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特開2023-154617EBSD測定用曲げ治具及びEBSD測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154617
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】EBSD測定用曲げ治具及びEBSD測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20058 20180101AFI20231013BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20231013BHJP
   G01N 23/2251 20180101ALI20231013BHJP
【FI】
G01N23/20058
G01N17/00
G01N23/2251
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064061
(22)【出願日】2022-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】麻生 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌弘
【テーマコード(参考)】
2G001
2G050
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA07
2G001BA15
2G001CA03
2G001DA09
2G001LA02
2G001MA05
2G001QA01
2G001RA01
2G050AA01
2G050AA02
2G050EB01
2G050EC05
(57)【要約】
【課題】金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板の曲げ挙動を定点観測することが可能なEBSD測定用曲げ治具及びEBSD測定方法を提供する。
【解決手段】EBSD測定用曲げ治具は、金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板の曲げ挙動におけるEBSD測定用曲げ治具であり、金属板又は積層板の180度曲げ挙動又はW曲げ挙動を、段階的に測定可能に構成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板の曲げ挙動におけるEBSD測定用曲げ治具であり、
前記金属板又は前記積層板の180度曲げ挙動又はW曲げ挙動を、段階的に測定可能に構成されているEBSD測定用曲げ治具。
【請求項2】
一対の180度曲げ用金型、又は、一対のW曲げ用金型と、
前記一対の180度曲げ用金型、又は、前記一対のW曲げ用金型を支持し、ネジ受けを有する土台と、
前記土台のネジ受けに差し込まれている開閉ネジと、
前記開閉ネジに取り付けられているツマミと、
を備えている請求項1に記載のEBSD測定用曲げ治具。
【請求項3】
前記一対の180度曲げ用金型、又は、前記一対のW曲げ用金型は、それぞれ前記開閉ネジを嵌めあうネジ孔を有し、
前記ツマミを回して、前記土台のネジ受けに差し込まれている前記開閉ネジを回転させることで、前記一対の180度曲げ用金型、又は、前記一対のW曲げ用金型が相対的に移動して開閉可能に構成されている請求項2に記載のEBSD測定用曲げ治具。
【請求項4】
SEM装置の測定ステージに設置できるサイズを有する請求項1に記載のEBSD測定用曲げ治具。
【請求項5】
前記金属板、又は、前記積層板における前記金属板の厚さが0.1mm以下である請求項1に記載のEBSD測定用曲げ治具。
【請求項6】
前記金属板、又は、前記積層板における前記金属板が、銅板または銅合金板である請求項1に記載のEBSD測定用曲げ治具。
【請求項7】
EBSD測定用曲げ治具によって、金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板の180度曲げ又はW曲げを行い、
前記金属板又は前記積層板の180度曲げ挙動又はW曲げ挙動を、段階的に定点観測するEBSD測定方法。
【請求項8】
前記EBSD測定用曲げ治具が、請求項1~6のいずれか一項に記載のEBSD測定用曲げ治具であり、
前記ツマミを回して、前記土台のネジ受けに差し込まれている前記開閉ネジを回転させることで、前記一対の180度曲げ用金型、又は、前記一対のW曲げ用金型を段階的に狭めていき、段階的に前記金属板又は前記積層板の曲げ挙動を定点観測する請求項7に記載のEBSD測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はEBSD測定用曲げ治具及びEBSD測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板をサンプルとして曲げ試験を行い、金属板と樹脂との密着性、樹脂及び金属板の亀裂状況の評価を行っている。
【0003】
例えば、銅箔や銅張積層板をサンプルとした曲げ試験方法については、日本伸銅協会技術標準(JCBA) T307:2007「銅および銅合金薄板条の曲げ加工性評価方法」、又は、「JIS Z 2248 曲げ試験方法」などが知られている。
【0004】
また、特許文献1には、試験対象である試験片の両側をそれぞれ固定する一次治具と、前記一次治具の上面2か所と下面2か所に荷重を負荷する負荷部を備えた上治具と、前記一次治具の上面2か所と下面2か所に荷重を負荷する負荷部を備えた下治具とを備えた試験治具によって行う曲げ試験方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-112499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の曲げ治具による銅箔や銅張積層板などの曲げ試験では、サンプルを所望の角度に曲げた後に生じる屈曲部の状態(銅箔と樹脂との密着性、樹脂および銅箔の亀裂状況)などを評価している。
【0007】
しかしながら、従来の曲げ治具による銅箔や銅張積層板などの曲げ試験では、銅箔や銅張積層板などを曲げる際の曲げ挙動(銅箔と樹脂との密着性、樹脂および銅箔の亀裂状況および曲げによる銅箔の結晶方位などの変化)について着目しておらず、そのような曲げ挙動を定点観測することはできていなかった。
【0008】
そこで、本発明の実施形態は、金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板の曲げ挙動を定点観測することが可能な後方散乱電子回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)測定用曲げ治具及びEBSD測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下のように特定される本発明によって解決される。
(1)金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板の曲げ挙動におけるEBSD測定用曲げ治具であり、
前記金属板又は前記積層板の180度曲げ挙動又はW曲げ挙動を、段階的に測定可能に構成されているEBSD測定用曲げ治具。
(2)一対の180度曲げ用金型、又は、一対のW曲げ用金型と、
前記一対の180度曲げ用金型、又は、前記一対のW曲げ用金型を支持し、ネジ受けを有する土台と、
前記土台のネジ受けに差し込まれている開閉ネジと、
前記開閉ネジに取り付けられているツマミと、
を備えている(1)に記載のEBSD測定用曲げ治具。
(3)前記一対の180度曲げ用金型、又は、前記一対のW曲げ用金型は、それぞれ前記開閉ネジを嵌めあうネジ孔を有し、
前記ツマミを回して、前記土台のネジ受けに差し込まれている前記開閉ネジを回転させることで、前記一対の180度曲げ用金型、又は、前記一対のW曲げ用金型が相対的に移動して開閉可能に構成されている(2)に記載のEBSD測定用曲げ治具。
(4)SEM装置の測定ステージに設置できるサイズを有する(1)~(3)のいずれかに記載のEBSD測定用曲げ治具。
(5)前記金属板、又は、前記積層板における前記金属板の厚さが0.1mm以下である(1)~(4)のいずれかに記載のEBSD測定用曲げ治具。
(6)前記金属板、又は、前記積層板における前記金属板が、銅板または銅合金板である(1)~(5)のいずれかに記載のEBSD測定用曲げ治具。
(7)EBSD測定用曲げ治具によって、金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板の180度曲げ又はW曲げを行い、
前記金属板又は前記積層板の180度曲げ挙動又はW曲げ挙動を、段階的に定点観測するEBSD測定方法。
(8)前記EBSD測定用曲げ治具が、(1)~(6)のいずれかに記載のEBSD測定用曲げ治具であり、
前記ツマミを回して、前記土台のネジ受けに差し込まれている前記開閉ネジを回転させることで、前記一対の180度曲げ用金型、又は、前記一対のW曲げ用金型を段階的に狭めていき、段階的に前記金属板又は前記積層板の曲げ挙動を定点観測する(7)に記載のEBSD測定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板の曲げ挙動を定点観測することが可能なEBSD測定用曲げ治具及びEBSD測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るEBSD測定用曲げ治具における、W曲げ治具及び180度曲げ治具の外観観察写真である。
図2】W曲げ治具及び180度曲げ治具の各構成部材の外観観察写真である。
図3】本発明の実施形態に係る180度曲げ治具によるサンプル20aの180度曲げの様子を示す外観観察写真である。
図4】本発明の実施形態に係るW度曲げ治具によるサンプル20bのW曲げの様子を示す外観観察写真である。
図5】実施例1における、SEM観察結果である。
図6】実施例2における、SEM観察結果及びEBSD測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
<EBSD測定用曲げ治具>
本発明の実施形態に係るEBSD測定用曲げ治具における曲げ試験対象は、金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板である。金属板を構成する材料としては、銅、アルミニウム、鉄など、又は、それらの合金が挙げられる。積層板は、当該金属板と、ポリイミド基板等の樹脂基板との積層板である。例えば、金属板を銅箔又は銅合金箔(銅板または銅合金板)としたとき、測定対象となる積層板は、銅張積層板(CCL:Copper Clad Laminate)とすることができる。
【0014】
180度曲げ治具における曲げ試験対象の金属板、又は、積層板における金属板の厚さについては特に限定されないが、0.2mm以下であってもよく、0.1mm以下であってもよい。また、180度曲げ治具における曲げ試験対象の金属板、又は、積層板における金属板の高さ(幅)及び長さについても特に限定されないが、高さ8mm以内及び長さ32mm以内であってもよい。W曲げ治具における曲げ試験対象の金属板、又は、積層板における金属板の厚さについては特に限定されないが、0.2mm以下であってもよく、0.1mm以下であってもよい。また、W曲げ治具における曲げ試験対象の金属板、又は、積層板における金属板の高さ(幅)、長さについても特に限定されないが、高さ11mm以内及び長さ20mm以内であってもよい。また、180度曲げ治具及びW曲げ治具における曲げ試験対象の金属板、又は、積層板の厚み、幅及び長さは、EBSD測定用曲げ治具のサイズに合わせて適宜調整することができる。
【0015】
図1に、本発明の実施形態に係るEBSD測定用曲げ治具における、W曲げ治具及び180度曲げ治具の外観観察写真を示す。図2に、W曲げ治具及び180度曲げ治具の各構成部材の外観観察写真を示す。
【0016】
(180度曲げ治具の構成)
本発明の実施形態に係る180度曲げ治具は、金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板(以下、サンプル20aとも言う)の曲げ挙動におけるEBSD測定用曲げ治具である。
【0017】
180度曲げ治具は、一対の180度曲げ用金型10aと、一対の180度曲げ用金型10aを支持し、ネジ受け11aを有する土台12aと、土台12aのネジ受け11aに差し込まれている開閉ネジ13aと、開閉ネジ13aに取り付けられているツマミ14aとを備える。
【0018】
一対の180度曲げ用金型10aは、それぞれ開閉ネジ13aを嵌めあうネジ孔15aを有し、ツマミ14aを回して、土台12aのネジ受け11aに差し込まれている開閉ネジ13aを回転させることで、一対の180度曲げ用金型10aが相対的に移動して開閉可能(一対の180度曲げ用金型10aの間隔を狭める且つ拡げることが可能)に構成されている。一対の180度曲げ用金型10aは、互いに対向する面(サンプル20aの抑え込み面)が平滑な平面に形成されており、後述の図3に示すようにサンプル20aを折り曲げて一対の180度曲げ用金型10aの間に差し込み、さらに一対の180度曲げ用金型10aの間隔を狭くすることで、サンプル20aを180度に折り曲げることができる。
【0019】
本発明の実施形態に係る180度曲げ治具は、このように、サンプル20aの180度曲げ挙動を、段階的に測定可能に構成されている。より具体的には、初めに一対の180度曲げ用金型10aの間隔(移動幅)を空けておき、一対の180度曲げ用金型10aの間にサンプル20aを設けた状態で、ツマミ14aを所定量ずつ回して、土台12aのネジ受け11aに差し込まれている開閉ネジ13aを回転させることで、段階的に一対の180度曲げ用金型10aの間隔(移動幅)を狭くしていく。これにより、段階的にサンプル20aの180度曲げを行うことができる。このため、銅箔や銅張積層板などのサンプル20aを曲げる際の曲げ挙動(銅箔と樹脂との密着性、樹脂および銅箔の亀裂状況および曲げによる銅箔の結晶方位などの変化)を、所望の曲げの程度ごとに定点観測することが可能となる。
【0020】
なお、金属板又は積層板を折り曲げる治具としては、平滑な平面に形成された抑え込み面を互いに有する一対の金型を、予め所定幅の隙間を空けて設置しておき、曲げ試験対象の金属板又は積層板を、針状の突起物などで外側から当該隙間へ押し込んでいくことで、当該隙間に押し込まれた金属板又は積層板を折り曲げる形式も考えられる。しかしながら、このような治具では、金属板又は積層板を針状の突起物により一方向から一対の金型の隙間に押し込むことでのみ、金属板又は積層板を折り曲げていくため、曲げ中心における金属板又は積層板の突起物の反対側からは何ら折り曲げる力が働かない。従って、1.3mm以下の小さい曲率半径となるまで折り曲げることが困難であり、実質的に120度程度まで曲げることが限界である。これに対し、本発明の実施形態に係る180度曲げ治具は、金属板又は積層板を折り曲げて、一対の180度曲げ用金型10aの互いに対向する面(金属板又は積層板の抑え込み面)の間に差し込み、さらに一対の180度曲げ用金型10aの間隔を狭くすることで、金属板又は積層板を180度に折り曲げる。このように、本発明の実施形態に係る180度曲げ治具は、金属板又は積層板を曲げ中心の両側から挟み込む構造を有するため、金属板又は積層板を1.3mm以下の小さい曲率半径となるまで折り曲げることが容易であり、金属板又は積層板を実質的に180度に折り曲げることが可能となる。
【0021】
本発明の実施形態に係る180度曲げ治具で曲げられたサンプル20aの曲げ挙動は、別途設けられた走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)装置で観察するため、180度曲げ治具は、当該SEM装置の測定ステージに設置できるサイズを有することが好ましい。当該サイズは、例えば、最大幅×最大長さ×最大高さ=20mm×30mm×20mmとすることができる。
【0022】
本発明の実施形態に係る180度曲げ治具の総質量は特に限定されないが、150g以下とすることが好ましい。EBSD測定は、サンプルとともに測定ステージを水平方向から例えば70度傾斜させて行う。180度曲げ治具の総質量が軽いとEBSD測定時に測定ステージからのずれ落ちを抑制することができる。180度曲げ治具の総質量は、例えば、105gとすることができる。
【0023】
180度曲げ治具を構成する、一対の180度曲げ用金型10a、ネジ受け11aを有する土台12a、開閉ネジ13a及びツマミ14aの形状及び大きさは特に限定されず、上述の機能を有するものであれば、適宜設計することができる。また、それらの材質についても特に限定されず、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼等、銅箔や銅張積層板などの曲げ試験で従来用いられる曲げ治具を構成する材料によって形成することができる。
【0024】
(W曲げ治具の構成)
本発明の実施形態に係るW曲げ治具は、金属板、又は、金属板と樹脂基材との積層板(以下、サンプル20bとも言う)の曲げ挙動におけるEBSD測定用曲げ治具である。
【0025】
W曲げ治具は、一対のW曲げ用金型10bと、一対のW曲げ用金型10bを支持し、ネジ受け11bを有する土台12bと、土台12bのネジ受け11bに差し込まれている開閉ネジ13bと、開閉ネジ13bに取り付けられているツマミ14bとを備える。
【0026】
一対のW曲げ用金型10bは、それぞれ開閉ネジ13bを嵌めあうネジ孔15bを有し、ツマミ14bを回して、土台12bのネジ受け11bに差し込まれている開閉ネジ13bを回転させることで、一対のW曲げ用金型10bが相対的に移動して開閉可能(一対のW曲げ用金型10bの間隔を狭める且つ拡げることが可能)に構成されている。一対のW曲げ用金型10bは、互いに対向する面(サンプル20bの抑え込み面)がそれぞれ凹凸を有し、互いの凹凸が噛み合った際にその当接部の断面がアルファベットのW字を構成するように形成されている。このため、後述の図4に示すようにサンプル20bを一対のW曲げ用金型10bの間に設け、一対のW曲げ用金型10bの間隔を狭くすることで、サンプル20bをW字型に折り曲げることができる。
【0027】
本発明の実施形態に係るW曲げ治具は、このように、サンプル20bのW曲げ挙動を、段階的に測定可能に構成されている。より具体的には、初めに一対のW曲げ用金型10bの間隔(移動幅)を空けておき、一対のW曲げ用金型10bの間にサンプル20bを設けた状態で、ツマミ14bを所定量ずつ回して、土台12bのネジ受け11bに差し込まれている開閉ネジ13bを回転させることで、段階的に一対のW曲げ用金型10bの間隔(移動幅)を狭くしていく。これにより、段階的にサンプル20bのW曲げを行うことができる。このため、銅箔や銅張積層板などのサンプル20bを曲げる際の曲げ挙動(銅箔と樹脂との密着性、樹脂および銅箔の亀裂状況および曲げによる銅箔の結晶方位などの変化)を、所望の曲げの程度ごとに定点観測することが可能となる。
【0028】
上述した通り、針状の突起物などを用いて一方向のみから金属板又は積層板を折り曲げる場合、1.3mm以下の小さい曲率半径となるまで金属板又は積層板を折り曲げることは難しい。一方、本発明の実施形態に係るW曲げ治具は、一対のW曲げ用金型10bの互いに対向する面(サンプル20bの抑え込み面)がそれぞれ凹凸を有し、互いの凹凸が噛み合った際にその当接部の断面がアルファベットのW字を構成するように形成されているため、金属板又は積層板をW曲げの各曲げ中心の両側から挟み込む構造を有する。従って、金属板又は積層板を各曲げ中心において1.3mm以下の小さい曲率半径となるまでW字型に折り曲げることが可能となる。
【0029】
本発明の実施形態に係るW曲げ治具で曲げられたサンプル20bの曲げ挙動は、別途設けられたSEM装置で観察するため、W曲げ治具は、当該SEM装置の測定ステージに設置できるサイズを有するのが好ましい。当該サイズは、例えば、最大幅×最大長さ×最大高さ=20mm×30mm×20mmとすることができる。
【0030】
本発明の実施形態に係るW曲げ治具の総質量は特に限定されないが、150g以下とすることが好ましい。上述のようにEBSD測定は測定ステージを傾斜させて行うため、W曲げ治具の総質量が軽いとEBSD測定時に測定ステージからのずれ落ちを抑制することができる。W曲げ治具の総質量は、例えば、117gとすることができる。
【0031】
W曲げ治具を構成する、一対のW曲げ用金型10b、ネジ受け11bを有する土台12b、開閉ネジ13b及びツマミ14bの形状及び大きさは特に限定されず、上述の機能を有するものであれば、適宜設計することができる。また、それらの材質についても特に限定されず、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼等、銅箔や銅張積層板などの曲げ試験で従来用いられる曲げ治具を構成する材料によって形成することができる。
【0032】
<EBSD測定方法>
(180度曲げ治具を用いたEBSD測定方法)
図3は、本発明の実施形態に係る180度曲げ治具によるサンプル20aの180度曲げの様子を示す外観観察写真である。図3に示すように、まず、180度曲げ治具の一対の180度曲げ用金型10aの間隔(移動幅)を空けておき、一対の180度曲げ用金型10aの間にサンプル20aを設ける。次に、180度曲げ治具のツマミ14aを所定方向に回し、土台12aのネジ受け11aに差し込まれている開閉ネジ13aを回転させる。これによって、段階的に一対の180度曲げ用金型10aの間隔(移動幅)を狭くしていく。一対の180度曲げ用金型10aの間に設けられたサンプル20aは、180度曲げ用金型10aが相対的に移動して閉じる(間隔が狭くなる)に従って、曲げ中心の両側から挟み込まれ、徐々に180度に押し曲げられていく。このようにして、段階的に一対の180度曲げ用金型10aの間隔(移動幅)を狭くしながら、都度、サンプル20aのSEM観察およびEBSD測定(以下、単にEBSD測定とも言う)を行う。
【0033】
具体的には、まず、180度曲げ治具をホットワックスなどによりSEM装置の測定ステージに固定する。180度曲げ治具は、サンプル20aの曲げ挙動の定点観測が完了するまで、SEM装置の測定ステージから取り外さずに当該測定ステージに固定したままとする。次に、一対の180度曲げ用金型10aの間にサンプル20aを設ける。
【0034】
次に、ツマミ14aを開閉ネジ13aに挿入し、ツマミ14aを所定方向に回して開閉ネジ13aを回転させる。開閉ネジ13aが回転することで一対の180度曲げ用金型10aの間隔(移動幅)が狭くなり、サンプル20aが押し曲げられる。ツマミ14aは、サンプル20aを押し曲げた後、開閉ネジ13aから取り外す。そして、この状態で、サンプル20aの1回目のEBSD測定を行う。
【0035】
1回目のEBSD測定が終われば、再度、ツマミ14aを開閉ネジ13aに挿入し、ツマミ14aを所定方向に回してサンプル20aを更に押し曲げる。ツマミ14aは、サンプル20aを押し曲げた後、開閉ネジ13aから取り外す。そして、サンプル20aの2回目のEBSD測定を行う。このサンプル20aのEBSD測定は、先に行った1回目のEBSD測定と同じ箇所に対して行う。
【0036】
以上のサンプル20aの押し曲げとEBSD測定とを、曲げ角度が略180度になるまでサンプル20aを段階的に押し曲げながら繰り返し、サンプル20aの曲げ挙動を定点観測する。
【0037】
なお、180度曲げ治具のツマミ14aを所定方向に回し、土台12aのネジ受け11aに差し込まれている開閉ネジ13aを回転させる作業は、手動で行ってもよく、装置などによる自動制御で行ってもよい。
【0038】
(W曲げ治具を用いたEBSD測定方法)
図4は、本発明の実施形態に係るW度曲げ治具によるサンプル20bのW曲げの様子を示す外観観察写真である。図4に示すように、まず、W曲げ治具の一対のW曲げ用金型10bの間隔(移動幅)を空けておき、一対のW曲げ用金型10bの間にサンプル20bを設ける。次に、W曲げ治具のツマミ14bを所定方向に回し、土台12bのネジ受け11bに差し込まれている開閉ネジ13bを回転させる。これによって、段階的に一対のW曲げ用金型10bの間隔(移動幅)を狭くしていく。一対のW曲げ用金型10bの間に設けられたサンプル20bは、W曲げ用金型10bが相対的に移動して閉じる(間隔が狭くなる)に従って、一対のW曲げ用金型10bの型形状に沿って、徐々にW字型に押し曲げられていく。このようにして、段階的に一対のW曲げ用金型10bの間隔(移動幅)を狭くしながら、都度、サンプル20bのEBSD測定を行う。
【0039】
具体的には、上述の180度曲げ治具の場合と同様に、W曲げ治具をホットワックスなどによりSEM装置の測定ステージに固定し、一対のW曲げ用金型10bの間にサンプル20bを設けた後、サンプル20bの折り曲げとEBSD測定とをサンプル20bを段階的に押し曲げながら繰り返し、サンプル20bの曲げ挙動を定点観測する。W曲げ治具は、サンプル20bの曲げ挙動の定点観測が完了するまで、SEM装置の測定ステージから取り外さずに当該測定ステージに固定したままとする。
【0040】
なお、W曲げ治具のツマミ14bを所定方向に回し、土台12bのネジ受け11bに差し込まれている開閉ネジ13bを回転させる作業は、手動で行ってもよく、装置などによる自動制御で行ってもよい。
【0041】
従来、曲げ挙動を段階的に測定しようとすると、サンプルを治具で曲げた後、EBSD測定のたびにサンプルを治具から取り外す必要があった。このような場合、EBSD測定の範囲がミクロンオーダーであるため、前回のEBSD測定を行った場所を特定することが困難であり、同じ場所を観測することが難しい。これに対し、上述の本発明の実施形態に係る180度曲げ治具またはW曲げ治具を用いたEBSD測定方法によれば、EBSD測定のたびにサンプルを治具から取り外す必要がなく、治具をSEM装置の測定ステージに固定した状態でサンプルの折り曲げとEBSD測定とを繰り返すことができる。このため、前回のEBSD測定を行った場所を容易に特定することができる。
【0042】
また、曲げ挙動を観測しようとすると、前回の曲げ中心と同じ箇所を曲げ中心として再度曲げ加工を行う必要があるが、一度治具からサンプルを取り出してしまうと、再度サンプルを治具に取り付ける際、前回と全く同じ位置にサンプルを取り付けることは難しい。これに対し、上述の本発明の実施形態に係る180度曲げ治具またはW曲げ治具を用いたEBSD測定方法によれば、EBSD測定のたびにサンプルを治具から取り外す必要がないため、同じ箇所を曲げ中心とした連続的な曲げ加工を施すことができる。
【0043】
さらに、EBSD測定のたびにサンプルを治具から取り外すと、サンプルを治具から取り外したときに、サンプルが弾性変形してしまい、曲げた状態を維持することができず、所定の曲げ角度ごとに段階的にサンプルを定点観測することができない。これに対し、上述の本発明の実施形態に係る180度曲げ治具またはW曲げ治具を用いたEBSD測定方法によれば、EBSD測定のたびにサンプルを治具から取り外す必要がないため、曲げた状態を維持することができる。
【0044】
以上のように、本発明の実施形態に係る180度曲げ治具またはW曲げ治具を用いたEBSD測定方法によれば、銅箔や銅張積層板などのサンプルを曲げる際の曲げ挙動(銅箔と樹脂との密着性、樹脂および銅箔の亀裂状況および曲げによる銅箔の結晶方位などの変化)を定点観測することが可能となる。
【実施例0045】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0046】
<実施例1:180度曲げ治具を用いたEBSD測定方法>
まず、測定対象となるフレキシブル銅張積層板(FCCL:Flexible Copper Clad Laminate)のサンプルを準備した。銅張積層板は、厚さ12.5μmの銅箔と、厚さ20μmのポリイミド基板との積層体とした。
次に、図1及び図2で示した構成の180度曲げ治具を準備し、当該180度曲げ治具の一対の180度曲げ用金型の間隔を空けておき、一対の180度曲げ用金型の間にサンプルを設け、ホットワックスでSEM装置の測定ステージ上に固定した。なお、180度曲げ治具は、サンプルの曲げ挙動の定点観測が完了するまで、SEM装置の測定ステージから取り外さずに当該測定ステージに固定したままとした。
次に、一対の180度曲げ用金型の間にサンプルを設けた。
次に、180度曲げ治具のツマミを開閉ネジに挿入し、ツマミを所定方向に回して開閉ネジを回転させた。開閉ネジが回転することで一対の180度曲げ用金型の間隔(移動幅)が0.89mmまで狭くなり、サンプルが押し曲げられた。ツマミは、サンプルを押し曲げた後、開閉ネジから取り外した。そして、この状態で、サンプルの1回目のSEM観察及びEBSD測定(以下、単にEBSD測定とも言う)を行った。
【0047】
1回目のEBSD測定の後、再度、ツマミを開閉ネジに挿入し、ツマミを所定方向に回すことで一対の180度曲げ用金型の間隔(移動幅)が0.55mmまで狭くなり、サンプルを更に押し曲げた。ツマミは、サンプルを押し曲げた後、開閉ネジから取り外した。そして、サンプルの2回目のEBSD測定を行った。このサンプルのEBSD測定は、先に行った1回目のEBSD測定と同じ箇所に対して行った。
【0048】
2回目のEBSD測定の後、2回目と同様の手順で180度曲げ治具を操作し、一対の180度曲げ用金型の間隔(移動幅)が0.29mmになるまでサンプルを更に押し曲げ、2回目と同様の手順でサンプルのEBSD測定を行った。
【0049】
当該EBSD測定の結果、サンプルの銅箔の結晶方位が徐々にずれていくことが確認できた。このように、銅張積層板を曲げる際の曲げ挙動を定点観測することができた。
【0050】
SEM観察結果を図5に示す。図5に示すように、実施例1では銅張積層板を曲げ中心の両側から挟み込む構造となっているため、銅張積層板を1.3mm以下の曲率半径となるまで折り曲げることができた。
【0051】
<実施例2:W曲げ治具を用いたEBSD測定方法>
まず、測定対象として、厚さ100μmの銅箔を準備した。
次に、図1及び図2で示した構成のW曲げ治具を準備し、当該W曲げ治具の一対のW曲げ用金型の間隔を空けておき、一対のW曲げ用金型の間にサンプルを設け、ホットワックスでSEM装置の測定ステージ上に固定した。なお、W曲げ治具は、サンプルの曲げ挙動の定点観測が完了するまで、SEM装置の測定ステージから取り外さずに当該測定ステージに固定したままとした。
次に、一対のW曲げ用金型の間にサンプルを設けた。
次に、W曲げ治具のツマミを開閉ネジに挿入し、ツマミを所定方向に回して開閉ネジを回転させた。開閉ネジが回転することで一対のW曲げ用金型の間隔(移動幅)が狭くなり、サンプルの曲げ角度が20度となるまでサンプルを押し曲げた。ツマミは、サンプルを押し曲げた後、開閉ネジから取り外した。そして、この状態で、サンプルの1回目のEBSD測定を行った。
【0052】
1回目のEBSD測定の後、再度、ツマミを開閉ネジに挿入し、ツマミを所定方向に回すことで一対のW曲げ用金型の間隔(移動幅)が狭くなり、サンプルの曲げ角度が50度となるまでサンプルを更に押し曲げた。ツマミは、サンプルを押し曲げた後、開閉ネジから取り外した。そして、サンプルの2回目のEBSD測定を行った。このサンプルのEBSD測定は、先に行った1回目のEBSD測定と同じ箇所に対して行った。
【0053】
2回目のEBSD測定の後、2回目と同様の手順でW曲げ治具を操作し、サンプルの曲げ角度が105度となるまでサンプルを更に押し曲げ、2回目と同様の手順でサンプルのEBSD測定を行った。
【0054】
SEM観察結果およびEBSD測定結果を図6に示す。図6では、サンプルの銅箔の残留歪が、曲げ角度が大きくなるにつれて、内側と外側で増えていることがわかる。このように、銅箔を曲げる際の曲げ挙動を定点観測することができた。また、曲率半径Rが0.05mmとなるまで折り曲げられている。実施例2では、このようにW曲げの各曲げ中心の両側から挟み込む構造となっているため、銅箔を1.3mm以下の曲率半径となるまで折り曲げることができた。
【0055】
なお、実施例1及び実施例2において、SEM観察及びEBSD解析は、それぞれ以下の装置を用いて行った。
・SEM観察:日本エフィ・アイ株式会社製 Quanta FEG 650
・EBSD解析:株式会社TSLソリューションズ OIM Analysis 8
【符号の説明】
【0056】
10a 180度曲げ用金型
10b W曲げ用金型
11a、11b ネジ受け
12a、12b 土台
13a、13b 開閉ネジ
14a、14b ツマミ
15a、15b ネジ孔
20a、20b サンプル
図1
図2
図3
図4
図5
図6