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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153963
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】コンクリート打設方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20231011BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
E04G21/02 103Z
E01D19/12
E04G21/02 101
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128149
(22)【出願日】2023-08-04
(62)【分割の表示】P 2019198898の分割
【原出願日】2019-10-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [提出物名] 報告書「生産性向上とライフサイクルコストの削減に資する膨張材併用軽量床版の研究開発」 [提出場所] 国土交通省国土技術政策総合研究所 [提出日] 平成31年2月28日 [刊行物等] [提出物名] 報告書「道路政策の質の向上に資する技術研究開発」 [提出場所] 国土交通省国土技術政策総合研究所 [提出日] 令和1年7月31日 [刊行物等] [ウェブサイトのアドレス] コンクリート工学年次大会2019(札幌) 講演情報ページ https://confit.atlas.jp/guide/event/jci2019/subject/2120/advanced [公開日] 令和1年6月15日 [刊行物等] [集会名] コンクリート工学年次大会2019(札幌) [開催日] 令和1年7月12日 [刊行物等] [刊行物名] コンクリート工学年次論文集、Vol.41、No.2 [発行日] 令和1年6月 [刊行物等] [ウェブサイトのアドレス] 令和元年度土木学会全国大会 講演情報ページ https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2019/subject/V-507/tables?cryptoId= [掲載日] 令和1年7月12日 [刊行物等] [集会名] 令和元年度土木学会全国大会 [開催日] 令和1年9月5日 [刊行物等] [刊行物名] 令和元年度土木学会全国大会 第74回年次学術講演会 講演概要集 [発行日] 令和1年8月
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国土技術政策総合研究所「生産性向上とライフサイクルコストの削減に資する膨張剤併用軽量床版の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】592090555
【氏名又は名称】パシフィックコンサルタンツ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519390690
【氏名又は名称】株式会社フタバ
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 仁志
(72)【発明者】
【氏名】内海 和仁
(72)【発明者】
【氏名】岸 利治
(72)【発明者】
【氏名】岩城 一郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 祐治
(72)【発明者】
【氏名】前田 拓海
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 数馬
(72)【発明者】
【氏名】岸田 政彦
(57)【要約】
【課題】膨張材併用軽量コンクリート製床版等の製作に適したコンクリート打設方法を提供する。
【解決手段】本発明のコンクリート打設方法は、軽量コンクリートである圧送前のコンクリートについて、ブリーディング試験と加圧ブリーディング試験を行う工程と、ブリーディング試験と加圧ブリーディング試験の試験結果に基づき、コンクリートの圧送性の良否を判定する工程と、コンクリートの圧送性が良と判定された場合に、当該コンクリートを圧送し打設する工程と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量コンクリートである圧送前のコンクリートについて、ブリーディング試験と加圧ブリーディング試験を行う工程と、
ブリーディング試験と加圧ブリーディング試験の試験結果に基づき、コンクリートの圧送性の良否を判定する工程と、
コンクリートの圧送性が良と判定された場合に、当該コンクリートを圧送し打設する工程と、
を有することを特徴とするコンクリート打設方法。
【請求項2】
軽量骨材およびセメントに加えて膨張材が前記コンクリートに含有され、
前記膨張材の量は、前記膨張材の標準混和量の0.75倍以上1.1倍以下であり、
前記コンクリートの水結合材比が、30重量%以上38重量%未満であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート打設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート打設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋脚等により道路構造を支持する道路橋では、道路構造の重量を低減する目的で、軽量骨材を使用した軽量コンクリートによるRC(reinforced concrete:鉄筋コンクリート)床版が用いられることがある。
【0003】
通常、軽量コンクリートは普通コンクリートと比較して引張強度やせん断強度が小さい。RC床版は、上部を走行する車両からの輪荷重の繰り返し作用により押し抜きせん断破壊し、床版の上面と下面の間を斜め方向のひび割れが貫通して終局に至るが、その耐久性はコンクリートの強度に大きく依存し、軽量コンクリート製のRC床版の耐久性は普通コンクリートを使用した場合に比べて劣ると考えられている。
【0004】
これに対し、軽量コンクリートの強度を向上させる技術として、軽量コンクリートに緊張材によるプレストレスを導入したものがある。一方、特許文献1、2のようにコンクリートに膨張材を混入することで、膨張材の膨張に伴うケミカルプレストレスによりコンクリートの引張抵抗力を向上させることもでき、機械的にプレストレスを導入する手間を省くことができる。また特許文献3には、膨張材によりケミカルプレストレスを導入するとともに耐水性も向上させた軽量コンクリート製床版について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-44806号公報
【特許文献2】特許第3658568号
【特許文献3】特許第6082207号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高強度の軽量コンクリート製床版の実用化は、耐久性が高く且つ軽量なRC床版の実現により補修・補強を含む道路構造の生産性向上とライフサイクルコストの削減に資するものである。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、膨張材併用軽量コンクリート製床版等の製作に適したコンクリート打設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための本発明は、軽量コンクリートである圧送前のコンクリートについて、ブリーディング試験と加圧ブリーディング試験を行う工程と、ブリーディング試験と加圧ブリーディング試験の試験結果に基づき、コンクリートの圧送性の良否を判定する工程と、コンクリートの圧送性が良と判定された場合に、当該コンクリートを圧送し打設する工程と、を有することを特徴とするコンクリート打設方法である。
【0009】
また軽量骨材およびセメントに加えて膨張材が前記コンクリートに含有され、前記膨張材の量は、前記膨張材の標準混和量の0.75倍以上1.1倍以下であり、前記コンクリートの水結合材比が、30重量%以上38重量%未満であることが望ましい。
【0010】
これまでの軽量コンクリートは、閉塞等により圧送がうまく行かないことも多く、従来その打設前に試験圧送を行って圧送性を確認していた。これに対し、本発明では上記のようにブリーディング試験と加圧ブリーディング試験の試験結果による圧送性の判定を予め行うことで、試験圧送を省略することも可能になり、工期短縮、施工性向上に寄与する。
【0011】
前記したコンクリート打設方法は、閉塞等により圧送がうまく行かないことのある軽量コンクリートに適したものであるが、それ以外のコンクリートにも適用でき、圧送性の良否を事前に判定することでコンクリートの閉塞等を未然に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、膨張材併用軽量コンクリート製床版等の製作に適したコンクリート打設方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】道路構造3の厚さ方向の断面構成を示す図。
図2】道路構造3を示す図。
図3】コンクリート打設方法を示すフローチャート。
図4】実施例1と比較例1のコンクリートの配合について示す図。
図5】供試体30について示す図。
図6】橋軸直角方向のプレストレスについて示す図。
図7】試験装置10について示す図。
図8】試験結果について示す図。
図9】実施例2-10のコンクリートの配合について示す図。
図10】圧送性の試験について説明する図。
図11】試験結果について示す図。
図12】試験結果について示す図。
図13】実施例11と比較例2-5のコンクリートの配合について示す図。
図14】試験結果について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(1.道路構造3)
図1は、本発明の実施形態に係る床版(膨張材併用軽量コンクリート製床版)31を含む道路構造3を示す図であり、道路構造3の厚さ方向の断面構成を示したものである。
【0016】
図1に示すように、道路構造3は、床版31、舗装層35等を有する。
【0017】
床版31は、膨張材、軽量骨材、セメント等を含有したコンクリートにより形成された膨張材併用軽量コンクリート製床版であり、内部に鉄筋311が埋設される。鉄筋311は床版31の上部と下部に設けられ、平面において直交するように縦横に複数配置される。また床版31はコンクリートの現場打設によって構築される。
【0018】
コンクリートに用いられる膨張材としては、水和により膨張するものであれば特に限定されない。特許文献1、2にも記載があるが、例えば水酸化カルシウムの生成により水和膨張するもの等、JIS A 6202に適合する膨張材を使用することができる。
【0019】
なお、本実施形態では、この膨張材として、標準混和量がコンクリート1m3あたり20kgである膨張材を用い、これを標準混和量の0.75倍以上1.1倍以下、すなわちコンクリート1m3あたり15kg以上22kg以下となるように配合する。これにより、膨張材による適度なケミカルプレストレスを得て後述するように床版31の強度を向上させることができる。なお、膨張材としては標準混和量がコンクリート1m3あたり30kgである標準タイプの膨張材を用いてもよく、この場合も標準混和量の0.75倍以上1.1倍以下となる量を配合すればよい。
【0020】
軽量骨材は、例えば膨張頁岩を原料とした従来知られている人工の軽量骨材を使用できる。軽量骨材としては、例えば事前吸水させたものを用いることもでき、含水率を0重量%を超える5重量%以下の値とした低含水型の軽量骨材を使用することもできる。特に後者の場合、細骨材と粗骨材の双方に低含水型のものを用いることで、凍結融解に対する抵抗性(耐凍害性)を大きく向上させることができるが、詳細については後述の実施例により説明する。
【0021】
セメントも特に限定されることなく、公知の様々なポルトランドセメントを用いることができる。また、減水剤や空気量調整剤など、各種の混和剤を含ませることも可能である。
【0022】
ここで、コンクリート調製時の単位水量は、床版31の強度すなわち耐久性確保の観点から、コンクリート1m3あたり165kg以上175kg以下と現場打ちとしては比較的少ない量とし、水結合材比は、30重量%以上38重量%未満とすることが望ましい。なお、結合材はセメントと膨張材を指すものとし、結合材の重量は、これらセメントと膨張材の重量を合わせたものである。
【0023】
水結合材比を38重量%未満とすることで、より高い強度を有する床版31を得ることができる。また水結合材比が30重量%以上あれば現場打ちコンクリートによる床版31に必要な施工性の確保が可能になる。
【0024】
舗装層35は車両等が走行する路面を構成する。舗装層35は従来知られたものとでき、例えばアスファルト等により形成できる。床版31と舗装層35の間に防水層を設けることも可能である。
【0025】
本実施形態の道路構造3は、例えば図2(a)に示すように橋脚1a上に配置することができ、道路構造3の軽量化により下部構造の軽量化も可能になり、全体的に橋梁が軽量化でき製作・施工コストが低減され耐震性も向上する。その他、道路構造3は図2(b)に示すようにボックスカルバート1b上に配置することもでき、図2(c)に示すようにシールドトンネル1c内で配置される場合もある。その他、種々の道路に適用することができる。また、床版31は新設の道路に適用するだけでなく、既設の床版の打ち替えにも使用できる。
【0026】
(2.コンクリート打設方法)
図3は、床版31の構築時のコンクリート打設方法について示すフローチャートである。
【0027】
本実施形態では、コンクリートの打設時に、圧送前のコンクリートについてブリーディング試験と加圧ブリーディング試験を行い(S1)、それらの試験結果に基づき圧送性の良否の判定を行う(S2)。ブリーディング試験と加圧ブリーディング試験、および試験結果に基づく圧送性の良否の判定に関しては後述の実施例により説明する。
【0028】
圧送性が良と判定される場合(S3;良)、そのコンクリートを圧送、打設する(S4)。一方、圧送性が否と判定される場合(S3;否)、配合や練り混ぜ方法等を変更した別のコンクリートについて、再度S1~S3を繰り返す。
【0029】
以上の手順により、床版31のコンクリートが現場打設される。これまでの軽量コンクリートは、閉塞等により圧送がうまく行かないことが多く、従来その打設前に試験圧送を行って圧送性を確認していた。これに対し、本実施形態では上記のようにブリーディング試験と加圧ブリーディング試験の試験結果による圧送性の判定を予め行うことで、試験圧送を省略することも可能になり、工期短縮、施工性向上に寄与する。
【0030】
なお、前記したように細骨材と粗骨材の双方に低含水型のものを用いる場合、圧送による打設が困難になる可能性もあるが、その場合はバケットなど圧送以外の方法により打設を行うことで施工は十分可能である。
【実施例0031】
以下、実施例を挙げて本実施形態の床版の効果について説明する。ただし、本発明がこれに限られることはない。
【0032】
[耐久性]
本実施形態の床版31は、前記したように軽量骨材およびセメントに加えて膨張材をコンクリートに含有し、且つその量は標準混和量(コンクリートの収縮補填量)程度としている。そこでまず、係る床版について輪荷重走行試験を行い、その耐久性について検討を行った結果を実施例1として以下説明する。
【0033】
(実施例1と比較例1)
水、セメント、膨張材、骨材(細骨材および粗骨材)、および混和剤であるAE減水剤、AE剤として以下の材料を使用し、これらを図4に示す配合により混合して実施例1、比較例1のコンクリートを調製した。なお、図4に示すAE減水剤、AE剤の量は結合材の重量に対する重量比(重量%)であり、膨張材は標準混和量がコンクリート1m3あたり20kgのものである。また、比較例1は膨張材を使用しない例であり、実施例1の膨張材分をセメントで置き換えたものである。
【0034】
水;水道水
セメント;普通ポルトランドセメント 太平洋セメント株式会社製
膨張材;デンカパワーCSA デンカ株式会社製
細骨材;人工軽量骨材 メサライト細骨材 日本メサライト工業株式会社製
粗骨材;人工軽量骨材 メサライト粗骨材 日本メサライト工業株式会社製
AE減水剤;AE減水剤標準型(I種) ヤマソー09NL-P 山宋化学株式社製
AE剤;AE剤(I種) マスターエア202 BASFジャパン株式会社製
【0035】
(輪荷重走行試験)
図4の配合により調製したコンクリートを用いて床版である供試体を作成し、輪荷重走行試験を行った。
【0036】
図5はこの供試体30の平面を示す図である。図5に示すように、供試体30は矩形平面を有する平板体であり、その寸法は縦2,800mm×横4,500mm×厚さ250mmである。供試体30の内部には、格子状の鉄筋301が上下2段に配置されており、図の上半分に上段の鉄筋301の配置を、図の下半分に下段の鉄筋301の配置を示した。
【0037】
また実施例1については、橋軸直角方向で0.5N/mm2以上1.2N/mm2以下の適度なケミカルプレストレスが導入されるよう配合を行っている。図6は、実施例1の供試体30について、橋軸直角方向のケミカルプレストレスの値を材齢を横軸にとって示したものであり、材齢28日までで0.68N/mm2程度以上のケミカルプレストレスが導入されていることがわかる。なお、橋軸直角方向は図5の縦方向に対応し、図5の横方向は橋軸方向に対応する。
【0038】
ここで、橋軸直角方向のケミカルプレストレスの値σcpは、橋軸直角方向の鉄筋301に取付けたひずみゲージの計測値を用い、以下の式(1)によって得ることができる。式(1)のεは上下段の橋軸直角方向の鉄筋301のひずみ計測値の平均であり、Esは当該鉄筋301のヤング係数である。またpは拘束鉄筋比であり、供試体30の橋軸方向の鉛直面の断面積Aに対する橋軸直角方向の鉄筋301の径方向断面の総和Aの割合(=A/A)である。
σcp=ε・Es・p…(1)
【0039】
輪荷重走行試験は、図7(a)に示す試験装置10を用いて行った。この試験装置10は、門型のフレーム11の上辺から支持したレール12に負荷部13を設け、この負荷部13から供試体30に輪荷重を付加するものである。
【0040】
負荷部13にはクランクロッド14の一端が取付けられ、クランクロッド14の他端はフライホイール15に取付けられる。このフライホイール15が回転することにより、負荷部13がレール12に沿って図の矢印Aに示すように往復する。
【0041】
供試体30は架台16上に設けられた支持部17、18により支持される。図7(b)は供試体30の平面における支持部17、18の配置を示す図である。供試体30は、長辺のそれぞれに沿った支持部17、17によって単純支持され、短辺のそれぞれに沿った支持部18、18によって弾性支持される。
【0042】
負荷部13の下端には車輪が設けられる。この車輪は負荷部13の往復移動に伴い供試体30上を往復移動する。負荷部13は、この車輪により供試体30に輪荷重を負荷するようになっている。
【0043】
輪荷重は載荷板19を介して供試体30に載荷される。図7(b)の鎖線Cは載荷板19上の車輪の移動範囲を示し、ここでは供試体30の中央部の縦500mm×横3000mmの範囲に設定した。
【0044】
試験装置10を用いて実施例1の供試体30と比較例1の供試体30に対し行った輪荷重走行試験の結果を図8に示す。また図8では、参考例として膨張材を標準混和量の1.5倍配合した軽量コンクリート製床版(床版A)、および膨張材を使用しない普通コンクリート製床版(床版B)について同様の輪荷重走行試験を行った結果も示している。後者の試験結果は、国土技術政策総合研究所「道路橋床版の疲労耐久性に関する試験」国総研資料第28号,2002.3で示された普通コンクリート製床版RC8n-2の試験結果を後述する等価走行回数に換算したものである。
【0045】
輪荷重走行試験では、走行時の輪荷重について、比較例1では走行開始時の初期荷重を157kN(16tf)とし、走行回数40,000回ごとに19.6kN(2tf)ずつ荷重を増加させた。実施例1では、走行回数320,000回までは比較例1と同様に荷重を増加させ、320,000回以降は314kNの一定荷重で載荷を行った。なお、走行回数は、試験装置10の負荷部13の車輪が移動範囲の一端から他端まで移動した場合を1回として数えている。
【0046】
図8は横軸を等価走行回数(回)とし、縦軸を供試体30中央のたわみ量(mm)としたグラフである。等価走行回数は実走行回数を輪荷重157kNの一定載荷条件での走行回数に換算した結果であり、以下の算出式(2)によって等価走行回数Neqが算出できる。式(2)において、Pi(kN)は実際に載荷した荷重であり、Ni(回)は荷重Piでの走行回数である。mは等価換算のための係数であり、ここでは12.76を用いている。
Neq=Σ(Pi/157)m×Ni…(2)
【0047】
図8に示すように、実施例1の供試体30では、等価走行回数約1.00×109万回走行時でひび割れが床版の上面から下面まで斜めに貫通し、押し抜きせん断破壊に至った。一方、膨張材を使用しない比較例1の供試体30では等価走行回数約2.17×108万回走行時に押し抜きせん断破壊に至った。
【0048】
このように、実施例1の供試体30は比較例1の供試体30に対して4倍以上の耐久性を有しており、膨張材を用いた軽量コンクリート床版が、十分な耐久性を有していることが確認できた。また、実施例1と床版Aの比較では、実施例1と床版Aの耐久性が同等あるいは実施例1の耐久性が若干低いが、実施例1と床版Bの比較では耐久性に大きな違いが無く、耐久性の面に関しては膨張材を標準混和量程度に抑えても普通コンクリート製床版と同等の性能が得られることもわかった。
【0049】
[圧送性]
本実施形態の床版31で用いる軽量コンクリートの単位水量(165~175kg/m3)は現場打ちとしては比較的少なく、その圧送性を確認し確実に施工する技術を構築することは重要である。そこで、圧送性の確認を目的として、ポンプ圧送試験を実施した。
【0050】
ここで、軽量コンクリートの圧送性を低下させる原因は、内部が水に接触していないセメント粒子の強凝集体の存在によるものと考えられる(岸田政彦他,膨張材併用軽量コンクリートの圧送性に関する検討,セメント・コンクリート論文集,69巻1号,pp.279-286(2015))。そこで、軽量コンクリートの圧送性へのこれらの影響を検討するため、加圧ブリーディング試験とブリーディング試験を併せて行った。
【0051】
(実施例2~10)
水、セメント、膨張材、骨材(細骨材および粗骨材)、および混和剤であるAE減水剤、高性能AE減水剤、AE剤として以下の材料を使用し、これらを図9に示す配合により混合して実施例2~10のコンクリートを調製した。なお図9に示すAE減水剤、高性能AE減水剤、AE剤の量は結合材の重量に対する重量比(重量%)である。また膨張材は標準混和量が1m3あたり20kgのものであり、各実施例2~10の水結合材比は37%程度である。各実施例2~10は目標スランプ値を18±2.5cm、目標空気量を普通コンクリートと同等の4.5±1.5%として配合を行った。
【0052】
水;水道水
セメント;普通ポルトランドセメント 太平洋セメント株式会社製
膨張材HEx;ハイパーエクスパン 太平洋マテリアル株式会社製
膨張材PC;デンカパワーCSA タイプS デンカ株式会社製
細骨材;人工軽量骨材 メサライト細骨材 日本メサライト工業株式会社製
粗骨材;人工軽量骨材 メサライト粗骨材 日本メサライト工業株式会社製
AE減水剤AD;フローリックSV10 株式会社フローリック製
AE減水剤AD;ヤマソー09NLR-P 山宋化学株式社製
高性能AE減水剤SP;フローリックSF500S 株式会社フローリック製
AE剤AE;マスターエア101 BASFジャパン株式会社製
AE剤AE;マスターエア202 BASFジャパン株式会社製
【0053】
(ポンプ圧送試験)
ポンプ圧送試験は、年間を通して圧送可能な軽量コンクリートの実現のため、夏季と冬季に実施した。実施例2、3および実施例7-10については冬季にポンプ圧送試験を実施し、実施例4-6については夏季にポンプ圧送試験を実施した。
【0054】
本試験では、図10に示すようにミキサー車21のコンクリートをポンプ車22を介して圧送するものとし、ポンプ車22のブーム221の先端に配管23、テーパ管24、フレキシブルホース25を図のように取り付けた。ブーム221、配管23、テーパ管24、フレキシブルホース25を合わせた水平換算距離は約150mとなっている。
【0055】
(ブリーディング試験と加圧ブリーディング試験)
コンクリート圧送前には、軽量コンクリートの圧送性についての検討を行うため、ブリーディング試験と加圧ブリーディング試験を実施した。
【0056】
ブリーディング試験は、JIS A 1123法(コンクリートのブリーディング試験方法)により行った。JIS A
1123法は、容器内に打ち込んだ試料について、上面に浸み出した水を所定の時間間隔で吸い取るものであり、試料中の水の質量に対する上記吸い取った水の合計質量の百分率をブリーディング率として算出する。ブリーディング率が大きい場合、コンクリートの練り混ぜによるセメント粒子の強凝集体の分散が進んでおらず、水とセメント粒子の強凝集体が分離していると考えられる。
【0057】
加圧ブリーディング試験は、土木学会「コンクリート標準示方書[基準編]」のJSCE-F502法(加圧ブリーディング試験方法)により行った。JSCE-F502法は、容器内に打ち込んだ試料を上面から加圧しながら、容器下部からの脱水量を測定するものであり、最終的な脱水量の合計を最終脱水量(ml)として測定し、試料中の水の質量に対する最終脱水量(質量)の百分率を最終脱水率(%)として算出する。加圧ブリーディング試験では加圧環境下でブリーディングを進行させるので、一般的に試料中の単位水量が大きい場合に最終脱水量が大きくなる。しかし、強固且つ大きな強凝集体が残存していると、圧密が進まずに最終脱水量が小さくなることもある。
【0058】
以上の試験について、図11にその結果を示す。圧送試験の結果について見ると、実施例3のみ圧送不可(記号×で示す)であったが、その他の実施例2、4-10では圧送結果が良好(記号○で示す)であり、本実施形態の床版31に係る軽量コンクリートは、現場打ちとして一般的に少ないと考えられている単位水量(165~175kg/m3)であっても十分な圧送性を確保することが可能であり、夏季冬季問題なく圧送できることが確認された。
【0059】
ここで、圧送結果が否である実施例3の加圧ブリーディング試験結果を見ると、最終脱水量がほかの実施例に比べて小さいことがわかる。そこで、ブリーディング試験と加圧ブリーディング試験の試験結果に着目して圧送性との関係を検討するため、ブリーディング率を横軸、最終脱水率を縦軸にして、図12に示すように圧送試験の結果をプロットした。
【0060】
図12のカッコ内に示すデータ点は、参考例として挙げる圧送性等の試験結果であり、前記した岸田らの文献で示されたものである。当該文献では、本実施形態の床版31に係る軽量コンクリートとは異なり、膨張材を標準混和量の1.5倍配合したコンクリートを用いているが、圧送性等の試験方法については上記と同様である。
【0061】
図12を見ると、ブリーディング率の値が小さく、最終脱水率が比較的大きな値となる場合、圧送性が良好となっていることがわかる。これは、このような値の組み合わせが、圧送性を確保するのに十分な水がコンクリート中にあり、且つコンクリートが十分に練り混ぜられた状況を表しているためと考えられる。従って、コンクリート圧送前にブリーディング試験と加圧ブリーディング試験を行うことで、軽量コンクリートの圧送性の良否が判定できると考えられる。
【0062】
図12の点線は、yを最終脱水率、xをブリーディング率とした圧送性の判定式y=ax+bの例であり、係数a、bは上記のような試験を予め行い、試験結果を蓄積することで得られる値である。例えばコンクリート圧送前にブリーディング試験と加圧ブリーディング試験を行い、最終脱水率y、ブリーディング率xの間に下式(3)の関係が成立すれば、コンクリート圧送性が良好であると判定できる。
y≧ax+b…(3)
【0063】
[耐凍害性]
軽量骨材として事前吸水させたものを用いる場合、軽量骨材内部の空隙が水で満たされた状態でコンクリートが製作される。ただしこの場合では、コンクリートの硬化後も軽量骨材内部に液相の水が存在するため、コンクリートが凍結融解作用を受けると軽量骨材内部から劣化が進行していく恐れがある。これに対し、前記したように低含水型の軽量骨材を使用することで凍結融解抵抗性(耐凍害性)を向上させることができるので、凍結融解試験を行い耐凍害性について検討を行った結果を実施例11として以下説明する。
【0064】
(実施例11および比較例2~5)
水、セメント、膨張材、骨材(細骨材A、Bおよび粗骨材A、B)、中空微小球、および混和剤である高性能AE減水剤、AE剤として以下の材料を使用し、これらを図13に示す配合により混合して実施例11および比較例2~5のコンクリートを調製した。なお図13に示す高性能AE減水剤、AE剤の量は結合材の重量に対する重量比(重量%)であり、膨張材は標準混和量がコンクリート1m3あたり20kgのものである。また、比較例2~5は本実施形態の床版31とは異なり膨張材を使用しない例である。
【0065】
水;水道水
セメント;普通ポルトランドセメント デンカ株式会社製
膨張材;エトリンガイト・石灰複合系膨張材(20型) デンカ株式会社製
細骨材A;人工軽量骨材 メサライト細骨材(プレソーキング(事前吸水)品) 日本メサライト工業株式会社製
細骨材B;人工軽量骨材 メサライト細骨材(低含水品) 日本メサライト工業株式会社製
粗骨材A;人工軽量骨材 メサライト粗骨材(プレソーキング(事前吸水)品) 日本メサライト工業株式会社製
粗骨材B;人工軽量骨材 メサライト粗骨材(低含水品) 日本メサライト工業株式会社製
中空微小球;KINDエア デンカ株式会社製
高性能AE減水剤;スーパー100pHX GCPアプライドテクノロジーズ社製
AE剤;マスターエア303A BASFジャパン株式会社製
【0066】
ここで、実施例11のコンクリートは低含水状態の粗骨材Bを使用することで耐凍害性を向上させることを目的としており、比較例3のコンクリートは外割りで中空微小球を混和することで、軽量骨材自体が包含する空気量相当分を中空微小球にて補い、コンクリート自体の耐凍害性を向上させることを想定している。中空微小球の平均粒径は80μmであり、みかけ密度は0.13g/cm3である。
【0067】
これら実施例11および比較例2~5のコンクリートのそれぞれを用いて、凍結融解試験に用いる供試体を作製した。供試体は縦100mm×横100mm×高さ400mmの角柱状である。
【0068】
(凍結融解試験)
凍結融解試験は、JIS A 1148 A法(水中凍結融解試験方法)により行った。JIS A 1148 A法では、全面が水に覆われるように容器内に配置した供試体に対し、凍結融解のサイクルを繰り返し、所定のサイクル時点でJIS A 1127 によるたわみ振動の一次共鳴振動数を測定する。
【0069】
一次共鳴振動数は相対動弾性係数の算出に用い、本試験では相対動弾性係数の変化により凍結融解抵抗性を評価した。試験の終了時期は、JIS A 1148に準じて300サイクル終了まで、もしくは、相対動弾性係数が60%以下になった時のサイクルとした。
【0070】
図14は試験結果を示す図である。細骨材、粗骨材ともに事前吸水品を用いた比較例2では60サイクルで相対動弾性係数が60%を下回る結果となったが、膨張材に加え、低含水状態の粗骨材(粗骨材B)を使用した実施例11では凍結融解抵抗性について若干の改善効果が見られ、これは中空微小球を用いた比較例3と同程度の改善効果であった。
【0071】
一方、細骨材と粗骨材の双方に低含水状態のもの(細骨材B、粗骨材B)を用いた比較例5では300サイクル終了時点においても相対動弾性係数が60%以上を保持しており、粗骨材のみに低含水状態のもの(粗骨材B)を用いた比較例4に比べて凍結融解抵抗性が高い。これは粗骨材だけでなく細骨材も低含水とすることで、軽量骨材中に水分が残存せず、凍結融解抵抗性が大きく改善されるためと考えられる。
【0072】
この関係は膨張材を混和した実施例11においても成立すると考えられ、細骨材と粗骨材の双方に低含水状態のものを用いることで、凍結融解抵抗性が大きく向上することが推定される。ただし、前記したように細骨材と粗骨材の双方に低含水状態のものを用いると圧送による打設が困難になる可能性があり、その場合はバケットなど圧送以外の方法により打設を行うことが望ましい。
【0073】
以上説明したように、本実施形態では、コンクリートの配合を前記のように設定することで、十分な強度すなわち耐久性が得られ且つ軽量なコンクリート床版を提供することができる。特に本実施形態の床版31に係る軽量コンクリートは、膨張材の量を標準混和量程度としても十分な耐久性が得られるので、膨張材自体の量が少なくなり、混和剤として高性能AE減水剤等の高性能のものを用いることも特に必要で無く或いは少量で済み、低コストとなる。
【0074】
また、本実施形態の床版31に係る軽量コンクリートは、前記のような比較的小さい単位水量であっても十分な施工性を確保することが可能であり、床版31の耐久性向上と高い施工性を実現でき、現場汎用性が高く誰でも施工可能である。また十分な施工性の確保が可能なことから、コンクリートの現場打設により床版31を構築する際にも問題なく用いることができる。
【0075】
また本実施形態では、コンクリート打設時に、ブリーディング試験と加圧ブリーディング試験の試験結果による圧送性の判定を予め行うことで、試験圧送を省略することも可能になり、工期短縮、施工性向上に寄与する。このようなコンクリート打設方法は閉塞等により圧送がうまく行かないことのある軽量コンクリートに適したものであるが、それ以外のコンクリートにも適用でき、圧送性の良否を事前に判定することで、コンクリートの閉塞等を未然に防ぐことができる。
【0076】
また、軽量骨材として、低含水型の細骨材および粗骨材を用いることで、床版31の耐凍害性を大きく向上させることができ、寒冷地での使用も可能になる。
【0077】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0078】
3:道路構造
31:床版
35:舗装層
311:鉄筋
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