法則が成立する領域(以下「比例範囲」という場合がある)における最大応力を「比例限度」と称する。
【0031】
比例範囲は、上述の方法で得られる応力-歪み曲線を構成する測定データと、その測定データから最小二乗法により得られる近似直線を構成する算出データとの誤差の二乗和(SSE:Sum of Squared Error)を用いて特定される(式(2)参照)。具体的には、この誤差の二乗和が所定の閾値を超えた点の一つ前の点が比例範囲とされる。なお、この閾値は1.5×10に設定されるのが好ましい。
【0032】
【数1】

なお、上式(2)においてyは応力の実測値であり、f(x)は近似直線から計算された応力値である。
【0033】
なお、圧縮試験において、理想的には試験の天面は圧縮治具と水平であることが求められるが、現実的には僅かに傾くことが多い。このため、圧縮初期の応力-歪み曲線では、計測試料が圧縮治具に完全に密着するまでの間、応力-歪み曲線の比例範囲における傾きが小さくなることがある。比例範囲を求める際、この影響を取り除くために極初期のデータは取り除かれる。なお、0.03未満の歪みデータを取り除くのが好ましい。
【0034】
そして、圧縮弾性率(E)は、上述の比例範囲における近似直線からフックの法則に従って算出される。また、比例限度は、上述の方法により特定された比例範囲における最大応力とされる。
【0035】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例0036】
1.繊維状チーズの作製
生乳に乳酸菌(ラクティス菌、サーモフィラス菌)および酵素(レンネット)を添加して凝乳させた後に、カッティングホエイ排出を行ってチーズカードを作製した。なお、このチーズカードの水分含量は43質量%であり、脂肪含量は26質量%であり、たんぱく質含量は25質量%であった(なお、水分含量は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルの「第1章 一般成分及び関連成分」に記載の「常圧加熱乾燥法 乾燥助剤添加法」(P2-P3)に従って測定した。また、たんぱく質含量は、同章に記載の「マクロ改良ケルダール法」(P12-P16)に従って測定した。また、脂肪含量は、同章に記載の「酸・アンモニア分解法」(P24-P25)に従って測定した。)。次に、このチーズカード3200g、および、そのチーズカードをpH5.3とするのに必要な量の50質量%の乳酸水溶液を二軸ニーダー(株式会社入江商会社製 型番PN-5)の原料投入室に投入した後、その原料投入室のジャケットに2℃のチルド水を循環させて同原料投入室を冷却しながらそれらの原料を混合した。このとき、その混合物を冷却しながら、その混合物に高せん断の力を加えることで長径が0.5cm以下の細かいチーズカード(以下「pH調整チーズカード」と称する場合がある)を得た。さらに、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC)200g、食塩20gおよびチーズ酵素処理物40gを上述の原料投入室に投入し、それらの素材が均一に分散するように混練して一次混練物を得た。その一次混練物をMicra Therm(GoldPeg社製)に投入し、蒸気を投入しながら60~70℃に加温した。続いて、一次混練物を先の二軸ニーダーに投入し、一次混練物を60~75℃で保温しながら15分間混練して二次混練物を得た。その後、二次混練物を伏虎金属工業株式会社製の押出成型機(SQWS-40EHJ-MGA)に投入し、その押出成形機により二次混練物を直径14mmの管から吐出させた後、その吐出物を2℃の冷水に浸漬し、吐出物の温度が35℃を切った時点でその吐出物を100mmにカットし、目的の繊維状チーズを得た。なお、この繊維状チーズにおいて水分含量は48.2質量%であり、脂肪含量は22.3%であり、たんぱく質含量は24.8%であり、pHは5.35であった(なお、この水分含量、脂肪含量およびたんぱく質含量は、上述のチーズカードの水分含量、脂肪含量およびたんぱく質含量の測定方法と同じ方法で測定した。また、このpHは、回転数を10000rpmに設定したホモジナイザー(日本精機株式会社製エクセルオートホモジナイザー)で5分間、繊維状チーズを粉砕した後、その粉砕物にpH測定器(ニッコーハンセン株式会社製pH spear)のプローブを突き刺して測定した。)。
【0037】
2.繊維状チーズの特性評価
(1)圧縮特性評価
除去対象データを0.03未満の歪みデータを有するデータに設定すると共に比例範囲の閾値を1.5×10に設定し、上述の<圧縮弾性率および比例限度の求め方>に従って本実施例に係る繊維状チーズの圧縮弾性率および比例限度を求めたところ、圧縮弾性率は185kPaであり(表1および図1参照)、比例限度は66kPaであった(表1および図2参照)。
【0038】
(2)食感評価
5人の専門パネラーそれぞれに繊維状チーズの食感を評価してもらったところ、いずれの専門パネラーも「本実施例に係る繊維状チーズは一口目から柔らかくてほぐれやすい」との評価であった。
【実施例0039】
水分含量が43質量%であり、脂肪含量が28質量%であり、たんぱく質含量が23質量%であるチーズカードを作製した以外は、実施例1と同一の方法で目的の繊維状チーズを得た。なお、この繊維状チーズにおいて水分含量は48.4質量%であり、脂肪含量は24.5質量%であり、たんぱく質含量は22.8質量%であり、pHは5.36であった。
【0040】
そして、除去対象データを0.03未満の歪みデータを有するデータに設定すると共に比例範囲の閾値を1.5×10に設定し、上述の<圧縮弾性率および比例限度の求め方>に従って本実施例に係る繊維状チーズの圧縮弾性率および比例限度を求めたところ、圧縮弾性率は170kPaであり(表1および図1参照)、比例限度は72kPaであった(表1および図2参照)。また、実施例1と同様にして5人の専門パネラーそれぞれに繊維状チーズの食感を評価してもらったところ、いずれの専門パネラーも「本実施例に係る繊維状チーズは一口目から柔らかくてほぐれやすい」との評価であった。
【実施例0041】
水分含量が46.5質量%であり、脂肪含量が24.5質量%であり、たんぱく質含量が23質量%であるチーズカードを作製した以外は、実施例1と同一の方法で目的の繊維状チーズを得た。なお、この繊維状チーズにおいて水分含量は51.7質量%であり、脂肪含量は21.0質量%であり、たんぱく質含量は22.8質量%であり、pHは5.37であった。
【0042】
そして、除去対象データを0.03未満の歪みデータを有するデータに設定すると共に比例範囲の閾値を1.5×10に設定し、上述の<圧縮弾性率および比例限度の求め方>に従って本実施例に係る繊維状チーズの圧縮弾性率および比例限度を求めたところ、圧縮弾性率は128kPaであり(表1および図1参照)、比例限度は51kPaであった(表1および図2参照)。また、実施例1と同様にして5人の専門パネラーそれぞれに繊維状チーズの食感を評価してもらったところ、いずれの専門パネラーも「本実施例に係る繊維状チーズは一口目から柔らかくてほぐれやすい」との評価であった。
【実施例0043】
水分含量が46.2質量%であり、脂肪含量が24.8質量%であり、たんぱく質含量が25.1質量%であるチーズカードを作製し、一次混練物の混練時間を15分延長した以外は、実施例1と同一の方法で目的の繊維状チーズを得た。なお、この繊維状チーズにおいて水分含量は49.6質量%であり、脂肪含量は20.5質量%であり、たんぱく質含量は24.5質量%であり、pHは5.38であった。
【0044】
そして、除去対象データを0.03未満の歪みデータを有するデータに設定すると共に比例範囲の閾値を1.5×10に設定し、上述の<圧縮弾性率および比例限度の求め方>に従って本実施例に係る繊維状チーズの圧縮弾性率および比例限度を求めたところ、圧縮弾性率は196kPaであり(表1および図1参照)、比例限度は79kPaであった(表1および図2参照)。また、実施例1と同様にして5人の専門パネラーそれぞれに繊維状チーズの食感を評価してもらったところ、いずれの専門パネラーも「本実施例に係る繊維状チーズは一口目から柔らかくてほぐれやすい」との評価であった。
【実施例0045】
実施例3で作製された繊維状チーズを10℃で2か月間熟成して目的の繊維状チーズを得た。なお、この繊維状チーズにおいて水分含量は49.5質量%であり、脂肪含量は20.6質量%であり、たんぱく質含量は24.7質量%であり、pHは5.45であった。
【0046】
そして、除去対象データを0.03未満の歪みデータを有するデータに設定すると共に比例範囲の閾値を1.5×10に設定し、上述の<圧縮弾性率および比例限度の求め方>に従って本実施例に係る繊維状チーズの圧縮弾性率および比例限度を求めたところ、圧縮弾性率は298kPaであり(表1および図1参照)、比例限度は111kPaであった(表1および図2参照)。また、実施例1と同様にして5人の専門パネラーそれぞれに繊維状チーズの食感を評価してもらったところ、5人中4人の専門パネラーが「本実施例に係る繊維状チーズは一口目から柔らかくてほぐれやすい」との評価であった。
【0047】
(比較例1)
繊維状チーズとして市販の繊維状チーズAを購入した。そして、除去対象データを0.03未満の歪みデータを有するデータに設定すると共に比例範囲の閾値を1.5×10に設定し、上述の<圧縮弾性率および比例限度の求め方>に従って本比較例に係る繊維状チーズの圧縮弾性率および比例限度を求めたところ、圧縮弾性率は389kPaであり(表1および図1参照)、比例限度は90kPaであった(表1および図2参照)。また、実施例1と同様にして5人の専門パネラーそれぞれに繊維状チーズAの食感を評価してもらったところ、いずれの専門パネラーも「本比較例に係る繊維状チーズは比較的堅くほぐれにくい」との評価であった。
【0048】
(比較例2)
繊維状チーズとして市販の繊維状チーズBを購入した。そして、除去対象データを0.03未満の歪みデータを有するデータに設定すると共に比例範囲の閾値を1.5×10に設定し、上述の<圧縮弾性率および比例限度の求め方>に従って本比較例に係る繊維状チーズの圧縮弾性率および比例限度を求めたところ、圧縮弾性率は676kPaであり(表1および図1参照)、比例限度は206kPaであった(表1および図2参照)。また、実施例1と同様にして5人の専門パネラーそれぞれに繊維状チーズBの食感を評価してもらったところ、いずれの専門パネラーも「本比較例に係る繊維状チーズは比較的堅くほぐれにくい」との評価であった。
【0049】
【表1】
【0050】
(まとめ)
以上の実施例および比較例の結果から、繊維状チーズの圧縮弾性率および比例限度は、その繊維状チーズの「柔らかさ」および「ほぐれやすさ」と密接に関連していることが明らかとなった。そして、実施例1~3に係る繊維状チーズは、比較例1および2に係る繊維状チーズに比べて一口目から柔らかくてほぐれやすいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る繊維状チーズは、一口目から柔らかくてほぐれやすく、幼児から高齢者まで幅広い世代の方々が心地よく食することができる。

図1
図2