(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155003
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】多層磁性シート
(51)【国際特許分類】
H01F 27/25 20060101AFI20231013BHJP
H01F 38/14 20060101ALI20231013BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20231013BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20231013BHJP
B60M 7/00 20060101ALI20231013BHJP
B60L 5/00 20060101ALI20231013BHJP
B60L 53/12 20190101ALI20231013BHJP
【FI】
H01F27/25
H01F38/14
H01F41/02 C
H02J50/10
B60M7/00 X
B60L5/00 B
B60L53/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064699
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】栗山 安男
(72)【発明者】
【氏名】宮野 興平
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄一
【テーマコード(参考)】
5E062
5H105
5H125
【Fターム(参考)】
5E062AA02
5H105AA17
5H105BA09
5H105BB05
5H105DD10
5H105EE12
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC26
5H125DD02
5H125FF15
(57)【要約】
【課題】工数が多大となりにくい多層磁性シートを提供する。
【解決手段】短辺と長辺とを有する帯状に形成された磁性薄帯が積層された積層基体300を複数個備え、複数の積層基体300は、長辺300Lが隣り合って短辺が延びる方向に板形状に並んで配置され、板形状に並んで配置された複数の積層基体300が、厚さ方向に複数個積み重ねて配置され、長辺300Lが隣り合って短辺が延びる方向に並ぶ複数の積層基体において、積層基体の長辺部分が互いに重なり合っている多層磁性シート。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短辺と長辺とを有する帯状に形成された複数の磁性薄帯が積層された積層基体を複数個備え、
複数の前記積層基体は、前記長辺が隣り合って前記短辺が延びる方向に板形状に並んで配置され、板形状に並んで配置された複数の前記積層基体が、厚さ方向に複数個積み重ねて配置され、
前記長辺が隣り合って前記短辺が延びる方向に並ぶ複数の前記積層基体において、前記積層基体の前記長辺部分が互いに重なり合っている多層磁性シート。
【請求項2】
前記多層磁性シートに積層された前記磁性薄帯の合計が10層以上であり、
前記多層磁性シートの前記磁性薄帯の積層方向の少なくとも一部分において、前記積層基体で構成される層を備え、
前記多層磁性シートの前記磁性薄帯の積層方向の少なくとも一部分において、前記積層基体の前記長辺部分が互いに重なり合っている請求項1に記載の多層磁性シート。
【請求項3】
前記積層基体は前記磁性薄帯が2層以上積層されている請求項1または2に記載の多層磁性シート。
【請求項4】
前記多層磁性シートの幅が100mm以上1000mm以下、長さが100mm以上1000mm以下である請求項1または2に記載の多層磁性シート。
【請求項5】
前記磁性薄帯が、アモルファス合金薄帯、又は、ナノ結晶合金薄帯である請求項1または2に記載の多層磁性シート。
【請求項6】
前記磁性薄帯はナノ結晶合金薄帯であり、複数の小片を含んでいる請求項1または2に記載の多層磁性シート。
【請求項7】
前記積層基体における隣接する前記磁性薄帯の間には、帯状に形成された支持体、及び、前記支持体における第1面および第2面に設けられた粘着剤を有する粘着層が設けられた請求項1記載の多層磁性シート。
【請求項8】
前記積層基体が積層された方向において、隣接する前記積層基体の間には、帯状に形成された支持体、及び、前記支持体における第1面および第2面に設けられた粘着剤を有する複数の粘着層が2層配置されている請求項1記載の幅広多層磁性シート。
【請求項9】
前記積層基体が積層された方向において、
第1積層端部の前記磁性薄帯、又は、前記第1積層端部と反対側の第2積層端部の前記磁性薄帯には、
帯状に形成された支持体、及び、前記支持体における第1面および第2面に設けられた粘着剤を有する複数の粘着層と、
樹脂を用いて形成された膜状部材であって、前記粘着層に接着された樹脂シートが設けられている請求項1記載の幅広多層磁性シート。
【請求項10】
前記粘着層における寸法であって、前記粘着層の長手方向と交差する方向の寸法を幅A、
前記磁性薄帯における寸法であって、前記磁性薄帯の長手方向と交差する方向の寸法を幅Bとした場合に、
0.2mm≦(幅A-幅B)≦3mmの関係を満たす請求項7から9のいずれか1項に記載の多層磁性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、自動車の2次電池を充電するための非接触充電装置に用いることができる多層磁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、給電側と受電側の両方に伝送コイルを設け、電磁誘導を利用した電力伝送によって充電する非接触充電が注目されている。非接触充電において、給電装置の一次伝送コイルに発生した磁束は給電装置と受電装置の筐体を介して受電装置の二次伝送コイルに起電力を発生させることで給電が行われる。
【0003】
非接触充電は、例えば、タブレット型情報端末や、ミュージックプレイヤーや、スマートフォンや、携帯電話等の電子機器に対して普及し始めている。また、非接触充電は、上述以外の電子機器や、電気自動車や、ドローンに適用可能な技術である。また、フォークリフト、AGV(Automated Guided Vehicle)等の運搬車、鉄道、路面電車等にも適用可能な技術である。
【0004】
非接触充電において電力伝送効率を高めるために、伝送コイルにおける給電装置と受電装置の接触面とは反対側に、コイルヨークとして磁性シートが設置される場合がある。このように配置される磁性シートには、充電時における磁束の漏れを防ぐ磁気シールド材としての役割や、充電中にコイルで発生した磁束を還流させるヨーク部材としての役割などがある。
【0005】
上述の磁性シートを製造する方法として、種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1から3参照。)。特許文献1から3には、Q値の向上または渦電流損の低減を目的とした、磁性シートに含まれる薄板状磁性体や、非晶質合金またはナノ結晶粒合金のリボン等(以下「合金薄帯」とも表記する。)を複数に分割する工程を含む製造方法が開示されている。
【0006】
スマートフォン等の電子機器と比較して、電気自動車等に使用される非接触充電の場合、1次コイルと2次コイルとを近接して配置することが難しい。例えば、比較して広い間隔がある状態で1次コイルと2次コイルとを電磁結合させる必要がある。
【0007】
また、1次コイルと2次コイルの間で伝送する電力も比較して大きくする必要がある。具体的には、1次コイルに流す電流も比較して大きくなり、1次コイルと2次コイルの間の磁束も比較して大きくする必要が生じる。
【0008】
そのため、1次コイルと2次コイルが比較して大きくなり、スマートフォン等の電子機器に用いていた磁性シートでは大きさが足りないという問題があった。また、磁束が比較して大きくなるため、磁束が他の機器へ漏れやすいという問題があった。
【0009】
また、磁性シートに含まれる合金薄帯は帯状に延びる形状を有している。合金薄帯における長手方向と直交する方向の寸法である幅は、電気自動車等に使用される非接触充電には狭いという問題があった。
【0010】
これに対して、複数の合金薄帯を板形状に並べるとともに、板形状に並べた複数の合金宇薄帯を更に厚さ方向に重ねる技術も知られている(例えば、特許文献4参照。)。特許文献4に記載の技術では、合金薄帯が配置される面の幅も広くしやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008-112830号公報
【特許文献2】特表2015-505166号公報
【特許文献3】国際公開第2020-235642号公報
【特許文献4】特表2019-522355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献4に記載の技術は、単層の合金薄帯を積み重ねる方法である。そのため、10層以上の合金薄帯が積層された磁性シート(多層磁性シートとも表記する。)を構成するには、工数が多大となるという問題があった。
【0013】
本開示は、工数が多大となりにくい多層磁性シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、多層磁性シートを作製するために、いくつかの磁性薄帯を積層して作製した積層基体を作製しておき、その積層基体を並べ、及び積み重ねて、多層磁性シートを作製することが工数低減に役立つことを思いついた。積層基体を用いて多層磁性シートを作製したとき、積層基体間に生じる磁気ギャップが積層方向に連続して生じた場合、透磁率の低下、及び、Q値の低下が生じることを見出した。そこで、積層方向に磁気ギャップが連続して形成されず、及び工数が多大とならない構成を検討し、本開示の構成を発明した。
【0015】
本開示の多層磁性シートは、短辺と長辺とを有する帯状に形成された複数の磁性薄帯が積層された積層基体を複数個備え、複数の前記積層基体は、前記長辺が隣り合って前記短辺が延びる方向に板形状に並んで配置され、板形状に並んで配置された複数の前記積層基体が、厚さ方向に複数個積み重ねて配置され、前記長辺が隣り合って前記短辺が延びる方向に並ぶ複数の前記積層基体において、前記積層基体の前記長辺部分が互いに重なり合っている。
【0016】
本開示の多層磁性シートによれば、複数の磁性薄帯が積層された複数の積層基体を板形状に並べ、かつ、厚さ方向に積み重ねた幅広で多層の磁性シートが構成される。複数の積層基体を板形状に並べ、かつ、複数の板形状の積層基体を厚さ方向に積み重ねるため、磁性薄帯を並べて積層させる構成と比較して、製造する際の工数が多大となりにくい。
【0017】
また、長辺が隣り合って短辺が延びる方向に並ぶ複数の積層基体において、積層基体の長辺部分が互いに重なり合っているので、積層された方向から見て、積層基体の間の隙間(磁気ギャップとも表記する。)がない構造となるので、多層磁性シートにおける磁気特性の悪化を防ぎやすい。
【発明の効果】
【0018】
本開示の多層磁性シートによれば、磁性薄帯が積層された複数の積層基体を板形状に並べ、かつ、厚さ方向に積み重ねた構成を有するため、製造する際の工数が多大となりにくいという効果を奏する。また、積層された方向から見て、積層基体の間の隙間(磁気ギャップ)がない構造となるので、多層磁性シートにおける磁気特性の悪化を防ぎやすく、透磁率が高く、Q値が高い多層磁性シートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示による多層磁性シートの構造を説明する平面視図である。
【
図2】多層磁性シートの構造を説明するX-X線矢視の部分拡大断面視図である。
【
図4】多層磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図5】粘着層および磁性薄帯の構成を説明する部分拡大断面視図である。
【
図6】磁性シートの製造方法を説明する模式図である。
【
図7】第1巻出しロールから供給される積層体の構成を説明する断面視図である。
【
図8】第1巻出しロールから供給され、樹脂シートが剥離された積層体の構成を説明する断面視図である。
【
図9】第2巻出しロールから供給される磁性薄帯の構成を説明する断面視図である。
【
図10】貼付けロールにより、磁性薄帯が粘着層に接着された状態を説明する断面視図である。
【
図11】クラックロールにより磁性薄帯にクラックが形成された状態を説明する断面視図である。
【
図12】積層基体の製造方法を説明する模式図である。
【
図13】実施例1の多層磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図14】実施例2の多層磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図15】実施例3の多層磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図16】比較例の多層磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図17】実施例4の多層磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図18】実施例5の多層磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図19】実施例6の多層磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図20】実施例7の多層磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図21】実施例8の多層磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【
図22】実施例9の多層磁性シートの構成を説明する断面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この開示の一実施形態に係る多層磁性シート400について、
図1から
図12を参照しながら説明する。一実施形態に係る多層磁性シート400は、非接触方式の充電機器に用いられる。充電機器の給電装置に用いられてもよいし、受電装置に用いられてもよい。
【0021】
本実施形態では、多層磁性シート400がスマートフォンなどの情報処理機器や電子機器よりも消費電力が大きな機器に対する非接触充電に用いられる例に適用して説明する。例えば、多層磁性シート400が自動車などの移動体への非接触充電に用いられる例に適用して説明する。なお、多層磁性シート400は、情報処理機器や電子機器などの非接触充電に用いられてもよい。また、フォークリフト、AGV等の運搬車、鉄道、路面電車等にも適用可能である。
【0022】
図1は、多層磁性シート400の構造を説明する平面視図である。
図2は、多層磁性シート400の構造を説明するX-X線矢視の部分拡大断面視図である。
多層磁性シート400は、
図1および
図2に示すように複数の帯状に形成された積層基体300が板形状に並んで配置され、板形状に並んで配置された複数の積層基体300が、厚さ方向に複数個積み重ねて配置された構成を有している。
【0023】
また、
図2に示すように、横に並んだ積層基体300の長辺300L及びその近傍部分(以下、長辺部分とも表記する。)が、互いに重なり合っている。言い換えると、積層基体300は、長辺300Lの近傍部分が板形状に並んで配置された(言い換えると、
図2における左右方向に並んで配置された)隣接する積層基体300の厚さ方向に重なっている。
【0024】
近傍部分は、隣接する積層基体300が重なり合う部分であり、積層基体300における長辺300Lを含み、長辺300Lに沿って延びる部分である。近傍部分には、
図2における積層基体300が傾斜している部分は含まれない。
【0025】
厚さ方向は、積層基体300が積層された方向とも表記する。積層基体300は、2つの長辺300Lおよび2つの短辺300Sを有する帯状または矩形状の形状を有する。
【0026】
図1に示すように、多層磁性シート400は、平面視において矩形状に形成された板状またはシート状の形状を有する。複数の積層基体300は短辺300Sが延びる方向に並んで配置され、長辺部分が互いに重なり合っている。なお、
図1では長辺部分の重なりの記載は割愛している。
【0027】
多層磁性シート400において積層基体300は、短辺300Sが延びる方向に2以上20以下の数が並んで配置されていることが好ましい。なお、20以上並んで配置されていてもよい。本実施形態では、5個の積層基体300が並べて配置されている例に適用して説明する。
【0028】
本実施形態では、長辺300Lが延びる方向に1つの積層基体300が配置されている例に適用して説明する。なお、長辺300Lが延びる方向に積層基体300が配置される数は1つよりも多くてもよい。
【0029】
本実施形態では、積層基体300における長辺300Lが延びる方向の長さLが100mm以上1000mm以下の範囲であり、短辺300Sが延びる方向の幅Wrが10mm以上100mm以下の範囲である例に適用して説明する。なお、積層基体300における長辺300Lが延びる方向の長さLが上述の範囲以外であってもよいし、短辺300Sが延びる方向の幅Wrが上述の範囲以外であってもよい。また、ここで言う短辺300Sが延びる方向の幅Wrは、重なりを生じていない場合の長さである。
【0030】
本実施形態では、多層磁性シート400における長さLが100mm以上1000mm以下の範囲であり、幅Wsが100mm以上1000mm以下の範囲である例に適用して説明する。
【0031】
ここで、長さLは、多層磁性シート400を構成する積層基体300の長辺300Lが延びる方向の寸法であり、幅Wsは、積層基体300の短辺300Sが延びる方向の寸法である。なお、多層磁性シート400における長さLが上述の範囲以外であってもよいし、幅Wsが上述の範囲以外であってもよい。
【0032】
図2に示すように、多層磁性シート400は、断面視において複数の積層基体300を厚さ方向に重ねた構成を有する。多層磁性シート400の積層方向の上端部または下端部には、樹脂シートが設けられていてもよい。樹脂シートは、樹脂を用いて形成された膜状部材である。また、多層磁性シート400の積層方向の上端部または下端部に、アモルファス合金薄帯、又は、ナノ結晶合金薄帯、もしくは、他の磁性材や、アルミニウム等の金属箔、並びに樹脂シート等を貼り付けてもよい。
【0033】
多層磁性シート400における厚さ方向に重ねられる積層基体300の数は2以上20以下であることが好ましい。
図2の部分拡大断面視図では積層基体300が厚さ方向に2層重ねられた構成を有する。なお、
図2は部分拡大断面視図のため2層で記載しているが、積層基体300が重ねられる数は、2層に限らない。3つより多くてもよい。好ましくは3つ以上であり、より好ましくは4つ以上であり、更に好ましくは5つ以上である。また、多層磁性シート400における厚さ方向に重ねられる積層基体300の数は20よりも多くてもよいが、好ましくは20以下である。
【0034】
積層基体300の長辺部分の重なり(言い換えると、長辺部分における近傍部分の寸法)は、短辺方向の寸法で、1mm以上が好ましい。また、2mm以上がより好ましい。さらに、3mm以上が好ましい。また、重なり部分の寸法の上限は特になく、長くてもよい。例えば、下側の積層基体の幅方向の半分程度まで及んでいてもよい。
【0035】
積層基体300の長辺部分の重なりにより、積層方向からみた積層基体300の間に生じる磁気ギャップがなくなり、磁気特性の向上(例えば、μ´が高く、Qが大きい)が図れる。
【0036】
図2には、隣り合う積層基体300における長辺300Lが重なり合う例が図示されている。具体的には、
図2において左右方向における中央の1層目(下側の層とも表記する。)の積層基体300に対して、1層目に配置された積層基体300であって、中央の積層基体300の両側(右隣および左隣とも標記する。)に配置された積層基体300は、その長辺300L及び近傍部分が中央の積層基体300の長辺部分に重なる状態で積層されている。
【0037】
言い換えると、1層目において、中央に配置された積層基体300の長辺部分と、左右に配置された積層基体300の長辺部分とが、厚さ方向に重なって積層されている。左右に配置された積層基体300の長辺部分は、中央に配置された積層基体300の2層目側に重ねられている。
【0038】
そして、中央の2層目(上側の層とも表記する。)の積層基体300が中央の1層目の積層基体300の上に積層される。中央の2層目の積層基体300の長辺300L及び近傍部分が1層目の両側の積層基体300の長辺部分の重なり合う部分に重なるように積層されている。
【0039】
さらに、2層目の両側の積層基体300が、それぞれ1層目の両側の積層基体300に積層される。2層目の両側の積層基体300における長辺300L及び近傍部分が中央の2層目の積層基体300の長辺部分と重なるように積層されている。
【0040】
積層基体300の長辺300Lの重なりは、
図2に示した例に限定されない。例えば、1層目の両側の積層基体300における長辺300L及び近傍部分の上(2層目側とも表記する。)に、中央の1層目の積層基体300の長辺300L及び近傍部分を重ねてもよい。
【0041】
また、中央の積層基体300において、左右の長辺300L及び近傍部分で異なる重ね方としてもよい。例えば、1層目の中央の積層基体300において、右側の長辺300L及び近傍部分は、1層目に属する右隣の積層基体300の2層目側に積層され(言い換えると、上側に積層され)、左側の長辺300L及び近傍部分は、1層目に属する左隣の積層基体300の長辺300L及び近傍部分が積層され(言い換えると、下側に積層され)てもよい。
【0042】
図3は、積層基体300の構成を説明する断面視図である。
積層基体300は、複数の粘着層10と、複数の磁性薄帯20と、が交互に積層された多層構造を有している。本実施形態では、
図3に示すように、6層の粘着層10と、5層の磁性薄帯20と、が交互に積層された多層構造を有している例について説明する。
【0043】
具体的には、粘着層10、磁性薄帯20、粘着層10、磁性薄帯20、粘着層10、磁性薄帯20、粘着層10、磁性薄帯20、粘着層10、磁性薄帯20、粘着層10の順に積層された多層構造を有している。
なお、
図3では、積層基体300の上下に樹脂シート15を記載しているが、この積層基体300を積み重ねるときは、適宜樹脂シート15は外して積層される。
【0044】
なお、積層基体300に含まれる磁性薄帯20の数は、上述のように5層であってもよいし、5層以外の2層以上から4層であってもよいし、6層以上の任意の数であってもよい。積層基体300に含まれる磁性薄帯20の数は3層以上が好ましく、4層以上が好ましく、5層以上が好ましい。なお、上限は、製造できる限り、何層でもよい。例えば、
図12で説明する製造装置を用いる場合、積層基体300に含まれる磁性薄帯20の数は20層以下が好ましく、15層以下が好ましく、10層以下が好ましい。また、長辺部分を重ね合わせる上で、作業性を考慮すると、20層以下が好ましく、15層以下が好ましい。
【0045】
図4は、多層磁性シート400の構成を説明する断面図である。
図4では、積層基体300が積み重ねられている状態を示している。
積層基体300が隣接する位置には、粘着層10が連続して2層積層されている。また、他の部分において、粘着層10が2層積層されていてもよい。また、粘着層10が3層以上積層されていてもよいが、全体として厚くなるため、粘着層10が積層される場合、2層以下が好ましい。
【0046】
多層磁性シート400における積層された磁性薄帯20の合計は適宜設定することができる。例えば、10層以上であることが好ましく、15層以上であることがより好ましく、20層以上であることがより好ましく、25層以上であることが更に好ましい。また、積層された磁性薄帯20の合計は200層以下であることが好ましい。また、150層以下であることが好ましい。また、100層以下であってもよい。
【0047】
図5は、粘着層10および磁性薄帯20の構成を説明する部分拡大断面視図である。
粘着層10は、
図5に示すように、磁性薄帯20が貼り付けられる部材である。また粘着層10は長尺状に形成された部材、例えば長方形状に形成された膜状の部材である。粘着層10には、支持体11と、粘着剤12と、が主に設けられている。
【0048】
支持体11は、長尺状に形成された帯状の膜部材、例えば長方形状に形成された膜部材である。支持体11は、可撓性を有する樹脂材料を用いて形成されている。樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethyleneterephthalate)を用いることができる。
【0049】
粘着剤12は、支持体11における第1面11Aおよび第2面11Bに膜状または層状に設けられている。
粘着剤12は、例えば、感圧性接着剤を用いることができる。例えば、アクリル系の接着剤、シリコーン系の接着剤、ウレタン系の接着剤、合成ゴム、天然ゴム等の、公知の接着剤を粘着剤12として用いることができる。アクリル系の接着剤は、耐熱性、耐湿性に優れ、かつ、接着可能な材質も幅広いため、粘着剤12として好ましい。
【0050】
粘着剤12は、支持体11の第1面11Aおよび第2面11Bに、層状に設けられている。本実施形態では、支持体11の第1面11Aおよび第2面11Bの全面に粘着剤12が設けられた例に適用して説明する。
【0051】
磁性薄帯20は、磁性を有する材料を用いて長尺状の帯状に形成された薄帯である。磁性薄帯20にはクラック21が形成されている。磁性薄帯20は、クラック21により複数の小片22に分割されている。言い換えると、磁性薄帯20は複数の小片22を含む。クラック21とは、磁性薄帯20に形成される磁気的なギャップを指し、例えば、磁性薄帯20の割れ及び/又はひびが包含される。
【0052】
磁性薄帯20にクラック21を形成することで、多層磁性シート400をインダクタ用磁性体として用いる場合にQ値の向上を図りやすくなる。また、多層磁性シート400を磁気シールド用磁性体として用いる場合には、磁性薄帯20の電流路を分断して渦電流損を低減しやすくなる。
【0053】
磁性薄帯20を形成する材料としては、合金組成がFe基又はCo基の合金を使用でき、ナノ結晶合金又はアモルファス合金を使用できる。磁性薄帯20は、特にナノ結晶合金を材料として形成された薄帯(以下、「ナノ結晶合金薄帯」とも表記する。)であることが好ましい。
【0054】
ナノ結晶合金薄帯としては、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯にナノ結晶化の熱処理を行って得られたナノ結晶合金薄帯を用いることができる。ナノ結晶化の熱処理の際、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行うことが好ましい。なお、アモルファス合金を材料として形成された薄帯をアモルファス合金薄帯、または、非晶質合金薄帯とも表記する。
【0055】
ナノ結晶合金薄帯は、次の一般式により表される組成を有することが好ましい。
一般式:(Fe1-aMa)100-x-y-z-α-β-γCuxSiyBzM’αM”βXγ(原子%)
【0056】
上記の一般式中で、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb、Mo、Ta、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、M”はAl、白金族元素、Sc、希土類元素、Zn、Sn、及びReからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、及びAsからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、a、x、y、z、α、β及びγはそれぞれ0≦a≦0.5、0.1≦x≦3、0≦y≦30、0≦z≦25、5≦y+z≦30、0≦α≦20、0≦β≦20及び0≦γ≦20を満たす。
好ましくは、上記一般式において、a、x、y、z、α、β及びγは、それぞれ0≦a≦0.1、0.7≦x≦1.3、12≦y≦17、5≦z≦10、1.5≦α≦5、0≦β≦1及び0≦γ≦1である。
【0057】
本実施形態では磁性薄帯20が、Fe-Cu-Nb-Si-B系のナノ結晶合金である薄帯(日立金属株式会社製FT-3)の例に適用して説明する。なお、磁性薄帯20は、上記の一般式により表される他の組成を有するナノ結晶合金薄帯であってもよいし、アモルファス合金薄帯であってもよい。
【0058】
磁性薄帯20がナノ結晶合金薄帯である場合は、磁性薄帯20がアモルファス合金薄帯である場合よりも機械的に脆い。磁性薄帯20がナノ結晶合金薄帯である場合は、磁性薄帯20に直接外力を付与してクラック21を形成する際に、小さな外力でクラック21を形成することができる。
【0059】
磁性薄帯20がナノ結晶合金薄帯である場合は、磁性薄帯20の表面に凹凸を実質的に形成することなくクラック21を形成できる。そのため、磁性薄帯20の平面状態を良好な状態とすることができる。磁性薄帯20と粘着層10とを貼り合わせて積層基体300とした後に発生する磁性薄帯20の形状の経時変化が小さくなる。積層基体300や磁性薄帯20における磁気特性の経時変化を抑制することができる。
【0060】
磁性薄帯20としては、例えば、ロール急冷により製造された厚さが100μm以下の合金薄帯を用いることができる。磁性薄帯20の厚さは、50μm以下が好ましく、更に30μm以下が好ましく、特に25μm以下が好ましく、特に20μm以下が好ましい。また、厚さが薄いと磁性薄帯20の取り扱いが困難となるため、磁性薄帯20の厚さは、5μm以上であることが好ましく、更に10μm以上が好ましい。
【0061】
磁性薄帯20は、粘着層10の粘着剤12に接着されている。本実施形態では、粘着層10の第1面11Aに設けられた粘着剤12に磁性薄帯20が接着されている。また、磁性薄帯20と粘着層10とは次式の関係を満たす形状を有していることが好ましい。
【0062】
0.2mm≦(幅A-幅B)≦3mm
幅Aは、粘着層10に関する寸法であって、より好ましくは粘着層10における磁性薄帯20が接着される粘着剤12が設けられた領域に関する寸法である。幅Bは、磁性薄帯20に関する寸法である。なお、粘着剤12が粘着層10の支持体11の全面に設けられている場合には、幅Aは、粘着層10または支持体11に関する寸法である。
【0063】
ここで、(幅A-幅B)の下限は、0.5mmであることが好ましく、更に1.0mmであることが好ましい。また、(幅A-幅B)の上限は、2.5mmであることが好ましく、更に2.0mmであることが好ましい。
【0064】
また、磁性薄帯20と粘着層10とは、別の次式の関係を満たすように配置されていることが好ましい。
0mm<隙間a、および、0mm<隙間b
【0065】
隙間aおよび隙間bは、粘着層10の端部から磁性薄帯20の端部までの距離である。具体的には隙間aは、粘着層10の第1粘着層端部10Xから、磁性薄帯20の第1薄帯端部20Xまでの距離である。隙間bは、粘着層10の第2粘着層端部10Yから、磁性薄帯20の第2薄帯端部20Yまでの距離である。
【0066】
第1薄帯端部20Xは、磁性薄帯20における第1粘着層端部10Xと同じ側の端部である。第2粘着層端部10Yは、粘着層10の第1粘着層端部10Xと反対側の端部である。第2薄帯端部20Yは、磁性薄帯20における第2粘着層端部10Yと同じ側の端部である。
【0067】
幅A、幅B、隙間a、および隙間bは、積層基体300の長手方向と交差する方向、より好ましくは直交する方向の寸法である。積層基体300の長手方向と、粘着層10の長手方向は同じ方向である。また、積層基体300の長手方向と、磁性薄帯20の長手方向は同じ方向である。
【0068】
本実施形態では、磁性薄帯20の長手方向の長さが20,000mである例に適用して、多層磁性シートの製造方法について説明する。また、粘着層10または支持体11に関する寸法である幅Aが32mmであり、磁性薄帯20に関する寸法である幅Bが30mmであり、幅A-幅Bは2mmである例に適用して説明する。
【0069】
樹脂シート15は樹脂を用いて形成された膜状の部材であり、保護フィルム、リリースフィルムまたはライナーとも表記される部材である。樹脂シート15は、磁性薄帯20や多層磁性シート400の保護に用いられる部材である。
【0070】
樹脂シート15は、磁性薄帯20に意図しない外力が加わることにより、後述するクラック21(または複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラック)が不要に増えることを抑制する機能を有する。また、磁性薄帯20の小片22が脱落することを抑制する機能や、磁性薄帯20が錆びることを抑制する機能を有する。
【0071】
また、樹脂シート15は、多層磁性シート400を所定の形状に加工する際に、不要な変形が発生することを抑制する機能を有する。不要な変形としては、表面の凹凸などを例示することができる。樹脂シート15は、上述のように粘着層10とともに積層されてもよいし、単体で積層されてもよい。
【0072】
樹脂シート15は、樹脂を用いて形成された膜状の部材であることが好ましく、弾力性を有する樹脂を用いて形成された部材であることがより好ましい。樹脂シート15が樹脂を用いて形成された部材であると、樹脂シート15の弾性力により、磁性薄帯20の表面における凹凸の発生を抑制しやすくなる。
【0073】
磁性薄帯20の表面に凹凸が発生しても、樹脂シート15の弾性力により、磁性薄帯20の凹凸が平坦になりやすい。磁性薄帯20の平面状態を凹凸が少ない良好な状態にすることができる。多層磁性シート400における磁気特性の経時変化を小さくしやすい。
【0074】
樹脂シート15は、引張弾性率の下限が0.1GPaの樹脂を使用できる。樹脂の引張弾性率が0.1GPa以上であれば、上記の効果が十分に得られやすい。引張弾性率の下限は、0.5GPaが好ましく、1.0GPaがさらに好ましい。
【0075】
樹脂の引張弾性率の上限は10GPaとすることが好ましい。10GPaを超えると、後述するクラック21を形成する際、合金薄帯の変形を抑制してしまうことがある。引張弾性率の上限は9GPaが好ましく、8GPaがさらに好ましい。
【0076】
樹脂シート15は、樹脂シート15の厚みが1μm以上100μm以下であることが好ましい。樹脂シート15の厚みが増すと、多層磁性シート400が変形し難くなる。多層磁性シート400を曲面又は屈曲面に倣って配置しにくくなることがある。
【0077】
樹脂シート15の厚さが1μm未満であると、樹脂シート15の変形が容易となる。樹脂シート15の扱いが難しくなり、樹脂シート15による磁性薄帯20を支持する機能が十分に得られない場合がある。樹脂シート15が保護フィルムである場合には、樹脂シート15の強度が弱くなり、磁性薄帯20などを保護する機能が十分でなくなる場合もある。
【0078】
樹脂シート15は、樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、アクリル樹脂、セルロース等を用いることができる。耐熱性及び誘電損失の観点から、ポリアミド及びポリイミドが樹脂シート15を形成する樹脂として特に好ましい。
【0079】
次に、本実施形態の多層磁性シート400の製造方法について
図6から
図12を参照しながら説明する。まず、多層磁性シート400および積層基体300を構成する磁性シート100の製造方法について説明する。
【0080】
図6は、磁性シート100の製造方法を説明する模式図である。
磁性シート100は積層基体300および多層磁性シート400を構成する磁性シートである。磁性シート100は、
図6に示す製造装置500を用いて製造される。製造装置500には、製造工程の上流から下流に向かって、第1巻出しロール510と、第1巻取りロール520と、第2巻出しロール530と、貼付けロール540と、クラックロール550と、平坦化ロール560と、第3巻取りロール570と、が主に設けられている。製造装置500には、さらに複数の誘導ロール580が設けられてもよい。なお、誘導ロール580は記載していない位置でも必要に応じて配置することができる。
【0081】
図7は、第1巻出しロール510から供給される積層体の構成を説明する断面視図である。
第1巻出しロール510には、
図7に示すように、粘着層10の第1面11Aおよび第2面11Bに樹脂シート15が積層された積層体が巻き付けられている。第1面11Aに配置された樹脂シート15は保護シートであり、第2面11Bに配置された樹脂シート15はライナーとも表記する。第1面11Aに配置された樹脂シート15は、第2面11Bに配置された樹脂シート15よりも厚さが薄いシートである。
【0082】
図8は、第1巻出しロール510から供給され、樹脂シート15が剥離された積層体の構成を説明する断面視図である。
第1巻出しロール510から巻き出された積層体は、
図8に示すように、第1面11Aに配置された樹脂シート15が剥離される。剥離された樹脂シート15は、
図6に示すように、第1巻取りロール520に巻き取られる。
【0083】
図9は、第2巻出しロール530から供給される磁性薄帯20の構成を説明する断面視図である。
第1面11Aに配置された樹脂シート15が剥離された積層体は、複数の誘導ロール580により、貼付けロール540に導かれる。貼付けロール540には、さらに第2巻出しロール530から巻き出された磁性薄帯20が導かれている。貼付けロール540に導かれる磁性薄帯20には、
図9に示すように、クラック21は形成されていない。
【0084】
ここで、第2巻出しロール530から巻き出される磁性薄帯20の製造方法について説明する。例えば、磁性薄帯20がナノ結晶合金である場合について説明する。磁性薄帯20は、合金溶湯を急冷して、ナノ結晶化が可能なアモルファス合金薄帯を得る工程と、このアモルファス合金薄帯を結晶化開始温度以上で熱処理して微細な結晶粒を形成させる熱処理工程と、を含む製造方法によって製造される。
【0085】
上述の急冷は、回転する冷却ロール上に溶湯を吐出して急冷凝固させる単ロール法により行われる。磁性薄帯20は冷却ロールの回転方向に沿った方向が長手方向となる長尺形状を有する。磁性薄帯20の長手方向の長さは、例えば20,000mを挙げることができる。
【0086】
上述の熱処理の温度は、合金組成により異なるが、一般的には450℃以上である。微細な結晶粒は、例えば、Siなどが固溶した体心立方格子構造のFeである。この微細な結晶粒の分析は、X線回折及び透過電子顕微鏡を用いて行うことができる。
【0087】
ナノ結晶合金においては、ナノ結晶合金の少なくとも50体積%が、最大寸法で測定した粒径の平均が100nm以下の微細な結晶粒で占められる。また、ナノ結晶合金のうちで微細結晶粒以外の部分は主に非晶質である。微細結晶粒の割合は実質的に100体積%であってもよい。
【0088】
図10は、貼付けロール540により、磁性薄帯20が粘着層10に接着された状態を説明する断面視図である。
貼付けロール540は、
図6に示すように、樹脂シート15が剥離された積層体に磁性薄帯20を押し付けて接着する。具体的には、対向して配置された2つのロールの間に、積層体と磁性薄帯20とを導き、2つのロールを用いて、
図10に示すように、粘着層10の第1面11Aに磁性薄帯20を押し付けて接着する。
【0089】
磁性薄帯20は、粘着層10と幅方向において中心が一致するように配置されもよいし、中心が離れて配置されてもよい。この場合、0mm<隙間a、および、0mm<隙間bの関係(
図5参照。)を満たすように配置されている。磁性薄帯20が接着された積層体は、
図6に示すように、貼付けロール540からクラックロール550に導かれる。
【0090】
図11は、クラックロール550により磁性薄帯20にクラック21が形成された状態を説明する断面視図である。
クラックロール550は、粘着層10に接着された磁性薄帯20にクラック21を形成する。具体的には、対向して配置された2つのロールの間に、磁性薄帯20が接着された積層体を導き、2つのロールのうちの突起が設けられたロールを磁性薄帯20に押し付けて、
図11に示すようにクラック21を形成する。
【0091】
2つのロールのうちの突起が設けられていないロールは、樹脂シート15が剥離された積層体側に配置されている。クラック21が形成された磁性薄帯20には複数の小片22が含まれる。複数の小片22は、粘着層10に接着される。
【0092】
ここで、クラックロール550の構成について説明する。クラックロール550は、複数の凸状部材を周面に配置したロールである。クラックロール550の凸状部材の端部の先端は、平坦、錐状、中央が窪む逆錐状、又は筒状でもよい。複数の凸状部材は、規則的に配置されてもよいし、不規則に配置されてもよい。
【0093】
長尺の磁性薄帯20をクラックロール550に押し付けたり、又は長尺の磁性薄帯20を2つのクラックロール550の間に通したりすることで、磁性薄帯20にクラック21が連続的に形成される。また、磁性薄帯20の表面の複数箇所にクラックロール550の凸状部材が押し付けられ、磁性薄帯20に複数のクラック21が形成される。
【0094】
クラックロール550を用いたクラックの形成では、さらに、複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラックを形成することが好ましい。具体的には、磁性薄帯20にクラックロール550を押しつけて複数のクラック21を形成した後、上記複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラックを形成する工程を有することが好ましい。
【0095】
例えば、クラックロール550を用いて磁性薄帯20に直接外力を付与してクラック21を形成した後、磁性薄帯20を湾曲したり、巻き取ったりする等の手段によって第2の外力を付与して、複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラックを形成してもよい。クラック21同士を繋ぐクラック(クラック同士を繋ぐ磁気的なギャップ)は、クラック21を脆性破壊及び/又は亀裂破壊の起点として形成される。
【0096】
複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラックを形成する工程では、上記のような第2の外力を付与しなくてもよい。第2の外力を付与しない場合には、複数のクラック21が形成される過程で、複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラックが形成される。
【0097】
クラックロール550から平坦化ロール560に導かれた積層体は、平坦化ロール560により平坦化処理が行われる。なお、平坦化ロール560は整形ロールとも表記する。
【0098】
具体的には、平坦化ロール560における対向して配置された2つのロールの間に積層体が導かれ、積層体が2つのローラに挟まれて押圧される。これにより、クラック21が形成された磁性薄帯20の表面が平坦化される。
【0099】
平坦化処理が行われた後の積層体が磁性シート100となる。磁性シート100は、誘導ロール580を経由して第3巻取りロール570に導かれる。磁性シート100は、第3巻取りロール570に巻き取られる。
【0100】
図12は、積層基体300の製造方法を説明する模式図である。
積層基体300は、
図12に示す製造装置600を用いて製造される。
図12には、5層の磁性薄帯20を含む積層基体300を製造する製造装置600が示されている。
【0101】
製造装置600には、製造工程の上流から下流に向かって、供給ロール601と、樹脂シート巻取りロール602と、第1磁性シート巻出しロール611と、第1巻取りロール612と、第1貼付けロール613と、第2磁性シート巻出しロール621と、第2巻取りロール622と、第2貼付けロール623と、第3磁性シート巻出しロール631と、第3巻取りロール632と、第3貼付けロール633と、第4磁性シート巻出しロール641と、第4巻取りロール642と、第4貼付けロール643と、第5磁性シート巻出しロール651と、第5貼付けロール653と、平坦化ロール663と、積層基体巻取りロール670と、が主に設けられている。製造装置600には、さらに複数の誘導ロール680が設けられてもよい。なお、誘導ロール680は記載していない位置でも必要に応じて配置することができる。
【0102】
なお、製造装置600は、磁性薄帯20の数が2層以上20層以下の積層基体300を製造してもよい。また、20層以上の積層基体300を製造してもよい。この場合、上述の第1磁性シート巻出しロール611等の数が磁性薄帯20の数に応じて変更される。磁性薄帯20の層数は、適宜決定すればよい。ただし、積層基体300を巻き取る場合、磁性薄帯20の層数が多いと、巻き取ることが困難になったり、巻き取るときに形状不良が生じたりすることがある。そのため、積層基体300を巻き取る場合、層数は15層以下が好ましい。よく好ましくは10層以下である。また、磁性薄帯20の層数は3層以上が好ましく、4層以上がより好ましく、5層以上がより好ましい。また、20層を超える積層基体300を作製することも可能であるが、装置が大型となり過ぎるため、20層以下が好ましい。
【0103】
供給ロール601には、
図7に示すように、粘着層10の第1面11Aおよび第2面11Bに樹脂シート15が積層された積層体が巻き付けられている。
供給ロール601から巻き出された積層体は、
図8に示すように、第1面11Aに配置された樹脂シート15が剥離される。剥離された樹脂シート15は、
図12に示すように、樹脂シート巻取りロール602に巻き取られる。
【0104】
第1面11Aに配置された樹脂シート15が剥離された積層体は、誘導ロール680により、第1貼付けロール613に導かれる。第1貼付けロール613には、さらに第1磁性シート巻出しロール611から巻き出された磁性シート100が導かれている。
【0105】
第1貼付けロール613は、樹脂シート15が剥離された積層体に磁性シート100を押し付けて接着する。具体的には、対向して配置された2つのロールの間に、積層体と磁性シート100とを導き、2つのロールを用いて、粘着層10の第1面11Aに磁性シート100の磁性薄帯20を押し付けて接着する。
【0106】
磁性シート100の接着される磁性薄帯20は、粘着層10と幅方向において中心が一致するように配置されもよいし、中心が離れて配置されてもよい。この場合、0mm<隙間a、および、0mm<隙間bの関係(
図5参照。)を満たすように配置されている。
【0107】
第1貼付けロール613により接着された磁性シート100の樹脂シート15は、磁性シート100から剥離されて第1巻取りロール612に巻き取られる。樹脂シート15が第1巻取りロール612に巻き取られた後の積層体は、第2貼付けロール623に導かれる。第2貼付けロール623には、さらに第2磁性シート巻出しロール621から巻き出された磁性シート100が導かれている。
【0108】
第2貼付けロール623は、第1貼付けロール613から導かれた積層体に磁性シート100を押し付けて接着する。磁性シート100の接着される磁性薄帯20は、第1貼付けロール613から導かれた積層体の粘着層10と幅方向において中心が一致するように配置されもよいし、中心が離れて配置されてもよい。
【0109】
この場合、0mm<隙間a、および、0mm<隙間bの関係(
図5参照。)を満たすように配置されている。第2貼付けロール623により接着された磁性シート100の樹脂シート15は、磁性シート100から剥離されて第2巻取りロール622に巻き取られる。
【0110】
樹脂シート15が第2巻取りロール622に巻き取られた後の積層体は、第3貼付けロール633に導かれる。第3貼付けロール633には、さらに第3磁性シート巻出しロール631から巻き出された磁性シート100が導かれている。
【0111】
第3貼付けロール633は、第2貼付けロール623から導かれた積層体に磁性シート100を押し付けて接着する。磁性シート100の接着される磁性薄帯20は、第2貼付けロール623から導かれた積層体の粘着層10と幅方向において中心が一致するように配置されもよいし、中心が離れて配置されてもよい。
【0112】
この場合、0mm<隙間a、および、0mm<隙間bの関係(
図5参照。)を満たすように配置されている。第3貼付けロール633により接着された磁性シート100の樹脂シート15は、磁性シート100から剥離されて第3巻取りロール632に巻き取られる。
【0113】
樹脂シート15が第3巻取りロール632に巻き取られた後の積層体は、第4貼付けロール643に導かれる。第4貼付けロール643には、さらに第4磁性シート巻出しロール641から巻き出された磁性シート100が導かれている。
【0114】
第4貼付けロール643は、第3貼付けロール633から導かれた積層体に磁性シート100を押し付けて接着する。磁性シート100の接着される磁性薄帯20は、第3貼付けロール633から導かれた積層体の粘着層10と幅方向において中心が一致するように配置されもよいし、中心が離れて配置されてもよい。
【0115】
この場合、0mm<隙間a、および、0mm<隙間bの関係(
図5参照。)を満たすように配置されている。第4貼付けロール643により接着された磁性シート100の樹脂シート15は、磁性シート100から剥離されて第4巻取りロール642に巻き取られる。
【0116】
樹脂シート15が第4巻取りロール642に巻き取られた後の積層体は、第5貼付けロール653に導かれる。第5貼付けロール653には、さらに第5磁性シート巻出しロール651から巻き出された磁性シート100が導かれている。
【0117】
第5貼付けロール653は、第4貼付けロール643から導かれた積層体に磁性シート100を押し付けて接着する。磁性シート100の接着される磁性薄帯20は、第4貼付けロール643から導かれた積層体の粘着層10と幅方向において中心が一致するように配置されもよいし、中心が離れて配置されてもよい。
【0118】
この場合、0mm<隙間a、および、0mm<隙間bの関係(
図5参照。)を満たすように配置されている。第5貼付けロール653から平坦化ロール663に導かれた積層体は、平坦化ロール663により平坦化処理が行われる。
【0119】
磁性薄帯20と粘着層10との関係は、上記のとおり、0mm<隙間a、および、0mm<隙間bの関係(
図5参照。)を満たすように配置されていることが好ましい。しかしながら、磁性シート100と積層体との積層工程において、位置関係のズレが生じる場合がある。この位置関係のズレが生じた場合、磁性薄帯20と粘着層10との関係において、例えば、隙間aがマイナスとなる場合が生じ得る。つまり、磁性薄帯20の一面側において、粘着層10の端部より磁性薄帯20の端部が突出する場合が生じ得る。磁性薄帯20の一面側において、粘着層10の端部より磁性薄帯20の端部が突出する場合が生じたとしても、磁性薄帯20の他面側において、磁性薄帯20と粘着層10との関係が0mm<隙間a、および、0mm<隙間bの関係(
図5参照。)を満たすように配置されておれば、磁性薄帯20は粘着層10に接着された状態を維持できる。
【0120】
図3は、積層基体300の構成を説明する断面視図である。
平坦化処理が行われた後の積層体が、
図3に示す積層基体300となる。積層基体300は、誘導ロール680を経由して積層基体巻取りロール670に導かれる。積層基体300は、積層基体巻取りロール670に巻き取られる。
なお、積層基体300は、積層基体巻取りロール670に巻き取られる方法以外に、連続的に所要の長さに切断してもよい。
【0121】
製造装置600により製造された積層基体300は、
図1に示すように、長辺300Lが延びる方向の寸法が長さLとなるように切断される。切断された積層基体300は、短辺300Sが延びる方向に並べて板状に配置され、長辺300L部分で重ね合される。例えば、積層基体300は、
図2に示すように厚さ方向に重ねられる。このように配置された積層基体300を用いて、多層磁性シート400を構成することができる。
【0122】
なお、本開示の多層磁性シート400において、磁性薄帯20の積層方向の下端から上端までを
図2で示す構造で構成してもよい。
【0123】
また、本開示の多層磁性シート400において、磁性薄帯20の積層方向の少なくとも一部分が積層基体300で構成されていてもよく、積層基体300で構成されていない部分は、磁性薄帯20で構成されていてもよい。なお、磁性薄帯20で構成されるとは、1層の磁性薄帯20を並べたり、積層したりして構成するものである。
【0124】
また、本開示の多層磁性シート400において、積層基体300の長辺部分が互いに重なり合っている部分が、磁性薄帯20の積層方向の少なくとも一部分であってもよい。このとき、積層基体300の長辺部分が互いに重なり合っていない部分は、積層基体300を長辺部分が重ならないように並べて構成したり、それを積み重ねて構成したりてもよいし、1層の磁性薄帯20を並べたり、積層したりして構成してもよい。
【0125】
また、本開示の多層磁性シート400は磁性薄帯20が合計で10層以上積層されていることが好ましい。より好ましくは15層以上であり、更に、20層以上であることがより好ましく、25層以上であることがより好ましい。また、積層された磁性薄帯20の合計は200層以下であることが好ましい。また、150層以下であることが好ましい。また、100層以下であってもよい。
【0126】
(実施例1)
幅30mmのFe-Cu-Nb-Si-B系のナノ結晶合金である薄帯(日立金属株式会社製FT-3)である磁性薄帯20を用いる。磁性薄帯20を
図3に示すように粘着層10(幅が32mm)を介して5層積層し、幅が32mm、長さが100mmの積層基体300を8個作製する。8個の積層基体300を用いて、
図13に示す構造を有する実施例1の多層磁性シート400を作成した。
【0127】
具体的には、2個の積層基体300を、長辺部分を約4mm重ね合わせる。重ね合わせた積層基体300を、厚さ方向に4層積層して実施例1である多層磁性シート400を作製した。
【0128】
(実施例2)
幅30mmのFe-Cu-Nb-Si-B系のナノ結晶合金である薄帯(日立金属株式会社製FT-3)である磁性薄帯20を用いる。磁性薄帯20を
図3に示すように粘着層10(幅が32mm)を介して5層積層し、幅が32mm、長さが100mmの積層基体300を8個作製する。8個の積層基体300を用いて、
図14に示す構造を有する実施例2の多層磁性シート400を作成した。
【0129】
具体的には、2個の積層基体300を重ねないで(言い換えると、長辺300Lを突き合わせて)並べる。並べた積層基体300を厚さ方向に2層積層する。厚さ方向から見て、1層目(言い換えると、
図14における下側の層)の積層基体300と2層目(言い換えると、
図14における上側の層)の積層基体300とは、互いの長辺300Lの位置がずらして配置されている。なお、ずらす量は4mmとした。その上に、長辺部分を約4mm重ね合わせた積層基体300を、厚さ方向に2層積層して実施例2である多層磁性シート400を作製した。
【0130】
(実施例3)
幅30mmのFe-Cu-Nb-Si-B系のナノ結晶合金である薄帯(日立金属株式会社製FT-3)である磁性薄帯20を用いる。磁性薄帯20を
図3に示すように粘着層10(幅が32mm)を介して5層積層し、幅が32mm、長さが100mmの積層基体300を9個作製する。9個の積層基体300を用いて、
図15に示す構造を有する実施例3の多層磁性シート400を作成した。
【0131】
具体的には、1層目(
図15の一番下の層)では、3個の積層基体300を重ねないで(言い換えると、長辺300Lを付き合わせて)並べる。2層目(
図15の下から2番目の層)では、2個の積層基体300を重ねないで(言い換えると、長辺300Lを付き合わせて)並べる。1層目の積層基体300と2層目の積層基体300とは、互いの長辺300Lの位置がずらして配置されている。ずらす量は積層基体300の幅の半分程度とした。その上に、長辺部分を約4mm重ね合わせた積層基体300を、厚さ方向に2層積層して実施例3である多層磁性シート400を作製した。
【0132】
(比較例)
幅30mmのFe-Cu-Nb-Si-B系のナノ結晶合金である薄帯(日立金属株式会社製FT-3)である磁性薄帯20を用いる。磁性薄帯20を
図3に示すように粘着層10(幅が32mm)を介して5層積層し、幅が32mm、長さが100mmの積層基体300を8個作製する。8個の積層基体300を用いて、
図16に示す構造を有する比較例の多層磁性シートを作成した。
【0133】
具体的には、2個の積層基体300を重ねないで(言い換えると、長辺300Lを突き合わせて)並べる。並べた積層基体300を厚さ方向に4層積層して比較例である多層磁性シートを作製した。
【0134】
各実施例と比較例とは、磁性薄帯20の積層方向の全体の総数が20層となるように構成されている。また、各実施例と比較例とにおいて、磁性薄帯20にはクラックが形成されている。各実施例と比較例とにおいて、μ´とQとを評価した。表1に各実施例のμ´とQとの評価結果を示す。本開示の実施例によれば、比較例に対し、μ´が3倍以上高く、Qが2倍以上大きい。本開示により、優れた磁気特性の多層磁性シート400が得られることが分かる。
【0135】
【0136】
なお、μ´とQの測定方法は以下のとおりである。
実施例、及び比較例の多層磁性シート400を外径20mm、内径9mmのリング状に打ち抜き、評価用サンプルとした。評価用サンプルは、多層磁性シート400における多層磁性シート300を2個並べた境界部分がリング状のおおよそ直径部分になるように打ち抜いた。評価用サンプルを用い、インピーダンス(Z)と直列等価回路のインダクタンス(LS)をインピーダンスアナライザ(キーサイト・テクノロジー社製E4990A、測定治具:16454A)にて、OSCレベルを0.03Vとし、25℃の温度で84kHzの周波数で測定し、以下の式に基づいて算出する。
μ´=2π×LS/(μ0×t×n×ln(OD/ID))
Z:インピーダンスの絶対値
t:薄帯厚み(m)
n:層数
μ0:真空透磁率(4×π×10-7H/m)
OD:外径(m)
ID:内径(m)
Q=μ´/μ´´
【0137】
【数1】
μr=2π×Z/(2π×μ
0×f×t×n×ln(OD/ID))
f:周波数(Hz)
【0138】
図17から
図20に、実施例4から実施例7の多層磁性シート400の構成を示す。
実施例4の多層磁性シート400は、
図17に示すように、磁性薄帯20の総数が10層の積層基体300を4つ有する。実施例4の多層磁性シート400は、2個の積層基体300の長辺部分を重ね合わせ、重ね合わせた積層基体300を厚さ方向に2層積層した構造を有する。
【0139】
実施例5の多層磁性シート400は、
図18に示すように、磁性薄帯20の総数が5層の積層基体300を4つ有する。さらに、積層基体300とは別に20個の磁性薄帯20を有する。
【0140】
1層目(
図18の一番下の層)から10層目(
図18の下から10番目の層)では、2個の磁性薄帯20は重ねないで(言い換えると、長辺を付き合わせて)並べられる。1層目から10層目までの磁性薄帯20は、互いの長辺の位置がずらして配置されている。1層目から5層目まで、長辺部分の位置を同じ方向にずらし、6層目から10層目までを1層目から5層目までと同様な位置関係で繰り返している。そして、11層目(
図18の下から11番目の層)から上に、4つの積層基体300を積層し、2個の積層基体300は長辺部分を重ね合わせて配置され、それを2層積層している。
【0141】
実施例6の多層磁性シート400は、
図19に示すように、磁性薄帯20の総数が5層の積層基体300を4つ有する。さらに、積層基体300とは別に25個の磁性薄帯20を有する。
【0142】
1,3,5,7,9層目(
図19の一番下の層、下から3,5,7,9番目の層)において、3個の磁性薄帯20は重ねられないで(言い換えると、長辺を付き合わせて)並べられている。2,4,6,8,10層目(
図19の下から2,4,6,8,10番目の層)において、2個の磁性薄帯20は重ねられないで(言い換えると、長辺を付き合わせて)並べられている。奇数層目の磁性薄帯20と偶数層目の磁性薄帯20とは、互いの長辺の位置がずらして配置されている。ずらす量は磁性薄帯20の幅の半分程度とされる。11層目(
図19の下から11番目の層)から上に、4つの積層基体300を積層し、2個の積層基体300は長辺部分を重ね合わせて配置され、それを2層積層している。
【0143】
実施例7の多層磁性シート400は、
図20に示すように、磁性薄帯20の総数が10層の積層基体300を4つ有する。1層目(
図20の一番下の層)では、2個の積層基体300は重ねないで(言い換えると、長辺300Lを付き合わせて)並べられている。2層目(
図20の下から2番目の層)では、2個の積層基体300は長辺部分を重ね合わせて配置されている。
【0144】
実施例8の多層磁性シート400は、
図21に示すように、磁性薄帯20の総数が5層の積層基体300を8つ有する。1層目(
図21の一番下の層)では、2個の積層基体300は長辺部分を重ね合わせて配置されている。2層目(
図21の下から2番目の層)および3層目(
図21の下から3番目の層)では、2個の積層基体300を重ねないで(言い換えると、長辺300Lを突き合わせて)並べる。並べた積層基体300を厚さ方向に2層積層する。厚さ方向から見て、2層目の積層基体300と3層目の積層基体300とは、互いの長辺300Lの位置がずらして配置されている。そして、4層目(
図21の一番上の層)では、2個の積層基体300は長辺部分を重ね合わせて配置されている。
【0145】
実施例9の多層磁性シート400は、
図22に示すように、磁性薄帯20の総数が5層の積層基体300を8つ有する。1層目(
図21の一番下の層)では、2個の積層基体300は長辺部分を重ね合わせて配置されている。2層目(
図21の下から2番目の層)および3層目(
図21の下から3番目の層)では、2個の積層基体300を重ねないで(言い換えると、長辺300Lを突き合わせて)並べる。並べた積層基体300を厚さ方向に2層積層する。厚さ方向から見て、2層目の積層基体300と3層目の積層基体300とは、互いの長辺300Lの位置が同じに配置されている。そして、4層目(
図21の一番上の層)では、2個の積層基体300は長辺部分を重ね合わせて配置されている。実施例8と比較すると、1層目の長辺部分の重ね合わせ方が異なっており、2層目および3層目の長辺300Lの位置を変えている。実施例8,9の構成によれば、長辺部分の重ね合わせによる多層磁性シートの厚さの変化を積層方向の上側と下側とに分散することができる。
【0146】
この実施例4から9においても、μ´が高く、Qが大きい多層磁性シートが得られる。実施例1から9は、多層磁性シートの部分的な構造を示しており、多層磁性シートの大きさ(磁性薄帯の積層数や、板形状に並べる数)に応じて、種々の構成の組み合わせが可能である。
【0147】
図4に示す多層磁性シート400において、第1積層端部401および第2積層端部402に配置された積層基体300には、それぞれ1層の樹脂シート15が積層されている。言い換えると、多層磁性シート400には、合計で2層の樹脂シート15が設けられている。樹脂シート15は、最外層の粘着層10に接着されている。
この樹脂シートは、磁性薄帯20を保護することや、積層基体300の長辺部分を重ねることにより形成される異形部をカバーし、平坦性を向上させることができる。
また、第1積層端部401又は第2積層端部402には樹脂シート15が積層されていなくてもよい。磁性薄帯20が露出していてもよいし、例えば、第1積層端部401又は第2積層端部402に、アモルファス合金薄帯、又は、ナノ結晶合金薄帯、もしくは、他の磁性材や、アルミニウム等の金属箔、並びに樹脂シート等を貼り付けてもよい。
【0148】
上記の構成の多層磁性シート400によれば、磁性薄帯20が積層された複数の積層基体300を板形状に並べ、かつ、厚さ方向に積み重ねた幅広で多層の多層磁性シート400が構成される。複数の積層基体300を板形状に並べ、かつ、複数の板形状の積層基体300を厚さ方向に積み重ねるため、磁性薄帯20を並べて積層させる構成と比較して、工数が多大となりにくい。
【0149】
また、隣り合う積層基体300の間で、長辺部分が互いに重なり合っている。言い換えると、積層された方向から見て、積層基体300の間の隙間(磁気ギャップ)が揃わない(連続しないとも表記する。)。積層された方向から見て、磁気ギャップが連続しないため、多層磁性シート400における磁気特性の悪化を防ぎ、μ´が高く、Qが大きい多層磁性シート400が得られやすい。
【0150】
多層磁性シート400の幅が100mm以上1000mm以下、長さが100mm以上1000mm以下とすることにより、多層磁性シート400を所望の大きさに形成することができる。
【0151】
磁性薄帯20をアモルファス合金薄帯、又は、ナノ結晶合金薄帯とすることにより、磁性薄帯20を軟磁性薄帯とすることが可能となる。また、合金を用いて磁性薄帯20を形成することができる。
【0152】
磁性薄帯20に複数の小片22を含ませることにより、多層磁性シート400の特性を向上させやすくなる。具体的には、多層磁性シート400をインダクタ用磁性体として用いる場合にQ値の向上を図りやすくなる。また、多層磁性シート400を磁気シールド用磁性体として用いる場合には、磁性薄帯20の電流路を分断して渦電流損を低減しやすくなる。
【0153】
隣接する磁性薄帯20の間に粘着層10を設けることにより、隣接する磁性薄帯20を粘着層10により保持することができる。
【0154】
隣接する磁性薄帯20の間に2層の粘着層10を設けることにより、複数の板形状の積層基体300を厚さ方向に積み重ねやすくなる。
【0155】
第1積層端部401又は第2積層端部402に樹脂シート15を設けることにより、製造された多層磁性シート400を保護しやすくなる。例えば、製造した後の多層磁性シート400を搬送する際に、粘着層10や磁性薄帯20が損傷することを防ぎやすい。また、長辺部分の重ね合わせによる異形状態を緩和させることができる。
また、第1積層端部401又は第2積層端部402に、アモルファス合金薄帯、又は、ナノ結晶合金薄帯、もしくは、他の磁性材や、アルミニウム等の金属箔、並びに樹脂シート等を貼り付けてもよい。
【0156】
粘着層10における粘着剤12が設けられた領域の幅Aが、磁性薄帯20の幅Bよりも広くなる。粘着層10に磁性薄帯20を貼り付ける際に、粘着層10や磁性薄帯20に蛇行が生じても、磁性薄帯20の全面に粘着層10の粘着剤12が配置されやすくなる。
【0157】
幅Aから幅Bを引いた値を0.2mm以上とすることにより、粘着層10に磁性薄帯20を貼り付ける際に、磁性薄帯20に粘着剤12が配置されない部分の発生を防ぎやすい。幅Aから幅Bを引いた値を3mm以下とすることにより、磁性シート100における磁性薄帯20が配置されていない部分が大きくなることを防ぎやすい。
【0158】
なお、本開示の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、本開示に係る多層磁性シート400は、誘導素子などとして使用することができる。
【符号の説明】
【0159】
10…粘着層、 11…支持体、 11A…第1面、 11B…第2面、 12…粘着剤、 15…樹脂シート、 20…磁性薄帯、 22…小片、 300…積層基体、 300L…長辺、 300S…短辺、 400…多層磁性シート、 401…第1積層端部、 402…第2積層端部