IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧 ▶ 独立行政法人情報通信研究機構の特許一覧

特開2023-154192種類のTBK1/IKKe阻害剤を利用した核酸導入
<>
  • 特開-2種類のTBK1/IKKe阻害剤を利用した核酸導入 図1
  • 特開-2種類のTBK1/IKKe阻害剤を利用した核酸導入 図2
  • 特開-2種類のTBK1/IKKe阻害剤を利用した核酸導入 図3
  • 特開-2種類のTBK1/IKKe阻害剤を利用した核酸導入 図4
  • 特開-2種類のTBK1/IKKe阻害剤を利用した核酸導入 図5
  • 特開-2種類のTBK1/IKKe阻害剤を利用した核酸導入 図6
  • 特開-2種類のTBK1/IKKe阻害剤を利用した核酸導入 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015419
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】2種類のTBK1/IKKe阻害剤を利用した核酸導入
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20230125BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230125BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20230125BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 15/87 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K45/06
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K31/436
A61K31/506
A61P43/00 105
C12N15/87 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020000088
(22)【出願日】2020-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 英知
(72)【発明者】
【氏名】土屋 惠
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 賢人
(72)【発明者】
【氏名】平岡 泰
(72)【発明者】
【氏名】原口 徳子
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA20
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086BC42
4C086CB22
4C086GA07
4C086GA09
4C086MA02
4C086MA04
4C086ZB21
4C086ZC20
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】細胞内への核酸導入を効率的に行う手段を提供すること。
【解決手段】細胞を少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤で処理することを含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤で処理することを含む、方法(但し、核酸認識Toll様受容体阻害剤で細胞を処理する工程を含まない)。
【請求項2】
細胞への核酸導入効率を向上させため、又は核酸導入前に細胞を前処理するための、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤がAmlexanoxを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤が少なくともAmlexanoxとBX795との組み合わせ、又は少なくともAmlexanoxとMRT67307との組み合わせを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
Amlexanoxを含み、BX795及び/又はMRT67307と組み合わせて使用されることを特徴とする、細胞への核酸導入効率向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
TBK1/IKKe阻害剤を利用した核酸導入に関する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療薬の多くは細胞内に遺伝子を運びこむベクターとして主にウイルスベクターを使用している。ウイルスベクターは、ウイルスの感染機構を利用しているため、細胞内に遺伝子を導入し、発現させる効率が比較的高い特徴を有する。しかし、ウイルスベクターは導入効率が高い半面、染色体へのランダムな遺伝子挿入によるガン化の危険性が問題視されている。より高い特異性及び明確な作用点を持つ非ウイルスベクター又は短い核酸断片を用いた核酸医療は、その安全性、特異性の高さ、及び化学合成が容易であること等の利点を有するが、膜透過性に乏しく、臓器又は細胞の種類によって取り込み効率に差がある。そのため、特に全身投与で治療に用いる場合には高価な核酸が大量に必要となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-127200号公報
【特許文献2】US 2019/0264228 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞内への核酸導入を効率的に行う手段を提供することが1つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.
細胞を少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤で処理することを含む、方法(但し、核酸認識Toll様受容体阻害剤で細胞を処理することを含まない)。
項2.
細胞への核酸導入効率を向上させるため、又は核酸導入前に細胞を前処理するための、項1に記載の方法。
項3.
該少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤がアザキサントン誘導体であるTBK1/IKKe阻害剤及びピリミジン誘導体であるTBK1/IKKe阻害剤を含む、項1又は2に記載の方法。
項4.
該少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤がAmlexanoxを含む、項1~3のいずれかに記載の方法。
項5.
該少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤が少なくともAmlexanoxとBX795との組み合わせ、又は少なくともAmlexanoxとMRT67307との組み合わせを含む、項1~4のいずれかに記載の方法。
項6.
Amlexanoxを含み、BX795及び/又はMRT67307と組み合わせて使用されることを特徴とする、細胞への核酸導入効率向上剤。
項7.
核酸認識Toll様受容体阻害剤と組み合わせて使用されない、項5に記載の細胞への核酸導入効率向上剤。
項A.
細胞を少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤で処理することを含む、方法。
項B.
細胞への核酸導入効率を向上させるため、又は核酸導入前に細胞を前処理するための、項Aに記載の方法。
項C.
該少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤がアザキサントン誘導体であるTBK1/IKKe阻害剤及びピリミジン誘導体であるTBK1/IKKe阻害剤を含む、項Aに記載の方法。
項D.
該少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤がAmlexanoxを含む、項A~Cのいずれかに記載の方法。
項E.
該少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤が少なくともAmlexanoxとBX795との組み合わせ、又は少なくともAmlexanoxとMRT67307との組み合わせを含む、項A~Dのいずれかに記載の方法。
項F.
細胞を少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤で処理することを含む、核酸を細胞に導入する方法。
項G.
更に核酸を細胞に導入することを含む、項Fに記載の方法。
項H.
核酸認識Toll様受容体阻害剤で細胞を処理することを含まない、項Gに記載の方法。
項I.
細胞への核酸の導入が必要な患者に、少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤を投与することを含む、方法。
項J.
核酸認識Toll様受容体阻害剤を投与することを含まない、項Iに記載の方法。
項K.
更に核酸を投与することを含む、項I又はJに記載の方法。
項L.
該少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤がアザキサントン誘導体であるTBK1/IKKe阻害剤及びピリミジン誘導体であるTBK1/IKKe阻害剤を含む、項F~Kのいずれかに記載の方法。
項M.
該少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤がAmlexanoxを含む、項F~Lのいずれかに記載の方法。
項N.
該少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤が少なくともAmlexanoxとBX795との組み合わせ、又は少なくともAmlexanoxとMRT67307との組み合わせを含む、項F~Mのいずれかに記載の方法。
項O.
少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤を投与することが、核酸を投与することと同時、その前、又はその後に行われる、項I~Nのいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
効率的な遺伝子導入を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】野生型マウス線維芽細胞(MEF)、p62遺伝子欠損マウス線維芽細胞(p62KO MEF)、p62タンパクを発現させたp62遺伝子欠損マウス線維芽細胞(p62KO MEF +p62WT) 、S405がリン酸化されない変異型p62タンパクを発現させたp62遺伝子欠損マウス線維芽細胞(p62KO MEF +SA) 、にLuciferase発現ベクターを0~200ngで導入し、28時間後にLuciferase活性を測定した結果を示す。縦軸は相対的Luciferase活性(luc/RT)を示す。
図2】野生型マウス線維芽細胞(MEF)およびp62遺伝子欠損マウス線維芽細胞(p62KO MEF)にBX795 1μMを添加したのちLuciferase発現ベクターを0または100ngで導入し、28時間後にLuciferase活性を測定した結果を示す。縦軸はBX795添加時の活性を100%とした相対的Luciferase活性(luc/RT)を示す。 DMSO(溶媒)は阻害剤未添加のコントロールとして用いた。
図3】野生型マウス線維芽細胞(MEF) にTBK1阻害剤(BX795、Amlexanox、BX795 とAmlexanoxの混合剤)をそれぞれ添加したのちLuciferase発現ベクターを導入し、28時間後にLuciferase活性を測定した結果を示す。DMSO(溶媒)は阻害剤未添加のコントロールとして用いた。縦軸は阻害剤未添加時の相対的Luciferase活性(luc/RT)を1としたときの相対的活性値を示す。
図4】野生型マウス線維芽細胞(MEF) にTBK1 阻害剤を一剤または二剤添加したのちLuciferase発現ベクター100ngを導入し、28時間後にLuciferase活性を測定した結果を示す。DMSO(溶媒)は阻害剤未添加のコントロールとして用いた。縦軸は阻害剤未添加時の相対的Luciferase活性(luc/RT)を1としたときの相対的活性値を示す。
図5】ヒト子宮頸がん由来細胞株(HeLa)、ヒト前立腺癌由来株(LNCaP)、ヒトT細胞白血病由来細胞株(Jurkat)、ヒト急性単球白血病由来細胞株(THP-1)にTBK1阻害剤(BX795、Amlexanox、BX795とAmlexanoxの混合剤)を添加したのちLuciferase発現ベクターを導入し、28時間後にLuciferase活性を測定した結果を示す。DMSO(溶媒)は阻害剤未添加のコントロールとして用いた。縦軸は阻害剤未添加時の相対的Luciferase活性(luc/RT)を1としたときの相対的活性値を示す。
図6】野生型マウス線維芽細胞(MEF)にTBK1阻害剤(BX795、Amlexanox、BX795とAmlexanoxの混合剤)を一剤または二剤添加したのちGFP発現ベクター2μgを導入し、30時間後にGFPの発現を蛍光顕微鏡にて観察した。DMSO(溶媒)は阻害剤未添加のコントロールとして用いた。
図7】野生型マウス線維芽細胞(MEF)に表記のTBK1阻害剤(BX795、Amlexanox、BX795とAmlexanoxの混合剤)を一剤または二剤添加したのちGFP発現ベクター2μgを導入し、30時間後にGFPの発現を蛍光顕微鏡にて観察した。DMSO(溶媒)は阻害剤未添加のコントロールとして用いた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
方法は、少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤で細胞を処理することを含むことが好ましい。TBK1/IKKe阻害剤とは、TBK1キナーゼ及び/又はIKKeキナーゼの阻害剤である。TBK1は、TANK結合キナーゼ1と称されることもある。IKKeキナーゼは、IKKε、IκKε、Iκキナーゼε、又はIKK3と称されることもある。TBK1とIKKeとは、密接に関連し、一方の阻害剤は一般的に他方の阻害剤でもある。
【0009】
TBK1/IKKe阻害剤の種類は任意であり特に制限されない。TBK1/IKKe阻害剤は、TBK1キナーゼ及び/又はIKKeキナーゼの阻害剤又はその機能を阻害する性質/機能を有すると知られている物質、或いは、今後そのような機能を有することが判明する物質であってもよい。一実施形態において、TBK1/IKKe阻害剤のTBK1キナーゼ及び/又はIKKeキナーゼに対するIC50は、500nM以下、200nM以下、又は100nM以下であることが好ましい。
【0010】
TBK1/IKKe阻害剤の具体例としては、次を挙げることができる:BX795 (N-(3-((5-iodo-4-((3-(2-thienylcarbonyl)amino)propyl)amino)-2-pyrimidinyl)amino)phenyl)-1-pyrrolidinecarboxamide, CAS 702675-74-9); BX320 (N-(3-((5-bromo-2-(3-(pyrrolidine-1-carbonylamino)anilino)pyrimidin-4-yl)amino)propyl)-2,2-dimethyl propanediamide, CAS 702676-93-5); Cay10576 (5-(5,6-dimetboxybenzimidazol-1-yl)-3-(2-methanesulphonyl-benzyloxy)-thio-phene-2-carbonitrile, CAS 862812-98-4); Cay10575 (5-(5,6-dimethoxybenzimidazol-1-yl)-3-((4-methylsulphonyl)phenyl)methoxy)-2-thiophenecarboxamide, CAS 916985-21-2); Amlexanox (2-amino-7-(-methylethyl)-5-oxo-5H-[1]Benzopyrano[2,3-b]pyridine-3-carbox-ylic acid, CAS 68302-57-8); MRT-67307 (N-[3-[[5-cyclopropyl-2-[[3-(4-morpholinylmethyl)phenyl]amino]-4-pyrimidi-nyl]amino]propyl]-cyclobutanecarboxamide, CAS 1190378-57-4); CYT387 (N-(cyanomethyl)-4-[2-[[4-(4-morpholinyl)phenyl]amino]-4-pyrimidinyl]-ben-zamide, CAS 1056634-68-4)。これらの化合物には、その塩(好ましくは、薬学的に許容可能な塩)の形態も含まれる。
【0011】
その他、次の文献に記載されるTBK1/IKKe阻害剤を使用することもできる:SU6668 (Sugen Inc.), MPI-0485520 (Myriad Pharma), MCCK1 and the Amgen TBK 1 inhibitor (Compound II) (Ou et al.; Molecular Cell; 2011; 41; 458-470), EP1720864, WO2009030890, WO2010100431, WO2012059171, WO2012161877, WO2012161879, WO2013034238, WO2013024282, WO2013075785, WO2013117285, WO2014189806, WO2014128486, WO2014093936, WO2015134171, WO2016057338, US20150352108, US20160015709
【0012】
少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤は、TBK1/IKKe阻害剤を2種類以上含む限り、阻害剤を組み合わせは任意である。一実施形態において、TBK1/IKKe阻害剤はアザキサントン誘導体及び/又はピリミジン誘導体であることが好ましい。アザキサントン誘導体であるTBK1/IKKe阻害剤としては、例えば、Amlexanox(その塩を含む)であるを挙げることができる。ピリミジン誘導体であるTBK1/IKKe阻害剤としては、例えば、BX795(その塩を含む)及びMRT67307(その塩を含む)を挙げることができる。一実施形態において、少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤は、アザキサントン誘導体であるTBK1/IKKe阻害剤とピリミジン誘導体であるTBK1/IKKe阻害剤とを含むこと(これらの組み合わせ)が効率的な核酸導入を実現するという観点で好ましい。一実施形態において、少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤は、Amlexanox(その塩を含む)を含むことが効率的な核酸導入を実現するという観点で好ましい。一実施形態において、少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤は、BX795(その塩を含む)及び/又はMRT67307(その塩を含む)を含むことが好ましい。好適な一実施形態において、少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤は、AmlexanoxとBX795との組み合わせ、又はAmlexanoxとMRT67307との組み合わせを含むことが好ましい。これらの組み合わせは、後述する実施例で実証されるように、核酸導入作用に関する相乗効果を発揮する。
【0013】
少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤で処理される細胞の種類は、任意であり特に制限されない。目的に応じて種々の細胞から任意に選択することができる。例えば、細胞は動物、又は植物に由来し得る。一実施形態において、細胞は、哺乳類由来の細胞であることが好ましく、ヒト、イヌ、ネコ、ネズミ、ラット、サル、ヒツジ、ウシ、又はブタに由来することが好ましい。細胞は、成熟細胞又は幹細胞であり得る。幹細胞は、胚性幹細胞、体性幹細胞(例えば、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、及び皮膚幹細胞等)、又は人工幹細胞(例えば、iPS細胞)であり得る。細胞は、正常細胞又は癌細胞に由来し得る。一実施形態において好ましい細胞はiPS細胞又はES細胞である。一実施形態において、細胞は、核酸療法を必要とする患者から単離された細胞であることが好ましい。
【0014】
上述の方法は、細胞への核酸導入効率を向上させる手段、又は核酸導入前に細胞を前処理する手段として有効である。よって、一実施形態において、当該方法は、遺伝子治療と組み合わせて使用することができる。当該方法は、細胞への核酸導入及び/又は遺伝子治療に関連する任意の手順と組み合わせることができる。
【0015】
一実施形態において、上述の方法は、核酸認識Toll様受容体(TLR)阻害剤で細胞を処理することを含まないことが好ましい。これは、理論に拘束されるわけではないが、ウイルス感染などによって核酸認識TLRが活性化された細胞株においては、該阻害剤が所期の効果を発揮する可能性はあるが、生体や正常細胞、ウイルス感染をしていない細胞などでは核酸認識TLR阻害剤の効果は低いと考えられるためである。核酸認識TLR阻害剤としては、例えば、特許文献2に記載されたものを挙げることができる。具体的には、9-aminoacridine及び4-aminoquine(例えば、Quinacrine及びChloroquine)を挙げることができる。
【0016】
少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤で細胞を処理する様式は任意で有る。例えば、少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤を添加した培地で細胞を培養することで処理することができる。細胞が生体内に存在する場合は、生体から細胞を単離し、それを当該培地で培養することができる。培地に配合する少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤の量は特に制限されないが、例えば、0.01μM以上、0.1μM以上、0.5μM以上配合することができる。上限は特に制限されないが、例えば、10μM以下、5μM以下、2μM以下とすることができる。。少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤を生体(例えば、遺伝子治療を必要とする患者)に投与することで細胞と少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤とを接触させ、処理することもできる。各TBK1/IKKe阻害剤の投与量は特に制限されず、その目的、症状、体質等に応じて適宜調整することができる。例えば、各TBK1/IKKe阻害剤の投与量は、1mg/kg以上、5mg/kg以上、10mg/kg以上、又は20mg/kg以上とすることができる。投与量の上限は特に制限されないが、例えば、1000mg/kg以下、500mg/kg以下、又は100mg/kg以下とすることができる。
【0017】
核酸導入効率向上剤は、少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤を含むか、少なくとも1種類のTBK1/IKKe阻害剤を含み、他のTBK1/IKKe阻害剤と組み合わせて使用されることが好ましい。使用できるTBK1/IKKe阻害剤の種類などは上述のとおりである。一実施形態において、「少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤」又は「少なくとも1種類のTBK1/IKKe阻害剤」は、Amlexanoxを含み、BX795及び/又はMRT67307と組み合わせて使用されることが好ましい。一実施形態において、「少なくとも2種類のTBK1/IKKe阻害剤」又は「少なくとも1種類のTBK1/IKKe阻害剤」は、BX795及び/又はMRT67307を含み、Amlexanoxと組み合わせて使用されることが好ましい。核酸導入効率向上剤は、核酸導入効率向上作用を阻害しない限り、任意の他の成分を含み得る。
【0018】
上述の方法又は核酸導入効率向上剤での細胞の処理は、核酸を細胞に導入する前、同時、又は後に行うことができる。一実施形態において、細胞の処理は、核酸を導入すると同時又はその前に行うことが好ましく、予め行うことがより好ましい。
【0019】
細胞への核酸の導入は、核酸導入試薬を用いて行うことが好ましい。核酸導入試薬とは、一般にトランスフェクション試薬、又は核酸導入試薬として知られる試薬である。具体的な核酸導入試薬としては、例えば、次のものを挙げることができるがこれらに制限されない。ポリマー系核酸導入試薬;jetPRIME(PPU社)、jetPEI(PPU社)、jetPEI-HUVEC(PPU社):脂質系核酸導入試薬;Lipofectamine 3000(Invitrogen社)、Lipofectamine 2000(Invitrogen社)、Lipofectamine LTX(Invitrogen社)、Invivofectamine 2.0(Invitrogen社)、Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen社)、ScreenFect (和光純薬社)、 INTERFERin(PPU社)、INTERFERin HTS(PPU社)、Lullaby(OZB社)、GeneSilencer Reagent(GTS社)、LipoMag Kit(OZB社)、GenePORTER Gold Transfection Reagent(GTS社);DreamFect Gold(OZB社)、DreamFect(OZB社)、EcoTransfect(OZB社)、GenePORTER 3000(GTS 社)、GenePORTER 1/2(GTS社)、GenePORTER H(GTS社)、RmesFect(OZB社):磁気粒子系核酸導入試薬;SilenceMag(OZB社)、FluoMag-S(OZB社)、PolyMag Neo(OZB社)、PolyMag(OZB社)、CombiMag(OZB社)、FluoMag-P/FuloMag-C(OZB社)、Magnetofectamine Kit(OZB社)。
【0020】
細胞に導入する核酸の種類は任意であり、目的に応じて適宜選択することができる。導入する核酸は外来性の核酸であることが好ましい。ここで「外来性の核酸」とは、細胞に外部から導入される核酸を意味する。従って、ドナー細胞に内在する核酸と同一の核酸であっても、外部から新たに導入されたものである限り、「外来性の核酸」に含まれる。また、外部から導入された核酸が細胞内でプロセシングを受けて生成した核酸や、外部から発現ベクターの形態で導入された核酸の転写産物も、「外来性の核酸」に含まれる。
【実施例0021】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0022】
1.野生型および変異型p62タンパク発現による核酸導入効率
実験には野生型マウス繊維芽細胞(mouse embryonic fibroblast ; MEF)、p62遺伝子欠損マウス繊維芽細胞(p62KO MEF)、野生型p62タンパクを恒常的に発現させたp62遺伝子欠損マウス繊維芽細胞(p62KO MEF+p62WT)、405番目のSerineをAlanineへ置換した変異型p62タンパクを恒常的に発現させたp62遺伝子欠損マウス繊維芽細胞(p62KO MEF+SA)を用いた。10%牛胎児血清を加えたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma-Aldrich)を用い、5%CO2、37℃の恒温器で各細胞を培養した。前日に96 Well Flat Clear Bottom Microplate(Corning)に細胞を撒き、16時間後にLuciferase発現ベクター0~200ngを遺伝子導入試薬Lipofectamin 2000(Thermo Fisher Scientific Inc.) 0.14μLにて遺伝子導入を行なった。37℃で28時間培養ののち、RealTime-Glo MT Cell Viability Assay試薬(Promega)を添加し37℃ で1時間培養後、GloMax 96 Microplate Luminometer(Promega)にてRT活性の測定を行なった。続いてONE-Glo Luciferase assay試薬(Promega)を添加し、26℃ で10分間振倒培養後、GloMax 96 Microplate LuminometerにてLuciferase活性測定を行なった。ウエル毎に得られたLuciferase活性値をRT活性値で補正し、相対的Luciferase活性とした。各実験は3ウエルずつ行い、平均値および標準偏差を示す。
【0023】
図1に示す通り、p62KO MEFではMEFに比べて著しい遺伝子導入効率の上昇がみられるが、野生型p62タンパクを発現させると遺伝子導入効率の上昇は見られずMEFレベルまで減少する(p62KO MEF+p62WT)。一方p62KO MEFにリン酸化できない変異型p62タンパクを発現させると、p62KO MEFと同様の著しい遺伝子導入効率の上昇がみられた(p62KO MEF+SA)。これらの結果から、p62タンパクの有無が核酸の遺伝子導入効率に影響し、また405番目のセリンのリン酸化がその調節に重要であることが判明した。
【0024】
2.BX795による核酸導入効率
実験にはMEF、p62KO MEFを用いた。10%牛胎児血清を加えたDMEMを用い、5%CO2、37℃の恒温器で各細胞を培養した。前日に96 Well Flat Clear Bottom Microplateに細胞を撒き、14時間後にBX795を1μMの濃度で細胞に添加したのち、2時間後に遺伝子導入を行なった。阻害剤未添加時のコントロールとして、阻害剤の溶媒として用いたDMSOを添加した。遺伝子導入には遺伝子導入試薬 Lipofectamin 2000を使用し、Luciferase発現ベクター 0ngまたは100ngを用いた。37℃で 28時間培養ののち、RealTime-Glo MT Cell Viability Assay試薬を添加し37℃ で1時間培養後、GloMax 96 Microplate Luminometerにて RT活性の測定を行なった。続いてONE-Glo Luciferase assay試薬を添加し、26℃で10分間振倒培養後、GloMax 96 Microplate LuminometerにてLuciferase活性測定を行なった。ウエル毎に得られたLuciferase活性値をRT活性値で補正し、さらにBX795添加の上でベクター100ngを導入したLuciferase活性を100%とし、それぞれの相対的Luciferase活性を%表示でグラフ(図2)に示す。各実験は3ウエルずつ行い、平均値および標準偏差を示した。
【0025】
図2に示す通り、MEFにおいてBX795添加により著しい遺伝子導入効率の上昇がみられたが、一方p62KO MEFではほとんどその効果は見られなかった。この結果からTBK1阻害剤であるBX795の添加がp62のリン酸化を抑制し、遺伝子導入効率を上昇させることが可能であることが明らかとなった。
【0026】
3.TBK1阻害剤による核酸導入効率
実験にはMEFを用いた。10%牛胎児血清を加えたDMEMを用い、5%CO2、37℃の恒温器で培養した。前日に96 Well Flat Clear Bottom Microplateに細胞を撒き、14時間後にBX795 1μM(添加後最終濃度)またはAmlexanox 1.5μM(添加後最終濃度)、BX795 1μMとAmlexanox 1.5μM(添加後最終濃度)の二剤、をそれぞれ細胞に添加したのち、2時間後に遺伝子導入を行なった。阻害剤未添加時のコントロールとして、阻害剤の溶媒として用いたDMSOを添加した。遺伝子導入には遺伝子導入試薬 Lipofectamin 2000を使用し、Luciferase発現ベクター100ngを用いた。37℃で 28時間培養ののち、RealTime-Glo MT Cell Viability Assay試薬を添加し37℃ で1時間培養後、GloMax 96 Microplate LuminometerにてRT活性の測定を行なった。続いてONE-Glo Luciferase assay試薬を添加し、26℃で10分間振倒培養後、GloMax 96 Microplate LuminometerにてLuciferase活性測定を行なった。ウエル毎に得られたLuciferase活性値をRT活性値で補正し、DMSO添加時の補正後Luciferase活性を1とした相対的活性値をグラフ(図3)に示す。各実験は3ウエルずつ行い、平均値および標準偏差を示した。
【0027】
図3に示す通り、BX795は遺伝子導入効率を未添加時と比較して約5倍上昇させるが、BX795 とAmlexanox の二剤添加では約22倍の上昇が認められた。Amlexanox単独では約4倍の上昇しか見られないことから、二剤添加での上昇は両者の相乗的な効果であることが明らかとなった。
【0028】
4.TBK1阻害剤の二剤添加による核酸導入効率
実験にはMEFを用いた。10%牛胎児血清を加えたDMEMを用い、5%CO2、37℃の恒温器で培養を行なった。前日に96 Well Flat Clear Bottom Microplateに細胞を撒き、14時間後にBX795 1μM(添加後最終濃度)またはMRT67307 1μM(添加後最終濃度)、Amlexanox 1.5μM(添加後最終濃度)、BX795 1μMとAmlexanox 1.5μM(添加後最終濃度)の二剤、MRT67307 1μMとAmlexanox 1.5μM(添加後最終濃度)の二剤、BX795 1μMとMRT67307 1μM(添加後最終濃度)の二剤、をそれぞれ細胞に添加したのち、2時間後に遺伝子導入を行なった。阻害剤未添加時のコントロールとして、阻害剤の溶媒として用いたDMSOを添加した。遺伝子導入には遺伝子導入試薬 Lipofectamin 2000を使用し、Luciferase発現ベクター100ngを用いた。37℃ で28時間培養ののち、RealTime-Glo MT Cell Viability Assay試薬を添加し37℃ で1時間培養後、GloMax 96 Microplate LuminometerにてRT活性の測定を行なった。続いてONE-Glo Luciferase assay試薬を添加し、26℃で10分間振倒培養後、GloMax 96 Microplate LuminometerにてLuciferase活性測定を行なった。ウエル毎に得られたLuciferase活性値をRT活性値で補正し、DMSO添加時の補正後Luciferase活性を1とした相対的活性値をグラフ(図4)に示す。各実験は3ウエルずつ行い、平均値および標準偏差を示した。
【0029】
図4に示す通り、MEFにおいてBX795と同様にMRT67307についても、Amlexanoxとの顕著な遺伝子導入効率の相乗効果が認められた。しかしBX795とMRT67307の二剤添加による相乗効果は認められなかった。
【0030】
5.各種細胞におけるTBK1阻害剤による核酸導入効率
実験にはヒト子宮頸癌由来のHeLa、ヒト前立腺癌由来のLNCaP、ヒトT細胞性白血病由来のJurkat、ヒト急性単球性白血病由来のTHP-1を用いた。HeLaには10%牛胎児血清を加えたDMEMを用い、LNCaPおよび Jurkatには10%牛胎児血清を加えたRPMI 1640培地(Sigma-Aldrich)、THP-1には10%牛胎児血清および0.05mMの2-メルカプトエタノールを加えたRPMI 1640培地を用いて5%CO2、37℃の恒温器で培養を行なった。前日に96 Well Flat Clear Bottom Microplateに細胞を撒き、14時間後にBX795 1μM(添加後最終濃度)またはAmlexanox 1.5μM(添加後最終濃度)、BX795 1μMとAmlexanox 1.5μM(添加後最終濃度)の二剤、をそれぞれ細胞に添加したのち、2時間後に遺伝子導入を行なった。阻害剤未添加時のコントロールとして、阻害剤の溶媒として用いたDMSOを添加した。遺伝子導入には遺伝子導入試薬 Lipofectamin 2000を使用し、Luciferase発現ベクター100ngを用いた。37℃で28時間培養ののち、RealTime-Glo MT Cell Viability Assay試薬を添加し37℃ で1時間培養後、GloMax 96 Microplate LuminometerにてRT活性の測定を行なった。続いてONE-Glo Luciferase assay試薬を添加し、26℃で10分間振倒培養後、GloMax 96 Microplate LuminometerにてLuciferase活性測定を行なった。ウエル毎に得られたLuciferase活性値をRT活性値で補正し、DMSO添加時の補正後Luciferase活性を1とした相対的活性値をグラフ(図5)に示す。各実験は3ウエルずつ行い、平均値および標準偏差を示した。
【0031】
図5に示す通り、様々な癌細胞においてBX795は遺伝子導入効率を未添加時と比較し数倍上昇させ、BX795 とAmlexanox の二剤添加ではさらに上昇が認められた。この結果から様々な細胞においてTBK1阻害剤が有用であることが示された。
【0032】
6.BX795による核酸導入効率への影響
実験にはMEFを用いた。細胞には10%牛胎児血清を加えたDMEMを用い、5%CO2、37℃の恒温器で培養を行なった。前日に6ウエルマイクロプレート(IWAKI)に細胞を撒き、14時間後にBX795 1μM(添加後最終濃度)またはAmlexanox 1.5μM(添加後最終濃度)、BX795 1μMとAmlexanox 1.5μM(添加後最終濃度)の二剤、をそれぞれ細胞に添加したのち、2時間後に遺伝子導入を行なった。阻害剤未添加時のコントロールとして、阻害剤の溶媒として用いたDMSOを添加した。遺伝子導入には遺伝子導入試薬 Lipofectamin 2000 4μLを使用し、GFP発現ベクター2μgを用いた。37℃で30時間培養ののちGFP蛍光シグナルを蛍光倒立顕微鏡(Leica DM IL LED)にて観察した。
【0033】
図6に示す通り、MEFにおいてBX795によりGFPタンパクの発現量が未添加時(DMSO)と比較して明らかに増加し、BX795とAmlexanoxの二剤添加ではさらに増加が認められた。これらの結果からBX795とAmlexanoxの二剤添加による相乗的な遺伝子導入効率の上昇が確認された。
【0034】
7.MRT67307による核酸導入効率への影響の確認
実験にはMEFを用いた。細胞には10%牛胎児血清を加えたDMEMを用い、5%CO2、37℃の恒温器で培養を行なった。前日に6ウエルマイクロプレートに細胞を撒き、14時間後にMRT67307 1μM(添加後最終濃度)、Amlexanox 1.5μM(添加後最終濃度)、MRT67307 1μMとAmlexanox 1.5μM(添加後最終濃度)の二剤、をそれぞれ細胞に添加したのち、2時間後に遺伝子導入を行なった。阻害剤未添加時のコントロールとして、阻害剤の溶媒として用いたDMSOを添加した。遺伝子導入には遺伝子導入試薬 Lipofectamin 2000 4μLを使用し、GFP発現ベクター2μgを用いた。37℃で30時間培養ののちGFP蛍光シグナルを蛍光倒立顕微鏡にて観察した。
【0035】
図7に示す通り、MEFにおいてMRT67307についてもGFPタンパクの発現量が未添加時(DMSO)と比較して明らかに増加し、MRT67307とAmlexanoxの二剤添加ではさらに増加が認められた。これらの結果からMRT67307とAmlexanoxの二剤添加による相乗的な遺伝子導入効率の上昇が確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7