(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154400
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】被覆ガラス板とその製造方法、自動車用フロントベンチガラス、並びに、窓枠部材付き車両窓ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 17/06 20060101AFI20231012BHJP
C03C 17/22 20060101ALI20231012BHJP
C03C 17/30 20060101ALI20231012BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20231012BHJP
B05D 1/32 20060101ALI20231012BHJP
B60J 1/10 20060101ALI20231012BHJP
B32B 1/04 20060101ALI20231012BHJP
B05D 1/30 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B32B17/06
C03C17/22 Z
C03C17/30 A
B05D7/00 E
B05D1/32 B
B60J1/10 A
B32B1/04
B05D1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034151
(22)【出願日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2022063271
(32)【優先日】2022-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】中原 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】小川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大矢 達夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 奈々
(72)【発明者】
【氏名】藤森 裕也
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4G059
【Fターム(参考)】
4D075AC12
4D075AD05
4D075AD06
4D075AD09
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4F100AG00
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4G059AA01
4G059AC20
4G059EA00
4G059FA22
(57)【要約】
【課題】遮蔽パターン上に被膜を設けつつ、遮蔽パターンと窓枠部材との間の接着を弱めない手段の提供。
【解決手段】周縁領域を除く領域に透光性の領域Trを有するとともに、周縁領域に、領域Trに隣接し領域Trから相対的に近い領域Inと、領域Inに隣接し領域Trから相対的に遠い領域Exとを有し、遮蔽パターン(21)はガラス板(25)の領域In及び領域Exの表面を覆い、被膜(22)はガラス板(25)の領域Trの表面と遮蔽パターン(21)の領域Inの表面とを覆い、遮蔽パターン(21)の領域Exの表面を覆わず、被膜(22)は、領域Tr内に領域Inに近づくにつれて次第に厚くなる厚さ増加部(22A)を有するとともに、領域In内に領域Exに近づくにつれて次第に薄くなる厚さ減少部(22B)とを有する、被覆ガラス板(20)。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、当該ガラス板の一方の表面上に積層された遮蔽パターンと被膜とを有する被覆ガラス板であって、
前記被覆ガラス板は、平面視にて、周縁領域を除く領域に透光性の領域Trを有するとともに、前記周縁領域に、前記領域Trに隣接し前記領域Trから相対的に近い領域Inと、前記領域Inに隣接し前記領域Trから相対的に遠い領域Exとを有し、
前記遮蔽パターンは、前記ガラス板の前記領域In及び前記領域Exの表面を覆い、
前記被膜は、前記ガラス板の前記領域Trの表面と前記遮蔽パターンの前記領域Inの表面とを覆い、前記遮蔽パターンの前記領域Exの表面を覆わず、
前記被膜は、前記領域Tr内に、前記領域Inに近づくにつれて次第に厚くなる厚さ増加部を有するとともに、前記領域In内に、前記領域Exに近づくにつれて次第に薄くなる厚さ減少部とを有する、被覆ガラス板。
【請求項2】
前記被膜は、前記領域In内にさらに、前記厚さ減少部の前記領域Ex側に、前記領域Exに近づくにつれて次第に厚くなる厚さ増加部を有する、請求項1に記載の被覆ガラス板。
【請求項3】
前記領域In内において、前記遮蔽パターンの厚さに対する前記被膜の厚さの比が0.02~0.8である、請求項1又は2に記載の被覆ガラス板。
【請求項4】
前記被覆ガラス板は、平面視にて、前記周縁領域に、前記領域Trを挟んで前記領域In及び前記領域Exとは反対側に、前記領域Trに隣接して、前記ガラス板の前記表面上に前記遮蔽パターンが積層された領域Opを有し、
前記被膜はさらに、前記遮蔽パターンの前記領域Opの少なくとも一部を覆う、請求項1又は2に記載の被覆ガラス板。
【請求項5】
前記被覆ガラス板の前記領域Inの表面粗さが、前記被覆ガラス板の前記領域Exの表面粗さよりも小さい、請求項1又は2に記載の被覆ガラス板。
【請求項6】
前記被覆ガラス板の前記領域Exの表面の算術平均粗さRaが0.55μm以上であり、前記被覆ガラス板の前記領域Inの表面の算術平均粗さRaが0.45μm以下である、請求項5に記載の被覆ガラス板。
【請求項7】
前記被覆ガラス板の前記領域Inの表面の光沢度が、前記被覆ガラス板の前記領域Exの表面の光沢度よりも高い、請求項1又は2に記載の被覆ガラス板。
【請求項8】
前記被覆ガラス板の前記領域Exの表面のJIS Z 8741に準拠して測定される光沢度が9以下であり、前記被覆ガラス板の前記領域Inの表面のJIS Z 8741に準拠して測定される光沢度が10以上である、請求項7に記載の被覆ガラス板。
【請求項9】
前記被膜は、シロキサン化合物を含む、請求項1又は2に記載の被覆ガラス板。
【請求項10】
前記被膜は、紫外線遮蔽剤及び赤外線遮蔽剤からなる群より選ばれる1種以上の機能性成分を含む、請求項1又は2に記載のガラス板。
【請求項11】
前記遮蔽パターンは、前記ガラス板の全周に沿って存在している、請求項1又は2に記載のガラス板。
【請求項12】
車体に設けられた窓枠部材に前記車体の外側から取り付けられる車両窓ガラス用であり、
前記遮蔽パターンの前記領域Exの表面の少なくとも一部が、前記窓枠部材に接着される接着面であり、
前記被膜の前記領域Inの表面の少なくとも一部は、前記窓枠部材に接着されない非接着面である、請求項1又は2に記載の被覆ガラス板。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の被覆ガラス板を含む、自動車用フロントベンチガラス。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の被覆ガラス板の製造方法であって、
前記ガラス板の前記領域In及び前記領域Exの表面上に前記遮蔽パターンが積層された遮蔽パターン付きガラス板を用意する工程S1と、
前記遮蔽パターン付きガラス板の前記遮蔽パターンが積層された側の表面に対して、かけ流しにより被膜形成用液体組成物を塗布して、塗工膜を形成する工程S2と、
前記塗工膜を乾燥、硬化、又は、乾燥及び硬化して、前記被膜を形成する工程S3とを有し、
前記工程S2において、前記遮蔽パターン付きガラス板の前記領域Exの表面にマスキングを施した状態で、前記遮蔽パターン付きガラス板の少なくとも前記領域Tr及び前記領域Inの表面上を前記被膜形成用液体組成物が流下するように、前記領域Tr側から前記領域In側に向かう方向に前記被膜形成用液体組成物をかけ流す、被覆ガラス板の製造方法。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の被覆ガラス板を用いた窓枠部材付き車両窓ガラスの製造方法であって、
車体に設けられた窓枠部材に前記車体の外側から前記被覆ガラス板を取り付ける工程S4を有し、
前記工程S4において、
前記遮蔽パターンの前記領域Exの表面の少なくとも一部と前記窓枠部材とを接着し、
前記被膜の前記領域Inの表面の少なくとも一部は、前記窓枠部材に接着しない、窓枠部材付き車両窓ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆ガラス板とその製造方法、自動車用フロントベンチガラス、並びに、窓枠部材付き車両窓ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、額縁状の黒枠部が形成されたガラス基材上に被膜形成用液体組成物を塗布する工程を有する機能性被膜付きガラス基材の製法を開示している(請求項1)。この方法では、被膜形成用液体組成物を塗布する際に黒枠部上にマスキングテープを貼付することで、被膜形成用液体組成物が黒枠部上に塗布されないようにする。
【0003】
特許文献2は、遮蔽層が形成されたガラス板上に塗布液を供給し、流す工程を有する機能性被膜付き車両窓ガラスの製造方法を開示している(請求項1)。この方法では、塗布液を流す際に遮蔽層をマスキングしないことで、被膜形成用液体組成物が遮蔽層上に塗布されるようにする。塗布液が流れる距離を30cm以下に制限することで、遮蔽層からの被膜の剥離を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-167814号公報
【特許文献2】国際公開第2015/107904号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、ガラス板と、このガラス板の一方の表面上に積層された遮蔽パターンと被膜とを有する被覆ガラス板とその製造方法に関する。この製造方法では、ガラス板の一方の表面の周縁領域に遮蔽パターンが形成された遮蔽パターン付きガラス板の表面上に、かけ流し工程を含む方法により、被膜を形成する。また遮蔽パターン上にもかけ流しを実施することで遮蔽パターン上にも被膜を形成する。
上記被覆ガラス板は、窓ガラス等として好適である。上記被覆ガラス板を窓枠部材に取り付ける場合、一般的に、被覆ガラス板の周縁領域に形成された遮蔽パターンの少なくとも一部を、シーリング材を介して窓枠部材に接着する。この時、遮蔽パターン上に設けられた被膜が遮蔽パターンと窓枠部材との間の接着を弱める恐れがある。
本開示は、遮蔽パターン上に被膜を設けつつ、遮蔽パターンと他の部材との間の接着を弱めない手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の被覆ガラス板とその製造方法、自動車用フロントベンチガラス、並びに、窓枠部材付き車両窓ガラスの製造方法を提供する。
[1] ガラス板と、当該ガラス板の一方の表面上に積層された遮蔽パターンと被膜とを有する被覆ガラス板であって、
前記被覆ガラス板は、平面視にて、周縁領域を除く領域に透光性の領域Trを有するとともに、前記周縁領域に、前記領域Trに隣接し前記領域Trから相対的に近い領域Inと、前記領域Inに隣接し前記領域Trから相対的に遠い領域Exとを有し、
前記遮蔽パターンは、前記ガラス板の前記領域In及び前記領域Exの表面を覆い、
前記被膜は、前記ガラス板の前記領域Trの表面と前記遮蔽パターンの前記領域Inの表面とを覆い、前記遮蔽パターンの前記領域Exの表面を覆わず、
前記被膜は、前記領域Tr内に、前記領域Inに近づくにつれて次第に厚くなる厚さ増加部を有するとともに、前記領域In内に、前記領域Exに近づくにつれて次第に薄くなる厚さ減少部とを有する、被覆ガラス板。
【0007】
[2] 前記被膜は、前記領域In内にさらに、前記厚さ減少部の前記領域Ex側に、前記領域Exに近づくにつれて次第に厚くなる厚さ増加部を有する、[1]の被覆ガラス板。
[3] 前記領域In内において、前記遮蔽パターンの厚さに対する前記被膜の厚さの比が0.02~0.8である、[1]又は[2]の被覆ガラス板。
[4] 前記被覆ガラス板は、平面視にて、前記周縁領域に、前記領域Trを挟んで前記領域In及び前記領域Exとは反対側に、前記領域Trに隣接して、前記ガラス板の前記表面上に前記遮蔽パターンが積層された領域Opを有し、
前記被膜はさらに、前記遮蔽パターンの前記領域Opの少なくとも一部を覆う、[1]~[3]のいずれかの被覆ガラス板。
【0008】
[5] 前記被覆ガラス板の前記領域Inの表面粗さが、前記被覆ガラス板の前記領域Exの表面粗さよりも小さい、[1]~[4]のいずれかの被覆ガラス板。
[6] 前記被覆ガラス板の前記領域Exの表面の算術平均粗さRaが0.55μm以上であり、前記被覆ガラス板の前記領域Inの表面の算術平均粗さRaが0.45μm以下である、[5]の被覆ガラス板。
【0009】
[7] 前記被覆ガラス板の前記領域Inの表面の光沢度が、前記被覆ガラス板の前記領域Exの表面の光沢度よりも高い、[1]~[6]のいずれかの被覆ガラス板。
[8] 前記被覆ガラス板の前記領域Exの表面のJIS Z 8741に準拠して測定される光沢度が9以下であり、前記被覆ガラス板の前記領域Inの表面のJIS Z 8741に準拠して測定される光沢度が10以上である、[7]の被覆ガラス板。
【0010】
[9] 前記被膜は、シロキサン化合物を含む、[1]~[8]のいずれかの被覆ガラス板。
[10] 前記被膜は、紫外線遮蔽剤及び赤外線遮蔽剤からなる群より選ばれる1種以上の機能性成分を含む、[1]~[9]のいずれかのガラス板。
[11] 前記遮蔽パターンは、前記ガラス板の全周に沿って存在している、[1]~[10]のいずれかのガラス板。
【0011】
[12] 車体に設けられた窓枠部材に前記車体の外側から取り付けられる車両窓ガラス用であり、
前記遮蔽パターンの前記領域Exの表面の少なくとも一部が、前記窓枠部材に接着される接着面であり、
前記被膜の前記領域Inの表面の少なくとも一部は、前記窓枠部材に接着されない非接着面である、[1]~[11]のいずれかの被覆ガラス板。
[13] [1]~[12]のいずれかの被覆ガラス板を含む、自動車用フロントベンチガラス。
【0012】
[14] [1]~[13]のいずれかの被覆ガラス板の製造方法であって、
前記ガラス板の前記領域In及び前記領域Exの表面上に前記遮蔽パターンが積層された遮蔽パターン付きガラス板を用意する工程S1と、
前記遮蔽パターン付きガラス板の前記遮蔽パターンが積層された側の表面に対して、かけ流しにより被膜形成用液体組成物を塗布して、塗工膜を形成する工程S2と、
前記塗工膜を乾燥、硬化、又は、乾燥及び硬化して、前記被膜を形成する工程S3とを有し、
前記工程S2において、前記遮蔽パターン付きガラス板の前記領域Exの表面にマスキングを施した状態で、前記遮蔽パターン付きガラス板の少なくとも前記領域Tr及び前記領域Inの表面上を前記被膜形成用液体組成物が流下するように、前記領域Tr側から前記領域In側に向かう方向に前記被膜形成用液体組成物をかけ流す、被覆ガラス板の製造方法。
【0013】
[15] [1]~[14]のいずれかの被覆ガラス板を用いた窓枠部材付き車両窓ガラスの製造方法であって、
車体に設けられた窓枠部材に前記車体の外側から前記被覆ガラス板を取り付ける工程S4を有し、
前記工程S4において、
前記遮蔽パターンの前記領域Exの表面の少なくとも一部と前記窓枠部材とを接着し、
前記被膜の前記領域Inの表面の少なくとも一部は、前記窓枠部材に接着しない、窓枠部材付き車両窓ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示により、遮蔽パターン上に被膜を設けつつ、遮蔽パターンと他の部材との間の接着を弱めない手段を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】遮蔽パターン付きガラス板に対する被膜形成用液体組成物のかけ流しの様子を示す模式斜視図
【
図2】遮蔽パターン付きガラス板に対するマスキングの様子を示す模式斜視図
【
図3】被覆ガラス板の中間製造物の模式断面図(III-III断面図)
【
図4】被覆ガラス板及び窓枠部材付き車両窓ガラスの模式断面図
【
図5】例1で得られた被覆ガラス板の断面SEM写真
【
図6】例1で得られた被覆ガラス板の断面SEM写真
【
図7】例1で得られた被覆ガラス板の斜視SEM写真
【
図8】例2で得られた被覆ガラス板の斜視SEM写真
【
図9】遮蔽パターン付きガラス板に対する被膜形成用液体組成物のかけ流しの様子を示す模式斜視図又は模式正面図
【
図10】本発明に係る一実施形態の自動車の模式側面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、特に明記しない限り、「ガラス板の表面」とは、ガラス板の端面(側面とも言う。)を除く、面積の大きい主面を指す。
本明細書において、特に明記しない限り、ガラス板の「前後」、「上下」、「左右」、「縦横」、「内外」は、ガラス板が車両等に嵌め込まれた状態(実際の使用状態)での、ガラス板の「前後」、「上下」、「左右」、「縦横」、「内外」である。
【0017】
本明細書において、特に明記しない限り、「かけ流し方向」及び「流下方向」は、工程S2(かけ流し工程)における被膜形成用組成物の流下方向である。
本明細書において、特に明記しない限り、「上流側」は、工程S2(かけ流し工程)における被膜形成用組成物の流下方向における上流側である。同様に、「下流側」は、工程S2(かけ流し工程)における被膜形成用組成物の流下方向における下流側である。
【0018】
本明細書において、形状に付く「略」は、その形状の角を丸くした面取り形状、その形状の一部が欠けた形状、その形状に任意の小さな形状が追加した形状など、部分的に変化した形状を意味する。
本明細書において、「地面に対して略水平」とは、地面に対して完全な水平方向±10°の範囲を意味し、「地面に対して略垂直」とは、地面に対して完全な垂直方向±10°の範囲を意味する。
一般的に、薄膜構造体は、厚さに応じて、「フィルム」及び「シート」等と称される。本明細書では、これらを明確には区別しない。したがって、本明細書で言う「フィルム」に「シート」が含まれる場合がある。
【0019】
1種以上の加水分解性シリコン化合物を含む組成物において、1種以上の加水分解性シリコン化合物は、同種間又は異種間で部分的に加水分解縮合している場合がある。
本明細書において、1種以上の加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合物とは、1種以上の加水分解性シリコン化合物に含まれる加水分解性基の少なくとも一部が加水分解し、次いで、脱水縮合することによって生成するオリゴマー(多量体)である。
本明細書において、「官能基」とは、単なる置換基とは区別された、反応性を有する基を包括的に示す用語である。
本明細書において、(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルの総称であり、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリロキシ等についても、同様である。
【0020】
本明細書において、特に明記しない限り、紫外線は300~380nmの波長域の光であり、赤外線は780~2500nmの波長域の光であり、可視光線は380~780nmの波長域の光である。
本明細書において、特に明記しない限り、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
[被覆ガラス板とその製造方法]
本開示の被覆ガラス板は、ガラス板と、このガラス板の一方の表面上に積層された遮蔽パターンと被膜とを有する。
遮蔽パターンは、ガラス板の周縁領域に形成される。周縁領域は例えば、外周から、150mm以内、120mm以内、100mm以内、又は80mm以内の領域である。本開示の被覆ガラス板において、遮蔽パターンの形成領域は、少なくとも一部の可視光を遮蔽可能な遮光領域である。遮蔽パターンの非形成領域は、少なくとも一部の可視光を透過可能な透光性領域である。
【0022】
本開示の被覆ガラス板は、平面視にて、周縁領域を除く領域に透光性の領域Trを有するとともに、周縁領域に、領域Trに隣接し領域Trから相対的に近い領域Inと、領域Inに隣接し領域Trから相対的に遠い領域Exとを有する。
遮蔽パターンは、ガラス板の領域In及び領域Exの表面を覆う。被膜は、ガラス板の領域Trの表面と遮蔽パターンの領域Inの表面とを覆い、遮蔽パターンの領域Exの表面を覆わない。
本開示の被覆ガラス板は、必要に応じて、ガラス板の他方の表面上に、任意の遮蔽パターン及び/又は任意の被膜を有することができる。本開示の被覆ガラス板は、必要に応じて、遮蔽パターン及び被膜以外の1種以上の任意の構成要素を含むことができる。
【0023】
本開示の被覆ガラス板の製造方法は、
ガラス板と、このガラス板の一方の表面上に積層された遮蔽パターンとを有する遮蔽パターン付きガラス板を用意する工程S1と、
遮蔽パターン付きガラス板の遮蔽パターンが積層された側の表面に対して、かけ流しにより被膜形成用液体組成物を塗布して、塗工膜を形成する工程S2と、
塗工膜を乾燥、硬化、又は、乾燥及び硬化して、被膜を形成する工程S3とを有する。
工程S2において、ガラス板の領域Exの表面にマスキングを施した状態で、遮蔽パターン付きガラス板の少なくとも領域Tr及び領域Inの表面上を被膜形成用液体組成物が流下するように、領域Tr側から領域In側に向かう方向に被膜形成用液体組成物をかけ流す。
【0024】
図面を参照して、本発明に係る一実施形態の被覆ガラス板とその製造方法について、説明する。
図1は、遮蔽パターン付きガラス板に対する被膜形成用液体組成物のかけ流しの様子を示す模式斜視図である。
図2は、遮蔽パターン付きガラス板に対するマスキング箇所及びマスキング方法を示す模式斜視図である。
図3は、被覆ガラス板の中間製造物の模式断面図(III-III断面図)である。
図4は、被覆ガラス板及び窓枠部材付き車両窓ガラスの模式断面図である。これらはいずれも模式図であり、視認しやすくするため、図面ごとに、各構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0025】
図4に示すように、本実施形態の被覆ガラス板20は、ガラス板25と、このガラス板25の一方の表面26上に積層された遮蔽パターン21と被膜22とを有する。
被覆ガラス板20の用途は特に制限されず、自動車等の車両の窓ガラス(フロントガラス、フロントベンチガラス、サイドガラス、及びリアガラス等)等に好適である。窓ガラスは、開閉可能なタイプでも、開閉不可能なタイプでもよい。車両窓ガラスにおいて、被膜22は、ガラス板25の表面26上において、ガラス板25が車両の窓開口部を完全に閉じた状態で窓開口部を含む領域に形成できる。
【0026】
一態様において、ガラス板25の平面形状は略多角形であり、例えば略長方形、略平行四辺形、及び略台形等の略四角形;略三角形等である。
図1に示す例では、ガラス板25は、上辺25A、下辺25B、前方側辺25C、及び後方側辺25Dの4辺からなる外周を有している。下辺25Bは、凹凸があってもよい。ガラス板25の側辺の数は特に制限されず、0、1、又は2であることができる。ガラス板25の平面形状及び被膜22の形成領域は、取り付けられる車両等の形態に応じて、適宜設計できる。
車両窓ガラスの用途では、通常、ガラス板25は曲面を有する形状に加工されている。被膜22が形成されるガラス板25の表面26は特に制限されず、例えば、ガラス板25の車内側の表面(車内面とも言う。)であることができる。表面26は、被膜形成面とも言う。
【0027】
図1及び
図2に示すように、被覆ガラス板20は、平面視にて、周縁領域に遮蔽パターン21が形成された領域Ar(遮光領域とも言う。)を有する。被覆ガラス板20は、周縁領域を除く領域に透光性の領域Trを有する。透光性の領域Trには、遮蔽パターンは形成されていない。領域Arは領域Trの少なくとも一部を囲むことができる。例えば、略多角形のガラス板25の1つ以上の辺に沿って、遮蔽パターン21を設けることができる。一態様において、領域Arはガラス板25の全周に沿って存在する。領域Arの平面外形はガラス板25の平面外形と一致することができる。
【0028】
本実施形態の被覆ガラス板20は、以下のように製造できる。
(工程S1)
図1及び
図2に示すように、ガラス板25と、このガラス板25の一方の表面26上に積層された遮蔽パターン21とを有する遮蔽パターン付きガラス板25Xを用意する。
遮蔽パターン21の構成材料としては、セラミックス等が好ましい。遮蔽パターン21は公知方法にて形成でき、例えば、顔料(好ましくは黒色顔料)とガラスフリットとを含むセラミックペーストの塗工及び焼成により形成できる。遮蔽パターン21は一つながりの膜でもよく、いくつかに分割された膜でもよい。遮蔽パターン21は膜でなくともよい。遮蔽パターン21は半遮光のパターンでもよく、例えば透光性の領域との境界とがはっきりしていないグラデーションのかかったパターンでもよい。セラミックス等の粉体をガラス板25の表面26上に散布することで遮蔽パターン21を形成してもよい。
遮蔽パターン21の厚さは特に制限されず、例えば、5~20μm、好ましくは8~15μmである。
【0029】
(工程S2)
次に、
図1及び
図3に示すように、遮蔽パターン付きガラス板25Xを、遮蔽パターン付きガラス板25Xの一辺側を上方にして、地面に対して、略垂直に、又は略水平と略垂直との間の傾斜角度で配置する。この配置を立置きとも言う。この配置状態を立てた状態とも言う。
フロントベンチガラス用の被覆ガラス板20では、
図1に示すように、一側辺側(具体的には前方側辺側又は後方側辺側、図示例では前方側辺25C側)を上方にして、遮蔽パターン付きガラス板25Xを立置きすることができる。
立置きは、真空吸着装置を用いて、実施できる。
【0030】
上記配置状態の遮蔽パターン付きガラス板25Xの遮蔽パターン21が積層された側の表面に対して、かけ流し(フローコート法)により被膜形成用液体組成物27を塗布する。具体的には、
図1に示すように、ノズル28が被膜形成用液体組成物27を吐出しながら、遮蔽パターン付きガラス板25Xの立置き状態において上方に配置された上記一辺(図示例では前方側辺25C)に沿って相対移動することで、かけ流しを行うことができる。工程S2の環境温度は特に制限されず、通常の環境温度、例えば10~30℃でよい。
【0031】
一般的に、ガラス板25の表面26及び遮蔽パターン21の表面は、水酸基を有する。被膜形成用液体組成物27は、これらの表面に存在する水酸基と反応するシリコン化合物を含有することができる。一態様において、被膜形成用液体組成物27は、紫外線(UV)又は赤外線(IR)を吸収又は反射する物質を含有する。一態様において、被膜形成用液体組成物27は、被膜22に撥水性又は撥油性を付与する物質を含有する。一態様において、被膜形成用液体組成物27は、被膜22に吸水性又は吸湿性を付与する物質を含有する。
【0032】
被膜22は、遮蔽パターン21と他の部材との間の接着を弱める可能性がある。そこで、本実施形態では、遮蔽パターン21の表面の一部に被膜形成用液体組成物27を適用し、他の一部には被膜形成用液体組成物27を適用しない。被膜形成用液体組成物27を適用しない箇所にはマスキングを施す。
【0033】
図2及び
図3に示すように、本実施形態では、平面視にて、領域Ar(遮光領域)のうち、工程S2において下流側に位置する下流領域を、領域Trに隣接し領域Trから相対的に近い領域Inと、領域Inに隣接し領域Trから相対的に遠い領域Exとに分ける。ガラス板25の領域In及び領域Exの両方の表面上に、遮蔽パターン21が積層されている。
領域Arは、工程S2において上流側に位置する上流領域を含むことができる。この上流領域を領域Opとも言う。領域Opは、平面視にて、領域Trを挟んで領域In及び領域Exとは反対側に、領域Trに隣接して存在できる。ガラス板25の領域Opの表面上にも、遮蔽パターン21が積層されている。
【0034】
図3に示すように、工程S2において、遮蔽パターン付きガラス板25Xの領域Exの表面にマスキングを施した状態で、遮蔽パターン付きガラス板25Xの少なくとも領域Tr及び領域Inの表面上を被膜形成用液体組成物27が流下するように、領域Tr側から領域In側に向かう方向に被膜形成用液体組成物27をかけ流す。
領域Arが領域Opを含む場合、
図3に示すように、遮蔽パターン付きガラス板25Xの領域Opのうちの少なくとも一部の領域、領域Tr、及び領域Inの表面上を被膜形成用液体組成物27が流下するように、領域Tr側から領域In側に向かう方向に被膜形成用液体組成物27をかけ流してもよい。領域Opからかけ流しを開始することで、領域Trの全面に対して、良好にかけ流しを行うことができ、領域Tr内の被膜22の欠損を抑制できる。
【0035】
マスキングは、治具及びマスキングテープ等のマスキング部材;マスキング剤等のマスキング手段を用いて、公知方法にて行うことができる。
図2及び
図3には、テンプレート型の治具30が示されている。治具30の材質は特に制限されず、金属、樹脂、及びこれらの組合せ等が挙げられる。治具30の厚さは特に制限されず、好ましくは1~10mmである。
遮蔽パターン付きガラス板25Xの領域Exの表面に治具30を当接することで、マスキングできる。遮蔽パターン付きガラス板25Xの領域Tr及び領域Inの表面は、治具30の空白部分に露出する。遮蔽パターン付きガラス板25Xの領域Arのうちの領域Exを含む外周部全体の表面にマスキングを施してもよい。マスキングは、マスキングテープの貼付又はマスキング剤の塗布によって、行ってもよい。
【0036】
遮蔽パターン21の領域Exの表面はマスキングされるのに対して、遮蔽パターン21の領域Inの表面は被膜形成用液体組成物27に対して露出する。この工程では、遮蔽パターン付きガラス板25Xの表面において、被膜形成用液体組成物27の流下領域内の非マスキング領域に塗工膜22Wが形成される。
【0037】
図3に示すように、被膜形成用液体組成物27は、領域Tr及び領域Inとの境界を経由して、マスキングされた領域Exに到達する。領域Exに到達した被膜形成用液体組成物27は、治具30にぶつかることで泡を生じる場合がある。この泡は、被膜22の下流側末端部上に残ってもよい。被膜22の下流側末端部が泡を有する場合、この端部の外観は目立つ。泡は、領域Inと領域Exとの境界を視認しやすくするのに役立つ。
【0038】
治具30の内周側(領域In側)の端部は、波の形状を有していてもよい。被膜形成用液体組成物27が波の形状の端部にぶつかることで、治具の端部の波の形は被膜22の端部に写し取られるかもしれない。被膜22の下流側末端部が波の形にうねることで、この端部の外観は目立つ。波の形は領域Inと領域Exとの境界を視認しやすくするのに役立つ。治具30の代わりにマスキングテープを使用する場合はマスキングテープの内周側(領域In側)の端部を波の形で貼り付けてもよい。
【0039】
(立置き工程)
塗工膜22Wの形成が完了した後、必要に応じて、得られた塗工膜付きガラス板を、10~20秒間程度、立てた状態で保持してもよい。この時間を、「立置き時間」とも言う。
【0040】
(工程S3)
次に、塗工膜22Wを乾燥、硬化、又は、乾燥及び硬化して、被膜22を形成する。このようにして、
図4に示す被覆ガラス板20が製造される。
治具30等のマスキング手段は、工程S2、立置き工程、又は工程S3後に、遮蔽パターン付きガラス板25Xから取り外す。
【0041】
図4に示すように、被覆ガラス板20は、ガラス板25と、このガラス板25の一方の表面26上に積層された遮蔽パターン21と被膜22とを有する。被覆ガラス板20は、平面視にて、周縁領域を除く領域に透光性の領域Trを有するとともに、周縁領域に、領域Trに隣接し領域Trから相対的に近い領域Inと、領域Inに隣接し領域Trから相対的に遠い領域Exとを有する。遮蔽パターン21は、ガラス板25の領域In及び領域Exの表面を覆い、被膜22は、ガラス板25の領域Trの表面と遮蔽パターン21の領域Inの表面とを覆い、遮蔽パターン21の領域Exの表面を覆わない。
【0042】
図3及び
図4に示すように、一般的に遮蔽パターン21の表面は微細な凹凸を有する。
図4に示すように、被膜22によって遮蔽パターン21の領域Inの表面の凹凸を埋めることができる。これにより、被覆ガラス板20の領域Inの表面を、被覆ガラス板20の領域Exの表面よりも滑らかにすることができる。言い換えれば、被覆ガラス板20の領域Inの表面粗さを、被覆ガラス板20の領域Exの表面粗さよりも小さくできる。言い換えれば、被覆ガラス板20の領域Exの表面は、被覆ガラス板20の領域Inの表面よりも粗いまま残す。
【0043】
図4に示すように、かけ流し工程を含む上記方法により形成される被膜22は、領域Tr内に、領域Inに近づくにつれて次第に厚くなる第1の厚さ増加部22Aを有することができる。
またかけ流される被膜形成用液体組成物27は表面張力を有するので、被膜22は、領域In内に、領域Exに近づくにつれて次第に薄くなる厚さ減少部22Bを有することができる。
【0044】
かけ流し工程においてマスキングを行う上記方法により形成される被膜22は、領域In内にさらに、厚さ減少部22Bの領域Ex側に、領域Exに近づくにつれて次第に厚くなる第2の厚さ増加部22Cを有することができる。この第2の厚さ増加部22Cの下流側末端は、遮蔽パターン21の表面に対して、略垂直に又は斜めに立ち上がった立上り面22Dであることができる。立上り面22Dは、凹曲面等の曲面であることができる。
かけ流し工程においてマスキングテープが用いられた場合、被膜22の第2の厚さ増加部22Cの下流側末端部は例えば、切り立った形状を有することができる。切り立った形状はマスキングテープの除去によって出現することができる。また治具が用いられた場合、被膜22の第2の厚さ増加部22Cの下流側末端部は例えば、山のような形状を有する。
【0045】
被膜22の領域In内の、好ましくは立上り面22Dを含む第2の厚さ増加部22Cの存在は、被覆ガラス板20を窓枠部材等の他の部材に取り付ける際に、シーリング材の位置決めを容易にするアライメントマークとして機能できる。
被膜22の領域In内の、好ましくは立上り面22Dを含む第2の厚さ増加部22Cの存在は、被覆ガラス板20を窓枠部材等の他の部材に取り付ける際に、シーリング材が被膜22上に及ぶことを抑制する障壁として機能できる。
被膜22の領域In内の、好ましくは立上り面22Dを含む第2の厚さ増加部22Cの存在は、被覆ガラス板20を窓枠部材等の他の部材に取り付ける際に、窓枠部材等の他の部材に対する被覆ガラス板20の位置決めを容易にするアライメントマークとして機能できる。
【0046】
上記のような厚さ分布を有する被膜22は、被膜形成用液体組成物(LC)の組成、固形分濃度、及び粘度;ノズル28からの被膜形成用液体組成物(LC)の単位時間当たりの吐出量及びノズル28の移動速度;工程S2における遮蔽パターン付きガラス板25Xの配置角度;マスキング手段の種類、厚さ、及び表面物性;マスキング手段の剥離強度及び剥離タイミング等の条件を1つ以上調整することで、実現できる。
被膜形成用液体組成物(LC)の固形分濃度は、高い方が、被膜22の厚さを全体的に厚くできる傾向がある。
被膜形成用液体組成物(LC)の単位時間当たりの塗工量は、多い方が、被膜22の厚さを全体的に厚くできる傾向がある。
遮蔽パターン付きガラス板25Xの配置角度を調整することで、被膜22の全体的な厚さを調整できる。遮蔽パターン付きガラス板25Xの配置が地面に対して略垂直に近い方が、被膜22の厚さを全体的に薄くでき、ガラス板の配置が地面に対して略水平に近い方が、被膜22の厚さを全体的に厚くできる傾向がある。
【0047】
被膜22の具体的な厚さ分布は、特に制限されず、被膜22の機能に応じて設計される。
被膜22は、シロキサン化合物を含むことができる。シロキサン化合物は、シロキサン結合(Si-O結合)を有する化合物である。被膜22は、紫外線遮蔽剤及び赤外線遮蔽剤からなる群より選ばれる1種以上の機能性成分を含むことができる。
被膜22が紫外線遮蔽剤及び赤外線遮蔽剤等の機能性成分を含む場合、被膜22の好ましい厚さは、以下の通りである。
【0048】
被膜22の領域Trの厚さは、好ましくは1~10μmである。被膜22の領域Trの厚さが1μm以上であれば、被膜22は紫外線遮蔽及び赤外線遮蔽等の所望の機能を良好に発現できる。被膜22の領域Trの厚さが10μm以下であれば、被膜22の厚さが厚過ぎず、工程S3完了時点において被膜22のクラック(割れ、初期クラックとも言う。)が生じにくい。上限値は、より好ましくは8μm、さらに好ましくは7μm、特に好ましくは6μm、最も好ましくは5μmである。下限値は、より好ましくは1.5μm、特に好ましくは2.0μm、最も好ましくは2.5μmである。
【0049】
被膜22の領域Inの厚さは、好ましくは0.1~10μmである。上限値は、より好ましくは8μm、さらに好ましくは7μm、特に好ましくは6μm、最も好ましくは5μmである。下限値は、より好ましくは1μm、特に好ましくは2μm、最も好ましくは3μmである。
遮蔽パターン21の表面から被膜22の立上り面22Dの高さ(第2の厚さ増加部22Cの最大高さ)は特に制限されず、被膜22の領域Inの最小厚さの3~20倍であることが好ましく、例えば10~120μmが好ましい。
【0050】
図4において、符号WGは窓枠部材付き車両窓ガラス、符号35は自動車等の車両の車体に設けられた窓枠部材を示す。
被覆ガラス板20が車体に設けられた窓枠部材35に車体の外側から取り付けられる車両窓ガラス用である場合、遮蔽パターン21の領域Exの表面の少なくとも一部が、窓枠部材35に接着される接着面であり、被膜22の領域Inの表面の少なくとも一部は、窓枠部材35に接着されない非接着面であることができる。
【0051】
本開示の窓枠部材付き車両窓ガラスの製造方法は、車体に設けられた窓枠部材35に車体の外側(Outer)から被覆ガラス板20を取り付ける工程S4を有する。
工程S4においては、遮蔽パターン21の領域Exの表面の少なくとも一部(好ましくは全体)と窓枠部材35とを接着し、被膜22の領域Inの表面の少なくとも一部(好ましくは全体)は、窓枠部材35に接着しない。このようにして、遮蔽パターン21の領域Exの表面の少なくとも一部(好ましくは全体)は窓枠部材35で覆い隠す一方、被膜22の領域Inの表面の少なくとも一部(好ましくは全体)は、窓枠部材35の内側にて車体の内側(Inner)に向けて露出させる。
図4に示すように、遮蔽パターン21の領域Exの表面と窓枠部材35との間の接着は、接着剤及び接着テープ等のシーリング材34を用いて、公知方法にて行うことができる。
【0052】
図4に示すように、車体の内側(Inner)から遮蔽パターン21の領域Inの少なくとも一部(好ましくは全体)が観察される。遮蔽パターン21の領域Inは、透光性の領域Trから連続する滑らかな被膜22で覆われている。したがって、遮蔽された領域Inは、透光性の領域Trと同等の艶を呈することができる。艶は光沢度を指標とすることができる。
一方、遮蔽パターン21の領域Exの表面は、被膜22で覆われていない。しかしながら、遮蔽パターン21の領域Exの表面の少なくとも一部(好ましくは全体)は窓枠部材35で遮られて、車体の内側(Inner)から観察されない。したがって、遮蔽パターン21の領域Exの表面の露出は、被覆ガラス板20の車体の内側(Inner)の表面の美観に影響を与えない。領域Opにおいても、同様である。
【0053】
上記したように、被覆ガラス板20の領域Inの表面粗さは、被覆ガラス板20の領域Exの表面粗さより小さい。
本明細書において、特に明記しない限り、表面粗さは、JIS B 0601-1994に準拠して測定される算術平均粗さRaである。
【0054】
シーリング材34は、相対的に粗い遮蔽パターン21の領域Exの表面に対して良好に密着できる。一方で、相対的に滑らかな被膜22の表面は、窓枠部材35と接着されない。以上により、被膜22の存在によって、遮蔽パターン21の領域Exの表面と窓枠部材35との間の接着が弱められることが回避される。領域Opにおいても、同様である。
本開示では、遮蔽パターン21の表面の外周側の一部の領域にのみマスキングを施すので、マスキングのアライメントを厳密に行う必要がない。遮蔽パターン21の表面の外周側の一部の領域にのみマスキングを施し、被覆ガラス板20の領域Trと領域Inの両方の表面上に被膜22が存在させることで、マスキングが領域Trに及ぶことが抑制され、領域Trの全体に良好に被膜22を形成でき、領域Tr内の被膜22の欠損を抑制できる。これら作用効果は、工程容易性、品質安定性、及び生産性向上の観点で、有利である。
【0055】
工程S2における被膜形成用液体組成物(LC)の流下方向の領域Inの寸法(領域Trと領域Exとの離間距離)をHInとする。工程S2における被膜形成用液体組成物(LC)の流下方向の領域Exの寸法をHExとする。
HInとHExとの合計(HIn+HEx)は、好ましくは20~150mm、より好ましくは50~100mmである。
HInとHExとの合計に対するHInの比率(HIn/(HIn+HEx))は、好ましくは0.2~0.6、より好ましくは0.3~0.5である。
HInとHExとの合計に対するHExの比率(HEx/(HIn+HEx))は、好ましくは0.4~0.8、より好ましくは0.5~0.7である。
上記のように設計することで、遮蔽パターン21の領域Exの表面と窓枠部材35との接着面積が充分に確保され、被覆ガラス板20を窓枠部材35に対して良好に接着できる。
【0056】
遮蔽パターン21の領域Exの表面と窓枠部材35との接着性の観点から、被覆ガラス板20の領域Exの表面の算術平均粗さRa(Ex)は、好ましくは0.55μm以上、より好ましくは0.6μm以上である。Ra(Ex)の上限値は例えば、1.0μm、0.9μm、又は0.8μmである。
被覆ガラス板20の領域Inの良好な外観の観点から、被覆ガラス板20の領域Inの表面の算術平均粗さRa(In)は、好ましくは0.45μm以下、より好ましくは0.4μm以下、特に好ましくは0.38μm以下である。Ra(In)の下限値は特に制限されず、例えば、0.01μm、0.02μm、0.03μm、又は0.04μmである。
本明細書において、特に明記しない限り、被覆ガラス板の領域Inの表面は、被覆ガラス板の領域Inの遮蔽パターン及び被膜の形成側の表面であり、被覆ガラス板の領域Exの表面は、被覆ガラス板の領域Exの遮蔽パターンの形成側の表面である。
【0057】
被覆ガラス板20は、車内側の表面の光沢度と、車外側の表面の光沢度との差が小さいほど、好ましい。車外側の光沢度は例えば90~95である。
被覆ガラス板20の領域Inの表面は、被覆ガラス板20の領域Exの表面よりも高い光沢度を有することができる。
被覆ガラス板20の領域Exの表面の光沢度Gr(Ex)は例えば、9以下、7以下、又は5以下であることができる。
被覆ガラス板20の領域Inの表面の光沢度Gr(In)は、好ましくは10以上、より好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上、さらに好ましくは25以上、特に好ましくは30以上、最も好ましくは35以上である。Gr(In)の上限値は、例えば95である。
本明細書において、特に明記しない限り、光沢度は、光沢計を用い、JIS Z 8741-1997「鏡面光沢度-測定方法」に準拠して、測定される値である。
【0058】
上記したように、遮蔽パターン21の厚さは、例えば、10~20μmである。
被覆ガラス板20の領域Inにおいて、遮蔽パターン21の厚さ(ST)に対する被膜22の厚さ(CT)の比(CT/ST)は、好ましくは0.02~0.8である。
CT/STが上記下限値以上であれば、遮蔽パターン21の領域Inの表面は、被膜22によって良好に被覆され、被覆ガラス板20の領域Inの表面は、算術平均粗さRaが充分に小さく、高光沢を有することができる。また、CT/STが上記上限値以下であれば、被膜22の厚さが厚くなり過ぎず、工程S3完了時点において被膜22のクラック(初期クラック)が生じにくい。CT/STの下限値は、より好ましくは0.03、さらに好ましくは0.05、特に好ましくは0.1、最も好ましくは0.2である。CT/STが0.2以下であれば、遮蔽パターン21の領域Inの光学的な歪みが抑えられるため、その外観が損なわれにくい。CT/STの上限値は、より好ましくは0.7、特に好ましくは0.6、最も好ましくは0.5である。
【0059】
(ガラス板)
ガラス板25は、強化ガラス、複数のガラス板を中間膜を介して貼り合わせた合わせガラス、又は有機ガラスであることができる。車両窓ガラス等の用途では、ガラス板は、強化ガラス又は合わせガラスであることが好ましい。
【0060】
強化ガラス及び合わせガラスの材料であるガラス板の種類としては特に制限されず、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、リチウムシリケートガラス、石英ガラス、サファイアガラス及び無アルカリガラス等が挙げられる。
強化ガラスは、上記のようなガラス板に対して、イオン交換法及び風冷強化法等の公知方法にて強化加工を施したものである。強化ガラスとしては、風冷強化ガラスが好ましい。
強化ガラスの厚さは特に制限されず、用途に応じて設計される。車両窓ガラスの用途では、好ましくは2~6mmである。合わせガラスの厚さは特に制限されず、用途に応じて設計される。車両窓ガラスの用途では、好ましくは2~6mmである。
【0061】
車両窓ガラス等の用途では、ガラス板は、曲面を有する形状に加工される。
ガラス板は、車両に取り付けられたときに、車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。ガラス板が合わせガラスである場合、車内側のガラス板及び車外側のガラス板は、ともに車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。ガラス板は、左右方向又は上下方向のいずれか一方向のみに湾曲した単曲曲げ形状であってもよいし、左右方向と上下方向に湾曲した複曲曲げ形状であってもよい。ガラス板の曲率半径は2000~11000mmであってよい。ガラス板は、左右方向と上下方向の曲率半径が同一でも非同一でもよい。ガラス板の曲げ成形には、重力成形、プレス成形及びローラー成形等が用いられる。
【0062】
合わせガラスの中間膜は、樹脂膜からなる。その構成樹脂としては、複数のガラス板を良好に接着できる樹脂であれば特に制限されない。中間膜は例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリウレタン(PU)及びアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含むことが好ましい。
中間膜は必要に応じて、樹脂以外の1種以上の添加剤を含んでいてもよい。
中間膜の材料としては、例示の樹脂を含む樹脂フィルムが好ましい。
合わせガラスの中間膜は、単層膜でも積層膜でもよい。
【0063】
有機ガラスの材料としては、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチック;ポリエチレンテレフタレート(PET):ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリスチレン(PS);これらの組合せ等が挙げられ、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチックが好ましい。
【0064】
(被膜)
被膜22は、シロキサン化合物を含むことができる。
被膜22は、被膜形成用組成物(LC)を用いて形成できる。被膜22は、好ましくは、1つ以上の加水分解性基を有し、同種間又は異種間で部分的に加水分解縮合していてもよい1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を含む被膜形成用液体組成物(LC)の硬化物からなる。
【0065】
<加水分解性シリコン化合物(SC)>
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)は、加水分解縮合反応により硬化して酸化珪素マトリクスを形成できる。本明細書で言う「酸化珪素マトリクス」は、-Si-O-Si-で表されるシロキサン結合により2次元的又は3次元的に高分子量化した高分子化合物である。
【0066】
加水分解性シリコン化合物(SC)は、1つ以上の加水分解性基を有するシリコン化合物である。1つのSi原子に結合した加水分解性基の数は1~4であり、好ましくは2~4、より好ましくは3~4である。加水分解性基は、組成物中で、加水分解されて水酸基になっていてもよい。
【0067】
加水分解性基としては、アルコキシ基(アルコキシ置換アルコキシ基等の置換アルコキシ基を含む)、アルケニルオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、オキシム基、アミド基、アミノ基、イミノキシ基、アミノキシ基、アルキル置換アミノ基、イソシアネート基及びハロゲン原子等が挙げられる。中でも、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、イミノキシ基及びアミノキシ基等のオルガノオキシ基が好ましく、特にアルコキシ基等が好ましい。アルコキシ基としては、炭素原子数4以下のアルコキシ基及び炭素原子数4以下のアルコキシ置換アルコキシ基(2-メトキシエトキシ基等)が好ましく、特にメトキシ基及びエトキシ基等が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子等が好ましい。
加水分解性シリコン化合物(SC)中に複数の加水分解性基が存在する場合、複数の加水分解性基は同一でも非同一でもよく、同一であることが原料の入手容易性の点で好ましい。
【0068】
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)は、1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物及び/又は1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物を含むことが好ましい。1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物と1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物との併用が好ましい。1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)は必要に応じて、1種以上の2官能性加水分解性シリコン化合物を含むことができる。
【0069】
4官能性加水分解性シリコン化合物は、1つのSi原子に4つの加水分解性基が結合した構造を有する化合物である。3官能性加水分解性シリコン化合物は、1つのSi原子に3つの加水分解性基が結合した構造を有する化合物である。2官能性加水分解性シリコン化合物は、1つのSi原子に2つの加水分解性基が結合した構造を有する化合物である。
加水分解性シリコン化合物(SC)は、1分子中に、Si原子に1つ以上の加水分解性基が結合した構造を2つ以上有するものでもよい。
【0070】
加水分解性シリコン化合物(SC)は、加水分解性基以外の官能基を有するものでもよい。加水分解性基以外の官能基としては、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、1級又は2級のアミノ基、オキセタニル基、ビニル基、スチリル基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基及びシアノ基等が挙げられる。
【0071】
4官能性加水分解性シリコン化合物としては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラn-プロポキシシラン、テトラn-ブトキシシラン、テトラsec-ブトキシシラン、及びテトラtert-ブトキシシラン等が挙げられる。テトラメトキシシラン(TMOS)及びテトラエトキシシラン(TEOS)等が好ましい。
【0072】
加水分解性基以外の官能基を有さない3官能性加水分解性シリコン化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、及び1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン等が挙げられる。
【0073】
加水分解性基以外の官能基を有する3官能性加水分解性シリコン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、5,6-エポキシへキシルトリメトキシシラン、9,10-エポキシデシルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ジ-(3-メタクリロキシ)プロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリプロポキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、及び2-シアノエチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0074】
2官能性加水分解性シリコン化合物としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ(2-メトキシエトキシ)シラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジイソプロペノキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジ(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジイソプロペノキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジアセトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジプロポキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、及び2-シアノエチルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0075】
被膜形成用液体組成物(LC)中の、1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物、1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物、及び1種以上の2官能性加水分解性シリコン化合物の量は、特に制限されない。
1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物と1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物との合計量は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、好ましくは100~70質量部、より好ましくは100~80質量部、特に好ましくは100~90質量部である。
1種以上の2官能性加水分解性シリコン化合物の量(複数種の場合は、合計量)は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、好ましくは0~30質量部、より好ましくは0~20質量部、特に好ましくは0~10質量部である。
【0076】
4官能性加水分解性シリコン化合物と3官能性加水分解性シリコン化合物との総量100質量部に対して、1種以上の4官能性加水分解性シリコン化合物の量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは30~100質量部、より好ましくは30~95質量部、特に好ましくは40~90質量部、最も好ましくは50~85質量部であり、1種以上の3官能性加水分解性シリコン化合物の量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは70~0質量部、より好ましくは70~5質量部、特に好ましくは60~10質量部、最も好ましくは50~15質量部である。
【0077】
詳細については後記するが、被膜形成用液体組成物(LC)は、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として、水酸基含有ベンゾフェノン系化合物とエポキシ基含有加水分解性シリコン化合物との反応生成物であるシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を含むことができる。このシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤は、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれ、上記の2官能性、3官能性又は4官能性の加水分解性シリコン化合物と同様、酸化珪素マトリクスを形成できる。
【0078】
加水分解性シリコン化合物(SC)の硬化温度は特に制限されず、通常の貯蔵温度の上限を超える温度、好ましくは80℃以上である。硬化温度の上限は特に制限されず、経済性の観点から、好ましくは230℃である。加水分解性シリコン化合物(SC)の硬化温度は、好ましくは150~230℃、より好ましくは170~230℃である。
【0079】
被膜形成用液体組成物(LC)は、必要に応じて、加水分解性シリコン化合物(SC)以外の1種以上の任意成分を含むことができる。
【0080】
<酸化珪素微粒子(SP)>
被膜形成用液体組成物(LC)は、必要に応じて、被膜中で酸化珪素マトリクスに結合して包含される酸化珪素微粒子(SP)を含むことができる。被膜形成用液体組成物(LC)が酸化珪素微粒子(SP)を含むことで、被膜の耐摩耗性を向上できる場合がある。
酸化珪素微粒子(SP)は、酸化珪素微粒子(SP)が水及び/又は有機溶剤中に分散されたコロイダルシリカの形態で、被膜形成用液体組成物(LC)に配合できる。
酸化珪素微粒子(SP)のBET法により測定される平均粒径は特に制限されず、被膜の透明性及び耐摩耗性の向上の観点から、好ましくは1~100nm、より好ましくは5~40nmである。平均粒径が100nm以下であれば、粒子表面での光の乱反射及びそれによる被膜の透明性の低下を抑制できる。
【0081】
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)及び必要に応じて用いられる酸化珪素微粒子(SP)は、被膜中の酸化珪素マトリクスを形成する成分であり、本明細書では、これらを総称して、マトリクス成分(S)とも言う。
【0082】
ここで、被膜形成用液体組成物(LC)中の加水分解性シリコン化合物(SC)の含有量を、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれるSi原子をSiO2に換算したときのSiO2含有量で示す。
被膜形成用液体組成物(LC)の全固形分中の1種以上のマトリクス成分(S)の含有量(複数種の場合は、合計量)は、SiO2含有量として、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~60質量%である。
被膜形成用液体組成物(LC)の塗工性及び被膜の初期クラック抑制等の観点から、被膜形成用液体組成物(LC)の全固形分中の1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の含有量(複数種の場合は、合計量)は、SiO2含有量として、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~60質量%である。
マトリクス成分(S)の総量に対する酸化珪素微粒子(SP)の量は特に制限されず、被膜の初期クラックの生成及び酸化珪素微粒子(SP)同士の凝集による被膜の透明性低下の抑制等の観点から、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~30質量%である。
【0083】
<機能性成分(FU)>
被膜形成用液体組成物(LC)は必要に応じて、1種以上の機能性成分(FU)を含むことができる。機能性成分(FU)の機能としては、特定の波長域の光又は電波の選択的透過、選択的吸収又は選択的反射;熱線の反射又は吸収;反射防止;低反射;低放射;通電;加熱;撥水又は撥油;吸水又は吸湿;耐擦傷;防汚;抗菌;着色等の加飾;これらの組合せ等が挙げられる。被膜は例えば、機能性成分(FU)として、紫外線遮蔽剤及び/又は赤外線遮蔽剤を含むことができる。
【0084】
紫外線遮蔽剤としては公知のものを用いることができ、紫外線吸収タイプでも紫外線反射タイプでもよい。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾジチオール系紫外線吸収剤、アゾメチン系紫外線吸収剤、インドール系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤からなる群より選ばれる1種以上の紫外線吸収剤が好ましい。
【0085】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤には、水酸基含有ベンゾフェノン系化合物とエポキシ基含有加水分解性シリコン化合物との反応生成物であるシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤が含まれる。このシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤は、加水分解性シリコン化合物(SC)に含まれ、酸化珪素マトリクスを形成できる。紫外線遮蔽剤としてシリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を用いることで、酸化珪素マトリクスに紫外線吸収剤を固定でき、紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制できる。シリル化ベンゾフェノン系紫外線吸収剤については、国際公開第2011/142463号等を参照されたい。
【0086】
赤外線遮蔽剤としては公知のものを用いることができ、赤外線吸収タイプでも赤外線反射タイプでもよい。赤外線遮蔽剤としては、赤外線遮蔽粒子が好ましい。赤外線遮蔽粒子としては、1種以上の金属化合物を含む金属化合物粒子が好ましい。例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、セシウムドープ酸化タングステン(CWO(登録商標))、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、六ホウ化ランタン(LaB6)、及び五酸化バナジウム(V2O5)からなる群より選ばれる1種以上の金属化合物を含む金属化合物粒子が好ましい。
【0087】
赤外線遮蔽粒子としては、セシウムドープ酸化タングステン(CWO(登録商標))及び/又は六ホウ化ランタン(LaB6)を含む金属化合物粒子が特に好ましい。この金属化合物粒子を用いる場合、800~1500nmの波長の光に対する被膜の吸光度を、被膜m2当たりに含まれる赤外線遮蔽粒子の質量で割った値を比較的大きくでき、例えば1.5以上にできる。この場合、被膜中の赤外線遮蔽粒子の含有量を減らせる。これによって、被膜のガラス板との界面の近傍部分に存在する粒子の絶対数を減らせるため、ガラス板と被膜との密着性が向上し、耐摩耗性が向上する。
【0088】
被膜形成用液体組成物(LC)が赤外線遮蔽粒子を含む場合、赤外線遮蔽粒子の原料として、赤外線遮蔽粒子、分散媒としての有機溶剤、及び必要に応じて分散剤を含む分散液を用いることが好ましい。
【0089】
<可撓性付与成分(FL)>
被膜形成用液体組成物(LC)は、必要に応じて、被膜の成膜性を向上させ、被膜の初期クラックを抑制する、1種以上の可撓性付与成分(FL)を含むことができる。
1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の種類に関係なく、可撓性付与成分(FL)は有効である。例えば、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)が4官能性加水分解性シリコン化合物のみからなる場合、得られる酸化珪素マトリクスは可撓性が充分でない場合がある。このような場合、可撓性付与成分(FL)を用いることで、酸化珪素マトリクスに適度な可撓性を付与し、機械的強度と耐初期クラック性の双方に優れた被膜を形成できる。
【0090】
可撓性付与成分(FL)としては、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びポリオキシアルキレン基を含む親水性有機樹脂等の有機樹脂;加熱又は活性エネルギー線照射により有機樹脂となる、モノマー、オリゴマー又はプレポリマー等の硬化性有機化合物;グリセリン等の樹脂以外の非硬化性有機化合物等が挙げられる。有機樹脂、硬化性有機化合物及び非硬化性有機化合物は、公知のものを用いることができる。
【0091】
有機樹脂としては、加熱又は活性エネルギー照射により硬化する硬化性樹脂が好ましい。活性エネルギー線としては、紫外線及び電子線等が挙げられる。
熱硬化性樹脂、並びに、加熱により有機樹脂となる、モノマー、オリゴマー又はプレポリマー等の熱硬化性化合物は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を加熱により硬化する際に、同時に硬化できる。
活性エネルギー線硬化性樹脂、並びに、活性エネルギー線照射により有機樹脂となる、モノマー、オリゴマー又はプレポリマー等の活性エネルギー線硬化性化合物は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を加熱により硬化した後、活性エネルギー線照射により硬化できる。
硬化性樹脂及び硬化性化合物は、硬化時に、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)と架橋反応してもよい。
【0092】
被膜形成用液体組成物(LC)中の可撓性付与成分(FL)の含有量は特に制限されず、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、好ましくは0~100質量部、より好ましくは0.1~100質量部、特に好ましくは1.0~50質量部である。
【0093】
<触媒>
被膜形成用液体組成物(LC)は、必要に応じて、1種以上の触媒を含むことができる。
被膜形成用液体組成物(LC)の構成成分の原料に触媒が含まれる場合、1種以上の触媒には、原料中の触媒が含まれる。
触媒としては、酸触媒及びアルカリ触媒等が挙げられる。酸触媒としては、硝酸、塩酸、硫酸及び燐酸等の無機酸類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、リンゴ酸及びグルタル酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸等のスルホン酸等が挙げられる。アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びアンモニア等が挙げられる。触媒としては、酸触媒が好ましい。触媒は、水溶液の形態で用いることができる。
被膜形成用液体組成物(LC)中の触媒の含有量は特に制限されない。1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の総量100質量部に対して、1種以上の触媒の含有量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは0.01~10質量部である。
【0094】
<水>
被膜形成用液体組成物(LC)は、必要に応じて、水を含むことができる。被膜形成用液体組成物(LC)の構成成分の原料に水が含まれる場合、水には、原料中の水が含まれる。
被膜の形成工程では、雰囲気中の水分を利用して1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)の加水分解縮合反応を行えるので、被膜形成用液体組成物(LC)は水を含まなくてもよい。
被膜形成用液体組成物(LC)中の水の量は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)を加水分解縮合させるために充分な量であれば、特に制限されない。具体的には、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)のSiO2換算量に対して、モル比で1~20当量となる量が好ましく、4~18当量となる量がより好ましい
【0095】
<有機溶剤>
被膜形成用液体組成物(LC)は、必要に応じて、溶媒及び/又は分散媒として、1種以上の有機溶剤を含むことができる。被膜形成用液体組成物(LC)の構成成分の原料に有機溶剤が含まれる場合、1種以上の有機溶剤には、原料中の有機溶剤が含まれる。
【0096】
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、及びアセチルアセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びジイソプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、及び酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メトキシエタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、及び2-エトキシエタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の炭化水素類;アセトニトリル及びニトロメタン等が挙げられる。
【0097】
上記の中でも、被膜形成用液体組成物(LC)中への溶解性及び被膜形成用液体組成物(LC)の塗工性等の観点から、沸点が80~160℃のアルコールが好ましく、具体的には、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシエタノール、4-メチル-2-ペンタノール、及び2-ブトキシエタノール等が好ましい。
有機溶剤として、1種以上のアルコールと、水及びアルコールと混和可能なアルコール以外の1種以上の他の有機溶剤とを併用してもよい。
【0098】
被膜形成用液体組成物(LC)に含まれる水及び有機溶剤等の液体媒体の総量は特に制限されず、被膜形成用液体組成物(LC)が好ましい固形分濃度になるように、調整できる。被膜形成用液体組成物(LC)の固形分濃度は、好ましくは3.5~50質量%、より好ましくは9~30質量%である。「固形分濃度」は、水及び有機溶剤等の液体媒体を除いた不揮発成分の合計濃度である。
【0099】
<分散剤>
被膜形成用液体組成物(LC)は、必要に応じて、赤外線遮蔽粒子等の無機微粒子を分散させる1種以上の分散剤を含むことができる。被膜形成用液体組成物(LC)の構成成分の原料に分散剤が含まれる場合、1種以上の分散剤には、原料中の分散剤が含まれる。
分散剤としては、公知のものを用いることができる。
【0100】
<キレート剤>
被膜形成用液体組成物(LC)は、必要に応じて、1種以上のキレート剤を含むことができる。
被膜形成用液体組成物(LC)が赤外線遮蔽粒子と紫外線遮蔽剤とを含む場合、赤外線遮蔽粒子と錯体を形成できる1種以上のキレート剤を用いることができる。キレート剤は、赤外線遮蔽粒子の表面に配位して、赤外線遮蔽粒子に紫外線遮蔽剤がキレート結合するのを抑制できる
被膜形成用液体組成物(LC)の構成成分の原料にキレート剤が含まれる場合、1種以上のキレート剤には、原料中の分散剤が含まれる。
【0101】
キレート剤としては、公知のものを用いることができる。キレート剤は、可視光の吸収率が低いことが好ましい。キレート剤は、水及び有機溶剤等の液体媒体の種類により適宜選択される。液体媒体は、水及び/又はアルコールを含むことができ、これらの極性溶剤に可溶なキレート剤が好ましい。このようなキレート剤としては、マレイン酸及び(メタ)アクリル酸等のカルボン酸;これらの(共)重合体(例えば、ポリマレイン酸及びポリアクリル酸等)が挙げられる。
【0102】
<他の添加剤>
被膜形成用液体組成物(LC)は、必要に応じて、上記以外の1種以上の添加剤を含むことができる。上記以外の添加剤としては、表面調整剤、消泡剤、粘性調整剤、密着性付与剤、光安定化剤、酸化防止剤、染料、顔料及びフィラー等が挙げられる。
【0103】
工程S3において、塗工膜22Wの乾燥は、硬化反応が進まない条件で行うことができる。乾燥方法として特に制限されず、40~60℃程度の加熱乾燥、減圧乾燥、及び40~60℃程度の減圧加熱乾燥が挙げられる。
工程S3において、塗工膜22Wの硬化は、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)が硬化する温度条件での加熱によって行うことができる。硬化は、本焼成のみの1段階又は仮焼成と本焼成との複数段階で実施できる。
本焼成温度は特に制限されない。ガラス板が強化ガラスである場合、好ましくは80~230℃、より好ましくは100~230℃、特に好ましくは150~230℃、最も好ましくは180~210℃である。ガラス板が合わせガラスである場合、好ましくは80~110℃、より好ましくは90~110℃である。加熱時間は、被膜形成用液体組成物(LC)の組成及び加熱温度等に応じて適宜設計できる。
【0104】
工程S3における塗工膜付きガラス板の配置の向きは、特に制限されない。塗工膜側が上側になるように、塗工膜付きガラス板を略水平に配置してよい。
被膜形成用液体組成物(LC)が、熱硬化性樹脂及び/又は熱硬化性化合物を含む場合、熱硬化性樹脂及び/又は熱硬化性化合物は、工程S3で、1種以上の加水分解性シリコン化合物(SC)と共に硬化できる。
【0105】
被膜形成用液体組成物(LC)が活性エネルギー線硬化性樹脂及び/又は活性エネルギー線硬化性化合物を含む場合、工程S3の後に、被膜に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性樹脂及び/又は活性エネルギー線硬化性化合物を硬化する工程を実施できる。活性エネルギー線としては、紫外線及び電子線等が挙げられる。
【0106】
[フロントベンチガラス]
本開示の自動車用フロントベンチガラスは、上記の本開示の被覆ガラス板を含む。フロントベンチガラスは、フロントサイドガラスとも言う。
図10は、本発明に係る一実施形態の自動車の模式側面図である。符号101はフロントガラス、符号102はフロントベンチガラス(フロントサイドガラス)、符号103はフロントドアガラス(サイドガラス)、符号104はリアドアガラス(サイドガラス)、符号105はリアサイドガラス(サイドガラス)、符号106はリアガラスを示す。
フロントベンチガラス102は、ガラス板25と遮蔽パターン21と被膜22とを有する上記の被覆ガラス板20を含むことができる。なお、
図10において、被覆ガラス板20は透視図で示してある。
【0107】
フロントベンチガラス用の被覆ガラス板20における寸法例は、以下の通りである。
工程S2における被膜形成用液体組成物(LC)の流下方向の領域Trの寸法(HTr)(領域Opと領域Inとの離間距離)は、例えば30~150mmである。
工程S2における被膜形成用液体組成物(LC)の流下方向の領域Inの寸法(HIn)(領域Trと領域Exとの離間距離)は、例えば20~80mmである。
工程S2における被膜形成用液体組成物(LC)の流下方向の領域Exの寸法(HEx)は、例えば20~100mmである。
【0108】
HInとHExとの合計(HIn+HEx)は、好ましくは20~150mm、より好ましくは50~100mmである。
HInとHExとの合計に対するHInの比率(HIn/(HIn+HEx))は、好ましくは0.2~0.6、より好ましくは0.3~0.5である。
HInとHExとの合計に対するHExの比率(HEx/(HIn+HEx))は、好ましくは0.4~0.8、より好ましくは0.5~0.7である。
上記のように設計することで、遮蔽パターン21の領域Exの表面と窓枠部材35との接着面積が充分に確保され、被覆ガラス板20を窓枠部材35に対して良好に接着できる。
【0109】
以上説明したように、本開示によれば、遮蔽パターン上に被膜を設けつつ、遮蔽パターンと他の部材との間の接着を弱めない被覆ガラス板とその製造方法を提供できる。
【0110】
[用途]
本開示の被覆ガラス板は任意の用途に使用でき、自動車、電車、船舶及び航空機等の輸送機器用の窓ガラス;建築物の窓ガラス等に好適である。
本開示の被覆ガラス板は、自動車等の車両の窓ガラス(フロントガラス、フロントベンチガラス、サイドガラス、及びリアガラス等)等に好適である。
【実施例0111】
以下に、実施例に基づいて本発明について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。例1~4、11~17が実施例である。特に明記しない限り、室温は、20~25℃である。
【0112】
[評価項目と評価方法]
評価項目と評価方法は、以下の通りである。
(被膜形成用液体組成物(LC)の粘度)
粘度計(東機産業社製「RE85L」)を用いて、工程S2実施時の室温下での被膜形成用液体組成物(LC)の粘度を測定した。
【0113】
(遮蔽パターン及び被膜の厚さ)
遮蔽パターン及び被膜の厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた断面観察により測定した。
【0114】
(算術平均粗さRa)
表面粗さ計(東京精密社製「SURFCOM NEX 001 DX-12」)を用い、JIS B 0601-1994に準拠して、被覆ガラス板の表面の算術平均粗さRaを測定した。
【0115】
(光沢度)
光沢計(堀場製作所社製「IG-331」)を用い、JIS Z 8741-1997「鏡面光沢度-測定方法」に準拠して、測定角度60°の条件で、被覆ガラス板の表面の光沢度を測定した。
【0116】
(耐初期クラック性)
光学顕微鏡(OLYMPUS社製「BX53M」)を用いて、50倍の倍率で、被覆ガラス板の被膜の表面を観察した。初期クラックと部分的な剥離の有無を確認した。評価基準は、以下の通りである。
良好(A):初期クラックが全く見られない。
可(B):わずかに初期クラックが見られたが、部分的な剥離は見られなかった。
不良(C):初期クラックが見られ、かつ、部分的な剥離が見られた。
【0117】
[材料]
各例で用いた材料は、以下の通りである。
<ガラス板(G)>
図9に模式的に示すように、工程S2のかけ流し方向の寸法の異なる2つのガラス板(GA)、(GB)を用意した。
(GA)自動車のフロントベンチガラス用の強化ガラス(AGC社製)、上辺(25A)及び下辺(25B)が202mmであり、前方側辺(25C)及び後方側辺(25D)が688mmであり、厚さが3.1mmである平面視略平行四辺形状のガラス板が湾曲した湾曲ガラス板(内面(凹面)の縦方向の曲率半径=2000~8000mm、横方向の曲率半径=300~800mm)。
【0118】
(GB)自動車のフロントベンチガラス用の強化ガラス(AGC社製)、上辺(25A)及び下辺(25B)が170mmであり、前方側辺(25C)及び後方側辺(25D)が699mmであり、厚さ3.1mmである平面視略平行四辺形状のガラス板が湾曲した湾曲ガラス板(内面(凹面)の縦方向の曲率半径=4000~6000mm、横方向の曲率半径=500~600mm)。
【0119】
<4官能性加水分解性シリコン化合物(4官能シラン)>
TEOS:テトラエトキシシラン。
【0120】
<紫外吸収剤(紫外線遮蔽剤)>
THBP:ジヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、BASF社製「Uvinul(登録商標) 3050」。
Si-THBP溶液(63質量%):上記のTHBP49.2g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403)123.2g、硬化触媒として塩化ベンジルトリエチルアンモニウム(純正化学社製)0.8g、及び酢酸ブチル(純正化学社製)100gを、撹拌しながら60℃に昇温して溶解させ、120℃で加熱し4時間反応させることにより、固形分濃度63質量%のシリル化紫外線吸収剤(Si-THBP)溶液を得た。このシリル化紫外線吸収剤(Si-THBP)は、機能性成分かつ3官能性加水分解性シリコン化合物である。
【0121】
<赤外線吸収剤(赤外線遮蔽剤)>
ITO分散液:20質量%インジウム錫酸化物(ITO)分散液。三菱マテリアル量子化成社製のITO微粒子(平均一次粒子径20nm、平均分散粒子径55nm)の11.9g、分散剤(ビックケミー・ジャパン社製「DISPERBYK-190」の3.0g、及び後記混合溶剤(AP-1)の24.2gを、ボールミルを用いて48時間分散処理した。さらに混合溶剤(AP-1)を添加して、ITO濃度が20質量%となるように希釈して、ITO分散液を得た。
【0122】
<可撓性付与成分>
EX-614B溶液:ソルビトールポリグリシジルエーテル(熱硬化性の多官能エポキシ化合物、ナガセケムテックス社製「デナコールEX-614B」)、50質量%メタノール溶液。
【0123】
<キレート剤>
PMA-50W:ポリマレイン酸水溶液、固形分40~48質量%、日油社製「ノンポール PMA-50W」。
マレイン酸:純度99.0質量%。
【0124】
<表面調整剤>
BYK307分散液:シリコン系表面調整剤(ビッグケミー・ジャパン社製「BYK307」)、12質量%メタノール分散液。
【0125】
<有機溶剤>
MEK:メチルエチルケトン、純度99.9質量%。
メタノール:純度99.5質量%。
【0126】
<酸触媒>
酢酸水溶液:90質量%。
【0127】
[製造例1](被膜形成用液体組成物(LC1)の調製)
丸底フラスコに、TEOSを12.4g、Si-THBP溶液(63質量%)を11.6g、EX-614B溶液(50質量%)を1.9g、PMA-50Wを1.7g、マレイン酸を1.0g、BYK307分散液(12質量%)を0.5g、メタノールを8.6g、MEKを38.0g、酢酸水溶液(90質量%)を9.5g、及び純水を12.8gを入れ、50℃で2時間撹拌混合した。最後に、ITO分散液(20質量%)を6.80g加え、撹拌混合した。以上のようにして、固形分濃度が12.2質量%の被膜形成用液体組成物(LC1)を得た。
【0128】
[例1~例3](被覆ガラス板の製造)
図9の上図及び中図は、遮蔽パターン付きガラス板に対する被膜形成用液体組成物のかけ流しの様子を示す模式斜視図である。
図9において、
図1と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は省略する。
図9の上図及び中図に示すように、ガラス板(G)として、被膜形成用液体組成物(LC)の流下方向の領域Trの高さの異なるガラス板(GA)(例1、2)及びガラス板(GB)(例3)を用意した。ガラス板(GA)はガラス板(GB)よりも、被膜形成用液体組成物(LC1)の流下方向の領域Trの高さが高い。
【0129】
(工程S1)
ガラス板(GA)又は(GB)の一方の表面(車内面、凹曲面)の周縁領域(外周から80mm以内の領域)に、スクリーン印刷法により、黒色顔料とガラスフリットとを含む市販の遮蔽パターン形成用のセラミックペースト(BP1)を塗工し、乾燥及び焼成して、遮蔽パターン(21)を形成した。このようにして、
図9に示すような、遮蔽パターン付きガラス板(25X)を得た。以下、特に明記しない限り、遮蔽パターン付きガラス板の表面は、凹曲面である。
【0130】
(工程S2)
次に、
図2及び
図3に示したように、遮蔽パターン付きガラス板の周縁領域の外周部(外周から15mm以内の領域)に対して、マスキングを施した。例1、3では、遮蔽パターン付きガラス板の周縁領域の外周部に対して、テンプレート型の治具(樹脂製、3mm厚)を当接させた。例2では、遮蔽パターン付きガラス板の周縁領域の外周部に対して、マスキングテープ(0.5mm厚)を貼り付けた。いずれの例においても、マスキング領域は、領域Exと領域Opの外周部とを含み、領域Inを含まない領域とした。
【0131】
次に、真空吸着装置を用いて、マスキングを施した遮蔽パターン付きガラス板を、
図1及び
図3に示したように、一側辺側(前方側辺25C側)を上方にして、地面に対して略垂直に立てて、保持した。工程S2実施時の室温は22℃であった。工程S2実施時の室温下での被膜形成用液体組成物(LC1)の粘度は、1.2mPa・sであった。遮蔽パターン付きガラス板の温度(ガラス温度とも言う。)は、室温と同じ温度であった。
この状態で、遮蔽パターン付きガラス板の上記表面(車内面、凹曲面)に対して、フローコート法により被膜形成用液体組成物(LC1)を流しかけた。
【0132】
遮蔽パターン付きガラス板の表面の上記一側辺の近傍部分に、液体ノズルの吐出口が対向するように、液体ノズルを配置した。液体ノズルの吐出口の口径は、3mmφであった。
液体ノズルの幅方向の移動の間の、液体ノズルの吐出口の中心の高さ位置は、遮蔽パターン付きガラス板の上記一側辺から15mm±5mm低い位置に設定した。
液体ノズルの幅方向の移動の間の、液体ノズルの吐出口の中心の、遮蔽パターン付きガラス板の表面からの水平方向の離間距離は、3mm±3mmに設定した。
【0133】
液体ノズルから被膜形成用液体組成物(LC1)を連続的に吐出させながら、液体ノズルを、遮蔽パターン付きガラス板の上記一側辺に沿って、遮蔽パターン付きガラス板の上記一側辺の一端側から他端側まで、遮蔽パターン付きガラス板の幅方向に、移動させた。
液体ノズルの移動速度は40mm/sとし、液体ノズルからの被膜形成用液体組成物(LC1)の吐出量(液吐出量とも言う。)は11g/sとした。液吐出量は、移動速度によって調整した。
【0134】
以上のようにして、遮蔽パターン付きガラス板の領域Exの表面にマスキングを施した状態で、遮蔽パターン付きガラス板の領域Opのうちの少なくとも一部の領域、領域Tr、及び領域Inの表面上を被膜形成用液体組成物(LC1)が流下するように、領域Tr側から領域In側に向かう方向に被膜形成用液体組成物(LC1)をかけ流して、塗工膜(22W)を形成した。
ガラス板(GA)の被膜形成用液体組成物(LC1)の流下方向の領域Trの寸法(HTr)は、36~100mmであった。
ガラス板(GB)の被膜形成用液体組成物(LC1)の流下方向の領域Trの寸法(HTr)は、30~70mmであった。
【0135】
(立置き工程)
塗工膜の形成が完了した後、得られた塗工膜付きガラス板を15秒間、立てた状態で保持した。この時間を、「立置き時間」と言う。
この工程後に、マスキングを取り外した。
【0136】
(工程S3)
次に、塗工膜付きガラス板を、大気雰囲気下で、180℃で、20分間加熱焼成して、塗工膜を硬化した。この工程では、塗工膜側が上側になるように、塗工膜付きガラス板を、地面に対して略水平に配置(平置き)した。以上のようにして、被膜(22)を形成して、被覆ガラス板(20)を得た。得られた被覆ガラス板について、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を実施した。
【0137】
[例1で得られた被覆ガラス板のSEM観察結果]
例1では、ガラス板(GA)を用い、工程S2において、治具によるマスキングを実施した。例1で得られた被覆ガラス板の被膜は、
図4に示したように、領域Tr内において、領域Inに近づくにつれて次第に厚くなる傾向があることが確認された。すなわち、例1で得られた被覆ガラス板の被膜は、領域Tr内において、領域Inに近づくにつれて次第に厚くなる第1の厚さ増加部(22A)を有することが確認された。
【0138】
図5は、例1で得られた被覆ガラス板の領域In内の、領域Inと領域Exとの境界から1cm程度上流地点におけるかけ流し方向の断面SEM写真である。
領域In内では、ガラス板(Glass)上に、遮蔽パターン(Shield)及び被膜(Coating)が順次積層されている様子が確認された。図中、上側がかけ流しの上流側であり、下側がかけ流し下流側である。写真に写っている範囲のさらに下流側で治具によるマスキングが行われた。
【0139】
図6は、
図5中の地点L01~L06をさらに拡大した写真である。
L02、L03、L04、L05、L06の順に被膜の厚さが減少しており、被膜は、領域In内の上流側に、領域Exに近づくにつれて次第に薄くなる厚さ減少部(22B)を有することが確認された。L03~L06の被膜の厚さは、0.5~1.2μm程度であった。
【0140】
図7は、例1で得られた被覆ガラス板の被膜の下流側末端部の斜視SEM写真である。被膜の下流側末端部(領域Inと領域Exとの境界付近)で、被膜(Coating)の盛り上がりが見られた。被膜の下流側末端部は、第2の厚さ増加部(22C)を含み、その下流側末端は、遮蔽パターン(Shield)の表面に対して、斜めに立ち上がった立上り面(22D)であった。
【0141】
[例2で得られた被覆ガラス板のSEM観察結果]
例2では、ガラス板(GA)を用い、工程S2において、テープによるマスキングを実施した。例1と同様、例2で得られた被覆ガラス板の被膜は、
図4に示したように、領域Tr内において、領域Inに近づくにつれて次第に厚くなる傾向があることが確認された。すなわち、例2で得られた被覆ガラス板の被膜は、領域Tr内において、領域Inに近づくにつれて次第に厚くなる第1の厚さ増加部(22A)を有することが確認された。
例1と同様、例2で得られた被覆ガラス板の被膜は、領域In内の上流側に、領域Exに近づくにつれて次第に薄くなる厚さ減少部(22B)を有することが確認された。
【0142】
図8は、例2で得られた被覆ガラス板の被膜の下流側末端部の断面SEM写真である。被膜(Coating)の表面は滑らかな一方で、遮蔽パターン(Shield)の表面はそれよりも粗いことが分かる。被膜の下流側末端部(領域Inと領域Exとの境界付近)で、被膜(Coating)の盛り上がりが見られた。被膜の下流側末端部は、第2の厚さ増加部(22C)を含み、その下流側末端は、遮蔽パターン(Shield)の表面に対して、略垂直に立ち上がった立上り面(22D)であった。
【0143】
[例1、3で得られた被覆ガラス板の算術平均粗さRaと光沢度]
例1では、ガラス板(GA)を用い、工程S2において、治具によるマスキングを実施した。例3では、ガラス板(GB)を用い、工程S2において、治具によるマスキングを実施した。これらの例で得られた被覆ガラス板の遮蔽パターン及び被膜の形成側の表面の領域In及び領域Exについて、それぞれ算術平均粗さRaと光沢度とを測定した。評価結果を表1に示す。
【0144】
[例4]
図9の下図は、遮蔽パターン付きガラス板に対する被膜形成用液体組成物のかけ流しの様子を示す模式正面図である。
図9の下図に示すように、テストピースとして、平面視長方形状のガラス板(TP)(縦200mm、横100mm、厚さ5mm)を用意した。その一方の表面上の下端部に、例1の工程S1と同様の方法で、
図9に示すような平面パターンの遮蔽パターン(21)(縦10mm、横50mm、厚さ8μm)を形成して、遮蔽パターン付きガラス板(25X)を得た。この遮蔽パターン付きガラス板を、被膜無のテストピースとも言う。
次いで、得られた遮蔽パターン付きガラス板に対して、マスキングを実施しなかった以外は、例1の工程S2及びS3と同様の工程を実施して、遮蔽パターン付きガラス板の略全面に被膜を形成して、被覆ガラス板を得た。この被覆ガラス板を、被膜有のテストピースとも言う。
被膜無のテストピースと被膜有のテストピースについてそれぞれ、遮蔽パターンの形成領域の表面の算術平均粗さRaと光沢度とを測定した。評価結果を表1に示す。
【0145】
【0146】
表1に示すように、例1、3のいずれにおいても、表面に被膜が存在する領域Inの算術平均粗さRa(In)は、遮蔽パターンが露出した領域Exの算術平均粗さRa(Ex)よりも小さいことが確認された。これらの例で得られた被覆ガラス板の領域Exの表面の算術平均粗さRa(Ex)はいずれも、0.55μm以上であった。これらの例で得られた被覆ガラス板の領域Inの算術平均粗さRa(In)はいずれも、0.45μm以下であり、0.40μm以下であった。
テストピースを用いた例4についても、同様の結果が得られた。
【0147】
表1に示すように、例1、3のいずれにおいても、表面に被膜が存在する領域Inの光沢度Gr(In)は、遮蔽パターンが露出した領域Exの光沢度Gr(Ex)よりも高いことが確認された。これらの例で得られた被覆ガラス板の領域Exの表面の光沢度Gr(Ex)はいずれも、9以下であり、7以下であり、5以下であった。これらの例で得られた被覆ガラス板の領域Inの光沢度Gr(In)はいずれも、10以上であり、20以上であり、25以上であり、30以上であった。
テストピースを用いた例4についても、同様の結果が得られた。
【0148】
[例11~17]
300mm×300mmの正方形状の3.5mm厚の未強化のガラス板(AGC社製「VFL」、グリーン色)を用意した。例1の工程S1と同様の方法で、このガラス板の一方の表面上に、スクリーン印刷法により、黒色顔料とガラスフリットとを含む市販の遮蔽パターン形成用のセラミックペースト(BP1)を塗工し、乾燥及び焼成して、遮蔽パターン(21)を形成した。このようにして、遮蔽パターン付きガラス板(25X)を得た。遮蔽パターンの平面形状は、200mm×200mmの正方形状から、50mm×50mmの正方形状をくり抜いた形状とした。なお、遮蔽パターンの外形(200mm×200mmの正方形)と内形(50mm×50mmの正方形)の中心と対角線は、ガラス板の中心と対角線に合わせた。遮蔽パターンの厚みは、15μmであった。
得られた遮蔽パターン付きガラス板の遮蔽パターン上に、スピンコート法により、被膜形成用液体組成物(LC1)を塗布して、塗工膜(22W)を形成した。その後、例1の工程S3と同様の工程を実施して、塗工膜を硬化して、被膜(22)を形成した。以上のようにして、被覆ガラス板(20)を得た。例11~17では、スピンコーターの回転数を変更することで、被膜の厚さを変更した。
各例で得られた被覆ガラス板のSEM断面観察を実施して、遮蔽パターンの厚さ(ST)に対する被膜の厚さ(CT)の比(CT/ST)を求めた。また、被膜の表面の光沢度と耐初期クラック性の評価を実施した。評価結果を表2に示す。
【0149】
【0150】
表2に示すように、遮蔽パターンの厚さ(ST)に対する被膜の厚さ(CT)の比(CT/ST)が0.03~0.7の範囲内において、表面の光沢度が10以上であり、耐初期クラック性の評価が「A」又は「B」であり、表面の光沢度が高く、耐初期クラック性が良好な被覆ガラス板が得られた。
特に、CT/STが0.05~0.5の範囲内において、表面の光沢度が30以上であり、耐初期クラック性の評価が「A」であり、表面の光沢度が高く、耐初期クラック性に優れる被覆ガラス板が得られた。
【0151】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更できる。
20:被覆ガラス板、21:遮蔽パターン、22:被膜、22A:第1の厚さ増加部、22B:厚さ減少部、22C:第2の厚さ増加部、22D:立上り面、22W:塗工膜、25:ガラス板、25X:遮蔽パターン付きガラス板、26:ガラス板の表面、27:被膜形成用液体組成物、28:ノズル、30:治具、34:シーリング材、35:窓枠部材、102:フロントベンチガラス、WG:窓枠部材付き車両窓ガラス、Ar:領域、Ex:領域、In:領域、Op:領域、Tr:領域。