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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154194
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20231012BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20231012BHJP
   C04B 16/02 20060101ALI20231012BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/38 Z
C04B16/02
B28B1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063346
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 秀和
【テーマコード(参考)】
4G052
4G112
【Fターム(参考)】
4G052DA01
4G052DB12
4G052DC06
4G112PA22
4G112PB39
(57)【要約】
【課題】ノズルからの押出性が良好で、かつ積層後の自立性も良好な積層造形用の水硬性組成物を提供する。
【解決手段】(A)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び/又はヒドロキシエチルメチルセルロースである水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(B)消泡剤、(C)セメント、(D)水及び(E)ダイユータンガムを含有し、(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのアルコキシ基の置換度(DS)が1.6~2.0であり、かつ該水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が50~1000mPa・sであり、(D)成分の水の添加量が、前記セメント100質量部に対して25~70質量部である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルメチルセルロースから選ばれる少なくとも1つである水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(B)消泡剤、(C)セメント、(D)水及び(E)ダイユータンガムを含有する水硬性組成物であって、
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのアルコキシ基の置換度(DS)が1.6~2.0であり、かつ該水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が50~1000mPa・sであり、(D)成分の水の添加量が、前記セメント100質量部に対して25~70質量部である水硬性組成物。
【請求項2】
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの添加量が、セメント100質量部に対して0.1~0.6質量部である請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
(E)成分のダイユータンガムの添加量が、セメント100質量部に対して0.01~0.3質量部である請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースがヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、その熱ゲル化温度が55~65℃である請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースがヒドロキシエチルメチルセルロースであって、その熱ゲル化温度が68~83℃である請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
積層造形用である請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンティングによる積層造形に適した水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンティングとは、3次元データを基に断面形状を積層し、立体造形を行う手法(積層造形法)である。主な3Dプリンティングの方式は4種に大別され、結合材噴射方式(液状結合材を粉末油化に噴射して選択的に固化させる)、指向性エネルギー堆積方式(熱の発生位置を制御し、材料を選択的に溶解及び結合させる)、材料噴射方式(材料の液滴を噴射し、選択的に堆積し固化させる)、材料押出方式(流動性のある材料をノズルから押出し、固化させる)等が挙げられる。
【0003】
セメント系材料を3Dプリンティングに用いる場合には、これらの中でも材料押出方式が適しているが、この場合の材料に求められる特性としては、ノズルからの押出性と積層後の自立性であり、これらは相反する特性であることから、両立させることが困難であった。
【0004】
特開2020-105023号公報(特許文献1)では、この問題を解決するために、セルロース系増粘剤とシリカフュームの含有量の関係を規定することによって、押出性と積層後の自立性の両立を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-105023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、セルロース系増粘剤の1質量%水溶液粘度をせん断速度毎に規定しているが、シリカフュームを含有した水硬性組成物は非常にチキソトロピックになるため、セルロース系増粘剤の特性が活かされず、吐出性に劣る等の所望の効果が得られない場合があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、材料押出方式の3Dプリンティングに好適であり、ノズルからの押出性が良好で、かつ積層後の自立性も良好な水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、特定の置換度(DS)及び水溶液粘度を有する水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、消泡剤、セメント、水及びダイユータンガムを使用することにより、得られる水硬性組成物についてノズルから押出す際の圧力が低く、かつ積層後の自立性が良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記の水硬性組成物を提供する。
1.
(A)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルメチルセルロースから選ばれる少なくとも1つである水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(B)消泡剤、(C)セメント、(D)水及び(E)ダイユータンガムを含有する水硬性組成物であって、
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのアルコキシ基の置換度(DS)が1.6~2.0であり、かつ該水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が50~1000mPa・sであり、(D)成分の水の添加量が、前記セメント100質量部に対して25~70質量部である水硬性組成物。
2.
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの添加量が、セメント100質量部に対して0.1~0.6質量部である1に記載の水硬性組成物。
3.
(E)成分のダイユータンガムの添加量が、セメント100質量部に対して0.01~0.3質量部である1又は2に記載の水硬性組成物。
4.
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースがヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、その熱ゲル化温度が55~65℃である1又は2に記載の水硬性組成物。
5.
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースがヒドロキシエチルメチルセルロースであって、その熱ゲル化温度が68~83℃である1又は2に記載の水硬性組成物。
6.
積層造形用である1又は2に記載の水硬性組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、材料押出方式の3Dプリンティングに適したセメント系材料であり、ノズルからの押出性が良好であり、かつ積層後の自立性も良好である水硬性組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る水硬性組成物について説明する。
本発明に係る水硬性組成物は、(A)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルメチルセルロースから選ばれる少なくとも1つである水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(B)消泡剤、(C)セメント、(D)水及び(E)ダイユータンガムを含有する水硬性組成物であって、(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのアルコキシ基の置換度(DS)が1.6~2.0であり、かつ該水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が50~1000mPa・sであり、(D)成分の水の添加量が、前記セメント100質量部に対して25~70質量部であることを特徴とするものである。
【0012】
本発明に係る水硬性組成物は、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、消泡剤、セメント、水及びダイユータンガムを含有する水硬性組成物である。
【0013】
((A)成分)
本発明で用いられる水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)から選ばれる少なくとも1つである。
【0014】
本発明で用いられる水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基の置換度(DS)は、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から1.6~2.0、好ましくは1.6~1.95、より好ましくは1.6~1.93、更に好ましくは1.65~1.93である。また、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるヒドロキシアルコキシ基の置換モル数(MS)は、夏季使用時の溶解性の観点から、好ましくは0.05~0.6、より好ましくは0.1~0.5、更に好ましくは0.15~0.4である。
【0015】
なお、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基のDSは、置換度(degree of substitution)を表し、無水グルコース1単位当たりのアルコキシ基の平均個数をいう。また、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるヒドロキシアルコキシ基のMSは、置換モル数(molar substitution)を表し、無水グルコース1モル当たりのヒドロキシアルコキシ基の平均モル数をいう。水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基のDS及びヒドロキシアルコキシ基のMSは、第18改正日本薬局方記載のヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)の置換度分析法により測定できる値を換算することで求めることができる。
【0016】
本発明で用いられる水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度は、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から、50~1,000mPa・s、好ましくは100~800mPa・s、より好ましくは200~700mPa・s、更に好ましくは300~600mPa・sである。なお、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%水溶液の粘度は、B型粘度計を用いて測定できる。
【0017】
ここで、(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースは、そのアルコキシ基の置換度(DS)が1.6~2.0であり、かつ該水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が50~1000mPa・sであり、好ましくはそのアルコキシ基の置換度(DS)が1.6~1.95であり、かつ該水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が100~800mPa・sであり、より好ましくはそのアルコキシ基の置換度(DS)が1.65~1.93であり、かつ該水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が300~600mPa・sである。
【0018】
また、前記水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基の置換度(DS)、ヒドロキシアルコキシ基の置換モル数(MS)及び20℃における2質量%水溶液粘度の好適な組合せとしては、(A)成分がヒドロキシプロピルメチルセルロースである場合においては、好ましくはメトキシ基の置換度(DS):1.6~2.0、かつヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS):0.05~0.6、かつ20℃における2質量%水溶液粘度:50~1000mPa・sであり、より好ましくはメトキシ基の置換度(DS):1.6~1.95、かつヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS):0.1~0.5、かつ20℃における2質量%水溶液粘度:100~800mPa・sであり、更に好ましくはメトキシ基の置換度(DS):1.65~1.93、かつヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS):0.15~0.4、かつ20℃における2質量%水溶液粘度:300~600mPa・sである。また、(A)成分がヒドロキシエチルメチルセルロースである場合においては、好ましくはメトキシ基の置換度(DS):1.6~2.0、かつヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS):0.05~0.6、かつ20℃における2質量%水溶液粘度:50~1000mPa・sであり、より好ましくはメトキシ基の置換度(DS):1.6~1.95、かつヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS):0.1~0.5、かつ20℃における2質量%水溶液粘度:100~800mPa・sであり、更に好ましくはメトキシ基の置換度(DS):1.65~1.93、かつヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS):0.15~0.4、かつ20℃における2質量%水溶液粘度:300~600mPa・sである。
【0019】
本発明で用いられる水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの熱ゲル化温度は、夏季使用時の溶解性の観点から、(A)成分がヒドロキシプロピルメチルセルロースである場合においては、好ましくは55~65℃、より好ましくは55~64℃、更に好ましくは55~63℃である。また、(A)成分がヒドロキシエチルメチルセルロースである場合においては、好ましくは68~83℃、より好ましくは68~81℃、更に好ましくは68~80℃である。
【0020】
水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの熱ゲル化温度は、ねじれ振動型粘度計を用いて測定することができる。2質量%に調製した水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースを1℃/分の速度で20℃から昇温させた際、粘度が低下し始める温度を熱ゲル化温度とした。
【0021】
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの添加量は、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から、(C)成分のセメント100質量部に対して、好ましくは0.1~0.6質量部、より好ましくは0.15~0.55質量部、更に好ましくは0.2~0.5質量部である。
【0022】
((B)成分)
消泡剤は、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにより連行される気泡を抑制する働きを有する。気泡が多いと強度が低下したり、積層後の自立性に劣る等の弊害がある。本発明では消泡剤として、オキシアルキレン系、シリコーン系、アルコール系、鉱油系、脂肪酸系、脂肪酸エステル系等が使用される。
【0023】
オキシアルキレン系消泡剤としては、例えば、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2-エチルヘキシルエーテル、炭素数8以上の高級アルコールや炭素数12~14の2級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、3-メチル-1-ブチン-3-オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等が挙げられる。
【0024】
シリコーン系消泡剤としては、例えば、ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等が挙げられる。
アルコール系消泡剤としては、例えば、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等が挙げられる。
鉱油系消泡剤としては、例えば、灯油、流動パラフィン等が挙げられる。
脂肪酸系消泡剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
脂肪酸エステル系消泡剤としては、例えば、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等が挙げられる。
本発明においては、消泡性能の点から、オキシアルキレン系の消泡剤を使用することが好ましい。
【0025】
(B)成分の消泡剤の添加量は、水硬性組成物調製時に巻き込まれる気泡による積層後の自立性の低下及び水硬性組成物の強度等の観点から、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース100質量部に対して、好ましくは1~30質量部、より好ましくは3~29質量部、更に好ましくは5~28質量部である。
【0026】
((C)成分)
本発明で用いられるセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、超早強ポルトランドセメント等の各種のセメントが挙げられる。
【0027】
((D)成分)
本発明で用いられる水としては、水道水、海水等が挙げられるが、塩害防止の観点から、水道水が好ましい。
(D)成分の水の添加量は、セメント100質量部に対して25~70質量部であり、好ましくは28~67質量部、より好ましくは30~65質量部である。
また、水硬性組成物中の水の使用量は、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から、セメントと後述する細骨材の合計量に対して、好ましくは15~70質量%、より好ましくは16~65質量%、更に好ましくは17~60質量%である。
【0028】
((E)成分)
本発明では、(E)成分としてダイユータンガムを含む。
(E)成分のダイユータンガムの添加量は、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から、セメント100質量部に対して、好ましくは0.01~0.3質量部、より好ましくは0.02~0.25質量部、更に好ましくは0.02~0.2質量部である。
【0029】
(その他の成分)
本発明の水硬性組成物は、更に細骨材を配合することができる。細骨材としては、一般の生コン製造や左官用細骨材に用いられる川砂、山砂、海砂、陸砂、珪砂等が好適である。粒径は、好ましくは0.075~5mm、より好ましくは0.075~2mm、更に好ましくは0.075~1mmである。
【0030】
細骨材の使用量は、セメントと細骨材の合計量100質量部中15~85質量部が好ましく、より好ましくは20~80質量部、更に好ましくは25~75質量部である。
【0031】
また、細骨材の一部を無機増量材又は有機増量材と置き換えてもよい。この場合、無機増量材としては、フライアッシュ、高炉スラグ、タルク、炭酸カルシウム、シリカフューム、大理石粉(石灰石粉)、パーライト、シラスバルーン等が挙げられる。有機増量材としては、発泡スチレンビーズ、発泡エチレンビニルアルコールの粉砕物等が挙げられる。なお、無機増量材又は有機増量材は、粒径5mm以下のものが、通常使用され、これを好適に使用できる。
【0032】
本発明においては、更に、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の更なる改善を目的として、上記以外の他の水溶性高分子物質を使用することができる。この場合、水溶性高分子物質としては、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の合成高分子物質や、ペクチン、ゼラチン、カゼイン、ウェランガム、キサンタンガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、グアーガム等の天然物由来の高分子物質が挙げられる。水溶性高分子物質の添加量としては、セメント100質量部に対して、好ましくは0.01~1.0質量部、より好ましくは0.05~0.8質量部、更に好ましくは0.1~0.6質量部である。
【0033】
本発明の水硬性組成物では、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲で、公知の減水剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、短繊維、膨張材、収縮低減剤などを使用することができる。
【0034】
減水剤としては、ポリカルボン酸系として、ポリカルボン酸エーテル系、ポリカルボン酸エーテル系と架橋ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系と配向ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系と高変性ポリマーの複合体、ポリエーテルカルボン酸系高分子化合物、マレイン酸共重合物、マレイン酸エステル共重合物、マレイン酸誘導体共重合物、カルボキシル基含有ポリエーテル系、末端スルホン基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリマー、ポリカルボン酸系グラフトコポリマー、ポリカルボン酸系化合物、ポリカルボン酸エーテル系ポリマー等が挙げられる。メラミン系として、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩縮合物、メラミンスルホン酸塩ポリオール縮合物等が挙げられる。リグニン系として、リグニンスルホン酸塩及びその誘導体等が挙げられる。
本発明においては、減水効果、流動性・流動保持性の点からポリカルボン酸系の減水剤を使用することが好ましい。
減水剤の添加量は、セメント100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部である。
【0035】
凝結遅延剤としては、グルコン酸、クエン酸、グルコヘプトン等のオキシカルボン酸又はこれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム等の無機塩類、グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース、キシロース、アビトース、リポーズ、オリゴ糖、デキストラン等の糖類、ホウ酸等が挙げられる。凝結遅延剤の添加量は、セメント100質量部に対して0.005~10質量部が好ましい。
【0036】
凝結促進剤は、無機系化合物と有機系化合物とに大別される。無機系化合物としては、塩化カルシウム、塩化カリウム等の塩化物、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カルシウム等の亜硝酸塩、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム等の硝酸塩、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、明礬等の硫酸塩、チオシアン酸ナトリウム等のチオシアン酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム等の炭酸塩、水ガラス、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等のアルミナ系等が挙げられる。有機系化合物としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム等の有機酸のカルシウム塩、無水マレイン酸等が挙げられる。
凝結促進剤の添加量としては、セメント100質量部に対して0.005~10質量部が好ましい。
【0037】
短繊維としては、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、ガラス繊維、鋼繊維、バサルト繊維などが挙げられる。短繊維の添加量としては、セメント100質量部に対し、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~4質量部、更に好ましくは0.3~3質量部である。
【0038】
膨張材としては、エトリンガイト系膨張材、石灰系膨張材、エトリンガイト・石灰複合系膨張材が挙げられる。膨張材の添加量としては、セメント100質量部に対し、好ましくは0.5~30質量部、より好ましくは1~30質量部、更に好ましくは3~25質量部である。
【0039】
収縮低減剤としては、低級または高級アルコールアルキレンオキシド付加物、グリコールエーテル誘導体、ポリエーテル誘導体等が挙げられる。収縮低減剤の添加量は、セメント100質量部に対して、好ましくは0.1~0.5質量部、より好ましくは0.15~0.45質量部、更に好ましくは0.2~0.4質量部である。
【0040】
以上のような本発明の水硬性組成物は、ノズルからの押出性が良好であり、かつ積層後の自立性も良好であるものとなり、積層造形用、特には材料押出方式の3Dプリンティングとして好適なものである。
【実施例0041】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例で、粘度は20℃においてB型回転粘度計を用いて測定した値である。また、熱ゲル化温度は、2質量%に調製した水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(CE)を1℃/分の速度で20℃から昇温させた際、ねじれ振動型粘度計を用いて測定される粘度が低下し始める温度を熱ゲル化温度とした。
【0042】
[実施例1~10、比較例1~3]
<使用材料>
(1)セメント(C):普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)
(2)水:上水道水
(3)水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(CE):サンプル明細を表1に示す
(4)ダイユータンガム(DG):KELCO―VIS DG(CP KELCO社製)
(5)消泡剤:SNデフォーマー14HP(サンノプコ(株)製)
【0043】
【表1】
HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース
HEMC:ヒドロキシエチルメチルセルロース
【0044】
<水硬性組成物の調製>
JIS R 5201準拠のモルタルミキサーを用い、表2に示す配合量で材料を練り鉢に入れ、低速攪拌(回転運動140rpm、遊星運動60rpm)にて60秒間練り混ぜを行った。次いで、高速攪拌(回転運動290rpm、遊星運動120rpm)にて90秒間練り混ぜを行い、水硬性組成物を得た。練上がり温度は20±3℃以内となるよう、材料温度を調整した。なお、CE、DG、消泡剤は予めセメントに混合し、セメントと共に練り鉢に投入した。
【0045】
【表2】
【0046】
得られた水硬性組成物について、レオメーター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 HAAKE MARS 60)を使用し、以下の条件でせん断速度に対するせん断応力の測定を行った。
・測定冶具:20mmボブ型ローター(CC20)
・せん断速度:上昇 0.1s-1から100s-1まで(120秒)、下降 100s-1から0.1s-1まで(120秒)
・ギャップ:4.2mm
・温度:20℃
【0047】
評価項目は、降伏値、ヒステリシスループ(H.L.)面積、H.L.面積/降伏値とし、次の方法で算出した。
・降伏値(Y):上記せん断速度を下降させた場合に得られた横軸:せん断速度、縦軸:せん断応力からなる下降曲線をキャッソンプロットにフィッティングさせ算出した。降伏値が15Pa未満の場合、吐出性に優れると評価した。
・H.L.面積(AHL):上記せん断速度を上昇させた場合に得られた横軸:せん断速度、縦軸:せん断応力からなる上昇曲線と上記下降曲線の面積値の差分、即ち、該上昇曲線と下降曲線とから形成されるヒステリシスループの面積を評価し、1000Pa/s以上の場合、チキソトロピー性に優れると評価した。
・H.L.面積/降伏値(AHL/Y):H.L.面積を降伏値で除した値とし、150s-1以上の場合に吐出性とチキソトロピー性の両方を兼ね備えていると評価した。
試験結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
「(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのアルコキシ基の置換度(DS)が1.6~2.0であり、かつ該水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が50~1000mPa・sである」CEを使用し、「(D)成分の水の添加量が、前記セメント100質量部に対して25~70質量部である」実施例1~10は、「降伏値」、「H.L.面積」、「H.L.面積/降伏値」のいずれも基準を満たしていた。
一方、比較例1の条件では、「降伏値」と「H.L.面積」は基準を満たしているものの、「H.L.面積/降伏値」が低く吐出性とチキソトロピー性の両立ができていない結果であった。また、比較例2は「降伏値」が高く、吐出性に劣る結果であり、比較例3は、「H.L.面積」が低く、チキソトロピー性に劣る結果であった。加えて、比較例2、比較例3ともに、「H.L.面積/降伏値」が基準を満たしていない結果であった。
【0050】
なお、これまで本発明を上述した実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。