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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153068
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】繊維状チーズ
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/068 20060101AFI20231005BHJP
   A23C 19/084 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 3/00 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 3/3418 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 3/3409 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A23C19/068
A23C19/084
A23L3/00 101Z
A23L3/3418
A23L3/3409
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056944
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022057977
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】野村 理衣
【テーマコード(参考)】
4B001
4B021
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC20
4B001AC45
4B001AC99
4B001BC03
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC11
4B001BC12
4B001BC13
4B001BC99
4B001DC01
4B001EC01
4B001EC04
4B001EC99
4B021LA02
4B021LP08
4B021LP10
4B021LW05
4B021MC01
4B021MC02
4B021MP06
4B021MP10
4B021MQ02
4B021MQ03
4B021MQ05
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、チーズ特有の複雑な風味を有しながらも、糸ひき性の劣化を遅くすることができる繊維状チーズを提供することにある。
【解決手段】本発明に係る繊維状チーズは、0.6質量%以上3.5質量%以下の範囲内のβ-ラクトグロブリンと、3μm以上の平均直径を有する脂肪球とを含有し、脂肪球の直径の変動係数が0.3以上である。また、本発明に係る繊維状チーズは、10℃で60日保存した時点の配向扁平度が、保存開始時点における配向扁平度の半分よりも大きいことが好ましい。
【選択図】図9

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.6質量%以上3.5質量%以下の範囲内のβ-ラクトグロブリンと、
3μm以上の平均直径を有する脂肪球と
を含有し、
前記脂肪球の直径の変動係数が0.3以上である
繊維状チーズ。
【請求項2】
10℃で60日保存した時点の配向扁平度が、製造日における配向扁平度の半分よりも大きい、請求項1に記載の繊維状チーズ。
【請求項3】
10℃で保存されている間の配向扁平度の変化割合が-0.010/日以上0/日以下の範囲内である、請求項1または2に記載の繊維状チーズ。
【請求項4】
直食用である、請求項1または2に記載の繊維状チーズ。
【請求項5】
不活性ガスを含める包装方法で包装されている、請求項1または2に記載の繊維状チーズ。
【請求項6】
真空包装されている、請求項1または2に記載の繊維状チーズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状チーズに関する。
【背景技術】
【0002】
従前から繊維状チーズについて種々提案されている(例えば、特開平2-023830号公報等参照)。繊維状チーズは、裂くことができるチーズであって、製造時に延伸された方向に力をかけた際に真っ直ぐに一定方向に裂け、その裂け目に細かい糸状物が生じる(以下、この現象を「糸ひき」と称する場合がある。)。このような繊維状チーズの中でも、裂いた際に細かい糸状物が生じるもの(すなわち、糸ひき性が良好なもの)が見栄えもよく一般消費者に好まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-023830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、チーズとしては、地場工場等において手作りされるチーズのように複雑な風味を有するものが一般消費者に好まれる。このように複雑な風味を有する要因の一つとして、チーズの脂肪球の大きさが不均一であることが挙げられる。しかし、繊維状チーズにおいて脂肪球の大きさが不均一であると、糸ひき性の劣化が早くなってしまう。
【0005】
本発明の課題は、チーズ特有の複雑な風味を有しながらも、糸ひき性の劣化を遅くすることができる新たな繊維状チーズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が鋭意検討した結果、0.6質量%以上3.5質量%以下の範囲内のβ-ラクトグロブリンと、3μm以上の平均直径を有する脂肪球とを含有し、脂肪球の直径の変動係数が0.3以上である繊維状チーズにより課題が解決されることを見出して本発明を完成させた。なお、本発明において、繊維状チーズとは、チーズカードを、加温等の工程を経て一定の延伸をかけて棒状又は板状に成形し、冷却・固化することにより得られるチーズであり、手で裂くと一定方向に糸状に細く裂けるチーズである。なお、このような繊維状チーズは、市場においてストリングチーズ等と称されている。
【0007】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
(1)
0.6質量%以上3.5質量%以下の範囲内のβ-ラクトグロブリンと、
3μm以上の平均直径を有する脂肪球と
を含有し、
前記脂肪球の直径の変動係数が0.3以上である
繊維状チーズ。
【0008】
(2)
10℃で60日保存した時点の配向扁平度が、製造日における配向扁平度の半分よりも大きい、(1)に記載の繊維状チーズ。
【0009】
(3)
10℃で保存されている間の配向扁平度の変化割合が-0.010/日以上0/日以下の範囲内である、(1)または(2)に記載の繊維状チーズ。
【0010】
(4)
直食用である、(1)から(3)のいずれか1つに記載の繊維状チーズ。
【0011】
(5)
不活性ガスを含める包装方法で包装されている、(1)から(4)のいずれか1つに記載の繊維状チーズ。
【0012】
(6)
真空包装されている、(1)から(4)のいずれか1つに記載の繊維状チーズ。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態において配向扁平度を算出する配向扁平度算出装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態において配向扁平度の算出処理の流れを示すフローチャートである。
図3】(a)本発明の実施の形態に係る繊維状チーズを撮像して得られる二値化処理前の画像の一例を示す図である。(b)本発明の実施の形態に係る繊維状チーズを撮像して得られる画像を二値化処理した画像の一例を示す図である。
図4図3(b)に示す二値化画像における格子毎の繊維配向性角度を示す図である。
図5】(a)格子毎の繊維配向性角度の相対度数分布を示すヒストグラムである。(b)相対度数分布の各階級の相対度数に対して、繊維配向性角度を偏角とする平面座標に変換した極座標分布および傾斜楕円を示す図である。
図6】(a)配向性を全く持たない画像の一例を示す図である。(b)配向性を全く持たない画像について、従来手法を用いて作成した繊維配向性角度の相対度数分布のヒストグラムである。
図7】(a)図3(b)に示す二値化画像の格子毎の繊維配向性角度の相対度数分布からノイズ除去した後の相対度数分布を示すヒストグラムである。(b)相対度数分布の各階級の相対度数に対して、繊維配向性角度を偏角とする平面座標に変換した極座標分布および傾斜楕円を示す図である。
図8】実施例1に係る保存前試料、および、比較例1に係る保存前試料における脂肪球の直径の相対頻度を示すヒストグラムである。
図9】実施例1に係る保存前試料および保存後試料、ならびに、比較例1に係る保存前試料および保存後試料を保存した際の配向扁平度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<繊維状チーズの製造方法>
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、直食用のナチュラルチーズまたはプロセスチーズ類であって、例えば、チーズカード調製工程、pH調整工程、加熱混練工程、成型工程および冷却工程を経て製造される。以下、これらの工程について詳述する。
【0015】
(1)チーズカード調製工程
このチーズカード調製工程では、生乳に乳酸菌や酵素を添加して生乳を凝乳させてカードを形成した後に、そのカードをカッティングしてそのカードからホエイを排出してチーズカードが調製される。なお、このチーズカードは、そのまま次工程のpH調整工程に供されてもよいし、凍結されて後に凍結状態でpH調整工程に供されてもよい。また、未凍結のチーズカードと凍結状態のチーズカードとの混合物をpH調整工程に供してもよい。
【0016】
(2)pH調整工程
pH調整工程では、チーズカード調製工程で得られたチーズカードに対して、チーズカードのpHを5.0以上5.6以下の範囲内に収めるのに必要な量の有機酸(例えば、乳酸など)が添加されて、チーズカードのpHが5.0以上5.6以下の範囲内に調整される。後工程である加熱混練工程において混練されたチーズカードの乳化安定性を維持すると共に押出成形時などにおいてチーズカードを延伸しやすくするために、そのチーズカードのpHを5.0以上5.5未満の範囲内とすることが好ましく、5.1以上5.5未満の範囲内とすることがより好ましい。さらに、良好な繊維状チーズを得るためには、そのチーズカードのpHを5.2以上5.4以下の範囲内とすることが好ましい。なお、pHを調整したチーズカードを品温0℃以上10℃以下の範囲内の温度(より好ましくは0℃以上5℃以下の範囲内の温度)に保ちながら、そのチーズカードの粒の長径が7mm(より好ましくは5mm)以下になるようにそのチーズカードを細かくすることが好ましい。このようにチーズカードを小片化することで、チーズカードのpHのバラツキを小さくすることができると共に、チーズカードの表面積が増え、その結果、次工程において添加物をカゼイン間に細かく入れ込むことができるからである。添加物がホエイタンパク質濃縮物等である場合、その成分であるβ-ラクトグロブリンが、カゼイン同士の強力な結合を適度に阻害し、最終的に得られる繊維状チーズに、ほぐれやすく咀嚼によって容易に食片を小さくする物性を付与することができると想定される。
【0017】
なお、このようにpH調整されたチーズカードにおいて、タンパク質含量は8質量%以上35質量%以下の範囲内であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下の範囲内であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、23質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。また、同チーズカードにおいて、脂肪含量は12質量%以上45質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以上40質量%以下の範囲内であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、20質量%以上28質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。また、同チーズカードにおいて、水分含量は30質量%以上60質量%以下の範囲内であることが好ましく、35質量%以上55質量%以下の範囲内であることがより好ましく、40質量%以上55質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、42質量%以上53質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0018】
(3)加熱混練工程
この加熱混練工程では、pH調整後のチーズカードに、必要に応じて添加物が添加された後、それらの原料が加熱されながら混練される。なお、このような加熱混練処理は、例えば、熱水加熱混練装置や水蒸気加熱混練装置などによって実行されるのが好ましいが、その混練物がさらにジュール加熱またはマイクロウエーブ加熱等された後に混練装置(二軸スクリューやストレッチャー等)によって追加的に混練されたり、加熱機能付きの混練装置(二軸スクリューやストレッチャー等)によってその混練物がさらに加熱されながら混練されたりするのがより好ましい。加熱混練処理において熱水加熱混練装置や水蒸気加熱混練装置における加熱温度は、75℃以下にする必要がある。また、その後の二次加熱時における加熱温度は65℃以上75℃以下の範囲内であることが好ましい。また、本工程では、pH調整後のチーズカードを緩やかに攪拌しながら軟化させてゲル化させ、同チーズカードの品温を50℃以上の温度から直ぐに(例えば、3分間以内)60℃以上75℃以下の範囲内の温度にまで上昇させながら混練するのが好ましい。
【0019】
ところで、上述の添加物としては、例えば、水、食塩、炭水化物、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸(上述の飽和脂肪酸を除く)、有機塩基、果汁、フレーバー、機能性成分、食品添加物、チーズ酵素処理物等、通常の食品に含まれ得る成分が挙げられる。ここで、炭水化物としては、デキストリンのほか、可溶性澱粉、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物油、リン脂質などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロテン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられる。ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。フレーバーとしては、例えば、香辛料、ハーブ、調味料(食塩を除く)、くん液などが挙げられる。機能性成分としては、例えば、オリゴ糖、グルコサミン、コラーゲン、セラミド、ローヤルゼリー、ポリフェノール、脂肪酸アミド、乳酸菌、ビフィズス菌、ペプチド、ホエイ、ミルクタンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC,WPI)、アミノ酸などが挙げられる。食品添加物として、例えば、乳化剤、溶融塩、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、甘味剤、酸味料、保存料、抗酸化剤、pH調整剤、着色剤、香料などが挙げられる。なお、これらの成分は、単体で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。また、上述の成分は、天然物、天然物加工品、合成品および/またはこれらを多く含む食品のいずれであってもよい。
【0020】
また、本発明の実施の形態では、添加物として、食塩、チーズ酵素処理物およびホエイタンパク質濃縮物(WPC,WPI)が選択されることが好ましい。かかる場合、pH調整後のチーズカード1000gに対して、1g以上10g以下の範囲内の食塩、1g以上30g以下の範囲内のチーズ酵素処理物、5g以上50g以下の範囲内のホエイタンパク質濃縮物(WPC,WPI)が添加されるのが好ましい。
【0021】
また、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、ナチュラルチーズまたはプロセスチーズ類であってもよい。
【0022】
本発明の実施の形態に係るプロセスチーズ類とは、プロセスチーズ、チーズフード、乳等を主原料とする食品を指す。プロセスチーズおよびチーズフードを製造する際、チーズカードに溶融塩などの乳化剤を添加して混合することが必要である。溶融塩としてはリン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩など、通常のプロセスチーズ製造に用いられている溶融塩を使用することができる。溶融塩の化合物の種類としては、特に限定されないが、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カルシウム等が挙げられ、これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その添加量はチーズの合計量(100質量%)に対して、0.05~5質量%が好ましく、0.1~3質量%がより好ましい。
【0023】
また、本発明の実施の形態では、添加物として、乳化剤が添加されてもよい。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベートが挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステル、酵素処理レシチン、ポリソルベートである場合、加熱混練時にチーズカードからオイルや乳化物が分離することがないため好ましい。その添加量は繊維状チーズの質量(100質量%)に対して、0.1~3質量%であることが好ましい。溶融塩と乳化剤を併用してもよい。乳化剤は加熱混練以前また加熱混練中に添加されればよい。なお、過剰な溶融塩の添加は、繊維状チーズの糸ひき性などの性質を低下させる。
【0024】
(3)成型工程
この成型工程では、加熱混練工程で得られた加熱混練物が管から押し出される、もしくは加熱混練物に延伸力が加えられることにより繊維状チーズが得られる。なお、この成型工程では、押出成形装置が利用されることが好ましい。加熱混練物を適度な力で伸ばすことで、引裂性の良い繊維状チーズを得られる。
【0025】
(4)冷却工程
冷却工程では、成型工程後の繊維状チーズが40℃以下に冷却される。これにより、繊維状チーズの引裂性が高められる。本工程において冷却溶媒として液化ガス、水、食塩水などを用いることができる。この冷却溶媒を用いて繊維状チーズを冷却する方法としては、冷却冷媒を繊維状チーズに噴霧する方法、繊維状チーズを冷却冷媒に浸漬する方法、冷却施設で冷却冷媒を繊維状チーズに送風する方法などが挙げられる。これらの方法は単独で実施されてもよいし、組み合わせて実施されてもよい。本工程において冷却された繊維状チーズは切断されて包装される。繊維状チーズが冷却されることによってその引裂性が維持される。繊維状チーズは、冷却後に切断されて冷凍されてもよい。また、冷却後の繊維状チーズを冷凍した後に解凍してから切断して包装してもよい。
【0026】
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズを包装する方法としては、例えば、真空包装、ガス置換包装、脱酸素剤の封入、脱酸素包材による包装などが挙げられる。真空包装では、内圧が3kPa以上15kPa以下の範囲内になるように包装する。ガス置換包装では、繊維状チーズが入れられた包装材の内部を不活性ガスで置換すればよい。不活性ガスとしては炭酸ガス、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられる。繊維状チーズを上述のいずれかの方法で個包装することで食する直前まで、カビなどの微生物の繁殖をより抑制することができる。
【0027】
<繊維状チーズ>
上述のようにして得られる繊維状チーズにおいて、水分含量は35質量%以上60質量%以下の範囲内であることが好ましく、40質量%以上55質量%以下の範囲内であることがより好ましく、41質量%以上53質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、42質量%以上52質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。タンパク質含量は10質量%以上35質量%以下の範囲内であることが好ましく、12質量%以上30質量%以下の範囲内であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、20質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。脂肪含量は10質量%以上40質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以上35質量%以下の範囲内であることがより好ましく、17質量%以上33質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、20質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0028】
また、上述の通りにして得られた繊維状チーズは、0.6質量%以上3.5質量%以下の範囲内のβ-ラクトグロブリンと、3μm以上の平均直径を有する脂肪球とを含有し、前記脂肪球の直径の変動係数が0.3以上である。なお、繊維状チーズ中のβ-ラクトグロブリン含有量は0.8質量%以上3.5質量%以下の範囲内であることが好ましく、1質量%以上3.5質量%以下の範囲内であることがより好ましく、1質量%以上3質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、1質量%以上2.8質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、1質量%以上2.5質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、1質量%以上2.0質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。また、脂肪球の平均直径は3.5μm以上であることが好ましく、4.0μm以上であることがより好ましい。なお、本発明の実施の形態において脂肪球の平均直径の上限は特に限定されないが、好ましくは6.0μmであり、より好ましくは5.5μmであり、さらに好ましくは5.0μmであり、特に好ましくは4.5μmである。また、脂肪球の直径の変動係数は0.35以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、0.45以上であることがさらに好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。なお、本発明の実施の形態において脂肪球の直径の変動係数の上限は特に限定されないが、好ましくは1.0であり、より好ましくは0.9であり、さらに好ましくは0.8であり、さらに好ましくは0.7であり、さらに好ましくは0.6であり、特に好ましくは0.55である。
【0029】
また、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、10℃で60日保存した時点の配向扁平度が、製造日における配向扁平度の半分よりも大きいことが好ましい(すなわち、「製造日における配向扁平度」に対する「10℃で60日保存した時点の配向扁平度」の比が0.5よりも大きいことが好ましい。)。なお、本発明の実施の形態において「製造日における配向扁平度」に対する「10℃で60日保存した時点の配向扁平度」の比の上限は特に限定されないが、例えば、0.7である。
【0030】
また、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、10℃で保存されている間の配向扁平度の変化割合が-0.010/日以上0/日以下の範囲内であることが好ましく、-0.008/日以上0/日以下の範囲内であることがより好ましく、-0.006/日以上0/日以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0031】
以下、繊維状チーズの配向扁平度の求め方について詳述する。
<配向扁平度の求め方>
本発明の実施の形態において配向扁平度は、図1に示される配向扁平度算出装置1を用いて求められる。なお、この配向扁平度算出装置1は、図1に示されるように撮像装置2に通信接続されている。ここで、撮像装置2は顕微鏡装置である。以下、この配向扁平度算出装置1について詳述する。
【0032】
配向扁平度算出装置1は、汎用のコンピュータであって、ハードウェア構成として、CPUやGPUなどのプロセッサ、DRAMやSRAMなどの主記憶装置、および、HDDやSSDなどの補助記憶装置10を備えている。補助記憶装置10には、配向扁平度算出プログラムPなどの配向扁平度算出装置1を動作させるための各種プログラムが格納されている。
【0033】
配向扁平度算出装置1は、図1に示されるように、機能ブロックとして、画像用意部11、分割部12、角度演算部13、相対度数分布作成部14、傾斜楕円関数演算部15、指標演算部16および配向扁平度演算部17を有している。これらの各部は、配向扁平度算出装置1のプロセッサによってソフトウェア的に実現されている。具体的には、補助記憶装置10に記憶されている配向扁平度算出プログラムPを、プロセッサが主記憶装置に読み出して実行することにより、前記各部を実現することができる。以下、この配向扁平度算出装置1において配向扁平度算出プログラムPにより実行される処理の流れを詳述する。
【0034】
(処理の流れ)
図2に示される工程のうち工程S1は撮像装置2によって実行され、工程S2~S8は配向扁平度算出装置1によって実行される。
【0035】
工程S1では、撮像装置2が繊維状チーズの断面を撮像して、得られた画像を配向扁平度算出装置1に送信する。なお、本実施形態では、5mm×5mm×20mmの角状に切り出した繊維状チーズを液体窒素で凍結させたものが、撮像装置2によって撮像される。また、かかる場合、繊維状チーズを繊維配列方向に沿って切断した際の切断面が撮像される。なお、ここで、繊維配列方向とは、製造の際においてチーズカードが引き伸ばされる方向をさす。
【0036】
工程S2では、配向扁平度算出装置1の画像用意部11が、繊維状チーズの画像を用意する。本実施形態では、画像用意部11は、撮像装置2から画像を取得し、その画像から200μm×200μmの画像を切り出し、さらに当該画像を二値化処理する。
【0037】
図3(a)は、繊維状チーズを撮像して得られた二値化処理前の画像の一例であり、図3(b)は、当該画像を二値化処理した画像の一例である。この例では、所定の閾値より輝度が大きい画素を1(白)に変換し、所定の閾値より輝度が小さい画素を0(黒)に変換しているが、所定の閾値より輝度が大きい画素を0に変換し、所定の閾値より輝度が小さい画素を1に変換してもよい。なお、ここでは、1(白)の画素の割合が繊維状チーズのタンパク質含量と割合と一致するように、二値化を行っている。
【0038】
工程S3では、配向扁平度算出装置1の分割部12が、工程S1で用意された画像を10pixel×10pixelの正方形の格子に分割する。
【0039】
工程S4では、配向扁平度算出装置1の角度演算部13が、工程S3で分割された各格子について、格子毎に繊維配向性角度を求める。本実施形態では、角度演算部13は、各格子での繊維の角度を線形近似することにより、繊維配向性角度を求める。
【0040】
図4は、図3(b)に示す二値化画像における格子毎の繊維配向性角度を示している。なお、黒色画素点のみ含む格子および白色画素点のみ含む格子については、繊維配向性角度を求めていない。
【0041】
工程S5では、配向扁平度算出装置1の相対度数分布作成部14が、工程S4で得られた格子毎の繊維配向性角度から、格子の相対度数分布を作成する。本実施形態では、相対度数分布作成部14は、格子の個数と格子毎の繊維配向性角度について、格子の相対度数分布を作成する。
【0042】
図5(a)は、格子毎の繊維配向性角度の相対度数分布を示すヒストグラムであり、図5(b)は、当該相対度数分布の各階級の相対度数に対して、繊維配向性角度を偏角とする平面座標に変換した極座標分布および傾斜楕円を示す図である。具体的には、ヒストグラムの級数をnとすると(図5(a)の場合、n=20)、相対度数Fn及び極座標のa、b、θrの関係は以下の通りである。
【0043】
【数1】
【0044】
n個のxとyの組み合わせに(x,y)ついて、傾斜楕円の式である(4)式を最小二乗法(残差二乗和最小)で解くことで定数a、b及びθを得ることができる。ここでa(長辺)>b(短辺)とすると、繊維配向性の配向強度kは、k=a/bとして算出される。
【0045】
工程S6では、配向扁平度算出装置1の傾斜楕円関数演算部15が、工程S5で得られた相対度数分布から「格子形状に起因するノイズ関数」を除して、「各階級の繊維部分の相対度数を長さとし、配向角度θrを偏角とする傾斜楕円関数」を求める。
【0046】
まず、「格子形状に起因するノイズ」について説明する。本実施形態では、二値化画像を正方形セル(10pixel×10pixel)で分割し、格子毎に繊維配向性角度を線形近似している。この「正方形セル」が「格子形状に起因するノイズ」の要因である。
【0047】
ここで、図6(a)に示すような配向性を全く持たない画像について、従来手法を用いて作成した繊維配向性角度の相対度数分布のヒストグラムを図6(b)に示す。繊維配向を持たない画像の場合、角度による分布は持たないことになるため、ヒストグラムは水平となるべきである。しかし実際には、図6(b)におけるAのような±45°にピークを持つノイズが存在する。
【0048】
具体的には、F=B+Aとすると、ノイズAは以下のように表される。
【数2】

ここで、δは、Aが最大値Amaxとなる定数である。Amaxは以下のように表される。
【数3】
【0049】
ここで、(5)~(8)式で表されるノイズAは正方形セルの形状に起因する関数である。より具体的には、ノイズAは正方形セルの中心点を通る直線について、横断距離の差とその時の角度θの関係を表している。正方形セルの一片の長さを1とすると、斜め45°の角度においては、横断距離が最も長く√2となるため、横断距離の差は最大の(√2-1)となる。
【0050】
このため、どのような画像を分析した場合でも、この「格子形状に起因するノイズ」は発生することになる。繊維1本1本が認識できるような元画像を分析対象とした場合、「格子形状に起因するノイズ」は無視できるほど小さいが、繊維配向性が弱い食品のような被験品の画像を分析する場合は、当該ノイズの影響が無視できなくなる。
【0051】
そこで、本実施形態では、工程S6において、工程S5で得られた相対度数分布から「格子形状に起因するノイズ」を数学的に取り除くことにより、「各階級の繊維部分の相対度数を長さとし、配向角度θを偏角とする傾斜楕円関数」を求める。
【0052】
具体的には、図5(a)に示すように、画像から階級数をnとするθの度数分布である初期ヒストグラムFを抽出する。初期ヒストグラムFには、「格子形状に起因するノイズ」Aが含まれていることが分かっているため、Fを以下のように分解する。
=B+A ・・・(9)
【0053】
が分析したい繊維の情報である傾斜楕円関数であり、Aが「格子形状に起因するノイズ」である。すなわち、得られた配向角度の相対度数分布が、「格子形状に起因するノイズ」Aと、「各階級の繊維部分の相対度数を長さとし、配向角度θを偏角とする傾斜楕円の関数」Bとの和の関数であると仮定する。よって、FからAを除くことにより、傾斜楕円関数Bを求める。
【0054】
工程S7では、配向扁平度算出装置1の指標演算部16が、工程S6で得られた傾斜楕円関数から繊維状チーズの繊維配向性を評価する配向強度kを演算する。
【0055】
具体的には、傾斜楕円関数Bが完全に傾斜楕円と一致する場合、以下の式が成り立つ。
【数4】

上記3式を連立すると、以下の(10)式に変換できる。
【数5】

すなわち、Bは定数a,b,θrと変数θを用いて、以下の(10) ’式のように関数gの形で表すことができる。
=g(a,b,θ, θ) ・・・(10)’
また、Aは(5)~(7)式より、定数δ及び変数θを用いて、以下の(11)式のように関数hの形で表すことができる。
=h(δ,θ) ・・・(11)
よって(9)式は、以下の(12)式のように和の関数で表すことができる。
=g(a,b,θ, θ)+h(δ,θ) ・・・(12)
すなわち、
=F-h(δ,θ
ここで、画像から抽出したFnと理論的な(12)式を用いて、最小二乗法により残差二乗和が最小となるa,b,θ及び δを求める。すなわち、残差二乗和
【数6】

が最小となるa,b,θ及び δの組み合わせを求める。これにより、配向角度 θおよび配向強度k=a/bが求められる。
【0056】
図7(a)は、図3(b)に示す二値化画像の格子毎の繊維配向性角度の相対度数分布からノイズ除去した後の相対度数分布を示すヒストグラムであり、図7(b)は、当該相対度数分布の各階級の相対度数に対して、繊維配向性角度を偏角とする平面座標に変換した極座標分布および傾斜楕円を示す図である。
【0057】
なお、a,b,θの値には影響しないが、得られた繊維の度数分布情報であるB=g(θ)は、そのまま使用するとノイズ部分が除去されてしまうため足し合わせて1にならない関数となる(正しくは度数分布とならない)。そこで、得られたBの分布を以下のように正規化することで、元画像の真の繊維角度の度数分布Cが求まる。
【数7】
【0058】
工程S8では、配向扁平度算出装置1の配向扁平度演算部17が、工程S7で得られた配向強度kを以下の(13)式に代入して配向扁平度fを算出する。
f=1-1/k ・・・(13)
【0059】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例0060】
1.繊維状チーズの製造
凍結チーズカード(水分含量は43質量%であり、脂肪含量は26質量%であり、たんぱく質含量は25質量%である。)を32kg粉砕した後、チーズカードをpH5.3とするのに必要な量の50質量%の乳酸水溶液を添加した後、チーズカードを品温4℃に保ちながら混合物に高せん断の力を加えることで長径が0.5cm以下の細かいチーズカード(以下「pH調整チーズカード」と称する場合がある)を得た。次に、そのpH調整済みのチーズカードをホエイタンパク質濃縮物(WPC80)2.1kgとロタサームオーガフィードホッパーで30分間、均一に分散するように混練して一次混練物を得た。次いで、その混合物が68℃に達するまでその混合物をAlmac社製のストレッチャーで加熱混練した後、さらにその混合物を63℃で15分間混練した。続いて、その加熱混練物の温度を約60℃に保ちながら、その加熱混練物を二軸スクリューでノズル径20mmの管に押出した後、その直径が17mmになるまでその押出物を引き伸ばした。その後、その押出物を10℃のブラインに浸漬した後、それを10cmずつにカットした。そして、その押出物の表面の水分を拭き取って目的の繊維状チーズを得た。それからその繊維状チーズを脱酸素剤とともに包装し、10℃の恒温庫で保存した。
【0061】
なお、ブライン浸漬前の繊維状チーズの組成は、水分50.1質量%、タンパク質24.0質量%、脂肪21.3質量%、β-ラクトグロブリン1.1質量%であった(なお、水分含量は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルの「第1章 一般成分及び関連成分」に記載の「常圧加熱乾燥法 乾燥助剤添加法」(P2-P3)に従って測定した。また、タンパク質含量は、同章に記載の「マクロ改良ケルダール法」(P12-P16)に従って測定した。また、脂肪含量は、同章に記載の「酸・アンモニア分解法」(P24-P25)に従って測定した。また、β-ラクトグロブリン含量は、以下に示される方法に従って測定した。)。また、製造日の繊維状チーズを保存前試料とし、10℃で60日間保存した繊維状チーズを保存後試料とした。
【0062】
2.繊維状チーズの物性評価
(1)繊維状チーズ中のβ-ラクトグロブリンの定量
(1-1)標準液調製および検量線の作成
β-ラクトグロブリン(シグマアルドリッチ社製)が50μg/mL、75μg/mL、100μg/mL、125μg/mL、150μg/mL、175μg/mLおよび200μg/mLの濃度となるように、尿素入りサンプル緩衝液(4.5M尿素、1質量%メルカプトエタノール、0.14Mトリス-塩酸緩衝液、22質量%グリセロール、4.4質量%SDS、0.006質量%ブロモフェノールブルー)にβ-ラクトグロブリンを溶解させて、濃度が異なるβ-ラクトグロブリンの標準溶液を調製した。各標準溶液8μLを電気泳動装置のスロットに注入して電気泳動を行った。なお、この際、電気泳動ゲルとして14質量%のポリアクリルアミド、4.5M尿素から成るゲル(SDS-PAGE mini, 1mm,10well,TEFCO Co. Japan社製)を用いた。電気泳動後のゲルはクマシーブリリアントブルーR-250で染色した。その後、各標準溶液におけるβ-ラクトグロブリンのクロマトグラフを得、クロマトスキャナーにて各レーンのバンドのピーク面積を求め、β-ラクトグロブリンの検量線を作成した。
【0063】
(1-2)定量
保存前試料に上述の尿素入りサンプル緩衝液を加えて、10mLのサンプル液を調製した。なお、保存前試料の添加量は、その全窒素定量値に基づいてサンプル液中の全窒素濃度が2mg/mLとなる量とした。次に、このサンプル液中の保存前試料を破砕して分散させた。次いで、このサンプル液を5℃で一晩静置した後に電気泳動装置のスロットに8μLのサンプル液を注入して、上述と同様の条件下で電気泳動を行った。続いて、サンプル液におけるβ-ラクトグロブリンのクロマトグラフを得、クロマトスキャナーにてそのレーンのバンドのピーク面積を求め、そのピーク面積から8μLのサンプル液のβ-ラクトグロブリン量を算出した。そして、そのβ-ラクトグロブリン量および保存前試料の添加量から本実施例における保存前試料中のβ-ラクトグロブリンの含有量を算出したところ、その値は1.1質量%であった。
【0064】
(2)脂肪球の直径の測定
保存前試料を液体窒素に入れて凍結させた後、凍結済みの保存前試料を幅約3mm×奥行約3mm×高さ約2mmの小片にカットした。次に、この小片を、その繊維構造を観察することができる向きで試料台に載せ、低真空走査型電子顕微鏡(SEM,日立卓上電子顕微鏡システム,型式TM4000)にセットした。次いで、低真空走査型電子顕微鏡において加圧電圧をDC15kVに設定すると共に撮影倍率を1000倍にして、その小片の電子顕微鏡画像を複数回撮像した。続いて、その画像のうち代表的な1つを選択して、画像処理ソフトウェア(Fuji)に取り込み、その画像中の各脂肪球の面積を画像解析して求め、各脂肪球の面積から各脂肪球の直径を求めた。具体的には、画像処理ソフトウェア(Fuji)のマニュアルに従って、脂肪球を選択するように二値化し、視認することができる全ての脂肪球それぞれについて面積を計算し、脂肪球が球であると仮定してこの面積から各脂肪球の直径を計算した。また、脂肪球の数および各脂肪球の直径から平均直径および変動係数を求めた。その結果、保存前試料の脂肪球の平均直径は4.26μmであり、変動係数は0.52であった(表1参照)。
【0065】
(3)配向扁平度の算出
上述の<配向扁平度の求め方>の欄に記載される方法に従って、保存前試料および保存後試料の配向扁平度を求めたところ、保存前試料の配向扁平度は0.740であり、保存後試料の配向扁平度は0.387であった(図9参照)。また、保存前試料の配向扁平度に対する保存後試料の配向扁平度の比は0.52であり、保存後試料の配向扁平度は、保存前試料の配向扁平度の半分よりも大きかった。また、保存中の配向扁平度の変化割合は、-0.006/日(=(0.387-0.740)/60日)であった。
【実施例0066】
チーズカードのpHを5.60に変更すると共に、ホエイタンパク質濃縮物(WPC80)の添加量を7kgに変更した以外は実施例1に示される方法に従って繊維状チーズを製造し、実施例1に示される方法に従ってその繊維状チーズの各種物性を求めた。なお、ここでは、製造日の繊維状チーズを保存前試料とし、10℃で60日間および90日間保存した繊維状チーズを保存後試料とした。
【0067】
ブライン浸漬前の繊維状チーズの組成は、水分49.6質量%、タンパク質24.5質量%、脂肪20.5質量%、β-ラクトグロブリン2.5質量%であった。
【0068】
また、保存前試料の脂肪球の平均直径は4.16μmであり、その変動係数は0.52であった(表1参照)。
【0069】
また、保存前試料の配向扁平度は0.879であり、60日保存後試料の配向扁平度は0.796であり、90日保存後試料の配向扁平度は0.733であった(図9参照)。また、保存前試料の配向扁平度に対する60日保存後試料の配向扁平度の比は0.91であり、60日保存後試料の配向扁平度は、保存前試料の配向扁平度の半分よりも大きかった。また、保存中の配向扁平度の変化割合は、-0.002/日であった。
【実施例0070】
チーズカードのpHを5.60に変更すると共に、ホエイタンパク質濃縮物(WPC80)の添加量を6kgに変更した以外は実施例1に示される方法に従って繊維状チーズを製造し、実施例1に示される方法に従ってその繊維状チーズの各種物性を求めた。なお、ここでは、製造日の繊維状チーズを保存前試料とし、10℃で60日間および90日間保存した繊維状チーズを保存後試料とした。
【0071】
ブライン浸漬前の繊維状チーズの組成は、水分48.9質量%、タンパク質25.7質量%、脂肪19.8質量%、β-ラクトグロブリン2.2質量%であった。
【0072】
また、保存前試料の脂肪球の平均直径は4.33μmであり、変動係数は0.66であった(表1参照)。
【0073】
また、保存前試料の配向扁平度は0.869であり、60日保存後試料の配向扁平度は0.746であり、90日保存後試料の配向扁平度は0.696であった(図9参照)。また、保存前試料の配向扁平度に対する60日保存後試料の配向扁平度の比は0.86であり、60日保存後試料の配向扁平度は、保存前試料の配向扁平度の半分よりも大きかった。また、保存中の配向扁平度の変化割合は、-0.002/日であった。
【実施例0074】
チーズカードのpHを5.58に変更すると共に、ホエイタンパク質濃縮物(WPC80)の添加量を8.8kgに変更した以外は実施例1に示される方法に従って繊維状チーズを製造し、実施例1に示される方法に従ってその繊維状チーズの各種物性を求めた。なお、ここでは、製造日の繊維状チーズを保存前試料とし、10℃で60日間および90日間保存した繊維状チーズを保存後試料とした。
【0075】
ブライン浸漬前の繊維状チーズの組成は、水分49.0質量%、タンパク質25.3質量%、脂肪20.3質量%、β-ラクトグロブリン3.0質量%であった。
【0076】
また、保存前試料の脂肪球の平均直径は4.33μmであり、変動係数は0.66であった(表1参照)。
【0077】
また、保存前試料の配向扁平度は0.856であり、60日保存後試料の配向扁平度は0.583であり、90日保存後試料の配向扁平度は0.557であった(図9参照)。また、保存前試料の配向扁平度に対する60日保存後試料の配向扁平度の比は0.68であり、60日保存後試料の配向扁平度は、保存前試料の配向扁平度の半分よりも大きかった。また、保存中の配向扁平度の変化割合は、-0.003/日であった。
【0078】
(比較例1)
ホエイタンパク質濃縮物(WPC)を入れなかったこと以外は実施例1に示される方法に従って繊維状チーズを製造し、実施例1に示される方法に従ってその繊維状チーズの各種物性を求めた。
【0079】
なお、凍結カードの粉砕物のpHは5.36であった。また、ブライン浸漬前の繊維状チーズの組成は、水分48.4質量%、タンパク質22.8質量%、脂肪24.5質量%、β-ラクトグロブリン0.5質量%であった。ここで、製造日の繊維状チーズを保存前試料とし、10℃で60日間保存した繊維状チーズを保存後試料とした。
【0080】
保存前試料の脂肪球の平均直径は5.19μmであり、変動係数は0.75であった(表1参照)。
【0081】
上述の<配向扁平度の求め方>の欄に記載される方法に従って、保存前試料および保存後試料の配向扁平度を求めたところ、保存前試料の配向扁平度は0.669であり、保存後試料の配向扁平度は0.057であった(図9参照)。また、保存前試料の配向扁平度に対する保存後試料の配向扁平度の比は0.085であり、保存後試料の配向扁平度は、保存前試料の配向扁平度の半分よりも小さかった。また、保存中の配向扁平度の変化割合は、-0.02/日(=(0.057-0.669)/30日)であった。
【0082】
【表1】
【0083】
(まとめ)
実施例1に係る繊維状チーズは、比較例1に係る繊維状チーズとほぼ同じ脂肪球の大きさおよび変動係数を有することが明らかとなったが、実施例1に係る繊維状チーズ、および、比較例1に係る繊維状チーズを実際に食べ比べた際、実施例1に係る繊維状チーズは、比較例1に係る繊維状チーズに比べてチーズ特有の複雑な風味を有していた。
【0084】
また、上述の結果から、実施例1に係る繊維状チーズの保存中の配向扁平度は、比較例1に係る繊維状チーズの保存中の配向扁平度に比べて変化しにくいことが明らかとなった。すなわち。実施例1に係る繊維状チーズは、比較例1に係る繊維状チーズに比べて保存中、糸引き性の劣化速度が遅いということである。また、実施例1に係る保存後試料を実際に裂いてみたところ、良好な糸引き性を確認することができたが、比較例1に係る保存後試料については糸引き性が完全に失われていた。
【0085】
上述の結果から、実施例1に係る繊維状チーズは、チーズ特有の複雑な風味を有しながらも、糸ひき性の劣化を遅くすることができ、一般消費者に好まれるものとなり得る。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る繊維状チーズは、チーズ特有の複雑な風味を有しながらも、糸ひき性の劣化を遅くすることができ、一般消費者に好まれるものとなり得る。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9