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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001547
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム顆粒状粉末
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20221226BHJP
【FI】
C01B21/072 R
C01B21/072 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102347
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】福永 豊
(72)【発明者】
【氏名】高草木 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊本 靖司
(57)【要約】
【課題】 高充填性と、充填時の粒子間接点の形成されやすさを両立した、放熱材料用フィラーとして優れた窒化アルミニウム粉末を提供する。
【解決手段】 平均円形度が0.65~0.88の範囲にあり、少なくとも1つの平坦面を有する非球状の窒化アルミニウム焼結粒子より構成され、平均粒子径(D50)が20μm~200μmである窒化アルミニウム顆粒状粉末であり、特に、比表面積が2×1/D50~12×1/D50/g範囲にあることが好ましい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均円形度が0.65~0.88の範囲にあり、少なくとも1つの平坦面を有する非球状の窒化アルミニウム焼結粒子より構成され、平均粒子径(D50)が20μm~200μmであることを特徴とする窒化アルミニウム顆粒状粉末。
【請求項2】
比表面積が2×1/D50~12×1/D50/g範囲にある請求項1に記載の窒化アルミニウム顆粒状粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム顆粒状粉末よりなる樹脂用フィラー。
【請求項4】
請求項3記載の樹脂用フィラーを樹脂に充填した樹脂組成物。
【請求項5】
窒化アルミニウム粉末を成形して得られた球状グリーン顆粒よりなる平均粒子径(D50)が20μm~200μmの窒化アルミニウムグリーン粉末を、上記球状グリーン顆粒が変形し得る圧力でプレス成形して、個々の球状グリーン顆粒に平坦面を形成し、次いで、上記平坦面が形成されたグリーン顆粒を、上記グリーン顆粒間に粉状離型材を存在させた状態で焼成することを特徴とする窒化アルミニウム顆粒状粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な窒化アルミニウム顆粒状粉末に関する。詳しくは、従来に無い特殊な形状を有することで、樹脂やグリース、接着剤、塗料等に充填して放熱性を向上させるための放熱材料用フィラーとして有用な窒化アルミニウム顆粒状粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の高集積化・高密度化が進み、放熱材料に対する要求性能が高まっている。窒化アルミニウムは電気絶縁性に優れ、かつ高熱伝導性を有することから、その粉末をフィラーとして充填した樹脂シートやグリース、接着剤、塗料等は、高熱伝導性、高電気絶縁性を有する放熱材料として期待される。
【0003】
上記放熱材料の熱伝導率を向上させるためには、高熱伝導率のフィラーを用いることに加え、放熱材料中で熱伝導経路を多く形成させることが重要である。一般にはフィラーを高充填し、フィラー粒子間の接触頻度を高めることにより熱伝導経路を増加させる。そのため、充填性に優れた窒化アルミニウム粉末が強く要望されている。このような粉末として、窒化アルミニウム粉末を顆粒状に成形した後に焼結した、焼結顆粒が知られている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0004】
ところが、従来の窒化アルミニウム顆粒状粉末はその製造方法に起因して粒子の形状は球状であるため、樹脂への充填性に優れる一方、粒子間の接触面積が小さく、充填率向上による熱伝導経路の形成効率が低いという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-267708
【特許文献2】特開平03-295863
【特許文献3】特開平11-269302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、高充填性と、充填時の粒子間接点の形成されやすさを両立した、放熱材料用フィラーとして優れた窒化アルミニウム粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、従来球状であった窒化アルミニウム顆粒状粉末を構成する粒子を、少なくとも一つの平坦面を形成せしめるように変形した非球状粒子とすることにより、焼結顆粒の特長である高充填性を維持したまま、粒子間の接触面積を拡大でき、これを樹脂に充填することで、得られる放熱材料に高い熱伝導性を付与できることを見出し、本発明を提案するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、平均円形度が0.65~0.88の範囲にあり、少なくとも1つの平坦面を有する非球状の窒化アルミニウム焼結粒子より構成され、平均粒子径(D50)が20μm~200μmであることを特徴とする窒化アルミニウム顆粒状粉末が提供される。
【0009】
上記窒化アルミニウム顆粒状粉末は、比表面積が2×1/D50~12×1/D50/gの範囲にあることが好ましい。
【0010】
また、本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末は樹脂用フィラーとして好適に使用することができ、更に、上記樹脂用フィラーを60容量%以上の充填率で樹脂に充填した樹脂組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末は、窒化アルミニウム粉末を成形して得られた球状グリーン顆粒よりなる平均粒子径(D50)が20μm~200μmの窒化アルミニウムグリーン粉末を、上記球状グリーン顆粒が変形し得る圧力でプレス成形して、個々の球状グリーン顆粒に平坦面を形成し、次いで、上記平坦面が形成されたグリーン顆粒を、上記グリーン顆粒間に粉状離型材を存在させた状態で焼成することにより効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末は、一般的な焼結顆粒に存在しない平坦面を有する非球状の形状であることにより、樹脂に充填すると一般的な球状の焼結顆粒に比べ粒子間の接触面積が大きくなる。しかも、適度な円形度を有しているため、放熱フィラーとして使用するには十分な充填性を確保することができ、樹脂組成物に高い熱伝導率を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例2で得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末の倍率100倍の電子顕微鏡写真
図2】実施例2で得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末の倍率1000倍の電子顕微鏡写真
図3】比較例2で得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末の倍率100倍の電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
〔円形度と平坦面の存在〕
本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末は、平均円形度の範囲が、0.65~0.88、好ましくは0.70~0.86であり、且つ、少なくとも1つの平坦面を有する非球状の窒化アルミニウム焼結粒子より構成されることを最大の特徴とする。即ち、従来の焼結顆粒が0.92程度の平均円形度を有する球状であるのに対して、本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末を構成する焼結顆粒は、少なくとも1つの平坦面を有することにより変形し、非球状を成している。
【0016】
上記平坦面は、走査型電子顕微鏡写真(SEM)の100倍の画像により個々の粒子を観察することによって確認することができる。例えば、図1は、実施例2にて得られた本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末の代表的なSEM画像を示すものであり、上記画像において、各焼結粒子の表面に平坦面を確認することができる。
【0017】
尚、上記平坦面を有する粒子の割合は、後述の製造方法により得られる窒化アルミニウム顆粒状粉末に関しては理論的には100%であるが、SEM写真において観察されない部分のみに平坦面が存在する偶発的な状態、及び、平坦面の形成による接触面積増大の効果も勘案すれば、SEM写真より観察される画面において面積比率で80%以上、好ましくは90%以上であることが好ましい。また、前記平坦面の面積は、前記SEMの画像で確認できる大きさであれば特に制限されないが、焼結顆粒を構成する複数、具体的には5個以上、好ましくは10個以上の結晶粒により構成される程度の大きさであることが好ましい。
【0018】
本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末の前記平均円形度の調整は、例えば後述の製造方法において、球状で得られるグリーン体の変形度を制御することにより行うことができるが、かかる平均円形度が0.65より小さいと、流動性が低下する傾向があり、樹脂への高充填化が困難となる。また、平均円形度が0.88より大きいと、前記平坦面の形成が不十分となり、これにより粒子間の接触面積が小さくなり、フィラーとして使用した際に樹脂組成物に高熱伝導率を付与することが困難となる。
【0019】
〔平均粒子径(D50)〕
本発明の特定窒化アルミニウム顆粒状粉末の平均粒子径(D50)は、20~200μm、好ましくは25~150μmの範囲にある。即ち、この範囲にあるものが、焼結顆粒に形成された平坦面による粒子の接触面積の増大効果が有効に発揮され、これを充填した樹脂組成物においてかかる効果を十分発揮することができる。また、他の粒子と併用する場合においても、高充填化がし易いというメリットも有する。
【0020】
上記D50の測定方法は、後述する実施例において示した方法により測定した値である。
【0021】
〔その他の特性〕
本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末において、その他の特性は特に制限されるものではないが、以下の特性を有するものが好ましい。
即ち、本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末は、比表面積が2×1/D50~12×1/D50/gの範囲にあることが好ましい。上記比表面積は、例えば、D50が30μmの窒化アルミニウム顆粒状粉末においては、0.07~0.40m/gと極めて小さい比表面積を有するものである。このように小さい比表面積は、焼結顆粒の焼結を十分に行うことにより達成されるものであり、樹脂に充填した際に樹脂との界面に、更には、粒子内部にボイドの生成を効果的に防止することができるという効果を発揮することができる。
【0022】
また、窒化アルミニウム顆粒状粉末を構成する各窒化アルミニウム焼結顆粒における結晶粒の大きさは、顆粒の断面より観察される平均粒径が、1~10μm、特に、2.0~8.5μmであることが好ましい。
【0023】
〔樹脂用フィラー〕
本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末は、前記特性により、樹脂に充填して優れた熱伝導性を有する樹脂組成物を得るための樹脂用フィラーとして最適である。即ち、本発明によれば、平均円形度の範囲が、0.65~0.88、好ましくは0.70~0.86であり、且つ、少なくとも1つの平坦面を有する非球状の窒化アルミニウム焼結粒子より構成されることを特徴とする窒化アルミニウム顆粒状粉末よりなる樹脂用フィラーが提供される。
【0024】
上記樹脂用フィラーは、窒化アルミニウム顆粒状粉末を構成する焼結顆粒の有する平坦面により、樹脂に充填された粒子間の接触面積が増大することにより、従来使用されていた球状の焼結顆粒より構成されるものに比べて得られる樹脂組成物に高い熱伝導性を付与することを可能とする。
【0025】
〔樹脂組成物〕
本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末よりなる樹脂用フィラーは、樹脂に対して単独で、或いは、他の樹脂用フィラーと併用して充填し、樹脂組成物を構成することができる。他の樹脂用フィラーと併用の際、樹脂用フィラー全体に占める本発明の樹脂用フィラー(窒化アルミニウム顆粒状粉末)の割合が、50容量%以上、特に、55容量%以上となるようにすることが好ましい。
【0026】
上記他の樹脂用フィラーとしては、樹脂における樹脂用フィラーの充填率を向上させるため、或いは、他の機能を付与するため、本発明の樹脂用フィラーと異なる樹脂用フィラー、具体的には、アルミナ、酸化亜鉛、炭化珪素、グラファイトなどのフィラーを一種、あるいは数種類併用してもよい。また、上記他の樹脂用フィラーは、樹脂組成物の特性や用途に応じて、フィラーの形状、粒径を適宜選択すれば良い。また、これらの樹脂用フィラーは、例えばシランカップリング剤やリン酸又はリン酸塩などで表面処理したものを用いても良い。また、樹脂組成物には、可塑剤、加硫剤、硬化促進剤、離型材等の添加剤をさらに添加しても良い。
【0027】
また、前記樹脂組成物において、トータルの樹脂用フィラーの配合量は、60容量%以上、好ましくは70容量%以上、より好ましくは80容量%以上充填するのが良い。
【0028】
ここで樹脂組成物のマトリックスとなる樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂、またシリコーンゴム、EPR、SBR等のゴム類、シリコーンオイルが挙げられる。
【0029】
これらのうち、放熱材料のマトリックスとしては、例えばエポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂が好適であり、更に、高柔軟性を発揮するため、付加反応型液状シリコーンゴムが望ましい。
【0030】
本発明の前記樹脂組成物は、本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末の特性を活かした種々の用途、例えば、放熱シート、放熱グリース、放熱接着剤、塗料、熱伝導性樹脂などに使用される。
【0031】
[窒化アルミニウム顆粒状粉末の製造方法]
本発明の特定窒化アルミニウム顆粒状粉末を含む窒化アルミニウム粉末の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明の特定窒化アルミニウム顆粒状粉末を高含有率で再現性良く製造するための方法として、窒化アルミニウム粉末を成形して得られた球状グリーン顆粒よりなる平均粒子径(D50)が20μm~200μmの窒化アルミニウムグリーン粉末を、上記球状グリーン顆粒が変形し得る圧力でプレス成形して、個々の球状グリーン顆粒に平坦面を形成し、次いで、上記平坦面が形成されたグリーン顆粒を、上記グリーン顆粒間に粉状離型材を存在させた状態で焼成する方法が挙げられる。
【0032】
本発明の前記製造方法において、先ず、窒化アルミニウム粉末を成形して得られた球状グリーン顆粒よりなる平均粒子径(D50)が20μm~200μm、好ましくは、25~150μmの窒化アルミニウムグリーン粉末を製造する。上記窒化アルミニウムグリーン粉末の製造方法は、球状の窒化アルミニウム顆粒状粉末を製造する工程における窒化アルミニウムグリーン粉末の製造方法が特に制限なく採用される。具体的には、例えば、窒化アルミニウム粉末、焼結助剤粉末、バインダー、分散剤及び溶媒の混合物を混合してスラリーを調整し、次いで、上記スラリーをスプレードライ乾燥することにより製造することができる。
【0033】
上記製造方法において、原料の窒化アルミニウム粉末は、特に限定されないが、平均一次粒子径が0.4~1.2μmのものを使用することが好ましい。平均一次粒子径がこの範囲より小さいと、スラリー中で窒化アルミニウム粉末が凝集しやすく、顆粒構造の偏りが発生する。平均一次粒子径がこの範囲より大きいと、焼結しにくくなり、焼結後の顆粒に焼結不足による空隙が残存する。空隙が残存すると樹脂充填時に増粘して高充填出来ない。
【0034】
前記製造方法において、焼結助剤は特に限定されないが、希土類酸化物を使用することが好ましい。かかる希土類酸化物については特に限定されないが、熱伝導率の観点からイットリウム化合物、特には酸化イットリウムを使用することが好ましい。また、焼結助剤の添加量は熱伝導率、及び焼結促進効果の観点から、窒化アルミニウムに対して2~6重量部であることが好ましい。添加量がこの範囲より少ないと焼結が進みにくく、焼結後の顆粒に焼結不足による空隙が残存する。添加量がこの範囲より多いと焼結時に窒化アルミニウムの純化が起こりにくく、焼結顆粒の熱伝導率が低下する。また、焼結助剤により顆粒間の焼結が起きやすくなり、凝集粉末が増加する。
【0035】
前記製造方法において、溶媒は公知のものを特に制限なく使用できるが、例えば、アセトン、ケトン類、エタノール、プロパノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等が好適に使用される。
【0036】
上記方法により、平均円形度が0.8以上の形状を有する球状のグリーン顆粒よりなる窒化アルミニウムグリーン粉末が得られる。
【0037】
本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末の製造方法において、離型材が使用される。この離型材は、窒化アルミニウムグリーン粉末のプレス成形により得られた平坦面が形成されたグリーン顆粒を焼結する際に、上記グリーン顆粒間に存在し、焼結時に顆粒間に強い焼結が起こることを防止する機能を有する。
【0038】
上記離型材は窒化アルミニウム焼結体を製造する際に離型材として使用される公知の離型材が特に制限なく使用されるが、窒化ホウ素粉末が最も好適である。また、離型材の粒径は離形性の観点から、グリーン顆粒の粒径の1/3以下、より好ましくは1/10以下にするのが良い。
【0039】
上記離型材の混合のタイミングは、後述のプレス成形により平坦面が形成されたグリーン顆粒を焼成する段階で、上記グリーン顆粒間に離型材が存在していれば特に制限されず、製造方法により適宜決定すればよいが、プレス成形前の球状グリーン顆粒よりなるグリーン粉末に混合することが好ましい。また、離型材の添加量はグリーン顆粒100容量部に対して5~15容量部とするのが好ましい。添加量がこの範囲より少ないと離形性が不足し、焼結時に顆粒間の結合が起こる。添加量がこの範囲より多いと、離型効果は頭打ちとなるばかりでなく、得られる窒化アルミニウム顆粒状粉末中の離型材割合が増加し、樹脂充填時に増粘や熱伝導率の低下を引き起こす。尚、離型材の残存割合が高く悪影響を及ぼす場合には、焼結後に気流分級、篩分級等により除去しても良い。
【0040】
前記グリーン顆粒と離型材との混合方法は特に限定されないが、例えばV字混合機、W型混合機、ドラム型混合機等を使用して、グリーン顆粒が崩壊しない条件下に攪拌して混合るすと良い。
【0041】
本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末の製造方法において、前記グリーン顆粒をプレス成形し、球状グリーン顆粒に平坦面を形成する。即ち、プレス成形により球状グリーン顆粒は隣り合うグリーン顆粒と或いはプレス面に押しつけられて変形し、押しつけられた部分に平坦面が形成される。
【0042】
従って、上記プレス成形は、グリーン顆粒が変形し、且つ、グリーン顆粒が崩壊しない圧力で行うことが必要である。プレス成形には、公知のプレス成形方法が採用可能である。例えば、ロール加圧成形、一軸加圧成形、等方加圧成形(シップ成形)等が利用できる。そのうち、グリーン顆粒を多方面から変形することができる一軸加圧成形、等方加圧成形が好適に採用される。また、グリーン顆粒の形状を変化し易くするために加熱しながら加圧しても良い。
【0043】
本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末の製造方法において、前記プレス成形体は、必要に応じて空気雰囲気下で焼成してバインダー及び分散剤を除去した後に、窒素雰囲気下で焼成して焼結体を得る。上記焼成条件は公知の条件が特に制限なく採用されるが、一般に、1700℃~1850℃の温度範囲で、1~10時間焼成する条件が推奨される。
【0044】
上記焼成により得られる焼結体は、前記変形したグリーン顆粒が焼結して生成した窒化アルミニウム焼結顆粒が、離型材の作用により比較的弱い結合力で結合したブロックや凝集塊の状態で得られる場合が多く、これらは、解砕処理を行うことにより、平坦面を有する焼結顆粒まで解砕され、本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末を得ることができる。上記解砕は、ブロック焼結体を構成する窒化アルミニウム焼結顆粒間の接合を解き、窒化アルミニウム焼結顆粒を破砕しない条件であれば、公知の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、解砕装置としては、回転ミル、ジェットミル、振動ミル等が利用できる。
【実施例0045】
以下、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例における各種物性は、下記の方法により測定した。
【0046】
(1)粒径、平均粒径
平均粒子径(D50)は、試料をホモジナイザーにてピロリン酸ソーダ中に分散させ、レーザー回折粒度分布装置(日機装株式会社製MICROTRAC MT3300)にて測定した。
(2)円形度、平均円形度
円形度は画像式粒度分布測定装置( Malvern Panalytical社製 Morphologi G3)を用いて1万個の粒子の投影画像を撮影し、各粒子について投影された粒子画像の面積と、その粒子画像の周囲長の2乗との比率として算出した(面積円形度)。体積頻度基準で積算分布の50%割合の円形度を平均円形度とした。
【0047】
尚、窒化アルミニウム顆粒状粉末以外に離型材等を含む場合は、それらを除外して算出した。
円形度 = 4×π×投影画像面積 /(投影画像周囲長)
(3)比表面積
比表面積は、流動式表面積自動測定装置(島津製作所製 フローソーブ2300形)を用いて窒素吸着によるBET法により求めた。
【0048】
(4)樹脂成形体の熱伝導率
試料シート体について熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製 TPS2500)を用いて、ホットディスク法により測定した。
【0049】
(5)結晶粒の大きさ
倍率3000倍のSEM観察像内の窒化アルミニウム顆粒を任意に20粒子選択し、各顆粒中で任意に20結晶粒の結晶径(結晶粒の最長径)を測定した。また、同様の測定を10視野で行い、全測定値の平均値を求めた。
【0050】
実施例1
平均粒子径0.9μmの窒化アルミニウム粉末と酸化イットリウム粉末を100:5の割合で混合し、さらに界面活性剤としてヘキサグリセリンモノオレート1.0重量部、結合剤としてメタクリル酸ブチル2.5重量部、トルエン溶媒100重量部を投入して、十分にボールミル混合し、スラリーを得た。こうして得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥し、平均粒径40.1μmの球状グリーン顆粒よりなるグリーン粉末を得た。
【0051】
この球状グリーン顆粒に平均粒子径5.1μmの窒化ホウ素粉末を10容量部添加して攪拌し、混合粉末を得た。一軸加圧プレス機を用いて圧力20MPaの圧力で上記混合粉末を型枠内でプレスした後、プレス成形体を空気雰囲気下、600℃の温度で5時間焼成し、顆粒中の有機物を除去(脱脂)し、その後に窒素雰囲気下、1750℃の温度で5時間焼成した。焼成後、ブロック状で得られた焼結体を回転ボールミルで処理して粒子間の凝集を解いた後、気流分級により離型材の窒化ホウ素粒子を除去して、窒化アルミニウム顆粒状粉末を得た。
【0052】
得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末(以下、表においては「AlN顆粒状粉末」と記載する。)について、平坦面を有する粒子の割合、平均粒径、平均円形度、比表面積、結晶粒の大きさを表1に示す。
【0053】
また、前記窒化アルミニウム顆粒状粉末とD50が0.8μmの市販の窒化アルミニウム粉末を8:2の容量比で混合した窒化アルミニウム混合粉末(特定窒化アルミニウム顆粒状粉末の割合:74.4容量%)を、シリコーン樹脂(ダウ・東レ株式会社製 CY52-276A,B)に充填量が80容量%になるように配合した。シリコーン樹脂への配合は東洋精機製作所製ラボプラストミルを使用して15分間混錬することにより行い、得られた樹脂組成物を金型に充填し、80℃×1時間、1tonの熱プレスを行って厚み6mmの試料シート体を作製し、熱伝導率を測定した。結果を表1に併せて示す。
【0054】
実施例2
原料として101.4μmのAlN顆粒を用いた以外は実施例1と同様にして、窒化アルミニウム顆粒状粉末を得た。図1は得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末の100倍の電子顕微鏡写真であり、図2は、1000倍の電子顕微鏡写真である。この写真からも確認できるように、本発明の窒化アルミニウム顆粒状粉末を構成する窒化アルミニウム焼結顆粒は少なくとも一つの平坦面を有することが判る。
【0055】
得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末について、平坦面を有する粒子の割合、平均粒径、平均円形度、比表面積、結晶粒の大きさを表1に示す。
【0056】
上記窒化アルミニウム顆粒状粉末と、実施例1で得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末、D50が0.8μmの市販の窒化アルミニウム粉末を1:1:1の容量比で混合した窒化アルミニウム混合粉末(特定窒化アルミニウム顆粒状粉末の割合:61.7容量%)を用いて、実施例1と同様にしてシート体を作製し、熱伝導率を測定した。結果を表1に併せて示す。
【0057】
実施例3
一軸加圧の圧力を100MPaとした以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム粉末を得た。
【0058】
得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末について、平坦面を有する粒子の割合、平均粒径、平均円形度、比表面積、結晶粒の大きさを表1に併せて示す。
【0059】
さらに得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末を用い、実施例1と同様に窒化アルミニウム混合粉末を調製し、また、これを使用したシート体を作製し、熱伝導率を測定した。結果を表1に併せて示す。
【0060】
比較例1
実施例1において、グリーン顆粒よりなる窒化アルミニウムグリーン粉末のプレス成形を実施しなかった以外は実施例1と同様にして、脱脂、焼成して窒化アルミニウム顆粒状粉末を得た。
【0061】
得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末について、平坦面を有する粒子の割合、平均粒径、平均円形度、比表面積、結晶粒の大きさを表2に示す。
さらに得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末を用いて、実施例1と同様に窒化アルミニウム混合粉末を調製し、これを使用したシート体を作製し、熱伝導率を測定した。結果を表2に併せて示す。
【0062】
比較例2
一軸加圧により顆粒形状を調整しない以外は実施例2と同様にして、窒化アルミニウム粉末を得た。図3は得られた窒化アルミニウム粉末の電子顕微鏡写真であるが、図1で得られた粉末に比べ、平坦面が無く、粒子の円形度が高いことがわかる。
【0063】
得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末について、平坦面を有する粒子の割合、平均粒径、平均円形度、比表面積、結晶粒の大きさを表2に示す。
【0064】
さらに得られた窒化アルミニウム顆粒状粉末と比較例1で得られた窒化アルミニウム粉末と、D50が0.8μmの市販の窒化アルミニウム粉末を1:1:1の容量比で混合して窒化アルミニウム混合粉末とし、これを用いて実施例1と同様にしてシート体を作製し、熱伝導率を測定した。結果を表2に併せて示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明で得られる特定窒化アルミニウム顆粒状粉末を含む窒化アルミニウム粉末は、フィラーに適した形状、粒径を有していることから、単独で、又は他の窒化アルミニウム粉末と混合して使用することで、樹脂やグリースなどのマトリックスに対して高充填することができ、かつ平坦面を有していることから粒子間の接触面積が大きい。そのため熱伝導率の高い放熱シート、放熱グリース、放熱接着剤等を得ることができる。
図1
図2
図3