(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153982
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】抗プレキシンA1アゴニスト抗体
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20231011BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231011BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
C12P21/08 ZNA
C07K16/28
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128977
(22)【出願日】2023-08-08
(62)【分割の表示】P 2021092624の分割
【原出願日】2016-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2015132067
(32)【優先日】2015-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.トライトン
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】熊ノ郷 淳
(72)【発明者】
【氏名】大宮 隆祐
(72)【発明者】
【氏名】角田 浩行
(72)【発明者】
【氏名】馬場 威
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥代
(72)【発明者】
【氏名】寺西 佑理
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗プレキシンA1アゴニスト抗体を製造する方法を提供する。
【解決手段】特定配列の特定残基からなるペプチドを抗原として用いて抗プレキシンA1アゴニスト抗体を製造する方法であり、前記抗原で感作されたリンパ球から抗体をコードするDNAをクローニングして組換え型抗体を産生することを含み、前記抗原に結合する抗体を抗体ライブラリーから取得することを含む、前記方法である。抗プレキシンA1アゴニスト抗体が、3型セマフォリン様の活性を有し、3型セマフォリン様の活性が、樹状細胞の退縮又はグリオーマ細胞の退縮を促進させる活性である、前記方法である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3の残基461~514からなるペプチド、又は配列番号52の残基459~512からなるペプチドを抗原として用いて抗プレキシンA1アゴニスト抗体を製造する方法。
【請求項2】
前記抗原で感作されたリンパ球から抗体をコードするDNAをクローニングして組換え型抗体を産生することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記抗原に結合する抗体を抗体ライブラリーから取得することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
抗プレキシンA1アゴニスト抗体が、3型セマフォリン様の活性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
3型セマフォリン様の活性が、セマフォリン3A様の活性である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
3型セマフォリン様の活性が、樹状細胞の退縮又はグリオーマ細胞の退縮を促進させる活性である、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
抗プレキシンA1アゴニスト抗体が、ヒトプレキシンA1及びマウスプレキシンA1に交叉する、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
抗プレキシンA1アゴニスト抗体が、モノクローナル抗体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
抗プレキシンA1アゴニスト抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
抗プレキシンA1アゴニスト抗体が、Fab、scFv,F(ab’)2、一本鎖抗体、又は二重特異性抗体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗プレキシンA1アゴニスト抗体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
セマフォリンは1990年代初頭に神経成長円錐に対する反発分子として発見された(非特
許文献1、2)。セマフォリンは、現在までに20種類を超えるメンバーが同定されており
、Semaドメインと呼ばれる500程度のアミノ酸からなる領域をファミリーで共有し保存し
ていることを特徴としている。Semaドメインに続くC末端側の構造の違いから8つのサブク
ラス(Sema1~7、V) に分類されている。
【0003】
セマフォリンの活性を担う受容体として、主にプレキシン(プレキシンA1/A2/A3/A4、プ
レキシンB1/B2/B3、プレキシンC1、プレキシンD1)、ニューロピリン(Nrp-1、Nrp-2)が知
られている。セマフォリンは、その他にもインテグリン、CD72、Tim-2と結合することが
知られている(非特許文献3)。また、セマフォリン受容体であるプレキシンがVEGFR-2、c
-Met、Trem2/DAP12などの種々の共受容体と会合することが知られており、セマフォリン
の有する多彩な機能を反映してか、複雑なリガンド-受容体関係を構築する。実際、セマ
フォリンの生物活性は、血管・脈管形成、癌の転移・浸潤、骨代謝調節、網膜恒常性維持
、免疫調節など多彩であり、アレルギー疾患や自己免疫疾患、骨代謝疾患、神経変性疾患
、網膜色素変性症、心臓の突然死、癌の転移・浸潤などの種々の疾患へのセマフォリンの
関与がここ数年相次いで報告されている(非特許文献3)。セマフォリンの生物活性に関連
して、ヒトの病気の診断・治療法開発を目指した研究が現在精力的に行われている。
【0004】
プレキシンA1は、クラスIIIおよびクラスVIセマフォリンの受容体である。プレキシンA
1は、ニワトリの心臓形態発生時にはVEGF受容体やOff-Trackと共に受容体を形成するほか
、Nrp-1と共にクラスIIIセマフォリンの受容体を形成し神経反発因子の受容体として作用
することが報告されている。さらに、プレキシンA1は、クラスVIセマフォリンであるSema
6C及びSema6Dの受容体としても作用し軸索誘導や心臓器官形成に関与することも報告され
ている。
【0005】
マウス樹状細胞などにおいて、shRNAによってプレキシンA1の発現を抑制することによ
って、in vivo又はin vitroにおいて非自己に対するT細胞免疫が減弱されることが報告さ
れた(非特許文献4)。また、樹状細胞や破骨細胞におけるプレキシンA1シグナル解析から
、これらの細胞においてプレキシンA1はTrem-2及びDAP-12とヘテロ受容体を形成している
ことが確認された。さらに、組換可溶型Sema6Dタンパク質の刺激によって樹状細胞からIL
-12等の炎症性サイトカインの発現や、前駆細胞からの破骨細胞分化が促進されること、S
ema6Dが野生型の樹状細胞に結合する一方で、プレキシンA1欠損マウスの樹状細胞にはほ
とんど結合できないことが示された。プレキシンA1欠損マウスでは、T細胞免疫反応が著
しく減弱し、破骨細胞分化に異常が起こるため大理石骨病様の症状を自然発症することが
報告された(非特許文献5)。マウス樹状細胞を用いたshRNAによるプレキシンA1阻害によ
り、プレキシンA1がシグナル伝達因子Rhoの活性化を介して樹状細胞とT細胞の免疫シナプ
スへのアクチン骨格の局在を制御していることが示された(非特許文献6)。
【0006】
さらに、プレキシンA1が、樹状細胞のリンパ節への移行および抗原特異的T細胞応答に
関与していることが報告されている。さらに、Sema6CまたはSema6DではなくSema3Aの発現
が、リンパ管内皮細胞を通過する際の樹状細胞移動に必要であり、この際、Sema3Aはミオ
シン-II活性を刺激して、アクトミオシン収縮を誘導することが報告されている(特許文献
1)。
【0007】
また、最近、プレキシンAファミリーに属する他の分子であるプレキシンA2に関して「S
ema3A-プレキシンA2-Nrp-1」の3者複合体の低分解能(7. 0 A)構造が開示された。Sema3
AとプレキシンA2の間の結合は検出できないほど弱いが、Nrp-1が存在すると、Sema3Aの生
物活性発現には程遠い弱いものではあるが、Sema3AとプレキシンA2の相互作用が検出され
たことが報告されている(非特許文献7)。しかしながら、この構造は非常に低い分解能で
あること、全長ではなく部分長のタンパク質を用いていることなどから、本複合体の解明
にはさらに詳細な検討が必要である。一方、非特許文献8は、上記非特許文献7を引用し
「Sema3A-プレキシンA1-Nrp-1」の3者複合体の構造を紹介している。しかし、非特許文
献7には、「Sema3A-プレキシンA1-Nrp-1」の3者複合体の構造は開示されていない。
【0008】
Sema3Aは乾癬およびアトピー性皮膚炎の掻痒、アレルギー性鼻炎、骨粗鬆症、関節リウ
マチや全身性エリテマトーデスを含む自己免疫疾患、炎症性疾患、および腫瘍などをはじ
めとする様々な疾患への治療効果を示すことが、主に患者での発現解析および動物モデル
を用いた実験によって示唆されている。
【0009】
例えば、乾癬やアトピー性皮膚炎患者の皮膚においてはSema3Aの発現が低下しているこ
とが報告されている(非特許文献9、10)。Sema3AはC-fiberの神経突起伸長を阻害す
る活性を持つが、乾癬やアトピー性皮膚炎患者の皮膚においてはSema3Aの発現低下によっ
て、C-fiberの神経突起が伸長しており、その結果痒みを感じやすい状態になっていると
考えられている。実際に、アトピー性皮膚炎モデルマウスの皮膚にSema3Aを皮内投与又は
軟膏として塗布することによってアトピー性皮膚炎による掻痒行動が改善することが報告
されている(非特許文献11、12)。
【0010】
また、Sema3Aはアレルギー性鼻炎などの気道過敏性反応への関与も報告されている(非
特許文献13)。アレルギー性鼻炎モデルマウスの鼻腔上皮細胞ではSema3Aの発現が低下
しており、それにともなって、鼻甲介の粘膜固有層の神経分布密度が高くなっていて、そ
の結果として、くしゃみやかゆみといった過敏性反応が増悪するひとつの要因となってい
ると考えられている。アレルギー性鼻炎モデルマウスにSema3Aを鼻腔内投与すると、鼻甲
介の粘膜固有層の神経分布密度の低下とくしゃみや掻痒行動が改善されることが報告され
ている。
【0011】
さらにSema3Aは、骨密度の制御にも関与していることが知られている。Sema3Aは、in v
itroで骨芽細胞の活性化を行うとともに破骨細胞の分化を抑制する活性を有しており、全
身でSema3Aを欠損したマウスは骨粗鬆症様の症状を示す。また、卵巣摘出術によって骨粗
鬆症様症状を誘導したモデルマウスにSema3Aを投与することによる骨密度の改善が報告さ
れている(非特許文献14)。このようなSema3Aの骨芽細胞や破骨細胞への直接的な作用
に加えて、Sema3Aによる感覚神経の骨への分布を介した骨密度制御機構も報告されており
、神経特異的なSema3A欠損マウスでは、全身でSema3Aを欠損したマウスと同様の骨粗鬆症
様の骨密度低下が報告されている(非特許文献15)。
【0012】
また、Sema3Aは関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど自己免疫疾患、炎症性疾患
にも関与していることが報告されている。例えば、正常ヒト末梢血に比べて、関節リウマ
チ患者の末梢血中では、末梢血単核球(PBMC)、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞をin vitro
で抗CD3抗体および抗CD28抗体を用いて活性化した際に産生されるSema3AのmRNAやタンパ
ク量が低下しているという報告がある。同様に、正常ヒト由来滑膜組織に比べて、関節リ
ウマチ患者由来滑膜組織におけるSema3AのmRNA発現が低下していることが報告されている
。また、コラーゲン誘導性関節炎モデルマウスにSema3Aタンパク質をコードするプラスミ
ドを腹腔内投与することによって関節炎スコアの改善や後足の腫脹の改善が認められるこ
とが報告されている(非特許文献16)。
【0013】
また、全身性エリテマトーデス患者の末梢血中のSema3A濃度は、健康なヒトの末梢血中
と比べて優位に低い値を示すことや、全身性エリテマトーデス患者の末梢血から採取した
CD19+CD25high B細胞では、健康な人から採取した同じ細胞と比べてSema3Aの発現が低下
していることが報告されていて、この全身性エリテマトーデス患者におけるSema3A発現量
の変化がB細胞の活性化に影響を与えている可能性が示唆されている。(非特許文献17
)。
【0014】
さらにメラノーマ患者の悪性黒色腫皮膚組織におけるSema3Aの発現は、正常皮膚組織と
比べて低下していることが報告されている。さらに、Sema3A遺伝子を導入して安定発現さ
せたマウス悪性黒色腫細胞株は、Sema3A遺伝子を導入していない親株と比較して、in vit
roでの腫瘍細胞の遊走能および浸潤能の低下と抗ガン剤への感受性上昇が報告されている
。マウス腫瘍細胞皮下移植モデルにおいても、Sema3A遺伝子を導入して安定発現させたマ
ウス悪性黒色腫細胞株は、Sema3A遺伝子を導入していない親株と比較して、腫瘍の転移抑
制と増殖の遅延が報告されている(非特許文献18)。
【0015】
これらの報告から、Sema3Aは乾癬およびアトピー性皮膚炎の掻痒、アレルギー性鼻炎、
骨粗鬆症、関節リウマチや全身性エリテマトーデスを含む自己免疫疾患、炎症性疾患、お
よび腫瘍などをはじめとする様々な疾患の治療薬としての有用性が示唆された。
【0016】
しかしながら、その受容体の一つであるPlexin-A1に結合しSema3Aと類似した活性を有
する抗体(アゴニスト抗体)はこれまで報告されていなかった。また、Plexin-A1に結合
しアゴニスト活性を有する抗体がPlexin-A1のアミノ酸配列の中でどのような領域に結合
する特徴を有するかについても明らかにされていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Kolodkin, AL. et al., Cell, 75, 1389-1399(1993)
【非特許文献2】Tessier-Lavigne, M. et al., Science, 274, 1123-1133(1996)
【非特許文献3】Pasterkamp, RJ. et al., Curr. Opin. Neurobiol., 13, 79-89(2003)
【非特許文献4】Wong AW et al., Nat. Immunol., 4(9), 891-898(2003)
【非特許文献5】Takegahara N. et al., Nat. Cell. Biol., 8, 615-622(2006)
【非特許文献6】Eun SY et al., J. Immunol., 177(7), 4271-4275(2006)
【非特許文献7】Janssen. B. J. et al., Nat. Struct. Mol. Biol., 19, 1293-1299(2012)
【非特許文献8】松永幸子ら 実験医学 31(4)、523-530(2013)
【非特許文献9】Kouo, K. et al., Acta Derm. Venereol., 92, 521-528(2012)
【非特許文献10】Tominaga, M. et al., Journal of Dermatological Science, 55, 40-46(2009)
【非特許文献11】Yamaguchi, J. et al., Journal of Investigative Dermatology, 128, 2842-2849(2008)
【非特許文献12】Negi, O. et al., Journal of Dermatological Science, 66, 37-43(2012)
【非特許文献13】Sawaki, H. et al., J. Pharmacol. Sci., 117, 34-44(2011)
【非特許文献14】Hayashi, M. et al., Nature, 485, 69-74(2012)
【非特許文献15】Fukuda, T. et al., Nature, 497, 490-493(2013)
【非特許文献16】Catalano, A., The Journal of Immunology, 185, 6373-83(2010)
【非特許文献17】Vadasz, Z. et al., Arthritis Research & Therapy, 14, R146(2012)
【非特許文献18】Chakraborty, G . et al., PLoS ONE, 7(3), e33633(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、新規な抗プレキシンA1アゴニスト
抗体、当該アゴニスト抗体を含有する医薬組成物、及び当該医薬組成物を含有する、3型
セマフォリンの量的あるいは質的な機能低下が関連する疾患の予防および/または治療剤
及びそのためのキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、新規な抗プレキシンA1アゴ
ニスト抗体の取得に成功した。さらに抗プレキシンA1アゴニスト抗体は、抗プレキシンA1
アンタゴニスト抗体とはプレキシンA1における異なる領域に存在するエピトープを認識す
ることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものであり、以下の[1]から[1
5]に関する。
【0020】
[1] 抗プレキシンA1アゴニスト抗体。
[2] 3型セマフォリン様の活性を有する、[1]に記載の抗体。
[3] 3型セマフォリン様の活性がセマフォリン3A様の活性である、[2]に記載の抗体
。
[4] 3型セマフォリン様の活性が樹状細胞の退縮又はグリオーマ細胞の退縮を促進させ
る活性である、[2]または[3]に記載の抗体。
[5] プレキシンA1のセマドメイン内のエピトープに特異的に結合する、[1]~[4]の
いずれかに記載の抗体。
[6] 前記セマドメイン内のエピトープはセマドメインのC末端領域内のエピトープであ
る、[5]に記載の抗体。
[7] C末端領域が配列番号3の残基461~514、又は配列番号52の残基459~
512への結合である、[6]に記載の抗体。
[8] ヒトプレキシンA1及びマウスプレキシンA1に交叉する抗体である、[1]~[7]
のいずれかに記載の抗体。
[9] モノクローナル抗体である、[1]~[8]のいずれかに記載の抗体。
[10] キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である、請求項[1]~[9]のいずれかに
記載の抗体。
[11] Fab、scFv、F(ab′)2、一本鎖抗体または二重特異性抗体である、[1]~[10
]のいずれかに記載の抗体。
【0021】
[12] [1]~[11]のいずれかに記載の抗体と薬学的に許容される担体を含む医薬組成
物。
[13] [1]~[11]のいずれかに記載の抗体と薬学的に許容される担体を混合する、医
薬組成物の製造方法。
[14] 3型セマフォリンの量的または質的な機能低下が関連する疾患の予防および/ま
たは治療に用いられる、[12]に記載の医薬組成物。
[15] [1]~[11]のいずれかに記載の抗体又は[12]若しくは[14]に記載の医薬組
成物と、3型セマフォリンの量的または質的な機能低下が関連する疾患の予防および/ま
たは治療を治療するために前記抗体又は医薬組成物を投与するための指示書を含むキット
。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、新規な抗プレキシンA1アゴニスト抗体、当該アゴニスト抗体を含有する
医薬組成物、及び当該医薬組成物を含有する、3型セマフォリンの量的あるいは質的な機
能低下が関連する疾患の予防および/または治療剤及びそのためのキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】マウス骨髄由来樹状細胞をマウスセマフォリン3Aにより5時間刺激した際の細胞の退縮を数値として示した図である。
【
図2】抗マウスPlexinA1抗体であるPXB361b、PXB693、PXB727のマウスPlexinA1への結合活性を示した図である。X軸は抗体濃度、Y軸は波長405nmの吸光度を示す。実線はマウスPlexinA1高発現Ba/F3細胞株への結合、破線はBa/F3細胞への結合を示している。
【
図3】0~100μg/mLの濃度のコントロール抗体または抗PlexinA1抗体(ウサギIgG)によるセマフォリン3A依存的なマウス骨髄由来樹状細胞退縮の用量依存的なアンタゴニスト活性を示す図である。
【
図4】ヒトPlexinA1またはマウスPlexinA1を細胞膜表面に発現させたBaF3細胞に各抗体を結合させ、その結合レスポンスを吸光度値として示した図である。
【
図5】マウスキメラ抗体hPANL#240-mFc、359B2-2-3-6-mFc、PXB693-mFc、マウスキメラPXB727-mFc、マウスキメラPXB361b-mFcをProtein G Biosensorで固相化し、ヒトPlexinA1およびマウスPlexinA1をアプライした際の結合レスポンスを示した図である。
【
図6】Protein G BiosensorにPXB693を固相化し、抗原をアプライ後、さらに各抗体をアプライすることで、各抗体の結合が競合しているかを否かを評価した図である。PXB693に対する各抗体の競合率を示す。
【
図7】xCELLigence systemを用いてU87-MG細胞をヒトセマフォリン3Aにより1時間刺激した際のCell index値の変化を示した図である。
【
図8】抗PlexinA1抗体によるマウス骨髄由来樹状細胞退縮に対する用量依存的なセマフォリン3A様のアゴニスト活性を示す図である。Sema3A(+)はマウスセマフォリン3Aを0.8μg/mL添加した場合の数値であり、Sema3A(-)はマウスセマフォリン3A非添加の場合の数値を示す。
【
図9】抗PlexinA1抗体によるU87-MG細胞に対するセマフォリン3A様のアゴニスト活性を示す図である。Sema3A(+)はヒトセマフォリン3Aを1.6μg/mL添加した場合の数値である。
【
図10A】アンタゴニスト抗体マウスキメラPXB361bのマウスPlexinA1、マウスPleixinA2、およびマウスPlexinA1とA2のキメラタンパク質に対する結合性を示した図である。1:マウスPlexinA1 sema domain, 2:マウスPlexinA1/A2 sema domainキメラ, 3:マウスPlexinA2 sema domain, Control Ab:コントロール抗体, PXB361b:マウスキメラ抗体PXB361b-mFc。
【
図10B】アゴニスト抗体マウスキメラPXB693、PXB727のマウスPlexinA1、マウスPleixinA2、およびマウスPlexinA1とA2のキメラタンパク質に対する結合性を示した図である。1:マウスPlexinA1 sema domain, 2:マウスPlexinA1/A2 sema domainキメラ, 3:マウスPlexinA2 sema domain, Control Ab:コントロール抗体, PXB693:マウスキメラ抗体PXB693-mFc, PBX727-mFc:マウスキメラ抗体PXB727。
【
図11】マウスPlexinA1 sema domainとマウスPlexin A2 sema domainのアミノ酸配列の比較を示した図である。マウスPlexinA1/A2キメラタンパク質作製に使用した部位を下線で示した。
【
図12】マウスPlexinA1 sema domainとヒトPlexinA1 sema domainのアミノ酸配列の比較を示した図である。マウスPlexinA1/A2キメラタンパク質作製に使用した部位を下線で示した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[プレキシンA1]
プレキシンA1は例えばヒトやマウスのプレキシンA1を用いることができるが、特に
これらに限定されるものでない。プレキシンA1のマウスのアミノ酸配列及び塩基配列は
、例えばKameyama T et al. "Biochemical and biophysical research communications."
Biochem Biophys Res Commun. 1996, 226(2), 524-9、 GenbankのAccession No. D86948
、NCBI Reference Sequence NP_032907.1において公開されている。また、ヒトプレキシ
ンA1のアミノ酸配列及び塩基配列は、例えばTamagnone L et al. Cell. 1999, 99(1),
71-80、GenbankのAccession No. X87832、NCBI Reference Sequence NP_115618.3、NCBI
Reference Sequence NM_032242において公開されている。これらの配列情報をもとに容易
にプレキシンA1をクローニングすることができる。使用の目的の範囲内において適宜プ
レキシンA1のアミノ酸配列又は塩基配列を改変して使用することができる。プレキシン
A1のアミノ酸配列はヒトとマウスの間でよく保存されている。本明細書においては、プ
レキシンA1はPlexin-A1、PlexinA1、PlxnA1とも記載する。また、単にプレキシンA1と
記載した場合、ヒト及び/又はマウスのプレキシンA1を意味し、他の因子(例えばセマフ
ォリン3A)についても同様にヒト及び/又はマウスを意味する。
【0025】
[抗プレキシンA1アゴニスト抗体]
抗プレキシンA1アゴニスト抗体とは、例えばプレキシンA1タンパク質に特異的に結
合し、プレキシンA1を介したシグナル伝達活性を有する抗体を意味し、3型セマフォリン
様の活性を有する抗体を挙げることができる。
【0026】
3型セマフォリン様の活性とは、3型セマフォリンがin vitro又はin vivoで発揮し得
る活性の少なくとも一つを意味し、好ましくはセマフォリン3A様の活性、すなわちセマ
フォリン3Aがin vitro又はin vivoで発揮し得る活性の少なくとも一つである。例えばセ
マフォリン3Aとニューロピリン1とプレキシンA1との複合体によって伝達される活性を
意味し、ここでいう活性には促進活性及び抑制活性が含まれる。さらに、セマフォリン3
Aとニューロピリン1とプレキシンA1の複合体によって伝達される活性とは、例えばセマ
フォリン3Aがニューロピリン1及びプレキシンA1との三者複合体を形成することにより
伝達される活性である。セマフォリン3A様の活性の具体的な一例として、細胞形態の退
縮促進活性を挙げることができ、例えば樹状細胞又はグリオーマ細胞の細胞形態の退縮促
進活性である。尚、グリオーマ細胞の一例としてヒトグリア芽腫由来細胞、ヒトグリア芽
腫・アストロサイトーマ由来細胞などが挙げられ、より具体的にはU-87 MG細胞が挙げら
れる。
【0027】
本発明の抗プレキシンA1アゴニスト抗体の一つの実施態様として、細胞形態の退縮促
進活性を有する抗体を挙げることができ、例えば樹状細胞又はグリオーマ細胞の細胞形態
の退縮促進活性を有する抗体を挙げることができる。なお、「活性を有する」には、活性
を増強する意味も含まれ得る。
【0028】
[抗プレキシンA1アンタゴニスト抗体]
抗プレキシンA1アンタゴニスト抗体とは、例えばプレキシンA1タンパク質に特異的
に結合し、プレキシンA1を介したシグナル伝達活性を妨げる又は減弱する抗体を意味し、
3型セマフォリン様の活性を妨げる又は減弱する抗体を挙げることができ、好ましくはセ
マフォリン3A様の活性を妨げる又は減弱する抗体である。抗プレキシンA1アゴニスト
抗体として、例えば細胞形態の退縮を阻害する抗体であり、さらには樹状細胞又はグリオ
ーマ細胞の細胞形態の退縮を阻害する抗体である。
【0029】
[3型セマフォリン]
セマフォリンは、現在までに20種類を超えるメンバーが同定されており、Semaドメイン
と呼ばれる500程度のアミノ酸からなる領域をファミリーで共有し保存していることを特
徴としている。Semaドメインに続くC末端側の構造の違いから8つのサブクラスに分類され
ている。3型セマフォリンとしてはSema3A、Sema3B、Sema3C、Sema3D、Sema3E、Sema3Fが
知られており、本明細書おいては3型セマフォリンにはSema3A、Sema3B、Sema3C、Sema3D
、Sema3E、Sema3Fが含まれ得るが、好ましくはSema3A(セマフォリン3A)である。
【0030】
[セマフォリン3A]
セマフォリン3Aは、例えばヒトやマウスのセマフォリン3Aを用いることができるが、
特にこれらに限定されるものでない。セマフォリン3Aのヒトのアミノ酸配列は、例えばN
CBI Reference Sequence NP_006071.1において公開されている。またセマフォリン3Aの
マウスのアミノ酸配列は、例えばNP_033178.2において公開されている。これらの配列情
報をもとに容易にセマフォリン3Aをクローニングすることができる。使用の目的の範囲内
において適宜セマフォリン3Aのアミノ酸配列を改変して使用することができる。本明細書
においては、セマフォリン3AはSema3Aとも記載する。
【0031】
[セマドメイン]
セマドメインは、通常、ヒトプレキシンA1においては配列番号3の51位~487位、マウ
スプレキシンA1においては配列番号52の49位~485位、マウスプレキシンA2においては
配列番号53の50位~483位である。尚、本明細書においてセマドメインはsema domainと
も記載する。
【0032】
[セマフォリン3A様の活性]
3型セマフォリン様の活性の好ましい一つの例であるセマフォリン3A様の活性とは具
体的には例えば以下の活性を意味する。細胞の形態(例えば、樹状細胞の細胞形態)を退
縮させる活性、樹状細胞の所属リンパ節へ移動を促進する活性(米国特許公開第2012/032
2085号)、破骨細胞の分化を抑制する活性、骨芽細胞の分化を促進する活性(Hayashi M
et al., Nature, 2012, 485, 69-74)、神経伸長阻害活性(米国特許第7642362号)が挙
げられる。本発明のアゴニスト抗体は3型セマフォリン様の活性のうち少なくとも1つを
有するものであればよく、例えば細胞形態の退縮を促進するものであり、また例えば樹状
細胞又はグリオーマ細胞の細胞形態の退縮を促進するものである。また、アンタゴニスト
抗体は3型セマフォリン様の活性のうち、少なくとも1つを阻害するものであればよく、
例えば細胞形態の退縮を阻害するものであり、また例えば樹状細胞又はグリオーマ細胞の
細胞形態の退縮を阻害するものである。
【0033】
3型セマフォリン様の活性を「有する」とは、本発明の抗プレキシンA1アゴニスト抗
体の存在下において、非存在下に比べ3型セマフォリン様の活性が増加したことをいい、
好ましくは1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、7
5%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%以上、200%以上、300
%以上、400%以上、500%以上、600%以上、700%以上、800%以上、9
00%以上、1000%以上増加したことをいう。
【0034】
3型セマフォリン様の活性を「妨げる又は減弱する」とは、抗プレキシンA1アンタゴニ
スト抗体の存在下において、非存在下に比べ3型セマフォリン様の活性が減少したことを
いい、好ましくは1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以
上、75%以上、80%以上、90%以上、95%以上減少したことをいう。
【0035】
[細胞形態を退縮させる活性及び神経伸長阻害活性]
Sema3Aは、神経細胞の神経成長円錐を退縮させ軸索の伸長を抑制することや、樹状細胞
が微小リンパ管を通過する過程において樹状細胞の形態の退縮を誘導することにより樹状
細胞移動を制御することなど、様々な細胞に対して退縮活性を示すことで、神経回路網の
形成や免疫反応を含む多彩な生体反応を制御している。
【0036】
細胞形態の退縮を測定する方法としては、当業者に知られている方法を適宜用いること
ができるが、例えば、細胞形態を直接画像解析する方法、細胞形態や接着性の変化をxCEL
Ligence(登録商標)等の装置を用いて電気的インピーダンスとして測定する方法が挙げ
られるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
〔細胞形態を直接画像解析する方法〕
各種腫瘍細胞、HUVECを含む内皮細胞、脊髄後根神経節(DRG)ニューロンおよび樹状細胞
などの細胞を96 well cell cultureプレートに播種し、数時間~1日間培養することで細
胞を接着させる。次に、Sema3Aを添加しさらに30分から数時間程度37℃、CO2 5%のインキ
ュベーター中で培養する。この際に比較対照としてSema3Aを添加しないウェルを設定する
。その後、顕微鏡観察またはArrayScan(登録商標)等のハイコンテントスクリーニング
用細胞イメージアナライザーを用いて細胞形態を撮影し、画像解析用ソフトウェア(Cell
omics-vHCSTM:Scanなど)によって細胞形態の変化を数値化する。
【0038】
細胞形態変化を数値化する際に用いる指標の一つの例として、例えば「%High Object C
onvex Hull Area ratio」という指標を用いる方法が挙げられる。これは、細胞そのもの
の面積とその凸包の面積の比を算出した数値がある一定の閾値を上回る細胞の割合を算出
するものであり、この数値をSema3Aの非添加時と添加時で比較することによってSema3Aの
細胞形態退縮誘導活性を測定する。細胞形態の退縮とは、Sema3A添加時においてSema3A非
添加時と比べて、上記値が減少したことをいい、好ましくは1%以上、5%以上、10%
以上、20%以上、30%以上、50%以上、75%以上、80%以上、90%以上、9
5%以上減少したことをいう。
【0039】
本発明のアゴニスト抗体が退縮の促進活性を有するとは、例えば上記方法を用いた場合
、当該抗体存在下において、非存在下に比べ、上記値が減少したことをいい、好ましくは
1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、75%以上、
80%以上、90%以上、95%以上減少したことをいう。
【0040】
別の細胞形態変化を数値化する際に用いる指標の一つの例として、画像解析用ソフトウ
ェア(Cellomics-vHCSTM:Scanなど)の神経突起伸長アプリケーションを用いて、神経突
起伸長を平均神経突起伸長/ニューロン/ウェルとして定量した指標を用いることができ
る。細胞形態の退縮とは、Sema3A添加時においてSema3A非添加時と比べて、上記値が減少
したことをいい、好ましくは1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上
、50%以上、75%以上、80%以上、90%以上、95%以上減少したことをいう。
【0041】
本発明のアゴニスト抗体が退縮の促進活性を有するとは、例えば上記方法を用いた場合
、当該抗体存在下において、非存在下に比べ、上記値が減少したことをいい、好ましくは
1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、75%以上、
80%以上、90%以上、95%以上減少したことをいう。
【0042】
その他、例えば、撮影した画像から細胞の面積を算出し、ある一定の閾値よりも小さく
なった細胞を退縮したと判断する方法も用いることができる。
【0043】
〔細胞形態や接着性の変化を電気的インピーダンスとして測定する方法〕
各種腫瘍細胞、HUVECを含む内皮細胞、脊髄後根神経節(DRG)ニューロンおよび樹状細胞
などの細胞を、ウェルの底面に電極を集積した組織培養E-プレートに播種し、数時間~1
日間培養することで細胞を接着させる。次に、Sema3Aを添加しさらに数分間から数時間程
度37℃、CO2 5%のインキュベーター中で培養する。この際に比較対照としてSema3Aを添加
しないウェルを設定する。細胞形態や接着性の変化をCELLigence(登録商標)により電気
的インピーダンスとして検出する。この電気的インピーダンスはxCELLigence(登録商標
)の解析用ソフトウェアであるRTCA ソフトウェア(登録商標)を用いて検出され、セル
・インデックス(CI)と呼ばれる無単位のパラメーターとして創出され、または、現在の
細胞状態とのCIの相対的変化からノーマライズド・セル・インデックスと呼ばれる無単位
のパラメーターも算出される。このNormalized CI値をSema3Aの非添加時と添加時で比較
することによってSema3Aの細胞形態退縮誘導活性を測定する。細胞形態の退縮とは、Sema
3A添加時においてSema3A非添加時と比べて、CI値が減少したことをいい、好ましくは1%
以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、75%以上、80
%以上、90%以上、95%以上減少したことをいう。
【0044】
本発明のアゴニスト抗体が退縮の促進活性を有するとは、例えば上記方法を用いた場合
、当該抗体存在下において、非存在下に比べ、上記値が減少したことをいい、好ましくは
1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、75%以上、
80%以上、90%以上、95%以上減少したことをいう。
【0045】
[樹状細胞の所属リンパ節への移動を促進する活性]
Sema3Aは樹状細胞上のPlexin-A1およびNeuropilin-1のヘテロ受容体複合体に作用しア
クトミオシン収縮を誘導する活性を示し、細胞形態の変化を誘導することで微小リンパ管
細胞間隙の通過を制御している。
【0046】
活性を測定する方法としては、当業者に知られている方法を適宜用いることができるが
、例えば、in vitroのボイデンチャンバを用いた細胞遊走アッセイを利用して測定する方
法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
具体的にはトランスウェル(Corning)をCCL21やCXCL12などのケモカインを含むRPMI16
40中0.1% BSA 0.6mLの入った24ウェルプレートに入れる。樹状細胞をトランスウェルの上
部チャンバーに加え、37℃で1~3時間インキュベーションする。その後、下部チャンバー
中の細胞を計数する。また、経内皮細胞遊走アッセイのためには、リンパ管内皮細胞や血
管内皮細胞を上部チャンバーに重層する。簡単には、SVEC4-10またはHMVEC-dLyの細胞を2
μg/mLのフィブロネクチンでコーティングしたトランスウェル挿入物の上部または下部に
播種する。1~2日間培養した後、前述の細胞遊走アッセイと同様の方法に従い経内皮細胞
遊走アッセイを実施する。これらのアッセイを実施する際にトランスウェルの上部チャン
バーに樹状細胞とともにSema3Aを添加し、下部チャンバーへの樹状細胞の移動の計数結果
をSema3Aを添加していないウェルと比較することによってSema3Aの細胞遊走の促進活性を
測定する。
【0048】
樹状細胞の所属リンパ節へ移動を促進する活性は、Sema3Aを添加したウェルにおいてSe
ma3Aを添加していないウェルと比較して下部チャンバーへの樹状細胞の移動計数が増加し
たことをいい、好ましくは1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、
50%以上、75%以上、80%以上、90%以上、95%以上増加したことをいう。
【0049】
[破骨細胞の分化を抑制する活性、骨芽細胞の分化を促進する活性]
Sema3Aは破骨細胞や骨芽細胞の発現する受容体を介して破骨細胞の分化に抑制的に作用
すると同時に、骨芽細胞の活性化に促進的に働くことで骨保護作用の活性を示すことが報
告されている。
【0050】
破骨細胞の分化を抑制する活性や骨芽細胞の分化を促進する活性を測定する方法として
は、当業者に知られている方法を適宜用いることができ、例えば、以下の方法が挙げられ
るが、これらに限定されるものではない。
【0051】
〔破骨細胞分化抑制活性〕
活性の測定としては多様な方法が存在するが、例えばその一例として、酒石酸抵抗性酸
性ホスファターゼ(Tartrate-resistant acid phosphatase;TRAP)染色により評価され
る。具体的には、骨髄細胞をM-CSFを含むα-MEM培地で48時間以上培養し、骨髄単球/マ
クロファージ前駆細胞を調製する。RANKLを添加した培地に交換して数日間培養を継続す
る。Sema3Aの評価のためには、Sema3Aを添加した培地に交換し、10~12時間後にRANKLを
添加して数日間培養を継続する。数日おきに培地を交換し、破骨細胞の形成が確認された
ら、TRAP染色及び核染色を行う。Sema3Aを添加した細胞の染色画像を顕微鏡やArrayScan
(登録商標)等のハイコンテントスクリーニング用細胞イメージアナライザーを用いて取
得し、Sema3Aを添加していない細胞の染色像と比較することで、Sema3Aの破骨細胞分化抑
制活性を測定する。具体的には、ウェル当たりのTRAP陽性細胞の数、あるいはTRAP陽性か
つ多核細胞の数を計測し比較する。
【0052】
破骨細胞分化抑制活性は、Sema3Aを添加したウェルにおいてSema3Aを添加していないウ
ェルと比較してTRAP陽性細胞の数、あるいはTRAP陽性かつ多核細胞の数が減少したことを
いい、好ましくは1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以
上、75%以上、80%以上、90%以上、95%以上減少したことをいう。
【0053】
〔骨芽細胞活性化活性〕
活性の測定方法としては多様な方法が存在するが、例えばその例として、アルカリホス
ファターゼ(Alkaline Phosphatase;ALP)染色やALP活性測定、石灰化の検出によって評
価される。具体的には、頭蓋冠細胞やMC3T3-E1細胞をコラーゲンコートされたプレートに
播種し、アスコルビン酸とβ-グリセロリン酸を含むα-MEM培地で培養する。Sema3Aの評
価のためには、培地にSema3Aを添加して培養する。数日おきに培地を交換し、培養終了後
にALP染色を行って顕微鏡で画像を取得するか、またはそのALP活性を吸光度法を用いて測
定する。また、石灰化の検出にはAlizarin red染色を行う。Sema3Aを添加した細胞の染色
画像を顕微鏡を用いて取得し、Sema3Aを添加していない細胞の染色像と比較することで、
Sema3Aの骨芽細胞活性化作用を評価する。具体的には、顕微鏡で染色後の細胞を撮影し、
ALP染色やAlizarin red染色の強度を視覚的に比較して活性の有無を判断する。
【0054】
骨芽細胞活性化活性は、Sema3Aを添加したウェルにおいてSema3Aを添加していないウェ
ルと比較してALP活性の吸光度あるいはAlizarin Red染色の強度が増加したことをいい、
好ましくは1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、7
5%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%以上、200%以上、300
%以上、400%以上、500%以上、600%以上、700%以上、800%以上、9
00%以上、1000%以上増加したことをいう。
【0055】
[抗体]
「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、所望の生物学的活性を示す限り、モ
ノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二量体、多量体、多重特異性抗体(例えば、二
重特異性抗体)、抗体誘導体及び抗体修飾物であってもよい(Miller K et al., J Immun
ol., 2003, 170(9), 4854-61)。抗体は、マウス、ヒト、ヒト化、キメラであってもよく
、または他の種由来であってもよい。本明細書中に開示される抗体は、免疫グロブリン分
子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgDおよびIgA)、クラス(例えば、IgG1、I
gG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスであり得る。免疫グロブリンは、
任意の種(例えば、ヒト、マウスまたはウサギ)由来であり得る。尚、「抗体」、「免疫
グロブリン」及び「イムノグロブリン」なる用語は互換性をもって広義な意味で使われる
。
【0056】
「抗体誘導体」とは抗体の一部、好ましくは抗体の可変ドメイン、または少なくとも抗
体の抗原結合領域を含む。抗体誘導体には、例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、線状抗
体、一本鎖抗体(scFv)、sc(Fv)2、Fab3、ドメイン抗体 (dAb)(国際公開第2004/0588
21号、国際公開第2003/002609号)、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニ
ボディ及び抗体誘導体から形成される多重特異性抗体が含まれるが、それらに限定される
わけではない。ここで、「Fv」は最小の抗体誘導体であり、完全な抗原認識領域と抗原結
合領域を含む。また抗体誘導体は例えばIgG抗体のFcとの融合体であってもよい。例えば
、米国特許第5641870号明細書、実施例2;Zapata G et al., Protein Eng., 1995, 8(10)
, 1057-1062; Olafsen T et al., Protein Eng. Design & Sel., 2004, 17(4):315-323;
Holliger P et al., Nat. Biotechnol., 2005, 23(9);1126-36; Fischer N et al., Pat
hobiology, 2007, 74(1):3-14; Shen J et al., J. Immunol Methods., 2007, 318, 65-7
4; Wu et al., Nat. Biotechnol., 2007, 25(11), 1290-7を参照できる。
【0057】
「二重特異性」抗体は、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有
する抗体をいう。二重特異性抗体は2つ以上の異なる抗原を認識する抗体であってもよい
し、同一抗原上の異なる2つ以上のエピトープを認識する抗体であってもよい。
【0058】
IgGタイプ二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによ
って生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることができる(Milstein C e
t al., Nature, 1983, 305: 537-540)。また目的の二種のIgGを構成するL鎖及びH鎖の遺
伝子、合計4種の遺伝子を細胞に導入することによって共発現させることによって分泌さ
せることができる。
【0059】
この際H鎖のCH3領域に適当なアミノ酸置換を施すことによってH鎖についてヘテロな組
合せのIgGを優先的に分泌させることも出来る(Ridgway JB et al., Protein Engineerin
g, 1996, 9: 617-621; Merchant AM et al., Nature Biotechnology, 1998, 16: 677-681
; WO2006/106905; Davis JH et al., Protein Eng. Des. Sel., 2010, 4: 195-202)。
【0060】
また、L鎖に関しては、H鎖可変領域に比べてL鎖可変領域の多様性が低いことから、両H
鎖に結合能を与え得る共通のL鎖を得ることができる。この共通L鎖と両H鎖遺伝子を細胞
に導入することによってIgGを発現させることで効率の良い二重特異性IgGの発現が可能と
なる。
【0061】
ここで、「共通L鎖」とは、異なる2種以上のH鎖と会合し、それぞれの抗原に対して結
合能を示し得るL鎖である。「異なるH鎖」とは、好ましくは異なる抗原に対する抗体のH
鎖を指すが、それに限定されず、アミノ酸配列が互いに異なっているH鎖を意味する。共
通L鎖は、例えば国際公開第2006/109592号に記載の方法に従って取得することができる。
【0062】
Fab'を化学的に架橋することによっても二重特異性抗体を作製し得る。また化学架橋の
代わりにFos, Junなどに由来するロイシンジッパーを用いることもでき、この方法はFab'
には限定されず、scFv, Fvなどにおいても応用可能である。
【0063】
また、IgG-scFv(Protein Eng. Des. Sel., 2010, Apr;23(4):221-8)やBiTEなどのsc(
Fv)2(Drug Discov. Today, 2005, Sep 15;10(18):1237-44)、DVD-Ig(Nat. Biotechnol
., 2007, Nov;25(11):1290-7. Epub 2007 Oct 14、MAbs, 2009, Jul;1(4):339-47. Epub
2009 Jul 10、IDrugs, 2010, 13:698-700)などの他、two-in-one抗体(Science, 2009,
Mar 20;323(5921):1610-4、Immunotherapy, 2009, Sep;1(5):749-51)、Tri-Fabやタンデ
ムscFv、ダイアボディなどの二重特異性抗体も知られている(MAbs, 2009, November;1(6
):539-547)。さらにscFv-Fc、scaffold-Fcなどの分子形を用いても、ヘテロな組合せのF
cを優先的に分泌させることで(Ridgway JB et al., Protein Engineering, 1996, 9: 61
7-621、Merchant AM et al., Nature Biotechnology, 1998, 16: 677-681、WO2006/10690
5、Davis JH et al., Protein Eng. Des. Sel., 2010, 4:195-202)、二重特異性抗体を
効率的に作製し得る。
【0064】
「交叉する抗体」は、交叉抗体、交叉性抗体又は交叉反応性抗体ともいい、複数の抗原
における同一または類似のエピトープを認識する抗体をいう。ここで複数の抗原とは、例
えば同じ種の抗原であってもよく、異なる種の抗原であってもよい。
【0065】
抗体修飾物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合し
た抗体を挙げることができる。本発明の抗体修飾物においては、結合される物質は限定さ
れない。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによ
って得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0066】
抗原結合領域は、例えば、抗体、Scaffold分子(抗体様分子)、ペプチド等の抗原との
結合に必要な部位、または当該部位を含む断片をあげることができる。Scaffold分子とは
、ターゲット分子に結合することで機能を発揮するような分子であり、少なくとも1つの
標的抗原に結合することができる立体構造的に安定なポリペプチドであれば、どのような
ポリペプチドであっても用いることができる。そのようなポリペプチドの例としては、例
えば、抗体可変領域、フィブロネクチン(国際公開第2002/032925号)、Protein Aドメイ
ン(国際公開第1995/001937号)、LDL受容体Aドメイン(国際公開第2004/044011号, 国際
公開第2005/040229号)、アンキリン(国際公開第2002/020565号)等のほか、Nygrenら(
Current Opinion in Structural Biology, 7:463-469(1997)、Journal of Immunol. Meth
ods, 290:3-28(2004))、Binzら(Nature Biotech., 23:1257-1266(2005))、Hosseら(Prote
in Science, 15:14-27(2006))に記載の分子を挙げることができる。また、Curr. Opin. M
ol. Ther., 2010 Aug;12(4):487-95やDrugs, 2008;68(7):901-12に記されているように標
的抗原に結合することができるペプチド分子を用いることもできる。
【0067】
本発明における抗体は、遺伝子組換え技術を用いて産生した組換え型抗体であることが
好ましい。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ、または抗体を産生
する感作リンパ球等の抗体産生細胞からクローニングし、ベクターに組み込んで、これを
宿主(宿主細胞)に導入し産生させることにより得ることができる。
【0068】
本発明の抗体は、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体など、その由来は限定されない。
またキメラ抗体やヒト化抗体などの遺伝子改変抗体でもよい。
【0069】
遺伝子改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。具体的には、たとえば
キメラ抗体は、免疫動物の抗体のH鎖、およびL鎖の可変領域と、ヒト抗体のH鎖およびL鎖
の定常領域からなる抗体である。免疫動物由来の抗体の可変領域をコードするDNAを、ヒ
ト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導
入し産生させることによって、キメラ抗体を得ることができる。
【0070】
ヒト抗体の取得方法は既に知られており、例えば、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリ
ーを有するトランスジェニック動物を目的の抗原で免疫することで目的のヒト抗体を取得
することができる(国際公開第93/12227号, 国際公開第92/03918号,国際公開第94/02602
号, 国際公開第94/25585号,国際公開第96/34096号, 国際公開第96/33735号参照)。
【0071】
さらに、ヒト抗体は、ハイブリドーマをベースとした方法によって製造することができ
る。ヒトモノクローナル抗体の産生のためのヒト骨髄腫及びマウス-ヒトヘテロ細胞株が
利用可能である(Kozbor J., Immunol., 133: 3001 (1984); Brodeur et al., Monoclona
lAntibody Production Techniques and Applications, pp51-63 (Marcel Dekker, Inc.,
New York, 1987);及びBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991)を参照)。ヒトB
細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体も知られている(Li et al., Proc.
Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)を参照)。ヒトハイブリドーマ技術(トリ
オーマ技術)もまた利用可能である(Vollmers and Brandlein, Histology and Histopat
hology, 20(3):927-937 (2005)及びVollmers and Brandlein, Methods and Findings in
Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)を参照)。
【0072】
ヒト抗体は、ヒト由来のファージディスプレイライブラリから選択されたFvクローン可
変ドメイン配列を単離することによっても生成され得る。このような可変ドメイン配列は
、所望のヒト定常ドメインと組み合わせてもよい。抗体ライブラリからヒト抗体を選択す
るための技術が、以下に説明される。なお、本技術はヒト抗体に限られるものではない。
【0073】
抗体ライブラリについては既に多くの抗体ライブラリが公知になっており、又、抗体ラ
イブラリの作製方法も公知であるので、当業者は適宜抗体ライブラリを入手することが可
能である。例えば、ファージライブラリについては、Clackson et al., Nature, 1991, 3
52: 624-8、Marks et al., J. Mol. Biol., 1991, 222: 581-97、Waterhouses et al., N
ucleic Acids Res., 1993, 21: 2265-6、Griffiths et al., EMBO J., 1994, 13: 324.0-
60、Vaughan et al., Nature Biotechnology, 1996, 14: 309-14、及び国際公開第96/077
54号等の文献を参照することができる。その他、真核細胞をライブラリとする方法(国際
公開第95/15393号)やリボソーム提示法等の公知の方法を用いることが可能である。
【0074】
ライブラリには、当業者公知のライブラリ(Methods Mol. Biol., 2002; 178: 87-100
; J. Immunol. Methods, 2004 Jun; 289(1-2): 65-80;およびExpert Opin. Biol. Ther
., 2007 May; 7(5): 763-79)である、ヒトナイーブライブラリ、非ヒト動物およびヒト
由来の免疫ライブラリ、半合成ライブラリならびに合成ライブラリが含まれるが、これら
に限定されない。しかし、方法はこれらの例に特に限定されない。
【0075】
さらに、ヒト抗体ライブラリを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知
られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプ
レイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができ
る。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコ
ードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれ
ば、当該配列を元に適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。こ
れらの方法は既に周知であり、国際公開第92/01047号、国際公開第92/20791号、国際公開
第93/06213号、国際公開第93/11236号、国際公開第93/19172号、国際公開第95/01438号、
国際公開第95/15388号を参考にすることができる。
【0076】
ヒト抗体ライブラリから単離された抗体または抗体断片は、本明細書でヒト抗体または
ヒト抗体の断片とみなされる。
【0077】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される改変抗体である。ヒト化抗体は
、免疫動物由来の抗体のCDRを、ヒト抗体の相補性決定領域へ移植することによって構築
される。その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開第239400号、
国際公開第96/02576号、Sato K et al, Cancer Research, 1993, 53:851-856、WO99/5174
3参照)。
【0078】
本発明のアゴニスト抗体の好ましい態様として、具体的には後述の実施例に記載した以
下に記載のアミノ酸配列を含む抗体を挙げることができる。
(a)配列番号:23、24、25(hPANL#240のH鎖CDR)に記載のH鎖C
DR1、2,3のアミノ酸配列及び配列番号:26、27、28(hPANL#240の
L鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2,3のアミノ酸配列を含む抗体。
(b)配列番号:29、30、31(359B2-2-3-6のH鎖CDR)に記載のH
鎖CDR1、2,3のアミノ酸配列及び配列番号:32、33、34(359B2-2-
3-6のL鎖CDR)に記載のL鎖CDR1、2,3のアミノ酸配列を含む抗体。
【0079】
さらに本発明のアゴニスト抗体の好ましい態様として、具体的には後述の実施例に記載
した以下に記載のアミノ酸配列を含む抗体を挙げることができる。
(a)配列番号:21(hPANL#240のH鎖可変領域)に記載のH鎖可変領域のア
ミノ酸配列及び配列番号:22(hPANL#240のL鎖可変領域)に記載のL鎖可変
領域のアミノ酸配列を含む抗体。
(b)配列番号:35(359B2-2-3-6のH鎖可変領域に記載のH鎖可変領域の
アミノ酸配列及び配列番号:36(359B2-2-3-6のL鎖可変領域)に記載のL
鎖可変領域のアミノ酸配列を含む抗体。
【0080】
さらに本発明のアゴニスト抗体の好ましい態様として、具体的には後述の実施例に記載
した以下に記載のアミノ酸配列を含む抗体を挙げることができる。
(a)配列番号:9(hPANL#240のH鎖)に記載のH鎖のアミノ酸配列及び配列
番号:10(hPANL#240のL鎖)に記載のL鎖のアミノ酸配列を含む抗体。
(b)配列番号:11(359B2-2-3-6のH鎖に記載のH鎖のアミノ酸配列及び
配列番号:12(359B2-2-3-6のL鎖)に記載のL鎖のアミノ酸配列を含む抗
体。
【0081】
本発明の一つの実施態様は、hPANL#240又は359B2-2-3-6の抗体配
列のH鎖及びL鎖のCDR、可変領域又は全長をコードする核酸である。
別の実施態様は前記核酸が組み込まれたベクターである。
さらに別の実施態様は、前記ベクターで形質転換された宿主細胞である。
さらに別の実施態様は、前記細胞を培養することにより、前記抗体を製造する方法であ
る。
さらに別の実施態様は、前記製造方法で製造された抗体である。
【0082】
本発明の一つの実施態様は、プレキシンA1への結合について、hPANL#240又は
359B2-2-3-6と競合する、抗プレキシンA1抗体である。好ましくはプレキシン
A1のセマドメインへの結合について、hPANL#240又は359B2-2-3-6と
競合する、抗プレキシンA1抗体である。さらに好ましくはヒトプレキシンA1のセマドメイ
ンにおける配列番号3の残基461~514への結合、またはマウスプレキシンA1のセマドメイ
ンにおける配列番号52の残基459~512への結合について、hPANL#240又は35
9B2-2-3-6と競合する、抗プレキシンA1抗体である。
【0083】
また、本発明は、本発明のアゴニスト抗体が結合するエピトープと重複するエピトープ
に結合する抗体も提供する。ある抗体が他の抗体と重複するエピトープを認識するか否か
は、両者のエピトープに対する競合によって確認することができる。抗体間の競合は、競
合結合アッセイによって評価することができ、その手段として酵素結合免疫吸着検定法(
ELISA)、蛍光エネルギー転移測定法(FRET)、蛍光微量測定技術(FMAT(登録商標))、
電気化学発光(ECL)法、AlphaScreen(化学増幅型ルミネッセンス プロキシミティホモ
ジニアスアッセイ)法、Radioimmunoassay (RIA、放射免疫測定)法、Scintillation prox
imity assay(SPA)、Surface Acoustic Wave (SAW)、MicroScale Thermophoresis (Nan
oTemper Technologies)、Quarts Crystal Microbalance (QCM)、Octet(ForteBIO社製)や
表面プラズモン共鳴(surface plasmon responance)法等の生体分子間相互作用解析、結
合平衡除外法(Kinetic Exclusion Assay;KinExA(登録商標))などが挙げられる。抗原
に結合した該抗体の量は、重複するエピトープへの結合に対して競合する候補競合抗体(
被検抗体)の結合能に間接的に相関している。すなわち、重複するエピトープに対する被
検抗体の量や親和性が大きくなるほど、該抗体の抗原への結合量は低下し、抗原への被検
抗体の結合量は増加する。具体的には、抗原に対し、適当な標識をした該抗体と、被検抗
体と、を同時に添加し、標識を利用して結合している該抗体を検出する。抗原に結合した
該抗体量は、該抗体を予め標識しておくことで、容易に測定できる。この標識は特には制
限されないが、手法に応じた標識方法を選択する。標識方法は、具体的には蛍光標識、放
射標識、酵素標識などが挙げられる。例えば、プレキシンA1を固相化したビーズに蛍光
標識した該抗体と、非標識の該抗体あるいは被検抗体を同時に添加し、標識された該抗体
を蛍光微量測定技術によって検出する。また、生体分子間相互作用解析や結合平衡除外法
を用いる場合は、標識抗体を用いる必要はなく、競合を評価することができる。また重複
するエピトープとは2つの抗体のエピトープが全く同一である場合だけでなく、一部分が
同一である場合もいう。また、重複するエピトープに結合する抗体とは、本明細書におい
て、競合するエピトープに結合する抗体、あるいは競合する抗体とも記載されうる。
【0084】
ここでいう「重複するエピトープに結合する抗体」、「競合する抗体」あるいは「競合
するエピトープに結合する抗体」とは、当該抗体と被検抗体がプレキシンA1に対して実
質的に同時に結合しないとき等が挙げられる。ここで、実質的に同時に結合しないとは、
当該抗体のプレキシンA1に対する結合活性の60%以下、通常50%以下、好ましくは30%以
下、特に好ましくは15%以下の結合活性をいう。なお、抗体が認識するエピトープの解析
は当業者に公知の方法により行うことが可能であり、例えばウェスタンブロッティング法
などにより行うことが可能である。
【0085】
上述のアゴニスト抗体が結合するエピトープ又は当該エピトープと重複するエピトープ
に結合する抗体の抗原結合部位を有する多重特異性抗原結合分子は、3型セマフォリン様
の活性、例えば細胞形態の退縮を促進することが可能である。また、上述の抗体が結合す
るエピトープと重複するエピトープに結合する抗体の抗原結合部位は、より優れた3型セ
マフォリン様の活性を得るために1もしくは複数のアミノ酸を改変することが可能である
。
【0086】
本明細書中の「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質な抗体の集団、即ち
、集団を構成する個々の抗体が、天然において起こり得る少量で存在する変異体を除いて
は均一である抗体集団から得られた抗体を指す。モノクローナル抗体は高度に特異的であ
り、一般に単一の抗原部位に対して作用するものである。さらに、典型的には異なる抗原
決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含む慣用のポリクローナル抗体調製物と比べて
、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の抗原決定基に向けられる。その特異性に加えて
、モノクローナル抗体は、他の抗体が混入していないハイブリドーマ培養などにより合成
される点で有利である。なお、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体
の集団より得られた抗体の特性を示唆するものであって、抗体が特定の方法により製造さ
れることを要求するものではない。例えば、本発明において用いられるモノクローナル抗
体を、例えばハイブリドーマ法(例えば、Kohler and Milstein, Nature, 256:495 (1975)
)、または、組換え方法(例えば、米国特許第4816567号)により製造してもよい。本発明に
おいて使用するモノクローナル抗体はまた、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよ
い(例えば、Clackson et al., Nature, 352:624-628 (1991); Marks et al., J. Mol. Bi
ol., 222:581-597 (1991))。
【0087】
本発明の抗体は当業者に公知の方法により製造することができる。具体的には、目的と
する抗体をコードするDNAを発現ベクターへ組み込む。その際、発現制御領域、例えば、
エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に
、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。その際には、適当
な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。
【0088】
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-S
criptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、
上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などを用いることができる。
【0089】
抗体を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用
である。発現ベクターとしては、例えば、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの
大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば
、lacZプロモーター(Wardら, Nature, (1989) 341, 544-546; FASEB J., (1992) 6, 24
22-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science, (1988) 240, 1041-1043)、またはT
7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上
記ベクターの他にpGEX-5X-1(Pharmacia社製)、「QIAexpress system」(QIAGEN社製)
、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好まし
い)などが挙げられる。
【0090】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。
ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場
合、例えばpelBシグナル配列(Lei, S. P. et al., J. Bacteriol., (1987) 169, 4397)
を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクト
ロポレーション法を用いて行うことができる。
【0091】
大腸菌発現ベクターの他、本発明の抗体を製造するためのベクターとしては、例えば、
哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen社製)や、pEGF-BOS (Nuclei
c Acids. Res., 1990, 18(17), p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(
例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)
、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例
えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)
、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen社製)、p
NV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0092】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で
発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature,
(1979) 277, 108)、MMTV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic
Acids Res., (1990) 18, 5322)、CAGプロモーター(Gene, (1991) 108, 193)、CMVプロ
モーターなどを持っていることが不可欠であり、形質転換細胞を選抜するための遺伝子を
有すればさらに好ましい。形質転換細胞を選抜するための遺伝子としては、例えば、薬剤
(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子がある。このような
特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP1
3などが挙げられる。
【0093】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的
とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有する
ベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方
法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現す
る遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で
形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデ
ノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さ
らに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、ア
ミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大
腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ
葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0094】
これにより得られた本発明の抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し
、実質的に純粋で均一な抗体として精製することができる。抗体の分離、精製は、通常の
抗体の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものでは
ない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶
媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透
析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば抗体を分離、精製することができる。
【0095】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換
クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、
吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Ch
aracterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Sp
ring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマト
グラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、Protein Aカラム、Protein
Gカラムが挙げられる。例えば、Protein Aを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Seph
arose FF(GE Amersham Biosciences)等が挙げられる。本発明は、これらの精製方法を
用い、高度に精製された抗体も包含する。
【0096】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質
で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラ
フィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリア
クリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組合せれば、抗体を分離、精
製することができる(Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, C
old Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。アフィニ
ティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、Protein Aカラム、Protein Gカラム
などが挙げられる。
【0097】
本発明の一つの実施態様は、ヒトプレキシンA1のセマドメインにおける配列番号3の残
基461~514からなるペプチド、またはマウスプレキシンA1のセマドメインにおける配列番
号52の残基459~512からなるペプチドを抗原として用いて抗プレキシンA1アゴニスト抗
体を製造する方法である。また、本発明の別の一つの実施態様は、前記製造方法で製造さ
れた抗プレキシンA1アゴニスト抗体である。本明細書にすでに記載した方法や当業者に周
知な方法を用いて製造が可能である。
【0098】
[抗プレキシンA1アゴニスト抗体の用途]
本発明の抗プレキシンA1アゴニスト抗体は、プレキシンA1と結合することにより3
型セマフォリン様の活性を示すため、3型セマフォリン、好ましくはSema3Aの量的あるい
は質的な機能低下が関連する疾患を治療、予防するのに有用である。特に、乾癬およびア
トピー性皮膚炎の掻痒、アレルギー性鼻炎、骨粗鬆症、関節リウマチや全身性エリテマト
ーデスを含む自己免疫疾患、炎症性疾患、および腫瘍などをはじめとする様々な疾患を治
療、予防するのに有用である。
【0099】
[医薬組成物]
本発明はまた、本発明の抗プレキシンA1アゴニスト抗体を含有する医薬組成物を提供
する。本発明の抗プレキシンA1アゴニスト抗体は、上記の通り、3型セマフォリン、好
ましくはSema3Aの量的あるいは質的な機能低下が関連する疾患(例えば乾癬およびアトピ
ー性皮膚炎の掻痒、アレルギー性鼻炎、骨粗鬆症、関節リウマチや全身性エリテマトーデ
スを含む自己免疫疾患、炎症性疾患、および腫瘍)の治療・予防剤として有用である。ま
た、本発明の抗プレキシンA1アゴニスト抗体を医薬組成物として用いる場合には、人に
対する抗原性などの点からヒト抗体、ヒト化抗体であることが好ましい。
【0100】
本発明の医薬組成物には、薬学的に許容される担体が含まれてもよい。薬学的に許容さ
れる担体としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤(アスコ
ルビン酸等)、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、防腐剤、界面活性剤(PEG、Twe
en等)、キレート剤(EDTA等)、または結合剤等を挙げることができる。また、その他の低
分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン等の蛋白質、
グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンおよびリシン等のアミノ酸、多糖およ
び単糖等の糖類や炭水化物、マンニトールやソルビトール等の糖アルコールを含んでいて
もよい。注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬
を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウ
ムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(
プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と
併用してもよい。
【0101】
また、本発明の医薬組成物は、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセル
ロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コ
ロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロ
エマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharm
aceutical Science 16th edition", Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬
剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J. Biomed. Mater. Re
s., 1981, 15:167-277; Langer, Chem. Tech., 1982, 12:98-105; US3773919; EP58481;
Sidman et al., Biopolymers, 1983, 22:547-556; EP133988)。
【0102】
患者への投与は経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与で
ある。本発明の医薬組成物の形態(剤型)としては、特に制限はなく、注射剤型、経鼻投
与剤型、経肺投与剤型、経皮投与剤型、凍結乾燥剤型、溶液剤型などが挙げられる。
【0103】
凍結乾燥は、当業者に周知の方法によって実施できる(Pharm. Biotechnol., 2002, 13
, 109-33、Int. J. Pharm., 2000, 203(1-2), 1-60、Pharm. Res., 1997, 14(8), 969-97
5)。例えば、溶液を凍結乾燥に用いるバイアル等の容器に適当量分注し、凍結庫または
凍結乾燥庫中にて行なうか、アセトン/ドライアイス及び液体窒素などの冷媒中に浸漬し
て行う。また、抗体製剤を高濃度溶液製剤にする場合は、当業者に周知の方法によって実
施できる。例えば、J. Pharm. Sc., 2004, 93(6), 1390-1402に記載されているように、T
FF膜を利用した膜濃縮法が用いられる。
【0104】
注射剤型は、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身
または局部的に投与することができる。また、患者の年齢、症状によって適宜投与方法を
選択することができる。投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgか
ら1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001~100000m
g/bodyの範囲で投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明はこれらの投与量およ
び投与方法等に制限されるものではない。
【0105】
抗プレキシンA1アゴニスト抗体の治療的・予防的有効量とは、対象に投与された場合
に、疾患または障害に関連した症状または活性を予防、遅延、軽減、または阻害するのに
有効であるアゴニストの量を意味する。投与は、単回投与または複数回投与からなってよ
く、かつ、他の薬学的組成物と組み合わせて与えてもよい。
【0106】
[キット]
本発明は、少なくとも本発明の抗プレキシンA1アゴニスト抗体もしくは医薬組成物を
含む、3型セマフォリン、好ましくはSema3Aの量的あるいは質的な機能低下が関連する疾
患を予防および/または治療するためのキットを提供する。特に、抗プレキシンA1アゴ
ニスト抗体もしくは医薬組成物を含む、乾癬およびアトピー性皮膚炎の掻痒、アレルギー
性鼻炎、骨粗鬆症、関節リウマチや全身性エリテマトーデスを含む自己免疫疾患、炎症性
疾患、および腫瘍を予防および/または治療するためのキットを提供する。該キットには
、その他、注射筒、注射針、薬学的に許容される媒体、アルコール綿布、絆創膏、または
使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
【0107】
また、本発明は、本発明の抗プレキシンA1アゴニスト抗体、または医薬組成物の、3
型セマフォリン、好ましくはSema3Aの量的あるいは質的な機能低下が関連する疾患の予防
および/または治療剤の製造における使用に関する。特に、抗プレキシンA1アゴニスト
抗体、または医薬組成物の、乾癬およびアトピー性皮膚炎の掻痒、アレルギー性鼻炎、骨
粗鬆症、関節リウマチや全身性エリテマトーデスを含む自己免疫疾患、炎症性疾患、およ
び腫瘍の予防および/または治療剤の製造における使用に関する。
また、本発明は、3型セマフォリン、好ましくはSema3Aの量的あるいは質的な機能低下
が関連する疾患の予防および/または治療のための、本発明の抗プレキシンA1アゴニス
ト抗体または医薬組成物に関する。特に、乾癬およびアトピー性皮膚炎の掻痒、アレルギ
ー性鼻炎、骨粗鬆症、関節リウマチや全身性エリテマトーデスを含む自己免疫疾患、炎症
性疾患、および腫瘍の予防および/または治療のための、抗プレキシンA1アゴニスト抗
体、または医薬組成物に関する。
【0108】
本発明の抗プレキシンA1アゴニスト抗体または医薬組成物は他の治療剤と併用するこ
とができる。本発明の抗プレキシンA1アゴニスト抗体または医薬組成物は、他の治療剤
と同時に投与してもよく、または、時期をずらして投与してもよい。また、本発明の抗プ
レキシンA1アゴニスト抗体または医薬組成物と他の治療剤を組み合わせたキットとして
実施してもよい。さらに、本発明の抗プレキシンA1アゴニスト抗体または医薬組成物と
他の治療剤を併用する場合は、いずれかを単独で用いる場合に比べて、所望により各々の
投与量を少なくすることも可能である。
【0109】
本明細書において用いる場合、「・・・を含む(comprising)」との表現により表され
る態様は、「本質的に・・・からなる(essentially consisting of)」との表現により
表される態様、ならびに「・・・からなる(consisting of)」との表現により表される
態様を包含する。
【0110】
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書
に参照として取り込まれる。
【0111】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、下記の実施例に限定されるもの
ではない。
【実施例0112】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限さ
れるものではない。
【0113】
[実施例1:セマフォリン3Aリコンビナントタンパク質の調製]
マウスセマフォリン3Aタンパク質は、NCBI Reference Sequence NP_033178.2の配列を
基に遺伝子合成を行い、プロテアーゼ認識サイトのアルギニン残基(552番目、555番目、7
58番目、760番目、761番目)をアラニンに変換した。シグナルペプチド(N末端から20番目
のアラニンまで)を人工シグナルペプチドHMM+38(配列番号7)に置換し、該人工シグナ
ルペプチドと21番目のアスパラギンの間に、グルタミン酸-アスパラギン酸-アルギニンの
スペーサー介してHisタグ配列を挿入した。さらに、C末端は771番目のセリンと772番目の
バリンを欠失させた。作製したマウスセマフォリン3Aリコンビナントタンパク質のアミノ
酸配列を配列番号1に示した。作製した遺伝子は発現ベクターに組み込みInvitrogen社Fr
eeStyle293細胞に導入して発現させ、培養上清からセマフォリン3Aタンパク質をHisTrap
excel(GE Healthcare社)を用いたAffinity精製とゲルろ過クロマトグラフィーにより精
製した。
【0114】
ヒトセマフォリン3Aタンパク質は、NCBI Reference Sequence NP_006071.1の配列を基
に遺伝子合成を行い、プロテアーゼ認識サイトのアルギニン残基(552番目、555番目、757
番目、759番目、760番目)をアラニンに変換した。シグナルペプチド(N末から20番目のア
ラニン)を人工シグナルペプチドHMM+38(配列番号7)に置換し、該人工シグナルペプチ
ドと21番目のアスパラギンの間に、グルタミン酸-アスパラギン酸-アルギニンのスペーサ
ー介してHisタグ配列を挿入した。さらに、C末端にはFLAGタグ配列(配列番号5)を挿入
した。作製したヒトセマフォリン3Aリコンビナントタンパク質のアミノ酸配列を配列番号
2に示した。作製した遺伝子は発現ベクターに組み込みInvitrogen社FreeStyle293細胞に
導入して発現させ、培養上清からセマフォリン3Aタンパク質をHisTrap excel(GE Health
care社)を用いたAffinity精製とゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した。
【0115】
[実施例2:マウス樹状細胞退縮を指標にしたマウスセマフォリン3A活性の評価系構築]
樹状細胞の細胞形態収縮におけるセマフォリン3Aタンパク質の作用を評価するために、
マウス骨髄由来樹状細胞を用いた退縮アッセイ(collapse assay)を実施した。退縮アッ
セイは、以下の方法により行なった。
【0116】
マウス骨髄由来樹状細胞は、稲葉ら(J Exp Med., 1992, 176(6):1693-702)の方法に
準じて調製した。10%のFBS(Moregate社)およびマウスGM-CSF(40ng/mL; R&D systems)
を含有したRPMI1640培地(ナカライテスク社)にてマウス骨髄由来樹状細胞を懸濁し、そ
の懸濁液を2×104細胞/wellにて96ウェルプレートに播種した後に、37℃で12~24時間培
養した。10%のFBS含有RPMI1640培地を用いてマウスセマフォリン3Aタンパク質を適切な濃
度に希釈し、細胞培養液に添加した後、37℃でさらに5時間保温した。4%のパラホルムア
ルデヒドを含むPBSで処理することにより細胞を固定化し、0.1%トライトンX-100を含有す
るPBS溶液で処理することにより細胞膜の透過処理を行って、Alexa Fluor 488(登録商標
)でラベルされたファロイジンおよびDAPIを含有するPBSで処理することにより、それぞ
れアクチン重合体(F-アクチン)および核を染色した。細胞形態の画像はArrayScan VTI
(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて取得した。それらの画像
は解析用ソフトウェアであるCellomics-vHCSTM:Scan(サーモフィッシャーサイエンティ
フィック株式会社)のMorphology v4プロトコルを用いて解析し、樹状細胞の形態の変化
は%High Object Convex Hull Area Ratioという指標を用いて数値化した。
【0117】
12~24時間の培養後、樹状細胞は偽足を伸ばしたような紡錘型の細胞形態を示したが、
マウスセマフォリン3A存在下において、37℃でさらに5時間培養することにより、細胞形
態の退縮が誘導された。その時の細胞形態の退縮を前述の方法で数値化した結果を
図1に
示す。
【0118】
[実施例3:ビオチン標識ヒトPlexinA1の調製]
単回膜貫通タンパク質であるヒトプレキシンA1(hPlexinA1)の細胞外領域を以下のよ
うに調製した。NCBI Reference Sequence NP_115618.3(配列番号3)のアミノ酸配列を
もとに合成されたhPlexinA1遺伝子から、膜貫通領域と予想される1245番目のアラニン以
降を除去し、代わりにFLAGタグ配列(配列番号5)を付加した。さらに1-26番目までのシ
グナルペプチド(配列番号6)を人工シグナルペプチドHMM+38(配列番号7)に置換した。作
製されたhPlexinA1(配列番号4)をコードする遺伝子を動物細胞用発現ベクターに組み
込み、293Fectin (Invitorgen)を用いてFreeStyle293細胞(Invitorgen)に導入した。この
とき、目的遺伝子の発現効率の向上のため、EBNA1(配列番号8)を発現する遺伝子を同
時に導入した。前述の手順に従って遺伝子導入された細胞を37℃、8% CO2で6日間培養し
、目的のタンパク質を培養上清中に分泌させた。
【0119】
目的のhPlexinA1を含む細胞培養液を0.22μmボトルトップフィルターでろ過し、培養上
清を得た。D-PBS(-)(和光純薬)で平衡化された抗FLAG抗体M2アガロース(Sigma-Aldrich)
に培養上清をアプライした後、FLAGペプチドを溶解したD-PBSを加えることにより目的のh
PlexinA1を溶出させた。次に、D-PBS(-)で平衡化されたSuperdex 200(GEヘルスケア)を用
いたゲルろ過クロマトグラフィーにより、hPlexinA1を含む画分を分取した。
【0120】
上述のように作製された可溶型hPlexinA1に対してEZ-Link NHS-PEG4-Biotin (Thermo S
CIENTIFIC)を用いることにより、ビオチン標識hPlexinA1が調製された。
【0121】
[実施例4:可溶型マウスPlexinA1タンパク質の作製]
可溶型マウスPlexinA1タンパク質は、NCBI Reference Sequence NP_032907.1(配列番
号52)の細胞外ドメインまでのアミノ酸配列を元に設計し、シグナルペプチド(N末端か
ら24番目のイソロイシンまで)を人工シグナルペプチドHMM+38(配列番号7)に置換し、C
末端にはFLAGタグ配列(配列番号5)を挿入した。作製したアミノ酸配列を(配列番号1
6)に示した。作製した遺伝子は発現ベクターに組み込みInvitrogen社FreeStyle293細胞
に導入して発現させ、培養上清から可溶型マウスPlexinA1タンパク質を抗FLAG M2抗体 ア
フィニティーゲル(Sigma-Aldrich社)を用いたAffinity精製とゲルろ過クロマトグラフ
ィーにより精製した。
【0122】
[実施例5:抗PlexinA1抗体の作製]
以下の方法でウサギに免疫を行い、抗マウスPlexinA1抗体を作製した。
ウサギへの免疫は、初回は完全フロイントアジュバント(CFA)に含ませた可溶型マウ
スPlexinA1タンパク質もしくは可溶型ヒトPlexinA1タンパク質を皮内に合計100μg注射し
た。その後、可溶型マウスPlexinA1タンパク質もしくは可溶型ヒトPlexinA1タンパク質を
各回50μgずつ1週間以上の間隔を空けて、不完全フロイントアジュバント(IFA)に含ま
せて2回以上の追加免疫を行った。
【0123】
その後、免疫したウサギからの組織採取および単一細胞懸濁液の調製を行った。具体的
には、血清抗体価が上昇した個体から脾臓、血液を取得し、血液からは末梢血単核球(PB
MC)を調製した。末梢血単核球はフィコール法により調製した。脾臓は採取後、セルスト
レーナー(BD Falcon)を通して処理することで、単一細胞懸濁液を作製した。0.5% BSA
を含むPBS(-)でビオチン化した可溶型PlexinA1タンパク質を細胞に添加し、細胞を懸濁し
た。細胞懸濁液は、氷上で30分間保温した。0.5% BSAを含むPBS(-)で洗浄し、細胞に結合
していないビオチン化した可溶型PlexinA1タンパク質を除去した。MACSストレプトアビジ
ンビーズ(Miltenyi Biotec)を細胞に加え、懸濁して氷上で保温した。洗浄した後、aut
oMACS Pro Separatorを用いてMACSストレプトアビジンビーズが結合している陽性細胞画
分を回収した。anti-rabbit IgG-PEを細胞に添加し、氷上で保温した後、細胞懸濁液はFA
CSAria (BD)を用いて、PEの蛍光値が高い画分の細胞を回収した。
【0124】
回収したB細胞の培養は以下の方法で行った。活性化ウサギT細胞馴化培地と、EL4細胞(
European Collection of Cell Cultures)を添加しておいた96ウェルプレートに回収した
細胞を播種した。活性化ウサギT細胞馴化培地とは、ウサギから採取した胸腺細胞を、Phy
tohaemagglutinin (Roche社)、phorbol 12-myristate 13-acetate(Sigma-Aldrich社)と
FBSを含むRPMI-1640で培養して調製した培地である。これらの細胞を37℃、5% CO2の条件
で5~12日間培養した後に、分泌抗体を含有する上清を一部回収した。上清中のウサギ抗
体のマウスPlexinA1への結合活性を評価した。
【0125】
結合活性が確認されたB細胞からTotal RNAを回収し、RT-PCRによりH鎖およびL鎖の抗体
可変領域の遺伝子を合成した。ウサギ抗体H鎖定常領域配列(配列番号17)およびウサギ
抗体L鎖定常領域配列(配列番号18)と連結して抗体発現ベクターを調製した。同一ウェ
ル由来のH鎖およびL鎖発現ベクターを混合してFreeStyle293 (Invitrogen)に遺伝子導入
し、培養上清から抗体を精製した。
【0126】
精製抗体を用いてマウスPlexinA1発現細胞株を用いたELISA法により抗原結合活性を評
価した。結果を
図2に示した。抗マウスPlexinA1抗体PXB361b、PXB693, PXB727は、抗体
濃度依存的にマウスPlexinA1を発現させた細胞株特異的に結合していることが確認された
。PXB361bのH鎖、L鎖の可変領域アミノ酸配列を配列番号19、20に、PXB693のH鎖、L
鎖の可変領域アミノ酸配列を配列番号41、42に、PXB727のH鎖、L鎖の可変領域アミノ
酸配列を配列番号43、44に示した。実施例2に記載のセマフォリン3A依存性マウス骨
髄由来樹状細胞退縮アッセイ系を用いて抗マウスPlexinA1抗体のアンタゴニスト活性を評
価した。結果を
図3に示した。取得した抗マウスPlexinA1抗体PXB361bは、濃度依存的に
樹状細胞の退縮抑制が観察され、セマフォリン3Aのシグナルを抑制するアンタゴニスト活
性を示すことが確認された。
【0127】
[実施例6:セルELISAによる抗体評価]
上記で得られた抗体は、以下の手順でセルELISAに供された。まず、384ウェルプレート
を準備し、マウスPlexinA1発現Ba/F3細胞、Ba/F3細胞(実施例11参照)をそれぞれ別の
ウェルの底面に捕捉した。当該プレートの各ウェルをPBSで洗浄した後、調製した抗体を2
0μL/wellで添加し、室温で1時間静置した。その後、各ウェルを0.05% Tween20-PBSで洗
浄し、2% FBS-PBSで10000倍希釈したHRP標識抗ウサギIgG抗体(Betyl, A120-101P)を20uL/
wellずつ添加し、室温で1時間静置した。当該プレートの各ウェルを0.05% Tween20-PBSで
洗浄後、基質液(ABTS peroxidase substrate system)を20μL/wellずつ分注し、室温で1
時間発色させた後、Molecular Device社製SpectraMaxにて405nmの吸光度を測定すること
によって、マウスPlexinA1への結合を確認した。
【0128】
[実施例7:ヒト抗体ナイーブライブラリの作製]
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型としてPC
R法により抗体重鎖可変領域および抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリを増幅した。
【0129】
作製した抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリと抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリ
を組合せ、ファージミドベクターへ挿入し、ヒト抗体配列からなるFabドメインを提示す
るヒト抗体ファージディスプレイライブラリを構築した。構築方法として、Methods Mol
Biol., (2002) 178, 87-100を参考にした。上記ライブラリの構築に際しては、ファージ
ミドのFabとファージpIIIタンパク質をつなぐリンカー部分、および、ヘルパーファージp
IIIタンパク遺伝子のN2ドメインとCTドメインの間にトリプシン切断配列が挿入されたフ
ァージディスプレイライブラリの配列が使用された。
【0130】
[実施例8:ビーズパンニングによるヒト抗体ナイーブライブラリからのhPlexinA1に結
合する抗体断片の取得]
構築したファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生を行
った。ファージ産生を行った大腸菌の培養液に2.5M NaCl/10%PEGを添加することによって
、沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによりファージライブラリ液を得た
。次に、ファージライブラリ液にBSAおよびCaCl2を添加することによって終濃度4% BSA,
1.2 mM カルシウムイオンとなるよう調製した。パンニング方法としては、一般的な方法
である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法を参照した(J. Immunol. Me
thods., (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods., (2001) 247 (1-2),191-203、B
iotechnol. Prog., (2002) 18(2) 212-20、Mol. Cell Proteomics, (2003) 2 (2), 61-9
)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-
coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)を用い
た。
【0131】
具体的には、調製したファージライブラリ液に、前述の250 pmolのビオチン標識hPlexi
nA1を加えることによって、当該ファージライブラリ液を室温にて60分間抗原と接触させ
た。BSAでブロッキングした磁気ビーズを加え、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズ
と室温にて15分間結合させた。ビーズを1mLの1.2 mM CaCl2/TBST(1.2 mM CaCl2を含むTB
ST)にて3回洗浄した後、1 mLの1.2 mM CaCl2/TBS(1.2 mM CaCl2を含むTBS)にてさらに
2回洗浄した。その後、ビーズに1mg/mLのトリプシン0.5 mLを加え、室温で15分懸濁した
後、即座に磁気スタンドを用いてビーズを分離し、ファージ溶液を回収した。回収したフ
ァージ溶液を、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株ER2738に添加し
た。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌
に感染させた。感染させた大腸菌は、225 mm x 225 mmのプレートへ播種した。次に、播
種した大腸菌の培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリ液を調
製し、2回目のパンニングに利用した。
【0132】
2回目のパンニングでは、調製したファージライブラリ液に40 pmolのビオチン標識抗原
を加え、1回目のパンニングと同様の操作を行うことにより、ファージライブラリ液を調
製した。この調製液を利用して、3回目のパンニングを行った。
【0133】
3回目のパンニングでは、調製したファージライブラリ液に10 pmolのビオチン標識抗原
を加え、1、2回目のパンニングと同様の操作を行い、播種された大腸菌を回収した。
【0134】
[実施例9:ファージELISAによる評価]
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Bio
l., (2002) 178, 133-145)に従って、ファージ含有培養上清を回収した。
【0135】
Skim milkおよびCaCl2を加えたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供
された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)を、ビオチン標識抗原を含
む100μLのPBSで一晩コートした。当該プレートの各ウェルをPBSTで洗浄することによっ
て抗原を除いた後、当該ウエルを0.02% skim milk-TBS 250μLにて1時間以上ブロッキン
グした。0.02% skim milk-TBSを除いた各ウェルに、調製した培養上清を加えた当該プレ
ートを37℃で1時間静置することにより、ファージに提示された抗体を、各ウエルに存在
する抗原に結合させた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄した後、1.2 mM CaCl2/TBSによって2
5,000倍希釈されたHRP結合抗M13抗体(GE Healthcare, 27-9421-01)を各ウエルに添加し、
1時間インキュベートさせた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄後、TMB solution (LifeTechno
logies, 00-2023)を添加した各ウエル中の溶液の発色反応を、硫酸の添加により停止した
後、450 nmの吸光度によって当該発色を測定した。
【0136】
上記のファージELISAを実施したクローンに対し、特異的なプライマーを用いて増幅し
た遺伝子の塩基配列解析を行い、上記のファージELISAおよび配列解析の結果から、3回目
のパンニングのプールを抗体断片から完全長のヒト抗体に変換し、更なる評価に供した。
【0137】
[実施例10:抗体断片から完全長抗体への変換、発現および精製]
3回目のパンニング時に回収した大腸菌から、NucleoBond Xtra Midi Plus (MACHEREY-N
AGEL, 740412.50)によってファージミドの抽出を行った。その後、制限酵素処理によって
抗体の可変領域部分を切出し、EF1プロモーターとEBNA1の複製開始点であるOriPを保持す
るベクターに抗体定常領域が導入されているカセットベクターに、ライゲーションを行っ
た。ライゲーション産物を用いて、大腸菌DH5α(TOYOBO, DNA-903)を形質転換し、得られ
たシングルコロニーから動物細胞発現用の完全長抗体プラスミドの抽出を行った。
【0138】
抗体の発現は以下の方法を用いて行った。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Inv
itrogen)をFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁し、5.0×104細
胞/wellの細胞密度で96ウエルプレートの各ウェルへ190μLずつ播種した。調製したそれ
ぞれのプラスミドを、リポフェクション法によって細胞導入した。CO2インキュベーター
(37度、8%CO2)中で5日間培養し、培養上清中に抗体を分泌させた。培養上清中の分泌抗
体は、Multi screen HTS GV (Millipore, MSGVN2250)を用いて精製した。
【0139】
[実施例11:ヒトおよびマウスPlexinA1発現細胞の構築]
抗原発現細胞株は以下の方法で構築した。CAGプロモーターとネオマイシン耐性遺伝子
を保持するpCXND3ベクターに、シグナルペプチドをHMM+38(配列番号7)に置換したヒト
PlexinA1(NCBI Reference Sequence NP_115618.3)又はマウスPlexinA1(NCBI Referenc
e Sequence NP_032907.1)の膜貫通領域までの部分(ヒト1300番目まで、マウス12
90番目まで)を、C末側にMycタグ(配列番号51)を融合させたタンパク質として発現
するようにコンストラクトしたcDNAを挿入したプラスミドを作製した。作製したヒトPlex
inA1のアミノ酸配列を配列番号15、マウスPlexinA1のアミノ酸配列を配列番号37にそ
れぞれ示す。
【0140】
作製したプラスミドは制限酵素PvuIで切断し直鎖状にした後、Ba/F3細胞にGenePulser
X cell(Bio-Rad)でエレクトロポレーション法により導入した。導入後、限界希釈法によ
り96 well plateに播種し、G418で選抜をかけた。1~2週間後、選抜をかけた細胞がウェ
ルの中でシングルコロニーを形成しているかどうか目視で確認し、シングルコロニーを形
成しているものについて細胞を一部回収し、Mycタグ抗体を用いたウエスタンブロット解
析を行った。また、並行して、細胞を96 well plateに捕捉して4%パラホルムアルデヒド
、アセトン、メタノールにより固定化し、細胞膜に穴があいた状態の細胞にMycタグ抗体
が反応するかどうかをELISA法により調べた。これらのウエスタンブロット解析およびELI
SA法に結果から、ヒトおよびマウスPlexinA1がBa/F3細胞に発現していることを確かめた
。
【0141】
[実施例12:セルELISAによる評価]
実施例10で得られた抗体上清は、以下の手順でセルELISAに供された。まず、384ウェ
ルプレートを準備し、ヒトPlexinA1およびマウスPlexinA1発現Ba/F3細胞をそれぞれ別の
ウェルの底面に捕捉した。当該プレートの各ウェルをPBSで洗浄した後、調製した抗体上
清を20μL/wellで添加し、室温で1時間静置した。その後、各ウェルを1M Hepes (pH7.4)
で洗浄し、TBSで5000倍希釈したHRP標識抗ヒトIgG抗体(Invitrogen, AHI0304)を20μL/we
llずつ添加、室温で1時間静置した。当該プレートの各ウェルを1M Hepes (pH7.4)で洗浄
後、基質液(ABTS peroxidase substrate system)を20μL/wellずつ分注し、室温で1時間
発色させた後、Molecular Device社製SpectraMaxにて405nmの吸光度を測定することによ
って、ヒトPlexinA1への結合およびマウスPlexinA1への結合を確認した。
【0142】
ヒトPlexinA1/BaF3への吸光度が0.2以上かつマウスPlexinA1/BaF3への吸光度が0.2以上
の抗体を選抜し、後述のin vitro 活性評価アッセイに供した。例として、
図4及び表1
に示す吸光度値を示した抗体を、ヒトマウス交叉性PlexinA1抗体(hPANL#240、hPANL#359
)として選抜した。
図4における縦軸はセルELISAでの吸光度値(405nm)であり、数値は表
1に示した。hPANL#240のH鎖のアミノ酸配列を配列番号9、L鎖のアミノ酸配列を配列番
号10に示す(表2も参照)。
【0143】
【0144】
【0145】
[実施例13:選抜した抗体のAffinity maturation]
実施例12で選抜したhPANL#359について、当業者公知の方法でアフィニティーマチュ
レーションを行った。具体的には、(Biochemical and Biophysical Research Communicat
ions, (2000), 275, 2, 553-557)などを参照し、当該抗体の軽鎖部分をヒト軽鎖ライブラ
リで置換したライブラリを新たに作製後、ビオチン標識ヒトPlexinA1に対して2回パンニ
ング操作を実施した。得られた大腸菌のシングルコロニーから、ファージ含有培養上清を
回収し、前述の方法と同様にファージELISAを実施した。
【0146】
ファージELISAにおいて抗原を固相化したウェルでの発色が見られた当該クローンの大
腸菌から、塩基配列解析を実施した。また、当該大腸菌からファージミドを抽出し、動物
細胞発現ベクターに導入した。その後、リポフェクション法によりFreeStyle 293-F株(I
nvitrogen)に導入し、抗体が分泌された培養上清を得た。
【0147】
[実施例14:取得した抗体の結合能の確認]
実施例13で調製した抗体培養上清を用い、ヒトPlexinA1への結合能の確認を、Octet
RED384 (ForteBIO)を用いて行った。具体的には、Protein G Biosensor (ForteBIO)に1.2
5 μg/mLに希釈した抗体培養上清を固相化し、続いてヒトPlexinA1をアプライし、バイオ
センサーに固相された抗体と抗原との結合レスポンスを測定した。
【0148】
その結果、ヒトPlexinA1への結合が確認された抗体を数種類取得した。359B2-2-3-6(H
鎖は配列番号11、L鎖は配列番号12)は、Affinity maturation前の親抗体よりも結合
能が向上した抗体である。
【0149】
【0150】
また、ヒト抗体ナイーブライブラリから取得したこれらの抗体を後述の方法でマウスキ
メラ化した抗体(hPANL#240-mFc:H鎖配列番号13、L鎖配列番号10、359B2-2-3-6-mFc
:H鎖配列番号14、L鎖配列番号12)、および免疫ウサギ由来マウスキメラ抗体(PXB693
-mFc:H鎖配列番号45、L鎖配列番号46、PXB727-mFc:H鎖配列番号47、L鎖配列番号
48、PXB361b-mFc:H鎖配列番号49、L鎖配列番号50)について、ヒトマウス交叉性を
Octet RED384 (ForteBIO)を用いて評価した。尚、ヒト抗体ナイーブライブラリ由来の抗
体については、L鎖はキメラ化を行わなかった。
【0151】
【0152】
具体的には、Protein G Biosensor (ForteBIO)に、10倍希釈HBS-EP+ (GE healthcare,
BR-1006-69)により10μg/mLに調製した当該抗体を固相化し、HBS-EP+で260 nMに調製した
ヒトおよびマウスPlexinA1をアプライした。Protein G Biosensorは10 mmol/L Glycine-H
Cl, pH1.5 (GE healthcare, BR-1003-54)を用いて再生を行った。測定後、結合量の算出
には、解析用ソフトウエア Data analysis 7.0 (ForteBIO)を用いた(
図5)。この結果か
ら、PXB361b, PXB693, PXB727はマウスPlexinA1にのみ結合性を示し、hPANL#240, 359B2-
2-3-6はヒトマウス交叉性抗体であることが示された。
図5において縦軸はヒトおよびマ
ウスPlexinA1への結合量である。
【0153】
[実施例15:マウスキメラ化抗体の作製]
当該抗体の重鎖可変領域部分を特異的なプライマーで増幅し、マウスの重鎖定常領域断
片とともに、制限酵素により線状化された動物細胞発現用ベクターにIn-Fusion HD cloni
ng kit(タカラバイオ)を用いてクローニングした。hPANL#240、359B2-2-3-6、PXB693、PX
B727についてはマウスIgG2a由来の重鎖定常領域を、PXB361bについてはマウスIgG1由来の
重鎖定常領域を用いた。
【0154】
また、PXB693, PXB727, PXB361bの軽鎖可変領域部分を特異的なプライマーで増幅し、
マウス軽鎖定常領域とともに、制限酵素により線状化された動物細胞発現用ベクターにIn
-Fusion HD cloning kit(タカラバイオ)を用いてクローニングした。
【0155】
マウス定常領域を持つ重鎖発現ベクターと、ヒト軽鎖配列発現ベクターもしくはマウス
定常領域を持つ軽鎖発現ベクターを用いて、リポフェクション法によりFreeStyle 293-F
株(Invitrogen)に導入した。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で5日間
培養後、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公
知の方法により、上記で得られた培養上清から抗体を精製した。分光光度計を用いて精製
された抗体溶液の280 nmでの吸光度を測定し、PACE法により算出された吸光係数を用いる
ことによって、得られた測定値から抗体濃度を算出した(Protein Science, (1995) 4, 2
411-2423)。
【0156】
[実施例16:エピトープビニング]
実施例15で作製した5種類のマウスキメラ抗体(PXB361b-mFc、PXB693-mFc、PXB727-mF
c、hPANL#240-mFc、359B2-2-3-6-mFc)について、どの2抗体の組み合わせにおいても、抗
原であるマウスPlexinA1に競合せずに結合できるか否かを、Octet RED 384 (ForteBIO)を
用いて検証した。競合パターンの検証により、5種類のマウスキメラ化抗体をエピトープ
によってグルーピングすることが可能となる。一般的なエピトープビニングの手法を参照
して実施した(mAbs (2012) 5:2, 270-278)。
【0157】
具体的には、5個のProtein G Biosensorに、”Ab1”として10μg/mLに調製した5種類の
抗体(仮に、抗体A~Eとする)をそれぞれ固相化させ、260 nMに調製したマウスPlexinA1
をアプライし、その後、”Ab2”として抗体Aを、5種類の”Ab1”が固相化された5個のセ
ンサーに結合させた。Protein G Biosensorを10 mmol/L Glycine-HCl, pH1.5 (GE health
care, BR-1003-54)を用いて再生を行った後、再度5種類の”Ab1”をセンサーに固相化し
、抗原をアプライさせた後、今度は”Ab2”として抗体Bを結合させた。バイオセンサーを
再生しながら、この操作を抗体Eまで行った。
【0158】
パラメーターの算出には、解析用ソフトData analysis 7.0 (ForteBIO)を用いた。抗体
Aと抗体Bが競合している場合、固相化抗体Aに結合している抗原に、抗体Bの結合レスポン
スは見られない。また、抗体Aと抗体Bが非競合の場合には、固相化抗体Aに結合している
抗原に、抗体Bの結合レスポンス上昇を確認することができる。
【0159】
{”Ab2;抗体B”を抗原に結合させて200秒後の結合レスポンス}から{”Ab1;抗体A”に
結合している抗原の結合レスポンス}を差し引いた値を{”Ab1;抗体B”のProtein G Bios
ensorへの固相化レスポンス}で割った値を、抗体Bの抗体Aに対する競合率とした(
図6)。
Ab2としてPXB693を用いた。
【0160】
その結果、アンタゴニスト抗体として取得されたPXB361bは、アゴニスト抗体として取
得された他の4抗体とは競合しないことが明らかとなった。また、4種類のアゴニスト抗体
同士(PXB693, PXB727, hPANL#240, 359B2-2-3-6)は、競合していることが示された。
【0161】
[実施例17:xCELLigence systemを用いたU87-MG細胞に対するセマフォリン3A活性の評
価系構築]
ヒト細胞におけるセマフォリン3Aタンパク質の作用を評価するために、xCELLigence sy
stem(ACEA社)を用いたアッセイを実施した。xCELLigence systemでは専用のプレート底
面に配置されたマクロ電極と細胞接着面に生じる電気抵抗値から、形態変化や遊走等を評
価できるシステムである。アッセイは、以下の方法により行なった。
【0162】
5%FBS含有EMEM培地(ATCC社)で培養したヒトグリア芽腫由来細胞株であるU87-MG細胞
を使用した。U87-MG細胞をxCELLigence system専用plateであるE-plate 96(ACEA社)に1
×10
4細胞/wellの濃度で播き、37℃で12-24時間培養した。その後ヒトセマフォリン3Aを5
%FBS含有EMEM培地で適切な濃度に希釈して細胞培養液に添加し、xCELLigence system(AC
EA社)で各ウェルのCell index値を測定した。セマフォリン3A添加1時間後のCell index
値を
図7に示した。セマフォリン3Aによる濃度依存的なCell index値の低下が確認された
。尚、Cell index値を細胞の形態の大きさ、あるいは細胞の接着強度の指標として用いた
。
【0163】
[実施例18:抗マウスPlexinA1抗体の活性評価]
実施例2に記載のマウスセマフォリン3A依存性マウス骨髄由来樹状細胞退縮アッセイ系
を用いて、作製した抗マウスPlexinA1抗体および抗ヒト/マウスPlexinA1抗体の活性を評
価した。具体的には、FBSおよびマウスGM-CSFを含有したRPMI1640培地にてマウス骨髄由
来樹状細胞を2×10
4細胞/wellにて96ウェルプレートに播種し37℃で12~24時間培養した
。抗マウスPlexinA1抗体および抗ヒト/マウスPlexinA1抗体、コントロールとして同じア
イソタイプの抗KLH抗体およびマウスセマフォリン3Aを10%のFBS含有RPMI1640培地で適切
な濃度に希釈し、細胞培養液に添加し37℃で5時間培養した。次に、実施例2に記載の方
法によって樹状細胞の細胞形態の退縮を数値化し評価した。結果を
図8に示した。抗マウ
スPlexinA1抗体(PXB693-mFc, PXB727-mFc)および抗ヒト/マウスPlexinA1抗体(359B2-
2-3-6-mFc)は、濃度依存的に樹状細胞の退縮を促進し、セマフォリン3Aのシグナルと同
様の活性を示すことが確認された。
【0164】
[実施例19:抗ヒト/マウスPlexinA1抗体の活性評価]
実施例17に記載のxCELLigence systemによるヒトセマフォリン3A活性測定系を用いて
、作製した抗ヒト/マウスPlexinA1抗体の活性を評価した。U87-MG細胞を、xCELLigence
system専用plateであるE-plate 96(ACEA社)に1×10
4細胞/wellの濃度で播き、37℃で12
-24時間培養した。抗ヒト/マウスPlexinA1抗体及びコントロールとして同じアイソタイ
プの抗KLH抗体を5%FBS含有EMEM培地で適切な濃度に希釈し、ウェルに添加して1時間後の
各ウェルのCell index値を測定した。結果を
図9に示した。抗ヒト/マウスPlexinA1抗体
(hPANL#240, 359B2-2-3-6)は、濃度依存的にCell indexを低下させ、セマフォリン3Aの
シグナルと同様の活性を示すことが確認された。
【0165】
[実施例20:マウスPlexinA1 sema domainリコンビナントタンパク質の作製]
マウスPlexinA1 sema domainタンパク質遺伝子は、NCBI Reference Sequence NP_03290
7.1の配列を基にシグナルペプチド(N末端から24番目のイソロイシンまで)を人工シグナル
ペプチドHMM+38(配列番号7)に置換し、512番目のセリンの後にFLAGタグ(配列番号5
)と終始コドンを付加した配列をコードするよう設計し、遺伝子合成にて作製した。アミ
ノ酸配列を配列番号38に示した。作製した遺伝子は発現ベクターに組み込みInvitrogen
社FreeStyle293細胞に導入して発現させ、培養上清からマウスPlexinA1 sema domainタン
パク質を抗FLAG M2抗体アフィニティーゲル(Sigma-Aldrich社)を用いたAffinity精製と
ゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した。
【0166】
[実施例21:マウスPlexinA2 sema domainリコンビナントタンパク質の作製]
マウスPlexinA2 sema domainタンパク質遺伝子は、NCBI Reference Sequence NP_03290
8.2の配列(配列番号53)を基に、シグナルペプチド(N末端から31番目のグリシンまで)
を人工シグナルペプチドHMM+38(配列番号7)に置換し、510番目のセリンの後にFLAGタ
グ(配列番号5)と終始コドンを付加した配列をコードするよう設計し、遺伝子合成にて
作製した。アミノ酸配列を配列番号39に示した。作製した遺伝子は発現ベクターに組み
込みInvitrogen社FreeStyle293細胞に導入して発現させ、培養上清からマウスPlexinA2 s
ema domainタンパク質を抗FLAG M2抗体アフィニティーゲル(Sigma-Aldrich社)を用いた
Affinity精製とゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した。
【0167】
[実施例22:マウスPlexinA1/A2 sema domainキメラタンパク質の調製]
マウスPlexinA1/A2 sema domainキメラタンパク質遺伝子は、NCBI Reference Sequence
NP_032907.1の配列を基にシグナルペプチド(N末端から24番目のイソロイシンまで)を人工
シグナルペプチドHMM+38(配列番号7)に置換し、マウスPlexinA1 sema domainタンパク
質の458番目のイソロイシン以降の配列に、マウスPlexinA2 sema domainタンパク質の459
番目のアルギニンから510番目のセリンの配列とFLAGタグ(配列番号5)および終始コド
ンを付加した配列をコードするよう設計し、遺伝子合成にて作製した。アミノ酸配列を配
列番号40に示した。作製した遺伝子は発現ベクターに組み込みInvitrogen社FreeStyle2
93細胞に導入して発現させ、培養上清からマウスPlexinA1/A2 sema domainタンパク質を
抗FLAG M2抗体 アフィニティーゲル(Sigma-Aldrich社)を用いたAffinity精製とゲルろ
過クロマトグラフィーにより精製した。
【0168】
[実施例23:抗PlexinA1抗体の結合部位領域の特定]
実施例15で作製したマウスキメラ抗体PXB693-mFc(マウスIgG2a)、PXB727-mFc(マ
ウスIgG2a)、PXB361b-mFc(マウスIgG1)、およびそれぞれのアイソタイプのKLH抗体をP
rotein G固定化磁気ビーズに結合させたのち、実施例20~22で調製したタンパク質溶
液と反応させた。反応後磁気ビーズを回収し、4倍希釈した試料用緩衝液(3-メルカプト-1
,2-プロパンジオール含有、和光純薬)を添加して加熱処理を行った。3種類のマウスPlex
inA1 sema domainタンパク質と、ビーズから遊離したタンパク質をSDS-PAGEで展開し、PV
DF膜に転写後iBind Western System (Life Technologies)を用いてアルカリフォスファタ
ーゼ標識抗FLAG抗体(Sigma-Aldrich社)と反応させた後、BCIP-NBT溶液キット(ナカライ
テスク)を用いて目的タンパク質を検出した。ウェスタンブロットの結果を
図10に示す
。この結果、アゴニスト抗体(PXB693-mFc,PXB727-mFc)は、PlexinA1のアミノ酸配列の
うち、
図11の下線部に示す領域を認識することが明らかとなった。この領域は、
図12
に示したヒトPlexinA1 sema domainの下線部の領域に相当する。下線部におけるヒトPlex
inA1 sema domainとマウスPlexinA1 sema domainの相同性は相当高いため、これまでのデ
ータから、本発明の抗ヒトプレキシンA1アゴニスト抗体はヒトプレキシンA1の下線部内に
存在するエピトープに結合することでアゴニストとしての作用・効果を発揮していると考
えられる。尚、実施例20~22に記載を参照して、ヒトPlexinA1 sema domainリコンビ
ナントタンパク質、ヒトPlexinA2 sema domainリコンビナントタンパク質及びヒトPlexin
A1/A2 sema domainキメラタンパク質を作成し、実施例23に記載の方法でhPANL#240、35
9B2-2-3-6が結合する領域を確認することが出来る。