(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153216
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】水中油型ピッカリングエマルション
(51)【国際特許分類】
B01J 13/00 20060101AFI20231005BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20231005BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20231005BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20231005BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20231005BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20231005BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20231005BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231005BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231005BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20231005BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20231005BHJP
A23C 9/152 20060101ALN20231005BHJP
A61K 8/9794 20170101ALN20231005BHJP
【FI】
B01J13/00 A
A23D9/00 514
A23D9/00 516
A23D9/00 518
A23L9/20
A61K8/06
A61K8/64
A61K9/107
A61K47/42
A61K47/10
A61K47/26
A61K8/37
A61K8/60
A23C9/152
A61K8/9794
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129517
(22)【出願日】2023-08-08
(62)【分割の表示】P 2020525668の分割
【原出願日】2019-06-13
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/022612
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花崎 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】松浦 傳史
(72)【発明者】
【氏名】五十島 健史
(57)【要約】
【解決手段】本発明によれば、固体粒子、非イオン性の両親媒性物質、油相成分及び水相成分を有し、前記固体粒子が有機物である、水中油型ピッカリングエマルションが提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体粒子、非イオン性の両親媒性物質、油相成分及び水相成分を有し、
前記固体粒子は有機物である、水中油型ピッカリングエマルション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型ピッカリングエマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野の乳化には、従来から界面活性剤を用いた乳化が利用されている。界面活性剤による乳化は、熱力学的に不安定であるため、長期安定性及び高温での殺菌工程に対する安定性を確保するためには、例えば、水中油型エマルション(O/W型)の油滴粒子径をサブミクロンレベルまで下げる必要があった。
【0003】
近年、食品分野においては、食欲に通じる見た目、風味(味覚、嗅覚による感覚を刺激するもの)、食感、健康志向による成分へのこだわり等のニーズが増加している。そこで、従来の界面活性剤を用いた乳化組成物とは異なるエマルションサイズや構造を有する水中油型エマルションの開発が求められている。
例えば、特許文献1には、参考例1において牛乳の脂肪粒子径を大きくすると(平均脂肪粒子径0.4~1.3μm)、官能評価において濃厚感及び総合評価が向上することが報告されている。さらに、特許文献2には、平均乳化粒子径が15~100μmの乳化組成物において好ましい味質を示すことが報告されている。また、非特許文献1には、平均粒子径が8μmの乳化油脂を含有するプリンが、「甘み」や「濃厚感」、また「後味の持続性」「おいしさ」について、強く感じられている傾向が見られ、平均粒子径として約8μm付近においしいと感じる最適なサイズが存在する可能性が示唆された、と報告されている。
【0004】
また、界面活性剤による乳化以外の手法として、コロイドなどの微粒子を用いてエマルションを安定化できることが知られている。微粒子が油-水のような液液界面に吸着することにより安定化されたエマルションは、「微粒子安定化エマルション」あるいは「ピッカリングエマルション」と呼ばれる。近年、微粒子安定化エマルション(ピッカリングエマルション)の研究が活発に行われている。
例えば、食品分野では非特許文献2や非特許文献3の方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2012/026476号
【特許文献2】国際公開第2015/147043号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】エマルションの調製技術 事例集, 2012, 217-223
【非特許文献2】Yuan Zou et.Al, J.Agric. Food Chem. 2015, 63, 7405-7414
【非特許文献3】Zhi-Ming Gao et.Al, J.Agric. Food Chem. 2014, 62, 2672-2678
【非特許文献4】油脂 Vol.65, No4(2012), 94-102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、食品用途に使用する際には、耐熱性の付与が必要とされるものの、特許文献1及び2にも、非特許文献2及び3にも加熱時の安定性については触れられていない。
また、例えば、油相成分として食用油脂を用いた水中油型エマルションにおいては、油滴同士の合一の抑制や、合一に繋がるクリーミングの抑制、油滴を構成する成分の針状結
晶成長による界面破壊の結果生じる乳化の不安定化は大きな課題であるが(非特許文献4)、非特許文献1では、針状結晶成長による乳化不安定化については、触れられていない。
そこで、本発明では、耐熱性、乳化安定性の良好な水中油型ピッカリングエマルションを提供することを第1の課題とする。
【0008】
さらに、食物でアレルギーを発症する食物アレルギーの患者の増加に伴い、アレルゲン性物質の使用が制限される場合があり、使用する食品素材への注目が高まっている。食物アレルギーは、皮膚の痒みや炎症、アナフィラキシーショック等の死に至る重篤な症状を引き起こす可能性もあり、危険性が高い。従って、食品用途においては、喫食者のアレルゲン性物質に応じて、使用する食品素材におけるアレルゲン性物資を別の食品素材に変更した水中油型エマルションの提供が求められている。
例えば、非特許文献2や非特許文献3には、トウモロコシに含まれるゼインを用いた方法が開示されているが、ゼインはトウモロコシにアレルギーがある場合には経口摂取を避けるべき素材である。また、特許文献1には消費者のニーズに応じた風味の飲料の提供に際して、乳性飲料の成分を調整することなく、風味の改善した乳性飲料の提供について開示しているが、乳アレルギー対応では、食品原材料として乳由来タンパク質、特にアレルゲン性が強いカゼインや乳清タンパク質であるβ-ラクトグロブリンを避ける必要があった。
そこで、本発明では、喫食者のアレルゲン性物質に応じて、特定のアレルゲン物質を含有する可食素材の代替品となり得る水中油型ピッカリングエマルションを提供することを第2の課題とする。
さらに、第1の課題と第2の課題を同時に満たすことを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究をすすめ、特定の固体粒子を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。本発明は、以下のものを含む。
【0010】
(1)固体粒子、非イオン性の両親媒性物質、油相成分及び水相成分を有し、
前記固体粒子は有機物である、水中油型ピッカリングエマルション。
(2)前記固体粒子が蛋白質である、(1)に記載の水中油型ピッカリングエマルション。
(3)前記固体粒子が疎水性蛋白質である、(1)又は(2)に記載の水中油型ピッカリングエマルション。
(4)前記固体粒子が米由来蛋白質である、(1)~(3)のいずれかに記載の水中油型ピッカリングエマルション。
(5)前記非イオン性の両親媒性物質のHLBが3以上である、(1)~(4)のいずれかに記載の水中油型ピッカリングエマルション。
(6)前記非イオン性の両親媒性物質がショ糖脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルである、(1)~(5)のいずれかに記載の水中油型ピッカリングエマルション。
(7)前記ショ糖脂肪酸エステル中のモノエステル含有量が20~100重量%である、(6)に記載の水中油型ピッカリングエマルション。
(8)油相成分が、常温固体脂である、(1)~(7)のいずれかに記載の水中油型ピッカリングエマルション。
(9)油相の平均粒子径が2.2μm以上である、(1)~(8)のいずれかに記載の水中油型ピッカリングエマルション。
(10)固体粒子、油相成分、水相成分及び両親媒性物質を有し、
前記固体粒子が米由来蛋白質である、水中油型ピッカリングエマルション。
(11)(1)~(10)のいずれかに記載の水中油型ピッカリングエマルションを含む食品。
(12)(1)~(10)のいずれかに記載の水中油型ピッカリングエマルションを含む乳代替物。
(13)(1)~(10)のいずれかに記載の水中油型ピッカリングエマルションを含む医薬品。
(14)(1)~(10)のいずれかに記載の水中油型ピッカリングエマルションを含む化粧品。
(15)(1)~(10)のいずれかに記載の水中油型ピッカリングエマルションを含むパーソナルケア製品。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、耐熱性の良好な水中油型ピッカリングエマルション(以下、水中油型乳化組成物ともいう。)を提供し得る。即ち、殺菌等の高温工程を経ても乳化安定性を保持でき、また、加熱前後での油相の粒子径分布の変化が小さいピッカリングエマルションを提供し得る。
また、加熱前後での粒子径分布の変化が小さいこと、さらには油相の粒子径が適度に大きいことにより、食感や見た目、触感、粘度、安定性等の良好なピッカリングエマルションを提供し得る。
さらに、降温安定性及び/又は昇温安定性が良好なピッカリングエマルションを提供し得る。従って、油相成分が状態変化(例えば、降温による凝固、結晶化等;昇温による融解等;)に起因して、油相の表面張力に変化が生じた場合であっても、油相成分の針状結晶成長による界面破壊などによって生じる乳化の不安定化を抑制し、ピッカリングエマルションの乳化安定性を保持し得る。
本発明により提供されるピッカリングエマルションは、飲料、液状食品等の飲食品、液状の経口組成物等の医薬品、化粧品、造影剤やPOCTに有効な検査キット等の診断用組成物、医療用材料、微粒子作製用組成物、それらを製造する中間組成物として好適に使用得る。
また、好適には、本発明によれば、喫食者のアレルゲン性物質に応じて、ピッカリングエマルションに特定のアレルゲン物質を含有しないことにより、前記特定のアレルゲン物質を含有する可食素材の代替品となり得る。これにより、食品の選択肢を拡大し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1に係る水中油型ピッカリングエマルションを脱塩水で10倍希釈したエマルションの、偏光顕微鏡写真である(図面代用写真)。
【
図2】(a)実施例4、(b)実施例5、及び(c)実施例6に係る水中油型ピッカリングエマルションの顕微鏡写真である(図面代用写真)。
【
図3】(a)実施例7、及び(b)実施例8に係る水中油型ピッカリングエマルションの顕微鏡写真である(図面代用写真)。
【
図4】実施例9に係る水中油型ピッカリングエマルションの顕微鏡写真である(図面代用写真)。
【
図5】実施例4に係る水中油型ピッカリングエマルションの顕微鏡写真であり、(a)の写真はオープンニコルで観察した顕微鏡写真であり、(b)の写真はクロスニコルで観察した顕微鏡写真である(図面代用写真)。
【
図6】実施例18に係る水中油型ピッカリングエマルションの顕微鏡写真である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に
限定されない。
【0014】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
本発明の第1の実施形態における水中油型ピッカリングエマルション(水中油型乳化組成物)は、固体粒子、非イオン性の両親媒性物質、油相成分及び水相成分を有し、前記固体粒子は有機物である、水中油型ピッカリングエマルションである。
本明細書において水中油型ピッカリングエマルションとは、連続相を水相とするいわゆるO/W型の水中油型ピッカリングエマルションに加え、W/O/W型ピッカリングエマルション等の多相乳化物も含む。
【0015】
(固体粒子)
本実施形態において、固体粒子は有機物である。固体粒子は、使用する水相成分及び油相成分に溶解せず、水相成分及び/又は油相成分に該固体粒子を添加した後にも、水相及び/又は油相を撹拌することができるものであれば特に限定されず、任意の有機物を用いることができる。また、固体粒子は、1種の固体粒子を用いてもよいし、任意に選択された2種以上の固体粒子を組み合わせて使用してもよい。
尚、固体とは、組成物調製時から消費時に至るまでに経る温度履歴において流動性を有しない状態である。また、水相もしくは油相に分散する前の固体粒子の形態としては、粉末状であってもよいし、ペースト状、ペレット状であってもよい。
【0016】
前記有機物としては、例えば、キチン、キトサン、セルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシセルロース、メチルセルロース、発酵セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ジェランガム、ネイティブジェランガム、キサンタンガム、カラギーナン、デキストリン、難消化性デキストリン、大豆多糖類、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコールエステル、タマリンドシードガム、タラガム、カラヤガム、グアガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、ガディガム、プルラン、アラビアガム、寒天、ファーセラン、イヌリン、コンニャクマンナン等の多糖類、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等のポリマー、有機顔料、オリゴマー、ヤヌス粒子、澱粉、澱粉加工品、シクロデキストリン、ホエーやカゼイン等の動物性蛋白質、大豆蛋白、ゼイン等の植物性蛋白質、ハイドロフォビン等の微生物由来蛋白質、酵素、蛋白質分解物、ペプチド、微生物、芽胞、細胞、フラボノイド等の植物抽出物、蛋白質ゲル粉砕物や穀物粉末等の食品粉砕物、それらの複合体、誘導体、等が挙げられる。合成物であっても天然物であっても構わない。特に、多糖及びポリマーの場合、直鎖状(セルロース)、分岐状(グルコマンナン等)、側鎖状(ガラクトマンナン類)、球状(アラビアガム、大豆多糖類)のいずれであってもよい。また、酸性多糖類でも中性多糖類でも、塩基性多糖類でもよい。
【0017】
澱粉としては、特にその由来原料に制限はないが、代表的な原料としては、馬鈴薯、ワキシーポテト、小麦、トウモロコシ、糯トウモロコシ、ハイアミローストウモロコシ、サツマイモ、米、糯米、キャッサバ、クズ、カタクリ、緑豆、サゴヤシ、ワラビ、オオウバユリなどが挙げられる。
澱粉加工品としては、湿式法又は乾式法にて、澱粉に各種加工(酵素的、物理的、化学的)を施し、性質を改善したり、機能性を付与したりした加工澱粉、化工澱粉が挙げられる。具体的には酵素処理デンプン、デンプングルコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、酢酸デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酸化デンプン、酸処理デンプン、アルファ化デンプン、乾燥デンプン、加熱処理デンプン、湿熱処理澱粉、油脂加工デンプン、造粒デンプン、吸油性デンプンなどが挙げられる。
【0018】
固体粒子の全重量に対する澱粉含有量は、50重量%未満とすることが好ましく、40重量%以下がより好ましく、25重量%以下がさらに好ましく、1重量%以下が特に好ましい。また、固体粒子が澱粉を全く含有しないことが最も好ましい。固体粒子中の澱粉含有量が上記範囲より多くなると、加熱殺菌時に、組成物全体の粘度を一定に保つことが難しくなる。さらには、一回糊化した澱粉が、老化及び結晶化することで、沈殿分離する可能性があるため、耐熱安定性が不十分となる虞がある。
【0019】
本実施形態のピッカリングエマルションを経口摂取組成物として、例えば食品分野で使用する場合には、固体粒子は可食性の有機物であればよく、食品添加物であっても食品原料であってもよい。好ましい可食性の有機物としては、蛋白質が挙げられる。蛋白質は、天然蛋白質でも遺伝子組み換え技術等で調製された合成蛋白質でもよい。また、変性蛋白質、部分的に酸処理、アルカリ処理、酵素処理などで分解した蛋白質、ペプチドなどでもよい。
使用する蛋白質の等電点に制限はないが、固体粒子を構成する主構成成分である蛋白質の等電点の下限値としては、通常pH2以上、好ましくはpH3以上、より好ましくはpH4以上である。上限値としては、通常pH12以下、好ましくはpH11以下、より好ましくはpH10以下、特に好ましくはpH9以下、最も好ましくはpH8以下である。等電点が低すぎる場合や、高すぎる場合には、蛋白質自体の水相成分もしくは油相成分への親和性が強まり、好適な濡れ性に制御することが難しい。
【0020】
蛋白質としては、疎水性蛋白質が好ましい。疎水性蛋白質を用いる場合には、後述する両親媒性物質がその疎水性部位を介して固体粒子である疎水性蛋白質に吸着することで固体粒子の表面性を改質せしめることができる。その際に、両親媒性物質の種類や添加量及び複合化量を変更することで、使用する油相成分に応じた固体粒子の濡れ性制御が可能となり、ピッカリングエマルションを形成し易くなるからである。これに対して、親水性蛋白質を用いた場合には、水中に溶解したり、固体粒子としての表面濡れ性を変更する際に両親媒性物質との間に静電相互作用などが生じる結果、使用する素材や使用条件(pHや塩濃度等)に制限が生じ、使用しにくいという欠点がある。
【0021】
また、蛋白質に対して、UV照射や熱や圧力等による物理的処理、酸、アルカリ、変性剤(尿素、塩酸グアニジン、アルコールをはじめとする有機溶剤、界面活性剤など)、酵素、酸化剤、還元剤、キレート剤、等による化学的処理を行ってもよい。このような処理を行うことで物理的及び/又は化学的に蛋白質を改質(変性、等)せしめることができ、それにより蛋白質もしくは蛋白質から形成される粒子(蛋白質凝集体、蛋白質を含む複合体)自体の濡れ性制御を行うことができる。即ち、適切な濡れ性に制御された蛋白質が安定化すべき界面(油相と水相との界面)に存在しやすくなり、安定なピッカリングエマルションを形成させることができる。また、加熱及び又は、加圧及び/又は、UV照射等による処理を行うことで、材料自体の腐敗を防ぐ殺菌効果も期待できる。
【0022】
これらの処理は、単独で行ってもよいし、任意に選択される2つ以上の処理を同時又は時間をおいて行ってもよい。たとえば、蛋白質を含む溶液に変性剤を添加し、熱を加える。これにより、変性剤による変性処理及び熱による変性処理が同時に行われる。尚、変性処理の方法は、変性させる蛋白質の種類、必要な変性の程度等を考慮して選択することができる。例えば、加熱処理を行う場合には、乾式加熱であっても湿式加熱であってもよい。使用する装置に制限はないが、乾式加熱の場合には、例えば、焙煎装置、熱風加熱装置、マイクロ波加熱装置等を使用することができる。湿式加熱の場合には、加湿加熱装置、蒸煮装置、蒸気加熱装置等を使用することができる。加熱温度としては、通常30℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上、殊更に好ましくは70℃以上、いっそう好ましくは80℃以上である。上限温度は、蛋白質
が完全に分解・蒸発してしまわない温度、すなわち200℃未満であればよい。加熱処理の時間としては、任意の時間でよく、通常10秒以上、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは5分以上、殊更に好ましくは10分以上、特に好ましくは15分以上、最も好ましくは30分以上である。
【0023】
疎水性蛋白質とは、構成アミノ酸に疎水性アミノ酸の含有量が多いものを意味する。即ち、疎水性アミノ酸が多量に含まれることにより、蛋白質の水溶性が低下し、疎水性蛋白質を形成する。疎水性アミノ酸としては、例えばロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、グルタミン、アスパラギン等を挙げることができる。
また、疎水性蛋白質は、水の接触角を測定することにより評価することもできる。通常5度以上、好ましくは10度以上、より好ましくは15度以上、さらに好ましくは20度以上、殊更に好ましくは40度以上、特に好ましくは50度以上、最も好ましくは65度以上である。上限に制限はないが、水相への分散等の製造時取扱いの観点から通常180度未満、好ましくは150度以下、より好ましくは130度以下、さらに好ましくは110度以下、特に好ましくは90度以下、最も好ましくは80度以下である。
上記接触角の測定方法は、固体粒子をタブレット化し、水を自重で滴下し、接触角測定装置を用いて常温で測定する。より具体的には、実施例に記載の測定方法により測定することができる。
【0024】
疎水性蛋白質としては、グルテリン、プロラミン、グロブリン等を挙げることができ、グルテリン、プロラミンがより疎水性が高いため好ましい。プロラミンとしては、ゼイン、グリアジン、ホルデイン、カフィリンなどがある。
【0025】
また、疎水性蛋白質としては、動物に由来する動物性蛋白質でもよく、植物に由来する植物性蛋白質でもよく、菌類由来の蛋白質でもよい。乳アレルギー対応では、食品原料として乳由来タンパク質、特にアレルゲン性が強いカゼインや乳清タンパク質であるβ-ラクトグロブリンを避ける必要があることから、植物性蛋白質が好ましい。また、宗教上の制限や、菜食主義に対応した食品提供の観点からも植物に由来する植物性蛋白質の使用が好ましい。
【0026】
前記植物としては、種々の穀類(主穀、雑穀、菽穀、擬穀)、例えば、トウモロコシ(コーン)、小麦、大麦、カラス麦、ライ麦、米(イネ種子)、モロコシ、ソルガム、ヒエ、アワ、キビ、ソバ、アマランサス、キノア、エンドウ豆や大豆や緑豆などの豆類、等が挙げられる。
前記植物の好ましい態様としては、アレルゲン性の観点から、食品表示法で定められる加工食品のアレルギー表示対象品目のうち、表示の義務がある特定原材料7品目に含まれる小麦、そば、及び落花生、並びに、表示が推奨されている特定原材料に準ずるもの20品目に含まれるカシューナッツ、くるみ、ごま、大豆、やまいも以外の植物が挙げられる。具体的には、トウモロコシ(コーン)、大麦、カラス麦、オーツ麦、ライ麦、米(イネ種子)、モロコシ、ソルガム、ヒエ、アワ、キビ、アマランサス、キノア、エンドウ豆、緑豆等が好ましい。また、グロブリンが主要な蛋白質である豆類と比較し、グルテリンやプロラミンが主要な蛋白質であるイネ科植物由来の蛋白質が、より疎水性が高い点でより好適である。従って、前記植物としては、トウモロコシ(コーン)、大麦、カラス麦、オーツ麦、ライ麦、米(イネ種子)、モロコシ、ソルガム、ヒエ、アワ、キビがより好ましく、トウモロコシ(コーン)、米(イネ種子)がさらに好ましく、米(イネ種子)が最も好ましい。
【0027】
また、固体粒子自体の味や色合い、匂いが食品等の経口摂取用途に対して影響する場合がある。そのため、風味の観点から、独特の匂いを有するトウモロコシ(コーン)由来蛋白質よりも米由来蛋白質の使用が好ましい。
さらに、固体粒子が暗く濃い色を呈している場合には、その用途に制限が生じる場合がある。例えば、食品を所望の味、色、匂いに調整しようとしたときに、固体粒子が着色していると、固体粒子が無色の場合と比較して、多くの調味素材や、着色料及び香料を添加する必要を生じることがある。その結果、製造時の工程数と添加物量が増加する傾向があるため、製造の煩雑性やコスト増加を招く虞がある。
従って、本実施形態で用いられる固体粒子は、そのL値が通常31以上であり、好ましくは40以上であり、より好ましくは50以上、さらに好ましくは62以上である。上限は限定されないが通常100以下である。固体粒子がこのような大きなL値を有することで、水中油型ピッカリングエマルションの外観が良好となる。
一方、L値が上記範囲より小さい固体粒子としては、例えば、暗く濃い色を呈する焙煎コーヒー豆由来成分等が挙げられる。係る焙煎コーヒー豆由来成分は、焙煎度が高くなるほどL値が小さくなる傾向にあり、水中油型ピッカリングエマルションの外観に悪影響を及ぼす虞がある。焙煎度とL値の関係については、例えば、インドネシア産ロブスタ種では、生豆のL値が57、浅煎豆のL値が32、中煎豆のL値が20、及び深煎豆のL値が16である。また、コロンビア産アラビカ種では、生豆のL値が55、浅煎豆のL値が32、中煎豆のL値が20、及び深煎豆のL値が16である。
【0028】
固体粒子のL値は色度計を用いて測定できる。L値は色の明度を表し、0~100の数値で表される。L値が100の場合には最も明るい状態(完全な白色)を示し、L値が0である場合には最も暗い状態(完全な黒色)を示す。色度計を用いた測定方法は、既知の方法により測定できる。
【0029】
蛋白質の栄養価を評価する指標としては、例えば、アミノ酸スコアがある。米のアミノ酸スコアは61であり、他の主要穀物と比べて高い。他の主要穀物、例えば、小麦(強力粉)のアミノ酸スコアは36であり、トウモロコシ(コーングリッツ)のアミノ酸スコアは31である。即ち、米はアミノ酸バランスが良好であり、栄養面で優れている。従って、本実施形態において、疎水性蛋白質の中でも、特に米由来蛋白質が好ましい。米由来の蛋白質としては、例えば、グルテリン(オリゼニン)、プロラミン、グロブリン、及びアルブミンが挙げられ、疎水性が高い点で、グルテリン及び/又はプロラミンが好ましい。また、一部の喫食者に対しては、米中に少量存在するグロブリン及びアルブミンがアレルゲン性を示すことからも、グルテリン及び/又はプロタミンが好ましい。
【0030】
米中において、プロラミンはプロテインボディIに、グルテリンはプロテインボディIIに蓄積される貯蔵蛋白質である。従って、例えば、「J. Agric. Food Chem. 2000, 48, 3124-3129」のような処理方法や、例えば、「特開2007-68454」又は「特許第5819981号」のような水、酸、アルカリ、有機溶媒、塩などを用いる抽出;精製方法;酵素を用いたグロブリン、アルブミンの特異的分解処理;それら処理方法の組合せ;によって、米からグロブリン、アルブミンを分離し、得ることができる。
【0031】
尚、上記アミノ酸スコアは、食品中の蛋白質当たりの必須アミノ酸量を、国連食料農業機構(FAO)、世界保健機構(WHO)、国連大学(UNU)の合同委員会により1985年に提案されたアミノ酸パターンと比較し、最も不足するアミノ酸に関して、その割合を百分率で示した数値であり、すべてのアミノ酸を充足するものは100とする数値である。尚、本発明ではアミノ酸パターンの年齢区分のうち、一般的に用いられる2~5歳用を用いて計算している。
【0032】
固体粒子の形状に制限はないが、球状、ロッド状、紐状、ゲル状、網目状、多孔質状、針状、フレーク状、等が挙げられる。固体粒子が、ゲル状の場合には、収縮していても、膨潤していてもよい。
固体粒子は、単一の成分により形成されていてもよく、種類の異なる複数種の成分からなる混合物により形成されていてもよい。
また、固体粒子は、凝集体、会合体を形成していてもよく、形成していなくてもよい。固体粒子が凝集体又は会合体を形成しており、かつ、固体粒子が高分子体により構成される場合には、固体粒子間に絡み合い構造、水素結合、イオン結合、分子間力等による架橋構造を有することが好ましい。
さらに、固体粒子は、その内部及び/又は表層に有効成分を含有することができる。
【0033】
固体粒子の一次粒子径は、特に限定されず、油相の粒子径、固体粒子を構成する有機物の種類等に応じて適宜選択すればよい。係る一次粒子径は、通常0.001μm以上、好ましくは0.01μm以上であり、好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは0.5μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.9μm以下である。
固体粒子の一次粒子径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)測定により得られた粒子画像を拡大し、画像上で観察できる粒子の粒子径の平均値を示す。観察する粒子数は5以上であってよく、20以上であってよく、40以上であってよく、100以上であってよく、200以上であってよい。固体粒子の一次粒子径は、カタログ値を用いても構わない。
【0034】
固体粒子の平均粒子径は、特に限定されず、油相の粒子径、固体粒子を構成する有機物の種類等に応じて適宜選択すればよい。液中に希薄状態で分散した固体粒子の平均粒子径は、通常0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは0.5μm以上であり、通常1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは250μm以下、より好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、より好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.9μm以下である。ここで、希薄状態とは、任意の濃度であるが、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いて、フロー式等で測定可能な濃度を指す。測定に供する濃度としては、通常20重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下、特に好ましくは0.02重量%以下である。
【0035】
液中での固体粒子のサイズは、例えば、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いて、粉体もしくは液中に分散された状態での固体粒子の粒子径分布、平均粒子径、メジアン径を測定することができる。
回折・散乱光の強度が不足するなどして、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置での測定が難しい場合には、動的光散乱法による測定で、液中に分散された状態での固体粒子の粒子径分布、平均粒子径、メジアン径を測定することができる。動的光散乱法による測定結果の解析は、例えばキュムラント法により解析することができる。レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置でも動的光散乱法でも測定できる場合には、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置にて測定を行うことが好ましい。
【0036】
本実施形態の水中油型乳化組成物を構成する固体粒子の分散や粒子径制御の観点から、固体粒子に対して別途、解砕処理、粉砕処理、分散処理を行ってもよい。これらの処理方法に制限はないが、乾式で処理を行ってもよいし、湿式で処理を行ってもよい。その組合せで段階的に解砕及び又は粉砕、分散の処理を行ってもよい。
湿式処理の方法としては、高圧ホモジナイザー、ホモジナイザー、ジェットミル、振動ミル、転動ミル、高圧流体衝撃ミル、ペイントシェイカー、ビーズミル、ボールミル、ディスクミル、ホモミキサーなど、乾式処理の方法としては、ピンミル、ジェットミル、ボールミル、ハンマーミル、ローラーミル、カッターミル、衝撃せん断ミル、などで行うことができるが、好ましくは高圧ホモジナイザー、ビーズミル、カッターミル、ハンマーミ
ルである。
湿式処理でビーズを使用する場合には、0.05~5mm程度の直径のビーズが好ましく用いられる。ビーズの材質に制限はないが、ガラスビーズ、特殊ガラスビーズ、アルミナビーズ、ジルコニア・シリカ系セラミックビーズ、ジルコニアビーズ、窒化ケイ素ビーズ、スチールなどを使用すればよい。
【0037】
処理時の温度は、通常-196℃以上、好ましくは-80℃以上、より好ましくは-40℃以上、さらに好ましくは-20℃以上、殊更に好ましくは0℃以上、特に好ましくは室温以上である。処理時の上限温度は、通常100℃以下であり、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。
処理時間は、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは1分30秒以上、更に好ましくは2分以上、殊更に好ましくは30分以上、特に好ましくは1時間以上、最も好ましくは2時間以上である。また、通常10時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは7時間以下、さらに好ましくは6時間以下である。処理時間が短すぎると粒子径制御が難しくなる傾向があり、処理時間が長すぎると、生産性が低下する傾向がある。
【0038】
本実施形態の水中油型乳化組成物の構成要素となる固体粒子を製造するために、前述の製造方法によって得られた解砕粒子について、粒子径の分級処理を行ってもよい。
分級処理条件としては、目開きが、通常150μm以下、好ましくは106μm以下、より好ましくは53μm以下、さらに好ましくは45μm以下、殊更に好ましくは38μm以下、特に好ましくは20μm以下である。
分級処理に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、乾式篩い分けの場合:回転式篩い、動揺式篩い、旋動式篩い、振動式篩い等を用いることができ、乾式気流式分級の場合:重力式分級機、慣性力式分級機、遠心力式分級機(クラシファイア、サイクロン等)等を用いることができ、湿式篩い分けの場合:機械的湿式分級機、水力分級機、沈降分級機、遠心式湿式分級機等を用いることができる。
【0039】
また、本実施形態に係る水中油型ピッカリングエマルション中の、水相-油相界面に存在する固体粒子のサイズは特に限定されない。係る固体粒子のサイズは、通常0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは0.5μm以上であり、通常500μm以下、好ましくは250μm以下、より好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下、より好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.9μm以下である。
水相-油相界面に存在する固体粒子のサイズは、例えば、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)測定により得られた粒子画像を拡大し、画像上で観察できる粒子の平均粒子径を示す。操作型電子顕微鏡を用いて観察することが好ましい。観察する粒子数は5以上であってよく、40以上であってよく、100以上であってよく、200以上であってよい。
回折・散乱光の強度が不足するなどして、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置での測定が難しい場合には、動的光散乱法による測定で、液中に分散された状態での固体粒子の粒子径分布、平均粒子径、メジアン径を測定することができる。動的光散乱法による測定結果の解析は、例えばキュムラント法により解析することができる。
【0040】
本実施形態に係る水中油型ピッカリングエマルションにおける固体粒子の含有量は、ピッカリングエマルション中に通常含有し得る量であれば特段限定されないが、組成物全量に対し通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、最も好ましくは0.5重量%以上であり、また通常50重量%以下、好ま
しくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下、特に好ましくは20重量%以
下、最も好ましくは15重量%以下である。
【0041】
(非イオン性の両親媒性物質)
本実施形態においては、非イオン性の両親媒性物質を使用することにより、様々な固体粒子の表面濡れ性を制御することができる。また、非イオン性の両親媒性物質は、イオン性の両親媒性物質よりもpHや塩類の影響を受けにくいため、固体粒子、油相成分、水相成分、他の成分により使用が制限されにくい。
【0042】
両親媒性物質は、通常その分子内に両親媒性構造を有する物質であり、好ましくは界面活性を有する物質である。両親媒性物質は、例えば、疎水性セグメントと親水性セグメントを有するような両親媒性ポリマー、蛋白、リン脂質、界面活性剤などが挙げられる。本実施形態における非イオン性の両親媒性物質としては、低分子界面活性剤が好ましく、その分子量は5000以下が好ましく、3000以下がより好ましく、2000以下が最も好ましい。低分子界面活性剤の分子量が小さいほど、重量あたりのモル数が大きく、より固体粒子との反応に寄与する分子数が増えるため、好ましい。低分子界面活性剤の分子量の下限としては、特に制限はないが、分子構造内に親水性部分と親油性部分を含むため、通常その分子量は200以上である。
低分子界面活性剤が親油基としてアルキル基を有する場合、該アルキル基は、直鎖アルキル基であっても分岐アルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましい。また、アルキル基の鎖長は、通常炭素数8以上であり、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは14以上、最も好ましくは16以上である。上限は特段限定されないが、通常24以下であり、好ましくは22以下である。
【0043】
また、低分子界面活性剤の親油基は、不飽和結合を有するアルケニル基又はアルキニル基であってもよく、これらの基の分岐の有無、鎖長、及びその好適な態様については、アルキル基の場合と同様である。本実施形態においては、親油基は不飽和結合を有しないアルキル基であることが好ましい。
尚、本実施形態において、低分子界面活性剤にはタンパク質や多糖類、合成ポリマーなどの高分子は含まれない。また、非イオン性の両親媒性物質は、粉体、固体、液体、ペーストなど、いずれの形態でもよい。非イオン性の両親媒性物質は、1種でもよく、2種以上の異なる両親媒性物質を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
非イオン性の両親媒性物質のHLBは、特段制限されないが、3以上であることが好ましい。HLBが上記範囲内にあることにより、水相成分に分散及び/又は溶解して使用することが容易になるという利点がある。非イオン性の両親媒性物質のHLBは、通常0以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは7以上であり、特に好ましくは10以上であり、最も好ましくは12以上である。また、係るHLBは、好ましくは20以下であり、より好ましくは19以下であり、さらに好ましくは18以下である。
HLB値は、通常、界面活性剤の分野で使用される親水性、疎水性のバランスで、通常用いる計算式、例えばGriffin、Davis、川上式、有機概念図等の方法が使用できる。また、カタログ等に記載されているHLBの数値を使用してもよい。
【0045】
前記非イオン性の両親媒性物質としては、特に制限されず、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル;それらの誘導体等を使用することができる。これらの中でも、経口摂取用途で使用する際には、耐熱性菌に対する静菌性を有する点で、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が好ましく、ショ糖脂肪酸エステルが特に好ましい。
【0046】
前記非イオン性の両親媒性物質がポリグリセリン脂肪酸エステルである場合、耐熱性菌
に対する静菌効果の点から、脂肪酸基の炭素数は、14~22であることがより好ましく、16~18であることがさらに好ましい。また、耐熱性菌に対する静菌効果の点から、ポリグリセリン脂肪酸エステル中のモノエステル含有量は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、より好ましくは50重量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、通常100重量%以下である。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、耐熱性菌に対する静菌効果の点から、ポリグリセリンの平均重合度が2~10が好ましく、2~5であることがより好ましく、さらに2~3であることが最も好ましい。
【0047】
また、前記非イオン性の両親媒性物質がショ糖脂肪酸エステルである場合、耐熱性菌に対する静菌効果の点から、脂肪酸基の炭素数は、14~22であることがより好ましく、16~18であることがさらに好ましい。また、前記ショ糖脂肪酸エステルは、モノエステルであってもよく、ジエステル、トリエステル等のポリエステルであってもよい。ショ糖脂肪酸エステル中のモノエステル含有量は、通常20重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上、耐熱性菌に対する静菌効果の点から、さらに好ましくは50重量%以上、最も好ましくは70重量%以上であり、また通常100重量%
以下、好ましくは99重量%以下、さらに好ましくは95重量%以下、特に好ましくは9
0重量%以下、最も好ましくは80重量%以下である。
【0048】
上記ショ糖脂肪酸エステルの市販品としては、「リョートーシュガーエステルS-1670」、「リョートーシュガーエステルS-1570」、「リョートーシュガーエステルS-1170」、「リョートーシュガーエステルS-970」、「リョートーシュガーエステルS-570」、「リョートーシュガーエステルP-1670」、「リョートーシュガーエステルP-1570」、「リョートーシュガーエステルM-1695」、「リョートーシュガーエステルO-1570」、「リョートーシュガーエステルL-1695」、「リョートーシュガーエステルLWA-1570」「リョートーモノエステル-P」(以上、三菱ケミカルフーズ社製、商品名);「DKエステルSS」、「DKエステルF-160」、「DKエステルF-140」、「DKエステルF-110」(以上、第一工業製薬社製、商品名);等が挙げられる。
【0049】
尚、両親媒性物質と固体粒子との反応又は相互作用には、例えば、疎水性相互作用、分子間力相互作用、水素結合、抗原-抗体反応等が含まれるが、塩による静電相互作用阻害の観点から、疎水性相互作用及び又は水素結合が好ましい。固体粒子が疎水性蛋白質の場合は、疎水性相互作用であることが好ましい。
【0050】
尚、水中油型ピッカリングエマルション中に含まれている両親媒性物質の分析方法は特に制限されないが、例えば次の(1)~(3)の手順で分析することができる。
(1)水中油型ピッカリングエマルションを遠心分離にかけ、その上澄み及び沈降物(両親媒性物質が吸着した固体粒子等)をそれぞれ回収し分析する。
(2)(1)で得られた沈降物から、種々の方法(塩添加、pH調整、エタノール等の所望の溶媒で洗浄等)で両親媒性物質を脱離させ、両親媒性物質の抽出液を得る。
(3)(1)で得られた上澄みや、(2)で得られた両親媒性物質の抽出液をGPC(特開平8-269075等参照)、LC/MS、LC/MS/MS(特開2014-122213等参照)、GC/MS、GC/MS/MS、NMR等の方法で同定する。
【0051】
本実施形態に係る水中油型ピッカリングエマルションにおける非イオン性の両親媒性物質の含有量は、ピッカリングエマルションに含有し得る量であれば特段限定されないが、ピッカリングエマルション全量に対し、通常0.00001重量%以上、好ましくは0.00005重量%以上、より好ましくは0.0001重量%以上、最も好ましくは0.001重量%以上であり、また通常5重量%以下、好ましくは1重量%未満、より好ましく
は0.5重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下、特に好ましくは0.05重量%以下、最も好ましくは0.01重量%以下である。
また、固体粒子の重量に対する非イオン性の両親媒性物質の重量(非イオン性両親媒性物質/固体粒子)は、通常0.00001以上、好ましくは0.00005以上、より好ましくは0.0001以上、さらに好ましくは0.0005以上、特に好ましくは0.001以上、最も好ましくは0.0025以上であり、また通常5以下、好ましくは1未満、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.1以下、殊更に好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.01以下、最も好ましくは0.005以下である。
また、本実施形態における水中油型ピッカリングエマルションにおける非イオン性の両親媒性物質の濃度は、臨界ミセル濃度以下であることがより好ましい。非イオン性の両親媒性物質の濃度を臨界ミセル濃度以下とすることによって、非イオン性の両親媒性物質がミセルを形成することなく単層で固体粒子に結合もしくは吸着可能となるため、固体粒子の表面性を効率よく改質せしめ、結果的に非イオン性の両親媒性物質の添加量を抑えることができる。
【0052】
(油相成分)
本実施形態においては、油相成分は特に制限はないが、ピッカリングエマルションに用いられるものであればよい。油相成分としては、不飽和高級脂肪酸炭化水素類、不飽和高級脂肪酸、動植物性油脂類、スクアレンやトコフェロールを含むイソプレノイド、高級アルコール、合成エステル油、グリコール高級脂肪酸エステル、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、などが挙げられる。
【0053】
油相成分は、食品用として使用し得るもの(以下、「食用油脂」と称する)を含有することが好ましく、いずれの食用油脂も使用することができる。食用油脂としては、生理機能を有する油脂、脂溶性の色素、抗酸化剤も含まれる。
食用油脂としては、例えば、ナタネ油、コメ油、大豆油、コーン油、サフラワー油、ヒマワリ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、リンシード油、マカデミア種子油、ツバキ種子油、茶実油、米糠油、ココアバターなどの植物性油脂;乳脂、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、魚油などの動物性油脂;これら植物性油脂又は動物性油脂の液状又は固体状物を精製や脱臭、分別、硬化、エステル交換といった油脂加工した、硬化ヤシ油、硬化パーム核油などの硬化油脂や加工油脂;更にこれらの油脂を分別して得られる液体油、固体脂;等を、1つ、又は2つ以上を用いることができる。この他に、生理機能性を有する油脂も使用可能であり、その具体例としては、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸、αリノレン酸、γリノレン酸、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)が挙げられる。これらの油脂は、1種で使用してもよく、混合物としても使用してもよい。
また、脂溶性の色素、抗酸化剤も使用可能であり、その具体的としては、色素としては、アナトー色素、β-カロチン、パプリカ色素、ニンジンカロテン、ディナリエラカロテン等のカロテノイド色素、ベニコウジ色素、クロロフィル、クルクミン(クルクミノイド)などのウコン色素、食用タール系色素、等が挙げられる。
抗酸化剤としては、ローズマリー抽出物、茶抽出物、生コーヒー豆抽出物、ブドウ種子抽出物、ヤマモモ抽出物などの植物抽出物、トコフェロール、トコトリエノール、アスコルビン酸パルミチン酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソールなどが挙げられる。
【0054】
前記油相成分としては、味わいの観点から、特に常温固体脂が好ましい。常温固体脂とは、常温(25℃)で固体の状態で存在する固体脂であり、例えば、牛脂、豚脂、パームステアリン、パーム中融点画分、硬化ヤシ油、硬化パーム核油、硬化ナタネ油、硬化ヒマシ油、硬化大豆油、硬化牛脂油、硬化魚油等を挙げることができる。また、植物性油脂およびその硬化油脂、加工油脂等を用いることがより好ましい。
【0055】
より好ましい油相成分は、パーム油、パームステアリン、パーム核油、ヤシ油、ココアバター、乳脂、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、硬化ヤシ油や硬化パーム核油といった植物性油脂又は動物性油脂の硬化油脂、植物性油脂又は動物性油脂の硬化油脂や加工油脂を分別して得られる固体脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)である。さらに好ましい油相成分は、パーム核油、ヤシ油、乳脂、硬化ヤシ油、硬化パーム核油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)である。最も好ましい油相成分は、パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、硬化パーム核油である。
これらの油脂は、1種で使用してもよく、混合物としても使用してもよい。
【0056】
特に、食用油脂について、主成分であるトリグリセリド分子に結合している全脂肪酸に占める、飽和脂肪酸以外、すなわちトランス脂肪酸を含む不飽和脂肪酸の割合が、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下、最も好ましくは5質量%以下であるものが、より良好な味質とするうえで好適である。
また、食用油脂は、トリグリセリド分子に結合している全脂肪酸に占める、炭素数が12以下の脂肪酸の割合が1質量%以上であるものが好ましく、3質量%以上であるものがより好ましく、5質量%以上であるものがさらに好ましく、10質量%以上であるものが特に好ましく、30質量%以上であるものが最も好ましい。
また、食用油脂は、沃素価が通常60.0以下、好ましくは50.0以下、より好ましくは30.0以下、さらに好ましくは20.0以下、特に好ましくは10.0以下、最も好ましくは5.0以下であることが、加熱時の酸化臭がなく、良好な風味となるため好適である。
また、食用油脂は、10℃におけるSFC(固形脂含量)が通常0質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらにより好ましくは40質量%以上、最も好ましくは50質量%以上であることが、風味のよい組成物を作るため好適である。
【0057】
ここで、固体脂量(SFC)の測定は、通常のパルスNMRによる方法が一般的であり、熱分析から得られる固体脂指数(SFI)を使用しても大差は生じない。
また、食用油脂の上昇融点が、通常-20℃以上、好ましくは-10℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上、特に好ましくは20℃以上、最も好ましくは25℃以上であることが、風味のよい組成物を作るため好適である。この上昇融点の上限は好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下、最も好ましくは45℃以下であることが、良好な乳化安定性を得るために好適である。
【0058】
また、本実施形態においては、油相の平均粒子径が2.2μm以上であることが望ましい。油相の平均粒子径とは、本願の不連続相のサイズ、即ちO/Wにおける油相や、W/O/Wにおける油相の径をいう。このような油相の平均粒子径とすることにより、食感や見た目、触感、粘度、安定性等を良好なものとすることができる。油相の平均粒子径は、通常0.5μmより大きく、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2.2μm以上、さらに好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上である。上限に制限はないが、通常1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下、殊更に好ましくは40μm以下、最も好ましくは30μm以下である。
このような乳化構造は、偏光顕微鏡による観察により確認することができる。また、不連続相のサイズは、偏光顕微鏡による観察により確認できる不連続相の長径の平均サイズである。確認する不連続相は、10以上であってよく、20以上であってよく、40以上であってよく、50以上であってよく、100以上であってよく、200以上であってよ
い。
その他に、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置や動的光散乱法による測定装置を用いて上記水中油型ピッカリングエマルションの不連続相のサイズ、即ちO/Wにおける油相の粒子径分布、メジアン径、平均粒子径を測定することもできる。
【0059】
本実施形態に係る水中油型ピッカリングエマルションにおける油相成分の含有量は、ピッカリングエマルションを形成し得る量であれば特段限定されないが、ピッカリングエマルション全量に対し、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、特に好ましくは20重量%以上、最も好ましくは30重量%以上、また通常80重量%未満、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。
【0060】
(水相成分)
本実施形態に係るピッカリングエマルションに含有される水相成分は、通常エマルションに配合され、水相を形成する成分であればよい。水のほか、低級アルコール、多価アルコールなどを含んでもよい。
【0061】
本実施形態に係る水中油型ピッカリングエマルションにおける水相成分の含有量は、ピッカリングエマルションを形成し得る量であれば特段限定されないが、ピッカリングエマルション全量に対し、通常20重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上、特に好ましくは50重量%以上、また通常95重量%未満、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは70重量%以下である。
【0062】
(その他の成分)
本実施形態におけるピッカリングエマルションには、本発明の効果を損ねない範囲において、さらに着色料、抗酸化剤、甘味料、安定化剤、乳成分、着香料、着色料、塩類、有機酸などを含んでいてもよい。
【0063】
甘味料としては、以下のものが挙げられる。
糖:ぶどう糖、果糖、木糖、ソルボース、ガラクトース、異性化糖などの単糖類;蔗糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、パラチノースなどの二糖類;フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、パラチノースなどのオリゴ糖類;など
糖アルコール:エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール等の単糖アルコール類;マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール等の2糖アルコール類;マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトール等の3糖アルコール類;オリゴ糖アルコール等の4糖以上アルコール類;粉末還元麦芽糖水飴;など
高甘味度甘味料:アスパルテーム、ネオテーム、スクラロース、ステビアなど
【0064】
安定化剤としては、ガラクトマンナン、キサンタンガム、カラギーナン、アラビアガム、タマリンドガム、ジェランガム、グルコマンナン、セルロースなどが挙げられる。
【0065】
乳成分としては、牛乳、加工乳、脱脂乳、生クリーム、ホエー、バターミルク、加糖練乳、無糖練乳などの液状物;全脂粉乳、脱脂粉乳、調製粉乳、粉末クリーム、粉末ホエー、バターミルクパウダーなどの粉末乳製品;が挙げられる。特にバターミルク、バターミルクパウダーが好ましい。バターミルクとは、牛乳から遠心分離等で製造されたクリームから、チャーニング等により乳脂肪部分をバターとして取り出した際に分離されるバターミルク、バターセーラムと呼ばれる液体分のことで、それを濃縮した液状の濃縮バターミルクと、さらに噴霧乾燥を行った粉末状のバターミルクパウダーがある。これらは、1種
を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。別途、牛乳からクリームやバターを分離する過程で、酸を生成する菌による発酵や、有機酸等の酸を添加する場合があるが、本発明で用いるバターミルクは、そのような発酵や酸添加を行っていないバターミルクが好ましい。
バターミルク類としては、よつ葉乳業社製「バターミルクパウダー」等の市販品を用いることができる。
【0066】
尚、前述の通り、水中油型ピッカリングエマルションにアレルゲン物質を含まないこととする観点から、乳成分としては、アレルゲン性が強いカゼインやβ-ラクトグロブリン
を含まないことが好ましく、乳由来タンパク質を含まないことがさらに好ましい。また、カゼインやβ-ラクトグロブリンを、酵素や酸などによる加水分解により、アレルゲン性を示さない充分な分子量まで低分子化した上で用いることが好ましい。
【0067】
着香料としては、任意のものを用いることができる。例えば、バニラエッセンス等のバニラ香料、ミルクフレーバー、バターフレーバー等のミルク香料が挙げられ、特に、ミルク香料が好ましい。ミルク香料としては、ミルクの芳香成分を有する香料であり、乳に特徴的な香気成分を含んだ香料であれば特に制限はなく、化学合成されたものでもよいし、乳より抽出、精製されたものでもよいし、それらの混合物であってもよいが、乳を原料としたものがより好ましく、乳成分に酵素を反応させて製造されたミルク香料が、自然な乳の風味を再現できるため、さらに好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
着色料としては、任意のものを用いることができる。例えば、カカオ色素、β-カロチ
ン、アナトー色素、トウガラシ色素、ウコン色素、オイルレッド色素、パプリカ色素、ナフトールイエロー色素、リボフラビン酪酸エステル(VB2)、等が挙げられる。
【0068】
塩類としては、例えば、食塩、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の塩化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩;重炭酸ナトリウム等の重炭酸塩;リン酸2ナトリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸2カリウム、リン酸3カリウム等のリン酸塩;ポリリン酸ナトリウム;クエン酸ナトリウム等のクエン酸塩;乳酸ナトリウム;などが挙げられる。特にマグネシウムを含む塩類が好ましく、食品用途して使用できるものとして、乳清ミネラル、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、苦汁(粗製海水塩化マグネシウム)、ドロマイト、粗塩、ステアリン酸マグネシウム、リン酸一水素マグネシウム、リン酸三マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、L-グルタミン酸マグネシウム、セピオライト、タルク、フィチンなどが挙げられる。
【0069】
有機酸としては、例えば、フマル酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルタル酸、マレイン酸などが挙げられる。
【0070】
(水中油型ピッカリングエマルションの製造)
本実施形態における水中油型ピッカリングエマルションは、それ自体公知の方法によって製造することができる。前記公知の方法としては、例えば、固体粒子、非イオン性の両親媒性物質、油相成分、水相成分、及び必要に応じてその他の成分を混合し、得られた混合液に対して任意の撹拌装置を用いて撹拌することにより製造することができる。
【0071】
特に制限はされないが、具体的には以下の方法により調製することで得られる。
水相成分と、上記非イオン性の両親媒性物質及び固体粒子と、を混合し、該混合物を撹拌するA1ステップ、前記ステップで得られた混合物と、前記油相成分と、を混合し、該混合物を撹拌するA2ステップ、を含む製造方法。
または、前記油相成分と、前記非イオン性の両親媒性物質及び前記固体粒子と、を混合し、該混合物を撹拌するA1´ステップ、前記ステップで得られた混合物と、前記水相成分と、を混合し、該混合物を撹拌するA2´ステップ、を含む製造方法。
【0072】
A1ステップは水相を調製するステップである。このように、非イオン性の両親媒性物質と固体粒子とを、水相に併用添加して水相を調製することで、両親媒性物質と固体粒子とが相互作用することで、ピッカリングエマルションを形成し易くなる。また、A1´ステップは油相を調製するステップである。このように、非イオン性の両親媒性物質と固体粒子とを、油相に併用添加して油相を調製することで、両親媒性物質と固体粒子とが相互作用することで、ピッカリングエマルションを形成し易くなる。
A1ステップ及びA1´ステップにおける混合物の撹拌は、常温常圧で行ってもよいし、加温状態及び/又は高圧状態で行ってもよい。撹拌速度や撹拌時間に制限はないが通常
10rpm以上20000rpm以下とすればよく、撹拌時間は通常10秒以上5時間以下である。段階的に撹拌速度や撹拌時間を変更してもよい。
【0073】
撹拌装置としては、高圧乳化機、パドルミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ニーダー、インラインミキサー、スタティックミキサー、オンレーター、ホモミキサー等が挙げられる。低エネルギー、低コストで充分な撹拌を行うことができる点で、ホモミキサー(ホモミクサー)、パドルミキサーやホモジナイザーが好ましい。対流範囲が広く、全体を均一に撹拌できる点で、ホモミクサーを使用することがより好ましい。また、異なる撹拌装置を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
A2ステップ及びA2´ステップは、ピッカリングエマルションを調製するステップである。A2ステップにおける混合物の撹拌は、典型的には油性成分を充分に融解させるため加温状態で行われ、通常10℃以上100℃以下、好ましくは20℃以上90℃以下、より好ましくは30℃以上90℃以下、さらに好ましくは40℃以上90℃以下、特に好ましくは50℃以上90℃以下、最も好ましくは60℃以上90℃以下である。また、撹拌速度は通常10rpm以上20000rpm以下とすればよく、撹拌時間は通常10秒以上60分以下である。
【0075】
撹拌条件に制限はないが、段階的に撹拌速度や撹拌時間を変更することで、より安定なピッカリングエマルションを形成せしめることが可能となる。具体的には、第一段階の高速撹拌で油滴を細かく分散せしめ、第二段階の撹拌時に第一段階の撹拌よりも低速撹拌とすることで固体粒子の油-水界面への吸着が促進され、その結果として乳化安定化が可能
となる。また、第二段階の撹拌時には、第一段階の高速撹拌中に発生する機器由来のせん断力による固体粒子の油-水界面への吸着不良を抑制すると共に、一旦界面に吸着した固
体粒子の界面からの脱離を抑制することが可能となる。
【0076】
段階的に撹拌条件を変更する場合には、第一段階の撹拌速度としては、通常3000rpm以上、より好ましくは5000rpm以上、さらに好ましくは7000rpm以上、殊更に好ましくは8000rpm以上である。撹拌速度に上限は無いが、通常25000rpm以下、好ましくは20000rpm以下、より好ましくは18000rpm以下、さらに好ましくは16000rpm以下、殊更に好ましくは14000rpm以下、特に好ましくは12000rpm以下、最も好ましくは10000rpm以下である。第一段階の撹拌時間としては、通常30秒以上、好ましくは1分以上である。撹拌時間に上限はないが、通常1時間以下、好ましくは30分以下、さらに好ましくは15分以下、特に好ましくは5分以下である。
【0077】
段階的に撹拌条件を変更する場合の第二段階の撹拌速度としては、通常10rpm以上、好ましくは100rpm以上、500rpm以上、1000rpm以上、2000rp
m以上、2500rpm以上であってよい。上限速度に制限はないが、通常10000rpm以下、好ましくは8000rpm以下、6000rpm以下、3000rpm以下であってよい。撹拌時間に特に制限はないが、固体粒子の油-水界面への吸着を促進する観点から、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは20分以上である。
【0078】
また、水中油型ピッカリングエマルションを調製した後には、通常60℃以上、好ましくは65℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは75℃以上、殊更に好ましくは80℃以上、特に好ましくは95℃以上、最も好ましくは100℃以上、通常160℃以下、好ましくは150℃以下で、通常0.01分以上、好ましくは0.03分以上、かつ、通常60分以下、好ましくは30分以下程度の殺菌処理を行ってもよい。殺菌方法に特に制限はないが、UHT殺菌、レトルト殺菌、ジュール式殺菌法などが挙げられる。UHT殺菌は、組成物に直接水蒸気を吹き込むスチームインジェクション式や組成物を水蒸気中に噴射して加熱するスチームインフュージョン式などの直接加熱方式;プレートやチューブなど表面熱交換器を用いる間接加熱方式;など公知の方法で行うことができ、例えばプレート式殺菌装置を用いることができる。
【0079】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
本発明の第2の実施形態に係る水中油型ピッカリングエマルション(水中油型乳化組成物)は、固体粒子、油相成分、水相成分及び両親媒性物質を有し、前記固体粒子が米由来蛋白質である、水中油型ピッカリングエマルションである。
本明細書において水中油型ピッカリングエマルションとは、連続相を水相とするいわゆるO/W型の水中油型ピッカリングエマルションに加え、W/O/W型ピッカリングエマルション等の多相乳化物も含む。
【0080】
(油相成分、水相成分、及び固体粒子)
本発明の第2の実施形態における上記油相成分及び水相成分としては、それぞれ、本発明の第1の実施形態に係るピッカリングエマルションに含まれる油相成分及び液相成分と同様のものを使用することができ、好ましい態様についても同様である。
また、第2の実施形態における上記米由来蛋白質についても、第1の実施形態における米由来蛋白質と同様である。
【0081】
(両親媒性物質)
本発明の第2の実施形態における両親媒性物質は、非イオン性の両親媒性物質でもイオン性の両親媒性物質でもよい。
【0082】
前記非イオン性の両親媒性物質としては、本発明の第1の実施形態に係るピッカリングエマルションに含まれる非イオン性の両親媒性物質と同様のものを使用することができ、好ましい態様も同様である。
【0083】
イオン性の両親媒性物質は、通常その分子内にイオン性構造および両親媒性構造を有する物質である。イオン性の両親媒性物質としては、両親媒性で界面活性を有する物質が好ましく、例えば、疎水性セグメントと親水性セグメントを有するような両親媒性ポリマー、蛋白、リン脂質、界面活性剤などが挙げられる。さらに、イオン性の両親媒性物質は、低分子界面活性剤であることが好ましく、その分子量は5000以下が好ましく、3000以下がより好ましく、2000以下が最も好ましい。低分子界面活性剤の分子量が小さいほど、重量あたりのモル数が大きく、より固体粒子との反応に寄与する分子数が増えるため、好ましい。低分子界面活性剤の分子量の下限としては特に制限はないが、分子構造内に親水性部分と親油性部分を含むために通常その分子量は200以上である。
界面活性剤が親油基としてアルキル基を有する場合、該アルキル基は、直鎖アルキル基
であっても分岐アルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましい。また、アルキル基の鎖長は、通常炭素数8以上であり、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは14以上、最も好ましくは16以上である。上限は特段限定されないが、通常24以下であり、好ましくは22以下である。
また、界面活性剤の親油基は、不飽和結合を有するアルケニル基又はアルキニル基であってもよく、これらの基の分岐の有無、鎖長、及びその好適な態様については、アルキル基の場合と同様である。本実施形態においては、親油基は不飽和結合を有しないアルキル基であることが好ましい。
尚、本実施形態において、低分子界面活性剤にはタンパク質や多糖類、合成ポリマーなどの高分子は含まれない。
また、イオン性の両親媒性物質は、粉体、固体、液体、ペーストなど、いずれの形態でもよい。
【0084】
イオン性の両親媒性物質は、アニオン性の両親媒性物質、カチオン性の両親媒性物質、両性の両親媒性物質等を用いることができる。
アニオン性の両親媒性物質としては、例えば、N-アシルアミノ酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキル硫酸エステル塩;ステアロイルメチルタウリンナトリウム;ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン;テトラデセンスルホン酸ナトリウム;ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸及びその塩、N-ラウロイルグルタミン酸及びその塩等が挙げることができる。
【0085】
カチオン性の両親媒性物質としては、例えば、アンモニウム系カチオン界面活性剤やサルフェート系カチオン界面活性剤が挙げられ、具体的には、第4級アンモニウム塩のうち、アルキルトリメチルアンモニウム塩として、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド等を挙げることができる。その他、第3級アミドアミンとして、ステアラミドプロピルジメチルアミン、ステアラミドプロピルジエチルアミン、ステアラミドエチルジエチルアミン、ステアラミドエチルジメチルアミン、パルミタミドプロピルジメチルアミン、パルミタアミドプロピルジエチルアミン、パルミタミドエチルジエチルアミン、パルミタミドエチルジメチルアミン、ベヘナミドプロピルジメチルアミン、ベヘナミドプロピルジエチルアミン、ベヘナミドエチルジエチルアミン、ベヘナミドエチルジメチルアミン、アラキダミドプロピルジメチルアミン、アラキダミドプロピルジエチルアミン、アラキダミドエチルジエチルアミン、アラキダミドエチルジメチルアミン、ジエチルアミノエチルステアラミド、等が挙げられる。
両性の両親媒性物質としては、例えば、リゾレシチン(酵素処理レシチン)、レシチン等のリン脂質が挙げられる。
【0086】
本実施形態において、両親媒性物質は、固体粒子の表面と反応又は相互作用しうる官能基を有していることが好ましいが、これに限定されるものではない。このような官能基を介して、両親媒性物質が固体粒子に吸着することで、固体粒子の表面性を改質せしめることができる。それによって、固体粒子の水相-油相界面への吸着が補強され、固体粒子単独のピッカリングエマルションよりも、乳化安定性に優れたピッカリングエマルションを
得ることができる。
【0087】
固体粒子と両親媒性物質との反応又は相互作用の例としては、静電相互作用、疎水性相互作用、分子間力相互作用、水素結合、抗原-抗体反応等が挙げられる。またこれらの反応又は相互作用を実現する両親媒性物質が有する官能基の例としては、アルキル基、カチオン性基、アニオン性基、アミノ酸残基、水酸基、カルボキシル基、ペプチド、蛋白質、抗原等が挙げられる。塩による静電相互作用阻害の観点から、疎水性相互作用及び又は水素結合が好ましい。また、固体粒子が疎水性蛋白質の場合は、疎水性相互作用であることが好ましい。
尚、水中油型ピッカリングエマルション中に含まれている両親媒性物質の分析方法は特に制限されないが、例えば、第1の実施形態で記載の方法と同様にして分析することができる。
【0088】
本実施形態に係る水中油型ピッカリングエマルションにおける両親媒性物質の含有量は、ピッカリングエマルションに含有し得る量であれば特段限定されないが、ピッカリングエマルション全量に対し、通常0.00001重量%以上、好ましくは0.00005重量%以上、より好ましくは0.0001重量%以上、最も好ましくは0.001重量%以上であり、また通常5重量%以下、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下、特に好ましくは0.05重量%以下、最も好ましくは0.01重量%以下である。
また、固体粒子の重量に対する両親媒性物質の重量(非イオン性両親媒性物質/固体粒子)は、通常0.00001以上、好ましくは0.00005以上、より好ましくは0.0001以上、さらに好ましくは0.0005以上、特に好ましくは0.001以上、最も好ましくは0.0025以上であり、また通常5以下、好ましくは1未満、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.1以下、殊更に好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.01以下、最も好ましくは0.005以下である。
【0089】
また、本実施形態における水中油型ピッカリングエマルションにおける両親媒性物質の濃度は、臨界ミセル濃度以下であることがより好ましい。両親媒性物質の濃度を臨界ミセル濃度以下とすることによって、両親媒性物質がミセルを形成することなく単層で固体粒子に結合もしくは吸着可能となるため、固体粒子の表面性を効率よく改質せしめ、結果的に両親媒性物質の添加量を抑えることができる。
【0090】
本実施形態においては、両親媒性物質として、非イオン性の両親媒性物質を使用することが好ましい。非イオン性の両親媒性物質は、イオン性の両親媒性物質よりもpHや塩類の影響を受けにくく、固体粒子、油相成分、液相成分、他の成分により使用が制限されにくいからである。
【0091】
(その他の成分)
本実施形態における水中油型ピッカリングエマルションには、本発明の効果を損ねない範囲において、さらに着色料、抗酸化剤、甘味料、安定化剤、乳成分、着香料、着色料、塩類、有機酸などを含んでいてもよく、本発明の第1の実施形態に係るピッカリングエマルションに含まれるその他の成分と同様のものを使用することができ、好ましい態様も同様である。
【0092】
(水中油型ピッカリングエマルションの製造)
本実施形態における水中油型ピッカリングエマルションは、本発明の第1の実施形態に係るピッカリングエマルションと同様の方法で製造することができ、好ましい態様も同様である。
【0093】
(水中油型ピッカリングエマルションの構造)
本発明の第1及び第2の実施形態における水中油型ピッカリングエマルションは、前記油相成分と前記水相成分との界面に固体粒子が存在する乳化構造を有する。このような構造を有することで、加熱前後であっても粒子径が制御された、耐熱性及び降温耐性のある水中油型ピッカリングエマルションとすることができる。
尚、油相成分と水相成分との界面に固体粒子が存在する構造とは、固体粒子が油相成分と水相成分との界面に吸着している構造を指す。それによって、油相を水相中に乳化せしめることが可能であり、いわゆるピッカリングエマルションを形成する。具体的には、水相中に乳化されている油相表面に固体粒子の少なくとも一部が吸着している構造であることをいう。
【0094】
油相成分と水相成分との界面に固体粒子が存在することは、クライオ走査型電子顕微鏡(Cryo-SEM)等による水中油型ピッカリングエマルションの断面観察で確認できる。断面を観察する方法としては、通常用いられる方法であれば特に限定されない。例えば、水中油型ピッカリングエマルションをメタルコンタクト法等の急速凍結法により急速凍結させた後、光学顕微鏡用ダイヤモンドナイフを用いてクライオミクロトームで凍結したピッカリングエマルションを切断して試料を作製し、Cryo-SEMで試料の断面観察を行うことで確認できる。
また、第1及び第2の実施形態における水中油型ピッカリングエマルションは、上術の構造をもつために、より長期間の保管に耐える乳化安定性を有する。また、上述の構造を有するために、乳化時及び乳化後の乳化組成物の保管時における特異臭発生に繋がる油脂の酸化劣化や加水分解の進行をより抑制することが可能となる。
【0095】
(水中油型ピッカリングエマルションのpH)
水中油型ピッカリングエマルションのpHに特に制限はなく、用途に応じて好適なpHを選択できる。例えば、食品用途で使用する場合には、飲食可能なpHであればよいが、下限値としては、通常pH1より大きく、好ましくはpH2以上、より好ましくはpH3以上、さらに好ましくはpH4以上、殊更に好ましくはpH5以上、特に好ましくはpH5.5以上、最も好ましくはpH6以上である。上限値は通常pH13以下、好ましくはpH12以下、より好ましくはpH10以下、さらに好ましくはpH9以下、特に好ましくはpH8以下、最も好ましくはpH7.5以下である。水中油型乳化物のpHは、固体粒子として蛋白質を用いる場合には、固体粒子を構成する主要構成成分である蛋白質の等電点付近でも構わないが、粗大な凝集物や沈殿物の発生を避ける観点から、等電点から通常0.5以上離れたpHとし、より好ましくは1以上離れたpHとするのが良い。
【0096】
(水中油型ピッカリングエマルションの用途)
本発明の第1及び/又は第2の実施形態の水中油型ピッカリングエマルションの用途としては、医薬品、化粧品、食品、飼料、診断薬、ドラックデリバリ-システム(DDS)用担体、洗浄剤、コート剤、表面処理剤、トイレタリー製品、パーソナルケア製品等が挙げられ、例えば経口摂取用やけい皮吸収用に使用することができる。その製造中間体としても使用することができる。
【0097】
経口摂取用として使用する場合には、経口摂取するものであれば、製品、用途、性状等に制限は無い。具体的な用途としては、飲料、液状食品、クリーム状食品、乳代替物等の飲食品;レトルト状の栄養補助食品;流動食等の機能性食品;経口ワクチン;パンや麺などの小麦粉加工品;ファットスプレッドやフラワーペーストなどの油脂加工品;カレー、コーヒークリーマー、マヨネーズ、ドレッシング、ムース、パスタソース、シチュー、デミグラスソース、ホワイトソース、トマトソース等の各種ソース・スープ類;中華食品の素、どんぶりの素等などのレトルト食品や複合調味料;ヨーグルト類、チーズ、アイスクリーム類、クリーム類、キャラメル、キャンディ、チューインガム、チョコレート、クッ
キー・ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、ゼリー、プリン等の菓子・デザート;ハンバーグ、ミートボール、味付け畜肉缶詰等の畜産加工品;冷凍食品;冷蔵食品;パック入りや店頭販売用惣菜等の調理済み・半調理済み食品;即席麺、カップ麺、即席スープ・シチュー類等の即席食品;栄養強化食品;流動食、高カロリー食、乳児用栄養製品等の飲食品;経管栄養製剤;等が挙げられる。
【0098】
特に飲料、液状食品等の食品が好ましく、前記飲料としては、乳飲料、スープ飲料、コーヒー飲料、ココア飲料、茶飲料(紅茶、緑茶、中国茶など)、豆類・穀物飲料、酸性飲料、等が挙げられる。これらの中でも、乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料が好ましい。尚、乳代替物とは味質、風味、物性の観点から牛乳等の動物由来の乳の代替となり得る乳化組成物のことを言う。ヨーグルトやアイスクリーム等の食品の製造中間体として使用することもできる。前記物性としては、例えば組成物中の油滴の粒子径分布、粘度、pH、乳化物の安定性、外観等が挙げられる。また、本実施形態の食品用水中油型ピッカリングエマルションは、例えば、缶飲料、ペットボトル飲料、紙パック飲料、ビン詰飲料等の容器詰め飲料に好適に使用できる。
【実施例0099】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲が、以下の実施例で示す態様に限定されないことは言うまでもない。
【0100】
<固体粒子に対する水の接触角測定>
固体粒子をタブレット化し、水を自重で滴下して接触角を経時測定した。表面凹凸やタブレットの多孔部への吸液の影響を最小限にするために、着滴後の時間(t)に対して接触角の変化がほぼ直線状になる測定値を用いて線形近似することで、着滴時(t=0)の接触角を算出し、これを固体粒子に対する水の接触角とした。
固体粒子のタブレット作製(錠剤成型)は、錠剤成型機(20φ用)を使用した。固体粒子を内筒に入れた後に、5トンまで加圧した後に真空ポンプを用いて減圧し、その後段階的に8トン、10トンまで加圧することで成型した。固体粒子0.23gを使用して接
触角測定用試料を作製した。
接触角の測定は、FTÅ(First Ten Ångstroms(USA))を使用した。水の接触角を測定する場合には、上述のように成型したタブレットに対して、水約12~13μLを自重で滴下し、着滴後の接触角を経時測定した。
尚、接触角の測定は23℃、湿度50%の環境で実施した。
【0101】
<水中油型エマルションの調製>
固体粒子として米由来蛋白質(オリザプロテイン-P70、オリザ油化社製、イネ科(Oryza sativa Linne)の種子から得られた蛋白質)、非イオン性の両親媒性物質としてショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルS-570、リョートーシュガーエステルS-1170、又はリョートーシュガーエステルS-1670;三菱ケミカルフーズ社製)、油相成分として硬化ヤシ油、及び水相成分として脱塩水を、全体で100重量部となるように使用し、水中油型エマルションを調製した。実施例及び比較例で使用した各成分の配合量(重量部)を表1に示した。
尚、オリザプロテイン-P70、リョートーシュガーエステルS-570、リョートーシュガーエステルS-1170、リョートーシュガーエステルS-1670は、以降、それぞれ、P70、S-570、S-1170、S-1670と略すこともある。
また、各原料の物性を以下に示す。
・P70:アミノ酸スコア=56、水の接触角=69度
・S-570:モノエステル含有量=29重量%、HLB=5
・S-1170:モノエステル含有量=58重量%、HLB=11
・S-1670:モノエステル含有量=78重量%、HLB=16
・硬化ヤシ油:上昇融点=32℃
【0102】
(実施例1)
まず、米由来蛋白質と、予めショ糖脂肪酸エステル(S-1670)を添加した水溶液と、を容器に分取して混合することで水相を得た。ショ糖脂肪酸エステルの水溶液は、加温溶解することで調製した。
次に、容器に前記水相及び60℃に加熱した液状の硬化ヤシ油を分取し、さらにこれらを60℃に加温した。ホモジナイザー(IKA T25 digital ULTRA
TURRAX、シャフトジェネレーター:S25N-10G)を用いて10000rpmにて2分間撹拌することで、水中油型ピッカリングエマルションAを得た。
【0103】
(実施例2)
S-1670に代えてS-1170を使用したこと以外は、実施例1と同様にして水中油型ピッカリングエマルションBを得た。
【0104】
(実施例3)
S-1670に代えてS-570を使用したこと以外は、実施例1と同様にして水中油型ピッカリングエマルションCを得た。
【0105】
(比較例1)
S-1670を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして水中油型エマルションDを得た。
【0106】
(比較例2)
P70を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして水中油型エマルションEを得た。
【0107】
(比較例3)
P70を使用しなかったこと以外は、実施例2と同様にして水中油型エマルションFを得た。
【0108】
(比較例4)
P70を使用しなかったこと以外は、実施例3と同様にして水中油型エマルションGを得た。
【0109】
【0110】
<水中油型エマルションの降温安定性の評価1>
60℃で乳化した実施例1~3、及び比較例1~4に係る水中油型エマルションを、それぞれ容器に投入し、該容器を水浴に30分以上浸漬することで25℃まで降温させた。その後、容器を反転させて、容器に振動を与えた。降温の前後における水中油型エマルションの流動性と凝集の有無を目視により確認した。評価結果を表2に示した。尚、評価基準は以下の通りである。
○:乳化物に凝集塊がなく流動性が良好である
×:乳化物に凝集塊が生じ流動性が悪い
【0111】
【0112】
表2に示す結果から明らかなように、ショ糖脂肪酸エステルと米由来蛋白質を併用添加して調製した水中油型ピッカリングエマルションA~Cは、降温後も凝集がなく流動可能であり、安定な乳化状態を保持することができた。
【0113】
<水中油型エマルションの降温安定性の評価2>
Nikon社製偏光顕微鏡 ECLIPSELV100NPOL及びNikon社製画像統合ソフトウェアNIS-ElementsVer3.2を用いて室温まで降温させた水中油型ピッカリングエマルションA(実施例1)の観察を行った。
464×623μmの範囲の画像において、任意の油滴40個を選択し、油滴径を計測した。油滴径の平均値は27.98μmであり、標準偏差は6.98μmであった。
また、室温まで降温させた水中油型ピッカリングエマルションAを脱塩水で10倍希釈し、偏光顕微鏡により観察した結果、エマルション表層に固体粒子の存在を確認することができた(
図1)。この結果から、米由来蛋白質とショ糖脂肪酸エステルとを併用添加し
て水相を調製し、乳化した場合には、降温後も米由来蛋白質が水相-油相界面に存在する構造を有することがわかった。即ち、ピッカリングエマルションAは、降温後も乳化安定性を維持した水中油型ピッカリングエマルションとして安定的に存在でき、降温安定性が高いことが分かった。
【0114】
<水相-油相界面破壊の評価>
降温安定性の評価に使用した偏光顕微鏡を用いて消光位で観察した。その結果、エマルションの内相部分が輝点状に観察され、硬化ヤシ油の結晶化がエマルション内相で起こっていることが確認された。これにより、針状結晶が油相から液相に向けて突出していないことが示唆された。
【0115】
<水中油型エマルションの高温安定性の評価>
実施例1及び実施例3に係る水中油型ピッカリングエマルションA及びCを、それぞれ、容器に投入し、表3に示す条件で加温した。その後、油相分離の有無を容器の側面から目視確認した。評価結果を表3に示した。尚、評価基準は以下の通りである。
○:油相分離がない
×:油相分離がある
【表3】
【0116】
<水中油型エマルションの調製>
固体粒子として米由来蛋白質(オリザプロテイン-P70、オリザ油化社製、イネ科(Oryza sativa Linne)の種子から得られた蛋白質)、非イオン性の両親媒性物質としてショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルS-1670;三菱ケミカルフーズ社製)、油相成分として硬化ヤシ油、及び水相成分として脱塩水を、全体で100重量部となるように使用し、水中油型エマルションを調製した。実施例及び比較例で使用した各成分の配合量(重量部)を表4に示した。
尚、オリザプロテイン-P70、リョートーシュガーエステルS-1670は、以降、それぞれ、P70、S-1670と略すこともある。
また、各原料の物性を以下に示す。
・P70:アミノ酸スコア=56、水の接触角=69度
・S-1670:モノエステル含有量=78重量%、HLB=16
・硬化ヤシ油:上昇融点=32℃
【0117】
(実施例4)
まず、米由来蛋白質と、ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)を添加した水溶液と、を表4に記載の両親媒性物質/固体粒子の重量比となるように、容器に分取して混合した。この混合液を静置し、米由来蛋白質のうち粗大な凝集物の沈降を待った後に上澄みを回収した。回収した上澄み液の乾燥重量から固形分濃度を算出し、さらに両親媒性物質/固体粒子の重量比をもとに、蛋白質濃度を算出した。回収した上澄み液を水で所望の濃度に希釈することで水相を得た。尚、ショ糖脂肪酸エステルの水溶液は、水に加温溶解するこ
とで調製した。
次に、容器に前記水相及び60℃に加熱した液状の硬化ヤシ油を分取し、さらにこれらを60℃に加温し、ホモミクサー(PRIMIX社製TKロボミックス)を用いて60℃条件下で8000rpm以上10000rpm以下にて1分間撹拌し、続いて3000rpmにて20分間撹拌することで、水中油型ピッカリングエマルションHを得た。
【0118】
(実施例4´)
調製した水相を80℃30分間加熱処理したこと、撹拌条件を変更したこと以外は、実施例4と同様にして水中油型ピッカリングエマルションH´を得た。尚、撹拌は、8000rpm以上10000rpm以下にて10分間、続いて3000rpmにて20分間行った。
【0119】
(実施例5)
米由来蛋白質と、ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)を表4の配合量に変更したこと以外は、実施例4と同様にして水中油型ピッカリングエマルションIを得た。
【0120】
(実施例6)
米由来蛋白質と、ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)を表4の配合量に変更したこと以外は、実施例4と同様にして水中油型ピッカリングエマルションJを得た。
【0121】
(実施例7)
ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)を表4の配合量に変更したこと以外は、実施例6と同様にして水中油型ピッカリングエマルションKを得た。
【0122】
(実施例8)
ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)を表4の配合量に変更したこと以外は、実施例6と同様にして水中油型ピッカリングエマルションLを得た。
【0123】
(実施例9)
米由来蛋白質と、予めショ糖脂肪酸エステル(S-1670)及び硬化ヤシ油を表4の配合量に変更したこと以外は、実施例4と同様にして水中油型ピッカリングエマルションMを得た。
【0124】
【0125】
<水中油型エマルションの降温安定性の評価>
実施例4及び4´に係るピッカリングエマルションを容器に投入し、表5に示す条件で加熱した。その後、油相分離の有無を容器の側面および上部から目視確認した。評価結果を表5の「加熱直後の外観」の項に示した。尚、評価基準は以下の通りである。
○:側面及び上部から観察した際、油相分離がない
△:側面から観察した際、油相分離が無いが、上部から観察した際わずかに油滴がある
×:側面から観察した際、油相分離がある
【0126】
次に、表5に示す各条件で加熱した該容器を水浴に30分以上浸漬することで25℃まで降温させた。その後、容器を反転させて、容器に振動を与えた。降温の後におけるピッカリングエマルションの流動性と凝集の有無を目視により確認した。評価結果を表5の「冷却後の外観」の項に示した。なお、評価基準は以下の通りである。
○:乳化物に凝集塊がなく流動性が良好である
△:乳化物に僅かに凝集塊が生じたが、流動性は良好である。
×:乳化物に凝集塊が生じ流動性が悪い
【0127】
【0128】
結果から明らかなように、ショ糖脂肪酸エステルと米由来蛋白質を併用添加して調製したピッカリングエマルションHは、降温後も凝集がなく流動可能であり、安定な乳化状態を保持することができた。
また、ピッカリングエマルションH´は、予め加熱処理した水相を用いて作製したものであるが、加熱時の油相分離もなく耐熱性が良好であった。さらに、降温後も凝集がなく流動可能であり、安定な乳化状態を保持することができた。
加熱処理することで変性した米由来蛋白質を用いても、良好な耐熱性及び降温耐性を有するピッカリングエマルションを作製可能であった。
降温後のピッカリングエマルションH´の油滴サイズは、堀場製作所製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-920を用いてフロー式測定法にて粒径粒子径分布測定を実施した。結果を表6に記載した。相対屈折率として1.20を用い、体積基準で解析を行った。尚、相対屈折率は、油脂の屈折率:1.60、水の屈折率:1.33として算出した値を用いた。
【0129】
<味質の評価>
実施例4に係るピッカリングエマルションHを室温まで降温した後に冷蔵保管したものを、研究開発に従事する4名の研究員をパネルとし、以下の基準飲料を基準として、各自室温で飲み比べ、油感の強弱を比較評価し、その後4名で議論し、合意が得られた結果を表6に記載した。尚、実施例4に係るピッカリングエマルションHは、65℃30分の加熱殺菌処理を行った後に室温まで降温した。
【0130】
(基準飲料)
ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルS-770;HLB=7;三菱ケミカルフーズ社製)を0.0443質量%、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルS-370;HLB=3;三菱ケミカルフーズ社製)を0.00443質量%、モノグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを0.00443質量%含み、油相成分として硬化ヤシ油を1質量%含む組成物を基準飲料とした。
なお、pHは堀場製作所製 LAQUA PH/ION METER F-72により測定した。また、油滴サイズは、堀場製作所製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-950を用いてバッチ式測定法にて粒子径分布測定を実施した。測定対象物質(油脂)の屈折率を1.60として解析を行った。
【0131】
【0132】
また、実施例4に係るピッカリングエマルションHを室温まで降温した後に冷蔵保管したものを、8.5か月間4℃にて冷蔵保管し、粒子径分布及びpHを測定した。基準飲料についても、同様に冷蔵保管し評価した。結果を表7に示す。
従来の界面活性剤乳化に係る基準飲料においては、8.5か月間保管後にpHの大幅な低下が見られ、油滴サイズの増加が確認された。一方で、本実施形態に係るピッカリングエマルションは、8.5か月間保管後もpH及び油滴サイズにほぼ変化がなく、長期保管安定性に優れることが明らかとなった。また、8.5か月間保管後の基準飲料には脂肪酸臭があったが、8.5か月間保管後の実施例4に係るピッカリングエマルションHについては、脂肪酸臭はなかった。
【0133】
【0134】
以上の結果より、本実施形態に係るピッカリングエマルションは従来の界面活性剤によるエマルションに比べ、油感が強く、独特の風味・コクを有する新しい飲料を提供するこ
とが可能となる。また、本実施形態に係るピッカリングエマルションは、従来の界面活性剤によるエマルションに比べ、長期保管安定にも優れる。
【0135】
<顕微鏡観察>(エマルション系の評価)
実施例4~9に係るピッカリングエマルションH~Mに対して、Nikon社製偏光顕微鏡 ECLIPSELV100NPOL及びNikon社製画像統合ソフトウェアNIS-ElementsVer3.2を用いて顕微鏡観察を行ったところ、全てエマルションの形成が確認された(
図2~4)。さらに、油-水界面に固体粒子(米由来蛋白質)の存在が確認された。
また、実施例4に係るピッカリングエマルションHについて、偏光顕微鏡を用いてオープンニコル及びクロスニコルで観察した結果を
図5に示した。クロスニコルで観察した顕微鏡写真から、エマルションの内相部分が輝点状に観察され、硬化ヤシ油の結晶化がエマルションの内相で起こっており、針状結晶の突出しが無いことが分かった(
図5)。
【0136】
ピッカリングエマルションの観察に適したサイズで実施した顕微鏡写真(
図2~4)において、確認された最大サイズのエマルションに関し、その長径を、以下の表8に記載する。また、実施例4(H)のピッカリングエマルションについて、60℃における顕微鏡観察像(464×623μmの範囲)から15点の長径を計測したところ、その平均値及び標準偏差は24.79 ±6.37μmであった。さらに、実施例4(H)のピッカリ
ングエマルションを25℃まで降温したものの顕微鏡観察像(464×623μmの範囲)から15点の長径を計測したところ、その平均値及び標準偏差は28.53±5.71μmであった。
【0137】
【0138】
以上の結果から、固体粒子の含有量が多くなるにつれ、エマルションの粒子径を小さくできることが分かった。また、両親媒性物質の含有量が少なくなるにつれ、エマルションの粒子径を小さくできることが分かった。
【0139】
<水中油型エマルションの調製>
固体粒子として米由来蛋白質(オリザプロテイン-P70、オリザ油化社製、イネ科(Oryza sativa Linne)の種子から得られた蛋白質)をペイントシェーカー(TOYOSEIKI社 PAINT SHAKER)及び1mmφジルコニアビーズを用いて4時間、解砕処理したもの(解砕蛋白質という)、非イオン性の両親媒性物質としてショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルS-1670;三菱ケミカルフーズ社製)、油相成分として硬化ヤシ油、及び水相成分として脱塩水を、全体で100重量部となるように使用し、水中油型エマルションを調製した。実施例及び比較例で使用した各成分の配合量(重量部)を表10に示した。
尚、オリザプロテイン-P70、リョートーシュガーエステルS-570、リョートーシュガーエステルS-970、リョートーシュガーエステルS-1670、リョートーポリグリエステルSWA-10D、リョートーポリグリエステルS-28Dは、以降、それぞれ、P70、S-570、S-970、S-1670、SWA-10D、S-28Dと略すこともある。
また、各原料の物性を以下に示す。
・P70:アミノ酸スコア=56、水の接触角=69度
・S-570:モノエステル含有量=29重量%、HLB=5
・S-970:モノエステル含有量=55重量%、HLB=9
・S-1670:モノエステル含有量=78重量%、HLB=16
・SWA-10D:HLB=14
・S-28D:HLB=9
・硬化ヤシ油:上昇融点=32℃
【0140】
(実験例:米由来蛋白質の粒子径制御)
まず、ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)を脱塩水に加温溶解した。これに米由来蛋白質を加えて混合し、米由来蛋白質分散液を得た。米由来蛋白質分散液中における米由来蛋白質の割合は10重量%であり、米由来蛋白質1重量部に対するショ糖脂肪酸エステルの添加割合は0.0025重量部となるように調製した。
このようにして準備した米由来蛋白質分散液15重量部に対して1mmφジルコニアビーズを20重量部加えて、ペイントシェイカー(TOYOSEIKI社製PAINT SHAKER)にて、種々の処理時間で解砕処理を行い、解砕蛋白質分散液を得た。この解砕蛋白質分散液中における蛋白質粒子(固体粒子)の粒子径分布を、堀場製作所製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-950を用いてバッチ式測定法にて測定した。尚、測定対象物質の屈折率:1.60、水の屈折率:1.33として、体積基準にて解析を行った。結果を表9に示した。
【0141】
【0142】
解砕処理によって、蛋白質粒子(固体粒子)の分散媒中での粒子径分布は所望の平均粒子径に制御することが可能であることがわかった。
【0143】
(実施例10)
まず、ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)を脱塩水に加温溶解した。これに米由来蛋白質を加えて混合し、米由来蛋白質分散液を得た。米由来蛋白質分散液中における米由来蛋白質の割合は10重量%であり、米由来蛋白質1重量部に対するショ糖脂肪酸エステルの添加割合は0.0025重量部となるように調製した。
このようにして準備した米由来蛋白質分散液15重量部に対して1mmφジルコニアビーズを20重量部加えて、ペイントシェイカー(TOYOSEIKI社製PAINT SHAKER)にて4時間解砕処理を行い、解砕蛋白質分散液を得た。この解砕蛋白質分散液と、脱塩水と、を容器に分取して混合することで水相を得た。
次に、容器に前記水相及び60℃に加熱した液状の硬化ヤシ油を分取し、さらにこれらを60℃に加温した。ホモミクサー(PRIMIX社製TKロボミックス)を用いて10000rpmにて1分間撹拌した後に、続いて3000rpm20~60分間撹拌することで、水中油型ピッカリングエマルションOを得た。
【0144】
(実施例11)
ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)を表10の配合量に変更したこと以外は、実施例10と同様にして水中油型ピッカリングエマルションPを得た。
【0145】
(実施例12)
ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)を表10の配合量に変更したこと以外は、実施例10と同様にして水中油型ピッカリングエマルションQを得た。
【0146】
(実施例13)
ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)をショ糖脂肪酸エステル(S-970)に変更したこと以外は、実施例10と同様にして水中油型ピッカリングエマルションRを得た。
【0147】
(実施例14)
ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)をショ糖脂肪酸エステル(S-570)に変更したこと以外は、実施例10と同様にして水中油型ピッカリングエマルションSを得た。
【0148】
(実施例15)
ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)をポリグリセリン脂肪酸エステル(SWA10D)に変更したこと及び表10の配合に変更した以外は、実施例10と同様にして水中油型ピッカリングエマルションTを得た。
【0149】
(実施例16)
ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)をポリグリセリン脂肪酸エステル(S-28D)に変更したこと以外は、実施例10と同様にして水中油型ピッカリングエマルションUを得た。
【0150】
【0151】
<水中油型エマルションの加熱安定性の評価>
実施例10~16に係るピッカリングエマルションをそれぞれ容器に投入し、以下表に示す条件で加熱した。その後、油相分離の有無を容器の側面および上部から目視確認した。評価結果を表11に示した。尚、評価基準は以下の通りである。
○:側面及び上部から観察した際、油相分離がない
△:側面から観察した際、油相分離が無いが、上部から観察した際わずかに油滴がある
×:側面から観察した際、油相分離がある
【0152】
また、実施例10~16に係るピッカリングエマルションをそれぞれ容器に分取して60℃に保持した後に、該容器を水浴に30分以上浸漬することで25℃まで降温させた。そ
の後、容器を反転させて、容器に振動を与えた。降温後におけるピッカリングエマルションの流動性と凝集の有無を目視により確認した。評価結果を表11に示した。尚、評価基準は以下の通りである。
○:乳化物に凝集塊がなく流動性が良好である
×:乳化物に凝集塊が生じ流動性が悪い
【0153】
【0154】
結果から明らかなように、ショ糖脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルと、米由来蛋白質と、を併用添加して調製したピッカリングエマルションは、高温で加熱してもオイル分離がなく、安定な乳化状態を保持することができた。また、降温耐性も良好であった。
【0155】
<水中油型エマルションの調製>
固体粒子として米由来蛋白質(オリザプロテイン-P70、オリザ油化社製、イネ科(Oryza sativa Linne)の種子から得られた蛋白質)をペイントシェーカー(TOYOSEIKI社 PAINT SHAKER)及び1mmφジルコニアビーズを用いて4時間、解砕処理したもの(解砕蛋白質という)、非イオン性の両親媒性物質としてショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルS-1670;三菱ケミカルフーズ社製)、油相成分として硬化ヤシ油、及び水相成分として脱塩水を、全体で100重量部となるように使用し、水中油型エマルションを調製した。実施例及び比較例で使用した各成分の配合量(重量部)を表12に示した。
【0156】
(実施例17)
まず、ショ糖脂肪酸エステル(S-1670)を脱塩水に加温溶解した。これに米由来蛋白質を加えて混合し、米由来蛋白質分散液を得た。米由来蛋白質分散液中における米由来蛋白質の割合は10重量%であり、米由来蛋白質1重量部に対するショ糖脂肪酸エステルの添加割合は0.0025重量部となるように調製した。
このようにして準備した米由来分散液15重量部に対して1mmφジルコニアビーズ)を20重量部加えて、ペイントシェーカー(TOYOSEIKI社 PAINT SHAKER)にて4時間解砕処理を行い、解砕蛋白質分散液を得た。この解砕処理蛋白質分散液と、脱塩水と、を容器に分取して混合することで水相を得た。
次に、容器に前記水相及び60℃に加熱した液状の硬化ヤシ油を分取し、さらにこれらを60℃に加温した。ホモミクサー(PRIMIX社製TKロボミックス)を用いて10000rpmにて1分間撹拌した後に、続いて3000rpm20分間撹拌することで、水中油型ピッカリングエマルションVを得た。
【0157】
(実施例18)
ペイントシェイカーよる解砕時間を7時間に変更したこと、米由来蛋白質を表12の配合量にしたこと以外は、実施例17と同様にして水中油型ピッカリングエマルションWを得た。
【0158】
(実施例19)
米由来蛋白質と、予めショ糖脂肪酸エステル(S-570)及び硬化ヤシ油を表12の配合量に変更したこと以外は、実施例17と同様にして水中油型ピッカリングエマルションXを得た。
【0159】
(実施例20)
ホモミクサーの代わりにホモジナイザー(IKA T25 digital ULTRA TURRAX、シャフトジェネレーター:S25N-10G)を用いたこと以外は、
実施例19と同様にして水中油型ピッカリングエマルションYを得た。
【0160】
【0161】
<水中油型エマルションの加熱安定性の評価>
実施例17~18に係るピッカリングエマルションをそれぞれ容器に投入し、以下表13に示す条件の熱履歴で加熱し、耐熱性評価を行った。その後、油相分離の有無を容器の側面及び上部から目視確認した。評価結果を表13に示した。尚、評価基準は以下の通りである。
○:側面及び上部から観察した際、油相分離がない
△:側面から観察した際、油相分離が無いが、上部から観察した際わずかに油滴がある
×:側面から観察した際、油相分離がある
【0162】
また、実施例17~18に係るピッカリングエマルションをそれぞれ容器に分取して該容器を水浴に30分以上浸漬することで25℃または4℃まで降温させた。その後、容器を反転させて、容器に振動を与えた。降温後におけるピッカリングエマルションの流動性と凝集の有無を目視により確認した。評価結果を表13の降温耐性の項に示した。尚、評価基準は以下の通りである。
○:乳化物に凝集塊がなく流動性が良好である
×:乳化物に凝集塊が生じ流動性が悪い
また、実施例18に係るピッカリングエマルションの60℃における顕微鏡観察像を
図6に示す。尚、観察には60℃に加温した水で実施例18に関わるピッカリングエマルションを10倍希釈した液を用いた。464×623μm の画像範囲において確認された
任意の油滴15個を計測したところ、油滴サイズは45μm±8.0μmであった。
【0163】
【0164】
(固体粒子吸着量の評価)
実施例19に係るピッカリングエマルションXと実施例20に係るピッカリングエマルションYに対して、Nikon社製偏光顕微鏡 ECLIPSELV100NPOL及びNikon社製画像統合ソフトウェアNIS-ElementsVer3.2を用いて顕微鏡観察を行った。尚、観察は60℃に加温したスライドガラスを用いて実施した。また、サンプルは60℃に加温した脱塩水で10倍希釈したものを用いた。顕微鏡観察の結果から、エマルションの形成が確認された。また、ホモミクサーを用いて乳化されたピッカリングエマルションXの方が、ホモジナイザーを用いて乳化されたピッカリングエマルションYよりも固体粒子の吸着量が多いことがわかった。