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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153599
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】トロリ線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60M 1/13 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
B60M1/13 A
B60M1/13 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062970
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 浩義
(72)【発明者】
【氏名】田村 和彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 起基
(57)【要約】
【課題】所望の傾斜角度でドラムへの巻き付けを行うことが可能なトロリ線及びその製造方法を提供する。
【解決手段】懸架部材2によって軌道上に懸架されるトロリ線1は、公称断面積が130mm以上かつ170mm以下であり、懸架部材2が係合する一対の懸架溝11,12及び摩耗限度位置を示す一対の摩耗限度溝13,14が、長手方向に沿って外周面1aから窪むように形成されており、一対の摩耗限度溝13,14は、溝幅Wが0.5mmよりも大きく1.5mm以下であり、かつ溝深さDが0.3mmよりも大きく0.6mm以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸架部材によって軌道上に懸架されるトロリ線であって、
公称断面積が130mm以上かつ170mm以下であり、
前記懸架部材が係合する一対の懸架溝、及び摩耗限度位置を示す一対の摩耗限度溝が、長手方向に沿って外周面から窪むように形成されており、
前記一対の摩耗限度溝は、溝幅が0.5mmよりも大きく1.5mm以下であり、かつ溝深さが0.3mmよりも大きく0.6mm以下である、
トロリ線。
【請求項2】
前記一対の摩耗限度溝は、長手方向に垂直な断面において溝幅の両端部が円弧状に面取りされており、その面取り半径が0.2mm以上0.3mm未満である、
請求項1に記載のトロリ線。
【請求項3】
前記一対の摩耗限度溝は、長手方向に垂直な断面において前記両端部と溝底部との間が直線状に形成されており、
前記溝底部は、円弧半径が0.2mm以上0.3mm未満の断面円弧状である、
請求項2に記載のトロリ線。
【請求項4】
前記摩耗限度位置は、懸架された状態における上端部から下方に向かって、7mm以上13mm以下の位置である、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のトロリ線。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載のトロリ線の製造方法であって、
前記トロリ線の外周面は、前記一対の懸架溝の一方側の小弧面と他方側の大弧面とを含み、前記一対の摩耗限度溝が前記大弧面に形成されており、
円筒状の胴部を有するドラムの前記胴部の外周に前記トロリ線を巻き取るドラム巻取工程を有し、
前記ドラム巻取工程において、前記トロリ線の長手方向に垂直な断面における中心線の前記小弧面側の端部が前記大弧面側の端部よりも前記胴部の外周側となるように、前記中心線を前記胴部の軸方向に対して傾斜させて前記トロリ線を巻き取り、
前記中心線の前記胴部の軸方向に対する傾斜角が5°以上25°以下の範囲である、
トロリ線の製造方法。
【請求項6】
前記一対の摩耗限度溝に対応する形状のダイスに線材を通過させることによって前記トロリ線に前記一対の摩耗限度溝を形成する摩耗限度溝形成工程を有し、
前記ダイスは、前記一対の摩耗限度溝を形成するための一対の突起を有し、前記一対の突起を結ぶ線分の垂直二等分線が前記胴部の軸方向に対して5°以上15°以下の範囲で傾斜するように配置されている、
請求項5に記載のトロリ線の製造方法。
【請求項7】
前記摩耗限度溝形成工程と前記ドラム巻取工程との間に、前記ダイスを通過した前記トロリ線を始端部から終端部まで貯線機の巻取体の外周に巻き取る貯線巻取工程を有し、
前記貯線巻取工程において、前記トロリ線を前記巻取体の径方向に重ならないように単層巻きする、
請求項6に記載のトロリ線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸架部材によって鉄道車両の軌道上に懸架されるトロリ線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、懸架部材によって鉄道車両の軌道上に懸架されるトロリ線は、鉄道車両のパンタグラフが摺動することにより機械的及び電気的に摩耗する。このため、トロリ線の摩耗が限度に達したときには、トロリ線が新しいものに交換される。トロリ線の交換時には、例えば特許文献1に記載されているように、トロリ線が巻き付けられたドラムを延線車両に設置し、トロリ線をドラムから送り出して線状のハンガに吊り下げる。トロリ線には、ハンガの下端部に取り付けられた懸架部材の突起が係合する一対の懸架溝(イヤー溝とも称される)が形成されている。また、トロリ線は、例えば特許文献1の図3に示されているように、長手方向に対して垂直な断面における中心線がドラムの円筒状の胴部の軸線に対して平行となるように横巻きされる。
【0003】
一方、特許文献2及び3には、摩耗による交換の目安となる摩耗限度溝が長手方向に沿って両側面に形成されたトロリ線が記載されている。特許文献2には、両側面にそれぞれ二つの摩耗限度溝が形成されたトロリ線が記載され、特許文献3には、両側面にそれぞれ一つの摩耗限度溝が形成されたトロリ線が記載されている。トロリ線の点検作業時には、トロリ線の側面を目視又はカメラによって観察し、摩耗限度溝が形成されていた部分まで摩耗が進行していれば、交換時期に達したと判定する。摩耗限度溝は、ハンガに吊り下げられたときにトロリ線の中心軸線よりも下方に位置する。ハンガに吊り下げられた状態におけるトロリ線の下端部は、鉄道車両のパンタグラフに摺接する摺接部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-89359号公報
【特許文献2】特開2021-59248号公報
【特許文献3】実公昭42-8903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、トロリ線の長寿命化を目的とした横巻方法が主流になっている。横巻とは、トロリ線の中心線がドラムの胴部とほぼ平行になるような巻き方であり、ドラムに巻かれることによるトロリ線の線癖が鉄道車両のパンタグラフに対して上下の癖とならず、水平の癖となりやすい巻き方である。特許文献2及び3に記載されたもののように、摩耗限度溝が形成されたトロリ線をこのような横巻方法でドラムに巻き付ける場合には、摩耗限度溝が形成された側面がドラムに接するように巻かれるため、摩耗限度溝が影響して巻きの統一性が損なわれることがある。
【0006】
そこで、本発明は、所望の角度でドラムへの巻き付けを行いやすいトロリ線及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、懸架部材によって軌道上に懸架されるトロリ線であって、公称断面積が130mm以上かつ170mm以下であり、前記懸架部材が係合する一対の懸架溝、及び摩耗限度位置を示す一対の摩耗限度溝が、長手方向に沿って外周面から窪むように形成されており、前記一対の摩耗限度溝は、溝幅が0.5mmよりも大きく1.5mm以下であり、かつ溝深さが0.3mmよりも大きく0.6mm以下である、トロリ線を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、上記のトロリ線の製造方法であって、前記トロリ線の外周面は、前記一対の懸架溝の一方側の小弧面と他方側の大弧面とを含み、前記一対の摩耗限度溝が前記大弧面に形成されており、円筒状の胴部を有するドラムの前記胴部の外周に前記トロリ線を巻き取るドラム巻取工程を有し、前記ドラム巻取工程において、前記トロリ線の長手方向に垂直な断面における中心線の前記小弧面側の端部が前記大弧面側の端部よりも前記胴部の外周側となるように、前記中心線を前記胴部の軸方向に対して傾斜させて前記トロリ線を巻き取り、前記中心線の前記胴部の軸方向に対する傾斜角が5°以上25°以下の範囲である、トロリ線の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るトロリ線及びその製造方法によれば、トロリ線を所望の角度でドラムに巻き付けやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は、懸架部材によって軌道上に懸架されたトロリ線をトロリ線の長手方向から見た状態を示す説明図である。(b)は、懸架部材によって軌道上に懸架されたトロリ線をトロリ線の側面から見た状態を示す説明図である。
図2】(a)は、長手方向に対して垂直なトロリ線の断面を示す断面図である。(b)は、摩耗限度溝の周辺を示す(a)のA部の拡大図である。
図3】(a)~(c)は、トロリ線1を巻き取るドラム3の円筒状の胴部31の外周面31aにトロリ線1が接した状態を示す断面図である。
図4】トロリ線の製造装置の構成例を示す概略図である。
図5】(a)は、第5の伸線機のダイスの出口側の端面を示す構成図である。(b)は、(a)のB-B線断面図である。
図6】貯線巻取工程を実行中の製造装置を上方から見た説明図である。
図7】ドラム巻取工程を実行中の製造装置を上方から見た説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
図1(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係るトロリ線1が懸架部材2によって軌道上に懸架された状態を示す説明図である。図1(a)は、トロリ線1の長手方向から見た状態を示し、図1(b)は、トロリ線1の側面から見た状態を示している。
【0012】
トロリ線1は、JRS(日本国有鉄道規格)、JISE2101、EN50149に規定されたみぞ付硬銅トロリ線に該当する異形丸形のトロリ線である。懸架部材2は、線状のハンガ20の下端部に取り付けられており、トロリ線1を把持している。懸架部材2は、トロリ線1を挟む一対のイヤー金具21,22と、一対のイヤー金具21,22のそれぞれにあてがわれる接続板23,24と、イヤー金具21,22及び接続板23,24を貫通するボルト25と、ボルト25が螺合するナット26とを有している。一対のイヤー金具21,22には、トロリ線1を挟持するための爪部211,221がそれぞれ設けられている。
【0013】
トロリ線1は、例えばタフピッチ銅あるいはCu-Sn-In系合金又はCu-Sn系合金からなり、公称断面積が130mm(130SQ)以上かつ170mm(170SQ)以下である。トロリ線1には、懸架部材2が係合する一対の懸架溝11,12、及び摩耗限度位置を示す一対の摩耗限度溝13,14が、トロリ線1の長手方向に沿って、外周面1aから窪むように形成されている。一対の懸架溝11,12は、トロリ線1が懸架された状態において、トロリ線1の中心軸線Cよりも鉛直方向の上方に形成されている。一対のイヤー金具21,22の爪部211,221は、一対の懸架溝11,12のそれぞれに係合する。
【0014】
トロリ線1の外周面1aは、懸架された状態における一対の懸架溝11,12の一方側(上側)にあたる小弧面1b、及び一対の懸架溝11,12の他方側(下側)にあたる大弧面1cを含み、大弧面1cが小弧面1bよりも大きく形成されている。一対の摩耗限度溝13,14は、大弧面1cに形成されている。トロリ線1の下端部は、鉄道車両のパンタグラフに摺接する摺接部15である。
【0015】
摩耗限度溝13,14は、摩耗による交換の目安となる直線状の溝であり、図1(a)に一点鎖線で示すトロリ線1の摩耗限度位置Pに形成されている。懸架された状態におけるトロリ線1の上端部100から摩耗限度位置Pまでの鉛直方向の距離Dは、7mm以上13mm以下である。つまり、摩耗限度位置Pは、懸架された状態におけるトロリ線1の上端部100から下方に向かって7mm以上13mm以下の位置であり、摩耗限度溝13,14が消滅したとき、トロリ線1の摩耗量が摩耗限度に達したこととなる。トロリ線1の点検作業時には、トロリ線1の側面を目視又はカメラなどによって視覚的に観察し、当該側面における摩耗限度溝13,14の何れかが消失しているか否かを判定する。
【0016】
図2(a)は、長手方向に対して垂直なトロリ線1の断面(長手方向直交断面)を示す断面図である。図2(b)は、摩耗限度溝13の周辺を示す、図2(a)のA部の拡大図である。
【0017】
トロリ線1の長手方向直交断面における断面形状は、図2(a)に一点鎖線で示す中心線Lを対称軸線とする線対称形状であり、一対の懸架溝11,12ならびに一対の摩耗限度溝13,14が、中心線Lを挟んで対称に形成されている。中心線Lは、小弧面1b及び大弧面1cを二等分し、トロリ線1が架線された状態では中心線Lが鉛直方向の上下方向に延在する。
【0018】
図2(b)に示すように、摩耗限度溝13は、溝幅Wが0.5mmよりも大きく1.5mm以下であり、溝深さDが0.3mmよりも大きく0.6mm以下である。また、摩耗限度溝13は、トロリ線1の長手方向直交断面において、溝幅の両端部131,132が円弧状に面取りされており、その面取り半径R,Rが0.2mm以上0.3mm未満である。またさらに、摩耗限度溝13は、トロリ線1の長手方向直交断面において、溝幅の両端部131,132と溝底部133との間の部分である溝側面134,135が直線状に形成された断面三角形状であり、溝底部133は、円弧半径Rが0.2mm以上0.3mm未満の断面円弧状である。これらの各寸法は、摩耗限度溝14についても共通である。
【0019】
摩耗限度溝13,14のこれらの寸法は、トロリ線1を巻き取るドラムの胴部の外周面に摩耗限度溝13,14の溝幅の端部(例えば摩耗限度溝13の両端部131,132の何れか)が接しても、中心線Lのドラムの軸線に対する角度が影響を受けにくいように、かつトロリ線1の点検時に摩耗限度溝13,14を視認しやすいように、考慮されたものである。つまり、溝幅Wを広くしたり面取り半径R,Rを大きくすれば、摩耗限度溝13,14を視認しやすくなるが、その一方でドラムに対するトロリ線1の中心線Lの角度が摩耗限度溝13,14によって拘束されやすくなる。また、溝深さDを深くすれば、摩耗限度溝13,14を視認しやすくなるが、その一方でトロリ線1の強度に影響しやすくなる。
【0020】
図3(a)~(c)は、トロリ線1を巻き取るドラム3の円筒状の胴部31の外周面31aにトロリ線1が接した状態を示す断面図である。図3(a)は、胴部31の軸方向に対する中心線Lの傾斜角θが5°である場合を示し、図3(b)は、胴部31の軸方向に対する中心線Lの傾斜角θが15°である場合を示し、図3(c)は、胴部31の軸方向に対する中心線Lの傾斜角θが25°である場合を示している。トロリ線1は、横巻でありながら架線作業の容易性向上のため、中心線Lの小弧面1b側の端部が大弧面1c側の端部よりも胴部31の外周側となるように、すなわち中心線Lの小弧面1b側の端部が中心線Lの大弧面1c側の端部よりも胴部31の外周面31aから離間するように、中心線Lを胴部31の軸方向に対して傾斜させてドラム3に巻き付けることが望ましい。傾斜角θの望ましい範囲は、図3(a)~(c)に示すように、5°以上25°以下(15±10°)の範囲である。
【0021】
図4は、トロリ線1の製造装置4の構成例を示す概略図である。製造装置4は、荒引線10からトロリ線1を製造して出荷用のドラム3に巻き付けるためのものであり、コイル状に巻かれた荒引線10を繰り出す荒引線繰り出し機40と、第1乃至第5の伸線機51~55と、第1乃至第5の伸線機51~55によって作製されたトロリ線1を一時的に貯線する貯線機6と、貯線機6から繰り出されるトロリ線1をドラム3に巻き取るドラム巻取機7とを備えている。
【0022】
荒引線繰り出し機40は、純銅又は銅合金の溶湯を鋳造及び熱間圧延して作製された荒引線10を回転コイル41から一定の速度で繰り出す。第1乃至第5の伸線機51~55は、それぞれダイス511,521,531,541,551、及びキャプスタン512,522,532,542,552を有しており、ダイス511,521,531,541,551の内径が下流側ほど徐々に小さくなる。
【0023】
荒引線10は、第1乃至第5の伸線機51~55のダイス511,521,531,541,551を順次通過することにより延伸加工され、徐々に外径が小さくなると共に、一対の懸架溝11,12及び一対の摩耗限度溝13,14が形成される。線材である荒引線10が第1乃至第5の伸線機51~55を通過する速度は、荒引線10の伸線に伴って徐々に上昇する。一対の懸架溝11,12は、荒引線10が第3乃至第5の伸線機53~55のダイス531,541,551を通過する過程で形成される。一対の摩耗限度溝13,14は、荒引線10が第5の伸線機55のダイス551を通過する際に形成される。
【0024】
図5(a)は、第5の伸線機55のダイス551の出口側の端面を示す構成図である。図5(b)は、図5(a)のB-B線断面図である。図5(a)では、図面上下方向が鉛直方向の上下にあたる。ダイス551は、懸架溝11,12を形成するための一対の懸架溝用突起551a,551b、及び摩耗限度溝13,14を形成するための一対の摩耗限度溝形成用突起551c,551dを有している。また、ダイス551は、一対の摩耗限度溝形成用突起551c,551dを結ぶ線分Lの垂直二等分線Lの水平方向に対する角度θが5°以上15°以下(10±5°)となるように配置されている。
【0025】
貯線機6は、円柱状の巻取体61を有しており、第1乃至第5の伸線機51~55によって作製されたトロリ線1を全長にわたって巻取体61に巻き取る。ドラム巻取機7は、貯線機6がトロリ線1の終端部を巻き取った後、貯線機6から繰り出されるトロリ線1をドラム3に巻き取る。すなわち、トロリ線1の製造方法は、一対の摩耗限度溝13,14に対応する形状のダイス551に線材を通過させることによってトロリ線1に一対の摩耗限度溝13,14を形成する摩耗限度溝形成工程と、伸線の最終段にあたる第5の伸線機55のダイス551を通過したトロリ線1を始端部から終端部まで貯線機6の巻取体61の外周に巻き取る貯線巻取工程と、トロリ線1を貯線機6から繰り出してドラム3の胴部31の外周に巻き取るドラム巻取工程とを有している。
【0026】
図6は、貯線巻取工程を実行中の製造装置4を上方から見た説明図である。図7は、ドラム巻取工程を実行中の製造装置4を上方から見た説明図である。
【0027】
貯線機6は、巻取体61と、巻取体61を回転させる回転駆動機構62と、巻取体61を回転軸方向に移動させる移動機構63とを備えている。巻取体61は、水平方向の回転軸線Oを中心として回転し、トロリ線1を巻き取る。回転駆動機構62は、巻取体61を回転可能に支持する支持部621と、巻取体61を回転させる回転駆動部622とを有している。回転駆動部622は、例えば速度制御及び位置制御が可能なサーボモータ及び減速機を備えて構成される。図6及び図7では、巻取体61を回転軸線Oに沿った断面で示している。
【0028】
移動機構63は、スライドテーブル631と、スライドテーブル631を回転軸線Oと平行にガイドする一対のガイドレール632と、スライドテーブル631を進退移動させる移動駆動部633とを有している。移動駆動部633は、一例として、ボールねじ633aをサーボモータによって回転させることによってスライドテーブル631を進退移動させる。スライドテーブル631には、回転駆動機構62の支持部621及び回転駆動部622が搭載されており、巻取体61がスライドテーブル631の上方で回転する。
【0029】
貯線巻取工程では、巻取体61を移動機構63によって回転軸線Oに沿った回転軸方向に移動させながら回転駆動機構62によって回転させ、トロリ線1が巻取体61の径方向に重ならないように、巻取体61の外周にトロリ線1を単層巻きする。より具体的には、回転駆動機構62によって巻取体61を1回転させる間に、スライドテーブル631を移動機構63によってトロリ線1の直径以上の移動距離で移動させ、巻取体61にトロリ線1を螺旋状に横巻きする。トロリ線1は、中心線Lの小弧面1b側の端部が大弧面1c側の端部よりも巻取体61の外周側となるように、巻取体61の回転軸線Oに対して中心線Lが傾斜した状態で横巻される。本実施の形態では、上記の摩耗限度溝13,14の形状により、トロリ線1の中心線Lの巻取体61に対する角度が影響を受けにくいようになっている。
【0030】
ドラム3は、胴部31と、胴部31の両端部から径方向外方に張り出した円板状の第1及び第2の鍔板32,33とを有している。図6及び図7では、ドラム3を回転軸線Oに沿った断面で示している。ドラム3の回転軸線Oは、巻取体61の回転軸線Oと平行であり、水平である。
【0031】
ドラム巻取機7は、ドラム3を回転可能に支持する支持部71と、ドラム3を回転させる回転駆動部72とを有している。回転駆動部72は、例えば速度制御及び位置制御が可能なサーボモータ及び減速機を備えて構成される。ドラム巻取工程では、回転駆動部72が回転軸線Oを中心としてドラム3を回転させることにより、貯線機6の巻取体61に巻きつけられたトロリ線1をドラム3に巻き取る。ドラム3は、ドラム巻取工程の完了後にドラム巻取機7から取り外されてトロリ線1と共に出荷される。出荷されたドラム3及びトロリ線1は、延線車両に設置され、トロリ線1がドラム3から引き出されて懸架部材2に取り付けられて架線される。
【0032】
ここで、トロリ線1の中心線Lの傾斜角θがトロリ線1の長手方向の部位によってばらついていると、ドラム3に巻き付けられた状態においてトロリ線1に形成される横巻の線癖が部位によって異なることとなり、架線されたときにこの線癖が解放されるため、鉄道車両のパンタグラフに対するトロリ線の上下の位置がばらつきやすくなる。すなわち、トロリ線1の中心線Lの傾斜角θは、上記の望ましい値(15±10°)の範囲内であることのみならず、トロリ線1の長手方向において統一性を有してドラム3に巻き付けられることが望ましい。
【0033】
ドラム巻取工程では、トロリ線1が胴部31の径方向に重なるように、トロリ線1をドラム3に多層巻きする。図7では、胴部31の外周に9層目のトロリ線1を巻き付けている状態を示している。1層目のトロリ線1は、胴部31の外周面31aに接するように、第1の鍔板32側から第2の鍔板33側に向かって螺旋状に横巻される。2層目のトロリ線1は、1層目のトロリ線1の外周に、第2の鍔板33側から第1の鍔板32側に向かって螺旋状に横巻される。
【0034】
ドラム巻取工程では、巻取体61を移動機構63によって回転軸線Oに沿った回転軸方向に移動させながら、巻取体61を回転駆動部622によって回転させると共にドラム3をドラム巻取機7の回転駆動部72によって回転させる。巻取体61の回転軸方向の位置は、巻取体61とドラム3との間のトロリ線1が回転軸線O及び回転軸線Oに対して垂直となるように調節される。
【0035】
上記のように、第5の伸線機55のダイス551は、一対の摩耗限度溝形成用突起551c,551dを結ぶ線分Lの垂直二等分線Lの水平方向に対する角度θが10±5°であり、巻取体61及びドラム3の回転軸線O,Oは水平方向であるので、ダイス551は、垂直二等分線Lが回転軸線O,Oに対して5°以上15°以下の範囲で傾斜するように配置されている。一方、図3(a)~(c)に示すように、傾斜角θの望ましい範囲は、15±10°の範囲であるので、ダイス551の角度θの角度範囲の中心値と傾斜角θの望ましい範囲の中心値とが5°ずれているが、これはダイス551から導出されたトロリ線1がドラム3に巻き取られるまでの間のトロリ線1の捩じれを考慮したものである。
【0036】
つまり、トロリ線1は、中心線Lに沿った方向における小弧面1b側と大弧面1c側との体積の違いにより、ダイス551から導出されてからドラム3に巻き取られるまでの間に小弧面1b側が上を向くように捩じれやすい。このため、トロリ線1の中心線Lの傾斜角θの角度範囲の中心値とダイス551の角度θの角度範囲の中心値とを異ならせることにより、結果としてトロリ線1を望ましい角度でドラム3に巻き付けることができる。
【0037】
この点についてより具体的には、第5の伸線機55のダイス551を通過した荒引線10がまず第5の伸線機55のキャプスタン552に角度θに対応する角度で傾斜して巻かれ、その後、貯線機6の巻取体61を経てドラム3の胴部31の外周に巻き取られる。このため、トロリ線1は、ドラム3との関係においても、第5の伸線機55のキャプスタン552との関係と同様に適切な角度で横巻される。つまり、第5の伸線機55のダイス551を、垂直二等分線Lが回転軸線O,Oに対して傾斜するように配置することにより、例えばトロリ線1を捩じってドラム3に巻き付けるような作業を行う必要がなく、容易にトロリ線1を望ましい角度でドラム3に巻き付けることができる。
【0038】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、トロリ線1の長手方向に対して垂直な断面における中心線Lのドラム3の回転軸線Oに対する角度が摩耗限度溝13,14の影響を受けにくく、所望の角度でトロリ線1をドラム3に巻き付けやすい。つまり、摩耗限度溝13,14が影響して巻きの統一性が損なわれてしまうことを抑制することができる。ここで、巻きの統一性とは、トロリ線1の長手方向における中心線Lの傾斜角θのバラツキが小さく、実質的に一定の傾斜角θでトロリ線1がドラム3に巻き付けられている状態をいう。つまり、本実施の形態によれば、巻きの統一性を維持してトロリ線1をドラム3に巻き付けやすくなる。
【0039】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0040】
[1]懸架部材(2)によって軌道上に懸架されるトロリ線(1)であって、公称断面積が130mm以上かつ170mm以下であり、懸架部材(2)が係合する一対の懸架溝(11,12)、及び摩耗限度位置を示す一対の摩耗限度溝(13,14)が、長手方向に沿って外周面(1a)から窪むように形成されており、前記一対の摩耗限度溝(13,14)は、溝幅(W)が0.5mmよりも大きく1.5mm以下であり、かつ溝深さ(D)が0.3mmよりも大きく0.6mm以下である、トロリ線(1)。
【0041】
[2]前記一対の摩耗限度溝(13,14)は、長手方向に垂直な断面において溝幅(W)の両端部(131,132)が円弧状に面取りされており、その面取り半径(R,R)が0.2mm以上0.3mm未満である、上記[1]に記載のトロリ線(1)。
【0042】
[3]前記一対の摩耗限度溝(13,14)は、長手方向に垂直な断面において前記両端部(131,132)と溝底部(133)との間が直線状に形成されており、前記溝底部(133)は、円弧半径(R)が0.2mm以上0.3mm未満の断面円弧状である、上記[2]に記載のトロリ線(1)。
【0043】
[4]前記摩耗限度位置(P)は、懸架された状態における上端部(100)から下方に向かって、7mm以上13mm以下の位置である、上記[1]乃至[3]の何れかに記載のトロリ線(1)。
【0044】
[5]上記[1]乃至[3]の何れかに記載のトロリ線(1)の製造方法であって、前記トロリ線(1)の外周面(1a)は、前記一対の懸架溝(11,12)の一方側の小弧面(1b)と他方側の大弧面(1c)とを含み、前記一対の摩耗限度溝(13,14)が前記大弧面(1c)に形成されており、円筒状の胴部(31)を有するドラム(3)の前記胴部(31)の外周に前記トロリ線(1)を巻き取るドラム巻取工程を有し、前記ドラム巻取工程において、前記トロリ線(1)の長手方向に垂直な断面における中心線(L)の前記小弧面(1b)側の端部が前記大弧面(1b)側の端部よりも前記胴部(31)の外周側となるように、前記中心線(L)を前記胴部(31)の軸方向に対して傾斜させて前記トロリ線(1)を巻き取り、前記中心線(L)の前記胴部(31)の軸方向に対する傾斜角が5°以上25°以下の範囲である、トロリ線(1)の製造方法。
【0045】
[6]前記一対の摩耗限度溝(13,14)に対応する形状のダイス(551)に線材(10)を通過させることによって前記トロリ線(1)に前記一対の摩耗限度溝(13,14)を形成する摩耗限度溝形成工程を有し、前記ダイス(551)は、前記一対の摩耗限度溝(13,14)を形成するための一対の突起(551c,551d)を有し、前記一対の突起(551c,551d)を結ぶ線分(L)の垂直二等分線(L)が前記胴部(31)の軸方向に対して5°以上15°以下の範囲で傾斜するように配置されている、上記[5]に記載のトロリ線(1)の製造方法。
【0046】
[7]前記摩耗限度溝形成工程と前記ドラム巻取工程との間に、前記ダイス(551)を通過した前記トロリ線(1)を始端部から終端部まで貯線機(6)の巻取体(61)の外周に巻き取る貯線巻取工程を有し、前記貯線巻取工程において、前記トロリ線(1)を前記巻取体(61)の径方向に重ならないように単層巻きする、上記[6]に記載のトロリ線(1)の製造方法。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0048】
1…トロリ線 11,12…懸架溝
13,14…摩耗限度溝 1a…外周面
131,132…両端部 133…溝底部
1a…外周面 1b…小弧面
1c…大弧面 2…懸架部材
3…ドラム 31…胴部
551…ダイス 551c,551d…一対の突起
6…貯線機 61…巻取体
L…中心線 L…線分
…垂直二等分線 P…摩耗限度位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7