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特開2023-153558光学素子、光学セル、分析装置、及び光学素子の設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153558
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】光学素子、光学セル、分析装置、及び光学素子の設計方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20231011BHJP
   G01N 21/03 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G02B5/18
G01N21/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062908
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】岩見 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】原 基揚
(72)【発明者】
【氏名】矢野 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】井戸 哲也
【テーマコード(参考)】
2G057
2H249
【Fターム(参考)】
2G057AA01
2G057AA08
2G057AB06
2G057AC01
2G057AC03
2G057BA01
2G057BA05
2G057CB03
2G057DA01
2G057DA03
2H249AA03
2H249AA04
2H249AA13
2H249AA14
2H249AA50
2H249AA55
2H249AA64
(57)【要約】
【課題】光の透過効率を向上させつつ、任意の偏光特性を有する光学素子、光学セル、分析装置、及び光学素子の設計方法を提供する。
【解決手段】光が透過する透明性を有する基板の平面上に所定の誘電率を有する材料により形成され、マトリクス状に配置された複数の柱状体と、を備え、各前記柱状体は、前記誘電率と、前記平面に平行な方向における断面形状と、前記平面に対する法線方向の長さ、に基づいて、入力される前記光が透過して出力される出力光に対して位相調整を行い、前記法線方向に対する偏向特性と、前記法線方向に対して集光するレンズ特性と、前記法線方向に対する偏波特性とを調整し、任意の偏光特性を有する前記出力光を出力するように形成されている光学素子である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が透過する透明性を有する基板の平面上に所定の誘電率を有する材料により形成され、マトリクス状に配置された複数の柱状体と、を備え、
各前記柱状体は、前記誘電率と、前記平面に平行な方向における断面形状と、前記平面に対する法線方向の長さ、に基づいて、入力される前記光が透過して出力される出力光に対して位相調整を行い、前記法線方向に対する偏向特性と、前記法線方向に対するレンズ特性と、前記法線方向に対する偏波特性とを調整し、任意の偏光特性を有する前記出力光を出力するように形成されている、
光学素子。
【請求項2】
複数の前記柱状体は、前記平面における前記出力光の位相分布を示す第1関数に基づいて、前記断面形状において前記平面に沿った第1方向における第1幅と、前記平面に沿った前記第1方向に直交する第2方向における第2幅とが調整され、前記第1関数の2πに対する剰余に最も近い位相を与える断面形状を満たすように前記第1方向及び前記第2方向に沿って順次配列され、前記出力光が前記法線方向に対して任意の偏向角を有するように位相調整され前記偏光特性が調整されている、
請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
複数の前記柱状体は、前記平面における前記出力光の位相分布を示す第2関数に基づいて、前記断面積において前記第1幅と、前記第2幅とが調整され、前記出力光が前記法線方向に対して任意の焦点距離に焦点を有するように位相調整され前記レンズ特性が調整されている、
請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
複数の前記柱状体は、前記平面における前記出力光の位相分布を示す第3関数に基づいて、前記断面積におい前記第1幅と、前記第2幅とが調整され、前記出力光の前記第1方向における第1位相と、前記第2方向における第2位相との間に位相差を生じさせ、前記出力光が前記法線方向に対して任意の前記偏波特性を有するように調整されている、
請求項3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記光を透過する材質により形成された前記基板と、
請求項1に記載された光学素子により形成され、前記基板の第1位置に配置された第1光学素子層と、
検査対象となる物質を収容する収容空間が形成され、前記収容空間内に前記第1光学素子層から出力される前記出力光を反射して前記基板の第2位置に出力するように複数の反射板が形成された収容層と、
請求項1に記載された光学素子により形成され、前記第2位置に配置された第2光学素子層と、を備える、
光学セル。
【請求項6】
請求項5に記載された光学セルと、
前記基板の前記第1位置に光を入力するように設けられた光源と、
前記第2位置から出力される前記出力光を検出する検出部と、を備える、
分析装置。
【請求項7】
一面側から入力される光が透過する透明性を有する基板の他面側の平面上に所定の誘電率を有する材料により形成された複数の柱状体をマトリクス状に配置する工程と、
各前記柱状体の前記誘電率を設定する工程と、
各前記柱状体の前記平面に対する法線方向の長さを設定する工程と、
各前記柱状体の前記平面に平行な方向における断面形状を設定する工程と、を備え、
前記断面形状は、入力される入力光が透過して出力される出力光に対して位相調整を行い、前記法線方向に対する偏向特性と、前記法線方向に対するレンズ特性と、前記法線方向に対する偏波特性とに基づいて、任意の偏光特性を有する前記出力光を出力するように調整する、
光学素子の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の光学特性を利用するための光学素子、光学セル、分析装置、及び光学素子の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスや液体などの流動性の高い微量サンプル(試料)を成分分析する場合、試料の光学特性に基づく分光解析が用いられる。例えば一般的な分光解析は、大型の光源からレーザ光等の光を出力し、顕微鏡のようなレンズ系を介して光を集束し、微小領域に配置された試料に光を照射し、励起された試料から放射される光を分光し、スペクトル解析することで試料の特性を分析することが行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
試料の光学特性が判明している場合、試料が収容された光学セルは、試料に光を入力し、出力された励起光の特性を利用する光学デバイスとして用いられる場合がある。例えば、特許文献1には、試料となるセシウム蒸気が収容された光学セルに光を入力し、出力された励起光が有する周波数等の光学特性を利用し、原子時計の振動子を構成することが記載されている。
【0004】
特許文献1に記載された光学セルは、試料を収容する流路が形成された収容部と、収容部を覆う透明基板とを備えている。光学セルには、収容部にレーザ光等の光を入力する光源と、試料を透過した光を検出する検出部とが設けられている。この光学セルの収容部は、シリコン基板により形成されている。シリコン基板には、断面視してウェットエッチングを用いて流路が形成されている。流路の両側には、対向して第1傾斜面と第2傾斜面とが形成されている。第1傾斜面と第2傾斜面との角度の大きさは、約55度である。この光学セルは、透明基板側から入力された光が第1傾斜面及び第2傾斜面において反射して透明基板側に出力光が出力されることで、流路の長手方向に光学パスを形成している。
【0005】
特許文献1に記載された光学セルによれば、透明基板に入力する光を第1傾斜面において反射させると共に第2傾斜面において反射した光を透明基板から出力させるために、透明基板に回折格子を設けている。特許文献1に記載された光学セルによれば、透明基板に設けられた回折格子を用いて入射光を回折・スプリットさせ、金属膜で形成される仕切り板を用いて、適切な角度で回折した光だけを流路内に入力し光学パスを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第9488962号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R.G. Messerschmidt, and M. Harthcock, “Infrared Microspectroscopy,” Mercel Dekkar, New York (1988).
【非特許文献2】S. Sun et al., “High-efficiency broadband anomalous reflection by gradient meta-surfaces.,” Nano Lett., vol. 12, no. 12, pp. 6223-9, Dec. 2012.
【非特許文献3】Z. Zhou et al., “Efficient Silicon Metasurfaces for Visible Light,” ACS Photonics, vol. 4, no. 3, pp. 544-551, 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された光学セルによれば、光源から入力された光は、回折格子により2方向にスプリットされるので、光強度の50%以上が減衰するという課題がある。
【0009】
本発明は、光の透過効率を向上させつつ、任意の偏向方向・集光性・偏光状態を有する光学素子、光学セル、分析装置、及び光学素子の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、光が透過する透明性を有する基板の平面上に所定の誘電率を有する材料により形成され、マトリクス状に配置された複数の柱状体と、を備え、各前記柱状体は、前記誘電率と、前記平面に平行な方向における断面形状と、前記平面に対する法線方向の長さ、に基づいて、入力される前記光が透過して出力される出力光に対して位相調整を行い、前記法線方向に対する偏向特性と、前記法線方向に対して集光するレンズ特性と、前記法線方向に対する偏波特性とを調整し、任意の偏光状態を有する前記出力光を出力するように形成されている光学素子である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光学素子の光の検出効率を向上させつつ、任意の偏向方向・集光性・偏光状態を有するように設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る光学セルの構成を示す断面図である。
図2】光学セルを用いた検出装置の構成を示すブロック図である。
図3】光学素子の構成を示す斜視図である。
図4】第1関数に基づく位相分布を示す図である。
図5】柱状体の幅と透過率及び位相遅延量との関係を示す図である。
図6】柱状体幅と位相遅延量との関係を示す図である。
図7】複数の柱状体の配列状態を示す斜視図である。
図8】複数の柱状体を電磁場解析した算出結果を示す図である。
図9】複数の柱状体に基づく回折角を示す図である。
図10】第2関数に基づく位相分布を示す図である。
図11】位相分布関数に基づく位相分布を示す図である。
図12】1/4波長板に形成された光学素子を電磁場解析した計算結果を示す図である。
図13】1/4波長板に形成された複数の柱状体を電磁場解析した計算結果を示す図である。
図14】光学素子の設計方法において実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図15】変形例に係る光学セルの構成を示す断面図である。
図16】柱状体の長さと幅とを調整した場合の透過率を示す図である。
図17】柱状体の長さと幅とを調整した場合の位相遅延量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示されるように、光学セル1は、光を透過する材質により形成された基板2と、基板2の第1位置P1に配置された光学素子3により形成された第1光学素子層4と、基板2の第2位置P2に配置された光学素子3により形成された第2光学素子層5と、基板2に積層され検査対象となる試料Mや発振源となる物質を収容する流路11が形成された収容層10とを備えている。ここで、第1位置P1及び第2位置P2は、基板2の層厚方向において一致する。
【0014】
基板2は、例えば、透明なガラス材料により矩形の板状体に形成されている。基板2の一面2A側は、外部に露出している。基板2の一面2A側と他面2B側は、光の反射を防止するための反射防止膜を形成するようにコーティング処理されていてもよい。基板2の一面2A側の第1位置P1には、光Qを出力する光源Lが配置されている。光源Lは、第1位置P1に対して光Qを入力する。基板2の一面2A側と光源Lとは、接触していてもよいし離間していてもよい。光源Lは、例えば、レーザ光を出力する半導体レーザ素子やLED(Light Emitting Diode)素子等の光を出力する素子により構成されている。基板2の一面2A側の第1位置P1と異なる位置の第2位置P2には、第2位置P2から出力される出力光を検出する検出部Dが配置されている。検出部Dは、例えば、フォトダイオード等の光を検出する素子により構成されている。基板2の一面2A側と検出部Dとは、接触していてもよいし離間していてもよい。
【0015】
基板2の他面2B側の第1位置P1には、所定の光学特性を有する光学素子3により形成された第1光学素子層4が設けられている。光学素子3は、任意の偏光状態を有する光を出力するように形成されているメタサーフェス構造を有する。光学素子3の構成については後述する。第1光学素子層4は、第1位置P1において光源Lから入力され基板2を透過した光を入力し、入力される光が透過して出力される出力光に対して位相調整可能に形成されている。第1光学素子層4は、第1位置P1において光源Lから入力され基板2を透過した光を入力し、入力される光が透過して出力される出力光に対して法線方向に対する偏向特性を調整可能に形成されている。
【0016】
第1光学素子層4は、第1位置P1において光源Lから入力され基板2を透過した光を入力し、入力される光が透過して出力される出力光に対して法線方向に対してコリメートするレンズ特性を調整可能に形成されている。第1光学素子層4は、第1位置P1において光源Lから入力され基板2を透過した光を入力し、入力される光が透過して出力される出力光に対して法線方向に対する偏波特性を調整可能に形成されている。第1光学素子層4は、焦点に光を集光するように偏波特性を調整可能に形成されていてもよい。
【0017】
基板2の他面2B側の第2位置P2には、所定の光学特性を有する光学素子3により形成された第2光学素子層5が設けられている。第2光学素子層5は、第2位置P2において試料Mを透過した光を入力し、入力される光が透過して基板2に出力される出力光に対して位相調整可能に形成されている。第2光学素子層5は、第2位置P2において試料Mを透過した光を入力し、入力される光が透過して基板2に出力される出力光に対して法線方向に対する偏向特性を調整可能に形成されている。
【0018】
第2光学素子層5は、第2位置P2において試料Mを透過した光を入力し、入力される光が透過して基板2に出力される出力光に対して法線方向に対して集光を調整するレンズ特性を調整可能に形成されている。第2光学素子層5は、第2位置P2において試料Mを透過した光を入力し、入力される光が透過して基板2に出力される出力光に対して法線方向に対する偏波特性を調整可能に形成されている。
【0019】
基板2の他面2B側には、収容層10が設けられている。収容層10は、例えば、シリコン単結晶の材料により形成されている。収容層10の一面10A側は、基板2の他面側に接触している。収容層10の一面10A側には、断面視して一面10A側から窪んだ溝状の流路11が形成されている。流路11は、例えば、収容層10の一面10A側をエッチング処理することにより形成されている。流路11は、基板2に覆われることにより、検査対象となる試料や発振源となる物質を収容する収容空間に形成されている。流路11は、例えば、物質を密閉して収容する。流路11は、完全に密閉されるものではなく、流体である物質が流通する状態で収容可能に構成されていてもよい。
【0020】
流路11内の両側には、断面視して第1位置に設けられた第1光学素子層4から出力される第1出力光Q1を反射して基板2の第2位置P2に出力するように複数の反射板が形成されている。複数の反射板は、例えば、第1位置P1に対応して設けられた第1反射板12と、第2位置P2に対応して設けられた第2反射板13とを含む。
【0021】
第1反射板12は、断面視して流路11の底部から収容層10の一面10A側の開口に向かうほど流路11の幅が増大する傾斜角θに形成されている。第1反射板12は、基板2の結晶面により形成されている。傾斜角θは、例えば、54.7度である。第1反射板12は、例えば、第1光学素子層4から出力された第1出力光Q1を反射し、流路11の幅方向(図のX軸方向)に沿った方向に反射させる。第1反射板12は、流路11の深さ方向(図のZ軸方向)に比して長い光路長となる幅方向に沿って第1出力光Q1を反射させる。流路11の幅方向には、第1反射板12に対向して第2反射板13が配置されている。
【0022】
第2反射板13は、流路11の幅方向において第1反射板12と線対称に形成されている。第2反射板13は、断面視して流路11の底部から収容層10の一面10A側の開口に向かうほど流路11の幅が増大する傾斜角θに形成されている。第2反射板13は、基板2の結晶面により形成されている。傾斜角θは、例えば、54.7度である。第2反射板13は、例えば、第1反射板12において反射された第1出力光Q1を反射し、第2光学素子層5に入力させる。第2光学素子層5は、第1出力光Q1を入力し、第1出力光Q1に所定の偏光状態を与え第2出力光Q2(単に出力光ともいう)を出力する。第2出力光Q2は、基板2を透過し、検出部Dに入力される。
【0023】
図2には、光学セル1を用いた分析装置100の構成が示されている。分析装置100は、例えば、光学セル1に収容された試料Mの光学特性に基づいて試料Mの特性を分析する装置である。分析装置100は、例えば、試料Mが収容された光学セル1と、光学セル1の第1位置P1に光Qを入力する光源Lと、光学セル1の第2位置P2から出力される第2出力光Q2を検出する検出部Dと、光源Lを制御すると共に、検出部Dの検出結果を取得し、検出結果を用いた演算に基づいて試料Mの特性を判定する演算装置50とを備えている。検出部Dは、試料Mの所望の光学的な物理量を検出するように構成されている。検出部Dの構成を変更することにより、分析装置100は、分光装置、共鳴線取得装置、分光光度計等として用いられてもよい。
【0024】
演算装置50は、例えば、パーソナルコンピュータ等の情報処理用端末機器により構成されている。演算装置50は、ネットワーク経由にて光源Lや検出部Dと接続されたサーバ装置であってもよい。演算装置50は、例えば、光源Lを制御すると共に、所定の演算結果を出力する制御部52と、演算に関するデータが記憶された記憶部54と、演算結果に基づく情報を表示する表示部56とを備えている。記憶部54は、例えば、SSD、フラッシュメモリ等の非一時的な記憶媒体により構成されている。表示部56は、液晶ディスプレイ、有機EL(Organic Electro-Luminescence)ディスプレイなどの表示装置により構成されている。表示部56は、制御部52により生成された表示画像を表示する。
【0025】
制御部52は、検出部Dにより取得された検出データを取得し、検出結果を用いて所定の演算を行い、試料Mの所定の物理的特性に関する演算結果を出力する。制御部52は、演算結果を示す表示画像を生成し、表示部56に表示させる。上述した制御部52は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め記憶部54が有するHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0026】
次に、光学素子3の構成及び原理について説明する。光学素子3は、光の伝搬速度が異なる二種類の異種材料の界面を光が伝搬する際に位相に勾配を持たせ、伝搬速度の差から生じる光の偏向角や偏光特性を任意に制御するように構成されている。光学素子3は、例えば、光の伝搬速度が異なる二種類の異種材料の界面に金属または誘電体の周期構造を形成し、その周期が波長と屈折率の積より小さくするメタサーフェス構造を有している。メタサーフェス構造は金属または誘電体で形成されるだけでなく、使用するレーザの波長帯において透過性を有する材料で形成されていてもよい。ここで、メタサーフェス構造に基づいて、光を屈折・偏向させる素子をメタサーフェス偏向器と呼ぶ(例えば、非特許文献2及び非特許文献3参照)。
【0027】
図1に示されるように、光源Lは、第1位置P1において基板2の面に直交する法線方向(図のZ軸方向)に沿って光Qを入力する。光Qは、基板2内を進行し、基板2の他面10Bにおいて光学素子3(第1光学素子層4)に入力され、試料Mが充満した流路11内に第1出力光Q1として出力される。第1位置P1に配置された光学素子3(第1光学素子層4)は、メタサーフェス構造に基づいて、光源Lから基板2の平面方向に対して入力される光Qを基板2と試料Mとの界面となる基板2の他面2Bの位置において法線方向(図のZ軸方向)に対して所定の偏向角θt=19.48°で屈折させ第1出力光Q1として出力する機能を有する。また、第1位置P1に配置された光学素子3は、メタサーフェス構造に基づいて、光源Lから基板2の平面方向に対して入力され、拡散する光Qをコリメートし平行光として出力する機能を有する。
【0028】
同様に第2位置P2に配置された光学素子3(第2光学素子層5)は、メタサーフェス構造に基づいて、第2反射板13において法線方向に対して所定の偏向角θt=19.48°で入力された光を基板2の平面方向に対して垂直方向に屈折させ第2出力光Q2として出力する機能を有する。第2位置P2に配置された光学素子3は、メタサーフェス構造に基づいて、平行光を入力し、所定位置の焦点に集光するように光を出力する機能を有する。
【0029】
図3に示されるように、光学素子3は、マトリクス状に配置された微小な複数の柱状体3Tを備えるメタサーフェス構造に形成されている。図3には、メタサーフェス構造の単位要素が示されている。隣接する柱状体3T間の距離Hは、例えば、数100nmである。光学素子3は、光が透過する透明性を有する基板2の平面上において所定の誘電率を有する材料によりエッチング処理等を用いて形成されている。柱状体3Tは、屈折率が高い材料により形成されていることが望ましい。柱状体3Tの材料は、例えば、単結晶シリコンである。柱状体3Tの材料は、Ge、アモルファスシリコン、GaN、TiO、SiN、ZrO等が用いられてもよい。柱状体3Tの材料は、同様の光学特性を有していれば他のものであってもよい。
【0030】
各柱状体3Tは、光を導波する導波路として機能する。各柱状体3Tは、誘電率と、平面に平行な方向における断面形状と、平面に対する法線方向の長さ等のパラメータを調整することにより、入力される光が透過して出力される出力光に対して位相調整(位相遅延ともいう)を行うように形成されている。異なる位相調整量を有する柱状体3Tを所定の配列方法に基づいてマトリクス状に配列することにより、任意の偏光特性を有する出力光を出力する光学素子3が形成される。例えば、入力された入力光を所定の偏向角θtに偏向させる光学素子3の設計方法について説明する。実施形態に係る柱状体3Tは、長さ方向を所定値に設定している。非特許文献5によれば、光の入射角θi,偏向角θt,入射側屈折率ni,出射側屈折率nt,位相勾配dφ/dxおよび波長λの間には、以下の式(1)の関係により示される。
【0031】
【数1】
【0032】
式(1)において、光が垂直に入力され、出力側の媒質がガスと仮定した場合、θi=0,nt=1であり、以下の式(2)が得られる。本実施形態に係る光学素子3においては、基板2の垂直方向に入射された光が第1反射板12に所定の入射角において入射されるように、基板2から出力される際に光学素子3において所定の偏向角θtの偏向角を与える必要がある(図1参照)。光学素子3は、例えば、入力された光が出力される際に、位相勾配を与え、出力光に所定の偏向角θtの偏向角を与えるように形成されている。式(2)は、光学素子3のメタサーフェス構造が光に与える位相勾配の分布を示す第1関数である。
【0033】
【数2】
【0034】
式(2)に基づいて、複数の柱状体は、平面視した出力光の位相分布を示す第1関数φ(x)に基づいて設計されている。ここで、本実施形態において所定の偏向角θtは、19.48°であるので、第1関数φ(x)は、式(1)と式(2)に基づいて、以下の式(3)により示される。
【0035】
【数3】
【0036】
図4に示されるように、第1関数φD(x)は、入力光を所定の偏向角θt回折する2次元平面における位相分布を示す。図4では、位相の周期性を考慮して、第1関数φD(x)を2πで割った剰余を表示している。第一関数に基づく複数の柱状体3Tは、平面に沿った第1方向における第1幅と、平面に沿った第1方向(X軸方向)に直交する第2方向(Y軸方向)における第2幅とが調整された断面形状に形成されている。第1幅と第2幅は、第1関数の2πに対する剰余に最も近い位相を与える断面形状を満たすように設定される。第1幅と第2幅とを調整し、断面積を調整することにより、柱状体3Tを透過する光の位相の遅延量が変化する。複数の柱状体3Tは、断面形状の断面積の大きさの順に第1方向及び第2方向に沿って順次配列され、出力光が法線方向に対して任意の偏向角を有するように位相勾配が付されるように偏向特性が調整されている。電磁場解析に基づいて、このような位相勾配を有する光学素子3の構造を算出することができる。
【0037】
図5には、単結晶シリコンを材料に用いて形成された柱状体3Tの光学特性が示されている。柱状体3Tは、例えば、正方形断面を有し、高さを400nmに設定されている。計算においては、正方形断面形状の一辺の幅wを変化させた場合の透過率と位相の変化量が算出されている。算出結果によれば、柱状体3Tは、80%以上の高い透過率を有しつつ、0-2πの位相変化が得られていることが分かる。図6には、0-2πまでの位相変化と一辺の幅との関係の算出結果が1/4πのステップにより示されている。
【0038】
図7に示されるように、算出結果に基づいて断面形状が異なる8種類の柱状体3Tを配置し、柱状体3Tの周囲に生じる電磁場の変化をシミュレーションするための電磁場解析を行う。8種類の柱状体3Tは、断面積の大きさに従って配列されている。
【0039】
図8には、柱状体3Tの下側から入力光を入射し、上から出力光を出射する状態が示されている。柱状体3Tの周囲は周期境界条件となっている。図9に示されるように、複数の柱状体3Tは、所定の偏向角θt=19.48°の方向に強い放射が得られるように設計されている。光学素子3は、このような複数の柱状体3Tからなる単位要素が更にマトリクス状に配列されたメタサーフェス構造に形成され、出力光が法線方向に対して任意の偏向角を有する光偏向素子として機能する。
【0040】
光学素子3は、光偏向素子だけでなく他の偏光特性を有するように設計されてもよい。例えば、光学セル1において、光源Lから出力される光は一般的には発散角を持つため、コリメートレンズを用いて平行光にする必要がある(図1参照)。光学素子3は、発散する入力光を平行光にして出力する凸レンズの機能を有するレンズ素子として形成されていてもよい。式(4)は、例えば、コリメートレンズの位相分布を示す第2関数である。
【0041】
【数4】
【0042】
図10には、第2関数に基づく位相分布の2πに対する剰余が示されている。光学素子3は、平面における出力光の位相分布を示す第2関数に基づいて、複数の柱状体3Tが設計される。各柱状体3Tは、第2関数に対応する座標における位相勾配となるように、断面積において第1幅と、第2幅とが調整される。ここで、第1幅と第2幅は、第2関数の2πに対する剰余に最も近い位相を与える断面形状を満たすように設定される。このように設計された光学素子3は、第2関数に基づく位相分布を有する複数の柱状体3Tからなる単位要素をマトリクス状に配列することにより、出力光が法線方向に対して任意の焦点距離に焦点を有するように位相調整され、レンズ特性が調整されているレンズ素子として機能する。レンズ素子に形成された光学素子3によれば、第1位置P1において第1光学素子層4として配置すると、光源Lから発散角を持って出力される光を平行光にして出力することができる(図1参照)。また、レンズ素子に形成された光学素子3によれば、第2位置P2において第2光学素子層5として配置すると、第2反射板13において反射された平行光を入力し、出力光を集光して検出部Dに入力することができる(図1参照)。
【0043】
上述した異なる偏光特性を有する光学素子3は、積層されてその機能を合成させてもよい。また、異なる偏光特性を有するように設定された第1関数、第2関数を合成した合成関数に基づいて光学素子3を設計してもよい。例えば、光学素子3は、1関数と第2関数を合成した式(5)に示される位相分布関数に基づいて形成されていてもよい。
【0044】
【数5】
【0045】
図11には、第1関数と第2関数を合成した位相分布関数に基づく位相分布の2πに対する剰余が示されている。ここで、複数の柱状体3Tの第1幅と第2幅は、第1関数と第2関数を合成した位相分布関数の2πに対する剰余に最も近い位相を与える断面形状を満たすように設定される。位相分布関数に基づいて設計された光学素子3によれば、異なる偏光特性を生じさせる機能を重畳したメタサーフェス構造を設計することができ、偏向素子または偏光器とメタレンズの両方の機能を1層により実現できる。
【0046】
また、光学セル1において、用途によっては光源Lから出力される光を直線偏光から円偏光に変換した方が試料Mの光学特性において望ましい場合もある(図1参照)。光学素子3は、例えば、位相差板である1/4波長板に形成されていてもよい。式(6)は、例えば、1/4波長板の位相分布を示す第3関数である。
【0047】
【数6】
【0048】
光学素子3は、平面における出力光の位相分布を示す第3関数に基づいて、複数の柱状体3Tが設計される。各柱状体3Tは、第3関数に対応する座標における位相勾配となるように、断面積において第1幅と、第2幅とが調整される。ここで、複数の柱状体3Tの第1幅と第2幅は、第3関数の2πに対する剰余に最も近い位相を与える断面形状を満たすように設定される。各柱状体3Tは、出力光の第1方向における第1位相と、第1方向に直交する第2方向における第2位相との間にπ/2の位相差を生じさせ、出力光が法線方向に対して円偏光となるように調整される。
【0049】
1/4波長板に形成された光学素子3は、例えば、柱状体3Tの断面形状を正方形から長方形に変えることにより、位相の偏光依存性、すなわち複屈折を有するメタサーフェスを構成できる。1/4波長板同様の位相関係式(6)を満たす柱を選択することにより、1/4波長板の機能を実現することができる。
【0050】
図12には、1/4波長板に形成された光学素子3を電磁場解析した結果が示されている。電磁場解析において、例えば、Si単結晶により形成された柱状体3Tの高さを800nmに固定し、x、y方向の幅wx,wyを変えて計算が行われた。図上の実線はφx,破線はφyの等高線を示しており、黒点は設計解をみたす(φx,φy)を表示している。
【0051】
図13には、図12において黒点で示した設計解を用いて電磁場解析した例が示されている。図13(A)はx偏光の電場分布を示し、図13(B)は、y偏光の電場分布を示している。図示するように、入力側における位相はほぼ等しいのに対し、出力側における位相は、φyがφxに比して90°遅れていることが分かる。
【0052】
このように設計された光学素子3は、光の進行方向に対する垂直偏波成分と水平偏波成分との間に1/4波長、即ち、π/4の位相差を有するように調整されている1/4波長板として機能する。1/4波長板に形成された光学素子3によれば、第1位置P1において第1光学素子層4として配置すると、光源Lから出力される直線偏光の光を円偏光にして出力することができる(図1参照)。また、1/4波長板に形成された光学素子3によれば、第2位置P2において第2光学素子層5として配置すると、第2反射板13において反射された円偏光を入力し、出力光を直線偏光に変換して検出部Dに入力することができる(図1参照)。
【0053】
1/4波長板に形成された光学素子3によれば、円偏光に偏光することにより、試料Mの円偏光に対する光学特性の違いを利用することができる。第3関数における位相差は、任意に設定されていてもよい。例えば、光学素子3は、第3関数における位相差を調整し、左旋回の1/4波長板や右旋回の1/4波長板に形成されていてもよい。また、光学素子3は、第3関数における位相差を調整し、1/2波長板にしてもよい。また、上述したように、第3関数は、第1関数及び第2関数に重畳して光学素子3を設計してもよい。このように設計された光学素子3は、出力光の第1方向における第1位相と、第2方向における第2位相との間に位相差を生じさせ、出力光が法線方向に対して任意の偏波特性を有するように調整される。
【0054】
図14には、光学素子3の設計方法において実行される各工程の処理の流れが示されている。光学素子3は、例えば、パーソナルコンピュータ等の情報処理端末装置を用いて設計される。一面2A側から入力される光が透過する透明性を有する基板2の他面2B側の平面上に所定の誘電率を有する材料により形成された複数の柱状体3Tをマトリクス状に配置する(ステップS100)。各柱状体3Tの誘電率を設定する(ステップS102)。各柱状体の平面に対する法線方向の長さを設定する(ステップS104)。各柱状体の平面に平行な方向における断面形状を設定する(ステップS106)。
【0055】
ステップS106において断面形状は、所望の偏光特性を実現する位相分布に基づいて、基板を透過して入力される入力光が透過して出力される出力光に対して位相調整を行い、法線方向に対する偏向特性と、法線方向に対して集光するレンズ特性と、法線方向に対する偏波特性とに基づいて、任意の偏光特性を有する出力光を出力するように調整する。
【0056】
上述した光学セル1は、例えば、分光分析を行う分光装置に適用されてもよい。光学セル1は、微小流体デバイスに適用し、分光分析機能を集積化するようにしてもよい。微量の試料を効率よく混合、反応させるシステムとして、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を利用して微細な流路を複雑に集積化したマイクロTAS(Micro-Total Analysis Systems)の技術が知られている。マイクロTASは、チップ上に微小な開路型の流路や反応室、混合室を設け、一つのデバイスでさまざまな液体や気体を分析する分析デバイスである。光学セル1によれば、マイクロTASに光源L及び検出部Dと共にワンチップに組み込むことにより、より汎用性を高めた安価な分光分析装置を構成することができる。なお、微小流体デバイスに適用する場合は、流路に流す媒体の屈折率等を考慮したメタサーフェスの構成とすることで、分析装置とすることができる。
【0057】
また、光学セル1は、例えば、原子時計用ガスセルに適用し、装置構成を小型化してもよい。光学セル1は、上述した開路型のデバイスだけでなく、原子時計のガスセルのような閉じた系に適用してもよい。光学セル1において、流路11を密閉したガスセルに構成した場合、ガスとの干渉長を増大させるとともに、レーザチップ等の光源Lとフォトディテクタ等の検出部Dを基板2上に片面実装することができる。さらに光学セル1を原子時計用ガスセルに適用した場合、光源Lと検出部Dとの素子をワンチップ化して構成することができる。光学セル1を原子時計用ガスセルに適用した場合、セシウム蒸気が収容された光学セルに光を入力し、出力された励起光が有する周波数等の光学特性を利用し、原子時計の振動子を構成すると共に、原子時計の量子干渉部を大幅に小型・低背化することができる。
【0058】
上述したように、光学素子3によれば、複数の柱状体3Tがマトリクス状に配置されたメタサーフェス構造を有することにより、任意の偏向方向・集光性・偏光状態を示す光学特性を有する素子を実現することができる。光学素子3によれば、各柱状体3Tの断面積を調整することにより、偏光特性と、レンズ特性と、偏波特性とを調整し、任意の偏光特性を有する出力光を出力するように形成することができる。光学素子3によれば、第1関数に基づいて位相分布を調整し偏向角等の偏光特性を調整することができる。光学素子3によれば、光を1方向にのみ偏向させることができ、光が2方向に回折する回折格子に比して光の透過効率を向上させることができる。特に、光学セル1を原子時計用ガスセルに適用した場合、光学素子3を用いることにより、光が2方向に回折する回折格子を有する特許文献1の原子時計用ガスセルに比して光の透過効率を大幅に向上させることができる。
【0059】
光学素子3によれば、第2関数に基づいて集光等のレンズ特性を調整することができる。光学素子3によれば、第3関数に基づいて位相板等の偏波特性を調整することができる。光学素子3によれば、第1関数、第2関数、第3関数等の位相分布を示す関数を任意に組み合わせた位相分布関数に基づいて各柱状体3Tの形状及び配列を調整することにより、任意の偏向方向・集光性・偏光状態を有する光学素子を1層により構成することができる。上記第1関数、第2関数、第3関数は一例であり、所望の偏光特性を有する位相分布関数が用いられてもよい。
【0060】
以下、光学素子3、光学セル1の変形例について説明する。以下の説明では、上記実施形態と同一の構成については同一の名称及び符号を用い、重複する説明は適宜省略する。
【0061】
[変形例1]
図15に示されるように、光学セル1Aの第1光学素子層4及び第2光学素子層5は、基板2の一面2A側に設けられていてもよい。光学素子3と基板2(ガラス)の一面2A側との境界においては、光学素子3の偏光角θtは、ガラスの屈折率ntとすると、以下の式(7)の条件を満たす必要がある。
【数7】
【0062】
また、基板2の他面2B側と流路11との境界においては、光学素子3の偏光角θtは、以下の式(8)の条件を満たす必要がある。
【0063】
【数8】
【0064】
よって、光学素子3に必要な位相勾配は、以下の式(9)により示される。
【0065】
【数9】
【0066】
式(9)は、式(3)と同一であり、屈折率ntに依存しない。従って、光学セル1Aは、光学セル1に用いられる光学素子3を基板2の一面2A側に配置しても光学セル1と同じ効果を有するように構成することができる。光学素子3は、第1光学素子層4及び第2光学素子層5において、基板2の一面2A側或いは他面2B側の任意の側に設けられていてもよい。上述したように、光学セル1Aによれば、基板2の一面2A側に光学素子3を配置することができ、設計の自由度を持たせることができる。
【0067】
[変形例2]
上記実施形態においては、光学素子3の柱状体3Tは、長さを固定して設計されていた。柱状体3Tは、長さをパラメータとして設計されてもよい。図16に示されるように、柱状体3Tは、所定幅を超えた領域において長さを調整することにより、周期的に透過率が変化する。また、図17に示されるように、柱状体3Tは、所定幅を超えた領域において長さを調整することにより、周期的に位相の遅延量が変化する。光学素子3は、異なる長さの柱状体3Tを配列することにより、透過率を調整してもよい。また、光学素子3は、異なる長さの柱状体3Tを配列することにより、干渉光を生成してもよい。
【0068】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。例えば、光学素子3において、柱状体3Tの断面形状は、矩形断面だけでなく楕円断面であってもよい。柱状体3Tを形成するためのエッチング処理においては、矩形断面の角部が形成されずに楕円形に近い形状となる。複数の柱状体3Tの位相分布を算出する場合、予め断面形状を楕円形に変形して所望の偏光特性を有するように補正してもよい。また、作成された光学素子3の偏光特性を調整するために、調整用の光学素子3を別途積層してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1、1A 光学セル
2 基板
3 光学素子
3T 柱状体
4 第1光学素子層
5 第2光学素子層
10 収容層
11 流路
100 分析装置
D 検出部
L 光源
P1 第1位置
P2 第2位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17