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特開2023-154823吸音材の製造方法、吸音材、及び車両部材
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  • 特開-吸音材の製造方法、吸音材、及び車両部材 図1
  • 特開-吸音材の製造方法、吸音材、及び車両部材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154823
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】吸音材の製造方法、吸音材、及び車両部材
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20231013BHJP
   B60R 13/08 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
G10K11/16 110
B60R13/08
G10K11/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064414
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】枝元 太希
(72)【発明者】
【氏名】海野 光朗
(72)【発明者】
【氏名】下谷 圭三
【テーマコード(参考)】
3D023
5D061
【Fターム(参考)】
3D023BA03
3D023BB21
3D023BC01
3D023BE20
5D061AA07
5D061AA25
5D061BB24
5D061DD11
(57)【要約】
【課題】低周波領域における吸音特性に優れる新たな吸音材の製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂層及び多孔質層を備える積層体の熱可塑性樹脂層に、熱可塑性樹脂層が軟化温度以上である状態で尖形部材を押し当てて、熱可塑性樹脂層及び多孔質層に連通する孔を形成する穿孔工程を備える、吸音材の製造方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂層及び多孔質層を備える積層体の前記熱可塑性樹脂層に、前記熱可塑性樹脂層が軟化温度以上である状態で尖形部材を押し当てて、前記熱可塑性樹脂層及び前記多孔質層に連通する孔を形成する穿孔工程を備える、吸音材の製造方法。
【請求項2】
前記軟化温度以上である状態が、前記熱可塑性樹脂層を加熱することにより実施される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂層を一方の面から加熱することにより、前記熱可塑性樹脂層に温度勾配を生じさせる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記軟化温度以上である状態が、前記尖形部材を加熱することにより実施される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂の多孔層と、前記多孔層の孔と連通する孔を有する多孔質層とを備え、前記多孔層の孔の縁部が前記多孔質層内に没入して延在部を形成している、吸音材。
【請求項6】
前記延在部の長さが前記多孔層の厚さの1/4以上である、請求項5に記載の吸音材。
【請求項7】
前記延在部の厚さが250μm以上である、請求項5又は6に記載の吸音材。
【請求項8】
前記多孔質層が不織布からなる、請求項5又は6に記載の吸音材。
【請求項9】
前記多孔質層がバインダ樹脂を含み、前記多孔層と前記多孔質層とが前記バインダ樹脂を介して接着されている、請求項5又は6に記載の吸音材。
【請求項10】
請求項5又は6に記載の吸音材を備える、車両部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材の製造方法、吸音材、及び車両部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、車内及び車外からの騒音の吸音を目的として、不織布を含む部材が用いられている。燃費向上及び車両のレイアウト設計のために、軽くて薄くかつ吸音特性の優れた部材が要求されている。しかし、一般的に不織布等の多孔質吸音材は、低周波域の吸音特性が低く、十分な吸音特性を得るためには厚みを大きくする必要があり、その場合、吸音材の重量が増加する課題がある。
【0003】
当該課題の解決策として、貫通孔を有する多孔板を不織布等の表層に設置し、共鳴によって低周波の吸音効果を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。この多孔板による共鳴を利用した吸音では、貫通孔の長さ、すなわち板厚が大きいほど吸音周波数を低周波にシフトさせることができる。しかし、板厚を厚くすると吸音材の厚みが増し、かつ重量の増加が生じるという課題がある。
【0004】
一方、多孔板の板厚を厚くせずに吸音周波数を低周波にシフトさせる手段として、音波入射側と反対面、すなわち背後空気層へ貫通孔の壁面のみを延長させてネック構造を設ける方法が提案されている(例えば、特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-141839号公報
【特許文献2】特開2013-008012号公報
【特許文献3】特開2017-105374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術に鑑み、発明者らは、ネック構造を有する多孔部材と不織布等の多孔質部材とを組み合わせることで、吸音材の重量増加を抑制しつつ吸音特性を改善することを検討した。しかしながら、ネック構造を有する多孔部材の背後空気層側に不織布等の多孔質部材を設けようとすると、両者の積層時にネック構造が破損し、所望の積層体が得られない虞があることが、検討の結果分かった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、低周波領域における吸音特性に優れる新たな吸音材の製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、当該製造方法により得られる、低周波領域における吸音特性に優れる新たな吸音材と、当該吸音材を備える車両部材とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、熱可塑性樹脂層及び多孔質層を備える積層体の熱可塑性樹脂層に、熱可塑性樹脂層が軟化温度以上である状態で尖形部材を押し当てて、熱可塑性樹脂層及び多孔質層に連通する孔を形成する穿孔工程を備える、吸音材の製造方法を提供する。
例えば、予め熱可塑性樹脂層を穿孔してネック構造(後述の延在部により形成される構造)を形成し、それを多孔質層と積層する方法であると、ネック構造が破損し脱落する虞がある。また、熱可塑性樹脂層及び多孔質層を備える積層体に対し、熱可塑性樹脂層を軟化温度以上である状態とせずに尖形部材を押し当てる方法であると、柔軟な多孔質層がクッションとなり熱可塑性樹脂層を穿孔できないばかりか、多孔質層の変形及び損傷が発生する虞がある。
一方、上記本発明の製造方法によれば、ネック構造を有する多孔部材と不織布等の多孔質部材とが好適に積層された積層体を製造することができる。このようにして得られる吸音材は、低周波領域における吸音特性に優れる新たな吸音材ということができる。
【0009】
製造方法の一態様において、軟化温度以上である状態が、熱可塑性樹脂層を加熱することにより実施されてよい。
【0010】
製造方法の一態様において、熱可塑性樹脂層を一方の面から加熱することにより、熱可塑性樹脂層に温度勾配を生じさせてよい。
【0011】
製造方法の一態様において、軟化温度以上である状態が、尖形部材を加熱することにより実施されてよい。
【0012】
本発明の一側面は、熱可塑性樹脂の多孔層と、多孔層の孔と連通する孔を有する多孔質層とを備え、多孔層の孔の縁部が多孔質層内に没入して延在部を形成している、吸音材を提供する。
【0013】
吸音材の一態様において、延在部の長さが多孔層の厚さの1/4以上であってよい。
【0014】
吸音材の一態様において、延在部の厚さが250μm以上であってよい。
【0015】
吸音材の一態様において、多孔質層が不織布からなるものであってよい。
【0016】
吸音材の一態様において、多孔質層がバインダ樹脂を含み、多孔層と多孔質層とがバインダ樹脂を介して接着されていてよい。
【0017】
本発明の一側面は、上記記載の吸音材を備える、車両部材を提供する。
【0018】
本発明の概要を以下にまとめて示す。
[発明1]
熱可塑性樹脂層及び多孔質層を備える積層体の前記熱可塑性樹脂層に、前記熱可塑性樹脂層が軟化温度以上である状態で尖形部材を押し当てて、前記熱可塑性樹脂層及び前記多孔質層に連通する孔を形成する穿孔工程を備える、吸音材の製造方法。
[発明2]
前記軟化温度以上である状態が、前記熱可塑性樹脂層を加熱することにより実施される、発明1に記載の製造方法。
[発明3]
前記熱可塑性樹脂層を一方の面から加熱することにより、前記熱可塑性樹脂層に温度勾配を生じさせる、発明2に記載の製造方法。
[発明4]
前記軟化温度以上である状態が、前記尖形部材を加熱することにより実施される、発明1に記載の製造方法。
[発明5]
熱可塑性樹脂の多孔層と、前記多孔層の孔と連通する孔を有する多孔質層とを備え、前記多孔層の孔の縁部が前記多孔質層内に没入して延在部を形成している、吸音材。
[発明6]
前記延在部の長さが前記多孔層の厚さの1/4以上である、発明5に記載の吸音材。
[発明7]
前記延在部の厚さが250μm以上である、発明5又は6に記載の吸音材。
[発明8]
前記多孔質層が不織布からなる、発明5~7のいずれか一に記載の吸音材。
[発明9]
前記多孔質層がバインダ樹脂を含み、前記多孔層と前記多孔質層とが前記バインダ樹脂を介して接着されている、発明5~8のいずれか一に記載の吸音材。
[発明10]
発明5~9のいずれか一に記載の吸音材を備える、車両部材。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低周波数領域における吸音特性に優れる新たな吸音材の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、当該製造方法により得られる、低周波領域における吸音特性に優れる新たな吸音材と、当該吸音材を備える車両部材とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、一実施形態に係る吸音材の模式断面図である。
図2図2は、一実施形態に係る吸音材の模式断面図において、延在部長さ及び延在部厚さを示す図である。
図3図3は、吸音率測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において、「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。
【0022】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0023】
<吸音材の製造方法>
吸音材の製造方法は、熱可塑性樹脂層及び多孔質層を備える積層体の熱可塑性樹脂層に、熱可塑性樹脂層が軟化温度以上である状態で尖形部材を押し当てて、熱可塑性樹脂層及び多孔質層に連通する孔を形成する穿孔工程を備える。
具体的には、吸音材の製造方法は、熱可塑性樹脂層及び多孔質層を備える積層体を作製する工程と、当該積層体の熱可塑性樹脂層に、熱可塑性樹脂層が軟化温度以上である状態で尖形部材を押し当てて、熱可塑性樹脂層及び多孔質層に連通する孔を形成する穿孔工程と、を備える。
【0024】
(積層体を作製する工程)
熱可塑性樹脂層及び多孔質層を備える積層体は、熱可塑性樹脂層を多孔質層上に載置することで作製されてもよく、熱可塑性樹脂層の一面を溶融させて多孔質層上に載置して冷却することで作製されてもよく、熱可塑性樹脂層と多孔質層とを接着層を介して積層することで作製されてもよい。いずれの場合においても、熱可塑性樹脂層と多孔質層とはプレス成型又は熱プレス成型されてよい。熱可塑性樹脂層の一面を溶融させる場合、加熱温度は熱可塑性樹脂の種類により適宜調整すればよいが、例えば80~180℃とすることができる。
【0025】
熱可塑性樹脂層は熱可塑性樹脂を含む層である。熱可塑性樹脂としては低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタラート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルスチレン(AS)、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ABS、AES、ASA、ポリフェニレンエーテル(PPE)等が挙げられる。このうち、易溶融性、加工性等の観点からは低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタラート(PET)等のポリエステル樹脂が好ましく、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレンテレフタレート(PET)等がより好ましい。
【0026】
熱可塑性樹脂層は、柔軟性、加工性付与による易延在部形成の観点から、熱可塑性樹脂以外のフタル酸系、アジピン酸系、エポキシ系、脂肪酸系、リン酸系、ポリエステル系の熱可塑剤等の他の成分を含んでいてもよい。ただし、熱可塑性樹脂層における熱可塑性樹脂の含有量は、80質量%以上とすることができ、90質量%以上であってもよく、100質量%(実質的に熱可塑性樹脂からなる)であってもよい。
【0027】
熱可塑性樹脂層の厚さは、より良好な吸音特性を得る観点から、0.1~10.0mmとすることができ、0.5~5.0mmであってもよく、1.0~3.0mmであってもよい。
【0028】
多孔質層としては、樹脂発泡体、織布、不織布等が挙げられる。これらのうち、低周波数領域における吸音特性に優れる観点から、多孔質層は樹脂発泡体又は不織布であってよい。多孔質層は一層であってもよく多層であってもよい。多孔質層が多層である場合、各層は、同じ素材から構成されていてもよく、異なる素材から構成されていてもよい。
【0029】
樹脂発泡体の素材としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、天然ゴム、合成ゴム等が挙げられる。耐熱性、難燃性等の観点から、樹脂発泡体の素材はウレタン樹脂又はメラミン樹脂(ウレタンフォーム又はメラミンフォーム)であってよい。
【0030】
不織布を構成する繊維としては、有機繊維及び無機繊維が挙げられ、重量、耐熱性、耐水性、難燃性等、吸音材の用途に応じて適したものを選択することができる。
有機繊維としては、例えば、ポリエチレン(低密度又は高密度)、ポリプロピレン(PP)、共重合ポリエチレン、共重合ポリプロピレン等のポリオレフィン繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ウール等の天然繊維などが挙げられる。
無機繊維としては、ガラス繊維(グラスファイバー)、金属繊維、セラミックス繊維(シリカ、ロックウール等)、炭素繊維等が挙げられる。
不織布を構成する繊維は、これらを1種又は2種以上を含むことができる。
【0031】
不織布を構成する繊維の平均繊維径は特に制限されないが、より良好な吸音特性を得る観点から、例えば1~30μmとすることができ、5~15μmであってもよい。
【0032】
平均繊維径は、電子顕微鏡にて1000倍で撮影した写真から測定される個々の繊維の繊維径の平均をとることで求められる。具体的には、平均繊維径は、10枚の写真から任意に選択された合計本数100本の繊維について繊維径を測定し、それらを平均して求められる。
【0033】
多孔質層の厚さは、より良好な吸音特性を得る観点から、0.1~50mmとすることができ、0.5~20mmであってもよく、2.0~12mmであってもよい。レイアウト設計上、薄厚が要求される自動車用途としては、多孔質層の厚さは12mm以下が好ましい。
【0034】
多孔質層の目付は、より良好な吸音特性を得る観点から、50~2000g/mとすることができ、100~1000g/mであってもよい。
【0035】
多孔質層の密度は、より良好な吸音特性を得る観点から、10~150kg/mとすることができ、50~100kg/mであってもよい。
【0036】
多孔質層はバインダ樹脂を含有してよい。バインダ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル系樹脂等が挙げられる。
バインダ樹脂としては、例えば不織布と共に用いられる一般的なバインダ樹脂を用いることができる。多孔質層の吸音特性を阻害し難いよう、粉末状、繊維状等のバインダ樹脂を用いることができる。
【0037】
バインダ樹脂として熱可塑性バインダ樹脂を用いることで、バインダ樹脂が熱により溶融して冷却される際に、後述のとおり多孔層(延在部を含む)と多孔質層とが良好に固定され易い。例えば、粉末状の熱可塑性バインダ樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられ、繊維状の熱可塑性バインダ樹脂としては、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。
【0038】
バインダ樹脂として熱硬化性バインダ樹脂を用いることで、熱プレスによる多孔質層への形状付与が可能となる。例えば、粉末状の熱硬化性バインダ樹脂としては、ノボラック系フェノール樹脂、レゾール系フェノール樹脂、各種変性タイプのフェノール樹脂等のフェノール樹脂が挙げられる。
【0039】
バインダ樹脂の量は、バインダ樹脂としての機能発現の観点から、多孔質層の全量を基準として1.0質量%以上とすることができる。一方、良好な吸音特性維持の観点から、多孔質層の全量を基準として20.0質量%以下とすることができる。以上の観点から、バインダ樹脂の量は、多孔質層の全量を基準として1.0~20.0質量%とすることができ、5.0~15.0質量%であってもよい。
【0040】
バインダ樹脂は、バインダ樹脂を含むスラリーを調製し、当該スラリーを多孔質層に含浸させることで、多孔質層に含有させてもよい。
【0041】
接着層としては、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、イソブテン・無水マレイン酸共重合樹脂、アクリル共重合樹脂、アクリルモノマー、アクリルオリゴマー、スチレン・ブタジエンゴム、塩化ビニル樹脂、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ウレタン樹脂、シリル化ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、アイオノマー樹脂、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、水ガラス、シリケート等の接着成分を含む層、あるいは紙、布、樹脂フィルム、金属テープ等から構成される支持体の両面にこれらの接着成分を含む層を備える積層物(例えば両面テープ)などが挙げられる。
接着層の厚さは特に限定されないが、0.01~500μmとすることができ、1~250μmであってもよい。
【0042】
(穿孔工程)
上記のとおり作製された積層体の熱可塑性樹脂層に、熱可塑性樹脂層が軟化温度以上である状態で尖形部材を押し当てる際、当該軟化温度以上である状態は、熱可塑性樹脂層を加熱することにより実施されてもよく、尖形部材を加熱することにより実施されてもよい。また、熱可塑性樹脂層及び尖形部材を共に加熱することにより実施されてもよい。
軟化温度(軟化点)は、固体物質を加熱して温度を上げていく際に、ある温度領域において固体物質が軟化して流動性が増し、固体物質の形状が変化し始める温度として定義される温度である。本工程において、軟化温度は熱可塑性樹脂の種類により変動するが、例えば80~180℃である。加熱温度は熱可塑性樹脂の軟化温度に応じて適宜調整すればよい。
【0043】
熱可塑性樹脂層を加熱する際に、熱可塑性樹脂層を一方の面から加熱することにより、熱可塑性樹脂層に温度勾配を生じさせることができる。熱可塑性樹脂層の、尖形部材が押し当てられる側の温度を高く又は低く、多孔質層側の温度を低く又は高くすることで、穿孔時に延在部の長さを調整し易くなる。温度勾配を適切に調整することで、延在部の長さをコントロールし、吸音のピーク周波数を任意に調整することができる。
【0044】
本工程により、尖形部材が押し当てられた部分の熱可塑性樹脂層が多孔質層側に没入して、熱可塑性樹脂層の延在部が多孔質層内に形成されると共に、熱可塑性樹脂層が多孔層となる。その際、熱可塑性樹脂層から多孔質層に連通する孔が形成される。
尖形部材としては、ニードル、打ち抜き用のストレートピン、多段ピン、微細ピン等が挙げられる。尖形部材の形状(尖端の形状)は、形成される多孔部材が所望の形状の孔を有するよう適宜調整することができる。また、上記連通する孔を複数同時に形成するため、尖形部材は尖状の突起を複数有する部材であってもよい。突起の配置は、形成される多孔部材が所望の配置の孔を有するよう適宜調整することができる。
【0045】
穿孔工程に先立ち、穿孔を好適に行う観点から、積層体を予備加熱する予備加熱工程を実施してもよい。予備加熱工程は、積層体を80~180℃にて加熱することで実施することができる。
【0046】
<吸音材>
図1は、一実施形態に係る吸音材の模式断面図である。吸音材10は、熱可塑性樹脂の多孔層1と、多孔層1の孔と連通する孔を有する多孔質層2とを備える。多孔層1の孔の縁部は多孔質層2内に没入して延在部1aを形成している。多孔層1側から入射した音(音響エネルギー)は孔内で共鳴(ヘルムホルツ共鳴)して、熱エネルギーとして散逸されると考えられる。これにより音の減衰が観察される。
図1の吸音材において、多孔層は、複数の孔を有する(層状の)基部と、当該孔から多孔質層内に延在する中空状のネック部とを備えるということもでき、また多孔質層は基部と接しておりかつネック部の外面に接する孔を備えるということもできる。
【0047】
延在部の長さは、吸音特性をより向上する観点から、多孔層の厚さの1/4以上とすることができ、多孔層の厚さの1/2以上であってもよい。延在部の長さは、延在部形成可能性の観点から、多孔層の厚さの3倍以下とすることができ、多孔層の厚さの2倍以下であってもよい。
【0048】
延在部の長さは、多孔層の厚さ等により変動するため特に限定されないが、0.5mm以上とすることができ、1.0mm以上であってもよい。同様に、延在部の長さは、9.0mm以下とすることができ、8.0mm以下であってもよい。
【0049】
延在部の厚さは、延在部が剛直となり振動に対しより優れた耐久性を得る観点から、250μm以上とすることができ、500μm以上であってもよい。延在部の厚さは、多孔質層の体積確保の観点から、3.0mm以下とすることができ、2.0mm以下であってもよい。
【0050】
延在部の長さ及び厚さは、次のようにして測定される。
任意に選択された吸音材の10箇所の孔に、注型用樹脂を流し込み固化させる。
孔中心部を切断砥石が通るように孔を切断する。
孔の断面をマイクロスコープを用いて観察し、多孔層及び多孔質層の境界を基準として孔の底部方向へ垂直な線を描く。この時に、上記境界から底部までの最短距離を延在部長さとする。また延在部長さを測定した範囲における延在部の最小厚さを延在部厚さとする。この作業を10箇所の孔に対して行い、平均値を算出する。
図2は、一実施形態に係る吸音材の模式断面図において、上記のとおり測定される延在部長さL及び延在部厚さWを示す図である。同図では孔の底部に凹凸がある場合を描いているが、孔の底部に凹凸がなくとも良い。
【0051】
多孔層と多孔質層とは接着されていてよい。接着は、積層体を作製する際に、熱可塑性樹脂層の一面を溶融させて多孔質層上に載置して冷却することにより行われてもよく、熱可塑性樹脂層及び多孔質層間に接着層を設けることにより行われてもよく、あるいは多孔質層がバインダ樹脂を含む場合に、バインダ樹脂により行われてもよい。多孔質層がバインダ樹脂を含む場合、延在部の振動耐久性が向上する観点から、多孔層の延在部と多孔質層もまた、バインダ樹脂を介して接着されていてよい。これにより、多孔層が多孔質層に良好に固定され易い。
【0052】
多孔層と多孔質層とが接着されているとは、多孔層と多孔質層とを引き剥がしたとき、剥離が両層の界面破壊ではなく、多孔質層の母材破壊を伴うものであることが好ましい。後者の場合、剥離後に多孔質層の材料が多孔層の剥離面に観察される。
【0053】
多孔層は格子状又は菱形状に配列した孔を有してよい。当該孔は、直径(孔径)が0.1~50.0mmの円形状であってよく、0.2~10.0mmの円形状であってよく、0.3~5.0mmの円形状であってよい。ここで、延在部の長さを測定した範囲における孔の最小の内径を孔の直径とする。
孔の形状は、円形、楕円形、長方形、多角形等であってよい。孔の径及びピッチ等を調整することで、吸音時の共鳴周波数を調整することができる。例えば、孔のピッチは、吸音材の強度及び吸音特性の観点から1.0~30.0mmとすることができる。孔のピッチとは、隣接する孔の中心間距離を言う。なお、多孔層は多孔板ということができる。
【0054】
吸音材の厚さは、その層構成により適宜設定されるが、吸音特性の発現、材料の施工性等の観点から、4.0mm以上とすることができる。一方、省スペース化等の観点から、100mm以下とすることができる。以上の観点から、吸音材の厚さは、4.0~100mmとすることができ、8.0~20.0mmであってもよい。
【0055】
<吸音材の用途>
上記吸音材は低周波数領域における吸音特性に優れる。そのため、上記吸音材は、自動車、鉄道車両、航空機、船舶、住宅等の建築物などの用途において好適に用いることができる。ここでいう低周波数領域とは、周波数が2000Hz以下の領域とすることができ、上記吸音材は、500~2000Hzの、特に700~1500Hzの周波数領域において優れた吸音特性を有する。
【0056】
<車両部材>
車両部材は上記の吸音材を備える。車両部材としては、例えば以下の態様が挙げられる。車両部材は自動車部材であってよい。
外装:車両用外装材の吸音部材である車両部材、車両用外装材。
外装としては、(車両用)アンダーカバー又はアンダープロテクター、防音カバー等が挙げられ、具体的にはエンジンアンダーカバー、フロアアンダーカバー、リアアンダーカバー、ミッションカバー、フェンダライナ/プロテクタ又はマッドガード等が挙げられる。
内装:車両用内装材の吸音部材である車両部材、車両用内装材。
内装としては、車両用サイレンサー、車両用防音体等が挙げられ、具体的には天井材(ルーフサイレンサー)、ダッシュサイレンサー、フロアサイレンサー、フロアカーペット、フードサイレンサー等が挙げられる。
その他:タイヤ用吸音材。
タイヤ用吸音材としては、車両用カバー、ケース等と上記の吸音材を組み合わせた吸音構造体が挙げられる。
【実施例0057】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
<使用材料>
(多孔質層)
・シリカ不織布(シリカマット):HKO社製(平均繊維径9.1μm、目付1300g/m、密度130kg/m、厚さ10mm)
(熱可塑性樹脂層)
・PP板:昭和電工マテリアルズ株式会社製(コウベポリシート、型番PP-N-BN、厚さ3mm)
【0059】
シリカ不織布の平均繊維径は、電子顕微鏡にて1000倍で撮影した10枚の写真から任意に選択された合計本数100本の繊維について繊維径を測定し、それらを平均し、小数点以下第2位を四捨五入して求めた。
【0060】
(吸音材の作製:実施例1~3)
100mm×100mm×3mm(厚さ)のポリプロピレン(PP)板を、温度180℃に設定したホットプレート上に設置し、PP板の片面を3分間加熱して溶融させた。
PP板の加熱面を100mm×100mm×10mm(厚さ)のシリカマットに向けて載置し、室温にて20時間放置(冷却)した。
得られたPP/シリカマット積層体を恒温槽に入れ、150℃で15分間予備加熱した。
予備加熱後のPP/シリカマット積層体のPP板側を、180℃に設定したホットプレートで3分間加熱した。これにより、PP板に温度勾配を生じさせた。
加熱後のPP/シリカマット積層体のPP板側を、卓上ハンドプレス機の上盤に向けて下盤上に設置し、また所定の厚みを有するスペーサを、PP/シリカマット積層体周囲に設置した。
卓上ハンドプレス機上盤に所定の径を有するニードルピンを固定し、上盤を下げてニードルピンをPP/シリカマット積層体に押し当てて、PP板及びシリカマットに連通する円形の孔を形成した。この際、PP板は軟化温度以上である状態であった。孔のピッチを20mmとし、100mm×100mmの領域に格子状に計19個の孔を形成した。延在部の長さはニードルピンの太さを変えて調整した。これにより吸音材を作製した。吸音材の厚さは13mmであった。
【0061】
(吸音材の作製:比較例1)
シリカマットを吸音材として用いた。
【0062】
(延在部の形状測定:実施例1~3)
ポリカップに、EPICLON850(DIC株式会社製(エポキシ樹脂))を7質量部、EPICLON707(DIC株式会社製(反応希釈剤))を3質量部、ビス(2-アミノエチル)アミン(富士フイルム和光純薬株式会社製(硬化剤))を1質量部、それぞれ投入してガラス棒で攪拌し、注型用樹脂を調製した。
任意に選択された吸音材の10箇所の孔に、孔とその周囲が完全に埋まるように、注型用樹脂を流し込み固化させた。
FINE CUT(平和テクニカ株式会社製、HS45-4C)を用いて、孔中心部を切断砥石が通るように孔を切断した。
孔の断面をマイクロスコープを用いて観察し、PP板及びシリカマットの境界を基準として孔の底部方向へ垂直な線を描いた。この時に、上記境界から底部までの最短距離を延在部長さとした。また延在部長さを測定した範囲における延在部の最小厚さを延在部厚さとした。また、延在部長さを測定した範囲における孔の最小の内径を孔径とした。この作業を10箇所の孔に対して行い、平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
(吸音材の吸音率測定)
作製した各吸音材の垂直入射吸音率を、以下に従って測定した。実施例1~3については、PP板側から音を入射した。結果を表2及び図3に示す。図3は、吸音率測定の結果を示すグラフである。同図によると、実施例1~3の吸音材は、低周波数領域における吸音特性に優れていることが分かる。
装置名:4206型インピーダンス管(ブリュエル・ケアー社)
測定方法:垂直入射吸音率(JIS A 1405-1に準拠)
測定可能範囲:125~6500Hz
測定サンプルサイズ:Φ29mm(高周波側:測定範囲500~6500Hz)、Φ98mm(低周波側:測定範囲125~1600Hz)
【0065】
【表2】
【0066】
(吸音材の耐振動性評価)
製作した各吸音材の耐振動性を、磁歪振動試験機を用い、テストピースの振動試験により確認した。振動試験は、加速度制御(35G)で振動周波数500Hz、変位0.0348mm、試験時間6時間の条件にて行った。試験後にPP板からシリカマットを引き剥がして、マイクロスコープ又はSEMにより延在部表層を観察し、延在部にひび割れ、欠け等の破損及び延在部の脱落が無いことを確認した。
【符号の説明】
【0067】
1…多孔層、1a…延在部、2…多孔質層、10…吸音材。

図1
図2
図3