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特開2023-15358油脂組成物、加熱調理用油脂組成物、加熱調理用油脂組成物の製造方法、並びに、油脂組成物における酸価上昇及び色調上昇の抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015358
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】油脂組成物、加熱調理用油脂組成物、加熱調理用油脂組成物の製造方法、並びに、油脂組成物における酸価上昇及び色調上昇の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/10 20160101AFI20230124BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20230124BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20230124BHJP
   A23L 13/50 20160101ALN20230124BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20230124BHJP
【FI】
A23L5/10 D
A23D9/00 506
A23D9/007
A23L13/50
A23L35/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185788
(22)【出願日】2022-11-21
(62)【分割の表示】P 2018230901の分割
【原出願日】2018-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2018064879
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】豊島 尊
(72)【発明者】
【氏名】辻野 祥伍
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、加熱による、油脂の酸価上昇及び色調上昇を抑制できる技術を提供することである。
【解決手段】本発明は、遊離脂肪酸とグリセリドとを少なくとも含み、所定の条件1から3のいずれかを満たす油脂組成物を提供する。本発明の油脂組成物は、条件1から3のいずれかを満たす油脂組成物を2種以上含有していてもよい。本発明の油脂組成物は、酸価が0.5以下であってもよい。油脂組成物中のグリセリドは、動植物油中のグリセリド、及び/又は、動植物油由来の加工油脂のグリセリドであってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リノール酸及び/又はリノレン酸が50~2000質量ppm添加された油脂組成物を加熱調理に供することを特徴とする、油脂組成物における酸価上昇の抑制方法。
【請求項2】
前記加熱調理がフライ調理である、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項3】
前記油脂組成物の加熱前の酸価が、0.5以下である、請求項1又は2に記載の抑制方法。
【請求項4】
リノール酸及び/又はリノレン酸が50~2000質量ppm添加された油脂組成物を加熱調理に供することを特徴とする、油脂組成物における色調上昇の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物、加熱調理用油脂組成物、加熱調理用油脂組成物の製造方法、並びに、油脂組成物における酸価上昇及び色調上昇の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の品質に対する消費者の関心がますます高まりつつある。関心の対象は、加工食品(揚げ物等)の製造のために使用される食用油脂等にも及ぶ。
【0003】
油脂は、熱や光等に暴露されることにより劣化することが知られる。油脂が熱や光に暴露される際に、水分が存在していると加水分解劣化が生じ、酸素が存在していると酸化劣化が生じる。劣化の結果、油脂の酸価が上昇し、風味や色調が劣化する。特に、フライ調理品(フライ、天ぷら、から揚げ等)の製造においては、180℃前後に加熱された油脂を用いて加熱調理を行うので、フライ調理品に用いられる油脂(以下、「フライ油脂」ともいう。)に対しては、加熱による劣化の抑制が要求される。
【0004】
例えば、「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)」には、即席めん類(フライに相当する。)は、めんに含まれる油脂の酸価が3を超え、又は過酸化物価が30を超えるものであってはならないことが規定されている。
【0005】
また、熱等によるフライ油脂の劣化によって、フライ油脂の色調が濃くなってしまうという問題も生じ得る。フライ油脂の色調が濃くなると、該油脂を用いて製造されるフライ調理品も着色し、外観が損なわれてしまう。
【0006】
例えば、特許文献1には、特定の脂肪酸組成及びヨウ素価を有する原料油脂を精製することにより、フライ安定性の良い油脂を提供する技術が開示されている。
【0007】
また、油脂を構成する脂肪酸は二重結合の多いものほど、酸化劣化を受けやすいことが知られており、例えば、特許文献1では、多価不飽和脂肪酸量に対する1価不飽和脂肪酸量の重量比が2.0より小さい場合は、油脂の加熱に対する安定性が劣るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本特許第4392770号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
他方、より幅広い原料油脂について、加熱による劣化を抑制できる技術に対するニーズがある。
【0010】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、加熱による、油脂の酸価上昇及び色調上昇を抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、油脂組成物中の遊離脂肪酸及びトリグリセリドにおける、特定の脂肪酸の質量割合を調整することによって上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 遊離脂肪酸とグリセリドとを少なくとも含み、以下の条件1から3のいずれかを満たす油脂組成物。
(条件1)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(1)を満たす。
(Lgly/Ogly)×1.15<(Lfa/Ofa) 式(1)
(条件2)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の割合が38質量%以上であり、かつ、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が30質量%以下である場合に、
前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(2)を満たす。
(Lgly/Ogly)<(Lfa/Ofa) 式(2)
但し、(Lfa/Ofa)が0.36以上である。
(条件3)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が40質量%以上であり、かつ、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の割合が15質量%以下である場合に、
前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(3)を満たす。
(Lgly/Ogly)<(Lfa/Ofa) 式(3)
但し、(Lfa/Ofa)が0.33以上である。
【0013】
(2) 前記条件1から3のいずれかを満たす油脂組成物を2種以上含有する、(1)に記載の油脂組成物。
【0014】
(3) 酸価が0.5以下である、(1)又は(2)に記載の油脂組成物。
【0015】
(4) 前記グリセリドが動植物油中のグリセリド、及び/又は、動植物油由来の加工油脂のグリセリドである、(1)から(3)のいずれかに記載の油脂組成物。
【0016】
(5) (1)から(4)の油脂組成物を50質量%以上含有する加熱調理用油脂組成物。
【0017】
(6) 遊離脂肪酸とグリセリドとを少なくとも含む油脂組成物において、以下の条件1から3のいずれかを満たすように脂肪酸量を調整する工程を含む、加熱調理用油脂組成物の製造方法。
(条件1)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(1)を満たす。
(Lgly/Ogly)×1.15<(Lfa/Ofa) 式(1)
(条件2)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の割合が38質量%以上であり、かつ、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が30質量%以下である場合に、
前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(2)を満たす。
(Lgly/Ogly)<(Lfa/Ofa) 式(2)
但し、(Lfa/Ofa)が0.36以上である。
(条件3)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が40質量%以上であり、かつ、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の割合が15質量%以下である場合に、
前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(3)を満たす。
(Lgly/Ogly)<(Lfa/Ofa) 式(3)
但し、(Lfa/Ofa)が0.33以上である。
【0018】
(7) 遊離脂肪酸とグリセリドとを少なくとも含む油脂組成物において、以下の条件1から3のいずれかを満たすように脂肪酸量を調整した後に、前記油脂組成物を加熱することを特徴とする、油脂組成物における酸価上昇の抑制方法。
(条件1)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(1)を満たす。
(Lgly/Ogly)×1.15<(Lfa/Ofa) 式(1)
(条件2)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の割合が38質量%以上であり、かつ、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が30質量%以下である場合に、
前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(2)を満たす。
(Lgly/Ogly)<(Lfa/Ofa) 式(2)
但し、(Lfa/Ofa)が0.36以上である。
(条件3)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が40質量%以上であり、かつ、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の割合が15質量%以下である場合に、
前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(3)を満たす。
(Lgly/Ogly)<(Lfa/Ofa) 式(3)
但し、(Lfa/Ofa)が0.33以上である。
【0019】
(8) リノール酸及び/又はリノレン酸が50~2000質量ppm添加された油脂組成物を加熱調理に供することを特徴とする、油脂組成物における酸価上昇の抑制方法。
【0020】
(9) 遊離脂肪酸とグリセリドとを少なくとも含む油脂組成物において、以下の条件1から3のいずれかを満たすように脂肪酸量を調整した後に、前記油脂組成物を加熱することを特徴とする、油脂組成物における色調上昇の抑制方法。
(条件1)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(1)を満たす。
(Lgly/Ogly)×1.15<(Lfa/Ofa) 式(1)
(条件2)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の割合が38質量%以上であり、かつ、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が30質量%以下である場合に、
前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(2)を満たす。
(Lgly/Ogly)<(Lfa/Ofa) 式(2)
但し、(Lfa/Ofa)が0.36以上である。
(条件3)前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が40質量%以上であり、かつ、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の割合が15質量%以下である場合に、
前記グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、前記遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、前記遊離脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(3)を満たす。
(Lgly/Ogly)<(Lfa/Ofa) 式(3)
但し、(Lfa/Ofa)が0.33以上である。
【0021】
(10) リノール酸及び/又はリノレン酸が50~2000質量ppm添加された油脂組成物を加熱調理に供することを特徴とする、油脂組成物における色調上昇の抑制方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、加熱による、油脂の酸価上昇及び色調上昇を抑制できる技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、本明細書において、「A(数値)~B(数値)」は、「A以上B以下」を意味する。
【0024】
<油脂組成物>
本発明の油脂組成物は、遊離脂肪酸とグリセリドとを少なくとも含む組成物である。
【0025】
本発明において、「遊離脂肪酸」とは、エステル及び塩(脂肪酸石鹸)の形態ではない脂肪酸を意味し、グリセリドの分解の結果生じる脂肪酸や、合成された脂肪酸等が含まれる。本発明の油脂組成物は、遊離脂肪酸として、オレイン酸、並びに、リノール酸及び/又はリノレン酸のうち1以上を少なくとも含む。
【0026】
本発明において、「グリセリド」とは、脂肪酸とグリセリンとがエステル結合した化合物を意味する。グリセリンに結合する脂肪酸(構成脂肪酸)の数の違いにより、グリセリドは、3種の形態(モノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリド)のいずれかで存在する。本発明におけるグリセリドは上記3種の形態のいずれであってもよいが、本発明の効果が奏されやすいという観点から、トリグリセリドであることが好ましい。本発明の油脂組成物に含まれるグリセリドのうち、90質量%以上がトリグリセリドであることが好ましく、95質量%以上がトリグリセリドであることがより好ましい。
【0027】
本発明におけるグリセリドは、構成脂肪酸として、オレイン酸、並びに、リノール酸及び/又はリノレン酸のうち1以上を少なくとも含む。
【0028】
本発明の組成物において、遊離脂肪酸、及び、グリセリドの構成脂肪酸は、以下の条件1から3のいずれかを満たす。
【0029】
(条件1)グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(1)を満たす。
(Lgly/Ogly)×1.15<(Lfa/Ofa) 式(1)
(条件2)グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の割合が38質量%以上であり、かつ、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が30質量%以下である場合に、
グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(2)を満たす。
(Lgly/Ogly)<(Lfa/Ofa) 式(2)
但し、(Lfa/Ofa)が0.36以上である。
(条件3)グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が40質量%以上であり、かつ、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の割合が15質量%以下である場合に、
グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)、及び、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)が以下の式(3)を満たす。
(Lgly/Ogly)<(Lfa/Ofa) 式(3)
但し、(Lfa/Ofa)が0.33以上である。
【0030】
油脂組成物には、多種の脂肪酸が遊離脂肪酸や構成脂肪酸として含まれる。しかし、本発明者らの検討の結果、意外にも、これらのうち、オレイン酸、並びに、リノール酸及び/又はリノレン酸の質量割合を調整することで、油脂組成物の加熱による劣化を低減しやすくなることが見出された。特に、リノール酸及びリノレン酸は不飽和脂肪酸であり、酸化安定性に劣ることが知られているところ、後述するように、遊離脂肪酸の形態であるこれらの脂肪酸の質量割合を高めることで、油脂の加熱による酸価及び色調の上昇を抑制できることは極めて意外な知見であった。
【0031】
本発明の油脂組成物は、条件1から3のいずれかを満たす油脂組成物を1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。なお、任意の種類の油脂が条件1を満たし得る。また、グリセリドの構成脂肪酸においてリノール酸の割合が互いに重複しないため、条件2及び3を同時に満たす油脂は存在しない。本発明の油脂組成物には、条件1及び2を満たす油脂、並びに/又は、条件1及び3を満たす油脂が含まれることが好ましい。
【0032】
(条件1について)
条件1は、オレイン酸の質量割合に対するリノール酸又はリノレン酸の質量割合について、グリセリドの構成脂肪酸における値に「1.15」を乗じた値よりも、遊離脂肪酸における値の方が高いことを規定したものである。換言すると、遊離脂肪酸の形態であるリノール酸及び/又はリノレン酸の質量割合を高めると、本発明の効果が得られやすい。
【0033】
グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、リノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lgly/Ogly)とは、(1)オレイン酸の質量割合に対するリノール酸の質量割合の比率(「L(C18:2)gly/Ogly」ともいう。)、又は、(2)オレイン酸の質量割合に対するリノレン酸の質量割合の比率(「L(C18:3)gly/Ogly」ともいう。)、のいずれかを意味する。
【0034】
遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対するリノール酸又はリノレン酸の質量割合の比率(Lfa/Ofa)とは、(1)オレイン酸の質量割合に対するリノール酸の質量割合の比率(「L(C18:2)fa/Ofa」ともいう。)、又は、(2)オレイン酸の質量割合に対するリノレン酸の質量割合の比率(「L(C18:3)fa/Ofa」ともいう。)、のいずれかを意味する。
【0035】
本発明の油脂組成物における条件中、「Lgly」と「Lfa」とは、同一の脂肪酸に関する値であり、例えば、「Lgly/Ogly」が「L(C18:2)gly/Ogly」を意味する場合、「Lfa/Ofa」は「L(C18:2)fa/Ofa」を意味し、「Lgly/Ogly」が「L(C18:3)gly/Ogly」を意味する場合、「Lfa/Ofa」は「L(C18:3)fa/Ofa」を意味する。
【0036】
油脂組成物に、リノール酸及びリノレン酸のいずれもが含まれる場合、少なくともいずれかの脂肪酸の比率が条件1を満たしていればよい。本発明の効果が奏されやすいという観点から、油脂組成物に含まれるリノール酸の比率が条件1を満たしていることが好ましい。換言すれば、条件1において、「Lgly/Ogly」が、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合であり、かつ、「Lfa/Ofa」が、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合であることが好ましい。
【0037】
本発明の油脂組成物は、グリセリドの構成脂肪酸、及び、遊離脂肪酸としてオレイン酸を含む。
【0038】
グリセリドの構成脂肪酸であるオレイン酸の含量の下限は、油脂組成物の酸化安定性を高めやすいという観点から、グリセリドの構成脂肪酸全体に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは38質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上、最も好ましくは60質量%以上である。グリセリドの構成脂肪酸であるオレイン酸の含量の上限は、グリセリドの構成脂肪酸全体に対して、好ましくは85質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは66質量%以下である。
【0039】
遊離脂肪酸であるオレイン酸の含量の下限は、油脂組成物全体に対して、好ましくは30質量ppm以上、より好ましくは35質量ppm以上である。遊離脂肪酸であるオレイン酸の含量の上限は、油脂組成物全体に対して、好ましくは100質量ppm以下、より好ましくは70質量ppm以下である。
【0040】
本発明の油脂組成物は、グリセリドの構成脂肪酸、及び、遊離脂肪酸として、リノール酸及びリノレン酸のうち1以上を含むが、本発明の効果が奏されやすいという観点から少なくともリノール酸が含まれていることが好ましい。
【0041】
グリセリドの構成脂肪酸であるリノール酸の含量の下限は、特に条件1とともに条件2をも満たす油脂組成物においては、グリセリドの構成脂肪酸全体に対して、好ましくは7質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上である。グリセリドの構成脂肪酸であるリノール酸の含量の上限は、特に条件1とともに条件2をも満たす油脂組成物においては、油脂組成物の酸化安定性を高めやすいという観点から、グリセリドの構成脂肪酸全体に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは24質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0042】
グリセリドの構成脂肪酸であるリノール酸の含量の下限は、特に条件1とともに条件3をも満たす油脂組成物においては、グリセリドの構成脂肪酸全体に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。グリセリドの構成脂肪酸であるリノール酸の含量の上限は、特に条件1とともに条件3をも満たす油脂組成物においては、グリセリドの構成脂肪酸全体に対して、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは56質量%以下である。
【0043】
遊離脂肪酸であるリノール酸の含量の下限は、油脂組成物全体に対して、好ましくは5質量ppm以上、より好ましくは10質量ppm以上、さらに好ましくは15質量ppm以上である。遊離脂肪酸であるリノール酸の含量の上限は、油脂組成物全体に対して、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1500質量ppm以下、さらに好ましくは1200質量ppm以下、さらにより好ましくは300質量ppm以下、最も好ましくは、50質量ppm以下である。
【0044】
グリセリドの構成脂肪酸であるリノレン酸の含量の下限は、グリセリドの構成脂肪酸全体に対して、好ましくは0質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。グリセリドの構成脂肪酸であるリノレン酸の含量の上限は、油脂組成物の酸化安定性を高めやすいという観点から、グリセリドの構成脂肪酸全体に対して、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは9質量%以下である。
【0045】
遊離脂肪酸であるリノレン酸の含量の下限は、油脂組成物全体に対して、好ましくは5質量ppm以上、より好ましくは10質量ppm以上、さらに好ましくは15質量ppm以上である。遊離脂肪酸であるリノレン酸の含量の上限は、油脂組成物全体に対して、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1500質量ppm以下、さらに好ましくは1200質量ppm以下、さらにより好ましくは300質量ppm以下、最も好ましくは、50質量ppm以下である。
【0046】
本発明の油脂組成物は、油脂組成物の酸化安定性が良好になりやすいという観点から、以下のいずれかを満たしていることが好ましい。
(1)グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の割合が20質量%以上であり、かつ、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が30質量%以下である。
(2)グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が40質量%以上であり、かつ、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の割合が15質量%以下である。
【0047】
グリセリドの構成脂肪酸における各脂肪酸の質量割合は、実施例の(トリグリセリドの脂肪酸組成)の項に示した方法で特定する。遊離脂肪酸における各脂肪酸の質量割合は、実施例の(遊離脂肪酸含有割合)の項に示した方法で特定する。
【0048】
(条件2について)
条件2は、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の割合が38質量%以上であり、かつ、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が30質量%以下である油脂組成物について以下を規定したものである;すなわち、オレイン酸の質量割合に対するリノール酸又はリノレン酸の質量割合について、グリセリドの構成脂肪酸における値よりも、遊離脂肪酸における値(但し、0.36以上)の方が高いことを規定したものである。換言すると、遊離脂肪酸の形態であるリノール酸及び/又はリノレン酸の質量割合を高めると、本発明の効果が得られやすい。
【0049】
条件2の式(2)において、「Lgly」及び「Lfa」は、それぞれリノール酸に関する値である。そのため、条件2において、「Lgly/Ogly」及び「Lfa/Ofa」は、それぞれ「L(C18:2)gly/Ogly」及び「L(C18:2)fa/Ofa」を意味する。
【0050】
「Lfa/Ofa」は、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.34以上である。また、「Lfa/Ofa」は、好ましくは10.0以下、より好ましくは7.00以下、さらに好ましくは0.50以下である。
【0051】
(条件3について)
条件3は、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が40質量%以上であり、かつ、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の割合が15質量%以下である油脂組成物について以下を規定したものである;すなわち、オレイン酸の質量割合に対するリノール酸又はリノレン酸の質量割合について、グリセリドの構成脂肪酸における値よりも、遊離脂肪酸における値(但し、0.33以上)の方が高いことを規定したものである。換言すると、遊離脂肪酸の形態であるリノール酸及び/又はリノレン酸の質量割合を高めると、本発明の効果が得られやすい。
【0052】
条件3の式(3)において、「Lgly」及び「Lfa」は、それぞれリノレン酸に関する値である。そのため、条件2において、「Lgly/Ogly」及び「Lfa/Ofa」は、それぞれ「L(C18:3)gly/Ogly」及び「L(C18:3)fa/Ofa」を意味する。
【0053】
「Lfa/Ofa」は、好ましくは0.32以上、より好ましくは0.33以上である。また、「Lfa/Ofa」は、好ましくは10.0以下、より好ましくは7.00以下、さらに好ましくは0.50以下である。
【0054】
(その他の成分)
本発明の油脂組成物は、上記のほか、油脂組成物に配合され得る任意の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、抗酸化剤、乳化剤、消泡剤等が挙げられる。配合される成分の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0055】
<本発明の油脂組成物の製造方法>
本発明の油脂組成物は、上記の条件を満たしていればよく、各種の油脂や、脂肪酸等から製造できる。油脂組成物の製造においては、食用油脂等の製造に用いられる任意の方法及び装置等を使用できる。
【0056】
例えば、本発明の油脂組成物には、原料として未精製油脂や精製油脂が含まれていてもよい。このような油脂にはグリセリド(通常はトリグリセリド)が含まれる。油脂の精製方法としては、ケミカル精製(ケミカルリファイニング)と、フィジカル精製(フィジカルリファイニング)等であってもよい。ケミカル精製は、原料から圧搾及び抽出した原油を、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、脱ろう処理、脱臭処理に供することで精製する方法である。フィジカル精製は、原料から圧搾した原油を、脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理に供することで精製する方法である。精製油脂としてはRBD(Refined Bleached Deodorized)油脂を用いてもよい。
【0057】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、本発明の油脂組成物は、少なくとも脱酸処理及び脱臭処理に供された精製油脂を含むことが好ましい。
【0058】
本発明の油脂組成物に含まれる油脂としては、動植物油、及び/又は動植物油由来の加工油脂であってもよい。具体的には、植物性油脂(ナタネ油(キャノーラ油等)、コーン油、大豆油、綿実油、サフラワー油、ごま油、落花生油、オリーブ油、グレープシード油、パーム油、ヤシ油、米油等)、動物性油脂(牛脂、ラード、乳脂、魚油等);これらの油脂の硬化油又はエステル交換油;これらの油脂を分別して得られる液体油又は固体脂等、が挙げられる。これらの油脂は1種単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。パーム油の分別油としては、パームオレイン、スーパーオレイン等が挙げられる。また、これらの植物性油脂、並びに、そのエステル交換油及び分別油等に含まれるグリセリドは、通常、95質量%以上がトリグリセリドである。
【0059】
条件1は、上記の油脂のうち、任意の種類の油脂の脂肪酸組成を調整することで満たし得る。
【0060】
条件2は、上記の油脂のうち、「グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の割合が38質量%以上であり、かつ、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が30質量%以下である油脂」を満たす油脂、すなわち、ナタネ油(キャノーラ油)、並びに、パーム油及びその分別油等の脂肪酸組成を調整することで満たし得る。
【0061】
条件3は、上記の油脂のうち、「グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が40質量%以上であり、かつ、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の割合が15質量%以下である油脂」を満たす油脂、すなわち、大豆油、コーン油、綿実油、米油等の脂肪酸組成を調整することで満たし得る。
【0062】
本発明の油脂組成物は、条件1から3のいずれかを満たす油脂組成物を1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。2種以上を含む場合は、複数の種類の油脂の脂肪酸組成の調整を、混合油脂を用いて同時に行ってもよいし、各油脂に対して行った後にそれらの油脂を混合してもよい。
【0063】
本発明における条件を満たす油脂組成物を得る方法としては、脂肪酸組成を調整できる任意の手段を採用できる。例えば、以下の方法が挙げられる。
(方法1)未精製油脂や精製油脂(これらはグリセリドに相当する。)に、脂肪酸(遊離脂肪酸に相当する。)を添加し、脂肪酸組成を調整する方法。
(方法2)未精製油脂や精製油脂(これらはグリセリドに相当する。)に、任意に脂肪酸(遊離脂肪酸に相当する。)を添加し、得られた混合物を減圧水蒸気蒸留に供し、脂肪酸組成を調整する方法。
【0064】
上記方法1について、具体的な方法としては、未精製油脂や精製油脂に、リノール酸及び/又はリノレン酸を50~2000質量ppm添加する方法であってもよい。リノール酸及びリノレン酸を両方添加する場合、その総量が上記の範囲であればよい。
【0065】
上記方法2において、脂肪酸の添加は行ってもよく、行わなくともよい。なお、減圧水蒸気蒸留の条件により、脂肪酸組成を調整することができる。通常、蒸留において、脂肪酸は沸点等に応じて割合が変化し、リノール酸等よりもオレイン酸が残存しやすいと予想される。しかし、下記の実施例に示されるとおり、減圧水蒸気蒸留(実施例においては脱臭処理)において、オレイン酸に対するリノール酸及びリノレン酸の割合を増減させることができた。これは、減圧水蒸気蒸留において遊離脂肪酸が除去される一方で、遊離脂肪酸の加水分解が生じたことによると考えられる。加水分解特性は脂肪酸の種類に応じて異なるため、遊離脂肪酸の組成に影響したものと予想される。この除去と加水分解のバランスを調整することで脂肪酸組成を調整することが可能となる。なお、減圧水蒸気蒸留によって加水分解される脂肪酸の量は微量なので、グリセリドの構成脂肪酸の組成には、ほとんど影響しない。
【0066】
なお、上記方法1及び方法2において、添加する脂肪酸(リノール酸及び/又はリノレン酸)は、油脂に含まれた状態での遊離脂肪酸として添加することもできる。例えば、グリセリドの構成脂肪酸としてリノール酸及び/又はリノレン酸が相対的に多い油脂は、未精製油又は加水分解を受けた油脂であると、多くのリノール酸及び/又はリノレン酸が遊離脂肪酸として油脂中に存在するので、このような油脂を遊離脂肪酸含有油脂として添加できる。
【0067】
<本発明の油脂組成物の特性>
本発明の油脂組成物は、上記条件を満たすことにより、加熱を行っても、油脂の酸価上昇及び色調上昇が抑制されているという性質を有する。油脂の酸価及び色調は、実施例に示した方法で評価できる。なお、本発明において「油脂の酸価(又は色調)上昇が抑制される」とは、上記条件1から3のいずれかを満たした本発明の油脂組成物を加熱した場合、加熱前の酸価(又は色調)と加熱後の酸価(又は色調)との差が、上記条件1から3のいずれも満たさない油脂組成物を加熱した場合における差と比較して小さいことを意味する。
【0068】
本発明の油脂組成物は、加熱前の状態での酸価が、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは、0.1以下である。
【0069】
本発明の油脂組成物は、上記の性質を有するので、加熱(例えば、160℃以上の加熱)を要する用途に好ましく用いることができる。具体的には、本発明の油脂組成物は、加熱調理(フライ調理等)に好ましく用いることができ、フライ油脂として特に好ましく用いることができる。
【0070】
また、本発明の油脂組成物は、加熱を繰り返し行っても、油脂の酸価上昇及び色調上昇が抑制され得る。本発明において「繰り返し加熱する」とは、上記条件1から3のいずれかを満たした本発明の油脂組成物を、油脂を冷却する期間をはさんで合計2回以上(好ましくは合計4回以上)加熱することを意味する。加熱回数の上限は、特に限定されないが、20回以下であってもよい。1回ごとの加熱時間は0.1時間~24時間であってもよい。なお、「油脂を冷却する期間」とは、加熱温度よりも油温が低い状態を維持する期間(例えば、1~300時間)を意味する。
【0071】
<油脂組成物における酸価上昇の抑制方法>
上記のとおり、本発明によれば、上記条件1から3のいずれかを満たすように油脂組成物の脂肪酸量を調整することで、油脂組成物を加熱しても、油脂組成物における酸価上昇を抑制することができる。
【0072】
油脂組成物における酸価上昇の抑制方法について、具体的な方法としては、リノール酸及び/又はリノレン酸が50~2000質量ppm添加された油脂組成物を加熱調理に供する方法であってもよい。
【0073】
<油脂組成物における色調上昇の抑制方法>
上記のとおり、本発明によれば、上記条件1から3のいずれかを満たすように油脂組成物の脂肪酸量を調整することで、油脂組成物を加熱しても、油脂組成物における色調上昇を抑制することができる。
【0074】
油脂組成物における色調上昇の抑制方法について、具体的な方法としては、リノール酸及び/又はリノレン酸が50~2000質量ppm添加された油脂組成物を加熱調理に供する方法であってもよい。
【実施例0075】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
<分析方法>
各試験における分析は、以下の方法にしたがって実施した。
【0077】
(酸価)
酸価を、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.3.1-2013 酸価」に準拠して測定した。酸価は、油脂中に含まれる遊離脂肪酸の量を示し、サンプル油1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数で表わされる。酸価の数値が小さいほど、遊離脂肪酸量が少なく、酸価の上昇が抑制されていることを意味する。
【0078】
(トリグリセリドの脂肪酸組成)
トリグリセリドの脂肪酸組成を、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.4.2.2-1996 脂肪酸組成」(FID昇温ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定した。具体的には、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸の各質量割合を算出した。
【0079】
(遊離脂肪酸含有割合)
n-ヘプタデカン酸を内部標準として、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、油脂組成物中の各遊離脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸)の質量割合を算出した。具体的には以下の方法を行った。
【0080】
試験油100~500mgに対して、内部標準としてn-ヘプタデカン酸(東京化成工業株式会社製)を、試験油の0.04~4質量%となるように、n-ヘプタデカン酸の0.02mg/mLアセトン溶液を試験油に添加した。さらに、ADAM(9-Anthryldiazomethane)試薬(商品名「脂肪酸分析用蛍光試薬ADAM」、フナコシ株式会社製)の1mg/mLのメタノール溶液を、容量比1:1で添加し、室温で1時間静置した。その後、HPLCで分析し、各遊離脂肪酸の質量割合を算出した。
【0081】
HPLCの条件は以下のとおりである。
検出器:蛍光検出器(Ex 365nm、Em 412nm)
カラム:TCI Kaseisorb LC ODS 2000(4.6mm I.D.×25cm)
溶離液:HPLCアセトニトリル
流速 :1.1mL/min
カラム温度:25℃
注入量:5μL
【0082】
(色調)
試験油の色度を、ロビボンド比色計(商品名「Lovibond PFX995」、The Tintometer Limited社製)で、0.5インチセルを使用して、黄の色度(Y値)、赤の色度(R値)を測定した。これらの結果に基づき、「Y+10R」を算出して評価した。Y+10Rの数値が小さい程、色調が淡く、Y+10R数値が大きい程、色調が濃いことを意味する。
【0083】
<試験1:油脂組成物の調製及び加熱試験>
加熱前の精製キャノーラ油(トリグリセリドを含む油脂組成物に相当、商品名「日清キャノーラ油」、日清オイリオグループ株式会社製)100質量部に対し、各種脂肪酸を、0.025質量部(油脂組成物に対して250質量ppm)、又は、0.100質量部(油脂組成物に対して1000質量ppm)添加し、表1に示す試験油2~7を得た。また、脂肪酸を添加していない加熱前の精製キャノーラ油を試験油1とした。
【0084】
脂肪酸を添加していない、加熱前の精製キャノーラ油の酸価及びトリグリセリドの脂肪酸組成は以下のとおりである(条件1~3は満たしていなかった)。
酸価:0.04
パルミチン酸:4.2質量%
オレイン酸:61.3質量%
リノール酸:19.9質量%
リノレン酸:8.1質量%
【0085】
添加した脂肪酸の詳細は以下のとおりである。
パルミチン酸:特級パルミチン酸(純度95%以上)、関東化学株式会社製
オレイン酸:生化学用オレイン酸(純度99%以上)、和光純薬工業株式会社製
リノール酸:特級リノール酸(純度98%以上)、和光純薬工業株式会社製
リノレン酸:リノレン酸(純度98.5%以上)、Sigma-Aldrich社製
【0086】
試験油1の加熱前の酸価は0.04であった。また、リノール酸を250質量ppm添加した試験油4、リノール酸又はリノレン酸を1000質量ppm添加した試験油6又は7の加熱前の酸価は、それぞれ0.09、0.24、0.24であった。酸価の上昇は遊離脂肪酸量の違いに基づくことから、試験油4の遊離脂肪酸の少なくとも約55質量%以上((0.09-0.04)/0.09×100=約55)は添加したリノール酸であり、試験油6、7の遊離脂肪酸の少なくとも約83質量%以上((0.24-0.04)/0.24×100=約83)は添加したリノール酸又はリノレン酸であることがわかる。
【0087】
試験油4は以下のとおり、条件1及び2をいずれも満たす。
(条件1)
(L(C18:2)gly/Ogly)×1.15=19.9/61.3×1.15=約0.37
(L(C18:2)fa/Ofa)は、少なくとも55÷(100-55)=約1.22以上
(条件2)
(L(C18:2)gly/Ogly)=19.9/61.3=約0.32
(L(C18:2)fa/Ofa)は、少なくとも55÷(100-55)=約1.22以上
【0088】
試験油6は以下のとおり、条件1及び2をいずれも満たす。
(条件1)
(L(C18:2)gly/Ogly)×1.15=19.9/61.3×1.15=約0.37
(L(C18:2)fa/Ofa)=少なくとも83÷(100-83)=約4.9以上
(条件2)
(L(C18:2)gly/Ogly)=19.9/61.3=約0.32
(L(C18:2)fa/Ofa)=少なくとも83÷(100-83)=約4.9以上
【0089】
試験油7は以下のとおり、条件1を満たす。また、条件3のうち、「グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の割合が15質量%以下」は満たさないものの、式(3)を満たす
(条件1)
(L(C18:3)gly/Ogly)×1.15=8.1/61.3×1.15=約0.15
(L(C18:3)fa/Ofa)=少なくとも83÷(100-83)=約4.9以上
(条件3)
(L(C18:3)gly/Ogly)=8.1/61.3=約0.13
(L(C18:3)fa/Ofa)=少なくとも83÷(100-83)=約4.9以上
【0090】
なお、「L(C18:2)gly/Ogly」は、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率を意味する。
「L(C18:3)gly/Ogly」は、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率を意味する。
「L(C18:2)fa/Ofa」は、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率を意味する。
「L(C18:3)fa/Ofa」は、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率を意味する。
【0091】
各試験油50gを200mLのビーカーに入れ、16時間加熱した。加熱の前後の酸価を測定した。その結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示されるとおり、試験油4においては、試験油2~3と比較して、加熱による酸価の上昇が抑制されていた。また、試験油6及び7においては、試験油5と比較して、加熱による酸価の上昇が抑制されていた。
【0094】
上記の結果は、条件1又は条件2を満たす油脂組成物において、同程度の遊離脂肪酸を有する場合、遊離のリノール酸及び/又は遊離のリノレン酸の含有量が高い油脂組成物の方が、酸価上昇抑制があることを示している。また、リノール酸又はリノレン酸の添加が、酸価の上昇抑制に寄与したことを示す。このことは、条件1又は条件2を満たす油脂組成物において、遊離脂肪酸の形態であるリノール酸及びリノレン酸の質量割合を調整することで、加熱による酸価の上昇を抑制できることを示唆する。そこで、以下の試験において、加熱による酸価上昇を抑制できるより詳細な条件を検討した。
【0095】
<試験2:油脂組成物の調製及びフライ試験>
キャノーラ脱色油(少なくとも遊離脂肪酸及びトリグリセリドを含む油脂組成物に相当、日清オイリオグループ株式会社製)、及び、パームオレイン脱色油(少なくとも遊離脂肪酸及びトリグリセリドを含む油脂組成物に相当、RBD油の再脱色油、ヨウ素価67、日清オイリオグループ株式会社製)のそれぞれに対し、表2の条件で脱臭を行い、シリコーンオイルを3.0ppm添加し、試験油8~11を得た。
【0096】
また、表2には、脱臭前の各試験油の酸価及びトリグリセリドにおける脂肪酸組成(TGFA)、脱臭後の各試験油の遊離脂肪酸における脂肪酸含有割合(FFA)、フライ試験前の油脂組成物の色調、及び、脱臭前の各試験油が本発明における条件を満たすかについて示した。
【0097】
表2中、「L(C18:2)gly/Ogly」は、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率を意味する。あわせて、(条件1)の式(1)に対応するよう、該比率に「1.15」を乗じた「L(C18:2)gly/Ogly×1.15」の値を下段に示した。
「L(C18:3)gly/Ogly」は、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率を意味する。あわせて、(条件1)の式(1)に対応するよう、該比率に「1.15」を乗じた「L(C18:3)gly/Ogly×1.15」の値を下段に示した。
「L(C18:2)fa/Ofa」は、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率を意味する。
「L(C18:3)fa/Ofa」は、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率を意味する。
【0098】
例えば、表2中、試験油8において、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合は「61.34質量%」であり、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合は「19.90質量%」であるので、「L(C18:2)gly/Ogly」は、19.90/61.34=0.32である。
【0099】
なお、本試験例では、「L(C18:2)gly/Ogly」及び「L(C18:3)gly/Ogly」について、脱臭前の油脂について示したが、脱臭後でも脱臭前とほぼ変わらない値だった。
【0100】
(フライ試験)
各試験油に対応した4つのフライヤーを用意し、4Lの各試験油を入れ、8日間(8時間/日)フライ調理を行った。フライ調理は、以下の方法で、イモ天(2日間)、コロッケ(2日間)、から揚げ(4日間)の調理を順に行った。フライ後の油脂組成物の、酸価、及び色調を表3に示す。
【0101】
[イモ天]
1時間ごとに、サツマイモを1cmの厚さにスライスした8枚を、バッター(天ぷら粉(商品名「日清おいしい天ぷら粉」、日清フーズ株式会社製):水=1:1.6)をつけ、180℃で3.5分間揚げた。
【0102】
[コロッケ]
1時間ごとに、コロッケ(商品名「ニチレイ衣がサクサクのコロッケ(野菜)」、株式会社ニチレイフーズ製)70gを4個、180℃で4分間揚げた。
【0103】
[から揚げ]
1時間ごとに、鶏モモ肉約35gを6個、バッター(から揚げ粉(商品名「から揚げの素No.1」、日本食研株式会社製):水=1:1)をつけ、180℃で4分間揚げた。
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
試験油9及び11は本発明の油脂組成物における条件を満たす油脂組成物であり、試験油8及び10は、該条件を満たさない油脂組成物である。
【0107】
表3に示されるとおり、試験油9は、試験油8と比較して、酸価の上昇、さらには色調の上昇が抑制されていた。試験油11においても、試験油10と比較して同様の結果だった。
【0108】
以上の結果から、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率、及び、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率を、本発明における条件を満たすように調整することで、油脂組成物の酸価の上昇、さらには色調の上昇を抑制できることが見出された。
【0109】
<試験3:油脂組成物の調製及び加熱試験>
加熱前の精製大豆油(トリグリセリドを含む油脂組成物に相当、商品名「日清大豆油」、日清オイリオグループ株式会社製)100質量部に対し、各種脂肪酸を、0.100質量部(油脂組成物に対して1000質量ppm)添加し、表4に示す試験油13~15を得た。また、脂肪酸を添加していない精製キャノーラ油を試験油12とした。
【0110】
脂肪酸を添加していない、加熱前の精製大豆油の酸価及びトリグリセリドの脂肪酸組成は以下のとおりである(条件1~3は満たしていなかった)。
酸価:0.04
パルミチン酸:10.8質量%
オレイン酸:23.6質量%
リノール酸:53.3質量%
リノレン酸:6.9質量%
【0111】
添加した脂肪酸の詳細は以下のとおりである。
オレイン酸:生化学用オレイン酸(純度99%以上)、和光純薬工業株式会社製
リノール酸:特級リノール酸(純度98%以上)、和光純薬工業株式会社製
リノレン酸:リノレン酸(純度98.5%以上)、Sigma-Aldrich社製
【0112】
試験油12の加熱前の酸価は0.04であった。また、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸をそれぞれ1000質量ppm添加した試験油13~15の加熱前の酸価は、それぞれ0.24であった。酸価の上昇は遊離脂肪酸量の違いに基づくことから、試験油14、15の遊離脂肪酸の少なくとも約83質量%以上((0.24-0.04)/0.24×100=約83)は添加したリノール酸又はリノレン酸であることがわかる。
【0113】
試験油14は以下のとおり、条件1を満たす。また、条件2のうち、「グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の割合が38質量%以上であり、かつ、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の割合が30質量%以下」は満たさないものの、式(2)を満たす。
(条件1)
(L(C18:2)gly/Ogly)=53.5/23.6×1.15=約2.58
(L(C18:2)fa/Ofa)=少なくとも83÷(100-83)=4.9以上
(条件2)
(L(C18:2)gly/Ogly)=53.5/23.6=約2.27
(L(C18:2)fa/Ofa)=少なくとも83÷(100-83)=4.9以上
【0114】
試験油15は以下のとおり、条件1及び3をいずれも満たす。
(条件1)
(L(C18:3)gly/Ogly)=6.9/23.6×1.15=約0.34
(L(C18:3)fa/Ofa)=少なくとも83÷(100-83)=4.9以上
(条件3)
(L(C18:3)gly/Ogly)=6.9÷23.6=約0.29
(L(C18:3)fa/Ofa)=少なくとも83÷(100-83)=4.9以上
【0115】
なお、「L(C18:2)gly/Ogly」は、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率を意味する。
「L(C18:3)gly/Ogly」は、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率を意味する。
「L(C18:2)fa/Ofa」は、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率を意味する。
「L(C18:3)fa/Ofa」は、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率を意味する。
【0116】
各試験油50gを200mLのビーカーに入れ、16時間加熱した。加熱の前後の酸価を測定した。その結果を表4に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
表4に示されるとおり、試験油14、15においては、試験油13と比較して、同じ脂肪酸量にも関わらず加熱による酸価の上昇が抑制されていた。
【0119】
上記の結果は、このことは、条件1又は条件3を満たす油脂組成物において、同程度の遊離脂肪酸を有する場合、遊離のリノール酸及び/又は遊離のリノレン酸の含有量が高い油脂組成物の方が、酸価上昇抑制があることを示している。また、リノール酸又はリノレン酸の添加が、酸価の上昇抑制に寄与したことを示す。特にリノール酸の効果が高いことが確認できた。このことは、条件1又は条件3を満たす油脂組成物において、遊離脂肪酸の形態であるリノール酸及びリノレン酸の質量割合を調整することで、加熱による酸価の上昇を抑制できることを示唆する。そこで、以下の試験において、加熱による酸価上昇を抑制できるより詳細な条件を検討した。
【0120】
<試験4:油脂組成物の調製及びフライ試験>
加熱前の大豆脱色油(少なくとも遊離脂肪酸及びトリグリセリドを含む油脂組成物に相当、日清オイリオグループ株式会社製)に対し、表5の条件で脱臭を行い、シリコーンオイルを3.0ppm添加し、試験油16~18を得た。
【0121】
また、表5には、脱臭前の各試験油の酸価及びトリグリセリドにおける脂肪酸組成(TGFA)、脱臭後の各試験油の遊離脂肪酸における脂肪酸含有割合(FFA)フライ試験前の油脂組成物の色調、及び、脱臭前の各試験油が本発明における条件を満たすかについて示した。
【0122】
表5中、「L(C18:2)gly/Ogly」は、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率を意味する。あわせて、(条件1)の式(1)に対応するよう、該比率に「1.15」を乗じた「L(C18:2)gly/Ogly×1.15」の値を下段に示した。
「L(C18:3)gly/Ogly」は、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率を意味する。あわせて、(条件1)の式(1)に対応するよう、該比率に「1.15」を乗じた「L(C18:3)gly/Ogly×1.15」の値を下段に示した。
「L(C18:2)fa/Ofa」は、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率を意味する。
「L(C18:3)fa/Ofa」は、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノレン酸の質量割合の比率を意味する。
【0123】
なお、本試験例では、「L(C18:2)gly/Ogly」及び「L(C18:3)gly/Ogly」について、脱臭前の油脂について示したが、脱臭後でも脱臭前とほぼ変わらない値だった。
【0124】
(フライ試験)
各試験油に対応した4つのフライヤーを用意し、4Lの各試験油を入れ、8日間(8時間/日)フライ調理を行った。フライ調理は、以下の方法で、イモ天(2日間)、コロッケ(2日間)、から揚げ(4日間)の調理を順に行った。フライ後の油脂組成物の、酸価、及び色調を表5に示す。
【0125】
[イモ天]
1時間ごとに、サツマイモを1cmの厚さにスライスした8枚を、バッター(天ぷら粉(商品名「日清おいしい天ぷら粉」、日清フーズ株式会社製):水=1:1.6)をつけ、180℃で3.5分間揚げた。
【0126】
[コロッケ]
1時間ごとに、コロッケ(商品名「ニチレイ衣がサクサクのコロッケ(野菜)」、株式会社ニチレイフーズ製)70gを4個、180℃で4分間揚げた。
【0127】
[から揚げ]
1時間ごとに、鶏モモ肉約35gを6個、バッター(から揚げ粉(商品名「から揚げの素No.1」、日本食研株式会社製):水=1:1)をつけ、180℃で4分間揚げた。
【0128】
【表5】
【0129】
【表6】
【0130】
試験油17及び18は本発明の油脂組成物における条件1又は3を満たす油脂組成物であり、試験油16は、該条件を満たさない油脂組成物である。
【0131】
表6に示されるとおり、試験油17、18は、試験油16と比較して、酸価の上昇、さらには色調の上昇が抑制されていた。
【0132】
以上の結果から、グリセリドの構成脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、グリセリドの構成脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率、あるいは、遊離脂肪酸におけるオレイン酸の質量割合に対する、遊離脂肪酸におけるリノール酸の質量割合の比率を、本発明における条件を満たすように調整することで、油脂組成物の酸価の上昇、さらには色調の上昇を抑制できることが見出された。