IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本パーカライジング株式会社の特許一覧 ▶ 小林製薬株式会社の特許一覧

特開2023-153668繊維用表面処理剤、繊維の表面処理方法、および表面処理繊維
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153668
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】繊維用表面処理剤、繊維の表面処理方法、および表面処理繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/513 20060101AFI20231011BHJP
   D06M 13/192 20060101ALI20231011BHJP
   D06M 11/65 20060101ALI20231011BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
D06M13/513
D06M13/192
D06M11/65
D06M11/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063067
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】萬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】内田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】川上 玲
(72)【発明者】
【氏名】小山 絵梨奈
(72)【発明者】
【氏名】土屋 弘志
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 慧記
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AB21
4L031AB31
4L031BA04
4L031BA15
4L031DA12
4L033AB01
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA18
4L033BA96
(57)【要約】
【課題】抗菌性および耐久性に優れ、繊維の吸水性に対する影響が少なく、繊維が変質しにくい皮膜を形成可能であり、且つ、高い液安定性を有する繊維用表面処理剤を提供する。
【解決手段】テトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)の加水分解物および/または縮合反応物であるシラン化合物(A)と、銀塩および/または銀錯体(B)と、カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)と、水(E)と、を含み、以下の1)および2)の配合条件を満足するように調製した繊維用表面処理剤。
1)前記銀塩および/または銀錯体(B)に対する前記テトラアルコキシシラン(A1)と前記シランカップリング剤(A2)の合計(A1+A2)のモル比{(A1+A2)/B}が100~500。
2)前記銀塩および/または銀錯体(B)に対する前記有機酸(C)のカルボキシル基のモル比(C/B)が5~25。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)の加水分解物および/または縮合反応物であるシラン化合物(A)と、
銀塩および/または銀錯体(B)と、
カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)と、
水(E)と、を含み、
以下の1)および2)の配合条件を満足するように調製した繊維用表面処理剤。
1)前記銀塩および/または銀錯体(B)に対する前記テトラアルコキシシラン(A1)と前記シランカップリング剤(A2)の合計(A1+A2)のモル比{(A1+A2)/B}が100~500。
2)前記銀塩および/または銀錯体(B)に対する前記有機酸(C)のカルボキシル基のモル比(C/B)が5~25。
【請求項2】
前記シラン化合物(A)として、前記テトラアルコキシシラン(A1)と前記シランカップリング剤(A2)の少なくとも一方の加水分解物であるアルコール(D)を含み、
前記テトラアルコキシシラン(A1)と前記シランカップリング剤(A2)に含まれるすべてのアルコキシ基が加水分解したと仮定した場合に生じるアルコールの前記表面処理剤中でのモル濃度(mol/L)(Dβ)に対する、前記アルコール(D)の実際の前記表面処理剤中でのモル濃度(mol/L)(Dα)の比(Dα/Dβ)が0.05~0.9である請求項1に記載の繊維用表面処理剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の繊維用表面処理剤を繊維の一部または全部と接触させて、皮膜を形成することを含む、繊維の表面処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の表面処理方法により得られる、皮膜を有する表面処理繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維用表面処理剤、当該表面処理剤を用いた繊維の表面処理方法、および、当該表面処理方法により得られる皮膜を有する表面処理繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料に表面処理を施す技術が種々知られている。例えば、国際公開第2010/070728号(特許文献1)では、耐食性、上塗り塗装性などの諸特性を有する金属材料用表面処理剤が記載されている。
当該金属材料用表面処理剤は、珪酸化合物(A)と、オルガノアルコキシシラン(B)と、Zr、Ti、Co、Fe、V、Ce、Mo、Mn、Mg、Al、Ni、Ca、W、Nb、Cr、およびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属化合物(C)と、リン酸化合物およびフッ素化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(D)と、水(E)と、前記オルガノアルコキシシラン(B)の加水分解より生じるアルコール(F)とを含有する。
【0003】
当該文献には、当該金属材料用表面処理剤は、前記アルコール(F)の処理剤中でのモル濃度(mol/L)(CF1)と、前記オルガノアルコキシシラン(B)に含まれるすべてのアルコキシ基が加水分解した場合に生じるアルコールの処理剤中でのモル濃度(mol/L)(CF2)との比(CF1/CF2)が0.05~0.9の範囲に調整されることが記載されている。また、当該文献には金属材料として、建築、電気、自動車等の各種分野で使用される材料が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/070728号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の金属材料用表面処理剤を使用することにより、耐食性、上塗り塗装性などの諸特性を有し、特に、形成された皮膜が金属材料表面との密着性に優れ、金属材料の腐食インヒビターとして働く成分を皮膜中に固定化できることが記載されている。
【0006】
一方で、特許文献1には繊維を表面処理することは記載されておらず、また、それによる効果も考察されていない。繊維は衣料、寝具、カーテン、衛生用品等の日用品に使用されるところ、金属材料に要求される性能とは異なる性能が求められる。例えば、今日では優れた抗菌性を有する繊維に対するニーズが増加している。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は一実施形態において、抗菌性および耐久性に優れ、繊維の吸水性に対する影響が少なく、繊維が変質しにくい皮膜を形成可能であり、且つ、高い液安定性を有する繊維用表面処理剤を提供することを課題とする。本発明は別の一実施形態において、当該表面処理剤を用いた繊維の表面処理方法を提供することを課題とする。本発明は更に別の一実施形態において、当該表面処理方法により得られる皮膜を有する表面処理繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定のシラン化合物と、銀塩および/または銀錯体と、有機酸と、水とを所定の配合条件で配合することが、抗菌性および耐久性に優れ、繊維の吸水性に対する影響が少なく、繊維が変質しにくい皮膜を形成可能であり、且つ、高い液安定性を有する繊維用表面処理剤を得るのに有利であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は例示的に以下のように特定される。
[1]
テトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)の加水分解物および/または縮合反応物であるシラン化合物(A)と、
銀塩および/または銀錯体(B)と、
カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)と、
水(E)と、を含み、
以下の1)および2)の配合条件を満足するように調製した繊維用表面処理剤。
1)前記銀塩および/または銀錯体(B)に対する前記テトラアルコキシシラン(A1)と前記シランカップリング剤(A2)の合計(A1+A2)のモル比{(A1+A2)/B}が100~500。
2)前記銀塩および/または銀錯体(B)に対する前記有機酸(C)のカルボキシル基のモル比(C/B)が5~25。
[2]
前記シラン化合物(A)として、前記テトラアルコキシシラン(A1)と前記シランカップリング剤(A2)の少なくとも一方の加水分解物であるアルコール(D)を含み、
前記テトラアルコキシシラン(A1)と前記シランカップリング剤(A2)に含まれるすべてのアルコキシ基が加水分解したと仮定した場合に生じるアルコールの前記表面処理剤中でのモル濃度(mol/L)(Dβ)に対する、前記アルコール(D)の実際の前記表面処理剤中でのモル濃度(mol/L)(Dα)の比(Dα/Dβ)が0.05~0.9である[1]に記載の繊維用表面処理剤。
[3]
[1]または[2]に記載の繊維用表面処理剤を繊維の一部または全部と接触させて、皮膜を形成することを含む、繊維の表面処理方法。
[4]
[3]に記載の表面処理方法により得られる、皮膜を有する表面処理繊維。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、抗菌性および耐久性に優れ、繊維の吸水性に対する影響が少なく、繊維が変質しにくい皮膜を形成可能であり、且つ、高い液安定性を有する繊維用表面処理剤を提供することができるという格別の効果が得られる。従って、本発明は、例えば衣料、衛生用品等の日用品に使用される各種繊維の抗菌用途に好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、表面処理剤、表面処理方法および表面処理繊維を含む本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、その本発明の趣旨から逸脱しない範囲で任意に変更可能であり、下記の実施形態に限定されない。尚、本明細書にて数値範囲を示す「~」は上限値および下限値も包含する。例えば、「X~Y」はX以上Y以下であることを意味する。
【0012】
<1.表面処理剤>
本発明の一実施形態によれば、
テトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)の加水分解物および/または縮合反応物であるシラン化合物(A)と、
銀塩および/または銀錯体(B)と、
カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)と、
水(E)と、
を含有する繊維用表面処理剤が提供される。
【0013】
[1-1.シラン化合物(A)]
当該表面処理剤は、シラン化合物(A)としてテトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)の両方に由来する加水分解物および/または縮合反応物を含有する。テトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)はそれぞれ一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
テトラアルコキシシラン(A1)は、Si(OR)4(式中、Rはアルキル基を表す。)の一般式で表され、Rは炭素数が1~4のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1~3のアルキル基であることがより好ましく、炭素数が1~2のアルキル基であることが更により好ましい。テトラアルコキシシラン(A1)の具体例としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラノルマルプロポキシシランなどが挙げられ、中でもテトラエトキシシランが好ましい。
【0015】
シランカップリング剤(A2)は、加水分解性基および有機官能基を有する有機ケイ素化合物である。加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、2-メトキシエトキシ基等の炭素数1~4(特に、1または2)のアルコキシ基などが例示できる。有機官能基としては、例えば、ビニル基、エポキシ基(特にグリシドキシ基)、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、酸無水物基などが例示できる。これらの中でも、加水分解性基としてアルコキシ基、有機官能基としてエポキシ基および/またはアミノ基を有するシランカップリング剤が好ましい。有機官能基としては、グリシドキシ基および/またはアミノ基がより好ましい。グリシドキシ基を有するシランカップリング剤とアミノ基を有するシランカップリング剤を併用することが更により好ましい。グリシドキシ基を有するシランカップリング剤とアミノ基を有するシランカップリング剤を併用する場合は、グリシドキシ基を有するシランカップリング剤:アミノ基を有するシランカップリング剤=10:1~1:1のモル比とすることが好ましく、5:1~2:1のモル比とすることがより好ましい。更に、シランカップリング剤(A2)は、アルコキシ基を分子中に3個有し、有機官能基を1個有するトリアルコキシシラン化合物を使用することがより好ましい。
【0016】
シランカップリング剤(A2)の好ましい実施形態の一つとして、一般式(I):(Y)3-Si-L-Xで表される化合物が挙げられる。
【0017】
一般式(I)中、Xは、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、およびイソシアネート基から選択されるいずれかの官能基を表し、エポキシ基またはアミノ基が好ましい。
【0018】
一般式(I)中、Lは、2価の連結基、または単なる結合手を表す。Lで表される連結基としては、例えば、アルキレン基(炭素数1~20が好ましい)、-O-、-S-、アリーレン基、-CO-、-NH-、-SO2-、-COO-、-CONH-、またはこれらを二種以上組み合わせた基が挙げられる。単なる結合手の場合、一般式(I)のXがSi(ケイ素原子)と直接連結することを指す。
【0019】
一般式(I)中、Yは、それぞれ独立に、アルコキシ基を表す。なかでも、炭素数1~3のアルコキシ基が好ましい。
【0020】
シランカップリング剤(A2)の具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、および3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのエポキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、および3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランおよび3-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネートシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシランなどのビニル基含有シランなどが挙げられる。
【0021】
テトラアルコキシシラン(A1)は加水分解すると、式Aで表される反応式に従って、シラノール(Si(OR)4-n(OH)n)およびアルコール(ROH)の加水分解物が生成する。
式A:Si(OR)4+nH2O→Si(OR)4-n(OH)n+nROH(式中、nは1~4の整数)
シランカップリング剤(A2)は加水分解すると、シランカップリング剤が有する加水分解性基に応じた加水分解物が生成する。加水分解性基がアルコキシ基である場合には、シラノールおよびアルコールの加水分解物が生成する。
当該表面処理剤中では加水分解によって生成したシラノールおよび/またはアルコール同士が水素結合している場合があるが、本明細書においてはそのようなものも加水分解物として取り扱う。
【0022】
従って、当該表面処理剤は一実施形態において、シラン化合物(A)として、テトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)の少なくとも一方の加水分解物であるアルコール(D)を含み、典型的には両者の加水分解物であるアルコール(D)を含む。そして、当該表面処理剤は好ましい実施形態において、テトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)に含まれるすべてのアルコキシ基が加水分解したと仮定した場合に生じるアルコールの当該表面処理剤中でのモル濃度(mol/L)(Dβ)に対する、前記アルコール(D)の実際の当該表面処理剤中でのモル濃度(mol/L)(Dα)の比(Dα/Dβ)が0.05~0.9である。Dα/Dβの下限は、より好ましくは0.3以上であり、更により好ましくは0.5以上である。Dα/Dβの上限は、より好ましくは0.85以下であり、更により好ましくは0.8以下である。
【0023】
テトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)に含まれるすべてのアルコキシ基が加水分解したと仮定した場合に生じるアルコールの当該表面処理剤中でのモル濃度(Dβ)は、A1総モル濃度の4倍+(A2の総モル濃度)×(A2の一分子に含まれるアルコキシ基の数)によって計算する。
【0024】
アルコール(D)の当該表面処理剤中でのモル濃度(Dα)の測定は、以下の方法により行う。NMR装置(例:JNM-FCX400:日本電子株式会社製)を用いて、当該表面処理剤中のアルコール(D)に帰属するプロトンの積分値を既知モル濃度のプロトンの積分値と比較することで算出する。定量の方法としては、内部標準法を採用する。
【0025】
また、当該表面処理剤には、加水分解によって生成した一部のシラノールが脱水縮合反応することによって、シロキサン結合(Si-O-Si)を有する縮合反応物(オルガノシロキサン)を含有している場合もある。縮合反応物には、(1)テトラアルコキシシラン(A1)が加水分解することで生成したシラノール同士が脱水縮合反応することによって生じた縮合反応物、(2)シランカップリング剤(A2)が加水分解することで生成したシラノール同士が脱水縮合反応することによって生じた縮合反応物、(3)テトラアルコキシシラン(A1)が加水分解することで生成したシラノールと、シランカップリング剤(A2)が加水分解することで生成したシラノールが脱水縮合反応することによって生じた縮合反応物が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上が組み合わさって重縮合し得る。
【0026】
当該表面処理剤は、液状で提供されるため、固相を形成するほどには脱水縮合は進展させないのが望ましいと考えられるが、ある程度の脱水縮合を起こさせておくことが好ましい。例えば、GPC法による以下の測定方法で当該表面処理剤中の縮合反応物の重量平均分子量を測定したときに、100~5000の範囲であるのが好ましく、150~3000の範囲であるのがより好ましい。
<重量平均分子量の測定方法>
高速GPC装置(HLC-8320GPC:東ソー株式会社製)を用いて測定し、SECカラム及びガードカラムの組み合わせにて重量平均分子量を求める。測定条件は以下とする。
SECカラム:TSKgel SuperAWM-H(東ソー株式会社製)
ガードカラム:TSKgurdcolumn SuperAW-H(東ソー株式会社製)
検出器:RI(HLC-8320GPC内蔵検出器)
標準試料:ポリスチレン
試料注入量:0.06%DMF溶液30μL
流速:0.5mL/min
溶離液:DMF/100mM LiBr/60mM H3PO4
【0027】
[1-2.銀塩および/または銀錯体(B)]
銀塩および/または銀錯体(B)は、抗菌性能を発揮する成分である。銀塩および/または銀錯体(B)としては、例えば、カルボン酸銀、硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀、過塩素酸銀、フッ化銀、塩化銀、塩素酸銀、クロム酸銀、シアン化銀、臭化銀、臭素酸銀、ヨウ化銀、ヨウ素酸銀等が挙げられる。好ましくは、カルボン酸の銀塩または銀錯体である。上記以外の銀塩および/または銀錯体(B)の例には、アミノ酸およびその誘導体、カルボン酸型又はホスホン酸型のキレート剤、チオールのような活性化硫黄、アミン類、窒素含有複素環類、グアニジン、スルホン酸、リン酸などの活性部位を持つ物質と銀との化合物が挙げられる。これらの化合物には、水和物も含まれる。これらは一種単独で使用してもよく、二種以上併用してもよい。
【0028】
[1-3.カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)]
理論によって本発明が限定されることを意図しないが、カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)は、表面処理剤中で銀イオンの安定性を向上する作用があると考えられる。中でも、カルボキシル基を2個以上有するヒドロキシ酸が好ましく、カルボキシル基を偶数個有するヒドロキシ酸がより好ましく、カルボキシル基を2個有するヒドロキシ酸が更により好ましい。有機酸(C)としては、例えば、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、シュウ酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、フマル酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、ポリアクリル酸およびポリマレイン酸等が挙げられ、これらの中ではヒドロキシ酸である酒石酸、リンゴ酸およびクエン酸が好ましく、カルボキシル基を2個有するヒドロキシ酸である酒石酸およびリンゴ酸がより好ましい。有機酸(C)は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
[1-4.水(E)]
当該表面処理剤は溶媒として水を含有する。意図せず混入した物質による影響を避けるという観点から、水としては脱イオン水を用いることが好ましい。水の含有量は、表面処理剤全量に対して、70~99.9質量%が好ましく、95~99.5質量%がより好ましい。
【0030】
[1-5.シラン化合物(A)、銀塩および/または銀錯体(B)、並びに有機酸(C)の配合条件]
当該表面処理剤は、以下の1)および2)の配合条件を満足するように調製することが望ましい。
1)銀塩および/または銀錯体(B)に対するテトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)の合計(A1+A2)のモル比{(A1+A2)/B}が100~500。
2)銀塩および/または銀錯体(B)に対する有機酸(C)のカルボキシル基のモル比(C/B)が5~25。
【0031】
(A1+A2)/Bの下限は、100以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましく、250以上であることが更により好ましい。(A1+A2)/Bの上限は、500以下であることが好ましく、400以下であることがより好ましく、300以下であることが更により好ましい。
【0032】
C/Bの下限は、5以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましく、10以上であることが更により好ましい。C/Bの上限は、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、15以下であることが更により好ましい。
【0033】
また、A1およびA2は、A2に対するA1のモル比(A1/A2)が0.30~3.00となるように配合することが好ましく、0.50~2.00となるように配合することがより好ましく、0.70~1.50となるように配合することが更により好ましい。
【0034】
上記配合条件は、当該表面処理剤を調製するために各成分を配合する時の条件であって、当該表面処理剤に実際に存在する割合とは異なると考えられる。特に、テトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)は当該表面処理剤中で大部分は加水分解しており、更に加水分解物の一部は脱水縮合しているところ、当該表面処理剤における成分を正確に分析することは困難であるため、原料の配合条件によって当該表面処理剤を規定している。
【0035】
当該表面処理剤は、潤滑剤、界面活性剤、顔料、染料、耐食性付与のためのインヒビター、造膜助剤、導電性向上剤、増粘剤、水系樹脂(水溶性樹脂、水分散性樹脂またはエマルジョン型樹脂)等の各種添加剤を必要に応じて含有することができる。但し、これらの各種添加剤の合計質量は、本発明が企図する所望の効果を発揮する観点から、当該表面処理剤を調製するために配合するA1、A2、BおよびCの合計質量に対して20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、例えば、0~5質量%であることが更により好ましい。
【0036】
当該表面処理剤は、水混和性溶媒を含有してもよい。水混和性溶媒としては、水と混合した後、相分離しないものであれば特に限定されるものではない。
【0037】
[1-6.製法]
当該表面処理剤は、例えば、シラン化合物(A)と、銀塩および/または銀錯体(B)と、有機酸(C)と、水(E)と、必要に応じてその他の成分とを、所望の割合で配合し、撹拌することで調製可能である。また、シラン化合物(A)に含まれる縮合反応物の重量平均分子量を好適な範囲に制御する上では、予めテトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)の脱水縮合反応をある程度進行させておくことが好ましい。脱水縮合反応を進行させるためには加熱が有効である。加熱時の液温は60~90℃が好ましく、70~80℃がより好ましい。加熱時間は30~120分が好ましく、60~90分がより好ましい。
【0038】
<2.表面処理方法および表面処理繊維>
本発明の一実施形態によれば、当該表面処理剤を繊維の一部または全部と接触させて、皮膜を形成することを含む、繊維の表面処理方法が提供される。また、本発明の一実施形態によれば、当該表面処理方法により得られる、皮膜を有する表面処理繊維が提供される。当該皮膜は抗菌性および耐久性に優れ、繊維の吸水性に対する影響が少なく、繊維が変質しにくい。このため、当該皮膜を有する表面処理繊維は、衣料、ネクタイ、エプロン、水着、スポーツウェア、手袋、帽子、靴、作業服、事務服、織物、寝具、マットレス、カーテン、衛生用品、壁紙、絨毯、カーペット、床敷物、障子、紙、木材、ソファー、椅子、ハンカチ、タオル、クッション、かばん、フィルター、い草、革、風呂敷、おむつ等の繊維製品に使用される各種繊維として好適に使用可能である。
【0039】
[2-1.繊維]
繊維としては、限定的ではないが、アクリル、レーヨン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド(ナイロン)、ビニロン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、アセテート、キュプラ、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、液晶ポリマー、アラミド、セルロース、羊毛、絹、麻および綿等を紡績して得られる有機繊維が代表的である。また、ガラス繊維、人造鉱物繊維、鉱物繊維、炭素繊維およびセラミックス繊維等の無機繊維も使用可能である。但し、金属繊維は本発明において「繊維」とは取り扱わない。
【0040】
[2-2.表面処理]
当該表面処理剤を繊維の一部または全部と接触させる方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、刷毛塗り等が挙げられる。このときの表面処理剤温度は10~60℃が好ましく、15~50℃がより好ましく、25~40℃が更により好ましい。接触時間は1秒~5分が好ましく、30秒~2分がより好ましい。
【0041】
当該表面処理剤を繊維に接触させた後、当該表面処理剤を乾燥させることで溶媒が気化し、皮膜が形成される。乾燥方法としては、表面処理剤中の溶媒が気化すれば特に制限されない。例示的には、公知の乾燥機器、例えば、オーブン、バッチ式の乾燥炉、連続式の熱風循環式乾燥炉、コンベアー式の熱風乾燥炉、IHヒーターを用いた電磁誘導加熱炉等を用いた乾燥方法等が挙げられる。乾燥温度は40~200℃とすることができ、好ましくは60~150℃であり、より好ましくは80~120℃である。(A1)と(A2)の脱水縮合反応を促進する上では、乾燥温度は100℃以上が最も好ましいが、繊維の耐熱性との兼ね合いで乾燥温度は決定される。乾燥時間は1分~120分とすることができ、好ましくは2分~60分とすることができる。
【0042】
乾燥工程により、当該表面処理剤中のシラン化合物(A)は、脱水縮合反応が進行し、皮膜中のケイ素原子は主にシロキサン結合(Si-O-Si)を有する縮合反応物(オルガノシロキサン)を構成していると考えられ、典型的には、皮膜中のケイ素原子は重縮合によってオルガノポリシロキサンを構成していると考えられる。また、皮膜中のシロキサン結合(Si-O-Si)を有する縮合反応物は銀塩および/または銀錯体(B)と、カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)を安定的に保持する上で重量な役割(バインダー効果)を果たしていると考えられる。
【0043】
[2-3.皮膜の質量]
皮膜を有する表面処理繊維における皮膜の質量(付着量)は、本発明の効果を発揮できる量であれば特に制限されるものではないが、Siの質量で皮膜形成前の繊維1m2当たり1.0~50.0mgの範囲内であることが好ましく、1.5~35mgの範囲内であることがより好ましく、2.0~20.0mgの範囲内であることが特に好ましい。
【実施例0044】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0045】
[1.表面処理剤の調製]
<処理液種S1>
処理液種S1の表面処理剤の調製に用いた原料を示す。
<テトラアルコキシシラン(A1)>
・テトラエトキシシラン(TEOS)
<シランカップリング剤(A2)>
・3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・3-アミノプロピルトリエトキシシラン
<銀塩および/または銀錯体(B)>
銀濃度0.5質量%(4.64mmol/100g)に調整した硝酸銀水溶液を使用した。キレート剤として、キレスト(株)製のHEDP(Hydroxyethylidene Diphosphonic Acid)(商品名:キレスト-PH210)をAgに対して1モル当量、およびPBTC(Phosphonobutane Tricarboxylic Acid)(商品名:キレスト-PH430)をAgに対して2モル当量使用した。
<カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)>
・リンゴ酸
【0046】
75℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を表1に記載の通りに配合し、70分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填し、処理液種S1の各種表面処理剤(実施例1、9~28、31~33、比較例1~8)を得た。なお、表1中のA、B及びCの「mol%」はA(=A1+A2)、B及びCの合計を100mol%としたときの値である。
85℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を表1に記載の通りに配合し、120分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填し、処理液種S1の表面処理剤(実施例29)を得た。
65℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を表1に記載の通りに配合し、30分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填し、処理液種S1の表面処理剤(実施例30)を得た。
90℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を表1に記載の通りに配合し、120分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填し、処理液種S1の表面処理剤(比較例9)を得た。
25℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を表1に記載の通りに配合し、30分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填し、処理液種S1の表面処理剤(比較例10)を得た。
何れの例においても処理液種S1においては、A2は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:3-アミノプロピルトリエトキシシラン=3:1のモル比となるように配合した。表1に記載のA2のモル濃度は両者の合計値である。
また、処理液種S1の表面処理剤中の水の含有量は何れも95質量%とした。
【0047】
<処理液種S2>
処理液種S2の表面処理剤の調製に用いた原料を示す。
<テトラアルコキシシラン(A1)>
・テトラエトキシシラン(TEOS)
<シランカップリング剤(A2)>
・3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
<銀塩および/または銀錯体(B)>
処理液種S1と同じ。
<カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)>
・リンゴ酸
【0048】
75℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を表1に記載の通りに配合し、70分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填し、処理液種S2の表面処理剤(実施例2)を得た。当該表面処理剤中の水の含有量は95質量%とした。
【0049】
<処理液種S3>
処理液種S3の表面処理剤の調製に用いた原料を示す。
<テトラアルコキシシラン(A1)>
・テトラエトキシシラン(TEOS)
<シランカップリング剤(A2)>
・3-アミノプロピルトリエトキシシラン
<銀塩および/または銀錯体(B)>
処理液種S1と同じ。
<カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)>
・リンゴ酸
【0050】
75℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を試験番号に応じて表1に記載の通りに配合し、70分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填し、処理液種S3の表面処理剤(実施例3)を得た。当該表面処理剤中の水の含有量は95質量%とした。
【0051】
<処理液種S4>
処理液種S4の表面処理剤の調製に用いた原料を示す。
<テトラアルコキシシラン(A1)>
・テトラエトキシシラン(TEOS)
<シランカップリング剤(A2)>
・3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン
<銀塩および/または銀錯体(B)>
処理液種S1と同じ。
<カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)>
・リンゴ酸
【0052】
75℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を試験番号に応じて表1に記載の通りに配合し、70分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填し、処理液種S4の表面処理剤(実施例4)を得た。当該表面処理剤中の水の含有量は95質量%とした。
【0053】
<処理液種S5>
処理液種S5の表面処理剤の調製に用いた原料を示す。
<テトラアルコキシシラン(A1)>
・テトラエトキシシラン(TEOS)
<シランカップリング剤(A2)>
・3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・3-アミノプロピルトリエトキシシラン
<銀塩および/または銀錯体(B)>
処理液種S1と同じ。
<カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)>
・酒石酸
【0054】
75℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を試験番号に応じて表1に記載の通りに配合し、70分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填し、処理液種S5の表面処理剤(実施例5)を得た。処理液種S5においては、A2は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:3-アミノプロピルトリエトキシシラン=3:1のモル比となるように配合した。表1に記載のA2のモル濃度は両者の合計値である。当該表面処理剤中の水の含有量は95質量%とした。
【0055】
<処理液種S6>
処理液種S6の表面処理剤の調製に用いた原料を示す。
<テトラアルコキシシラン(A1)>
・テトラエトキシシラン(TEOS)
<シランカップリング剤(A2)>
・3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン
<銀塩および/または銀錯体(B)>
処理液種S1と同じ。
<カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)>
・酒石酸
【0056】
75℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を試験番号に応じて表1に記載の通りに配合し、70分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填し、処理液種S6の表面処理剤(実施例6)を得た。当該表面処理剤中の水の含有量は95質量%とした。
【0057】
<処理液種S7>
処理液種S7の表面処理剤の調製に用いた原料を示す。
<テトラアルコキシシラン(A1)>
・テトラエトキシシラン(TEOS)
<シランカップリング剤(A2)>
・ビニルトリエトキシシラン
・3-アミノプロピルトリエトキシシラン
<銀塩および/または銀錯体(B)>
処理液種S1と同じ。
<カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)>
・酒石酸
【0058】
75℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を試験番号に応じて表1に記載の通りに配合し、70分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填することで、処理液種S7の表面処理剤(実施例7)を得た。処理液種S7においては、A2は、ビニルトリエトキシシラン:3-アミノプロピルトリエトキシシラン=3:1のモル比となるように配合した。表1に記載のA2のモル濃度は両者の合計値である。当該表面処理剤中の水の含有量は95質量%とした。
【0059】
<処理液種S8>
処理液種S8の表面処理剤の調製に用いた原料を示す。
<テトラアルコキシシラン(A1)>
・テトラエトキシシラン(TEOS)
<シランカップリング剤(A2)>
・ビニルトリエトキシシラン
・3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
<銀塩および/または銀錯体(B)>
処理液種S1と同じ。
<カルボキシル基を2個以上有する有機酸(C)>
・酒石酸
【0060】
75℃の脱イオン水中で、上記の各成分(A1、A2、およびC)を試験番号に応じて表1に記載の通りに配合し、70分撹拌した。室温へ冷却後、更に表1に記載の通りにBを添加し溶解させた。揮発した重量減少分を脱イオン水で補填することで、処理液種S8の表面処理剤(実施例8)を得た。処理液種S8においては、A2は、ビニルトリエトキシシラン:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン=3:1のモル比となるように配合した。表1に記載のA2のモル濃度は両者の合計値である。当該表面処理剤中の水の含有量は95質量%とした。
【0061】
<条件1:(A1+A2)/B>
銀塩および/または銀錯体(B)に対するテトラアルコキシシラン(A1)とシランカップリング剤(A2)の合計(A1+A2)のモル比{(A1+A2)/B}を、原料配合条件から算出した。結果を表1に示す。
【0062】
<条件2:C/B>
銀塩および/または銀錯体(B)に対する有機酸(C)のカルボキシル基のモル比(C/B)を、原料配合条件から算出した。結果を表1に示す。
【0063】
<条件3:Dα/Dβ>
上記の方法で調製した各表面処理剤について、アルコールのモル濃度(mol/L)(Dα)をNMR装置(例:JNM-FCX400:日本電子株式会社製)を用いて測定した。これにより、A1およびA2に含まれるすべてのアルコキシ基が加水分解したと仮定した場合に生じるアルコールの表面処理剤中でのモル濃度(mol/L)(Dβ)に対するDαの比(Dα/Dβ)を求めた。結果を表1に示す。
【0064】
<重量平均分子量>
上記の方法で調製した各表面処理剤について、先述したGPC法により重量平均分子量を測定した。結果を表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
[2.繊維の表面処理]
JIS L1930:2014付属書Hに規定されているI型(綿100%織物)およびIII型(ポリエステル100%編み物)の洗濯試験用負荷布を用意した。当該負荷布を、上記の方法で調製した25℃の各表面処理剤に浸して1分経過後に絞り、繊維1gに対して表面処理剤が1g付着している状態に調整した。その後、オーブンに入れ、表2に記載の最高到達乾燥温度で2分乾燥した。これにより皮膜を有する表面処理繊維を得た。尚、表面処理繊維は以下の特性評価に必要な数用意した。以下の評価試験のうち、「繊維の変質」はI型(綿)の負荷布を使用した表面処理繊維とIII型(ポリエステル)の負荷布を使用した表面処理繊維の両方に対して行い、その他の評価試験はI型(綿)の負荷布を使用した表面処理繊維に対してのみ行った。
【0067】
[3.皮膜付着量]
表面処理繊維における皮膜付着量の指標としてSi量を測定した。具体的には、波長分散型蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、型式:ZSX-PrimusIII)を使用し、以下の分析条件で表面処理繊維1m2当たりに付着したSi量(mg)を定量分析した。
管球:Rh
分光結晶:PET
分析径:30mmφ
電圧-電流:50kv 50mA
具体的には、まず、波長分散型蛍光X線分析装置で測定されたSiの強度から検量線法にてSiO2の質量を求めた。検量線は、所定量のSiO2を添加したウレタン樹脂(HYDRAN SP-510 DIC株式会社製)を塗布した塗装板を作製し、塗装板1m2あたりのSiO2付着量を用いて検量線を作成した。求めたSiO2の質量からSiに換算して[SiO2質量×Siの原子量/SiO2の分子量(28.1/60.1)]、Siの質量を算出した。結果を表2に示す。
【0068】
[4.特性評価]
<抗菌性能(洗濯前)>
上記の表面処理方法で得られた各表面処理繊維について、JIS L1902:2015に準拠して、抗菌性能を評価した。具体的には、大腸菌および黄色ブドウ球菌を表面処理繊維にそれぞれ別々に接種し、37℃で18時間培養した。培養後の表面処理繊維をバイアル瓶に入れ、洗い出し液を加えて菌を洗い流し、生菌数を測定した。また、表面処理を行っていない上記負荷布(コントロール)についても、同じ方法で菌の接種、培養および生菌数の測定を行った。表面処理繊維とコントロールを比較することで抗菌活性値を算出した。抗菌性能の評価は以下の基準で行った。結果を表2に示す。
◎:2菌種ともに抗菌活性値が3.0以上
〇:抗菌活性値の低い菌種の抗菌活性値が3.0未満2.0以上
△:抗菌活性値が高い菌種の抗菌活性値が2.0以上であるが抗菌活性値の低い菌種の抗菌活性値が2.0未満
×:2菌種ともに抗菌活性値が2.0未満
【0069】
<抗菌性能(洗濯30回後)>
上記の表面処理方法で得られた各表面処理繊維を、JIS L1930:2014の付属書Fに準拠し、No.C4Gの洗濯方法にて洗濯を30回実施した。また、表面処理を行っていない上記負荷布(コントロール)についても、同じ方法で洗濯を30回実施した。その後、上述した「抗菌性能(洗濯前)」に記載の方法と同じ方法で菌の接種、培養および生菌数の測定を行い、抗菌活性値を算出した。抗菌性能の評価は以下の基準で行った。結果を表2に示す。
◎:2菌種ともに抗菌活性値が3.0以上
〇:抗菌活性値の低い菌種の抗菌活性値が3.0未満2.0以上
△:抗菌活性値が高い菌種の抗菌活性値が2.0以上であるが抗菌活性値の低い菌種の抗菌活性値が2.0未満
×:2菌種ともに抗菌活性値が2.0未満
【0070】
<吸水性>
上記の表面処理方法で得られた各表面処理繊維の吸水性を評価した。JIS L 1907:2010(滴下法)に準拠し、表面処理繊維に水を1滴滴下させ、水滴が吸収されるまでの時間(秒)を測定した。同様の測定を表面処理を行っていない上記負荷布(コントロール)に対しても行った。両者の値を比較し、時間差を以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
◎:コントロールと比較して1秒未満
〇:コントロールと比較して1秒以上2秒未満
△:コントロールと比較して2秒以上3秒未満
×:コントロールと比較して3秒以上
【0071】
<液安定性>
上記の実施例及び比較例に係る各表面処理剤について、脱イオン水の添加量を変えた以外は、同じ調製方法を実施することにより、実施例及び比較例に係る各表面処理剤の50倍濃縮液をそれぞれ作製した。得られた濃縮液をJPボトル(PP広口瓶)に入れて密封し、常温で6カ月暗室で保管した。その後、濃縮液の外観を、JIS K 0101:1998「工業用水試験方法」に準拠して、ホルマジン標準液を用いた透過光濁度と、白金・コバルトによる色度を測定し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
◎:濁度2度以下且つ色度5度以下
〇:濁度2度超且つ色度5度超50度以下
△:濁度2度超100度以下且つ色度5度超50度以下
×:濁度100度超且つ色度50度超
【0072】
<繊維の変質>
上記の表面処理方法で得られた各表面処理繊維に対して以下の条件で耐候性試験を行った。
耐候性試験機:スガ試験機(株)製スーパーキセノンウエザーメーターSX75
光源:キセノンアークランプ7.5kW
照射照度:180W/m2
インナーフィルター:石英
アウターフィルター:#275
ブラックパネル温度(BPT):63℃
試験モード:(照射2時間サイクル中に18分降雨モード)×60サイクル
耐候性試験後の表面処理繊維に対して、目視で外観観察すること及び手触りで繊維の変質を評価した。評価は以下の基準で行った。結果を表2に示す。
◎:耐候試験前後において風合いの変化および変色が認められない。
○:耐候試験前後において風合いに変化はないが変色が確認される。
△:耐候試験前後において変色は確認されないが風合いの変化が確認される。
×:耐候試験前後において風合いの変化および変色が確認される。
【0073】
【表2】