(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153072
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】繊維状チーズ
(51)【国際特許分類】
A23C 19/068 20060101AFI20231005BHJP
A23C 19/084 20060101ALI20231005BHJP
A23C 19/09 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A23C19/068
A23C19/084
A23C19/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056948
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022057978
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】中川 沙良
(72)【発明者】
【氏名】緒方 理衣
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC26
4B001AC31
4B001AC46
4B001BC01
4B001BC04
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC11
4B001BC12
4B001BC13
4B001BC14
4B001BC99
4B001DC01
4B001EC01
4B001EC04
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、発酵熟成風味を有しながらも十分な糸ひき性を示すと共に、咀嚼によって容易に食片を小さくすることができ、食塊形成を容易に行うことができる繊維状チーズを提供することにある。
【解決手段】本発明に係る繊維状チーズは、3gに対して1mLの疑似唾液を加えて食品物性の評価装置で疑似咀嚼させた際、30回目の咀嚼時の力積が1N・s以上5N・s以下の範囲内であり、かつ、(A)D-遊離アミノ酸およびL-遊離アミノ酸の合計含量が1.9mg/g以上であること、および、(B)L-遊離アスパラギン酸含量に対するD-遊離アスパラギン酸含量の比が0.4以上であることの少なくとも一方の条件を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3gに対して1mLの疑似唾液を加えて食品物性の評価装置で疑似咀嚼させた際、30回目の咀嚼時の力積が1N・s以上5N・s以下の範囲内であり、
(A)D-遊離アミノ酸およびL-遊離アミノ酸の合計含量が1.9mg/g以上であること、および、(B)L-遊離アスパラギン酸含量に対するD-遊離アスパラギン酸含量の比が0.4以上であることの少なくとも一方の条件を満たす
繊維状チーズ。
【請求項2】
前記(A)の条件は、D-遊離アミノ酸およびL-遊離アミノ酸の合計含量が1.9mg/g以上であると共に、前記D-遊離アミノ酸の含量が4.0×10-2mg/g以上であることである
請求項1に記載の繊維状チーズ。
【請求項3】
1.0×10-2mg/g以上含まれるL-遊離アミノ酸が2種類以上存在する
請求項1または2に記載の繊維状チーズ。
【請求項4】
4.0×10-5mg/g以上含まれるD-遊離アミノ酸が5種類以上存在する
請求項3に記載の繊維状チーズ。
【請求項5】
0.5質量%以上5質量%以下の範囲内でホエイを含む
請求項4に記載の繊維状チーズ。
【請求項6】
一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における時間に対する力の傾きが50mN/秒以上200mN/秒以下の範囲内である
請求項5に記載の繊維状チーズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状チーズに関する。
【背景技術】
【0002】
従前から繊維状チーズやその製造方法について種々提案されている(例えば、特開2016-067319号公報、特開2007-289085号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-067319号公報
【特許文献2】特開2007-289085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、現在の市販されている繊維状チーズは、フレッシュであっさりとした乳風味を有しているものが多く、繊維状チーズに発酵熟成風味を求める消費者には物足りないものとなっている。
【0005】
そこで、繊維状チーズに発酵熟成風味を付与するために、繊維状チーズを熟成することが考えられるが、繊維状チーズを熟成すると、繊維状チーズを構成するタンパク質のネットワークが分解されてしまい、繊維状チーズの糸ひき性が低下してしまう(繊維状チーズを引き裂いた際に生じる糸状物の本数が減ってしまう)。
【0006】
また、従前の繊維状チーズは比較的硬いものが多く、咀嚼すると比較的大きな食片が生じる。このため、このような繊維状チーズは、幼児や高齢者にとって咀嚼に力と時間を要する傾向がある。
【0007】
本発明の課題は、発酵熟成風味を有しながらも十分な糸ひき性を示すと共に、咀嚼によって容易に食片を小さくすることができ、食塊形成を容易に行うことができる繊維状チーズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、「3gに対して1mLの疑似唾液を加えて食品物性の評価装置で疑似咀嚼させた際、30回目の咀嚼時の力積が1N・s以上5N・s以下の範囲内であり、かつ、(A)D-遊離アミノ酸およびL-遊離アミノ酸の合計含量が1.9mg/g以上であること、および、(B)L-遊離アスパラギン酸含量に対するD-遊離アスパラギン酸含量の比が0.4以上であることの少なくとも一方の条件を満たす繊維状チーズ」により課題が解決されることを見出して本発明を完成させた。なお、本発明において、繊維状チーズとは、チーズカードを、加温等の工程を経て一定の延伸をかけて棒状又は板状に成形し、冷却・固化することにより得られるチーズであり、手で裂くと一定方向に糸状に細く裂けるチーズである。なお、このような繊維状チーズは、市場においてストリングチーズ等と称されている。
【0009】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
(1)
3gに対して1mLの疑似唾液を加えて食品物性の評価装置で疑似咀嚼させた際、30回目の咀嚼時の力積が1N・s以上5N・s以下の範囲内であり、
(A)D-遊離アミノ酸およびL-遊離アミノ酸の合計含量が1.9mg/g以上であること、および、(B)L-遊離アスパラギン酸含量に対するD-遊離アスパラギン酸含量の比が0.4以上であることの少なくとも一方の条件を満たす
繊維状チーズ。
【0010】
(2)
(A)の条件は、D-遊離アミノ酸およびL-遊離アミノ酸の合計含量が1.9mg/g以上であると共に、前記D-遊離アミノ酸の含量が4.0×10-2mg/g以上であることである、(1)に記載の繊維状チーズ。
【0011】
(3)
1.0×10-2mg/g以上含まれるL-遊離アミノ酸が2種類以上存在する、(1)または(2)に記載の繊維状チーズ。
【0012】
(4)
4.0×10-5mg/g以上含まれるD-遊離アミノ酸が5種類以上存在する、(1)から(3)いずれか1つに記載の繊維状チーズ。
【0013】
(5)
0.5質量%以上5質量%以下の範囲内でホエイを含む、(1)から(4)のいずれか1つに記載の繊維状チーズ。
【0014】
(6)
一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて引き裂いたとき、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの間における時間に対する力の傾きが50mN/秒以上200mN/秒以下の範囲内である、(1)から(5)のいずれか1つに記載の繊維状チーズ。なお、ここにいう繊維配列方向とは、製造の際においてチーズカードが引き伸ばされる方向をさす。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る繊維状チーズの食塊評価で用いられる食品物性の評価装置の概略図である。
【
図2】
図1に示される食品物性の評価装置において上部治具10および下部治具20が動作し得る方向を示す概略図である。
【
図3】
図1に示される食品物性の評価装置の評価装置の上部治具および下部治具の初期動作を示す模式図である。
【
図4】
図3に示される動作の次の動作を示す模式図である。
【
図5】
図4に示される動作の次の動作を示す模式図である。
【
図6】
図5に示される動作の次の動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<繊維状チーズの製造方法>
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、直食用のナチュラルチーズまたはプロセスチーズ類であって、例えば、チーズカード調製工程、冷蔵保管工程、pH調整工程、加熱混練工程、成型工程および冷却工程を経て製造される。なお、凍結済みのチーズカード等を購入等して利用する場合、チーズカード調製工程は省かれてもかまわない。
【0017】
(1)チーズカード調製工程
このチーズカード調製工程では、生乳に乳酸菌や酵素を添加して生乳を凝乳させた後に、カッティングホエイ排出を行ってチーズカードが調製される。なお、このチーズカードは、そのまま次工程の冷蔵保管工程に供されてもよいし、凍結された後に凍結状態で冷蔵保管工程に供されてもよい。また、未凍結のチーズカードと凍結状態のチーズカードとの混合物を冷蔵保管工程に供してもよい。
【0018】
(2)冷蔵保管工程
この冷蔵保管工程では、次工程で用いるチーズカードの一部または全部が非凍結下限温度以上10℃以下の範囲内の温度で少なくとも1日保管される。なお、ここで、非凍結温度は、例えば、5℃以下であることが好ましい。また、本工程では、チーズカード自体の温度が上記温度範囲にあることが必要である。また、この冷蔵保管は2日以上であることが好ましく、3日以上であることがより好ましい。また、冷蔵保管の期間の末日は特に限定されないが、糸ひき性の維持を考慮すると、例えば、90日後の日であることが好ましい。
【0019】
(2)pH調整工程
pH調整工程では、冷蔵保管後のチーズカードに対して、チーズカードのpHを5.0以上5.8以下の範囲内に収めるのに必要な量の有機酸(例えば、乳酸など)が添加されて、チーズカードのpHが5.0以上5.8以下の範囲内に調整される。後工程である加熱混練工程において混練されたチーズカードの乳化安定性を維持すると共に押出成型時などにおいてチーズカードを延伸しやすくするために、そのチーズカードのpHを5.0以上5.5未満の範囲内とすることが好ましく、5.1以上5.5未満の範囲内とすることがより好ましい。さらに、良好な繊維状チーズを得るためには、そのチーズカードのpHを5.2以上5.4以下の範囲内とすることが好ましい。なお、pHを調整したチーズカードを品温0℃以上10℃以下の範囲内の温度(より好ましくは0℃以上5℃以下の範囲内の温度)に保ちながら、そのチーズカードの粒径が7mm(より好ましくは5mm)以下になるようにそのチーズカードを細かくすることが好ましい。このようにチーズカードを小片化することで、チーズカードのpHのバラツキを小さくすることができると共に、チーズカードの表面積が増え、その結果、次工程において添加物をカゼイン間に細かく入れ込むことができるからである。添加物がホエイタンパク質濃縮物等である場合、その成分であるβ-ラクトグロブリンが、カゼイン同士の強力な結合を適度に阻害し、最終的に得られる繊維状チーズの糸ひき性の悪化を抑制することができると想定される。
【0020】
なお、このようにpH調整されたチーズカードにおいて、タンパク質含量は8質量%以上35質量%以下の範囲内であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下の範囲内であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、20質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。また、同チーズカードにおいて、脂肪含量は10質量%以上45質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以上40質量%以下の範囲内であることがより好ましく、15質量%以上35質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、17質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。また、同チーズカードにおいて、水分含量は30質量%以上60質量%以下の範囲内であることが好ましく、35質量%以上55質量%以下の範囲内であることがより好ましく、40質量%以上55質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、42質量%以上53質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0021】
(3)加熱混練工程
この加熱混練工程では、pH調整後のチーズカードに、必要に応じて添加物が添加された後、それらの原料が加熱されながら混練される。なお、このような加熱混練処理は、例えば、熱水加熱混練装置や水蒸気加熱混練装置などによって実行されるのが好ましいが、その混練物がさらにジュール加熱またはマイクロウエーブ加熱等された後に混練装置(二軸スクリューやストレッチャー等)によって追加的に混練されたり、加熱機能付きの混練装置(二軸スクリューやストレッチャー等)によってその混練物がさらに加熱されながら混練されたりするのがより好ましい。加熱混練処理において熱水加熱混練装置や水蒸気加熱混練装置における加熱温度は、75℃以下にする必要がある。また、その後の二次加熱時における加熱温度は65℃以上75℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、本工程では、pH調整後のチーズカードを緩やかに攪拌しながら軟化させてゲル化させ、同チーズカードの品温を50℃以上の温度から直ぐに(例えば、3分間以内)60℃以上75℃以下の範囲内の温度にまで上昇させながら混練するのが好ましい。
【0022】
ところで、上述の添加物としては、例えば、水、食塩、炭水化物、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸(上述の飽和脂肪酸を除く)、有機塩基、果汁、フレーバー、機能性成分、食品添加物、チーズ酵素処理物等、通常の食品に含まれ得る成分が挙げられる。ここで、炭水化物としては、デキストリンのほか、可溶性澱粉、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維(セルロース)などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物油、リン脂質などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロテン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられる。ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。フレーバーとしては、例えば、香辛料、ハーブ、調味料(食塩を除く)、くん液などが挙げられる。機能性成分としては、例えば、オリゴ糖、グルコサミン、コラーゲン、セラミド、ローヤルゼリー、ポリフェノール、脂肪酸アミド、乳酸菌、ビフィズス菌、ペプチド、ホエイ、ミルクタンパク質濃縮物(MPC)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC,WPI)、アミノ酸などが挙げられる。食品添加物として、例えば、乳化剤、溶融塩、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、甘味剤、酸味料、保存料、抗酸化剤、pH調整剤、着色剤、香料などが挙げられる。なお、これらの成分は、単体で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。また、上述の成分は、天然物、天然物加工品、合成品および/またはこれらを多く含む食品のいずれであってもよい。
【0023】
なお、本発明の実施の形態では、添加物として、ホエイタンパク質濃縮物(WPC,WPI)、チーズ酵素処理物が選択されることが好ましい。かかる場合、pH調整後のチーズカード1000gに対して1g以上50g未満の範囲内のチーズ酵素処理物、5g以上50g以下の範囲内のホエイタンパク質濃縮物(WPC,WPI)が添加されるのが好ましい。なお、ホエイタンパク質濃縮物(WPC,WPI)は、ホエイが繊維状チーズの0.5質量%以上5質量%以下の範囲内の割合を占めるように添加されるのが好ましい。また、チーズ酵素処理物は、繊維状チーズの5質量%未満を占めるように添加されるのが好ましく、4質量%以下であることが特に好ましい。なお、チーズ酵素処理物の添加量の下限は特に限定されないが、例えば、0.75質量%であることが好ましく、1質量%であることがより好ましく、1.25質量%であることがさらに好ましく、1.5質量%であることが特に好ましい。
【0024】
また、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズは、ナチュラルチーズまたはプロセスチーズ類であってもよい。
【0025】
本発明の実施の形態に係るプロセスチーズ類とは、プロセスチーズ、チーズフード、乳等を主原料とする食品を指す。プロセスチーズおよびチーズフードを製造する際、チーズカードに溶融塩などの乳化剤を添加して混合することが必要である。溶融塩としてはリン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩など、通常のプロセスチーズ製造に用いられている溶融塩を使用することができる。溶融塩の化合物の種類としては、特に限定されないが、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カルシウム等が挙げられ、これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その添加量はチーズの合計量(100質量%)に対して、0.05~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の実施の形態では、添加物として、乳化剤が添加されてもよい。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベートが挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステル、酵素処理レシチン、ポリソルベートである場合、加熱混練時にチーズカードからオイルや乳化物が分離することがないため好ましい。その添加量は繊維状チーズの質量(100質量%)に対して、0.1~3質量%であることが好ましい。溶融塩と乳化剤を併用してもよい。乳化剤は加熱混練以前また加熱混練中に添加されればよい。なお、過剰な溶融塩の添加は、繊維状チーズの糸ひき性などの性質を低下させる。
【0027】
(3)成型工程
この成型工程では、加熱混練工程で得られた加熱混練物が管から押し出される、もしくは加熱混練物に延伸力が加えられることにより繊維状チーズが得られる。なお、この成型工程では、押出成形装置が利用されることが好ましい。加熱混練物を適度な力で伸ばすことで、引裂性の良い繊維状チーズが得られる。また、延伸処理には延伸装置が利用されることが好ましい。適度な力で伸ばすことで、より引裂性の良い繊維状チーズを得られる。
【0028】
(4)冷却工程
冷却工程では、成型工程後の繊維状チーズが40℃以下に冷却される。これにより、繊維状チーズの引裂性が高められる。本工程において冷却溶媒として液化ガス、水、食塩水などを用いることができる。この冷却溶媒を用いて繊維状チーズを冷却する方法としては、冷却冷媒を繊維状チーズに噴霧する方法、繊維状チーズを冷却冷媒に浸漬する方法、冷却施設で冷却冷媒を繊維状チーズに送風する方法などが挙げられる。これらの方法は単独で実施されてもよいし、組み合わせて実施されてもよい。本工程において冷却された繊維状チーズは切断されて包装される。繊維状チーズが冷却されることによってその引裂性が維持される。繊維状チーズは、冷却後に切断されて冷凍されてもよい。また、冷却後の繊維状チーズを冷凍した後に解凍してから切断して包装してもよい。
【0029】
本発明の実施の形態に係る繊維状チーズを包装する方法としては、例えば、真空包装、ガス置換包装、脱酸素剤の封入、脱酸素包材による包装などが挙げられる。真空包装では、内圧が3kPa以上15kPa以下の範囲内になるように包装する。ガス置換包装では、繊維状チーズが入れられた包装材の内部を不活性ガスで置換すればよい。繊維状チーズを上述のいずれかの方法で個包装することで食する直前まで、カビなどの微生物の繁殖をより抑制することができる。
【0030】
<繊維状チーズ>
上述のようにして得られる繊維状チーズにおいて、水分含量は35質量%以上60質量%以下の範囲内であることが好ましく、40質量%以上55質量%以下の範囲内であることがより好ましく、41質量%以上55質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、42質量%以上53質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。タンパク質含量は8質量%以上35質量%以下の範囲内であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下の範囲内であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、20質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。脂肪含量は10質量%以上45質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以上40質量%以下の範囲内であることがより好ましく、17質量%以上35質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、17質量%以上30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0031】
また、上述の通りにして得られた繊維状チーズは、3gに対して1mLの疑似唾液を加えて食品物性の評価装置で疑似咀嚼させた際、30回目の咀嚼時の力積が1N・s以上5N・s以下の範囲内であり、且つ、(A)D-遊離アミノ酸およびL-遊離アミノ酸の合計含量が1.9mg/g以上であること、および、(B)L-遊離アスパラギン酸含量に対するD-遊離アスパラギン酸含量の比が0.4以上であることの少なくとも一方の条件を満たす。
【0032】
なお、同繊維状チーズは、3gに対して1mLの疑似唾液を加えて食品物性の評価装置で疑似咀嚼させた際、30回目の咀嚼時の力積が4N・s以下であることが好ましく、3N・s以下であることがより好ましい。本発明の実施の形態において同力積の下限は特に限定されないが、例えば、1N・sである。
【0033】
以下、上述の食品物性の評価装置および疑似唾液について詳述する。
<食品物性の評価装置および疑似唾液>
上述の食品物性の評価装置1は、
図1に示されるように、上部治具10、下部治具20、センサ12、駆動部30、計測制御部40および疑似唾液供給部50を備える。以下、これらの構成について詳述する。
【0034】
上部治具10の下端部位には、
図1に示されるように上部咬合部11が形成されている。上部咬合部11は、半球状の凸部を呈している。なお、この上部治具10は、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合)樹脂から形成されている。
【0035】
下部治具20の上端部位には、下部咬合部21が形成されている。下部咬合部21は、上部咬合部11とほぼ同じ径を有する半球状の凹部であって、
図1に示されるように上下方向に沿って上部咬合部11と対向するように設けられている。すなわち、この下部咬合部21は、上部咬合部11と咬合する。なお、この下部治具20は、上部治具10と同様にABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合)樹脂から形成されている。また、この下部治具20には、
図1に示されるように外周に円筒状の保護部22が配設されている。この保護部22は、上部咬合部11と下部咬合部21の間の空間から外側へ繊維状チーズが飛び出すのを防止している。
【0036】
なお、上部治具10および下部治具20は、上部咬合部11と下部咬合部21とが最も近づいたときでも互いに接しないようにその動作が規制されている。また、上部治具10と下部治具20との咬合において、設定された咬合力を超える力が印加されないように規制されている。
【0037】
センサ12は、6軸センサであって、上部治具10の上端部位に組み込まれており、上部治具10に印加される物理量(上部治具10に印加される力やトルク等)を計測する。
【0038】
駆動部30は、
図2に示されるように、下部治具20が上部治具10と咬合する方向、および、下部治具20が上部治具10から離間する方向に往復直線運動LRを行うように、下部治具20を上下方向に沿って駆動することができる。また、この駆動部30は、
図2に示されるように、上部治具10が下部治具20の往復直線運動LRの方向を回転軸AXとした往復回転運動RRを行うように、上部治具10を駆動することができる。
【0039】
計測制御部40は、駆動部30による下部治具20の往復直線運動LRおよび上部治具10の往復回転運動RRを制御する。また、この計測制御部40は、センサ12の出力から上部治具10に印加される物理量を計測する。計測制御部40では、センサ12により計測された力のデータから時間で積分して力積のデータを得ることができる。
【0040】
疑似唾液供給部50は、下部咬合部21に疑似唾液を一定の流量で供給する。疑似唾液供給部50から供給チューブ51が延びており、その供給チューブ51が保護部22を貫通して下部咬合部21の上端部に延びている。なお、疑似唾液は、0.02%キサンタンガムの水溶液である。なお、この疑似唾液には緩衝剤やアミラーゼ等の他の成分は含まれていない。
【0041】
ところで、この食品物性評価装置1において上部咬合部11、下部咬合部21およびその間の空間の温度を一定するために、食品物性評価装置1の脇に温風装置(図示せず)が設置されている。
【0042】
以下、上述の食品物性評価装置および疑似唾液を用いた繊維状チーズの疑似咀嚼特性の評価方法について詳述する。
<疑似咀嚼特性の評価方法>
先ず、食品物性の評価装置1の下部咬合部21の上に、評価対象の繊維状チーズ(FA)を置くと共に1mLの疑似唾液を注ぐ(
図3参照)。次に、駆動部30が下部治具20を第1の直線運動方向LR1に上昇させ、下部治具20の下部咬合部21を上部治具10の上部咬合部11に咬合させる(
図3参照)。
【0043】
次に、下部治具20の下部咬合部21が上部治具10の上部咬合部11に咬合することによって、繊維状チーズは下部咬合部21および上部咬合部11に押し潰される(
図4参照)。そして、この状態で、上部治具10を第1の回転運動方向RR1に回転させることで、上部治具10の上部咬合部11を繊維状チーズに接触させながらずり動かす(
図4参照)。なお、上部治具10および下部治具21は、評価対象の繊維状チーズFAとの接触面積より十分に広い面を有する(
図3および
図4参照)。
【0044】
次いで、駆動部30は、上部治具10の第1の回転運動方向RR1の回転を停止し、下部治具20を第2の直線運動方向LR2に下降させ、下部治具20の下部咬合部21と上部治具10の上部咬合部11との咬合を解除させる(
図5参照)。
【0045】
続いて、駆動部30は、下部治具20を第1の直線運動方向LR1に上昇させ、下部治具20の下部咬合部21を上部治具10の上部咬合部11に咬合させる。そして、駆動部30は、この状態で、上部治具10を第2の回転運動方向RR2に回転させることで、上部治具10の上部咬合部11を繊維状チーズに接触させながらずり動かす(
図6参照)。
【0046】
以降は、上述の動作、すなわち、
図3~
図6に示される動作が繰り返し行われる。また、この間、疑似唾液供給部50から2mL/分のペースで下部咬合部21の上に疑似唾液が供給され続ける。また、上述の動作のうち、下部治具20が最下端の位置から上昇して上部治具10と咬合し、再び下降して再下端の位置に戻るまでの工程を、1回の圧縮あるいは咀嚼と称することがある。
【0047】
このようにして下部治具20の往復直線運動LRを行うと同時に、センサ12の出力から物理量を計測し、得られた計測値から繊維状チーズの物性を評価する。
【0048】
なお、この食品物性評価装置1では、咬合力(繊維状チーズに係る最大の力)、疑似咀嚼速度(単位時間当たりの咬合の回数:咬合速度)、疑似唾液添加流量、咀嚼回数(咬合回数)、温度等の項目を設定することができる。なお、本発明の実施の形態に係る繊維状チーズが評価されるに当たって、上記各パラメータは以下の通りに設定されている。
・咬合力:200N
・疑似咀嚼速度:1秒/回
・疑似唾液添加流量:2mL/分
・咀嚼回数:90回
【0049】
この食品物性評価装置1(食品物性の評価装置)では、所定の回数の咀嚼中および咀嚼後の食塊の外観を目視で確認することができる。また、計測制御部40で、計測された力のデータから時間で積分して力積のデータを得ることもできる。
【0050】
また、同繊維状チーズが上述の(A)に示される条件を満たす場合、D-遊離アミノ酸およびL-遊離アミノ酸の合計含量は2.0mg/g以上であることが好ましく、2.2mg/g以上であることがより好ましく、2.5mg/g以上であることがより好ましい。なお、本発明の実施の形態において同合計含量の上限は特に限定されないが、例えば、6.0mg/gであることが好ましく、3.0mg/gであることがより好ましい。
【0051】
ところで、上述の(A)に示される条件は、「D-遊離アミノ酸およびL-遊離アミノ酸の合計含量が1.9mg/g以上であると共に、前記D-遊離アミノ酸の含量が4.0×10-2mg/g以上であること」とされるのが好ましい。かかる場合、D-遊離アミノ酸の含量は5.0×10-2mg/g以上であることが好ましく、6.0×10-2mg/g以上であることがより好ましく、7.0×10-2mg/g以上であることがさらに好ましく、8.0×10-2mg/g以上であることが特に好ましい。なお、本発明の実施の形態において同D-遊離アミノ酸の含量の上限は特に限定されないが、例えば、10×10-2mg/gである。
【0052】
また、同繊維状チーズが上述の(A)に示される条件を満たす場合、1.0×10-2mg/g以上含まれるL-遊離アミノ酸が2種類以上存在することが好ましい。また、このようなL-遊離アミノ酸は5種類以上存在することがより好ましく、10種類以上存在することがさらに好ましく、14種類以上存在することが特に好ましい。なお、本発明の実施の形態において同種類数の上限は特に限定されないが、例えば、20である。
【0053】
また、同繊維状チーズが上述の(A)に示される条件を満たす場合、4.0×10-5mg/g以上のD-遊離アミノ酸が5種類以上存在することが好ましい。また、このようなD-遊離アミノ酸は7種類以上存在することがより好ましく、9種類以上存在することがさらに好ましく、10種類以上存在することが特に好ましい。なお、本発明の実施の形態において同種類数の上限は特に限定されないが、例えば、20である。
【0054】
また、同繊維状チーズが上述の(B)に示される条件を満たす場合、L-遊離アスパラギン酸含量に対するD-遊離アスパラギン酸含量の比が0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましく、0.6以上であることがさらに好ましく、0.7以上であることがさらに好ましい。なお、本発明の実施の形態において同比の上限は特に限定されないが、例えば、2.0であることが好ましく、1.0であることがより好ましい。
【0055】
また、同繊維状チーズは、(A)および(B)のいずれの条件を満たす場合であっても、0.5質量%以上5質量%以下の範囲内でホエイを含むことが好ましい。なお、そのホエイの含量は1質量%以上5質量%以下の範囲内であることがより好ましく、2質量%以上5質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、3質量%以上5質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0056】
また、上述の繊維状チーズの一部を繊維配列方向に沿って10mm/秒で引き上げて、引き上げ開始から1.5秒から3.5秒までの引き裂いたときの時間に対する力の傾きが50mN/秒以上200mN/秒以下の範囲内である。なお、この傾きは、60mN/秒以上であることがより好ましく、70mN/秒であることがさらに好ましく、90mN/秒以上であることが特に好ましい。なお、本発明に係る実施の形態においてこの傾きの上限は特に限定されないが、190mN/秒であることが好ましく、180mN/秒であることがより好ましく、170mN/秒であることがさらに好ましく、160mN/秒あることが最も好ましい。なお、このような時間に対する力の傾きの測定は、英弘精機株式会社製のテクスチャ―アナライザーTA-XTplusCを用いて行われる。
【0057】
繊維状チーズを繊維配列方向に60mmの長さでカットし、試験台に固定する面をつくるために略半円柱にカットする。次に、繊維状チーズの略半円柱の平らな底面を下にして試験台に置き(すなわち、繊維配列方向が水平となるように置き)、上端から5mmの位置にナイフを水平に入れてそのまま軸方向(すなわち繊維配列方向)に沿って10mmの切込みを入れる。次に、その姿勢を保ちつつその繊維状チーズを瞬間接着剤(コニシ株式会社製アロンアルファプロ)で略半円柱の平らな底面をテーブルに貼り付けて3分間固定した後、切込み部分の端から2mmの部分をテクスチャ―アナライザーTA-XTplusCの治具で挟み込む。切込みから上側の部位をテクスチャ―アナライザーTA-XTplusCの治具(すなわち把持具)でその厚みが2mmになるまで挟み込んだ後に、その治具を、繊維状チーズの切込み側の反対側に向かって10mm/秒で移動させながら繊維状チーズの上方向に10mm/秒で引きあげて繊維状チーズを引き裂き、その引き裂きにかかった力(引裂力)をロードセルによって計測する。すなわち、このテクスチャ―アナライザーでは、治具は繊維配列方向に対して斜め45°の上方向に沿って移動させられる。また、把持具がこのようにして引き上げられる際、引き上げ方向が繊維状チーズの繊維配列方向に対して常に垂直になるように繊維状チーズが引き上げられる。
【0058】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例0059】
1.繊維状チーズの製造
生乳を72℃で15秒間殺菌した後にその生乳を35℃まで冷却し、その生乳に対して、乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)およびストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)から成る混合スターターが1.0質量%を占め、塩化カルシウムが0.02質量%を占め、レンネットが0.01質量%を占めるように混合スターター、塩化カルシウムおよびレンネットを加えて生乳を凝固させた。次に、その凝固物を2cm四方の立方体にカッティングしてドレイニングした後、圧搾してチーズカード(グリーンチーズ)を得た。次いで、チーズカードをポリエチレンフィルムに包装して1日間かけて凍結保管した(なお、以降、この凍結保管により凍結されたチーズカードを凍結チーズカードと称する。)。続いて、5℃に設定した冷蔵保管庫に凍結チーズカードを入れてそのまま2日間保管して解凍した後、解凍後の32kgのチーズカードを粉砕し、その粉砕されたチーズカードのpHが5.3になるようにpH調整した。pH調整済みの粉砕されたチーズカードに、フォンテラ社製のホエイタンパク質濃縮物(WPC)2.1kgを加えて(目的の繊維状チーズの質量に対して5質量%を占めるWPCが含まれている。)、それらをロタサームオーガフィードホッパーで30分間混合した。続いて、その混合物が68℃に達するまでその混合物をAlmac社製のストレッチャーで加熱混練した後、さらにその混合物を63℃で15分間混練した。続いて、その加熱混練物の温度を60℃±2℃程度に保ちながら、その加熱混練物を二軸スクリューでノズル径20mmの管に押出した後、その直径が17mmになるまでその押出物を引き伸ばした。その後、その押出物を10℃のブラインに浸漬した後、それを10cmずつにカットした。そして、その押出物の表面の水分をふき取って目的の繊維状チーズを得た。
【0060】
なお、この繊維状チーズにおいて水分含量は51.1質量%であり、タンパク質含量は23.4質量%であり、脂肪含量は19.7質量%であり、固形分中の脂肪含量(Fat in Dry Mutter:FDM)は40.4質量%であり、pHは5.4であった(なお、水分含量は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルの「第1章 一般成分及び関連成分」に記載の「常圧加熱乾燥法 乾燥助剤添加法」(P2-P3)に従って測定した。また、タンパク質含量は、同章に記載の「マクロ改良ケルダール法」(P12-P16)に従って測定した。また、脂肪含量は、同章に記載の「酸・アンモニア分解法」(P24-P25)に従って測定した。また、固形分中の脂肪含量は、脂肪÷(脂肪+タンパク質)×100の計算式により算出した。また、このpHは、回転数を10000rpmに設定したホモジナイザー(日本精機株式会社製エクセルオートホモジナイザー)で5分間、繊維状チーズを粉砕した後、その粉砕物にpH測定器(ニッコーハンセン株式会社製pH spear)のプローブを突き刺して測定した。)。また、この繊維状チーズにおけるホエイの含量は3.5質量%であった(なお、このホエイの含量は、原料に含まれるホエイの含有質量に基づいて算出された。)。
【0061】
2.繊維状チーズの物性評価
(1)疑似食塊評価
上述の食品物性評価装置の下部治具20の下部咬合部21の上に、3gになるようにカットした繊維状チーズを載置し、上述の設定で同繊維状チーズの疑似咀嚼評価を行ったところ、30回目の咀嚼(咬合)における力積が2.6N・sとなった(表7参照)。咀嚼によって食片が小さくなり、30回目では唾液と馴染んでいた。30回目の咀嚼の力積が小さいことが、繊維状の性状が崩れて食片が小さくなったことに関連することが示唆された。
【0062】
(2)遊離アミノ酸の一斉定量分析
(1-1)試薬
本分析に際し、以下の溶媒を用意した。
・水(比抵抗値18.2MΩ・cmの超純水)
・メタノール水溶液(上述の水とメタノール(関東化学株式会社製HPLCグレード)とを容積比50:50で混合したもの)(水/メタノール(1:1,v/v)混液ともいう)
・塩酸/メタノール第1混液(5mol/Lの塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社製容量分析グレード)100μLを水で50倍希釈したものとメタノールとを容積比50:50で混合したもの)(0.1mol/L塩酸/メタノール(1:1,v/v)混液ともいう)
・塩酸/メタノール第2混液(5mol/Lの塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社製容量分析グレード)100μLを水で125倍希釈したものとメタノールとを容積比50:50で混合したもの)(0.04mol/L塩酸/メタノール(1:1,v/v)混液ともいう)
【0063】
(1-2)アミノ酸標準原液の調製
以下の表1に示される各種アミノ酸標準物質を精密に量り取り、それらを同表の同行に記載の各種溶媒に溶かして、同表に記載の濃度のアミノ酸標準原液を調製した。
【表1】
【0064】
(1-3)アミノ酸混合標準溶液の調製
上表1中のD-Alloisoleucine標準原液、L-Alloisoleucine標準原液、D-Isoleucine標準原液、L-Isoleucine標準原液、DL-Threonine標準原液、L-Allothreonine標準原液を各50μLずつ採取した後、それに残りのアミノ酸標準原液を各100μLずつ加えて50μg/mLのアミノ酸混合標準溶液を調製した。なお、このアミノ酸混合標準溶液には、上述の各アミノ酸のD体およびL体がそれぞれ50μg/mLで含まれる。以下、このアミノ酸混合標準溶液をWS50000と称する。そして、アミノ酸混合標準溶液を、異なる量の水で希釈して、WS0.5、WS1、WS5、WS10、WS50、WS100、WS500、WS1000、WS5000のアミノ酸混合標準溶液を調製した。なお、各アミノ酸混合標準溶液を調製する際に、ベースとしたアミノ酸混合標準溶液の名称およびその分取量、添加水量(μL)、ならびに、最終的に得られた各アミノ酸混合標準溶液におけるアミノ酸の濃度(ng/mL)を表2に示す。
【0065】
【0066】
(1-4)内標準溶液の調製
D-チロシン-(フェニル-d4)(D -Tyrosine-(phenyl-d4))を精密に量り取り、それを塩酸/メタノール第1混液に溶解させて10mMのD-チロシン-(フェニル-d4)原液を調製した。さらに、そのD-チロシン-(フェニル-d4)原液に水を加えて100μMのD-チロシン-(フェニル-d4)溶液を調製した。このD-チロシン-(フェニル-d4)溶液と各種アミノ酸内部標準原液(積水メディカル株式会社製の新生児マススクリーニング用測定試薬NeoSMAAT(登録商標)付属品)を等量で混合した後、その混合液を水で100倍希釈して各種内部標準液(IS液)を調製した。なお、各種アミノ酸内部標準原液は、表3に示される通りである。また、各種アミノ酸と内部標準物質との関係は表4に示される通りである。なお、対応する安定同位体標識アミノ酸がないものは、保持時間が近く高感度のもので代用したため、D体とL体で別の安定同位体標識アミノ酸を用いている場合がある。
【0067】
【0068】
【0069】
この内部標準液中の成分測定は、Nexera X2(LC部)及びLCMS-8060(質量分析部)を用いて、以下に示す文献Aに記載されるものに準ずる条件で実施した。
【0070】
文献A:M. Harada, S. Karakawa et al., Biaryl axially chiral derivatizing agent for simultaneous separation and sensitive detection of proteinogenic amino acid enantiomersusing liquid chromatography-tandem mass spectrometry, Journal of Chromatography A, 1593:91-101, 2019
【0071】
(1-5)QC試料の調製
上述の繊維状チーズをそれぞれ粉砕した後に各粉砕物を精密に量り取った。次に、各粉砕物の質量の9倍量の生理食塩液を各粉砕物に加えた後、バイオマッシャーを用いて各粉砕物の破砕と懸濁を行って5つの懸濁液を調製した。次いで、各懸濁液を、10000rpmおよび4℃の条件下で5分間遠心分離処理した後、その処理液から上清を回収し、さらにその上清をフィルターろ過し、そのろ液を試料抽出液とした。続いて、その各試料抽出液に水を加えて50倍希釈抽出液を調製した。そして、各試料抽出液を等量混合してプール抽出液を調製すると共に、各50倍希釈抽出液を等量混合して希釈プール抽出液を調製した。そして、以下の表5に示される通りにアミノ酸混合標準溶液を添加して添加回収用試料(QC試料)を調製した。
【0072】
【0073】
(1-6)前処理および測定
上述の試料、添加回収用試料(QC試料)およびアミノ酸混合標準溶液(WS0.5~WS50000)をそれぞれ水で希釈し、各試料および各アミノ酸混合標準溶液に内部標準液(IS液)を加えた後、さらにそれらにクロロホルム(富士フイルム和光純薬株式会社製残留農薬・PCB試験グレード)を添加して脱脂処理を行った.その後、各試料および各アミノ酸混合標準溶液を遠心分離処理して得られた上層(水層)を回収し、上述の文献Aに記載の方法に準じて誘導体化処理した後に逆相液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置(LC-MS/MS)に供した。なお、この成分測定は、Nexera X2(LC部)及びLCMS-8060(質量分析部)を用いて、上述の文献Aに記載されるものに準ずる条件で実施した。なお、同条件は以下の通りである。
【0074】
・カラム:Triart Phenylガードカラム(粒子径1.9μm 内径50mm;YMC株式会社製)
・カラム温度;40℃
・移動相A:10mMギ酸アンモニウムを含む0.1%ギ酸
・移動相B:アセトニトリル/水(95:5,v/v)
・グラジエント条件(移動相B):0~3分 14~16%
・3~5分 16~28%
・5~9.3分 28~33%
・9.3~11分 33~50%
・11~11.4分 50~90%
・11.4~12.9分90%
・流速:0.4mL/min
・注入量:5μL
・エレクトロスプレーイオン化法(IonDrive Turbo V Ion Source)
・キャピラリー電圧 5000V 温度 600℃ ポジティブモード
・CUR(カーテンガス):40V
・GS1(イオン源ガス1):70V
・GS2(イオン源ガス1):70V
・CAD(衝突活性化解離):8V
・EP(入口電位):10V
【0075】
(1-7)アミノ酸濃度の算出方法
逆相液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置で得られた各アミノ酸混合標準溶液の測定チャートにおける各ピークの面積比(アミノ酸/内部標準物(IS))を用いて、最小二乗法により一次回帰直線式を求めてそれを検量線とした。試料およびQC試料のピーク面積比(試料中のアミノ酸/内部標準物(IS))を一次回帰直線式に代入して試料およびQC試料中のアミノ酸濃度を算出した。なお、検量線の作成および濃度算出の際には、株式会社島津製作所のLabSolutions Insight 3.6を用いて、最終的にアミノ酸の測定濃度、希釈率および秤量値から試料質量当たりのD,L-アミノ酸含有量を計算した。また各試料のD-遊離アミノ酸含量をL-遊離アミノ酸含量で除して、L-遊離アミノ酸含量に対するD-遊離アミノ酸含量の比を算出した。この比が0.0001以下である場合、D-遊離アミノ酸の定量値は誘導体化試薬の光学純度の影響を受けていると考えられたため、参考値とした。
【0076】
(1-8)検量線の適合基準
検量線の適合基準は、定量下限の真度が100.0±20.0%以内であり、且つ、その他の濃度で100.0±15.0%以内であることとした。なお、その真度は以下の式で求められる。
真度(%)=測定値/理論値×100
【0077】
(1-9)QC試料の適合基準
QC試料の適合基準は、2種類の濃度のQC試料のうち、少なくともいずれか一方の添加回収率が100.0±15.0%以内であることとした。なお、その添加回収率は以下の式で求められる。
添加回収率(%)=測定値/(試料抽出液平均濃度+理論添加濃度)×100
【0078】
QC試料のピークが検出されなかった場合(N.D.)は測定値を0(ゼロ)とし、定量下限未満の場合は外挿値を用いてQC試料の回収率を算出した。なお,全ての試料がピーク非検出または定量下限未満の場合には回収率の算出は行わなかった。
【0079】
(1-10)添加回収率の確認
各添加回収用試料(QC試料)の添加回収率を表6に示した。L-グルタミン酸のみ50倍希釈抽出液および希釈添加回収用試料の結果を採用した。D-イソロイシン、D,L-アロイソロイシン、D-トレオニン、D-アロトレオニン、D-トリプトファン、D-チロシンおよびD-バリンは、いずれの試料でも定量下限未満またはピーク非検出であったため、添加回収率の算出は行われなかったが、その他のアミノ酸については全て100±15%以内であり、適合基準を満たした。
【0080】
【0081】
上述の測定の結果、上述の繊維状チーズ中の遊離アミノ酸の合計含量が1.98mg/gであり、D-遊離アミノ酸の合計含量が8.3×10-2mg/gであった(表7参照)。また、L-アスパラギン酸含量に対するD-アスパラギン酸含量の比は0.44であった(表7参照)。また、試料中、1.0×10-2mg/g以上含まれるL-遊離アミノ酸は18種類存在し、4.0×10-5mg/g以上含まれるD-遊離アミノ酸は10種類存在した(表7参照)。
【0082】
(3)発酵熟成風味の官能評価
4年以上のチーズ開発業務経験を有する者を10名、専門パネラーとして選出し、その専門パネラーにより上述の繊維状チーズの発酵熟成風味を5段階で評価してもらい、その平均点を評価点とした。なお、発酵熟成風味の評価基準は以下に示される通りであった。また、評価前に以下の5~1点に相当するサンプルチーズ各専門パネラーに食してもらって発酵熟成風味の評価合わせを行った。その結果、上述の繊維状チーズの評価点は4.0であった(表7参照)。
【0083】
5点:発酵熟成風味を非常に強く感じる
4点:発酵熟成風味をよく感じる
3点:発酵熟成風味を弱く感じる
2点:発酵熟成風味をほとんど感じない
1点:発酵熟成風味を全く感じない
【0084】
(4)糸ひき性の評価
4年以上のチーズ開発業務経験を有する者3名に、繊維状チーズを引き裂いた際に発生する糸ひきの本数を指標として以下の評価基準に基づいて採点してもらった後、同3名のチーズ開発研究者による協議によりその点数を決定した。その結果、上述の繊維状チーズの評価点は5であった(表7参照)。
【0085】
(評価基準)
5点:糸ひきの本数が50本以上
4点:糸ひきの本数が20本以上
3点:糸ひきの本数が10本以上
2点:糸ひきの本数が1本以上
1点:糸ひきが生じない
【0086】
また、上述のテクスチャーアナライザーTA-XTplusC(英弘精機株式会社製)を用いて上述の繊維状チーズの引裂試験を行った。この際、引裂力が安定した領域である1.5~3.5秒間の測定結果を用いて最小自乗法により時間に対する引裂力の傾きを求めたところ、143mN/秒であった(表7参照)。
なお、この繊維状チーズの組成は、水分51.5質量%、タンパク質19.7質量%、脂肪19.7質量%、固形分中の脂肪含量40.7質量%であった。また、この繊維状チーズのpHは5.4であった。また、この繊維状チーズにおけるホエイの含量は3.5質量%であった。