(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153063
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】繊維状チーズおよびその糸ひき性を評価する方法
(51)【国際特許分類】
A23C 19/068 20060101AFI20231005BHJP
G01N 19/04 20060101ALI20231005BHJP
G01N 33/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A23C19/068
G01N19/04 Z
G01N33/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056923
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022057983
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】野村 理衣
(72)【発明者】
【氏名】清水 信行
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC31
4B001BC14
4B001CC01
4B001DC01
4B001EC04
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、引き裂きやすさを保ちつつ引裂かれた際の糸ひき性が良好である繊維状チーズを提供することにある。
【解決手段】本発明に係る繊維状チーズは、一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における時間に対する力の傾きが50mN/秒以上500mN/秒以下の範囲内である。また、本発明に係る繊維状チーズは、一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における力の平均値が2000mN以下であることが好ましく、300mN以上2000mN以下の範囲内であることがより好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における時間に対する力の傾きが50mN/秒以上500mN/秒以下の範囲内である
繊維状チーズ。
【請求項2】
一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における力の平均値が2000mN以下である請求項1に記載の繊維状チーズ。
【請求項3】
一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における力の平均値が300mN以上2000mN以下の範囲内である
請求項2に記載の繊維状チーズ。
【請求項4】
真空包装方法、ガス置換包装方法、脱酸素剤を含める包装方法のいずれかの包装方法で包装されている
請求項1から3のいずれか1項に記載の繊維状チーズ。
【請求項5】
繊維配列方向が水平になるように台に固定された繊維状チーズの上側部位の繊維配列方向の片方の端から水平方向に沿って切込みを入れる第1ステップと、
前記切込みより上側の部位を把持具に把持させる第2ステップと、
前記把持具を上方に向かって一定速度で引き上げながら、時間に対して前記把持具にかかる力を計測する第3ステップと、
前記時間に対する前記力の傾きを求める第4ステップと
を備える、繊維状チーズの糸ひき性を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状チーズに関する。また、本発明は、繊維状チーズの糸ひき性を評価する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
過去に繊維状チーズについて研究がなされていると共に、種々の繊維状チーズに係る発明が開示されている(例えば、以下の[先行技術文献]の欄に掲載の先行技術文献参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】木村利昭、「ストリングチーズにおけるカゼインサブミセルの構造に関する電子顕微鏡的研究」、Snow Brand R&D Report、1994年
【非特許文献2】井筒雅、「裂けるチーズのレオロジー」、日本バイオレオロジー学会誌、第19巻、第2号、2005年、第10-23頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年上市されている繊維状チーズは比較的硬いものが多く、引き裂きやすいが、引き裂かれた際に生じる糸ひきの量が少ない。このような繊維状チーズは、一般的に硬い食感となることが多い。
【0006】
本発明の課題は、引き裂きやすさを保ちつつ引裂かれた際の糸ひき性が良好である繊維状チーズを提供することにある。また、本発明の別の課題は、繊維状チーズの糸ひき性をより正確に評価することができる新たな方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における時間に対する力の傾きが特定の値以上の値を示す繊維状チーズが、引き裂きやすさを保ちつつ糸ひきした量(本数)が多めとなる、すなわち良好な糸ひき性を示すことを見出し、本発明を完成させた。なお、本発明において、繊維状チーズとは、チーズカードを、加温等の工程を経て一定の延伸をかけて棒状又は板状に成形し、冷却・固化することにより得られるチーズであり、手で裂くと一定方向に糸状に細く裂けるチーズである。なお、このような繊維状チーズは、市場においてストリングチーズ等と称されている。また、本発明において、繊維配列方向とは、製造の際においてチーズカードが引き伸ばされる方向をさす。
【0008】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
(1)一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における時間に対する力の傾きが50mN/秒以上500mN/秒以下の範囲内である繊維状チーズ。
【0009】
(2)一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における力の平均値が2000mN以下である(1)に記載の繊維状チーズ。
【0010】
(3)一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における力の平均値が300mN以上2000mN以下の範囲内である(2)に記載の繊維状チーズ。
【0011】
(4)真空包装方法、ガス置換包装方法、脱酸素剤を含める包装方法のいずれかの包装方法で包装されている(1)から(3)のいずれか一つに記載の繊維状チーズ。
【0012】
上記別の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、繊維配列方向が水平になるように台に固定された繊維状チーズの上側部位の繊維配列方向の片方の端から水平方向に沿って切込みを入れる第1ステップと、前記切込みより上側の部位を把持具に把持させる第2ステップと、前記把持具を上方に向かって一定速度で引き上げながら、時間に対して前記把持具にかかる力を計測する第3ステップと、前記時間に対する前記力の傾きを求める第4ステップとを備える、繊維状チーズの糸ひき性を評価する方法を見出し、本発明を完成させた。なお、把持具が上方に向かって引き上げられる際、引き上げ方向が繊維状チーズの繊維配列方向に対して常に垂直になるように繊維状チーズが引き上げられる。
【0013】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
(5)繊維配列方向が水平になるように台に固定された繊維状チーズの上側部位の繊維配列方向の片方の端から水平方向に沿って切込みを入れる第1ステップと、前記切込みより上側の部位を把持具に把持させる第2ステップと、前記把持具を上方に向かって一定速度で引き上げながら、時間に対して前記把持具にかかる力を計測する第3ステップと、前記時間に対する前記力の傾きを求める第4ステップとを備える、繊維状チーズの糸ひき性を評価する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る繊維状チーズは、引き裂きやすさを保ちつつ引裂かれた際に良好な糸ひき性を示す。本発明に係る繊維状チーズの糸ひき性を評価する方法は、従前の方法よりもより正確に繊維状チーズの糸ひき性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1~5ならびに比較例1および2においてテクスチャ―アナライザーを用いて各繊維状チーズの引裂力を測定した際のチャートである。
【
図2】時間に対する引裂力の傾きと糸ひき性の相関性を示すグラフである(実施例1~5ならびに比較例1および2に係る繊維状チーズの時間に対する引裂力の傾きに対して糸ひき性の平均点をプロットしたものである。)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、いわゆるパスタフィラータ(pasta filata)の一種であり、チーズカードを加温する等の工程を経てそのチーズカードに対して一定の延伸をかけてチーズカードを棒状または板状に成形した後に、その成形物を冷却・固化することにより得られるチーズである。また、この繊維状チーズは、ストリングチーズ、さけるチーズ(登録商標)などと称されるチーズであって、手で裂くと一定方向に糸状に細く裂ける。
【0017】
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズにおいて、水分含量は35質量%以上60質量%以下の範囲内であることが好ましく、40質量%以上55質量%以下の範囲内であることがより好ましく、41質量%以上53質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、42質量%以上52質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。また、この繊維状チーズにおいて、タンパク質含量は10質量%以上35質量%以下の範囲内であることが好ましく、12質量%以上30質量%以下の範囲内であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、20質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。また、この繊維状チーズは、タンパク質の一例としてホエイタンパク質を含むことができる。ホエイタンパク質の含有質量に対するカゼインの含有質量の比は4以上80以下の範囲内であることが好ましく、4以上20以下の範囲内であることがより好ましい。また、この繊維状チーズにおいて、脂肪含量は10質量%以上40質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以上35質量%以下の範囲内であることがより好ましく、17質量%以上33質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、18質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0018】
また、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における時間に対する力の傾きが50mN/秒以上500mN/秒以下の範囲内である。なお、この傾きは大きければ大きいほど好ましく、100mN/秒以上500mN/秒以下の範囲内であることが好ましく、200mN/秒以上500mN/秒以下の範囲内であることがより好ましく、300mN/秒以上500mN/秒以下の範囲内であることがさらに好ましく、400mN/秒以上500mN/秒以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0019】
また、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における力の平均値が300mN以上2000mN以下の範囲内であることが好ましい。また、この力の平均値は、400mN以上1800mN以下の範囲内であることが好ましく、600mN以上1600mN以下の範囲内であることがより好ましく、600mN以上800mN以下の範囲内であることがさらに好ましく、800mN以上1200mN以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0020】
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、上記物性を示すことから従前の繊維状チーズの引裂きやすさを保ちつつ引裂かれた際に良好な糸ひき性を示す。
【0021】
ところで、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、いわゆるパスタフィラータプロセスを経て製造される。パスタフィラータプロセスとは、適切なpHでチーズカードを加熱しながら大きな塊がなくなるまでそのチーズカードを捏ね上げた後に、その物性が滑らかになるまで混練して展延するか、混練後にそのチーズカードを延伸して冷却固形化するプロセスである。
【0022】
なお、チーズカードは、原料乳に乳酸菌スターター等を加えて原料乳を酸性にし、その酸性の原料乳に凝固剤を添加した後、凝固した原料乳からホエイを排出して調製される。
【0023】
原料乳は、一般的にナチュラルチーズの製造に用いられているものであれば特に制限はなく、ウシ、水牛、羊、ヤギ等の乳を使用することができる。原料乳は、風味の観点から牛乳または水牛乳であることが好ましい。また、原料乳としては、生乳、全乳、脱脂乳、部分脱脂乳もしくはこれらの混合物、または、これらとクリーム、ホエイクリーム、バターミルク、限外濾過濃縮物、脱脂粉乳、酸カゼイン、乳タンパク質濃縮物(MPC)、乳糖とのいかなる混合物をも使用することができ、必要に応じて殺菌処理や脂肪調整した乳を用いることができる。また。この生乳に所定の倍率に調節した脱脂粉乳や乳脂肪に、植物油を少量、加えた還元乳を用いることもできる。
【0024】
原料乳は殺菌処理されることが好ましい。原料乳の殺菌方法としては、一般的に低温保持殺菌法(62~65℃で30分間以上保持する方法(LTLT法))、高温短時間殺菌法(72~75℃で15秒間以上保持する方法(HTST法))、超高温加熱処理法(120~150℃で1~5秒間保持する方法(UHT法))等が知られているが、ホエイタンパク質が熱変性しない加熱条件とすることが好ましい観点からHTST法が特に好ましい。
【0025】
ところで、殺菌した原料乳を限外ろ過(UF)膜で限外ろ過することによって原料乳中のタンパク質を濃縮することも好ましい。その際の濃縮倍率は2~8倍であることが好ましく、3~6倍であることがより好ましい。所望の濃縮倍率が得られない場合は濃縮後の原料乳に対して脱脂粉乳を添加してタンパク質の濃度を所望の水準まで上げてもよい。さらに、チーズカード中の脂肪の歩留りを向上すると共にホエイへの脂肪の流出を防ぐために、予め生乳、あるいはクリームに含まれる脂肪を均質化することが有効である。具体的には、クリームを60℃以上に加熱し、高圧ホモゲナイザーを用いて均質化し、冷却後濃縮脱脂乳に混合するとよい。均質化の際、脂肪の乳化を促進させるために、カゼイン、ホエイタンパク質濃縮物(WPC,WPI)、乳タンパク質濃縮物(MPC)等のタンパク質素材を少量添加すると好適である。
【0026】
殺菌後の原料乳を、乳酸菌スターターに適した温度に冷却してから、同原料乳に乳酸菌スターターを所定量添加し、乳酸菌スターターを同原料乳に均一に混合し、同原料乳を乳酸菌の生育温度に保持して同原料乳を発酵させる。乳酸菌の生育温度は中温菌スターターであれば25~35℃であることが好ましく、高温菌スターターであれば35~45℃であることが好ましいが、風味や作業時間の観点で調整することができる。乳酸菌は、ナチュラルチーズで使用することができる乳酸菌であればよく、その属および種は任意であり、例えば、ラクチス菌、クレモリス菌、ブルガリア菌、サーモフィラス菌などの公知の乳酸菌を挙げることができる。乳酸菌スターターの添加量は、バルクスターターであれば原料乳に対して0.5~2.0質量%とすることが好ましい。乳酸菌スターターを原料乳に直接投入する場合、乳酸菌スターターの販売者の使用書に従うことが好ましい。また、乳酸菌スターターの添加時に、有機酸、乳酸、クエン酸、りんご酸、酢酸、リン酸を添加して原料乳のpHを調整してもよい。乳酸菌スターターを添加することなく有機酸を加えて原料乳のpHを調整してもよい。凝乳された原料乳すなわちチーズカードのpHは、4.0以上7.0以下の範囲内であることが好ましく、4.8以上6.7以下の範囲内であることがより好ましく、5.0以上6.0以下の範囲内であることがさらに好ましい。得られるチーズカードを軟らかくしたい場合は、同pHを5.1以上5.4以下の範囲内とすることが好ましい。
【0027】
凝固剤としては、例えば、レンネット、キモシン、または、カッパ-カゼインをパラ・カッパ-カゼインに変換することが可能なあらゆる他の好適な酵素が挙げられる。凝固剤は、一般的に原料乳に対して0.01~0.03質量%程度の量を水に溶かした後に濾過して用いられる。なお、凝固剤としてレンネットが用いられる場合、レンネットの添加量は、20~40分程度で原料乳を凝乳させるのに必要な量とする。すなわち、製造条件やレンネットの種類によって、添加量を適宜選択することが可能である。一般的には、原料乳に対して0.01~0.03質量%程度のレンネットを水に溶解して濾過したものを、発酵液中に均一に分散させる。
【0028】
なお、原料乳を発酵し、その発酵した原料乳をレンネットで凝固させてホエイを除いて得られたチーズカードをそのまま用いてもよい。また、そのようにして得られたチーズカードを一旦凍結してもよい。凍結方法は、一般的なチーズカードの冷凍方法であってよいが、急速冷凍が好ましい。冷凍の保管温度は-20℃以下であり、-50℃以下であることが好ましく、さらに長期間保存する場合は-80℃以下とすることが好ましい。本発明では、市販の凍結チーズカードを解凍し、その解凍チーズカードの一部または全部を用いてもよい。
【0029】
得られたチーズカードを直ちに混練してもよいし、凍結保管してもよいし、冷蔵保管してもよい。なお、チーズカードを凍結保管あるいは冷蔵保管する際、チーズカードの食塩濃度が1%未満であると、チーズカードの保管温度が高いほど、保存期間が長引くほど、得られる繊維状チーズの糸ひき性が失われやすくなることに留意すべきである。
【0030】
また、チーズカードを凍結保管した場合、凍結したチーズカードを解凍した後に、そのチーズカードに食塩を加えて、食塩濃度を1~6%として15℃以下で3週間まで保管することもできる。加塩方法としては、裁断したチーズカードに乾塩を混合する方法、食塩含有溶液にチーズカードを浸漬するか、または、食塩含有溶液をチーズカードに噴霧して加塩する方法が挙げられる。15%以上の食塩含有溶液をチーズカードに噴霧するか、チーズカードを食塩濃度15重量%以上の食塩含有溶液に5分~6時間浸漬することで食塩含量が1~5重量%のチーズカードを得ることができる。
【0031】
チーズカードを解凍する方法については特に制限はないが、5℃以下の条件でゆっくりと解凍することが望ましい。これは、例えば温湯中など、高温条件下で解凍した場合、氷結晶が解凍するとともに、チーズカード中の脂肪が流出することがあるためである。チーズカード中の脂肪が流出すると、チーズが縮んで、できあがる繊維状チーズが硬くなってしまい好ましくない。できあがる繊維状チーズを柔らかくするには4~5℃での解凍が好ましく、1~3℃での解凍がより好ましい。
【0032】
できあがったチーズカードは、任意のカッターで裁断するのが好ましい。その後の混練工程でチーズカードの温度が上昇しやすいように、表面積の大きい形状にすることが好ましい。裁断されたチーズカードの小片を混合しながら、チーズカードのpHが調整される。チーズカードのpHは5.3~5.6に調整されることが好ましい。チーズカードのpHは、乳酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、酢酸、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウムなどの有機酸で調整されるのが好ましい。なお、上記のpH調整剤の中でも乳酸、クエン酸、水酸化ナトリウムが特に好ましい。このpH調整により繊維状チーズの風味や外観が良好となる。
【0033】
チーズカードを加熱する方法として、例えば、内部加熱方式(ジュール加熱方式、マイクロウエーブ加熱方式)、温水や蒸気をジャケットなどに通水しながら加熱する間接加熱方式、75~90℃の熱水を加える直接加熱方式が挙げられる。同方法としては、ジュール加熱方式または間接加熱方式が好ましい。乳成分の流出が抑えられるからである。また、本発明に係る繊維状チーズに香気成分が含まれている場合、香気成分の流出も抑えられるため好ましい。かかる場合、例えば、スチームストレッチャーを利用することにより香気成分の含量を維持することができると共に、チーズカードに香気成分を均一に混合することができて好ましい。また、加熱温度は、チーズカードの温度が55℃~80℃となる温度であることが好ましく、60℃~75℃程度となる温度であることがより好ましい。チーズカードの混練は、例えば2軸のエクストルーダーやストレッチャーによって行うことができる。
【0034】
チーズカードを加熱混練した後に混練チーズカードを延伸することで、繊維状チーズに引裂性を付与することができる。混練チーズカードを延伸する方法としては、例えば、混練チーズカードを一定方向に引っ張る方法、巻取りしながら圧延する方法、一定速度で押出す方法が挙げられる。なお、先の3つの延伸方法が組み合わされてもよい。できあがる繊維状チーズの引裂性や物性に応じて延伸方法を選択すればよい。延伸倍率は、巻取りローラーの個数、巻取りローラーの回転速度によって調節することができる。なお、繊維状チーズを連続的に製造することができる点で押出延伸法を採用することが好ましい。延伸時のチーズカードの温度は58~75℃になることが好ましく、60~70℃になることがより好ましい。
【0035】
延伸した混練チーズカード(すなわち繊維状チーズ)は、そのまま、あるいは棒状、板状、ひも状、糸状、フィルム状等の種々の形態に種々の手段を用いて成形し、必要に応じて所望の長さに切断される。得られた繊維状チーズは、典型的には繊維配列方向に1~20cmの長さで切断する。繊維状チーズの典型的な形態としては丸棒状である。
【0036】
上述の通りして得られた繊維状チーズを速やかに40℃以下に冷却することで繊維状チーズの引裂性を高めることができる。かかる場合、冷却媒体として液化ガス、水、食塩水など用いることができる。この冷却媒体を用いて繊維状チーズを冷却する方法としては、冷却冷媒を繊維状チーズに噴霧する方法、繊維状チーズを冷却冷媒に浸漬する方法、冷却施設で冷却冷媒を繊維状チーズに送風する方法などが挙げられる。これらの方法は単独で実施されてもよいし、組み合わせて実施されてもよい。得られた繊維状チーズを冷却し、その冷却した繊維状チーズを切断して包装する。なお、このような冷却は延伸工程後に行われてもかまわない。また、繊維状チーズは、冷凍されもよい。繊維状チーズを冷凍することによって繊維状チーズの引裂性を維持することができる。
【0037】
できあがった繊維状チーズは、必要に応じて濃厚食塩水(ブライン)に浸漬する。チーズカードの状態での加塩量が多い場合には、このブライン浸漬を省略することができる。繊維状チーズの形状や大きさにもよるが典型的には10℃の飽和食塩水または20%食塩水に10分間~2時間ほど繊維状チーズを浸漬する。その後、除水した後に繊維状チーズを包装する。
【0038】
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズを包装する方法としては、例えば、真空包装、ガス置換包装、脱酸素剤の封入、脱酸素包材による包装などが挙げられる。真空包装では、内圧が3kPa以上15kPa以下の範囲内になるように繊維状チーズを包装する。ガス置換包装では、繊維状チーズが入れられた包装材の内部を不活性ガスで置換すればよい。繊維状チーズを上述のいずれかの方法で個包装することで食する直前まで、カビなどの微生物の繁殖をより抑制することができる。
【0039】
なお、混練チーズカードの延伸以降に、混練チーズカードあるいは繊維状チーズを凍結する段階を設けてもよい。凍結は、延伸以降であればいつでもよく、延伸の直後、加塩の直後でもよい。また、混練チーズカードあるいは繊維状チーズを解凍したうえで充填・包装してもよいし、混練チーズカードあるいは繊維状チーズを凍結させずに充填・包装した後に凍結させてもよい。また、延伸処理後、包装前に混練チーズカードあるいは繊維状チーズを凍結し、解凍してから充填・包装してもよいし、充填・包装後に繊維状チーズを凍結してもよい。凍結方法は、氷結晶を形成することができればどのような凍結方法でもよく、例えば、-5℃以下の温度帯で凍結させる方法が挙げられる。凍結後、解凍するまでの時間には特に制限はない。なお、混練チーズカードあるいは繊維状チーズを凍結状態にすることによって混練チーズカードあるいは繊維状チーズを長期間(例えば1年間)保存することが可能となる。
【0040】
凍結後、混練チーズカードあるいは繊維状チーズを解凍する方法については特に制限はないが、3~10℃の温度環境下で解凍することが好ましい。高い温度帯では混練チーズカードあるいは繊維状チーズから脂肪が流出し、できあがる繊維状チーズが固くなるという問題が生じるからである。
【0041】
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズのpHは、特に限定されず、所望のチーズの性質に応じて適宜設定することができる。糸ひき性の維持、保存性、直食時の風味の良好さからこの繊維状チーズのpHは5.0以上5.7以下の範囲内であることが好ましい。
【0042】
繊維状チーズは所望の形状とすることができる。例えば、一層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。なお、繊維状チーズが多層構造を有する場合、一方向のみならず、多層を渦巻状にしてもよいし、捻じって多層を絡ませてもよい。
【0043】
また、引裂きやすさの観点から、繊維状チーズは一方向に延伸されることが好ましい。なお、繊維状チーズが多層構造を有する場合、各層が同方向に延伸されそれらの層が張り合わされるのが好ましい。
【0044】
また、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、ナチュラルチーズまたはプロセスチーズ類であってもよい。
【0045】
本発明の実施の形態に係るプロセスチーズ類とは、プロセスチーズ、チーズフード、乳等を主原料とする食品を指す。プロセスチーズおよびチーズフードを製造する際、チーズカードに溶融塩などの乳化剤を添加して混合することが必要である。溶融塩としてはリン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩など、通常のプロセスチーズ製造に用いられている溶融塩を使用することができる。溶融塩の化合物の種類としては、特に限定されないが、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カルシウム等が挙げられ、これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その添加量はチーズの合計量(100質量%)に対して、0.05~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましい。なお、過剰な溶融塩の添加は、繊維状チーズの糸ひき性などの性質を低下させる。
【0046】
また、本発明の実施の形態では、添加物として、乳化剤が添加されてもよい。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベートが挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステル、酵素処理レシチン、ポリソルベートは、加熱混練時にチーズカードからオイルや乳化物が分離することがないため好ましい。その添加量は繊維状チーズの質量(100質量%)に対して、0.1~3質量%であることが好ましい。なお、過剰な溶融塩の添加は、繊維状チーズの糸ひき性などの性質を低下させる。
【0047】
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズには、必要に応じて、任意の成分や食品添加物が添加されてもよい。そのような成分としては、例えば、水、食塩、炭水化物、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、果汁、風味物質(フレーバー)、機能性成分、チーズ酵素処理物等、通常の食品に含まれる成分等が挙げられる。ここで、炭水化物としては、デキストリンのほか可溶性澱粉、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル、食物繊維(セルロース等)などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂、リン脂質などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロテン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられる。ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。風味物質(フレーバー)としては、例えば、香辛料、ハーブ、調味料(食塩を除く)、くん液などが挙げられる。機能性成分としては、例えばオリゴ糖、グルコサミン、コラーゲン、セラミド、ローヤルゼリー、ポリフェノール、脂肪酸アミド、乳酸菌、ビフィズス菌、ペプチド、ミルクタンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC、WPI)、チーズ酵素処理物、アミノ酸などが挙げられる。食品添加物として、例えば、乳化剤、溶融塩、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、甘味料、酸味料、保存料、抗酸化剤、pH調整剤、着色剤、香料などが挙げられる。なお、これらの成分は、単体で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。また、上述の成分は、天然物、天然物加工品、合成品および/またはこれらを多く含む食品のいずれであってもよい。また、そのような食品添加物としては、具体的には例えば、乳化剤、溶融塩、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、甘味料、酸味料、保存料、抗酸化剤、pH調整剤、着色剤、香などが挙げられる。なお、このような食品添加物は、チーズカードの混練時にチーズカードに混ぜ込まれるのが好ましい。なお、繊維性チーズのpHを5.4以下にする場合は、チーズカードにホエイタンパク質濃縮物を添加することが好ましい。
【0048】
安定剤は、公知の役割を果たすものであれば、いずれのものでも使用することができるが、例えば、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、カルボキシメチルセルロース、寒天、ゼラチン等である。また、また、安定剤は、最終製品の脂肪分離の防止、最終製品の硬度の調整にも役立つ場合がある。安定剤は、有効な量だけ含有すればよいが、例えば、繊維状チーズに対して0.05~0.3質量%含まれると好ましい。
【0049】
保存料としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ナイシン、ナタマイシン、エタノール等が挙げられる。この保存料は1種のみ用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。保存料は、有効な量だけ含有すればよいが、例えば、繊維状チーズに対して0.07~0.25重量%含まれると好ましい。
【0050】
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズには、旨味、甘味、酸味、塩味および辛味等の味を付けることを目的として、調味料を添加することもできる。調味料は可食性成分であればよく、特に制限されるものではない。調味料としては、例えば、基礎調味料(例えば、砂糖、塩、酢、醤油、味噌、酒、みりん等)、うまみ調味料(例えば、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸系調味料、イノシン酸、イノシン酸二ナトリウム等の核酸系調味料など)、エキス(出汁)(例えば、畜肉エキス、魚介エキス、野菜エキス)が挙げられる。また、調味料として油脂成分、香辛料、唐辛子、ハーブ、食塩、旨み成分が挙げられる。調味料は、繊維状チーズに対して0.01~10.0質量%添加することができる。なお、調味料を繊維状チーズに含有させる方法としては、注入や浸漬などが挙げられる。
【0051】
また、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズには、例えば、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、クルミ、ゴマなどの種実類、ブドウ、マンゴー、いちご、パイナップル、りんご、キウイ、オレンジ、クランベリーなどの乾燥した果実類または乾燥した果実の皮類、トマト、ルバーブ、ガーリックなど乾燥した野菜類、ベーコン、ソーセージなどの肉類、ホタテ、たらこなどの魚介・魚卵類などが添加されてもよい。かかる場合、添加物は、単独で添加されてもよいし、2種以上を組み合わせて添加されてもよい。
【0052】
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズはくん製処理されてもよい。燻煙処理は、公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されない。燻煙材としては、公知の木材、その他の材料を適宜使用することができる。燻煙材としては、具体的にはブナ、なら、桜、リンゴ、クルミ、シラカバ等が挙げられる。これらの燻煙材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。燻煙材の形状は特に限定されず、おがくず状、チップ状、押し固めた固形状等、様々な形状のものであってよい。また、燻煙の方式も特に限定されず、公知の方式も適宜用いることができる。そのような方式としては、例えば、燻煙発生装置によって発生させた燻煙を燻煙室に導入して燻煙処理を行うジェネレーター方式や、直火方式が挙げられる。燻煙状態をより安定に維持しやすく、また燻煙処理の条件設定の自由度が高い点でジェネレーター方式が好ましい。
【0053】
また、燻煙処理の条件は、燻煙処理される粒状チーズ類の物性、および得ようとする繊維状スモークチーズの外観や風味に応じて設定することが好ましい。例えば、繊維状チーズをジェネレーター方式で燻煙処理する場合、燻煙の温度(設定温度)は10~90℃の範囲内であることが好ましく、25~60℃の範囲内であることがより好ましい。燻煙の温度(設定温度)とは燻煙室内の雰囲気温度を意味する。燻煙の温度が上記下限値以上であると、チーズ類にスモークによる風味が十分に付与されやすい。一方、燻煙の温度が上記上限値以下であると、粒状チーズ類が燻煙処理中に溶けて合一したり、オイルオフが生じたりするのを防止しやすく、良好な状態で燻煙処理を行いやすい。燻煙処理時間は5~180分間の範囲内、好ましくは30~120分間の範囲内であり、得ようとするスモークの程度に応じて設定することが好ましい。
【0054】
また、繊維状チーズのチーズ風味を増強するために、チーズカードに乳酸菌、プロテアーゼ類、およびリパーゼ類等を加えて反応させるチーズ酵素処理物を添加することができる。また、チーズ風味を増強する素材として、ラクターゼ産生微生物と乳酸菌とを用いたチーズ様製品、ラクトバチルス・ヘルベティカス酵素を用いた酵素分解したチーズを挙げることができる。さらに、使用する乳酸菌を酸で菌体破砕処理し、得られた菌体破砕処理物を、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、リパーゼといった酵素とともに、原料乳に加えて反応させるチーズ風味組成物をチーズカードに添加することもできる。上述のチーズ酵素処理物、酵素分解チーズ、チーズ風味組成物は、繊維状チーズに対して0.001~1質量%程度で添加することが好ましい。
【0055】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、実施例によって限定されることはない。
【実施例0056】
1.繊維状チーズの作製
生乳に乳酸菌(ラクティス菌、サーモフィラス菌)および酵素(レンネット)を添加して凝乳させた後に、カッティングホエイ排出を行ってチーズカードを作製した。次に、このチーズカードに乳酸を添加して、そのpHを5.3に調整した。なお、このチーズカードの水分含量は43質量%であり、脂肪は26質量%であり、タンパク質は25質量%であった。次いで、pHを調整したチーズカード(以下「pH調整チーズカード」と称する場合がある)3200g、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)200g、食塩20gおよびチーズ分解酵素物40gを二軸ニーダー(株式会社入江商会社製 型番PN-5)に投入した後、同原料投入室に2℃のチルド水をジャケット循環させ、冷却しながらそれらの原料を0.2時間、混練して一次混練物を調製し、その一次混錬物をMicra Therm(GoldPeg社製)に投入し、そのMicra Thermに100℃近い蒸気を投入しながら、一次混練物を70℃程度に加温した。続いて、一次混練物を株式会社入江商会社製の二軸ニーダーに投入し、一次混練物を70℃で保温しながら15分間混練して二次混練物を得た。その後、二次混練物を伏虎金属工業株式会社製の押出成型機に投入し、その押出成形機により二次混練物を直径14mmの管から吐出させた後、その吐出物を2℃の冷水に浸漬し、吐出物の温度が40℃を切った時点でその吐出物を100mmにカットし、目的の繊維状チーズを得た。なお、この繊維状チーズにおいて水分含量は48.2質量%であり、脂肪含量は22.3%であり、タンパク質含量は24.8%であり、pH(直接法)は5.35であった。なお、水分含量は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルの「第1章 一般成分及び関連成分」に記載の「常圧加熱乾燥法 乾燥助剤添加法」(P2-P3)に従って測定した。また、タンパク質含量は、同章に記載の「マクロ改良ケルダール法」(P12-P16)に従って測定した。また、脂肪含量は、同章に記載の「酸・アンモニア分解法」(P24-P25)に従って測定した。また、このpHは、回転数を10000rpmに設定したホモジナイザー(日本精機株式会社製エクセルオートホモジナイザー)で5分間、繊維状チーズを粉砕した後、その粉砕物にpH測定器(ニッコーハンセン株式会社製pH spear)のプローブを突き刺して測定した。
【0057】
(2)繊維状チーズの引裂特性評価
英弘精機株式会社製のテクスチャ―アナライザーTA-XTplusCを用いて繊維状チーズの引裂特性を評価した。具体的には、以下の手順に従って同特性を評価した。
【0058】
繊維状チーズを繊維配列方向に60mmの長さでカットし、試験台に固定する面をつくるために略半円柱にカットした。次に、繊維状チーズの略半円柱の平らな底面を下にして試験台に置き(すなわち、繊維配列方向が水平となるように置き)、上端から5mmの位置にナイフを水平に入れてそのまま軸方向(すなわち繊維配列方向)に沿って10mmの切込みを入れた。次に、その姿勢を保ちつつその繊維状チーズを瞬間接着剤(コニシ株式会社製アロンアルファプロ)で略半円柱の平らな底面をテーブルに貼り付けて3分間固定した後、切込み部分の端から2mmの部分をテクスチャ―アナライザーTA-XTplusCの治具で挟み込んだ。切込みから上側の部位をテクスチャ―アナライザーTA-XTplusCの治具(すなわち把持具)でその厚みが2mmになるまで挟み込んだ後に、その治具を、繊維状チーズの切込み側の反対側に向かって10mm/秒で移動させながら繊維状チーズの上方向に10mm/秒で引きあげて繊維状チーズを引き裂き、その引き裂きにかかった力(引裂力)をロードセルによって計測した。すなわち、このテクスチャ―アナライザーでは、治具は繊維配列方向に対して斜め45°の上方向に沿って移動させられる。また、把持具がこのようにして引き上げられる際、引き上げ方向が繊維状チーズの繊維配列方向に対して常に垂直になるように繊維状チーズが引き上げられる。そして、引裂力が安定した領域である1.5~3.5秒間の測定結果を用いて最小自乗法により時間に対する引裂力の傾きを求めると共に、引裂力の平均値を求めたところ、その傾きは196.6mN/秒であり、平均値は790.2mNであった(表1および
図1参照)。
【0059】
(3)繊維状チーズの引裂性および糸ひき性の評価
繊維状チーズを長さ3cmにカットし、7人の専門パネラーそれぞれにその繊維状チーズを幅方向中央部分で3回引き裂いてもらった後に、各専門パネラーに以下の基準でその繊維状チーズの引裂性(引裂きやすさ)を評価してもらい、その平均値を評価点とした。その結果、本実施例に係る繊維状チーズの引裂性の評価点は4.7点であった。
【0060】
(引裂性の評価基準)
・引裂こうとすると簡単にちぎれる:1点
・引裂くために強い力をかけるとちぎれる:2点
・引裂く力を必要とするが、一定方向に引裂くことができる:3点
・起点を作るのに力は必要だが、一定方向に引裂くことができる:4点
・ほとんど力を要せずに楽に引裂くことができる:5点
なお、力の強弱については、事前に予め作製した引裂性の異なる複数種類のサンプルを専門パネラーらに何度か引き裂いてもらって彼らの認識を合わせてもらった。また、本発明の実施例において「引裂きやすい繊維状チーズ」と言えるのは、評価点が4点以上である繊維状チーズである。
【0061】
また、各専門パネラーに先の繊維状チーズの引裂箇所を観察してもらって以下に示す基準で繊維状チーズの糸ひき性を評価してもらい、その平均値を評価点とした。その結果、本実施例に係る繊維状チーズの糸ひき性の評価点は4.9点であった。
【0062】
(糸ひき性の評価基準)
・糸ひきが全くみられない:1点
・糸ひきはみられるが、幅1mmの太いチーズ糸しかみられない:2点
・幅1mm以上の太いチーズ糸と、幅1mm未満の細いチーズ糸が混在している:3点
・幅1mm以上の太いチーズ糸はみられず、幅1mm未満の細いチーズ糸が14本以下みられる:4点
・幅1mm以上の太いチーズ糸はみられず、幅1mm未満の細いチーズ糸が15本以上みられる:5点
なお、本発明の実施例において「糸ひき量が多め(糸ひき性が良好)である繊維状チーズ」と言えるのは、評価点が3点以上である繊維状チーズである。
【0063】
(4)繊維状チーズの硬さの評価
繊維状チーズを長さ3cmにカットした後にその繊維状チーズを寝かして(すなわち、軸方向が水平となる姿勢として)、5人の専門パネラーにその繊維状チーズを上から押してもらうと共にその繊維状チーズをそのまま(引裂かずに)食してもらって以下に示す基準で繊維状チーズの硬さを評価してもらい、その平均点を評価点とした。その結果、本実施例に係る繊維状チーズの硬さの評価点は2.0点であった。
【0064】
(硬さの評価基準)
・柔らかく、食した際に歯に付着する感じがある:1点
・柔らかく、食した際にくちどけがよい:2点
・適度な弾力および食感がある:3点
・硬く、食した際に歯ごたえがある:4点
・硬く、食した際にゴムを食しているような感じがある:5点
なお、上記基準については、事前に予め作製した硬さの異なる複数種類のサンプルを専門パネラーらに何度か押してもらうと共に食してもらって彼らの認識を合わせてもらった。
ホエイタンパク質濃縮物を添加しなかった以外は、実施例1に記載の作製方法と同じ作製方法で繊維状チーズを作製し、実施例1に記載の特性評価方法と同じ方法でその繊維状チーズの特性を評価した。